船舶の所有者等の責任の制限に関する法律をここに公布する。
御名御璽
昭和五十年十二月二十七日
内閣総理大臣 三木武夫
法律第九十四号
船舶の所有者等の責任の制限に関する法律
目次
第一章
総則(第一条・第二条)
第二章
船舶の所有者等の責任の制限(第三条―第八条)
第三章
責任制限手続
第一節
通則(第九条―第十六条)
第二節
責任制限手続開始の申立て(第十七条―第二十五条)
第三節
責任制限手続開始の決定(第二十六条―第三十六条)
第四節
責任制限手続の拡張(第三十七条―第三十九条)
第五節
管理人(第四十条―第四十六条)
第六節
責任制限手続への参加(第四十七条―第五十六条)
第七節
制限債権の調査及び確定(第五十七条―第六十七条)
第八節
配当(第六十八条―第八十一条)
第九節
責任制限手続の廃止(第八十二条―第八十九条)
第十節
費用(第九十条―第九十四条)
第四章
補則(第九十五条―第九十八条)
第五章
罰則(第九十九条―第百一条)
附則
第一章 総則
(趣旨)
第一条 この法律は、船舶の所有者等の責任の制限に関し必要な事項を定めるものとする。
(定義)
第二条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。
一 船舶 航海の用に供する船舶で、ろかい又は主としてろかいをもつて運転する舟及び公用に供する船舶以外のものをいう。
二 船舶所有者等 船舶所有者、船舶賃借入及び傭船者並びに法人であるこれらの者の無限責任社員をいう。
三 船長等 船長、海員その他の船舶所有者等が使用する者(水先人を含む。)をいう。
四 制限債権 船舶所有者等又は船長等が、この法律で定めるところによりその責任を制限することができる債権をいう。
五 人の損害に関する債権 制限債権のうち人の生命又は身体が害されることによる損害に基づく債権をいう。
六 物の損害に関する債権 制限債権のうち人の損害に関する債権以外の債権をいう。
七 一単位 純分千分の九百の金六十五・五ミリグラムの価値に相当する政令で定める金額をいう。
八 受益債務者 当該責任制限手続における制限債権に係る債務者で、責任制限手続開始の申立てをした者以外のものをいう。
第二章 船舶の所有者等の責任の制限
(船舶の所有者等の責任の制限)
第三条 船舶所有者等又は船長等は、航海に関して生じた次に掲げる損害に基づく債権について、この法律で定めるところにより、その責任を制限することができる。ただし、損害の発生が、船舶所有者等にあつては自己の故意又は過失によるものであるとき、船長等にあつては自己の故意によるものであるときは、この限りでない。
一 運送されるため船舶上にある者の生命又は身体が害されることによる損害及び船舶上にある物の滅失又は損傷による損害
二 前号に掲げる者以外の者の生命又は身体が害されることによる損害並びに同号に掲げる物及び当該船舶以外の物の滅失若しくは損傷又はその他の権利に対する侵害による損害。ただし、損害が船舶上にない者の行為によるものであるときは、その行為が航行その他の船舶の取扱い、運送品の船積み、運送若しくは荷揚げ又は旅客の乗船、運送若しくは下船に関する場合に限る。
2 本邦の各港間のみを航海する日本船舶の船舶所有者等又は船長等は、運送されるため当該船舶上にある者の生命又は身体が害されることによる損害に基づく債権については、前項の規定にかかわらず、その責任を制限することができない。
第四条 航海に関して生じた次に掲げる債権については、船舶所有者等は、その責任を制限することができない。
一 海難の救助又は共同海損の分担に基づく債権
二 船長等で船舶上にあるもの又はその職務が当該船舶の業務に関するものの使用者に対して有する債権及びこれらの者の生命又は身体が害されることによつて生じた第三者の有する債権
(同一の事故から生じた損害に基づく債権の差引き)
第五条 船舶所有者等又は船長等が制限債権者に対して同一の事故から生じた損害に基づく債権を有する場合においては、この法律の規定は、その債権額を差し引いた残余の制限債権について、適用する。
(責任の制限の及ぶ範囲)
第六条 船舶所有者等又は船長等の責任の制限は、当該船舶ごとに、同一の事故から生じたこれらの者に対するすべての制限債権に及ぶ。ただし、物の損害に関する債権のみについての責任の制限は、人の損害に関する債権に及ばない。
(責任限度額等)
第七条 船舶所有者等又は船長等がその責任を制限することができる場合における責任の限度額(以下「責任限度額」という。)は、次のとおりとする。
一 責任を制限しようとする債権が物の損害に関する債権のみである場合においては、一単位の千倍に船舶のトン数を乗じて得た金額
二 その他の場合においては、一単位の三千百倍に船舶のトン数を乗じて得た金額
2 前項第二号の場合においては、制限債権の弁済に充てられる金額のうち、三十一分の二十一に相当する部分は人の損害に関する債権の弁済に、三十一分の十に相当する部分は物の損害に関する債権の弁済に充てられるものとする。ただし、前者の部分が人の損害に関する債権を弁済するに足りないときは、後者の部分は、その弁済されない残額と物の損害に関する債権の額との割合に応じてこれらの債権の弁済に充てられるものとする。
3 制限債権者は、人の損害に関する債権と物の損害に関する債権との別に従い、それぞれその制限債権の額の割合に応じて弁済を受ける。
(船舶のトン数の算定)
第八条 前条第一項の船舶のトン数は、船舶積量測度法(大正三年法律第三十四号)の規定に従い、純積量の算定に当たり機関室の積量として総積量から控除した積量を純積量に加えた積量をトンで表したものとする。
2 前項の規定により算定したトン数が三百トンに満たない船舶については、そのトン数は、三百トンとみなす。
3 第一項の規定により算定したトン数が百トンに満たない木船についての前条第一項第一号の規定の適用に関しては、前項の規定にかかわらず、そのトン数は、百トンとみなす。
第三章 責任制限手続
第一節 通則
(責任制限事件の管轄)
第九条 責任制限事件は、船籍を有する船舶に係る場合にあつては船籍の所在地を管轄する地方裁判所の管轄に、船籍を有しない船舶に係る場合にあつては申立人の普通裁判籍の所在地、事故発生地、事故後に当該船舶が最初に到達した地又は制限債権(物の損害に関する債権のみについての責任制限手続にあつては、人の損害に関する債権を除く。以下この章において同じ。)に基づき申立人の財産に対して差押え若しくは仮差押えの執行がされた地を管轄する地方裁判所の管轄に専属する。
(責任制限事件の移送)
第十条 裁判所は、著しい損害又は遅滞を避けるため必要があると認めるときは、職権で、責任制限事件を他の管轄裁判所又は制限債権者の普通裁判籍の所在地を管轄する地方裁判所に移送することができる。
(民事訴訟法の準用)
第十一条 特別の定めがある場合を除いて、責任制限手続に関しては、民事訴訟法(明治二十三年法律第二十九号)の規定を準用する。
(任意的口頭弁論及び職権調査)
第十二条 責任制限手続に関する裁判は、口頭弁論を経ないですることができる。
2 裁判所は、職権で、責任制限事件に関して必要な調査をすることができる。
(抗告)
第十三条 責任制限手続に関する裁判に対しては、この法律に特別の規定がある場合に限り、その裁判につき利害関係を有する者は、即時抗告をすることができる。その期間は、裁判の公告があつた場合においては、その公告があつた日から起算して一月とする。
(公告)
第十四条 この法律の規定によつてする公告は、官報及び裁判所の指定する新聞紙に掲載してする。
2 公告は、最終の掲載があつた日の翌日に、その効力を生ずる。
(公告及び送達をする場合)
第十五条 この法律の規定によつて公告及び送達をしなければならない場合には、送達は、書類を通常の取扱いによる郵便に付してすることができる。この場合においては、公告は、一切の関係人に対する送達の効力を有する。
(最高裁判所規則)
第十六条 この法律に定めるもののほか、責任制限手続に関し必要な事項は、最高裁判所規則で定める。
第二節 責任制限手続開始の申立て
(手続開始の申立て)
第十七条 船舶所有者等又は船長等は、その責任を制限するため、責任制限手続開始の申立てをすることができる。
2 船舶共有者は、各自責任制限手続開始の申立てをすることができる。
(疎明等)
第十八条 責任制限手続開始の申立てをするときは、制限債権に係る損害を生じさせた事故を特定するために必要な事実及び制限債権の額が責任限度額を超えることを疎明し、かつ、知れている制限債権者の氏名又は名称及び住所を届け出なければならない。
(供託命令)
第十九条 裁判所は、責任制限手続開始の申立てを相当と認めるときは、その申立てをした者(以下「申立人」という。)に対して、一月を超えない一定の期間内に、責任限度額に相当する額の金銭を裁判所の指定する供託所に供託し、かつ、その旨を届け出るべきことを命じなければならない。
2 前項の規定による決定があつた後責任制限手続開始の決定があるまでの間に第二条第七号の金額が変更されたときは、裁判所は、同項の規定により供託すべき金銭の額を変更しなければならない。
3 前二項の規定による決定に対しては、即時抗告をすることができる。
(供託委託契約)
第二十条 申立人が、裁判所の許可を得て供託委託契約を締結し、前条第一項の規定による決定において定められた期間内にその旨を裁判所に届け出た場合においては、当該契約に係る一定の額の金銭は、その期間内に供託することを要しない。
2 供託委託契約は、責任制限手続開始の決定があつた場合において、受託者が申立人のために一定の額の金銭及びこれに対する責任制限手続開始の決定の日から供託の日まで供託金に付される利息の利率と同一の率により算定した金銭を前条第一項の供託所に供託をすることを約する契約とする。
3 供託委託契約は、第一項の規定による届出があつた後は、裁判所の許可を得なければ、変更又は解除をすることができない。
4 銀行、信託会社その他の政令で定める者でなければ、供託委託契約の受託者(以下単に「受託者」という。)となることができない。
(受託者の供託)
第二十一条 前条第一項の規定による届出がされた場合においては、受託者は、裁判所の定める日(次条第一項において「指定日」という。)までに供託委託契約に従つて供託し、かつ、その旨を裁判所に届け出なければならない。
2 前項の規定により受託者がした供託は、申立人が供託者としてした供託とみなす。
(受託者が供託しなかつた場合の義務等)
第二十二条 前条第一項の規定による供託をしなかつた場合においては、受託者は、供託に代えて、指定日において供託すべき金銭及びこれに対する指定日の翌日から支払の日まで年六パーセントの割合により算定した金銭を管理人に支払う義務を負う。
2 受託者が前項の義務を履行しなかつた場合においては、裁判所は、管理人の申立てにより、その受託者に対して、同項の規定により支払うべき額の金銭を管理人に支払うべきことを命じなければならない。
3 前項の規定による決定は、執行力のある債務名義と同一の効力を有する。
4 第二項の申立てについての裁判に対しては、即時抗告をすることができる。
5 管理人は、第一項の規定により受託者から金銭の支払を受けたときは、直ちに、これを第十九条第一項の供託所に供託し、かつ、その旨を裁判所に報告しなければならない。
6 前項の規定により管理人がした供託は、申立人が供託者としてした供託とみなす。
(他の手続の中止命令等)
第二十三条 責任制限手続開始の申立てがあつた場合において、必要があると認めるときは、裁判所は、申立人又は受益債務者の申立てにより、責任制限手続開始の申立てにつき決定があるまでの間、制限債権に基づく申立人又は受益債務者の財産に対する強制執行、仮差押え、仮処分又は競売法(明治三十一年法律第十五号)による競売手続の中止を命ずることができる。
2 裁判所は、前項の規定による中止の決定を変更し、又は取り消すことができる。
(却下)
第二十四条 申立人が破産者であるときは、裁判所は、責任制限手続開始の申立てを却下しなければならない。
(棄却)
第二十五条 次の場合においては、裁判所は、責任制限手続開始の申立てを棄却しなければならない。
一 手続の費用の予納がないとき。
二 制限債権の額が責任限度額を超えないことが明らかなとき。
三 申立人が第十九条第一項の規定による決定に従わないとき。
第三節 責任制限手続開始の決定
(責任制限手続の効力発生の時)
第二十六条 責任制限手続は、その開始の決定の時から、効力を生ずる。
(開始決定と同時に定めるべき事項)
第二十七条 裁判所は、責任制限手続開始の決定と同時に、管理人を選任し、かつ、次の事項を定めなければならない。
一 制限債権の届出期間。ただし、その期間は、決定の日から一月以上四月以下でなければならない。
二 制限債権の調査期日。ただし、その期日と届出期間の末日との間には、一週間以上二月以下の期間がなければならない。
(開始の公告等)
第二十八条 裁判所は、責任制限手続開始の決定をしたときは、直ちに、次の事項を公告しなければならない。
一 責任制限手続開始決定の年月日時及び主文
二 責任限度額
三 管理人の氏名及び住所
四 申立人及び知れている受益債務者の氏名又は名称並びにこれらの者と事故に係る船舶との関係
五 制限債権の届出期間及び調査期日
六 申立人又は受益債務者に対する制限債権をその届出期間内に届け出るべき旨の催告
2 管理人、申立人並びに知れている制限債権者及び受益債務者には、前項各号に掲げる事項を記載した書面を送達しなければならない。
3 前二項の規定は、第一項第二号から第五号までに掲げる事項に変更を生じた場合について準用する。ただし、制限債権の調査期日の変更については、公告することを要しない。
(抗告)
第二十九条 責任制限手続開始の申立てについての裁判に対しては、即時抗告をすることができる。
2 第二十三条の規定は、責任制限手続開始の申立てを却下し、又は棄却する決定に対して即時抗告があつた場合について準用する。
第三十条 責任制限手続開始の決定に対し前条第一項の即時抗告があつた場合において、第十九条第一項の規定による決定において定められた金銭の額を不当と認めるときは、裁判所は、申立人に対して、二週間を超えない一定の期間内に、増加すべき額の金銭を供託し、かつ、その旨を責任制限裁判所に届け出るべきことを命じなければならない。
2 第二十条から第二十二条までの規定は、前項の場合について準用する。
(開始決定を取り消す決定の公告等)
第三十一条 責任制限手続開始の決定を取り消す決定が確定したときは、裁判所は、直ちに、その旨を公告しなければならない。
2 管理人、申立人並びに知れている制限債権者及び受益債務者には、前項の規定による公告に係る事項を記載した書面を送達しなければならない。
(開始決定が取り消された場合における供託金の取戻しの制限)
第三十二条 申立人は、前条第一項の決定が確定した日から起算して一月を経過した後でなければ、次条に規定する基金として供託された金銭を取り戻し、又はその取戻請求権を処分することができない。
(手続開始の効果)
第三十三条 責任制限手続が開始されたときは、制限債権者は、この法律で定めるところにより、第十九条第一項又は第三十条第一項の規定による決定に基づき供託された金銭、第二十一条第一項又は第二十二条第五項(第三十条第二項においてこれらの規定を準用する場合を含む。)の規定により供託される金銭及び第九十四条第一項の規定により供託される金銭並びに供託されたこれらの金銭に付される利息(以下「基金」という。)から支払を受けることができる。この場合においては、制限債権者は、基金以外の申立人の財産又は受益債務者の財産に対してその権利を行使することができない。
第三十四条 責任制限手続が開始されたときは、制限債権者は、制限債権をもつて申立人又は受益債務者の債権と相殺することができない。
(強制執行に対する異議の訴え)
第三十五条 申立人又は受益債務者は、第三十三条後段の事由を主張して制限債権に基づく強制執行の不許を求めるには、強制執行に対する異議の訴えを提起しなければならない。
2 請求に関し異議を主張する訴えに関する民事訴訟法の規定は、前項の訴えについて準用する。
(担保権実行に対する異議の訴え)
第三十六条 申立人又は受益債務者は、第三十三条後段の事由を主張して制限債権に基づく担保権の実行の不許を求めるには、担保権の実行に対する異議の訴えを提起しなければならない。
2 前項の訴えは、被告の普通裁判籍の所在地を管轄する裁判所又はこの裁判所がないときは、担保権の目的である財産の所在地を管轄する裁判所の管轄に専属する。
3 民事訴訟法第五百四十七条及び第五百四十八条の規定は、第一項の訴えについて準用する。
第四節 責任制限手続の拡張
(手続拡張の申立て)
第三十七条 物の損害に関する債権のみについて責任制限手続が開始された場合においては、申立人又は受益債務者は、人の損害に関する債権について責任を制限するため、責任制限手続拡張の申立てをすることができる。ただし、制限債権の調査期日が開始された後は、この限りでない。
2 第十八条から第二十五条までの規定は、前項の申立てについて準用する。
(手続拡張の決定)
第三十八条 責任制限手続を拡張する決定においては、責任制限手続が人の損害に関する債権についても効力を及ぼす旨を定めるものとする。
2 前節(第二十七条中管理人の選任に関する部分を除く。)の規定は、前項の決定について準用する。
(受益債務者を申立人とみなす場合)
第三十九条 前条第一項の決定があつたときは、第八十二条から第八十四条まで、第九十条から第九十二条まで及び第九十四条の規定の適用については、責任制限手続拡張の申立てをした受益債務者は、申立人とみなす。
第五節 管理人
(権限)
第四十条 管理人は、制限債権の調査期日における意見の陳述、配当その他この法律で定める職務を行う権限を有する。
2 前項の職務を行うため、管理人は、申立人又は受益債務者に対して、必要な事項の報告又は帳簿その他の書類の提出を求めることができる。
(監督)
第四十一条 管理人は、裁判所が監督する。
(注意義務)
第四十二条 管理人は、善良な管理者の注意をもつてその職務を行わなければならない。
(管理人代理)
第四十三条 管理人は、必要があるときは、その職務を行わせるため、自己の責任で管理人代理を選任することができる。
2 前項の規定による管理人代理の選任については、裁判所の許可を得なければならない。
(報酬等)
第四十四条 管理人は、責任制限手続のため必要な費用の前払及び裁判所が定める報酬を受けることができる。
2 前項の規定による決定に対しては、即時抗告をすることができる。
(解任)
第四十五条 重要な事由があるときは、裁判所は、利害関係人の申立てにより、又は職権で、管理人を解任することができる。この場合においては、その管理人を審尋しなければならない。
(計算の報告義務)
第四十六条 管理人の任務が終了した場合においては、管理人又はその相続人は、遅滞なく、裁判所に計算の報告をしなければならない。
第六節 責任制限手続への参加
(参加)
第四十七条 制限債権者は、その有する制限債権(利息又は不履行による損害賠償若しくは違約金の請求権については、制限債権の調査期日の開始の日までに生じたものに限る。以下この章において同じ。)をもつて責任制限手続に参加することができる。
2 制限債権を弁済した申立人又は受益債務者は、弁済の限度においてその制限債権を有するものとみなし、これをもつて責任制限手続に参加することができる。
3 制限債権につき、将来、制限債権者に代位し、又は申立人若しくは受益債務者に対して求償権を有することとなる者は、その制限債権を有するものとみなし、これをもつて責任制限手続に参加することができる。ただし、制限債権者が責任制限手続に参加した場合における当該参加に係る制限債権については、この限りでない。
4 申立人又は受益債務者は、制限債権に基づき外国において強制執行をされるおそれがあるときは、その強制執行により支払をすべき制限債権の額についてその制限債権を有するものとみなし、これをもつて責任制限手続に参加することができる。前項ただし書の規定は、この場合について準用する。
5 前各項の規定により責任制限手続に参加しようとする者は、制限債権の内容その他の最高裁判所規則で定める事項を裁判所に届け出なければならない。
6 第四項の規定により責任制限手続に参加しようとする者が前項の規定による届出をするときは、外国において強制執行をされるおそれがあることを疎明しなければならない。
(制限債権につき申立人及び受益債務者以外の者が全部義務を負う場合)
第四十八条 制限債権につき申立人及び受益債務者以外に全部の履行をする義務を負う者がある場合において、その者のためにも責任制限手続が開始され、又は拡張されたときは、制限債権者は、責任制限手続開始の時又は責任制限手続拡張の時に有する制限債権の全額につき、各責任制限手続においてその権利を行うことができる。
(金銭を目的としない債権等)
第四十九条 債権の目的が、金銭でないとき、又は金銭であつてその額が不確定であるとき、若しくは外国の通貨をもつて定められたものであるときは、その債権の額は、責任制限手続開始の時又は責任制限手続拡張の時における評価額による。
(届出の期間)
第五十条 第四十七条第五項の規定による届出は、第二十七条(第三十八条第二項において準用する場合を含む。)の規定により裁判所が定めた届出期間内にしなければならない。
2 第四十七条第一項から第四項までの規定により責任制限手続に参加することのできる者が、その責めに帰することのできない事由によつて届出期間内に届出をすることができなかつたときは、その者は、前項の規定にかかわらず、届出期間が経過した後においても、届出をすることができる。ただし、制限債権の調査期日が終了した後は、この限りでない。
(変更の届出等)
第五十一条 責任制限手続に参加した者は、その届け出た事項に変更が生じたとき、又は届け出た事項を変更しようとするときは、その旨を裁判所に届け出なければならない。
2 前条の規定は、他の制限債権者の利益を害すべき変更の届出をする場合について準用する。
3 第四十七条第三項又は第四項の規定により責任制限手続に参加した者は、制限債権者に代位し、申立人若しくは受益債務者に対して求償権を取得し、又は制限債権につき支払をしたときは、その旨を裁判所に届け出なければならない。この場合においては、届出の原因となつた事実を証明しなければならない。
(手続に参加した者の地位の承継)
第五十二条 責任制限手続に参加した者の届出に係る債権を取得した者は、その参加した者の地位を承継することができる。
2 前項の規定により承継しようとする者は、取得した債権その他の最高裁判所規則で定める事項を裁判所に届け出なければならない。この場合においては、当該債権を取得したことを証明しなければならない。
3 前二項の規定は、第四十七条第一項の規定により責任制限手続に参加した者の届出に係る債権を弁済した申立人又は受益債務者について準用する。
(届出の却下)
第五十三条 裁判所は、この節の規定によつてする届出が第四十七条第五項若しくは第六項、第五十条(第五十一条第二項において準用する場合を含む。)、第五十一条第三項又は前条第二項(同条第三項において準用する場合を含む。)の規定に違反するときは、その届出を却下しなければならない。
2 前項の規定による決定に対しては、即時抗告をすることができる。
(時効の中断)
第五十四条 責任制限手続への参加は、時効中断の効力を生ずる。ただし、その届出が取り下げられ、又は却下されたときは、この限りでない。
(知れた制限債権者の届出義務等)
第五十五条 申立人及び受益債務者は、第十八条(第三十七条第二項において準用する場合を含む。)の規定により届け出た制限債権者以外の制限債権者で、まだ責任制限手続に参加していないものの氏名又は名称及び住所を知つたときは、直ちに、これを裁判所に届け出なければならない。ただし、制限債権の調査期日が終了した後に知つたときは、この限りでない。
2 第二十八条第二項及び第三項(第三十八条第二項において準用する場合を含む。)の規定は、前項の規定による届出に係る制限債権者について準用する。
(配当の前払の許可)
第五十六条 第四十七条第一項の規定により責任制限手続に参加した者の著しい損害を避けるため緊急の必要があるときは、裁判所は、当該参加した者の届出に係る債権が確定する前においても、管理人の申立てにより、又は職権で、管理人に対して、制限債権に対する配当の一部として基金から相当の金額を支払うことを命ずることができる。
2 管理人は、前項に規定する制限債権者から同項の申立てをすべきことを求められたときは、直ちに、その旨を裁判所に報告し、なお、その申立てをしないこととしたときは、遅滞なく、その理由を裁判所に報告しなければならない。
第七節 制限債権の調査及び確定
(制限債権の調査)
第五十七条 制限債権の調査期日においては、届出のあった債権について、制限債権であるかどうか、並びに制限債権であるときは、その内容及び人の損害に関する債権と物の損害に関する債権との別を調査する。
(関係人の出頭)
第五十八条 申立人、受益債務者及び責任制限手続に参加した者並びにこれらの代理人は、制限債権の調査期日に出頭して、届出のあつた債権について異議を述べることができる。
(管理人の出頭)
第五十九条 制限債権の調査は、管理人の出頭がなければすることができない。
(異議のない制限債権の確定)
第六十条 制限債権の調査期日において管理人及び第五十八条に掲げる者の異議がなかつたときは、制限債権であること及びその内容並びに人の損害に関する債権と物の損害に関する債権との別は、確定する。
(査定の裁判)
第六十一条 裁判所は、異議のあつた債権について、査定の裁判をしなければならない。
2 査定の裁判においては、当該債権が、制限債権でないときはその旨を、制限債権であるときはその内容及び人の損害に関する債権と物の損害に関する債権との別を定める。
3 査定の裁判は、当該債権を届け出た者及びその債権について異議を述べた者に送達する。
(管理人の調査等)
第六十二条 裁判所は、査定の裁判をするに当たり、管理人に対して、必要な事項について調査を命じ、又は意見を求めることができる。
(査定の裁判に対する異議の訴え)
第六十三条 査定の裁判に不服がある者(管理人を除く。)は、決定の送達を受けた日から一月の不変期間内に、異議の訴えを提起することができる。
2 前項の訴えは、これを提起する者が、異議のあつた債権を届け出た者であるときは異議を述べた者を、異議を述べた者であるときは異議のあつた債権を届け出た者を、それぞれ被告としなければならない。
3 第一項の訴えは、責任制限裁判所の管轄に専属し、口頭弁論は、第一項の期間を経過した後でなければ、開始することができない。
4 同一の債権に関し数個の訴えが同時に係属するときは、弁論及び裁判は、併合してしなければならない。この場合においては、民事訴訟法第六十二条の規定を準用する。
5 第一項の訴えについての判決においては、訴えを不適法として却下する場合を除き、査定の裁判を認可し、又は変更する。
(訴訟手続の中止)
第六十四条 第四十七条第五項の規定により制限債権の届出がされた場合において、当該債権に関する債権者及び申立人又は受益債務者間の訴訟(以下「手続外訴訟」という。)が係属するときは、裁判所は、原告の申立てにより、その訴訟手続の中止を命ずることができる。
2 裁判所は、原告の申立てにより、前項の規定による中止の決定を取り消すことができる。
(手続外訴訟の管轄の拡張)
第六十五条 査定の裁判に対する異議の訴えが係属するときは、その訴えに係る債権を有する者及び申立人又は受益債務者間の当該債権に関する訴えは、責任制限裁判所に提起することができる。
(移送)
第六十六条 査定の裁判に対する異議の訴えが係属する場合において、その訴えに係る債権に関する手続外訴訟が他の第一審裁判所に係属するときは、責任制限裁判所は、申立てにより、その移送を求めることができる。
2 前項の規定による決定があつたときは、移送を求められた裁判所は、手続外訴訟を責任制限裁判所に移送しなければならない。
3 前項の規定による移送は、訴訟手続が中断又は中止中でもすることができる。
(併合)
第六十七条 責任制限裁判所に査定の裁判に対する異議の訴えと手続外訴訟とが係属するときは、弁論及び裁判は、併合してしなければならない。
第八節 配当
(配当)
第六十八条 基金は、第九十二条第五項(第九十四条第二項において準用する場合を含む。)又は第九十三条第一項若しくは第三項の規定により支弁されるものを除き、配当に充てる。
(配当の時期)
第六十九条 管理人は、制限債権の調査期日が終了した後、遅滞なく、配当を行わなければならない。
2 制限債権の調査期日において異議があつたときは、管理人は、査定の裁判に対する異議の訴えの出訴期間を経過した後でなければ、配当を行うことができない。ただし、裁判所の許可を得たときは、この限りでない。
(配当表)
第七十条 管理人は、配当を行おうとするときは、配当表を作り、裁判所の認可を得なければならない。
2 配当表には、配当に加えるべき制限債権者の氏名、配当に加えるべき制限債権の額、配当することのできる金銭の額、配当率その他の最高裁判所規則で定める事項を人の損害に関する債権と物の損害に関する債権との別に従つて記載しなければならない。
(配当表の認可の公告)
第七十一条 裁判所は、配当表を認可したときは、その旨を公告しなければならない。
(配当表に対する異議)
第七十二条 配当表の記載に不服がある者は、前条の規定による公告の日から二週間の不変期間内に、裁判所に対して、異議を申し立てることができる。
2 裁判所は、異議が相当であると認めるときは、管理人に対して、配当表の更正を命じなければならない。
3 異議についての裁判に対しては、即時抗告をすることができる。
(配当の保留の申出)
第七十三条 責任制限手続に参加した者は、配当表に対する異議申立期間の経過前に、管理人に対して、届出に係る自己の債権につき手続外訴訟が係属していること又は当該債権に基づく強制執行若しくは担保権の実行がされていることを証明して、配当の保留の申出をすることができる。
(配当の保留)
第七十四条 管理人は、次に掲げる債権については、配当を保留しなければならない。
一 前条の規定により配当の保留の申出がされた債権
二 第四十七条第三項又は第四項の規定により責任制限手続に参加した者の届出に係る債権で、第五十一条第三項の規定による届出がないもの
三 責任制限手続においてまだ確定していない債権で、前二号に掲げるもの以外のもの
(費用等の保留命令)
第七十五条 第九十二条第一項若しくは第九十三条第二項又は同条第一項の規定により立て替えられ、又は支弁されることとなる費用等及び弁護士の報酬で、その額が明らかでないものがあるときは、裁判所は、管理人に対して、基金につき相当額の保留をすることを命じなければならない。
2 裁判所は、前項の規定による決定を変更し、又は取り消すことができる。
(配当の効果)
第七十六条 責任制限手続に参加した者がその配当額につき供託に関する法令の規定により基金から支払を受けることができることとなつたときは、申立人及び受益債務者は、責任制限手続外においては、当該参加した者に対する配当に係る債権について、その責任を免れる。
(手続からの除斥)
第七十七条 届出に係る債権が手続外訴訟において制限債権でないことに確定したときは、当該債権は、責任制限手続から除斥される。
(保留された配当の実施)
第七十八条 第七十四条各号に掲げる債権について、次に掲げる事由が生じたときは、管理人は、遅滞なく、配当を実施しなければならない。
一 第七十四条第一号に掲げる債権にあつては、その内容が確定し、かつ、保留の申出をした者が配当を行うべきことを求めたとき。
二 第七十四条第二号に掲げる債権にあつては、その内容が確定し、かつ、第五十一条第三項の規定による届出があつたとき。
三 第七十四条第三号に掲げる債権にあつては、その内容が確定したとき。
(追加配当)
第七十九条 基金に新たに配当に充てることができる部分が生じたときは、管理人は、更に配当を行わなければならない。
2 管理人は、裁判所の許可を得て、一時前項の配当を行わないことができる。
(手続の終結)
第八十条 配当が終了したときは、裁判所は、責任制限手続終結の決定をし、かつ、その旨を公告しなければならない。
(損害賠償)
第八十一条 申立人又は受益債務者が第十八条(第三十七条第二項において準用する場合を含む。)又は第五十五条第一項に規定する届出義務に違反した場合において、責任制限手続終結の決定があつたときは、これらの者は、その義務に違反したことにより生じた損害を賠償する責めに任ずる。
第九節 責任制限手続の廃止
(手続の廃止)
第八十二条 次の場合においては、裁判所は、申立てにより、又は職権で、責任制限手続廃止の決定をしなければならない。ただし、第三号の場合において制限債権者を著しく害するおそれがあるときは、この限りでない。
一 第二十二条第二項(第三十条第二項及び第三十七条第二項において準用する場合を含む。)の規定による決定に基づき受託者から金銭の支払を受けることができないことを管理人が証明したとき。
二 申立人が第三十条第一項(第三十八条第二項において準用する場合を含む。)の規定による決定に従わないとき。
三 申立人が第九十一条後段の規定による決定に従わないとき。
第八十三条 申立人は、知れている受益債務者及び責任制限手続に参加した者の全員の同意を得て、責任制限手続廃止の申立てをすることができる。
2 前項の申立てがあつたときは、裁判所は、責任制限手続廃止の決定をしなければならない。
第八十四条 申立人が破産宣告を受けた場合において、責任制限手続を続行することが破産債権者を著しく害するおそれがあるときは、裁判所は、破産管財人の申立てにより、責任制限手続廃止の決定をしなければならない。ただし、配当表の認可の公告があつたとき、又は破産手続における配当の公告があつたときは、この限りでない。
(廃止の公告等)
第八十五条 裁判所は、責任制限手続廃止の決定をしたときは、直ちに、その主文及び理由の要旨を公告しなければならない。
2 第三十一条第二項の規定は、前項の場合について準用する。
(抗告)
第八十六条 責任制限手続廃止の申立てを却下し、又は棄却する決定及び責任制限手続廃止の決定に対しては、即時抗告をすることができる。
(廃止決定の取消しの公告等)
第八十七条 責任制限手続廃止の決定を取り消す決定が確定したときは、裁判所は、直ちに、その旨を公告しなければならない。
2 第三十一条第二項の規定は、前項の場合について準用する。
(廃止決定の発効)
第八十八条 責任制限手続廃止の決定は、確定しなければその効力を生じない。
(廃止決定が確定した場合における供託金の取戻しの制限)
第八十九条 第三十二条の規定は、責任制限手続廃止の決定が確定した場合について準用する。
第十節 費用
(費用負担の原則)
第九十条 第九十三条第一項又は第二項に規定するものを除き、責任制限手続のため必要な費用及び管理人の報酬(以下この節において「費用等」という。)は、申立人の負担とする。
(予納義務)
第九十一条 申立人は、責任制限手続開始の申立てをするときは、費用等として裁判所が定める金額を予納しなければならない。予納した費用等が不足する場合において、裁判所がその不足する費用等の予納を命じたときも、同様とする。
(申立人が予納命令に従わない場合における費用等の立替え等)
第九十二条 第八十二条第三号に該当する場合において、同条ただし書に規定する事由があるときは、費用等は、基金から立て替える。
2 前項の規定により立て替えた費用等については、管理人が、申立人から取り立てるものとする。
3 前項の場合においては、裁判所は、管理人の申立てにより、申立人に対して、第一項の規定により立て替えた費用等の額と同額の金銭を管理人に支払うべきことを命じなければならない。
4 第二十二条第三項及び第四項の規定は、前項の規定による決定について準用する。
5 第二項の規定により取り立てるべき費用等の取立てが不能であるときは、当該費用等は、基金から支弁する。
(管理人の訴訟の追行の費用等)
第九十三条 管理人が査定の裁判に対する異議の訴えを追行するために必要な費用等及び弁護士の報酬は、次項に規定する費用を除き、基金から支弁する。
2 管理人が査定の裁判に対する異議の訴えを追行するために必要な費用のうち訴訟費用となるものは、基金から立て替える。
3 査定の裁判に対する異議の訴えについての判決において管理人の負担とされた訴訟費用は、基金から支弁する。
4 裁判所は、管理人の申立てにより、第一項の費用等及び報酬の額を定める。
5 前項の規定による決定に対しては、即時抗告をすることができる。
(管理人が取り立てた費用等及び訴訟費用の供託)
第九十四条 第九十二条第一項又は前条第二項の規定により立て替えた費用等又は訴訟費用を管理人が取り立てたときは、これは申立人のために基金として供託しなければならない。
2 第二十二条第六項の規定は前項の規定により管理人がした供託について、第九十二条第五項の規定は管理人が取り立てるべき前項の訴訟費用の取立てが不能である場合について準用する。
第四章 補則
(船舶先取特権)
第九十五条 制限債権者は、その制限債権につき、事故に係る船舶、その属具及び受領していない運送費の上に先取特権を有する。
2 前項の先取特権は、商法(明治三十二年法律第四十八号)第八百四十二条第八号の先取特権に次ぐ。
3 商法第八百四十三条、第八百四十四条第二項本文及び第三項、第八百四十五条、第八百四十六条、第八百四十七条第一項並びに第八百四十九条の規定は、第一項の先取特権について準用する。
4 第一項の先取特権が消滅する前に責任制限手続開始の決定があつた場合において、その決定を取り消す決定又は責任制限手続廃止の決定が確定したときは、前項において準用する商法第八百四十七条第一項の規定にかかわらず、第一項の先取特権は、その確定後一年を経過した時に消滅する。
(締約国である外国における制限基金の形成の効果)
第九十六条 海上航行船舶の所有者の責任の制限に関する国際条約の締約国である外国において同条約に定める制限基金が形成された場合においては、当該基金から支払を受けることができる制限債権については、その制限債権者は、制限基金以外の船舶所有者等の財産又は船長等の財産に対してその権利を行使することができない。
2 第三十四条から第三十六条までの規定は、前項の場合について準用する。
(仮差押えの取消しの申立て)
第九十七条 制限債権に基づき自己の財産に対し仮差押えがされている場合において、外国において責任限度額に相当する金額について十分な保証その他の担保が提供され、かつ、仮差押債権者がその提供された保証その他の担保からその権利に応じて支払を受けることができるものであるときは、船舶所有者等又は船長等は、仮差押えの取消しを申し立てることができる。
2 民事訴訟法第七百四十七条第二項の規定は、前項の規定による申立てについて準用する。
(船舶の管理人等に対するこの法律の適用)
第九十八条 この法律は、海上航行船舶の所有者の責任の制限に関する国際条約第六条第二項に規定する船舶の管理人及び船舶の運航者並びに法人であるこれらの者の無限責任社員について船舶所有者等と同様に、同項に規定する船舶の管理人又は船舶の運航者の使用する者について船長等と同様に、適用する。
第五章 罰則
第九十九条 管理人又は管理人代理がその職務に関し賄賂を収受し、又はこれを要求し、若しくは約束したときは、三年以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処する。
2 前項の場合において、収受した賄賂は、没収する。その全部又は一部を没収することができないときは、その価額を追徴する。
第百条 前条第一項に規定する賄賂を供与し、又はその申込み若しくは約束をした者は、三年以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処する。
第百一条 第四十条第二項の規定による報告又は書類の提出を求められて、報告をせず、若しくは書類の提出をせず、又は虚偽の報告をし、若しくは虚偽の書類の提出をした者は、一年以下の懲役又は十万円以下の罰金に処する。
2 法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務に関して前項の違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人又は人に対しても、同項の罰金刑を科する。
附 則
(施行期日等)
1 この法律は、海上航行船舶の所有者の責任の制限に関する国際条約が日本国について効力を生ずる日から施行する。
2 この法律は、この法律の施行前に発生した事故により生じた損害に基づく債権については適用せず、この法律の施行前に生じた債権及びこの法律の施行前に発生した事故によりこの法律の施行後に生じた損害に基づく債権については、なお従前の例による。
(商法の一部改正)
3 商法の一部を次のように改正する。
第六百九十条から第六百九十二条までを次のように改める。
第六百九十条 船舶所有者ハ船長其他ノ船員ガ其職務ヲ行フニ当タリ故意又ハ過失ニ因リテ他人ニ加へタル損害ヲ賠償スル責ニ任ズ
第六百九十一条及ビ第六百九十二条 削除
第七百条第一項第一号中「、委付」を削る。
第七百十六条を次のように改める。
第七百十六条 削除
第七百五十九条ただし書を削る。
第七百六十条第一項第一号を次のように改める。
一 船舶ガ沈没シタルコト
第七百六十条第一項第二号を同項第四号とし、同項第一号の次に次の二号を加える。
二 船舶ガ修繕スルコト能ハザルニ至リタルコト
三 船舶ガ補獲セラレタルコト
第七百六十条第二項中「第七百三十四条第一項」を「前項第一号乃至第三号」に改める。
第七百六十二条第一項及び第七百六十三条第二項中「第七百六十条第一項第二号」を「第七百六十条第一項第四号」に改める。
第七百八十四条中「第七百三十四条第一項」を「第七百六十条第一項第一号乃至第三号」に改める。
第八百四十二条第九号を削る。
(破産法の一部改正)
4 破産法(大正十一年法律第七十一号)の一部を次のように改正する。
第二編第一章中第百二十五条の次に次の一条を加える。
第百二十五条ノ二 破産者ノ為ニ開始シタル責任制限手続ニ付廃止ノ決定アリタルトキハ其ノ決定ガ確定スル迄破産手続ヲ中止ス
第百五十五条の次に次の一条を加える。
第百五十五条ノ二 裁判所ハ破産ノ申立アリタル場合ニ於テ必要ト認ムルトキハ利害関係人ノ申立ニ因リ又ハ職権ヲ以テ破産ノ申立ニ付決定アル迄責任制限手続ノ中止ヲ命ズルコトヲ得但シ責任制限手続開始ノ決定アリタルトキハ此ノ限ニ在ラズ
裁判所ハ前項ノ規定ニ依ル中止ノ決定ヲ取消スコトヲ得
前二項ノ規定ニ依ル決定ニ対シテハ不服ヲ申立ツルコトヲ得ズ
第二編第二章中第百五十六条の次に次の一条を加える。
第百五十六条ノ二 破産者ノ為ニ開始シタル責任制限手続ニ付廃止ノ決定ガ確定シタル場合ニ於テハ裁判所ハ制限債権者ノ為ニ左ノ事項ヲ定ムルコトヲ要ス
一 債権届出ノ期間但シ其ノ期間ハ責任制限手続廃止ノ決定ガ確定シタル日ヨリ一週間以上二月以下ナルコトヲ要ス
二 債権調査ノ期日但シ其ノ期日ト債権届出期間ノ末日トノ間ニハ一週間以上一月以下ノ期間ヲ存スルコトヲ要ス
裁判所ハ前項ノ規定ニ依り定メタル期間及期日ヲ公告スルコトヲ要ス
知レタル制限債権者ニハ第百四十三条第一項第一号第二号及前項ニ掲グル事項ヲ記載シタル書面ヲ送達スルコトヲ要ス
破産管財人、破産者及届出ヲ為シタル破産債権者ニハ第二項ニ掲グル事項ヲ記載シタル書面ヲ送達スルコトヲ要ス但シ第一項第二号ノ規定ニ依り定メラレタル期日ガ第百四十二条第一項第三号ノ規定ニ依り定メラレタル期日ト同ジナルトキハ届出ヲ為シタル破産債権者ニ付テハ此ノ限ニ在ラズ
第二項、第三項及前項本文ノ規定ハ第二項ニ掲グル事項ニ変更ヲ生ジタル場合ニ之ヲ準用ス
(地方税法の一部改正)
5 地方税法(昭和二十五年法律第二百二十六号)の一部を次のように改正する。
第十四条の十三第一項第四号中「又は国際海上物品運送法」を「、国際海上物品運送法」に改め、「第十九条の先取特権」の下に「又は船舶の所有者等の責任の制限に関する法律(昭和五十年法律第九十四号)第九十五条第一項の先取特権」を加える。
(国際海上物品運送法の一部改正)
6 国際海上物品運送法(昭和三十二年法律第百七十二号)の一部を次のように改正する。
第十九条第二項を次のように改める。
2 前項の先取特権は、商法第八百四十二条第八号の先取特権に次ぐ。
(国税徴収法の一部改正)
7 国税徴収法(昭和三十四年法律第百四十七号)の一部を次のように改正する。
第十九条第一項第四号中「又は国際海上物品運送法」を「、国際海上物品運送法」に改め、「第十九条(船舶先取特権)」の下に「又は船舶の所有者等の責任の制限に関する法律(昭和五十年法律第九十四号)第九十五条第一項(船舶先取特権)」を加える。
(原子力損害の賠償に関する法律の一部改正)
8 原子力損害の賠償に関する法律(昭和三十六年法律第百四十七号)の一部を次のように改正する。
第四条第三項中「第六百九十条第一項及び」を削り、「第七百九十八条第一項」の下に「及び船舶の所有者等の責任の制限に関する法律(昭和五十年法律第九十四号)」を加える。
(民事訴訟費用等に関する法律の一部改正)
9 民事訴訟費用等に関する法律(昭和四十六年法律第四十号)の一部を次のように改正する。
別表第一中「別表第一」を「別表第一(第三条、第四条関係)」に改め、同表の一二の項中「特別清算開始の申立て」の下に「、責任制限手続開始の申立て、責任制限手続拡張の申立て」を加え、同表の一七の項ロ中「会社更生法(昭和二十七年法律第百七十二号)」の下に「又は船舶の所有者等の責任の制限に関する法律(昭和五十年法律第九十四号)」を加える。
別表第二中「別表第二」を「別表第二(第七条関係)」に改める。
内閣総理大臣 三木武夫
法務大臣 稻葉修
大蔵大臣 大平正芳
自治大臣 福田一
船舶の所有者等の責任の制限に関する法律をここに公布する。
御名御璽
昭和五十年十二月二十七日
内閣総理大臣 三木武夫
法律第九十四号
船舶の所有者等の責任の制限に関する法律
目次
第一章
総則(第一条・第二条)
第二章
船舶の所有者等の責任の制限(第三条―第八条)
第三章
責任制限手続
第一節
通則(第九条―第十六条)
第二節
責任制限手続開始の申立て(第十七条―第二十五条)
第三節
責任制限手続開始の決定(第二十六条―第三十六条)
第四節
責任制限手続の拡張(第三十七条―第三十九条)
第五節
管理人(第四十条―第四十六条)
第六節
責任制限手続への参加(第四十七条―第五十六条)
第七節
制限債権の調査及び確定(第五十七条―第六十七条)
第八節
配当(第六十八条―第八十一条)
第九節
責任制限手続の廃止(第八十二条―第八十九条)
第十節
費用(第九十条―第九十四条)
第四章
補則(第九十五条―第九十八条)
第五章
罰則(第九十九条―第百一条)
附則
第一章 総則
(趣旨)
第一条 この法律は、船舶の所有者等の責任の制限に関し必要な事項を定めるものとする。
(定義)
第二条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。
一 船舶 航海の用に供する船舶で、ろかい又は主としてろかいをもつて運転する舟及び公用に供する船舶以外のものをいう。
二 船舶所有者等 船舶所有者、船舶賃借入及び傭船者並びに法人であるこれらの者の無限責任社員をいう。
三 船長等 船長、海員その他の船舶所有者等が使用する者(水先人を含む。)をいう。
四 制限債権 船舶所有者等又は船長等が、この法律で定めるところによりその責任を制限することができる債権をいう。
五 人の損害に関する債権 制限債権のうち人の生命又は身体が害されることによる損害に基づく債権をいう。
六 物の損害に関する債権 制限債権のうち人の損害に関する債権以外の債権をいう。
七 一単位 純分千分の九百の金六十五・五ミリグラムの価値に相当する政令で定める金額をいう。
八 受益債務者 当該責任制限手続における制限債権に係る債務者で、責任制限手続開始の申立てをした者以外のものをいう。
第二章 船舶の所有者等の責任の制限
(船舶の所有者等の責任の制限)
第三条 船舶所有者等又は船長等は、航海に関して生じた次に掲げる損害に基づく債権について、この法律で定めるところにより、その責任を制限することができる。ただし、損害の発生が、船舶所有者等にあつては自己の故意又は過失によるものであるとき、船長等にあつては自己の故意によるものであるときは、この限りでない。
一 運送されるため船舶上にある者の生命又は身体が害されることによる損害及び船舶上にある物の滅失又は損傷による損害
二 前号に掲げる者以外の者の生命又は身体が害されることによる損害並びに同号に掲げる物及び当該船舶以外の物の滅失若しくは損傷又はその他の権利に対する侵害による損害。ただし、損害が船舶上にない者の行為によるものであるときは、その行為が航行その他の船舶の取扱い、運送品の船積み、運送若しくは荷揚げ又は旅客の乗船、運送若しくは下船に関する場合に限る。
2 本邦の各港間のみを航海する日本船舶の船舶所有者等又は船長等は、運送されるため当該船舶上にある者の生命又は身体が害されることによる損害に基づく債権については、前項の規定にかかわらず、その責任を制限することができない。
第四条 航海に関して生じた次に掲げる債権については、船舶所有者等は、その責任を制限することができない。
一 海難の救助又は共同海損の分担に基づく債権
二 船長等で船舶上にあるもの又はその職務が当該船舶の業務に関するものの使用者に対して有する債権及びこれらの者の生命又は身体が害されることによつて生じた第三者の有する債権
(同一の事故から生じた損害に基づく債権の差引き)
第五条 船舶所有者等又は船長等が制限債権者に対して同一の事故から生じた損害に基づく債権を有する場合においては、この法律の規定は、その債権額を差し引いた残余の制限債権について、適用する。
(責任の制限の及ぶ範囲)
第六条 船舶所有者等又は船長等の責任の制限は、当該船舶ごとに、同一の事故から生じたこれらの者に対するすべての制限債権に及ぶ。ただし、物の損害に関する債権のみについての責任の制限は、人の損害に関する債権に及ばない。
(責任限度額等)
第七条 船舶所有者等又は船長等がその責任を制限することができる場合における責任の限度額(以下「責任限度額」という。)は、次のとおりとする。
一 責任を制限しようとする債権が物の損害に関する債権のみである場合においては、一単位の千倍に船舶のトン数を乗じて得た金額
二 その他の場合においては、一単位の三千百倍に船舶のトン数を乗じて得た金額
2 前項第二号の場合においては、制限債権の弁済に充てられる金額のうち、三十一分の二十一に相当する部分は人の損害に関する債権の弁済に、三十一分の十に相当する部分は物の損害に関する債権の弁済に充てられるものとする。ただし、前者の部分が人の損害に関する債権を弁済するに足りないときは、後者の部分は、その弁済されない残額と物の損害に関する債権の額との割合に応じてこれらの債権の弁済に充てられるものとする。
3 制限債権者は、人の損害に関する債権と物の損害に関する債権との別に従い、それぞれその制限債権の額の割合に応じて弁済を受ける。
(船舶のトン数の算定)
第八条 前条第一項の船舶のトン数は、船舶積量測度法(大正三年法律第三十四号)の規定に従い、純積量の算定に当たり機関室の積量として総積量から控除した積量を純積量に加えた積量をトンで表したものとする。
2 前項の規定により算定したトン数が三百トンに満たない船舶については、そのトン数は、三百トンとみなす。
3 第一項の規定により算定したトン数が百トンに満たない木船についての前条第一項第一号の規定の適用に関しては、前項の規定にかかわらず、そのトン数は、百トンとみなす。
第三章 責任制限手続
第一節 通則
(責任制限事件の管轄)
第九条 責任制限事件は、船籍を有する船舶に係る場合にあつては船籍の所在地を管轄する地方裁判所の管轄に、船籍を有しない船舶に係る場合にあつては申立人の普通裁判籍の所在地、事故発生地、事故後に当該船舶が最初に到達した地又は制限債権(物の損害に関する債権のみについての責任制限手続にあつては、人の損害に関する債権を除く。以下この章において同じ。)に基づき申立人の財産に対して差押え若しくは仮差押えの執行がされた地を管轄する地方裁判所の管轄に専属する。
(責任制限事件の移送)
第十条 裁判所は、著しい損害又は遅滞を避けるため必要があると認めるときは、職権で、責任制限事件を他の管轄裁判所又は制限債権者の普通裁判籍の所在地を管轄する地方裁判所に移送することができる。
(民事訴訟法の準用)
第十一条 特別の定めがある場合を除いて、責任制限手続に関しては、民事訴訟法(明治二十三年法律第二十九号)の規定を準用する。
(任意的口頭弁論及び職権調査)
第十二条 責任制限手続に関する裁判は、口頭弁論を経ないですることができる。
2 裁判所は、職権で、責任制限事件に関して必要な調査をすることができる。
(抗告)
第十三条 責任制限手続に関する裁判に対しては、この法律に特別の規定がある場合に限り、その裁判につき利害関係を有する者は、即時抗告をすることができる。その期間は、裁判の公告があつた場合においては、その公告があつた日から起算して一月とする。
(公告)
第十四条 この法律の規定によつてする公告は、官報及び裁判所の指定する新聞紙に掲載してする。
2 公告は、最終の掲載があつた日の翌日に、その効力を生ずる。
(公告及び送達をする場合)
第十五条 この法律の規定によつて公告及び送達をしなければならない場合には、送達は、書類を通常の取扱いによる郵便に付してすることができる。この場合においては、公告は、一切の関係人に対する送達の効力を有する。
(最高裁判所規則)
第十六条 この法律に定めるもののほか、責任制限手続に関し必要な事項は、最高裁判所規則で定める。
第二節 責任制限手続開始の申立て
(手続開始の申立て)
第十七条 船舶所有者等又は船長等は、その責任を制限するため、責任制限手続開始の申立てをすることができる。
2 船舶共有者は、各自責任制限手続開始の申立てをすることができる。
(疎明等)
第十八条 責任制限手続開始の申立てをするときは、制限債権に係る損害を生じさせた事故を特定するために必要な事実及び制限債権の額が責任限度額を超えることを疎明し、かつ、知れている制限債権者の氏名又は名称及び住所を届け出なければならない。
(供託命令)
第十九条 裁判所は、責任制限手続開始の申立てを相当と認めるときは、その申立てをした者(以下「申立人」という。)に対して、一月を超えない一定の期間内に、責任限度額に相当する額の金銭を裁判所の指定する供託所に供託し、かつ、その旨を届け出るべきことを命じなければならない。
2 前項の規定による決定があつた後責任制限手続開始の決定があるまでの間に第二条第七号の金額が変更されたときは、裁判所は、同項の規定により供託すべき金銭の額を変更しなければならない。
3 前二項の規定による決定に対しては、即時抗告をすることができる。
(供託委託契約)
第二十条 申立人が、裁判所の許可を得て供託委託契約を締結し、前条第一項の規定による決定において定められた期間内にその旨を裁判所に届け出た場合においては、当該契約に係る一定の額の金銭は、その期間内に供託することを要しない。
2 供託委託契約は、責任制限手続開始の決定があつた場合において、受託者が申立人のために一定の額の金銭及びこれに対する責任制限手続開始の決定の日から供託の日まで供託金に付される利息の利率と同一の率により算定した金銭を前条第一項の供託所に供託をすることを約する契約とする。
3 供託委託契約は、第一項の規定による届出があつた後は、裁判所の許可を得なければ、変更又は解除をすることができない。
4 銀行、信託会社その他の政令で定める者でなければ、供託委託契約の受託者(以下単に「受託者」という。)となることができない。
(受託者の供託)
第二十一条 前条第一項の規定による届出がされた場合においては、受託者は、裁判所の定める日(次条第一項において「指定日」という。)までに供託委託契約に従つて供託し、かつ、その旨を裁判所に届け出なければならない。
2 前項の規定により受託者がした供託は、申立人が供託者としてした供託とみなす。
(受託者が供託しなかつた場合の義務等)
第二十二条 前条第一項の規定による供託をしなかつた場合においては、受託者は、供託に代えて、指定日において供託すべき金銭及びこれに対する指定日の翌日から支払の日まで年六パーセントの割合により算定した金銭を管理人に支払う義務を負う。
2 受託者が前項の義務を履行しなかつた場合においては、裁判所は、管理人の申立てにより、その受託者に対して、同項の規定により支払うべき額の金銭を管理人に支払うべきことを命じなければならない。
3 前項の規定による決定は、執行力のある債務名義と同一の効力を有する。
4 第二項の申立てについての裁判に対しては、即時抗告をすることができる。
5 管理人は、第一項の規定により受託者から金銭の支払を受けたときは、直ちに、これを第十九条第一項の供託所に供託し、かつ、その旨を裁判所に報告しなければならない。
6 前項の規定により管理人がした供託は、申立人が供託者としてした供託とみなす。
(他の手続の中止命令等)
第二十三条 責任制限手続開始の申立てがあつた場合において、必要があると認めるときは、裁判所は、申立人又は受益債務者の申立てにより、責任制限手続開始の申立てにつき決定があるまでの間、制限債権に基づく申立人又は受益債務者の財産に対する強制執行、仮差押え、仮処分又は競売法(明治三十一年法律第十五号)による競売手続の中止を命ずることができる。
2 裁判所は、前項の規定による中止の決定を変更し、又は取り消すことができる。
(却下)
第二十四条 申立人が破産者であるときは、裁判所は、責任制限手続開始の申立てを却下しなければならない。
(棄却)
第二十五条 次の場合においては、裁判所は、責任制限手続開始の申立てを棄却しなければならない。
一 手続の費用の予納がないとき。
二 制限債権の額が責任限度額を超えないことが明らかなとき。
三 申立人が第十九条第一項の規定による決定に従わないとき。
第三節 責任制限手続開始の決定
(責任制限手続の効力発生の時)
第二十六条 責任制限手続は、その開始の決定の時から、効力を生ずる。
(開始決定と同時に定めるべき事項)
第二十七条 裁判所は、責任制限手続開始の決定と同時に、管理人を選任し、かつ、次の事項を定めなければならない。
一 制限債権の届出期間。ただし、その期間は、決定の日から一月以上四月以下でなければならない。
二 制限債権の調査期日。ただし、その期日と届出期間の末日との間には、一週間以上二月以下の期間がなければならない。
(開始の公告等)
第二十八条 裁判所は、責任制限手続開始の決定をしたときは、直ちに、次の事項を公告しなければならない。
一 責任制限手続開始決定の年月日時及び主文
二 責任限度額
三 管理人の氏名及び住所
四 申立人及び知れている受益債務者の氏名又は名称並びにこれらの者と事故に係る船舶との関係
五 制限債権の届出期間及び調査期日
六 申立人又は受益債務者に対する制限債権をその届出期間内に届け出るべき旨の催告
2 管理人、申立人並びに知れている制限債権者及び受益債務者には、前項各号に掲げる事項を記載した書面を送達しなければならない。
3 前二項の規定は、第一項第二号から第五号までに掲げる事項に変更を生じた場合について準用する。ただし、制限債権の調査期日の変更については、公告することを要しない。
(抗告)
第二十九条 責任制限手続開始の申立てについての裁判に対しては、即時抗告をすることができる。
2 第二十三条の規定は、責任制限手続開始の申立てを却下し、又は棄却する決定に対して即時抗告があつた場合について準用する。
第三十条 責任制限手続開始の決定に対し前条第一項の即時抗告があつた場合において、第十九条第一項の規定による決定において定められた金銭の額を不当と認めるときは、裁判所は、申立人に対して、二週間を超えない一定の期間内に、増加すべき額の金銭を供託し、かつ、その旨を責任制限裁判所に届け出るべきことを命じなければならない。
2 第二十条から第二十二条までの規定は、前項の場合について準用する。
(開始決定を取り消す決定の公告等)
第三十一条 責任制限手続開始の決定を取り消す決定が確定したときは、裁判所は、直ちに、その旨を公告しなければならない。
2 管理人、申立人並びに知れている制限債権者及び受益債務者には、前項の規定による公告に係る事項を記載した書面を送達しなければならない。
(開始決定が取り消された場合における供託金の取戻しの制限)
第三十二条 申立人は、前条第一項の決定が確定した日から起算して一月を経過した後でなければ、次条に規定する基金として供託された金銭を取り戻し、又はその取戻請求権を処分することができない。
(手続開始の効果)
第三十三条 責任制限手続が開始されたときは、制限債権者は、この法律で定めるところにより、第十九条第一項又は第三十条第一項の規定による決定に基づき供託された金銭、第二十一条第一項又は第二十二条第五項(第三十条第二項においてこれらの規定を準用する場合を含む。)の規定により供託される金銭及び第九十四条第一項の規定により供託される金銭並びに供託されたこれらの金銭に付される利息(以下「基金」という。)から支払を受けることができる。この場合においては、制限債権者は、基金以外の申立人の財産又は受益債務者の財産に対してその権利を行使することができない。
第三十四条 責任制限手続が開始されたときは、制限債権者は、制限債権をもつて申立人又は受益債務者の債権と相殺することができない。
(強制執行に対する異議の訴え)
第三十五条 申立人又は受益債務者は、第三十三条後段の事由を主張して制限債権に基づく強制執行の不許を求めるには、強制執行に対する異議の訴えを提起しなければならない。
2 請求に関し異議を主張する訴えに関する民事訴訟法の規定は、前項の訴えについて準用する。
(担保権実行に対する異議の訴え)
第三十六条 申立人又は受益債務者は、第三十三条後段の事由を主張して制限債権に基づく担保権の実行の不許を求めるには、担保権の実行に対する異議の訴えを提起しなければならない。
2 前項の訴えは、被告の普通裁判籍の所在地を管轄する裁判所又はこの裁判所がないときは、担保権の目的である財産の所在地を管轄する裁判所の管轄に専属する。
3 民事訴訟法第五百四十七条及び第五百四十八条の規定は、第一項の訴えについて準用する。
第四節 責任制限手続の拡張
(手続拡張の申立て)
第三十七条 物の損害に関する債権のみについて責任制限手続が開始された場合においては、申立人又は受益債務者は、人の損害に関する債権について責任を制限するため、責任制限手続拡張の申立てをすることができる。ただし、制限債権の調査期日が開始された後は、この限りでない。
2 第十八条から第二十五条までの規定は、前項の申立てについて準用する。
(手続拡張の決定)
第三十八条 責任制限手続を拡張する決定においては、責任制限手続が人の損害に関する債権についても効力を及ぼす旨を定めるものとする。
2 前節(第二十七条中管理人の選任に関する部分を除く。)の規定は、前項の決定について準用する。
(受益債務者を申立人とみなす場合)
第三十九条 前条第一項の決定があつたときは、第八十二条から第八十四条まで、第九十条から第九十二条まで及び第九十四条の規定の適用については、責任制限手続拡張の申立てをした受益債務者は、申立人とみなす。
第五節 管理人
(権限)
第四十条 管理人は、制限債権の調査期日における意見の陳述、配当その他この法律で定める職務を行う権限を有する。
2 前項の職務を行うため、管理人は、申立人又は受益債務者に対して、必要な事項の報告又は帳簿その他の書類の提出を求めることができる。
(監督)
第四十一条 管理人は、裁判所が監督する。
(注意義務)
第四十二条 管理人は、善良な管理者の注意をもつてその職務を行わなければならない。
(管理人代理)
第四十三条 管理人は、必要があるときは、その職務を行わせるため、自己の責任で管理人代理を選任することができる。
2 前項の規定による管理人代理の選任については、裁判所の許可を得なければならない。
(報酬等)
第四十四条 管理人は、責任制限手続のため必要な費用の前払及び裁判所が定める報酬を受けることができる。
2 前項の規定による決定に対しては、即時抗告をすることができる。
(解任)
第四十五条 重要な事由があるときは、裁判所は、利害関係人の申立てにより、又は職権で、管理人を解任することができる。この場合においては、その管理人を審尋しなければならない。
(計算の報告義務)
第四十六条 管理人の任務が終了した場合においては、管理人又はその相続人は、遅滞なく、裁判所に計算の報告をしなければならない。
第六節 責任制限手続への参加
(参加)
第四十七条 制限債権者は、その有する制限債権(利息又は不履行による損害賠償若しくは違約金の請求権については、制限債権の調査期日の開始の日までに生じたものに限る。以下この章において同じ。)をもつて責任制限手続に参加することができる。
2 制限債権を弁済した申立人又は受益債務者は、弁済の限度においてその制限債権を有するものとみなし、これをもつて責任制限手続に参加することができる。
3 制限債権につき、将来、制限債権者に代位し、又は申立人若しくは受益債務者に対して求償権を有することとなる者は、その制限債権を有するものとみなし、これをもつて責任制限手続に参加することができる。ただし、制限債権者が責任制限手続に参加した場合における当該参加に係る制限債権については、この限りでない。
4 申立人又は受益債務者は、制限債権に基づき外国において強制執行をされるおそれがあるときは、その強制執行により支払をすべき制限債権の額についてその制限債権を有するものとみなし、これをもつて責任制限手続に参加することができる。前項ただし書の規定は、この場合について準用する。
5 前各項の規定により責任制限手続に参加しようとする者は、制限債権の内容その他の最高裁判所規則で定める事項を裁判所に届け出なければならない。
6 第四項の規定により責任制限手続に参加しようとする者が前項の規定による届出をするときは、外国において強制執行をされるおそれがあることを疎明しなければならない。
(制限債権につき申立人及び受益債務者以外の者が全部義務を負う場合)
第四十八条 制限債権につき申立人及び受益債務者以外に全部の履行をする義務を負う者がある場合において、その者のためにも責任制限手続が開始され、又は拡張されたときは、制限債権者は、責任制限手続開始の時又は責任制限手続拡張の時に有する制限債権の全額につき、各責任制限手続においてその権利を行うことができる。
(金銭を目的としない債権等)
第四十九条 債権の目的が、金銭でないとき、又は金銭であつてその額が不確定であるとき、若しくは外国の通貨をもつて定められたものであるときは、その債権の額は、責任制限手続開始の時又は責任制限手続拡張の時における評価額による。
(届出の期間)
第五十条 第四十七条第五項の規定による届出は、第二十七条(第三十八条第二項において準用する場合を含む。)の規定により裁判所が定めた届出期間内にしなければならない。
2 第四十七条第一項から第四項までの規定により責任制限手続に参加することのできる者が、その責めに帰することのできない事由によつて届出期間内に届出をすることができなかつたときは、その者は、前項の規定にかかわらず、届出期間が経過した後においても、届出をすることができる。ただし、制限債権の調査期日が終了した後は、この限りでない。
(変更の届出等)
第五十一条 責任制限手続に参加した者は、その届け出た事項に変更が生じたとき、又は届け出た事項を変更しようとするときは、その旨を裁判所に届け出なければならない。
2 前条の規定は、他の制限債権者の利益を害すべき変更の届出をする場合について準用する。
3 第四十七条第三項又は第四項の規定により責任制限手続に参加した者は、制限債権者に代位し、申立人若しくは受益債務者に対して求償権を取得し、又は制限債権につき支払をしたときは、その旨を裁判所に届け出なければならない。この場合においては、届出の原因となつた事実を証明しなければならない。
(手続に参加した者の地位の承継)
第五十二条 責任制限手続に参加した者の届出に係る債権を取得した者は、その参加した者の地位を承継することができる。
2 前項の規定により承継しようとする者は、取得した債権その他の最高裁判所規則で定める事項を裁判所に届け出なければならない。この場合においては、当該債権を取得したことを証明しなければならない。
3 前二項の規定は、第四十七条第一項の規定により責任制限手続に参加した者の届出に係る債権を弁済した申立人又は受益債務者について準用する。
(届出の却下)
第五十三条 裁判所は、この節の規定によつてする届出が第四十七条第五項若しくは第六項、第五十条(第五十一条第二項において準用する場合を含む。)、第五十一条第三項又は前条第二項(同条第三項において準用する場合を含む。)の規定に違反するときは、その届出を却下しなければならない。
2 前項の規定による決定に対しては、即時抗告をすることができる。
(時効の中断)
第五十四条 責任制限手続への参加は、時効中断の効力を生ずる。ただし、その届出が取り下げられ、又は却下されたときは、この限りでない。
(知れた制限債権者の届出義務等)
第五十五条 申立人及び受益債務者は、第十八条(第三十七条第二項において準用する場合を含む。)の規定により届け出た制限債権者以外の制限債権者で、まだ責任制限手続に参加していないものの氏名又は名称及び住所を知つたときは、直ちに、これを裁判所に届け出なければならない。ただし、制限債権の調査期日が終了した後に知つたときは、この限りでない。
2 第二十八条第二項及び第三項(第三十八条第二項において準用する場合を含む。)の規定は、前項の規定による届出に係る制限債権者について準用する。
(配当の前払の許可)
第五十六条 第四十七条第一項の規定により責任制限手続に参加した者の著しい損害を避けるため緊急の必要があるときは、裁判所は、当該参加した者の届出に係る債権が確定する前においても、管理人の申立てにより、又は職権で、管理人に対して、制限債権に対する配当の一部として基金から相当の金額を支払うことを命ずることができる。
2 管理人は、前項に規定する制限債権者から同項の申立てをすべきことを求められたときは、直ちに、その旨を裁判所に報告し、なお、その申立てをしないこととしたときは、遅滞なく、その理由を裁判所に報告しなければならない。
第七節 制限債権の調査及び確定
(制限債権の調査)
第五十七条 制限債権の調査期日においては、届出のあった債権について、制限債権であるかどうか、並びに制限債権であるときは、その内容及び人の損害に関する債権と物の損害に関する債権との別を調査する。
(関係人の出頭)
第五十八条 申立人、受益債務者及び責任制限手続に参加した者並びにこれらの代理人は、制限債権の調査期日に出頭して、届出のあつた債権について異議を述べることができる。
(管理人の出頭)
第五十九条 制限債権の調査は、管理人の出頭がなければすることができない。
(異議のない制限債権の確定)
第六十条 制限債権の調査期日において管理人及び第五十八条に掲げる者の異議がなかつたときは、制限債権であること及びその内容並びに人の損害に関する債権と物の損害に関する債権との別は、確定する。
(査定の裁判)
第六十一条 裁判所は、異議のあつた債権について、査定の裁判をしなければならない。
2 査定の裁判においては、当該債権が、制限債権でないときはその旨を、制限債権であるときはその内容及び人の損害に関する債権と物の損害に関する債権との別を定める。
3 査定の裁判は、当該債権を届け出た者及びその債権について異議を述べた者に送達する。
(管理人の調査等)
第六十二条 裁判所は、査定の裁判をするに当たり、管理人に対して、必要な事項について調査を命じ、又は意見を求めることができる。
(査定の裁判に対する異議の訴え)
第六十三条 査定の裁判に不服がある者(管理人を除く。)は、決定の送達を受けた日から一月の不変期間内に、異議の訴えを提起することができる。
2 前項の訴えは、これを提起する者が、異議のあつた債権を届け出た者であるときは異議を述べた者を、異議を述べた者であるときは異議のあつた債権を届け出た者を、それぞれ被告としなければならない。
3 第一項の訴えは、責任制限裁判所の管轄に専属し、口頭弁論は、第一項の期間を経過した後でなければ、開始することができない。
4 同一の債権に関し数個の訴えが同時に係属するときは、弁論及び裁判は、併合してしなければならない。この場合においては、民事訴訟法第六十二条の規定を準用する。
5 第一項の訴えについての判決においては、訴えを不適法として却下する場合を除き、査定の裁判を認可し、又は変更する。
(訴訟手続の中止)
第六十四条 第四十七条第五項の規定により制限債権の届出がされた場合において、当該債権に関する債権者及び申立人又は受益債務者間の訴訟(以下「手続外訴訟」という。)が係属するときは、裁判所は、原告の申立てにより、その訴訟手続の中止を命ずることができる。
2 裁判所は、原告の申立てにより、前項の規定による中止の決定を取り消すことができる。
(手続外訴訟の管轄の拡張)
第六十五条 査定の裁判に対する異議の訴えが係属するときは、その訴えに係る債権を有する者及び申立人又は受益債務者間の当該債権に関する訴えは、責任制限裁判所に提起することができる。
(移送)
第六十六条 査定の裁判に対する異議の訴えが係属する場合において、その訴えに係る債権に関する手続外訴訟が他の第一審裁判所に係属するときは、責任制限裁判所は、申立てにより、その移送を求めることができる。
2 前項の規定による決定があつたときは、移送を求められた裁判所は、手続外訴訟を責任制限裁判所に移送しなければならない。
3 前項の規定による移送は、訴訟手続が中断又は中止中でもすることができる。
(併合)
第六十七条 責任制限裁判所に査定の裁判に対する異議の訴えと手続外訴訟とが係属するときは、弁論及び裁判は、併合してしなければならない。
第八節 配当
(配当)
第六十八条 基金は、第九十二条第五項(第九十四条第二項において準用する場合を含む。)又は第九十三条第一項若しくは第三項の規定により支弁されるものを除き、配当に充てる。
(配当の時期)
第六十九条 管理人は、制限債権の調査期日が終了した後、遅滞なく、配当を行わなければならない。
2 制限債権の調査期日において異議があつたときは、管理人は、査定の裁判に対する異議の訴えの出訴期間を経過した後でなければ、配当を行うことができない。ただし、裁判所の許可を得たときは、この限りでない。
(配当表)
第七十条 管理人は、配当を行おうとするときは、配当表を作り、裁判所の認可を得なければならない。
2 配当表には、配当に加えるべき制限債権者の氏名、配当に加えるべき制限債権の額、配当することのできる金銭の額、配当率その他の最高裁判所規則で定める事項を人の損害に関する債権と物の損害に関する債権との別に従つて記載しなければならない。
(配当表の認可の公告)
第七十一条 裁判所は、配当表を認可したときは、その旨を公告しなければならない。
(配当表に対する異議)
第七十二条 配当表の記載に不服がある者は、前条の規定による公告の日から二週間の不変期間内に、裁判所に対して、異議を申し立てることができる。
2 裁判所は、異議が相当であると認めるときは、管理人に対して、配当表の更正を命じなければならない。
3 異議についての裁判に対しては、即時抗告をすることができる。
(配当の保留の申出)
第七十三条 責任制限手続に参加した者は、配当表に対する異議申立期間の経過前に、管理人に対して、届出に係る自己の債権につき手続外訴訟が係属していること又は当該債権に基づく強制執行若しくは担保権の実行がされていることを証明して、配当の保留の申出をすることができる。
(配当の保留)
第七十四条 管理人は、次に掲げる債権については、配当を保留しなければならない。
一 前条の規定により配当の保留の申出がされた債権
二 第四十七条第三項又は第四項の規定により責任制限手続に参加した者の届出に係る債権で、第五十一条第三項の規定による届出がないもの
三 責任制限手続においてまだ確定していない債権で、前二号に掲げるもの以外のもの
(費用等の保留命令)
第七十五条 第九十二条第一項若しくは第九十三条第二項又は同条第一項の規定により立て替えられ、又は支弁されることとなる費用等及び弁護士の報酬で、その額が明らかでないものがあるときは、裁判所は、管理人に対して、基金につき相当額の保留をすることを命じなければならない。
2 裁判所は、前項の規定による決定を変更し、又は取り消すことができる。
(配当の効果)
第七十六条 責任制限手続に参加した者がその配当額につき供託に関する法令の規定により基金から支払を受けることができることとなつたときは、申立人及び受益債務者は、責任制限手続外においては、当該参加した者に対する配当に係る債権について、その責任を免れる。
(手続からの除斥)
第七十七条 届出に係る債権が手続外訴訟において制限債権でないことに確定したときは、当該債権は、責任制限手続から除斥される。
(保留された配当の実施)
第七十八条 第七十四条各号に掲げる債権について、次に掲げる事由が生じたときは、管理人は、遅滞なく、配当を実施しなければならない。
一 第七十四条第一号に掲げる債権にあつては、その内容が確定し、かつ、保留の申出をした者が配当を行うべきことを求めたとき。
二 第七十四条第二号に掲げる債権にあつては、その内容が確定し、かつ、第五十一条第三項の規定による届出があつたとき。
三 第七十四条第三号に掲げる債権にあつては、その内容が確定したとき。
(追加配当)
第七十九条 基金に新たに配当に充てることができる部分が生じたときは、管理人は、更に配当を行わなければならない。
2 管理人は、裁判所の許可を得て、一時前項の配当を行わないことができる。
(手続の終結)
第八十条 配当が終了したときは、裁判所は、責任制限手続終結の決定をし、かつ、その旨を公告しなければならない。
(損害賠償)
第八十一条 申立人又は受益債務者が第十八条(第三十七条第二項において準用する場合を含む。)又は第五十五条第一項に規定する届出義務に違反した場合において、責任制限手続終結の決定があつたときは、これらの者は、その義務に違反したことにより生じた損害を賠償する責めに任ずる。
第九節 責任制限手続の廃止
(手続の廃止)
第八十二条 次の場合においては、裁判所は、申立てにより、又は職権で、責任制限手続廃止の決定をしなければならない。ただし、第三号の場合において制限債権者を著しく害するおそれがあるときは、この限りでない。
一 第二十二条第二項(第三十条第二項及び第三十七条第二項において準用する場合を含む。)の規定による決定に基づき受託者から金銭の支払を受けることができないことを管理人が証明したとき。
二 申立人が第三十条第一項(第三十八条第二項において準用する場合を含む。)の規定による決定に従わないとき。
三 申立人が第九十一条後段の規定による決定に従わないとき。
第八十三条 申立人は、知れている受益債務者及び責任制限手続に参加した者の全員の同意を得て、責任制限手続廃止の申立てをすることができる。
2 前項の申立てがあつたときは、裁判所は、責任制限手続廃止の決定をしなければならない。
第八十四条 申立人が破産宣告を受けた場合において、責任制限手続を続行することが破産債権者を著しく害するおそれがあるときは、裁判所は、破産管財人の申立てにより、責任制限手続廃止の決定をしなければならない。ただし、配当表の認可の公告があつたとき、又は破産手続における配当の公告があつたときは、この限りでない。
(廃止の公告等)
第八十五条 裁判所は、責任制限手続廃止の決定をしたときは、直ちに、その主文及び理由の要旨を公告しなければならない。
2 第三十一条第二項の規定は、前項の場合について準用する。
(抗告)
第八十六条 責任制限手続廃止の申立てを却下し、又は棄却する決定及び責任制限手続廃止の決定に対しては、即時抗告をすることができる。
(廃止決定の取消しの公告等)
第八十七条 責任制限手続廃止の決定を取り消す決定が確定したときは、裁判所は、直ちに、その旨を公告しなければならない。
2 第三十一条第二項の規定は、前項の場合について準用する。
(廃止決定の発効)
第八十八条 責任制限手続廃止の決定は、確定しなければその効力を生じない。
(廃止決定が確定した場合における供託金の取戻しの制限)
第八十九条 第三十二条の規定は、責任制限手続廃止の決定が確定した場合について準用する。
第十節 費用
(費用負担の原則)
第九十条 第九十三条第一項又は第二項に規定するものを除き、責任制限手続のため必要な費用及び管理人の報酬(以下この節において「費用等」という。)は、申立人の負担とする。
(予納義務)
第九十一条 申立人は、責任制限手続開始の申立てをするときは、費用等として裁判所が定める金額を予納しなければならない。予納した費用等が不足する場合において、裁判所がその不足する費用等の予納を命じたときも、同様とする。
(申立人が予納命令に従わない場合における費用等の立替え等)
第九十二条 第八十二条第三号に該当する場合において、同条ただし書に規定する事由があるときは、費用等は、基金から立て替える。
2 前項の規定により立て替えた費用等については、管理人が、申立人から取り立てるものとする。
3 前項の場合においては、裁判所は、管理人の申立てにより、申立人に対して、第一項の規定により立て替えた費用等の額と同額の金銭を管理人に支払うべきことを命じなければならない。
4 第二十二条第三項及び第四項の規定は、前項の規定による決定について準用する。
5 第二項の規定により取り立てるべき費用等の取立てが不能であるときは、当該費用等は、基金から支弁する。
(管理人の訴訟の追行の費用等)
第九十三条 管理人が査定の裁判に対する異議の訴えを追行するために必要な費用等及び弁護士の報酬は、次項に規定する費用を除き、基金から支弁する。
2 管理人が査定の裁判に対する異議の訴えを追行するために必要な費用のうち訴訟費用となるものは、基金から立て替える。
3 査定の裁判に対する異議の訴えについての判決において管理人の負担とされた訴訟費用は、基金から支弁する。
4 裁判所は、管理人の申立てにより、第一項の費用等及び報酬の額を定める。
5 前項の規定による決定に対しては、即時抗告をすることができる。
(管理人が取り立てた費用等及び訴訟費用の供託)
第九十四条 第九十二条第一項又は前条第二項の規定により立て替えた費用等又は訴訟費用を管理人が取り立てたときは、これは申立人のために基金として供託しなければならない。
2 第二十二条第六項の規定は前項の規定により管理人がした供託について、第九十二条第五項の規定は管理人が取り立てるべき前項の訴訟費用の取立てが不能である場合について準用する。
第四章 補則
(船舶先取特権)
第九十五条 制限債権者は、その制限債権につき、事故に係る船舶、その属具及び受領していない運送費の上に先取特権を有する。
2 前項の先取特権は、商法(明治三十二年法律第四十八号)第八百四十二条第八号の先取特権に次ぐ。
3 商法第八百四十三条、第八百四十四条第二項本文及び第三項、第八百四十五条、第八百四十六条、第八百四十七条第一項並びに第八百四十九条の規定は、第一項の先取特権について準用する。
4 第一項の先取特権が消滅する前に責任制限手続開始の決定があつた場合において、その決定を取り消す決定又は責任制限手続廃止の決定が確定したときは、前項において準用する商法第八百四十七条第一項の規定にかかわらず、第一項の先取特権は、その確定後一年を経過した時に消滅する。
(締約国である外国における制限基金の形成の効果)
第九十六条 海上航行船舶の所有者の責任の制限に関する国際条約の締約国である外国において同条約に定める制限基金が形成された場合においては、当該基金から支払を受けることができる制限債権については、その制限債権者は、制限基金以外の船舶所有者等の財産又は船長等の財産に対してその権利を行使することができない。
2 第三十四条から第三十六条までの規定は、前項の場合について準用する。
(仮差押えの取消しの申立て)
第九十七条 制限債権に基づき自己の財産に対し仮差押えがされている場合において、外国において責任限度額に相当する金額について十分な保証その他の担保が提供され、かつ、仮差押債権者がその提供された保証その他の担保からその権利に応じて支払を受けることができるものであるときは、船舶所有者等又は船長等は、仮差押えの取消しを申し立てることができる。
2 民事訴訟法第七百四十七条第二項の規定は、前項の規定による申立てについて準用する。
(船舶の管理人等に対するこの法律の適用)
第九十八条 この法律は、海上航行船舶の所有者の責任の制限に関する国際条約第六条第二項に規定する船舶の管理人及び船舶の運航者並びに法人であるこれらの者の無限責任社員について船舶所有者等と同様に、同項に規定する船舶の管理人又は船舶の運航者の使用する者について船長等と同様に、適用する。
第五章 罰則
第九十九条 管理人又は管理人代理がその職務に関し賄賂を収受し、又はこれを要求し、若しくは約束したときは、三年以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処する。
2 前項の場合において、収受した賄賂は、没収する。その全部又は一部を没収することができないときは、その価額を追徴する。
第百条 前条第一項に規定する賄賂を供与し、又はその申込み若しくは約束をした者は、三年以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処する。
第百一条 第四十条第二項の規定による報告又は書類の提出を求められて、報告をせず、若しくは書類の提出をせず、又は虚偽の報告をし、若しくは虚偽の書類の提出をした者は、一年以下の懲役又は十万円以下の罰金に処する。
2 法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務に関して前項の違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人又は人に対しても、同項の罰金刑を科する。
附 則
(施行期日等)
1 この法律は、海上航行船舶の所有者の責任の制限に関する国際条約が日本国について効力を生ずる日から施行する。
2 この法律は、この法律の施行前に発生した事故により生じた損害に基づく債権については適用せず、この法律の施行前に生じた債権及びこの法律の施行前に発生した事故によりこの法律の施行後に生じた損害に基づく債権については、なお従前の例による。
(商法の一部改正)
3 商法の一部を次のように改正する。
第六百九十条から第六百九十二条までを次のように改める。
第六百九十条 船舶所有者ハ船長其他ノ船員ガ其職務ヲ行フニ当タリ故意又ハ過失ニ因リテ他人ニ加へタル損害ヲ賠償スル責ニ任ズ
第六百九十一条及ビ第六百九十二条 削除
第七百条第一項第一号中「、委付」を削る。
第七百十六条を次のように改める。
第七百十六条 削除
第七百五十九条ただし書を削る。
第七百六十条第一項第一号を次のように改める。
一 船舶ガ沈没シタルコト
第七百六十条第一項第二号を同項第四号とし、同項第一号の次に次の二号を加える。
二 船舶ガ修繕スルコト能ハザルニ至リタルコト
三 船舶ガ補獲セラレタルコト
第七百六十条第二項中「第七百三十四条第一項」を「前項第一号乃至第三号」に改める。
第七百六十二条第一項及び第七百六十三条第二項中「第七百六十条第一項第二号」を「第七百六十条第一項第四号」に改める。
第七百八十四条中「第七百三十四条第一項」を「第七百六十条第一項第一号乃至第三号」に改める。
第八百四十二条第九号を削る。
(破産法の一部改正)
4 破産法(大正十一年法律第七十一号)の一部を次のように改正する。
第二編第一章中第百二十五条の次に次の一条を加える。
第百二十五条ノ二 破産者ノ為ニ開始シタル責任制限手続ニ付廃止ノ決定アリタルトキハ其ノ決定ガ確定スル迄破産手続ヲ中止ス
第百五十五条の次に次の一条を加える。
第百五十五条ノ二 裁判所ハ破産ノ申立アリタル場合ニ於テ必要ト認ムルトキハ利害関係人ノ申立ニ因リ又ハ職権ヲ以テ破産ノ申立ニ付決定アル迄責任制限手続ノ中止ヲ命ズルコトヲ得但シ責任制限手続開始ノ決定アリタルトキハ此ノ限ニ在ラズ
裁判所ハ前項ノ規定ニ依ル中止ノ決定ヲ取消スコトヲ得
前二項ノ規定ニ依ル決定ニ対シテハ不服ヲ申立ツルコトヲ得ズ
第二編第二章中第百五十六条の次に次の一条を加える。
第百五十六条ノ二 破産者ノ為ニ開始シタル責任制限手続ニ付廃止ノ決定ガ確定シタル場合ニ於テハ裁判所ハ制限債権者ノ為ニ左ノ事項ヲ定ムルコトヲ要ス
一 債権届出ノ期間但シ其ノ期間ハ責任制限手続廃止ノ決定ガ確定シタル日ヨリ一週間以上二月以下ナルコトヲ要ス
二 債権調査ノ期日但シ其ノ期日ト債権届出期間ノ末日トノ間ニハ一週間以上一月以下ノ期間ヲ存スルコトヲ要ス
裁判所ハ前項ノ規定ニ依り定メタル期間及期日ヲ公告スルコトヲ要ス
知レタル制限債権者ニハ第百四十三条第一項第一号第二号及前項ニ掲グル事項ヲ記載シタル書面ヲ送達スルコトヲ要ス
破産管財人、破産者及届出ヲ為シタル破産債権者ニハ第二項ニ掲グル事項ヲ記載シタル書面ヲ送達スルコトヲ要ス但シ第一項第二号ノ規定ニ依り定メラレタル期日ガ第百四十二条第一項第三号ノ規定ニ依り定メラレタル期日ト同ジナルトキハ届出ヲ為シタル破産債権者ニ付テハ此ノ限ニ在ラズ
第二項、第三項及前項本文ノ規定ハ第二項ニ掲グル事項ニ変更ヲ生ジタル場合ニ之ヲ準用ス
(地方税法の一部改正)
5 地方税法(昭和二十五年法律第二百二十六号)の一部を次のように改正する。
第十四条の十三第一項第四号中「又は国際海上物品運送法」を「、国際海上物品運送法」に改め、「第十九条の先取特権」の下に「又は船舶の所有者等の責任の制限に関する法律(昭和五十年法律第九十四号)第九十五条第一項の先取特権」を加える。
(国際海上物品運送法の一部改正)
6 国際海上物品運送法(昭和三十二年法律第百七十二号)の一部を次のように改正する。
第十九条第二項を次のように改める。
2 前項の先取特権は、商法第八百四十二条第八号の先取特権に次ぐ。
(国税徴収法の一部改正)
7 国税徴収法(昭和三十四年法律第百四十七号)の一部を次のように改正する。
第十九条第一項第四号中「又は国際海上物品運送法」を「、国際海上物品運送法」に改め、「第十九条(船舶先取特権)」の下に「又は船舶の所有者等の責任の制限に関する法律(昭和五十年法律第九十四号)第九十五条第一項(船舶先取特権)」を加える。
(原子力損害の賠償に関する法律の一部改正)
8 原子力損害の賠償に関する法律(昭和三十六年法律第百四十七号)の一部を次のように改正する。
第四条第三項中「第六百九十条第一項及び」を削り、「第七百九十八条第一項」の下に「及び船舶の所有者等の責任の制限に関する法律(昭和五十年法律第九十四号)」を加える。
(民事訴訟費用等に関する法律の一部改正)
9 民事訴訟費用等に関する法律(昭和四十六年法律第四十号)の一部を次のように改正する。
別表第一中「別表第一」を「別表第一(第三条、第四条関係)」に改め、同表の一二の項中「特別清算開始の申立て」の下に「、責任制限手続開始の申立て、責任制限手続拡張の申立て」を加え、同表の一七の項ロ中「会社更生法(昭和二十七年法律第百七十二号)」の下に「又は船舶の所有者等の責任の制限に関する法律(昭和五十年法律第九十四号)」を加える。
別表第二中「別表第二」を「別表第二(第七条関係)」に改める。
内閣総理大臣 三木武夫
法務大臣 稲葉修
大蔵大臣 大平正芳
自治大臣 福田一