国際海上物品運送法
法令番号: 法律第172号
公布年月日: 昭和32年6月13日
法令の形式: 法律

提案理由 (AIによる要約)

1924年のブラッセル条約(船荷証券統一条約)の批准に伴う国内法整備のため提案された。同条約は船主と荷主の利益調整を目的とし、世界の主要国が批准している。日本の商法は条約に比べ運送人に重い責任を課し、その軽減特約も禁止しているため、日本の海運業者は国際競争上不利な立場にあった。そこで東京商工会議所等からの要望を受け、法制審議会の答申に基づき立案。運送人の責任軽減と船荷証券に関する利害調整を主眼とし、船舶の堪航能力保持責任の緩和や損害賠償責任の制限等を定めた。

参照した発言:
第26回国会 衆議院 法務委員会 第25号

審議経過

第26回国会

衆議院
(昭和32年4月12日)
参議院
(昭和32年4月16日)
衆議院
(昭和32年5月6日)
(昭和32年5月7日)
(昭和32年5月10日)
参議院
(昭和32年5月13日)
(昭和32年5月14日)
(昭和32年5月15日)
衆議院
(昭和32年5月19日)
参議院
(昭和32年5月19日)
国際海上物品運送法をここに公布する。
御名御璽
昭和三十二年六月十三日
内閣総理大臣 岸信介
法律第百七十二号
国際海上物品運送法
(適用範囲)
第一条 この法律は、船舶による物品運送で、船積港又は陸揚港が本邦外にあるものに適用する。
(定義)
第二条 この法律において「船舶」とは、商法(明治三十二年法律第四十八号)第六百八十四条第一項に規定する船舶で、同条第二項の舟以外のものをいう。
2 この法律において「運送人」とは、前条の運送をする船舶所有者、船舶賃借人及び傭船者をいう。
3 この法律において「荷送人」とは、前条の運送を委託する傭船者及び荷送人をいう。
(運送品に関する注意義務)
第三条 運送人は、自己又はその使用する者が運送品の受取、船積、積付、運送、保管、荷揚及び引渡につき注意を怠つたことにより生じた運送品の滅失、損傷又は延着について、損害賠償の責を負う。
2 前項の規定は、船長、海員、水先人その他運送人の使用する者の航行若しくは船舶の取扱に関する行為又は船舶における火災(運送人の故意又は過失に基くものを除く。)により生じた損害には、適用しない。
第四条 運送人は、前条の注意が尽されたことを証明しなければ、同条の責を免かれることができない。
2 運送人は、次の事実があつたこと及び運送品に関する損害がその事実により通常生ずべきものであることを証明したときは、前項の規定にかかわらず、前条の責を免かれる。ただし、同条の注意が尽されたならばその損害を避けることができたにかかわらず、その注意が尽されなかつたことの証明があつたときは、この限りでない。
一 海上その他可航水域に特有の危険
二 天災
三 戦争、暴動又は内乱
四 海賊行為その他これに準ずる行為
五 裁判上の差押、検疫上の制限その他公権力による処分
六 荷送人若しくは運送品の所有者又はその使用する者の行為
七 同盟罷業、怠業、作業所閉鎖その他の争議行為
八 海上における人命若しくは財産の救助行為又はそのためにする離路若しくはその他の正当な理由に基く離路
九 運送品の特殊な性質又は隠れた欠陥
十 運送品の荷造又は記号の表示の不完全
十一 起重機その他これに準ずる施設の隠れた欠陥
3 前項の規定は、第九条の規定の適用を妨げない。
(航海に堪える能力に関する注意義務)
第五条 運送人は、自己又はその使用する者が発航の当時次の事項につき注意を怠つたことにより生じた運送品の滅失、損傷又は延着について、損害賠償の責を負う。
一 船舶を航海に堪える状態におくこと。
二 船員を乗り組ませ、船舶を艤装し、及び需品を補給すること。
三 船倉、冷蔵室その他運送品を積み込む場所を運送品の受入、運送及び保存に適する状態におくこと。
2 運送人は、前項の注意が尽されたことを証明しなければ、同項の責を免かれることができない。
(船荷証券の交付義務)
第六条 運送人、船長又は運送人の代理人は、荷送人の請求により、運送品の船積後遅滞なく、船積があつた旨を記載した船荷証券(以下「船積船荷証券」という。)の一通又は数通を交付しなければならない。運送品の船積前においても、その受取後は、荷送人の請求により、受取があつた旨を記載した船荷証券(以下「受取船荷証券」という。)の一通又は数通を交付しなければならない。
2 受取船荷証券が交付された場合には、受取船荷証券の全部と引換でなければ、船積船荷証券の交付を請求することができない。
(船荷証券の作成)
第七条 船荷証券には、次の事項(受取船荷証券については、第七号及び第八号の事項を除く。)を記載し、運送人、船長又は運送人の代理人が署名し、又は記名押印しなければならない。
一 運送品の種類
二 運送品の容積若しくは重量又は包若しくは個品の数及び運送品の記号
三 外部から認められる運送品の状態
四 荷送人の氏名又は商号
五 荷受人の氏名又は商号
六 運送人の氏名又は商号
七 船舶の名称及び国籍
八 船積港及び船積の年月日
九 陸揚港
十 運送賃
十一 数通の船荷証券を作つたときは、その数
十二 作成地及び作成の年月日
2 受取船荷証券と引換に船積船荷証券の交付の請求があつたときは、その受取船荷証券に船積があつた旨を記載し、かつ、署名し、又は記名押印して、船積船荷証券の作成に代えることができる。この場合には、前項第七号及び第八号の事項をも記載しなければならない。
(荷送人の通告)
第八条 前条第一項第一号及び第二号の事項は、その事項につき荷送人の書面による通告があつたときは、その通告に従つて記載しなければならない。
2 前項の規定は、同項の通告が正確でないと信ずべき正当な理由がある場合及び同項の通告が正確であることを確認する適当な方法がない場合には、適用しない。運送品の記号について、運送品又はその容器若しくは包装に航海の終了の時まで判読に堪える表示がされていない場合も、また同様とする。
3 荷送人は、運送人に対し、第一項の通告が正確であることを担保する。
(船荷証券の不実記載)
第九条 船荷証券に事実と異なる記載がされた場合には、運送人は、その記載につき注意が尽されたことを証明しなければ、その記載が事実と異なることをもつて善意の船荷証券所持人に対抗することができない。
(準用規定)
第十条 商法第五百七十三条から第五百七十五条まで、第五百八十四条及び第七百七十条から第七百七十五条までの規定は、この法律による船荷証券に準用する。
(危険物の処分)
第十一条 引火性、爆発性その他の危険性を有する運送品で、船積の際運送人、船長及び運送人の代理人がその性質を知らなかつたものは、何時でも、陸揚し、破壊し、又は無害にすることができる。
2 前項の規定は、運送人の荷送人に対する損害賠償の請求を妨げない。
3 引火性、爆発性その他の危険性を有する運送品で、船積の際運送人、船長又は運送人の代理人がその性質を知つていたものは、船舶又は積荷に危害を及ぼすおそれが生じたときは、陸揚し、破壊し、又は無害にすることができる。
4 運送人は、第一項又は前項の処分により当該運送品につき生じた損害については、賠償の責を負わない。
(荷受人等の通知義務)
第十二条 荷受人又は船荷証券所持人は、運送品の一部滅失又は損傷があつたときは、受取の際運送人に対しその滅失又は損傷の概況につき書面による通知を発しなければならない。ただし、その滅失又は損傷が直ちに発見することができないものであるときは、受取の日から三日以内にその通知を発すれば足りる。
2 前項の通知がなかつたときは、運送品は、滅失及び損傷がなく引き渡されたものと推定する。
3 前二項の規定は、運送品の状態が引渡の際当事者の立会によつて確認された場合には、適用しない。
4 運送品につき滅失又は損傷が生じている疑があるときは、運送人と荷受人又は船荷証券所持人とは、相互に、運送品の点検のため必要な便宜を与えなければならない。
(責任の限度)
第十三条 運送品に関する運送人の責任は、一包又は一単位につき、十万円を限度とする。
2 前項の規定は、運送品の種類及び価額が、運送の委託の際荷送人により通告され、かつ、船荷証券が交付されるときは、船荷証券に記載されている場合には、適用しない。
3 前項の場合において、荷送人が実価を著しくこえる価額を故意に通告したときは、運送人は、運送品に関する損害については、賠償の責を負わない。
4 第二項の場合において、荷送人が実価より著しく低い価額を故意に通告したときは、その価額は、運送品に関する損害については、運送品の価額とみなす。
5 前二項の規定は、運送人に悪意があつた場合には、適用しない。
(責任の消滅)
第十四条 運送品に関する運送人の責任は、運送品が引き渡された日(全部滅失の場合には、引き渡されるべき日)から一年以内に裁判上の請求がされないときは、消滅する。ただし、運送人に悪意があつたときは、この限りでない。
(特約禁止)
第十五条 第三条から第五条まで、第八条、第九条又は第十二条から前条までの規定に反する特約で、荷送人、荷受人又は船荷証券所持人に不利益なものは、無効とする。運送品の保険契約によつて生ずる権利を運送人に譲渡する契約その他これに類似する契約も、また同様とする。
2 前項の規定は、運送人に不利益な特約をすることを妨げない。この場合には、荷送人は、船荷証券にその特約を記載すべきことを請求することができる。
3 第一項の規定は、運送品の船積前又は荷揚後の事実により生じた損害には、適用しない。
4 前項の損害につき第一項の特約がされた場合において、その特約が船荷証券に記載されていないときは、運送人は、その特約をもつて船荷証券所持人に対抗することができない。
(特約禁止の特例)
第十六条 前条第一項の規定は、船舶の全部又は一部を運送契約の目的とする場合には、適用しない。ただし、運送人と船荷証券所持人との関係については、この限りでない。
第十七条 前条の規定は、運送品の特殊な性質若しくは状態又は運送が行われる特殊な事情により、運送品に関する運送人の責任を免除し、又は軽減することが相当と認められる運送に準用する。
第十八条 第十五条第一項の規定は、生動物の運送及び甲板積の運送には、適用しない。
2 前項の運送につき第十五条第一項の特約がされた場合において、その特約が船荷証券に記載されていないときは、運送人は、その特約をもつて船荷証券所持人に対抗することができない。甲板積の運送につきその旨が船荷証券に記載されていないときも、また同様とする。
(船舶先取特権)
第十九条 船舶の全部又は一部を運送契約の目的とした場合において、傭船者が更に第三者と運送契約をしたときは、運送品に関する損害で、船長の職務に属する範囲内において生じたものについて、賠償を請求することができる者は、その債権につき船舶及びその属具の上に先取特権を有する。
2 前項の先取特権と商法第八百四十二条の先取特権とが競合する場合には、同項の先取特権の優先権の順位は、同条第九号の先取特権と同一順位とする。
3 商法第八百四十四条第二項及び第三項、第八百四十五条、第八百四十六条、第八百四十七条第一項並びに第八百四十九条の規定は、第一項の先取特権に準用する。
(商法の適用等)
第二十条 第一条の運送には、商法第七百三十八条、第七百三十九条、第七百五十九条及び第七百六十六条から第七百七十六条までの規定を除く外、同法を適用する。
2 商法第五百七十六条及び第五百七十八条から第五百八十三条までの規定は、第一条の運送に準用する。
(郵便物の運送)
第二十一条 この法律は、郵便物の運送には、適用しない。
附 則
1 この法律は、千九百二十四年八月二十五日にブラッセルで署名された船荷証券に関するある規則の統一のための国際条約が日本国について効力を生ずる日から施行する。
2 この法律は、この法律の施行前に締結された運送契約には、適用しない。
3 この法律の適用については、政令で定める本邦の地域は、当分の間、本邦外にあるものとみなす。
法務大臣 中村梅吉
内閣総理大臣 岸信介