船舶の所有者等の責任の制限に関する法律の一部を改正する法律
法令番号: 法律第54号
公布年月日: 昭和57年5月21日
法令の形式: 法律

提案理由 (AIによる要約)

1957年の海上航行船舶の所有者の責任の制限に関する国際条約に準拠して制定された現行法について、社会経済の実態との不適合が生じていた。これを受け、1976年に船舶所有者等の責任限度額引き上げや、国際通貨基金の特別引き出し権を単位とすること等を内容とする新条約が成立し、主要海運国が批准している。政府は1957年条約を廃棄して1976年条約に加入するため、船舶所有者等の責任限度額の引き上げ、責任制限主体への救助者等の追加、制限債権の分類と責任限度額の設定など、所要の法改正を行うものである。

参照した発言:
第96回国会 衆議院 法務委員会 第4号

審議経過

第96回国会

衆議院
(昭和57年3月19日)
参議院
(昭和57年3月23日)
衆議院
(昭和57年4月2日)
(昭和57年4月6日)
(昭和57年4月9日)
(昭和57年4月16日)
(昭和57年4月20日)
参議院
(昭和57年4月22日)
(昭和57年4月27日)
(昭和57年5月13日)
(昭和57年5月14日)
船舶の所有者等の責任の制限に関する法律の一部を改正する法律をここに公布する。
御名御璽
昭和五十七年五月二十一日
内閣総理大臣 鈴木善幸
法律第五十四号
船舶の所有者等の責任の制限に関する法律の一部を改正する法律
船舶の所有者等の責任の制限に関する法律(昭和五十年法律第九十四号)の一部を次のように改正する。
第二条第二号の次に次の一号を加える。
二の二 救助者 救助活動に直接関連する役務を提供する者をいう。
第二条第三号を次のように改める。
三 被用者等 船舶所有者等又は救助者の被用者その他の者で、その者の行為につき船舶所有者等又は救助者が責めに任ずべきものをいう。
第二条第三号の次に次の一号を加える。
三の二 救助船舶 救助活動(船舶に対する、又は船舶に関連する救助活動でその船舶上でのみ行うものを除く。)を船舶から行う場合の当該船舶をいう。
第二条第四号中「又は船長等」を「若しくは救助者又は被用者等」に改め、同条第五号中「損害に基づく債権」の下に「で第六号の二に規定する債権以外のもの」を加え、同条第六号中「人の損害に関する債権」の下に「及び次号に規定する債権」を加え、同号の次に次の一号を加える。
六の二 旅客の損害に関する債権 制限債権のうち海上旅客運送契約により船舶で運送される旅客又は海上物品運送契約により船舶で運送される車両若しくは生動物とともに乗船することを認められた者の生命又は身体が害されることによる損害に基づく当該船舶の船舶所有者等又はその被用者等に対する債権をいう。
第二条第七号を次のように改める。
七 一単位 国際通貨基金協定第三条第一項に規定する特別引出権による一特別引出権に相当する金額をいう。
第二条に次の一項を加える。
2 この法律において、「救助活動」には、次に掲げる措置を含み、公務として行う救助活動を除くものとする。
一 沈没し、難破し、乗り揚げ、若しくは放棄された船舶又はその船舶上の物の引揚げ、除去、破壊又は無害化のための措置
二 積荷の除去、破壊又は無害化のための措置
三 前二号に掲げる措置のほか、制限債権を生ずべき損害の防止又は軽減のために執られる措置
第三条第一項を次のように改める。
船舶所有者等又はその被用者等は、次に掲げる債権について、この法律で定めるところにより、その責任を制限することができる。
一 船舶上で又は船舶の運航に直接関連して生ずる人の生命若しくは身体が害されることによる損害又は当該船舶以外の物の滅失若しくは損傷による損害に基づく債権
二 運送品、旅客又は手荷物の運送の遅延による損害に基づく債権
三 前二号に掲げる債権のほか、船舶の運航に直接関連して生ずる権利侵害による損害に基づく債権(当該船舶の滅失又は損傷による損害に基づく債権及び契約による債務の不履行による損害に基づく債権を除く。)
四 前条第二項第三号に掲げる措置により生ずる損害に基づく債権(当該船舶所有者等及びその被用者等が有する債権を除く。)
五 前条第二項第三号に掲げる措置に関する債権(当該船舶所有者等及びその被用者等が有する債権並びにこれらの者との契約に基づく報酬及び費用に関する債権を除く。)
第三条第二項中「船長等」を「その被用者等」に、「前項」を「第一項」に改め、同項を同条第四項とし、同条第一項の次に次の二項を加える。
2 救助者又はその被用者等は、次に掲げる債権について、この法律で定めるところにより、その責任を制限することができる。
一 救助活動に直接関連して生ずる人の生命若しくは身体が害されることによる損害又は当該救助者に係る救助船舶以外の物の滅失若しくは損傷による損害に基づく債権
二 前号に掲げる債権のほか、救助活動に直接関連して生ずる権利侵害による損害に基づく債権(当該救助者に係る救助船舶の滅失又は損傷による損害に基づく債権及び契約による債務の不履行による損害に基づく債権を除く。)
三 前条第二項第三号に掲げる措置により生ずる損害に基づく債権(当該救助者及びその被用者等が有する債権を除く。)
四 前条第二項第三号に掲げる措置に関する債権(当該救助者及びその被用者等が有する償権並びにこれらの者との契約に基づく報酬及び費用に関する債権を除く。)
3 船舶所有者等若しくは救助者又は被用者等は、前二項の債権が、自己の故意により、又は損害の発生のおそれがあることを認識しながらした自己の無謀な行為によつて生じた損害に関するものであるときは、前二項の規定にかかわらず、その責任を制限することができない。
第四条中「航海に関して生じた」を削り、「船舶所有者等」の下に「及び救助者」を加え、同条第二号中「船長等で船舶上にあるもの又はその職務が当該船舶の業務に関するもの」を「船舶所有者等の被用者でその職務が船舶の業務に関するもの又は救助者の被用者でその職務が救助活動に関するもの」に改める。
第四条の次に次の一条を加える。
第四条の二 旅客の損害に関する債権についての責任の制限とその他の責任の制限とは、同一の事故に係るものについても、それぞれ別にしなければならない。
第五条中「又は船長等」を「若しくは救助者又は被用者等」に改め、「損害に基づく」を削る。
第六条から第八条までを次のように改める。
(責任の制限の及ぶ範囲)
第六条 船舶所有者等又はその被用者等がする旅客の損害に関する債権についての責任の制限以外の責任の制限は、船舶ごとに、同一の事故から生じたこれらの者に対するすべての人の損害に関する債権及び物の損害に関する債権に及ぶ。
2 救助船舶に係る救助者若しくは当該救助船舶の船舶所有者等又はこれらの被用者等がする責任の制限は、救助船舶ごとに、同一の事故から生じたこれらの者に対するすべての人の損害に関する債権及び物の損害に関する債権に及ぶ。
3 前項の救助者以外の救助者又はその被用者等がする責任の制限は、救助者ごとに、同一の事故から生じたこれらの者に対するすべての人の損害に関する債権及び物の損害に関する債権に及ぶ。
4 前三項の責任の制限が物の損害に関する債権のみについてするものであるときは、その責任の制限は、前三項の規定にかかわらず、人の損害に関する債権に及ばない。
5 船舶所有者等又はその被用者等がする旅客の損害に関する債権についての責任の制限は、船舶ごとに、同一の事故から生じたこれらの者に対するすべての旅客の損害に関する債権に及ぶ。
(責任の限度額等)
第七条 前条第一項又は第二項に規定する責任の制限の場合における責任の限度額は、次のとおりとする。
一 責任を制限しようとする債権が物の損害に関する債権のみである場合においては、船舶のトン数に応じて、次に定めるところにより算出した金額。ただし、百トンに満たない木船については、一単位の五万六千倍の金額とする。
イ 五百トン以下の船舶にあつては、一単位の十六万七千倍の金額
ロ 五百トンを超える船舶にあつては、イの金額に、五百トンを超え三万トンまでの部分については一トンにつき一単位の百六十七倍を、三万トンを超え七万トンまでの部分については一トンにつき一単位の百二十五倍を、七万トンを超える部分については一トンにつき一単位の八十三倍を乗じて得た金額を加えた金額
二 その他の場合においては、船舶のトン数に応じて、次に定めるところにより算出した金額
イ 五百トン以下の船舶にあつては、一単位の五十万倍の金額
ロ 五百トンを超える船舶にあつては、イの金額に、五百トンを超え三千トンまでの部分については一トンにつき一単位の六百六十七倍を、三千トンを超え三万トンまでの部分については一トンにつき一単位の五百倍を、三万トンを超え七万トンまでの部分については一トンにつき一単位の三百七十五倍を、七万トンを超える部分については一トンにつき一単位の二百五十倍を乗じて得た金額を加えた金額
2 前項第二号に規定する場合においては、制限債権の弁済に充てられる金額のうち、その金額に同項第一号に掲げる金額(百トンに満たない木船については、同号イの金額)の同項第二号に掲げる金額に対する割合を乗じて得た金額に相当する部分は物の損害に関する債権の弁済に、その余の部分は人の損害に関する債権の弁済に、それぞれ充てられるものとする。ただし、後者の部分が人の損害に関する債権を弁済するに足りないときは、前者の部分は、その弁済されない残額と物の損害に関する債権の額との割合に応じてこれらの債権の弁済に充てられるものとする。
3 前条第三項に規定する責任の制限の場合における責任の限度額は、次のとおりとする。
一 責任を制限しようとする債権が物の損害に関する債権のみである場合においては、一単位の三十三万四千倍の金額
二 その他の場合においては、一単位の百十六万七千倍の金額
4 第二項の規定は、前項第二号に規定する場合について準用する。
5 前条第五項に規定する責任の制限の場合における責任の限度額は、次に掲げる金額のうちいずれか少ない金額とする。
一 一単位の四万六千六百六十六倍に船舶安全法(昭和八年法律第十一号)第九条第一項の船舶検査証書に記載された旅客の数を乗じて得た金額
二 一単位の二千五百万倍の金額
6 制限債権者は、その制限債権の額の割合に応じて弁済を受ける。
(船舶のトン数の算定)
第八条 前条第一項及び第二項の船舶のトン数は、船舶のトン数の測度に関する法律(昭和五十五年法律第四十号)第四条第二項の規定の例により算定した数値にトンを付して表したものとする。
第九条を次のように改める。
(責任制限事件の管轄)
第九条 責任制限事件は、次の各号に掲げる区分に応じ、それぞれ当該各号に定める裁判所の管轄に専属する。
一 第六条第一項若しくは第五項に規定する責任の制限の場合において船舶が船籍を有するとき、又は同条第二項に規定する責任の制限の場合において救助船舶が船籍を有するとき。
船籍の所在地を管轄する地方裁判所
二 第六条第一項若しくは第五項に規定する責任の制限の場合において船舶が船籍を有しないとき、又は同条第二項に規定する責任の制限の場合において救助船舶が船籍を有しないとき。
申立人の普通裁判籍の所在地、事故発生地、事故後に当該船舶が最初に到達した地又は制限債権(旅客の損害に関する債権以外の制限債権についての責任制限手続にあつては旅客の損害に関する債権を、旅客の損害に関する債権についての責任制限手続にあつては旅客の損害に関する債権以外の制限債権を、物の損害に関する債権のみについての責任制限手続にあつては人の損害に関する債権を除く。以下この章において同じ。)に基づき申立人の財産に対して差押え若しくは仮差押えの執行がされた地を管轄する地方裁判所
三 第六条第三項に規定する責任の制限のとき。
申立人の普通裁判籍の所在地、事故発生地又は制限債権に基づき申立人の財産に対して差押え若しくは仮差押えの執行がされた地を管轄する地方裁判所
第十条中「生じた」の下に「他の責任制限事件若しくは」を加える。
第十七条第一項中「又は船長等」を「若しくは救助者又は被用者等」に改める。
第十八条中「損害を生じさせた」を削り、「制限債権の額が責任限度額」を「制限債権(事故発生後の利息又は不履行による損害賠償若しくは違約金の請求権を除く。第二十五条第二号において同じ。)の額が第七条第一項、第三項又は第五項に規定する責任の限度額(以下「責任限度額」という。)」に改める。
第十九条第一項中「責任限度額に相当する額の金銭」を「裁判所の定める責任限度額に相当する金銭及びこれに対する事故発生の日から供託の日(次条第一項の規定により供託委託契約を締結する場合にあつては、同項の規定による届出の日。次項において同じ。)まで年六パーセントの割合により算定した金銭」に改め、同条第二項を次のように改める。
2 前項の責任限度額に相当する金銭は、供託の日において公表されている最終の一単位の額により算定するものとする。
第十九条第三項中「前二項」を「第一項」に改める。
第二十八条第一項第二号を次のように改める。
二 第十九条第一項の規定による決定に基づき供託された金銭又は第二十条第一項の供託委託契約に係る一定の金銭の総額
第二十八条第一項第四号中「船舶」の下に「、救助船舶又は救助者」を加える。
第三十条第一項中「金銭の額」を「責任限度額又は事故発生の日」に、「額の金銭」を「責任限度額に相当する金銭及びこれに対する事故発生の日から供託の日(次項において準用する第二十条第一項の規定により供託委託契約を締結する場合にあつては、同項の規定による届出の日)まで年六パーセントの割合により算定した金銭又は増加すべき第十九条第一項に規定する年六パーセントの割合により算定した金銭」に改め、同条第二項中「第二十条」を「第十九条第二項及び第二十条」に改め、同項に後段として次のように加える。
この場合において、第十九条第二項中「供託の日」とあるのは、「第三十条第一項の供託の日」と読み替えるものとする。
第九十六条第一項中「海上航行船舶の所有者の責任の制限に関する国際条約」を「千九百七十六年の海事債権についての責任の制限に関する条約(以下「海事債権責任制限条約」という。)」に、「又の船長等」を「若しくは救助者の財産又は被用者等」に改める。
第九十七条を次のように改める。
第九十七条 削除
第九十八条中「海上航行船舶の所有者の責任の制限に関する国際条約第六条第二項」を「海事債権責任制限条約第一条第二項」に、「使用する者について船長等」を「被用者その他の者でその者の行為につきこれらの者が責めに任ずべきものについて被用者等」に改め、同条に次の一項を加える。
2 この法律は、制限債権につき弁済の責めに任ずることによつて生ずる損害をてん補する保険契約の保険者について、被保険者と同様に適用する。
附 則
(施行期日)
1 この法律は、公布の日から起算して二年を起えない範囲内において政令で定める日から施行する。
(経過措置)
2 この法律の施行前に発生した事故から生じた債権については、なお従前の例による。
(油濁損害賠償保障法の一部改正)
3 油濁損害賠償保障法(昭和五十年法律第九十五号)の一部を次のように改正する。
第五条第二項を削る。
第三十二条中「責任制限法」を「船舶の所有者等の責任の制限に関する法律(昭和五十年法律第九十四号。以下「責任制限法」という。)」に改め、同条の次に次の一条を加える。
(供託命令)
第三十二条の二 裁判所は、責任制限手続開始の申立てを相当と認めるときは、申立人に対して、一月を超えない一定の期間内に、責任限度額に相当する額の金銭を裁判所の指定する供託所に供託し、かつ、その旨を届け出るべきことを命じなければならない。
2 前項の規定による決定があつた後責任制限手続開始の決定があるまでの間に第二条第八号の金額が変更されたときは、裁判所は、同項の規定により供託すべき金銭の額を変更しなければならない。
3 前二項の規定による決定に対しては、即時抗告をすることができる。
第三十八条中「第十六条」の下に「、第十九条、第三十条第二項後段」を加え、「又は船長等」を「若しくは救助者又は被用者等」に、「責任制限法第十九条第二項中「第二条第七号」とあるのは「油濁損害賠償保障法第二条第八号」と」を「責任制限法第十八条中「制限債権(事故発生後の利息又は不履行による損害賠償若しくは違約金の請求権を除く。第二十五条第二号において同じ。)の額が第七条第一項、第三項又は第五項」とあるのは「制限債権の額が油濁損害賠償保障法第六条」と、責任制限法第二十条第一項及び第二項中「前条第一項」とあるのは「油濁損害賠償保障法第三十二条の二第一項」と、責任制限法第二十二条第五項、第二十五条第三号及び第三十三条中「第十九条第一項」とあるのは「油濁損害賠償保障法第三十二条の二第一項」と、責任制限法第二十八条第一項第二号中「第十九条第一項の規定による決定に基づき供託された金銭又は第二十条第一項の供託委託契約に係る一定の金銭の総額」とあるのは「責任限度額」と、責任制限法第二十八条第一項第四号中「船舶、救助船舶又は救助者」とあるのは「船舶」と、責任制限法第三十条第一項中「第十九条第一項の」とあるのは「油濁損害賠償保障法第三十二条の二第一項の」と、「責任限度額又は事故発生の日」とあるのは「金銭の額」と、「責任限度額に相当する金銭及びこれに対する事故発生の日から供託の日(次項において準用する第二十条第一項の規定により供託委託契約を締約する場合にあつては、同項の規定による届出の日)まで年六パーセントの割合により算定した金銭又は増加すべき第十九条第一項に規定する年六パーセントの割合により算定した金銭」とあるのは「額の金銭」と、責任制限法第三十条第二項中「第十九条第二項及び第二十条」とあるのは「第二十条」と」に改める。
(船舶のトン数の測度に関する法律の一部改正)
4 船舶のトン数の測度に関する法律(昭和五十五年法律第四十号)の一部を次のように改正する。
附則第二条第二項中「次に掲げる」を「油濁損害賠償保障法(昭和五十年法律第九十五号)第七条の」に改め、同項各号を削る。
法務大臣 坂田道太
運輸大臣 小坂徳三郎
内閣総理大臣 鈴木善幸