検疫法をここに公布する。
御名御璽
昭和二十六年六月六日
内閣総理大臣 吉田茂
法律第二百一号
検疫法
目次
第一章
総則(第一條―第三條)
第二章
検疫(第四條―第二十三條)
第三章
検疫所長の行うその他の衞生措置(第二十四條―第二十七條)
第四章
雑則(第二十八條―第四十一條)
附則
第一章 総則
(目的)
第一條 この法律は、国内に常在しない伝染病の病原体が船舶又は航空機を介して国内に侵入することを防止するとともに、船舶又は航空機に関してその他の伝染病の予防に必要な措置を講ずることを目的とする。
(検疫伝染病)
第二條 この法律において「検疫伝染病」とは、コレラ、ペスト、発しんチフス、痘そう及び黄熱をいう。
(検疫港等)
第三條 検疫を行う港(以下「検疫港」という。)及び検疫を行う飛行場(以下「検疫飛行場」という。)は、政令で定める。
第二章 検疫
(入港等の禁止)
第四條 左に掲げる船舶(以下「外国から来航した船舶」という。)の長(長に代つてその職務を行う者を含む。以下同じ。)は、検疫済証又は仮検疫済証の交付を受けた後でなければ、当該船舶を国内の港に入れてはならない。但し、検疫を受けるため、第八條第一項に規定する検疫区域又は同條第三項の規定により指示された場所に入れる場合は、この限りでない。
一 外国を発航し、又は外国に寄航して来航した船舶
二 航行中に、検疫伝染病が現に流行し、又は流行するおそれのある地域として政令で指定する外国の地域を発航し、又はその地域に寄航した他の船舶(検疫済証又は仮検疫済証の交付を受けている船舶を除く。)から人を乘り移らせ、又は物を運び込んだ船舶
2 外国を発航し、又は外国に寄航して来航した航空機(以下「外国から来航した航空機」という。)の長(長に代つてその職務を行う者を含む。以下同じ。)は、検疫済証又は仮検疫済証の交付を受けた後でなければ、当該航空機を検疫飛行場以外の国内の飛行場に着陸させ、又は着水させてはならない。
(交通等の制限)
第五條 外国から来航した船舶又は外国から来航した航空機(以下「船舶等」という。)については、その長が検疫済証又は仮検疫済証の交付を受けた後でなければ、何人も、当該船舶から上陸し、若しくは物を陸揚し、又は当該航空機から離れ、若しくは物を運び出してはならない。但し、検疫所長の許可を受けた場合は、この限りでない。
(検疫前の通報)
第六條 検疫を受けようとする船舶等の長は、当該船舶等が検疫港又は検疫飛行場に近づいたときは、適宜の方法で、当該検疫港又は検疫飛行場に置かれている検疫所(検疫所の支所及び出張所を含む。)の長に、検疫伝染病の患者又は死者の有無その他厚生省令で定める事項を通報しなければならない。
(航空機内の虫類の駆除)
第七條 外国から来航した航空機の長は、当該航空機を最初に検疫飛行場に着陸させ、又は着水させるまでに、当該航空機内の虫類の駆除を行わなければならない。
(検疫区域)
第八條 船舶の長は、検疫を受けようとするときは、当該船舶を検疫区域に入れなければならない。
2 外国から来航した航空機の長は、当該航空機を最初に検疫飛行場に着陸させ、又は着水させたときは、直ちに、当該航空機を検疫区域に入れなければならない。
3 前二項の場合において、天候その他の理由により、検疫所長(検疫所の支所又は出張所の長を含む。)が、当該船舶等を検疫区域以外の場所に入れるべきことを指示したときは、船舶等の長は、その指示に従わなければならない。
4 第一項及び第二項の検疫区域は、厚生大臣が、運輸大臣と協議して、検疫港又は検疫飛行場ごとに一以上を定め、告示する。
(検疫信号)
第九條 船舶の長は、検疫を受けるため当該船舶を検疫区域又は前條第三項の規定により指示された場所に入れた時から、検疫済証又は仮検疫済証の交付を受けるまでの間、厚生省令の定めるところにより、当該船舶に検疫信号を掲げなければならない。船舶が港内に停泊中に、第十九條第一項の規定により仮検疫済証が失効し、又は同條第二項の規定により仮検疫済証が失効した旨の通知を受けた場合において、その失効又は失効の通知の時から、当該船舶を港外に退去させ、又は更に検疫済証若しくは仮検疫済証の交付を受けるまでの間も、同様とする。
(検疫の開始)
第十條 船舶等が検疫区域又は第八條第三項の規定により指示された場所に入つたときは、検疫所長は、荒天の場合その他やむを得ない事由がある場合を除き、すみやかに、検疫を開始しなければならない。但し、日没後に入つた船舶については、日出まで検疫を開始しないことができる。
(書類の提出及び呈示)
第十一條 検疫を受けるに当つては、船舶等の長は、検疫所長に船舶等の名称又は登録番号、発航地名、寄航地名その他厚生省令で定める事項を記載した明告書を提出しなければならない。但し、仮検疫済証の失効後に受ける検疫にあつては、検疫所長から求められた場合に限る。
2 検疫所長は、船舶等の長に対して、第一号から第三号までに掲げる書類の提出並びに第四号及び第五号に掲げる書類の呈示を求めることができる。
一 乘組員名簿
二 乘客名簿
三 積荷目録
四 航海日誌又は航空日誌
五 その他検疫のために必要な書類
(質問)
第十二條 検疫所長は、船舶等の長その他船舶等に乘つている者に対して、必要な質問を行い、又は検疫官をしてこれを行わせることができる。
(診察及び検査)
第十三條 検疫所長は、検疫伝染病につき、船舶等に乘つている者に対する診察及び船舶等に対する病原体の有無に関する検査を行い、又は検疫官をしてこれを行わせることができる。
2 検疫所長は、前項の検査について必要があると認めるときは、船舶等にある死体(死胎を含む。)の解剖を行い、又は検疫官をしてこれを行わせることができる。
(汚染し、又は汚染したおそれのある船舶等についての措置)
第十四條 検疫所長は、第四條第一項第二号の規定に基く政令で指定する地域を発航し、又はその地域に寄航して来航した船舶等、航行中に検疫伝染病の患者又は死者があつた船舶等、検疫伝染病患者若しくはその死体、又はペスト菌を保有し、若しくは保有しているおそれのあるねずみ族が発見された船舶等、その他検疫伝染病の病原体に汚染し、又は汚染したおそれのある船舶等について、合理的に必要と判断される限度において、左に掲げる措置の全部又は一部をとることができる。
一 検疫伝染病患者(検疫伝染病の病原体保有者及び検疫伝染病の疑似症を呈している者を含む。以下同じ。)を隔離し、又は検疫官をして隔離させること。
二 検疫伝染病の病原体に汚染し、又は汚染したおそれのある者を停留し、又は検疫官をして停留させること。
三 検疫伝染病の病原体に汚染し、若しくは汚染したおそれのある物若しくは場所を消毒し、若しくは検疫官をして消毒させ、又はこれらの物であつて消毒によりがたいものの廃棄を命ずること。
四 墓地、埋葬等に関する法律(昭和二十三年法律第四十八号)の定めるところに従い、検疫伝染病の病原体に汚染し、又は汚染したおそれのある死体(死胎を含む。)の火葬を行うこと。
五 検疫伝染病の病原体に汚染し、若しくは汚染したおそれのある物若しくは場所の使用を禁止し、若しくは制限し、又はこれらの物の移動を禁止すること。
六 検疫官その他適当と認める者をして、ねずみ族又は虫類の駆除を行わせること。
七 必要と認める者に対して予防接種を行い、又は検疫官その他適当と認める者をしてこれを行わせること。
2 検疫所長は、前項第一号から第三号まで又は第六号に掲げる措置をとる必要がある場合において、当該検疫所の設備の不足等のため、これに応ずることができないと認めるときは、当該船舶等の長に対し、その理由を示して他の検疫港又は検疫飛行場に回航すべき旨を指示することができる。
(隔離)
第十五條 前條第一項第一号に規定する隔離は、検疫所に設けられた隔離室に收容して行う。但し、痘そう又は発しんチフスの患者については、これらの患者を收容する施設を有する病院にその收容を委託して行うことができる。
2 検疫所長の許可を受けた場合の外、何人も、被隔離者が收容されている場所に出入し、又はその場所から物を運び出してはならない。
3 検疫所長は、被隔離者のうち、検疫伝染病の患者については、その者が治ゆしたとき、検疫伝染病の病原体保有者については、その者が病原体を排出しなくなつたとき、検疫伝染病の疑似症を呈している者については、その症状が消え、又は検疫伝染病の症状でないことが判明したときは、直ちに、隔離を解かなければならない。
(停留)
第十六條 第十四條第一項第二号に規定する停留は、收容期間を定めて、検疫所に設けられた停留室に收容して行う。但し、やむを得ない場合には、船舶の長の同意を得て、船舶内に收容して行うことができる。
2 前項の收容期間は、各検疫伝染病につき、それぞれ左に掲げる時間をこえてはならない。
一 コレラについては、百二十時間
二 ペストについては、百四十四時間
三 発しんチフスについては、三百三十六時間
四 痘そうについては、三百三十六時間
五 黄熱については、百四十四時間
3 同一の場所に数人を收容した場合において、被收容者のうちから検疫伝染病患者又は検疫伝染病による死者が発生したときは、他の被收容者の收容期間を延長することができる。
4 前項の規定により延長される收容期間は、各検疫伝染病につき、延長の時からそれぞれ第二項に掲げる時間とする。
5 前條第二項の規定は、被停留者が收容されている場所について準用する。
(検疫済証の交付)
第十七條 検疫所長は、当該船舶等を介して、検疫伝染病の病原体が国内に侵入するおそれがないと認めたときは、当該船舶等の長に対して、検疫済証を交付しなければならない。
(仮検疫済証の交付)
第十八條 検疫所長は、検疫済証を交付することができない場合においても、当該船舶等を介して検疫伝染病の病原体が国内に侵入するおそれがほとんどないと認めたときは、当該船舶等の長に対して、一定の期間を定めて、仮検疫済証を交付することができる。この場合において、検疫所長は、検疫伝染病の病原体に汚染したおそれのある者で停留されないものに対して、健康状態に異状を生じたときは、保健所その他の医療機関について診察を受けるべき旨その他検疫伝染病の予防上必要な事項を指示することができる。
(仮検疫済証の失効)
第十九條 仮検疫済証の交付を受けた船舶等に、前條の規定により定められた期間内に、検疫伝染病患者又は検疫伝染病による死者が発生したときは、当該仮検疫済証は、その効力を失う。この場合においては、当該船舶等の長は、直ちに、その旨をもよりの検疫所長(検疫所の支所又は出張所の長を含む。以下第三項において同じ。)に通報しなければならない。
2 仮検疫済証を交付した検疫所長は、当該船舶等について更に第十四條第一項各号に掲げる措置をとる必要があると認めたときは、前條の規定により定めた期間内に限り、当該仮検疫済証の効力を失わしめることができる。この場合においては、当該検疫所長は、直ちに、その旨を当該船舶等の長に通知しなければならない。
3 前二項の規定により仮検疫済証が失効した場合において、当該船舶等が港内又は飛行場内に停泊中であるときは、第一項の通報を受けた検疫所長又は当該仮検疫済証を交付した検疫所長は、当該船舶等の長に対し、当該船舶等を検疫区域若しくはその指示する場所に入れ、又は港外若しくは飛行場外に退去させるべき旨を命ずることができる。
(証明書の交付)
第二十條 検疫所長は、第十四條第一項第六号の規定により、検疫官その他適当と認める者をして船舶についてねずみ族の駆除を行わせた場合において、当該船舶の長から求められたときは、その旨の証明書を交付しなければならない。
2 検疫所長は、第十四條第一項第七号の規定により予防接種を行い、又は検疫官その他適当と認める者をしてこれを行わせた場合において、当該予防接種を受けた者から求められたときは、これに関する証明書を交付しなければならない。
(緊急避難)
第二十一條 検疫済証又は仮検疫済証の交付を受けていない船舶等の長は、急迫した危難を避けるため、やむを得ず当該船舶等を国内の港に入れ、又は検疫飛行場以外の飛行場に着陸させ、若しくは着水させた場合において、その急迫した危難が去つたときは、直ちに、当該船舶を検疫区域若しくは検疫所長(検疫所の支所又は出張所の長を含む。)の指示する場所に入れ、若しくは港外に退去させ、又は当該航空機を飛行場外に退去させなければならない。
2 前項の場合において、やむを得ない理由により当該船舶を検疫区域等に入れ、若しくは港外に退去させ、又は当該航空機を飛行場外に退去させることができないときは、船舶等の長は、もよりの検疫所長、検疫所がないときは保健所長に、検疫伝染病患者の有無、発航地名、寄航地名その他厚生省令で定める事項を通報しなければならない。
3 前項の通報を受けた検疫所長又は保健所長は、当該船舶等について、検査、消毒その他検疫伝染病の予防上必要な措置をとることができる。
4 第二項の船舶等であつて、当該船舶等を介して検疫伝染病の病原体が国内に侵入するおそれがほとんどない旨の検疫所長又は保健所長の確認を受けたものについては、当該船舶等がその場所にとどまつている限り、第五條の規定を適用しない。
5 前三項の規定は、国内の港以外の海岸又は飛行場以外の場所において航行不能となつた船舶等について準用する。
6 検疫済証又は仮検疫済証の交付を受けていない船舶等の長は、急迫した危難を避けるためやむを得ず当該船舶から上陸し、若しくは物を陸揚し、又は当該航空機から離れ、若しくは物を運び出した者があるときは、直ちに、もよりの保健所長又は市町村長に、検疫伝染病患者の有無その他厚生省令で定める事項を届け出なければならない。
(軍用艦船等の検疫)
第二十二條 外国の軍用艦船又は軍用航空機の検疫については、別に法律で定める。
(海上保安庁の船舶等に関する特例)
第二十三條 海上保安庁の船舶その他海上における犯罪の予防、鎮圧及び捜査又は海上における被疑者の逮捕に関する業務に従事する船舶が、その業務に関して第四條第一項第二号に該当するに至つた場合における当該船舶の検疫については、政令で特別の規定を設けることができる。
2 前項の政令においては、保健所長をして検疫業務に従事させる旨の規定を設けることができる。
第三章 検疫所長の行うその他の衞生措置
(応急措置)
第二十四條 検疫所長は、検疫を行うに当り、当該船舶等内に、伝染病予防法(明治三十年法律第三十六号)第一條第一項に規定する伝染病又は同條第二項の規定により厚生大臣が指定した伝染病で検疫伝染病以外のものの患者若しくは死者を発見したとき、又は当該船舶等がこれらの伝染病の病原体に汚染し、若しくは汚染したおそれがあると認めたときは、検疫官その他適当と認める者をして、診察、消毒、ねずみ族又は虫類の駆除等その予防に必要な応急措置を行わせなければならない。
(ねずみ族の駆除)
第二十五條 検疫所長は、検疫を行うに当り、当該船舶においてねずみ族の駆除が十分に行われていないと認めたときは、当該船舶の長に対し、ねずみ族を駆除すべき旨を命ずることができる。
2 検疫所長は、検疫を行うに当り、当該船舶においてねずみ族の駆除が十分に行われていると認めた場合又は前項の規定による駆除命令によりねずみ族の駆除が十分に行われたと認めた場合において、当該船舶の長から求められたときは、それぞれその旨の証明書を交付しなければならない。
(申請による検査等)
第二十六條 検疫所長は、船舶又は航空機の所有者又は長が、政令の定めるところにより手数料を納めて、当該船舶若しくは航空機に対する検疫伝染病の病原体の有無に関する検査、消毒、若しくはねずみ族若しくは虫類の駆除、その乘組員等に対する診察若しくは予防接種、又はこれらの事項に関する証明書の交付を求めたときは、当該検疫所における検疫業務に支障のない限り、これに応ずることができる。
2 検疫所長は、外国に行こうとする者が、政令の定めるところにより手数料を納めて、検疫伝染病に関する診察、病原体の有無に関する検査若しくは予防接種又はこれらの事項に関する証明書の交付を求めたときは、当該検疫所における検疫業務に支障のない限り、これに応ずることができる。
(検疫港等における応急の衞生措置)
第二十七條 検疫所長は、伝染病予防法第一條第一項に規定する伝染病又は同條第二項の規定により厚生大臣が指定した伝染病が流行し、又は流行するおそれがあると認めるときは、検疫港又は検疫飛行場ごとに政令で定める区域内に限り、検疫官その他適当と認める者をして、当該区域内にある船舶若しくは航空機又は当該区域内に設けられている施設、建築物その他の場所について、ねずみ族若しくは虫類の駆除、清掃若しくは消毒を行わせ、又は当該区域内で労働に従事する者について、健康診断若しくは虫類の駆除を行わせることができる。
2 検疫所長は、前項の措置をとつたときは、すみやかに、その旨を関係行政機関の長に通報しなければならない。
第四章 雑則
(検疫官)
第二十八條 この法律に規定する事務に従事させるため、厚生省に検疫官を置く。
(立入権)
第二十九條 検疫所長及び検疫官は、この法律の規定による職務を行うため必要があるときは、船舶、航空機又は第二十七條第一項に規定する施設、建築物その他の場所に立ち入ることができる。
(権限の解釈)
第三十條 この法律の規定による検疫所長及び検疫官の権限は、犯罪捜査のために認められたものと解釈してはならない。
(制服の着用及び証票の携帶)
第三十一條 検疫所長及び検疫官は、この法律の規定による職務を行うときは、制服を着用し、且つ、その身分を示す証票を携帶し、関係者の要求があるときは、これを呈示しなければならない。
2 検疫所長及び検疫官の服制は、厚生大臣が定める。
(実費の徴收)
第三十二條 検疫所長は、左に掲げる場合においては、船舶等の所有者又は長から、政令の定めるところにより、その実費を徴收しなければならない。
一 第十四條第一項第三号、第四号又は第六号に規定する措置をとつたとき。
二 船舶等の乘組員に対して第十四條第一項第一号又は第二号に規定する措置をとつたとき。
2 検疫所長は、船舶等に乘つている者で乘組員以外のものに対して、第十四條第一項第一号又は第二号に規定する措置をとつた場合においては、その者から、政令の定めるところにより、その実費を徴收しなければならない。
3 検疫所長は、前二項の規定により実費を負担しなければならない者が、経済的事情により、その実費の全部又は一部を負担することが困難であると認められる場合においては、前二項の規定にかかわらず、その全部又は一部を徴收しないことができる。
4 前三項の規定は、第二十一條第三項(同條第五項において準用する場合を含む。)の規定により、検疫所長又は保健所長が必要な措置をとつた場合に準用する。
(費用の支弁及び負担)
第三十三條 第二十一條第三項(同條第五項において準用する場合を含む。)の規定により保健所長がとる措置に要する費用は、当該保健所を設置する都道府県又は市が支弁し、国庫は、政令の定めるところにより、これを負担しなければならない。第二十三條第二項の規定に基く政令の規定により、保健所長が検疫業務に従事する場合において、これに要する費用についても、同様とする。
(検疫伝染病以外の伝染病についてのこの法律の準用)
第三十四條 外国に検疫伝染病以外の伝染病が発生し、これについて検疫を行わなければ、その病原体が国内に侵入し、国民の生命及び健康に重大な影響を與えるおそれがあるときは、政令で、伝染病の種類を指定し、一年以内の期間を限り、当該伝染病について、第二章及びこの章(次條から第四十條までを除く。)の規定の全部又は一部を準用することができる。この場合において、停留のための收容の期間については、当該伝染病の潜伏期間を考慮して、当該政令で特別の規定を設けることができる。
(罰則)
第三十五條 左の各号の一に該当する者は、一年以下の懲役又は十万円以下の罰金に処する。
一 第五條の規定に違反した者
二 隔離又は停留の処分を受け、その処分の継続中に逃げた者
三 第十五條第二項(第十六條第五項において準用する場合を含む。)の規定に違反した者
第三十六條 左の各号の一に該当する者は、六月以下の懲役又は五万円以下の罰金に処する。
一 第十一條第一項の規定に違反して明告書を提出せず、又は虚僞の事実を記載した明告書を提出した者
二 第十一條第二項の規定により、書類の提出又は呈示を求められて、これを提出せず、若しくは呈示せず、又は虚僞の事実を記載したこれらの書類を提出し、若しくは呈示した者
三 第十二條の規定による質問に対し、虚僞の答弁をした者
四 第十三條の規定により検疫所長又は検疫官が行う診察又は検査を拒み、妨げ、又は忌避した者
五 第十四條第一項第一号から第三号まで、第六号又は第七号の規定により検疫所長又は検疫官が行う措置を拒み、妨げ、又は忌避した者
六 第十四條第一項第五号の処分に違反した者
七 第二十四條の規定により検疫官が行う措置を拒み、妨げ、又は忌避した者
八 第二十九條の規定による検疫所長又は検疫官の立入を拒み、妨げ、又は忌避した者
第三十七條 左の各号の一に該当する者は、十万円以下の罰金に処する。
一 第四條第一項又は第二項の規定に違反した者
二 第十九條第一項の規定に違反した者
三 第十九條第三項の規定に基く命令に違反した者
四 第二十一條第一項若しくは第二項(同條第五項において準用する場合を含む。)又は同條第六項の規定に違反した者
第三十八條 左の各号の一に該当する者は、五千円以下の罰金に処する。
一 第九條の規定に違反した者
二 第二十五條第一項の規定に基く命令に違反した者
第三十九條 法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務に関して、前四條の違反行為をしたときは、行為者を罰する外、その法人又は人に対して、各本條の罰金刑を科する。但し、法人又は人の代理人、使用人その他の従業者の当該違反行為を防止するため、当該業務に対し相当の注意及び監督が盡されたことの証明があつたときは、その法人又は人については、この限りでない。
第四十條 第三十四條の場合においては、当該政令で準用する規定に係る前五條の罰則の規定もまた、準用されるものとする。
(省令委任)
第四十一條 この法律で政令に委任するものを除く外、この法律の実施のための手続その他その執行について必要な事項は、厚生省令で定める。
附 則
(施行期日)
1 この法律は、昭和二十七年一月一日から施行する。
(海港検疫法の廃止)
2 海港検疫法(明治三十二年法律第十九号)は、廃止する。
(許可証の効力)
3 この法律の施行前に検疫所長が連合国最高司令官の承認を得て交付した自由交通許可証又は條件附交通許可証は、それぞれこの法律の規定により検疫所長が交付した検疫済証又は仮検疫済証とみなす。
(現に継続中の検疫)
4 この法律の施行の際現に継続中の検疫については、なお、従前の例による。その検疫に関する違反行為に対する罰則の適用についても、同様とする。
5 第三項の規定は、前項の検疫について交付された自由交通許可証又は條件附交通許可証に準用する。
(罰則に関する経過規定)
6 この法律の施行前になした違反行為に対する罰則の適用については、なお、従前の例による。
(国内航空運送事業令の一部改正)
7 国内航空運送事業令(昭和二十五年政令第三百二十七号)の一部を次のように改正する。
附則第二項中「同法第三十九條から第四十一條までの規定」を「同法第三十九條及び第四十條の規定」に改める。
(死体解剖保存法の一部改正)
8 死体解剖保存法(昭和二十四年法律第二百四号)の一部を次のように改正する。
第二條第一項第五号の次に次の一号を加える。
六 検疫法(昭和二十六年法律第二百一号)第十三條第二項の規定により解剖する場合
(厚生省設置法の一部改正)
9 厚生省設置法(昭和二十四年法律第百五十一号)の一部を次のように改正する。
第五條第三十号を次のように改める。
三十 検疫法(昭和二十六年法律第二百一号)の規定に基き、検疫区域を定めること。
第九條第一項第十一号及び第二十條第一項中「海港及び空港」を「港及び飛行場」に改める。
大蔵大臣 池田勇人
厚生大臣臨時代理 国務大臣 保利茂
運輸大臣 山崎猛
内閣総理大臣 吉田茂
検疫法をここに公布する。
御名御璽
昭和二十六年六月六日
内閣総理大臣 吉田茂
法律第二百一号
検疫法
目次
第一章
総則(第一条―第三条)
第二章
検疫(第四条―第二十三条)
第三章
検疫所長の行うその他の衛生措置(第二十四条―第二十七条)
第四章
雑則(第二十八条―第四十一条)
附則
第一章 総則
(目的)
第一条 この法律は、国内に常在しない伝染病の病原体が船舶又は航空機を介して国内に侵入することを防止するとともに、船舶又は航空機に関してその他の伝染病の予防に必要な措置を講ずることを目的とする。
(検疫伝染病)
第二条 この法律において「検疫伝染病」とは、コレラ、ペスト、発しんチフス、痘そう及び黄熱をいう。
(検疫港等)
第三条 検疫を行う港(以下「検疫港」という。)及び検疫を行う飛行場(以下「検疫飛行場」という。)は、政令で定める。
第二章 検疫
(入港等の禁止)
第四条 左に掲げる船舶(以下「外国から来航した船舶」という。)の長(長に代つてその職務を行う者を含む。以下同じ。)は、検疫済証又は仮検疫済証の交付を受けた後でなければ、当該船舶を国内の港に入れてはならない。但し、検疫を受けるため、第八条第一項に規定する検疫区域又は同条第三項の規定により指示された場所に入れる場合は、この限りでない。
一 外国を発航し、又は外国に寄航して来航した船舶
二 航行中に、検疫伝染病が現に流行し、又は流行するおそれのある地域として政令で指定する外国の地域を発航し、又はその地域に寄航した他の船舶(検疫済証又は仮検疫済証の交付を受けている船舶を除く。)から人を乗り移らせ、又は物を運び込んだ船舶
2 外国を発航し、又は外国に寄航して来航した航空機(以下「外国から来航した航空機」という。)の長(長に代つてその職務を行う者を含む。以下同じ。)は、検疫済証又は仮検疫済証の交付を受けた後でなければ、当該航空機を検疫飛行場以外の国内の飛行場に着陸させ、又は着水させてはならない。
(交通等の制限)
第五条 外国から来航した船舶又は外国から来航した航空機(以下「船舶等」という。)については、その長が検疫済証又は仮検疫済証の交付を受けた後でなければ、何人も、当該船舶から上陸し、若しくは物を陸揚し、又は当該航空機から離れ、若しくは物を運び出してはならない。但し、検疫所長の許可を受けた場合は、この限りでない。
(検疫前の通報)
第六条 検疫を受けようとする船舶等の長は、当該船舶等が検疫港又は検疫飛行場に近づいたときは、適宜の方法で、当該検疫港又は検疫飛行場に置かれている検疫所(検疫所の支所及び出張所を含む。)の長に、検疫伝染病の患者又は死者の有無その他厚生省令で定める事項を通報しなければならない。
(航空機内の虫類の駆除)
第七条 外国から来航した航空機の長は、当該航空機を最初に検疫飛行場に着陸させ、又は着水させるまでに、当該航空機内の虫類の駆除を行わなければならない。
(検疫区域)
第八条 船舶の長は、検疫を受けようとするときは、当該船舶を検疫区域に入れなければならない。
2 外国から来航した航空機の長は、当該航空機を最初に検疫飛行場に着陸させ、又は着水させたときは、直ちに、当該航空機を検疫区域に入れなければならない。
3 前二項の場合において、天候その他の理由により、検疫所長(検疫所の支所又は出張所の長を含む。)が、当該船舶等を検疫区域以外の場所に入れるべきことを指示したときは、船舶等の長は、その指示に従わなければならない。
4 第一項及び第二項の検疫区域は、厚生大臣が、運輸大臣と協議して、検疫港又は検疫飛行場ごとに一以上を定め、告示する。
(検疫信号)
第九条 船舶の長は、検疫を受けるため当該船舶を検疫区域又は前条第三項の規定により指示された場所に入れた時から、検疫済証又は仮検疫済証の交付を受けるまでの間、厚生省令の定めるところにより、当該船舶に検疫信号を掲げなければならない。船舶が港内に停泊中に、第十九条第一項の規定により仮検疫済証が失効し、又は同条第二項の規定により仮検疫済証が失効した旨の通知を受けた場合において、その失効又は失効の通知の時から、当該船舶を港外に退去させ、又は更に検疫済証若しくは仮検疫済証の交付を受けるまでの間も、同様とする。
(検疫の開始)
第十条 船舶等が検疫区域又は第八条第三項の規定により指示された場所に入つたときは、検疫所長は、荒天の場合その他やむを得ない事由がある場合を除き、すみやかに、検疫を開始しなければならない。但し、日没後に入つた船舶については、日出まで検疫を開始しないことができる。
(書類の提出及び呈示)
第十一条 検疫を受けるに当つては、船舶等の長は、検疫所長に船舶等の名称又は登録番号、発航地名、寄航地名その他厚生省令で定める事項を記載した明告書を提出しなければならない。但し、仮検疫済証の失効後に受ける検疫にあつては、検疫所長から求められた場合に限る。
2 検疫所長は、船舶等の長に対して、第一号から第三号までに掲げる書類の提出並びに第四号及び第五号に掲げる書類の呈示を求めることができる。
一 乗組員名簿
二 乗客名簿
三 積荷目録
四 航海日誌又は航空日誌
五 その他検疫のために必要な書類
(質問)
第十二条 検疫所長は、船舶等の長その他船舶等に乗つている者に対して、必要な質問を行い、又は検疫官をしてこれを行わせることができる。
(診察及び検査)
第十三条 検疫所長は、検疫伝染病につき、船舶等に乗つている者に対する診察及び船舶等に対する病原体の有無に関する検査を行い、又は検疫官をしてこれを行わせることができる。
2 検疫所長は、前項の検査について必要があると認めるときは、船舶等にある死体(死胎を含む。)の解剖を行い、又は検疫官をしてこれを行わせることができる。
(汚染し、又は汚染したおそれのある船舶等についての措置)
第十四条 検疫所長は、第四条第一項第二号の規定に基く政令で指定する地域を発航し、又はその地域に寄航して来航した船舶等、航行中に検疫伝染病の患者又は死者があつた船舶等、検疫伝染病患者若しくはその死体、又はペスト菌を保有し、若しくは保有しているおそれのあるねずみ族が発見された船舶等、その他検疫伝染病の病原体に汚染し、又は汚染したおそれのある船舶等について、合理的に必要と判断される限度において、左に掲げる措置の全部又は一部をとることができる。
一 検疫伝染病患者(検疫伝染病の病原体保有者及び検疫伝染病の疑似症を呈している者を含む。以下同じ。)を隔離し、又は検疫官をして隔離させること。
二 検疫伝染病の病原体に汚染し、又は汚染したおそれのある者を停留し、又は検疫官をして停留させること。
三 検疫伝染病の病原体に汚染し、若しくは汚染したおそれのある物若しくは場所を消毒し、若しくは検疫官をして消毒させ、又はこれらの物であつて消毒によりがたいものの廃棄を命ずること。
四 墓地、埋葬等に関する法律(昭和二十三年法律第四十八号)の定めるところに従い、検疫伝染病の病原体に汚染し、又は汚染したおそれのある死体(死胎を含む。)の火葬を行うこと。
五 検疫伝染病の病原体に汚染し、若しくは汚染したおそれのある物若しくは場所の使用を禁止し、若しくは制限し、又はこれらの物の移動を禁止すること。
六 検疫官その他適当と認める者をして、ねずみ族又は虫類の駆除を行わせること。
七 必要と認める者に対して予防接種を行い、又は検疫官その他適当と認める者をしてこれを行わせること。
2 検疫所長は、前項第一号から第三号まで又は第六号に掲げる措置をとる必要がある場合において、当該検疫所の設備の不足等のため、これに応ずることができないと認めるときは、当該船舶等の長に対し、その理由を示して他の検疫港又は検疫飛行場に回航すべき旨を指示することができる。
(隔離)
第十五条 前条第一項第一号に規定する隔離は、検疫所に設けられた隔離室に収容して行う。但し、痘そう又は発しんチフスの患者については、これらの患者を収容する施設を有する病院にその収容を委託して行うことができる。
2 検疫所長の許可を受けた場合の外、何人も、被隔離者が収容されている場所に出入し、又はその場所から物を運び出してはならない。
3 検疫所長は、被隔離者のうち、検疫伝染病の患者については、その者が治ゆしたとき、検疫伝染病の病原体保有者については、その者が病原体を排出しなくなつたとき、検疫伝染病の疑似症を呈している者については、その症状が消え、又は検疫伝染病の症状でないことが判明したときは、直ちに、隔離を解かなければならない。
(停留)
第十六条 第十四条第一項第二号に規定する停留は、収容期間を定めて、検疫所に設けられた停留室に収容して行う。但し、やむを得ない場合には、船舶の長の同意を得て、船舶内に収容して行うことができる。
2 前項の収容期間は、各検疫伝染病につき、それぞれ左に掲げる時間をこえてはならない。
一 コレラについては、百二十時間
二 ペストについては、百四十四時間
三 発しんチフスについては、三百三十六時間
四 痘そうについては、三百三十六時間
五 黄熱については、百四十四時間
3 同一の場所に数人を収容した場合において、被収容者のうちから検疫伝染病患者又は検疫伝染病による死者が発生したときは、他の被収容者の収容期間を延長することができる。
4 前項の規定により延長される収容期間は、各検疫伝染病につき、延長の時からそれぞれ第二項に掲げる時間とする。
5 前条第二項の規定は、被停留者が収容されている場所について準用する。
(検疫済証の交付)
第十七条 検疫所長は、当該船舶等を介して、検疫伝染病の病原体が国内に侵入するおそれがないと認めたときは、当該船舶等の長に対して、検疫済証を交付しなければならない。
(仮検疫済証の交付)
第十八条 検疫所長は、検疫済証を交付することができない場合においても、当該船舶等を介して検疫伝染病の病原体が国内に侵入するおそれがほとんどないと認めたときは、当該船舶等の長に対して、一定の期間を定めて、仮検疫済証を交付することができる。この場合において、検疫所長は、検疫伝染病の病原体に汚染したおそれのある者で停留されないものに対して、健康状態に異状を生じたときは、保健所その他の医療機関について診察を受けるべき旨その他検疫伝染病の予防上必要な事項を指示することができる。
(仮検疫済証の失効)
第十九条 仮検疫済証の交付を受けた船舶等に、前条の規定により定められた期間内に、検疫伝染病患者又は検疫伝染病による死者が発生したときは、当該仮検疫済証は、その効力を失う。この場合においては、当該船舶等の長は、直ちに、その旨をもよりの検疫所長(検疫所の支所又は出張所の長を含む。以下第三項において同じ。)に通報しなければならない。
2 仮検疫済証を交付した検疫所長は、当該船舶等について更に第十四条第一項各号に掲げる措置をとる必要があると認めたときは、前条の規定により定めた期間内に限り、当該仮検疫済証の効力を失わしめることができる。この場合においては、当該検疫所長は、直ちに、その旨を当該船舶等の長に通知しなければならない。
3 前二項の規定により仮検疫済証が失効した場合において、当該船舶等が港内又は飛行場内に停泊中であるときは、第一項の通報を受けた検疫所長又は当該仮検疫済証を交付した検疫所長は、当該船舶等の長に対し、当該船舶等を検疫区域若しくはその指示する場所に入れ、又は港外若しくは飛行場外に退去させるべき旨を命ずることができる。
(証明書の交付)
第二十条 検疫所長は、第十四条第一項第六号の規定により、検疫官その他適当と認める者をして船舶についてねずみ族の駆除を行わせた場合において、当該船舶の長から求められたときは、その旨の証明書を交付しなければならない。
2 検疫所長は、第十四条第一項第七号の規定により予防接種を行い、又は検疫官その他適当と認める者をしてこれを行わせた場合において、当該予防接種を受けた者から求められたときは、これに関する証明書を交付しなければならない。
(緊急避難)
第二十一条 検疫済証又は仮検疫済証の交付を受けていない船舶等の長は、急迫した危難を避けるため、やむを得ず当該船舶等を国内の港に入れ、又は検疫飛行場以外の飛行場に着陸させ、若しくは着水させた場合において、その急迫した危難が去つたときは、直ちに、当該船舶を検疫区域若しくは検疫所長(検疫所の支所又は出張所の長を含む。)の指示する場所に入れ、若しくは港外に退去させ、又は当該航空機を飛行場外に退去させなければならない。
2 前項の場合において、やむを得ない理由により当該船舶を検疫区域等に入れ、若しくは港外に退去させ、又は当該航空機を飛行場外に退去させることができないときは、船舶等の長は、もよりの検疫所長、検疫所がないときは保健所長に、検疫伝染病患者の有無、発航地名、寄航地名その他厚生省令で定める事項を通報しなければならない。
3 前項の通報を受けた検疫所長又は保健所長は、当該船舶等について、検査、消毒その他検疫伝染病の予防上必要な措置をとることができる。
4 第二項の船舶等であつて、当該船舶等を介して検疫伝染病の病原体が国内に侵入するおそれがほとんどない旨の検疫所長又は保健所長の確認を受けたものについては、当該船舶等がその場所にとどまつている限り、第五条の規定を適用しない。
5 前三項の規定は、国内の港以外の海岸又は飛行場以外の場所において航行不能となつた船舶等について準用する。
6 検疫済証又は仮検疫済証の交付を受けていない船舶等の長は、急迫した危難を避けるためやむを得ず当該船舶から上陸し、若しくは物を陸揚し、又は当該航空機から離れ、若しくは物を運び出した者があるときは、直ちに、もよりの保健所長又は市町村長に、検疫伝染病患者の有無その他厚生省令で定める事項を届け出なければならない。
(軍用艦船等の検疫)
第二十二条 外国の軍用艦船又は軍用航空機の検疫については、別に法律で定める。
(海上保安庁の船舶等に関する特例)
第二十三条 海上保安庁の船舶その他海上における犯罪の予防、鎮圧及び捜査又は海上における被疑者の逮捕に関する業務に従事する船舶が、その業務に関して第四条第一項第二号に該当するに至つた場合における当該船舶の検疫については、政令で特別の規定を設けることができる。
2 前項の政令においては、保健所長をして検疫業務に従事させる旨の規定を設けることができる。
第三章 検疫所長の行うその他の衛生措置
(応急措置)
第二十四条 検疫所長は、検疫を行うに当り、当該船舶等内に、伝染病予防法(明治三十年法律第三十六号)第一条第一項に規定する伝染病又は同条第二項の規定により厚生大臣が指定した伝染病で検疫伝染病以外のものの患者若しくは死者を発見したとき、又は当該船舶等がこれらの伝染病の病原体に汚染し、若しくは汚染したおそれがあると認めたときは、検疫官その他適当と認める者をして、診察、消毒、ねずみ族又は虫類の駆除等その予防に必要な応急措置を行わせなければならない。
(ねずみ族の駆除)
第二十五条 検疫所長は、検疫を行うに当り、当該船舶においてねずみ族の駆除が十分に行われていないと認めたときは、当該船舶の長に対し、ねずみ族を駆除すべき旨を命ずることができる。
2 検疫所長は、検疫を行うに当り、当該船舶においてねずみ族の駆除が十分に行われていると認めた場合又は前項の規定による駆除命令によりねずみ族の駆除が十分に行われたと認めた場合において、当該船舶の長から求められたときは、それぞれその旨の証明書を交付しなければならない。
(申請による検査等)
第二十六条 検疫所長は、船舶又は航空機の所有者又は長が、政令の定めるところにより手数料を納めて、当該船舶若しくは航空機に対する検疫伝染病の病原体の有無に関する検査、消毒、若しくはねずみ族若しくは虫類の駆除、その乗組員等に対する診察若しくは予防接種、又はこれらの事項に関する証明書の交付を求めたときは、当該検疫所における検疫業務に支障のない限り、これに応ずることができる。
2 検疫所長は、外国に行こうとする者が、政令の定めるところにより手数料を納めて、検疫伝染病に関する診察、病原体の有無に関する検査若しくは予防接種又はこれらの事項に関する証明書の交付を求めたときは、当該検疫所における検疫業務に支障のない限り、これに応ずることができる。
(検疫港等における応急の衛生措置)
第二十七条 検疫所長は、伝染病予防法第一条第一項に規定する伝染病又は同条第二項の規定により厚生大臣が指定した伝染病が流行し、又は流行するおそれがあると認めるときは、検疫港又は検疫飛行場ごとに政令で定める区域内に限り、検疫官その他適当と認める者をして、当該区域内にある船舶若しくは航空機又は当該区域内に設けられている施設、建築物その他の場所について、ねずみ族若しくは虫類の駆除、清掃若しくは消毒を行わせ、又は当該区域内で労働に従事する者について、健康診断若しくは虫類の駆除を行わせることができる。
2 検疫所長は、前項の措置をとつたときは、すみやかに、その旨を関係行政機関の長に通報しなければならない。
第四章 雑則
(検疫官)
第二十八条 この法律に規定する事務に従事させるため、厚生省に検疫官を置く。
(立入権)
第二十九条 検疫所長及び検疫官は、この法律の規定による職務を行うため必要があるときは、船舶、航空機又は第二十七条第一項に規定する施設、建築物その他の場所に立ち入ることができる。
(権限の解釈)
第三十条 この法律の規定による検疫所長及び検疫官の権限は、犯罪捜査のために認められたものと解釈してはならない。
(制服の着用及び証票の携帯)
第三十一条 検疫所長及び検疫官は、この法律の規定による職務を行うときは、制服を着用し、且つ、その身分を示す証票を携帯し、関係者の要求があるときは、これを呈示しなければならない。
2 検疫所長及び検疫官の服制は、厚生大臣が定める。
(実費の徴収)
第三十二条 検疫所長は、左に掲げる場合においては、船舶等の所有者又は長から、政令の定めるところにより、その実費を徴収しなければならない。
一 第十四条第一項第三号、第四号又は第六号に規定する措置をとつたとき。
二 船舶等の乗組員に対して第十四条第一項第一号又は第二号に規定する措置をとつたとき。
2 検疫所長は、船舶等に乗つている者で乗組員以外のものに対して、第十四条第一項第一号又は第二号に規定する措置をとつた場合においては、その者から、政令の定めるところにより、その実費を徴収しなければならない。
3 検疫所長は、前二項の規定により実費を負担しなければならない者が、経済的事情により、その実費の全部又は一部を負担することが困難であると認められる場合においては、前二項の規定にかかわらず、その全部又は一部を徴収しないことができる。
4 前三項の規定は、第二十一条第三項(同条第五項において準用する場合を含む。)の規定により、検疫所長又は保健所長が必要な措置をとつた場合に準用する。
(費用の支弁及び負担)
第三十三条 第二十一条第三項(同条第五項において準用する場合を含む。)の規定により保健所長がとる措置に要する費用は、当該保健所を設置する都道府県又は市が支弁し、国庫は、政令の定めるところにより、これを負担しなければならない。第二十三条第二項の規定に基く政令の規定により、保健所長が検疫業務に従事する場合において、これに要する費用についても、同様とする。
(検疫伝染病以外の伝染病についてのこの法律の準用)
第三十四条 外国に検疫伝染病以外の伝染病が発生し、これについて検疫を行わなければ、その病原体が国内に侵入し、国民の生命及び健康に重大な影響を与えるおそれがあるときは、政令で、伝染病の種類を指定し、一年以内の期間を限り、当該伝染病について、第二章及びこの章(次条から第四十条までを除く。)の規定の全部又は一部を準用することができる。この場合において、停留のための収容の期間については、当該伝染病の潜伏期間を考慮して、当該政令で特別の規定を設けることができる。
(罰則)
第三十五条 左の各号の一に該当する者は、一年以下の懲役又は十万円以下の罰金に処する。
一 第五条の規定に違反した者
二 隔離又は停留の処分を受け、その処分の継続中に逃げた者
三 第十五条第二項(第十六条第五項において準用する場合を含む。)の規定に違反した者
第三十六条 左の各号の一に該当する者は、六月以下の懲役又は五万円以下の罰金に処する。
一 第十一条第一項の規定に違反して明告書を提出せず、又は虚偽の事実を記載した明告書を提出した者
二 第十一条第二項の規定により、書類の提出又は呈示を求められて、これを提出せず、若しくは呈示せず、又は虚偽の事実を記載したこれらの書類を提出し、若しくは呈示した者
三 第十二条の規定による質問に対し、虚偽の答弁をした者
四 第十三条の規定により検疫所長又は検疫官が行う診察又は検査を拒み、妨げ、又は忌避した者
五 第十四条第一項第一号から第三号まで、第六号又は第七号の規定により検疫所長又は検疫官が行う措置を拒み、妨げ、又は忌避した者
六 第十四条第一項第五号の処分に違反した者
七 第二十四条の規定により検疫官が行う措置を拒み、妨げ、又は忌避した者
八 第二十九条の規定による検疫所長又は検疫官の立入を拒み、妨げ、又は忌避した者
第三十七条 左の各号の一に該当する者は、十万円以下の罰金に処する。
一 第四条第一項又は第二項の規定に違反した者
二 第十九条第一項の規定に違反した者
三 第十九条第三項の規定に基く命令に違反した者
四 第二十一条第一項若しくは第二項(同条第五項において準用する場合を含む。)又は同条第六項の規定に違反した者
第三十八条 左の各号の一に該当する者は、五千円以下の罰金に処する。
一 第九条の規定に違反した者
二 第二十五条第一項の規定に基く命令に違反した者
第三十九条 法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務に関して、前四条の違反行為をしたときは、行為者を罰する外、その法人又は人に対して、各本条の罰金刑を科する。但し、法人又は人の代理人、使用人その他の従業者の当該違反行為を防止するため、当該業務に対し相当の注意及び監督が尽されたことの証明があつたときは、その法人又は人については、この限りでない。
第四十条 第三十四条の場合においては、当該政令で準用する規定に係る前五条の罰則の規定もまた、準用されるものとする。
(省令委任)
第四十一条 この法律で政令に委任するものを除く外、この法律の実施のための手続その他その執行について必要な事項は、厚生省令で定める。
附 則
(施行期日)
1 この法律は、昭和二十七年一月一日から施行する。
(海港検疫法の廃止)
2 海港検疫法(明治三十二年法律第十九号)は、廃止する。
(許可証の効力)
3 この法律の施行前に検疫所長が連合国最高司令官の承認を得て交付した自由交通許可証又は条件附交通許可証は、それぞれこの法律の規定により検疫所長が交付した検疫済証又は仮検疫済証とみなす。
(現に継続中の検疫)
4 この法律の施行の際現に継続中の検疫については、なお、従前の例による。その検疫に関する違反行為に対する罰則の適用についても、同様とする。
5 第三項の規定は、前項の検疫について交付された自由交通許可証又は条件附交通許可証に準用する。
(罰則に関する経過規定)
6 この法律の施行前になした違反行為に対する罰則の適用については、なお、従前の例による。
(国内航空運送事業令の一部改正)
7 国内航空運送事業令(昭和二十五年政令第三百二十七号)の一部を次のように改正する。
附則第二項中「同法第三十九条から第四十一条までの規定」を「同法第三十九条及び第四十条の規定」に改める。
(死体解剖保存法の一部改正)
8 死体解剖保存法(昭和二十四年法律第二百四号)の一部を次のように改正する。
第二条第一項第五号の次に次の一号を加える。
六 検疫法(昭和二十六年法律第二百一号)第十三条第二項の規定により解剖する場合
(厚生省設置法の一部改正)
9 厚生省設置法(昭和二十四年法律第百五十一号)の一部を次のように改正する。
第五条第三十号を次のように改める。
三十 検疫法(昭和二十六年法律第二百一号)の規定に基き、検疫区域を定めること。
第九条第一項第十一号及び第二十条第一項中「海港及び空港」を「港及び飛行場」に改める。
大蔵大臣 池田勇人
厚生大臣臨時代理 国務大臣 保利茂
運輸大臣 山崎猛
内閣総理大臣 吉田茂