第一條 本法ハ互讓相助ノ精神ニ則リ農地ノ所有者及耕作者ノ地位ノ安定及農業生產力ノ維持增進ヲ圖リ以テ農村ノ經濟更生及農村平和ノ保持ヲ期スル爲農地關係ノ調整ヲ爲スヲ以テ目的トス
第二條 本法ニ於テ農地トハ耕作ヲ目的トスル土地ヲ謂フ
第三條 農地ノ所有者又ハ耕作者ハ兵役其ノ他命令ヲ以テ定ムル事由ニ因リテ農地ヲ自ラ耕作シ又ハ管理スルコト能ハザルトキハ市町村其ノ他命令ヲ以テ定ムル團體ニ農地ノ管理又ハ買取ノ申出ヲ爲スコトヲ得
前項ノ申出アリタル場合ニ於テハ同項ノ團體ハ命令ノ定ムル所ニ依リ農地ノ管理又ハ買取ヲ爲スコトヲ得
第四條 道府縣、市町村其ノ他命令ヲ以テ定ムル團體ガ農村ノ經濟更生ノ爲命令ノ定ムル所ニ依リ自作農創設維持ニ要スル土地ヲ取得シ又ハ使用スルノ必要アルトキハ行政官廳ノ認可ヲ受ケ土地ノ所有者其ノ他之ニ關シ權利ヲ有スル者ニ對シ土地ノ讓渡又ハ使用收益ノ權利ノ設定若ハ讓渡ニ關スル協議ヲ求ムルコトヲ得
前項ノ團體ガ未墾地ヲ開發シテ同項ノ事業ヲ行ハントスル場合ニ於テ同項ノ規定ニ依ル協議調ハザルトキハ開發セントスル未墾地其ノ他其ノ開發ニ必要ナル土地又ハ其ノ使用收益ノ權利ヲ收用又ハ使用スルコトヲ得
前項ノ規定ニ依ル收用又ハ使用ニ關シテハ土地收用法ヲ適用ス
第五條 行政官廳農村ノ經濟更生ノ爲必要アリト認ムルトキハ農地ノ所有者ヲシテ農地處分ニ當リ命令ノ定ムル所ニ依リ豫メ市町村農地委員會ニ其ノ旨ヲ通知セシムルコトヲ得
第六條 命令ヲ以テ定ムル自作農創設維持ノ事業ニ依リ創設又ハ維持セラレタル自作地ノ所有者ハ命令ノ定ムル場合ヲ除クノ外行政官廳ノ認可ヲ受クルニ非ザレバ其ノ自作地ノ讓渡若ハ貸付ヲ爲シ又ハ之ニ付物權ヲ設定スルコトヲ得ズ
第七條 前條ノ自作農創設維持ノ事業ニ依リ創設又ハ維持セラレタル自作地ニ付テハ其ノ旨ノ登記ヲ爲スコトヲ要ス
前項ノ登記ヲ爲スニ非ザレバ前條ノ自作農創設維持ノ事業ニ依リ創設又ハ維持セラレタル自作地タルコトヲ以テ第三者ニ對抗スルコトヲ得ズ
第一項ノ規定ニ依ル登記ニ關シ必要ナル事項ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第八條 農地ノ賃貸借ハ其ノ登記ナキモ農地ノ引渡アリタルトキハ爾後其ノ農地ニ付物權ヲ取得シタル者ニ對シ其ノ效力ヲ生ズ
民法第五百六十六條第一項及第三項ノ規定ハ登記セザル賃貸借ノ目的タル農地ガ賣買ノ目的物ナル場合ニ之ヲ準用ス
第九條 農地ノ賃貸人ハ賃借人ガ宥恕スベキ事情ナキニ拘ラズ小作料ヲ滯納スル等信義ニ反シタル行爲ナキ限リ賃貸借ノ解約ヲ爲シ又ハ更新ヲ拒ムコトヲ得ズ但シ土地使用ノ目的ノ變更又ハ賃貸人ノ自作ヲ相當トスル場合其ノ他正當ノ事由アル場合ハ此ノ限ニ在ラズ
當事者ガ農地ノ賃貸借ノ期間ヲ定メタルトキハ當事者ガ期間滿了前六月乃至一年內ニ相手方ニ對シ更新拒絕ノ通知又ハ條件ヲ變更スルニ非ザレバ更新セザル旨ノ通知ヲ爲サザルトキハ從前ノ賃貸借ト同一ノ條件ヲ以テ更ニ賃貸借ヲ爲シタルモノト看做ス但シ賃貸人ノ疾病ニ因リテ自ラ耕作スルコト能ハザル爲其ノ他特別ノ事由ニ因リテ一時賃貸借ヲ爲シタルコト明ナル場合ハ此ノ限ニ在ラズ
農地ノ賃貸借ノ當事者賃貸借ノ解約ヲ爲シ又ハ更新ヲ拒マントスルトキハ命令ノ定ムル所ニ依リ豫メ其ノ旨ヲ市町村農地委員會ニ通知スベシ
第二項竝ニ民法第六百十七條及第六百十八條ノ規定ニ異ル小作條件ニシテ賃借人ニ不利ナルモノハ之ヲ定メザルモノト看做ス
第十條 小作關係ノ爭議ニ付公益上必要アリト認ムルトキハ小作官ハ小作調停法ニ依ル調停ノ申立ヲ爲スコトヲ得
小作關係ノ爭議ニ付訴訟ガ繫屬スルトキハ受訴裁判所ハ職權ヲ以テ小作官ノ意見ヲ聽キ事件ヲ小作調停法ニ依ル調停ニ付スルコトヲ得
第十一條 小作調停法ニ依ル調停ノ爲必要アリト認ムルトキハ裁判所ハ職權ヲ以テ小作官ノ意見ヲ聽キ調停前ノ措置トシテ必要ナル命令ヲ爲スコトヲ得
前項ノ規定ニ依ル裁判ハ調停事件ノ繫屬スル裁判所ニ於テ非訟事件手續法ニ依リ之ヲ爲ス
第一項ノ規定ニ依ル裁判ニ違反シタル者ハ調停事件ノ繫屬スル裁判所ニ於テ五百圓以下ノ過料ニ處スルコトヲ得
非訟事件手續法第二百七條及第二百八條ノ規定ハ前項ノ過料ニ之ヲ準用ス
第十二條 小作調停法ニ依ル調停委員會ニ於テ調停成ラザル場合ニ裁判所相當ト認ムルトキハ職權ヲ以テ小作官及調停委員ノ意見ヲ聽キ當事者雙方ノ利益ヲ衡平ニ考慮シ一切ノ事情ヲ斟酌シテ調停ニ代ヘ小作關係ノ存續、小作條件ノ變更其ノ他爭議ノ解決上必要ナル裁判ヲ爲スコトヲ得此ノ裁判ニ於テハ小作料ノ支拂、小作地ノ引渡其ノ他財產上ノ給付ヲ命ズルコトヲ得
前條第二項ノ規定ハ前項ノ規定ニ依ル裁判ニ之ヲ準用ス
第一項ノ規定ニ依ル裁判ニ對シテハ卽時抗吿ヲ爲スコトヲ得其ノ期間ハ之ヲ二週間トス
第一項ノ規定ニ依ル裁判確定シタルトキハ裁判上ノ和解ト同一ノ效力ヲ有ス
第十三條 小作關係ノ爭議ヲ除クノ外相隣關係其ノ他農地ノ利用關係ニ付爭議ヲ生ジタルトキハ當事者ハ裁判所ニ調停ノ申立ヲ爲スコトヲ得此ノ場合ニ於テハ小作調停法及第十條乃至前條ノ規定ヲ準用ス
第十四條 裁判所第十二條又ハ前條ノ規定ニ依リ小作關係ノ存續、小作條件ノ變更其ノ他爭議ノ解決上必要ナル裁判ヲ爲サントスル場合ニ於テ必要アリト認ムルトキハ市町村農地委員會又ハ道府縣農地委員會ノ意見ヲ聽クコトヲ得
第十五條 自作農創設維持、小作關係ノ調整、農地ノ交換分合其ノ他農地ニ關スル事項ヲ處理スル爲市町村ニ市町村農地委員會ヲ、道府縣ニ道府縣農地委員會ヲ置クコトヲ得
市町村農地委員會及道府縣農地委員會ニ關スル規程ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第十六條 左ニ揭グル不動產ノ取得ニ對シテハ地方稅ヲ課スルコトヲ得ズ
一 第三條又ハ第四條ノ團體ガ第三條又ハ第四條ノ事業ノ爲ニスル土地ノ取得
二 第四條又ハ第六條ノ自作農創設維持ノ事業ニ依ル個人ノ土地ノ取得
三 第四條又ハ第六條ノ自作農創設維持ノ事業ニ依リ創設又ハ維持セラレタル土地ノ所有者ガ其ノ創設又ハ維持ノ條件ヲ具備セザルニ至リタル場合ニ於ケル事業者ノ土地ノ取得
第十七條 本法ニ於テ町村トアルハ町村制ヲ施行セザル地ニ在リテハ之ニ準ズルモノトス