朕帝國議會ノ協贊ヲ經タル郵便貯金法ヲ裁可シ玆ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
明治三十八年二月十五日
內閣總理大臣 伯爵 桂太郞
遞信大臣 大浦兼武
法律第二十三號
郵便貯金法
第一條 郵便貯金ハ政府之ヲ管掌ス
第二條 郵便貯金ノ預入ハ郵便貯金通帳ニ依リ其ノ拂戾ハ拂戾證書ニ依リ之ヲ爲ス但シ命令ヲ以テ特別ノ規定ヲ設ケタル場合ハ此ノ限ニ在ラス
第三條 一人ノ郵便貯金制限額ハ左ノ如シ
一 一度ノ預入額 十錢以上
二 貯金總額 千圓以下
預入金ノ端數ハ厘位ヲ限トス
第四條 左ニ揭クル預入金ニ付テハ前條第一項第二號ノ制限ヲ適用セス
一 公共團體、社寺、學校又ハ營利ヲ目的トセサル法人若ハ團體ノ預入金
二 命令ノ規定ニ依ル共同貯金ノ預入金
三 產業組合ノ預入金
四 振替計算ノ爲ニスル預入金
第五條 郵便貯金通帳ハ命令ヲ以テ定ムル場合ヲ除クノ外一人一册ヲ限トス
前項ノ規定ニ違反シ二册以上ノ通帳ヲ以テ貯金ノ預入ヲ爲シタル者アルトキハ最初ノ通帳、通帳ノ日附同一ナルトキハ貯金ノ最多額ナルモノニ記入シタル貯金ノ外利子ヲ付セス
前項ニ依リ利子ヲ付スヘカラサル貯金ニ付旣ニ拂戾シタル利子アルトキハ現ニ存在スル貯金ヨリ之ヲ控除シ又ハ別ニ之ヲ追徵ス
第六條 郵便貯金額第三條第一項第二號ノ制限ヲ超過シタル場合ニ於テ郵便貯金預ケ人之ヲ其ノ制限以內ニ減額セサルトキハ郵便官署ハ其ノ制限以內ニ減額スルニ必要ナル限度ニ於テ貯金ノ一部ヲ以テ國債證券ヲ購入シ之ヲ保管スヘシ
第七條 郵便切手及支拂期ノ開始セル證券ハ命令ノ定ムル所ニ依リ郵便貯金ニ預入スルコトヲ得
第八條 郵便貯金ノ利子ニ關スル規程ハ命令ヲ以テ之ヲ定ム
第九條 郵便官署ハ郵便貯金預ケ人ノ請求ニ因リ其ノ貯金ノ一部ヲ以テ國債證券其ノ他ノ證券ヲ購入保管シ又ハ之ヲ賣却スルコトヲ得其ノ證券ノ種類ハ命令ヲ以テ之ヲ定ム
第十條 郵便貯金拂出ニ關スル證書ノ有效期間ハ命令ヲ以テ之ヲ定ム
第十一條 郵便貯金ニ關シ無能力者ノ郵便官署ニ對シテ爲シタル行爲ハ能力者ノ爲シタルモノト看做ス
第十二條 郵便貯金及保管ニ係ル證券ハ命令ヲ以テ定ムル場合ヲ除クノ外之ヲ讓渡スコトヲ得ス
第十三條 成規ノ手續ヲ經テ郵便貯金ヲ拂出シ又ハ保管ニ係ル證券ヲ交付シタルトキハ正當ノ拂出又ハ交付ヲ爲シタルモノト看做ス
第十四條 郵便官署ハ郵便貯金ニ關スル取扱ノ遲延ニ因リ生シタル損害ニ付賠償ノ責ニ任セス
第十五條 郵便官署ハ郵便貯金預ケ人ノ眞僞ヲ調査スル爲預ケ人ヲシテ必要ナル證明ヲ爲サシムルコトヲ得
第十六條 郵便官署ハ必要ナル場合ニ於テ郵便貯金通帳ヲ檢閱スルコトヲ得
第十七條 郵便貯金ニ關スル書類ニハ印紙稅ヲ課セス
第十八條 十年間郵便貯金ノ預入及拂出ナク且利子記入又ハ檢閱ノ爲ニスル通帳ノ提出ナキ場合ニ於テハ郵便官署ハ其ノ預ケ人ニ對シ郵便貯金通帳ノ提出又ハ預入金ノ處分ヲ爲スヘキ旨ヲ催吿シ其ノ催吿ノ日ヨリ六十日內ニ通帳ヲ提出セス又ハ預入金ノ處分ヲ申出サルトキハ其ノ郵便貯金及保管ニ係ル證券ハ國庫ノ所有ニ歸ス
郵便貯金拂出ニ關スル證書ノ有效期間滿了ノ日ヨリ三年間再度證書交付又ハ拂出金戾入ノ請求ナキ場合ニ於テハ其ノ拂出金ハ國庫ノ所有ニ歸ス
一定ノ期間拂戾ヲ爲ササル條件ヲ以テ預入シタル郵便貯金ニ付テハ其ノ期間ハ第一項ノ期間ニ算入セス
附 則
第十九條 本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
郵便貯金條例ハ之ヲ廢止ス
第二十條 本法施行前ニ預入シタル郵便貯金ニ關シテハ本法ノ規定ヲ適用ス
本法施行前又ハ本法施行後一年內ニ第十八條第一項ノ期間ヲ經過シ又ハ經過スヘキ郵便貯金ニ付テハ本法施行ノ際郵便官署ニ於テ其ノ預ケ人ニ對シ郵便貯金通帳ノ提出又ハ預入金ノ處分ヲ爲スヘキ旨ヲ催吿スヘシ其ノ催吿ノ日ヨリ一年內ニ通帳ヲ提出セス又ハ預入金ノ處分ヲ申出サルトキハ更ニ其ノ旨ヲ公吿シ尙一年內ニ之ニ應スル者ナキトキハ其ノ貯金及保管ニ係ル國債證券ハ國庫ノ所有ニ歸ス
本法施行前發行シタル拂戾證書ノ有效期間ハ本法施行ノ日ヨリ六十日トス
朕帝国議会ノ協賛ヲ経タル郵便貯金法ヲ裁可シ茲ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
明治三十八年二月十五日
内閣総理大臣 伯爵 桂太郎
逓信大臣 大浦兼武
法律第二十三号
郵便貯金法
第一条 郵便貯金ハ政府之ヲ管掌ス
第二条 郵便貯金ノ預入ハ郵便貯金通帳ニ依リ其ノ払戻ハ払戻証書ニ依リ之ヲ為ス但シ命令ヲ以テ特別ノ規定ヲ設ケタル場合ハ此ノ限ニ在ラス
第三条 一人ノ郵便貯金制限額ハ左ノ如シ
一 一度ノ預入額 十銭以上
二 貯金総額 千円以下
預入金ノ端数ハ厘位ヲ限トス
第四条 左ニ掲クル預入金ニ付テハ前条第一項第二号ノ制限ヲ適用セス
一 公共団体、社寺、学校又ハ営利ヲ目的トセサル法人若ハ団体ノ預入金
二 命令ノ規定ニ依ル共同貯金ノ預入金
三 産業組合ノ預入金
四 振替計算ノ為ニスル預入金
第五条 郵便貯金通帳ハ命令ヲ以テ定ムル場合ヲ除クノ外一人一冊ヲ限トス
前項ノ規定ニ違反シ二冊以上ノ通帳ヲ以テ貯金ノ預入ヲ為シタル者アルトキハ最初ノ通帳、通帳ノ日附同一ナルトキハ貯金ノ最多額ナルモノニ記入シタル貯金ノ外利子ヲ付セス
前項ニ依リ利子ヲ付スヘカラサル貯金ニ付既ニ払戻シタル利子アルトキハ現ニ存在スル貯金ヨリ之ヲ控除シ又ハ別ニ之ヲ追徴ス
第六条 郵便貯金額第三条第一項第二号ノ制限ヲ超過シタル場合ニ於テ郵便貯金預ケ人之ヲ其ノ制限以内ニ減額セサルトキハ郵便官署ハ其ノ制限以内ニ減額スルニ必要ナル限度ニ於テ貯金ノ一部ヲ以テ国債証券ヲ購入シ之ヲ保管スヘシ
第七条 郵便切手及支払期ノ開始セル証券ハ命令ノ定ムル所ニ依リ郵便貯金ニ預入スルコトヲ得
第八条 郵便貯金ノ利子ニ関スル規程ハ命令ヲ以テ之ヲ定ム
第九条 郵便官署ハ郵便貯金預ケ人ノ請求ニ因リ其ノ貯金ノ一部ヲ以テ国債証券其ノ他ノ証券ヲ購入保管シ又ハ之ヲ売却スルコトヲ得其ノ証券ノ種類ハ命令ヲ以テ之ヲ定ム
第十条 郵便貯金払出ニ関スル証書ノ有効期間ハ命令ヲ以テ之ヲ定ム
第十一条 郵便貯金ニ関シ無能力者ノ郵便官署ニ対シテ為シタル行為ハ能力者ノ為シタルモノト看做ス
第十二条 郵便貯金及保管ニ係ル証券ハ命令ヲ以テ定ムル場合ヲ除クノ外之ヲ譲渡スコトヲ得ス
第十三条 成規ノ手続ヲ経テ郵便貯金ヲ払出シ又ハ保管ニ係ル証券ヲ交付シタルトキハ正当ノ払出又ハ交付ヲ為シタルモノト看做ス
第十四条 郵便官署ハ郵便貯金ニ関スル取扱ノ遅延ニ因リ生シタル損害ニ付賠償ノ責ニ任セス
第十五条 郵便官署ハ郵便貯金預ケ人ノ真偽ヲ調査スル為預ケ人ヲシテ必要ナル証明ヲ為サシムルコトヲ得
第十六条 郵便官署ハ必要ナル場合ニ於テ郵便貯金通帳ヲ検閲スルコトヲ得
第十七条 郵便貯金ニ関スル書類ニハ印紙税ヲ課セス
第十八条 十年間郵便貯金ノ預入及払出ナク且利子記入又ハ検閲ノ為ニスル通帳ノ提出ナキ場合ニ於テハ郵便官署ハ其ノ預ケ人ニ対シ郵便貯金通帳ノ提出又ハ預入金ノ処分ヲ為スヘキ旨ヲ催告シ其ノ催告ノ日ヨリ六十日内ニ通帳ヲ提出セス又ハ預入金ノ処分ヲ申出サルトキハ其ノ郵便貯金及保管ニ係ル証券ハ国庫ノ所有ニ帰ス
郵便貯金払出ニ関スル証書ノ有効期間満了ノ日ヨリ三年間再度証書交付又ハ払出金戻入ノ請求ナキ場合ニ於テハ其ノ払出金ハ国庫ノ所有ニ帰ス
一定ノ期間払戻ヲ為ササル条件ヲ以テ預入シタル郵便貯金ニ付テハ其ノ期間ハ第一項ノ期間ニ算入セス
附 則
第十九条 本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
郵便貯金条例ハ之ヲ廃止ス
第二十条 本法施行前ニ預入シタル郵便貯金ニ関シテハ本法ノ規定ヲ適用ス
本法施行前又ハ本法施行後一年内ニ第十八条第一項ノ期間ヲ経過シ又ハ経過スヘキ郵便貯金ニ付テハ本法施行ノ際郵便官署ニ於テ其ノ預ケ人ニ対シ郵便貯金通帳ノ提出又ハ預入金ノ処分ヲ為スヘキ旨ヲ催告スヘシ其ノ催告ノ日ヨリ一年内ニ通帳ヲ提出セス又ハ預入金ノ処分ヲ申出サルトキハ更ニ其ノ旨ヲ公告シ尚一年内ニ之ニ応スル者ナキトキハ其ノ貯金及保管ニ係ル国債証券ハ国庫ノ所有ニ帰ス
本法施行前発行シタル払戻証書ノ有効期間ハ本法施行ノ日ヨリ六十日トス