郵便貯金条例
法令番号: 法律第六十三號
公布年月日: 明治23年8月13日
法令の形式: 法律
朕郵便貯金條例ヲ裁可シ玆ニ之ヲ公布セシム此法律ハ明治二十四年一月一日ヨリ施行スヘキコトヲ命ス
御名御璽
明治二十三年八月十二日
內閣總理大臣 伯爵 山縣有朋
遞信大臣 伯爵 後藤象二郞
法律第六十三號
郵便貯金條例
第一條 郵便貯金ノ事務ハ遞信大臣之ヲ管理ス
第二條 郵便貯金ハ遞信大臣ノ指定スル郵便電信局郵便局ニ於テ其預入拂渡ヲ取扱フモノトス
遞信大臣ニ於テ必要ト認ムル場所ニハ特ニ郵便貯金預所ヲ設置シ郵便貯金ノ預入ヲ取扱ハシムルコトアルヘシ
第三條 郵便貯金ノ預入ハ貯金通帳ヲ以テ證トシ其拂戾ハ拂戾證書ヲ以テ證トス
第四條 郵便貯金一人一度ノ預金ハ拾錢以上トシ端數ハ厘位ニ限ル一人一日ノ預金ハ五拾圓以下トス
郵便貯金一人ノ預金總額ハ元利合セテ五百圓ニ超過スルコトヲ得ス
第五條 郵便貯金利子ノ割合ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
郵便貯金ノ利子ハ每年三月三十一日ヲ期トシテ之ヲ計算シ元金ニ加ヘ四月ヨリ更ニ利子ヲ付スヘシ
郵便貯金ハ之ヲ預リタル月及拾錢未滿ノ端數ニハ利子ヲ付セス
郵便貯金拂戾ノ請求アリタルトキハ拂戾證書發付ノ月ヨリ利子ヲ付セス
郵便貯金ノ利子計算上厘位未滿ノ端數ヲ生シタルトキハ之ヲ除棄スヘシ
第六條 郵便貯金預ケ人ハ何時ニテモ郵便貯金ノ全額又ハ其幾分ノ拂戾ヲ請求スルコトヲ得但幾分拂戾ノ場合ニハ其未タ元金ニ加ヘサル利子ハ拂戾ヲ請求スルコトヲ得ス
第七條 郵便貯金預ケ人ハ其貯金ノ幾分ヲ以テ公債證書ノ購入保管ヲ請求スルコトヲ得但其公債證書ハ額面五拾圓又ハ五拾圓ヲ遞加シタルモノニ限ル
郵便貯金預ケ人ハ何時ニテモ前項保管ニ係ル公債證書ノ下渡ヲ請求スルコトヲ得
郵便貯金預ケ人貯金全額ノ拂戾ヲ請求スルトキハ保管ニ係ル公債證書モ同時ニ其下渡ヲ請求スヘシ
第八條 郵便貯金ノ預ケ金額第四條ノ制限ニ超過シタルトキハ其旨ヲ貯金預ケ人ニ通知シ預ケ金額ヲ制限以內ニ引直サシムヘシ
前項ノ通知ヲ發シタル後六十日以內ニ引直ヲ爲ササルトキハ貯金預ケ人ノ爲メ其貯金ヲ以テ公債證書ヲ購入スルモノトス但此場合ニ於テ購入スル公債證書ハ額面五拾圓ヲ超過スルコトヲ得ス
第九條 郵便貯金通帳ハ一人一册ヲ限リトス若シ二册以上ノ通帳ヲ受領シテ貯金預入ヲ爲シタル者アリタルトキハ最初受領セシ通帳ニ記載セル貯金ノ外利子ヲ付セスシテ拂戾ヲ爲サシム若シ二册以上通帳ノ日附同一ナルトキハ其貯金最多額ノモノニ利子ヲ付シ其他ノモノニハ總テ利子ヲ付セスシテ拂戾ヲ爲サシム
第十條 郵便貯金預ケ人ハ最初貯金ノ預入ヲ爲シタル月ヨリ滿一年每ニ其通帳ヲ遞信省ニ差出シ前期間利子ノ記入ヲ受クヘシ但一年ノ終期四月又ハ五月ニ當ルモノハ之ヲ六月ニ差出スヘシ
第十一條 郵便貯金ハ其預ケ人最後ニ貯金預入ヲ爲シタル日又ハ通帳ヲ遞信省ニ差出シ其書換又ハ利子ノ記入ヲ受ケタル日又ハ拂戾ヲ請求シタル日ヨリ起算シ十年間預入ヲ爲サス又ハ拂戾ヲ請求セス又ハ通帳ヲ遞信省ニ差出ササルトキハ滿期ノ翌月ヨリ利子ヲ付セス但保管ニ係ル公債證書ノ利子ハ此限ニアラス
尙二十年間貯金ノ預入ヲ爲サス又ハ拂戾ヲ請求セス又ハ通帳ヲ遞信省ニ差出ササルトキハ其貯金ハ政府ノ所得トス
前項貯金ヲ政府ノ所得トスル場合ニ於テ保管ニ係ル公債證書アルトキハ其公債證書モ併テ政府ノ所得トス
若シ第二項ノ期限內ニ貯金ノ預入ヲ爲シ又ハ拂戾ヲ請求シ又ハ通帳ヲ遞信省ニ差出シタルトキハ其翌月ヨリ利子ヲ付ス
第十二條 郵便貯金ノ拂戾金又ハ下渡ヲ請求シタル公債證書ハ拂戾證書又ハ下渡證書ノ日附ヨリ一箇年以內ニ受取ルヘシ若シ此期限內ニ受取ラサルトキハ之ヲ供託所ニ寄託スヘシ
第十三條 郵便貯金預ケ人ハ郵便貯金ヲ家督相續人ニ讓與スル場合ヲ除クノ外其名前書換ヲ請求スルコトヲ得ス
第十四條 郵便貯金預ケ人ニ損害ヲ蒙ラシメ政府其辨償ノ責ニ任スヘキ場合ニ於テハ郵便貯金預ケ人ハ其事故ノアリタルコトヲ知リタル日又之ヲ知リ能ハサルトキハ次期ノ利子記入期限ヨリ一箇年以內ニ其辨償ノ請求ヲ爲スヘシ若シ其期限內ニ請求ヲ爲ササルトキハ政府其責ヲ免カルモノトス
第十五條 郵便貯金事務ニ關スル郵便物ハ郵便稅ヲ免除ス
第十六條 郵便貯金ノ受渡ニ關スル書類ハ證券印稅ヲ免除ス
第十七條 本條例施行ノ細則ハ遞信大臣之ヲ定ム
附 則
明治十五年十二月第五十九號布吿郵便條例第百五十七條乃至第二百二條及第二百四十二條第二項ハ本條例施行ノ日ヨリ廢止ス
朕郵便貯金条例ヲ裁可シ茲ニ之ヲ公布セシム此法律ハ明治二十四年一月一日ヨリ施行スヘキコトヲ命ス
御名御璽
明治二十三年八月十二日
内閣総理大臣 伯爵 山県有朋
逓信大臣 伯爵 後藤象二郎
法律第六十三号
郵便貯金条例
第一条 郵便貯金ノ事務ハ逓信大臣之ヲ管理ス
第二条 郵便貯金ハ逓信大臣ノ指定スル郵便電信局郵便局ニ於テ其預入払渡ヲ取扱フモノトス
逓信大臣ニ於テ必要ト認ムル場所ニハ特ニ郵便貯金預所ヲ設置シ郵便貯金ノ預入ヲ取扱ハシムルコトアルヘシ
第三条 郵便貯金ノ預入ハ貯金通帳ヲ以テ証トシ其払戻ハ払戻証書ヲ以テ証トス
第四条 郵便貯金一人一度ノ預金ハ拾銭以上トシ端数ハ厘位ニ限ル一人一日ノ預金ハ五拾円以下トス
郵便貯金一人ノ預金総額ハ元利合セテ五百円ニ超過スルコトヲ得ス
第五条 郵便貯金利子ノ割合ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
郵便貯金ノ利子ハ毎年三月三十一日ヲ期トシテ之ヲ計算シ元金ニ加ヘ四月ヨリ更ニ利子ヲ付スヘシ
郵便貯金ハ之ヲ預リタル月及拾銭未満ノ端数ニハ利子ヲ付セス
郵便貯金払戻ノ請求アリタルトキハ払戻証書発付ノ月ヨリ利子ヲ付セス
郵便貯金ノ利子計算上厘位未満ノ端数ヲ生シタルトキハ之ヲ除棄スヘシ
第六条 郵便貯金預ケ人ハ何時ニテモ郵便貯金ノ全額又ハ其幾分ノ払戻ヲ請求スルコトヲ得但幾分払戻ノ場合ニハ其未タ元金ニ加ヘサル利子ハ払戻ヲ請求スルコトヲ得ス
第七条 郵便貯金預ケ人ハ其貯金ノ幾分ヲ以テ公債証書ノ購入保管ヲ請求スルコトヲ得但其公債証書ハ額面五拾円又ハ五拾円ヲ逓加シタルモノニ限ル
郵便貯金預ケ人ハ何時ニテモ前項保管ニ係ル公債証書ノ下渡ヲ請求スルコトヲ得
郵便貯金預ケ人貯金全額ノ払戻ヲ請求スルトキハ保管ニ係ル公債証書モ同時ニ其下渡ヲ請求スヘシ
第八条 郵便貯金ノ預ケ金額第四条ノ制限ニ超過シタルトキハ其旨ヲ貯金預ケ人ニ通知シ預ケ金額ヲ制限以内ニ引直サシムヘシ
前項ノ通知ヲ発シタル後六十日以内ニ引直ヲ為ササルトキハ貯金預ケ人ノ為メ其貯金ヲ以テ公債証書ヲ購入スルモノトス但此場合ニ於テ購入スル公債証書ハ額面五拾円ヲ超過スルコトヲ得ス
第九条 郵便貯金通帳ハ一人一冊ヲ限リトス若シ二冊以上ノ通帳ヲ受領シテ貯金預入ヲ為シタル者アリタルトキハ最初受領セシ通帳ニ記載セル貯金ノ外利子ヲ付セスシテ払戻ヲ為サシム若シ二冊以上通帳ノ日附同一ナルトキハ其貯金最多額ノモノニ利子ヲ付シ其他ノモノニハ総テ利子ヲ付セスシテ払戻ヲ為サシム
第十条 郵便貯金預ケ人ハ最初貯金ノ預入ヲ為シタル月ヨリ満一年毎ニ其通帳ヲ逓信省ニ差出シ前期間利子ノ記入ヲ受クヘシ但一年ノ終期四月又ハ五月ニ当ルモノハ之ヲ六月ニ差出スヘシ
第十一条 郵便貯金ハ其預ケ人最後ニ貯金預入ヲ為シタル日又ハ通帳ヲ逓信省ニ差出シ其書換又ハ利子ノ記入ヲ受ケタル日又ハ払戻ヲ請求シタル日ヨリ起算シ十年間預入ヲ為サス又ハ払戻ヲ請求セス又ハ通帳ヲ逓信省ニ差出ササルトキハ満期ノ翌月ヨリ利子ヲ付セス但保管ニ係ル公債証書ノ利子ハ此限ニアラス
尚二十年間貯金ノ預入ヲ為サス又ハ払戻ヲ請求セス又ハ通帳ヲ逓信省ニ差出ササルトキハ其貯金ハ政府ノ所得トス
前項貯金ヲ政府ノ所得トスル場合ニ於テ保管ニ係ル公債証書アルトキハ其公債証書モ併テ政府ノ所得トス
若シ第二項ノ期限内ニ貯金ノ預入ヲ為シ又ハ払戻ヲ請求シ又ハ通帳ヲ逓信省ニ差出シタルトキハ其翌月ヨリ利子ヲ付ス
第十二条 郵便貯金ノ払戻金又ハ下渡ヲ請求シタル公債証書ハ払戻証書又ハ下渡証書ノ日附ヨリ一箇年以内ニ受取ルヘシ若シ此期限内ニ受取ラサルトキハ之ヲ供託所ニ寄託スヘシ
第十三条 郵便貯金預ケ人ハ郵便貯金ヲ家督相続人ニ譲与スル場合ヲ除クノ外其名前書換ヲ請求スルコトヲ得ス
第十四条 郵便貯金預ケ人ニ損害ヲ蒙ラシメ政府其弁償ノ責ニ任スヘキ場合ニ於テハ郵便貯金預ケ人ハ其事故ノアリタルコトヲ知リタル日又之ヲ知リ能ハサルトキハ次期ノ利子記入期限ヨリ一箇年以内ニ其弁償ノ請求ヲ為スヘシ若シ其期限内ニ請求ヲ為ササルトキハ政府其責ヲ免カルモノトス
第十五条 郵便貯金事務ニ関スル郵便物ハ郵便税ヲ免除ス
第十六条 郵便貯金ノ受渡ニ関スル書類ハ証券印税ヲ免除ス
第十七条 本条例施行ノ細則ハ逓信大臣之ヲ定ム
附 則
明治十五年十二月第五十九号布告郵便条例第百五十七条乃至第二百二条及第二百四十二条第二項ハ本条例施行ノ日ヨリ廃止ス