朕帝國議會ノ協贊ヲ經タル土地收用法ヲ裁可シ玆ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
明治三十三年三月六日
內閣總理大臣 侯爵 山縣有朋
內務大臣 侯爵 西鄕從道
法律第二十九號
土地收用法
第一章
總則
第二章
事業ノ準備
第三章
事業ノ認定
第四章
收用ノ手續
第五章
收用審査會
第六章
損失ノ補償
第七章
收用ノ效果
第八章
費用ノ負擔
第九章
監督、强制及罰則
第十章
訴願及訴訟
附 則
土地收用法
第一章 總則
第一條 公共ノ利益ト爲ルヘキ事業ノ爲之ニ要スル土地ヲ收用又ハ使用スルノ必要アルトキハ其ノ土地ハ本法ノ規定ニ依リ之ヲ收用又ハ使用スルコトヲ得
本法ニ於テ使用ト稱スルハ權利ノ制限ヲ包含ス
第二條 土地ヲ收用又ハ使用スルコトヲ得ル事業ハ左ノ各號ノ一ニ該當スルモノナルコトヲ要ス
一 國防其ノ他軍事ニ關スル事業
二 官廳又ハ公署建設ニ關スル事業
三 敎育、學藝又ハ慈善ニ關スル事業
四 鐵道、軌道、道路、橋梁、河川、堤防、砂防、運河、用惡水路、溜池、船渠、港灣、埠頭、水道、下水、電氣機、瓦斯燈又ハ火葬場ニ關スル事業
五 衞生、測候、航路標識、防風、防火、水害豫防其ノ他公用ノ目的ヲ以テ國府縣郡市町村其ノ他公共團體ニ於テ施設スル事業
第三條 本法又ハ本法ニ基ツキテ發スル命令ニ規定シタル起業者ノ權利義務ハ事業ト共ニ其ノ承繼人ニ移轉ス
第四條 本法又ハ本法ニ基ツキテ發スル命令ノ規定ニ依リ爲シタル手續其ノ他ノ行爲ハ起業者、土地所有者又ハ關係人ノ承繼人ニ對シテモ其ノ效力ヲ有ス
第五條 本法ニ於テ土地所有者ト稱スルハ收用又ハ使用スヘキ土地ノ所有者ヲ謂フ
本法ニ於テ關係人ト稱スルハ收用又ハ使用スヘキ土地ニ關シテ權利ヲ有スル者ヲ謂フ
第十九條ノ地方長官ノ公吿又ハ通知ノ後其ノ土地ニ關シテ權利ヲ取得シタル者ハ關係人ト看做サス但シ旣存ノ權利ヲ承繼シタル者ハ此ノ限ニ在ラス
第六條 本法又ハ本法ニ基ツキテ發スル命令ニ規定シタル期間ノ計算法、通知ノ方法及書類ノ送達ニ關シテハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第七條 本法ノ規定ハ水ノ使用ニ關スル權利其ノ他土地ニ關スル所有權以外ノ權利ノ收用又ハ使用ヲ爲ス場合ニ之ヲ準用ス
第八條 本法ノ規定ハ土地ニ屬スル土石砂礫ノ收用ヲ爲ス場合ニ之ヲ準用ス
第二章 事業ノ準備
第九條 事業ノ準備ノ爲必要アルトキハ起業者ハ事業ノ種類及立入ルヘキ土地ノ區域ヲ定メ地方長官ノ許可ヲ得テ土地ニ立入リ測量又ハ檢査ヲ爲スコトヲ得但シ此ノ場合ニ於テ宮內省又ハ國ノ起業ニ係ルトキハ宮內大臣又ハ主務大臣ハ之ヲ地方長官ニ通知スヘシ
地方長官前項ノ許可ヲ與ヘ又ハ通知ヲ受ケタルトキハ起業者、事業ノ種類及立入ルヘキ土地ノ區域ヲ公吿シ又ハ之ヲ其ノ土地占有者ニ通知スヘシ
第十九條ノ地方長官ノ公吿又ハ通知ノ後起業者カ事業ノ準備ノ爲其ノ土地ニ立入リ測量又ハ檢査ヲ爲ス場合ニ於テハ本條ノ許可又ハ通知ヲ要セス
第十條 前條ノ場合ニ於テハ起業者ハ立入ルヘキ日ヨリ五日前ニ其ノ日時及場所ヲ市町村長ニ通知スヘシ市町村長ハ之ヲ公吿シ又ハ其ノ土地占有者ニ通知スヘシ
邸內ニ立入ル場合ニ於テハ起業者ハ豫メ其ノ占有者ニ通知スヘシ
日出前日沒後邸內ニ立入ル場合ニ於テハ起業者ハ特ニ行政廳ノ許可ヲ受クヘシ
第十一條 第九條ノ規定ニ依ル測量又ハ檢査ノ爲必要アルトキハ起業者ハ行政廳ノ許可ヲ得テ障害物ヲ除却スルコトヲ得
前項ノ規定ニ依リ障害物ノ除却ヲ爲ス場合ニ於テハ起業者ハ三日前ニ其ノ所有者及占有者ニ通知スヘシ
第三章 事業ノ認定
第十二條 土地ヲ收用又ハ使用スルコトヲ得ル事業ハ內閣之ヲ認定ス但シ軍機ニ關スル事業ハ此ノ限ニ在ラス
第十三條 起業者カ內閣ノ認定ヲ受ケムトスルトキハ事業計畫書及圖面ヲ添ヘ地方長官ヲ經由シテ內務大臣ニ申請スヘシ內務大臣ハ之ヲ審査シ內閣ニ提出スヘシ
宮內省又ハ國ノ起業ニ係ルトキハ宮內大臣又ハ主務大臣ハ事業計畫書及圖面ヲ添ヘ內務大臣ニ協議ヲ爲シ之ヲ內閣ニ提出スヘシ
第十四條 內閣カ認定ヲ爲シタルトキハ起業者及事業ノ種類竝起業地ヲ公吿スヘシ
第十五條 天災事變ニ際シ急施ヲ要スル事業ノ爲土地ヲ使用スルトキハ郡市長ハ其ノ事業ノ認定ヲ爲スコトヲ得
前項ノ使用ノ期間ハ六箇月ヲ超ユルコトヲ得ス
軍事上臨時急施ヲ要スル事業ノ爲土地ヲ使用スルトキハ主務大臣ハ使用スヘキ土地ノ區域ヲ郡市長ニ通知スヘシ
第十六條 起業者カ郡市長ノ認定ヲ受ケムトスルトキハ事業ノ種類、使用スヘキ土地ノ區域及使用ノ期間ヲ定メ郡市長ニ申請スヘシ
第十七條 郡市長カ認定ヲ爲シタルトキハ起業者、事業ノ種類、使用スヘキ土地ノ區域及使用ノ期間ヲ土地所有者及占有者ニ通知スヘシ
郡市長カ第十五條第三項ノ通知ヲ受ケタルトキハ使用スヘキ土地ノ區域ヲ土地所有者及占有者ニ通知スヘシ
第十八條 起業者カ內閣ノ認定ノ公吿ノ後三箇年內ニ第十九條ノ申請ヲ爲ササルトキハ其ノ認定ハ效力ヲ失フ
第四章 收用ノ手續
第十九條 內閣ノ認定ノ公吿ノ後起業者ノ申請ニ依リ地方長官ハ收用又ハ使用スヘキ土地ノ細目ヲ公吿シ又ハ之ヲ土地所有者及關係人ニ通知スヘシ
軍機ニ關スル事業ニ付テハ主務大臣ハ地方長官ニ收用又ハ使用スヘキ土地ノ細目ヲ通知シ地方長官ハ之ヲ土地所有者及關係人ニ通知スヘシ
第二十條 前條ノ地方長官ノ公吿又ハ通知ノ後ハ起業者ハ其ノ土地ニ立入リ土地物件ヲ調査スルコトヲ得
前項ノ場合ニ於テハ起業者ハ立入ルヘキ日ヨリ三日前ニ其ノ日時及場所ヲ其ノ土地占有者ニ通知スヘシ
日出前日沒後ハ占有者ノ承諾アルニ非サレハ邸內ニ立入ルコトヲ得ス
第二十一條 第十九條ノ地方長官ノ公吿又ハ通知ノ後起業者カ必要ト認ムルトキハ土地所有者又ハ關係人ト共ニ土地物件ニ關スル調書ヲ作ルコトヲ得
前項ノ場合ニ於テ土地所有者又ハ關係人カ調書ヲ作ルコトヲ拒ミタルトキハ起業者ハ市町村長ノ立會ヲ以テ之ヲ作ルコトヲ得但シ市町村長カ起業者ナルトキ又ハ起業者ニ對シ第四十條第二項ニ揭ケタル關係ヲ有スルトキハ此ノ限ニ在ラス
土地所有者又ハ關係人カ調書ノ必要ヲ認メタルトキハ前二項ノ規定ヲ準用ス
起業者、土地所有者及關係人ハ本條ノ規定ニ依リ作リタル調書ノ記載事項ニ對シテ異議ヲ述フルコトヲ得ス
第二十二條 第十九條ノ地方長官ノ公吿又ハ通知ノ後起業者ハ其ノ土地ニ關スル權利ヲ取得スル爲土地所有者及關係人ニ協議ヲ爲スヘシ
前項ノ協議調ハサルトキ又ハ協議ヲ爲スコト能ハサルトキハ起業者ハ收用審査會ノ裁決ヲ求ムルコトヲ得
第二十三條 收用審査會ノ裁決ヲ求メムトスルトキハ起業者ハ其ノ申請書ニ左ニ揭ケタル書類ヲ添ヘ地方長官ニ差出スヘシ但シ軍機ニ關スル事業ニ付テハ事業計畫書及圖面ヲ添フルコトヲ要セス
一 事業計畫書及圖面
二 市區町村別ニ左ニ揭ケタル事項ヲ記載シタル書類
收用又ハ使用スヘキ土地ノ番號、地目
收用又ハ使用スヘキ土地ノ面積及其ノ土地ニ在ル物件ノ種類、數量但シ土地物件カ分割ヲ來スヘキ場合ニ於テハ其ノ全部ノ面積建坪等ヲ併記スヘシ
損失補償ノ見積金額及內譯
收用ノ時期又ハ使用ノ時期、期間
土地所有者及關係人ノ氏名、住所
收用審査會ノ裁決ヲ求メタルトキハ起業者ハ同時ニ土地所有者及關係人ニ通知スヘシ
第二十四條 前條ノ書類ヲ受ケタルトキハ地方長官ハ之ヲ市町村長ニ下付スヘシ市町村長ハ豫メ公吿ヲ爲シ一週間之ヲ公衆ノ縱覽ニ供スヘシ
第二十五條 土地所有者及關係人ハ前條縱覽期間ノ初日ヨリ二週間內ニ地方長官ニ意見書ヲ差出スコトヲ得
第二十六條 地方長官ハ前條ノ期間ヲ經過シタル後收用審査會ヲ開クヘシ
第二十七條 收用審査會ハ開會ノ日ヨリ一週間內ニ裁決ヲ爲スヘシ但シ地方長官ハ必要ト認ムルトキハ二週間內ノ延期ヲ爲スコトヲ得
第二十八條 收用審査會カ前條ノ期間內ニ裁決ヲ爲ササルトキハ地方長官ハ事情ヲ具シ內務大臣ノ指揮ヲ請フヘシ內務大臣ハ收用審査會ニ一定ノ期間內ニ裁決ヲ爲スヘキコトヲ命シ又ハ之ニ代テ裁決ヲ爲スヘキコトヲ地方長官ニ命スルコトヲ得
收用審査會カ前項ノ期間內ニ裁決ヲ爲ササルトキハ地方長官ハ之ニ代テ裁決ヲ爲スヘシ
第二十九條 收用審査會カ招集ニ應セス又ハ成立セサルトキハ地方長官ハ內務大臣ノ認可ヲ得テ之ニ代テ裁決ヲ爲スコトヲ得事業ノ急施ヲ要スルトキ亦同シ
第三十條 收用審査會カ裁決ヲ爲シタルトキハ其ノ裁決書ノ謄本ヲ添ヘ地方長官ニ報吿スヘシ
第三十一條 前條ノ報吿ヲ受ケ又ハ收用審査會ニ代テ裁決ヲ爲シタルトキハ地方長官ハ裁決書ノ謄本ヲ起業者、土地所有者及關係人ニ送達スヘシ
第三十二條 軍機ニ關スル事業又ハ內閣ノ認定シタル事業ノ施行ニ因リテ必要ヲ生シタル道路、堤防其ノ他公用ニ供スル工作物ノ新築、改築又ハ增築ノ爲土地ヲ收用又ハ使用スルトキハ地方長官ノ許可ヲ得テ直ニ本章ノ規定ニ依ルコトヲ得
第三十三條 郡市長カ認定ヲ爲シ又ハ第十五條第三項ノ通知ヲ受ケタルトキハ第十七條ノ通知ノ後起業者ヲシテ直ニ其ノ土地ヲ使用セシムルコトヲ得但シ損失ノ補償ニ關シテハ本法ノ規定ニ依ルヘシ
第三十四條 起業者カ第十九條ノ地方長官ノ公吿又ハ通知ノ後一箇年內ニ收用審査會ノ裁決ヲ求メサルトキハ其ノ公吿又ハ通知ハ效力ヲ失フ
第五章 收用審査會
第三十五條 收用審査會ハ內務大臣ノ監督ニ屬シ左ニ揭ケタル事項ヲ定メテ收用又ハ使用ノ裁決ヲ爲スモノトス
一 收用又ハ使用スヘキ土地ノ區域
二 損失ノ補償
三 收用ノ時期又ハ使用ノ時期、期間
起業者ノ申請カ本法又ハ本法ニ基ツキテ發スル命令ノ規定ニ違反スルトキハ收用審査會ハ却下ノ裁決ヲ爲スヘシ
第三十六條 收用審査會ハ會長一人委員六人ヲ以テ之ヲ組織ス
第三十七條 會長ハ地方長官ヲ以テ之ニ充ツ議事其ノ他ノ會務ヲ統理シ會ヲ代表ス
第三十八條 委員ハ高等文官及府縣名譽職參事會員各三人ヲ以テ之ニ充ツ
高等文官ニシテ委員タルヘキ者ハ內務大臣之ヲ命シ府縣名譽職參事會員ニシテ委員タルヘキ者ハ其ノ互選トス
第三十九條 收用審査會ハ委員半數以上出席スルニ非サレハ會議ヲ開クコトヲ得ス
收用審査會ノ議事ハ過半數ヲ以テ決ス可否同數ナルトキハ會長ノ決スル所ニ依ル
第四十條 委員カ起業者、土地所有者又ハ關係人ナルトキハ收用審査會ノ議事ニ參與スルコトヲ得ス
委員カ起業者、土地所有者若ハ關係人ノ配偶者、四親等內ノ親族、戶主、家族、代理人及保佐人ナルトキ又ハ起業者、土地所有者若ハ關係人タル市町村ノ市參事會員、町村長、合名會社ノ社員、合資會社及株式合資會社ノ無限責任社員、株式會社ノ取締役及監査役其ノ他法人ノ理事及監事ナルトキ亦前項ニ同シ
本條ノ規定ニ依リ委員ノ數減少シテ前條第一項ノ數ヲ得サルトキハ地方長官ハ左ニ揭ケタル順序ニ從ヒ其ノ本條ノ規定ニ牴觸セサル者ノ內ヨリ臨時ニ指名シテ之ヲ補充スヘシ
一 府縣名譽職參事會員
二 府縣名譽職參事會員ノ補充員
三 府縣會議員
第四十一條 收用審査會ノ裁決ハ起業者、土地所有者及關係人ノ申立タル範圍ヲ超ユルコトヲ得ス
第四十二條 收用審査會ハ必要ト認ムルトキハ鑑定人ヲ選ヒ其ノ意見ヲ聽クコトヲ得
前項ノ鑑定人ニ付テハ第四十條ノ規定ヲ準用ス
第四十三條 收用審査會ハ必要ト認ムルトキハ起業者、土地所有者又ハ關係人ヲ呼出シ其ノ意見ヲ聽クコトヲ得
收用審査會ハ事實參考ノ爲必要ト認ムルトキハ收用又ハ使用スヘキ土地以外ノ土地所有者ヲ呼出シ其ノ供述ヲ聽クコトヲ得
第四十四條 裁決ハ文書ヲ以テ之ヲ爲シ其ノ理由ヲ附シ會長之ニ署名捺印スヘシ
裁決書ノ謄本ニハ會ノ印章ヲ押捺スヘシ
第四十五條 鑑定人及事實參考人ハ旅費及手當ヲ請求スルコトヲ得
第四十六條 二府縣以上ニ涉ル事業ニ係ルトキハ關係地方長官ハ勅令ノ定ムル所ニ從ヒ合同シテ收用審査會ヲ開クコトヲ得
第六章 損失ノ補償
第四十七條 土地所有者及關係人ノ受クル損失ハ起業者之ヲ補償スヘシ
損失ノ補償ハ各人別ニ之ヲ爲スヘシ但シ其ノ各人別ニ見積リ難キトキハ此ノ限ニ在ラス
第四十八條 收用スヘキ土地物件ニ付テハ相當ノ價格ニ依リ其ノ損失ヲ補償スヘシ
使用スヘキ土地ニ付テハ其ノ土地及近傍類地ノ料金ニ依リ其ノ損失ヲ補償スヘシ
第四十九條 土地ノ一部ヲ收用又ハ使用スルニ因リテ殘地ノ價格ヲ減シ其ノ他殘地ニ關シ損失ヲ生スヘキトキハ其ノ損失ヲ補償スヘシ
第五十條 土地ノ一部ヲ收用スルニ因リテ殘地ヲ從來用井タル目的ニ供スルコト能ハサルトキハ土地所有者ハ其ノ全部ノ收用ヲ請求スルコトヲ得
第五十一條 收用又ハ使用スヘキ土地ニ在ル物件ハ移轉料ヲ補償シテ移轉セシムヘシ但シ物件ノ分割ヲ來シ其ノ全部ヲ移轉スルニ非サレハ從來用井タル目的ニ供スルコト能ハサルトキハ所有者ハ其ノ全部ノ移轉料ヲ請求スルコトヲ得
前項ノ場合ニ於テ物件ヲ移轉スルニ因リテ從來用井タル目的ニ供スルコト能ハサルトキハ所有者ハ其ノ收用ヲ請求スルコトヲ得
第五十二條 前條ノ移轉料ニシテ其ノ物件ノ相當價格ヲ超ユル場合ニ於テハ起業者ハ其ノ收用ヲ請求スルコトヲ得
第五十三條 土地ヲ收用又ハ使用スルニ因リテ通路、溝渠、墻柵其ノ他ノ工作物ノ新築、改築、增築又ハ修繕ヲ爲ス必要ヲ生スルトキハ其ノ費用ヲ補償スヘシ
第五十四條 前數條ニ規定シタルモノノ外土地ヲ收用又ハ使用スルニ因リテ土地所有者及關係人ノ通常受クヘキ損失ハ之ヲ補償スヘシ
第五十五條 土地ノ使用カ三箇年以上ニ亙ルトキ又ハ土地ノ形質ヲ變更スルトキ若ハ使用スヘキ土地ニ建物アルトキハ所有者ハ其ノ土地ノ收用ヲ請求スルコトヲ得
第五十六條 第十九條ノ地方長官ノ公吿又ハ通知ノ後行政廳ノ許可ヲ得スシテ土地ノ形質ヲ變更シ又ハ工作物ノ新築、改築、增築若ハ大修繕ヲ爲シ又ハ物件ヲ附加增置シタル土地所有者又ハ關係人ハ之ニ關スル損失ノ補償ヲ請求スルコトヲ得ス
第五十七條 第九條又ハ第二十條ノ規定ニ依リ土地ニ立入リ測量、檢査又ハ調査ヲ爲スニ因リテ他人ニ及ホシタル損失ハ起業者之ヲ補償スヘシ
第五十八條 第十九條ノ地方長官ノ公吿又ハ通知ノ後起業者カ事業ヲ廢止變更シタルニ因リテ土地所有者又ハ關係人ノ受ケタル損失ハ之ヲ補償スヘシ
第五十九條 前二條ノ補償ニ付キ協議調ハサルトキハ地方長官ノ決定ヲ求ムルコトヲ得此ノ場合ニ於テハ第三十一條及第四十一條乃至第四十五條ノ規定ヲ準用ス
第七章 收用ノ效果
第六十條 起業者ハ收用又ハ使用ノ時期迄ニ補償金ヲ拂渡スヘシ
左ニ揭ケタル場合ニ於テハ補償金ヲ供託スルコトヲ得
一 補償金ヲ受クヘキ者カ其ノ受領ヲ拒ミタルトキ又ハ之ヲ受領スルコト能ハサルトキ
二 起業者カ過失ナクシテ補償金ヲ受クヘキ者ヲ確知スルコト能ハサルトキ
三 起業者カ收用審査會ノ裁決中補償金額ノ決定ニ對シテ不服アルトキ但シ補償金ヲ受クヘキ者ノ請求アルトキハ起業者ハ自己ノ見積金額ヲ拂渡スヘシ
四 起業者カ補償金拂渡ノ差押又ハ假差押ヲ受ケタルトキ
第六十一條 土地所有者及關係人ハ收用又ハ使用ノ時期迄ニ土地物件ヲ引渡シ又ハ物件ヲ移轉スヘシ但シ左ニ揭ケタル場合ニ於テハ起業者ノ請求ニ依リ市町村長ハ土地所有者及關係人ニ代ルモノトス
一 土地所有者及關係人カ土地物件ヲ引渡シ又ハ物件ヲ移轉スルコト能ハサルトキ
二 起業者ノ過失ナクシテ土地所有者及關係人ヲ確知スルコト能ハサルトキ
第六十二條 起業者カ收用又ハ使用ノ時期迄ニ補償金ノ拂渡又ハ供託ヲ爲ササルトキハ收用審査會ノ裁決ハ其ノ效力ヲ失フ但シ土地所有者及關係人カ損害賠償ノ請求ヲ爲スコトヲ妨ケス
第六十三條 土地物件ヲ收用スルトキハ收用ノ時期ニ於テ所有權ハ起業者之ヲ取得シ其ノ他ノ權利ハ消滅ス
土地ヲ使用スルトキハ其ノ權利ハ使用ノ時期ニ於テ起業者之ヲ取得シ其ノ他ノ權利ハ使用ノ期間其ノ行使ヲ停止セラル但シ使用ヲ妨ケサルモノハ此ノ限ニ在ラス
第六十四條 收用審査會ノ裁決ノ後收用又ハ使用スヘキ土地物件カ土地所有者又ハ關係人ノ責ニ歸スヘカラサル事由ニ因リテ滅失又ハ毀損シタルトキハ其ノ滅失又ハ毀損ハ起業者ノ負擔ニ歸ス
第六十五條 先取特權、質權又ハ抵當權ハ其ノ目的物ノ收用又ハ使用ニ因リテ債務者カ受クヘキ補償金ニ對シテモ之ヲ行フコトヲ得但シ其ノ拂渡前ニ差押ヲ爲スヘシ
第六十六條 收用ノ時期ヨリ二十箇年內ニ事業ノ廢止其ノ他ノ事故ニ因リテ收用シタル土地ノ全部又ハ一部カ不用ニ歸シタルトキハ舊所有者又ハ其ノ相續人ハ補償價格ヲ以テ之ヲ買受ルコトヲ得但シ第五十條ノ規定ニ依リテ收用シタル殘地ハ其ノ接續部分ノ不用ニ歸シタル時ニ非サレハ之ヲ買受ルコトヲ得ス
前項ノ場合ニ於テ買受ハ第三者ニ對シテモ其ノ效力ヲ有ス
第一項ノ期間內ニ於テ收用シタル土地ヲ他ノ軍機ニ關スル事業又ハ內閣ノ認定シタル事業ニ供スルトキハ不用ニ歸シタルモノト看做サス
第六十七條 前條ノ不用ノ土地アルトキハ起業者ハ舊所有者又ハ其ノ相續人ニ通知スヘシ但シ起業者ノ過失ナクシテ之ヲ確知スルコト能ハサルトキハ少クトモ三囘ノ公吿ヲ爲スヘシ
前項ノ通知ヲ受ケタル日ヨリ二箇月內又ハ第三囘ノ公吿終了ノ日ヨリ六箇月內ニ舊所有者又ハ其ノ相續人カ買受ノ通知ヲ爲ササルトキハ其ノ權利ヲ失フ
第八章 費用ノ負擔
第六十八條 起業者、土地所有者及關係人カ本法又ハ本法ニ基ツキテ發スル命令ニ規定シタル手續其ノ他ノ行爲ヲ爲シ又ハ義務ヲ履行スル爲ニ要シタル費用ハ各其ノ負擔トス
第六十九條 收用審査會ニ要シタル費用ハ命令ヲ以テ別ニ負擔者ヲ定メタルモノヲ除クノ外府縣ノ負擔トス第五十九條ノ場合ニ要シタル費用ニ付テ亦同シ
第七十二條ノ規定ニ依リ收用審査會ノ裁決ヲ取消シタル場合ニ於テ更ニ開クヘキ收用審査會ニ要シタル費用ハ之ヲ起業者、土地所有者及關係人ニ負擔セシムルコトヲ得ス
第七十條 第七十三條第一項ノ規定ニ依リ地方長官カ義務者ノ爲スヘキ事項ヲ自ラ執行シ又ハ他人ヲシテ執行セシメタル爲ニ要シタル費用ハ府縣ノ負擔トス
府縣ハ前項ノ費用ヲ各其ノ義務者ヨリ徵收スルコトヲ得但シ其ノ義務者ノ受領スヘキ補償金ヲ以テ之ヲ充ツルコトヲ得
第七十一條 土地所有者又ハ關係人ノ負擔スヘキ費用ハ第六十一條但書ノ場合ニ於テハ市町村ノ負擔トス
前項ノ場合ニ於テハ前條第二項ノ規定ヲ準用ス
第九章 監督、强制及罰則
第七十二條 收用審査會カ其ノ權限ヲ越エ又ハ法令ノ規定ニ違反シテ爲シタル裁決ハ內務大臣之ヲ取消スコトヲ得
第七十三條 義務者カ本法又ハ本法ニ基ツキテ發スル命令ノ規定ニ依ル義務ヲ履行セス又ハ之ヲ履行スルモ一定ノ期間內ニ終了スル見込ナキトキハ地方長官ハ自ラ之ヲ執行シ又ハ他人ヲシテ之ヲ執行セシムルコトヲ得
義務者カ本法又ハ本法ニ基ツキテ發スル命令ノ規定ニ依ル義務ヲ履行セサル場合ニ於テ前項ノ規定ニ依ルコト能ハサルトキハ地方長官ハ直接ニ之ヲ强制スルコトヲ得
第七十四條 前章ノ規定ニ依リ私人ノ負擔スヘキ費用ヲ支出セサル者アルトキハ行政廳ハ國稅滯納處分ノ例ニ依リ之ヲ徵收スルコトヲ得
前項ノ費用ニ付テハ行政廳ハ國稅ニ次キ先取特權ヲ有ス
第七十五條 收用審査會員人ノ囑託ヲ受ケ賄賂ヲ收受シ又ハ之ヲ聽許シタルトキハ一年以下ノ重禁錮ニ處シ四十圓以下ノ罰金ヲ附加ス其ノ賄賂ヲ贈與シ又ハ贈與スルコトヲ約シタル者亦同シ
第七十六條 第十一條ノ規定ニ違反シ行政廳ノ許可ヲ得スシテ障害物ヲ除却シタル者ハ五十圓以下ノ罰金ニ處ス
第七十七條 第九條又ハ第十條ノ規定ニ違反シ行政廳ノ許可ヲ得スシテ土地ニ立入リタル者ハ三十圓以下ノ罰金ニ處ス
第七十八條 故ナク鑑定人タルコトヲ拒ミタル者又ハ鑑定人カ故ナク鑑定ヲ爲スコトヲ拒ミタルトキハ四十圓以下ノ罰金ニ處ス
第七十九條 鑑定人トシテ收用審査會ニ呼出サレタル者ハ詐僞ノ陳述ヲ爲シタルトキハ一年以下ノ重禁錮ニ處シ五十圓以下ノ罰金ヲ附加ス賄賂其ノ他ノ方法ヲ以テ人ニ囑托シテ詐僞ノ鑑定ヲ爲サシメタル者亦同シ
第八十條 鑑定人又ハ第四十三條第二項若ハ第五十九條ノ規定ニ依リ呼出ヲ受ケタル者故ナク出頭セサルトキハ二十圓以下ノ罰金ニ處ス
第十章 訴願及訴訟
第八十一條 收用審査會ノ裁決ニ對シテ不服アル者ハ內務大臣ニ訴願スルコトヲ得
收用審査會ノ違法裁決ニ由リ權利ヲ傷害セラレタリトスル者ハ行政裁判所ニ出訴スルコトヲ得
前二項ノ規定ニ依ル訴願訴訟ハ裁決書謄本ノ交付ヲ受ケタル日ヨリ二週間ヲ經過シタルトキハ之ヲ提起スルコトヲ得ス
本法ノ規定ニ依リ通常裁判所ニ出訴ヲ許シタル事項ニ關シテハ訴願又ハ行政訴訟ヲ提起スルコトヲ得ス
第八十二條 收用審査會ノ裁決中補償金額ノ決定ニ對シテ不服アル者ハ通常裁判所ニ出訴スルコトヲ得但シ裁決書謄本ノ交付ヲ受ケタル日ヨリ三箇月ヲ經過シタルトキハ此ノ限ニ在ラス
前項ノ訴訟ハ收用審査會ニ對シテ之ヲ提起スルコトヲ得ス
第五十九條ノ規定ニ依ル地方長官ノ決定ニ付テハ前二項ノ規定ヲ準用ス
第八十三條 本法ノ規定ニ依ル訴願訴訟ハ事業ノ進行及土地ノ收用又ハ使用ヲ停止セス
附 則
第八十四條 本法ハ明治三十三年四月一日ヨリ施行ス
第八十五條 明治二十二年法律第十九號土地收用法ノ規定ニ依リ收用又ハ使用ニ關シテ爲シタル手續其ノ他ノ行爲ハ本法ノ規定ニ依リテ爲シタルモノト看做ス
明治二十二年法律第十九號土地收用法ノ規定ニ依リ收用シタル土地ニ關シテハ第六十六條ノ期間ハ本法施行ノ日ヨリ之ヲ起算ス
明治八年太政官達第百三十二號公用土地買上規則ニ依リ買上ケ現ニ國有タル土地ハ命令ノ定ムル所ニ依リ本條ノ規定ヲ準用ス
第八十六條 收用審査會ノ爲スヘキ職務ハ北海道及沖繩縣ニ於テハ地方長官之ヲ行フ
郡長ノ爲スヘキ職務ハ支廳長又ハ島司ヲ置キタル地ニ於テハ支廳長又ハ島司之ヲ行ヒ支廳長又ハ島司ヲ置カサル地ニ於テハ支廳長又ハ島司ニ準スヘキ吏員之ヲ行ヒ支廳長又ハ島司ニ準スヘキ吏員ヲ置カサル地ニ於テハ町村長ニ準スヘキ吏員之ヲ行フ
市長ノ爲スヘキ職務ハ北海道及沖繩縣ニ於テ區長ヲ置キタル地ニ於テハ區長之ヲ行フ
町村長ノ爲スヘキ職務ハ町村制ヲ施行セサル地ニ於テハ町村長ニ準スヘキ吏員之ヲ行ヒ町村長ニ準スヘキ吏員ヲ置カサル地ニ於テハ郡長ニ準スヘキ吏員之ヲ行フ
第八十七條 明治二十二年勅令第五號東京市區改正土地建物處分規則其ノ他別段ノ定アルモノハ各其ノ定ムル所ニ依ル
第八十八條 明治二十二年法律第十九號土地收用法明治二十三年法律第五十四號土地收用協議會規則及明治三十二年法律第七十二號ハ之ヲ廢止ス
朕帝国議会ノ協賛ヲ経タル土地収用法ヲ裁可シ茲ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
明治三十三年三月六日
内閣総理大臣 侯爵 山県有朋
内務大臣 侯爵 西郷従道
法律第二十九号
土地収用法
第一章
総則
第二章
事業ノ準備
第三章
事業ノ認定
第四章
収用ノ手続
第五章
収用審査会
第六章
損失ノ補償
第七章
収用ノ効果
第八章
費用ノ負担
第九章
監督、強制及罰則
第十章
訴願及訴訟
附 則
土地収用法
第一章 総則
第一条 公共ノ利益ト為ルヘキ事業ノ為之ニ要スル土地ヲ収用又ハ使用スルノ必要アルトキハ其ノ土地ハ本法ノ規定ニ依リ之ヲ収用又ハ使用スルコトヲ得
本法ニ於テ使用ト称スルハ権利ノ制限ヲ包含ス
第二条 土地ヲ収用又ハ使用スルコトヲ得ル事業ハ左ノ各号ノ一ニ該当スルモノナルコトヲ要ス
一 国防其ノ他軍事ニ関スル事業
二 官庁又ハ公署建設ニ関スル事業
三 教育、学芸又ハ慈善ニ関スル事業
四 鉄道、軌道、道路、橋梁、河川、堤防、砂防、運河、用悪水路、溜池、船渠、港湾、埠頭、水道、下水、電気機、瓦斯灯又ハ火葬場ニ関スル事業
五 衛生、測候、航路標識、防風、防火、水害予防其ノ他公用ノ目的ヲ以テ国府県郡市町村其ノ他公共団体ニ於テ施設スル事業
第三条 本法又ハ本法ニ基ツキテ発スル命令ニ規定シタル起業者ノ権利義務ハ事業ト共ニ其ノ承継人ニ移転ス
第四条 本法又ハ本法ニ基ツキテ発スル命令ノ規定ニ依リ為シタル手続其ノ他ノ行為ハ起業者、土地所有者又ハ関係人ノ承継人ニ対シテモ其ノ効力ヲ有ス
第五条 本法ニ於テ土地所有者ト称スルハ収用又ハ使用スヘキ土地ノ所有者ヲ謂フ
本法ニ於テ関係人ト称スルハ収用又ハ使用スヘキ土地ニ関シテ権利ヲ有スル者ヲ謂フ
第十九条ノ地方長官ノ公告又ハ通知ノ後其ノ土地ニ関シテ権利ヲ取得シタル者ハ関係人ト看做サス但シ既存ノ権利ヲ承継シタル者ハ此ノ限ニ在ラス
第六条 本法又ハ本法ニ基ツキテ発スル命令ニ規定シタル期間ノ計算法、通知ノ方法及書類ノ送達ニ関シテハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第七条 本法ノ規定ハ水ノ使用ニ関スル権利其ノ他土地ニ関スル所有権以外ノ権利ノ収用又ハ使用ヲ為ス場合ニ之ヲ準用ス
第八条 本法ノ規定ハ土地ニ属スル土石砂礫ノ収用ヲ為ス場合ニ之ヲ準用ス
第二章 事業ノ準備
第九条 事業ノ準備ノ為必要アルトキハ起業者ハ事業ノ種類及立入ルヘキ土地ノ区域ヲ定メ地方長官ノ許可ヲ得テ土地ニ立入リ測量又ハ検査ヲ為スコトヲ得但シ此ノ場合ニ於テ宮内省又ハ国ノ起業ニ係ルトキハ宮内大臣又ハ主務大臣ハ之ヲ地方長官ニ通知スヘシ
地方長官前項ノ許可ヲ与ヘ又ハ通知ヲ受ケタルトキハ起業者、事業ノ種類及立入ルヘキ土地ノ区域ヲ公告シ又ハ之ヲ其ノ土地占有者ニ通知スヘシ
第十九条ノ地方長官ノ公告又ハ通知ノ後起業者カ事業ノ準備ノ為其ノ土地ニ立入リ測量又ハ検査ヲ為ス場合ニ於テハ本条ノ許可又ハ通知ヲ要セス
第十条 前条ノ場合ニ於テハ起業者ハ立入ルヘキ日ヨリ五日前ニ其ノ日時及場所ヲ市町村長ニ通知スヘシ市町村長ハ之ヲ公告シ又ハ其ノ土地占有者ニ通知スヘシ
邸内ニ立入ル場合ニ於テハ起業者ハ予メ其ノ占有者ニ通知スヘシ
日出前日没後邸内ニ立入ル場合ニ於テハ起業者ハ特ニ行政庁ノ許可ヲ受クヘシ
第十一条 第九条ノ規定ニ依ル測量又ハ検査ノ為必要アルトキハ起業者ハ行政庁ノ許可ヲ得テ障害物ヲ除却スルコトヲ得
前項ノ規定ニ依リ障害物ノ除却ヲ為ス場合ニ於テハ起業者ハ三日前ニ其ノ所有者及占有者ニ通知スヘシ
第三章 事業ノ認定
第十二条 土地ヲ収用又ハ使用スルコトヲ得ル事業ハ内閣之ヲ認定ス但シ軍機ニ関スル事業ハ此ノ限ニ在ラス
第十三条 起業者カ内閣ノ認定ヲ受ケムトスルトキハ事業計画書及図面ヲ添ヘ地方長官ヲ経由シテ内務大臣ニ申請スヘシ内務大臣ハ之ヲ審査シ内閣ニ提出スヘシ
宮内省又ハ国ノ起業ニ係ルトキハ宮内大臣又ハ主務大臣ハ事業計画書及図面ヲ添ヘ内務大臣ニ協議ヲ為シ之ヲ内閣ニ提出スヘシ
第十四条 内閣カ認定ヲ為シタルトキハ起業者及事業ノ種類並起業地ヲ公告スヘシ
第十五条 天災事変ニ際シ急施ヲ要スル事業ノ為土地ヲ使用スルトキハ郡市長ハ其ノ事業ノ認定ヲ為スコトヲ得
前項ノ使用ノ期間ハ六箇月ヲ超ユルコトヲ得ス
軍事上臨時急施ヲ要スル事業ノ為土地ヲ使用スルトキハ主務大臣ハ使用スヘキ土地ノ区域ヲ郡市長ニ通知スヘシ
第十六条 起業者カ郡市長ノ認定ヲ受ケムトスルトキハ事業ノ種類、使用スヘキ土地ノ区域及使用ノ期間ヲ定メ郡市長ニ申請スヘシ
第十七条 郡市長カ認定ヲ為シタルトキハ起業者、事業ノ種類、使用スヘキ土地ノ区域及使用ノ期間ヲ土地所有者及占有者ニ通知スヘシ
郡市長カ第十五条第三項ノ通知ヲ受ケタルトキハ使用スヘキ土地ノ区域ヲ土地所有者及占有者ニ通知スヘシ
第十八条 起業者カ内閣ノ認定ノ公告ノ後三箇年内ニ第十九条ノ申請ヲ為ササルトキハ其ノ認定ハ効力ヲ失フ
第四章 収用ノ手続
第十九条 内閣ノ認定ノ公告ノ後起業者ノ申請ニ依リ地方長官ハ収用又ハ使用スヘキ土地ノ細目ヲ公告シ又ハ之ヲ土地所有者及関係人ニ通知スヘシ
軍機ニ関スル事業ニ付テハ主務大臣ハ地方長官ニ収用又ハ使用スヘキ土地ノ細目ヲ通知シ地方長官ハ之ヲ土地所有者及関係人ニ通知スヘシ
第二十条 前条ノ地方長官ノ公告又ハ通知ノ後ハ起業者ハ其ノ土地ニ立入リ土地物件ヲ調査スルコトヲ得
前項ノ場合ニ於テハ起業者ハ立入ルヘキ日ヨリ三日前ニ其ノ日時及場所ヲ其ノ土地占有者ニ通知スヘシ
日出前日没後ハ占有者ノ承諾アルニ非サレハ邸内ニ立入ルコトヲ得ス
第二十一条 第十九条ノ地方長官ノ公告又ハ通知ノ後起業者カ必要ト認ムルトキハ土地所有者又ハ関係人ト共ニ土地物件ニ関スル調書ヲ作ルコトヲ得
前項ノ場合ニ於テ土地所有者又ハ関係人カ調書ヲ作ルコトヲ拒ミタルトキハ起業者ハ市町村長ノ立会ヲ以テ之ヲ作ルコトヲ得但シ市町村長カ起業者ナルトキ又ハ起業者ニ対シ第四十条第二項ニ掲ケタル関係ヲ有スルトキハ此ノ限ニ在ラス
土地所有者又ハ関係人カ調書ノ必要ヲ認メタルトキハ前二項ノ規定ヲ準用ス
起業者、土地所有者及関係人ハ本条ノ規定ニ依リ作リタル調書ノ記載事項ニ対シテ異議ヲ述フルコトヲ得ス
第二十二条 第十九条ノ地方長官ノ公告又ハ通知ノ後起業者ハ其ノ土地ニ関スル権利ヲ取得スル為土地所有者及関係人ニ協議ヲ為スヘシ
前項ノ協議調ハサルトキ又ハ協議ヲ為スコト能ハサルトキハ起業者ハ収用審査会ノ裁決ヲ求ムルコトヲ得
第二十三条 収用審査会ノ裁決ヲ求メムトスルトキハ起業者ハ其ノ申請書ニ左ニ掲ケタル書類ヲ添ヘ地方長官ニ差出スヘシ但シ軍機ニ関スル事業ニ付テハ事業計画書及図面ヲ添フルコトヲ要セス
一 事業計画書及図面
二 市区町村別ニ左ニ掲ケタル事項ヲ記載シタル書類
収用又ハ使用スヘキ土地ノ番号、地目
収用又ハ使用スヘキ土地ノ面積及其ノ土地ニ在ル物件ノ種類、数量但シ土地物件カ分割ヲ来スヘキ場合ニ於テハ其ノ全部ノ面積建坪等ヲ併記スヘシ
損失補償ノ見積金額及内訳
収用ノ時期又ハ使用ノ時期、期間
土地所有者及関係人ノ氏名、住所
収用審査会ノ裁決ヲ求メタルトキハ起業者ハ同時ニ土地所有者及関係人ニ通知スヘシ
第二十四条 前条ノ書類ヲ受ケタルトキハ地方長官ハ之ヲ市町村長ニ下付スヘシ市町村長ハ予メ公告ヲ為シ一週間之ヲ公衆ノ縦覧ニ供スヘシ
第二十五条 土地所有者及関係人ハ前条縦覧期間ノ初日ヨリ二週間内ニ地方長官ニ意見書ヲ差出スコトヲ得
第二十六条 地方長官ハ前条ノ期間ヲ経過シタル後収用審査会ヲ開クヘシ
第二十七条 収用審査会ハ開会ノ日ヨリ一週間内ニ裁決ヲ為スヘシ但シ地方長官ハ必要ト認ムルトキハ二週間内ノ延期ヲ為スコトヲ得
第二十八条 収用審査会カ前条ノ期間内ニ裁決ヲ為ササルトキハ地方長官ハ事情ヲ具シ内務大臣ノ指揮ヲ請フヘシ内務大臣ハ収用審査会ニ一定ノ期間内ニ裁決ヲ為スヘキコトヲ命シ又ハ之ニ代テ裁決ヲ為スヘキコトヲ地方長官ニ命スルコトヲ得
収用審査会カ前項ノ期間内ニ裁決ヲ為ササルトキハ地方長官ハ之ニ代テ裁決ヲ為スヘシ
第二十九条 収用審査会カ招集ニ応セス又ハ成立セサルトキハ地方長官ハ内務大臣ノ認可ヲ得テ之ニ代テ裁決ヲ為スコトヲ得事業ノ急施ヲ要スルトキ亦同シ
第三十条 収用審査会カ裁決ヲ為シタルトキハ其ノ裁決書ノ謄本ヲ添ヘ地方長官ニ報告スヘシ
第三十一条 前条ノ報告ヲ受ケ又ハ収用審査会ニ代テ裁決ヲ為シタルトキハ地方長官ハ裁決書ノ謄本ヲ起業者、土地所有者及関係人ニ送達スヘシ
第三十二条 軍機ニ関スル事業又ハ内閣ノ認定シタル事業ノ施行ニ因リテ必要ヲ生シタル道路、堤防其ノ他公用ニ供スル工作物ノ新築、改築又ハ増築ノ為土地ヲ収用又ハ使用スルトキハ地方長官ノ許可ヲ得テ直ニ本章ノ規定ニ依ルコトヲ得
第三十三条 郡市長カ認定ヲ為シ又ハ第十五条第三項ノ通知ヲ受ケタルトキハ第十七条ノ通知ノ後起業者ヲシテ直ニ其ノ土地ヲ使用セシムルコトヲ得但シ損失ノ補償ニ関シテハ本法ノ規定ニ依ルヘシ
第三十四条 起業者カ第十九条ノ地方長官ノ公告又ハ通知ノ後一箇年内ニ収用審査会ノ裁決ヲ求メサルトキハ其ノ公告又ハ通知ハ効力ヲ失フ
第五章 収用審査会
第三十五条 収用審査会ハ内務大臣ノ監督ニ属シ左ニ掲ケタル事項ヲ定メテ収用又ハ使用ノ裁決ヲ為スモノトス
一 収用又ハ使用スヘキ土地ノ区域
二 損失ノ補償
三 収用ノ時期又ハ使用ノ時期、期間
起業者ノ申請カ本法又ハ本法ニ基ツキテ発スル命令ノ規定ニ違反スルトキハ収用審査会ハ却下ノ裁決ヲ為スヘシ
第三十六条 収用審査会ハ会長一人委員六人ヲ以テ之ヲ組織ス
第三十七条 会長ハ地方長官ヲ以テ之ニ充ツ議事其ノ他ノ会務ヲ統理シ会ヲ代表ス
第三十八条 委員ハ高等文官及府県名誉職参事会員各三人ヲ以テ之ニ充ツ
高等文官ニシテ委員タルヘキ者ハ内務大臣之ヲ命シ府県名誉職参事会員ニシテ委員タルヘキ者ハ其ノ互選トス
第三十九条 収用審査会ハ委員半数以上出席スルニ非サレハ会議ヲ開クコトヲ得ス
収用審査会ノ議事ハ過半数ヲ以テ決ス可否同数ナルトキハ会長ノ決スル所ニ依ル
第四十条 委員カ起業者、土地所有者又ハ関係人ナルトキハ収用審査会ノ議事ニ参与スルコトヲ得ス
委員カ起業者、土地所有者若ハ関係人ノ配偶者、四親等内ノ親族、戸主、家族、代理人及保佐人ナルトキ又ハ起業者、土地所有者若ハ関係人タル市町村ノ市参事会員、町村長、合名会社ノ社員、合資会社及株式合資会社ノ無限責任社員、株式会社ノ取締役及監査役其ノ他法人ノ理事及監事ナルトキ亦前項ニ同シ
本条ノ規定ニ依リ委員ノ数減少シテ前条第一項ノ数ヲ得サルトキハ地方長官ハ左ニ掲ケタル順序ニ従ヒ其ノ本条ノ規定ニ牴触セサル者ノ内ヨリ臨時ニ指名シテ之ヲ補充スヘシ
一 府県名誉職参事会員
二 府県名誉職参事会員ノ補充員
三 府県会議員
第四十一条 収用審査会ノ裁決ハ起業者、土地所有者及関係人ノ申立タル範囲ヲ超ユルコトヲ得ス
第四十二条 収用審査会ハ必要ト認ムルトキハ鑑定人ヲ選ヒ其ノ意見ヲ聴クコトヲ得
前項ノ鑑定人ニ付テハ第四十条ノ規定ヲ準用ス
第四十三条 収用審査会ハ必要ト認ムルトキハ起業者、土地所有者又ハ関係人ヲ呼出シ其ノ意見ヲ聴クコトヲ得
収用審査会ハ事実参考ノ為必要ト認ムルトキハ収用又ハ使用スヘキ土地以外ノ土地所有者ヲ呼出シ其ノ供述ヲ聴クコトヲ得
第四十四条 裁決ハ文書ヲ以テ之ヲ為シ其ノ理由ヲ附シ会長之ニ署名捺印スヘシ
裁決書ノ謄本ニハ会ノ印章ヲ押捺スヘシ
第四十五条 鑑定人及事実参考人ハ旅費及手当ヲ請求スルコトヲ得
第四十六条 二府県以上ニ渉ル事業ニ係ルトキハ関係地方長官ハ勅令ノ定ムル所ニ従ヒ合同シテ収用審査会ヲ開クコトヲ得
第六章 損失ノ補償
第四十七条 土地所有者及関係人ノ受クル損失ハ起業者之ヲ補償スヘシ
損失ノ補償ハ各人別ニ之ヲ為スヘシ但シ其ノ各人別ニ見積リ難キトキハ此ノ限ニ在ラス
第四十八条 収用スヘキ土地物件ニ付テハ相当ノ価格ニ依リ其ノ損失ヲ補償スヘシ
使用スヘキ土地ニ付テハ其ノ土地及近傍類地ノ料金ニ依リ其ノ損失ヲ補償スヘシ
第四十九条 土地ノ一部ヲ収用又ハ使用スルニ因リテ残地ノ価格ヲ減シ其ノ他残地ニ関シ損失ヲ生スヘキトキハ其ノ損失ヲ補償スヘシ
第五十条 土地ノ一部ヲ収用スルニ因リテ残地ヲ従来用井タル目的ニ供スルコト能ハサルトキハ土地所有者ハ其ノ全部ノ収用ヲ請求スルコトヲ得
第五十一条 収用又ハ使用スヘキ土地ニ在ル物件ハ移転料ヲ補償シテ移転セシムヘシ但シ物件ノ分割ヲ来シ其ノ全部ヲ移転スルニ非サレハ従来用井タル目的ニ供スルコト能ハサルトキハ所有者ハ其ノ全部ノ移転料ヲ請求スルコトヲ得
前項ノ場合ニ於テ物件ヲ移転スルニ因リテ従来用井タル目的ニ供スルコト能ハサルトキハ所有者ハ其ノ収用ヲ請求スルコトヲ得
第五十二条 前条ノ移転料ニシテ其ノ物件ノ相当価格ヲ超ユル場合ニ於テハ起業者ハ其ノ収用ヲ請求スルコトヲ得
第五十三条 土地ヲ収用又ハ使用スルニ因リテ通路、溝渠、墻柵其ノ他ノ工作物ノ新築、改築、増築又ハ修繕ヲ為ス必要ヲ生スルトキハ其ノ費用ヲ補償スヘシ
第五十四条 前数条ニ規定シタルモノノ外土地ヲ収用又ハ使用スルニ因リテ土地所有者及関係人ノ通常受クヘキ損失ハ之ヲ補償スヘシ
第五十五条 土地ノ使用カ三箇年以上ニ亘ルトキ又ハ土地ノ形質ヲ変更スルトキ若ハ使用スヘキ土地ニ建物アルトキハ所有者ハ其ノ土地ノ収用ヲ請求スルコトヲ得
第五十六条 第十九条ノ地方長官ノ公告又ハ通知ノ後行政庁ノ許可ヲ得スシテ土地ノ形質ヲ変更シ又ハ工作物ノ新築、改築、増築若ハ大修繕ヲ為シ又ハ物件ヲ附加増置シタル土地所有者又ハ関係人ハ之ニ関スル損失ノ補償ヲ請求スルコトヲ得ス
第五十七条 第九条又ハ第二十条ノ規定ニ依リ土地ニ立入リ測量、検査又ハ調査ヲ為スニ因リテ他人ニ及ホシタル損失ハ起業者之ヲ補償スヘシ
第五十八条 第十九条ノ地方長官ノ公告又ハ通知ノ後起業者カ事業ヲ廃止変更シタルニ因リテ土地所有者又ハ関係人ノ受ケタル損失ハ之ヲ補償スヘシ
第五十九条 前二条ノ補償ニ付キ協議調ハサルトキハ地方長官ノ決定ヲ求ムルコトヲ得此ノ場合ニ於テハ第三十一条及第四十一条乃至第四十五条ノ規定ヲ準用ス
第七章 収用ノ効果
第六十条 起業者ハ収用又ハ使用ノ時期迄ニ補償金ヲ払渡スヘシ
左ニ掲ケタル場合ニ於テハ補償金ヲ供託スルコトヲ得
一 補償金ヲ受クヘキ者カ其ノ受領ヲ拒ミタルトキ又ハ之ヲ受領スルコト能ハサルトキ
二 起業者カ過失ナクシテ補償金ヲ受クヘキ者ヲ確知スルコト能ハサルトキ
三 起業者カ収用審査会ノ裁決中補償金額ノ決定ニ対シテ不服アルトキ但シ補償金ヲ受クヘキ者ノ請求アルトキハ起業者ハ自己ノ見積金額ヲ払渡スヘシ
四 起業者カ補償金払渡ノ差押又ハ仮差押ヲ受ケタルトキ
第六十一条 土地所有者及関係人ハ収用又ハ使用ノ時期迄ニ土地物件ヲ引渡シ又ハ物件ヲ移転スヘシ但シ左ニ掲ケタル場合ニ於テハ起業者ノ請求ニ依リ市町村長ハ土地所有者及関係人ニ代ルモノトス
一 土地所有者及関係人カ土地物件ヲ引渡シ又ハ物件ヲ移転スルコト能ハサルトキ
二 起業者ノ過失ナクシテ土地所有者及関係人ヲ確知スルコト能ハサルトキ
第六十二条 起業者カ収用又ハ使用ノ時期迄ニ補償金ノ払渡又ハ供託ヲ為ササルトキハ収用審査会ノ裁決ハ其ノ効力ヲ失フ但シ土地所有者及関係人カ損害賠償ノ請求ヲ為スコトヲ妨ケス
第六十三条 土地物件ヲ収用スルトキハ収用ノ時期ニ於テ所有権ハ起業者之ヲ取得シ其ノ他ノ権利ハ消滅ス
土地ヲ使用スルトキハ其ノ権利ハ使用ノ時期ニ於テ起業者之ヲ取得シ其ノ他ノ権利ハ使用ノ期間其ノ行使ヲ停止セラル但シ使用ヲ妨ケサルモノハ此ノ限ニ在ラス
第六十四条 収用審査会ノ裁決ノ後収用又ハ使用スヘキ土地物件カ土地所有者又ハ関係人ノ責ニ帰スヘカラサル事由ニ因リテ滅失又ハ毀損シタルトキハ其ノ滅失又ハ毀損ハ起業者ノ負担ニ帰ス
第六十五条 先取特権、質権又ハ抵当権ハ其ノ目的物ノ収用又ハ使用ニ因リテ債務者カ受クヘキ補償金ニ対シテモ之ヲ行フコトヲ得但シ其ノ払渡前ニ差押ヲ為スヘシ
第六十六条 収用ノ時期ヨリ二十箇年内ニ事業ノ廃止其ノ他ノ事故ニ因リテ収用シタル土地ノ全部又ハ一部カ不用ニ帰シタルトキハ旧所有者又ハ其ノ相続人ハ補償価格ヲ以テ之ヲ買受ルコトヲ得但シ第五十条ノ規定ニ依リテ収用シタル残地ハ其ノ接続部分ノ不用ニ帰シタル時ニ非サレハ之ヲ買受ルコトヲ得ス
前項ノ場合ニ於テ買受ハ第三者ニ対シテモ其ノ効力ヲ有ス
第一項ノ期間内ニ於テ収用シタル土地ヲ他ノ軍機ニ関スル事業又ハ内閣ノ認定シタル事業ニ供スルトキハ不用ニ帰シタルモノト看做サス
第六十七条 前条ノ不用ノ土地アルトキハ起業者ハ旧所有者又ハ其ノ相続人ニ通知スヘシ但シ起業者ノ過失ナクシテ之ヲ確知スルコト能ハサルトキハ少クトモ三回ノ公告ヲ為スヘシ
前項ノ通知ヲ受ケタル日ヨリ二箇月内又ハ第三回ノ公告終了ノ日ヨリ六箇月内ニ旧所有者又ハ其ノ相続人カ買受ノ通知ヲ為ササルトキハ其ノ権利ヲ失フ
第八章 費用ノ負担
第六十八条 起業者、土地所有者及関係人カ本法又ハ本法ニ基ツキテ発スル命令ニ規定シタル手続其ノ他ノ行為ヲ為シ又ハ義務ヲ履行スル為ニ要シタル費用ハ各其ノ負担トス
第六十九条 収用審査会ニ要シタル費用ハ命令ヲ以テ別ニ負担者ヲ定メタルモノヲ除クノ外府県ノ負担トス第五十九条ノ場合ニ要シタル費用ニ付テ亦同シ
第七十二条ノ規定ニ依リ収用審査会ノ裁決ヲ取消シタル場合ニ於テ更ニ開クヘキ収用審査会ニ要シタル費用ハ之ヲ起業者、土地所有者及関係人ニ負担セシムルコトヲ得ス
第七十条 第七十三条第一項ノ規定ニ依リ地方長官カ義務者ノ為スヘキ事項ヲ自ラ執行シ又ハ他人ヲシテ執行セシメタル為ニ要シタル費用ハ府県ノ負担トス
府県ハ前項ノ費用ヲ各其ノ義務者ヨリ徴収スルコトヲ得但シ其ノ義務者ノ受領スヘキ補償金ヲ以テ之ヲ充ツルコトヲ得
第七十一条 土地所有者又ハ関係人ノ負担スヘキ費用ハ第六十一条但書ノ場合ニ於テハ市町村ノ負担トス
前項ノ場合ニ於テハ前条第二項ノ規定ヲ準用ス
第九章 監督、強制及罰則
第七十二条 収用審査会カ其ノ権限ヲ越エ又ハ法令ノ規定ニ違反シテ為シタル裁決ハ内務大臣之ヲ取消スコトヲ得
第七十三条 義務者カ本法又ハ本法ニ基ツキテ発スル命令ノ規定ニ依ル義務ヲ履行セス又ハ之ヲ履行スルモ一定ノ期間内ニ終了スル見込ナキトキハ地方長官ハ自ラ之ヲ執行シ又ハ他人ヲシテ之ヲ執行セシムルコトヲ得
義務者カ本法又ハ本法ニ基ツキテ発スル命令ノ規定ニ依ル義務ヲ履行セサル場合ニ於テ前項ノ規定ニ依ルコト能ハサルトキハ地方長官ハ直接ニ之ヲ強制スルコトヲ得
第七十四条 前章ノ規定ニ依リ私人ノ負担スヘキ費用ヲ支出セサル者アルトキハ行政庁ハ国税滞納処分ノ例ニ依リ之ヲ徴収スルコトヲ得
前項ノ費用ニ付テハ行政庁ハ国税ニ次キ先取特権ヲ有ス
第七十五条 収用審査会員人ノ嘱託ヲ受ケ賄賂ヲ収受シ又ハ之ヲ聴許シタルトキハ一年以下ノ重禁錮ニ処シ四十円以下ノ罰金ヲ附加ス其ノ賄賂ヲ贈与シ又ハ贈与スルコトヲ約シタル者亦同シ
第七十六条 第十一条ノ規定ニ違反シ行政庁ノ許可ヲ得スシテ障害物ヲ除却シタル者ハ五十円以下ノ罰金ニ処ス
第七十七条 第九条又ハ第十条ノ規定ニ違反シ行政庁ノ許可ヲ得スシテ土地ニ立入リタル者ハ三十円以下ノ罰金ニ処ス
第七十八条 故ナク鑑定人タルコトヲ拒ミタル者又ハ鑑定人カ故ナク鑑定ヲ為スコトヲ拒ミタルトキハ四十円以下ノ罰金ニ処ス
第七十九条 鑑定人トシテ収用審査会ニ呼出サレタル者ハ詐偽ノ陳述ヲ為シタルトキハ一年以下ノ重禁錮ニ処シ五十円以下ノ罰金ヲ附加ス賄賂其ノ他ノ方法ヲ以テ人ニ嘱托シテ詐偽ノ鑑定ヲ為サシメタル者亦同シ
第八十条 鑑定人又ハ第四十三条第二項若ハ第五十九条ノ規定ニ依リ呼出ヲ受ケタル者故ナク出頭セサルトキハ二十円以下ノ罰金ニ処ス
第十章 訴願及訴訟
第八十一条 収用審査会ノ裁決ニ対シテ不服アル者ハ内務大臣ニ訴願スルコトヲ得
収用審査会ノ違法裁決ニ由リ権利ヲ傷害セラレタリトスル者ハ行政裁判所ニ出訴スルコトヲ得
前二項ノ規定ニ依ル訴願訴訟ハ裁決書謄本ノ交付ヲ受ケタル日ヨリ二週間ヲ経過シタルトキハ之ヲ提起スルコトヲ得ス
本法ノ規定ニ依リ通常裁判所ニ出訴ヲ許シタル事項ニ関シテハ訴願又ハ行政訴訟ヲ提起スルコトヲ得ス
第八十二条 収用審査会ノ裁決中補償金額ノ決定ニ対シテ不服アル者ハ通常裁判所ニ出訴スルコトヲ得但シ裁決書謄本ノ交付ヲ受ケタル日ヨリ三箇月ヲ経過シタルトキハ此ノ限ニ在ラス
前項ノ訴訟ハ収用審査会ニ対シテ之ヲ提起スルコトヲ得ス
第五十九条ノ規定ニ依ル地方長官ノ決定ニ付テハ前二項ノ規定ヲ準用ス
第八十三条 本法ノ規定ニ依ル訴願訴訟ハ事業ノ進行及土地ノ収用又ハ使用ヲ停止セス
附 則
第八十四条 本法ハ明治三十三年四月一日ヨリ施行ス
第八十五条 明治二十二年法律第十九号土地収用法ノ規定ニ依リ収用又ハ使用ニ関シテ為シタル手続其ノ他ノ行為ハ本法ノ規定ニ依リテ為シタルモノト看做ス
明治二十二年法律第十九号土地収用法ノ規定ニ依リ収用シタル土地ニ関シテハ第六十六条ノ期間ハ本法施行ノ日ヨリ之ヲ起算ス
明治八年太政官達第百三十二号公用土地買上規則ニ依リ買上ケ現ニ国有タル土地ハ命令ノ定ムル所ニ依リ本条ノ規定ヲ準用ス
第八十六条 収用審査会ノ為スヘキ職務ハ北海道及沖縄県ニ於テハ地方長官之ヲ行フ
郡長ノ為スヘキ職務ハ支庁長又ハ島司ヲ置キタル地ニ於テハ支庁長又ハ島司之ヲ行ヒ支庁長又ハ島司ヲ置カサル地ニ於テハ支庁長又ハ島司ニ準スヘキ吏員之ヲ行ヒ支庁長又ハ島司ニ準スヘキ吏員ヲ置カサル地ニ於テハ町村長ニ準スヘキ吏員之ヲ行フ
市長ノ為スヘキ職務ハ北海道及沖縄県ニ於テ区長ヲ置キタル地ニ於テハ区長之ヲ行フ
町村長ノ為スヘキ職務ハ町村制ヲ施行セサル地ニ於テハ町村長ニ準スヘキ吏員之ヲ行ヒ町村長ニ準スヘキ吏員ヲ置カサル地ニ於テハ郡長ニ準スヘキ吏員之ヲ行フ
第八十七条 明治二十二年勅令第五号東京市区改正土地建物処分規則其ノ他別段ノ定アルモノハ各其ノ定ムル所ニ依ル
第八十八条 明治二十二年法律第十九号土地収用法明治二十三年法律第五十四号土地収用協議会規則及明治三十二年法律第七十二号ハ之ヲ廃止ス