土地収用法
法令番号: 法律第十九號
公布年月日: 明治22年7月31日
法令の形式: 法律
朕土地收用法ヲ裁可シ玆ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
明治二十二年七月三十日
內閣總理大臣 伯爵 黑田淸隆
內務大臣 伯爵 松方正義
法律第十九號
土地收用法
第一章 總則
第一條 公共ノ利益ノ爲メノ工事ニシテ必要アルトキハ此法律ノ定ムル所ニ依リ損失ヲ補償シテ土地ヲ收用又ハ使用スルコトヲ得
土地ノ使用ハ三年以內ニ限ル但一年以上ニ亘リ又ハ使用ノ爲メ土地ノ形質ヲ變更スルトキ又ハ建物アル土地ハ所有者ノ請求ニ依リ之ヲ收用スヘシ
第二條 左ノ種類ノ工事ニ要スル土地ハ內閣ニ於テ公共ノ利益ニシテ必要ナルコトヲ認定シタル後此法律ヲ適用スルコトヲ得但國防上ノ工事ニ關スル認定ハ此限ニアラス
一 國防其他兵事ニ要スル土地
二 政府、府縣郡市町村及公共組合ノ直接ノ公用ニ供スル土地
三 官立公立ノ學校病院其他學藝及慈善ノ用ニ供スル土地
四 鐵道電信航路標識及測候所ノ建設用地
五 河川溝渠ノ掘鑿道路橋梁埠頭水道及下水ノ築造用地
六 防火及水害豫防竝檢疫所火葬場其他公衆ノ衞生ニ要スル土地
第三條 前條ノ工事ノ爲メ土地ヲ收用又ハ使用セントスルノ必要アルトキハ起業者ハ工事計畫書竝圖面ヲ製シ地方長官ニ差出スヘシ地方長官ハ之ヲ審査シ內務大臣ニ具申シ內務大臣ハ之ヲ閣議ニ提出スヘシ
前項ノ工事政府ノ起業ニ係ルトキハ主務大臣ハ工事計畫書竝圖面ヲ製シ內務大臣ト協議シ之ヲ閣議ニ提出スヘシ
第四條 內閣ニ於テ工事ヲ認定シタルトキハ官報ヲ以テ起業者及起業地竝工事ノ種類ヲ公吿スヘシ
國防上ノ工事ニ關シテハ主務大臣ヨリ地方長官ニ通知シ地方長官ハ其土地所有者及關係人ニ通知スヘシ
第二章 土地收用ノ手續
第五條 工事ノ認定ヲ得タル後起業者ハ工事準備ノ爲メ其土地ニ立入リ測量又ハ檢査ヲ爲スコトヲ得
第六條 前條ノ場合ニ於テハ起業者ヨリ工事準備ノ爲メ立入ルヘキ場所及期日ヲ豫メ其地ノ市町村長及各所有者ニ通知スヘシ但準備ノ爲メニ生スル所ノ損失ハ起業者之ヲ補償スヘシ
若シ補償ニ付協議調ハサルトキハ市町村長一名ノ鑑定人ヲ選ヒ立會ハシメ其金額ヲ定ムヘシ
第七條 工事ノ認定前起業者計畫準備ノ爲メ其土地ニ立入リ測量又ハ檢査ヲ爲スノ必要アル場合ニ於テハ豫メ地方長官ノ認可ヲ受クヘシ但政府ノ起業ニ係ルトキハ主務大臣ヨリ豫メ地方長官ニ通知スヘシ
地方長官前項ノ認可ヲ爲シ又ハ通知ヲ受ケタルトキハ其旨ヲ吿示シ又ハ其土地所有者及關係人ニ通知スヘシ
起業者本條第一項ノ測量又ハ檢査ヲ爲ストキハ其場所及期日ヲ各所有者ニ通知スヘシ但損失ヲ補償スルトキハ前條ノ例ニ依ル
第八條 工事ノ仕樣及收用又ハ使用スヘキ土地ノ區域確定シタルトキハ起業者ハ其仕樣書竝圖面及損失補償金額見積書ヲ所有者及關係人ニ示シ協議ヲ遂クヘシ但國防上ノ用地ニ關シテハ其區域及損失補償金額見積書ヲ示シ仕樣書及圖面ヲ添フルヲ要セス
若シ協議調ハサルトキハ起業者ハ各市町村別ニ左ノ事項ヲ記載シ前項ニ揭ケタル書類ト共ニ地方長官ニ差出シ土地收用審査委員會ノ裁決ヲ請フヘシ但政府ノ起業ニ係ルトキハ主務大臣ヨリ其書類ヲ地方長官ニ送付シ土地收用審査委員會ノ裁決ヲ求ムヘシ
一 收用又ハ使用スヘキ土地ノ番號地目竝隣地ノ番號地目
二 收用又ハ使用スヘキ土地ノ段別若シ建物木石作物等アルトキハ其建坪數量但土地又ハ建物ニ分割ヲ來ス場合ニ於テハ其全部ノ段別建坪ヲ併セ記スヘシ
三 土地臺帳登記簿ニ依テ知リ得ヘキ所有者及關係人ノ氏名
四 收用又ハ使用ノ時期
五 損失補償金額竝其內譯但收用又ハ使用スヘキ土地ニ在ル建物木石作物等ノ移轉ヲ請求スルトキハ其移轉料
第九條 地方長官前條ノ書類ヲ受取リタルトキハ之ヲ市町村長ニ下付スヘシ市町村長ハ之ヲ市役所又ハ町村役場ニ備置キ十四日間公衆ノ縱覽ニ供スル旨ヲ公吿スヘシ且起業者ヲシテ特ニ所有者及關係人ニ其旨ヲ通知セシムヘシ
前項ノ公吿ニハ土地收用審査委員會ヲ開クヘキ場所、期日、所有者及關係人ヨリ意見書ヲ差出スヘキ場所ヲ記載スヘシ
第十條 收用又ハ使用スヘキ土地ノ所有者及關係人ハ前條公吿ノ日ヨリ十四日以內ニ意見書ヲ差出スヘシ若シ其期限ヲ過ルトキハ意見ヲ申立ツルコトヲ得ス
第十一條 地方長官ハ前條公吿ノ日ヨリ十四日間ヲ過キタル後土地收用審査委員會ヲ開クヘシ
土地收用審査委員會ハ仕樣其他ノ手續ヲ審査シ所有者及關係人ヨリ差出シタル意見書ノ當否、土地收用又ハ使用ノ區域收用又ハ使用ノ時期竝補償ノ金額ヲ裁決スヘシ
補償ノ金額ヲ裁決スルトキハ先ツ二名以上ノ鑑定人ヲ選ヒ其見積書ノ當否ヲ調査セシムヘシ
第十二條 土地收用審査委員會ハ七日以內ニ裁決ヲ終リ地方長官ニ之ヲ報吿スヘシ但其期限內ニ裁決スルコトヲ得サル事由アルトキハ地方長官ノ認可ヲ經テ其期限ヲ延スコトヲ得
第十三條 地方長官土地收用審査委員會ノ裁決ノ報吿ヲ受ケタルトキハ市町村長ヲシテ之ヲ起業者及所有者竝關係人ニ達セシムヘシ
第十四條 地方長官ヨリ裁決ノ達ヲ受ケタルトキハ起業者ハ補償金ヲ所有者及關係人ニ拂渡シ又ハ地方廳ニ預置キ土地ヲ受取ルヘシ但工事仕樣ニ關スル裁決ニ服セス內務大臣ニ訴願シタル場合ハ此限ニアラス
第十五條 土地收用審査委員會ノ工事仕樣ニ關スル裁決ニ服セサル者ハ裁決ノ達ヲ受ケタル日ヨリ七日以內ニ內務大臣ニ訴願スルコトヲ得內務大臣ノ裁決ヲ終ルマテハ起業者其工事ニ著手スルコトヲ得ス但內務大臣ノ裁決ハ之ヲ終審トス
補償金額ニ關スル裁決ニ服セサル者ハ裁決ノ達ヲ受ケタル日ヨリ三箇月以內ニ裁判所ニ出訴スルコトヲ得此場合ニ於テハ起業者其工事ノ著手ヲ猶豫セサルコトヲ得
第十六條 起業者土地ヲ受取リタルトキハ其登記ト倶ニ該土地ハ第三十五條ノ場合ニ於テ舊所有者原價ヲ以テ買戾ノ權ヲ有スル旨ノ記入ヲ求ムヘシ
第三章 損失補償
第十七條 收用又ハ使用スヘキ土地其他ノ補償金額ハ所有者及關係人ヲシテ相當ノ價値ヲ得セシムルヲ目的トシテ之ヲ定ムヘシ
第十八條 收用ノ爲メ土地ノ分割ヲ來シタル場合ニ於テ收用地ノ補償價格殘地ノ價格ヨリ高キ事實アルカ又ハ殘地ノ價格ヲ減スヘキ事實アルトキハ併セテ其損失ヲ補償スヘシ
土地ノ一部ヲ使用スルカ爲メ殘地ノ損失ヲ來ストキハ其補償ニ付テモ亦前項ニ同シ
第十九條 收用又ハ使用ノ爲メ所有者及關係人ニ於テ新ニ道路溝渠橋梁墻柵及井等ヲ設ケサルヲ得サル場合ニ於テハ其費用ヲ補償スヘシ
第二十條 收用ノ爲メ土地ノ分割ヲ來シ所有者ニ於テ從來該地ヲ使用セル目的ニ供スルコトヲ得サル場合ニ於テハ其土地全部ノ收用ヲ請求スルコトヲ得
收用ノ爲メ建物ノ分割ヲ來ス場合ニ於テハ所有者其建物ノ全部竝建物ニ屬スル土地全部ノ收用ヲ請求スルコトヲ得
第二十一條 收用又ハ使用ノ土地ニ附屬スル建物木石等ハ併セテ之ヲ收用又ハ使用シ作物ハ之ヲ收用スヘシ但所有者ニ於テ其移轉ヲ請求スルトキハ移轉料ヲ補償スヘシ
第二十二條 所有者補償金額ヲ增サンカ爲メ故ラニ建物雜作ヲ修補シ又ハ木石作物等ヲ增加シタル實蹟アルトキハ之ヲ補償金額中ニ算入セス所有者ヲシテ自費ヲ以テ其土地ノ收用又ハ使用ノ日マテニ之ヲ取拂ハシムヘシ
第二十三條 土地ト建物木石作物等ト其所有者ヲ異ニスル場合又ハ借地人借家人小作人等其土地ニ對シ特別ノ關係ヲ有スル者アル場合ニ於テハ其收用又ハ使用ニ因テ生スル損失ニシテ金額ニ見積ルコトヲ得ルモノニ限リ各別ニ之ヲ補償スヘシ
書入又ハ質入トナリタル土地建物ノ補償金ハ地方廳ニ預置カシメ所有者及債主連署シテ其下渡ヲ請求スルヲ竢テ拂渡スヘシ
第二十四條 補償金ノ受取人之ヲ受取ルコトヲ拒ムトキハ起業者ハ之ヲ地方廳ニ預置クヘシ
第二十五條 工事ノ仕樣竝補償金額ノ決定ノ後起業者其土地ヲ收用又ハ使用セサル以前其工事ヲ廢スル場合ニ於テ所有者及關係人之カ爲メニ損失ヲ被リタルトキハ其補償金ヲ請求スルコトヲ得收用又ハ使用ノ時期ヲ過キテ仍ホ土地ヲ收用又ハ使用セサルトキモ亦同シ
若シ補償ニ付協議調ハサルトキハ第六條第二項ノ例ニ依ル
第二十六條 收用又ハ使用ノ補償金額ノ決定ニ漏レタル損失ヲ發見シタルトキハ所有者及關係人ハ其收用又ハ使用ノ日ヨリ三箇年以內ニ其補償金ヲ請求スルコトヲ得
若シ補償ニ付協議調ハサルトキハ土地收用審査委員會ノ裁決ヲ請フヘシ
第二十七條 天災時變ニ際シ急施ヲ要スル公共ノ利益ノ爲メノ工事ハ起業者ノ申立ニ依リ郡市長之ヲ認定シ直ニ土地ヲ收用又ハ使用セシムルコトヲ得但補償ニ關スル手續ハ執行後此法律ニ依リ之ヲ行フヘシ
第二十八條 國防又ハ道路堤防鐵道及埠頭ノ工事ニ供スル土石砂礫ニシテ宅地外ニ在テ所有者使用セサルモノハ此法律ニ依リ之ヲ收用スルコトヲ得
第四章 土地收用審査委員
第二十九條 土地收用審査委員ハ府縣會常置委員ヲ以テ之ニ充テ地方長官ヲ會長トス地方長官故障アルトキハ上席高等官之ヲ代理ス
工事ノ仕樣ヲ裁決スル場合ニ於テハ其工事ノ狀況ニ依リ專門技術家ヲ委員中ニ加フヘシ
第三十條 起業者及收用又ハ使用スヘキ土地ノ所有者及關係人竝其父子兄弟ハ土地收用審査委員會ノ會議ニ與カルコトヲ得ス
前項ノ場合ニ於テ府縣會常置委員ニ缺員ヲ生スルトキハ補缺員ノ中ヲ以テ補充スヘシ
第三十一條 土地收用審査委員會ノ選定スル鑑定人竝第六條ノ鑑定人ハ其市町村ニ於テ土地ヲ所有シ且前條第一項ニ觸レサル者ニ限ル
第三十二條 土地收用審査委員會ハ起業者竝所有者及關係人ヲ呼出スコトヲ得
第三十三條 土地收用審査委員會ハ委員半數以上出席スルニ非サレハ開會スルコトヲ得ス
會議ハ多數ニ依テ決ス若シ可否ノ數相半ハスルトキハ會長之ヲ決ス
第五章 雜則
第三十四條 收用又ハ使用ノ手續ニ關スル費用土地收用審査委員會竝第六條ニ於テ要スル鑑定人ノ費用ハ總テ起業者ノ負擔トス但所有者及關係人ノ書類差出ニ關スル費用ハ總テ其自辨トス
第三十五條 起業者工事ヲ廢シ又ハ其他ノ事故ニ由リ收用シタル土地ノ全部若クハ一部不用ニ歸シタルトキハ起業者ハ直ニ其旨ヲ舊所有者ニ通知スヘシ若シ其所在不分明ナルトキハ官報及其地方ノ新聞紙ヲ以テ三囘以上公吿スヘシ
前項ノ土地ハ舊所有者原價ヲ以テ之ヲ買戾スコトヲ得
第三十六條 前條ノ通知後二箇月以內又ハ公吿後六箇月以內ニ舊所有者何等ノ申込ヲ爲サヽルトキハ買戾ノ權ヲ失フモノトス
第三十七條 起業者若シ第三十五條ノ通知又ハ公吿ヲ爲サスシテ他人ニ土地ヲ賣却讓與シタルトキハ舊所有者ハ現所有者ニ就テ原價ヲ以テ其土地ヲ買戾スコトヲ得
第三十八條 國防其他兵事上工事ノ急施ヲ要スル場合ニ於テ土地ヲ收用又ハ使用スルハ特ニ定メタル法律ノ條規ニ依ル
第三十九條 北海道沖繩縣ニ於テハ土地收用審査委員會ノ爲スヘキ事務ハ北海道廳長官沖繩縣知事之ヲ行フ
第四十條 市制町村制ノ施行ニ至ラサル地方ニ於テハ此法律ニ依リ市町村長ノ爲スヘキ事務ハ區戶長之ヲ行フ
島司ヲ置キタル地ニ於テハ郡長ノ爲スヘキ事務ハ島司之ヲ行フ
第四十一條 明治八年太政官第百三十三號達公用土地買上規則ハ此法律施行ノ日ヨリ廢止ス
朕土地収用法ヲ裁可シ茲ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
明治二十二年七月三十日
内閣総理大臣 伯爵 黒田清隆
内務大臣 伯爵 松方正義
法律第十九号
土地収用法
第一章 総則
第一条 公共ノ利益ノ為メノ工事ニシテ必要アルトキハ此法律ノ定ムル所ニ依リ損失ヲ補償シテ土地ヲ収用又ハ使用スルコトヲ得
土地ノ使用ハ三年以内ニ限ル但一年以上ニ亘リ又ハ使用ノ為メ土地ノ形質ヲ変更スルトキ又ハ建物アル土地ハ所有者ノ請求ニ依リ之ヲ収用スヘシ
第二条 左ノ種類ノ工事ニ要スル土地ハ内閣ニ於テ公共ノ利益ニシテ必要ナルコトヲ認定シタル後此法律ヲ適用スルコトヲ得但国防上ノ工事ニ関スル認定ハ此限ニアラス
一 国防其他兵事ニ要スル土地
二 政府、府県郡市町村及公共組合ノ直接ノ公用ニ供スル土地
三 官立公立ノ学校病院其他学芸及慈善ノ用ニ供スル土地
四 鉄道電信航路標識及測候所ノ建設用地
五 河川溝渠ノ掘鑿道路橋梁埠頭水道及下水ノ築造用地
六 防火及水害予防並検疫所火葬場其他公衆ノ衛生ニ要スル土地
第三条 前条ノ工事ノ為メ土地ヲ収用又ハ使用セントスルノ必要アルトキハ起業者ハ工事計画書並図面ヲ製シ地方長官ニ差出スヘシ地方長官ハ之ヲ審査シ内務大臣ニ具申シ内務大臣ハ之ヲ閣議ニ提出スヘシ
前項ノ工事政府ノ起業ニ係ルトキハ主務大臣ハ工事計画書並図面ヲ製シ内務大臣ト協議シ之ヲ閣議ニ提出スヘシ
第四条 内閣ニ於テ工事ヲ認定シタルトキハ官報ヲ以テ起業者及起業地並工事ノ種類ヲ公告スヘシ
国防上ノ工事ニ関シテハ主務大臣ヨリ地方長官ニ通知シ地方長官ハ其土地所有者及関係人ニ通知スヘシ
第二章 土地収用ノ手続
第五条 工事ノ認定ヲ得タル後起業者ハ工事準備ノ為メ其土地ニ立入リ測量又ハ検査ヲ為スコトヲ得
第六条 前条ノ場合ニ於テハ起業者ヨリ工事準備ノ為メ立入ルヘキ場所及期日ヲ予メ其地ノ市町村長及各所有者ニ通知スヘシ但準備ノ為メニ生スル所ノ損失ハ起業者之ヲ補償スヘシ
若シ補償ニ付協議調ハサルトキハ市町村長一名ノ鑑定人ヲ選ヒ立会ハシメ其金額ヲ定ムヘシ
第七条 工事ノ認定前起業者計画準備ノ為メ其土地ニ立入リ測量又ハ検査ヲ為スノ必要アル場合ニ於テハ予メ地方長官ノ認可ヲ受クヘシ但政府ノ起業ニ係ルトキハ主務大臣ヨリ予メ地方長官ニ通知スヘシ
地方長官前項ノ認可ヲ為シ又ハ通知ヲ受ケタルトキハ其旨ヲ告示シ又ハ其土地所有者及関係人ニ通知スヘシ
起業者本条第一項ノ測量又ハ検査ヲ為ストキハ其場所及期日ヲ各所有者ニ通知スヘシ但損失ヲ補償スルトキハ前条ノ例ニ依ル
第八条 工事ノ仕様及収用又ハ使用スヘキ土地ノ区域確定シタルトキハ起業者ハ其仕様書並図面及損失補償金額見積書ヲ所有者及関係人ニ示シ協議ヲ遂クヘシ但国防上ノ用地ニ関シテハ其区域及損失補償金額見積書ヲ示シ仕様書及図面ヲ添フルヲ要セス
若シ協議調ハサルトキハ起業者ハ各市町村別ニ左ノ事項ヲ記載シ前項ニ掲ケタル書類ト共ニ地方長官ニ差出シ土地収用審査委員会ノ裁決ヲ請フヘシ但政府ノ起業ニ係ルトキハ主務大臣ヨリ其書類ヲ地方長官ニ送付シ土地収用審査委員会ノ裁決ヲ求ムヘシ
一 収用又ハ使用スヘキ土地ノ番号地目並隣地ノ番号地目
二 収用又ハ使用スヘキ土地ノ段別若シ建物木石作物等アルトキハ其建坪数量但土地又ハ建物ニ分割ヲ来ス場合ニ於テハ其全部ノ段別建坪ヲ併セ記スヘシ
三 土地台帳登記簿ニ依テ知リ得ヘキ所有者及関係人ノ氏名
四 収用又ハ使用ノ時期
五 損失補償金額並其内訳但収用又ハ使用スヘキ土地ニ在ル建物木石作物等ノ移転ヲ請求スルトキハ其移転料
第九条 地方長官前条ノ書類ヲ受取リタルトキハ之ヲ市町村長ニ下付スヘシ市町村長ハ之ヲ市役所又ハ町村役場ニ備置キ十四日間公衆ノ縦覧ニ供スル旨ヲ公告スヘシ且起業者ヲシテ特ニ所有者及関係人ニ其旨ヲ通知セシムヘシ
前項ノ公告ニハ土地収用審査委員会ヲ開クヘキ場所、期日、所有者及関係人ヨリ意見書ヲ差出スヘキ場所ヲ記載スヘシ
第十条 収用又ハ使用スヘキ土地ノ所有者及関係人ハ前条公告ノ日ヨリ十四日以内ニ意見書ヲ差出スヘシ若シ其期限ヲ過ルトキハ意見ヲ申立ツルコトヲ得ス
第十一条 地方長官ハ前条公告ノ日ヨリ十四日間ヲ過キタル後土地収用審査委員会ヲ開クヘシ
土地収用審査委員会ハ仕様其他ノ手続ヲ審査シ所有者及関係人ヨリ差出シタル意見書ノ当否、土地収用又ハ使用ノ区域収用又ハ使用ノ時期並補償ノ金額ヲ裁決スヘシ
補償ノ金額ヲ裁決スルトキハ先ツ二名以上ノ鑑定人ヲ選ヒ其見積書ノ当否ヲ調査セシムヘシ
第十二条 土地収用審査委員会ハ七日以内ニ裁決ヲ終リ地方長官ニ之ヲ報告スヘシ但其期限内ニ裁決スルコトヲ得サル事由アルトキハ地方長官ノ認可ヲ経テ其期限ヲ延スコトヲ得
第十三条 地方長官土地収用審査委員会ノ裁決ノ報告ヲ受ケタルトキハ市町村長ヲシテ之ヲ起業者及所有者並関係人ニ達セシムヘシ
第十四条 地方長官ヨリ裁決ノ達ヲ受ケタルトキハ起業者ハ補償金ヲ所有者及関係人ニ払渡シ又ハ地方庁ニ預置キ土地ヲ受取ルヘシ但工事仕様ニ関スル裁決ニ服セス内務大臣ニ訴願シタル場合ハ此限ニアラス
第十五条 土地収用審査委員会ノ工事仕様ニ関スル裁決ニ服セサル者ハ裁決ノ達ヲ受ケタル日ヨリ七日以内ニ内務大臣ニ訴願スルコトヲ得内務大臣ノ裁決ヲ終ルマテハ起業者其工事ニ著手スルコトヲ得ス但内務大臣ノ裁決ハ之ヲ終審トス
補償金額ニ関スル裁決ニ服セサル者ハ裁決ノ達ヲ受ケタル日ヨリ三箇月以内ニ裁判所ニ出訴スルコトヲ得此場合ニ於テハ起業者其工事ノ著手ヲ猶予セサルコトヲ得
第十六条 起業者土地ヲ受取リタルトキハ其登記ト倶ニ該土地ハ第三十五条ノ場合ニ於テ旧所有者原価ヲ以テ買戻ノ権ヲ有スル旨ノ記入ヲ求ムヘシ
第三章 損失補償
第十七条 収用又ハ使用スヘキ土地其他ノ補償金額ハ所有者及関係人ヲシテ相当ノ価値ヲ得セシムルヲ目的トシテ之ヲ定ムヘシ
第十八条 収用ノ為メ土地ノ分割ヲ来シタル場合ニ於テ収用地ノ補償価格残地ノ価格ヨリ高キ事実アルカ又ハ残地ノ価格ヲ減スヘキ事実アルトキハ併セテ其損失ヲ補償スヘシ
土地ノ一部ヲ使用スルカ為メ残地ノ損失ヲ来ストキハ其補償ニ付テモ亦前項ニ同シ
第十九条 収用又ハ使用ノ為メ所有者及関係人ニ於テ新ニ道路溝渠橋梁墻柵及井等ヲ設ケサルヲ得サル場合ニ於テハ其費用ヲ補償スヘシ
第二十条 収用ノ為メ土地ノ分割ヲ来シ所有者ニ於テ従来該地ヲ使用セル目的ニ供スルコトヲ得サル場合ニ於テハ其土地全部ノ収用ヲ請求スルコトヲ得
収用ノ為メ建物ノ分割ヲ来ス場合ニ於テハ所有者其建物ノ全部並建物ニ属スル土地全部ノ収用ヲ請求スルコトヲ得
第二十一条 収用又ハ使用ノ土地ニ附属スル建物木石等ハ併セテ之ヲ収用又ハ使用シ作物ハ之ヲ収用スヘシ但所有者ニ於テ其移転ヲ請求スルトキハ移転料ヲ補償スヘシ
第二十二条 所有者補償金額ヲ増サンカ為メ故ラニ建物雑作ヲ修補シ又ハ木石作物等ヲ増加シタル実蹟アルトキハ之ヲ補償金額中ニ算入セス所有者ヲシテ自費ヲ以テ其土地ノ収用又ハ使用ノ日マテニ之ヲ取払ハシムヘシ
第二十三条 土地ト建物木石作物等ト其所有者ヲ異ニスル場合又ハ借地人借家人小作人等其土地ニ対シ特別ノ関係ヲ有スル者アル場合ニ於テハ其収用又ハ使用ニ因テ生スル損失ニシテ金額ニ見積ルコトヲ得ルモノニ限リ各別ニ之ヲ補償スヘシ
書入又ハ質入トナリタル土地建物ノ補償金ハ地方庁ニ預置カシメ所有者及債主連署シテ其下渡ヲ請求スルヲ竢テ払渡スヘシ
第二十四条 補償金ノ受取人之ヲ受取ルコトヲ拒ムトキハ起業者ハ之ヲ地方庁ニ預置クヘシ
第二十五条 工事ノ仕様並補償金額ノ決定ノ後起業者其土地ヲ収用又ハ使用セサル以前其工事ヲ廃スル場合ニ於テ所有者及関係人之カ為メニ損失ヲ被リタルトキハ其補償金ヲ請求スルコトヲ得収用又ハ使用ノ時期ヲ過キテ仍ホ土地ヲ収用又ハ使用セサルトキモ亦同シ
若シ補償ニ付協議調ハサルトキハ第六条第二項ノ例ニ依ル
第二十六条 収用又ハ使用ノ補償金額ノ決定ニ漏レタル損失ヲ発見シタルトキハ所有者及関係人ハ其収用又ハ使用ノ日ヨリ三箇年以内ニ其補償金ヲ請求スルコトヲ得
若シ補償ニ付協議調ハサルトキハ土地収用審査委員会ノ裁決ヲ請フヘシ
第二十七条 天災時変ニ際シ急施ヲ要スル公共ノ利益ノ為メノ工事ハ起業者ノ申立ニ依リ郡市長之ヲ認定シ直ニ土地ヲ収用又ハ使用セシムルコトヲ得但補償ニ関スル手続ハ執行後此法律ニ依リ之ヲ行フヘシ
第二十八条 国防又ハ道路堤防鉄道及埠頭ノ工事ニ供スル土石砂礫ニシテ宅地外ニ在テ所有者使用セサルモノハ此法律ニ依リ之ヲ収用スルコトヲ得
第四章 土地収用審査委員
第二十九条 土地収用審査委員ハ府県会常置委員ヲ以テ之ニ充テ地方長官ヲ会長トス地方長官故障アルトキハ上席高等官之ヲ代理ス
工事ノ仕様ヲ裁決スル場合ニ於テハ其工事ノ状況ニ依リ専門技術家ヲ委員中ニ加フヘシ
第三十条 起業者及収用又ハ使用スヘキ土地ノ所有者及関係人並其父子兄弟ハ土地収用審査委員会ノ会議ニ与カルコトヲ得ス
前項ノ場合ニ於テ府県会常置委員ニ欠員ヲ生スルトキハ補欠員ノ中ヲ以テ補充スヘシ
第三十一条 土地収用審査委員会ノ選定スル鑑定人並第六条ノ鑑定人ハ其市町村ニ於テ土地ヲ所有シ且前条第一項ニ触レサル者ニ限ル
第三十二条 土地収用審査委員会ハ起業者並所有者及関係人ヲ呼出スコトヲ得
第三十三条 土地収用審査委員会ハ委員半数以上出席スルニ非サレハ開会スルコトヲ得ス
会議ハ多数ニ依テ決ス若シ可否ノ数相半ハスルトキハ会長之ヲ決ス
第五章 雑則
第三十四条 収用又ハ使用ノ手続ニ関スル費用土地収用審査委員会並第六条ニ於テ要スル鑑定人ノ費用ハ総テ起業者ノ負担トス但所有者及関係人ノ書類差出ニ関スル費用ハ総テ其自弁トス
第三十五条 起業者工事ヲ廃シ又ハ其他ノ事故ニ由リ収用シタル土地ノ全部若クハ一部不用ニ帰シタルトキハ起業者ハ直ニ其旨ヲ旧所有者ニ通知スヘシ若シ其所在不分明ナルトキハ官報及其地方ノ新聞紙ヲ以テ三回以上公告スヘシ
前項ノ土地ハ旧所有者原価ヲ以テ之ヲ買戻スコトヲ得
第三十六条 前条ノ通知後二箇月以内又ハ公告後六箇月以内ニ旧所有者何等ノ申込ヲ為サヽルトキハ買戻ノ権ヲ失フモノトス
第三十七条 起業者若シ第三十五条ノ通知又ハ公告ヲ為サスシテ他人ニ土地ヲ売却譲与シタルトキハ旧所有者ハ現所有者ニ就テ原価ヲ以テ其土地ヲ買戻スコトヲ得
第三十八条 国防其他兵事上工事ノ急施ヲ要スル場合ニ於テ土地ヲ収用又ハ使用スルハ特ニ定メタル法律ノ条規ニ依ル
第三十九条 北海道沖縄県ニ於テハ土地収用審査委員会ノ為スヘキ事務ハ北海道庁長官沖縄県知事之ヲ行フ
第四十条 市制町村制ノ施行ニ至ラサル地方ニ於テハ此法律ニ依リ市町村長ノ為スヘキ事務ハ区戸長之ヲ行フ
島司ヲ置キタル地ニ於テハ郡長ノ為スヘキ事務ハ島司之ヲ行フ
第四十一条 明治八年太政官第百三十三号達公用土地買上規則ハ此法律施行ノ日ヨリ廃止ス