(目的)
第一条 この法律は、わが国固有の文化的資産として国民がひとしくその恵沢を享受し、後代の国民に継承されるべき古都における歴史的風土を保存するために国等において講ずべき特別の措置を定め、もつて国土愛の高揚に資するとともに、ひろく文化の向上発展に寄与することを目的とする。
(定義)
第二条 この法律において「古都」とは、わが国往時の政治、文化の中心等として歴史上重要な地位を有する京都市、奈良市、鎌倉市及び政令で定めるその他の市町村をいう。
2 この法律において「歴史的風土」とは、わが国の歴史上意義を有する建造物、遺跡等が周囲の自然的環境と一体をなして古都における伝統と文化を具現し、及び形成している土地の状況をいう。
(国及び地方公共団体の任務等)
第三条 国及び地方公共団体は、古都における歴史的風土が適切に保存されるように、この法律の趣旨の徹底を図り、かつ、この法律の適正な執行に努めなければならない。
2 一般国民は、この法律の趣旨を理解し、いやしくもこの法律の目的に反することのないように努めるとともに、国及び地方公共団体がこの法律の目的を達成するために行なう措置に協力しなければならない。
(歴史的風土保存区域の指定)
第四条 内閣総理大臣は、関係地方公共団体及び歴史的風土審議会の意見をきくとともに、関係行政機関の長に協議して、古都における歴史的風土を保存するため必要な土地の区域を歴史的風土保存区域として指定することができる。
2 内閣総理大臣は、歴史的風土保存区域の指定をするときは、その旨及びその区域を官報で公示しなければならない。
3 前二項の規定は、歴史的風土保存区域の変更について準用する。
(歴史的風土保存計画)
第五条 内閣総理大臣は、歴史的風土保存区域の指定をしたときは、関係地方公共団体及び歴史的風土審議会の意見をきくとともに、関係行政機関の長に協議して、当該歴史的風土保存区域について、歴史的風土の保存に関する計画(以下「歴史的風土保存計画」という。)を決定しなければならない。
2 歴史的風土保存計画には、次の事項を定めなければならない。
一 歴史的風土保存区域内における行為の規制その他歴史的風土の維持保存に関する事項
二 歴史的風土保存区域内においてその歴史的風土の保存に関連して必要とされる施設の整備に関する事項
三 歴史的風土特別保存地区の指定の基準に関する事項
3 内閣総理大臣は、歴史的風土保存計画を決定したときは、これを関係行政機関の長及び関係地方公共団体に送付するとともに、官報で公示しなければならない。
4 前三項の規定は、歴史的風土保存計画の変更について準用する。
(歴史的風土特別保存地区の指定)
第六条 建設大臣は、歴史的風土保存計画に基づき、歴史的風土保存区域内において、歴史的風土の保存上当該歴史的風土保存区域の枢要な部分を構成している地域について、都市計画法(大正八年法律第三十六号)の定める手続によつて、都市計画の施設として、歴史的風土特別保存地区(以下「特別保存地区」という。)を指定することができる。
2 府県は、特別保存地区の指定があつたときは、その区域内にこれを表示する標織を設置しなければならない。この場合において、特別保存地区内の土地の所有者又は占有者は、その設置を拒み、又は妨げてはならない。
(歴史的風土保存区域内における行為の届出)
第七条 歴史的風土保存区域(特別保存地区を除く。)内において、次の各号に掲げる行為をしようとする者は、政令で定めるところにより、あらかじめ府県知事にその旨を届け出なければならない。ただし、通常の管理行為、軽易な行為その他の行為で政令で定めるもの及び非常災害のため必要な応急措置として行なう行為については、この限りでない。
二 宅地の造成、土地の開墾その他の土地の形質の変更
五 前各号に掲げるもののほか、歴史町風土の保存に影響を及ぼすおそれのある行為で政令で定めるもの
2 府県知事は、前項の届出があつた場合において、歴史的風土の保存のため必要があると認めるときは、当該届出をした者に対し、必要な助言又は勧告をすることができる。
3 国の機関は、第一項の規定により届出を要する行為をしようとするときは、あらかじめ府県知事にその旨を通知しなければならない。
(特別保存地区内における行為の制限)
第八条 特別保存地区内においては、次の各号に掲げる行為は、府県知事の許可を受けなければ、してはならない。ただし、通常の管理行為、軽旨な行為その他の行為で政令で定めるもの、非常災害のため必要な応急措置として行なう行為及び当該特別保存地区の指定の際すでに着手している行為については、この限りでない。
二 宅地の造成、土地の開墾その他の土地の形質の変更
七 前各号に掲げるもののほか、歴史的風土の保存に影響を及ぼすおそれのある行為で政令で定めるもの
2 府県知事は、前項各号に掲げる行為で政令で定める基準に適合しないものについては、同項の許可をしてはならない。
3 建設大臣は、第一項ただし書若しくは同項第七号又は前項の政令の制定又は改廃の立案をしようとするときは、あらかじめ歴史的風土審議会の意見をきかなければならない。
4 第一項の許可には、歴史的風土を保存するため必要な限度において、期限その他の条件を附することができる。
5 府県知事は、歴史的風土の保存のため必要があると認めるときは、第一項の規定に違反し、又は前項の規定により許可に附せられた条件に違反した者に対して、その保存のため必要な限度において、原状回復を命じ、又は原状回復が著しく困難である場合に、これに代わるべき必要な措置をとるべき旨を命ずることができる。この場合において、当該命ぜられた行為を履行しない場合における代執行に関しては、行政代執行法(昭和二十三年法律第四十三号)の定めるところによる。
6 府県知事は、前項前段の規定により原状回復又はこれに代わるべき必要な措置(以下「原状回復等」という。)を命じようとするときは、あらかじめ当該原状回復等を命ずべき者について聴聞を行なわなければならない。ただし、その者が正当な理由がなくて聴聞に応じないとき、又は緊急やむを得ないときは、この限りでない。
7 第五項前段の規定により原状回復等を命じようとする場合において、過失がなくて当該原状回復等を命ずべき者を確知することができないときは、府県知事は、その者の負担において、当該原状回復等をみずから行ない、又はその命じた者若しくは委任した者にこれを行なわせることができる。この場合においては、相当の期限を定めて、当該原状回復等を行なうべき旨及びその期限までに当該原状回復等を行なわないときは、府県知事又はその命じた者若しくは委任した者が当該原状回復等を行なうべき旨をあらかじめ公告しなければならない。
8 国の機関が行なう行為については、第一項の許可を受けることを要しない。この場合において、当該国の機関は、その行為をしようとするときは、あらかじめ府県知事に協議しなければならない。
(損失の補償)
第九条 前条第一項の許可を得ることができないため損失を受けた者がある場合においては、府県は、その損失を受けた者に対して通常生ずべき損失を補償しなければならない。ただし、次の各号の一に該当する場合における当該許可の申請に係る行為については、この限りでない。
一 前条第一項の許可の申請に係る行為について、第十条に規定する法律(これに基づく命令を含む。以下この号において同じ。)の規定により許可を必要とされている場合において、当該法律の規定により不許可の処分がなされたとき。
二 前条第一項の許可の申請に係る行為が社会通念上特別保存地区の指定の趣旨に著しく反すると認められるとき。
2 前項の規定による損失の補償については、府県知事と損失を受けた者とが協議しなければならない。
3 前項の規定による協議が成立しない場合においては、府県知事又は損失を受けた者は、政令で定めるところにより、収用委員会に土地収用法(昭和二十六年法律第二百十九号)第九十四条の規定による裁決を申請することができる。
(行為の禁止又は制限に関する他の法律の適用)
第十条 第七条及び第八条の規定は、歴史的風土保存区域内における工作物の新築、改築又は増築、土地の形質の変更その他の行為についての禁止又は制限に関する都市計画法、建築基準法(昭和二十五年法律第二百一号)、文化財保護法(昭和二十五年法律第二百十四号)、奈良国際文化観光都市建設法(昭和二十五年法律第二百五十号)、京都国際文化観光都市建設法(昭和二十五年法律第二百五十一号)その他の法律(これらに基づく命令を含む。)の規定の適用を妨げるものではない。
(土地の買入れ)
第十一条 府県は、特別保存地区内の土地で歴史的風土の保存上必要があると認めるものについて、当該土地の所有者から第八条第一項の許可を得ることができないためその土地の利用に著しい支障をきたすこととなることにより当該土地を府県において買い入れるべき旨の申出があつた場合においては、当該土地を買い入れるものとする。
2 前項の規定による買入れをする場合における土地の価額は、時価によるものとし、政令で定めるところにより、評価基準に基づいて算定しなければならない。
(買い入れた土地の管理)
第十二条 府県は、前条の規定により買い入れた土地については、この法律の目的に適合するように管理しなければならない。
(歴史的風土保存計画の実施に要する経費)
第十三条 国は、歴史的風土保存計画を実施するため必要な資金の確保を図り、かつ、国の財政の許す範囲内において、その実施を促進することに努めなければならない。
(費用の負担及び補助)
第十四条 国は、第九条の規定による損失の補償及び第十一条の規定による土地の買入れに要する費用については、政令で定めるところにより、その一部を負担する。
2 国は、地方公共団体が歴史的風土保存計画に基づいて行なう歴史的風土の維持保存及び施設の整備に要する費用については、予算の範囲内において、政令で定めるところにより、当該地方公共団体に対し、その一部を補助することができる。
(地方税の不均一課税に伴う措置)
第十五条 地方税法(昭和二十五年法律第二百二十六号)第六条の規定により、古都たる市町村が特別保存地区内における家屋又は土地に対する固定資産税に係る不均一の課税をした場合において、その措置が政令で定める場合に該当するものと認められるときは、地方交付税法(昭和二十五年法律第二百十一号)第十四条の規定による当該市町村の各年度における基準財政収入額は、同条の規定にかかわらず、当該市町村の当該各年度分の減収額のうち自治省令で定めるところにより算定した額を同条の規定による当該市町村の当該各年度(その措置が自治省令で定める日以後において行なわれたときは、当該減収額について当該各年度の翌年度)における基準財政収入額となるべき額から控除した額とする。
(歴史的風土審議会)
第十六条 総理府に、附属機関として、歴史的風土審議会(以下「審議会」という。)を置く。
2 審議会は、この法律の規定によりその権限に属させられた事項を処理するほか、内閣総理大臣又は関係各大臣の諮問に応じ、歴史的風土の保存に関する重要事項を調査審議する。
3 審議会は、前項に規定する事項に関し、内閣総理大臣又は関係大臣に意見を述べることができる。
4 審議会は、その所掌事務を遂行するため必要があると認めるときは、関係行政機関の長、関係地方公共団体の長又は関係団体に対し、資料の提出、意見の開陳、説明その他必要な協力を求めることができる。
2 委員は、関係行政機関の職員、関係地方公共団体の長及び学識経験のある者のうちから内閣総理大臣が任命する。
3 学識経験のある者のうちから任命される委員の任期は、二年とする。ただし、補欠の委員の任期は、前任者の残任期間とする。
5 審議会に、会長を置き、委員の互選によつてこれを定める。
6 会長は、会務を総理する。会長に事故があるときは、会長があらかじめ指名する委員が、その職務を代理する。
7 専門の事項を調査させるため、審議会に、専門委員を置くことができる。専門委員は、関係行政機関の職員及び学識経験のある者のうちから、内閣総理大臣が任命する。
9 この法律に定めるもののほか、審議会の組織及び運営に関し必要な事項は、政令で定める。
(報告、立入調査等)
第十八条 府県知事は、歴史的風土の保存のため必要があると認めるときは、その必要な限度において、特別保存地区内の土地の所有者その他の関係者に対して、第八条第一項各号に掲げる行為の実施状況その他必要な事項について報告を求めることができる。
2 府県知事は、第八条第一項、第四項又は第五項前段の規定による権限を行なうため必要があると認めるときは、その必要な限度において、その職員をして、特別保存地区内の土地に立ち入り、その状況を調査させ、又は同条第一項各号に掲げる行為の実施状況を検査させることができる。
3 前項に規定する職員は、その身分を示す証明書を携帯し、関係人の請求があつたときは、これを提示しなければならない。
4 第二項の規定による立入調査又は立入検査の権限は、犯罪捜査のために認められたものと解してはならない。
(大都市の特例)
第十九条 この法律中府県が処理することとされている事務又は府県知事の権限に属するものとされている事務は、地方自治法(昭和二十二年法律第六十七号)第二百五十二条の十九第一項の指定都市(以下この条において「指定都市」という。)においては、指定都市が処理し、又は指定都市の長が行なうものとする。この場合においては、この法律中府県又は府県知事に関する規定は、指定都市又は指定都市の長に関する規定として指定都市又は指定都市の長に適用があるものとする。
(罰則)
第二十条 第八条第五項前段の規定による命令に違反した者は、一年以下の徴役又は十万円以下の罰金に処する。
第二十一条 次の各号の一に該当する者は、六月以下の懲役又は五万円以下の罰金に処する。
二 第八条第四項の規定により許可に附せられた条件に違反した者
第二十二条 次の各号の一に該当する者は、一万円以下の罰金に処する。
一 第六条第二項の規定により設置した標識を移動し、汚損し、又は破壊した者
二 第十八条第一項の規定による報告をせず、又は虚偽の報告をした者
三 第十八条第二項の規定による立入調査又は立入検査を拒み、妨げ、又は忌避した者
第二十三条 第七条第一項の規定による届出をせず、又は虚偽の届出をした者は、一万円以下の過料に処する。
第二十四条 法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者がその法人又は人の業務又は財産に関して第二十条から第二十二条までに規定する違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人又は人に対して各本条の罰金刑を科する。