外資に関する法律をここに公布する。
御名御璽
昭和二十五年五月十日
内閣総理大臣 吉田茂
法律第百六十三号
外資に関する法律
目次
第一章
総則(第一條―第九條)
第二章
外国資本の投下の届出又は認可(第十條―第十四條)
第三章
外国資本の投下に伴う送金(第十五條・第十六條)
第四章
外国資本の保護(第十七條)
第五章
外国投資家の投資及び事業活動の調整(第十八條・第十九條)
第六章
雑則(第二十條―第二十五條)
第七章
罰則(第二十六條―第二十九條)
附則
第一章 総則
(目的)
第一條 この法律は、日本経済の自立とその健全な発展及び国際收支の改善に寄與する外国資本に限りその投下を認め、外国資本の投下に伴つて生ずる送金を確保し、且つ、これらの外国資本を保護する適切な措置を講じ、もつてわが国に対する外国資本の投下のための健全な基礎を作ることを目的とする。
(外国資本の投下の原則)
第二條 わが国に対する外国資本の投下は、できる限り自由に認められるべきものとし、この法律に基く届出又は認可の制度は、その必要の減少に伴い逐次緩和又は廃止されるものとする。
(定義)
第三條 この法律又はこの法律に基く命令の適用を齊一にするため、左に掲げる用語は、左の定義に従うものとする。
一 「外国投資家」とは、左に掲げるものをいう。
イ 外国為替及び外国貿易管理法(昭和二十四年法律第二百二十八号)第六條第一項の非居住者(法人を除く。)
ロ 外国法に基いて設立された法人その他の団体又は外国に本店若しくは主たる事務所を有する法人その他の団体。但し、外資委員会の指定するものを除く。
ハ イ又はロに掲げるものが直接又は間接に株式又は持分の全部を所有している法人その他の団体
ニ イ又はロに掲げるものが実質的に支配している法人その他の団体
ホ イからニまでに掲げるものの外、外国人の財産取得に関する政令(昭和二十四年政令第五十一号)第二條第一項に掲げるもの
二 「本邦」、「外国」、「本邦通貨」、「外国通貨」、「居住者」、「対外支拂手段」及び「財産」とは、外国為替及び外国貿易管理法第六條第一項の本邦、外国、本邦通貨、外国通貨、居住者、対外支拂手段及び財産をいう。
三 「技術援助契約」とは、工業所有権その他の技術に関する権利の讓渡、これらに関する使用権の設定、工場経営に関する技術の指導その他外資委員会の指定するもの(以下「技術援助」という。)に関する契約で、その対価の支拂の期間が一年をこえるもの又は当該契約の更新の結果当該期間が通じて一年をこえるに至るものをいう。
2 前項第一号ハ又はニの法人その他の団体に該当するかどうか明白でない場合は、外資委員会の定めるところによる。
(対外の貸借及び收支に関する勘定)
第四條 大蔵大臣は、政令で定めるところにより、対外の貸借及び收支に関する勘定を作成し、これを明確にしておかなければならない。
2 大蔵大臣は、前項に規定する勘定を定期的に内閣に報告しなければならない。
3 大蔵大臣は、政令で定めるところにより、関係行政機関その他の者に対し、第一項に規定する勘定の作成に関し必要な資料の提出を求めることができる。
(負債超過又は支拂困難のおそれのある場合の措置)
第五條 大蔵大臣は、前條に規定する勘定に基いて、対外負債が対外資産を著しく超過し、新たな外国資本の投下に伴つて必要な外国へ向けた支拂(対外支拂手段による支拂を含む。以下同じ。)が困難となるおそれがあると認めるときは、内閣に対してその旨を報告しなければならない。
2 外資委員会又は主務大臣は、前項の報告があつた場合においては、内閣が当該報告に基いてその方針を決定するまでは、外国投資家に対して新たな負債を負い又は当該負債に基いて外国へ向けて新たな支拂をする行為に対して、許可、認可、承認その他の処分をしてはならない。
3 外資委員会又は主務大臣は、内閣が第一項の報告に基いてその方針を決定した場合においては、外国投資家に対して新たな負債を負い又は当該負債に基いて外国へ向けて新たな支拂をする行為に対して許可、認可、承認その他の処分をするときは、当該方針に従つてこれらの処分をしなければならない。
4 前二項の規定は、外資委員会又は主務大臣が法令に基いて既に行つた許可、認可、承認その他の処分によつて外国投資家が取得した権利を侵害するものと解してはならない。
(外国為替予算に関する措置)
第六條 閣僚審議会は、第四條に規定する勘定を参しやくして、この法律に規定する契約により外国投資家に対して負担する負債に基いて外国へ向けた支拂をすることのできる額を外国為替予算に計上しなければならない。
(援助希望技術の公表)
第七條 外資委員会は、外資委員会規則で定めるところにより、外国投資家からの技術援助を希望する技術の種類を公表しなければならない。
2 外資委員会は、前項の規定により公表した技術の種類を随時変更することができる。
(認可、許可又は勧告の基準)
第八條 外資委員会又は大蔵大臣がこの法律に規定する契約について認可又は許可をする場合の基準は、左の通りとし、その認可又は許可に当つては、国際收支の改善に有効に寄與するものを優先させなければならない。
一 直接又は間接に国際收支の改善に寄與すること。
二 直接又は間接に重要産業又は公益事業の発達に寄與すること。
三 重要産業又は公益事業に関する従来の技術援助契約の更新又は継続に必要であること。
2 外資委員会又は大蔵大臣は、左の各号の一に該当する場合においては、この法律に規定する契約について認可又は許可をしてはならない。
一 契約の條項が公正でない場合又は法令に違反する場合
二 契約の締結又は更新が、詐欺、強迫又は不当な圧迫によると認められる場合
三 日本経済の復興に惡影響を及ぼすものと認められる場合
四 社債、貸付金債権、株式又は持分の取得の対価として本邦通貨を用いる場合に、当該本邦通貨が、当該取得のために対外支拂手段を合法的に交換して得たもの、本邦における正当な事業活動により取得したものその他適法に取得したものでない場合
3 前二項の規定は、この法律の規定に基いて外資委員会が許可、認可又は承認をすべき旨の勧告をする場合に準用する。
(送金條項の表示)
第九條 外国投資家が技術援助の対価又は社債若しくは貸付金債権の利子若しくは元本の償還金を外国へ向けた支拂によつて受領しようとするときは、技術援助契約又は社債の引受若しくは貸付に関する契約の中において、その旨が明らかにされなければならない。
2 外国投資家が配当金又は社債の利子若しくは元本の償還金を外国へ向けた支拂によつて受領しようとするときは、当該配当金、利子又は元本の償還金を生ずる株式、持分又は社債の取得について外資委員会の認可を申請する書面の中において、その旨が明らかにされなければならない。
第二章 外国資本の投下の届出又は認可
(技術援助契約の認可)
第十條 外国投資家及びその相手方は、技術援助契約を締結し、又は更新(当該更新の結果、その対価の支拂の期間が通じて一年をこえるに至るものに限る。以下同じ。)しようとするときは、外資委員会規則で定めるところにより、外資委員会の認可を受けなければならない。
(株式又は持分の取得の認可又は届出)
第十一條 外国投資家は、日本の法令により設立した法人の株式又は持分を取得しようとするとき(次項の規定により届け出なければならない場合を除く。)は、外資委員会規則で定めるところにより、外資委員会の認可を受けなければならない。
2 外国投資家は、日本の法令により設立した法人の株式又は持分で左の各号の一に該当するものを取得しようとする場合であつて、当該株式又は持分の配当金を外国へ向けた支拂により受領しようとしないときは、外資委員会規則で定めるところにより、あらかじめその旨を外資委員会に届け出なければならない。
一 適法に所有する株式又は持分に対し新たに割り当てられた株式又は持分
二 他の外国投資家から讓り受ける株式又は持分
3 前項の規定は、外国為替及び外国貿易管理法の規定による制限を排除するものではない。
4 第一項及び第二項の規定は、連合国財産である株式の回復に関する政令(昭和二十四年政令第三百十号)又は連合国財産の返還等に関する件(昭和二十一年勅令第二百九十四号)の規定に基き外国投資家が株式の回復又は持分の返還を受ける場合については適用しない。
第十二條 前條第一項の規定により外資委員会が株式又は持分の取得を認可するには、政令で定める場合を除いては、当該取得が左の各号の一に該当する場合でなければならない。
一 当該法人の財産の増加をもたらすものである場合
二 当該法人の財産の増加をもたらさないものである場合においては、当該取得が外国投資家の投資計画の一部であり、且つ、その取得の対価たる本邦通貨が当該取得のために対外支拂手段を合法的に交換して得たものである場合
(社債の取得等の認可)
第十三條 外国投資家は、日本の法令により設立した法人の社債又は貸付金債権を取得しようとする場合において、当該取得が外資委員会の認可を要する他の事項とともに行われるときは、外資委員会規則で定めるところにより、当該取得について外資委員会の認可を受けなければならない。
2 前項の認可の申請があつた場合においては、外国為替及び外国貿易管理法の規定による大蔵大臣への許可の申請があつたものとみなす。
3 外資委員会は、前項の規定によりあつたものとみなされる申請に基く大蔵大臣の許可があつた後でなければ、第一項の認可をすることができない。
(條件の指定)
第十四條 外資委員会は、この法律の規定による認可をするに際し、必要な條件を附することができる。
2 外国為替及び外国貿易管理法に規定する主務大臣が、この法律の規定により外資委員会の認可を要する事項に伴う外国へ向けた支拂に関し附すべき條件を外資委員会に指示したときは、外資委員会は、これを前項に規定する條件の中に包含させなければならない。
第三章 外国資本の投下に伴う送金
(技術援助の対価等の送金)
第十五條 第九條の規定により技術援助の対価、配当金、利子又は元本の償還金を外国へ向けた支拂により受領しようとする旨が明らかにされた場合において、この法律の規定による外資委員会の認可があつたときは、外国為替及び外国貿易管理法第二十七條の規定により当該外国へ向けた支拂が認められたものとする。但し、前條の規定により外資委員会が條件を附した場合においては、当該條件に従わなければならない。
2 前項の規定は、政令で定める場合を除いては、対外支拂手段の交換によつて得た本邦通貨その他対外支拂手段と同等の価値のあるもののいずれかによる以外の外国資本の投下に基く配当金、利子又は元本の償還金の外国へ向けた支拂については適用しない。
(事業活動に伴う利潤の送金に関する勧告)
第十六條 居住者の本邦における適法な事業活動により生ずる利潤の外国へ向けた支拂の許可に関する事項については、主務大臣は、あらかじめ外資委員会に付議しなければならない。この場合において、外資委員会は、この法律の規定により認可を要する事項に伴う外国へ向けた支拂に比し公平な取扱がなされることを確保するため、必要な勧告をするものとする。
2 前項の規定は、事案の軽微なものその他外資委員会規則で定めるものについては適用しない。
3 主務大臣は、第一項に規定する許可をする場合には、外資委員会の勧告を尊重しなければならない。
第四章 外国資本の保護
(外国資本の保護)
第十七條 この法律の施行後、政府、地方公共団体その他権限のある者が、外国為替及び外国貿易管理法以外の法律で定める手続に基いて、外国投資家が本邦において適法に所有する財産の全部又は一部を收用し、又は買收したときは、当該收用又は買收により外国投資家の受領すべき対価に相当する金額の外国へ向けた支拂を確保するため、当該対価の受領の日から一年を経過する日までの間、必要な資金が外国為替予算に計上されなければならない。
2 外国投資家が前項の規定により外国為替予算に計上された資金を使用する場合は、外国為替及び外国貿易管理法第二十七條の規定により外国へ向けた支拂を認められたものとする。
3 外国投資家が株式又は持分の所有により実質的に支配している法人の財産の全部又は一部について、第一項に規定する收用又は買收がなされた場合における当該株式又は持分に対しては、別に法律で定めるところにより、前二項に準じて取り扱うものとする。
第五章 外国投資家の投資及び事業活動の調整
(内閣への付議)
第十八條 国の行政機関(国家行政組織法(昭和二十三年法律第百二十号)第三條第二項及び第二十四條の行政機関で公正取引委員会以外のものをいう。以下同じ。)は、外国投資家の投資又は事業活動に関する重要事項につき内閣の決定を求めようとするときは、あらかじめ外資委員会の議に付さなければならない。
2 外資委員会は、前項の場合においては、当該事項についての意見を内閣に送付するものとする。
(外資委員会の勧告)
第十九條 国の行政機関は、外国投資家の投資又は事業活動に関し許可、認可、承認その他の行政処分をしようとするときは、あらかじめ外資委員会に付議して、その勧告を求めなければならない。但し、事案の軽微なものその他外資委員会規則で定めるものについては、この限りでない。
2 国の行政機関は、前項の行政処分をする場合には、外資委員会の勧告を尊重しなければならない。
第六章 雑則
(不服の申立)
第二十條 この法律の規定による外資委員会の処分に対して不服のある者は、その旨を記載した書面をもつて外資委員会に対して不服の申立をすることができる。
(聽聞)
第二十一條 外資委員会は、前條の規定による不服の申立を受理したときは、当該申立をした者に対して、相当な期間を置いて予告をした上、聽聞を行わなければならない。
2 前項の予告においては、期日、場所及び事案の内容を示さなければならない。
3 聽聞に際しては、不服の申立をした者及び利害関係人に対して、当該事案について、証拠を呈示し、意見を述べる機会を與えなければならない。
(決定)
第二十二條 外資委員会は、当該事案について、文書をもつて決定をし、その写を不服の申立をした者及び利害関係人に送付しなければならない。
(手続規定)
第二十三條 不服の申立、予告、聽聞及び決定の手続について必要な事項は、政令で定める。
(報告)
第二十四條 外国投資家又はその相手方は、この法律の規定による届出をして、又は認可を受けて、契約を締結し、若しくは更新し、又は株式、持分、社債若しくは貸付金債権を取得したときは、外資委員会規則で定めるところにより、外資委員会に報告しなければならない。
(公正取引委員会の権限等)
第二十五條 この法律の規定及びこの法律の規定に基く外資委員会の権限は、私的独占の禁示及び公正取引の確保に関する法律(昭和二十二年法律第五十四号)又は事業者団体法(昭和二十三年法律第百九十一号)の規定及びこれらの法律の規定に基く公正取引委員会の権限を変更するものと解してはならない。
第七章 罰則
第二十六條 左の各号の一に該当する者は、三年以下の懲役若しくは三十万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
一 第十條の規定に違反した者
二 第十一條第一項の規定に違反した者
三 第十三條第一項の規定に違反した者
第二十七條 第十一條第二項の規定による届出をせず、又は虚僞の届出をして、同項に規定する株式又は持分を取得した者は、一年以下の懲役若しくは十万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
第二十八條 第二十四條の規定による報告をせず、又は虚僞の報告をした者は、六月以下の懲役又は五万円以下の罰金に処する。
第二十九條 法人(第三條第一項第一号に規定する団体を含む。以下この項において同じ。)の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務又は財産に関して、前三條の違反行為をしたときは、行為者を罰する外、その法人又は人に対して各本條の罰金刑を科する。但し、法人又は人の代理人、使用人その他の従業者の当該違反行為を防止するため当該業務又は財産に対し相当の注意及び監督が盡されたことの証明があつたときは、その法人又は人については、この限りでない。
2 第三條に規定する団体を処罰する場合においては、その代表者又は管理人がその訴訟行為につきその団体を代表する外、法人を被告人とする場合の刑事訴訟に関する法律の規定を準用する。
附 則
1 この法律の施行期日は、公布の日から起算して三十日をこえない期間内において政令で定める。
2 第十條に規定する契約について、同條の規定による認可を受けたときは、当該契約に基く財産の取得については、外国人の財産取得に関する政令第三條第一項の規定を適用しない。
3 この法律の施行前に外国人の財産取得に関する政令の規定に基き外国人から株式又は持分の取得の申請があり、まだ外資委員会の認可又は不認可の処分のないものについては、当該申請に係る事項が第十一條第二項の規定による届出を要するものである場合には、同項の規定による届出が、その他の場合には、同條第一項の規定による認可の申請があつたものとみなす。
4 外国人の財産取得に関する政令の一部を次のように改正する。
第三條第一項第一号中「株式若しくは持分又は」を削る。
第六條第二号中「又は連合国財産である株式の回復に関する政令(昭和二十四年政令第三百十号)」を削り、「返還又は回復の請求権」を「返還請求権」に改め、同條第五号を次のように改める。
五 削除
第十條第一項中「ジエー・アンド・ピー・コウツ・リミテツドに対する財産の返還に関する政令(昭和二十四年政令第四十六号)又は連合国財産である株式の回復に関する政令」を「又はジエー・アンド・ピー・コウツ・リミテツドに対する財産の返還に関する政令(昭和二十四年政令第四十六号)」に、「、讓渡又は回復」を「又は讓渡」に改める。
5 前項の規定による改正前の外国人の財産取得に関する政令の規定に違反する行為でこの法律の施行前にしたものに対する罰則の適用については、なお従前の例による。
内閣総理大臣 吉田茂
法務総裁 殖田俊吉
外務大臣 吉田茂
大蔵大臣臨時代理 国務大臣 殖田俊吉
文部大臣 天野貞祐
厚生大臣 林讓治
農林大臣 森幸太郎
通商産業大臣 高瀬莊太郎
運輸大臣 大屋晋三
郵政大臣 小沢佐重喜
電気通信大臣 小沢佐重喜
労働大臣 鈴木正文
建設大臣 増田甲子七
経済安定本部総裁 吉田茂
外資に関する法律をここに公布する。
御名御璽
昭和二十五年五月十日
内閣総理大臣 吉田茂
法律第百六十三号
外資に関する法律
目次
第一章
総則(第一条―第九条)
第二章
外国資本の投下の届出又は認可(第十条―第十四条)
第三章
外国資本の投下に伴う送金(第十五条・第十六条)
第四章
外国資本の保護(第十七条)
第五章
外国投資家の投資及び事業活動の調整(第十八条・第十九条)
第六章
雑則(第二十条―第二十五条)
第七章
罰則(第二十六条―第二十九条)
附則
第一章 総則
(目的)
第一条 この法律は、日本経済の自立とその健全な発展及び国際収支の改善に寄与する外国資本に限りその投下を認め、外国資本の投下に伴つて生ずる送金を確保し、且つ、これらの外国資本を保護する適切な措置を講じ、もつてわが国に対する外国資本の投下のための健全な基礎を作ることを目的とする。
(外国資本の投下の原則)
第二条 わが国に対する外国資本の投下は、できる限り自由に認められるべきものとし、この法律に基く届出又は認可の制度は、その必要の減少に伴い逐次緩和又は廃止されるものとする。
(定義)
第三条 この法律又はこの法律に基く命令の適用を斉一にするため、左に掲げる用語は、左の定義に従うものとする。
一 「外国投資家」とは、左に掲げるものをいう。
イ 外国為替及び外国貿易管理法(昭和二十四年法律第二百二十八号)第六条第一項の非居住者(法人を除く。)
ロ 外国法に基いて設立された法人その他の団体又は外国に本店若しくは主たる事務所を有する法人その他の団体。但し、外資委員会の指定するものを除く。
ハ イ又はロに掲げるものが直接又は間接に株式又は持分の全部を所有している法人その他の団体
ニ イ又はロに掲げるものが実質的に支配している法人その他の団体
ホ イからニまでに掲げるものの外、外国人の財産取得に関する政令(昭和二十四年政令第五十一号)第二条第一項に掲げるもの
二 「本邦」、「外国」、「本邦通貨」、「外国通貨」、「居住者」、「対外支払手段」及び「財産」とは、外国為替及び外国貿易管理法第六条第一項の本邦、外国、本邦通貨、外国通貨、居住者、対外支払手段及び財産をいう。
三 「技術援助契約」とは、工業所有権その他の技術に関する権利の譲渡、これらに関する使用権の設定、工場経営に関する技術の指導その他外資委員会の指定するもの(以下「技術援助」という。)に関する契約で、その対価の支払の期間が一年をこえるもの又は当該契約の更新の結果当該期間が通じて一年をこえるに至るものをいう。
2 前項第一号ハ又はニの法人その他の団体に該当するかどうか明白でない場合は、外資委員会の定めるところによる。
(対外の貸借及び収支に関する勘定)
第四条 大蔵大臣は、政令で定めるところにより、対外の貸借及び収支に関する勘定を作成し、これを明確にしておかなければならない。
2 大蔵大臣は、前項に規定する勘定を定期的に内閣に報告しなければならない。
3 大蔵大臣は、政令で定めるところにより、関係行政機関その他の者に対し、第一項に規定する勘定の作成に関し必要な資料の提出を求めることができる。
(負債超過又は支払困難のおそれのある場合の措置)
第五条 大蔵大臣は、前条に規定する勘定に基いて、対外負債が対外資産を著しく超過し、新たな外国資本の投下に伴つて必要な外国へ向けた支払(対外支払手段による支払を含む。以下同じ。)が困難となるおそれがあると認めるときは、内閣に対してその旨を報告しなければならない。
2 外資委員会又は主務大臣は、前項の報告があつた場合においては、内閣が当該報告に基いてその方針を決定するまでは、外国投資家に対して新たな負債を負い又は当該負債に基いて外国へ向けて新たな支払をする行為に対して、許可、認可、承認その他の処分をしてはならない。
3 外資委員会又は主務大臣は、内閣が第一項の報告に基いてその方針を決定した場合においては、外国投資家に対して新たな負債を負い又は当該負債に基いて外国へ向けて新たな支払をする行為に対して許可、認可、承認その他の処分をするときは、当該方針に従つてこれらの処分をしなければならない。
4 前二項の規定は、外資委員会又は主務大臣が法令に基いて既に行つた許可、認可、承認その他の処分によつて外国投資家が取得した権利を侵害するものと解してはならない。
(外国為替予算に関する措置)
第六条 閣僚審議会は、第四条に規定する勘定を参しやくして、この法律に規定する契約により外国投資家に対して負担する負債に基いて外国へ向けた支払をすることのできる額を外国為替予算に計上しなければならない。
(援助希望技術の公表)
第七条 外資委員会は、外資委員会規則で定めるところにより、外国投資家からの技術援助を希望する技術の種類を公表しなければならない。
2 外資委員会は、前項の規定により公表した技術の種類を随時変更することができる。
(認可、許可又は勧告の基準)
第八条 外資委員会又は大蔵大臣がこの法律に規定する契約について認可又は許可をする場合の基準は、左の通りとし、その認可又は許可に当つては、国際収支の改善に有効に寄与するものを優先させなければならない。
一 直接又は間接に国際収支の改善に寄与すること。
二 直接又は間接に重要産業又は公益事業の発達に寄与すること。
三 重要産業又は公益事業に関する従来の技術援助契約の更新又は継続に必要であること。
2 外資委員会又は大蔵大臣は、左の各号の一に該当する場合においては、この法律に規定する契約について認可又は許可をしてはならない。
一 契約の条項が公正でない場合又は法令に違反する場合
二 契約の締結又は更新が、詐欺、強迫又は不当な圧迫によると認められる場合
三 日本経済の復興に悪影響を及ぼすものと認められる場合
四 社債、貸付金債権、株式又は持分の取得の対価として本邦通貨を用いる場合に、当該本邦通貨が、当該取得のために対外支払手段を合法的に交換して得たもの、本邦における正当な事業活動により取得したものその他適法に取得したものでない場合
3 前二項の規定は、この法律の規定に基いて外資委員会が許可、認可又は承認をすべき旨の勧告をする場合に準用する。
(送金条項の表示)
第九条 外国投資家が技術援助の対価又は社債若しくは貸付金債権の利子若しくは元本の償還金を外国へ向けた支払によつて受領しようとするときは、技術援助契約又は社債の引受若しくは貸付に関する契約の中において、その旨が明らかにされなければならない。
2 外国投資家が配当金又は社債の利子若しくは元本の償還金を外国へ向けた支払によつて受領しようとするときは、当該配当金、利子又は元本の償還金を生ずる株式、持分又は社債の取得について外資委員会の認可を申請する書面の中において、その旨が明らかにされなければならない。
第二章 外国資本の投下の届出又は認可
(技術援助契約の認可)
第十条 外国投資家及びその相手方は、技術援助契約を締結し、又は更新(当該更新の結果、その対価の支払の期間が通じて一年をこえるに至るものに限る。以下同じ。)しようとするときは、外資委員会規則で定めるところにより、外資委員会の認可を受けなければならない。
(株式又は持分の取得の認可又は届出)
第十一条 外国投資家は、日本の法令により設立した法人の株式又は持分を取得しようとするとき(次項の規定により届け出なければならない場合を除く。)は、外資委員会規則で定めるところにより、外資委員会の認可を受けなければならない。
2 外国投資家は、日本の法令により設立した法人の株式又は持分で左の各号の一に該当するものを取得しようとする場合であつて、当該株式又は持分の配当金を外国へ向けた支払により受領しようとしないときは、外資委員会規則で定めるところにより、あらかじめその旨を外資委員会に届け出なければならない。
一 適法に所有する株式又は持分に対し新たに割り当てられた株式又は持分
二 他の外国投資家から譲り受ける株式又は持分
3 前項の規定は、外国為替及び外国貿易管理法の規定による制限を排除するものではない。
4 第一項及び第二項の規定は、連合国財産である株式の回復に関する政令(昭和二十四年政令第三百十号)又は連合国財産の返還等に関する件(昭和二十一年勅令第二百九十四号)の規定に基き外国投資家が株式の回復又は持分の返還を受ける場合については適用しない。
第十二条 前条第一項の規定により外資委員会が株式又は持分の取得を認可するには、政令で定める場合を除いては、当該取得が左の各号の一に該当する場合でなければならない。
一 当該法人の財産の増加をもたらすものである場合
二 当該法人の財産の増加をもたらさないものである場合においては、当該取得が外国投資家の投資計画の一部であり、且つ、その取得の対価たる本邦通貨が当該取得のために対外支払手段を合法的に交換して得たものである場合
(社債の取得等の認可)
第十三条 外国投資家は、日本の法令により設立した法人の社債又は貸付金債権を取得しようとする場合において、当該取得が外資委員会の認可を要する他の事項とともに行われるときは、外資委員会規則で定めるところにより、当該取得について外資委員会の認可を受けなければならない。
2 前項の認可の申請があつた場合においては、外国為替及び外国貿易管理法の規定による大蔵大臣への許可の申請があつたものとみなす。
3 外資委員会は、前項の規定によりあつたものとみなされる申請に基く大蔵大臣の許可があつた後でなければ、第一項の認可をすることができない。
(条件の指定)
第十四条 外資委員会は、この法律の規定による認可をするに際し、必要な条件を附することができる。
2 外国為替及び外国貿易管理法に規定する主務大臣が、この法律の規定により外資委員会の認可を要する事項に伴う外国へ向けた支払に関し附すべき条件を外資委員会に指示したときは、外資委員会は、これを前項に規定する条件の中に包含させなければならない。
第三章 外国資本の投下に伴う送金
(技術援助の対価等の送金)
第十五条 第九条の規定により技術援助の対価、配当金、利子又は元本の償還金を外国へ向けた支払により受領しようとする旨が明らかにされた場合において、この法律の規定による外資委員会の認可があつたときは、外国為替及び外国貿易管理法第二十七条の規定により当該外国へ向けた支払が認められたものとする。但し、前条の規定により外資委員会が条件を附した場合においては、当該条件に従わなければならない。
2 前項の規定は、政令で定める場合を除いては、対外支払手段の交換によつて得た本邦通貨その他対外支払手段と同等の価値のあるもののいずれかによる以外の外国資本の投下に基く配当金、利子又は元本の償還金の外国へ向けた支払については適用しない。
(事業活動に伴う利潤の送金に関する勧告)
第十六条 居住者の本邦における適法な事業活動により生ずる利潤の外国へ向けた支払の許可に関する事項については、主務大臣は、あらかじめ外資委員会に付議しなければならない。この場合において、外資委員会は、この法律の規定により認可を要する事項に伴う外国へ向けた支払に比し公平な取扱がなされることを確保するため、必要な勧告をするものとする。
2 前項の規定は、事案の軽微なものその他外資委員会規則で定めるものについては適用しない。
3 主務大臣は、第一項に規定する許可をする場合には、外資委員会の勧告を尊重しなければならない。
第四章 外国資本の保護
(外国資本の保護)
第十七条 この法律の施行後、政府、地方公共団体その他権限のある者が、外国為替及び外国貿易管理法以外の法律で定める手続に基いて、外国投資家が本邦において適法に所有する財産の全部又は一部を収用し、又は買収したときは、当該収用又は買収により外国投資家の受領すべき対価に相当する金額の外国へ向けた支払を確保するため、当該対価の受領の日から一年を経過する日までの間、必要な資金が外国為替予算に計上されなければならない。
2 外国投資家が前項の規定により外国為替予算に計上された資金を使用する場合は、外国為替及び外国貿易管理法第二十七条の規定により外国へ向けた支払を認められたものとする。
3 外国投資家が株式又は持分の所有により実質的に支配している法人の財産の全部又は一部について、第一項に規定する収用又は買収がなされた場合における当該株式又は持分に対しては、別に法律で定めるところにより、前二項に準じて取り扱うものとする。
第五章 外国投資家の投資及び事業活動の調整
(内閣への付議)
第十八条 国の行政機関(国家行政組織法(昭和二十三年法律第百二十号)第三条第二項及び第二十四条の行政機関で公正取引委員会以外のものをいう。以下同じ。)は、外国投資家の投資又は事業活動に関する重要事項につき内閣の決定を求めようとするときは、あらかじめ外資委員会の議に付さなければならない。
2 外資委員会は、前項の場合においては、当該事項についての意見を内閣に送付するものとする。
(外資委員会の勧告)
第十九条 国の行政機関は、外国投資家の投資又は事業活動に関し許可、認可、承認その他の行政処分をしようとするときは、あらかじめ外資委員会に付議して、その勧告を求めなければならない。但し、事案の軽微なものその他外資委員会規則で定めるものについては、この限りでない。
2 国の行政機関は、前項の行政処分をする場合には、外資委員会の勧告を尊重しなければならない。
第六章 雑則
(不服の申立)
第二十条 この法律の規定による外資委員会の処分に対して不服のある者は、その旨を記載した書面をもつて外資委員会に対して不服の申立をすることができる。
(聴聞)
第二十一条 外資委員会は、前条の規定による不服の申立を受理したときは、当該申立をした者に対して、相当な期間を置いて予告をした上、聴聞を行わなければならない。
2 前項の予告においては、期日、場所及び事案の内容を示さなければならない。
3 聴聞に際しては、不服の申立をした者及び利害関係人に対して、当該事案について、証拠を呈示し、意見を述べる機会を与えなければならない。
(決定)
第二十二条 外資委員会は、当該事案について、文書をもつて決定をし、その写を不服の申立をした者及び利害関係人に送付しなければならない。
(手続規定)
第二十三条 不服の申立、予告、聴聞及び決定の手続について必要な事項は、政令で定める。
(報告)
第二十四条 外国投資家又はその相手方は、この法律の規定による届出をして、又は認可を受けて、契約を締結し、若しくは更新し、又は株式、持分、社債若しくは貸付金債権を取得したときは、外資委員会規則で定めるところにより、外資委員会に報告しなければならない。
(公正取引委員会の権限等)
第二十五条 この法律の規定及びこの法律の規定に基く外資委員会の権限は、私的独占の禁示及び公正取引の確保に関する法律(昭和二十二年法律第五十四号)又は事業者団体法(昭和二十三年法律第百九十一号)の規定及びこれらの法律の規定に基く公正取引委員会の権限を変更するものと解してはならない。
第七章 罰則
第二十六条 左の各号の一に該当する者は、三年以下の懲役若しくは三十万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
一 第十条の規定に違反した者
二 第十一条第一項の規定に違反した者
三 第十三条第一項の規定に違反した者
第二十七条 第十一条第二項の規定による届出をせず、又は虚偽の届出をして、同項に規定する株式又は持分を取得した者は、一年以下の懲役若しくは十万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
第二十八条 第二十四条の規定による報告をせず、又は虚偽の報告をした者は、六月以下の懲役又は五万円以下の罰金に処する。
第二十九条 法人(第三条第一項第一号に規定する団体を含む。以下この項において同じ。)の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務又は財産に関して、前三条の違反行為をしたときは、行為者を罰する外、その法人又は人に対して各本条の罰金刑を科する。但し、法人又は人の代理人、使用人その他の従業者の当該違反行為を防止するため当該業務又は財産に対し相当の注意及び監督が尽されたことの証明があつたときは、その法人又は人については、この限りでない。
2 第三条に規定する団体を処罰する場合においては、その代表者又は管理人がその訴訟行為につきその団体を代表する外、法人を被告人とする場合の刑事訴訟に関する法律の規定を準用する。
附 則
1 この法律の施行期日は、公布の日から起算して三十日をこえない期間内において政令で定める。
2 第十条に規定する契約について、同条の規定による認可を受けたときは、当該契約に基く財産の取得については、外国人の財産取得に関する政令第三条第一項の規定を適用しない。
3 この法律の施行前に外国人の財産取得に関する政令の規定に基き外国人から株式又は持分の取得の申請があり、まだ外資委員会の認可又は不認可の処分のないものについては、当該申請に係る事項が第十一条第二項の規定による届出を要するものである場合には、同項の規定による届出が、その他の場合には、同条第一項の規定による認可の申請があつたものとみなす。
4 外国人の財産取得に関する政令の一部を次のように改正する。
第三条第一項第一号中「株式若しくは持分又は」を削る。
第六条第二号中「又は連合国財産である株式の回復に関する政令(昭和二十四年政令第三百十号)」を削り、「返還又は回復の請求権」を「返還請求権」に改め、同条第五号を次のように改める。
五 削除
第十条第一項中「ジエー・アンド・ピー・コウツ・リミテツドに対する財産の返還に関する政令(昭和二十四年政令第四十六号)又は連合国財産である株式の回復に関する政令」を「又はジエー・アンド・ピー・コウツ・リミテツドに対する財産の返還に関する政令(昭和二十四年政令第四十六号)」に、「、譲渡又は回復」を「又は譲渡」に改める。
5 前項の規定による改正前の外国人の財産取得に関する政令の規定に違反する行為でこの法律の施行前にしたものに対する罰則の適用については、なお従前の例による。
内閣総理大臣 吉田茂
法務総裁 殖田俊吉
外務大臣 吉田茂
大蔵大臣臨時代理 国務大臣 殖田俊吉
文部大臣 天野貞祐
厚生大臣 林譲治
農林大臣 森幸太郎
通商産業大臣 高瀬荘太郎
運輸大臣 大屋晋三
郵政大臣 小沢佐重喜
電気通信大臣 小沢佐重喜
労働大臣 鈴木正文
建設大臣 増田甲子七
経済安定本部総裁 吉田茂