(目的)
第一条 この法律は、自動車から排出される窒素酸化物による大気の汚染の状況にかんがみ、その汚染の防止に関して国、地方公共団体、事業者及び国民の果たすべき責務を明らかにするとともに、その汚染が著しい特定の地域について、自動車から排出される窒素酸化物の総量の削減に関する基本方針及び計画を策定し、当該地域内に使用の本拠の位置を有する一定の自動車につき窒素酸化物排出基準を定め、並びに事業活動に係る自動車の使用に関する窒素酸化物の排出の抑制のための所要の措置を講ずること等により、大気汚染防止法(昭和四十三年法律第九十七号)による措置等と相まって、二酸化窒素による大気の汚染に係る環境基準の確保を図り、もって国民の健康を保護するとともに生活環境を保全することを目的とする。
(定義)
第二条 この法律において「自動車」とは、道路運送車両法(昭和二十六年法律第百八十五号)第二条第二項に規定する自動車(大型特殊自動車及び小型特殊自動車を除く。)をいう。
2 この法律において「自動車排出窒素酸化物」とは、自動車の運行に伴って発生し、大気中に排出される窒素酸化物をいう。
(国及び地方公共団体の責務)
第三条 国は、自動車排出窒素酸化物による大気の汚染の防止に関する基本的かつ総合的な施策(自動車排出窒素酸化物に係る大気汚染防止法第三章、第四章及び第五章の規定による措置を含む。)を策定し、及び実施するとともに、地方公共団体が実施する自動車排出窒素酸化物による大気の汚染の防止に関する施策を推進するために必要な助言その他の措置を講ずるように努めなければならない。
2 地方公共団体は、当該地域の自然的、社会的条件に応じた自動車排出窒素酸化物による大気の汚染の防止に関する施策の実施に努めなければならない。
(事業者の責務)
第四条 事業者は、その事業活動に係る自動車の使用に関し、その合理化を図ることその他必要な措置を講ずることにより、自動車排出窒素酸化物の排出が抑制されるように努めるとともに、国又は地方公共団体が実施する自動車排出窒素酸化物による大気の汚染の防止に関する施策に協力しなければならない。
2 自動車の製造又は販売(以下この項において「製造等」という。)を業とする者は、当該自動車の製造等に際して、その製造等に係る自動車が使用されることにより排出される自動車排出窒素酸化物による大気の汚染の防止に資するように努めなければならない。
(国民の責務)
第五条 国民は、自動車を運転し、若しくは使用し、又は交通機関を利用するに当たっては、自動車排出窒素酸化物の排出が抑制されるように努めるとともに、国又は地方公共団体が実施する自動車排出窒素酸化物による大気の汚染の防止に関する施策に協力しなければならない。
(総量削減基本方針)
第六条 国は、自動車の交通が集中している地域で、大気汚染防止法第三条第一項若しくは第三項若しくは第四条第一項の排出基準又は同法第五条の二第一項若しくは第三項の総量規制基準及び同法第十九条の規定による措置のみによっては公害対策基本法(昭和四十二年法律第百三十二号)第九条第一項の規定による大気の汚染に係る環境上の条件についての基準(二酸化窒素に係るものに限る。次条第二項第三号において「二酸化窒素に係る大気環境基準」という。)の確保が困難であると認められる地域として政令で定める地域(以下「特定地域」という。)について、自動車排出窒素酸化物の総量の削減に関する基本方針(以下「総量削減基本方針」という。)を定めるものとする。
2 総量削減基本方針においては、次に掲げる事項を定めるものとする。
一 特定地域における自動車排出窒素酸化物の総量の削減に関する目標
二 次条第一項の総量削減計画の策定その他特定地域における自動車排出窒素酸化物の総量の削減のための施策に関する基本的な事項
三 前二号に掲げるもののほか、特定地域における自動車排出窒素酸化物の総量の削減に関する重要な事項
3 都道府県は、その区域のうちに第一項の政令で定める地域の要件に該当すると認められる一定の地域があるときは、同項の地域を定める政令の立案について、内閣総理大臣に対し、その旨の申出をすることができる。
4 内閣総理大臣は、第一項の地域を定める政令の制定又は改廃の立案をしようとするときは、関係都道府県の意見を聴かなければならない。
5 内閣総理大臣は、総量削減基本方針の案を作成し、閣議の決定を求めなければならない。
6 内閣総理大臣は、総量削減基本方針の案を作成しようとするときは、あらかじめ、第二項第二号に規定する施策に関する事務を所掌する大臣と協議するとともに、関係都道府県の意見を聴かなければならない。
7 内閣総理大臣は、第五項の規定による閣議の決定があったときは、遅滞なく、総量削減基本方針を関係都道府県知事に通知するものとする。
8 前三項の規定は、総量削減基本方針の変更について準用する。
(総量削減計画)
第七条 都道府県知事は、特定地域にあっては、総量削減基本方針に基づき、当該特定地域における自動車排出窒素酸化物の総量の削減に関し実施すべき施策に関する計画(以下「総量削減計画」という。)を定めなければならない。
2 総量削減計画は、当該特定地域について、第一号に掲げる総量を第三号に掲げる総量までに削減させることを目途として、第一号に掲げる総量に占める第二号に掲げる総量の割合、自動車の交通量及びその見通し、自動車排出窒素酸化物及び自動車以外の窒素酸化物の発生源における窒素酸化物の排出状況の推移等を勘案し、政令で定めるところにより、第四号及び第五号に掲げる事項を定めるものとする。
一 当該特定地域における事業活動その他の人の活動に伴って発生し、大気中に排出される窒素酸化物の総量
二 当該特定地域における自動車排出窒素酸化物の総量
三 当該特定地域における事業活動その他の人の活動に伴って発生し、大気中に排出される窒素酸化物について、二酸化窒素に係る大気環境基準に照らし総理府令で定めるところにより算定される総量
四 第二号に掲げる総量についての削減目標量(中間目標としての削減目標量を定める場合にあっては、その削減目標量を含む。)
3 都道府県知事は、総量削減計画を定めようとするときは、総量削減計画策定協議会の意見を聴くとともに、内閣総理大臣の承認を受けなければならない。
4 内閣総理大臣は、前項の承認をしようとするときは、公害対策会議の議を経なければならない。
5 都道府県知事は、総量削減計画を定めたときは、第二項各号に掲げる事項を公告しなければならない。
6 前三項の規定は、総量削減計画の変更について準用する。
(総量削減計画策定協議会)
第八条 第六条第一項の規定により特定地域が定められたときは、当該特定地域をその区域の全部又は一部とする都道府県に、総量削減計画に定められるべき事項について調査審議するため、総量削減計画策定協議会(以下この条において「協議会」という。)を置く。
2 協議会は、都道府県知事、都道府県公安委員会、関係市町村(特別区を含む。)、関係地方行政機関及び関係道路管理者で組織する。この場合において、協議会の庶務は、当該都道府県知事の統轄する都道府県において処理する。
3 前項に定めるもののほか、協議会の組織及び運営に関し必要な事項は、都道府県の条例で定める。
(総量削減計画の達成の推進)
第九条 国及び地方公共団体は、総量削減計画の達成に必要な措置を講ずるように努めるものとする。
(特定自動車排出基準)
第十条 内閣総理大臣は、自動車の種類、特定地域における自動車排出窒素酸化物の排出状況等を勘案し、その運行に伴って排出される自動車排出窒素酸化物が特定地域における大気の汚染の主要な原因となる自動車として政令で定める自動車であって、特定地域内に使用の本拠の位置を有するもの(次項において「特定自動車」という。)について、総理府令で、窒素酸化物の排出量に関する基準(以下「特定自動車排出基準」という。)を定めなければならない。
2 特定自動車排出基準は、特定自動車の一定の条件における運行に伴って発生し、大気中に排出される自動車排出窒素酸化物の量について、特定自動車の車両総重量(道路運送車両法第四十条第三号に掲げる車両総重量をいう。)につき総理府令で定める区分ごとに定める許容限度とする。
3 内閣総理大臣は、特定自動車排出基準を定めようとするときは、特定地域をその区域の全部又は一部とする都道府県の意見を聴かなければならない。これを変更し、又は廃止しようとするときも、同様とする。
(経過措置)
第十一条 前条第一項の政令で定める自動車(以下この項において「指定自動車」という。)であって一の地域が特定地域となった際現にその地域内に使用の本拠の位置を有するものを現に使用する者又は一の自動車が指定自動車となった際現に特定地域内に使用の本拠の位置を有するその自動車を現に使用する者が、当該自動車を引き続き特定地域内に使用の本拠を置いて使用する場合における当該自動車については、自動車の種別及び車齢(自動車が初めて道路運送車両法第四条の規定により運行の用に供することができることとなった日から一の地域が特定地域となった日又は一の自動車が指定自動車となった日までの期間をいう。)について政令で定める区分に応じ政令で定める期間が経過する日までの間は、特定自動車排出基準は、適用しない。
2 内閣総理大臣は、前項の区分又は期間を定める政令の制定又は改廃の立案をしようとするときは、関係都道府県の意見を聴かなければならない。
(特定自動車排出基準に係る道路運送車両法に基づく命令)
第十二条 運輸大臣は、自動車排出窒素酸化物による大気の汚染の防止を図るため、特定自動車排出基準が確保されるように考慮して、道路運送車両法に基づく命令を定めなければならない。
(事業者に対する指導等)
第十三条 製造業、運輸業その他の事業を所管する大臣(以下この条において「事業所管大臣」という。)は、特定地域における自動車排出窒素酸化物による大気の汚染の防止を図るため、その所管に係る事業を行う者について、その事業活動に係る自動車の使用に関し、その合理化を図ることその他必要な措置を講ずることによる自動車排出窒素酸化物の排出の抑制を図るための指針を定めることができる。
2 環境庁長官は、特定地域における自動車排出窒素酸化物の排出の抑制を図るために必要があると認めるときは、前項に規定する指針に関し、事業所管大臣に対し、意見を述べることができる。
3 事業所管大臣は、特定地域における自動車排出窒素酸化物の排出の抑制を図るために必要があると認めるときは、その所管に係る事業を行う者に対し、第一項に規定する指針に照らし、その事業活動に係る自動車の使用に関し、その合理化を図ることその他必要な措置を講ずることによる自動車排出窒素酸化物の排出の抑制について必要な指導及び助言をすることができる。
4 環境庁長官は、特定地域における自動車排出窒素酸化物の排出の抑制を図るために必要があると認めるときは、事業所管大臣に対し、前項の規定による指導及び助言をすることを要請することができる。
5 特定地域をその区域の全部又は一部とする都道府県は、当該特定地域における自動車排出窒素酸化物の排出の抑制を図るため、第三項の規定による指導及び助言がされることが必要であると認めるときは、環境庁長官に対し、前項の規定による要請をすることを求めることができる。
(資料の提出の要求等)
第十四条 環境庁長官は、この法律の目的を達成するために必要があると認めるときは、関係地方公共団体の長に対し、必要な資料の提出及び説明を求めることができる。
2 都道府県は、この法律の目的を達成するために必要があると認めるときは、関係行政機関の長、関係地方公共団体の長又は関係道路管理者に対し、必要な資料の送付その他の協力を求め、又は自動車排出窒素酸化物による大気の汚染の防止に関し意見を述べることができる。
(国の援助)
第十五条 国は、電気自動車(専ら電気を動力源とする自動車をいう。)その他その運行に伴って排出される自動車排出窒素酸化物がないか又はその量が相当程度少ない自動車の開発及び利用の促進並びに自動車排出窒素酸化物の量がより少ない自動車への転換の促進に必要な資金の確保、技術的な助言その他の援助に努めるものとする。
(経過措置)
第十六条 この法律の規定に基づき命令を制定し、又は改廃する場合においては、その命令で、その制定又は改廃に伴い合理的に必要と判断される範囲内において、所要の経過措置を定めることができる。