(定義)
第一条 この法律において「原子炉の運転等」とは、原子力損害の賠償に関する法律(昭和三十六年法律第百四十七号。以下「賠償法」という。)第二条第一項に規定する原子炉の運転等をいい、「原子力損害」とは、賠償法第二条第二項に規定する原子力損害をいい、「原子力事業者」とは、賠償法第二条第三項に規定する原子力事業者をいい、「損害賠償措置」とは、賠償法第六条に規定する損害賠償措置をいい、「賠償措置額」とは、賠償法第七条第一項に規定する賠償措置額をいい、「責任保険契約」とは、賠償法第八条に規定する責任保険契約をいう。
(原子力損害賠償補償契約)
第二条 政府は、原子力事業者を相手方として、賠償法第三条の規定による原子力事業者の損害賠償の責任が発生した場合において、責任保険契約によつてはうめることができない原子力損害を原子力事業者が賠償することにより生ずる損失を政府が補償することを約し、原子力事業者が補償料を納付することを約する契約を締結することができる。
(補償損失)
第三条 政府が前条の契約(以下「補償契約」という。)により補償する損失は、次の各号に掲げる原子力損害を原子力事業者が賠償することにより生ずる損失(以下「補償損失」という。)とする。
二 正常運転(政令で定める状態において行なわれる原子炉の運転等をいう。)によつて生じた原子力損害
三 その発生の原因となつた事実に関する限り責任保険契約によつてうめることができる原子力損害であつてその発生の原因となつた事実があつた日から十年を経過する日までの間に被害者から賠償の請求が行なわれなかつたもの(当該期間内に生じた原子力損害については、被害者が当該期間内に賠償の請求を行なわなかつたことについてやむをえない理由がある場合に限る。)
四 前三号に掲げるもの以外の原子力損害であつて政令で定めるもの
(補償契約金額)
第四条 補償契約に係る契約金額(以下「補償契約金額」という。)は、当該補償契約の締結が含まれる損害賠償措置の賠償措置額に相当する金額(損害賠償措置に責任保険契約及び補償契約の締結以外の措置が含まれる場合においては当該措置により、他の補償契約が締結されている場合においては当該他の補償契約の締結により原子力損害の賠償に充てることができる金額を控除した金額)とする。
(補償契約の期間)
第五条 補償契約の期間は、その締結の時から当該補償契約に係る原子炉の運転等をやめる時までとする。
(補償料)
第六条 補償料の額は、一年当たり、補償契約金額に補償損失の発生の見込み、補償契約に関する国の事務取扱費等を勘案して政令で定める料率を乗じて得た金額に相当する金額とする。
(補償金)
第七条 政府が補償契約により補償する金額は、当該補償契約の期間内における原子炉の運転等により与えた原子力損害に係る補償損失について補償契約金額までとする。
2 政府が補償損失を補償する場合において、当該補償に係る原子力損害と同一の原因によつて発生した原子力損害について責任保険契約によつてうめられる金額があるときは、当該補償損失について補償契約により支払う補償金の額の合計額は、当該補償契約の締結が含まれる損害賠償措置の賠償措置額に相当する金額(当該損害賠償措置に責任保険契約及び補償契約の締結以外の措置が含まれる場合においては当該措置により原子力損害の賠償に充てることができる金額を控除した金額)から当該責任保険契約によつてうめられる金額を控除した金額をこえないものとする。
(補償契約の締結の限度)
第八条 政府は、一会計年度内に締結する補償契約に係る補償契約金額の合計額が会計年度ごとに国会の議決を経た金額をこえない範囲内で、補償契約を締結するものとする。
(通知)
第九条 原子力事業者は、補償契約の締結に際し、政令で定めるところにより、原子炉の運転等に関する重要な事実を政府に対し通知しなければならない。通知した事実に変更を生じたときも、同様とする。
(政令への委任)
第十条 補償契約の締結並びに補償料の納付の時期、補償金の支払の時期その他補償料の納付及び補償金の支払に関し必要な事項は、政令で定める。
(時効)
第十一条 補償金の支払を受ける権利は、二年を経過したときは、時効によつて消滅する。
(代位等)
第十二条 政府は、補償契約により補償した場合において、当該補償契約の相手方である原子力事業者が第三者に対して求償権を有するときは、補償した金額を限度として当該権利を取得する。原子力事業者が求償権の行使により支払を受けたときは、政府は、その支払を受けた金額の限度で、補償の義務を免れる。
(補償金の返還)
第十三条 政府は、次の各号に掲げる原子力損害に係る補償損失について補償金を支払つたときは、原子力事業者から、政令で定めるところにより、その返還をさせるものとする。
一 第三条第四号に掲げる原子力損害のうち政令で定めるもの
二 補償契約の相手方である原子力事業者が第九条の規定による通知を怠り、又は虚偽の通知をした場合において、その通知を怠り、又は虚偽の通知をした事実に基づく原子力損害
三 政府が第十五条の規定により補償契約を解除した場合において、原子力事業者が、その解除の通知を受けた日から解除の効力が生ずる日の前日までの間における原子炉の運転等により与えた原子力損害
(補償契約の解除)
第十四条 政府は、補償契約の相手方である原子力事業者が当該補償契約の締結を含む損害賠償措置以外の損害賠償措置を講じた場合においては、当該補償契約の解除の申込みに応ずることができ、又は当該補償契約を解除することができる。
2 前項の規定による補償契約の解除は、将来に向つてその効力を生ずる。
第十五条 政府は、補償契約の相手方である原子力事業者が次の各号の一に該当するときは、当該補償契約を解除することができる。
三 第九条の規定による通知を怠り、又は虚偽の通知をしたとき。
四 核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律(昭和三十二年法律第百六十六号)第三十五条又は第四十八条(同法第五十一条において準用する場合を含む。)の規定により講ずべき保安のために必要な措置を講ずることを怠つたとき。
五 補償契約の条項で政令で定める事項に該当するものに違反したとき。
2 前項の規定による補償契約の解除は、当該補償契約の相手方である原子力事業者が解除の通知を受けた日から起算して九十日の後に、将来に向つてその効力を生ずる。
(過怠金)
第十六条 政府は、補償契約の相手方である原子力事業者が補償契約の条項で政令で定める事項に該当するものに違反したときは、政令で定めるところにより、過怠金を徴収することができる。
(業務の管掌)
第十七条 この法律に規定する政府の業務は、科学技術庁長官が管掌する。
2 科学技術庁長官は、第十五条の規定による補償契約の解除については、あらかじめ、発電の用に供する原子炉(原子力基本法(昭和三十年法律第百八十六号)第三条第四号に規定する原子炉をいう。以下同じ。)に係るものにあつては通商産業大臣、船舶に設置する原子炉に係るものにあつては運輸大臣の意見をきかなければならない。