工業用水法
法令番号: 法律第146号
公布年月日: 昭和31年6月11日
法令の形式: 法律

改正対象法令

提案理由 (AIによる要約)

日本経済の自立達成のため、産業基盤の育成強化と国際競争力向上が必要であり、特に工業用水は生産に不可欠である。しかし、従来積極的な対策が講じられず、工場密集地域では地下水の過度くみ上げにより水源枯渇や地盤沈下等の問題が発生している。このため、工業用水道布設の促進と共に、地下水の過度くみ上げを防止し水源を保全する必要があることから、本法案を提出するに至った。これにより工業の健全な発達と地盤沈下の防止を図ることを目的としている。

参照した発言:
第24回国会 衆議院 商工委員会 第18号

審議経過

第24回国会

衆議院
(昭和31年3月15日)
参議院
(昭和31年3月15日)
衆議院
(昭和31年3月23日)
参議院
(昭和31年3月23日)
衆議院
(昭和31年3月27日)
(昭和31年3月28日)
(昭和31年3月30日)
参議院
(昭和31年5月17日)
(昭和31年5月22日)
(昭和31年5月23日)
衆議院
(昭和31年6月3日)
参議院
(昭和31年6月3日)
工業用水法をここに公布する。
御名御璽
昭和三十一年六月十一日
内閣総理大臣 鳩山一郎
法律第百四十六号
工業用水法
目次
第一章
総則(第一条・第二条)
第二章
井戸(第三条―第十四条)
第三章
工業用水審議会(第十五条―第二十一条)
第四章
雑則(第二十二条―第二十七条)
第五章
罰則(第二十八条―第三十条)
附則
第一章 総則
(目的)
第一条 この法律は、特定の地域について、工業用水の合理的な供給を確保するとともに、地下水の水源の保全を図り、もつてその地域における工業の健全な発達に寄与し、あわせて地盤の沈下の防止に資することを目的とする。
(定義)
第二条 この法律で「井戸」とは、動力を用いて地下水(温泉法(昭和二十三年法律第百二十五号)による温泉を除く。以下同じ。)を採取するための施設であつて、揚水機の吐出口の断面積(吐出口が二以上あるときは、その断面積の合計。以下同じ。)が二十一平方センチメートルをこえるもの(河川法(明治二十九年法律第七十一号)による河川及び河川附近の土地の区域内のものを除く。)をいう。
2 この法律で「工業」とは、製造業(物品の加工修理業を含む。)、電気供給業及びガス供給業をいう。
第二章 井戸
(許可)
第三条 政令で定める地域(以下「指定地域」という。)内の井戸により地下水を採取してこれを工業の用に供しようとする者は、井戸ごとに、そのストレーナーの位置及び揚水機の吐出口の断面積を定めて、通商産業大臣の許可を受けなければならない。
2 前項の政令は、地下水を工業の用に供するため採取したことにより、地下水の水位が異常に低下し、塩水若しくは汚水が地下水の水源に混入し、又は地盤が沈下している一定の地域について、その地域において工業の用に供すべき水の量がきわめて大であり、地下水の水源の保全を図るためにはその合理的な利用を確保する必要があり、かつ、その地域に工業用水道がすでに布設され、又は一年以内にその布設の工事が開始される見込がある場合に定めるものとする。
3 通商産業大臣及び建設大臣は、第一項の政令の制定又は改廃の立案をしようとするときは、その政令の制定又は改廃により、指定地域となり、又は指定地域でなくなる地域を管轄する都道府県知事及び市町村長の意見をきかなければならない。
(許可の申請)
第四条 前条第一項の許可を受けようとする者は、次の事項を記載した申請書を通商産業大臣に提出しなければならない。
一 氏名又は名称及び住所並びに法人にあつてはその代表者の氏名及び住所
二 井戸の設置の場所
三 井戸のストレーナーの位置及び揚水機の吐出口の断面積
2 前項の申請書には、井戸の設置の場所を示す図面その他通商産業省令で定める書類を添附しなければならない。
(許可の基準)
第五条 通商産業大臣は、第三条第一項の許可の申請に係る井戸のストレーナーの位置及び揚水機の吐出口の断面積が通商産業省令で定める技術上の基準に適合していると認めるときは、許可をしなければならない。
2 通商産業大臣は、前項に規定する場合のほか、第三条第一項の許可の申請に係る井戸により地下水を採取することがその指定地域における地下水の水源の合理的な利用に著しい支障を及ぼすおそれがない場合において、その井戸により採取する地下水をその用に供することがその工業の遂行上必要かつ適当であつて、他の水源をもつて代えることが著しく困難なときは、許可をすることができる。
3 通商産業大臣は、第一項の通商産業省令の制定又は改廃を行おうとするときは、大蔵大臣、厚生大臣、農林大臣、運輸大臣及び建設大臣に協議しなければならない。
(経過措置)
第六条 一の地域が指定地域となつた際現にその地域内の井戸により地下水を採取してこれを工業の用に供している者は、その井戸について、そのストレーナーの位置及び揚水機の吐出口の断面積により、第三条第一項の許可を受けたものとみなす。
2 前項の規定により第三条第一項の許可を受けたものとみなされた者は、その地域が指定地域となつた日から一月以内に、第四条第一項各号の事項を記載した届出書を通商産業大臣に提出しなければならない。
3 前項の届出書には、井戸の設置の場所を示す図面その他通商産業省令で定める書類を添附しなければならない。
(変更の許可)
第七条 第三条第一項の許可を受けた者(以下「使用者」という。)は、同項の許可を受けた井戸(以下「許可井戸」という。)のストレーナーの位置を許可を受けた位置より浅くし、又はその揚水機の吐出口の断面積を許可を受けた断面積より大きくしようとするときは、通商産業大臣の許可を受けなければならない。
2 第五条第一項及び第二項の規定は、前項の許可に準用する。
(許可の条件)
第八条 第五条第二項(前条第二項において準用する場合を含む。)の規定によつてする第三条第一項又は前条第一項の許可には、条件を附することができる。
2 前項の条件は、指定地域における地下水の水源の合理的な利用を図り、又は許可に係る事項の確実な実施を図るため必要な最少限度のものに限り、かつ、その使用者に不当な義務を課することとなるものであつてはならない。
(氏名等の変更の届出)
第九条 使用者は、その氏名又は名称及び住所に変更があつたときは、遅滞なく、その旨を通商産業大臣に届け出なければならない。
(許可の承継)
第十条 許可井戸を譲り受け、又は借り受けて、これにより地下水を採取してこれを工業の用に供する者は、その許可井戸に係る使用者の地位を承継する。
2 使用者について相続又は合併があつたときは、相続人又は合併後存続する法人若しくは合併により設立した法人は、使用者の地位を承継する。
3 前二項の規定により使用者の地位を承継した者は、遅滞なく、その旨を通商産業大臣に届け出なければならない。
(廃止の届出)
第十一条 使用者は、次の場合は、遅滞なく、その旨を通商産業大臣に届け出なければならない。
一 許可井戸により地下水を採取すること又はこれにより採取する地下水を工業の用に供することを廃止したとき。
二 許可井戸の揚水機を動力によらないものとし、又はその吐出口の断面積を二十一平方センチメートル以下としたとき。
三 前二号の場合のほか、許可井戸を廃止したとき。
(許可の失効)
第十二条 使用者がその許可井戸につき前条各号の一に該当するに至つたときは、その許可井戸に係る第三条第一項の許可は、その効力を失う。
(許可の取消等)
第十三条 通商産業大臣は、使用者が第七条第一項の規定により許可を受けなければならない事項を許可を受けないでしたとき、又は第八条第一項の条件に違反したときは、第三条第一項の許可を取り消し、又は一年以内の期間を定めて許可井戸により地下水を採取してこれを工業の用に供することを停止すべき旨を命ずることができる。
(使用者に対する指示)
第十四条 通商産業大臣は、指定地域における地下水の水源の合理的な利用を確保するため特に必要があると認めるときは、使用者に対し、工業用水道の利用、地下水の使用方法の改善その他の方法を示して、許可井戸による地下水の採取量を減少すべき旨を指示することができる。
第三章 工業用水審議会
(設置)
第十五条 通商産業省に、工業用水審議会を置く。
(権限)
第十六条 工業用水審議会(以下「審議会」という。)は、通商産業大臣の諮問に応じ、工業用水に関する重要事項を調査審議する。
(組織)
第十七条 審議会は、委員十六人以内で組織する。
2 専門の事項を調査させるため、審議会に専門委員を置くことができる。
第十八条 委員及び専門委員は、関係行政機関の職員及び工業用水に関し学識経験のある者のうちから、通商産業大臣が任命する。
2 通商産業大臣は、委員のうち一人を会長として指名し、会務を総理させる。
(任期)
第十九条 学識経験のある者のうちから任命された委員の任期は、二年とする。
(勤務)
第二十条 委員及び専門委員は、非常勤とする。
(省令への委任)
第二十一条 この章に定めるもののほか、審議会の運営に関し必要な事項は、通商産業省令で定める。
第四章 雑則
(土地の立入)
第二十二条 通商産業大臣又は建設大臣は、この法律を施行するため地下水の水源又は地盤の状況に関する測量又は実地調査を行う必要があるときは、その職員に他人の土地に立ち入らせることができる。
2 通商産業大臣又は建設大臣は、前項の規定によりその職員に他人の土地に立ち入らせようとするときは、立入の日の五日前までに、その旨を土地の占有者に通知しなければならない。
3 第一項の規定により他人の土地に立ち入る職員は、立入の際あらかじめその旨を土地の占有者に告げなければならない。
4 日出前又は日没後においては、土地の占有者の承諾があつた場合を除き、第一項の規定による立入をしてはならない。
5 第一項の規定により他人の土地に立ち入る職員は、その身分を示す証明書を携帯し、関係人に提示しなければならない。
6 国は、第一項の規定による立入によつて損失を生じたときは、損失を受けた者に対し、これを補償しなければならない。
第二十三条 土地の占有者は、正当な理由がなければ、前条第一項の規定による立入を拒み、又は妨げてはならない。
(報告の徴収)
第二十四条 通商産業大臣は、指定地域における地下水の水源の合理的な利用を確保するために必要な限度において、政令で定めるところにより、使用者に対し、その許可井戸の構造及び使用の状況に関し報告をさせることができる。
(立入検査)
第二十五条 通商産業大臣は、指定地域における地下水の水源の合理的な利用を確保するために必要な限度において、その職員に、許可井戸の設置の場所又は許可井戸に係る使用者の工場若しくは事業場に立ち入り、許可井戸その他の物件を検査させることができる。
2 前項の規定により立入検査をする職員は、その身分を示す証明書を携帯し、関係人に提示しなければならない。
3 第一項の規定による立入検査の権限は、犯罪捜査のために認められたものと解釈してはならない。
(聴聞)
第二十六条 通商産業大臣は、第十三条の規定による処分をしようとするときは、その処分に係る使用者に対し、相当な期間をおいて予告をした上、公開による聴聞を行わなければならない。
2 前項の予告においては、期日、場所及び事案の内容を示さなければならない。
3 聴聞に際しては、その処分に係る使用者及び利害関係人に対し、その事案について証拠を提示し、意見を述べる機会を与えなければならない。
(異議の申立)
第二十七条 この法律の規定による通商産業大臣の処分に対し不服のある者は、その旨を記載した書面をもつて、通商産業大臣に異議の申立をすることができる。
2 通商産業大臣は、前項の異議の申立があつたときは、前条の例により公開による聴聞をした後、文書をもつて決定をし、その写を異議の申立をした者に送付しなければならない。
第五章 罰則
第二十八条 次の各号の一に該当する者は、一年以下の懲役又は十万円以下の罰金に処する。
一 第三条第一項の許可を受けないで指定地域内の井戸により地下水を採取してこれを工業の用に供した者
二 第十三条の規定による命令に違反した者
第二十九条 次の各号の一に該当する者は、三万円以下の罰金に処する。
一 第六条第二項の届出書を提出せず、又は虚偽の届出書を提出した者
二 第九条、第十条第三項又は第十一条の規定による届出をせず、又は虚偽の届出をした者
三 第二十三条の規定に違反して第二十二条第一項の規定による立入を拒み、又は妨げた者
四 第二十四条の規定による報告をせず、又は虚偽の報告をした者
五 第二十五条第一項の規定による検査を拒み、妨げ、又は忌避した者
第三十条 法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務に関し、前二条の違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人又は人に対して各本条の罰金刑を科する。
附 則
1 この法律は、公布の日から施行する。
2 通商産業省設置法(昭和二十七年法律第二百七十五号)の一部を次のように改正する。
第二十五条第一項の表中
産業合理化審議会
産業合理化に関する重要事項を調査審議すること。
産業合理化審議会
産業合理化に関する重要事項を調査審議すること。
工業用水審議会
工業用水に関する重要事項を調査審議すること。
に改める。
大蔵大臣 一万田尚登
厚生大臣 小林英三
農林大臣 河野一郎
通商産業大臣 石橋湛山
運輸大臣 吉野信次
建設大臣 馬場元治
内閣総理大臣 鳩山一郎