朕帝國議會ノ協贊ヲ經タル蠶絲業法ヲ裁可シ玆ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
明治四十四年三月二十八日
內閣總理大臣 侯爵 桂太郞
農商務大臣 男爵 大浦兼武
法律第四十七號
蠶絲業法
第一條 本法ニ於テ蠶絲業者ト稱スルハ養蠶、蠶種製造、生絲製造、眞綿製造、殺蛹乾繭又ハ蠶種、繭、生絲、屑物類ノ賣買、仲立若ハ保管ヲ業トスル者ヲ謂フ
第二條 本法ニ於テ蠶種製造者ト稱スルハ他人ニ讓渡スノ目的ヲ以テ蠶種ヲ製造スル者ヲ謂フ
第三條 本法ニ於テ蠶病ト稱スルハ微粒子病、軟化病、硬化病、膿病及蠁蛆病ヲ謂フ
第四條 蠶兒ノ飼育又ハ生繭ノ取扱ヲ爲ス者ハ命令ノ定ムル所ニ依リ病蠶及斃蠶ノ病原微生物竝蠁蛆及其ノ蛹、蠅ヲ滅殺シ其ノ他蠶病豫防ノ爲必要ナル施設ヲ爲スヘシ
主務大臣ハ學術硏究ノ爲蠶兒ノ飼育又ハ生繭ノ取扱ヲ爲ス者ニ對シ前項ノ規定ヲ適用セサルコトヲ得
第五條 蠶種製造者タラムトスル者ハ地方長官ノ免許ヲ受クヘシ
第六條 蠶種製造者ハ命令ノ定ムル所ニ依リ蠶室及蠶具ノ消毒ヲ行フヘシ
第七條 蠶種製造者ハ第十一條第二項及第十二條ノ規定ニ依ル特別蠶種ヨリ產出シタル繭ヲ用ウルニ非サレハ蠶種ヲ製造スルコトヲ得ス
第八條 蠶種製造者ハ左ノ各號ノ一ニ該當スル繭又ハ蛾ヲ以テ蠶種ヲ製造スルコトヲ得ス
一 蠶兒ノ合同シテ作リタル繭
二 繭層片薄ナル繭又ハ形狀不整ナル繭
三 繭層ノ量繭ノ全量百ニ對シ一化性ニ在リテハ十一、二化性ニ在リテハ八、多化性ニ在リテハ七ニ達セサルモノ
四 蠶兒ノ發育不良ニシテ收繭ノ量著シク減少シタルモノ
五 體軀ノ不完全ナル蛾
六 免許ヲ受ケタル蠶種製造者ニ非サル者ノ飼育シタル蠶兒ヨリ產出シタル繭
第九條 蠶種製造者ハ蠶種製造用ノ蠶兒ト同一ノ飼育時期ニ於テ製絲用ノ蠶兒ヲ飼育スルコトヲ得ス
蠶種製造者ハ地方長官ノ許可ヲ受クルニ非サレハ蠶種製造用ノ蠶兒ヲ讓渡シ又ハ讓受クルコトヲ得ス
第十條 蠶種製造者ハ蠶種製造用ノ蠶兒ノ掃立ヨリ蠶種ノ製造ヲ終ル迄他ノ蠶種製造者又ハ養蠶者ト同一ノ建物又ハ蠶具ヲ共用スルコトヲ得ス
第十一條 蠶種製造者ハ收繭後ニ於テ掃殼及繭、產卵後ニ於テ越年蠶種ニ在リテハ出殼繭及卵、不越年蠶種ニ在リテハ出殼繭ニ付檢査ヲ受クヘシ但シ不越年蠶種ニ在リテモ卵ノ檢査ヲ受ケシムルコトヲ得
蠶種製造者蠶種ヲ特別蠶種ト爲サムトスルトキハ之ヲ框製トシ前項ノ檢査ノ外越年蠶種ニ在リテハ母蛾、不越年蠶種ニ在リテハ卵及母蛾ノ檢査ヲ受クヘシ
第十二條 主務大臣ハ前條ノ規定ニ拘ラス原蠶種製造所、學校、講習所、試驗場等ニ於テ製造シタル蠶種ヲ特別蠶種ト指定スルコトヲ得
第十三條 地方長官ハ第十一條ノ檢査ニ合格シタル蠶種ニハ證印ヲ押捺シ其ノ檢査ニ合格セサル蠶種ハ之ヲ燒棄スヘシ
第十四條 檢査合格ノ證印ナキ蠶種及其ノ蠶兒ハ之ヲ讓渡シ又ハ飼育スルコトヲ得ス但シ第十二條ノ規定ニ依リ指定セラレタル特別蠶種及其ノ蠶兒ヲ讓渡シ若ハ飼育シ又ハ第十七條但書ノ規定ニ依リ移入若ハ輸入シタル蠶種ノ蠶兒ヲ飼育スルコトヲ妨ケス
第十五條 地方長官ハ錯誤ニ依リ又ハ不法ニ押捺セラレタル檢査合格ノ證印ヲ發見シタルトキハ遲滯ナク之ヲ抹消スヘシ
第十六條 蠶種製造者ニ非サル者ハ蠶種ヲ製造スルコトヲ得ス
主務大臣必要ト認ムルトキハ學術硏究又ハ自家用ノ爲ニスル蠶種ノ製造及其ノ蠶兒ノ飼育ヲ許可スルコトヲ得此ノ場合ニ於テハ命令ノ定ムル所ニ依リ本法中蠶種製造者ニ關スル規定ノ全部又ハ一部ヲ準用スルコトヲ得
前項ノ規定ニ依リ製造シタル蠶種及其ノ蠶兒ハ第十二條ノ規定ニ依リ指定セラレタル特別蠶種及其ノ蠶兒ヲ除クノ外之ヲ讓渡スコトヲ得ス
第十七條 本法ヲ施行セサル地又ハ外國ニ於テ製造シタル蠶種ハ之ヲ移入シ又ハ輸入スルコトヲ得ス但シ學術硏究ノ爲主務大臣ノ許可ヲ受ケタルトキハ此ノ限ニ在ラス
第十八條 主務大臣必要ト認ムルトキハ原蠶種ノ製造若ハ其ノ讓渡讓受又ハ原蠶種ノ種類ヲ制限スルコトヲ得
主務大臣ハ地方特別ノ狀況ニ依リ地方長官ヲシテ前項ノ制限ヲ爲サシムルコトヲ得
第十九條 主務大臣ハ蠶種又ハ繭ノ賣買又ハ取引市場ニ關シ取締上必要ナル命令ヲ發スルコトヲ得
第二十條 蠶種ノ臺紙ニ關シ取締上必要ナル事項ハ命令ヲ以テ之ヲ定ム
第二十一條 蠶種ノ冷藏ヲ業トセムトスル者ハ地方長官ノ免許ヲ受クヘシ
第二十二條 府縣ハ命令ノ定ムル所ニ依リ第十一條ノ檢査其ノ他蠶病豫防ノ爲必要ナル吏員ヲ置クヘシ
第二十三條 主務大臣及地方長官ハ必要ニ應シ種繭ノ審査及原蠶種ノ選定ヲ行ハシムル爲種繭審査會ヲ設クヘシ
種繭審査會ノ設置、組織、權限及審査選定ニ關スル事項ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第二十四條 第五條、第七條、第八條第六號、第十一條及第三十八條乃至第四十一條ノ規定ハ府縣ニ之ヲ適用セス
第二十五條 地方長官必要ト認ムルトキハ野蠶ノ飼育、採種又ハ野蠶生繭ノ取扱ヲ業トスル者ニ第四條第一項ノ規定ヲ準用スルコトヲ得
第二十六條 蠶病豫防事務及地方種繭審査會ニ關シ必要ナル費用ハ府縣ノ負擔トス但シ國庫ハ其ノ半額以內ヲ補助スルコトヲ得
第二十七條 府縣ハ命令ノ定ムル所ニ依リ蠶種檢査ニ關シ手數料ヲ徵收スヘシ
第二十八條 蠶絲業者ヲ以テ組織スル同業組合聯合會ノ設置ニ付テハ重要物產同業組合法第三條及第四條ノ規定ヲ準用ス
第二十九條 前條ノ同業組合聯合會及一府縣以上ヲ地區トスル蠶絲業者ノ同業組合ニシテ同業組合聯合會ニ加入セサル者ハ相互ノ氣脈ヲ通シ及蠶絲類ノ海外貿易ノ發展其ノ他蠶絲業ノ利益增進ヲ圖ル爲全國ヲ地區トシテ蠶絲業同業組合中央會ヲ設置スルコトヲ得
主務大臣必要ト認ムルトキハ前項ニ揭ケタル者ノ外同業組合聯合會ニ加入セサル蠶絲業者ノ同業組合ニシテ蠶絲業同業組合中央會ニ加入スヘキ者ヲ指定スルコトヲ得
第三十條 蠶絲業同業組合中央會ノ設置ヲ發起セムトスル者ハ主務大臣ノ認可ヲ受クヘシ
前項ノ認可アリタルトキハ發起人ハ同業組合聯合會、一府縣以上ヲ地區トスル同業組合ニシテ同業組合聯合會ニ加入セサル者及前條第二項ノ規定ニ依リ主務大臣ノ指定シタル同業組合ノ三分ノ二以上ノ同意ヲ得テ創立總會ヲ開キ定款ヲ議定シ主務大臣ノ認可ヲ受クヘシ
第三十一條 蠶絲業同業組合中央會成立シタルトキハ同業組合聯合會、一府縣以上ヲ地區トスル同業組合ニシテ同業組合聯合會ニ加入セサル者及第二十九條第二項ノ規定ニ依リ主務大臣ノ指定シタル同業組合ハ之ニ加入スヘシ
第三十二條 蠶絲業同業組合中央會ノ會議ハ之ヲ組織スル同業組合聯合會及同業組合ニ於テ同業組合ノ組合員中ヨリ選擧シタル議員ヲ以テ組織スヘシ
主務大臣ハ蠶絲業同業組合中央會ノ議員定數ノ五分ノ一ヲ超エサル特別議員ヲ命スルコトヲ得
第三十三條 蠶絲業同業組合中央會議員ノ定數配當及選出方法竝役員ノ名稱選任解任及權限ニ關シ必要ナル事項ハ命令ヲ以テ之ヲ定ム
第三十四條 重要物產同業組合法第六條、第七條及第十一條乃至第十六條ノ規定ハ蠶絲業同業組合中央會ニ之ヲ準用ス
第三十五條 當該官吏吏員ハ蠶病豫防ニ關シ蠶種又ハ生繭ノ取扱ヲ爲ス者ノ店舖、倉庫、製造場、飼育場等ニ臨檢シ物品及帳簿其ノ他ノ書類ヲ調査シ又ハ必要ナル分量ニ限リ無償ニテ物品ヲ收去スルコトヲ得
地方長官本法又ハ本法ニ基キテ發スル命令ニ違反スル所爲アリト認ムルトキハ當該官吏吏員ヲシテ前項ニ揭ケタル場所ニ臨檢シ犯罪嫌疑者若ハ參考人ヲ尋問シ又ハ犯罪ノ事實ヲ證明スヘキ物件、帳簿、書類ヲ搜索シ若ハ之カ差押ヲ爲サシムルコトヲ得
臨檢、尋問、搜索又ハ差押ニ關シテハ間接國稅犯則者處分法ヲ準用ス
第三十六條 當該官吏吏員ハ自己、親族又ハ同居者ニ對シ第十一條ノ檢査ヲ爲スコトヲ得ス
第三十七條 蠶絲業者ノ所爲ニシテ本法若ハ本法ニ基キテ發スル命令ニ違反シ又ハ公益ヲ害スルノ虞アリト認ムルトキハ地方長官ハ其ノ業務ヲ停止シ若ハ制限シ又ハ其ノ免許ヲ取消スコトヲ得
前項ノ處分ニ不服アル者ハ訴願ヲ提起スルコトヲ得其ノ違法ニ權利ヲ傷害セラレタリトスル者ハ行政訴訟ヲ提起スルコトヲ得
第三十八條 左ノ各號ノ一ニ該當スル者ハ五百圓以下ノ罰金ニ處ス
一 詐欺ノ所爲ヲ以テ第十一條ノ檢査ヲ受ケタル者
二 第十四條又ハ第十七條ノ規定ニ違反シタル者
第三十九條 左ノ各號ノ一ニ該當スル者ハ三百圓以下ノ罰金ニ處ス
一 免許ヲ受ケスシテ他人ニ讓渡スノ目的ヲ以テ蠶種ヲ製造シタル者
二 免許ヲ受ケスシテ蠶種冷藏ノ業ヲ爲シタル者
三 第四條第一項又ハ第六條ノ規定ニ違反シタル者
四 第七條、第八條又ハ第十六條第三項ノ規定ニ違反シタル者
第四十條 左ノ各號ノ一ニ該當スル者ハ二百圓以下ノ罰金又ハ科料ニ處ス
一 第九條又ハ第十條ノ規定ニ違反シタル者
二 第十六條第一項ノ規定ニ違反シタル者
第四十一條 第三十八條、第三十九條第一號第四號又ハ前條第二號ノ犯罪ニ係ル蠶種、蠶兒又ハ繭ハ之ヲ沒收シ旣ニ讓渡シタル場合ニ於テハ其ノ價額ヲ追徵ス
前項ノ蠶種又ハ蠶兒犯人以外ノ者ニ屬スルトキハ行政官廳ノ處分ヲ以テ之ヲ沒收スルコトヲ得
第四十二條 第三十五條ノ規定ニ依ル職務ノ執行ヲ拒ミ若ハ妨ケタル者又ハ臨檢ノ際當該官吏吏員ノ尋問ニ對シ答辯ヲ爲ササル者ハ二百圓以下ノ罰金又ハ科料ニ處ス
第四十三條 蠶絲業者未成年者又ハ禁治產者ナルトキハ本法又ハ本法ニ基キテ發スル命令ニ依リ之ニ適用スヘキ罰則ハ之ヲ法定代理人ニ適用ス但シ其ノ營業ニ關シ成年者ト同一ノ能力ヲ有スル未成年者ニ付テハ此ノ限ニ在ラス
第四十四條 蠶絲業者ハ其ノ代理人、戶主、家族、同居者、雇人其ノ他ノ從業者ニシテ本法又ハ本法ニ基キテ發スル命令ニ違反スル所爲ヲ爲シタルトキハ自己ノ指揮ニ出テサルノ故ヲ以テ其ノ處罰ヲ免ルルコトヲ得ス但シ相當ノ注意ヲ爲シタルトキハ此ノ限ニ在ラス
第四十五條 明治三十三年法律第五十二號ハ本法又ハ本法ニ基キテ發スル命令ニ依ル犯罪ニ之ヲ準用ス
第四十六條 本法中府縣ニ關スル規定ハ北海道ニ於テハ北海道地方費ニ之ヲ準用ス
附 則
第四十七條 本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
蠶病豫防法ハ之ヲ廢止ス
第四十八條 本法ハ沖繩縣、小笠原島、伊豆七島其ノ他命令ヲ以テ指定スル地域ニ之ヲ施行セス
第四十九條 蠶病豫防法ニ依ル檢査合格ノ證印ハ之ヲ本法ニ依ル檢査合格ノ證印ト看做ス
第五十條 蠶病豫防法ニ依リ檢査ニ合格シタル原種ハ之ヲ特別蠶種ト看做ス
第五十一條 本法施行前製造シタル自家用蠶種ノ蠶兒ハ本法施行後ト雖之ヲ飼育スルコトヲ得
第五十二條 本法施行ノ際蠶種ノ冷藏ヲ業トスル者ハ本法施行後一年ヲ限リ免許ヲ受ケスシテ其ノ營業ヲ繼續スルコトヲ得
朕帝国議会ノ協賛ヲ経タル蚕糸業法ヲ裁可シ茲ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
明治四十四年三月二十八日
内閣総理大臣 侯爵 桂太郎
農商務大臣 男爵 大浦兼武
法律第四十七号
蚕糸業法
第一条 本法ニ於テ蚕糸業者ト称スルハ養蚕、蚕種製造、生糸製造、真綿製造、殺蛹乾繭又ハ蚕種、繭、生糸、屑物類ノ売買、仲立若ハ保管ヲ業トスル者ヲ謂フ
第二条 本法ニ於テ蚕種製造者ト称スルハ他人ニ譲渡スノ目的ヲ以テ蚕種ヲ製造スル者ヲ謂フ
第三条 本法ニ於テ蚕病ト称スルハ微粒子病、軟化病、硬化病、膿病及蠁蛆病ヲ謂フ
第四条 蚕児ノ飼育又ハ生繭ノ取扱ヲ為ス者ハ命令ノ定ムル所ニ依リ病蚕及斃蚕ノ病原微生物並蠁蛆及其ノ蛹、蠅ヲ滅殺シ其ノ他蚕病予防ノ為必要ナル施設ヲ為スヘシ
主務大臣ハ学術研究ノ為蚕児ノ飼育又ハ生繭ノ取扱ヲ為ス者ニ対シ前項ノ規定ヲ適用セサルコトヲ得
第五条 蚕種製造者タラムトスル者ハ地方長官ノ免許ヲ受クヘシ
第六条 蚕種製造者ハ命令ノ定ムル所ニ依リ蚕室及蚕具ノ消毒ヲ行フヘシ
第七条 蚕種製造者ハ第十一条第二項及第十二条ノ規定ニ依ル特別蚕種ヨリ産出シタル繭ヲ用ウルニ非サレハ蚕種ヲ製造スルコトヲ得ス
第八条 蚕種製造者ハ左ノ各号ノ一ニ該当スル繭又ハ蛾ヲ以テ蚕種ヲ製造スルコトヲ得ス
一 蚕児ノ合同シテ作リタル繭
二 繭層片薄ナル繭又ハ形状不整ナル繭
三 繭層ノ量繭ノ全量百ニ対シ一化性ニ在リテハ十一、二化性ニ在リテハ八、多化性ニ在リテハ七ニ達セサルモノ
四 蚕児ノ発育不良ニシテ収繭ノ量著シク減少シタルモノ
五 体躯ノ不完全ナル蛾
六 免許ヲ受ケタル蚕種製造者ニ非サル者ノ飼育シタル蚕児ヨリ産出シタル繭
第九条 蚕種製造者ハ蚕種製造用ノ蚕児ト同一ノ飼育時期ニ於テ製糸用ノ蚕児ヲ飼育スルコトヲ得ス
蚕種製造者ハ地方長官ノ許可ヲ受クルニ非サレハ蚕種製造用ノ蚕児ヲ譲渡シ又ハ譲受クルコトヲ得ス
第十条 蚕種製造者ハ蚕種製造用ノ蚕児ノ掃立ヨリ蚕種ノ製造ヲ終ル迄他ノ蚕種製造者又ハ養蚕者ト同一ノ建物又ハ蚕具ヲ共用スルコトヲ得ス
第十一条 蚕種製造者ハ収繭後ニ於テ掃殻及繭、産卵後ニ於テ越年蚕種ニ在リテハ出殻繭及卵、不越年蚕種ニ在リテハ出殻繭ニ付検査ヲ受クヘシ但シ不越年蚕種ニ在リテモ卵ノ検査ヲ受ケシムルコトヲ得
蚕種製造者蚕種ヲ特別蚕種ト為サムトスルトキハ之ヲ框製トシ前項ノ検査ノ外越年蚕種ニ在リテハ母蛾、不越年蚕種ニ在リテハ卵及母蛾ノ検査ヲ受クヘシ
第十二条 主務大臣ハ前条ノ規定ニ拘ラス原蚕種製造所、学校、講習所、試験場等ニ於テ製造シタル蚕種ヲ特別蚕種ト指定スルコトヲ得
第十三条 地方長官ハ第十一条ノ検査ニ合格シタル蚕種ニハ証印ヲ押捺シ其ノ検査ニ合格セサル蚕種ハ之ヲ焼棄スヘシ
第十四条 検査合格ノ証印ナキ蚕種及其ノ蚕児ハ之ヲ譲渡シ又ハ飼育スルコトヲ得ス但シ第十二条ノ規定ニ依リ指定セラレタル特別蚕種及其ノ蚕児ヲ譲渡シ若ハ飼育シ又ハ第十七条但書ノ規定ニ依リ移入若ハ輸入シタル蚕種ノ蚕児ヲ飼育スルコトヲ妨ケス
第十五条 地方長官ハ錯誤ニ依リ又ハ不法ニ押捺セラレタル検査合格ノ証印ヲ発見シタルトキハ遅滞ナク之ヲ抹消スヘシ
第十六条 蚕種製造者ニ非サル者ハ蚕種ヲ製造スルコトヲ得ス
主務大臣必要ト認ムルトキハ学術研究又ハ自家用ノ為ニスル蚕種ノ製造及其ノ蚕児ノ飼育ヲ許可スルコトヲ得此ノ場合ニ於テハ命令ノ定ムル所ニ依リ本法中蚕種製造者ニ関スル規定ノ全部又ハ一部ヲ準用スルコトヲ得
前項ノ規定ニ依リ製造シタル蚕種及其ノ蚕児ハ第十二条ノ規定ニ依リ指定セラレタル特別蚕種及其ノ蚕児ヲ除クノ外之ヲ譲渡スコトヲ得ス
第十七条 本法ヲ施行セサル地又ハ外国ニ於テ製造シタル蚕種ハ之ヲ移入シ又ハ輸入スルコトヲ得ス但シ学術研究ノ為主務大臣ノ許可ヲ受ケタルトキハ此ノ限ニ在ラス
第十八条 主務大臣必要ト認ムルトキハ原蚕種ノ製造若ハ其ノ譲渡譲受又ハ原蚕種ノ種類ヲ制限スルコトヲ得
主務大臣ハ地方特別ノ状況ニ依リ地方長官ヲシテ前項ノ制限ヲ為サシムルコトヲ得
第十九条 主務大臣ハ蚕種又ハ繭ノ売買又ハ取引市場ニ関シ取締上必要ナル命令ヲ発スルコトヲ得
第二十条 蚕種ノ台紙ニ関シ取締上必要ナル事項ハ命令ヲ以テ之ヲ定ム
第二十一条 蚕種ノ冷蔵ヲ業トセムトスル者ハ地方長官ノ免許ヲ受クヘシ
第二十二条 府県ハ命令ノ定ムル所ニ依リ第十一条ノ検査其ノ他蚕病予防ノ為必要ナル吏員ヲ置クヘシ
第二十三条 主務大臣及地方長官ハ必要ニ応シ種繭ノ審査及原蚕種ノ選定ヲ行ハシムル為種繭審査会ヲ設クヘシ
種繭審査会ノ設置、組織、権限及審査選定ニ関スル事項ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第二十四条 第五条、第七条、第八条第六号、第十一条及第三十八条乃至第四十一条ノ規定ハ府県ニ之ヲ適用セス
第二十五条 地方長官必要ト認ムルトキハ野蚕ノ飼育、採種又ハ野蚕生繭ノ取扱ヲ業トスル者ニ第四条第一項ノ規定ヲ準用スルコトヲ得
第二十六条 蚕病予防事務及地方種繭審査会ニ関シ必要ナル費用ハ府県ノ負担トス但シ国庫ハ其ノ半額以内ヲ補助スルコトヲ得
第二十七条 府県ハ命令ノ定ムル所ニ依リ蚕種検査ニ関シ手数料ヲ徴収スヘシ
第二十八条 蚕糸業者ヲ以テ組織スル同業組合連合会ノ設置ニ付テハ重要物産同業組合法第三条及第四条ノ規定ヲ準用ス
第二十九条 前条ノ同業組合連合会及一府県以上ヲ地区トスル蚕糸業者ノ同業組合ニシテ同業組合連合会ニ加入セサル者ハ相互ノ気脈ヲ通シ及蚕糸類ノ海外貿易ノ発展其ノ他蚕糸業ノ利益増進ヲ図ル為全国ヲ地区トシテ蚕糸業同業組合中央会ヲ設置スルコトヲ得
主務大臣必要ト認ムルトキハ前項ニ掲ケタル者ノ外同業組合連合会ニ加入セサル蚕糸業者ノ同業組合ニシテ蚕糸業同業組合中央会ニ加入スヘキ者ヲ指定スルコトヲ得
第三十条 蚕糸業同業組合中央会ノ設置ヲ発起セムトスル者ハ主務大臣ノ認可ヲ受クヘシ
前項ノ認可アリタルトキハ発起人ハ同業組合連合会、一府県以上ヲ地区トスル同業組合ニシテ同業組合連合会ニ加入セサル者及前条第二項ノ規定ニ依リ主務大臣ノ指定シタル同業組合ノ三分ノ二以上ノ同意ヲ得テ創立総会ヲ開キ定款ヲ議定シ主務大臣ノ認可ヲ受クヘシ
第三十一条 蚕糸業同業組合中央会成立シタルトキハ同業組合連合会、一府県以上ヲ地区トスル同業組合ニシテ同業組合連合会ニ加入セサル者及第二十九条第二項ノ規定ニ依リ主務大臣ノ指定シタル同業組合ハ之ニ加入スヘシ
第三十二条 蚕糸業同業組合中央会ノ会議ハ之ヲ組織スル同業組合連合会及同業組合ニ於テ同業組合ノ組合員中ヨリ選挙シタル議員ヲ以テ組織スヘシ
主務大臣ハ蚕糸業同業組合中央会ノ議員定数ノ五分ノ一ヲ超エサル特別議員ヲ命スルコトヲ得
第三十三条 蚕糸業同業組合中央会議員ノ定数配当及選出方法並役員ノ名称選任解任及権限ニ関シ必要ナル事項ハ命令ヲ以テ之ヲ定ム
第三十四条 重要物産同業組合法第六条、第七条及第十一条乃至第十六条ノ規定ハ蚕糸業同業組合中央会ニ之ヲ準用ス
第三十五条 当該官吏吏員ハ蚕病予防ニ関シ蚕種又ハ生繭ノ取扱ヲ為ス者ノ店舗、倉庫、製造場、飼育場等ニ臨検シ物品及帳簿其ノ他ノ書類ヲ調査シ又ハ必要ナル分量ニ限リ無償ニテ物品ヲ収去スルコトヲ得
地方長官本法又ハ本法ニ基キテ発スル命令ニ違反スル所為アリト認ムルトキハ当該官吏吏員ヲシテ前項ニ掲ケタル場所ニ臨検シ犯罪嫌疑者若ハ参考人ヲ尋問シ又ハ犯罪ノ事実ヲ証明スヘキ物件、帳簿、書類ヲ捜索シ若ハ之カ差押ヲ為サシムルコトヲ得
臨検、尋問、捜索又ハ差押ニ関シテハ間接国税犯則者処分法ヲ準用ス
第三十六条 当該官吏吏員ハ自己、親族又ハ同居者ニ対シ第十一条ノ検査ヲ為スコトヲ得ス
第三十七条 蚕糸業者ノ所為ニシテ本法若ハ本法ニ基キテ発スル命令ニ違反シ又ハ公益ヲ害スルノ虞アリト認ムルトキハ地方長官ハ其ノ業務ヲ停止シ若ハ制限シ又ハ其ノ免許ヲ取消スコトヲ得
前項ノ処分ニ不服アル者ハ訴願ヲ提起スルコトヲ得其ノ違法ニ権利ヲ傷害セラレタリトスル者ハ行政訴訟ヲ提起スルコトヲ得
第三十八条 左ノ各号ノ一ニ該当スル者ハ五百円以下ノ罰金ニ処ス
一 詐欺ノ所為ヲ以テ第十一条ノ検査ヲ受ケタル者
二 第十四条又ハ第十七条ノ規定ニ違反シタル者
第三十九条 左ノ各号ノ一ニ該当スル者ハ三百円以下ノ罰金ニ処ス
一 免許ヲ受ケスシテ他人ニ譲渡スノ目的ヲ以テ蚕種ヲ製造シタル者
二 免許ヲ受ケスシテ蚕種冷蔵ノ業ヲ為シタル者
三 第四条第一項又ハ第六条ノ規定ニ違反シタル者
四 第七条、第八条又ハ第十六条第三項ノ規定ニ違反シタル者
第四十条 左ノ各号ノ一ニ該当スル者ハ二百円以下ノ罰金又ハ科料ニ処ス
一 第九条又ハ第十条ノ規定ニ違反シタル者
二 第十六条第一項ノ規定ニ違反シタル者
第四十一条 第三十八条、第三十九条第一号第四号又ハ前条第二号ノ犯罪ニ係ル蚕種、蚕児又ハ繭ハ之ヲ没収シ既ニ譲渡シタル場合ニ於テハ其ノ価額ヲ追徴ス
前項ノ蚕種又ハ蚕児犯人以外ノ者ニ属スルトキハ行政官庁ノ処分ヲ以テ之ヲ没収スルコトヲ得
第四十二条 第三十五条ノ規定ニ依ル職務ノ執行ヲ拒ミ若ハ妨ケタル者又ハ臨検ノ際当該官吏吏員ノ尋問ニ対シ答弁ヲ為ササル者ハ二百円以下ノ罰金又ハ科料ニ処ス
第四十三条 蚕糸業者未成年者又ハ禁治産者ナルトキハ本法又ハ本法ニ基キテ発スル命令ニ依リ之ニ適用スヘキ罰則ハ之ヲ法定代理人ニ適用ス但シ其ノ営業ニ関シ成年者ト同一ノ能力ヲ有スル未成年者ニ付テハ此ノ限ニ在ラス
第四十四条 蚕糸業者ハ其ノ代理人、戸主、家族、同居者、雇人其ノ他ノ従業者ニシテ本法又ハ本法ニ基キテ発スル命令ニ違反スル所為ヲ為シタルトキハ自己ノ指揮ニ出テサルノ故ヲ以テ其ノ処罰ヲ免ルルコトヲ得ス但シ相当ノ注意ヲ為シタルトキハ此ノ限ニ在ラス
第四十五条 明治三十三年法律第五十二号ハ本法又ハ本法ニ基キテ発スル命令ニ依ル犯罪ニ之ヲ準用ス
第四十六条 本法中府県ニ関スル規定ハ北海道ニ於テハ北海道地方費ニ之ヲ準用ス
附 則
第四十七条 本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
蚕病予防法ハ之ヲ廃止ス
第四十八条 本法ハ沖縄県、小笠原島、伊豆七島其ノ他命令ヲ以テ指定スル地域ニ之ヲ施行セス
第四十九条 蚕病予防法ニ依ル検査合格ノ証印ハ之ヲ本法ニ依ル検査合格ノ証印ト看做ス
第五十条 蚕病予防法ニ依リ検査ニ合格シタル原種ハ之ヲ特別蚕種ト看做ス
第五十一条 本法施行前製造シタル自家用蚕種ノ蚕児ハ本法施行後ト雖之ヲ飼育スルコトヲ得
第五十二条 本法施行ノ際蚕種ノ冷蔵ヲ業トスル者ハ本法施行後一年ヲ限リ免許ヲ受ケスシテ其ノ営業ヲ継続スルコトヲ得