蚕病予防法
法令番号: 法律第二十二號
公布年月日: 明治38年2月16日
法令の形式: 法律
朕帝國議會ノ協贊ヲ經タル蠶病豫防法ヲ裁可シ玆ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
明治三十八年二月十五日
內閣總理大臣 伯爵 桂太郞
農商務大臣 男爵 淸浦奎吾
法律第二十二號
蠶病豫防法
第一條 本法ニ於テ蠶病ト稱スルハ微粒子病、軟化病、硬化病、膿病及蠁蛆病ヲ謂フ
第二條 本法ニ於テ蠶種製造者ト稱スルハ他人ニ讓渡スノ目的ヲ以テ蠶種ヲ製造スル者ヲ謂フ
蠶種製造者ハ命令ノ定ムル所ニ從ヒ蠶種製造ノ屆出ヲ爲スヘシ此ノ屆出ヲ爲ササル者ハ蠶種製造者ト看做サス
第三條 蠶種製造者、養蠶者、生絲製造者又ハ生繭ノ賣買若ハ殺蛹乾繭ニ從事スル者ハ命令ノ定ムル所ニ依リ病蠶、蠁蛆及其ノ蛹ヲ滅殺シ其ノ他蠶病豫防ノ爲必要ナル施設ヲ爲スヘシ
主務大臣ハ學術硏究ノ爲養蠶、生絲製造又ハ殺蛹乾繭ヲ爲ス者ニ對シ前項ノ規定ヲ適用セサルコトヲ得
第四條 蠶種製造者ハ命令ノ定ムル所ニ依リ蠶室及蠶具ノ消毒ヲ行フヘシ
第五條 蠶種製造者ハ檢査合格ノ原種ヨリ產出シタル繭ヲ用ウルニ非サレハ蠶種ヲ製造スルコトヲ得ス
第六條 蠶種製造者ハ左ニ揭クル繭ヲ以テ蠶種ヲ製造スルコトヲ得ス
一 二蠶以上合同シテ作リタル繭
二 繭層片薄ナル繭又ハ形狀ヲ失スル繭
三 繭層ノ量繭ノ全量百ニ對シ一化性ニ在リテハ十、二化性ニ在リテハ七、多化性ニ在リテハ六ニ達セサルモノ
四 蠶兒ノ發育不良ニシテ收繭ノ量著シク減少シタルモノ
五 蠶種製造者ニ非サル者ノ飼育シタル蠶兒ヨリ產出シタル繭
第七條 蠶種製造者ハ原種ヲ框製ニスヘシ
第八條 蠶種製造者ハ蠶種製造用ノ蠶兒ト同一ノ飼育時期ニ於テ製絲用ノ蠶兒ヲ飼育スルコトヲ得ス
蠶種製造者ハ行政廳ノ許可ヲ受クルニ非サレハ蠶兒ヲ讓渡シ又ハ讓受クルコトヲ得ス
第九條 蠶種製造者ハ同一飼育時期ニ於テ他ノ蠶種製造者又ハ養蠶者ト同一ノ建物又ハ蠶具ヲ共用スルコトヲ得ス
第十條 蠶種製造者ハ收繭後ニ於テ掃殼及繭、產卵後ニ於テ原種ニ在リテハ出殼繭、母蛾及卵、越年スル製絲用種ニ在リテハ出殼繭及卵、越年セサル製絲用種ニ在リテハ出殼繭ノ檢査ヲ受クヘシ但シ越年セサル製絲用種ニ在リテモ卵ノ檢査ヲ受ケシムルコトヲ得
第十一條 主務大臣ハ必要ト認ムルトキハ本法中蠶種製造者ニ關スル規定ノ全部又ハ一部ヲ自家用又ハ學術硏究ノ爲蠶種ヲ製造スル者ニ適用スルコトヲ得
第十二條 行政廳ハ第十條ノ檢査ニ合格シタル蠶種ニ證印ヲ附シ不合格ノ蠶種ヲ燒棄スヘシ
第十三條 檢査合格ノ證印ナキ蠶種及其ノ蠶種ヨリ產出シタル蠶兒ハ之ヲ讓渡スコトヲ得ス但シ學術硏究ノ爲製造シタル蠶種ニシテ命令ノ定ムル所ニ依リ檢査合格ト看做サレタルモノ及其ノ蠶種ヨリ產出シタル蠶兒ハ此ノ限ニ在ラス
第十四條 本法ヲ施行セサル地又ハ外國ニ於テ製造シタル蠶種ハ學術硏究ノ爲主務大臣ノ認可ヲ受ケタル場合ヲ除クノ外之ヲ移入又ハ輸入スルコトヲ得ス
第十五條 錯誤ニ因リ又ハ本法ノ規定ニ違反シテ爲シタル檢査合格ノ證印ハ行政廳ニ於テ之ヲ取消スヘシ
第十六條 當該吏員ハ蠶病豫防ニ關スル狀況ヲ臨檢シ檢査ノ爲無償ニテ物品ヲ收去シ其ノ他必要ナル處分ヲ爲スコトヲ得
前項ノ吏員ハ其ノ證票ヲ携帶スヘシ
第十七條 當該吏員ハ自己、同一戶籍內ニ在ル者又ハ同居者ニ對シ前條ノ臨檢及第十條ノ檢査ヲ行フコトヲ得ス
第十八條 蠶病豫防事務ノ費用ハ府縣ノ負擔トス
沖繩縣ニ於テハ國庫ノ負擔トス
第十九條 府縣ハ命令ノ定ムル所ニ依リ蠶種檢査ニ關シ手數料ヲ徵收スルコトヲ得
第二十條 府縣ハ命令ノ定ムル所ニ依リ蠶病豫防ノ爲必要ナル吏員ヲ置クヘシ
第二十一條 詐僞ノ所爲ヲ以テ第十條ノ檢査ヲ受ケタル者又ハ第八條第二項、第十三條若ハ第十四條ノ規定ニ違背シタル者ハ三百圓以下ノ罰金ニ處シ其ノ犯罪ニ係ル蠶種、蠶兒及繭ハ之ヲ沒收シ旣ニ讓渡シタルトキハ其ノ代金ヲ追徵ス
第二十二條 當該吏員本法ノ執行ニ關シ不正ノ所爲アリタルトキハ一年以下ノ重禁錮ニ處シ四十圓以下ノ罰金ヲ附加ス其ノ刑法ニ正條アルモノハ刑法ニ依ル
第二十三條 第三條第一項、第四條乃至第六條、第八條第一項、第九條又ハ第十七條ノ規定ニ違背シタル者ハ百圓以下ノ罰金ニ處ス
本法又ハ本法ニ基キテ發スル命令ニ依ル當該吏員ノ指示ニ從ハス若ハ其ノ職務執行ヲ妨ケタル者ハ罰前項ニ同シ其ノ刑法ニ正條アルモノハ刑法ニ依ル
第二十四條 本法又ハ本法ニ基キテ發スル命令ノ規定ニ違背シタル者ニハ刑法ノ減輕、再犯加重及數罪俱發ノ例ヲ用井ス
第二十五條 當業者カ未成年者又ハ禁治產者ナルトキハ本法又ハ本法ニ基キテ發スル命令ノ規定ニ依リ當業者ニ適用スヘキ罰則ハ之ヲ法定代理人ニ適用ス但シ其ノ營業ニ關シ成年者ト同一ノ能力ヲ有スル未成年者ニ付テハ此ノ限ニ在ラス
第二十六條 當業者ハ其ノ代理人、戶主、家族、同居者、雇人其ノ他ノ從業者ニシテ其ノ業務ニ關シ本法又ハ本法ニ基キテ發スル命令ノ規定ニ違背シタルトキハ自己ノ指揮ニ出サルノ故ヲ以テ處罰ヲ免ルルコトヲ得ス
第二十七條 前二條ノ場合ニ於テハ禁錮又ハ拘留ノ刑ニ處スルコトヲ得ス
第二十八條 明治三十三年法律第五十二號ノ規定ハ本法又ハ本法ニ基キテ發スル命令ニ依ル犯罪ニ之ヲ準用ス
附 則
第二十九條 本法ハ明治三十八年四月一日ヨリ之ヲ施行ス
蠶種檢査法ハ之ヲ廢止ス
第三十條 本法ハ命令ヲ以テ指定スル地ニ之ヲ施行セス
第三十一條 本法中府縣ニ關スル規定ハ北海道ニ於テハ之ヲ北海道地方費ニ準用ス
朕帝国議会ノ協賛ヲ経タル蚕病予防法ヲ裁可シ茲ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
明治三十八年二月十五日
内閣総理大臣 伯爵 桂太郎
農商務大臣 男爵 清浦奎吾
法律第二十二号
蚕病予防法
第一条 本法ニ於テ蚕病ト称スルハ微粒子病、軟化病、硬化病、膿病及蠁蛆病ヲ謂フ
第二条 本法ニ於テ蚕種製造者ト称スルハ他人ニ譲渡スノ目的ヲ以テ蚕種ヲ製造スル者ヲ謂フ
蚕種製造者ハ命令ノ定ムル所ニ従ヒ蚕種製造ノ届出ヲ為スヘシ此ノ届出ヲ為ササル者ハ蚕種製造者ト看做サス
第三条 蚕種製造者、養蚕者、生糸製造者又ハ生繭ノ売買若ハ殺蛹乾繭ニ従事スル者ハ命令ノ定ムル所ニ依リ病蚕、蠁蛆及其ノ蛹ヲ滅殺シ其ノ他蚕病予防ノ為必要ナル施設ヲ為スヘシ
主務大臣ハ学術研究ノ為養蚕、生糸製造又ハ殺蛹乾繭ヲ為ス者ニ対シ前項ノ規定ヲ適用セサルコトヲ得
第四条 蚕種製造者ハ命令ノ定ムル所ニ依リ蚕室及蚕具ノ消毒ヲ行フヘシ
第五条 蚕種製造者ハ検査合格ノ原種ヨリ産出シタル繭ヲ用ウルニ非サレハ蚕種ヲ製造スルコトヲ得ス
第六条 蚕種製造者ハ左ニ掲クル繭ヲ以テ蚕種ヲ製造スルコトヲ得ス
一 二蚕以上合同シテ作リタル繭
二 繭層片薄ナル繭又ハ形状ヲ失スル繭
三 繭層ノ量繭ノ全量百ニ対シ一化性ニ在リテハ十、二化性ニ在リテハ七、多化性ニ在リテハ六ニ達セサルモノ
四 蚕児ノ発育不良ニシテ収繭ノ量著シク減少シタルモノ
五 蚕種製造者ニ非サル者ノ飼育シタル蚕児ヨリ産出シタル繭
第七条 蚕種製造者ハ原種ヲ框製ニスヘシ
第八条 蚕種製造者ハ蚕種製造用ノ蚕児ト同一ノ飼育時期ニ於テ製糸用ノ蚕児ヲ飼育スルコトヲ得ス
蚕種製造者ハ行政庁ノ許可ヲ受クルニ非サレハ蚕児ヲ譲渡シ又ハ譲受クルコトヲ得ス
第九条 蚕種製造者ハ同一飼育時期ニ於テ他ノ蚕種製造者又ハ養蚕者ト同一ノ建物又ハ蚕具ヲ共用スルコトヲ得ス
第十条 蚕種製造者ハ収繭後ニ於テ掃殻及繭、産卵後ニ於テ原種ニ在リテハ出殻繭、母蛾及卵、越年スル製糸用種ニ在リテハ出殻繭及卵、越年セサル製糸用種ニ在リテハ出殻繭ノ検査ヲ受クヘシ但シ越年セサル製糸用種ニ在リテモ卵ノ検査ヲ受ケシムルコトヲ得
第十一条 主務大臣ハ必要ト認ムルトキハ本法中蚕種製造者ニ関スル規定ノ全部又ハ一部ヲ自家用又ハ学術研究ノ為蚕種ヲ製造スル者ニ適用スルコトヲ得
第十二条 行政庁ハ第十条ノ検査ニ合格シタル蚕種ニ証印ヲ附シ不合格ノ蚕種ヲ焼棄スヘシ
第十三条 検査合格ノ証印ナキ蚕種及其ノ蚕種ヨリ産出シタル蚕児ハ之ヲ譲渡スコトヲ得ス但シ学術研究ノ為製造シタル蚕種ニシテ命令ノ定ムル所ニ依リ検査合格ト看做サレタルモノ及其ノ蚕種ヨリ産出シタル蚕児ハ此ノ限ニ在ラス
第十四条 本法ヲ施行セサル地又ハ外国ニ於テ製造シタル蚕種ハ学術研究ノ為主務大臣ノ認可ヲ受ケタル場合ヲ除クノ外之ヲ移入又ハ輸入スルコトヲ得ス
第十五条 錯誤ニ因リ又ハ本法ノ規定ニ違反シテ為シタル検査合格ノ証印ハ行政庁ニ於テ之ヲ取消スヘシ
第十六条 当該吏員ハ蚕病予防ニ関スル状況ヲ臨検シ検査ノ為無償ニテ物品ヲ収去シ其ノ他必要ナル処分ヲ為スコトヲ得
前項ノ吏員ハ其ノ証票ヲ携帯スヘシ
第十七条 当該吏員ハ自己、同一戸籍内ニ在ル者又ハ同居者ニ対シ前条ノ臨検及第十条ノ検査ヲ行フコトヲ得ス
第十八条 蚕病予防事務ノ費用ハ府県ノ負担トス
沖縄県ニ於テハ国庫ノ負担トス
第十九条 府県ハ命令ノ定ムル所ニ依リ蚕種検査ニ関シ手数料ヲ徴収スルコトヲ得
第二十条 府県ハ命令ノ定ムル所ニ依リ蚕病予防ノ為必要ナル吏員ヲ置クヘシ
第二十一条 詐偽ノ所為ヲ以テ第十条ノ検査ヲ受ケタル者又ハ第八条第二項、第十三条若ハ第十四条ノ規定ニ違背シタル者ハ三百円以下ノ罰金ニ処シ其ノ犯罪ニ係ル蚕種、蚕児及繭ハ之ヲ没収シ既ニ譲渡シタルトキハ其ノ代金ヲ追徴ス
第二十二条 当該吏員本法ノ執行ニ関シ不正ノ所為アリタルトキハ一年以下ノ重禁錮ニ処シ四十円以下ノ罰金ヲ附加ス其ノ刑法ニ正条アルモノハ刑法ニ依ル
第二十三条 第三条第一項、第四条乃至第六条、第八条第一項、第九条又ハ第十七条ノ規定ニ違背シタル者ハ百円以下ノ罰金ニ処ス
本法又ハ本法ニ基キテ発スル命令ニ依ル当該吏員ノ指示ニ従ハス若ハ其ノ職務執行ヲ妨ケタル者ハ罰前項ニ同シ其ノ刑法ニ正条アルモノハ刑法ニ依ル
第二十四条 本法又ハ本法ニ基キテ発スル命令ノ規定ニ違背シタル者ニハ刑法ノ減軽、再犯加重及数罪俱発ノ例ヲ用井ス
第二十五条 当業者カ未成年者又ハ禁治産者ナルトキハ本法又ハ本法ニ基キテ発スル命令ノ規定ニ依リ当業者ニ適用スヘキ罰則ハ之ヲ法定代理人ニ適用ス但シ其ノ営業ニ関シ成年者ト同一ノ能力ヲ有スル未成年者ニ付テハ此ノ限ニ在ラス
第二十六条 当業者ハ其ノ代理人、戸主、家族、同居者、雇人其ノ他ノ従業者ニシテ其ノ業務ニ関シ本法又ハ本法ニ基キテ発スル命令ノ規定ニ違背シタルトキハ自己ノ指揮ニ出サルノ故ヲ以テ処罰ヲ免ルルコトヲ得ス
第二十七条 前二条ノ場合ニ於テハ禁錮又ハ拘留ノ刑ニ処スルコトヲ得ス
第二十八条 明治三十三年法律第五十二号ノ規定ハ本法又ハ本法ニ基キテ発スル命令ニ依ル犯罪ニ之ヲ準用ス
附 則
第二十九条 本法ハ明治三十八年四月一日ヨリ之ヲ施行ス
蚕種検査法ハ之ヲ廃止ス
第三十条 本法ハ命令ヲ以テ指定スル地ニ之ヲ施行セス
第三十一条 本法中府県ニ関スル規定ハ北海道ニ於テハ之ヲ北海道地方費ニ準用ス