朕帝國議會ノ協贊ヲ經タル森林法改正法律ヲ裁可シ玆ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
明治四十年四月二十二日
內閣總理大臣 侯爵 西園寺公望
農商務大臣 松岡康毅
法律第四十三號
森林法
第一章 總則
第一條 森林ハ其ノ所有者ニ依リ之ヲ分チテ御料林、國有林、公有林、社寺有林及私有林トス
前項ノ種別ニ依リ難キ森林ニ關シテハ命令ノ定ムル所ニ依リ本法ヲ適用ス
第二條 森林ノ立木竹ヲ所有スル爲地上權、賃借權其ノ他土地ニ關シ使用又ハ收益ヲ爲ス權利ヲ有スル者アルトキハ其ノ權利者ヲ以テ本法ニ依ル森林所有者ト看做ス
前項ノ權利二箇以上同一ノ土地ノ上ニ存在スル場合ニ於テハ最後ニ設定セラレタル權利ヲ有スル者ヲ以テ前項ノ森林所有者トス
第三條 本法ニ於テ開墾ト稱スルハ地租條例ニ規定スルモノノ外燒畑、切替畑其ノ他土地ノ形質ヲ變更スル行爲ヲ謂フ
第四條 本法又ハ本法ニ基キテ發スル命令ニ規定シタル森林所有者、森林立木竹所有者又ハ土地ノ所有者若ハ占有者ノ權利義務ハ森林若ハ森林立木竹又ハ土地ノ所有權若ハ占有權ト共ニ其ノ承繼人ニ移轉ス
第五條 本法又ハ本法ニ基キテ發スル命令ノ規定ニ依リ爲シタル手續其ノ他ノ行爲ハ森林所有者、森林立木竹所有者又ハ土地ノ所有者若ハ占有者ノ承繼人ニ對シテモ其ノ效力ヲ有ス
第六條 民法第二百五十六條ノ規定ハ共有ノ森林ニ之ヲ適用セス但シ各共有者持分ノ價格ニ從ヒ其ノ過半數ヲ以テ分割ノ請求ヲ爲スコトヲ妨ケス
第七條 公園、社寺境內及命令ヲ以テ定ムル土地ニ付テハ本法ヲ適用セス但シ命令ニ別段ノ規定アルトキハ此ノ限ニ在ラス
第八條 本法又ハ本法ニ基キテ發スル命令ノ規定ニ依リ書類ヲ送付スヘキ場合ニ於テ送付ヲ爲スコト能ハサルトキハ官報又ハ行政廳慣行ノ公布式ヲ以テ之ヲ公示シ其ノ公示ノ日ヨリ三十日ヲ經過シタルトキハ其ノ末日ニ於テ送付アリタルモノト看做ス
第二章 營林ノ監督
第九條 地方長官ニ於テ必要アリト認ムルトキハ公共團體又ハ社寺ノ代表者ヲシテ森林又ハ森林トシテ管理スヘキ土地ニ付施業案又ハ施業要領ヲ定メ其ノ認可ヲ受ケシムルコトヲ得
地方長官ニ於テ必要アリト認ムルトキハ前項ノ施業案又ハ施業要領ノ變更ヲ命スルコトヲ得
第十條 公有林、社寺有林又ハ私有林ニシテ荒廢ノ虞アルトキハ地方長官ニ於テ施業ノ方法ヲ指定スルコトヲ得
前項指定ノ方法ニ違反シ伐木ヲ爲シタル者ニハ地方長官其ノ伐採ヲ停止シ伐木跡地ニ造林ヲ命スルコトヲ得
第二十五條第二項ノ規定ハ前二項ノ場合ニ之ヲ準用ス
第十一條 前條第二項ニ依リ造林ノ命令ヲ受ケタル者造林ヲ怠リタルトキハ行政官廳ニ於テ自ラ義務者ノ爲スヘキ行爲ヲ爲シ又ハ公共團體ヲシテ之ヲ爲サシムルコトヲ得
前項造林ニ要シタル費用ハ行政官廳ニ於テ國稅徵收法ノ例ニ依リ之ヲ徵收スルコトヲ得
第十二條 本法施行以前ヨリ荒廢ニ屬シタル森林ニ付新ニ造林シタルトキハ其ノ納稅義務者ノ申請ニ依リ其ノ造林シタル部分ニ限リ三十年以內地租ヲ免スルコトヲ得
前項ノ規定ハ原野、山岳又ハ荒蕪地ニ新ニ造林シタル場合ニ之ヲ準用ス
府縣市町村其ノ他ノ公共團體ハ前二項ニ依リ地租ヲ免セラレタル土地ニ對シ租稅其ノ他ノ公課ヲ課スルコトヲ得ス
第十三條 公有林、社寺有林又ハ私有林ニ付地方長官ハ土地ノ狀況ニ依リ箇所及期間ヲ指定シ落葉、落枝、柴草、土石、樹根、草根、切芝ノ採取若ハ採掘ニ關スル制限又ハ禁止ヲ爲スコトヲ得
第三章 保安林
第十四條 主務大臣ハ左ニ揭クル場合ニ於テ森林ヲ保安林ニ編入スルコトヲ得
一 土砂ノ壞崩、流出ノ防備ノ爲必要ナルトキ
二 飛砂ノ防備ノ爲必要ナルトキ
三 水害、風害、潮害ノ防備ノ爲必要ナルトキ
四 頽雪又ハ墜石ニ因ル危險ノ防止ノ爲必要ナルトキ
五 水源涵養ノ爲必要ナルトキ
六 魚附ノ爲必要ナルトキ
七 航行ノ目標ノ爲必要ナルトキ
八 公衆ノ衞生ノ爲必要ナルトキ
九 社寺、名所又ハ舊跡ノ風致ノ爲必要ナルトキ
第十五條 主務大臣ハ公益上必要アリト認ムルトキ又ハ保安林トシテ存置スルノ必要ナシト認ムルトキハ保安林ヲ解除スルコトヲ得
第十六條 保安林ノ編入解除ハ其ノ森林所在ノ府縣市町村又ハ之ニ準スヘキ者其ノ他直接利害ノ關係ヲ有スル者ヨリ地方長官ヲ經由シ主務大臣ニ申請スルコトヲ得
前項ノ申請ニ係ル森林ニ付不編入又ハ不解除ノ處分アリタルトキハ實地ノ狀況ニ著シキ變更ヲ生シタル場合ニ非サレハ同一理由ニ依リ再ヒ之ヲ申請スルコトヲ得ス
第十七條 保安林ノ編入解除ノ申請アリタル場合ニ於テ前條第一項ノ條件ヲ具備セス又ハ同條第二項ノ規定ニ違反シタルモノト認ムルトキハ地方長官ハ申請書ヲ却下スルコトヲ得
前項ノ處分ニ對シ不服アル者ハ訴願ヲ提起スルコトヲ得
第十八條 保安林ノ編入解除ヲ爲サムトスルトキ又ハ地方長官其ノ申請ヲ受理シタルトキハ地方長官ニ於テ其ノ旨ヲ森林所有者、土地所有者其ノ他土地ニ付登記シタル權利ヲ有スル者ニ通知シ且慣行ノ公布式ヲ以テ之ヲ吿示シ森林所在ノ市町村役場ニ之ヲ揭示スヘシ
地方長官ハ前項吿示ノ日ヨリ三十日ヲ經過シタル後保安林ノ編入解除ヲ地方森林會ノ議ニ付スヘシ
第十九條 地方森林會ニ關スル規程ハ命令ヲ以テ之ヲ定ム
第二十條 第十八條ノ吿示ニシテ保安林編入ニ關スルモノナルトキハ其ノ吿示ノ日ヨリ第二十三條ノ吿示ノ日迄其ノ森林ニ於テ木竹ノ伐採、開墾又ハ土石、切芝、樹根、草根、埋木ノ採取若ハ採掘ヲ爲スコトヲ得ス但シ地方長官ノ許可ヲ得タルトキハ此ノ限ニ在ラス
第二十一條 保安林ノ編入解除ニ關シ直接利害ノ關係ヲ有スル者其ノ編入解除ニ異議アルトキハ第十八條ノ吿示ノ日ヨリ二十五日以內ニ意見書ヲ地方長官ニ提出スルコトヲ得
第二十二條 地方長官ハ保安林ノ編入解除ニ關スル地方森林會ノ決議書其ノ他ノ關係書類ニ意見書ヲ添ヘ之ヲ主務大臣ニ差出スヘシ
第二十三條 主務大臣ニ於テ保安林ノ編入解除ニ關スル處分ヲ爲シタルトキハ官報ヲ以テ之ヲ吿示シ地方長官ヲシテ其ノ森林所有者ニ其ノ旨ヲ通知シ且所在ノ市町村役場ニ揭示セシムヘシ
第二十四條 保安林ノ編入解除ニ關シ直接利害ノ關係ヲ有スル者其ノ編入解除ニ關スル處分ニ不服アルトキハ訴願ヲ提起スルコトヲ得違法ニ權利ヲ傷害セラレタリトスルトキハ前條吿示ノ日ヨリ六十日以內ニ行政訴訟ヲ提起スルコトヲ得
第二十五條 地方長官ニ於テ保安林ノ編入ニ關シ必要アリト認ムルトキハ其ノ森林ニ於ケル木竹ノ伐採ヲ停止スルコトヲ得但シ其ノ停止期間ハ一箇年ヲ超ユルコトヲ得ス
前項ニ依リ木竹ノ伐採ヲ停止セラレタル森林ト雖保育ノ爲必要ナルトキ又ハ已ムコトヲ得サル事由アルトキハ地方長官ノ許可ヲ得テ之ヲ伐採スルコトヲ得
第二十六條 保安林ニ於テハ地方長官ノ許可ヲ得ルニ非サレハ木竹ノ伐採、傷害、開墾又ハ土石、切芝、樹根、草根、埋木ノ採取若ハ採掘ヲ爲シ又ハ家畜ヲ放牧スルコトヲ得ス
第二十七條 主務大臣ハ保安林ノ所有者ニ對シ前條ノ外其ノ使用收益ヲ制限若ハ禁止シ又ハ施業若ハ保護ノ方法ヲ指定スルコトヲ得
第二十八條 木竹ノ伐採ヲ禁止セラレタル保安林ノ所有者又ハ立木竹ノ所有者ハ之ニ因リテ生シタル直接ノ損害ニ限リ其ノ補償ヲ求ムルコトヲ得
前項保安林ノ所有者カ前條ノ指定ニ依リ造林ヲ爲シタルトキハ其ノ造林ノ費用ハ前項ノ損害ト看做ス
前二項ノ損害ハ政府之ヲ補償ス但シ政府ハ保安林編入ニ因リ特ニ利益ヲ受クル公共團體若ハ私人ヲシテ其ノ全部又ハ一部ヲ負擔セシメ國稅徵收法ノ例ニ依リ之ヲ徵收スルコトヲ得
第一項及第二項ノ損害ノ算定方法及其ノ補償請求期間ハ命令ヲ以テ之ヲ定ム
第二十九條 前條第三項ニ依ル政府ノ補償金額ニ付不服アル者ハ其ノ補償金額ノ通知ヲ受ケタル日ヨリ九十日以內ニ通常裁判所ニ出訴スルコトヲ得
前條第三項但書ニ依ル負擔ニ付不服アル者ハ訴願ヲ提起スルコトヲ得
第三十條 先取特權、質權又ハ抵當權ハ第二十八條第一項ニ依リ受クヘキ補償金ニ對シテモ之ヲ行フコトヲ得但シ其ノ拂渡前ニ差押ヲ爲スヘシ
第三十一條 國有地ノ上ニ存在スル森林ニシテ保安林ニ編入セラレタルトキハ政府ハ其ノ借地料ヲ免ス
第三十二條 主務大臣國土保安上必要アリト認ムルトキハ保安林以外ノ森林ニ付區域又ハ箇所ヲ定メテ開墾ヲ制限又ハ禁止スルコトヲ得
第三十三條 第二十六條ノ規定ニ違反シ、第二十七條又ハ前條ノ制限、禁止若ハ指定ニ違反シタル者アルトキハ地方長官ハ造林其ノ他復舊ニ必要ナル行爲ヲ命スルコトヲ得
第三十四條 第十一條ノ規定ハ前條ニ依リ造林ノ命令ヲ爲シタル場合ニ之ヲ準用ス
第三十五條 保安林ノ編入解除ニ關スル調査及國土保安ニ關シ地方長官ノ行フ調査ニ要スル費用ハ府縣ノ負擔トス但シ北海道ニ於テハ北海道地方費、沖繩縣ニ於テハ國庫ノ負擔トス
第三十六條 主務大臣ニ於テ必要アリト認ムルトキハ原野、山岳其ノ他ノ土地ニシテ第十四條第一號乃至第五號ノ場合ニ該當スルモノニ付本章ノ規定ヲ準用スルコトヲ得
第三十七條 第十八條第二項、第二十八條乃至第三十條ノ規定ハ御料林及國有林ニ之ヲ適用セス
第四章 土地ノ使用及收用
第三十八條 本章ニ於テ關係人ト稱スルハ第四十條第二項ニ依ル通知前使用又ハ收用スヘキ土地ニ關シテ權利ヲ有スル者及其ノ通知後ニ於テ通知前ヨリ旣存セル權利ヲ承繼シタル者ヲ謂フ
第三十九條 本章ニ於テ補償金ト稱スルハ對價、使用料其ノ他土地所有者及關係人ノ通常受クヘキ損失ニ對スル補償金ヲ總稱ス
第四十條 森林ヨリ其ノ產物ヲ運搬スル爲又ハ運搬ニ關スル設備ノ爲必要アルトキハ地方長官ノ許可ヲ得テ他人ノ土地ヲ使用スルコトヲ得但シ御料局又ハ政府ノ使用ニ係ルトキハ當該官廳ハ之ヲ地方長官ニ協議スヘシ
地方長官ハ前項ノ許可ヲ與ヘ又ハ協議調ヒタルトキハ之ヲ土地所有者及關係人ニ通知スヘシ
第一項ニ依リ土地ヲ使用セムトスル者ハ前項通知ノ後其ノ土地ニ關スル權利ヲ取得スル爲土地所有者及關係人ニ協議スヘシ
第四十一條 前條第二項ノ通知後一箇年以內ニ同條第三項ノ協議ヲ爲ササルトキハ同條第一項ノ許可及協議ハ其ノ效力ヲ失フ第五十五條第一項ニ依リ地方森林會ノ裁決ヲ求メサルトキ亦同シ
第四十二條 土地ノ使用三箇年以上ニ亙ルトキ又ハ土地ノ形質ヲ變更スルトキハ所有者ハ其ノ收用ヲ請求スルコトヲ得
第四十三條 土地ノ一部ヲ收用スルニ因リテ殘地ヲ從來用井タル目的ニ供スルコト能ハサルトキハ土地所有者ハ其ノ全部ノ收用ヲ請求スルコトヲ得
第四十四條 土地ヲ使用又ハ收用スルトキハ土地所有者及關係人ニ補償金ヲ拂渡スヘシ
第四十五條 土地ノ一部ヲ使用又ハ收用スルニ因リテ殘地ノ價格ヲ減シ其ノ他殘地ニ關シ損失ヲ生スヘキトキハ其ノ補償金ヲ拂渡スヘシ
第四十六條 土地ヲ使用又ハ收用スルニ因リテ通路、溝渠、墻柵其ノ他ノ工作物ノ新築、改築、增築又ハ修繕ヲ爲スノ必要ヲ生シタルトキハ其ノ補償金ヲ拂渡スヘシ
第四十七條 第四十條第二項ノ通知後土地ノ形質ヲ變更シ、工作物ノ新築、改築、增築若ハ大修繕ヲ爲シ又ハ物件ヲ附加增置セムトスルトキハ土地所有者又ハ關係人ハ地方長官ノ許可ヲ受クヘシ許可ヲ受ケスシテ之ヲ爲シタル者ハ之ニ關スル補償金ヲ請求スルコトヲ得ス
第四十八條 第四十條第二項ノ通知後同條第一項ノ目的ニ土地ヲ使用スルコトヲ廢止シタル者ハ土地所有者又ハ關係人ノ受ケタル損失ニ對シ其ノ補償金ヲ拂渡スヘシ
第四十九條 土地所有者及關係人ハ土地ノ使用者若ハ收用者ヲシテ補償金ニ付相當ノ擔保ヲ供セシムルコトヲ得但シ土地ノ使用者若ハ收用者カ御料局、政府、府縣市町村及之ニ準スヘキモノナルトキハ此ノ限ニ在ラス
第五十條 土地ノ使用又ハ收用ノ協議調ヒ、裁決確定シ又ハ判決アリタルトキハ補償金又ハ擔保ノ裁決確定セサルトキト雖土地ノ使用者又ハ收用者ハ其ノ裁決ニ依ル補償金ヲ供託シ又ハ擔保ヲ供シテ土地ヲ用ウルコトヲ得但シ土地ノ使用者又ハ收用者カ御料局、政府、府縣市町村及之ニ準スヘキモノナルトキハ補償金ノ供託及擔保ノ提供ヲ要セス
第五十一條 前數條ニ依ル補償金ノ拂渡若ハ供託ヲ爲サス又ハ擔保ヲ供セサルトキハ土地所有者及關係人ハ土地ヲ用ウルコトヲ拒ムコトヲ得
第五十二條 土地ヲ收用スルトキハ收用ノ時期ニ於テ所有權ハ收用者之ヲ取得シ其ノ他ノ權利ハ消滅ス
土地ヲ使用スルトキハ使用ノ時期ニ於テ土地ノ使用者其ノ使用權ヲ取得シ其ノ他ノ權利ハ使用ヲ妨ケサル範圍ニ制限セラルルモノトス
第五十三條 土地ノ使用者其ノ使用ヲ終リタルトキハ土地ヲ原形ニ復シ又ハ原形ニ復セサルニ因リテ生スル損失ニ對シ補償金ヲ拂渡シテ之ヲ返還スヘシ
第五十四條 第三十條ノ規定ハ本章ノ補償金ニ之ヲ準用ス
第五十五條 土地ノ使用若ハ收用、補償金又ハ擔保ニ付協議調ハサルトキ又ハ協議ヲ爲スコト能ハサルトキハ第四十條第二項ノ通知後一箇年以內ニ地方森林會ノ裁決ヲ求ムルコトヲ得
前項ノ裁決中土地ノ使用又ハ收用ニ關スルモノニ付不服アル者ハ主務大臣ニ訴願ヲ提起スルコトヲ得違法ニ權利ヲ傷害セラレタリトスルトキハ行政訴訟ヲ提起スルコトヲ得但シ裁決ノ送付ヲ受ケタル日ヨリ六十日ヲ經過シタルトキハ此ノ限ニ在ラス
第一項ノ裁決中補償金又ハ擔保ニ關スルモノニ付不服アル者ハ通常裁判所ニ出訴スルコトヲ得但シ裁決ノ送付ヲ受ケタル日ヨリ九十日ヲ經過シタルトキハ此ノ限ニ在ラス
第五十六條 土地收用法第六十六條及第六十七條ノ規定ハ本章ニ依リ收用セラレタル土地ニ之ヲ準用ス
第五十七條 土地ノ使用、收用ニ關スル規定ハ水ノ使用ニ關スル權利其ノ他土地ニ關スル所有權以外ノ權利ノ使用又ハ收用ニ之ヲ準用ス
第五十八條 森林ヨリ其ノ產物ヲ運搬スル爲又ハ運搬ニ關スル設備ノ爲必要アルトキハ地方長官ノ許可ヲ得テ水流ニ於ケル他人ノ工作物ヲ使用シ、變更シ又ハ除却スルコトヲ得但シ御料局又ハ政府カ之ヲ行フトキハ地方長官ニ協議スヘシ
前項工作物ノ使用、變更又ハ除却ニ因リテ損害ヲ生スヘキトキハ補償金ノ拂渡ヲ爲スヘシ
第四十條第二項第三項、第四十一條、第四十六條乃至第五十一條、第五十二條第二項、第五十三條乃至第五十五條ノ規定ハ前二項ノ場合ニ之ヲ準用ス
第五十九條 流木竹ノ爲必要アル場合ニ於テハ沿岸ノ土地ニ立入ルコトヲ得此ノ場合ニ於テ損害アリタルトキハ賠償ヲ爲スヘシ
第六十條 前數條ノ外流木竹ニ付土地又ハ水ノ使用ニ關スル規定ハ命令ヲ以テ之ヲ定ム
第六十一條 森林又ハ森林ノ事業ニ關シ實地調査ノ爲必要アルトキハ地方長官ノ許可ヲ得テ他人ノ土地ニ立入リ、目標ヲ設置シ又ハ支障木竹ヲ伐採スルコトヲ得但シ御料局又ハ政府ニ於テハ地方長官ニ通知シテ之ヲ行フコトヲ得
前項ノ場合ニ於テ損害アリタルトキハ賠償ヲ爲スヘシ
第一項ノ場合ニ於テハ其ノ旨ヲ土地ノ所有者又ハ占有者ニ通知スヘシ
第五章 森林組合
第六十二條 森林組合ハ左ノ各號ノ一ニ該當スル場合ニ於テ必要ナル事業ヲ爲ス爲一定ノ地區ヲ限リ之ヲ設立スルコトヲ得
一 國土保安ノ爲又ハ森林ノ荒廢ヲ防止シ若ハ荒廢セル森林ヲ囘復スル爲必要ナルトキ
二 森林カ所有者ヲ異ニシ協同シテ施業ヲ爲スニ非サレハ其ノ利用ノ目的ヲ達スルニ困難ナルトキ
三 森林產物ノ運搬ニ必要ナル工事ヲ爲シ又ハ之ヲ維持スル爲關係者ノ協同ヲ必要トスルトキ
四 森林ノ危害防止ニ付關係者ノ協同ヲ必要トスルトキ
第六十三條 森林組合ハ營利ヲ目的トセサル社團法人トス
第六十四條 森林組合ヲ設立スルニハ定款ヲ定メ地方長官ノ許可ヲ受クヘシ
第六十五條 森林組合ノ組合員ハ其ノ地區內ニ於ケル森林ノ所有者ニ限ル
第六十六條 森林組合ヲ設立スルニハ左ノ條件ヲ具備スルコトヲ要ス
一 組合員タル資格ヲ有スル者ノ三分ノ二以上ノ同意アルコト
二 前號同意者ノ所有スル森林ノ面積カ地區內ニ於ケル森林ノ總面積ノ三分ノ二以上ナルコト
第六十七條 森林組合成立シタルトキハ組合員タル資格ヲ有スル者ハ總テ組合員トス但シ命令又ハ定款ニ於テ加入ノ義務ナシト定メタル者ハ此ノ限ニ在ラス
第六十八條 定款ニハ左ノ事項ヲ記載スルコトヲ要ス
一 目的及事業
二 地區
三 名稱
四 事務所
五 出資又ハ費用分擔ノ方法
六 存立時期又ハ解散ノ事由ヲ定メタルトキハ其ノ時期又ハ事由
前項ノ外定款ニ定ムルコトヲ要スヘキ事項ハ命令ヲ以テ之ヲ定ム
定款ノ變更ハ地方長官ノ認可ヲ受クルニ非サレハ其ノ效力ヲ生セス
第六十九條 森林組合ノ設立ハ其ノ主タル事務所ノ所在地ニ於テ登記ヲ受クルニ非サレハ之ヲ以テ第三者ニ對抗スルコトヲ得ス
第七十條 組合員ハ組合ノ承諾ヲ得ルニ非サレハ新ニ地區內ノ森林又ハ森林產物ニ付組合ノ事業ヲ妨クヘキ行爲ヲ爲スコトヲ得ス
第七十一條 森林組合ハ主務大臣及地方長官之ヲ監督ス
監督官廳ハ何時ニテモ組合ノ事業ニ關スル報吿ヲ徵シ、事業ニ付認可ヲ受ケシメ、事業及財產ノ狀況ヲ檢査シ其ノ他監督上必要ナル命令ヲ發シ又ハ處分ヲ爲スコトヲ得
第七十二條 總會ノ決議又ハ役員ノ行爲ニシテ法令、監督官廳ノ命令若ハ定款ニ違反シ又ハ公益ヲ害シ若ハ害スルノ虞アリト認ムルトキハ監督官廳ハ左ノ處分ヲ爲スコトヲ得
一 決議ノ取消
二 役員ノ解職
三 組合ノ解散
第七十三條 森林組合ニ於テ本章又ハ之ニ基キテ發スル命令ノ規定ニ違反シタルトキハ其ノ役員ヲ二圓以上百圓以下ノ過料ニ處ス
前項ノ過料ニ付テハ非訟事件手續法第二百六條乃至第二百八條ノ規定ヲ準用ス
第七十四條 造林ノ用ニ供スル土地ハ本章ノ適用上之ヲ森林ト看做ス
第七十五條 本法ニ規定スルモノノ外森林組合ノ設立、管理、解散、淸算其ノ他組合ニ關シ必要ナル事項ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第六章 森林警察
第七十六條 地方長官ニ於テ必要アリト認ムルトキハ左ノ命令ヲ發シ若ハ處分ヲ爲スコトヲ得
一 森林產物ニ使用スル記號又ハ印章ヲ定メ所轄警察官署ニ屆出テシメ森林產物ノ搬出前之ヲ使用セシムルコト
二 前號ニ依リ屆出テタル記號印章ト同一又ハ類似ノ記號若ハ印章ノ使用ヲ禁止スルコト
三 前二號ノ規定ニ違反シタル者ニ對シ森林產物ノ運搬ヲ停止スルコト
四 森林產物ニ關スル營業者ヲシテ帳簿ヲ設ケ其ノ產物ノ出所、種類、數量及仕向先ヲ記載セシムルコト
五 前各號ノ外森林ノ危害防止ニ關スルコト
第七十七條 森林官吏、警察官吏又ハ犯罪搜査ニ付職權ヲ有スル官吏、公吏其ノ職務ヲ行フ爲必要アリト認ムルトキハ森林產物又ハ森林產物ニ關スル營業者ノ手板、帳簿及器具ニ付檢査ヲ行フコトヲ得
第七十八條 森林又ハ之ニ接近セル土地ニ火入ヲ爲サムトスルトキハ森林官吏又ハ警察官吏ノ許可ヲ受クヘシ
第七十九條 前條ノ火入ヲ爲サムトスルトキハ豫メ防火ノ設備ヲ爲シ且接近セル森林ノ所有者又ハ管理者ニ其ノ旨ヲ通知スヘシ
第八十條 森林害蟲發生シ又ハ發生ノ虞アルトキハ其ノ害蟲發生シ又ハ發生ノ虞アル森林ノ所有者之ヲ驅除豫防スヘシ
前項ノ場合ニ於テ必要アルトキハ森林所有者ハ警察官署ノ許可ヲ得テ他人ノ土地ニ立入リ森林害蟲ノ驅除豫防ヲ爲スコトヲ得
第八十一條 森林害蟲蔓延シ又ハ蔓延ノ虞アル場合ニ於テ地方長官ハ森林害蟲ノ驅除又ハ豫防ノ爲必要ナル處置ヲ利害關係アル森林ノ所有者ニ命シ又ハ自ラ之ヲ行フコトヲ得蟲類以外ノ動物又ハ黴菌ヲ驅除豫防スルニ付主務大臣ノ認可ヲ得タル場合亦同シ
前項驅除豫防ノ費用ハ其ノ利害關係アル土地ノ面積又ハ地價ヲ準率ト爲シ森林所有者ノ負擔トス但シ地方長官自ラ驅除豫防ヲ行ヒタル場合ヲ除クノ外費用ノ負擔者ニ於テ別段ノ定ヲ爲シタルトキハ此ノ限ニ在ラス
地方長官第一項ニ依リ自ラ驅除豫防ヲ行ヒタル場合ニ於ケル費用ノ徵收ニ付テハ行政執行法第六條ノ規定ヲ準用ス
第八十二條 害蟲驅除豫防法第七條及第八條ノ規定ハ前二條ニ依ル驅除豫防ニ之ヲ準用ス
第七章 罰則
第八十三條 森林ニ於テ其ノ產物ヲ窃取シタル者ハ森林窃盜トシ三年以下ノ重禁錮又ハ贓額以上贓額二倍以下ノ罰金ニ處ス其ノ產物ニシテ人工ヲ加ヘタルモノニ係ルトキ亦同シ
第八十四條 森林窃盜ニシテ左ノ各號ノ一ニ該當スルトキハ二月以上三年以下ノ重禁錮及贓額以上贓額二倍以下ノ罰金ニ處ス
一 根株ヲ掘採、毀壞、燒燬若ハ隱蔽シ其ノ他罪跡ノ湮滅ヲ圖ルノ行爲アリタルトキ
二 贓物ヲ原料トシテ木炭、樟腦、椎茸、松根油其ノ他ノ物品ヲ製シタルトキ
三 贓物ヲ燃料トシテ鑛物ノ採取、精製若ハ石灰、煉瓦石、瓦其ノ他ノ物品ノ製造ニ使用シタルトキ
四 贓物ヲ運搬スル爲馬、牛、船舶、車輛若ハ橇ヲ使用シ又ハ運搬、造材ノ設備ヲ爲シタルトキ
五 保安林ニ於テ犯シタルトキ
六 森林產物採取ノ權利ヲ行使スルニ際シ犯シタルトキ
七 二人以上共同シ又ハ他人ヲ雇使シテ犯シタルトキ
八 森林保護ノ義務ヲ有スル者犯シタルトキ
九 差押ノ贓物ヲ隱匿、消費、滅却又ハ放棄シタルトキ
十 夜間犯シタルトキ
第八十五條 前條第二號ニ依リ製シタル物品ハ之ヲ森林窃盜ノ贓物ト看做ス
第八十六條 民法第百九十六條ノ規定ハ森林窃盜ノ贓物ノ囘復ニ之ヲ適用セス但シ善意ノ取得者ニ付テハ此ノ限ニ在ラス
第八十七條 森林窃盜ノ贓物ナルコトヲ知リテ之ヲ受ケ又ハ寄藏故買シ若ハ牙保ヲ爲シタル者ハ一月以上三年以下ノ重禁錮及贓額以上贓額二倍以下ノ罰金ニ處ス
第八十八條 第八十三條、第八十四條及前條ノ贓額ノ二倍カ二圓ニ滿タサルトキト雖其ノ罰金ハ二圓以下ニ下スコトヲ得ス
第八十九條 他人ノ森林ニ放火シタル者ハ輕懲役ニ處ス因テ主產物ヲ燒燬シタル者ハ重懲役ニ處ス
自己ノ森林ニ放火シタル者ハ二月以上二年以下ノ重禁錮又ハ二百圓以下ノ罰金ニ處ス因テ他人ノ森林ノ主產物ヲ燒燬シタル者ハ五年以下ノ重禁錮ニ處ス
第九十條 第八十三條、第八十四條及前條第二項ノ罪ヲ犯サムトシテ未タ遂ケサル者ハ刑法未遂犯罪ノ例ニ照シテ處斷ス
第九十一條 森林ノ爲設ケタル標識ヲ移轉、汚損シ又ハ毀壞シタル者ハ三十圓以下ノ罰金ニ處ス但シ刑法第四百二十條ノ適用ヲ妨ケス
第九十二條 立木竹、木材又ハ根株ニ附シタル他人ノ記號印章ヲ變更又ハ消除シタル者ハ二十圓以下ノ罰金ニ處ス
第九十三條 他人ノ森林內ニ工作物ヲ設ケタル者ハ二百圓以下ノ罰金ニ處ス
他人ノ森林ヲ開墾シタル者亦同シ
前項ノ犯罪ニシテ保安林、開墾禁止ノ森林ニ係ルトキハ六月以下ノ重禁錮及二百圓以下ノ罰金ニ處ス
第九十四條 他人ノ森林內ニ於テ放牧シタル者ハ五十圓以下ノ罰金ニ處ス
第九十五條 第十三條ノ制限又ハ禁止ニ違反シタル者ハ二十圓以下ノ罰金ニ處ス
第九十六條 第二十條ニ違反シ又ハ第二十五條第一項ノ停止ニ違反シタル者ハ百圓以下ノ罰金ニ處ス
第九十七條 第二十六條ニ違反シ又ハ第三十二條ノ制限若ハ禁止ニ違反シタル者ハ二百圓以下ノ罰金ニ處ス
第九十八條 第二十七條ノ制限、禁止又ハ指定ニ違反シタル者ハ三十圓以下ノ罰金ニ處ス
第九十九條 前三條ノ場合ニ於テ木竹ヲ伐採又ハ傷害シタル者ニ對スル罰金ハ其ノ伐採又ハ傷害シタル木竹ノ價格ノ二倍ニ達セシムルコトヲ得
第百條 第七十六條第二號又ハ第三號ニ依ル命令又ハ處分ニ違反シタル者ハ二十圓以下ノ罰金ニ處ス
第百一條 第七十七條ノ檢査ヲ拒ミタル者ハ二十圓以下ノ罰金ニ處ス其ノ刑法ニ正條アルモノハ刑法ニ依ル
第百二條 第七十八條又ハ第七十九條ニ違反シタル者ハ五十圓以下ノ罰金ニ處ス因テ他人ノ森林ヲ燒燬シタル者ハ二百圓以下ノ罰金ニ處ス他人ノ森林內ニ於テ焚火ヲ爲シタル者亦同シ
第百三條 第七十六條第一號第四號若ハ第五號又ハ第八十一條第一項ニ依ル命令又ハ處分ニ違反シタル者ハ拘留又ハ科料ニ處ス
第百四條 第三十六條ニ依ル土地ハ本章ノ適用上之ヲ森林ト看做ス
第八章 附則
第百五條 本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第百六條 北海道、沖繩縣其ノ他勅令ヲ以テ指定スル島嶼ニ付テハ本法中保安林ニ關スル規定ニ限リ之ヲ施行ス
前項ノ外本法ノ規定ヲ施行スルノ必要アルモノハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
前二項ノ場合ニ於テハ勅令ヲ以テ特例ヲ設クルコトヲ得
第百七條 本法施行前森林タリシモノニシテ本法施行以前ヨリ荒廢ニ屬シタルモノハ地方長官ニ於テ造林ヲ命スルコトヲ得
前項ニ依リ造林ノ命令ヲ受ケタル者カ造林ヲ怠リタル場合ニ付テハ第十一條ノ規定ヲ準用ス
第百八條 舊法第三十條ニ依リ保安林ト爲シタルモノニシテ本法施行ノ際現ニ保安林タルモノハ之ヲ保安林トス
第百九條 公有林又ハ社寺有林ニ付本法施行前地方長官ノ認可ヲ受ケ又ハ地方長官ニ屆出テタル施業案又ハ施業要領ハ第九條ニ依ル認可ヲ受ケタルモノト看做ス
第百十條 舊法又ハ舊法ニ基キテ發シタル命令ノ規定ニ依リテ爲シタル處分、議決、申請、請求、手續其ノ他ノ行爲ハ本法又ハ本法ニ基キテ發スル命令ノ規定ニ依リテ之ヲ爲シタルモノト看做ス但シ本法ニ基キテ發スル命令ニ別段ノ規定アル場合ハ此ノ限ニ在ラス
第百十一條 舊法ニ依リ本法施行前ニ進行ヲ始メタル期間カ本法中之ニ相當スル期間ヨリ長キトキハ舊法ノ規定ニ從フ但シ其ノ殘期カ本法施行ノ日ヨリ起算シ本法中之ニ相當スル期間ヨリ長キトキハ本法施行ノ日ヨリ起算シテ本法ノ規定ヲ適用ス
第百十二條 舊法第二十六條ニ依ル補償ノ請求ハ本法施行ノ日ヨリ一箇年ヲ經過スルトキハ之ヲ爲スコトヲ得ス
朕帝国議会ノ協賛ヲ経タル森林法改正法律ヲ裁可シ茲ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
明治四十年四月二十二日
内閣総理大臣 侯爵 西園寺公望
農商務大臣 松岡康毅
法律第四十三号
森林法
第一章 総則
第一条 森林ハ其ノ所有者ニ依リ之ヲ分チテ御料林、国有林、公有林、社寺有林及私有林トス
前項ノ種別ニ依リ難キ森林ニ関シテハ命令ノ定ムル所ニ依リ本法ヲ適用ス
第二条 森林ノ立木竹ヲ所有スル為地上権、賃借権其ノ他土地ニ関シ使用又ハ収益ヲ為ス権利ヲ有スル者アルトキハ其ノ権利者ヲ以テ本法ニ依ル森林所有者ト看做ス
前項ノ権利二箇以上同一ノ土地ノ上ニ存在スル場合ニ於テハ最後ニ設定セラレタル権利ヲ有スル者ヲ以テ前項ノ森林所有者トス
第三条 本法ニ於テ開墾ト称スルハ地租条例ニ規定スルモノノ外焼畑、切替畑其ノ他土地ノ形質ヲ変更スル行為ヲ謂フ
第四条 本法又ハ本法ニ基キテ発スル命令ニ規定シタル森林所有者、森林立木竹所有者又ハ土地ノ所有者若ハ占有者ノ権利義務ハ森林若ハ森林立木竹又ハ土地ノ所有権若ハ占有権ト共ニ其ノ承継人ニ移転ス
第五条 本法又ハ本法ニ基キテ発スル命令ノ規定ニ依リ為シタル手続其ノ他ノ行為ハ森林所有者、森林立木竹所有者又ハ土地ノ所有者若ハ占有者ノ承継人ニ対シテモ其ノ効力ヲ有ス
第六条 民法第二百五十六条ノ規定ハ共有ノ森林ニ之ヲ適用セス但シ各共有者持分ノ価格ニ従ヒ其ノ過半数ヲ以テ分割ノ請求ヲ為スコトヲ妨ケス
第七条 公園、社寺境内及命令ヲ以テ定ムル土地ニ付テハ本法ヲ適用セス但シ命令ニ別段ノ規定アルトキハ此ノ限ニ在ラス
第八条 本法又ハ本法ニ基キテ発スル命令ノ規定ニ依リ書類ヲ送付スヘキ場合ニ於テ送付ヲ為スコト能ハサルトキハ官報又ハ行政庁慣行ノ公布式ヲ以テ之ヲ公示シ其ノ公示ノ日ヨリ三十日ヲ経過シタルトキハ其ノ末日ニ於テ送付アリタルモノト看做ス
第二章 営林ノ監督
第九条 地方長官ニ於テ必要アリト認ムルトキハ公共団体又ハ社寺ノ代表者ヲシテ森林又ハ森林トシテ管理スヘキ土地ニ付施業案又ハ施業要領ヲ定メ其ノ認可ヲ受ケシムルコトヲ得
地方長官ニ於テ必要アリト認ムルトキハ前項ノ施業案又ハ施業要領ノ変更ヲ命スルコトヲ得
第十条 公有林、社寺有林又ハ私有林ニシテ荒廃ノ虞アルトキハ地方長官ニ於テ施業ノ方法ヲ指定スルコトヲ得
前項指定ノ方法ニ違反シ伐木ヲ為シタル者ニハ地方長官其ノ伐採ヲ停止シ伐木跡地ニ造林ヲ命スルコトヲ得
第二十五条第二項ノ規定ハ前二項ノ場合ニ之ヲ準用ス
第十一条 前条第二項ニ依リ造林ノ命令ヲ受ケタル者造林ヲ怠リタルトキハ行政官庁ニ於テ自ラ義務者ノ為スヘキ行為ヲ為シ又ハ公共団体ヲシテ之ヲ為サシムルコトヲ得
前項造林ニ要シタル費用ハ行政官庁ニ於テ国税徴収法ノ例ニ依リ之ヲ徴収スルコトヲ得
第十二条 本法施行以前ヨリ荒廃ニ属シタル森林ニ付新ニ造林シタルトキハ其ノ納税義務者ノ申請ニ依リ其ノ造林シタル部分ニ限リ三十年以内地租ヲ免スルコトヲ得
前項ノ規定ハ原野、山岳又ハ荒蕪地ニ新ニ造林シタル場合ニ之ヲ準用ス
府県市町村其ノ他ノ公共団体ハ前二項ニ依リ地租ヲ免セラレタル土地ニ対シ租税其ノ他ノ公課ヲ課スルコトヲ得ス
第十三条 公有林、社寺有林又ハ私有林ニ付地方長官ハ土地ノ状況ニ依リ箇所及期間ヲ指定シ落葉、落枝、柴草、土石、樹根、草根、切芝ノ採取若ハ採掘ニ関スル制限又ハ禁止ヲ為スコトヲ得
第三章 保安林
第十四条 主務大臣ハ左ニ掲クル場合ニ於テ森林ヲ保安林ニ編入スルコトヲ得
一 土砂ノ壊崩、流出ノ防備ノ為必要ナルトキ
二 飛砂ノ防備ノ為必要ナルトキ
三 水害、風害、潮害ノ防備ノ為必要ナルトキ
四 頽雪又ハ墜石ニ因ル危険ノ防止ノ為必要ナルトキ
五 水源涵養ノ為必要ナルトキ
六 魚附ノ為必要ナルトキ
七 航行ノ目標ノ為必要ナルトキ
八 公衆ノ衛生ノ為必要ナルトキ
九 社寺、名所又ハ旧跡ノ風致ノ為必要ナルトキ
第十五条 主務大臣ハ公益上必要アリト認ムルトキ又ハ保安林トシテ存置スルノ必要ナシト認ムルトキハ保安林ヲ解除スルコトヲ得
第十六条 保安林ノ編入解除ハ其ノ森林所在ノ府県市町村又ハ之ニ準スヘキ者其ノ他直接利害ノ関係ヲ有スル者ヨリ地方長官ヲ経由シ主務大臣ニ申請スルコトヲ得
前項ノ申請ニ係ル森林ニ付不編入又ハ不解除ノ処分アリタルトキハ実地ノ状況ニ著シキ変更ヲ生シタル場合ニ非サレハ同一理由ニ依リ再ヒ之ヲ申請スルコトヲ得ス
第十七条 保安林ノ編入解除ノ申請アリタル場合ニ於テ前条第一項ノ条件ヲ具備セス又ハ同条第二項ノ規定ニ違反シタルモノト認ムルトキハ地方長官ハ申請書ヲ却下スルコトヲ得
前項ノ処分ニ対シ不服アル者ハ訴願ヲ提起スルコトヲ得
第十八条 保安林ノ編入解除ヲ為サムトスルトキ又ハ地方長官其ノ申請ヲ受理シタルトキハ地方長官ニ於テ其ノ旨ヲ森林所有者、土地所有者其ノ他土地ニ付登記シタル権利ヲ有スル者ニ通知シ且慣行ノ公布式ヲ以テ之ヲ告示シ森林所在ノ市町村役場ニ之ヲ掲示スヘシ
地方長官ハ前項告示ノ日ヨリ三十日ヲ経過シタル後保安林ノ編入解除ヲ地方森林会ノ議ニ付スヘシ
第十九条 地方森林会ニ関スル規程ハ命令ヲ以テ之ヲ定ム
第二十条 第十八条ノ告示ニシテ保安林編入ニ関スルモノナルトキハ其ノ告示ノ日ヨリ第二十三条ノ告示ノ日迄其ノ森林ニ於テ木竹ノ伐採、開墾又ハ土石、切芝、樹根、草根、埋木ノ採取若ハ採掘ヲ為スコトヲ得ス但シ地方長官ノ許可ヲ得タルトキハ此ノ限ニ在ラス
第二十一条 保安林ノ編入解除ニ関シ直接利害ノ関係ヲ有スル者其ノ編入解除ニ異議アルトキハ第十八条ノ告示ノ日ヨリ二十五日以内ニ意見書ヲ地方長官ニ提出スルコトヲ得
第二十二条 地方長官ハ保安林ノ編入解除ニ関スル地方森林会ノ決議書其ノ他ノ関係書類ニ意見書ヲ添ヘ之ヲ主務大臣ニ差出スヘシ
第二十三条 主務大臣ニ於テ保安林ノ編入解除ニ関スル処分ヲ為シタルトキハ官報ヲ以テ之ヲ告示シ地方長官ヲシテ其ノ森林所有者ニ其ノ旨ヲ通知シ且所在ノ市町村役場ニ掲示セシムヘシ
第二十四条 保安林ノ編入解除ニ関シ直接利害ノ関係ヲ有スル者其ノ編入解除ニ関スル処分ニ不服アルトキハ訴願ヲ提起スルコトヲ得違法ニ権利ヲ傷害セラレタリトスルトキハ前条告示ノ日ヨリ六十日以内ニ行政訴訟ヲ提起スルコトヲ得
第二十五条 地方長官ニ於テ保安林ノ編入ニ関シ必要アリト認ムルトキハ其ノ森林ニ於ケル木竹ノ伐採ヲ停止スルコトヲ得但シ其ノ停止期間ハ一箇年ヲ超ユルコトヲ得ス
前項ニ依リ木竹ノ伐採ヲ停止セラレタル森林ト雖保育ノ為必要ナルトキ又ハ已ムコトヲ得サル事由アルトキハ地方長官ノ許可ヲ得テ之ヲ伐採スルコトヲ得
第二十六条 保安林ニ於テハ地方長官ノ許可ヲ得ルニ非サレハ木竹ノ伐採、傷害、開墾又ハ土石、切芝、樹根、草根、埋木ノ採取若ハ採掘ヲ為シ又ハ家畜ヲ放牧スルコトヲ得ス
第二十七条 主務大臣ハ保安林ノ所有者ニ対シ前条ノ外其ノ使用収益ヲ制限若ハ禁止シ又ハ施業若ハ保護ノ方法ヲ指定スルコトヲ得
第二十八条 木竹ノ伐採ヲ禁止セラレタル保安林ノ所有者又ハ立木竹ノ所有者ハ之ニ因リテ生シタル直接ノ損害ニ限リ其ノ補償ヲ求ムルコトヲ得
前項保安林ノ所有者カ前条ノ指定ニ依リ造林ヲ為シタルトキハ其ノ造林ノ費用ハ前項ノ損害ト看做ス
前二項ノ損害ハ政府之ヲ補償ス但シ政府ハ保安林編入ニ因リ特ニ利益ヲ受クル公共団体若ハ私人ヲシテ其ノ全部又ハ一部ヲ負担セシメ国税徴収法ノ例ニ依リ之ヲ徴収スルコトヲ得
第一項及第二項ノ損害ノ算定方法及其ノ補償請求期間ハ命令ヲ以テ之ヲ定ム
第二十九条 前条第三項ニ依ル政府ノ補償金額ニ付不服アル者ハ其ノ補償金額ノ通知ヲ受ケタル日ヨリ九十日以内ニ通常裁判所ニ出訴スルコトヲ得
前条第三項但書ニ依ル負担ニ付不服アル者ハ訴願ヲ提起スルコトヲ得
第三十条 先取特権、質権又ハ抵当権ハ第二十八条第一項ニ依リ受クヘキ補償金ニ対シテモ之ヲ行フコトヲ得但シ其ノ払渡前ニ差押ヲ為スヘシ
第三十一条 国有地ノ上ニ存在スル森林ニシテ保安林ニ編入セラレタルトキハ政府ハ其ノ借地料ヲ免ス
第三十二条 主務大臣国土保安上必要アリト認ムルトキハ保安林以外ノ森林ニ付区域又ハ箇所ヲ定メテ開墾ヲ制限又ハ禁止スルコトヲ得
第三十三条 第二十六条ノ規定ニ違反シ、第二十七条又ハ前条ノ制限、禁止若ハ指定ニ違反シタル者アルトキハ地方長官ハ造林其ノ他復旧ニ必要ナル行為ヲ命スルコトヲ得
第三十四条 第十一条ノ規定ハ前条ニ依リ造林ノ命令ヲ為シタル場合ニ之ヲ準用ス
第三十五条 保安林ノ編入解除ニ関スル調査及国土保安ニ関シ地方長官ノ行フ調査ニ要スル費用ハ府県ノ負担トス但シ北海道ニ於テハ北海道地方費、沖縄県ニ於テハ国庫ノ負担トス
第三十六条 主務大臣ニ於テ必要アリト認ムルトキハ原野、山岳其ノ他ノ土地ニシテ第十四条第一号乃至第五号ノ場合ニ該当スルモノニ付本章ノ規定ヲ準用スルコトヲ得
第三十七条 第十八条第二項、第二十八条乃至第三十条ノ規定ハ御料林及国有林ニ之ヲ適用セス
第四章 土地ノ使用及収用
第三十八条 本章ニ於テ関係人ト称スルハ第四十条第二項ニ依ル通知前使用又ハ収用スヘキ土地ニ関シテ権利ヲ有スル者及其ノ通知後ニ於テ通知前ヨリ既存セル権利ヲ承継シタル者ヲ謂フ
第三十九条 本章ニ於テ補償金ト称スルハ対価、使用料其ノ他土地所有者及関係人ノ通常受クヘキ損失ニ対スル補償金ヲ総称ス
第四十条 森林ヨリ其ノ産物ヲ運搬スル為又ハ運搬ニ関スル設備ノ為必要アルトキハ地方長官ノ許可ヲ得テ他人ノ土地ヲ使用スルコトヲ得但シ御料局又ハ政府ノ使用ニ係ルトキハ当該官庁ハ之ヲ地方長官ニ協議スヘシ
地方長官ハ前項ノ許可ヲ与ヘ又ハ協議調ヒタルトキハ之ヲ土地所有者及関係人ニ通知スヘシ
第一項ニ依リ土地ヲ使用セムトスル者ハ前項通知ノ後其ノ土地ニ関スル権利ヲ取得スル為土地所有者及関係人ニ協議スヘシ
第四十一条 前条第二項ノ通知後一箇年以内ニ同条第三項ノ協議ヲ為ササルトキハ同条第一項ノ許可及協議ハ其ノ効力ヲ失フ第五十五条第一項ニ依リ地方森林会ノ裁決ヲ求メサルトキ亦同シ
第四十二条 土地ノ使用三箇年以上ニ亘ルトキ又ハ土地ノ形質ヲ変更スルトキハ所有者ハ其ノ収用ヲ請求スルコトヲ得
第四十三条 土地ノ一部ヲ収用スルニ因リテ残地ヲ従来用井タル目的ニ供スルコト能ハサルトキハ土地所有者ハ其ノ全部ノ収用ヲ請求スルコトヲ得
第四十四条 土地ヲ使用又ハ収用スルトキハ土地所有者及関係人ニ補償金ヲ払渡スヘシ
第四十五条 土地ノ一部ヲ使用又ハ収用スルニ因リテ残地ノ価格ヲ減シ其ノ他残地ニ関シ損失ヲ生スヘキトキハ其ノ補償金ヲ払渡スヘシ
第四十六条 土地ヲ使用又ハ収用スルニ因リテ通路、溝渠、墻柵其ノ他ノ工作物ノ新築、改築、増築又ハ修繕ヲ為スノ必要ヲ生シタルトキハ其ノ補償金ヲ払渡スヘシ
第四十七条 第四十条第二項ノ通知後土地ノ形質ヲ変更シ、工作物ノ新築、改築、増築若ハ大修繕ヲ為シ又ハ物件ヲ附加増置セムトスルトキハ土地所有者又ハ関係人ハ地方長官ノ許可ヲ受クヘシ許可ヲ受ケスシテ之ヲ為シタル者ハ之ニ関スル補償金ヲ請求スルコトヲ得ス
第四十八条 第四十条第二項ノ通知後同条第一項ノ目的ニ土地ヲ使用スルコトヲ廃止シタル者ハ土地所有者又ハ関係人ノ受ケタル損失ニ対シ其ノ補償金ヲ払渡スヘシ
第四十九条 土地所有者及関係人ハ土地ノ使用者若ハ収用者ヲシテ補償金ニ付相当ノ担保ヲ供セシムルコトヲ得但シ土地ノ使用者若ハ収用者カ御料局、政府、府県市町村及之ニ準スヘキモノナルトキハ此ノ限ニ在ラス
第五十条 土地ノ使用又ハ収用ノ協議調ヒ、裁決確定シ又ハ判決アリタルトキハ補償金又ハ担保ノ裁決確定セサルトキト雖土地ノ使用者又ハ収用者ハ其ノ裁決ニ依ル補償金ヲ供託シ又ハ担保ヲ供シテ土地ヲ用ウルコトヲ得但シ土地ノ使用者又ハ収用者カ御料局、政府、府県市町村及之ニ準スヘキモノナルトキハ補償金ノ供託及担保ノ提供ヲ要セス
第五十一条 前数条ニ依ル補償金ノ払渡若ハ供託ヲ為サス又ハ担保ヲ供セサルトキハ土地所有者及関係人ハ土地ヲ用ウルコトヲ拒ムコトヲ得
第五十二条 土地ヲ収用スルトキハ収用ノ時期ニ於テ所有権ハ収用者之ヲ取得シ其ノ他ノ権利ハ消滅ス
土地ヲ使用スルトキハ使用ノ時期ニ於テ土地ノ使用者其ノ使用権ヲ取得シ其ノ他ノ権利ハ使用ヲ妨ケサル範囲ニ制限セラルルモノトス
第五十三条 土地ノ使用者其ノ使用ヲ終リタルトキハ土地ヲ原形ニ復シ又ハ原形ニ復セサルニ因リテ生スル損失ニ対シ補償金ヲ払渡シテ之ヲ返還スヘシ
第五十四条 第三十条ノ規定ハ本章ノ補償金ニ之ヲ準用ス
第五十五条 土地ノ使用若ハ収用、補償金又ハ担保ニ付協議調ハサルトキ又ハ協議ヲ為スコト能ハサルトキハ第四十条第二項ノ通知後一箇年以内ニ地方森林会ノ裁決ヲ求ムルコトヲ得
前項ノ裁決中土地ノ使用又ハ収用ニ関スルモノニ付不服アル者ハ主務大臣ニ訴願ヲ提起スルコトヲ得違法ニ権利ヲ傷害セラレタリトスルトキハ行政訴訟ヲ提起スルコトヲ得但シ裁決ノ送付ヲ受ケタル日ヨリ六十日ヲ経過シタルトキハ此ノ限ニ在ラス
第一項ノ裁決中補償金又ハ担保ニ関スルモノニ付不服アル者ハ通常裁判所ニ出訴スルコトヲ得但シ裁決ノ送付ヲ受ケタル日ヨリ九十日ヲ経過シタルトキハ此ノ限ニ在ラス
第五十六条 土地収用法第六十六条及第六十七条ノ規定ハ本章ニ依リ収用セラレタル土地ニ之ヲ準用ス
第五十七条 土地ノ使用、収用ニ関スル規定ハ水ノ使用ニ関スル権利其ノ他土地ニ関スル所有権以外ノ権利ノ使用又ハ収用ニ之ヲ準用ス
第五十八条 森林ヨリ其ノ産物ヲ運搬スル為又ハ運搬ニ関スル設備ノ為必要アルトキハ地方長官ノ許可ヲ得テ水流ニ於ケル他人ノ工作物ヲ使用シ、変更シ又ハ除却スルコトヲ得但シ御料局又ハ政府カ之ヲ行フトキハ地方長官ニ協議スヘシ
前項工作物ノ使用、変更又ハ除却ニ因リテ損害ヲ生スヘキトキハ補償金ノ払渡ヲ為スヘシ
第四十条第二項第三項、第四十一条、第四十六条乃至第五十一条、第五十二条第二項、第五十三条乃至第五十五条ノ規定ハ前二項ノ場合ニ之ヲ準用ス
第五十九条 流木竹ノ為必要アル場合ニ於テハ沿岸ノ土地ニ立入ルコトヲ得此ノ場合ニ於テ損害アリタルトキハ賠償ヲ為スヘシ
第六十条 前数条ノ外流木竹ニ付土地又ハ水ノ使用ニ関スル規定ハ命令ヲ以テ之ヲ定ム
第六十一条 森林又ハ森林ノ事業ニ関シ実地調査ノ為必要アルトキハ地方長官ノ許可ヲ得テ他人ノ土地ニ立入リ、目標ヲ設置シ又ハ支障木竹ヲ伐採スルコトヲ得但シ御料局又ハ政府ニ於テハ地方長官ニ通知シテ之ヲ行フコトヲ得
前項ノ場合ニ於テ損害アリタルトキハ賠償ヲ為スヘシ
第一項ノ場合ニ於テハ其ノ旨ヲ土地ノ所有者又ハ占有者ニ通知スヘシ
第五章 森林組合
第六十二条 森林組合ハ左ノ各号ノ一ニ該当スル場合ニ於テ必要ナル事業ヲ為ス為一定ノ地区ヲ限リ之ヲ設立スルコトヲ得
一 国土保安ノ為又ハ森林ノ荒廃ヲ防止シ若ハ荒廃セル森林ヲ回復スル為必要ナルトキ
二 森林カ所有者ヲ異ニシ協同シテ施業ヲ為スニ非サレハ其ノ利用ノ目的ヲ達スルニ困難ナルトキ
三 森林産物ノ運搬ニ必要ナル工事ヲ為シ又ハ之ヲ維持スル為関係者ノ協同ヲ必要トスルトキ
四 森林ノ危害防止ニ付関係者ノ協同ヲ必要トスルトキ
第六十三条 森林組合ハ営利ヲ目的トセサル社団法人トス
第六十四条 森林組合ヲ設立スルニハ定款ヲ定メ地方長官ノ許可ヲ受クヘシ
第六十五条 森林組合ノ組合員ハ其ノ地区内ニ於ケル森林ノ所有者ニ限ル
第六十六条 森林組合ヲ設立スルニハ左ノ条件ヲ具備スルコトヲ要ス
一 組合員タル資格ヲ有スル者ノ三分ノ二以上ノ同意アルコト
二 前号同意者ノ所有スル森林ノ面積カ地区内ニ於ケル森林ノ総面積ノ三分ノ二以上ナルコト
第六十七条 森林組合成立シタルトキハ組合員タル資格ヲ有スル者ハ総テ組合員トス但シ命令又ハ定款ニ於テ加入ノ義務ナシト定メタル者ハ此ノ限ニ在ラス
第六十八条 定款ニハ左ノ事項ヲ記載スルコトヲ要ス
一 目的及事業
二 地区
三 名称
四 事務所
五 出資又ハ費用分担ノ方法
六 存立時期又ハ解散ノ事由ヲ定メタルトキハ其ノ時期又ハ事由
前項ノ外定款ニ定ムルコトヲ要スヘキ事項ハ命令ヲ以テ之ヲ定ム
定款ノ変更ハ地方長官ノ認可ヲ受クルニ非サレハ其ノ効力ヲ生セス
第六十九条 森林組合ノ設立ハ其ノ主タル事務所ノ所在地ニ於テ登記ヲ受クルニ非サレハ之ヲ以テ第三者ニ対抗スルコトヲ得ス
第七十条 組合員ハ組合ノ承諾ヲ得ルニ非サレハ新ニ地区内ノ森林又ハ森林産物ニ付組合ノ事業ヲ妨クヘキ行為ヲ為スコトヲ得ス
第七十一条 森林組合ハ主務大臣及地方長官之ヲ監督ス
監督官庁ハ何時ニテモ組合ノ事業ニ関スル報告ヲ徴シ、事業ニ付認可ヲ受ケシメ、事業及財産ノ状況ヲ検査シ其ノ他監督上必要ナル命令ヲ発シ又ハ処分ヲ為スコトヲ得
第七十二条 総会ノ決議又ハ役員ノ行為ニシテ法令、監督官庁ノ命令若ハ定款ニ違反シ又ハ公益ヲ害シ若ハ害スルノ虞アリト認ムルトキハ監督官庁ハ左ノ処分ヲ為スコトヲ得
一 決議ノ取消
二 役員ノ解職
三 組合ノ解散
第七十三条 森林組合ニ於テ本章又ハ之ニ基キテ発スル命令ノ規定ニ違反シタルトキハ其ノ役員ヲ二円以上百円以下ノ過料ニ処ス
前項ノ過料ニ付テハ非訟事件手続法第二百六条乃至第二百八条ノ規定ヲ準用ス
第七十四条 造林ノ用ニ供スル土地ハ本章ノ適用上之ヲ森林ト看做ス
第七十五条 本法ニ規定スルモノノ外森林組合ノ設立、管理、解散、清算其ノ他組合ニ関シ必要ナル事項ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第六章 森林警察
第七十六条 地方長官ニ於テ必要アリト認ムルトキハ左ノ命令ヲ発シ若ハ処分ヲ為スコトヲ得
一 森林産物ニ使用スル記号又ハ印章ヲ定メ所轄警察官署ニ届出テシメ森林産物ノ搬出前之ヲ使用セシムルコト
二 前号ニ依リ届出テタル記号印章ト同一又ハ類似ノ記号若ハ印章ノ使用ヲ禁止スルコト
三 前二号ノ規定ニ違反シタル者ニ対シ森林産物ノ運搬ヲ停止スルコト
四 森林産物ニ関スル営業者ヲシテ帳簿ヲ設ケ其ノ産物ノ出所、種類、数量及仕向先ヲ記載セシムルコト
五 前各号ノ外森林ノ危害防止ニ関スルコト
第七十七条 森林官吏、警察官吏又ハ犯罪捜査ニ付職権ヲ有スル官吏、公吏其ノ職務ヲ行フ為必要アリト認ムルトキハ森林産物又ハ森林産物ニ関スル営業者ノ手板、帳簿及器具ニ付検査ヲ行フコトヲ得
第七十八条 森林又ハ之ニ接近セル土地ニ火入ヲ為サムトスルトキハ森林官吏又ハ警察官吏ノ許可ヲ受クヘシ
第七十九条 前条ノ火入ヲ為サムトスルトキハ予メ防火ノ設備ヲ為シ且接近セル森林ノ所有者又ハ管理者ニ其ノ旨ヲ通知スヘシ
第八十条 森林害虫発生シ又ハ発生ノ虞アルトキハ其ノ害虫発生シ又ハ発生ノ虞アル森林ノ所有者之ヲ駆除予防スヘシ
前項ノ場合ニ於テ必要アルトキハ森林所有者ハ警察官署ノ許可ヲ得テ他人ノ土地ニ立入リ森林害虫ノ駆除予防ヲ為スコトヲ得
第八十一条 森林害虫蔓延シ又ハ蔓延ノ虞アル場合ニ於テ地方長官ハ森林害虫ノ駆除又ハ予防ノ為必要ナル処置ヲ利害関係アル森林ノ所有者ニ命シ又ハ自ラ之ヲ行フコトヲ得虫類以外ノ動物又ハ黴菌ヲ駆除予防スルニ付主務大臣ノ認可ヲ得タル場合亦同シ
前項駆除予防ノ費用ハ其ノ利害関係アル土地ノ面積又ハ地価ヲ準率ト為シ森林所有者ノ負担トス但シ地方長官自ラ駆除予防ヲ行ヒタル場合ヲ除クノ外費用ノ負担者ニ於テ別段ノ定ヲ為シタルトキハ此ノ限ニ在ラス
地方長官第一項ニ依リ自ラ駆除予防ヲ行ヒタル場合ニ於ケル費用ノ徴収ニ付テハ行政執行法第六条ノ規定ヲ準用ス
第八十二条 害虫駆除予防法第七条及第八条ノ規定ハ前二条ニ依ル駆除予防ニ之ヲ準用ス
第七章 罰則
第八十三条 森林ニ於テ其ノ産物ヲ窃取シタル者ハ森林窃盗トシ三年以下ノ重禁錮又ハ贓額以上贓額二倍以下ノ罰金ニ処ス其ノ産物ニシテ人工ヲ加ヘタルモノニ係ルトキ亦同シ
第八十四条 森林窃盗ニシテ左ノ各号ノ一ニ該当スルトキハ二月以上三年以下ノ重禁錮及贓額以上贓額二倍以下ノ罰金ニ処ス
一 根株ヲ掘採、毀壊、焼燬若ハ隠蔽シ其ノ他罪跡ノ湮滅ヲ図ルノ行為アリタルトキ
二 贓物ヲ原料トシテ木炭、樟脳、椎茸、松根油其ノ他ノ物品ヲ製シタルトキ
三 贓物ヲ燃料トシテ鉱物ノ採取、精製若ハ石灰、煉瓦石、瓦其ノ他ノ物品ノ製造ニ使用シタルトキ
四 贓物ヲ運搬スル為馬、牛、船舶、車輛若ハ橇ヲ使用シ又ハ運搬、造材ノ設備ヲ為シタルトキ
五 保安林ニ於テ犯シタルトキ
六 森林産物採取ノ権利ヲ行使スルニ際シ犯シタルトキ
七 二人以上共同シ又ハ他人ヲ雇使シテ犯シタルトキ
八 森林保護ノ義務ヲ有スル者犯シタルトキ
九 差押ノ贓物ヲ隠匿、消費、滅却又ハ放棄シタルトキ
十 夜間犯シタルトキ
第八十五条 前条第二号ニ依リ製シタル物品ハ之ヲ森林窃盗ノ贓物ト看做ス
第八十六条 民法第百九十六条ノ規定ハ森林窃盗ノ贓物ノ回復ニ之ヲ適用セス但シ善意ノ取得者ニ付テハ此ノ限ニ在ラス
第八十七条 森林窃盗ノ贓物ナルコトヲ知リテ之ヲ受ケ又ハ寄蔵故買シ若ハ牙保ヲ為シタル者ハ一月以上三年以下ノ重禁錮及贓額以上贓額二倍以下ノ罰金ニ処ス
第八十八条 第八十三条、第八十四条及前条ノ贓額ノ二倍カ二円ニ満タサルトキト雖其ノ罰金ハ二円以下ニ下スコトヲ得ス
第八十九条 他人ノ森林ニ放火シタル者ハ軽懲役ニ処ス因テ主産物ヲ焼燬シタル者ハ重懲役ニ処ス
自己ノ森林ニ放火シタル者ハ二月以上二年以下ノ重禁錮又ハ二百円以下ノ罰金ニ処ス因テ他人ノ森林ノ主産物ヲ焼燬シタル者ハ五年以下ノ重禁錮ニ処ス
第九十条 第八十三条、第八十四条及前条第二項ノ罪ヲ犯サムトシテ未タ遂ケサル者ハ刑法未遂犯罪ノ例ニ照シテ処断ス
第九十一条 森林ノ為設ケタル標識ヲ移転、汚損シ又ハ毀壊シタル者ハ三十円以下ノ罰金ニ処ス但シ刑法第四百二十条ノ適用ヲ妨ケス
第九十二条 立木竹、木材又ハ根株ニ附シタル他人ノ記号印章ヲ変更又ハ消除シタル者ハ二十円以下ノ罰金ニ処ス
第九十三条 他人ノ森林内ニ工作物ヲ設ケタル者ハ二百円以下ノ罰金ニ処ス
他人ノ森林ヲ開墾シタル者亦同シ
前項ノ犯罪ニシテ保安林、開墾禁止ノ森林ニ係ルトキハ六月以下ノ重禁錮及二百円以下ノ罰金ニ処ス
第九十四条 他人ノ森林内ニ於テ放牧シタル者ハ五十円以下ノ罰金ニ処ス
第九十五条 第十三条ノ制限又ハ禁止ニ違反シタル者ハ二十円以下ノ罰金ニ処ス
第九十六条 第二十条ニ違反シ又ハ第二十五条第一項ノ停止ニ違反シタル者ハ百円以下ノ罰金ニ処ス
第九十七条 第二十六条ニ違反シ又ハ第三十二条ノ制限若ハ禁止ニ違反シタル者ハ二百円以下ノ罰金ニ処ス
第九十八条 第二十七条ノ制限、禁止又ハ指定ニ違反シタル者ハ三十円以下ノ罰金ニ処ス
第九十九条 前三条ノ場合ニ於テ木竹ヲ伐採又ハ傷害シタル者ニ対スル罰金ハ其ノ伐採又ハ傷害シタル木竹ノ価格ノ二倍ニ達セシムルコトヲ得
第百条 第七十六条第二号又ハ第三号ニ依ル命令又ハ処分ニ違反シタル者ハ二十円以下ノ罰金ニ処ス
第百一条 第七十七条ノ検査ヲ拒ミタル者ハ二十円以下ノ罰金ニ処ス其ノ刑法ニ正条アルモノハ刑法ニ依ル
第百二条 第七十八条又ハ第七十九条ニ違反シタル者ハ五十円以下ノ罰金ニ処ス因テ他人ノ森林ヲ焼燬シタル者ハ二百円以下ノ罰金ニ処ス他人ノ森林内ニ於テ焚火ヲ為シタル者亦同シ
第百三条 第七十六条第一号第四号若ハ第五号又ハ第八十一条第一項ニ依ル命令又ハ処分ニ違反シタル者ハ拘留又ハ科料ニ処ス
第百四条 第三十六条ニ依ル土地ハ本章ノ適用上之ヲ森林ト看做ス
第八章 附則
第百五条 本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第百六条 北海道、沖縄県其ノ他勅令ヲ以テ指定スル島嶼ニ付テハ本法中保安林ニ関スル規定ニ限リ之ヲ施行ス
前項ノ外本法ノ規定ヲ施行スルノ必要アルモノハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
前二項ノ場合ニ於テハ勅令ヲ以テ特例ヲ設クルコトヲ得
第百七条 本法施行前森林タリシモノニシテ本法施行以前ヨリ荒廃ニ属シタルモノハ地方長官ニ於テ造林ヲ命スルコトヲ得
前項ニ依リ造林ノ命令ヲ受ケタル者カ造林ヲ怠リタル場合ニ付テハ第十一条ノ規定ヲ準用ス
第百八条 旧法第三十条ニ依リ保安林ト為シタルモノニシテ本法施行ノ際現ニ保安林タルモノハ之ヲ保安林トス
第百九条 公有林又ハ社寺有林ニ付本法施行前地方長官ノ認可ヲ受ケ又ハ地方長官ニ届出テタル施業案又ハ施業要領ハ第九条ニ依ル認可ヲ受ケタルモノト看做ス
第百十条 旧法又ハ旧法ニ基キテ発シタル命令ノ規定ニ依リテ為シタル処分、議決、申請、請求、手続其ノ他ノ行為ハ本法又ハ本法ニ基キテ発スル命令ノ規定ニ依リテ之ヲ為シタルモノト看做ス但シ本法ニ基キテ発スル命令ニ別段ノ規定アル場合ハ此ノ限ニ在ラス
第百十一条 旧法ニ依リ本法施行前ニ進行ヲ始メタル期間カ本法中之ニ相当スル期間ヨリ長キトキハ旧法ノ規定ニ従フ但シ其ノ残期カ本法施行ノ日ヨリ起算シ本法中之ニ相当スル期間ヨリ長キトキハ本法施行ノ日ヨリ起算シテ本法ノ規定ヲ適用ス
第百十二条 旧法第二十六条ニ依ル補償ノ請求ハ本法施行ノ日ヨリ一箇年ヲ経過スルトキハ之ヲ為スコトヲ得ス