森林法
法令番号: 法律第四十六號
公布年月日: 明治30年4月12日
法令の形式: 法律
朕帝國議會ノ協贊ヲ經タル森林法ヲ裁可シ玆ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
明治三十年四月六日
內閣總理大臣 伯爵 松方正義
農商務大臣 伯爵 大隈重信
法律第四十六號
森林法
第一章 總則
第一條 此ノ法律ニ於テ森林ト稱スルハ御料林、國有林、部分林、公有林、社寺林及私有林ヲ謂フ
第二條 原野山嶽其ノ他ノ土地ニシテ第八條第一乃至第五ニ該當スルモノハ森林ニ準シテ此ノ法律ヲ適用ス
第二章 營林ノ監督
第三條 公有林及社寺林ニシテ其ノ經濟ノ保續ヲ損シ又ハ荒廢スルノ虞アルトキハ主務大臣ニ於テ營林ノ方法ヲ指定スヘシ
私有林ニシテ荒廢ノ虞アルトキハ主務大臣ニ於テ營林ノ方法ヲ指定スルコトヲ得
第四條 前條指定ノ方法ニ背キ伐木ヲ爲シタル者ニハ主務大臣ハ其ノ伐採ヲ停止シ伐木跡地ニ造林ヲ命スルコトヲ得
第五條 前條ノ造林ヲ怠ル者アルトキハ政府ニ於テ之ヲ行ヒ其ノ費用ヲ徵收シ又ハ其ノ造林ニ係ル部分ヲ部分林ト爲スコトヲ得
第六條 森林ヲ開墾セムトスル者ハ府縣知事ノ許可ヲ受クヘシ
第七條 國土保安ニ危害ノ虞アリト認ムルトキハ主務大臣ハ豫メ其ノ箇所ヲ指定シ森林ノ開墾ヲ禁止スルコトヲ得
第三章 保安林
第八條 森林ニシテ左ニ列記スル箇所ニ在ルモノハ保安林ニ編入スルコトヲ得
一 土砂壞崩流出ノ防備ニ必要ナル箇所
二 飛砂ノ防備ニ必要ナル箇所
三 水害、風害、潮害ノ防備ニ必要ナル箇所
四 頽雪、墜石ノ危險ヲ防止スルニ必要ナル箇所
五 水源ノ涵養ニ必要ナル箇所
六 魚附ニ必要ナル箇所
七 航行ノ目標ニ必要ナル箇所
八 公衆ノ衞生ニ必要ナル箇所
九 社寺、名所又ハ舊跡ノ風致ニ必要ナル箇所
第九條 保安林ハ編入ノ原因消滅シ又ハ公益上特別ノ事由生シタルトキハ之ヲ解除スルコトヲ得
第十條 保安林ノ編入解除ハ府縣郡市町村其ノ他直接ノ利害ヲ有スル者ヨリ府縣知事ニ申請スルコトヲ得
第十一條 府縣知事ニ於テ保安林ノ編入解除ヲ必要ト認メ又ハ前條ノ申請ヲ受ケタルトキハ之ヲ地方森林會ノ會議ニ付スヘシ
地方森林會ニ關スル規程ハ命令ヲ以テ之ヲ定ム
第十二條 保安林ノ編入解除ヲ地方森林會ノ會議ニ付セムトスルトキハ開會三十日以前ニ府縣公報ヲ以テ吿示シ其ノ森林ノ所有者竝大林區署土木監督署ニ其ノ旨ヲ通知シ且所在市町村役場ニ揭示スヘシ
第十三條 保安林ニ編入ノ爲地方森林會ノ會議ニ付セムトスル森林ハ前條吿示ノ日ヨリ決定ノ日マテ其ノ立木ノ伐採、土石切芝ノ採取、樹根ノ採掘及開墾ヲ爲スコトヲ得ス
第十四條 保安林ノ編入解除ニ直接ノ利害ヲ有スル者其ノ編入解除ニ異議アルトキハ第十二條ノ吿示ノ日ヨリ二十五日以內ニ府縣知事ヲ經テ意見書ヲ地方森林會ニ提出スルコトヲ得
第十五條 府縣知事ハ地方森林會ノ答申書ニ意見ヲ付シ關係書類ヲ添ヘ之ヲ主務大臣ニ具申スヘシ
第十六條 保安林ノ編入解除ハ地方森林會ノ議決ヲ經テ主務大臣之ヲ決定ス
第十七條 保安林ノ編入解除ハ官報及府縣公報ヲ以テ吿示シ且其ノ森林ノ所有者ニ通達スヘシ
第十八條 保安林ノ編入解除ニ直接ノ利害ヲ有スル者其ノ編入解除ニ關スル處分ニ不服アルトキハ前條ノ吿示若ハ通達ヲ受ケタル日ヨリ九十日以內ニ行政裁判所ニ出訴スルコトヲ得
第十九條 保安林ニ於テハ皆伐及開墾ヲ爲スコトヲ得ス
第二十條 府縣知事ノ許可ヲ得ルニ非サレハ保安林ニ於テ土石切芝ノ採取、樹根ノ採掘又ハ牛馬ノ放牧ヲ爲スコトヲ得ス
第二十一條 主務大臣ハ必要アリト認ムルトキハ保安林ノ伐木ヲ禁止又ハ制限スルコトヲ得
第二十二條 主務大臣ハ保安林ニ關シ其ノ森林ノ所有者ニ營林及保護ノ方法ヲ指定シ且其ノ使用收益ヲ制限スルコトヲ得
第二十三條 主務大臣ハ保安林又ハ開墾禁止ノ森林ヲ開墾シタル者ニ對シ復舊ノ造林ヲ命スルコトヲ得
第二十四條 前條ノ造林ヲ施行セス又ハ第二十二條ニ依リ指命シタル事項ヲ實施セサル者アルトキハ政府ニ於テ之ヲ行ヒ其ノ費用ヲ徵收スルコトヲ得
第二十五條 政府ニ於テ保安林ヲ買上ケムトスルトキハ之ヲ拒ムコトヲ得ス
第二十六條 保安林ニ編入セラレタル爲損害ヲ蒙リタル森林所有者ハ其ノ伐木ヲ禁止セラレタル場合ニ於ケル直接ノ損害ニ限リ補償ヲ求ムルコトヲ得但シ御料林、國有林ニ對シテハ補償ヲ爲スノ限ニ在ラス
前項ノ損害ニシテ申請ニ係ルモノハ申請者之ヲ補償シ命令ニ係ルモノハ政府之ヲ補償ス但シ申請者ノ補償ニ係ルモノハ政府ニ於テ其ノ三分ノ一以內ヲ補助スルコトヲ得
損害ノ算定方法ハ命令ヲ以テ之ヲ定ム
第二十七條 第二十五條ノ買上價格又ハ前條ノ補償金額ニ付協議整ハサルトキハ地方森林會ヲシテ評決セシムヘシ若之ニ服セサル者ハ評決ノ通知ヲ受ケタル日ヨリ九十日以內ニ裁判所ニ出訴スルコトヲ得
第二十八條 保安林ニ編入セラレタル森林ハ地租及公課ヲ免ス
第二十九條 官地私木ノ森林ニシテ保安林ニ編入セラレタルモノハ借地料ヲ免ス
第三十條 從來ノ禁伐林、風致林又ハ伐木停止林ハ此ノ法律施行ノ日ヨリ保安林トシ其ノ森林ニ對スル從來ノ制限ハ仍其ノ效力ヲ有ス
第四章 森林警察
第三十一條 伐木造材又ハ木材賣買ヲ業トスル者ハ林產物ニ使用スル記號又ハ印章ヲ所轄警察署ニ屆置クヘシ
警察署ハ他人ノ記號又ハ印章ニ類似スルモノノ使用ヲ禁止スルコトヲ得
第三十二條 伐木造材ヲ業トスル者ノ手板帳簿器具等ニ對シ森林官吏又ハ警察官吏ノ檢査アルトキハ之ヲ拒ムコトヲ得ス
第三十三條 森林官吏又ハ警察官吏ノ許可ヲ得スシテ森林內ニ火入ヲ爲スコトヲ得ス
第三十四條 森林ニ接續スル原野ニ火入ヲ爲ストキハ森林ニ對シテ豫メ防火ノ設備ヲ爲スヘシ
第三十五條 森林ニ於テ濫ニ焚火ヲ爲シ又ハ炬火ヲ携帶スルコトヲ得ス
第三十六條 森林又ハ其ノ近傍ニ於テ火災又ハ蟲害アルヲ發見シタル者及森林ニ關スル罪ヲ犯シ若ハ犯サムトスル者アルヲ覺知シタル者ハ直ニ森林官吏、警察官吏又ハ郡市町村吏員ニ申吿スヘシ
第五章 罰則
第三十七條 森林ニ於テ其ノ主副產物ヲ竊取シタル者ハ森林竊盜トシ二圓以上贓額二倍以下ノ罰金又ハ十一日以上二年以下ノ重禁錮ニ處ス其ノ主副產物ニシテ人工ヲ加ヘタルモノニ係ルトキ亦同シ但シ罰金ハ贓額以下ニ下スコトヲ得ス
第三十八條 森林竊盜ニシテ左ニ記載シタル所爲アルトキハ二圓以上贓額二倍以下ノ罰金及二月以上二年以下ノ重禁錮ニ處ス但シ罰金ハ贓額以下ニ下スコトヲ得ス
一 根株ヲ毀壞若ハ隱蔽シテ罪跡ノ湮滅ヲ圖リタルトキ
二 贓物ヲ原料トシテ木炭、樟腦、椎茸、松根油其ノ他ノ物品ヲ製シタルトキ
三 贓物ヲ燃料トシテ鑛物ノ採取精製若ハ石灰、煉化石、瓦其ノ他ノ物品ノ製造ニ使用シタルトキ
四 犯罪ヲ容易ナラシムル爲船舶ヲ使用シタルトキ
五 保安林ニ於テ盜伐ヲ爲シタルトキ
六 林產物採取ノ權利ヲ行使スルニ際シ其ノ罪ヲ犯シタルトキ
七 三人以上共謀シ又ハ五人以上ヲ雇使シテ其ノ罪ヲ犯シタルトキ
八 契約ニ依リ森林保護ノ義務ヲ有スル者其ノ罪ヲ犯シタルトキ
九 差押ノ贓物ヲ隱匿若ハ消費シタルトキ
第三十九條 森林竊盜ノ贓物ナルコトヲ知テ之ヲ受ケ又ハ寄藏故買シ若ハ牙保ヲ爲シタル者ハ二圓以上贓額二倍以下ノ罰金及一月以上三年以下ノ重禁錮ニ處ス但シ罰金ハ贓額以下ニ下スコトヲ得ス
第四十條 他人ノ所有ニ屬スル森林ノ樹木ヲ傷害シタル者ハ二圓以上五十圓以下ノ罰金ニ處ス
第四十一條 他人ノ森林ニ放火シタル者ハ輕懲役ニ處シ因テ主產物ヲ燒燬シタル者ハ重懲役ニ處ス其ノ自己ノ森林ニ係ルトキハ二月以上二年以下ノ重禁錮ニ處ス
第四十二條 濫ニ他人ノ森林內ニ於テ牛馬ヲ放牧シタル者ハ二圓以上五十圓以下ノ罰金ニ處ス
第四十三條 森林ノ爲設ケタル標識ヲ移轉シ若ハ毀壞シタル者ハ二圓以上三十圓以下ノ罰金ニ處ス其ノ經界ヲ表シタル物件ニ係ルトキハ刑法第四百二十條ヲ適用ス
第四十四條 立木、木材又ハ根株ニ附シタル記號印影ヲ變更若ハ消除シタル者ハ二圓以上二十圓以下ノ罰金ニ處ス
第四十五條 第六條ノ許可ヲ得スシテ森林ヲ開墾シタル者ハ二圓以上二百圓以下ノ罰金ニ處ス保安林又ハ開墾禁止ノ森林ニ係ルトキハ罰金ノ外仍十一日以上六月以下ノ重禁錮ニ處ス
他人ノ森林ヲ開墾シタル者亦同シ
第四十六條 保安林ニ於テ皆伐ヲ爲シ又ハ禁止若ハ制限ノ命令ニ違背シテ伐木ヲ爲シタル者ハ其ノ伐採シタル木材代價相當ノ罰金ニ處ス
第四十七條 第十三條又ハ第二十條ニ違背シタル者ハ三圓以上三十圓以下ノ罰金ニ處ス
第四十八條 第三十二條ニ違背シタル者ハ二圓以上二十圓以下ノ罰金ニ處ス
第四十九條 第三十三條第三十四條又ハ第三十五條ニ違背シタル者ハ二圓以上五十圓以下ノ罰金ニ處ス因テ他人ノ森林ヲ燒燬シタル者ハ二百圓以下ノ罰金ニ處ス
第五十條 第三十一條ニ違背シタル者ハ五十錢以上ノ科料ニ處ス
第五十一條 此ノ法律ニ規定シタル罪ヲ犯シタル者ニハ刑法ノ數罪俱發ノ例ヲ用井ス
第六章 雜則
第五十二條 此ノ法律ニ於テ開墾ト稱スルハ燒畑切替畑及地目變換ヲ包含ス
第五十三條 森林竊盜ノ贓物ヲ原料トシテ採取又ハ製造シタル樟腦、樟腦油、黐其ノ他樹木ノ脂液及木炭ハ贓物ト見做ス
第五十四條 此ノ法律ニ依リ徵收スヘキ費用ハ國稅怠納處分法ニ依リ徵收スルコトヲ得
第五十五條 森林ニシテ此ノ法律發布以前ヨリ無立木トナリ又ハ荒廢ニ屬スルモノハ主務大臣ニ於テ期限ヲ定メ造林ヲ命スルコトヲ得其ノ造林ヲ怠ル場合ニ於テハ第五條ノ規程ヲ適用ス
第五十六條 前條ニ依リ造林ヲ命セラレタル森林ハ其ノ造林シタル部分ニ限リ翌年ヨリ二十五箇年以內地租及公課ヲ免スルコトヲ得
原野山嶽又ハ荒蕪地ニシテ新ニ造林シタルモノハ前項ノ例ニ依ル
第五十七條 北海道沖繩縣其ノ他勅令ヲ以テ指定スル島嶼ノ森林ニ就テハ保安林ニ關スル規程ニ限リ此ノ法律ヲ適用ス但シ保安林ノ編入解除ニ關スル手續ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第五十八條 此ノ法律ハ明治三十一年一月一日ヨリ施行ス
朕帝国議会ノ協賛ヲ経タル森林法ヲ裁可シ茲ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
明治三十年四月六日
内閣総理大臣 伯爵 松方正義
農商務大臣 伯爵 大隈重信
法律第四十六号
森林法
第一章 総則
第一条 此ノ法律ニ於テ森林ト称スルハ御料林、国有林、部分林、公有林、社寺林及私有林ヲ謂フ
第二条 原野山岳其ノ他ノ土地ニシテ第八条第一乃至第五ニ該当スルモノハ森林ニ準シテ此ノ法律ヲ適用ス
第二章 営林ノ監督
第三条 公有林及社寺林ニシテ其ノ経済ノ保続ヲ損シ又ハ荒廃スルノ虞アルトキハ主務大臣ニ於テ営林ノ方法ヲ指定スヘシ
私有林ニシテ荒廃ノ虞アルトキハ主務大臣ニ於テ営林ノ方法ヲ指定スルコトヲ得
第四条 前条指定ノ方法ニ背キ伐木ヲ為シタル者ニハ主務大臣ハ其ノ伐採ヲ停止シ伐木跡地ニ造林ヲ命スルコトヲ得
第五条 前条ノ造林ヲ怠ル者アルトキハ政府ニ於テ之ヲ行ヒ其ノ費用ヲ徴収シ又ハ其ノ造林ニ係ル部分ヲ部分林ト為スコトヲ得
第六条 森林ヲ開墾セムトスル者ハ府県知事ノ許可ヲ受クヘシ
第七条 国土保安ニ危害ノ虞アリト認ムルトキハ主務大臣ハ予メ其ノ箇所ヲ指定シ森林ノ開墾ヲ禁止スルコトヲ得
第三章 保安林
第八条 森林ニシテ左ニ列記スル箇所ニ在ルモノハ保安林ニ編入スルコトヲ得
一 土砂壊崩流出ノ防備ニ必要ナル箇所
二 飛砂ノ防備ニ必要ナル箇所
三 水害、風害、潮害ノ防備ニ必要ナル箇所
四 頽雪、墜石ノ危険ヲ防止スルニ必要ナル箇所
五 水源ノ涵養ニ必要ナル箇所
六 魚附ニ必要ナル箇所
七 航行ノ目標ニ必要ナル箇所
八 公衆ノ衛生ニ必要ナル箇所
九 社寺、名所又ハ旧跡ノ風致ニ必要ナル箇所
第九条 保安林ハ編入ノ原因消滅シ又ハ公益上特別ノ事由生シタルトキハ之ヲ解除スルコトヲ得
第十条 保安林ノ編入解除ハ府県郡市町村其ノ他直接ノ利害ヲ有スル者ヨリ府県知事ニ申請スルコトヲ得
第十一条 府県知事ニ於テ保安林ノ編入解除ヲ必要ト認メ又ハ前条ノ申請ヲ受ケタルトキハ之ヲ地方森林会ノ会議ニ付スヘシ
地方森林会ニ関スル規程ハ命令ヲ以テ之ヲ定ム
第十二条 保安林ノ編入解除ヲ地方森林会ノ会議ニ付セムトスルトキハ開会三十日以前ニ府県公報ヲ以テ告示シ其ノ森林ノ所有者並大林区署土木監督署ニ其ノ旨ヲ通知シ且所在市町村役場ニ掲示スヘシ
第十三条 保安林ニ編入ノ為地方森林会ノ会議ニ付セムトスル森林ハ前条告示ノ日ヨリ決定ノ日マテ其ノ立木ノ伐採、土石切芝ノ採取、樹根ノ採掘及開墾ヲ為スコトヲ得ス
第十四条 保安林ノ編入解除ニ直接ノ利害ヲ有スル者其ノ編入解除ニ異議アルトキハ第十二条ノ告示ノ日ヨリ二十五日以内ニ府県知事ヲ経テ意見書ヲ地方森林会ニ提出スルコトヲ得
第十五条 府県知事ハ地方森林会ノ答申書ニ意見ヲ付シ関係書類ヲ添ヘ之ヲ主務大臣ニ具申スヘシ
第十六条 保安林ノ編入解除ハ地方森林会ノ議決ヲ経テ主務大臣之ヲ決定ス
第十七条 保安林ノ編入解除ハ官報及府県公報ヲ以テ告示シ且其ノ森林ノ所有者ニ通達スヘシ
第十八条 保安林ノ編入解除ニ直接ノ利害ヲ有スル者其ノ編入解除ニ関スル処分ニ不服アルトキハ前条ノ告示若ハ通達ヲ受ケタル日ヨリ九十日以内ニ行政裁判所ニ出訴スルコトヲ得
第十九条 保安林ニ於テハ皆伐及開墾ヲ為スコトヲ得ス
第二十条 府県知事ノ許可ヲ得ルニ非サレハ保安林ニ於テ土石切芝ノ採取、樹根ノ採掘又ハ牛馬ノ放牧ヲ為スコトヲ得ス
第二十一条 主務大臣ハ必要アリト認ムルトキハ保安林ノ伐木ヲ禁止又ハ制限スルコトヲ得
第二十二条 主務大臣ハ保安林ニ関シ其ノ森林ノ所有者ニ営林及保護ノ方法ヲ指定シ且其ノ使用収益ヲ制限スルコトヲ得
第二十三条 主務大臣ハ保安林又ハ開墾禁止ノ森林ヲ開墾シタル者ニ対シ復旧ノ造林ヲ命スルコトヲ得
第二十四条 前条ノ造林ヲ施行セス又ハ第二十二条ニ依リ指命シタル事項ヲ実施セサル者アルトキハ政府ニ於テ之ヲ行ヒ其ノ費用ヲ徴収スルコトヲ得
第二十五条 政府ニ於テ保安林ヲ買上ケムトスルトキハ之ヲ拒ムコトヲ得ス
第二十六条 保安林ニ編入セラレタル為損害ヲ蒙リタル森林所有者ハ其ノ伐木ヲ禁止セラレタル場合ニ於ケル直接ノ損害ニ限リ補償ヲ求ムルコトヲ得但シ御料林、国有林ニ対シテハ補償ヲ為スノ限ニ在ラス
前項ノ損害ニシテ申請ニ係ルモノハ申請者之ヲ補償シ命令ニ係ルモノハ政府之ヲ補償ス但シ申請者ノ補償ニ係ルモノハ政府ニ於テ其ノ三分ノ一以内ヲ補助スルコトヲ得
損害ノ算定方法ハ命令ヲ以テ之ヲ定ム
第二十七条 第二十五条ノ買上価格又ハ前条ノ補償金額ニ付協議整ハサルトキハ地方森林会ヲシテ評決セシムヘシ若之ニ服セサル者ハ評決ノ通知ヲ受ケタル日ヨリ九十日以内ニ裁判所ニ出訴スルコトヲ得
第二十八条 保安林ニ編入セラレタル森林ハ地租及公課ヲ免ス
第二十九条 官地私木ノ森林ニシテ保安林ニ編入セラレタルモノハ借地料ヲ免ス
第三十条 従来ノ禁伐林、風致林又ハ伐木停止林ハ此ノ法律施行ノ日ヨリ保安林トシ其ノ森林ニ対スル従来ノ制限ハ仍其ノ効力ヲ有ス
第四章 森林警察
第三十一条 伐木造材又ハ木材売買ヲ業トスル者ハ林産物ニ使用スル記号又ハ印章ヲ所轄警察署ニ届置クヘシ
警察署ハ他人ノ記号又ハ印章ニ類似スルモノノ使用ヲ禁止スルコトヲ得
第三十二条 伐木造材ヲ業トスル者ノ手板帳簿器具等ニ対シ森林官吏又ハ警察官吏ノ検査アルトキハ之ヲ拒ムコトヲ得ス
第三十三条 森林官吏又ハ警察官吏ノ許可ヲ得スシテ森林内ニ火入ヲ為スコトヲ得ス
第三十四条 森林ニ接続スル原野ニ火入ヲ為ストキハ森林ニ対シテ予メ防火ノ設備ヲ為スヘシ
第三十五条 森林ニ於テ濫ニ焚火ヲ為シ又ハ炬火ヲ携帯スルコトヲ得ス
第三十六条 森林又ハ其ノ近傍ニ於テ火災又ハ虫害アルヲ発見シタル者及森林ニ関スル罪ヲ犯シ若ハ犯サムトスル者アルヲ覚知シタル者ハ直ニ森林官吏、警察官吏又ハ郡市町村吏員ニ申告スヘシ
第五章 罰則
第三十七条 森林ニ於テ其ノ主副産物ヲ窃取シタル者ハ森林窃盗トシ二円以上贓額二倍以下ノ罰金又ハ十一日以上二年以下ノ重禁錮ニ処ス其ノ主副産物ニシテ人工ヲ加ヘタルモノニ係ルトキ亦同シ但シ罰金ハ贓額以下ニ下スコトヲ得ス
第三十八条 森林窃盗ニシテ左ニ記載シタル所為アルトキハ二円以上贓額二倍以下ノ罰金及二月以上二年以下ノ重禁錮ニ処ス但シ罰金ハ贓額以下ニ下スコトヲ得ス
一 根株ヲ毀壊若ハ隠蔽シテ罪跡ノ湮滅ヲ図リタルトキ
二 贓物ヲ原料トシテ木炭、樟脳、椎茸、松根油其ノ他ノ物品ヲ製シタルトキ
三 贓物ヲ燃料トシテ鉱物ノ採取精製若ハ石灰、煉化石、瓦其ノ他ノ物品ノ製造ニ使用シタルトキ
四 犯罪ヲ容易ナラシムル為船舶ヲ使用シタルトキ
五 保安林ニ於テ盗伐ヲ為シタルトキ
六 林産物採取ノ権利ヲ行使スルニ際シ其ノ罪ヲ犯シタルトキ
七 三人以上共謀シ又ハ五人以上ヲ雇使シテ其ノ罪ヲ犯シタルトキ
八 契約ニ依リ森林保護ノ義務ヲ有スル者其ノ罪ヲ犯シタルトキ
九 差押ノ贓物ヲ隠匿若ハ消費シタルトキ
第三十九条 森林窃盗ノ贓物ナルコトヲ知テ之ヲ受ケ又ハ寄蔵故買シ若ハ牙保ヲ為シタル者ハ二円以上贓額二倍以下ノ罰金及一月以上三年以下ノ重禁錮ニ処ス但シ罰金ハ贓額以下ニ下スコトヲ得ス
第四十条 他人ノ所有ニ属スル森林ノ樹木ヲ傷害シタル者ハ二円以上五十円以下ノ罰金ニ処ス
第四十一条 他人ノ森林ニ放火シタル者ハ軽懲役ニ処シ因テ主産物ヲ焼燬シタル者ハ重懲役ニ処ス其ノ自己ノ森林ニ係ルトキハ二月以上二年以下ノ重禁錮ニ処ス
第四十二条 濫ニ他人ノ森林内ニ於テ牛馬ヲ放牧シタル者ハ二円以上五十円以下ノ罰金ニ処ス
第四十三条 森林ノ為設ケタル標識ヲ移転シ若ハ毀壊シタル者ハ二円以上三十円以下ノ罰金ニ処ス其ノ経界ヲ表シタル物件ニ係ルトキハ刑法第四百二十条ヲ適用ス
第四十四条 立木、木材又ハ根株ニ附シタル記号印影ヲ変更若ハ消除シタル者ハ二円以上二十円以下ノ罰金ニ処ス
第四十五条 第六条ノ許可ヲ得スシテ森林ヲ開墾シタル者ハ二円以上二百円以下ノ罰金ニ処ス保安林又ハ開墾禁止ノ森林ニ係ルトキハ罰金ノ外仍十一日以上六月以下ノ重禁錮ニ処ス
他人ノ森林ヲ開墾シタル者亦同シ
第四十六条 保安林ニ於テ皆伐ヲ為シ又ハ禁止若ハ制限ノ命令ニ違背シテ伐木ヲ為シタル者ハ其ノ伐採シタル木材代価相当ノ罰金ニ処ス
第四十七条 第十三条又ハ第二十条ニ違背シタル者ハ三円以上三十円以下ノ罰金ニ処ス
第四十八条 第三十二条ニ違背シタル者ハ二円以上二十円以下ノ罰金ニ処ス
第四十九条 第三十三条第三十四条又ハ第三十五条ニ違背シタル者ハ二円以上五十円以下ノ罰金ニ処ス因テ他人ノ森林ヲ焼燬シタル者ハ二百円以下ノ罰金ニ処ス
第五十条 第三十一条ニ違背シタル者ハ五十銭以上ノ科料ニ処ス
第五十一条 此ノ法律ニ規定シタル罪ヲ犯シタル者ニハ刑法ノ数罪俱発ノ例ヲ用井ス
第六章 雑則
第五十二条 此ノ法律ニ於テ開墾ト称スルハ焼畑切替畑及地目変換ヲ包含ス
第五十三条 森林窃盗ノ贓物ヲ原料トシテ採取又ハ製造シタル樟脳、樟脳油、黐其ノ他樹木ノ脂液及木炭ハ贓物ト見做ス
第五十四条 此ノ法律ニ依リ徴収スヘキ費用ハ国税怠納処分法ニ依リ徴収スルコトヲ得
第五十五条 森林ニシテ此ノ法律発布以前ヨリ無立木トナリ又ハ荒廃ニ属スルモノハ主務大臣ニ於テ期限ヲ定メ造林ヲ命スルコトヲ得其ノ造林ヲ怠ル場合ニ於テハ第五条ノ規程ヲ適用ス
第五十六条 前条ニ依リ造林ヲ命セラレタル森林ハ其ノ造林シタル部分ニ限リ翌年ヨリ二十五箇年以内地租及公課ヲ免スルコトヲ得
原野山岳又ハ荒蕪地ニシテ新ニ造林シタルモノハ前項ノ例ニ依ル
第五十七条 北海道沖縄県其ノ他勅令ヲ以テ指定スル島嶼ノ森林ニ就テハ保安林ニ関スル規程ニ限リ此ノ法律ヲ適用ス但シ保安林ノ編入解除ニ関スル手続ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第五十八条 此ノ法律ハ明治三十一年一月一日ヨリ施行ス