朕樞密顧問ノ諮詢ヲ經テ小學校令ノ改正ヲ裁可シ玆ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
明治三十三年八月十八日
文部大臣 伯爵 樺山資紀
勅令第三百四十四號
小學校令
第一章 總則
第一條 小學校ハ兒童身體ノ發達ニ留意シテ道德敎育及國民敎育ノ基礎竝其ノ生活ニ必須ナル普通ノ知識技能ヲ授クルヲ以テ本旨トス
第二條 小學校ハ之ヲ分テ尋常小學校及高等小學校トス
尋常小學校ノ敎科ト高等小學校ノ敎科トヲ一校ニ併置スルモノヲ尋常高等小學校トス
市町村、町村學校組合又ハ其ノ區ノ負擔ヲ以テ設置スルモノヲ市町村立小學校トシ私人ノ費用ヲ以テ設置スルモノヲ私立小學校トス
第三條 尋常高等小學校ニ於テ尋常小學校ノ敎科ヲ授クヘキ部分ニ對シテハ尋常小學校ノ規定ヲ準用シ高等小學校ノ敎科ヲ授クヘキ部分ニ對シテハ高等小學校ノ規定ヲ準用ス但シ文部大臣ニ於テ別段ノ規定ヲ設ケタル場合ハ此ノ限ニ在ラス
第四條 町村組合ニシテ其ノ町村一切ノ事務ヲ共同處分スルモノハ之ヲ一町村ト同視ス
第五條 幼稚園、盲啞學校其ノ他小學校ニ類スル各種學校ノ規程ニ關シテハ本令中別段ノ規定アルモノヲ除クノ外文部大臣之ヲ定ム
第二章 設置
第六條 市町村ハ其ノ區域內ノ學齡兒童ヲ就學セシムルニ足ルヘキ尋常小學校ヲ設置スヘシ
第七條 郡長ハ一町村ノ資力尋常小學校設置ニ關スル費用ノ負擔ニ堪ヘスト認メタルトキハ其ノ町村ヲシテ尋常小學校設置ノ爲他ノ町村ト學校組合ヲ設ケシムヘシ
第八條 郡長ハ一町村ニ於テ就學セシムヘキ兒童ノ數一尋常小學校ヲ構成スルニ足ラスト認メタルトキ又ハ適度ノ通學路程內ニ於テ一尋常小學校ヲ構成スルニ足ルヘキ數ヲ得ルコト能ハスト認メタルトキハ左ノ例ニ依ルヘシ
一 其ノ町村ヲシテ尋常小學校設置ノ爲他ノ町村ト學校組合ヲ設ケシムルコト
二 其ノ町村ヲシテ就學セシムヘキ兒童ノ全部若ハ一部ノ敎育事務ヲ他町村、町村學校組合又ハ其ノ區ニ委託セシムルコト
郡長ハ町村ノ一部ニシテ前項ノ事情アルモノ其ノ町村ノ尋常小學校ニ對シ適度ノ通學路程內ニ在ラスト認メタルトキハ亦前項ノ例ニ依ルヘシ
郡長ハ町村學校組合ノ一部ニシテ前項ニ準スヘキ事情アリト認メタルトキハ第一項第二號ノ例ニ準スヘシ
第九條 市立尋常小學校ノ校數竝位置ハ府縣知事ニ於テ市ノ意見ヲ聞キ之ヲ定ムヘシ
町村立尋常小學校ノ校數竝位置ハ郡長ニ於テ町村又ハ町村學校組合ノ意見ヲ聞キ之ヲ定メ府縣知事ノ認可ヲ受クヘシ
第十條 第七條又ハ第八條ニ依リ郡長ニ於テ町村學校組合ヲ設ケシメ若ハ其ノ組合ヲ解カシメムトスルトキハ關係町村ノ意見ヲ聞キ府縣知事ノ認可ヲ受クヘシ
第八條ニ依リ郡長ニ於テ兒童敎育事務ヲ委託セシメ又ハ其ノ委託ヲ止メシメムトスルトキハ關係町村、町村學校組合及區ノ意見ヲ聞キ府縣知事ノ認可ヲ受クヘシ
第十一條 府縣知事ハ市ニ於テ設置スヘキ尋常小學校數校アルトキハ市內ノ一區若ハ數區ニ對シ又ハ市ヲ分畫シテ數區ト爲シ其ノ一區若ハ數區ニ對シ小學校設置ニ關スル費用ノ負擔ノ爲其ノ使用スヘキ小學校ヲ指定スルコトヲ得此ノ場合ニ於テハ關係市及區ノ意見ヲ聞クヘシ其ノ之ヲ止メムトスルトキ亦同シ
郡長ハ町村若ハ町村學校組合ニ於テ設置スヘキ尋常小學校數校アルトキ、兒童敎育事務ノ委託ヲ要スル場所數箇所アルトキ又ハ其ノ設置スヘキ尋常小學校ト兒童敎育事務ノ委託ヲ要スル場所トアルトキハ町村內若ハ町村學校組合內ノ一區若ハ數區ニ對シ又ハ町村若ハ町村學校組合ヲ分畫シテ數區ト爲シ其ノ一區若ハ數區ニ對シ小學校設置ニ關スル費用ノ負擔又ハ兒童敎育事務委託ノ爲其ノ使用スヘキ小學校ヲ指定スルコトヲ得此ノ場合ニ於テハ關係町村、町村學校組合及區ノ意見ヲ聞キ府縣知事ノ認可ヲ受クヘシ其ノ之ヲ止メムトスルトキ亦同シ
第十二條 府縣知事ハ第七條及第八條第一項ノ事情アルモ同條及第五十三條竝第五十四條ニ依ルコトヲ得スト認メタルトキハ其ノ町村ヲシテ尋常小學校ノ設置又ハ兒童敎育事務ノ委託ニ關スル義務ヲ免レシムルコトヲ得
府縣知事ハ第八條第二項又ハ第三項ノ事情アルモ同項及第五十三條竝第五十四條ニ依ルコトヲ得スト認メタルトキハ其ノ町村若ハ町村學校組合ヲシテ其ノ一部ニ關シテハ尋常小學校ノ設置又ハ兒童敎育事務ノ委託ニ關スル義務ヲ免レシムルコトヲ得
第十三條 府縣知事ハ特別ノ事情ニ依リ市立尋常小學校ノ設置又ハ其ノ一部ノ設備ヲ猶豫シ市內ノ私立小學校ヲ以テ之ニ代用セシムルコトヲ得
郡長ハ特別ノ事情ニ依リ町村立尋常小學校ノ設置若ハ其ノ一部ノ設備又ハ兒童敎育事務ノ委託ヲ猶豫シ町村若ハ町村學校組合內ノ私立小學校ヲ以テ之ニ代用セシムルコトヲ得
私立小學校代用ニ關スル規程ハ文部大臣之ヲ定ム
第十四條 市町村ハ市町村又ハ其ノ區ノ負擔ヲ以テ高等小學校ヲ設置スルコトヲ得
町村ハ數町村ノ協議ニ依リ町村學校組合ヲ設ケ高等小學校ヲ設置スルコトヲ得
前項ノ町村學校組合ヲ設ケ又ハ之ヲ解カムトスルトキハ郡長ノ認可ヲ受クヘシ
郡長ハ前項ノ場合ニ於テハ府縣知事ノ指揮ヲ受クヘシ
第十五條 市町村立高等小學校ノ設置及廢止ハ府縣知事ノ認可ヲ受クヘシ
第十六條 私立小學校ノ設置ハ設立者ニ於テ府縣知事ノ認可ヲ受ケ其ノ廢止ハ之ヲ府縣知事ニ屆出ツヘシ
第十七條 前三條ノ規定ハ幼稚園、盲啞學校其ノ他小學校ニ類スル各種學校ニ關シ之ヲ準用ス
幼稚園、盲啞學校其ノ他小學校ニ類スル各種學校ハ之ヲ小學校ニ附設スルコトヲ得
第三章 敎科及編制
第十八條 尋常小學校ノ修業年限ハ四箇年トシ高等小學校ノ修業年限ハ二箇年、三箇年又ハ四箇年トス
第十九條 尋常小學校ノ敎科目ハ修身、國語、算術、體操トス
土地ノ情況ニ依リ圖畫、唱歌、手工ノ一科目又ハ數科目ヲ加ヘ女兒ノ爲ニハ裁縫ヲ加フルコトヲ得
前項ニ依リ加フル敎科目ハ之ヲ隨意科目ト爲スコトヲ得
第二十條 高等小學校ノ敎科目ハ修身、國語、算術、日本歷史、地理、理科、圖畫、唱歌、體操トシ女兒ノ爲ニハ裁縫ヲ加フ
修業年限二箇年ノ高等小學校ニ於テハ理科、唱歌ノ一科目若ハ二科目ヲ闕キ又ハ手工ヲ加フルコトヲ得
修業年限三箇年以上ノ高等小學校ニ於テハ唱歌ヲ闕キ又ハ農業、商業、手工ノ一科目若ハ數科目ヲ加フルコトヲ得
修業年限四箇年ノ高等小學校ニ於テハ英語ヲ加フルコトヲ得
前三項ニ依リ加フル敎科目ハ之ヲ隨意科目ト爲スコトヲ得
第二十一條 小學校ニ補習科ヲ置クコトヲ得
補習科ニ關スル規程ハ文部大臣之ヲ定ム
第二十二條 小學校ノ敎科目中兒童身體ノ情況ニ依リ學習スルコト能ハサル敎科目ハ之ヲ其ノ兒童ニ課セサルコトヲ得
第二十三條 小學校ノ敎科目ヲ加除シ又ハ隨意科目ト爲サムトスルトキハ市町村立小學校ニ在リテハ管理者、私立小學校ニ在リテハ設立者ニ於テ府縣知事ノ認可ヲ受クヘシ
補習科ヲ設置シ若ハ之ヲ廢止シ又ハ高等小學校ノ修業年限ヲ定メムトスルトキハ市町村立小學校ニ在リテハ市町村若ハ町村學校組合、私立小學校ニ在リテハ設立者ニ於テ府縣知事ノ認可ヲ受クヘシ
第二十四條 小學校ノ敎科用圖書ハ文部省ニ於テ編纂シタルモノ及文部大臣ノ檢定シタルモノニ就キ小學校圖書審査委員會ノ審査ヲ經テ府縣知事之ヲ採定ス
補習科ノ敎科用圖書ニ關シテハ文部大臣ノ定ムル所ニ依ル
第二十五條 府縣知事ノ採定シタル敎科用圖書ニシテ其ノ一部ヲ修正シ文部大臣ノ檢定ヲ受ケタルモノハ更ニ審査委員會ノ審査ヲ經ス府縣知事ニ於テ仍採定ノ效力ヲ繼續スルコトヲ得
第二十六條 小學校圖書審査委員會ハ府縣ニ置キ左ニ揭クル者ヲ以テ之ヲ組織ス
一 府縣書記官
二 府縣視學官
三 專任府縣視學
四 師範學校長
五 師範學校敎諭二名
六 府縣立中學校長一名
七 府縣立高等女學校長一名
八 郡視學二名
小學校圖書審査委員會及審査ニ關スル規程ハ文部大臣之ヲ定ム
第二十七條 小學校ノ休業日ハ日曜日ヲ除クノ外每年九十日ヲ超ユルコトヲ得ス但シ補習科ハ此ノ限ニ在ラス
特別ノ事情アルトキハ府縣知事ニ於テ文部大臣ノ認可ヲ受ケ前項ノ日數ヲ增加スルコトヲ得
傳染病豫防ノ爲必要アルトキ其ノ他非常變災アルトキハ監督官廳ニ於テ臨時小學校ノ閉鎖ヲ命スヘシ其ノ急迫ノ事情アル場合ニ於テハ市町村立小學校ニ在リテハ管理者、私立小學校ニ在リテハ設立者ニ於テ之ヲ閉鎖スルコトヲ得此ノ場合ニ於テハ直ニ監督官廳ニ屆出ツヘシ
第二十八條 小學校敎則及小學校編制ニ關スル規程ハ文部大臣之ヲ定ム
第四章 設備
第二十九條 小學校ニ於テハ校舍、校地、校具及體操場ヲ備フヘシ
第三十條 校舍、校地、校具及體操場ハ非常變災ノ場合ヲ除クノ外小學校ノ目的以外ニ之ヲ使用スルコトヲ得ス但シ已ムヲ得サル事情ニ依リ監督官廳ノ認可ヲ受ケタル場合ハ此ノ限ニ在ラス
第三十一條 小學校ノ設備ニ關スル規程ハ文部大臣ニ於テ定ムル準則ニ基キ府縣知事之ヲ定ム
第五章 就學
第三十二條 兒童滿六歲ニ達シタル翌月ヨリ滿十四歲ニ至ル八箇年ヲ以テ學齡トス
學齡兒童ノ學齡ニ達シタル月以後ニ於ケル最初ノ學年ノ始ヲ以テ就學ノ始期トシ尋常小學校ノ敎科ヲ修了シタルトキヲ以テ就學ノ終期トス
學齡兒童保護者ハ就學ノ始期ヨリ其ノ終期ニ至ル迄學齡兒童ヲ就學セシムルノ義務ヲ負フ
學齡兒童保護者ト稱スルハ學齡兒童ニ對シ親權ヲ行フ者又ハ親權ヲ行フ者ナキトキハ其ノ後見人ヲ謂フ
第三十三條 學齡兒童瘋癲白痴又ハ不具癈疾ノ爲就學スルコト能ハスト認メタルトキハ市町村長ハ監督官廳ノ認可ヲ受ケ學齡兒童保護者ノ義務ヲ免除スルコトヲ得
學齡兒童病弱又ハ發育不完全ノ爲就學セシムヘキ時期ニ於テ就學スルコト能ハスト認メタルトキハ市町村長ハ監督官廳ノ認可ヲ受ケ其ノ就學ヲ猶豫スルコトヲ得
市町村長ニ於テ學齡兒童保護者貧窮ノ爲其ノ兒童ヲ就學セシムルコト能ハスト認メタルトキ亦前二項ニ準ス
第三十四條 第十二條ニ依リ尋常小學校ノ設置又ハ兒童敎育事務ノ委託ニ關スル義務ヲ免セラレタル區域內ノ學齡兒童保護者ハ其ノ義務ヲ免除セラレタルモノトス
第三十五條 尋常小學校ノ敎科ヲ修了セサル學齡兒童ヲ雇傭スル者ハ其ノ雇傭ニ依リテ兒童ノ就學ヲ妨クルコトヲ得ス
第三十六條 學齡兒童保護者ハ就學セシムヘキ兒童ヲ市町村立尋常小學校又ハ之ニ代用スル私立小學校ニ入學セシムヘシ但シ市町村長ノ認可ヲ受ケ家庭又ハ其ノ他ニ於テ尋常小學校ノ敎科ヲ修メシムルコトヲ得
官立又ハ府縣立學校ニ於テ尋常小學校ノ敎科ヲ授クヘキ部分ハ兒童就學ニ關シテハ市町村立尋常小學校ト同視ス
第三十七條 兒童ノ年齡就學ノ始期ニ達セサル者ハ之ヲ小學校ニ入學セシムルコトヲ得ス
第三十八條 小學校長ハ傳染病ニ罹リ若ハ其ノ虞アル兒童又ハ性行不良ニシテ他ノ兒童ノ敎育ニ妨アリト認メタル兒童ノ小學校ニ出席スルヲ停止スルコトヲ得
第六章 職員
第三十九條 小學校ノ敎科ヲ敎授スル者ヲ本科正敎員トシ其ノ敎科目中圖畫、唱歌、體操、裁縫、英語、農業、商業又ハ手工ノ一科目若ハ數科目ヲ限リ敎授スル者ヲ專科正敎員トス
本科正敎員ヲ補助スル者ヲ准敎員トス
第四十條 小學校敎員タルヘキ者ハ免許狀ヲ受クヘシ
免許狀ハ普通免許狀及府縣免許狀ノ二種トス
普通免許狀ハ文部大臣之ヲ授與シ全國ニ通シテ有效トス
府縣免許狀ハ府縣知事之ヲ授與シ其ノ府縣限リ有效トス
第四十一條 府縣免許狀ヲ受クルニハ師範學校若ハ文部大臣ノ指定シタル學校ヲ卒業シ又ハ小學校敎員ノ檢定ニ合格スルコトヲ要ス
前項ノ檢定ヲ施行スルカ爲府縣ニ小學校敎員檢定委員會ヲ置ク
免許狀及小學校敎員檢定委員會ノ組織權限其ノ他檢定ニ關スル規程ハ文部大臣之ヲ定ム
第四十二條 特別ノ事情アルトキハ免許狀ヲ有セサル者ヲ以テ小學校准敎員ニ代用スルコトヲ得
代用敎員ニ關スル規程ハ文部大臣之ヲ定ム
第四十三條 市町村立小學校長ハ其ノ學校ノ本科正敎員ヲシテ之ヲ兼ネシムヘシ
第四十四條 市立小學校長及敎員ノ任用ハ市長ノ申請ニ依リ町村立小學校長及敎員ノ任用ハ郡長ノ申請ニ依リ府縣知事之ヲ行フ
市町村立小學校長及敎員ノ解職ハ府縣知事之ヲ行フ
第四十五條 市町村立小學校敎員ノ俸給旅費其ノ他諸給與竝其ノ支給方法ハ文部大臣ニ於テ定ムル準則ニ基キ府縣知事之ヲ定ム
第四十六條 小學校長及敎員ノ進退、職務及服務ニ關スル規程ハ文部大臣之ヲ定ム
第四十七條 小學校長及敎員ハ敎育上必要ト認メタルトキハ兒童ニ懲戒ヲ加フルコトヲ得但シ體罰ヲ加フルコトヲ得ス
第四十八條 市町村立小學校長及敎員職務上ノ義務ニ違背シ若ハ職務ヲ怠リタルトキ又ハ職務ノ內外ヲ問ハス體面ヲ汚辱スルノ所爲アリタルトキハ府縣知事ニ於テ懲戒處分ヲ行フ其ノ處分ハ譴責、減俸及免職トス
私立小學校長及敎員ニシテ前項ニ準スヘキ所爲アリタルトキハ府縣知事ハ其ノ業務ヲ停止ス
第四十九條 小學校敎員免許狀ヲ有スル者左ノ各號ノ一ニ該當シタルトキハ免許狀ハ其ノ效力ヲ失フ
一 禁錮以上ノ刑ニ處セラレタルトキ
二 信用若ハ風俗ヲ害スルノ罪ヲ犯シテ罰金ノ刑ニ處セラレ又ハ監視ニ付セラレタルトキ
三 破產若ハ家資分㪚ノ宣吿ヲ受ケタルトキ
小學校敎員免許狀ヲ有スル者不正ノ所爲其ノ他敎員タルヘキ體面ヲ汚辱スルノ所爲アリテ其ノ情狀重シト認メタルトキハ文部大臣又ハ府縣知事ニ於テ其ノ免許狀ヲ褫奪ス
第五十條 府縣知事ニ於テ行ヒタル免職若ハ業務停止又ハ免許狀褫奪ノ處分ニ不服アル者ハ文部大臣ニ訴願スルコトヲ得
第七章 費用負擔及授業料
第五十一條 市町村立小學校ノ設置ニ關スル費用ハ市町村、町村學校組合又ハ其ノ區ノ負擔トス其ノ槪目左ノ如シ
一 設備及其ノ維持ノ費用
二 職員ノ俸給、旅費、其ノ他諸給與
三 校費
兒童敎育事務委託ニ關スル費用ハ町村、町村學校組合又ハ其ノ區ノ負擔トス
第五十二條 郡長ハ町村學校組合ニ於テ設置スヘキ尋常小學校數校アルトキ又ハ兒童敎育事務ノ委託ヲ要スル場所アルトキハ其ノ學校組合內ノ某町村ヲシテ其ノ數校中ノ一校若ハ數校ノ設置又ハ兒童敎育事務委託ニ關スル費用ヲ一町村限リ負擔セシムルコトヲ得
前項ノ處分ヲ爲シ又ハ之ヲ止メムトスルトキハ關係町村及町村學校組合ノ意見ヲ聞キ府縣知事ノ認可ヲ受クヘシ
第五十三條 郡長ニ於テ左ノ各號ノ一ニ該當スルモノアリト認メタルトキハ郡ハ町村又ハ町村學校組合ニ相當ノ補助ヲ與フヘシ
一 町村ニシテ第七條ノ事情アルモ同條ニ依ルコトヲ得サルトキ
二 町村學校組合ノ資力尋常小學校設置ニ關スル費用ノ負擔ニ堪ヘサルトキ又ハ町村學校組合ノ一部タル町村ノ資力其ノ學校組合費ノ分擔ニ堪ヘサルトキ
三 町村又ハ町村學校組合ノ資力兒童敎育事務委託ニ關スル費用ノ負擔ニ堪ヘサルトキ
前項ノ認定ニ付テハ郡長ハ郡參事會ノ意見ヲ聞キ府縣知事ノ指揮ヲ受クヘシ
第五十四條 府縣知事ニ於テ左ノ各號ノ一ニ該當スルモノアリト認メタルトキハ府縣ハ郡又ハ市ニ相當ノ補助ヲ與フヘシ
一 郡ノ資力第五十三條ノ補助ノ負擔ニ堪ヘサルトキ
二 市ノ資力尋常小學校設置ニ關スル費用ノ負擔ニ堪ヘサルトキ
前項ノ認定ニ付テハ府縣知事ハ府縣參事會ノ意見ヲ聞キ文部大臣ノ指揮ヲ受クヘシ
第五十五條 區長及其ノ代理者竝學務委員ニ於テ國ノ敎育事務ヲ執行スルカ爲ニ要スル費用ハ市町村又ハ町村學校組合ノ負擔トス但シ區長及其ノ代理者竝區ノ學務委員ニ關スル費用ハ市町村會又ハ町村學校組合會ノ議決ヲ以テ之ヲ區ノ負擔ト爲スコトヲ得
第五十六條 小學校敎員檢定竝小學校敎科用圖書審査及府縣免許狀ニ關スル費用ハ府縣ノ負擔トス
第五十七條 市町村立尋常小學校ニ於テハ授業料ヲ徵收スルコトヲ得ス但シ補習科ハ此ノ限ニ在ラス
特別ノ事情アルトキハ府縣知事ノ認可ヲ受ケ市町村立尋常小學校ニ於テ授業料ヲ徵收スルコトヲ得
第五十八條 市町村立小學校ノ授業料ハ市町村、町村學校組合又ハ其ノ區ノ收入トス
第五十九條 授業料ニ關スル規程ハ文部大臣之ヲ定ム
第八章 管理及監督
第六十條 市町村長又ハ町村學校組合長ハ市町村又ハ町村學校組合ニ屬スル國ノ敎育事務ヲ管掌シ市町村立小學校ヲ管理ス
第六十一條 府縣知事ハ市町村又ハ町村學校組合ノ區長及其ノ代理者ヲシテ市町村長又ハ町村學校組合長ノ指揮命令ヲ受ケテ區ニ屬スル國ノ敎育事務ヲ補助執行セシムルコトヲ得
第六十二條 市町村ハ敎育事務ノ爲市制第六十一條町村制第六十五條ニ依リ學務委員ヲ置クヘシ但シ市會町村會ノ議決ニ依ルノ限ニ在ラス
町村學校組合ハ敎育事務ノ爲條例ノ規定ニ依リ學務委員ヲ置クヘシ
市町村又ハ町村學校組合ハ敎育事務ノ爲條例ノ規定ニ依リ其ノ區ニ學務委員ヲ置クコトヲ得
學務委員ニハ市町村立小學校男敎員ヲ加フヘシ
委員中敎員ヨリ出ツル者ハ市町村長又ハ町村學校組合長之ヲ任免ス
第六十三條 學務委員ノ職務其ノ他學務委員ニ關スル規程ハ文部大臣之ヲ定ム
第六十四條 市町村吏員ニ對スル懲戒處分ニシテ國ノ敎育事務取扱ニ關スルモノニ就キテハ市制第百二十四條町村制第百二十八條ノ規定ニ依ル
第六十五條 市立小學校長及敎員ノ執行スル國ノ敎育事務ハ府縣知事之ヲ監督シ町村立小學校長及敎員ノ執行スル國ノ敎育事務ハ郡長之ヲ監督ス
第六十六條 私立小學校ニシテ市內ニ在ルモノハ府縣知事之ヲ監督シ町村內ニ在ルモノハ郡長之ヲ監督ス
第九章 附則
第六十七條 本令ハ明治三十三年九月一日ヨリ之ヲ施行ス但シ小學校ノ敎科目竝敎則及授業料ノ徵收ニ關シテハ明治三十四年三月三十一日ニ至ル迄仍從前ノ例ニ依ル
第六十八條 本令ハ市制町村制ヲ施行シタル地ニ之ヲ施行ス
第六十九條 明治二十三年勅令第二百十五號小學校令第三十三條ニ依リ設ケタル町村學校組合ハ明治三十八年三月三十一日ニ至ル迄之ヲ存續スルコトヲ得
第七十條 明治二十三年勅令第二百十五號小學校令第三條及第四條ニ依リ小學校ニ於テ加設シタル敎科目中本令ノ規定ニ牴觸スルモノ又ハ同令第六條ニ依リ高等小學校ニ於テ專修科ヲ置キタルモノハ明治三十三年九月一日ニ於テ現ニ學習スル兒童ノ卒業スルニ至ル迄仍從前ノ例ニ依ルコトヲ得
明治二十三年勅令第二百十五號小學校令第三條ニ依リ體操科ヲ闕ケル尋常小學校ニ於テハ明治三十六年三月三十一日迄仍從前ノ例ニ依ルコトヲ得
第七十一條 旣設ノ尋常小學校ニシテ體操場ノ設備ナキモノハ明治三十八年三月三十一日迄其ノ設備ヲ猶豫ス
前項ノ場合ニ於テハ其ノ猶豫ノ期間內體操科ヲ闕クコトヲ得
第七十二條 本令施行前ニ授與シタル小學校敎員免許狀ハ本令施行後仍其ノ效力ヲ有ス但シ小學校專科准敎員ノ免許狀ハ此ノ限ニ在ラス
第七十三條 明治二十六年勅令第百四號及明治三十年勅令第三百十六號ハ之ヲ廢止ス
明治二十六年勅令第三十四號及明治三十年勅令第四百七號ハ明治三十四年四月一日ヨリ之ヲ廢止ス
朕枢密顧問ノ諮詢ヲ経テ小学校令ノ改正ヲ裁可シ茲ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
明治三十三年八月十八日
文部大臣 伯爵 樺山資紀
勅令第三百四十四号
小学校令
第一章 総則
第一条 小学校ハ児童身体ノ発達ニ留意シテ道徳教育及国民教育ノ基礎並其ノ生活ニ必須ナル普通ノ知識技能ヲ授クルヲ以テ本旨トス
第二条 小学校ハ之ヲ分テ尋常小学校及高等小学校トス
尋常小学校ノ教科ト高等小学校ノ教科トヲ一校ニ併置スルモノヲ尋常高等小学校トス
市町村、町村学校組合又ハ其ノ区ノ負担ヲ以テ設置スルモノヲ市町村立小学校トシ私人ノ費用ヲ以テ設置スルモノヲ私立小学校トス
第三条 尋常高等小学校ニ於テ尋常小学校ノ教科ヲ授クヘキ部分ニ対シテハ尋常小学校ノ規定ヲ準用シ高等小学校ノ教科ヲ授クヘキ部分ニ対シテハ高等小学校ノ規定ヲ準用ス但シ文部大臣ニ於テ別段ノ規定ヲ設ケタル場合ハ此ノ限ニ在ラス
第四条 町村組合ニシテ其ノ町村一切ノ事務ヲ共同処分スルモノハ之ヲ一町村ト同視ス
第五条 幼稚園、盲唖学校其ノ他小学校ニ類スル各種学校ノ規程ニ関シテハ本令中別段ノ規定アルモノヲ除クノ外文部大臣之ヲ定ム
第二章 設置
第六条 市町村ハ其ノ区域内ノ学齢児童ヲ就学セシムルニ足ルヘキ尋常小学校ヲ設置スヘシ
第七条 郡長ハ一町村ノ資力尋常小学校設置ニ関スル費用ノ負担ニ堪ヘスト認メタルトキハ其ノ町村ヲシテ尋常小学校設置ノ為他ノ町村ト学校組合ヲ設ケシムヘシ
第八条 郡長ハ一町村ニ於テ就学セシムヘキ児童ノ数一尋常小学校ヲ構成スルニ足ラスト認メタルトキ又ハ適度ノ通学路程内ニ於テ一尋常小学校ヲ構成スルニ足ルヘキ数ヲ得ルコト能ハスト認メタルトキハ左ノ例ニ依ルヘシ
一 其ノ町村ヲシテ尋常小学校設置ノ為他ノ町村ト学校組合ヲ設ケシムルコト
二 其ノ町村ヲシテ就学セシムヘキ児童ノ全部若ハ一部ノ教育事務ヲ他町村、町村学校組合又ハ其ノ区ニ委託セシムルコト
郡長ハ町村ノ一部ニシテ前項ノ事情アルモノ其ノ町村ノ尋常小学校ニ対シ適度ノ通学路程内ニ在ラスト認メタルトキハ亦前項ノ例ニ依ルヘシ
郡長ハ町村学校組合ノ一部ニシテ前項ニ準スヘキ事情アリト認メタルトキハ第一項第二号ノ例ニ準スヘシ
第九条 市立尋常小学校ノ校数並位置ハ府県知事ニ於テ市ノ意見ヲ聞キ之ヲ定ムヘシ
町村立尋常小学校ノ校数並位置ハ郡長ニ於テ町村又ハ町村学校組合ノ意見ヲ聞キ之ヲ定メ府県知事ノ認可ヲ受クヘシ
第十条 第七条又ハ第八条ニ依リ郡長ニ於テ町村学校組合ヲ設ケシメ若ハ其ノ組合ヲ解カシメムトスルトキハ関係町村ノ意見ヲ聞キ府県知事ノ認可ヲ受クヘシ
第八条ニ依リ郡長ニ於テ児童教育事務ヲ委託セシメ又ハ其ノ委託ヲ止メシメムトスルトキハ関係町村、町村学校組合及区ノ意見ヲ聞キ府県知事ノ認可ヲ受クヘシ
第十一条 府県知事ハ市ニ於テ設置スヘキ尋常小学校数校アルトキハ市内ノ一区若ハ数区ニ対シ又ハ市ヲ分画シテ数区ト為シ其ノ一区若ハ数区ニ対シ小学校設置ニ関スル費用ノ負担ノ為其ノ使用スヘキ小学校ヲ指定スルコトヲ得此ノ場合ニ於テハ関係市及区ノ意見ヲ聞クヘシ其ノ之ヲ止メムトスルトキ亦同シ
郡長ハ町村若ハ町村学校組合ニ於テ設置スヘキ尋常小学校数校アルトキ、児童教育事務ノ委託ヲ要スル場所数箇所アルトキ又ハ其ノ設置スヘキ尋常小学校ト児童教育事務ノ委託ヲ要スル場所トアルトキハ町村内若ハ町村学校組合内ノ一区若ハ数区ニ対シ又ハ町村若ハ町村学校組合ヲ分画シテ数区ト為シ其ノ一区若ハ数区ニ対シ小学校設置ニ関スル費用ノ負担又ハ児童教育事務委託ノ為其ノ使用スヘキ小学校ヲ指定スルコトヲ得此ノ場合ニ於テハ関係町村、町村学校組合及区ノ意見ヲ聞キ府県知事ノ認可ヲ受クヘシ其ノ之ヲ止メムトスルトキ亦同シ
第十二条 府県知事ハ第七条及第八条第一項ノ事情アルモ同条及第五十三条並第五十四条ニ依ルコトヲ得スト認メタルトキハ其ノ町村ヲシテ尋常小学校ノ設置又ハ児童教育事務ノ委託ニ関スル義務ヲ免レシムルコトヲ得
府県知事ハ第八条第二項又ハ第三項ノ事情アルモ同項及第五十三条並第五十四条ニ依ルコトヲ得スト認メタルトキハ其ノ町村若ハ町村学校組合ヲシテ其ノ一部ニ関シテハ尋常小学校ノ設置又ハ児童教育事務ノ委託ニ関スル義務ヲ免レシムルコトヲ得
第十三条 府県知事ハ特別ノ事情ニ依リ市立尋常小学校ノ設置又ハ其ノ一部ノ設備ヲ猶予シ市内ノ私立小学校ヲ以テ之ニ代用セシムルコトヲ得
郡長ハ特別ノ事情ニ依リ町村立尋常小学校ノ設置若ハ其ノ一部ノ設備又ハ児童教育事務ノ委託ヲ猶予シ町村若ハ町村学校組合内ノ私立小学校ヲ以テ之ニ代用セシムルコトヲ得
私立小学校代用ニ関スル規程ハ文部大臣之ヲ定ム
第十四条 市町村ハ市町村又ハ其ノ区ノ負担ヲ以テ高等小学校ヲ設置スルコトヲ得
町村ハ数町村ノ協議ニ依リ町村学校組合ヲ設ケ高等小学校ヲ設置スルコトヲ得
前項ノ町村学校組合ヲ設ケ又ハ之ヲ解カムトスルトキハ郡長ノ認可ヲ受クヘシ
郡長ハ前項ノ場合ニ於テハ府県知事ノ指揮ヲ受クヘシ
第十五条 市町村立高等小学校ノ設置及廃止ハ府県知事ノ認可ヲ受クヘシ
第十六条 私立小学校ノ設置ハ設立者ニ於テ府県知事ノ認可ヲ受ケ其ノ廃止ハ之ヲ府県知事ニ届出ツヘシ
第十七条 前三条ノ規定ハ幼稚園、盲唖学校其ノ他小学校ニ類スル各種学校ニ関シ之ヲ準用ス
幼稚園、盲唖学校其ノ他小学校ニ類スル各種学校ハ之ヲ小学校ニ附設スルコトヲ得
第三章 教科及編制
第十八条 尋常小学校ノ修業年限ハ四箇年トシ高等小学校ノ修業年限ハ二箇年、三箇年又ハ四箇年トス
第十九条 尋常小学校ノ教科目ハ修身、国語、算術、体操トス
土地ノ情況ニ依リ図画、唱歌、手工ノ一科目又ハ数科目ヲ加ヘ女児ノ為ニハ裁縫ヲ加フルコトヲ得
前項ニ依リ加フル教科目ハ之ヲ随意科目ト為スコトヲ得
第二十条 高等小学校ノ教科目ハ修身、国語、算術、日本歴史、地理、理科、図画、唱歌、体操トシ女児ノ為ニハ裁縫ヲ加フ
修業年限二箇年ノ高等小学校ニ於テハ理科、唱歌ノ一科目若ハ二科目ヲ闕キ又ハ手工ヲ加フルコトヲ得
修業年限三箇年以上ノ高等小学校ニ於テハ唱歌ヲ闕キ又ハ農業、商業、手工ノ一科目若ハ数科目ヲ加フルコトヲ得
修業年限四箇年ノ高等小学校ニ於テハ英語ヲ加フルコトヲ得
前三項ニ依リ加フル教科目ハ之ヲ随意科目ト為スコトヲ得
第二十一条 小学校ニ補習科ヲ置クコトヲ得
補習科ニ関スル規程ハ文部大臣之ヲ定ム
第二十二条 小学校ノ教科目中児童身体ノ情況ニ依リ学習スルコト能ハサル教科目ハ之ヲ其ノ児童ニ課セサルコトヲ得
第二十三条 小学校ノ教科目ヲ加除シ又ハ随意科目ト為サムトスルトキハ市町村立小学校ニ在リテハ管理者、私立小学校ニ在リテハ設立者ニ於テ府県知事ノ認可ヲ受クヘシ
補習科ヲ設置シ若ハ之ヲ廃止シ又ハ高等小学校ノ修業年限ヲ定メムトスルトキハ市町村立小学校ニ在リテハ市町村若ハ町村学校組合、私立小学校ニ在リテハ設立者ニ於テ府県知事ノ認可ヲ受クヘシ
第二十四条 小学校ノ教科用図書ハ文部省ニ於テ編纂シタルモノ及文部大臣ノ検定シタルモノニ就キ小学校図書審査委員会ノ審査ヲ経テ府県知事之ヲ採定ス
補習科ノ教科用図書ニ関シテハ文部大臣ノ定ムル所ニ依ル
第二十五条 府県知事ノ採定シタル教科用図書ニシテ其ノ一部ヲ修正シ文部大臣ノ検定ヲ受ケタルモノハ更ニ審査委員会ノ審査ヲ経ス府県知事ニ於テ仍採定ノ効力ヲ継続スルコトヲ得
第二十六条 小学校図書審査委員会ハ府県ニ置キ左ニ掲クル者ヲ以テ之ヲ組織ス
一 府県書記官
二 府県視学官
三 専任府県視学
四 師範学校長
五 師範学校教諭二名
六 府県立中学校長一名
七 府県立高等女学校長一名
八 郡視学二名
小学校図書審査委員会及審査ニ関スル規程ハ文部大臣之ヲ定ム
第二十七条 小学校ノ休業日ハ日曜日ヲ除クノ外毎年九十日ヲ超ユルコトヲ得ス但シ補習科ハ此ノ限ニ在ラス
特別ノ事情アルトキハ府県知事ニ於テ文部大臣ノ認可ヲ受ケ前項ノ日数ヲ増加スルコトヲ得
伝染病予防ノ為必要アルトキ其ノ他非常変災アルトキハ監督官庁ニ於テ臨時小学校ノ閉鎖ヲ命スヘシ其ノ急迫ノ事情アル場合ニ於テハ市町村立小学校ニ在リテハ管理者、私立小学校ニ在リテハ設立者ニ於テ之ヲ閉鎖スルコトヲ得此ノ場合ニ於テハ直ニ監督官庁ニ届出ツヘシ
第二十八条 小学校教則及小学校編制ニ関スル規程ハ文部大臣之ヲ定ム
第四章 設備
第二十九条 小学校ニ於テハ校舎、校地、校具及体操場ヲ備フヘシ
第三十条 校舎、校地、校具及体操場ハ非常変災ノ場合ヲ除クノ外小学校ノ目的以外ニ之ヲ使用スルコトヲ得ス但シ已ムヲ得サル事情ニ依リ監督官庁ノ認可ヲ受ケタル場合ハ此ノ限ニ在ラス
第三十一条 小学校ノ設備ニ関スル規程ハ文部大臣ニ於テ定ムル準則ニ基キ府県知事之ヲ定ム
第五章 就学
第三十二条 児童満六歳ニ達シタル翌月ヨリ満十四歳ニ至ル八箇年ヲ以テ学齢トス
学齢児童ノ学齢ニ達シタル月以後ニ於ケル最初ノ学年ノ始ヲ以テ就学ノ始期トシ尋常小学校ノ教科ヲ修了シタルトキヲ以テ就学ノ終期トス
学齢児童保護者ハ就学ノ始期ヨリ其ノ終期ニ至ル迄学齢児童ヲ就学セシムルノ義務ヲ負フ
学齢児童保護者ト称スルハ学齢児童ニ対シ親権ヲ行フ者又ハ親権ヲ行フ者ナキトキハ其ノ後見人ヲ謂フ
第三十三条 学齢児童瘋癲白痴又ハ不具廃疾ノ為就学スルコト能ハスト認メタルトキハ市町村長ハ監督官庁ノ認可ヲ受ケ学齢児童保護者ノ義務ヲ免除スルコトヲ得
学齢児童病弱又ハ発育不完全ノ為就学セシムヘキ時期ニ於テ就学スルコト能ハスト認メタルトキハ市町村長ハ監督官庁ノ認可ヲ受ケ其ノ就学ヲ猶予スルコトヲ得
市町村長ニ於テ学齢児童保護者貧窮ノ為其ノ児童ヲ就学セシムルコト能ハスト認メタルトキ亦前二項ニ準ス
第三十四条 第十二条ニ依リ尋常小学校ノ設置又ハ児童教育事務ノ委託ニ関スル義務ヲ免セラレタル区域内ノ学齢児童保護者ハ其ノ義務ヲ免除セラレタルモノトス
第三十五条 尋常小学校ノ教科ヲ修了セサル学齢児童ヲ雇傭スル者ハ其ノ雇傭ニ依リテ児童ノ就学ヲ妨クルコトヲ得ス
第三十六条 学齢児童保護者ハ就学セシムヘキ児童ヲ市町村立尋常小学校又ハ之ニ代用スル私立小学校ニ入学セシムヘシ但シ市町村長ノ認可ヲ受ケ家庭又ハ其ノ他ニ於テ尋常小学校ノ教科ヲ修メシムルコトヲ得
官立又ハ府県立学校ニ於テ尋常小学校ノ教科ヲ授クヘキ部分ハ児童就学ニ関シテハ市町村立尋常小学校ト同視ス
第三十七条 児童ノ年齢就学ノ始期ニ達セサル者ハ之ヲ小学校ニ入学セシムルコトヲ得ス
第三十八条 小学校長ハ伝染病ニ罹リ若ハ其ノ虞アル児童又ハ性行不良ニシテ他ノ児童ノ教育ニ妨アリト認メタル児童ノ小学校ニ出席スルヲ停止スルコトヲ得
第六章 職員
第三十九条 小学校ノ教科ヲ教授スル者ヲ本科正教員トシ其ノ教科目中図画、唱歌、体操、裁縫、英語、農業、商業又ハ手工ノ一科目若ハ数科目ヲ限リ教授スル者ヲ専科正教員トス
本科正教員ヲ補助スル者ヲ准教員トス
第四十条 小学校教員タルヘキ者ハ免許状ヲ受クヘシ
免許状ハ普通免許状及府県免許状ノ二種トス
普通免許状ハ文部大臣之ヲ授与シ全国ニ通シテ有効トス
府県免許状ハ府県知事之ヲ授与シ其ノ府県限リ有効トス
第四十一条 府県免許状ヲ受クルニハ師範学校若ハ文部大臣ノ指定シタル学校ヲ卒業シ又ハ小学校教員ノ検定ニ合格スルコトヲ要ス
前項ノ検定ヲ施行スルカ為府県ニ小学校教員検定委員会ヲ置ク
免許状及小学校教員検定委員会ノ組織権限其ノ他検定ニ関スル規程ハ文部大臣之ヲ定ム
第四十二条 特別ノ事情アルトキハ免許状ヲ有セサル者ヲ以テ小学校准教員ニ代用スルコトヲ得
代用教員ニ関スル規程ハ文部大臣之ヲ定ム
第四十三条 市町村立小学校長ハ其ノ学校ノ本科正教員ヲシテ之ヲ兼ネシムヘシ
第四十四条 市立小学校長及教員ノ任用ハ市長ノ申請ニ依リ町村立小学校長及教員ノ任用ハ郡長ノ申請ニ依リ府県知事之ヲ行フ
市町村立小学校長及教員ノ解職ハ府県知事之ヲ行フ
第四十五条 市町村立小学校教員ノ俸給旅費其ノ他諸給与並其ノ支給方法ハ文部大臣ニ於テ定ムル準則ニ基キ府県知事之ヲ定ム
第四十六条 小学校長及教員ノ進退、職務及服務ニ関スル規程ハ文部大臣之ヲ定ム
第四十七条 小学校長及教員ハ教育上必要ト認メタルトキハ児童ニ懲戒ヲ加フルコトヲ得但シ体罰ヲ加フルコトヲ得ス
第四十八条 市町村立小学校長及教員職務上ノ義務ニ違背シ若ハ職務ヲ怠リタルトキ又ハ職務ノ内外ヲ問ハス体面ヲ汚辱スルノ所為アリタルトキハ府県知事ニ於テ懲戒処分ヲ行フ其ノ処分ハ譴責、減俸及免職トス
私立小学校長及教員ニシテ前項ニ準スヘキ所為アリタルトキハ府県知事ハ其ノ業務ヲ停止ス
第四十九条 小学校教員免許状ヲ有スル者左ノ各号ノ一ニ該当シタルトキハ免許状ハ其ノ効力ヲ失フ
一 禁錮以上ノ刑ニ処セラレタルトキ
二 信用若ハ風俗ヲ害スルノ罪ヲ犯シテ罰金ノ刑ニ処セラレ又ハ監視ニ付セラレタルトキ
三 破産若ハ家資分散ノ宣告ヲ受ケタルトキ
小学校教員免許状ヲ有スル者不正ノ所為其ノ他教員タルヘキ体面ヲ汚辱スルノ所為アリテ其ノ情状重シト認メタルトキハ文部大臣又ハ府県知事ニ於テ其ノ免許状ヲ褫奪ス
第五十条 府県知事ニ於テ行ヒタル免職若ハ業務停止又ハ免許状褫奪ノ処分ニ不服アル者ハ文部大臣ニ訴願スルコトヲ得
第七章 費用負担及授業料
第五十一条 市町村立小学校ノ設置ニ関スル費用ハ市町村、町村学校組合又ハ其ノ区ノ負担トス其ノ概目左ノ如シ
一 設備及其ノ維持ノ費用
二 職員ノ俸給、旅費、其ノ他諸給与
三 校費
児童教育事務委託ニ関スル費用ハ町村、町村学校組合又ハ其ノ区ノ負担トス
第五十二条 郡長ハ町村学校組合ニ於テ設置スヘキ尋常小学校数校アルトキ又ハ児童教育事務ノ委託ヲ要スル場所アルトキハ其ノ学校組合内ノ某町村ヲシテ其ノ数校中ノ一校若ハ数校ノ設置又ハ児童教育事務委託ニ関スル費用ヲ一町村限リ負担セシムルコトヲ得
前項ノ処分ヲ為シ又ハ之ヲ止メムトスルトキハ関係町村及町村学校組合ノ意見ヲ聞キ府県知事ノ認可ヲ受クヘシ
第五十三条 郡長ニ於テ左ノ各号ノ一ニ該当スルモノアリト認メタルトキハ郡ハ町村又ハ町村学校組合ニ相当ノ補助ヲ与フヘシ
一 町村ニシテ第七条ノ事情アルモ同条ニ依ルコトヲ得サルトキ
二 町村学校組合ノ資力尋常小学校設置ニ関スル費用ノ負担ニ堪ヘサルトキ又ハ町村学校組合ノ一部タル町村ノ資力其ノ学校組合費ノ分担ニ堪ヘサルトキ
三 町村又ハ町村学校組合ノ資力児童教育事務委託ニ関スル費用ノ負担ニ堪ヘサルトキ
前項ノ認定ニ付テハ郡長ハ郡参事会ノ意見ヲ聞キ府県知事ノ指揮ヲ受クヘシ
第五十四条 府県知事ニ於テ左ノ各号ノ一ニ該当スルモノアリト認メタルトキハ府県ハ郡又ハ市ニ相当ノ補助ヲ与フヘシ
一 郡ノ資力第五十三条ノ補助ノ負担ニ堪ヘサルトキ
二 市ノ資力尋常小学校設置ニ関スル費用ノ負担ニ堪ヘサルトキ
前項ノ認定ニ付テハ府県知事ハ府県参事会ノ意見ヲ聞キ文部大臣ノ指揮ヲ受クヘシ
第五十五条 区長及其ノ代理者並学務委員ニ於テ国ノ教育事務ヲ執行スルカ為ニ要スル費用ハ市町村又ハ町村学校組合ノ負担トス但シ区長及其ノ代理者並区ノ学務委員ニ関スル費用ハ市町村会又ハ町村学校組合会ノ議決ヲ以テ之ヲ区ノ負担ト為スコトヲ得
第五十六条 小学校教員検定並小学校教科用図書審査及府県免許状ニ関スル費用ハ府県ノ負担トス
第五十七条 市町村立尋常小学校ニ於テハ授業料ヲ徴収スルコトヲ得ス但シ補習科ハ此ノ限ニ在ラス
特別ノ事情アルトキハ府県知事ノ認可ヲ受ケ市町村立尋常小学校ニ於テ授業料ヲ徴収スルコトヲ得
第五十八条 市町村立小学校ノ授業料ハ市町村、町村学校組合又ハ其ノ区ノ収入トス
第五十九条 授業料ニ関スル規程ハ文部大臣之ヲ定ム
第八章 管理及監督
第六十条 市町村長又ハ町村学校組合長ハ市町村又ハ町村学校組合ニ属スル国ノ教育事務ヲ管掌シ市町村立小学校ヲ管理ス
第六十一条 府県知事ハ市町村又ハ町村学校組合ノ区長及其ノ代理者ヲシテ市町村長又ハ町村学校組合長ノ指揮命令ヲ受ケテ区ニ属スル国ノ教育事務ヲ補助執行セシムルコトヲ得
第六十二条 市町村ハ教育事務ノ為市制第六十一条町村制第六十五条ニ依リ学務委員ヲ置クヘシ但シ市会町村会ノ議決ニ依ルノ限ニ在ラス
町村学校組合ハ教育事務ノ為条例ノ規定ニ依リ学務委員ヲ置クヘシ
市町村又ハ町村学校組合ハ教育事務ノ為条例ノ規定ニ依リ其ノ区ニ学務委員ヲ置クコトヲ得
学務委員ニハ市町村立小学校男教員ヲ加フヘシ
委員中教員ヨリ出ツル者ハ市町村長又ハ町村学校組合長之ヲ任免ス
第六十三条 学務委員ノ職務其ノ他学務委員ニ関スル規程ハ文部大臣之ヲ定ム
第六十四条 市町村吏員ニ対スル懲戒処分ニシテ国ノ教育事務取扱ニ関スルモノニ就キテハ市制第百二十四条町村制第百二十八条ノ規定ニ依ル
第六十五条 市立小学校長及教員ノ執行スル国ノ教育事務ハ府県知事之ヲ監督シ町村立小学校長及教員ノ執行スル国ノ教育事務ハ郡長之ヲ監督ス
第六十六条 私立小学校ニシテ市内ニ在ルモノハ府県知事之ヲ監督シ町村内ニ在ルモノハ郡長之ヲ監督ス
第九章 附則
第六十七条 本令ハ明治三十三年九月一日ヨリ之ヲ施行ス但シ小学校ノ教科目並教則及授業料ノ徴収ニ関シテハ明治三十四年三月三十一日ニ至ル迄仍従前ノ例ニ依ル
第六十八条 本令ハ市制町村制ヲ施行シタル地ニ之ヲ施行ス
第六十九条 明治二十三年勅令第二百十五号小学校令第三十三条ニ依リ設ケタル町村学校組合ハ明治三十八年三月三十一日ニ至ル迄之ヲ存続スルコトヲ得
第七十条 明治二十三年勅令第二百十五号小学校令第三条及第四条ニ依リ小学校ニ於テ加設シタル教科目中本令ノ規定ニ牴触スルモノ又ハ同令第六条ニ依リ高等小学校ニ於テ専修科ヲ置キタルモノハ明治三十三年九月一日ニ於テ現ニ学習スル児童ノ卒業スルニ至ル迄仍従前ノ例ニ依ルコトヲ得
明治二十三年勅令第二百十五号小学校令第三条ニ依リ体操科ヲ闕ケル尋常小学校ニ於テハ明治三十六年三月三十一日迄仍従前ノ例ニ依ルコトヲ得
第七十一条 既設ノ尋常小学校ニシテ体操場ノ設備ナキモノハ明治三十八年三月三十一日迄其ノ設備ヲ猶予ス
前項ノ場合ニ於テハ其ノ猶予ノ期間内体操科ヲ闕クコトヲ得
第七十二条 本令施行前ニ授与シタル小学校教員免許状ハ本令施行後仍其ノ効力ヲ有ス但シ小学校専科准教員ノ免許状ハ此ノ限ニ在ラス
第七十三条 明治二十六年勅令第百四号及明治三十年勅令第三百十六号ハ之ヲ廃止ス
明治二十六年勅令第三十四号及明治三十年勅令第四百七号ハ明治三十四年四月一日ヨリ之ヲ廃止ス