中小企業の事業活動の機会の確保のための大企業者の事業活動の調整に関する法律
法令番号: 法律第74号
公布年月日: 昭和52年6月25日
法令の形式: 法律

提案理由 (AIによる要約)

中小企業の事業活動の機会確保は中小企業政策の重要な柱だが、昭和39年に創設された特殊契約制度は実効性に乏しく、石油危機以降の経済環境変化により大企業の進出をめぐる紛争が増加した。これに対し、与野党一致で新たな法制確立の要請が高まり、中小企業政策審議会の意見具申を受けて本法案を作成した。法案では、中小企業団体の申し出による大企業進出の調査、中小企業調整審議会の意見を尊重した大企業への事業活動調整の勧告、進出の一時停止勧告などの措置を講じることで、中小企業の事業機会の適正な確保を図る。

参照した発言:
第80回国会 衆議院 商工委員会 第13号

審議経過

第80回国会

衆議院
(昭和52年4月19日)
(昭和52年4月19日)
(昭和52年4月21日)
(昭和52年4月26日)
(昭和52年4月27日)
(昭和52年4月28日)
(昭和52年5月10日)
参議院
(昭和52年5月12日)
(昭和52年5月17日)
(昭和52年5月18日)
(昭和52年5月19日)
(昭和52年5月26日)
(昭和52年5月27日)
(昭和52年6月28日)
中小企業の事業活動の機会の確保のための大企業者の事業活動の調整に関する法律をここに公布する。
御名御璽
昭和五十二年六月二十五日
内閣総理大臣 福田赳夫
法律第七十四号
中小企業の事業活動の機会の確保のための大企業者の事業活動の調整に関する法律
(目的)
第一条 この法律は、中小企業者の経営の安定に悪影響を及ぼすおそれのある大企業者の事業の開始又は拡大に関し、一般消費者等の利益の保護に配慮しつつ、その事業活動を調整することにより、中小企業の事業活動の機会を適正に確保し、もつて国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする。
(定義)
第二条 この法律において「中小企業者」とは、次の各号の一に該当する者(次項第二号に掲げる者を除く。)をいう。
一 資本の額又は出資の総額が一億円以下の会社並びに常時使用する従業員の数が三百人以下の会社及び個人であつて、工業、鉱業、運送業その他の業種(次号に掲げる業種を除く。)に属する事業を主たる事業として営むもの
二 資本の額又は出資の総額が千万円以下の会社並びに常時使用する従業員の数が五十人以下の会社及び個人であつて、小売業又はサービス業に属する事業を主たる事業として営むもの並びに資本の額又は出資の総額が三千万円以下の会社並びに常時使用する従業員の数が百人以下の会社及び個人であつて、卸売業に属する事業を主たる事業として営むもの
2 この法律において「大企業者」とは、次の各号の一に該当する者をいう。
一 前項各号の一に該当する者以外の者(会社及び個人に限る。)であつて事業を営むもの
二 前項各号の一に該当する会社であつて、前号に掲げる者が単独でその会社に対し、その発行済株式の総数、出資口数の総数又は出資価額の総額の二分の一以上に相当する数又は額の株式又は出資を所有する関係その他その事業活動を実質的に支配することが可能なものとして主務省令で定める関係を持つているもの
(大企業者の責務)
第三条 大企業者は、事業の開始又は拡大に際しては、当該事業と同種の事業を営んでいる中小企業者の利益を不当に侵害することのないように配慮しなければならない。
(自主的解決の努力)
第四条 大企業者の事業の開始又は拡大に際し、当該事業と同種の事業を営んでいる中小企業者と当該大企業者との間において事業活動の調整に関する問題が生じたときは、その双方の当事者は、早期に、かつ、誠意をもつて、自主的な解決を図るように努めなければならない。
(調査)
第五条 中小企業団体(特定の事業を行う者であることをその直接又は間接の構成員(以下単に「構成員」という。)の資格とし、かつ、その構成員の大部分が中小企業者である団体であつて政令で定める要件に該当するものをいう。以下同じ。)は、大企業者が当該特定の事業と同種の事業につき当該中小企業団体の構成員たる相当数の中小企業者の経営の安定に悪影響を及ぼすおそれのある事業の開始又は拡大の計画を有していると認めるときは、主務省令で定めるところにより、主務大臣に対し、当該計画の内容に関し、その開始又は拡大の時期、規模その他の主務省令で定める事項について調査するよう申し出ることができる。
2 主務大臣は、前項の規定による申出があつた場合において、当該申出に相当の理由があると認めるときは、当該申出に係る事項について必要な調査を行い、その結果を当該中小企業団体に通知するものとする。
(調整の申出)
第六条 中小企業団体は、大企業者が当該中小企業団体の構成員の資格に係る特定の事業と同種の事業につき事業の開始又は拡大をすることが当該中小企業団体の構成員たる相当数の中小企業者が現に供給している物品又は役務に対する需要の減少をもたらすことによりこれらの中小企業者の経営の安定に著しい悪影響を及ぼす事態が生ずるおそれがあると認めるときは、主務省令で定めるところにより、主務大臣に対し、次条第一項の規定による勧告をするよう申し出ることができる。
2 主務大臣は、前項の規定による申出があつたときは、その旨を当該申出に係る大企業者に通知するものとする。
(調整勧告)
第七条 主務大臣は、前条第一項の規定による申出があつた場合において、当該申出をした中小企業団体及び当該申出に係る大企業者の間において同項に規定する事態の発生を回避することが困難であり、かつ、当該事態の発生を回避することにより中小企業の事業活動の機会を適正に確保する必要があると認められるときは、中小企業分野等調整審議会の意見を聴いて、当該大企業者に対し、当該事業の開始若しくは拡大の時期を繰り下げ、又は当該事業の規模を縮小すべきことを勧告することができる。
2 前項の規定による勧告の内容は、前条第一項に規定する事態の発生を回避するために必要な限度を超えないものであり、かつ、一般消費者及び関連事業者の利益を不当に害するおそれがないものでなければならない。
3 主務大臣は、第一項の規定による勧告をした場合において、大企業者がその勧告に従わなかつたときは、その旨を公表することができる。
4 主務大臣は、第一項の規定による勧告をするとき又はしないこととするときは、あらかじめ、通商産業大臣の意見を聴かなければならない。
5 主務大臣は、第一項の規定による勧告をしたときはその旨及びその勧告の内容を、同項の規定による勧告をしないこととしたときはその旨及びその理由を、前条第一項の規定による申出をした中小企業団体に通知するものとする。
(意見の聴取)
第八条 中小企業分野等調整審議会は、前条第一項の規定により意見を聴かれた場合において、その意見を定めようとするときは、第六条第一項の規定による申出をした中小企業団体及び当該申出に係る大企業者並びに主務省令で定めるところにより選定した一般消費者、関連事業者その他の利害関係者の意見を聴かなければならない。
(一時停止勧告)
第九条 主務大臣は、第六条第一項の規定による申出に係る大企業者が当該申出に係る事業の開始又は拡大についての計画を実施することにより第七条第一項に規定する措置を執らせることが著しく困難となる事態が生ずると認めるときは、中小企業分野等調整審議会の意見を聴いて、当該大企業者に対し、同項の規定による勧告が行われるまでの間の応急の措置として六月以内の期間を定めて、当該事態の発生を回避するために必要な限度を超えない範囲内において、当該計画の実施を一時停止すべきことを勧告することができる。この場合において、当該期間内に同項の規定による勧告をすることができない特別の事情があると認められるときは、中小企業分野等調整審議会の意見を聴いて、六月を超えない範囲内において当該期間を延長することを妨げない。
2 第七条第三項の規定は、前項の規定による勧告に準用する。
(指導)
第十条 主務大臣は、第七条第一項の規定による勧告をするときは、中小企業分野等調整審議会の意見を聴いて、当該勧告に係る第六条第一項の規定による申出をした中小企業団体に対し、当該勧告に係る事業と同種の事業に係る中小企業の競争力の強化及び一般消費者の利益の増進のために当該中小企業団体の構成員たる中小企業者が講ずべき設備の近代化、技術の向上、事業の共同化その他のその事業活動の改善のための方策を示して必要な指導を行うものとする。
(調整命令)
第十一条 主務大臣は、第七条第一項の規定による勧告を受けた大企業者が、同条第三項の規定によりその勧告に従わなかつた旨を公表された後において、なお正当な理由がなくてその勧告に係る措置を執らなかつた場合において、第六条第一項に規定する事態が生ずることにより同項の規定による申出をした中小企業団体の構成員たる中小企業者の相当部分の事業の継続が著しく困難となるおそれがあると認められるときは、中小企業分野等調整審議会の意見を聴いて、当該大企業者に対し、当該勧告に係る措置を執るべきことを命ずることができる。
2 第七条第四項の規定は、前項の規定による命令に準用する。
3 第八条の規定は、第一項の規定により中小企業分野等調整審議会が意見を聴かれた場合に準用する。
(中小企業分野等調整審議会)
第十二条 通商産業省に、附属機関として、中小企業分野等調整審議会(以下「審議会」という。)を置く。
2 審議会は、この法律、中小企業等協同組合法(昭和二十四年法律第百八十一号)及が中小企業団体の組織に関する法律(昭和三十二年法律第百八十五号)の規定によりその権限に属させられた事項を調査審議するほか、関係各大臣の諮問に応じ、中小企業の事業活動の機会を適正に確保するための大企業者の事業活動の調整に関する重要事項を調査審議する。
3 審議会は、学識経験を有する者のうちから、通商産業大臣が任命する委員二十人以内で組織する。
4 審議会は、その所掌事務を遂行するため必要があると認めるときは、関係行政機関の長に対し、資料の提出、意見の開陳、説明その他必要な協力を求めることができる。
5 前二項に定めるもののほか、審議会の組織及び運営に関し必要な事項は、通商産業省令で定める。
(報告聴取)
第十三条 主務大臣は、第七条、第九条及び第十一条の規定の施行に必要な限度において、第六条第一項の規定による申出に係る大企業者に対し、その業務に関して報告させることができる。
(適用除外)
第十四条 この法律の規定は、小売業(飲食店業を除く。)又はその業種について第六条第一項に規定する事態の発生が回避されることとなる措置が他の法令において講じられている業種で政令で定めるものに属する事業につき、大企業者が事業の開始又は拡大をする場合には、適用しない。
(主務大臣等)
第十五条 この法律における主務大臣は、大企業者が開始し又は拡大しようとする事業を所管する大臣とする。
2 この法律における主務省令は、主務大臣の発する命令とする。
(罰則)
第十六条 第十一条第一項の規定による命令に違反した者は、三百万円以下の罰金に処する。
第十七条 第十三条の規定による報告をせず、又は虚偽の報告をした者は、十万円以下の罰金に処する。
第十八条 法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務に関し、前二条の違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人又は人に対して各本条の刑を科する。
附 則
(施行期日)
第一条 この法律は、公布の日から起算して三月を超えない範囲内において政令で定める日から施行する。
(中小企業等協同組合法の一部改正)
第二条 中小企業等協同組合法の一部を次のように改正する。
第九条の二の二第四項中「中央中小企業調停審議会」を「中小企業分野等調整審議会」に改める。
(中小企業団体の組織に関する法律の一部改正)
第三条 中小企業団体の組織に関する法律の一部を次のように改正する。
目次中「中央中小企業調停審議会」を「中小企業分野等調整審議会」に改める。
第三十条の四第四項中「行なおう」を「行おう」に、「中央中小企業調停審議会」を「中小企業分野等調整審議会」に改める。
第三章第八節の節名中「中央中小企業調停審議会」を「中小企業分野等調整審議会」に改める。
第八十条の次に次の一条を加える。
(中小企業分野等調整審議会)
第八十条の二 中小企業分野等調整審議会は、関係各大臣の諮問に応じ、組合協約及び特殊契約に関する重要事項を調査審議する。
第八十一条の前の見出しを「(都道府県中小企業調停審議会)」に改め、同条第一項を削り、同条第二項を同条とする。
第八十二条中「中央中小企業調停審議会は関係各大臣の、都道府県中小企業調停審議会は」を「都道府県中小企業調停審議会(以下「調停審議会」という。)は、」に改める。
第八十三条第一項中「中央中小企業調停審議会は会長一人及び委員九人以内で、都道府県中小企業調停審議会は」を「調停審議会は、」に改め、同条第二項中「中央中小企業調停審議会又は都道府県中小企業調停審議会(以下「調停審議会」と総称する。)」を「調停審議会」に改める。
第八十四条及び第八十八条中「通商産業大臣又は」を削る。
(中小企業庁設置法の一部改正)
第四条 中小企業庁設置法(昭和二十三年法律第八十三号)の一部を次のように改正する。
第三条第一項中第七号を第六号の三とし、同号の次に次の一号を加える。
七 中小企業の事業活動の機会の確保のための大企業者の事業活動の調整に関する法律(昭和五十二年法律第七十四号)の施行に関すること。
第四条第四項中「第二号の二」の下に「、第七号」を加え、「第七号まで」を「第六号の三まで」に改め、同条第五項中「第七号まで」を「第六号の三まで」に改める。
第五条第一項中「中央中小企業調停審議会」を「中小企業分野等調整審議会」に改め、同条第二項中「及び中央中小企業調停審議会」を削り、同条中第三項を第四項とし、第二項の次に次の一項を加える。
3 中小企業分野等調整審議会については、中小企業の事業活動の機会の確保のための大企業者の事業活動の調整に関する法律の定めるところによる。
大蔵大臣 坊秀男
厚生大臣 渡辺美智雄
農林大臣 鈴木善幸
通商産業大臣 田中龍夫
運輸大臣 田村元
建設大臣 長谷川四郎
内閣総理大臣 福田赳夫