炭鉱災害による一酸化炭素中毒症に関する特別措置法をここに公布する。
御名御璽
昭和四十二年七月二十八日
内閣総理大臣 佐藤栄作
法律第九十二号
炭鉱災害による一酸化炭素中毒症に関する特別措置法
(目的)
第一条 この法律は、炭鉱災害による一酸化炭素中毒症に関し、一酸化炭素中毒症にかかつた労働者に対して特別の保護措置を講ずること等により、労働者の福祉の増進に寄与することを目的とする。
(定義)
第二条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。
一 炭鉱災害 石炭鉱業を行なう事業場におけるガス又は炭じんの爆発その他労働省令で定める災害をいう。
二 一酸化炭素中毒症 一酸化炭素による中毒及びその続発症をいう。
三 使用者 労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)第十条に規定する使用者をいう。
四 労働者 労働基準法第九条に規定する労働者をいう。
(使用者及び労働者の義務)
第三条 使用者及び労働者は、労働基準法及び鉱山保安法(昭和二十四年法律第七十号)の規定によるほか、炭鉱災害により一酸化炭素が発生した場合における一酸化炭素中毒症の防止について適切な措置を講ずるように努めなければならない。
(差別的取扱いの禁止)
第四条 使用者は、炭鉱災害による一酸化炭素中毒症にかかつた労働者の労働条件について、その者が当該一酸化炭素中毒症にかかつた者であることを理由として一切の差別的取扱いをしてはならない。
(健康診断)
第五条 使用者は、炭鉱災害により一酸化炭素が発生した際業務上の必要によりその発生に係る場所におり、又はその直後業務上の必要により当該場所に立ち入つた労働者(以下「被災労働者」という。)に対し、遅滞なく、労働省令で定めるところにより、専門の医師による一酸化炭素中毒症に関する健康診断を行なわなければならない。
2 使用者(被災労働者を当該炭鉱災害が起つた時から引き続き使用する使用者に限る。以下第七条までにおいて同じ。)は、当該被災労働者(当該炭鉱災害による一酸化炭素中毒症について現に労働者災害補償保険法(昭和二十二年法律第五十号)の規定による療養補償給付若しくは長期傷病補償給付又は労働基準法の規定による療養補償を受けている被災労働者及び第九条に規定する被災労働者を除く。)に対し、当該炭鉱災害が起つた日から起算して二年を経過するまでの間(当該炭鉱災害による一酸化炭素中毒症にかかつたと認められた被災労働者については、当該一酸化炭素中毒症がなおつたと認められた日から起算して二年を経過するまでの間)、労働省令で定めるところにより、定期に、専門の医師による一酸化炭素中毒症に関する健康診断を行なわなければならない。
3 被災労働者は、正当な理由がある場合を除き、前二項の規定により使用者が行なう健康診断を受けなければならない。ただし、使用者が指定した医師の行なう健康診断を受けることを希望しない場合において、他の専門の医師の行なう前二項の規定による健康診断に相当する健康診断を受け、その結果を証明する書面その他労働省令で定める物件を使用者に提出したときは、この限りでない。
4 使用者は、労働省令で定めるところにより、第一項及び第二項の規定による健康診断並びに前項ただし書に規定する健康診断に関する記録を作成し、これを五年間保存しなければならない。
5 使用者は、第一項又は第二項の規定により健康診断を行なつた場合においては、その限度において、労働基準法第五十二条第一項の規定による健康診断を行なわなくてもよい。被災労働者が第三項ただし書に規定する健康診断を受けた場合においても、同様とする。
(作業の転換等の措置)
第六条 使用者は、前条第一項若しくは第二項の規定による健康診断又は同条第三項ただし書に規定する健康診断の結果に基づき、被災労働者に関し、危害防止又は健康保持のため必要があるときは、当該被災労働者の実情を考慮して、就業場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮その他の適切な措置を講じなければならない。第九条に規定する被災労働者に関し、危害防止又は健康保持のため必要があるときも、同様とする。
(福利厚生施設の供与)
第七条 使用者は、炭鉱災害による一酸化炭素中毒症にかかつた被災労働者であつて労働者災害補償保険法の規定による長期傷病補償給付を受けるに至つたものが、その受けるに至つた時において、住宅その他の福利厚生に関する施設であつて労働省令で定めるもの(以下「福利厚生施設」という。)の供与を引き続き受けることを希望したときは、労働省令で定める期間、当該福利厚生施設を供与しなければならない。
2 使用者は、前項の規定による福利厚生施設の供与については、当該被災労働者が使用されていた事業場に使用される労働者に対する福利厚生施設の供与との均衡を失わないようにしなければならない。
(介護料の支給)
第八条 政府は、炭鉱災害による一酸化炭素中毒症について労働者災害補償保険法の規定による療養補償給付又は長期傷病補償給付を受けている被災労働者であつて、常時介護を必要とするものに対し、労働省令で定めるところにより、介護料を支給する。
2 介護料は、介護に要する費用を考慮して労働大臣が定める金額とする。
(診察等の措置)
第九条 政府は、炭鉱災害による一酸化炭素中毒症について労働者災害補償保険法の規定による療養補償給付又は長期傷病補償給付を受けていた被災労働者であつて、当該一酸化炭素中毒症がなおつたものに対し、必要があると認めるときは、労働省令で定めるところにより、診察その他労働省令で定める措置を行なう。
(労働者災害補償保険法との関係)
第十条 第八条第一項の規定による介護料の支給及び前条の規定による診察等の措置は、労働者災害補償保険法第二十三条第一項の保険施設とする。
2 第八条第一項の規定による介護料の支給及び前条の規定による診察等の措置に要する費用の額は、労働者災害補償保険法第二十七条の規定の適用については、同条に規定する保険給付の額とみなす。
(リハビリテーション施設の整備)
第十一条 政府は、炭鉱災害による一酸化炭素中毒症にかかつた被災労働者のためのリハビリテーション施設の整備に努めなければならない。
(労働基準監督署長及び労働基準監督官)
第十二条 労働基準監督署長及び労働基準監督官は、労働省令で定めるところにより、この法律の施行に関する事務をつかさどる。
(労働基準監督官の権限)
第十三条 労働基準監督官は、この法律の規定を実施するために必要な限度において、事業場に立ち入り、帳簿、書類その他の物件を検査し、又は関係者に質問をすることができる。
2 前項の規定により立入検査をする労働基準監督官は、その身分を示す証票を携帯し、関係者に提示しなければならない。
3 第一項の規定による立入検査の権限は、犯罪捜査のために認められたものと解釈してはならない。
第十四条 労働基準監督官は、この法律の規定に違反する罪について、刑事訴訟法(昭和二十三年法律第百三十一号)の規定による司法警察員の職務を行なう。
(報告)
第十五条 都道府県労働基準局長及び労働基準監督署長は、この法律の規定を実施するために必要な限度において、労働省令で定めるところにより、使用者及び労働者に対し、労働省令で定める事項の報告を命ずることができる。
(罰則)
第十六条 次の各号のいずれかに該当する者は、五千円以下の罰金に処する。
一 第五条第一項、第二項又は第四項の規定に違反した者
二 第十三条第一項の規定による立入検査を拒み、妨げ、若しくは忌避し、又は同項の規定による質問に対して答弁をせず、若しくは虚偽の答弁をした者
三 前条の規定による報告を命ぜられて報告をせず、又は虚偽の報告をした者
2 法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務に関し、前項の違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人又は人に対しても、同項の刑を科する。
附 則
(施行期日)
1 この法律は、公布の日から起算して九十日をこえない範囲内において政令で定める日から施行する。
(労働省設置法の一部改正)
2 労働省設置法(昭和二十四年法律第百六十二号)の一部を次のように改正する。
第四条中第三十二号の九を第三十二号の十とし、第三十二号の八の次に次の一号を加える。
三十二の九 炭鉱災害による一酸化炭素中毒症に関する特別措置法(昭和四十二年法律第九十二号)に基づいて、使用者又は労働者に必要な事項についての報告を求めること。
第八条の二第六号中「(労働基準監督官の権限の行使に関する部分を除く。)」の下に「並びに炭鉱災害による一酸化炭素中毒症に関する特別措置法(同法第四条の規定による差別的取扱いの禁止、第七条の規定による福利厚生施設の供与、第八条第一項の規定による介護料の支給、第九条の規定による診察等の措置及び第十一条の規定によるリハビリテーション施設の整備に関する部分並びに労働基準監督官の権限の行使に関する部分を除く。)」を加える。
第十三条第一項の表中央労働基準審議会の項中「並びに労働災害防止団体等に関する法律に基づきその権限に属する事項」を「、労働災害防止団体等に関する法律に基づきその権限に属する事項並びに炭鉱災害による一酸化炭素中毒症に関する特別措置法の施行に関する重要事項」に改める。
第十五条第一項及び第十七条第一項中「及び労働災害防止団体等に関する法律(これに基づく命令を含む。)」を「、労働災害防止団体等に関する法律(これに基づく命令を含む。)及び炭鉱災害による一酸化炭素中毒症に関する特別措置法(これに基づく命令を含む。)」に改める。
法務大臣 田中伊三次
労働大臣 早川崇
内閣総理大臣 佐藤栄作