採血及び供血あつせん業取締法をここに公布する。
御名御璽
昭和三十一年六月二十五日
内閣総理大臣 鳩山一郎
法律第百六十号
採血及び供血あつせん業取締法
(目的)
第一条 この法律は、人の血液の利用の適正を期するとともに、血液製剤の製造等に伴う採血によつて生ずる保健衛生上の危害を防止し、及び被採血者の保護を図ることを目的とする。
(定義)
第二条 この法律で「血液製剤」とは、別表に掲げる医薬品(薬事法(昭和二十三年法律第百九十七号)に規定する医薬品をいう。)をいう。
(採血等の制限)
第三条 次の各号に掲げる物を製造する者がその原料とする目的で採血する場合を除いては、何人も、業として、人体から採血してはならない。ただし、治療行為として、又は輸血、医学的検査若しくは学術研究のための血液を得る目的で採血する場合は、この限りでない。
一 血液製剤
二 医学的検査、学術研究等のために必要がある物として政令で指定する物
2 何人も、業として、人体から採取された血液又はこれから得られた物を原料として、前項各号に掲げる物(以下「血液製剤等」という。)以外の物を製造してはならない。ただし、血液製剤等の製造に伴つて副次的に得られた物又は厚生省令で定めるところによりその本来の用途に適しないか若しくは適しなくなつたとされる血液製剤等を原料とする場合は、この限りでない。
(業として行う採血の許可)
第四条 血液製剤等の原料とする目的で、業として、人体から採血しようとする者は、採血を行う場所ごとに、政令で定める額の手数料を納めて、厚生大臣の許可を受けなければならない。ただし、病院又は診療所の開設者が、当該病院又は診療所における診療のために用いられる血液製剤のみの原料とする目的で採血しようとするときは、この限りでない。
2 厚生大臣は、前項の許可の申請があつた場合において、次の各号の一に該当するときは、同項の許可を与えないことができる。
一 製造しようとする血液製剤等の供給がすでに需要を満たしていると認めるとき。
二 申請者が採取しようとする血液の供給源となる地域において、その者が必要とする量の血液の供給を受けることが著しく困難であると認めるとき。
三 申請者が営利を目的として採血しようとする者であるため被採血者の保護に支障をきたすおそれがあると認めるとき。
四 申請者が第十一条第一項の規定による許可の取消の処分を受け、その処分の日から起算して三年を経過していないとき。
五 申請者が法人である場合において、その業務を行う役員のうちに前号の規定に該当する者があるとき。
(業として採血する者に対する指示)
第五条 厚生大臣は、被採血者の保護及び血液の利用の適正を期するため必要があると認めるときは、前条の許可を受けた者に対して、採取する血液の量、血液の買入価格等に関し必要な指示をすることができる。
(血液提供のあつせんの許可)
第六条 業として、有料で、人の血液の提供のあつせんをしようとする者は、厚生省令で定めるところにより都道府県知事の許可を受けなければならない。
2 都道府県知事は、前項の許可の申請があつた場合において、次の各号の一に該当するときは、同項の許可を与えないことができる。
一 申請者が第十一条第二項の規定による許可の取消の処分を受け、その処分の日から起算して三年を経過していないとき。
二 申請者がこの法律又はこの法律に基く命令に違反し、その違反の事実があつた日から起算して三年を経過していないとき。
三 申請者が罰金以上の刑に処せられ、その執行を終り、又は執行を受けることがなくなつた日から起算して三年を経過していないとき。
四 申請者が精神病者又は麻薬、大麻、あへん若しくは覚せい剤の中毒者であるとき。
五 申請者が営利を目的として血液の提供をあつせんしようとする者であるため血液を提供する者の保護又は保健衛生上の危害の防止に支障をきたすおそれがあると認めるとき。
六 申請者が法人である場合において、その業務を行う役員のうちに第一号から第四号までのいずれかに該当する者があるとき。
(あつせん手数料)
第七条 前条第一項の許可を受けた者(以下「供血あつせん業者」という。)は、都道府県知事の定めた基準をこえて、あつせん手数料を請求し、又は受け取つてはならない。
2 供血あつせん業者は、何らの名義をもつてするを問わず、前項の規定による禁止を免かれる行為をしてはならない。
(業務上の義務)
第八条 供血あつせん業者は、採血が健康上有害である者の血液の提供のあつせん、保健衛生上危害を生ずるおそれのある血液の提供のあつせんその他血液を提供する者の保護又は保健衛生上の危害の防止に欠けるような行為をしてはならない。
(帳簿)
第九条 供血あつせん業者は、帳簿を備え、これに血液を提供した者の氏名、年齢、住所その他厚生省令で定める事項を記載し、かつ、これを最終の記載の日から五年間保存しなければならない。
(業務廃止の届出)
第十条 供血あつせん業者は、当該業務を廃止し若しくは休止し、又は休止していた業務を再開したときは、十五日以内に、都道府県知事に、その旨を届け出なければならない。
(許可の取消等)
第十一条 厚生大臣は、第四条第一項の規定による許可を受けた者が、この法律、この法律に基く命令又は第五条の規定による指示に違反したときは、その許可を取り消し、又は期間を定めてその業務の停止を命ずることができる。
2 都道府県知事は、供血あつせん業者が次の各号の一に該当するときは、その許可を取り消し、又は期間を定めてその業務の停止を命ずることができる。
一 この法律又はこの法律に基く命令に違反したとき。
二 第六条第二項第三号から第六号までのいずれかに該当するに至つたとき。
3 前二項の規定により許可を取り消し、又は業務の停止を命じようとするときは、あらかじめ、その処分の相手方にその処分の理由を通知し、弁明及び有利な証拠の提出の機会を与えなければならない。
(立入検査等)
第十二条 厚生大臣又は都道府県知事は、必要があると認めるときは、第四条第一項の規定による許可を受けた者又は供血あつせん業者から必要な報告を徴し、又は当該職員をして採血を行う場所若しくは供血あつせん業者の事務所に立ち入り、帳簿その他の物件を検査させ、若しくは関係者に質問させることができる。
2 当該職員は、前項の規定による立入、検査又は質問をする場合には、その身分を示す証明書を携帯し、関係人の請求があつたときは、これを提示しなければならない。
3 第一項の規定による権限は、犯罪捜査のために認められたものと解してはならない。
(採血者の義務)
第十三条 血液製剤等の原料たる血液又は輸血のための血液を得る目的で、人体から採血しようとする者は、あらかじめ被採血者につき、厚生省令で定める方法による健康診断を行わなければならない。
2 前項の採血者は、厚生省令で定めるところにより貧血者、年少者、妊娠中の者その他採血が健康上有害であるとされる者から採血してはならない。
(業として行う採血と医業)
第十四条 業として人体から採血することは、医療及び歯科医療以外の目的で行われる場合であつても、医師法(昭和二十三年法律第二百一号)第十七条に規定する医業に該当するものとする。
(罰則)
第十五条 第六条第一項又は第七条の規定に違反した者は、三年以下の懲役若しくは五万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
第十六条 第三条若しくは第四条第一項の規定に違反した者又は第十一条第一項若しくは第二項の規定による業務停止の処分に違反した者は、一年以下の懲役若しくは三万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
第十七条 第九条の規定に違反した者、第十二条の規定による報告をせず、若しくは虚偽の報告をした者、同条の規定による立入若しくは検査を拒み、妨げ、若しくは忌避した者又は同条の規定による質問に対して虚偽の答弁をした者は、五千円以下の罰金に処する。
第十八条 法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務に関して、前三条の違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人又は人に対しても、各本条の罰金刑を科する。
附 則
(施行期日)
1 この法律は、公布の日から施行する。
(経過規定)
2 この法律の施行の際現に薬事法第二十六条第一項の規定による厚生大臣の登録を受けて血液製剤の製造業を営んでいる者(当該血液製剤が公定書に収められていないものであるときは、同条第三項の規定による許可を受けている場合に限る。)であつて、当該血液製剤の原料とする目的で業として人体から採血しているものは、第四条第一項の規定による許可を受けたものとみなす。
3 この法律の施行の際現に有料で人の血液の提供のあつせんを業としている者は、この法律の施行の日から起算して三箇月間は、第六条第一項の規定にかかわらず、その業を営むことができる。
(厚生省設置法の一部改正)
4 厚生省設置法(昭和二十四年法律第百五十一号)の一部を次のように改正する。
第五条第五十一号の二の次に次の一号を加える。
五十一の三 採血及び供血あつせん業取締法(昭和三十一年法律第百六十号)の規定に基き、業として行う採血の許可を行い、並びにその許可を取り消し、及び業務の停止を命ずること。
第十一条に次の一号を加える。
十四 採血及び供血あつせん業取締法を施行すること。
別表
一 保存血液
二 人赤血球沈層
三 人赤血球再浮遊液
四 人血漿
五 人免疫血清グロブリン
六 血液型判定用血清
七 その他政令で定める医薬品
厚生大臣 小林英三
内閣総理大臣 鳩山一郎