漁船乗組員給与保険法をここに公布する。
御名御璽
昭和二十七年六月二十五日
内閣総理大臣 吉田茂
法律第二百十二号
漁船乗組員給与保険法
第一章 総則
(この法律の目的)
第一條 この法律は、当分の間、保険の方法によつて、漁船の乗組員が抑留された場合における給与の支払を保障し、もつて、漁船の乗組員の生産意欲を保持し、あわせて、漁業経営の安定に資することを目的とする。
(漁船乗組員給与保険)
第二條 漁船乗組員給与保険は、漁船損害補償法(昭和二十七年法律第二十八号)の規定による漁船保険組合が行う漁船乗組員給与保険事業及び政府が行う再保険事業により行う。
(定義)
第三條 この法律において「漁船乗組員給与保険」(以下「給与保険」という。)とは、乗組員が抑留された場合に、その抑留期間中事業主が当該乗組員に対して支払うべき給与の全部又は一部に代えて保険金を支給するために行う保険をいう。
2 この法律において「乗組員」とは、事業主に雇傭されて、漁船(漁船法(昭和二十五年法律第百七十八号)第二條第一項(漁船の定義)に規定する漁船をいう。)に乗り組む者をいう。
3 この法律において「給与」とは、賃金、給料、手当その他名称の如何を問わず、雇傭関係に基き、事業主が乗組員に支払うすべてのものをいう。但し、賞与その他これに準ずるもので省令で定めるものについてはこの限りでない。
4 この法律において「抑留」とは、乗組員が自己の意思に反して日本国の領土外に連行留置されることをいう。
第二章 漁船乗組員給与保険事業
(保険者)
第四條 漁船保険組合(以下「組合」という。)は、総会又は総代会(以下「総会」という。)の議決を経て、この法律の定めるところにより、その区域内に住所又は事業所を有する事業主につき、漁船乗組員給与保険事業(以下「給与保険事業」という。)を行うことができる。
2 組合は、前項の規定による給与保険事業を行おうとするときは、総会の議決を経て、省令の定めるところにより、定款にその旨を記載し、且つ、給与保険事業に関する約款を定め、農林大臣の認可を受けなければならない。
(保険加入)
第五條 事業主は、給与保険に加入しようとするときは、左に掲げる事項その他省令で定める事項を記載した申込書を組合に提出しなければならない。
一 契約金額(当該契約に係る乗組員の全員が抑留された場合に組合が支払うべき一箇月分の保険金の額をいう。以下同じ。)
二 漁船名並びにその乗組員の氏名及び職名
三 契約金額に基き組合が支払うべき一箇月分の保険金の各乗組員についての内訳(以下「内訳保険金額」という。)
四 保険金受取人の氏名又は名称及び住所
五 各乗組員の給与月額
2 前項の規定による給与保険加入の申込は、漁船ごとに、当該乗組員の全員についてしなければならない。
(契約金額)
第六條 契約金額は、各乗組員の給与月額の合計額をこえ、又はその百分の六十を下るものであつてはならない。
2 契約金額は、保険契約が成立した後においては、変更することができない。
(内訳保険金額)
第七條 内訳保険金額は、各乗組員の給与月額の合計額で契約金額を除して得た数を、各乗組員の給与月額に乗じて、算出する。
(給与月額)
第八條 給与月額は、事業主が当該乗組員に対し、雇傭契約に基き抑留期間中において支払うべき一箇月分の給与の額とする。
2 事業主は、給与月額を定める場合には、当該乗組員の同意を得なければならない。
(保険金受取人)
第九條 事業主は、第五條第一項第四号の保険金受取人を定める場合は、各乗組員の指定に従つてしなければならない。
(保険引受拒否の制限)
第十條 組合は、事業主から給与保険契約の申込があつたときは、これに対して、正当な事由がなければ給与保険の引受を拒むことができない。
(保険加入の申出及び保険加入の義務)
第十一條 乗組員は、漁船ごとに、当該漁船の乗組員の総数の二分の一以上の者の連署をもつて、その代表者から、その事業主に対し、給与保険に加入すべき旨の申出をすることができる。
2 前項の申出があつたときは、事業主は、正当な事由がある場合の外、遅滞なく当該漁船の乗組員に係る給与保険に加入しなければならない。
(保険契約の成立)
第十二條 給与保険契約は、組合が保険料を受け取つたときに成立する。
2 組合の給与保険契約に基く保険金の支払責任は、約款で別段の定をした場合の外、保険契約が成立した日の翌日から始まる。
(乗組員への通知義務)
第十三條 給与保険契約が成立したときは、事業主は、遅滞なく当該乗組員にその旨を通知しなければならない。当該保険契約の内容につき変更があつたときも、同様とする。
(保険期間)
第十四條 給与保険の保険期間は、四箇月とする。但し、組合は、省令の定めるところにより、約款で別段の定をすることができる。
(保険契約の内容の変更)
第十五條 事業主は、給与保険契約が成立した後において、乗組員の異動等により第五條第一項の申込書に記載した事項について変更があつたときは、遅滞なく、省令の定めるところにより、組合に変更の通知をしなければならない。この場合において、契約金額が乗組員の給与月額の合計額をこえることとなるときは、第七條の規定にかかわらず、内訳保険金額は、当該乗組員の給与月額に相当する額とし、契約金額が乗組員の給与月額の合計額の百分の六十を下ることとなるときは、第六條第二項の規定にかかわらず、契約金額を乗組員の給与月額の合計額の百分の六十を下らないように増額しなければならない。
2 前項後段の場合においては、事業主は、省令の定めるところにより、当該増額分に対する保険料を支払わなければならない。
3 組合が第一項の通知を受領したとき(同項後段の場合にあつては前項の規定による保険料の支払があつたとき)は、その時において給与保険契約は当該事項につき変更があつたものとみなす。
(事業主の通知義務)
第十六條 事業主は、乗組員が抑留されたときは、約款の定めるところにより、遅滞なくその旨を組合に通知しなければならない。当該乗組員につき抑留が終つたときも、同様とする。
(組合の支払責任)
第十七條 組合は、乗組員が抑留された場合には、当該乗組員が抑留された日の属する月から当該乗組員につき抑留が終つた日の属する月まで、当該乗組員に係る保険金を支払う。
2 前項の規定の適用については、乗組員が、たい捕された時に、抑留が始まつたものとし、抑留を解かれて日本国に上陸した時、又は抑留中に死亡したことが判明した時に、抑留が終つたものとする。
(保険契約の失効)
第十八條 給与保険契約は、当該契約に係る乗組員につき、前條の規定により組合が保険金を支払うべき最初の抑留があつたとき(同一航海において数回の抑留があつた場合は、その最後の抑留があつたとき)は、保険金の支払に関する事項を除き、その効力を失う。
(保険金の支払)
第十九條 第十七條第一項に規定する保険金の支払は、事業主に対する支払に代えて、第五條第一項の規定により申込書に記載した当該乗組員の内訳保険金額に従い、その月分を省令の定めるところにより、保険金受取人に直接支払わなければならない。但し、抑留された日の属する月及び抑留の終つた日の属する月に支払うべき保険金の額は、当該内訳保険金額をそれぞれの月における抑留日数に応じて日割り計算して得た額とする。
2 組合は、前項の規定により保険金を支払つたときは、その旨を事業主に通知しなければならない。
(組合の免責事由)
第二十條 組合は、乗組員についての抑留が、国際法規、法令又は法令に基く命令に違反して航行し又は操業したために生じたときは、保険金支払の責を免かれることができる。
(保険金の還付)
第二十一條 組合は、事業主が、第十六條の規定による通知をしなかつたため又は虚偽の通知をしたために誤つて保険金を支払つた場合には、当該事業主に、当該誤払に係る保険金の額に相当する金額を納付させることができる。
2 前項の場合における誤払に係る保険金については、事業主がその金額に相当する額の給与を当該組合員に支払つたものとする。
(重複保険の禁止)
第二十二條 事業主は、乗組員につき、重ねて給与保険に加入することができない。
(組合の経理)
第二十三條 組合の給与保険に関する会計は、他の会計と区分して経理しなければならない。但し、附加保険料及び事務費についてはこの限りでない。
2 給与保険の事業年度は、四月一日から翌年三月三十一日までとする。
(支払備金等の積立)
第二十四條 組合は、毎事業年度の終において存する給与保険につき、省令の定めるところにより、支払備金及び責任準備金を積み立てなければならない。
(準備金の積立)
第二十五條 組合は、給与保険の会計における不足金の補てんに備えるため、毎事業年度、給与保険の会計において生じた剰余金の全部を準備金として積み立てなければならない。
(約款の変更)
第二十六條 組合は、総会の議決を経て、約款を変更することができる。
2 約款の変更は、農林大臣の認可を受けなければ、その効力を生じない。
3 農林大臣は、給与保険の保険料率についての約款の変更を命ずることができる。
4 前項の規定による約款変更の命令があつた場合には、第一項及び第二項の規定にかかわらず、その命令により、約款変更の効力を生ずるものとする。
(事業の廃止)
第二十七條 組合が給与保険事業を廃止しようとするときは、総会においてその旨を議決し、且つ、定款の変更を行わなければならない。
2 組合が給与保険事業を廃止したときは、当該事業の廃止に係る定款変更の認可があつたときに、給与保険契約は、その効力を失う。
3 前項の場合には、組合は、まだ経過しない期間に対する保険料を払いもどさなければならない。
4 組合が給与保険事業を廃止したときは、理事は、遅滞なく決算報告書を作り、これを総会に提出してその承認を求めなければならない。
(解散の効果)
第二十八條 組合が解散したときは、合併の場合を除いては、給与保険契約は、その効力を失う。
2 前項の場合には、前條第三項の規定を準用する。
(剰余金の納付)
第二十九條 組合は、前二條の場合に、給与保険の会計において生じた剰余金を漁船再保険特別会計に納付しなければならない。
(事務費の補助)
第三十條 政府は、予算の範囲内において政令の定めるところにより、毎会計年度、組合の給与保険事業につき、その事務費の一部を補助することができる。
(漁船損害補償法等の準用)
第三十一條 組合の給与保険については、漁船損害補償法第十二條(非課税)、第三十七條(保険証券の交付及び記載事項)、第四十條(相殺できない場合)及び第四十一條(保険金額の削減)並びに商法(明治三十二年法律第四十八号)第六百四十二條から第六百四十五條まで及び第六百六十三條(損害保険の総則)の規定を準用する。この場合において、漁船損害補償法第十二條中「漁船損害補償」とあるのは「漁船乗組員給与保険」と、第三十七條及び第四十條中「組合員」とあるのは「事業主」と、第四十一條中「定款」とあるのは「約款」と読み替えるものとする。
第三章 政府の再保険事業
(再保険者)
第三十二條 政府は、組合が給与保険事業によつて事業主に負う保険責任を再保険するものとする。
(再保険金の前渡等)
第三十三條 政府は、組合が保険金の支払をしようとする場合において、必要があると認めるときは、政令の定めるところにより、当該保険責任に係る再保険金を当該組合に前渡することができる。
2 政府は、再保険金の支出を円滑にするために、政令の定めるところにより、漁船再保険特別会計に基金を設けることができる。
(再保険料の払もどし)
第三十四條 政府は、組合が第二十七條第三項(第二十八條第二項において準用する場合を含む。)の規定により保険料の払もどしをしたときは、政令の定めるところにより、再保険料の一部を払いもどさなければならない。
(漁船損害補償法等の準用)
第三十五條 政府の再保険については、漁船損害補償法第百十五條から第百十七條まで、第百十九條から第百二十一條(第二号を除く。)まで(政府の再保険事業)及び第百四十三條(再保険事業に関する事務費の繰入)並びに商法第六百四十三條及び第六百六十三條(損害保険の総則)の規定を準用する。この場合において、第百十五條及び第百十九條中「その組合員」とあるのは「事業主」と、第百二十條中「保険事故が発生したと認めるとき」とあるのは「漁船乗組員給与保険法第十六條の規定による通知を受けたとき」と、第百二十一條中「てん補した」とあるのは「支払つた」と、「定款」とあるのは「約款」と読み替えるものとする。
第四章 雑則
(給与との関係)
第三十六條 事業主は、第十七條の規定により組合が保険金を支払うべき抑留があつた場合において、当該乗組員に対する給与の全部又は一部を支払つて、その支払つた金額の範囲内において当該保険金に係る保険金受取人となることができる。この場合においては、第十五條第一項前段の規定を準用する。
第三十七條 組合が第十九條第一項の規定により保険金を支払つたときは、事業主は、その保険金の額に相当する金額につき、当該乗組員に対する給与支払の責を免れる。
(所得税等との関係)
第三十八條 組合が第十九條第一項の規定により支払つた保険金(第三十六條の規定により事業主に支払つた保険金を除く。)は、所得税法(昭和二十二年法律第二十七号)の規定の適用については、当該乗組員の受ける給与とみなす。
2 船員保険に係る保険料その他法令に基いて給与から控除することができるものについては、省令の定めるところにより、第十九條第一項の規定により支払う保険金から控除することができる。
(保険料の転嫁禁止)
第三十九條 事業主は、給与保険に係る保険料を乗組員に負担させてはならない。
(委任事項)
第四十條 この法律の実施のための手続その他その執行について必要な事項は、省令で定める。
第五章 罰則
第四十一條 左の場合には、事業主を一万円以下の過料に処する。
一 第八條第二項の規定に違反したとき。
二 第十五條第一項の規定に違反したとき。
三 第十六條の規定に違反したとき。
四 第二十二條の規定に違反したとき。
五 第三十九條の規定に違反したとき。
第四十二條 組合の役員が、第二十四條又は第二十五條の規定に違反したときは、一万円以下の過料に処する。
附 則
1 この法律施行の期日は、公布の日から起算して六箇月をこえない期間内において、政令で定める。
2 この法律の規定の適用に関しては、漁船損害補償法施行法(昭和二十七年法律第二十九号)第二條第一項の漁船保険組合は、漁船損害補償法の規定による組合とみなす。
3 水産庁設置法(昭和二十三年法律第七十八号)の一部を次のように改正する。
第二條第四号中「漁船損害補償」の下に「及び漁船乗組員給与保険」を加える。
第四條第六号の二中「漁船保険」の下に「並びに漁船乗組員給与保険」を加える。
農林大臣 広川弘禅
内閣総理大臣 吉田茂
漁船乗組員給与保険法をここに公布する。
御名御璽
昭和二十七年六月二十五日
内閣総理大臣 吉田茂
法律第二百十二号
漁船乗組員給与保険法
第一章 総則
(この法律の目的)
第一条 この法律は、当分の間、保険の方法によつて、漁船の乗組員が抑留された場合における給与の支払を保障し、もつて、漁船の乗組員の生産意欲を保持し、あわせて、漁業経営の安定に資することを目的とする。
(漁船乗組員給与保険)
第二条 漁船乗組員給与保険は、漁船損害補償法(昭和二十七年法律第二十八号)の規定による漁船保険組合が行う漁船乗組員給与保険事業及び政府が行う再保険事業により行う。
(定義)
第三条 この法律において「漁船乗組員給与保険」(以下「給与保険」という。)とは、乗組員が抑留された場合に、その抑留期間中事業主が当該乗組員に対して支払うべき給与の全部又は一部に代えて保険金を支給するために行う保険をいう。
2 この法律において「乗組員」とは、事業主に雇傭されて、漁船(漁船法(昭和二十五年法律第百七十八号)第二条第一項(漁船の定義)に規定する漁船をいう。)に乗り組む者をいう。
3 この法律において「給与」とは、賃金、給料、手当その他名称の如何を問わず、雇傭関係に基き、事業主が乗組員に支払うすべてのものをいう。但し、賞与その他これに準ずるもので省令で定めるものについてはこの限りでない。
4 この法律において「抑留」とは、乗組員が自己の意思に反して日本国の領土外に連行留置されることをいう。
第二章 漁船乗組員給与保険事業
(保険者)
第四条 漁船保険組合(以下「組合」という。)は、総会又は総代会(以下「総会」という。)の議決を経て、この法律の定めるところにより、その区域内に住所又は事業所を有する事業主につき、漁船乗組員給与保険事業(以下「給与保険事業」という。)を行うことができる。
2 組合は、前項の規定による給与保険事業を行おうとするときは、総会の議決を経て、省令の定めるところにより、定款にその旨を記載し、且つ、給与保険事業に関する約款を定め、農林大臣の認可を受けなければならない。
(保険加入)
第五条 事業主は、給与保険に加入しようとするときは、左に掲げる事項その他省令で定める事項を記載した申込書を組合に提出しなければならない。
一 契約金額(当該契約に係る乗組員の全員が抑留された場合に組合が支払うべき一箇月分の保険金の額をいう。以下同じ。)
二 漁船名並びにその乗組員の氏名及び職名
三 契約金額に基き組合が支払うべき一箇月分の保険金の各乗組員についての内訳(以下「内訳保険金額」という。)
四 保険金受取人の氏名又は名称及び住所
五 各乗組員の給与月額
2 前項の規定による給与保険加入の申込は、漁船ごとに、当該乗組員の全員についてしなければならない。
(契約金額)
第六条 契約金額は、各乗組員の給与月額の合計額をこえ、又はその百分の六十を下るものであつてはならない。
2 契約金額は、保険契約が成立した後においては、変更することができない。
(内訳保険金額)
第七条 内訳保険金額は、各乗組員の給与月額の合計額で契約金額を除して得た数を、各乗組員の給与月額に乗じて、算出する。
(給与月額)
第八条 給与月額は、事業主が当該乗組員に対し、雇傭契約に基き抑留期間中において支払うべき一箇月分の給与の額とする。
2 事業主は、給与月額を定める場合には、当該乗組員の同意を得なければならない。
(保険金受取人)
第九条 事業主は、第五条第一項第四号の保険金受取人を定める場合は、各乗組員の指定に従つてしなければならない。
(保険引受拒否の制限)
第十条 組合は、事業主から給与保険契約の申込があつたときは、これに対して、正当な事由がなければ給与保険の引受を拒むことができない。
(保険加入の申出及び保険加入の義務)
第十一条 乗組員は、漁船ごとに、当該漁船の乗組員の総数の二分の一以上の者の連署をもつて、その代表者から、その事業主に対し、給与保険に加入すべき旨の申出をすることができる。
2 前項の申出があつたときは、事業主は、正当な事由がある場合の外、遅滞なく当該漁船の乗組員に係る給与保険に加入しなければならない。
(保険契約の成立)
第十二条 給与保険契約は、組合が保険料を受け取つたときに成立する。
2 組合の給与保険契約に基く保険金の支払責任は、約款で別段の定をした場合の外、保険契約が成立した日の翌日から始まる。
(乗組員への通知義務)
第十三条 給与保険契約が成立したときは、事業主は、遅滞なく当該乗組員にその旨を通知しなければならない。当該保険契約の内容につき変更があつたときも、同様とする。
(保険期間)
第十四条 給与保険の保険期間は、四箇月とする。但し、組合は、省令の定めるところにより、約款で別段の定をすることができる。
(保険契約の内容の変更)
第十五条 事業主は、給与保険契約が成立した後において、乗組員の異動等により第五条第一項の申込書に記載した事項について変更があつたときは、遅滞なく、省令の定めるところにより、組合に変更の通知をしなければならない。この場合において、契約金額が乗組員の給与月額の合計額をこえることとなるときは、第七条の規定にかかわらず、内訳保険金額は、当該乗組員の給与月額に相当する額とし、契約金額が乗組員の給与月額の合計額の百分の六十を下ることとなるときは、第六条第二項の規定にかかわらず、契約金額を乗組員の給与月額の合計額の百分の六十を下らないように増額しなければならない。
2 前項後段の場合においては、事業主は、省令の定めるところにより、当該増額分に対する保険料を支払わなければならない。
3 組合が第一項の通知を受領したとき(同項後段の場合にあつては前項の規定による保険料の支払があつたとき)は、その時において給与保険契約は当該事項につき変更があつたものとみなす。
(事業主の通知義務)
第十六条 事業主は、乗組員が抑留されたときは、約款の定めるところにより、遅滞なくその旨を組合に通知しなければならない。当該乗組員につき抑留が終つたときも、同様とする。
(組合の支払責任)
第十七条 組合は、乗組員が抑留された場合には、当該乗組員が抑留された日の属する月から当該乗組員につき抑留が終つた日の属する月まで、当該乗組員に係る保険金を支払う。
2 前項の規定の適用については、乗組員が、たい捕された時に、抑留が始まつたものとし、抑留を解かれて日本国に上陸した時、又は抑留中に死亡したことが判明した時に、抑留が終つたものとする。
(保険契約の失効)
第十八条 給与保険契約は、当該契約に係る乗組員につき、前条の規定により組合が保険金を支払うべき最初の抑留があつたとき(同一航海において数回の抑留があつた場合は、その最後の抑留があつたとき)は、保険金の支払に関する事項を除き、その効力を失う。
(保険金の支払)
第十九条 第十七条第一項に規定する保険金の支払は、事業主に対する支払に代えて、第五条第一項の規定により申込書に記載した当該乗組員の内訳保険金額に従い、その月分を省令の定めるところにより、保険金受取人に直接支払わなければならない。但し、抑留された日の属する月及び抑留の終つた日の属する月に支払うべき保険金の額は、当該内訳保険金額をそれぞれの月における抑留日数に応じて日割り計算して得た額とする。
2 組合は、前項の規定により保険金を支払つたときは、その旨を事業主に通知しなければならない。
(組合の免責事由)
第二十条 組合は、乗組員についての抑留が、国際法規、法令又は法令に基く命令に違反して航行し又は操業したために生じたときは、保険金支払の責を免かれることができる。
(保険金の還付)
第二十一条 組合は、事業主が、第十六条の規定による通知をしなかつたため又は虚偽の通知をしたために誤つて保険金を支払つた場合には、当該事業主に、当該誤払に係る保険金の額に相当する金額を納付させることができる。
2 前項の場合における誤払に係る保険金については、事業主がその金額に相当する額の給与を当該組合員に支払つたものとする。
(重複保険の禁止)
第二十二条 事業主は、乗組員につき、重ねて給与保険に加入することができない。
(組合の経理)
第二十三条 組合の給与保険に関する会計は、他の会計と区分して経理しなければならない。但し、附加保険料及び事務費についてはこの限りでない。
2 給与保険の事業年度は、四月一日から翌年三月三十一日までとする。
(支払備金等の積立)
第二十四条 組合は、毎事業年度の終において存する給与保険につき、省令の定めるところにより、支払備金及び責任準備金を積み立てなければならない。
(準備金の積立)
第二十五条 組合は、給与保険の会計における不足金の補てんに備えるため、毎事業年度、給与保険の会計において生じた剰余金の全部を準備金として積み立てなければならない。
(約款の変更)
第二十六条 組合は、総会の議決を経て、約款を変更することができる。
2 約款の変更は、農林大臣の認可を受けなければ、その効力を生じない。
3 農林大臣は、給与保険の保険料率についての約款の変更を命ずることができる。
4 前項の規定による約款変更の命令があつた場合には、第一項及び第二項の規定にかかわらず、その命令により、約款変更の効力を生ずるものとする。
(事業の廃止)
第二十七条 組合が給与保険事業を廃止しようとするときは、総会においてその旨を議決し、且つ、定款の変更を行わなければならない。
2 組合が給与保険事業を廃止したときは、当該事業の廃止に係る定款変更の認可があつたときに、給与保険契約は、その効力を失う。
3 前項の場合には、組合は、まだ経過しない期間に対する保険料を払いもどさなければならない。
4 組合が給与保険事業を廃止したときは、理事は、遅滞なく決算報告書を作り、これを総会に提出してその承認を求めなければならない。
(解散の効果)
第二十八条 組合が解散したときは、合併の場合を除いては、給与保険契約は、その効力を失う。
2 前項の場合には、前条第三項の規定を準用する。
(剰余金の納付)
第二十九条 組合は、前二条の場合に、給与保険の会計において生じた剰余金を漁船再保険特別会計に納付しなければならない。
(事務費の補助)
第三十条 政府は、予算の範囲内において政令の定めるところにより、毎会計年度、組合の給与保険事業につき、その事務費の一部を補助することができる。
(漁船損害補償法等の準用)
第三十一条 組合の給与保険については、漁船損害補償法第十二条(非課税)、第三十七条(保険証券の交付及び記載事項)、第四十条(相殺できない場合)及び第四十一条(保険金額の削減)並びに商法(明治三十二年法律第四十八号)第六百四十二条から第六百四十五条まで及び第六百六十三条(損害保険の総則)の規定を準用する。この場合において、漁船損害補償法第十二条中「漁船損害補償」とあるのは「漁船乗組員給与保険」と、第三十七条及び第四十条中「組合員」とあるのは「事業主」と、第四十一条中「定款」とあるのは「約款」と読み替えるものとする。
第三章 政府の再保険事業
(再保険者)
第三十二条 政府は、組合が給与保険事業によつて事業主に負う保険責任を再保険するものとする。
(再保険金の前渡等)
第三十三条 政府は、組合が保険金の支払をしようとする場合において、必要があると認めるときは、政令の定めるところにより、当該保険責任に係る再保険金を当該組合に前渡することができる。
2 政府は、再保険金の支出を円滑にするために、政令の定めるところにより、漁船再保険特別会計に基金を設けることができる。
(再保険料の払もどし)
第三十四条 政府は、組合が第二十七条第三項(第二十八条第二項において準用する場合を含む。)の規定により保険料の払もどしをしたときは、政令の定めるところにより、再保険料の一部を払いもどさなければならない。
(漁船損害補償法等の準用)
第三十五条 政府の再保険については、漁船損害補償法第百十五条から第百十七条まで、第百十九条から第百二十一条(第二号を除く。)まで(政府の再保険事業)及び第百四十三条(再保険事業に関する事務費の繰入)並びに商法第六百四十三条及び第六百六十三条(損害保険の総則)の規定を準用する。この場合において、第百十五条及び第百十九条中「その組合員」とあるのは「事業主」と、第百二十条中「保険事故が発生したと認めるとき」とあるのは「漁船乗組員給与保険法第十六条の規定による通知を受けたとき」と、第百二十一条中「てん補した」とあるのは「支払つた」と、「定款」とあるのは「約款」と読み替えるものとする。
第四章 雑則
(給与との関係)
第三十六条 事業主は、第十七条の規定により組合が保険金を支払うべき抑留があつた場合において、当該乗組員に対する給与の全部又は一部を支払つて、その支払つた金額の範囲内において当該保険金に係る保険金受取人となることができる。この場合においては、第十五条第一項前段の規定を準用する。
第三十七条 組合が第十九条第一項の規定により保険金を支払つたときは、事業主は、その保険金の額に相当する金額につき、当該乗組員に対する給与支払の責を免れる。
(所得税等との関係)
第三十八条 組合が第十九条第一項の規定により支払つた保険金(第三十六条の規定により事業主に支払つた保険金を除く。)は、所得税法(昭和二十二年法律第二十七号)の規定の適用については、当該乗組員の受ける給与とみなす。
2 船員保険に係る保険料その他法令に基いて給与から控除することができるものについては、省令の定めるところにより、第十九条第一項の規定により支払う保険金から控除することができる。
(保険料の転嫁禁止)
第三十九条 事業主は、給与保険に係る保険料を乗組員に負担させてはならない。
(委任事項)
第四十条 この法律の実施のための手続その他その執行について必要な事項は、省令で定める。
第五章 罰則
第四十一条 左の場合には、事業主を一万円以下の過料に処する。
一 第八条第二項の規定に違反したとき。
二 第十五条第一項の規定に違反したとき。
三 第十六条の規定に違反したとき。
四 第二十二条の規定に違反したとき。
五 第三十九条の規定に違反したとき。
第四十二条 組合の役員が、第二十四条又は第二十五条の規定に違反したときは、一万円以下の過料に処する。
附 則
1 この法律施行の期日は、公布の日から起算して六箇月をこえない期間内において、政令で定める。
2 この法律の規定の適用に関しては、漁船損害補償法施行法(昭和二十七年法律第二十九号)第二条第一項の漁船保険組合は、漁船損害補償法の規定による組合とみなす。
3 水産庁設置法(昭和二十三年法律第七十八号)の一部を次のように改正する。
第二条第四号中「漁船損害補償」の下に「及び漁船乗組員給与保険」を加える。
第四条第六号の二中「漁船保険」の下に「並びに漁船乗組員給与保険」を加える。
農林大臣 広川弘禅
内閣総理大臣 吉田茂