(目的)
第一條 この法律は、貸付信託の受益権を受益証券に化体するとともに、受益者の保護を図ることにより、一般投資者による産業投資を容易にし、もつて資源の開発その他緊要な産業に対する長期資金の円滑な供給に資することを目的とする。
(定義)
第二條 この法律において「貸付信託」とは、一個の信託約款に基いて、受託者が多数の委託者との間に締結する信託契約により受け入れた金銭を、主として貸付又は手形割引の方法により、合同して運用する金銭信託であつて、当該信託契約に係る受益権を受益証券によつて表示するものをいう。
2 この法律において「受益証券」とは、貸付信託に係る信託契約に基く受益権を表示する証券であつて、受託者がこの法律の規定により発行するものをいう。
(信託約款と信託契約)
第三條 信託会社(信託業務を営む銀行を含む。以下同じ。)は、貸付信託に係る信託契約については、あらかじめ大蔵大臣の承認を受けた信託約款に基いて、これを締結しなければならない。
2 信託約款においては、左に掲げる事項を定めなければならない。
七 信託の元本の償還及び収益の分配の時期、方法及び場所に関する事項
八 当該信託約款に基く信託契約に係る信託財産の合同運用に関する事項
九 前号に掲げる信託財産と他の信託財産との分別運用に関する事項
十 信託契約期間、その延長及び信託契約期間中の解約に関する事項
十一 信託業法(大正十一年法律第六十五号)第九條(損失の補てん及び利益の補足)の規定により元本の補てんの契約をする場合においては、その割合その他これに関する事項
十二 信託報酬の計算方法並びにその支払の方法及び時期に関する事項
十五 その他公益又は受益者保護のため必要且つ適当であると認められる事項で大蔵省令で定めるもの
3 貸付信託に係る信託契約の期間は、二年以上でなければならない。
(信託約款の承認)
第四條 信託会社は、前條第一項の規定による承認を受けようとするときは、信託約款を記載した承認申請書に、信託財産の運用計画及び受益証券の発行計画を記載した書面を添えて、これを大蔵大臣に提出しなければならない。
2 大蔵大臣は、前項の規定による承認の申請があつた場合において、信託財産の運用計画及び受益証券の発行計画が適当であつて、信託約款の内容が法令に違反せず、且つ、公益又は受益者の保護に欠けるおそれがないときは、承認申請書を受理した日から三十日以内に、その承認をしなければならない。
(信託約款の変更)
第五條 信託会社は、前條の規定により承認を受けた信託約款を変更しようとするときは、変更しようとする事項及び変更の理由を記載した承認申請書を大蔵大臣に提出して、その承認を受けなければならない。
2 前條の規定は、前項の規定による変更の承認の場合について準用する。この場合において、前條第一項中「信託財産の運用計画及び受益証券の発行計画を記載した書面」とあるのは「当該信託約款の変更により信託財産の運用計画又は受益証券の発行計画に変更がある場合はその変更に係る計画を記載した書面」と、同條第二項中「信託財産の運用計画及び受益証券の発行計画」とあるのは「変更に係る信託財産の運用計画又は受益証券の発行計画」と読み替えるものとする。
第六條 受託者は、前條の規定により信託約款の変更について大蔵大臣の承認を受けた場合には、直ちに、変更の内容及び変更について異議のある受益証券の権利者は一定期間内にその異議を述べるべき旨を公告しなければならない。但し、その期間は、一箇月を下ることができない。
2 受益証券の権利者が前項の期間内に異議を述べなかつた場合には、その変更を承諾したものとみなす。
3 第一項の期間内に異議を述べた権利者は、受託者に対して、その変更がなかつたならば有したであろう公正な価格で当該受益証券を買い取ることを請求することができる。
4 受託者は、前項の請求があつた場合には、当該請求に係る受益証券をその固有財産をもつて買い取らなければならない。この場合においては、信託法(大正十一年法律第六十二号)第九條(受託者の利益享受の制限)の規定は、適用しない。
5 第一項の規定による公告は、信託約款で定める日刊新聞紙によつてしなければならない。
(信託契約締結の手続)
第七條 信託会社は、貸付信託に係る信託契約を締結しようとするときは、左の事項を公告しなければならない。
2 前項第三項の期間は、二箇月をこえてはならない。
3 前條第五項の規定は、第一項の公告について準用する。
(受益証券)
第八條 貸付信託に係る信託契約に基く受益権の譲渡及び行使は、記名式の受益証券をもつて表示されるものを除く外、受益証券をもつてしなければならない。
2 受益証券は、無記名式とする。但し、受益者の請求により記名式とすることができる。
3 記名式の受益証券は、受益者の請求により無記名式とすることができる。
4 受益証券は、記号、番号、信託約款及び左の各号に掲げる事項を記載し、代表取締役が署名しなければならない。
二 記名式の受益証券については、受益者の氏名又は名称
(受益証券発行の届出)
第九條 受託者は、貸付信託に係る信託契約の取扱期間経過後遅滞なく、当該取扱期間中に発行した受益証券の種類及びその種類ごとの総額を大蔵大臣に届け出でなければならない。
(委託者の権利義務の承継)
第十條 受益証券を取得する者は、その取得により、当該受益証券に係る信託契約の委託者の権利義務を承継するものとする。この場合において、第八條第一項の規定は、委託者の権利の行使について準用する。
(受託者による受益証券の取得)
第十一條 受託者は、第六條第四項の規定による場合を除く外、受益証券が発行の日から一年以上を経過している場合に限り、その固有財産をもつて時価により当該受益証券を買い取ることができる。この場合においては、信託法第九條(受託者の利益享受の制限)の規定は、適用しない。
(信託財産の運用)
第十二條 貸付信託の信託財産は、当該貸付信託の信託財産以外の信託財産と分別して運用しなければならない。
第十三條 受託者は、貸付信託の信託財産を、貸付及び手形の割引の方法以外の方法により運用してはならない。但し、信託契約の取扱期間中における当該信託契約に係る信託財産又は信託財産の運用上生じた余裕金については、この限りでない。
(特別留保金)
第十四條 受託者は、貸付信託について、元本に損失を生じた場合にこれを補てんする契約をしたときは、その補てんに充てるため、当該貸付信託の収益の計算の時期ごとに、その収益のうちから特別留保金を積み立て、当該貸付信託の信託財産に留保しなければならない。
2 受託者は、貸付信託の信託財産の元本に損失を生じた場合に限り、当該損失を補てんするため、前項の規定による特別留保金を取りくずすことができる。
3 第一項の規定により積み立てる特別留保金の限度及び積立の方法は、政令で定める。
4 受託者は、第一項の特別留保金の金額が、当該貸付信託に係る元本の償還によつて、前項の規定に基く政令で定める限度をこえることとなつたときは、そのこえる金額を、当該貸付信託に係る信託約款の変更により元本補てんの契約を解約したときは、特別留保金の金額を、それぞれ、信託報酬として取得しなければならない。
(通貨及証券模造取締法の準用)
第十五條 通貨及証券模造取締法(明治二十八年法律第二十八号)は、受益証券の模造について準用する。