朕雇員扶助令ヲ裁可シ玆ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
昭和三年六月八日
內閣總理大臣 男爵 田中義一
大藏大臣 三土忠造
勅令第百九號
雇員扶助令
第一條 政府ハ其ノ使用スル雇員ガ職務上傷痍ヲ受ケ、疾病ニ罹リ又ハ死亡シタル場合ニ於テハ本令ニ依リ扶助金ヲ支給ス
扶助金ノ支給ヲ受クベキ者法令ニ依リ同一ノ原因ニ付損害賠償ヲ受ケタルトキハ其ノ金額ハ扶助金ノ額ヨリ之ヲ控除ス
扶助金ノ支給ハ雇員ヲ解職スルモ變更スルコトナシ
第二條 扶助金ハ療治料、障害扶助料、打切扶助料、遺族扶助料及葬祭料ノ五種トシ左ノ區別ニ從ヒ別表ニ依リ之ヲ支給ス
一 療治料ハ傷痍ヲ受ケ又ハ疾病ニ罹リ療養ヲ要スル者ニシテ官費治療ヲ受ケザルモノニ之ヲ支給ス
二 障害扶助料ハ傷痍又ハ疾病ノ治癒シタル時ニ於テ仍身體ニ障害ヲ存スル者ニ之ヲ支給ス
三 打切扶助料ハ療養ノ期間一年六月ヲ經過スルモ傷痍又ハ疾病ノ治癒セザル者ニ之ヲ支給ス
四 遺族扶助料ハ死亡シタル者ノ遺族ニ之ヲ支給ス
五 葬祭料ハ葬祭ヲ行フ遺族ニ之ヲ支給ス葬祭ヲ行フ遺族ナキ場合ニ於テハ葬祭ヲ行フ者ニ之ヲ支給スルコトヲ得
打切扶助料ヲ支給スルトキハ以後本令ニ依ル他ノ扶助金ハ之ヲ支給セズ
雇員重大ナル過失ニ因リ傷痍ヲ受ケ、疾病ニ罹リ又ハ死亡シタル場合ニ於テハ障害扶助料又ハ遺族扶助料ヲ支給セザルコトヲ得
第三條 障害扶助料、打切扶助料又ハ遺族扶助料ノ額ハ別表金額ノ範圍內ニ於テ傷痍疾病又ハ死亡ノ原因、身體障害ノ輕重、勤務年限ノ長短其ノ他各種ノ事情ヲ斟酌シテ之ヲ定ム
第四條 療治料ハ每月一囘以上之ヲ拂渡スモノトス
障害扶助料ハ雇員ノ傷痍又ハ疾病ノ治癒後遲滯ナク、遺族扶助料及葬祭料ハ雇員ノ死亡後遲滯ナク之ヲ拂渡スモノトス
第五條 傷痍又ハ疾病ノ再發ニ因リ身體障害ノ程度ヲ加重シタル場合ニ於テハ障害扶助料ノ額ハ新ニ之ヲ定メ旣ニ支給シタル障害扶助料ノ金額ヲ控除シテ之ヲ支給ス
第六條 本令ニ於テ遺族トハ死亡者ノ配偶者、子、父、母、祖父、祖母及兄弟姉妹ニシテ死亡ノ當時之ト同一戶籍內ニ在ル者ヲ謂フ
第七條 遺族扶助料ハ前條ノ遺族ノ順位ニ依リ之ヲ支給ス
前項ノ規定ニ依ル同順位ノ子數人アルトキハ雇員ヲ被相續人トシタル家督相續ノ順位ニ準ジ之ヲ定ム
父母ニ付テハ養父母ヲ先ニシ實父母ヲ後ニス祖父母ニ付テハ養父母ノ父母ヲ先ニシ實父母ノ父母ヲ後ニシ父母ノ養父母ヲ先ニシ實父母ヲ後ニス
兄弟姉妹ニ遺族扶助料ヲ支給スルハ其ノ者ガ未成年又ハ不具癈疾ニシテ生活資料ヲ得ルノ途ナク且之ヲ扶養スル者ナキ場合ニ限ル
遺族扶助料ヲ支給スベキ順位ニ在ル者行衞不明ナルトキハ遺族扶助料ハ其ノ次順位ニ在ル者ニ之ヲ支給ス
第八條 雇員健康保險法(第四十八條第一項第二號ノ規定ヲ除ク)ニ依リ療養ノ給付又ハ療養費ノ支給ヲ受クベキトキハ其ノ期間療治料ヲ支給セズ
雇員ノ死亡ニ關シ健康保險法ニ依リ埋葬料又ハ埋葬ニ要シタル費用ノ支給アルベキトキハ葬祭料ハ之ヲ支給セズ但シ葬祭料ノ額ガ埋葬料又ハ埋葬ニ要シタル費用ノ額ヨリ多キトキハ其ノ差額ニ付テハ此ノ限ニ在ラズ
健康保險法第六十二條第一項(第二號ノ規定ヲ除ク)第二項又ハ第六十五條第二項ノ規定ニ依リ保險給付ヲ受ケザル場合ニ於テハ前二項ノ例ニ依リ療治料又ハ葬祭料ハ之ヲ支給セズ
第九條 解職後一年ヲ經過シタルトキハ本令ニ依ル扶助金ハ之ヲ請求スルコトヲ得ズ但シ解職前ニ又ハ解職後一年內ニ請求シタル扶助又ハ健康保險法ニ依ル保險給付ノ原因タル傷痍又ハ疾病ニ基キ扶助金ヲ請求スルトキハ此ノ限ニ在ラズ
第十條 扶助金算出ノ標準タル俸給月額ハ加俸ヲ含マザル基本給トシ日給者ニ在リテハ其ノ三十日分ヲ以テ月額ト看做ス
朝鮮、臺灣、關東州、樺太、南洋群島ニ在勤スル內地人又ハ外國ニ在勤スル者ニシテ別ニ在勤加俸ヲ受ケザル者ニ在リテハ其ノ在勤地ニ於ケル判任文官ノ月俸ト在勤加俸トノ割合ヲ斟酌シ大藏大臣ノ定ムル金額ヲ前項ノ金額ヨリ控除ス
第十一條 政府ヨリ給與金ヲ受クル相互救濟ヲ目的トスル組合ノ組合員タル現業雇員ニハ本令ニ依ル障害扶助料及遺族扶助料ハ之ヲ支給セズ
組合員タル現業雇員組合ヨリ療治料及葬祭料ニ相當スル給付ヲ受クベキトキハ第八條及第九條ノ規定ヲ準用シ打切扶助料ニ相當スル給付ヲ受クベキトキハ本令ニ依ル打切扶助料ハ之ヲ支給セズ
附 則
本令ハ公布ノ日ヨリ之ヲ施行ス
各廳技術工藝ノ者就業上死傷手當內規、臺灣總督府雇員傭員死沒傷痍疾病手當規則及朝鮮臺灣滿洲樺太竝在外陸海軍雇員傭人死傷手當金給與規則ハ之ヲ廢止ス但シ本令施行前給與原因ノ生ジタル手當金ノ支給ニ關シテハ從前ノ例ニ依ル
明治四十年勅令第百二十七號中第五條削除
明治四十二年勅令第百五十一號、大正八年勅令第八十號、同年勅令第三百六號、同年勅令第三百六十一號、大正九年勅令第五百十號、同年勅令第五百七十四號、大正十一年勅令第六十號及大正十四年勅令第二百十四號中各第五條ヲ削ル
他ノ法令ニ於テ各廳技術工藝ノ者就業上死傷手當內規、臺灣總督府雇員傭員死沒傷痍疾病手當規則又ハ朝鮮臺灣滿洲樺太竝在外陸海軍雇員傭人死傷手當金給與規則トアルハ之ヲ本令トス
職務上傷痍ヲ受ケ又ハ疾病ニ罹レル雇員ニシテ本令施行ノ際仍治癒セザル者ニ對スル本令施行後ノ扶助ハ本令ニ依ル
本令施行前治癒シタル職務上ノ傷痍又ハ疾病ガ本令施行前再發シ本令施行ノ際仍治癒セザルトキ又ハ本令施行後再發シタルトキハ本令ヲ適用ス但シ第五條ノ規定ノ適用ニ付テハ從前ノ規定ニ依ル扶助料及傷痍疾病手當金ハ之ヲ本令ニ依ル障害扶助料ト看做ス
(別表)
【表】
朕雇員扶助令ヲ裁可シ茲ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
昭和三年六月八日
内閣総理大臣 男爵 田中義一
大蔵大臣 三土忠造
勅令第百九号
雇員扶助令
第一条 政府ハ其ノ使用スル雇員ガ職務上傷痍ヲ受ケ、疾病ニ罹リ又ハ死亡シタル場合ニ於テハ本令ニ依リ扶助金ヲ支給ス
扶助金ノ支給ヲ受クベキ者法令ニ依リ同一ノ原因ニ付損害賠償ヲ受ケタルトキハ其ノ金額ハ扶助金ノ額ヨリ之ヲ控除ス
扶助金ノ支給ハ雇員ヲ解職スルモ変更スルコトナシ
第二条 扶助金ハ療治料、障害扶助料、打切扶助料、遺族扶助料及葬祭料ノ五種トシ左ノ区別ニ従ヒ別表ニ依リ之ヲ支給ス
一 療治料ハ傷痍ヲ受ケ又ハ疾病ニ罹リ療養ヲ要スル者ニシテ官費治療ヲ受ケザルモノニ之ヲ支給ス
二 障害扶助料ハ傷痍又ハ疾病ノ治癒シタル時ニ於テ仍身体ニ障害ヲ存スル者ニ之ヲ支給ス
三 打切扶助料ハ療養ノ期間一年六月ヲ経過スルモ傷痍又ハ疾病ノ治癒セザル者ニ之ヲ支給ス
四 遺族扶助料ハ死亡シタル者ノ遺族ニ之ヲ支給ス
五 葬祭料ハ葬祭ヲ行フ遺族ニ之ヲ支給ス葬祭ヲ行フ遺族ナキ場合ニ於テハ葬祭ヲ行フ者ニ之ヲ支給スルコトヲ得
打切扶助料ヲ支給スルトキハ以後本令ニ依ル他ノ扶助金ハ之ヲ支給セズ
雇員重大ナル過失ニ因リ傷痍ヲ受ケ、疾病ニ罹リ又ハ死亡シタル場合ニ於テハ障害扶助料又ハ遺族扶助料ヲ支給セザルコトヲ得
第三条 障害扶助料、打切扶助料又ハ遺族扶助料ノ額ハ別表金額ノ範囲内ニ於テ傷痍疾病又ハ死亡ノ原因、身体障害ノ軽重、勤務年限ノ長短其ノ他各種ノ事情ヲ斟酌シテ之ヲ定ム
第四条 療治料ハ毎月一回以上之ヲ払渡スモノトス
障害扶助料ハ雇員ノ傷痍又ハ疾病ノ治癒後遅滞ナク、遺族扶助料及葬祭料ハ雇員ノ死亡後遅滞ナク之ヲ払渡スモノトス
第五条 傷痍又ハ疾病ノ再発ニ因リ身体障害ノ程度ヲ加重シタル場合ニ於テハ障害扶助料ノ額ハ新ニ之ヲ定メ既ニ支給シタル障害扶助料ノ金額ヲ控除シテ之ヲ支給ス
第六条 本令ニ於テ遺族トハ死亡者ノ配偶者、子、父、母、祖父、祖母及兄弟姉妹ニシテ死亡ノ当時之ト同一戸籍内ニ在ル者ヲ謂フ
第七条 遺族扶助料ハ前条ノ遺族ノ順位ニ依リ之ヲ支給ス
前項ノ規定ニ依ル同順位ノ子数人アルトキハ雇員ヲ被相続人トシタル家督相続ノ順位ニ準ジ之ヲ定ム
父母ニ付テハ養父母ヲ先ニシ実父母ヲ後ニス祖父母ニ付テハ養父母ノ父母ヲ先ニシ実父母ノ父母ヲ後ニシ父母ノ養父母ヲ先ニシ実父母ヲ後ニス
兄弟姉妹ニ遺族扶助料ヲ支給スルハ其ノ者ガ未成年又ハ不具廃疾ニシテ生活資料ヲ得ルノ途ナク且之ヲ扶養スル者ナキ場合ニ限ル
遺族扶助料ヲ支給スベキ順位ニ在ル者行衛不明ナルトキハ遺族扶助料ハ其ノ次順位ニ在ル者ニ之ヲ支給ス
第八条 雇員健康保険法(第四十八条第一項第二号ノ規定ヲ除ク)ニ依リ療養ノ給付又ハ療養費ノ支給ヲ受クベキトキハ其ノ期間療治料ヲ支給セズ
雇員ノ死亡ニ関シ健康保険法ニ依リ埋葬料又ハ埋葬ニ要シタル費用ノ支給アルベキトキハ葬祭料ハ之ヲ支給セズ但シ葬祭料ノ額ガ埋葬料又ハ埋葬ニ要シタル費用ノ額ヨリ多キトキハ其ノ差額ニ付テハ此ノ限ニ在ラズ
健康保険法第六十二条第一項(第二号ノ規定ヲ除ク)第二項又ハ第六十五条第二項ノ規定ニ依リ保険給付ヲ受ケザル場合ニ於テハ前二項ノ例ニ依リ療治料又ハ葬祭料ハ之ヲ支給セズ
第九条 解職後一年ヲ経過シタルトキハ本令ニ依ル扶助金ハ之ヲ請求スルコトヲ得ズ但シ解職前ニ又ハ解職後一年内ニ請求シタル扶助又ハ健康保険法ニ依ル保険給付ノ原因タル傷痍又ハ疾病ニ基キ扶助金ヲ請求スルトキハ此ノ限ニ在ラズ
第十条 扶助金算出ノ標準タル俸給月額ハ加俸ヲ含マザル基本給トシ日給者ニ在リテハ其ノ三十日分ヲ以テ月額ト看做ス
朝鮮、台湾、関東州、樺太、南洋群島ニ在勤スル内地人又ハ外国ニ在勤スル者ニシテ別ニ在勤加俸ヲ受ケザル者ニ在リテハ其ノ在勤地ニ於ケル判任文官ノ月俸ト在勤加俸トノ割合ヲ斟酌シ大蔵大臣ノ定ムル金額ヲ前項ノ金額ヨリ控除ス
第十一条 政府ヨリ給与金ヲ受クル相互救済ヲ目的トスル組合ノ組合員タル現業雇員ニハ本令ニ依ル障害扶助料及遺族扶助料ハ之ヲ支給セズ
組合員タル現業雇員組合ヨリ療治料及葬祭料ニ相当スル給付ヲ受クベキトキハ第八条及第九条ノ規定ヲ準用シ打切扶助料ニ相当スル給付ヲ受クベキトキハ本令ニ依ル打切扶助料ハ之ヲ支給セズ
附 則
本令ハ公布ノ日ヨリ之ヲ施行ス
各庁技術工芸ノ者就業上死傷手当内規、台湾総督府雇員傭員死没傷痍疾病手当規則及朝鮮台湾満洲樺太並在外陸海軍雇員傭人死傷手当金給与規則ハ之ヲ廃止ス但シ本令施行前給与原因ノ生ジタル手当金ノ支給ニ関シテハ従前ノ例ニ依ル
明治四十年勅令第百二十七号中第五条削除
明治四十二年勅令第百五十一号、大正八年勅令第八十号、同年勅令第三百六号、同年勅令第三百六十一号、大正九年勅令第五百十号、同年勅令第五百七十四号、大正十一年勅令第六十号及大正十四年勅令第二百十四号中各第五条ヲ削ル
他ノ法令ニ於テ各庁技術工芸ノ者就業上死傷手当内規、台湾総督府雇員傭員死没傷痍疾病手当規則又ハ朝鮮台湾満洲樺太並在外陸海軍雇員傭人死傷手当金給与規則トアルハ之ヲ本令トス
職務上傷痍ヲ受ケ又ハ疾病ニ罹レル雇員ニシテ本令施行ノ際仍治癒セザル者ニ対スル本令施行後ノ扶助ハ本令ニ依ル
本令施行前治癒シタル職務上ノ傷痍又ハ疾病ガ本令施行前再発シ本令施行ノ際仍治癒セザルトキ又ハ本令施行後再発シタルトキハ本令ヲ適用ス但シ第五条ノ規定ノ適用ニ付テハ従前ノ規定ニ依ル扶助料及傷痍疾病手当金ハ之ヲ本令ニ依ル障害扶助料ト看做ス
(別表)
【表】