朕帝國議會ノ協贊ヲ經タル所得稅法改正法律ヲ裁可シ玆ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
大正九年七月三十一日
內閣總理大臣 原敬
大藏大臣 男爵 高橋是淸
法律第十一號
所得稅法
第一條 本法施行地ニ住所ヲ有シ又ハ一年以上居所ヲ有スル者ハ本法ニ依リ所得稅ヲ納ムル義務アルモノトス
第二條 前條ノ規定ニ該當セサル者左ノ各號ノ一ニ該當スルトキハ其ノ所得ニ付テノミ所得稅ヲ納ムル義務アルモノトス
一 本法施行地ニ資產又ハ營業ヲ有スルトキ
二 本法施行地ニ於テ公債、社債、銀行定期預金又ハ定期預金ノ性質ヲ有スル銀行預金ノ利子支拂ヲ受クルトキ
三 本法施行地ニ本店又ハ主タル事務所ヲ有スル法人ヨリ利益若ハ利息ノ配當、剩餘金ノ分配又ハ利益若ハ剩餘金ノ處分タル賞與若ハ賞與ノ性質ヲ有スル給與ヲ受クルトキ
第三條 所得稅ハ左ノ所得ニ付之ヲ賦課ス
第一種
甲 法人ノ超過所得
乙 法人ノ留保所得
丙 法人ノ配當所得
丁 法人ノ淸算所得
戊 本法施行地ニ本店又ハ主タル事務所ヲ有セサル法人ノ本法施行地ニ於ケル資產又ハ營業ヨリ生スル所得
第二種
甲 本法施行地ニ於テ支拂ヲ受クル公債、社債、銀行定期預金又ハ定期預金ノ性質ヲ有スル銀行預金ノ利子
乙 第一條ノ規定ニ該當セサル者ノ本法施行地ニ本店又ハ主タル事務所ヲ有スル法人ヨリ受クル利益若ハ利息ノ配當、剩餘金ノ分配又ハ利益若ハ剩餘金ノ處分タル賞與若ハ賞與ノ性質ヲ有スル給與
第三種
第二種ニ屬セサル個人ノ所得
第四條 法人ノ所得ハ各事業年度ノ總益金ヨリ總損金ヲ控除シタル金額ニ依ル但シ保險會社ニ在リテハ各事業年度ノ利益金又ハ剩餘金ニ依ル
本法施行地ニ本店又ハ主タル事務所ヲ有セサル法人ノ所得ハ本法施行地ニ於ケル資產又ハ營業ニ付前項ノ規定ニ準シ之ヲ計算ス
法人カ事業年度中ニ解散シ又ハ合併ニ因リテ消滅シタル場合ニ於テハ其ノ事業年度ノ始ヨリ解散又ハ合併ニ至ル迄ノ期間ヲ以テ一事業年度ト看做ス
第五條 法人ノ各事業年度ノ所得カ同年度ノ資本金額ニ對シ年百分ノ十ノ割合ヲ以テ算出シタル金額ヲ超過スルトキハ其ノ超過金額ヲ以テ法人ノ超過所得トス
第六條 法人ノ各事業年度ノ資本金額ハ各月末ニ於ケル拂込株式金額、出資金額又ハ基金及積立金額ノ月割平均ヲ以テ之ヲ計算ス
前項計算ノ場合ニ於テ繰越缺損金アルトキハ其ノ各月末ニ於ケル金額ノ月割平均ヲ以テ之ヲ計算シ資本金額ヨリ控除ス
第七條 本法施行地ニ本店若ハ主タル事務所ヲ有セサル法人又ハ所得稅ヲ課スヘキ所得ト其ノ他ノ所得トヲ有スル法人ノ各事業年度ノ資本金額ハ命令ノ定ムル所ニ依リ之ヲ計算ス
第八條 本法ニ於テ積立金ト稱スルハ積立金其ノ他名義ノ何タルヲ問ハス法人ノ所得中其ノ留保シタルモノヲ謂フ
第九條 法人ノ各事業年度ノ所得中積立金ト爲シタル金額ヲ以テ法人ノ留保所得トス
法人カ積立金ヲ減少シタルトキハ其ノ減少額ヲ塡補スルニ至ル迄其ノ後ノ各事業年度ノ留保所得ニ付所得稅ヲ課セス
積立金ヲ減少シタル法人カ合併ニ因リテ消滅シタルトキハ合併後存續スル法人又ハ合併ニ因リテ設立シタル法人ニ付前項ノ規定ヲ適用ス但シ合併ノ際合併ニ因リテ消滅シタル法人ノ積立金ヲ以テ合併後存續スル法人又ハ合併ニ因リテ設立シタル法人ノ株式金額又ハ出資金額ニ充當シタルモノニ付テハ此ノ限ニ在ラス
第十條 法人ノ各事業年度ノ所得中利益ノ配當又ハ剩餘金ノ分配ニ充當シタル金額ヲ以テ法人ノ配當所得トス
法人ノ積立金ヲ減少シテ利益ノ配當又ハ剩餘金ノ分配ニ充當シタル金額ハ之ヲ前項ノ配當所得ニ加算ス
第十一條 法人解散シタル場合ニ於テ其ノ殘餘財產ノ價額カ解散當時ノ拂込株式金額、出資金額、積立金及最後ノ事業年度ニ於ケル留保所得ノ合計金額ヲ超過スルトキハ其ノ超過金額ヲ以テ法人ノ淸算所得トス
法人合併ヲ爲シタル場合ニ於テ合併ニ因リテ消滅シタル法人ノ株主又ハ社員カ合併後存續スル法人若ハ合併ニ因リテ設立シタル法人ヨリ合併ニ因リテ取得スル株式ノ拂込濟金額又ハ出資金額及金錢ノ總額カ合併ニ因リテ消滅シタル法人ノ合併當時ノ拂込株式金額、出資金額、積立金及最後ノ事業年度ニ於ケル留保所得ノ合計金額ヲ超過スルトキハ其ノ超過金額ハ之ヲ合併ニ因リテ消滅シタル法人ノ淸算所得ト看做ス
第十二條 合併後存續スル法人又ハ合併ニ因リテ設立シタル法人ハ合併ニ因リテ消滅シタル法人ノ所得ニ付所得稅ヲ納ムル義務アルモノトス
第十三條 第二種ノ所得ハ其ノ支拂ヲ受クヘキ金額ニ依ル
第十四條 第三種ノ所得ハ左ノ各號ノ規定ニ依リ之ヲ算出ス
一 俸給給料歲費年金恩給退隱料及此等ノ性質ヲ有スル給與、營業ニ非サル貸金ノ利子竝第二種ノ所得ニ屬セサル公債社債及預金ノ利子ハ其ノ收入豫算年額
二 田又ハ畑ノ所得ハ前三年間每年ノ總收入金額ヨリ必要ノ經費ヲ控除シタルモノノ平均ニ依リ算出シタル收入豫算年額但シ前三年以來引續キ自作セス、小作セス又ハ小作ニ付セサル田又ハ畑ニ在リテハ近傍類地ノ所得ニ依リ算出シタル收入豫算年額
三 山林ノ所得ハ前年ノ總收入金額ヨリ必要ノ經費ヲ控除シタル金額
四 賞與又ハ賞與ノ性質ヲ有スル給與ハ前年四月一日ヨリ其ノ年三月末日ニ至ル期間ノ收入金額
五 法人ヨリ受クル利益若ハ利息ノ配當又ハ剩餘金ノ分配ハ前年四月一日ヨリ其ノ年三月末日ニ至ル期間ノ收入金額ヨリ其ノ十分ノ四ニ相當スル金額ヲ控除シタル金額但シ無記名式ノ株式ヲ有スル者ノ受クル配當ハ同期間ニ於テ支拂ヲ受ケタル金額ヨリ其ノ十分ノ四ニ相當スル金額ヲ控除シタル金額
六 前各號以外ノ所得ハ總收入金額ヨリ必要ノ經費ヲ控除シタル收入豫算年額
法人ノ社員其ノ退社ニ因リ持分ノ拂戾トシテ受クル金額カ其ノ退社當時ニ於ケル出資金額ヲ超過スルトキハ其ノ超過金額ハ之ヲ其ノ法人ヨリ受クル利益ノ配當ト看做ス株式ノ消却ニ因リ支拂ヲ受クル金額カ其ノ株式ノ拂込濟金額ヲ超過スルトキハ其ノ超過金額亦同シ
第十五條 前條ノ規定ニ依リ算出シタル金額一萬二千圓以下ナルトキハ其ノ所得中俸給給料歲費年金恩給退隱料賞與及此等ノ性質ヲ有スル給與ニ付テハ其ノ十分ノ一、六千圓以下ナルトキハ同十分ノ二ニ相當スル金額ヲ控除ス
戶主及其ノ同居家族ノ所得ハ之ヲ合算シ其ノ總額ニ付前項ノ規定ヲ適用ス戶主ト別居スル二人以上ノ同居家族ノ所得ニ付亦同シ
第十六條 前二條ノ規定ニ依リ算出シタル金額三千圓以下ナル場合ニ於テ其ノ年四月一日現在ノ同居ノ戶主及家族中年齡十八歲未滿若ハ六十歲以上ノ者又ハ不具癈疾者アルトキハ其ノ所得ヲ有スル者ノ申請ニ依リ其ノ所得ヨリ左ノ各號ノ規定ニ依ル金額ヲ控除ス但シ第二條ノ規定ニ依ル納稅義務者ニ付テハ此ノ限ニ在ラス
一 所得千圓以下ナルトキ 年齡十八歲未滿若ハ六十歲以上ノ者又ハ不具癈疾者 一人ニ付百圓
二 所得二千圓以下ナルトキ 同 一人ニ付七十圓
三 所得三千圓以下ナルトキ 同 一人ニ付五十圓
戶主及其ノ同居家族ノ所得ハ之ヲ合算シ其ノ總額ニ付前項ノ規定ヲ適用ス戶主ト別居スル二人以上ノ同居家族ノ所得ニ付亦同シ
前項ノ場合ニ於テハ所得ヨリ控除セラルヘキ金額ハ各其ノ所得ニ案分シテ之ヲ計算ス
同一人ニシテ山林ノ所得ト山林以外ノ所得トヲ有スル場合ニ於テハ前三項ノ規定ニ依ル控除ハ先ツ山林以外ノ所得ニ付之ヲ爲シ不足アルトキハ山林ノ所得ニ及フ
第一項ノ不具癈疾者ハ命令ヲ以テ之ヲ定ム
第十七條 北海道府縣郡市町村其ノ他命令ヲ以テ指定スル公共團體、神社、寺院、祠宇、佛堂及民法第三十四條ノ規定ニ依リ設立シタル法人ニハ所得稅ヲ課セス
第十八條 第三種ノ所得ニシテ左ノ各號ニ該當スルモノニハ所得稅ヲ課セス
一 軍人從軍中ノ俸給及手當
二 扶助料及傷痍疾病者ノ恩給又ハ退隱料
三 旅費、學資金及法定扶養料
四 郵便貯金、產業組合貯金及銀行貯蓄預金ノ利子
五 營利ノ事業ニ屬セサル一時ノ所得
六 日本ノ國籍ヲ有セサル者ノ本法施行地外ニ於ケル資產、營業又ハ職業ヨリ生スル所得
七 乘馬ヲ有スル義務アル軍人カ政府ヨリ受クル馬糧、繫畜料及馬匹保續料
第十九條 勅令ヲ以テ指定シタル重要物產ノ製造業ヲ營ム者ニハ命令ノ定ムル所ニ依リ開業ノ年及其ノ翌年ヨリ三年間其ノ業務ヨリ生スル所得ニ付所得稅ヲ免除ス
第二十條 第三種ノ所得ハ八百圓ニ滿タサルトキハ所得稅ヲ課セス第十五條及第十六條ノ規定ニ依ル控除ヲ爲シタル爲八百圓ニ滿タサルニ至リタルトキ亦同シ
戶主及其ノ同居家族ノ所得ハ之ヲ合算シ其ノ總額ニ付前項ノ規定ヲ適用ス戶主ト別居スル二人以上ノ同居家族ノ所得ニ付亦同シ
第二十一條 第一種ノ所得ニ對スル所得稅ハ左ノ稅率ニ依リ之ヲ賦課ス
甲 超過所得金額ヲ左ノ各級ニ區分シ遞次ニ各稅率ヲ適用ス
所得金額中資本金額ニ對シ年百分ノ十ノ割合ヲ以テ算出シタル金額ヲ超ユル金額 百分ノ四
同百分ノ二十ノ割合ヲ以テ算出シタル金額ヲ超ユル金額 百分ノ十
同百分ノ三十ノ割合ヲ以テ算出シタル金額ヲ超ユル金額 百分ノ二十
乙 百分ノ五
丙 百分ノ五
丁 百分ノ七、五
戊 百分ノ七、五
法人ノ事業年度末ニ於ケル積立金及其ノ事業年度ニ於ケル留保所得ノ合計金額カ其ノ事業年度末ニ於ケル拂込株式金額、出資金額又ハ基金及之ニ代ルヘキ積立金ノ合計金額ノ二分ノ一ニ相當スル金額ヲ超過スルトキハ其ノ超過金額ニ屬スル其ノ事業年度ノ留保所得ニ對スル稅率ハ百分ノ十トシ其ノ事業年度末ニ於ケル拂込株式金額、出資金額又ハ基金及之ニ代ルヘキ積立金ノ合計金額ニ相當スル金額ヲ超過スルトキハ其ノ超過金額ニ屬スル其ノ事業年度ノ留保所得ニ對スル稅率ハ百分ノ二十トス但シ其ノ事業年度ニ於ケル所得ノ二十分ノ一ニ相當スル金額以內ノ金額ニ付テハ其ノ稅率ハ百分ノ五トス
第二十二條 第二種ノ所得ニ對スル所得稅ハ左ノ稅率ニ依リ之ヲ賦課ス
甲 公債ノ利子 百分ノ四
其ノ他 百分ノ五
乙 百分ノ七、五
第二十三條 第三種ノ所得ニ對スル所得稅ハ所得金額ヲ左ノ各級ニ區分シ遞次ニ各稅率ヲ適用シテ之ヲ賦課ス但シ山林ノ所得ト山林以外ノ所得トハ之ヲ區分シ各別ニ稅率ヲ適用ス
八百圓以下ノ金額 百分ノ〇、五
八百圓ヲ超ユル金額 百分ノ一
千圓ヲ超ユル金額 百分ノ二
千五百圓ヲ超ユル金額 百分ノ三
二千圓ヲ超ユル金額 百分ノ四
三千圓ヲ超ユル金額 百分ノ五
五千圓ヲ超ユル金額 百分ノ六、五
七千圓ヲ超ユル金額 百分ノ八
一萬圓ヲ超ユル金額 百分ノ九、五
一萬五千圓ヲ超ユル金額 百分ノ十一
二萬圓ヲ超ユル金額 百分ノ十三
三萬圓ヲ超ユル金額 百分ノ十五
五萬圓ヲ超ユル金額 百分ノ十七
七萬圓ヲ超ユル金額 百分ノ十九
十萬圓ヲ超ユル金額 百分ノ二十一
二十萬圓ヲ超ユル金額 百分ノ二十三
五十萬圓ヲ超ユル金額 百分ノ二十五
百萬圓ヲ超ユル金額 百分ノ二十七
二百萬圓ヲ超ユル金額 百分ノ三十
三百萬圓ヲ超ユル金額 百分ノ三十三
四百萬圓ヲ超ユル金額 百分ノ三十六
前項ノ場合ニ於テ戶主及其ノ同居家族ノ所得金額ハ之ヲ合算シ其ノ總額ニ對シ稅率ヲ適用シテ算出シタル金額ヲ各其ノ所得金額ニ案分シテ各其ノ稅額ヲ定ム戶主ト別居スル二人以上ノ同居家族ノ所得金額ニ付亦同シ
第二十四條 第一種ノ所得ニ付納稅義務アル者ハ命令ノ定ムル所ニ依リ財產目錄、貸借對照表、損益計算書又ハ淸算若ハ合併ニ關スル計算書竝第四條乃至第十一條ノ規定ニ依リ計算シタル所得及資本金額ノ明細書ヲ添附シ其ノ所得ヲ政府ニ申告スヘシ但シ本法施行地ニ本店又ハ主タル事務所ヲ有セサル法人ハ本法施行地ニ於ケル資產又ハ營業ニ關スル損益ヲ計算シタル所得及資本金額ノ明細書ヲ添附スヘシ
前項ノ規定ハ第一種ノ所得ニ付所得稅ヲ課セラルヘキ法人ニ付其ノ所得ナキ場合ニ之ヲ準用ス
第二十五條 第三種ノ所得ニ付納稅義務アル者ハ每年四月中ニ所得ノ種類及金額ヲ詳記シ政府ニ申告スヘシ
第十六條ノ規定ニ依ル控除ヲ受ケムトスル者ハ前項ノ申告ト同時ニ命令ノ定ムル所ニ依リ其ノ申請書ヲ提出スヘシ
第二十六條 第一種ノ所得金額ハ第二十四條ノ申告ニ依リ、申告ナキトキ又ハ申告ヲ不相當ト認ムルトキハ政府ノ調查ニ依リ政府ニ於テ之ヲ決定シ第三種ノ所得金額ハ所得調查委員會ノ調查ニ依リ政府ニ於テ之ヲ決定ス
所得調查委員會閉會後第三種ノ所得ヲ有スル者納稅義務アルコトヲ申出テ又ハ納稅義務者所得金額ノ增加アルコトヲ申出テタルトキハ政府ニ於テ其ノ所得金額ヲ決定ス
第二十七條 稅務署長ハ每年第三種ノ所得ニ付納稅義務アリト認ムル者ノ所得金額ヲ調查シ其ノ調查書ヲ所得調查委員會ニ送付スヘシ
第二十八條 各稅務署所轄內ニ所得調查委員會ヲ置ク但シ稅務署所轄內ニ在ル市又ハ北海道、沖繩縣ノ區ニ付テハ命令ヲ以テ特ニ所得調查委員會ヲ置クコトヲ得
調查委員ノ定數ハ命令ヲ以テ之ヲ定ム但シ定數ノ增減ハ改選期ニ於テスルノ外之ヲ爲スコトヲ得ス
第二十九條 調查委員ハ各選擧區ニ於テ之ヲ選擧ス
調查委員ヲ選擧スルトキハ同時ニ之ト同數ノ補闕員ヲ選擧スヘシ
第三十條 調查委員及補闕員ノ選擧區域ハ所得調查委員會ヲ置クヘキ區域ニ依リ投票區及開票區ハ市町村又ハ北海道、沖繩縣ノ區ノ區域ニ依ル但シ市制第六條ノ規定ニ依リ指定セラレタル市ニ在リテハ區ノ區域ニ依ル
第三十一條 選擧區域內ニ住居シ前年第三種ノ所得稅ヲ納メ其ノ年第二十五條ノ申告ヲ爲シタル者ニシテ選擧人名簿ニ登錄セラレタルモノハ調查委員及補闕員ヲ選擧シ又ハ調查委員若ハ補闕員ニ選擧セラルルコトヲ得但シ左ノ各號ノ一ニ該當スル者ハ此ノ限ニ在ラス
一 無能力者
二 破產若ハ家資分散ノ宣告ヲ受ケ復權セサル者又ハ身代限ノ處分ヲ受ケ債務ノ辨濟ヲ了ヘサル者
三 國稅滯納處分ヲ受ケタル後一年ヲ經サル者
四 六年以上ノ懲役若ハ禁錮ノ刑ニ處セラレ又ハ舊刑法ノ重罪ノ刑ニ處セラレタル者
五 六年未滿ノ懲役又ハ禁錮ノ刑ニ處セラレタル者ニシテ其ノ刑ノ執行ヲ終リ又ハ執行ヲ受クルコトナキニ至ル迄ノ者
六 第七十四條乃至第七十六條ノ規定ニ依リ處罰セラレタル後五年ヲ經サル者
前項ノ場合ニ於テ被相續人ノ爲シタル納稅又ハ申告ハ其ノ相續人ノ納稅又ハ申告ト看做ス
選擧人名簿ニ關スル規定ハ命令ヲ以テ之ヲ定ム
第三十二條 投票及開票ニ關スル事務ハ市區町村長又ハ戶長之ヲ擔任シ選擧會ニ關スル事務ハ稅務署長之ヲ擔任ス
第三十三條 稅務署長ハ調查委員及補闕員ノ選擧期日ヲ定メ之ヲ市區町村長又ハ戶長ニ通知スヘシ
市區町村長又ハ戶長前項ノ通知ヲ受ケタルトキハ少クトモ選擧期日七日前其ノ旨ヲ公示スヘシ
第三十四條 選擧ハ無記名投票ヲ以テ之ヲ行フ
投票ハ調查委員及補闕員ノ各選擧ニ付一人一票ニ限ル
選擧人ハ選擧ノ當日投票時間內ニ自ラ投票所ニ至リ被選擧人各一人ノ氏名ヲ各別ノ投票用紙ニ記載シテ投票スヘシ
投票用紙ハ選擧ノ當日投票所ニ於テ之ヲ選擧人ニ交付ス
第三十五條 市區町村長又ハ戶長ハ投票ヲ調查シ直ニ其ノ結果ヲ稅務署長ニ報告スヘシ
第三十六條 稅務署長前條ノ報告ヲ受ケタルトキハ選擧會ヲ開キ之ヲ調查スヘシ
第三十七條 投票、開票及選擧會ニハ立會人ヲ立會ハシムヘシ
立會人ニ關スル規定ハ命令ヲ以テ之ヲ定ム
第三十八條 投票ノ多數ヲ得タル者ヲ以テ當選人トス投票ノ數同シキトキハ年齡多キ者ヲ取リ年齡同シキトキハ抽籤ヲ以テ之ヲ定ム
調查委員ニ當選シタル者同時ニ補闕員ニ當選スルモ補闕員タルコトヲ得ス
第三十九條 調查委員及補闕員ノ選擧終了シタルトキハ稅務署長ハ當選人ノ氏名ヲ公示シ且之ヲ當選人及市區町村長又ハ戶長ニ通知スヘシ
市區町村長又ハ戶長前項ノ通知ヲ受ケタルトキハ當選人ノ氏名ヲ公示スヘシ
第四十條 調查委員又ハ補闕員ニ當選シタル者ハ正當ノ事故ナクシテ之ヲ辭スルコトヲ得ス
第四十一條 調查委員及補闕員ノ任期ハ選擧期日ノ屬スル月ヨリ四年トス但シ選擧區域ニ變更ヲ生シタル場合ニ於テハ其ノ任期ハ選擧區域ニ變更ヲ生シタル日ノ屬スル月ヲ以テ終了スルモノトス
第四十二條 調查委員及補闕員ノ改選ハ前任者ノ任期終了ノ月ノ翌月ニ於テ之ヲ行フ
第四十三條 調查委員ニ闕員ヲ生シタルトキハ投票ノ最多數ヲ得タル補闕員ヨリ順次之ヲ補充シ投票ノ數同シキトキハ年齡多キ者ヲ取リ年齡同シキトキハ抽籤ヲ以テ之ヲ定ム
調查委員ニ闕員ヲ生シ之ヲ補充スヘキ補闕員ナキトキハ調查委員ノ補闕選擧ヲ行フ
第四十四條 前條ノ規定ニ依リ調查委員又ハ補闕員ト爲リタル者ハ前任者ノ殘任期間在任ス
選擧區域ノ變更ニ因リ新ニ選擧セラレタル調查委員及補闕員ノ任期ハ選擧區域變更前ニ於ケル調查委員及補闕員ノ選擧期日ノ屬スル月ヨリ四年ヲ以テ終了ス
第四十五條 調查委員又ハ補闕員第三十一條第一項各號ノ一ニ該當スルニ至リタルトキ、第三種ノ所得ニ付納稅義務ヲ有セサルニ至リタルトキ又ハ其ノ選擧區域內ニ住居セサルニ至リタルトキハ其ノ職ヲ失フ
第四十六條 所得調查委員會ノ開會日數ハ三十日以內トシ地方ノ情況ニ依リ命令ヲ以テ之ヲ定ム
第四十七條 所得調查委員會ハ稅務署長ノ通知ニ依リ之ヲ開ク
第四十八條 所得調查委員會ハ每年開會ノ始ニ於テ調查委員中ヨリ會長ヲ選擧スヘシ
第四十九條 所得調查委員會ハ定員ノ過半數ニ當ル委員出席スルニ非サレハ決議スルコトヲ得ス
議事ハ出席員ノ多數ヲ以テ之ヲ決ス可否同數ナルトキハ會長ノ決スル所ニ依ル
第五十條 調查委員ハ自己及自己ト同一戶籍內ニ在ル者ノ所得ニ關スル議事ニ與ルコトヲ得ス
第五十一條 八月三十日迄ニ所得調查委員會成立セサルトキハ政府ニ於テ所得金額ヲ決定ス
所得調查委員會開會ノ日ヨリ第四十六條ノ期間內又ハ八月三十日迄ニ調查結了セサルトキハ政府ニ於テ調查未濟ノ所得金額ヲ決定ス
第五十二條 政府ハ所得調查委員會ノ決議ヲ不當ト認ムルトキハ七日以內ノ期間ヲ定メ之ヲ再調查ニ付ス仍其ノ決議ヲ不當ト認ムルトキ又ハ再調查期間內ニ調查結了セサルトキハ政府ニ於テ所得金額ヲ決定ス
第五十三條 稅務署長又ハ其ノ代理官ハ所得調查委員會ニ出席シ意見ヲ陳述スルコトヲ得
第五十四條 調查委員ニハ手當及旅費ヲ給ス
第五十五條 本法施行地ニ於テ利子支拂ヲ爲スヘキ公債又ハ社債ヲ募集シタル者ハ遲滯ナク其ノ公債又ハ社債ニ付左ノ事項ヲ記載シタル調書ヲ政府ニ提出スヘシ
一 公債又ハ社債ノ名稱及其ノ總額
二 利子支拂期限及利率
三 償還ノ方法及期限
四 數囘ニ分チテ拂込ヲ爲サシムルトキハ其ノ拂込ノ金額及時期
第五十六條 第三種ノ所得ニ屬スル俸給給料歲費年金恩給退隱料賞與若ハ此等ノ性質ヲ有スル給與ノ支拂ヲ爲ス者又ハ利益若ハ利息ノ配當若ハ剩餘金ノ分配ヲ爲ス法人ハ命令ノ定ムル所ニ依リ支拂調書ヲ政府ニ提出スヘシ
前項ノ支拂調書ヲ提出シタル者ニ對シテハ命令ノ定ムル金額ヲ交付スルコトヲ得
第五十七條 稅務署長又ハ其ノ代理官ハ調查上必要アルトキハ納稅義務者、納稅義務アリト認ムル者又ハ前條第一項ノ支拂調書ヲ提出スル義務アル者ニ質問スルコトヲ得
第五十八條 稅務署長又ハ其ノ代理官ハ調查上必要アルトキハ納稅義務者又ハ納稅義務アリト認ムル者ニ金錢又ハ物品ヲ支拂フノ義務ヲ有スト認ムル者ニ對シ其ノ金額、數量、價格又ハ支拂期日ニ付質問スルコトヲ得
第五十九條 第二十六條、第五十一條又ハ第五十二條ノ規定ニ依リ第一種又ハ第三種ノ所得金額ヲ決定シタルトキハ政府ハ之ヲ納稅義務者ニ通知スヘシ
本法施行地內ニ住所又ハ居所ヲ有セサル納稅義務者納稅管理人ノ申告ヲ爲ササルトキハ前項ノ通知ハ公告ヲ以テ之ヲ爲スコトヲ得此ノ場合ニ於テ公告ノ初日ヨリ七日ヲ經過シタルトキハ其ノ通知アリタルモノト看做ス
第六十條 納稅義務者前條ノ規定ニ依リ政府ノ通知シタル所得金額ニ對シテ異議アルトキハ通知ヲ受ケタル日ヨリ二十日內ニ不服ノ事由ヲ具シ政府ニ審查ノ請求ヲ爲スコトヲ得
前項ノ請求アリタル場合ト雖政府ハ稅金ノ徵收ヲ猶豫セス
第六十一條 前條第一項ノ請求アリタルトキハ所得審查委員會ノ決議ニ依リ政府ニ於テ之ヲ決定ス
所得審查委員會ハ前條第一項ノ請求ヲ爲シタル者ニ對シ其ノ所得ニ關スル事實ヲ質問スルコトヲ得
第五十二條ノ規定ハ所得審查委員會ノ決議ニ之ヲ準用ス
第六十二條 各稅務監督局所轄內ニ所得審查委員會ヲ置ク
所得審查委員會ハ左ノ審查委員ヲ以テ之ヲ組織ス
一 收稅官吏中ヨリ大藏大臣ノ命シタル者三人
二 稅務監督局所轄內各府縣又ハ北海道ニ於テ調查委員ノ互選シタル者府縣ニ在リテハ各一人北海道ニ在リテハ四人
所得審查委員會、審查委員及其ノ補闕員ニ關スル事項ハ本法ニ定ムルモノヲ除クノ外命令ヲ以テ之ヲ定ム
第六十三條 調查委員ヨリ選擧セラレタル審查委員ニハ日當及旅費ヲ給ス
第六十四條 第三種ノ所得ニ付納稅義務アル者收入豫算年額四分ノ一以上ヲ減損シタルトキハ政府ニ所得金額ノ更訂ノ請求ヲ爲スコトヲ得但シ翌年一月三十一日ヲ過キタルトキハ此ノ限ニ在ラス
所得金額決定後贈與ヲ爲シタル爲所得金額ヲ減損シタル場合ニハ前項ノ規定ヲ適用セス
第六十五條 前條第一項ノ請求アリタルトキハ政府ハ所得金額ヲ查覈シ收入豫算年額ニ對シ四分ノ一以上ノ減損アルトキハ之ヲ更訂ス
第六十六條 納稅義務者第六十一條ノ決定又ハ前條ノ更訂處分ニ對シ不服アルトキハ訴願又ハ行政訴訟ヲ爲スコトヲ得
第六十七條 第一種ノ所得ニ付テハ事業年度每ニ所得稅ヲ徵收ス但シ淸算所得ニ付テハ淸算又ハ合併ノ際之ヲ徵收ス
第二種ノ所得ニ付テハ其ノ金額支拂ノ際支拂者其ノ所得稅ヲ徵收シ翌月十日迄ニ之ヲ政府ニ納ムヘシ
第三種ノ所得ニ付テハ所得稅ノ年額ヲ四分シ左ノ四期ニ於テ之ヲ徵收ス但シ納稅義務者納稅管理人ノ申告ヲ爲サスシテ本法施行地外ニ住所又ハ居所ヲ移ストキハ直ニ其ノ所得稅ヲ徵收スルコトヲ得
第一期 其ノ年九月一日ヨリ三十日限
第二期 其ノ年十一月一日ヨリ三十日限
第三期 翌年一月一日ヨリ三十一日限
第四期 翌年三月一日ヨリ三十一日限
第六十八條 前條第二項ノ規定ニ依リ徵收スヘキ所得稅ヲ徵收セサルトキ又ハ其ノ徵收シタル稅金ヲ納付セサルトキハ國稅徵收ノ例ニ依リ之ヲ支拂者ヨリ徵收ス
第六十九條 法人解散シタル場合ニ於テ淸算所得ニ對スル所得稅又ハ前條ノ規定ニ依リ徵收セラルル稅金ヲ納付セスシテ殘餘財產ヲ分配シタルトキハ其ノ稅金ニ付淸算人連帶シテ納稅ノ義務アルモノトス
第七十條 第六十四條第一項ノ請求アリタルトキハ政府ハ更訂處分ノ確定スルニ至ル迄稅金ノ徵收ヲ猶豫スルコトヲ得
第七十一條 第三種ノ所得ニ付二以上ノ稅務署所轄內ニ於テ所得金額ノ決定アリタルトキハ政府ハ納稅義務者ノ住所地以外、住所ナキトキハ居所地以外ニ於ケル所得金額ノ決定ヲ取消スヘシ
第七十二條 第三種ノ所得ニ對スル所得稅ハ納稅義務者ノ住所地、住所ナキトキハ居所地ヲ以テ納稅地トス但シ住所地以外ニ在ル者ハ申告シテ居所地ニ於テ所得稅ヲ納ムルコトヲ得
本法施行地ニ住所及居所ナキ者ハ納稅地ヲ定メ政府ニ申告スヘシ申告ナキトキハ政府其ノ納稅地ヲ指定ス
第七十三條 納稅義務者納稅地ニ現住セサルトキハ其ノ所得ノ申告、納稅其ノ他所得稅ニ關スル一切ノ事項ヲ處理セシムル爲納稅管理人ヲ定メ政府ニ申告スヘシ本法施行地外ニ住所又ハ居所ヲ移サムトスルトキ亦同シ
第七十四條 詐僞其ノ他不正ノ行爲ニ因リ所得稅ヲ逋脫シタル者ハ其ノ逋脫シタル稅金ノ三倍ニ相當スル罰金又ハ科料ニ處ス但シ自首シタル者又ハ稅務署長ニ申出テタル者ハ其ノ罪ヲ問ハス
前項ノ場合ニ於テ第三種ノ所得ニ付所得稅ヲ逋脫シタル者ノ所得金額ハ第二十六條第一項ノ規定ニ拘ラス政府ニ於テ之ヲ決定シ直ニ其ノ稅金ヲ徵收ス
第七十五條 正當ノ事由ナクシテ第五十六條第一項ノ規定ニ依リ政府ニ提出スヘキ支拂調書ヲ提出セス若ハ不正ノ記載ヲ爲シタル支拂調書ヲ提出シタル者ハ千圓以下ノ罰金ニ處ス
前項ノ規定ニ依リ處罰セラレタル者ニ對シテハ其ノ提出ニ係ル支拂調書ニ付第五十六條第二項ノ規定ニ依ル金額ヲ交付セス
第七十六條 所得ノ調查又ハ審查ノ事務ニ從事シ又ハ從事シタル者其ノ調查又ハ審查ニ關シ知得タル祕密ヲ正當ノ事由ナクシテ漏洩シタルトキハ五百圓以下ノ罰金ニ處ス
第七十七條 本法ヲ犯シタル者ニハ刑法第三十八條第三項但書、第三十九條第二項、第四十條、第四十一條、第四十八條第二項、第六十三條及第六十六條ノ例ヲ用井ス但シ前條ノ罪ヲ犯シタル者ニ付テハ此ノ限ニ在ラス
附 則
第七十八條 本法ハ大正九年八月一日ヨリ之ヲ施行ス
第三種ノ所得ニ付テハ大正九年分所得稅ヨリ本法ヲ適用ス但シ第十六條ノ規定ハ大正九年分所得稅ニ付テハ之ヲ適用セス
賞與又ハ賞與ノ性質ヲ有スル給與ニシテ從前ノ規定ニ於テ第三種所得トシテ計算スヘキモノニ付テハ本法施行前ニ於ケル收入金額ニ限リ、銀行定期預金又ハ定期預金ノ性質ヲ有スル銀行預金ノ利子ニ付テハ支拂期ノ本法施行前ニアルモノニ限リ大正九年分第三種所得トシテ計算ス
第七十九條 所得稅法ニ依リ所得稅ヲ課セラレタル法人又ハ所得稅法其ノ他ノ法律ニ依リ所得稅ヲ免除セラレタル法人ノ本法施行前ニ終了シタル各事業年度分ニ屬スル第十四條第一項第四號及第五號ノ所得其ノ他本法施行前ニ於ケル第十四條第一項第四號ノ所得ニ付テハ本法ヲ適用セス
第八十條 本法施行前ニ終了シタル法人ノ各事業年度分ノ所得ニ付テハ仍從前ノ規定ニ依ル
第八十一條 法人ノ超過所得ニ付テハ本法施行ノ日ヨリ大正十年七月三十一日ニ至ル間ニ終了スル各事業年度分ノ超過所得ニ限リ本稅ノ三割五分ヲ增徵ス
大正九年七月一日以後ニ於テ法人ノ事業年度ノ期間ニ變更アリタルトキハ前項ニ該當スル舊事業年度ノ期間內ニ始期又ハ終期ヲ有スル各事業年度分ノ超過所得ニ付本法ニ依リ所得稅ヲ課シ仍本稅ノ三割五分ヲ增徵ス
第八十二條 所得調查委員及所得審查委員ニ關シテハ大正十年五月一日迄ハ仍從前ノ規定ニ依ル但シ從前ノ規定中八月三十日トアルハ九月三十日トス
從前ノ規定ニ依ル所得調查委員、補闕員及所得審查委員ノ任期ハ大正十年五月一日ヲ以テ終了ス
第八十三條 第三種ノ所得ニ付テハ大正九年分所得稅ニ限リ第一期ノ納期ヲ大正九年十月一日ヨリ三十一日限トス
第八十四條 所得稅法ハ當分ノ內小笠原島及伊豆七島ニ之ヲ施行セス
朕帝国議会ノ協賛ヲ経タル所得税法改正法律ヲ裁可シ茲ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
大正九年七月三十一日
内閣総理大臣 原敬
大蔵大臣 男爵 高橋是清
法律第十一号
所得税法
第一条 本法施行地ニ住所ヲ有シ又ハ一年以上居所ヲ有スル者ハ本法ニ依リ所得税ヲ納ムル義務アルモノトス
第二条 前条ノ規定ニ該当セサル者左ノ各号ノ一ニ該当スルトキハ其ノ所得ニ付テノミ所得税ヲ納ムル義務アルモノトス
一 本法施行地ニ資産又ハ営業ヲ有スルトキ
二 本法施行地ニ於テ公債、社債、銀行定期預金又ハ定期預金ノ性質ヲ有スル銀行預金ノ利子支払ヲ受クルトキ
三 本法施行地ニ本店又ハ主タル事務所ヲ有スル法人ヨリ利益若ハ利息ノ配当、剰余金ノ分配又ハ利益若ハ剰余金ノ処分タル賞与若ハ賞与ノ性質ヲ有スル給与ヲ受クルトキ
第三条 所得税ハ左ノ所得ニ付之ヲ賦課ス
第一種
甲 法人ノ超過所得
乙 法人ノ留保所得
丙 法人ノ配当所得
丁 法人ノ清算所得
戊 本法施行地ニ本店又ハ主タル事務所ヲ有セサル法人ノ本法施行地ニ於ケル資産又ハ営業ヨリ生スル所得
第二種
甲 本法施行地ニ於テ支払ヲ受クル公債、社債、銀行定期預金又ハ定期預金ノ性質ヲ有スル銀行預金ノ利子
乙 第一条ノ規定ニ該当セサル者ノ本法施行地ニ本店又ハ主タル事務所ヲ有スル法人ヨリ受クル利益若ハ利息ノ配当、剰余金ノ分配又ハ利益若ハ剰余金ノ処分タル賞与若ハ賞与ノ性質ヲ有スル給与
第三種
第二種ニ属セサル個人ノ所得
第四条 法人ノ所得ハ各事業年度ノ総益金ヨリ総損金ヲ控除シタル金額ニ依ル但シ保険会社ニ在リテハ各事業年度ノ利益金又ハ剰余金ニ依ル
本法施行地ニ本店又ハ主タル事務所ヲ有セサル法人ノ所得ハ本法施行地ニ於ケル資産又ハ営業ニ付前項ノ規定ニ準シ之ヲ計算ス
法人カ事業年度中ニ解散シ又ハ合併ニ因リテ消滅シタル場合ニ於テハ其ノ事業年度ノ始ヨリ解散又ハ合併ニ至ル迄ノ期間ヲ以テ一事業年度ト看做ス
第五条 法人ノ各事業年度ノ所得カ同年度ノ資本金額ニ対シ年百分ノ十ノ割合ヲ以テ算出シタル金額ヲ超過スルトキハ其ノ超過金額ヲ以テ法人ノ超過所得トス
第六条 法人ノ各事業年度ノ資本金額ハ各月末ニ於ケル払込株式金額、出資金額又ハ基金及積立金額ノ月割平均ヲ以テ之ヲ計算ス
前項計算ノ場合ニ於テ繰越欠損金アルトキハ其ノ各月末ニ於ケル金額ノ月割平均ヲ以テ之ヲ計算シ資本金額ヨリ控除ス
第七条 本法施行地ニ本店若ハ主タル事務所ヲ有セサル法人又ハ所得税ヲ課スヘキ所得ト其ノ他ノ所得トヲ有スル法人ノ各事業年度ノ資本金額ハ命令ノ定ムル所ニ依リ之ヲ計算ス
第八条 本法ニ於テ積立金ト称スルハ積立金其ノ他名義ノ何タルヲ問ハス法人ノ所得中其ノ留保シタルモノヲ謂フ
第九条 法人ノ各事業年度ノ所得中積立金ト為シタル金額ヲ以テ法人ノ留保所得トス
法人カ積立金ヲ減少シタルトキハ其ノ減少額ヲ填補スルニ至ル迄其ノ後ノ各事業年度ノ留保所得ニ付所得税ヲ課セス
積立金ヲ減少シタル法人カ合併ニ因リテ消滅シタルトキハ合併後存続スル法人又ハ合併ニ因リテ設立シタル法人ニ付前項ノ規定ヲ適用ス但シ合併ノ際合併ニ因リテ消滅シタル法人ノ積立金ヲ以テ合併後存続スル法人又ハ合併ニ因リテ設立シタル法人ノ株式金額又ハ出資金額ニ充当シタルモノニ付テハ此ノ限ニ在ラス
第十条 法人ノ各事業年度ノ所得中利益ノ配当又ハ剰余金ノ分配ニ充当シタル金額ヲ以テ法人ノ配当所得トス
法人ノ積立金ヲ減少シテ利益ノ配当又ハ剰余金ノ分配ニ充当シタル金額ハ之ヲ前項ノ配当所得ニ加算ス
第十一条 法人解散シタル場合ニ於テ其ノ残余財産ノ価額カ解散当時ノ払込株式金額、出資金額、積立金及最後ノ事業年度ニ於ケル留保所得ノ合計金額ヲ超過スルトキハ其ノ超過金額ヲ以テ法人ノ清算所得トス
法人合併ヲ為シタル場合ニ於テ合併ニ因リテ消滅シタル法人ノ株主又ハ社員カ合併後存続スル法人若ハ合併ニ因リテ設立シタル法人ヨリ合併ニ因リテ取得スル株式ノ払込済金額又ハ出資金額及金銭ノ総額カ合併ニ因リテ消滅シタル法人ノ合併当時ノ払込株式金額、出資金額、積立金及最後ノ事業年度ニ於ケル留保所得ノ合計金額ヲ超過スルトキハ其ノ超過金額ハ之ヲ合併ニ因リテ消滅シタル法人ノ清算所得ト看做ス
第十二条 合併後存続スル法人又ハ合併ニ因リテ設立シタル法人ハ合併ニ因リテ消滅シタル法人ノ所得ニ付所得税ヲ納ムル義務アルモノトス
第十三条 第二種ノ所得ハ其ノ支払ヲ受クヘキ金額ニ依ル
第十四条 第三種ノ所得ハ左ノ各号ノ規定ニ依リ之ヲ算出ス
一 俸給給料歳費年金恩給退隠料及此等ノ性質ヲ有スル給与、営業ニ非サル貸金ノ利子並第二種ノ所得ニ属セサル公債社債及預金ノ利子ハ其ノ収入予算年額
二 田又ハ畑ノ所得ハ前三年間毎年ノ総収入金額ヨリ必要ノ経費ヲ控除シタルモノノ平均ニ依リ算出シタル収入予算年額但シ前三年以来引続キ自作セス、小作セス又ハ小作ニ付セサル田又ハ畑ニ在リテハ近傍類地ノ所得ニ依リ算出シタル収入予算年額
三 山林ノ所得ハ前年ノ総収入金額ヨリ必要ノ経費ヲ控除シタル金額
四 賞与又ハ賞与ノ性質ヲ有スル給与ハ前年四月一日ヨリ其ノ年三月末日ニ至ル期間ノ収入金額
五 法人ヨリ受クル利益若ハ利息ノ配当又ハ剰余金ノ分配ハ前年四月一日ヨリ其ノ年三月末日ニ至ル期間ノ収入金額ヨリ其ノ十分ノ四ニ相当スル金額ヲ控除シタル金額但シ無記名式ノ株式ヲ有スル者ノ受クル配当ハ同期間ニ於テ支払ヲ受ケタル金額ヨリ其ノ十分ノ四ニ相当スル金額ヲ控除シタル金額
六 前各号以外ノ所得ハ総収入金額ヨリ必要ノ経費ヲ控除シタル収入予算年額
法人ノ社員其ノ退社ニ因リ持分ノ払戻トシテ受クル金額カ其ノ退社当時ニ於ケル出資金額ヲ超過スルトキハ其ノ超過金額ハ之ヲ其ノ法人ヨリ受クル利益ノ配当ト看做ス株式ノ消却ニ因リ支払ヲ受クル金額カ其ノ株式ノ払込済金額ヲ超過スルトキハ其ノ超過金額亦同シ
第十五条 前条ノ規定ニ依リ算出シタル金額一万二千円以下ナルトキハ其ノ所得中俸給給料歳費年金恩給退隠料賞与及此等ノ性質ヲ有スル給与ニ付テハ其ノ十分ノ一、六千円以下ナルトキハ同十分ノ二ニ相当スル金額ヲ控除ス
戸主及其ノ同居家族ノ所得ハ之ヲ合算シ其ノ総額ニ付前項ノ規定ヲ適用ス戸主ト別居スル二人以上ノ同居家族ノ所得ニ付亦同シ
第十六条 前二条ノ規定ニ依リ算出シタル金額三千円以下ナル場合ニ於テ其ノ年四月一日現在ノ同居ノ戸主及家族中年齢十八歳未満若ハ六十歳以上ノ者又ハ不具廃疾者アルトキハ其ノ所得ヲ有スル者ノ申請ニ依リ其ノ所得ヨリ左ノ各号ノ規定ニ依ル金額ヲ控除ス但シ第二条ノ規定ニ依ル納税義務者ニ付テハ此ノ限ニ在ラス
一 所得千円以下ナルトキ 年齢十八歳未満若ハ六十歳以上ノ者又ハ不具廃疾者 一人ニ付百円
二 所得二千円以下ナルトキ 同 一人ニ付七十円
三 所得三千円以下ナルトキ 同 一人ニ付五十円
戸主及其ノ同居家族ノ所得ハ之ヲ合算シ其ノ総額ニ付前項ノ規定ヲ適用ス戸主ト別居スル二人以上ノ同居家族ノ所得ニ付亦同シ
前項ノ場合ニ於テハ所得ヨリ控除セラルヘキ金額ハ各其ノ所得ニ案分シテ之ヲ計算ス
同一人ニシテ山林ノ所得ト山林以外ノ所得トヲ有スル場合ニ於テハ前三項ノ規定ニ依ル控除ハ先ツ山林以外ノ所得ニ付之ヲ為シ不足アルトキハ山林ノ所得ニ及フ
第一項ノ不具廃疾者ハ命令ヲ以テ之ヲ定ム
第十七条 北海道府県郡市町村其ノ他命令ヲ以テ指定スル公共団体、神社、寺院、祠宇、仏堂及民法第三十四条ノ規定ニ依リ設立シタル法人ニハ所得税ヲ課セス
第十八条 第三種ノ所得ニシテ左ノ各号ニ該当スルモノニハ所得税ヲ課セス
一 軍人従軍中ノ俸給及手当
二 扶助料及傷痍疾病者ノ恩給又ハ退隠料
三 旅費、学資金及法定扶養料
四 郵便貯金、産業組合貯金及銀行貯蓄預金ノ利子
五 営利ノ事業ニ属セサル一時ノ所得
六 日本ノ国籍ヲ有セサル者ノ本法施行地外ニ於ケル資産、営業又ハ職業ヨリ生スル所得
七 乗馬ヲ有スル義務アル軍人カ政府ヨリ受クル馬糧、繋畜料及馬匹保続料
第十九条 勅令ヲ以テ指定シタル重要物産ノ製造業ヲ営ム者ニハ命令ノ定ムル所ニ依リ開業ノ年及其ノ翌年ヨリ三年間其ノ業務ヨリ生スル所得ニ付所得税ヲ免除ス
第二十条 第三種ノ所得ハ八百円ニ満タサルトキハ所得税ヲ課セス第十五条及第十六条ノ規定ニ依ル控除ヲ為シタル為八百円ニ満タサルニ至リタルトキ亦同シ
戸主及其ノ同居家族ノ所得ハ之ヲ合算シ其ノ総額ニ付前項ノ規定ヲ適用ス戸主ト別居スル二人以上ノ同居家族ノ所得ニ付亦同シ
第二十一条 第一種ノ所得ニ対スル所得税ハ左ノ税率ニ依リ之ヲ賦課ス
甲 超過所得金額ヲ左ノ各級ニ区分シ逓次ニ各税率ヲ適用ス
所得金額中資本金額ニ対シ年百分ノ十ノ割合ヲ以テ算出シタル金額ヲ超ユル金額 百分ノ四
同百分ノ二十ノ割合ヲ以テ算出シタル金額ヲ超ユル金額 百分ノ十
同百分ノ三十ノ割合ヲ以テ算出シタル金額ヲ超ユル金額 百分ノ二十
乙 百分ノ五
丙 百分ノ五
丁 百分ノ七、五
戊 百分ノ七、五
法人ノ事業年度末ニ於ケル積立金及其ノ事業年度ニ於ケル留保所得ノ合計金額カ其ノ事業年度末ニ於ケル払込株式金額、出資金額又ハ基金及之ニ代ルヘキ積立金ノ合計金額ノ二分ノ一ニ相当スル金額ヲ超過スルトキハ其ノ超過金額ニ属スル其ノ事業年度ノ留保所得ニ対スル税率ハ百分ノ十トシ其ノ事業年度末ニ於ケル払込株式金額、出資金額又ハ基金及之ニ代ルヘキ積立金ノ合計金額ニ相当スル金額ヲ超過スルトキハ其ノ超過金額ニ属スル其ノ事業年度ノ留保所得ニ対スル税率ハ百分ノ二十トス但シ其ノ事業年度ニ於ケル所得ノ二十分ノ一ニ相当スル金額以内ノ金額ニ付テハ其ノ税率ハ百分ノ五トス
第二十二条 第二種ノ所得ニ対スル所得税ハ左ノ税率ニ依リ之ヲ賦課ス
甲 公債ノ利子 百分ノ四
其ノ他 百分ノ五
乙 百分ノ七、五
第二十三条 第三種ノ所得ニ対スル所得税ハ所得金額ヲ左ノ各級ニ区分シ逓次ニ各税率ヲ適用シテ之ヲ賦課ス但シ山林ノ所得ト山林以外ノ所得トハ之ヲ区分シ各別ニ税率ヲ適用ス
八百円以下ノ金額 百分ノ〇、五
八百円ヲ超ユル金額 百分ノ一
千円ヲ超ユル金額 百分ノ二
千五百円ヲ超ユル金額 百分ノ三
二千円ヲ超ユル金額 百分ノ四
三千円ヲ超ユル金額 百分ノ五
五千円ヲ超ユル金額 百分ノ六、五
七千円ヲ超ユル金額 百分ノ八
一万円ヲ超ユル金額 百分ノ九、五
一万五千円ヲ超ユル金額 百分ノ十一
二万円ヲ超ユル金額 百分ノ十三
三万円ヲ超ユル金額 百分ノ十五
五万円ヲ超ユル金額 百分ノ十七
七万円ヲ超ユル金額 百分ノ十九
十万円ヲ超ユル金額 百分ノ二十一
二十万円ヲ超ユル金額 百分ノ二十三
五十万円ヲ超ユル金額 百分ノ二十五
百万円ヲ超ユル金額 百分ノ二十七
二百万円ヲ超ユル金額 百分ノ三十
三百万円ヲ超ユル金額 百分ノ三十三
四百万円ヲ超ユル金額 百分ノ三十六
前項ノ場合ニ於テ戸主及其ノ同居家族ノ所得金額ハ之ヲ合算シ其ノ総額ニ対シ税率ヲ適用シテ算出シタル金額ヲ各其ノ所得金額ニ案分シテ各其ノ税額ヲ定ム戸主ト別居スル二人以上ノ同居家族ノ所得金額ニ付亦同シ
第二十四条 第一種ノ所得ニ付納税義務アル者ハ命令ノ定ムル所ニ依リ財産目録、貸借対照表、損益計算書又ハ清算若ハ合併ニ関スル計算書並第四条乃至第十一条ノ規定ニ依リ計算シタル所得及資本金額ノ明細書ヲ添附シ其ノ所得ヲ政府ニ申告スヘシ但シ本法施行地ニ本店又ハ主タル事務所ヲ有セサル法人ハ本法施行地ニ於ケル資産又ハ営業ニ関スル損益ヲ計算シタル所得及資本金額ノ明細書ヲ添附スヘシ
前項ノ規定ハ第一種ノ所得ニ付所得税ヲ課セラルヘキ法人ニ付其ノ所得ナキ場合ニ之ヲ準用ス
第二十五条 第三種ノ所得ニ付納税義務アル者ハ毎年四月中ニ所得ノ種類及金額ヲ詳記シ政府ニ申告スヘシ
第十六条ノ規定ニ依ル控除ヲ受ケムトスル者ハ前項ノ申告ト同時ニ命令ノ定ムル所ニ依リ其ノ申請書ヲ提出スヘシ
第二十六条 第一種ノ所得金額ハ第二十四条ノ申告ニ依リ、申告ナキトキ又ハ申告ヲ不相当ト認ムルトキハ政府ノ調査ニ依リ政府ニ於テ之ヲ決定シ第三種ノ所得金額ハ所得調査委員会ノ調査ニ依リ政府ニ於テ之ヲ決定ス
所得調査委員会閉会後第三種ノ所得ヲ有スル者納税義務アルコトヲ申出テ又ハ納税義務者所得金額ノ増加アルコトヲ申出テタルトキハ政府ニ於テ其ノ所得金額ヲ決定ス
第二十七条 税務署長ハ毎年第三種ノ所得ニ付納税義務アリト認ムル者ノ所得金額ヲ調査シ其ノ調査書ヲ所得調査委員会ニ送付スヘシ
第二十八条 各税務署所轄内ニ所得調査委員会ヲ置ク但シ税務署所轄内ニ在ル市又ハ北海道、沖縄県ノ区ニ付テハ命令ヲ以テ特ニ所得調査委員会ヲ置クコトヲ得
調査委員ノ定数ハ命令ヲ以テ之ヲ定ム但シ定数ノ増減ハ改選期ニ於テスルノ外之ヲ為スコトヲ得ス
第二十九条 調査委員ハ各選挙区ニ於テ之ヲ選挙ス
調査委員ヲ選挙スルトキハ同時ニ之ト同数ノ補闕員ヲ選挙スヘシ
第三十条 調査委員及補闕員ノ選挙区域ハ所得調査委員会ヲ置クヘキ区域ニ依リ投票区及開票区ハ市町村又ハ北海道、沖縄県ノ区ノ区域ニ依ル但シ市制第六条ノ規定ニ依リ指定セラレタル市ニ在リテハ区ノ区域ニ依ル
第三十一条 選挙区域内ニ住居シ前年第三種ノ所得税ヲ納メ其ノ年第二十五条ノ申告ヲ為シタル者ニシテ選挙人名簿ニ登録セラレタルモノハ調査委員及補闕員ヲ選挙シ又ハ調査委員若ハ補闕員ニ選挙セラルルコトヲ得但シ左ノ各号ノ一ニ該当スル者ハ此ノ限ニ在ラス
一 無能力者
二 破産若ハ家資分散ノ宣告ヲ受ケ復権セサル者又ハ身代限ノ処分ヲ受ケ債務ノ弁済ヲ了ヘサル者
三 国税滞納処分ヲ受ケタル後一年ヲ経サル者
四 六年以上ノ懲役若ハ禁錮ノ刑ニ処セラレ又ハ旧刑法ノ重罪ノ刑ニ処セラレタル者
五 六年未満ノ懲役又ハ禁錮ノ刑ニ処セラレタル者ニシテ其ノ刑ノ執行ヲ終リ又ハ執行ヲ受クルコトナキニ至ル迄ノ者
六 第七十四条乃至第七十六条ノ規定ニ依リ処罰セラレタル後五年ヲ経サル者
前項ノ場合ニ於テ被相続人ノ為シタル納税又ハ申告ハ其ノ相続人ノ納税又ハ申告ト看做ス
選挙人名簿ニ関スル規定ハ命令ヲ以テ之ヲ定ム
第三十二条 投票及開票ニ関スル事務ハ市区町村長又ハ戸長之ヲ担任シ選挙会ニ関スル事務ハ税務署長之ヲ担任ス
第三十三条 税務署長ハ調査委員及補闕員ノ選挙期日ヲ定メ之ヲ市区町村長又ハ戸長ニ通知スヘシ
市区町村長又ハ戸長前項ノ通知ヲ受ケタルトキハ少クトモ選挙期日七日前其ノ旨ヲ公示スヘシ
第三十四条 選挙ハ無記名投票ヲ以テ之ヲ行フ
投票ハ調査委員及補闕員ノ各選挙ニ付一人一票ニ限ル
選挙人ハ選挙ノ当日投票時間内ニ自ラ投票所ニ至リ被選挙人各一人ノ氏名ヲ各別ノ投票用紙ニ記載シテ投票スヘシ
投票用紙ハ選挙ノ当日投票所ニ於テ之ヲ選挙人ニ交付ス
第三十五条 市区町村長又ハ戸長ハ投票ヲ調査シ直ニ其ノ結果ヲ税務署長ニ報告スヘシ
第三十六条 税務署長前条ノ報告ヲ受ケタルトキハ選挙会ヲ開キ之ヲ調査スヘシ
第三十七条 投票、開票及選挙会ニハ立会人ヲ立会ハシムヘシ
立会人ニ関スル規定ハ命令ヲ以テ之ヲ定ム
第三十八条 投票ノ多数ヲ得タル者ヲ以テ当選人トス投票ノ数同シキトキハ年齢多キ者ヲ取リ年齢同シキトキハ抽籤ヲ以テ之ヲ定ム
調査委員ニ当選シタル者同時ニ補闕員ニ当選スルモ補闕員タルコトヲ得ス
第三十九条 調査委員及補闕員ノ選挙終了シタルトキハ税務署長ハ当選人ノ氏名ヲ公示シ且之ヲ当選人及市区町村長又ハ戸長ニ通知スヘシ
市区町村長又ハ戸長前項ノ通知ヲ受ケタルトキハ当選人ノ氏名ヲ公示スヘシ
第四十条 調査委員又ハ補闕員ニ当選シタル者ハ正当ノ事故ナクシテ之ヲ辞スルコトヲ得ス
第四十一条 調査委員及補闕員ノ任期ハ選挙期日ノ属スル月ヨリ四年トス但シ選挙区域ニ変更ヲ生シタル場合ニ於テハ其ノ任期ハ選挙区域ニ変更ヲ生シタル日ノ属スル月ヲ以テ終了スルモノトス
第四十二条 調査委員及補闕員ノ改選ハ前任者ノ任期終了ノ月ノ翌月ニ於テ之ヲ行フ
第四十三条 調査委員ニ闕員ヲ生シタルトキハ投票ノ最多数ヲ得タル補闕員ヨリ順次之ヲ補充シ投票ノ数同シキトキハ年齢多キ者ヲ取リ年齢同シキトキハ抽籤ヲ以テ之ヲ定ム
調査委員ニ闕員ヲ生シ之ヲ補充スヘキ補闕員ナキトキハ調査委員ノ補闕選挙ヲ行フ
第四十四条 前条ノ規定ニ依リ調査委員又ハ補闕員ト為リタル者ハ前任者ノ残任期間在任ス
選挙区域ノ変更ニ因リ新ニ選挙セラレタル調査委員及補闕員ノ任期ハ選挙区域変更前ニ於ケル調査委員及補闕員ノ選挙期日ノ属スル月ヨリ四年ヲ以テ終了ス
第四十五条 調査委員又ハ補闕員第三十一条第一項各号ノ一ニ該当スルニ至リタルトキ、第三種ノ所得ニ付納税義務ヲ有セサルニ至リタルトキ又ハ其ノ選挙区域内ニ住居セサルニ至リタルトキハ其ノ職ヲ失フ
第四十六条 所得調査委員会ノ開会日数ハ三十日以内トシ地方ノ情況ニ依リ命令ヲ以テ之ヲ定ム
第四十七条 所得調査委員会ハ税務署長ノ通知ニ依リ之ヲ開ク
第四十八条 所得調査委員会ハ毎年開会ノ始ニ於テ調査委員中ヨリ会長ヲ選挙スヘシ
第四十九条 所得調査委員会ハ定員ノ過半数ニ当ル委員出席スルニ非サレハ決議スルコトヲ得ス
議事ハ出席員ノ多数ヲ以テ之ヲ決ス可否同数ナルトキハ会長ノ決スル所ニ依ル
第五十条 調査委員ハ自己及自己ト同一戸籍内ニ在ル者ノ所得ニ関スル議事ニ与ルコトヲ得ス
第五十一条 八月三十日迄ニ所得調査委員会成立セサルトキハ政府ニ於テ所得金額ヲ決定ス
所得調査委員会開会ノ日ヨリ第四十六条ノ期間内又ハ八月三十日迄ニ調査結了セサルトキハ政府ニ於テ調査未済ノ所得金額ヲ決定ス
第五十二条 政府ハ所得調査委員会ノ決議ヲ不当ト認ムルトキハ七日以内ノ期間ヲ定メ之ヲ再調査ニ付ス仍其ノ決議ヲ不当ト認ムルトキ又ハ再調査期間内ニ調査結了セサルトキハ政府ニ於テ所得金額ヲ決定ス
第五十三条 税務署長又ハ其ノ代理官ハ所得調査委員会ニ出席シ意見ヲ陳述スルコトヲ得
第五十四条 調査委員ニハ手当及旅費ヲ給ス
第五十五条 本法施行地ニ於テ利子支払ヲ為スヘキ公債又ハ社債ヲ募集シタル者ハ遅滞ナク其ノ公債又ハ社債ニ付左ノ事項ヲ記載シタル調書ヲ政府ニ提出スヘシ
一 公債又ハ社債ノ名称及其ノ総額
二 利子支払期限及利率
三 償還ノ方法及期限
四 数回ニ分チテ払込ヲ為サシムルトキハ其ノ払込ノ金額及時期
第五十六条 第三種ノ所得ニ属スル俸給給料歳費年金恩給退隠料賞与若ハ此等ノ性質ヲ有スル給与ノ支払ヲ為ス者又ハ利益若ハ利息ノ配当若ハ剰余金ノ分配ヲ為ス法人ハ命令ノ定ムル所ニ依リ支払調書ヲ政府ニ提出スヘシ
前項ノ支払調書ヲ提出シタル者ニ対シテハ命令ノ定ムル金額ヲ交付スルコトヲ得
第五十七条 税務署長又ハ其ノ代理官ハ調査上必要アルトキハ納税義務者、納税義務アリト認ムル者又ハ前条第一項ノ支払調書ヲ提出スル義務アル者ニ質問スルコトヲ得
第五十八条 税務署長又ハ其ノ代理官ハ調査上必要アルトキハ納税義務者又ハ納税義務アリト認ムル者ニ金銭又ハ物品ヲ支払フノ義務ヲ有スト認ムル者ニ対シ其ノ金額、数量、価格又ハ支払期日ニ付質問スルコトヲ得
第五十九条 第二十六条、第五十一条又ハ第五十二条ノ規定ニ依リ第一種又ハ第三種ノ所得金額ヲ決定シタルトキハ政府ハ之ヲ納税義務者ニ通知スヘシ
本法施行地内ニ住所又ハ居所ヲ有セサル納税義務者納税管理人ノ申告ヲ為ササルトキハ前項ノ通知ハ公告ヲ以テ之ヲ為スコトヲ得此ノ場合ニ於テ公告ノ初日ヨリ七日ヲ経過シタルトキハ其ノ通知アリタルモノト看做ス
第六十条 納税義務者前条ノ規定ニ依リ政府ノ通知シタル所得金額ニ対シテ異議アルトキハ通知ヲ受ケタル日ヨリ二十日内ニ不服ノ事由ヲ具シ政府ニ審査ノ請求ヲ為スコトヲ得
前項ノ請求アリタル場合ト雖政府ハ税金ノ徴収ヲ猶予セス
第六十一条 前条第一項ノ請求アリタルトキハ所得審査委員会ノ決議ニ依リ政府ニ於テ之ヲ決定ス
所得審査委員会ハ前条第一項ノ請求ヲ為シタル者ニ対シ其ノ所得ニ関スル事実ヲ質問スルコトヲ得
第五十二条ノ規定ハ所得審査委員会ノ決議ニ之ヲ準用ス
第六十二条 各税務監督局所轄内ニ所得審査委員会ヲ置ク
所得審査委員会ハ左ノ審査委員ヲ以テ之ヲ組織ス
一 収税官吏中ヨリ大蔵大臣ノ命シタル者三人
二 税務監督局所轄内各府県又ハ北海道ニ於テ調査委員ノ互選シタル者府県ニ在リテハ各一人北海道ニ在リテハ四人
所得審査委員会、審査委員及其ノ補闕員ニ関スル事項ハ本法ニ定ムルモノヲ除クノ外命令ヲ以テ之ヲ定ム
第六十三条 調査委員ヨリ選挙セラレタル審査委員ニハ日当及旅費ヲ給ス
第六十四条 第三種ノ所得ニ付納税義務アル者収入予算年額四分ノ一以上ヲ減損シタルトキハ政府ニ所得金額ノ更訂ノ請求ヲ為スコトヲ得但シ翌年一月三十一日ヲ過キタルトキハ此ノ限ニ在ラス
所得金額決定後贈与ヲ為シタル為所得金額ヲ減損シタル場合ニハ前項ノ規定ヲ適用セス
第六十五条 前条第一項ノ請求アリタルトキハ政府ハ所得金額ヲ査覈シ収入予算年額ニ対シ四分ノ一以上ノ減損アルトキハ之ヲ更訂ス
第六十六条 納税義務者第六十一条ノ決定又ハ前条ノ更訂処分ニ対シ不服アルトキハ訴願又ハ行政訴訟ヲ為スコトヲ得
第六十七条 第一種ノ所得ニ付テハ事業年度毎ニ所得税ヲ徴収ス但シ清算所得ニ付テハ清算又ハ合併ノ際之ヲ徴収ス
第二種ノ所得ニ付テハ其ノ金額支払ノ際支払者其ノ所得税ヲ徴収シ翌月十日迄ニ之ヲ政府ニ納ムヘシ
第三種ノ所得ニ付テハ所得税ノ年額ヲ四分シ左ノ四期ニ於テ之ヲ徴収ス但シ納税義務者納税管理人ノ申告ヲ為サスシテ本法施行地外ニ住所又ハ居所ヲ移ストキハ直ニ其ノ所得税ヲ徴収スルコトヲ得
第一期 其ノ年九月一日ヨリ三十日限
第二期 其ノ年十一月一日ヨリ三十日限
第三期 翌年一月一日ヨリ三十一日限
第四期 翌年三月一日ヨリ三十一日限
第六十八条 前条第二項ノ規定ニ依リ徴収スヘキ所得税ヲ徴収セサルトキ又ハ其ノ徴収シタル税金ヲ納付セサルトキハ国税徴収ノ例ニ依リ之ヲ支払者ヨリ徴収ス
第六十九条 法人解散シタル場合ニ於テ清算所得ニ対スル所得税又ハ前条ノ規定ニ依リ徴収セラルル税金ヲ納付セスシテ残余財産ヲ分配シタルトキハ其ノ税金ニ付清算人連帯シテ納税ノ義務アルモノトス
第七十条 第六十四条第一項ノ請求アリタルトキハ政府ハ更訂処分ノ確定スルニ至ル迄税金ノ徴収ヲ猶予スルコトヲ得
第七十一条 第三種ノ所得ニ付二以上ノ税務署所轄内ニ於テ所得金額ノ決定アリタルトキハ政府ハ納税義務者ノ住所地以外、住所ナキトキハ居所地以外ニ於ケル所得金額ノ決定ヲ取消スヘシ
第七十二条 第三種ノ所得ニ対スル所得税ハ納税義務者ノ住所地、住所ナキトキハ居所地ヲ以テ納税地トス但シ住所地以外ニ在ル者ハ申告シテ居所地ニ於テ所得税ヲ納ムルコトヲ得
本法施行地ニ住所及居所ナキ者ハ納税地ヲ定メ政府ニ申告スヘシ申告ナキトキハ政府其ノ納税地ヲ指定ス
第七十三条 納税義務者納税地ニ現住セサルトキハ其ノ所得ノ申告、納税其ノ他所得税ニ関スル一切ノ事項ヲ処理セシムル為納税管理人ヲ定メ政府ニ申告スヘシ本法施行地外ニ住所又ハ居所ヲ移サムトスルトキ亦同シ
第七十四条 詐偽其ノ他不正ノ行為ニ因リ所得税ヲ逋脱シタル者ハ其ノ逋脱シタル税金ノ三倍ニ相当スル罰金又ハ科料ニ処ス但シ自首シタル者又ハ税務署長ニ申出テタル者ハ其ノ罪ヲ問ハス
前項ノ場合ニ於テ第三種ノ所得ニ付所得税ヲ逋脱シタル者ノ所得金額ハ第二十六条第一項ノ規定ニ拘ラス政府ニ於テ之ヲ決定シ直ニ其ノ税金ヲ徴収ス
第七十五条 正当ノ事由ナクシテ第五十六条第一項ノ規定ニ依リ政府ニ提出スヘキ支払調書ヲ提出セス若ハ不正ノ記載ヲ為シタル支払調書ヲ提出シタル者ハ千円以下ノ罰金ニ処ス
前項ノ規定ニ依リ処罰セラレタル者ニ対シテハ其ノ提出ニ係ル支払調書ニ付第五十六条第二項ノ規定ニ依ル金額ヲ交付セス
第七十六条 所得ノ調査又ハ審査ノ事務ニ従事シ又ハ従事シタル者其ノ調査又ハ審査ニ関シ知得タル秘密ヲ正当ノ事由ナクシテ漏洩シタルトキハ五百円以下ノ罰金ニ処ス
第七十七条 本法ヲ犯シタル者ニハ刑法第三十八条第三項但書、第三十九条第二項、第四十条、第四十一条、第四十八条第二項、第六十三条及第六十六条ノ例ヲ用井ス但シ前条ノ罪ヲ犯シタル者ニ付テハ此ノ限ニ在ラス
附 則
第七十八条 本法ハ大正九年八月一日ヨリ之ヲ施行ス
第三種ノ所得ニ付テハ大正九年分所得税ヨリ本法ヲ適用ス但シ第十六条ノ規定ハ大正九年分所得税ニ付テハ之ヲ適用セス
賞与又ハ賞与ノ性質ヲ有スル給与ニシテ従前ノ規定ニ於テ第三種所得トシテ計算スヘキモノニ付テハ本法施行前ニ於ケル収入金額ニ限リ、銀行定期預金又ハ定期預金ノ性質ヲ有スル銀行預金ノ利子ニ付テハ支払期ノ本法施行前ニアルモノニ限リ大正九年分第三種所得トシテ計算ス
第七十九条 所得税法ニ依リ所得税ヲ課セラレタル法人又ハ所得税法其ノ他ノ法律ニ依リ所得税ヲ免除セラレタル法人ノ本法施行前ニ終了シタル各事業年度分ニ属スル第十四条第一項第四号及第五号ノ所得其ノ他本法施行前ニ於ケル第十四条第一項第四号ノ所得ニ付テハ本法ヲ適用セス
第八十条 本法施行前ニ終了シタル法人ノ各事業年度分ノ所得ニ付テハ仍従前ノ規定ニ依ル
第八十一条 法人ノ超過所得ニ付テハ本法施行ノ日ヨリ大正十年七月三十一日ニ至ル間ニ終了スル各事業年度分ノ超過所得ニ限リ本税ノ三割五分ヲ増徴ス
大正九年七月一日以後ニ於テ法人ノ事業年度ノ期間ニ変更アリタルトキハ前項ニ該当スル旧事業年度ノ期間内ニ始期又ハ終期ヲ有スル各事業年度分ノ超過所得ニ付本法ニ依リ所得税ヲ課シ仍本税ノ三割五分ヲ増徴ス
第八十二条 所得調査委員及所得審査委員ニ関シテハ大正十年五月一日迄ハ仍従前ノ規定ニ依ル但シ従前ノ規定中八月三十日トアルハ九月三十日トス
従前ノ規定ニ依ル所得調査委員、補闕員及所得審査委員ノ任期ハ大正十年五月一日ヲ以テ終了ス
第八十三条 第三種ノ所得ニ付テハ大正九年分所得税ニ限リ第一期ノ納期ヲ大正九年十月一日ヨリ三十一日限トス
第八十四条 所得税法ハ当分ノ内小笠原島及伊豆七島ニ之ヲ施行セス