第一條 帝國內此ノ法律施行地ニ住所ヲ有シ又ハ一箇年以上居所ヲ有スル者ハ此ノ法律ニ依リ所得稅ヲ納ムル義務アルモノトス
第二條 前條ニ該當セサル者此ノ法律施行地ニ資產營業又ハ職業ヲ有スルトキハ其ノ所得ニ付テノミ所得稅ヲ納ムル義務アルモノトス
第三條 所得稅ハ左ノ稅率ニ依リ之ヲ賦課ス
第二種 此ノ法律施行地ニ於テ支拂ヲ爲ス公債社債ノ利子 千分ノ二十
戶主及其ノ同居家族ノ所得ハ第三種ニ限リ之ヲ合算シ其ノ總額ニ依リ本條ノ稅率ヲ定ム戶主ト別居スル家族二人以上同居スルトキ亦同シ
第四條 所得ハ左ノ區別ニ從ヒ之ヲ算定ス
一 第一種ノ所得ハ各事業年度總益金ヨリ同年度總損金、前年度繰越金及保險責任準備金ヲ控除シタルモノニ依ル但シ第二條ニ該當スル法人ノ所得ハ此ノ法律施行地ニ於ケル資產又ハ營業ヨリ生スル各事業年度ノ益金ヨリ同年度損金ヲ控除シタルモノニ依ル
三 第三種ノ所得ハ總收入金額ヨリ必要ノ經費ヲ控除シタル豫算年額ニ依ル但シ此ノ法律施行地ニ於テ支拂ヲ受ケサル公債社債ノ利子、營業ニ非サル貸金、預金ノ利子、此ノ法律ニ依リ所得稅ヲ課セラレサル法人ヨリ受ケタル配當金、俸給、給料、手當金、割賦賞與金、歲費、年金、恩給金ハ其ノ收入額ノ豫算年額ニ依リ田畑ヨリノ所得ハ前三箇年間所得平均高ヲ以テ算出スヘシ
前項第一號ノ場合ニ於テ益金中此ノ法律ニ依リ所得稅ヲ課セラレタル法人ヨリ受ケタル配當金及此ノ法律施行地ニ於テ支拂ヲ受ケタル公債社債ノ利子アルトキハ之ヲ控除ス
第六條 第三種ノ所得ハ三百圓ニ滿タサルトキハ所得稅ヲ課セス但シ第三條第二項ノ場合ニ於テ其ノ合算額三百圓ニ滿ツルトキハ此ノ限ニ在ラス
第七條 納稅義務アル法人ハ各事業年度每ニ損益計算書ヲ政府ニ提出スヘシ但シ第二條ニ該當スル法人ハ各事業年度每ニ此ノ法律施行地ニ於ケル資產又ハ營業ニ關スル損益ヲ計算シ其ノ計算書ヲ政府ニ提出スヘシ
第八條 第三種ノ所得ニ付納稅義務アル者ハ每年四月中ニ所得ノ種類及金額ヲ詳記シ政府ニ申吿スヘシ
第九條 第一種ノ所得金額ハ損益計算書ヲ調査シ政府之ヲ決定シ第三種ノ所得金額ハ所得調査委員會ノ調査ニ依リ政府之ヲ決定ス
第十條 稅務署長ハ每年第三種ノ所得ニ付納稅義務者又ハ納稅義務アリト認ムル者ノ所得金額ヲ調査シ其ノ調査書ヲ製シテ之ヲ所得調査委員會ニ送付スヘシ
第十三條 調査委員ノ選擧區域ハ稅務署ノ管轄區域ニ依ル
調査委員選擧人ノ選擧區域ハ市町村ノ區域ニ依リ東京市京都市大阪市札幌區函館區ニ在テハ區ノ區域ニ依ル
第十四條 選擧區域內ニ住居シ第八條ノ申吿ヲ爲シタル者ハ調査委員選擧人ヲ選擧シ又ハ調査委員若ハ調査委員選擧人ニ選擧セラルルコトヲ得但シ左ニ記載スル者ハ此ノ限ニ在ラス
二 身代限ノ處分ヲ受ケ債務ノ辨償ヲ終ヘサル者及家資分散若ハ破產ノ宣吿ヲ受ケ其ノ確定シタルトキヨリ復權ノ決定確定スルニ至ルマテノ者
五 禁錮以上ノ刑ノ宣吿ヲ受ケタルトキヨリ其ノ裁判確定スルニ至ルマテノ者
六 第四十六條ニ依リ處罰セラレタル後五箇年ヲ經サル者
第十五條 調査委員選擧人ノ定數ハ其ノ選擧區域內ニ於ケル第八條ノ申吿ヲ爲シタル者十人ニ付一人トス但シ申吿者二百人以上ナルトキハ二十人ニ止メ申吿者十人未滿ナルトキハ一人トス
第十六條 調査委員選擧人ノ選擧事務ハ市區町村長又ハ戶長之ヲ執行シ調査委員ノ選擧事務ハ稅務署長之ヲ執行ス
第十七條 稅務署長ハ調査委員選擧人ノ選擧期日ヲ定メ之ヲ市區町村長又ハ戶長ニ通知スヘシ
市區町村長又ハ戶長ハ前項ノ通知ヲ受ケタルトキハ少クトモ選擧期日七日前其ノ旨ヲ公示スヘシ
第十九條 選擧ハ投票ノ多數ヲ得タル者ヲ以テ當選トス投票ノ數同シキトキハ年長者ヲ取リ同年月ナルトキハ抽籤ヲ以テ之ヲ定ム
第二十條 調査委員選擧人ノ選擧終了シタルトキハ市區町村長又ハ戶長ハ當選人ノ氏名ヲ公示スヘシ
第二十一條 稅務署長ハ選擧期日ヲ定メ少クトモ七日前ニ公示シ調査委員及之ト同數ノ補闕員ノ選擧ヲ行ハシムヘシ
前項ノ選擧ニ關シテハ第十八條及第十九條ノ規定ヲ準用ス
第二十二條 調査委員及補闕員ノ選擧終了シタルトキハ稅務署長ハ當選人ノ氏名ヲ公示スヘシ
第二十三條 調査委員及補闕員ニ選ハレタル者ハ正當ノ事故ナクシテ之ヲ辭スルコトヲ得ス
第二十四條 調査委員ノ任期ハ滿四年トシ二年每ニ其ノ半數ヲ改選ス但シ第一囘ノ改選期ニ於テハ抽籤ヲ以テ其ノ退任者ヲ定ム
調査委員ニ闕員ヲ生シタルトキハ投票ノ數最モ多キ補闕員ヨリ順次之ヲ補充ス但シ投票ノ數同シキトキハ年長者ヲ取リ同年月ナルトキハ抽籤ヲ以テ之ヲ定ム
補闕員ヨリ調査委員トナリタル者ノ任期ハ前任者ノ殘期間トス
第二十五條 調査委員會ハ遲クトモ每年八月一日マテニ開會スルヲ要ス
第二十六條 調査委員會ハ稅務署長ノ通知ニ依リ之ヲ開ク
第二十七條 調査委員會ハ每年開會ノ始ニ於テ調査委員中ヨリ會長ヲ選擧スヘシ
第二十八條 調査委員會ハ定員ノ過半數ニ當ル委員出席スルニアラサレハ決議スルコトヲ得ス
議事ハ出席員ノ多數ヲ以テ之ヲ決ス可否同數ナルトキハ會長ノ決スル所ニ依ル
第二十九條 調査委員ハ自己ノ所得金ニ關スル議事ニ與ルコトヲ得ス
第三十條 八月三十一日マテニ調査委員會成立セサルカ又ハ調査結了セサルトキハ所得金額調査未濟ノ者ニ付テハ政府ニ於テ其ノ所得金額ヲ決定ス
第三十一條 政府ハ調査委員會ノ決議ヲ不當ト認ムルトキハ之ヲ再調査ニ付ス仍其ノ決議ヲ不當ト認ムルトキ又ハ再調査ニ付シタル日ヨリ十五日以內ニ調査結了セサルトキハ政府ニ於テ所得金額ヲ決定ス
第三十二條 稅務署長又ハ其ノ代理官ハ調査委員會ニ出席シ意見ヲ陳述スルコトヲ得
第三十四條 稅務署長又ハ其ノ代理官ハ調査上必要アルトキハ納稅義務者又ハ納稅義務アリト認ムル者ニ對シ其ノ所得ニ關スル事實ヲ質問スルコトヲ得
第三十五條 政府ハ第一種及第三種ノ所得金額ヲ決定シタルトキハ之ヲ納稅義務者ニ通知スヘシ
第三十六條 納稅義務者政府ノ通知シタル所得金額ニ對シテ異議アルトキハ通知ヲ受ケタル日ヨリ二十日以內ニ不服ノ事由ヲ具シ政府ニ申出テ審査ヲ求ムルコトヲ得
第三十七條 前條ノ請求アリタルトキハ審査委員會ヲ開キ其ノ決議ニ依リ政府之ヲ決定ス
審査委員會ハ收稅官吏三人調査委員四人ヲ以テ之ヲ組織ス
審査委員會ハ前條ノ申立ヲ爲シタル者ニ對シ其ノ所得ニ關スル事實ヲ質問スルコトヲ得
第三十八條 納稅義務者ハ第三十六條ノ審査ヲ求メタル場合ト雖通知ヲ受ケタル所得金額ニ依リ稅金ヲ納ムヘシ
第三十九條 所得金額ノ決定ニ對シ不服アル者ハ訴願又ハ行政訴訟ヲ爲スコトヲ得
第四十條 第三種ノ所得ニ付納稅義務アル者所得金額四分ノ一以上ヲ滅損シタルトキハ政府ニ申出テ所得金額ノ更訂ヲ求ムルコトヲ得但シ翌年一月三十一日ヲ過クルトキハ所得金額ノ更訂ヲ求ムルコトヲ得ス
第四十一條 前條ノ請求アリタルトキハ政府ハ其ノ所得金額ヲ査覈シ決定額ニ對シ四分ノ一以上ノ減損アリタルトキハ所得金額ヲ更訂ス
第四十二條 第一種ノ所得ニ付テハ各事業年度每ニ所得稅ヲ徵收ス
第二種ノ所得ニ付テハ其ノ金額支拂ノ際支拂者其ノ所得稅ヲ徵收シ其ノ都度之ヲ政府ニ納ムヘシ
第三種ノ所得ニ付テハ所得稅ノ年額ヲ二分シ其ノ年九月及翌年三月之ヲ徵收ス但シ納稅者納稅管理人ヲ定メスシテ帝國外ニ住所若ハ居所ヲ移ストキハ其ノ際直ニ其ノ所得稅ヲ徵收スルコトヲ得
第四十三條 第四十條ノ請求アリタルトキハ政府ハ其ノ確定ニ至ルマテ稅金ノ徵收ヲ猶豫スルコトヲ得
第四十四條 第三種ノ所得ニ係ル所得稅ハ本人住所ノ地ヲ以テ納稅地トシ住所ナキトキハ居所ノ地ヲ以テ納稅地トス但シ納稅者ハ申吿シテ住所又ハ居所以外ノ地ニ於テ所得稅ヲ納ムルコトヲ得
此ノ法律施行地ニ住所又ハ居所ナキ者ハ納稅地ヲ定メ政府ニ申吿スヘシ申吿ナキトキハ政府其ノ納稅地ヲ指定ス
第四十五條 納稅義務者納稅地ニ現住セサルトキハ其ノ所得稅ニ關スル事項ヲ處理セシムル爲ニ納稅管理人ヲ定メ政府ニ申吿スヘシ
第四十六條 所得金額ヲ隱蔽シテ逋稅シタル者ハ其ノ逋稅金高三倍ノ罰金ニ處ス但自首スル者ハ其ノ稅金ヲ追徵シ其ノ罪ヲ問ハス
第四十七條 所得ノ調査又ハ審査ニ干與スル者其ノ調査又ハ審査ニ關スル事項ヲ他ニ漏洩シタルトキハ三十圓以下ノ罰金ニ處ス