朕帝國議會ノ協贊ヲ經タル所得稅法改正法律ヲ裁可シ玆ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
明治三十二年二月十日
內閣總理大臣 侯爵 山縣有朋
大藏大臣 伯爵 松方正義
法律第十七號
所得稅法
第一條 帝國內此ノ法律施行地ニ住所ヲ有シ又ハ一箇年以上居所ヲ有スル者ハ此ノ法律ニ依リ所得稅ヲ納ムル義務アルモノトス
第二條 前條ニ該當セサル者此ノ法律施行地ニ資產營業又ハ職業ヲ有スルトキハ其ノ所得ニ付テノミ所得稅ヲ納ムル義務アルモノトス
第三條 所得稅ハ左ノ稅率ニ依リ之ヲ賦課ス
第一種 法人ノ所得 千分ノ二十五
第二種 此ノ法律施行地ニ於テ支拂ヲ爲ス公債社債ノ利子 千分ノ二十
第三種 前各種ニ屬セサル所得
十萬圓以上 千分ノ五十五
五萬圓以上 千分ノ五十
三萬圓以上 千分ノ四十五
二萬圓以上 千分ノ四十
一萬五千圓以上 千分ノ三十五
一萬圓以上 千分ノ三十
五千圓以上 千分ノ二十五
三千圓以上 千分ノ二十
二千圓以上 千分ノ十七
千圓以上 千分ノ十五
五百圓以上 千分ノ十二
三百圓以上 千分ノ十
戶主及其ノ同居家族ノ所得ハ第三種ニ限リ之ヲ合算シ其ノ總額ニ依リ本條ノ稅率ヲ定ム戶主ト別居スル家族二人以上同居スルトキ亦同シ
第四條 所得ハ左ノ區別ニ從ヒ之ヲ算定ス
一 第一種ノ所得ハ各事業年度總益金ヨリ同年度總損金、前年度繰越金及保險責任準備金ヲ控除シタルモノニ依ル但シ第二條ニ該當スル法人ノ所得ハ此ノ法律施行地ニ於ケル資產又ハ營業ヨリ生スル各事業年度ノ益金ヨリ同年度損金ヲ控除シタルモノニ依ル
二 第二種ノ所得ハ其ノ支拂ヲ受クヘキ金額ニ依ル
三 第三種ノ所得ハ總收入金額ヨリ必要ノ經費ヲ控除シタル豫算年額ニ依ル但シ此ノ法律施行地ニ於テ支拂ヲ受ケサル公債社債ノ利子、營業ニ非サル貸金、預金ノ利子、此ノ法律ニ依リ所得稅ヲ課セラレサル法人ヨリ受ケタル配當金、俸給、給料、手當金、割賦賞與金、歲費、年金、恩給金ハ其ノ收入額ノ豫算年額ニ依リ田畑ヨリノ所得ハ前三箇年間所得平均高ヲ以テ算出スヘシ
前項第一號ノ場合ニ於テ益金中此ノ法律ニ依リ所得稅ヲ課セラレタル法人ヨリ受ケタル配當金及此ノ法律施行地ニ於テ支拂ヲ受ケタル公債社債ノ利子アルトキハ之ヲ控除ス
第五條 左ニ揭クル所得ニハ所得稅ヲ課セス
一 軍人從軍中ニ係ル俸給
二 扶助料及傷痍疾病者ノ恩給
三 旅費學資金及法定扶養料
四 營利ヲ目的トセサル法人ノ所得
五 營利ノ事業ニ屬セサル一時ノ所得
六 外國又ハ此ノ法律ヲ施行セサル地ニ於ケル資產營業又ハ職業ニ依ル所得但シ此ノ法律施行地ニ本店ヲ有スル法人ノ所得ヲ除ク
七 此ノ法律ニ依リ所得稅ヲ課セラレタル法人ヨリ受クル配當金
第六條 第三種ノ所得ハ三百圓ニ滿タサルトキハ所得稅ヲ課セス但シ第三條第二項ノ場合ニ於テ其ノ合算額三百圓ニ滿ツルトキハ此ノ限ニ在ラス
第七條 納稅義務アル法人ハ各事業年度每ニ損益計算書ヲ政府ニ提出スヘシ但シ第二條ニ該當スル法人ハ各事業年度每ニ此ノ法律施行地ニ於ケル資產又ハ營業ニ關スル損益ヲ計算シ其ノ計算書ヲ政府ニ提出スヘシ
第八條 第三種ノ所得ニ付納稅義務アル者ハ每年四月中ニ所得ノ種類及金額ヲ詳記シ政府ニ申吿スヘシ
第九條 第一種ノ所得金額ハ損益計算書ヲ調査シ政府之ヲ決定シ第三種ノ所得金額ハ所得調査委員會ノ調査ニ依リ政府之ヲ決定ス
第十條 稅務署長ハ每年第三種ノ所得ニ付納稅義務者又ハ納稅義務アリト認ムル者ノ所得金額ヲ調査シ其ノ調査書ヲ製シテ之ヲ所得調査委員會ニ送付スヘシ
第十一條 各稅務署所轄內ニ所得調査委員會ヲ置ク
調査委員ノ定數ハ命令ヲ以テ之ヲ定ム
第十二條 調査委員ハ調査委員選擧人之ヲ選擧ス
第十三條 調査委員ノ選擧區域ハ稅務署ノ管轄區域ニ依ル
調査委員選擧人ノ選擧區域ハ市町村ノ區域ニ依リ東京市京都市大阪市札幌區函館區ニ在テハ區ノ區域ニ依ル
第十四條 選擧區域內ニ住居シ第八條ノ申吿ヲ爲シタル者ハ調査委員選擧人ヲ選擧シ又ハ調査委員若ハ調査委員選擧人ニ選擧セラルルコトヲ得但シ左ニ記載スル者ハ此ノ限ニ在ラス
一 無能力者
二 身代限ノ處分ヲ受ケ債務ノ辨償ヲ終ヘサル者及家資分散若ハ破產ノ宣吿ヲ受ケ其ノ確定シタルトキヨリ復權ノ決定確定スルニ至ルマテノ者
三 國稅滯納處分ヲ受ケタル後一箇年ヲ經サル者
四 剝奪公權者及停止公權者
五 禁錮以上ノ刑ノ宣吿ヲ受ケタルトキヨリ其ノ裁判確定スルニ至ルマテノ者
六 第四十六條ニ依リ處罰セラレタル後五箇年ヲ經サル者
第十五條 調査委員選擧人ノ定數ハ其ノ選擧區域內ニ於ケル第八條ノ申吿ヲ爲シタル者十人ニ付一人トス但シ申吿者二百人以上ナルトキハ二十人ニ止メ申吿者十人未滿ナルトキハ一人トス
第十六條 調査委員選擧人ノ選擧事務ハ市區町村長又ハ戶長之ヲ執行シ調査委員ノ選擧事務ハ稅務署長之ヲ執行ス
第十七條 稅務署長ハ調査委員選擧人ノ選擧期日ヲ定メ之ヲ市區町村長又ハ戶長ニ通知スヘシ
市區町村長又ハ戶長ハ前項ノ通知ヲ受ケタルトキハ少クトモ選擧期日七日前其ノ旨ヲ公示スヘシ
第十八條 選擧ハ記名投票ヲ以テ之ヲ行フ
第十九條 選擧ハ投票ノ多數ヲ得タル者ヲ以テ當選トス投票ノ數同シキトキハ年長者ヲ取リ同年月ナルトキハ抽籤ヲ以テ之ヲ定ム
第二十條 調査委員選擧人ノ選擧終了シタルトキハ市區町村長又ハ戶長ハ當選人ノ氏名ヲ公示スヘシ
第二十一條 稅務署長ハ選擧期日ヲ定メ少クトモ七日前ニ公示シ調査委員及之ト同數ノ補闕員ノ選擧ヲ行ハシムヘシ
前項ノ選擧ニ關シテハ第十八條及第十九條ノ規定ヲ準用ス
第二十二條 調査委員及補闕員ノ選擧終了シタルトキハ稅務署長ハ當選人ノ氏名ヲ公示スヘシ
第二十三條 調査委員及補闕員ニ選ハレタル者ハ正當ノ事故ナクシテ之ヲ辭スルコトヲ得ス
第二十四條 調査委員ノ任期ハ滿四年トシ二年每ニ其ノ半數ヲ改選ス但シ第一囘ノ改選期ニ於テハ抽籤ヲ以テ其ノ退任者ヲ定ム
補闕員ハ二年每ニ之ヲ改選ス
調査委員ニ闕員ヲ生シタルトキハ投票ノ數最モ多キ補闕員ヨリ順次之ヲ補充ス但シ投票ノ數同シキトキハ年長者ヲ取リ同年月ナルトキハ抽籤ヲ以テ之ヲ定ム
補闕員ヨリ調査委員トナリタル者ノ任期ハ前任者ノ殘期間トス
第二十五條 調査委員會ハ遲クトモ每年八月一日マテニ開會スルヲ要ス
第二十六條 調査委員會ハ稅務署長ノ通知ニ依リ之ヲ開ク
第二十七條 調査委員會ハ每年開會ノ始ニ於テ調査委員中ヨリ會長ヲ選擧スヘシ
第二十八條 調査委員會ハ定員ノ過半數ニ當ル委員出席スルニアラサレハ決議スルコトヲ得ス
議事ハ出席員ノ多數ヲ以テ之ヲ決ス可否同數ナルトキハ會長ノ決スル所ニ依ル
第二十九條 調査委員ハ自己ノ所得金ニ關スル議事ニ與ルコトヲ得ス
第三十條 八月三十一日マテニ調査委員會成立セサルカ又ハ調査結了セサルトキハ所得金額調査未濟ノ者ニ付テハ政府ニ於テ其ノ所得金額ヲ決定ス
第三十一條 政府ハ調査委員會ノ決議ヲ不當ト認ムルトキハ之ヲ再調査ニ付ス仍其ノ決議ヲ不當ト認ムルトキ又ハ再調査ニ付シタル日ヨリ十五日以內ニ調査結了セサルトキハ政府ニ於テ所得金額ヲ決定ス
第三十二條 稅務署長又ハ其ノ代理官ハ調査委員會ニ出席シ意見ヲ陳述スルコトヲ得
第三十三條 調査委員ニハ日當及旅費ヲ支給ス
第三十四條 稅務署長又ハ其ノ代理官ハ調査上必要アルトキハ納稅義務者又ハ納稅義務アリト認ムル者ニ對シ其ノ所得ニ關スル事實ヲ質問スルコトヲ得
第三十五條 政府ハ第一種及第三種ノ所得金額ヲ決定シタルトキハ之ヲ納稅義務者ニ通知スヘシ
第三十六條 納稅義務者政府ノ通知シタル所得金額ニ對シテ異議アルトキハ通知ヲ受ケタル日ヨリ二十日以內ニ不服ノ事由ヲ具シ政府ニ申出テ審査ヲ求ムルコトヲ得
第三十七條 前條ノ請求アリタルトキハ審査委員會ヲ開キ其ノ決議ニ依リ政府之ヲ決定ス
審査委員會ハ收稅官吏三人調査委員四人ヲ以テ之ヲ組織ス
審査委員會ノ所屬區域ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
審査委員會ハ前條ノ申立ヲ爲シタル者ニ對シ其ノ所得ニ關スル事實ヲ質問スルコトヲ得
第三十八條 納稅義務者ハ第三十六條ノ審査ヲ求メタル場合ト雖通知ヲ受ケタル所得金額ニ依リ稅金ヲ納ムヘシ
第三十九條 所得金額ノ決定ニ對シ不服アル者ハ訴願又ハ行政訴訟ヲ爲スコトヲ得
第四十條 第三種ノ所得ニ付納稅義務アル者所得金額四分ノ一以上ヲ滅損シタルトキハ政府ニ申出テ所得金額ノ更訂ヲ求ムルコトヲ得但シ翌年一月三十一日ヲ過クルトキハ所得金額ノ更訂ヲ求ムルコトヲ得ス
第四十一條 前條ノ請求アリタルトキハ政府ハ其ノ所得金額ヲ査覈シ決定額ニ對シ四分ノ一以上ノ減損アリタルトキハ所得金額ヲ更訂ス
第四十二條 第一種ノ所得ニ付テハ各事業年度每ニ所得稅ヲ徵收ス
第二種ノ所得ニ付テハ其ノ金額支拂ノ際支拂者其ノ所得稅ヲ徵收シ其ノ都度之ヲ政府ニ納ムヘシ
第三種ノ所得ニ付テハ所得稅ノ年額ヲ二分シ其ノ年九月及翌年三月之ヲ徵收ス但シ納稅者納稅管理人ヲ定メスシテ帝國外ニ住所若ハ居所ヲ移ストキハ其ノ際直ニ其ノ所得稅ヲ徵收スルコトヲ得
第四十三條 第四十條ノ請求アリタルトキハ政府ハ其ノ確定ニ至ルマテ稅金ノ徵收ヲ猶豫スルコトヲ得
第四十四條 第三種ノ所得ニ係ル所得稅ハ本人住所ノ地ヲ以テ納稅地トシ住所ナキトキハ居所ノ地ヲ以テ納稅地トス但シ納稅者ハ申吿シテ住所又ハ居所以外ノ地ニ於テ所得稅ヲ納ムルコトヲ得
此ノ法律施行地ニ住所又ハ居所ナキ者ハ納稅地ヲ定メ政府ニ申吿スヘシ申吿ナキトキハ政府其ノ納稅地ヲ指定ス
第四十五條 納稅義務者納稅地ニ現住セサルトキハ其ノ所得稅ニ關スル事項ヲ處理セシムル爲ニ納稅管理人ヲ定メ政府ニ申吿スヘシ
第四十六條 所得金額ヲ隱蔽シテ逋稅シタル者ハ其ノ逋稅金高三倍ノ罰金ニ處ス但自首スル者ハ其ノ稅金ヲ追徵シ其ノ罪ヲ問ハス
第四十七條 所得ノ調査又ハ審査ニ干與スル者其ノ調査又ハ審査ニ關スル事項ヲ他ニ漏洩シタルトキハ三十圓以下ノ罰金ニ處ス
前項ニ依リ處罰セラレタル者ハ其ノ職ヲ失フモノトス
附 則
第四十八條 此ノ法律ハ明治三十二年分所得稅ヨリ之ヲ適用ス
第四十九條 明治二十年勅令第五號所得稅法ハ明治三十一年分所得稅限リ廢止ス
第五十條 此ノ法律ハ沖繩縣小笠原島及伊豆七島ニ當分之ヲ施行セス
朕帝国議会ノ協賛ヲ経タル所得税法改正法律ヲ裁可シ茲ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
明治三十二年二月十日
内閣総理大臣 侯爵 山県有朋
大蔵大臣 伯爵 松方正義
法律第十七号
所得税法
第一条 帝国内此ノ法律施行地ニ住所ヲ有シ又ハ一箇年以上居所ヲ有スル者ハ此ノ法律ニ依リ所得税ヲ納ムル義務アルモノトス
第二条 前条ニ該当セサル者此ノ法律施行地ニ資産営業又ハ職業ヲ有スルトキハ其ノ所得ニ付テノミ所得税ヲ納ムル義務アルモノトス
第三条 所得税ハ左ノ税率ニ依リ之ヲ賦課ス
第一種 法人ノ所得 千分ノ二十五
第二種 此ノ法律施行地ニ於テ支払ヲ為ス公債社債ノ利子 千分ノ二十
第三種 前各種ニ属セサル所得
十万円以上 千分ノ五十五
五万円以上 千分ノ五十
三万円以上 千分ノ四十五
二万円以上 千分ノ四十
一万五千円以上 千分ノ三十五
一万円以上 千分ノ三十
五千円以上 千分ノ二十五
三千円以上 千分ノ二十
二千円以上 千分ノ十七
千円以上 千分ノ十五
五百円以上 千分ノ十二
三百円以上 千分ノ十
戸主及其ノ同居家族ノ所得ハ第三種ニ限リ之ヲ合算シ其ノ総額ニ依リ本条ノ税率ヲ定ム戸主ト別居スル家族二人以上同居スルトキ亦同シ
第四条 所得ハ左ノ区別ニ従ヒ之ヲ算定ス
一 第一種ノ所得ハ各事業年度総益金ヨリ同年度総損金、前年度繰越金及保険責任準備金ヲ控除シタルモノニ依ル但シ第二条ニ該当スル法人ノ所得ハ此ノ法律施行地ニ於ケル資産又ハ営業ヨリ生スル各事業年度ノ益金ヨリ同年度損金ヲ控除シタルモノニ依ル
二 第二種ノ所得ハ其ノ支払ヲ受クヘキ金額ニ依ル
三 第三種ノ所得ハ総収入金額ヨリ必要ノ経費ヲ控除シタル予算年額ニ依ル但シ此ノ法律施行地ニ於テ支払ヲ受ケサル公債社債ノ利子、営業ニ非サル貸金、預金ノ利子、此ノ法律ニ依リ所得税ヲ課セラレサル法人ヨリ受ケタル配当金、俸給、給料、手当金、割賦賞与金、歳費、年金、恩給金ハ其ノ収入額ノ予算年額ニ依リ田畑ヨリノ所得ハ前三箇年間所得平均高ヲ以テ算出スヘシ
前項第一号ノ場合ニ於テ益金中此ノ法律ニ依リ所得税ヲ課セラレタル法人ヨリ受ケタル配当金及此ノ法律施行地ニ於テ支払ヲ受ケタル公債社債ノ利子アルトキハ之ヲ控除ス
第五条 左ニ掲クル所得ニハ所得税ヲ課セス
一 軍人従軍中ニ係ル俸給
二 扶助料及傷痍疾病者ノ恩給
三 旅費学資金及法定扶養料
四 営利ヲ目的トセサル法人ノ所得
五 営利ノ事業ニ属セサル一時ノ所得
六 外国又ハ此ノ法律ヲ施行セサル地ニ於ケル資産営業又ハ職業ニ依ル所得但シ此ノ法律施行地ニ本店ヲ有スル法人ノ所得ヲ除ク
七 此ノ法律ニ依リ所得税ヲ課セラレタル法人ヨリ受クル配当金
第六条 第三種ノ所得ハ三百円ニ満タサルトキハ所得税ヲ課セス但シ第三条第二項ノ場合ニ於テ其ノ合算額三百円ニ満ツルトキハ此ノ限ニ在ラス
第七条 納税義務アル法人ハ各事業年度毎ニ損益計算書ヲ政府ニ提出スヘシ但シ第二条ニ該当スル法人ハ各事業年度毎ニ此ノ法律施行地ニ於ケル資産又ハ営業ニ関スル損益ヲ計算シ其ノ計算書ヲ政府ニ提出スヘシ
第八条 第三種ノ所得ニ付納税義務アル者ハ毎年四月中ニ所得ノ種類及金額ヲ詳記シ政府ニ申告スヘシ
第九条 第一種ノ所得金額ハ損益計算書ヲ調査シ政府之ヲ決定シ第三種ノ所得金額ハ所得調査委員会ノ調査ニ依リ政府之ヲ決定ス
第十条 税務署長ハ毎年第三種ノ所得ニ付納税義務者又ハ納税義務アリト認ムル者ノ所得金額ヲ調査シ其ノ調査書ヲ製シテ之ヲ所得調査委員会ニ送付スヘシ
第十一条 各税務署所轄内ニ所得調査委員会ヲ置ク
調査委員ノ定数ハ命令ヲ以テ之ヲ定ム
第十二条 調査委員ハ調査委員選挙人之ヲ選挙ス
第十三条 調査委員ノ選挙区域ハ税務署ノ管轄区域ニ依ル
調査委員選挙人ノ選挙区域ハ市町村ノ区域ニ依リ東京市京都市大阪市札幌区函館区ニ在テハ区ノ区域ニ依ル
第十四条 選挙区域内ニ住居シ第八条ノ申告ヲ為シタル者ハ調査委員選挙人ヲ選挙シ又ハ調査委員若ハ調査委員選挙人ニ選挙セラルルコトヲ得但シ左ニ記載スル者ハ此ノ限ニ在ラス
一 無能力者
二 身代限ノ処分ヲ受ケ債務ノ弁償ヲ終ヘサル者及家資分散若ハ破産ノ宣告ヲ受ケ其ノ確定シタルトキヨリ復権ノ決定確定スルニ至ルマテノ者
三 国税滞納処分ヲ受ケタル後一箇年ヲ経サル者
四 剥奪公権者及停止公権者
五 禁錮以上ノ刑ノ宣告ヲ受ケタルトキヨリ其ノ裁判確定スルニ至ルマテノ者
六 第四十六条ニ依リ処罰セラレタル後五箇年ヲ経サル者
第十五条 調査委員選挙人ノ定数ハ其ノ選挙区域内ニ於ケル第八条ノ申告ヲ為シタル者十人ニ付一人トス但シ申告者二百人以上ナルトキハ二十人ニ止メ申告者十人未満ナルトキハ一人トス
第十六条 調査委員選挙人ノ選挙事務ハ市区町村長又ハ戸長之ヲ執行シ調査委員ノ選挙事務ハ税務署長之ヲ執行ス
第十七条 税務署長ハ調査委員選挙人ノ選挙期日ヲ定メ之ヲ市区町村長又ハ戸長ニ通知スヘシ
市区町村長又ハ戸長ハ前項ノ通知ヲ受ケタルトキハ少クトモ選挙期日七日前其ノ旨ヲ公示スヘシ
第十八条 選挙ハ記名投票ヲ以テ之ヲ行フ
第十九条 選挙ハ投票ノ多数ヲ得タル者ヲ以テ当選トス投票ノ数同シキトキハ年長者ヲ取リ同年月ナルトキハ抽籤ヲ以テ之ヲ定ム
第二十条 調査委員選挙人ノ選挙終了シタルトキハ市区町村長又ハ戸長ハ当選人ノ氏名ヲ公示スヘシ
第二十一条 税務署長ハ選挙期日ヲ定メ少クトモ七日前ニ公示シ調査委員及之ト同数ノ補闕員ノ選挙ヲ行ハシムヘシ
前項ノ選挙ニ関シテハ第十八条及第十九条ノ規定ヲ準用ス
第二十二条 調査委員及補闕員ノ選挙終了シタルトキハ税務署長ハ当選人ノ氏名ヲ公示スヘシ
第二十三条 調査委員及補闕員ニ選ハレタル者ハ正当ノ事故ナクシテ之ヲ辞スルコトヲ得ス
第二十四条 調査委員ノ任期ハ満四年トシ二年毎ニ其ノ半数ヲ改選ス但シ第一回ノ改選期ニ於テハ抽籤ヲ以テ其ノ退任者ヲ定ム
補闕員ハ二年毎ニ之ヲ改選ス
調査委員ニ闕員ヲ生シタルトキハ投票ノ数最モ多キ補闕員ヨリ順次之ヲ補充ス但シ投票ノ数同シキトキハ年長者ヲ取リ同年月ナルトキハ抽籤ヲ以テ之ヲ定ム
補闕員ヨリ調査委員トナリタル者ノ任期ハ前任者ノ残期間トス
第二十五条 調査委員会ハ遅クトモ毎年八月一日マテニ開会スルヲ要ス
第二十六条 調査委員会ハ税務署長ノ通知ニ依リ之ヲ開ク
第二十七条 調査委員会ハ毎年開会ノ始ニ於テ調査委員中ヨリ会長ヲ選挙スヘシ
第二十八条 調査委員会ハ定員ノ過半数ニ当ル委員出席スルニアラサレハ決議スルコトヲ得ス
議事ハ出席員ノ多数ヲ以テ之ヲ決ス可否同数ナルトキハ会長ノ決スル所ニ依ル
第二十九条 調査委員ハ自己ノ所得金ニ関スル議事ニ与ルコトヲ得ス
第三十条 八月三十一日マテニ調査委員会成立セサルカ又ハ調査結了セサルトキハ所得金額調査未済ノ者ニ付テハ政府ニ於テ其ノ所得金額ヲ決定ス
第三十一条 政府ハ調査委員会ノ決議ヲ不当ト認ムルトキハ之ヲ再調査ニ付ス仍其ノ決議ヲ不当ト認ムルトキ又ハ再調査ニ付シタル日ヨリ十五日以内ニ調査結了セサルトキハ政府ニ於テ所得金額ヲ決定ス
第三十二条 税務署長又ハ其ノ代理官ハ調査委員会ニ出席シ意見ヲ陳述スルコトヲ得
第三十三条 調査委員ニハ日当及旅費ヲ支給ス
第三十四条 税務署長又ハ其ノ代理官ハ調査上必要アルトキハ納税義務者又ハ納税義務アリト認ムル者ニ対シ其ノ所得ニ関スル事実ヲ質問スルコトヲ得
第三十五条 政府ハ第一種及第三種ノ所得金額ヲ決定シタルトキハ之ヲ納税義務者ニ通知スヘシ
第三十六条 納税義務者政府ノ通知シタル所得金額ニ対シテ異議アルトキハ通知ヲ受ケタル日ヨリ二十日以内ニ不服ノ事由ヲ具シ政府ニ申出テ審査ヲ求ムルコトヲ得
第三十七条 前条ノ請求アリタルトキハ審査委員会ヲ開キ其ノ決議ニ依リ政府之ヲ決定ス
審査委員会ハ収税官吏三人調査委員四人ヲ以テ之ヲ組織ス
審査委員会ノ所属区域ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
審査委員会ハ前条ノ申立ヲ為シタル者ニ対シ其ノ所得ニ関スル事実ヲ質問スルコトヲ得
第三十八条 納税義務者ハ第三十六条ノ審査ヲ求メタル場合ト雖通知ヲ受ケタル所得金額ニ依リ税金ヲ納ムヘシ
第三十九条 所得金額ノ決定ニ対シ不服アル者ハ訴願又ハ行政訴訟ヲ為スコトヲ得
第四十条 第三種ノ所得ニ付納税義務アル者所得金額四分ノ一以上ヲ滅損シタルトキハ政府ニ申出テ所得金額ノ更訂ヲ求ムルコトヲ得但シ翌年一月三十一日ヲ過クルトキハ所得金額ノ更訂ヲ求ムルコトヲ得ス
第四十一条 前条ノ請求アリタルトキハ政府ハ其ノ所得金額ヲ査覈シ決定額ニ対シ四分ノ一以上ノ減損アリタルトキハ所得金額ヲ更訂ス
第四十二条 第一種ノ所得ニ付テハ各事業年度毎ニ所得税ヲ徴収ス
第二種ノ所得ニ付テハ其ノ金額支払ノ際支払者其ノ所得税ヲ徴収シ其ノ都度之ヲ政府ニ納ムヘシ
第三種ノ所得ニ付テハ所得税ノ年額ヲ二分シ其ノ年九月及翌年三月之ヲ徴収ス但シ納税者納税管理人ヲ定メスシテ帝国外ニ住所若ハ居所ヲ移ストキハ其ノ際直ニ其ノ所得税ヲ徴収スルコトヲ得
第四十三条 第四十条ノ請求アリタルトキハ政府ハ其ノ確定ニ至ルマテ税金ノ徴収ヲ猶予スルコトヲ得
第四十四条 第三種ノ所得ニ係ル所得税ハ本人住所ノ地ヲ以テ納税地トシ住所ナキトキハ居所ノ地ヲ以テ納税地トス但シ納税者ハ申告シテ住所又ハ居所以外ノ地ニ於テ所得税ヲ納ムルコトヲ得
此ノ法律施行地ニ住所又ハ居所ナキ者ハ納税地ヲ定メ政府ニ申告スヘシ申告ナキトキハ政府其ノ納税地ヲ指定ス
第四十五条 納税義務者納税地ニ現住セサルトキハ其ノ所得税ニ関スル事項ヲ処理セシムル為ニ納税管理人ヲ定メ政府ニ申告スヘシ
第四十六条 所得金額ヲ隠蔽シテ逋税シタル者ハ其ノ逋税金高三倍ノ罰金ニ処ス但自首スル者ハ其ノ税金ヲ追徴シ其ノ罪ヲ問ハス
第四十七条 所得ノ調査又ハ審査ニ干与スル者其ノ調査又ハ審査ニ関スル事項ヲ他ニ漏洩シタルトキハ三十円以下ノ罰金ニ処ス
前項ニ依リ処罰セラレタル者ハ其ノ職ヲ失フモノトス
附 則
第四十八条 此ノ法律ハ明治三十二年分所得税ヨリ之ヲ適用ス
第四十九条 明治二十年勅令第五号所得税法ハ明治三十一年分所得税限リ廃止ス
第五十条 此ノ法律ハ沖縄県小笠原島及伊豆七島ニ当分之ヲ施行セス