朕帝國議會ノ協贊ヲ經タル鐵道營業法ヲ裁可シ玆ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
明治三十三年三月十五日
內閣總理大臣 侯爵 山縣有朋
遞信大臣 子爵 芳川顯正
法律第六十五號
鐵道營業法
第一章 鐵道ノ設備及運送
第一條 鐵道ノ建設、車輛器具ノ構造及運轉ハ命令ヲ以テ定ムル規程ニ依ルヘシ
第二條 本法其ノ他特別ノ法令ニ規定スルモノノ外鐵道運送ニ關スル特別ノ事項ハ鐵道運輸規程ノ定ムル所ニ依ル
鐵道運輸規程ハ命令ヲ以テ之ヲ定ム
第三條 運賃ノ增加及運送取扱條件ノ變更ハ關係停車場ニ二週間以上公吿シタル後ニ非サレハ之ヲ實施スルコトヲ得ス
第四條 傳染病患者ハ主務大臣ノ定ムル規程ニ依ルニ非サレハ乘車セシムルコトヲ得ス
附添人ナキ重病者ノ乘車ハ之ヲ拒絕スルコトヲ得
第五條 火藥其ノ他爆發質危險品ハ鐵道カ其ノ運送取扱ノ公吿ヲ爲シタル場合ノ外其ノ運送ヲ拒絕スルコトヲ得
第六條 鐵道ハ左ノ事項ノ具備シタル場合ニ於テハ貨物ノ運送ヲ拒絕スルコトヲ得ス
一 荷送人カ法令其ノ他鐵道運送ニ關スル規定ヲ遵守スルトキ
二 貨物ノ運送ニ付特別ナル責務ノ條件ヲ荷送人ヨリ求メサルトキ
三 運送カ法令ノ規定又ハ公ノ秩序若ハ善良ノ風俗ニ反セサルトキ
四 貨物カ成規ニ依リ其ノ線路ニ於ケル運送ニ適スルトキ
五 天災事變其ノ他已ムヲ得サル事由ニ基因シタル運送上ノ支障ナキトキ
前項ノ規定ハ旅客運送ニ之ヲ準用ス
第七條 運送ニ付特別ノ設備ヲ要スル貨物ニ關シテハ鐵道ハ其ノ設備アル場合ニ限リ之ヲ引受クルノ義務ヲ負フ
第八條 鐵道ハ直ニ運送ヲ爲シ得ヘキ場合ニ限リ貨物ヲ受取ルヘキ義務ヲ負フ
第九條 貨物ハ運送ノ爲受取リタル順序ニ依リ之ヲ運送スルコトヲ要ス但シ運輸上正當ノ事由若ハ公益上ノ必要アルトキハ此ノ限ニ在ラス
第十條 鐵道ハ貨物ノ種類及性質ヲ明吿スヘキコトヲ荷送人ニ求ムルコトヲ得若シ其ノ種類及性質ニ付疑アルトキハ荷送人ノ立會ヲ以テ之ヲ㸃檢スルコトヲ得
㸃檢ニ因リ貨物ノ種類及性質カ荷送人ノ明吿シタル所ト異ナラサル場合ニ限リ鐵道ハ㸃檢ニ關スル費用ヲ負擔シ且之カ爲生シタル損害ヲ賠償スルノ責ニ任ス
前二項ノ規定ハ火藥其ノ他爆發質危險品ヲ成規ニ反シ手荷物中ニ收納シタル疑アル場合ニ之ヲ準用ス
第十一條 貨幣、有價證券其ノ他ノ高價品ニ付テハ荷送人カ運送委託ノ際其ノ物品ノ種類、性質及價格ヲ明吿シ且增賃金ヲ支拂ヒタル場合ノ外鐵道ハ損害賠償ノ責ニ任セス但シ鐵道カ增賃金ノ支拂ヲ請求セサルニ因リ荷送人ニ於テ其ノ支拂ヲ爲ササルトキハ此ノ限ニ在ラス
前項增賃金ノ割合ハ鐵道運輸規程ノ定ムル所ニ依ル
第十二條 牛馬其ノ他ノ獸類ニ付テハ荷送人カ運送委託ノ際價格ヲ明吿セサルトキ又ハ明吿スルモ鐵道運輸規程ニヨリ鐵道ノ請求スル增賃金ヲ支拂ハサルトキハ其ノ損害ニ付鐵道ハ鐵道運輸規程ニ定ムル最高金額迄ヲ限リ賠償ノ責ニ任ス
前項賠償金額ノ制限ハ惡意又ハ重大ナル過失ニ因リ損害ヲ生シタル場合ニハ之ヲ適用セス
第十三條 惡意又ハ重大ナル過失ニ因ラサル手荷物ノ滅失、毀損ニ付テハ鐵道ハ鐵道運輸規程ニ定ムル最高金額迄ヲ限リ損害賠償ノ責ニ任ス
第十四條 運賃償還ノ債權ハ一年間之ヲ行ハサルトキハ時效ニ因リテ消滅ス
第十五條 旅客ハ營業上別段ノ定アル場合ノ外運賃ヲ支拂ヒ乘車券ヲ受クルニ非サレハ乘車スルコトヲ得ス
乘車券ヲ有スル者ハ列車中座席ノ存在スル場合ニ限リ乘車スルコトヲ得
第十六條 旅客カ乘車前旅行ヲ止メタルトキハ鐵道運輸規程ノ定ムル所ニ依リ運賃ノ拂戾ヲ請求スルコトヲ得
乘車後旅行ヲ中止シタルトキハ運賃ノ拂戾ヲ請求スルコトヲ得ス
第十七條 天災事變其ノ他已ムヲ得サル事由ニ因リ運送ニ著手シ又ハ之ヲ繼續スルコト能ハサルニ至リタルトキハ旅客及荷送人ハ契約ノ解除ヲ爲スコトヲ得此ノ場合ニ於テ鐵道ハ旣ニ爲シタル運送ノ割合ニ應シ運賃其ノ他ノ費用ヲ請求スルコトヲ得
第十八條 旅客ハ鐵道係員ノ請求アリタルトキハ何時ニテモ乘車券ヲ呈示シ檢査ヲ受クヘシ
有效ノ乘車券ヲ所持セス又ハ乘車券ノ檢査ヲ拒ミ又ハ取集ノ際之ヲ渡ササル者ハ鐵道運輸規程ノ定ムル所ニ依リ割增賃金ヲ支拂フヘシ
前項ノ場合ニ於テ乘車停車場不明ナルトキハ其ノ列車ノ出發停車場ヨリ運賃ヲ計算ス
第二章 鐵道係員
第十九條 鐵道係員ノ職制ハ命令ヲ以テ之ヲ定ム
第二十條 私設鐵道ハ鐵道係員ノ服務規程ヲ定メ主務大臣ノ認可ヲ受クルコトヲ要ス
第二十一條 主務大臣ハ鐵道係員タルニ要スル資格ヲ定ムルコトヲ得
第二十二條 旅客及公衆ニ對スル職務ヲ行フ鐵道係員ハ一定ノ制服ヲ著スヘシ
第二十三條 私設鐵道係員ハ職務上ノ義務ニ違背シ若ハ職務ヲ怠リ又ハ失行アリタルトキハ懲戒ヲ受ク
會社ハ懲戒ニ關スル規程ヲ定メ主務大臣ノ認可ヲ受クヘシ
懲戒ヲ爲スヘキ場合ニ於テ會社之ヲ爲ササルトキハ主務大臣ニ於テ懲戒ヲ爲スコトヲ得
第二十四條 鐵道係員職務取扱中旅客若ハ公衆ニ對シ失行アリタルトキハ二十五圓以下ノ罰金ニ處ス
第二十五條 鐵道係員職務上ノ義務ニ違背シ又ハ職務ヲ怠リ旅客若ハ公衆ニ危害ヲ釀スノ虞アル所爲アリタルトキハ五百圓以下ノ罰金又ハ三月以下ノ重禁錮ニ處ス
第二十六條 鐵道係員旅客ヲ强ヒテ定員ヲ超エ車中ニ乘込マシメタルトキハ二十圓以下ノ罰金ニ處ス
第二十七條 鐵道係員旅客又ハ荷送人若ハ荷受人ト通謀シ運賃ノ一部若ハ全部ヲ免レシメタルトキハ三年以下ノ重禁錮ニ處シ五百圓以下ノ罰金ヲ附加ス
第二十八條 鐵道係員道路蹈切ノ開通ヲ怠リ又ハ故ナク車輛其ノ他ノ器具ヲ蹈切ニ留置シ因テ往來ヲ妨害シタルトキハ二十圓以下ノ罰金ニ處ス
第三章 旅客及公衆
第二十九條 運賃ヲ免ルルノ目的ヲ以テ左ノ所爲ヲ爲シタル者ハ五十圓以下ノ罰金ニ處ス
一 有效ノ乘車券ナクシテ乘車シタルトキ
二 乘車券ニ指示シタルモノヨリ優等ノ車ニ乘リタルトキ
三 乘車券ニ指示シタル停車場ニ於テ下車セサルトキ
第三十條 運送品ノ種類若ハ性質ヲ詐稱シ又ハ運賃ヲ免ルルノ目的ヲ以テ詐僞ノ所爲ヲ爲シタル者ハ三月以下ノ重禁錮又ハ五百圓以下ノ罰金ニ處ス
第三十一條 鐵道運送ニ關スル法令ニ背キ火藥類其ノ他爆發質危險品ヲ託送シ又ハ車中ニ携帶シタル者ハ五十圓以下ノ罰金ニ處ス
第三十二條 列車警報機ヲ濫用シタル者ハ五十圓以下ノ罰金ニ處ス
第三十三條 旅客左ノ所爲ヲ爲シタルトキハ二十五圓以下ノ罰金ニ處ス
一 列車運轉中乘降シタルトキ
二 列車運轉中車輛ノ側面ニ在ル車扉ヲ開キタルトキ
三 列車中旅客乘用ニ供セサル箇所ニ乘リタルトキ
第三十四條 制止ヲ肯セスシテ左ノ所爲ヲ爲シタル者ハ科料ニ處ス
一 停車場其ノ他鐵道地內吸煙禁止ノ場所及吸煙禁止ノ車內ニ於テ吸煙シタルトキ
二 婦人ノ爲ニ設ケタル待合室及車室等ニ男子妄ニ立入リタルトキ
第三十五條 車內、停車場其ノ他鐵道地內ニ於テ妄狀ヲ現ハシ其ノ他不良ノ行狀ヲ爲シタル者ハ科料ニ處ス
第三十六條 車輛、停車場其ノ他鐵道地內ノ標識揭示ヲ改竄、毀棄、撤去シ又ハ燈火ヲ滅シタル者ハ五十圓以下ノ罰金ニ處ス
信號機ヲ改竄、毀棄、撤去シタル者ハ三月以上三年以下ノ重禁錮ニ處シ五圓以上五十圓以下ノ罰金ヲ附加ス
第三十七條 停車場其ノ他鐵道地內ニ妄ニ立入リタル者ハ科料ニ處ス
第三十八條 暴行脅迫ヲ以テ鐵道係員ノ職務ノ執行ヲ妨害シタル者ハ一年以下ノ重禁錮ニ處シ百圓以下ノ罰金ヲ附加ス
第三十九條 車內、停車場其ノ他鐵道地內ニ於テ發砲シタル者ハ二十五圓以下ノ罰金ニ處ス
第四十條 列車ニ向テ瓦石類ヲ投擲シタル者ハ十圓以下ノ罰金ニ處ス
第四十一條 第四條ノ規定ニ違反シ傳染病患者ヲ乘車セシメタル者ハ百圓以下ノ罰金ニ處ス傳染病患者其ノ病症ヲ隱蔽シテ乘車シタルトキ亦同シ
前項ノ場合ニ於テ途中下車セシメタルトキト雖旣ニ支拂ヒタル運賃ハ之ヲ還付セス
第四十二條 左ノ場合ニ於テ鐵道係員ハ旅客及公衆ヲ車外又ハ鐵道地外ニ退去セシムルコトヲ得
一 有效ノ乘車券ヲ所持セス又ハ檢査ヲ拒ミ運賃ノ支拂ヲ肯セサルトキ
二 第三十三條第三號ノ罪ヲ犯シ鐵道係員ノ制止ヲ肯セサルトキ又ハ第三十四條ノ罪ヲ犯シタルトキ
三 第三十五條、第三十七條ノ罪ヲ犯シタルトキ
四 其ノ他車內ニ於ケル秩序ヲ紊ルノ所爲アリタルトキ
前項ノ場合ニ於テ旣ニ支拂ヒタル運賃ハ之ヲ還付セス
第四十三條 前諸條ノ犯罪及鐵道保安ニ關スル犯罪ニシテ罰金ノ刑ニ該ルヘキ輕罪若ハ違警罪ノ現行犯アリタルトキ被吿人カ其ノ住所氏名ヲ分明ニ吿知セス又ハ逃亡ノ虞アルトキハ鐵道係員ハ司法警察官ニ之ヲ引致スルコトヲ得
附 則
第四十四條 本法ハ私設鐵道法ニ依ラサル私設鐵道ニハ之ヲ適用セス
第四十五條 本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
鐵道略則、鐵道犯罪罰例、明治十六年七月第二十三號布吿ハ之ヲ廢止ス
朕帝国議会ノ協賛ヲ経タル鉄道営業法ヲ裁可シ茲ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
明治三十三年三月十五日
内閣総理大臣 侯爵 山県有朋
逓信大臣 子爵 芳川顕正
法律第六十五号
鉄道営業法
第一章 鉄道ノ設備及運送
第一条 鉄道ノ建設、車輛器具ノ構造及運転ハ命令ヲ以テ定ムル規程ニ依ルヘシ
第二条 本法其ノ他特別ノ法令ニ規定スルモノノ外鉄道運送ニ関スル特別ノ事項ハ鉄道運輸規程ノ定ムル所ニ依ル
鉄道運輸規程ハ命令ヲ以テ之ヲ定ム
第三条 運賃ノ増加及運送取扱条件ノ変更ハ関係停車場ニ二週間以上公告シタル後ニ非サレハ之ヲ実施スルコトヲ得ス
第四条 伝染病患者ハ主務大臣ノ定ムル規程ニ依ルニ非サレハ乗車セシムルコトヲ得ス
附添人ナキ重病者ノ乗車ハ之ヲ拒絶スルコトヲ得
第五条 火薬其ノ他爆発質危険品ハ鉄道カ其ノ運送取扱ノ公告ヲ為シタル場合ノ外其ノ運送ヲ拒絶スルコトヲ得
第六条 鉄道ハ左ノ事項ノ具備シタル場合ニ於テハ貨物ノ運送ヲ拒絶スルコトヲ得ス
一 荷送人カ法令其ノ他鉄道運送ニ関スル規定ヲ遵守スルトキ
二 貨物ノ運送ニ付特別ナル責務ノ条件ヲ荷送人ヨリ求メサルトキ
三 運送カ法令ノ規定又ハ公ノ秩序若ハ善良ノ風俗ニ反セサルトキ
四 貨物カ成規ニ依リ其ノ線路ニ於ケル運送ニ適スルトキ
五 天災事変其ノ他已ムヲ得サル事由ニ基因シタル運送上ノ支障ナキトキ
前項ノ規定ハ旅客運送ニ之ヲ準用ス
第七条 運送ニ付特別ノ設備ヲ要スル貨物ニ関シテハ鉄道ハ其ノ設備アル場合ニ限リ之ヲ引受クルノ義務ヲ負フ
第八条 鉄道ハ直ニ運送ヲ為シ得ヘキ場合ニ限リ貨物ヲ受取ルヘキ義務ヲ負フ
第九条 貨物ハ運送ノ為受取リタル順序ニ依リ之ヲ運送スルコトヲ要ス但シ運輸上正当ノ事由若ハ公益上ノ必要アルトキハ此ノ限ニ在ラス
第十条 鉄道ハ貨物ノ種類及性質ヲ明告スヘキコトヲ荷送人ニ求ムルコトヲ得若シ其ノ種類及性質ニ付疑アルトキハ荷送人ノ立会ヲ以テ之ヲ点検スルコトヲ得
点検ニ因リ貨物ノ種類及性質カ荷送人ノ明告シタル所ト異ナラサル場合ニ限リ鉄道ハ点検ニ関スル費用ヲ負担シ且之カ為生シタル損害ヲ賠償スルノ責ニ任ス
前二項ノ規定ハ火薬其ノ他爆発質危険品ヲ成規ニ反シ手荷物中ニ収納シタル疑アル場合ニ之ヲ準用ス
第十一条 貨幣、有価証券其ノ他ノ高価品ニ付テハ荷送人カ運送委託ノ際其ノ物品ノ種類、性質及価格ヲ明告シ且増賃金ヲ支払ヒタル場合ノ外鉄道ハ損害賠償ノ責ニ任セス但シ鉄道カ増賃金ノ支払ヲ請求セサルニ因リ荷送人ニ於テ其ノ支払ヲ為ササルトキハ此ノ限ニ在ラス
前項増賃金ノ割合ハ鉄道運輸規程ノ定ムル所ニ依ル
第十二条 牛馬其ノ他ノ獣類ニ付テハ荷送人カ運送委託ノ際価格ヲ明告セサルトキ又ハ明告スルモ鉄道運輸規程ニヨリ鉄道ノ請求スル増賃金ヲ支払ハサルトキハ其ノ損害ニ付鉄道ハ鉄道運輸規程ニ定ムル最高金額迄ヲ限リ賠償ノ責ニ任ス
前項賠償金額ノ制限ハ悪意又ハ重大ナル過失ニ因リ損害ヲ生シタル場合ニハ之ヲ適用セス
第十三条 悪意又ハ重大ナル過失ニ因ラサル手荷物ノ滅失、毀損ニ付テハ鉄道ハ鉄道運輸規程ニ定ムル最高金額迄ヲ限リ損害賠償ノ責ニ任ス
第十四条 運賃償還ノ債権ハ一年間之ヲ行ハサルトキハ時効ニ因リテ消滅ス
第十五条 旅客ハ営業上別段ノ定アル場合ノ外運賃ヲ支払ヒ乗車券ヲ受クルニ非サレハ乗車スルコトヲ得ス
乗車券ヲ有スル者ハ列車中座席ノ存在スル場合ニ限リ乗車スルコトヲ得
第十六条 旅客カ乗車前旅行ヲ止メタルトキハ鉄道運輸規程ノ定ムル所ニ依リ運賃ノ払戻ヲ請求スルコトヲ得
乗車後旅行ヲ中止シタルトキハ運賃ノ払戻ヲ請求スルコトヲ得ス
第十七条 天災事変其ノ他已ムヲ得サル事由ニ因リ運送ニ著手シ又ハ之ヲ継続スルコト能ハサルニ至リタルトキハ旅客及荷送人ハ契約ノ解除ヲ為スコトヲ得此ノ場合ニ於テ鉄道ハ既ニ為シタル運送ノ割合ニ応シ運賃其ノ他ノ費用ヲ請求スルコトヲ得
第十八条 旅客ハ鉄道係員ノ請求アリタルトキハ何時ニテモ乗車券ヲ呈示シ検査ヲ受クヘシ
有効ノ乗車券ヲ所持セス又ハ乗車券ノ検査ヲ拒ミ又ハ取集ノ際之ヲ渡ササル者ハ鉄道運輸規程ノ定ムル所ニ依リ割増賃金ヲ支払フヘシ
前項ノ場合ニ於テ乗車停車場不明ナルトキハ其ノ列車ノ出発停車場ヨリ運賃ヲ計算ス
第二章 鉄道係員
第十九条 鉄道係員ノ職制ハ命令ヲ以テ之ヲ定ム
第二十条 私設鉄道ハ鉄道係員ノ服務規程ヲ定メ主務大臣ノ認可ヲ受クルコトヲ要ス
第二十一条 主務大臣ハ鉄道係員タルニ要スル資格ヲ定ムルコトヲ得
第二十二条 旅客及公衆ニ対スル職務ヲ行フ鉄道係員ハ一定ノ制服ヲ著スヘシ
第二十三条 私設鉄道係員ハ職務上ノ義務ニ違背シ若ハ職務ヲ怠リ又ハ失行アリタルトキハ懲戒ヲ受ク
会社ハ懲戒ニ関スル規程ヲ定メ主務大臣ノ認可ヲ受クヘシ
懲戒ヲ為スヘキ場合ニ於テ会社之ヲ為ササルトキハ主務大臣ニ於テ懲戒ヲ為スコトヲ得
第二十四条 鉄道係員職務取扱中旅客若ハ公衆ニ対シ失行アリタルトキハ二十五円以下ノ罰金ニ処ス
第二十五条 鉄道係員職務上ノ義務ニ違背シ又ハ職務ヲ怠リ旅客若ハ公衆ニ危害ヲ醸スノ虞アル所為アリタルトキハ五百円以下ノ罰金又ハ三月以下ノ重禁錮ニ処ス
第二十六条 鉄道係員旅客ヲ強ヒテ定員ヲ超エ車中ニ乗込マシメタルトキハ二十円以下ノ罰金ニ処ス
第二十七条 鉄道係員旅客又ハ荷送人若ハ荷受人ト通謀シ運賃ノ一部若ハ全部ヲ免レシメタルトキハ三年以下ノ重禁錮ニ処シ五百円以下ノ罰金ヲ附加ス
第二十八条 鉄道係員道路蹈切ノ開通ヲ怠リ又ハ故ナク車輛其ノ他ノ器具ヲ蹈切ニ留置シ因テ往来ヲ妨害シタルトキハ二十円以下ノ罰金ニ処ス
第三章 旅客及公衆
第二十九条 運賃ヲ免ルルノ目的ヲ以テ左ノ所為ヲ為シタル者ハ五十円以下ノ罰金ニ処ス
一 有効ノ乗車券ナクシテ乗車シタルトキ
二 乗車券ニ指示シタルモノヨリ優等ノ車ニ乗リタルトキ
三 乗車券ニ指示シタル停車場ニ於テ下車セサルトキ
第三十条 運送品ノ種類若ハ性質ヲ詐称シ又ハ運賃ヲ免ルルノ目的ヲ以テ詐偽ノ所為ヲ為シタル者ハ三月以下ノ重禁錮又ハ五百円以下ノ罰金ニ処ス
第三十一条 鉄道運送ニ関スル法令ニ背キ火薬類其ノ他爆発質危険品ヲ託送シ又ハ車中ニ携帯シタル者ハ五十円以下ノ罰金ニ処ス
第三十二条 列車警報機ヲ濫用シタル者ハ五十円以下ノ罰金ニ処ス
第三十三条 旅客左ノ所為ヲ為シタルトキハ二十五円以下ノ罰金ニ処ス
一 列車運転中乗降シタルトキ
二 列車運転中車輛ノ側面ニ在ル車扉ヲ開キタルトキ
三 列車中旅客乗用ニ供セサル箇所ニ乗リタルトキ
第三十四条 制止ヲ肯セスシテ左ノ所為ヲ為シタル者ハ科料ニ処ス
一 停車場其ノ他鉄道地内吸煙禁止ノ場所及吸煙禁止ノ車内ニ於テ吸煙シタルトキ
二 婦人ノ為ニ設ケタル待合室及車室等ニ男子妄ニ立入リタルトキ
第三十五条 車内、停車場其ノ他鉄道地内ニ於テ妄状ヲ現ハシ其ノ他不良ノ行状ヲ為シタル者ハ科料ニ処ス
第三十六条 車輛、停車場其ノ他鉄道地内ノ標識掲示ヲ改竄、毀棄、撤去シ又ハ灯火ヲ滅シタル者ハ五十円以下ノ罰金ニ処ス
信号機ヲ改竄、毀棄、撤去シタル者ハ三月以上三年以下ノ重禁錮ニ処シ五円以上五十円以下ノ罰金ヲ附加ス
第三十七条 停車場其ノ他鉄道地内ニ妄ニ立入リタル者ハ科料ニ処ス
第三十八条 暴行脅迫ヲ以テ鉄道係員ノ職務ノ執行ヲ妨害シタル者ハ一年以下ノ重禁錮ニ処シ百円以下ノ罰金ヲ附加ス
第三十九条 車内、停車場其ノ他鉄道地内ニ於テ発砲シタル者ハ二十五円以下ノ罰金ニ処ス
第四十条 列車ニ向テ瓦石類ヲ投擲シタル者ハ十円以下ノ罰金ニ処ス
第四十一条 第四条ノ規定ニ違反シ伝染病患者ヲ乗車セシメタル者ハ百円以下ノ罰金ニ処ス伝染病患者其ノ病症ヲ隠蔽シテ乗車シタルトキ亦同シ
前項ノ場合ニ於テ途中下車セシメタルトキト雖既ニ支払ヒタル運賃ハ之ヲ還付セス
第四十二条 左ノ場合ニ於テ鉄道係員ハ旅客及公衆ヲ車外又ハ鉄道地外ニ退去セシムルコトヲ得
一 有効ノ乗車券ヲ所持セス又ハ検査ヲ拒ミ運賃ノ支払ヲ肯セサルトキ
二 第三十三条第三号ノ罪ヲ犯シ鉄道係員ノ制止ヲ肯セサルトキ又ハ第三十四条ノ罪ヲ犯シタルトキ
三 第三十五条、第三十七条ノ罪ヲ犯シタルトキ
四 其ノ他車内ニ於ケル秩序ヲ紊ルノ所為アリタルトキ
前項ノ場合ニ於テ既ニ支払ヒタル運賃ハ之ヲ還付セス
第四十三条 前諸条ノ犯罪及鉄道保安ニ関スル犯罪ニシテ罰金ノ刑ニ該ルヘキ軽罪若ハ違警罪ノ現行犯アリタルトキ被告人カ其ノ住所氏名ヲ分明ニ告知セス又ハ逃亡ノ虞アルトキハ鉄道係員ハ司法警察官ニ之ヲ引致スルコトヲ得
附 則
第四十四条 本法ハ私設鉄道法ニ依ラサル私設鉄道ニハ之ヲ適用セス
第四十五条 本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
鉄道略則、鉄道犯罪罰例、明治十六年七月第二十三号布告ハ之ヲ廃止ス