朕樞密顧問ノ諮詢ヲ經テ文官懲戒令ヲ裁可シ玆ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
明治三十二年三月二十七日
內閣總理大臣 侯爵 山縣有朋
勅令第六十三號
文官懲戒令
第一章 總則
第一條 親任式ヲ以テ敍任スル官及法令ニ別段ノ規定アルモノヲ除クノ外官吏ハ本令ニ依ルニ非サレハ懲戒ヲ受クルコトナシ
第二條 官吏ノ懲戒ヲ受クヘキ場合左ノ如シ
一 職務上ノ義務ニ違背シ又ハ職務ヲ怠リタルトキ
二 職務ノ內外ヲ問ハス官職上ノ威嚴又ハ信用ヲ失フヘキ所爲アリタルトキ
第三條 懲戒ハ左ノ如シ
一 免官
二 減俸
三 譴責
第四條 免官ノ處分ヲ受ケタル者ハ其ノ官職ヲ失ヒタル日ヨリ二年間官職ニ就クコトヲ得ス
免官ノ處分ヲ受ケ其ノ情重キ者ハ位記ヲ返上セシム
第五條 減俸ハ一月以上一年以下年俸月割額若ハ月俸ノ三分一以下ヲ減ス
第六條 勅任官ノ免官及減俸ハ懲戒委員會ノ議決ヲ具シ內閣總理大臣之ヲ奏請シ奏任官ノ免官ハ懲戒委員會ノ議決ヲ具シ內閣總理大臣ヲ經テ本屬長官之ヲ奏請シ裁可ニ依リ之ヲ行フ
奏任官ノ減俸及判任官ノ免官及減俸ハ懲戒委員會ノ議決ニ依リ本屬長官之ヲ行フ
譴責ハ本屬長官之ヲ行フ
第七條 懲戒ニ付セラルヘキ事件刑事裁判所ニ繫屬スル間ハ同一事件ニ對シ懲戒委員會ヲ開クコトヲ得ス
懲戒委員會ノ議決前懲戒ニ付スヘキ者ニ對シ刑事訴追ノ始マリタルトキハ事件ノ判決ヲ終ハルマテ懲戒委員會ノ開會ヲ停止ス
第二章 懲戒委員會
第一款 總則
第八條 懲戒委員會ヲ分テ文官高等懲戒委員會及文官普通懲戒委員會トス
第九條 文官高等懲戒委員會ハ高等官ノ懲戒ヲ議決シ文官普通懲戒委員會ハ判任官ノ懲戒ヲ議決ス
第二款 文官高等懲戒委員會
第十條 文官高等懲戒委員會ハ委員長一人委員六人ヲ以テ組織ス
第十一條 委員長ハ樞密顧問官ノ中ヨリ委員ハ行政裁判所長官、勅任行政裁判所評定官、勅任判事及其ノ他ノ勅任文官ノ中ヨリ內閣總理大臣ノ奏請ニ依リ之ヲ命ス
委員會ニ豫備委員六人ヲ置キ前項ノ例ニ依リ之ヲ命ス
第十二條 委員會ハ委員長及委員ヲ併セ五人以上出席スルニ非サレハ會議ヲ開クコトヲ得ス
委員會ノ議事ハ多數ニ依リ之ヲ決ス可否同數ナルトキハ委員長之ヲ決ス
第十三條 委員長事故アルトキハ上席ノ委員之ヲ代理ス
委員中事故アルトキ又ハ闕員アルトキハ委員長ハ豫備委員ノ中ヨリ代理ヲ命ス
第十四條 委員及豫備委員ノ任期ハ三年トス
委員及豫備委員中闕員アリテ補闕ノ爲任命セラレタル者ハ前任者ノ殘任期間在任ス
第十五條 委員長及委員ハ左ノ事項ニ該當スルトキハ之ヲ免ス
一 其ノ官職ヲ失ヒタルトキ
二 委員會所在地以外ニ任所ヲ轉シタルトキ
第十六條 委員會ニ幹事一人ヲ置ク
第十七條 幹事ハ高等官ノ中ヨリ內閣總理大臣ノ奏請ニ依リ之ヲ命ス
第十八條 幹事ハ委員長ノ命ヲ承ケ委員會ノ議事ヲ準備シ庶務ヲ統理ス
第十九條 委員會ニ書記三人ヲ置ク
第二十條 書記ハ判任官ノ中ヨリ委員長之ヲ命ス
第二十一條 書記ハ幹事ノ命ヲ承ケ庶務ニ從事ス
第三款 文官普通懲戒委員會
第二十二條 文官普通懲戒委員會ハ左ノ各官廳ニ之ヲ置ク
一 內閣
一 樞密院
一 各省
一 臺灣總督府
一 會計檢査院
一 行政裁判所
一 警視廳
一 北海道廳
一 府縣
一 臺灣ノ縣及廳
一 貴族院事務局
一 衆議院事務局
前項ノ外各省大臣ニ於テ必要アリト認ムルトキハ其ノ所轄官廳ニ文官普通懲戒委員會ヲ置クコトヲ得
第二十三條 委員長ハ各官廳ノ長官ヲ以テ之ニ充ツ但シ內閣ニ在テハ法制局長官、樞密院ニ在テハ書記官長、各省ニ在テハ次官ヲ以テ之ニ充ツ
委員ハ二人乃至六人トシ當該官廳高等官ノ中ヨリ本屬長官之ヲ命ス但シ內閣ニ在テハ賞勳局、法制局及內閣所屬高等官ノ中ヨリ之ヲ命ス
第二十四條 委員會ハ委員長及委員二人以上出席スルニ非サレハ會議ヲ開クコトヲ得ス
第二十五條 委員長事故アルトキハ上席ノ委員之ヲ代理ス
第二十六條 委員會ニ書記二人ヲ置ク
第二十七條 書記ハ委員長所屬官廳ノ判任官ノ中ヨリ委員長之ヲ命ス
第二十八條 書記ハ委員長ノ命ヲ承ケ庶務ニ從事ス
第三章 懲戒手續
第二十九條 本屬長官ハ所部ノ官吏ニシテ懲戒ニ當ルヘキ所爲アリト思料スルトキハ證憑ヲ具ヘ書面ヲ以テ懲戒委員會ノ審査ヲ要求スヘシ
第三十條 前條ノ要求アリタルトキハ委員長ハ期日ヲ定メテ委員會ヲ招集スヘシ
委員會ハ必要ト認ムル場合ニ於テハ本人ノ出頭ヲ命スルコトヲ得
前項ノ場合ニ於テハ本人所屬官廳ヨリ內國旅費規則ニ依リ本官相當ノ旅費ヲ給スヘシ
第三十一條 委員會ニ於テ議決ヲ爲シタルトキハ其ノ理由ヲ具シ本屬長官ニ覆申スヘシ
第三十二條 委員長及委員ハ自己又ハ其ノ親族ニ關スル事件ノ會議ニ參與スルコトヲ得ス
第三十三條 委員會ノ審査手續ハ委員會之ヲ定ム
附 則
第三十四條 高等官試補ハ高等官ニ準シ判任官見習ハ判任官ニ準シ本令ヲ適用ス
第三十五條 本令ハ明治三十二年四月十日ヨリ施行ス
官吏懲戒例ハ本令施行ノ日ヨリ廢止ス
朕枢密顧問ノ諮詢ヲ経テ文官懲戒令ヲ裁可シ茲ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
明治三十二年三月二十七日
内閣総理大臣 侯爵 山県有朋
勅令第六十三号
文官懲戒令
第一章 総則
第一条 親任式ヲ以テ叙任スル官及法令ニ別段ノ規定アルモノヲ除クノ外官吏ハ本令ニ依ルニ非サレハ懲戒ヲ受クルコトナシ
第二条 官吏ノ懲戒ヲ受クヘキ場合左ノ如シ
一 職務上ノ義務ニ違背シ又ハ職務ヲ怠リタルトキ
二 職務ノ内外ヲ問ハス官職上ノ威厳又ハ信用ヲ失フヘキ所為アリタルトキ
第三条 懲戒ハ左ノ如シ
一 免官
二 減俸
三 譴責
第四条 免官ノ処分ヲ受ケタル者ハ其ノ官職ヲ失ヒタル日ヨリ二年間官職ニ就クコトヲ得ス
免官ノ処分ヲ受ケ其ノ情重キ者ハ位記ヲ返上セシム
第五条 減俸ハ一月以上一年以下年俸月割額若ハ月俸ノ三分一以下ヲ減ス
第六条 勅任官ノ免官及減俸ハ懲戒委員会ノ議決ヲ具シ内閣総理大臣之ヲ奏請シ奏任官ノ免官ハ懲戒委員会ノ議決ヲ具シ内閣総理大臣ヲ経テ本属長官之ヲ奏請シ裁可ニ依リ之ヲ行フ
奏任官ノ減俸及判任官ノ免官及減俸ハ懲戒委員会ノ議決ニ依リ本属長官之ヲ行フ
譴責ハ本属長官之ヲ行フ
第七条 懲戒ニ付セラルヘキ事件刑事裁判所ニ繋属スル間ハ同一事件ニ対シ懲戒委員会ヲ開クコトヲ得ス
懲戒委員会ノ議決前懲戒ニ付スヘキ者ニ対シ刑事訴追ノ始マリタルトキハ事件ノ判決ヲ終ハルマテ懲戒委員会ノ開会ヲ停止ス
第二章 懲戒委員会
第一款 総則
第八条 懲戒委員会ヲ分テ文官高等懲戒委員会及文官普通懲戒委員会トス
第九条 文官高等懲戒委員会ハ高等官ノ懲戒ヲ議決シ文官普通懲戒委員会ハ判任官ノ懲戒ヲ議決ス
第二款 文官高等懲戒委員会
第十条 文官高等懲戒委員会ハ委員長一人委員六人ヲ以テ組織ス
第十一条 委員長ハ枢密顧問官ノ中ヨリ委員ハ行政裁判所長官、勅任行政裁判所評定官、勅任判事及其ノ他ノ勅任文官ノ中ヨリ内閣総理大臣ノ奏請ニ依リ之ヲ命ス
委員会ニ予備委員六人ヲ置キ前項ノ例ニ依リ之ヲ命ス
第十二条 委員会ハ委員長及委員ヲ併セ五人以上出席スルニ非サレハ会議ヲ開クコトヲ得ス
委員会ノ議事ハ多数ニ依リ之ヲ決ス可否同数ナルトキハ委員長之ヲ決ス
第十三条 委員長事故アルトキハ上席ノ委員之ヲ代理ス
委員中事故アルトキ又ハ闕員アルトキハ委員長ハ予備委員ノ中ヨリ代理ヲ命ス
第十四条 委員及予備委員ノ任期ハ三年トス
委員及予備委員中闕員アリテ補闕ノ為任命セラレタル者ハ前任者ノ残任期間在任ス
第十五条 委員長及委員ハ左ノ事項ニ該当スルトキハ之ヲ免ス
一 其ノ官職ヲ失ヒタルトキ
二 委員会所在地以外ニ任所ヲ転シタルトキ
第十六条 委員会ニ幹事一人ヲ置ク
第十七条 幹事ハ高等官ノ中ヨリ内閣総理大臣ノ奏請ニ依リ之ヲ命ス
第十八条 幹事ハ委員長ノ命ヲ承ケ委員会ノ議事ヲ準備シ庶務ヲ統理ス
第十九条 委員会ニ書記三人ヲ置ク
第二十条 書記ハ判任官ノ中ヨリ委員長之ヲ命ス
第二十一条 書記ハ幹事ノ命ヲ承ケ庶務ニ従事ス
第三款 文官普通懲戒委員会
第二十二条 文官普通懲戒委員会ハ左ノ各官庁ニ之ヲ置ク
一 内閣
一 枢密院
一 各省
一 台湾総督府
一 会計検査院
一 行政裁判所
一 警視庁
一 北海道庁
一 府県
一 台湾ノ県及庁
一 貴族院事務局
一 衆議院事務局
前項ノ外各省大臣ニ於テ必要アリト認ムルトキハ其ノ所轄官庁ニ文官普通懲戒委員会ヲ置クコトヲ得
第二十三条 委員長ハ各官庁ノ長官ヲ以テ之ニ充ツ但シ内閣ニ在テハ法制局長官、枢密院ニ在テハ書記官長、各省ニ在テハ次官ヲ以テ之ニ充ツ
委員ハ二人乃至六人トシ当該官庁高等官ノ中ヨリ本属長官之ヲ命ス但シ内閣ニ在テハ賞勲局、法制局及内閣所属高等官ノ中ヨリ之ヲ命ス
第二十四条 委員会ハ委員長及委員二人以上出席スルニ非サレハ会議ヲ開クコトヲ得ス
第二十五条 委員長事故アルトキハ上席ノ委員之ヲ代理ス
第二十六条 委員会ニ書記二人ヲ置ク
第二十七条 書記ハ委員長所属官庁ノ判任官ノ中ヨリ委員長之ヲ命ス
第二十八条 書記ハ委員長ノ命ヲ承ケ庶務ニ従事ス
第三章 懲戒手続
第二十九条 本属長官ハ所部ノ官吏ニシテ懲戒ニ当ルヘキ所為アリト思料スルトキハ証憑ヲ具ヘ書面ヲ以テ懲戒委員会ノ審査ヲ要求スヘシ
第三十条 前条ノ要求アリタルトキハ委員長ハ期日ヲ定メテ委員会ヲ招集スヘシ
委員会ハ必要ト認ムル場合ニ於テハ本人ノ出頭ヲ命スルコトヲ得
前項ノ場合ニ於テハ本人所属官庁ヨリ内国旅費規則ニ依リ本官相当ノ旅費ヲ給スヘシ
第三十一条 委員会ニ於テ議決ヲ為シタルトキハ其ノ理由ヲ具シ本属長官ニ覆申スヘシ
第三十二条 委員長及委員ハ自己又ハ其ノ親族ニ関スル事件ノ会議ニ参与スルコトヲ得ス
第三十三条 委員会ノ審査手続ハ委員会之ヲ定ム
附 則
第三十四条 高等官試補ハ高等官ニ準シ判任官見習ハ判任官ニ準シ本令ヲ適用ス
第三十五条 本令ハ明治三十二年四月十日ヨリ施行ス
官吏懲戒例ハ本令施行ノ日ヨリ廃止ス