朕帝國議會ノ協贊ヲ經タル遺失物法ヲ裁可シ玆ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
明治三十二年三月二十三日
內閣總理大臣 侯爵 山縣有朋
內務大臣 侯爵 西鄕從道
法律第八十七號
遺失物法
第一條 他人ノ遺失シタル物件ヲ拾得シタル者ハ速ニ遺失者又ハ所有者其ノ他物件囘復ノ請求權ヲ有スル者ニ其ノ物件ヲ返還シ又ハ警察官署ニ之ヲ差出スヘシ但シ法令ノ規定ニ依リ私ニ所有所持スルコトヲ禁シタル物件ハ返還スルノ限ニアラス
物件ヲ警察官署ニ差出シタルトキハ警察官署ハ物件ノ返還ヲ受クヘキ者ニ之ヲ返還スヘシ若シ返還ヲ受クヘキ者ノ氏名又ハ居所ヲ知ルコト能ハサルトキハ命令ノ定ムル所ニ從ヒ公吿ヲ爲スヘシ
第二條 警察官署ハ其ノ保管ノ物件滅失又ハ毀損ノ虞アルトキ又ハ其ノ保管ニ不相當ノ費用若ハ手數ヲ要スルトキハ命令ノ定ムル方法ニ從ヒ之ヲ賣却スルコトヲ得
賣却ノ費用ハ賣却代金ヨリ支辨ス
賣却費用ヲ控除シタル賣却代金ノ殘額ハ拾得物ト看做シテ之ヲ保管ス
賣却處分ニ對シテハ出訴スルコトヲ得ス
第三條 拾得物ノ保管費公吿費其ノ他必要ナル費用ハ物件ノ返還ヲ受クル者又ハ物件ノ所有權ヲ取得シ之ヲ引取ル者ノ負擔トシ民法第二百九十五條乃至第三百二條ノ規定ヲ適用ス
第四條 物件ノ返還ヲ受クル者ハ物件ノ價格百分ノ五ヨリ少カラス二十ヨリ多カラサル報勞金ヲ拾得者ニ給スヘシ但シ國庫其ノ他公ノ法人ハ報勞金ヲ請求スルコトヲ得ス
第五條 第二條ニ依リ賣却シタル物件ニ付テハ賣却代金ノ額ヲ以テ物件ノ價格トス
第六條 第三條ノ費用及第四條ノ報勞金ハ物件ヲ返還シタル後一箇月ヲ過クルトキハ之ヲ請求スルコトヲ得ス
第七條 拾得者ハ豫メ申吿シテ拾得物ニ關スル一切ノ權利ヲ抛棄シ義務ヲ免ルルコトヲ得
第八條 物件ノ返還ヲ受クヘキ者ハ其ノ權利ヲ抛棄シテ第三條ノ費用及第四條ノ報勞金辨償ノ義務ヲ免ルルコトヲ得
物件ノ返還ヲ受クヘキ各權利者其ノ權利ヲ抛棄シタルトキハ拾得者其ノ物件ノ所有權ヲ取得ス但シ拾得者其ノ取得權ヲ抛棄シ第一項ノ例ニ依ルコトヲ得
法令ノ規定ニ依リ私ニ所有所持スルコトヲ禁シタル物件ヲ拾得シタル者ハ所有權ヲ取得スルノ限ニアラス
第九條 第十六條ニ依リ處罰セラレタル者及拾得ノ日ヨリ七日內ニ第一條第一項又ハ第十一條第一項ノ手續ヲ爲ササル者ハ第三條ノ費用及第四條ノ報勞金ヲ受クルノ權利竝ニ拾得物ノ所有權ヲ取得スルノ權利ヲ失フ
第十條 管守者アル船車建築物其ノ他公衆ノ通行ヲ禁シタル構內ニ於テ他人ノ物件ヲ拾得シタル者ハ其ノ物件ヲ管守者ニ交付スヘシ
前項ノ場合ニ於テハ船車建築物等ノ占有者ヲ以テ拾得者トス自己ノ管守スル場所ニ於テ他人ノ物件ヲ拾得シタル者亦同シ
本條ノ場合ニ於テ報勞金ハ前項ノ占有者ト現ニ物件ヲ拾得シタル者ト折半スヘシ
第十一條 犯罪者ノ置去リタルモノト認ムル物件ヲ拾得シタル者ハ速ニ其ノ物件ヲ警察官署ニ差出スヘシ
前項ノ物件ニ關シテハ法律ノ規定ニ依リ沒收スルモノヲ除ク外本法及民法第二百四十條ノ規定ヲ準用ス但シ公訴權消滅ノ日ヨリ一箇年間還付ヲ受クル者ナキトキニ限リ拾得者ニ於テ所有權ヲ取得ス
犯罪搜査ノ爲必要ナルトキハ警察官ニ於テ公訴權消滅ノ日マテ公吿ヲ爲ササルコトヲ得
第十二條 誤テ占有シタル物件他人ノ置去リタル物件又ハ逸走ノ家畜ニ關シテハ本法及民法第二百四十條ノ規定ヲ準用ス但シ誤テ占有シタル物件ニ關シテハ第三條ノ費用及第四條ノ報勞金ヲ請求スルコトヲ得ス
第十三條 埋藏物ニ關シテハ第十條ヲ除クノ外本法ノ規定ヲ準用ス
學術技藝若ハ考古ノ資料ニ供スヘキ埋藏物ニシテ其ノ所有者知レサルトキハ其ノ所有權ハ國庫ニ歸屬ス此ノ場合ニ於テハ國庫ハ埋藏物ノ發見者及埋藏物ヲ發見シタル土地ノ所有者ニ通知シ其ノ價格ニ相當スル金額ヲ給スヘシ
埋藏物ノ發見者ト埋藏物ヲ發見シタル土地ノ所有者ト異ルトキハ前項ノ金額ハ折半シテ之ヲ給スヘシ
本條ノ金額ニ不服アル者ハ第二項ノ通知ノ日ヨリ六箇月內ニ民事訴訟ヲ提起スルコトヲ得
第十四條 本法及民法第二百四十條第二百四十一條ノ規定ニ依リ物件ノ所有權ヲ取得シタル者取得ノ日ヨリ一箇年內ニ物件ヲ警察官署ヨリ引取ラサルトキハ所有權ヲ喪失ス
第十五條 本法ノ規定ニ依リ警察官署ニ保管スル物件ニシテ交付ヲ受クル者ナキトキハ其ノ所有權國庫ニ歸屬ス
第十六條 拾得物其ノ他本法ノ規定ヲ準用スル物件ヲ隱匿シ若ハ不正ニ處分シタル者ハ三月以下ノ重禁錮又ハ二十圓以下ノ罰金ニ處ス
前項ノ罪ハ刑法第三百七十七條ニ揭ケタル親屬ニ係ルトキハ之ヲ論セス
附 則
第十七條 明治九年第五十六號布吿遺失物取扱規則ハ本法施行ノ日ヨリ廢止ス
朕帝国議会ノ協賛ヲ経タル遺失物法ヲ裁可シ茲ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
明治三十二年三月二十三日
内閣総理大臣 侯爵 山県有朋
内務大臣 侯爵 西郷従道
法律第八十七号
遺失物法
第一条 他人ノ遺失シタル物件ヲ拾得シタル者ハ速ニ遺失者又ハ所有者其ノ他物件回復ノ請求権ヲ有スル者ニ其ノ物件ヲ返還シ又ハ警察官署ニ之ヲ差出スヘシ但シ法令ノ規定ニ依リ私ニ所有所持スルコトヲ禁シタル物件ハ返還スルノ限ニアラス
物件ヲ警察官署ニ差出シタルトキハ警察官署ハ物件ノ返還ヲ受クヘキ者ニ之ヲ返還スヘシ若シ返還ヲ受クヘキ者ノ氏名又ハ居所ヲ知ルコト能ハサルトキハ命令ノ定ムル所ニ従ヒ公告ヲ為スヘシ
第二条 警察官署ハ其ノ保管ノ物件滅失又ハ毀損ノ虞アルトキ又ハ其ノ保管ニ不相当ノ費用若ハ手数ヲ要スルトキハ命令ノ定ムル方法ニ従ヒ之ヲ売却スルコトヲ得
売却ノ費用ハ売却代金ヨリ支弁ス
売却費用ヲ控除シタル売却代金ノ残額ハ拾得物ト看做シテ之ヲ保管ス
売却処分ニ対シテハ出訴スルコトヲ得ス
第三条 拾得物ノ保管費公告費其ノ他必要ナル費用ハ物件ノ返還ヲ受クル者又ハ物件ノ所有権ヲ取得シ之ヲ引取ル者ノ負担トシ民法第二百九十五条乃至第三百二条ノ規定ヲ適用ス
第四条 物件ノ返還ヲ受クル者ハ物件ノ価格百分ノ五ヨリ少カラス二十ヨリ多カラサル報労金ヲ拾得者ニ給スヘシ但シ国庫其ノ他公ノ法人ハ報労金ヲ請求スルコトヲ得ス
第五条 第二条ニ依リ売却シタル物件ニ付テハ売却代金ノ額ヲ以テ物件ノ価格トス
第六条 第三条ノ費用及第四条ノ報労金ハ物件ヲ返還シタル後一箇月ヲ過クルトキハ之ヲ請求スルコトヲ得ス
第七条 拾得者ハ予メ申告シテ拾得物ニ関スル一切ノ権利ヲ抛棄シ義務ヲ免ルルコトヲ得
第八条 物件ノ返還ヲ受クヘキ者ハ其ノ権利ヲ抛棄シテ第三条ノ費用及第四条ノ報労金弁償ノ義務ヲ免ルルコトヲ得
物件ノ返還ヲ受クヘキ各権利者其ノ権利ヲ抛棄シタルトキハ拾得者其ノ物件ノ所有権ヲ取得ス但シ拾得者其ノ取得権ヲ抛棄シ第一項ノ例ニ依ルコトヲ得
法令ノ規定ニ依リ私ニ所有所持スルコトヲ禁シタル物件ヲ拾得シタル者ハ所有権ヲ取得スルノ限ニアラス
第九条 第十六条ニ依リ処罰セラレタル者及拾得ノ日ヨリ七日内ニ第一条第一項又ハ第十一条第一項ノ手続ヲ為ササル者ハ第三条ノ費用及第四条ノ報労金ヲ受クルノ権利並ニ拾得物ノ所有権ヲ取得スルノ権利ヲ失フ
第十条 管守者アル船車建築物其ノ他公衆ノ通行ヲ禁シタル構内ニ於テ他人ノ物件ヲ拾得シタル者ハ其ノ物件ヲ管守者ニ交付スヘシ
前項ノ場合ニ於テハ船車建築物等ノ占有者ヲ以テ拾得者トス自己ノ管守スル場所ニ於テ他人ノ物件ヲ拾得シタル者亦同シ
本条ノ場合ニ於テ報労金ハ前項ノ占有者ト現ニ物件ヲ拾得シタル者ト折半スヘシ
第十一条 犯罪者ノ置去リタルモノト認ムル物件ヲ拾得シタル者ハ速ニ其ノ物件ヲ警察官署ニ差出スヘシ
前項ノ物件ニ関シテハ法律ノ規定ニ依リ没収スルモノヲ除ク外本法及民法第二百四十条ノ規定ヲ準用ス但シ公訴権消滅ノ日ヨリ一箇年間還付ヲ受クル者ナキトキニ限リ拾得者ニ於テ所有権ヲ取得ス
犯罪捜査ノ為必要ナルトキハ警察官ニ於テ公訴権消滅ノ日マテ公告ヲ為ササルコトヲ得
第十二条 誤テ占有シタル物件他人ノ置去リタル物件又ハ逸走ノ家畜ニ関シテハ本法及民法第二百四十条ノ規定ヲ準用ス但シ誤テ占有シタル物件ニ関シテハ第三条ノ費用及第四条ノ報労金ヲ請求スルコトヲ得ス
第十三条 埋蔵物ニ関シテハ第十条ヲ除クノ外本法ノ規定ヲ準用ス
学術技芸若ハ考古ノ資料ニ供スヘキ埋蔵物ニシテ其ノ所有者知レサルトキハ其ノ所有権ハ国庫ニ帰属ス此ノ場合ニ於テハ国庫ハ埋蔵物ノ発見者及埋蔵物ヲ発見シタル土地ノ所有者ニ通知シ其ノ価格ニ相当スル金額ヲ給スヘシ
埋蔵物ノ発見者ト埋蔵物ヲ発見シタル土地ノ所有者ト異ルトキハ前項ノ金額ハ折半シテ之ヲ給スヘシ
本条ノ金額ニ不服アル者ハ第二項ノ通知ノ日ヨリ六箇月内ニ民事訴訟ヲ提起スルコトヲ得
第十四条 本法及民法第二百四十条第二百四十一条ノ規定ニ依リ物件ノ所有権ヲ取得シタル者取得ノ日ヨリ一箇年内ニ物件ヲ警察官署ヨリ引取ラサルトキハ所有権ヲ喪失ス
第十五条 本法ノ規定ニ依リ警察官署ニ保管スル物件ニシテ交付ヲ受クル者ナキトキハ其ノ所有権国庫ニ帰属ス
第十六条 拾得物其ノ他本法ノ規定ヲ準用スル物件ヲ隠匿シ若ハ不正ニ処分シタル者ハ三月以下ノ重禁錮又ハ二十円以下ノ罰金ニ処ス
前項ノ罪ハ刑法第三百七十七条ニ掲ケタル親属ニ係ルトキハ之ヲ論セス
附 則
第十七条 明治九年第五十六号布告遺失物取扱規則ハ本法施行ノ日ヨリ廃止ス