朕帝國議會ノ協贊ヲ經タル取引所法ヲ裁可シ玆ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
明治二十六年三月三日
內閣總理大臣 伯爵 伊藤博文
農商務大臣 伯爵 後藤象二郞
法律第五號
取引所法
第一章 取引所ノ設立
第一條 賣買取引ノ繁盛ナル地區內ノ商人ハ政府ノ免許ヲ受ケテ一種若ハ數種ノ物件ノ取引所ヲ設立スルコトヲ得
第二條 同種ノ物件ヲ賣買取引スル取引所ハ一地區一箇所ニ限リ設立スルコトヲ得但シ其ノ地區ハ農商務大臣之ヲ定ム
第三條 取引所ノ免許年限ハ十箇年トス但シ土地商業ノ情況ニ依リ更ニ繼續ノ出願ヲ爲スコトヲ得
第四條 株式會社組織ノ取引所ハ營業保證金ヲ政府ニ納ムヘシ
第二章 取引所ノ組織
第五條 取引所ハ土地商業ノ情況及賣買取引スヘキ物件ノ種類ニ依リ會員組織又ハ株式會社組織ト爲スコトヲ得
第六條 會員組織ノ取引所ニ於テハ其ノ取引所ノ仲買人及會員ニ限リ賣買取引ヲ爲スコトヲ得
株式會社組織ノ取引所ニ於テハ其ノ取引所ノ仲買人ニ限リ賣買取引ヲ爲スコトヲ得
第七條 取引所ハ法人トシテ財產ヲ所有シ及之ヲ處分スルコトヲ得
取引所ノ責任ハ其ノ財產ニ限ルモノトス
第八條 取引所ハ政府ノ認可ヲ受ケ其ノ營業部類ニ屬スル商品ノ倉庫ヲ設置シ及指圖式ノ倉荷證書ヲ發行スルコトヲ得
取引所ハ其ノ倉荷證書ニ對シ前貸ヲ爲シ又ハ買受クルコトヲ得ス
第九條 取引所ノ定款ハ政府ノ認可ヲ受クヘシ
第三章 取引所ノ會員、株主及仲買人
第十條 一箇年以上取引所ノ營業部類ニ屬スル商業ニ從事シタル商人ハ定款ノ規程ニ從ヒ其ノ取引所ノ會員トナルコトヲ得
二箇年以上其ノ取引所ノ營業部類ニ屬スル商業ニ從事シタル商人ニシテ年齡二十五歲以上ノ者ハ政府ノ免許ヲ受ケ其ノ取引所ノ仲買人トナルコトヲ得
一種ノ商業ニ付前項ノ資格ヲ有スル者ハ土地商業ノ情況ニ依リ二種以上ノ物件ヲ賣買取引スル取引所ノ仲買人タル免許ヲ受クルコトヲ得
第十一條 帝國臣民ニ非サレハ取引所ノ會員、株主又ハ仲買人トナルコトヲ得ス
婦女、未成年者、公權剝奪及停止中ノ者、復權セサル破產者及家資分散者竝ニ取引所ニ於テ除名ノ處分ヲ受ケタル者ハ取引所ノ會員タルコトヲ得ス
重禁錮一年以上ノ刑ニ處セラレ又ハ信用ヲ害スル罪、財產ニ對スル罪、商業及農工業ヲ妨害スル罪ヲ犯シテ刑ニ處セラレ其ノ滿期若ハ赦免後二箇年ヲ經サル者及前項ニ該當スル者ハ取引所ノ仲買人タルコトヲ得ス
第十二條 取引所ノ會員ハ自己ノ計算ヲ以テスルノ外取引所ニ於テ賣買取引ヲ爲スコトヲ得ス
仲買人ハ自己ノ計算ヲ以テスルト他人ノ計算ヲ以テスルトヲ問ハス取引所ニ對シ其ノ賣買取引上一切ノ責任ヲ負フヘシ
第十三條 取引所ノ仲買人ハ其ノ免許ヲ受クルトキ免許料ヲ納ムヘシ
免許料ノ金額ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第十四條 取引所ノ會員及仲買人ハ身元保證金ヲ其ノ取引所ニ納ムヘシ
第十五條 取引所ハ其ノ秩序ヲ保持スルカ爲定款ノ規定ニ依リ會員又ハ仲買人ノ營業ヲ停止シ五百圓以內ノ過怠金ヲ課シ且政府ノ認可ヲ受ケ會員又ハ仲買人ヲ除名スルコトヲ得
第四章 取引所ノ役員
第十六條 取引所ノ役員ハ定款ノ規定ニ依リ會員又ハ株主中ヨリ二箇年以內ノ任期ヲ以テ之ヲ選擧シ政府ノ認可ヲ受クヘシ
取引所ノ役員左ノ如シ
理事長 一人
理事 二人以上
監査役 若干人
理事長及理事ハ會員ニ非サル者ヲ選擧スルモ妨ケナシ
第十一條第三項ニ該當スル者ハ取引所ノ役員ト爲スコトヲ得ス
第十七條 取引所ノ役員及雇人ハ其ノ取引所ニ於テ賣買取引ヲ爲スコトヲ得ス但シ監査役ハ此ノ限ニ在ラス
第五章 取引所ノ賣買取引
第十八條 取引所ノ賣買取引ハ直取引、延取引及定期取引ノ三種トス
第十九條 取引所ノ賣買取引ノ方法ニ關スル規程ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第二十條 取引所ハ其ノ定款ニ依リ賣買取引ニ付證據金ヲ納メシムルコトヲ得
第二十一條 取引所ハ賣買取引ノ責任ヲ履行セサル者アルトキハ其ノ證據金及身元保證金ヲ以テ損害賠償ノ用ニ供スルコトヲ得
第二十二條 株式會社組織ノ取引所ハ賣買取引ノ違約ヨリ生スル損害ニ付賠償ノ責ニ任スヘシ
前項ノ場合ニ於テ取引所ハ其ノ賠償シタル金額及之ニ關スル諸費ノ追償ヲ其ノ違約者ニ要求スルコトヲ得
第二十三條 取引所ハ賣買取引高ニ應シ賣買雙方ヨリ手數料ヲ徵收スルコトヲ得其ノ率ハ政府ノ認可ヲ受クヘシ
第二十四條 取引所ハ證據金及身元保證金ニ付他ノ債主ニ對シ優先權ヲ有ス
第二十五條 取引所外ニ於テ取引所ノ定期取引ト同一又ハ類似ノ方法ヲ以テ賣買取引ヲ爲スコトヲ得ス
第二十六條 取引所ニ於テ賣買取引シタル物件ノ相場ハ公定相場トス
第六章 取引所ノ監督
第二十七條 農商務大臣ハ取引所ノ行爲法律命令ニ違反シ又ハ公益ヲ害シ若ハ公衆ノ安寧ニ妨害アリト認ムルトキハ左ノ處分ヲ爲スコトヲ得
一 取引所ノ解散
二 取引所ノ停止
三 取引所一部ノ停止若ハ禁止
四 役員ノ解職
五 會員又ハ仲買人ノ營業停止若ハ除名
第二十八條 農商務大臣ハ必要ト認ムルトキハ官吏ヲシテ取引所ノ業務、帳簿、財產其ノ他一切ノ物件及會員又ハ仲買人ノ帳簿ヲ檢査セシムルコトヲ得此ノ場合ニ於テハ取引所ノ役員會員及仲買人ハ其ノ物件ヲ提供シ質問ニ應答スヘシ
第二十九條 農商務大臣ハ必要ト認ムルトキハ取引所ノ定款ヲ改正セシメ又ハ其ノ決議及處分ヲ停止シ、禁止シ若ハ取消スコトヲ得
第三十條 取引所任意ノ解散ハ政府ノ認可ヲ受クヘシ
第七章 罰則
第三十一條 第十二條第一項及第十七條ノ規定ニ違背シタル者ハ二十圓以上二百圓以下ノ罰金ニ處ス
第三十二條 第二十五條ニ違背シタル者及公定相場ヲ僞リタル者ハ五十圓以上五百圓以下ノ罰金ニ處ス
附 則
第三十三條 取引所ノ稅則ハ別ニ法律ヲ以テ之ヲ足ム
第三十四條 取引所ノ資本金、營業保證金、株式、手數料及積立金ニ關スル規程ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第三十五條 本法ハ明治二十六年十月一日ヨリ施行ス
明治九年布吿第百五號米商會所條例、明治十一年布吿第八號株式取引所條例、明治二十年勅令第十一號取引所條例、明治十三年布吿第二十一號、明治十五年布吿第四十六號、明治十六年布吿第四號及同年布吿第二十九號ハ本法施行ノ日ヨリ廢止ス
第三十六條 本法發布以前ヨリ營業スル米商會所、株式取引所及取引所ハ本法ニ依リ更ニ免許ヲ受ケ其ノ營業ヲ繼續スルコトヲ得但シ本法施行ノ日ヨリ二箇月以前ニ於テ出願ノ手續ヲ爲サヽルモノハ此ノ限ニ在ラス
朕帝国議会ノ協賛ヲ経タル取引所法ヲ裁可シ茲ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
明治二十六年三月三日
内閣総理大臣 伯爵 伊藤博文
農商務大臣 伯爵 後藤象二郎
法律第五号
取引所法
第一章 取引所ノ設立
第一条 売買取引ノ繁盛ナル地区内ノ商人ハ政府ノ免許ヲ受ケテ一種若ハ数種ノ物件ノ取引所ヲ設立スルコトヲ得
第二条 同種ノ物件ヲ売買取引スル取引所ハ一地区一箇所ニ限リ設立スルコトヲ得但シ其ノ地区ハ農商務大臣之ヲ定ム
第三条 取引所ノ免許年限ハ十箇年トス但シ土地商業ノ情況ニ依リ更ニ継続ノ出願ヲ為スコトヲ得
第四条 株式会社組織ノ取引所ハ営業保証金ヲ政府ニ納ムヘシ
第二章 取引所ノ組織
第五条 取引所ハ土地商業ノ情況及売買取引スヘキ物件ノ種類ニ依リ会員組織又ハ株式会社組織ト為スコトヲ得
第六条 会員組織ノ取引所ニ於テハ其ノ取引所ノ仲買人及会員ニ限リ売買取引ヲ為スコトヲ得
株式会社組織ノ取引所ニ於テハ其ノ取引所ノ仲買人ニ限リ売買取引ヲ為スコトヲ得
第七条 取引所ハ法人トシテ財産ヲ所有シ及之ヲ処分スルコトヲ得
取引所ノ責任ハ其ノ財産ニ限ルモノトス
第八条 取引所ハ政府ノ認可ヲ受ケ其ノ営業部類ニ属スル商品ノ倉庫ヲ設置シ及指図式ノ倉荷証書ヲ発行スルコトヲ得
取引所ハ其ノ倉荷証書ニ対シ前貸ヲ為シ又ハ買受クルコトヲ得ス
第九条 取引所ノ定款ハ政府ノ認可ヲ受クヘシ
第三章 取引所ノ会員、株主及仲買人
第十条 一箇年以上取引所ノ営業部類ニ属スル商業ニ従事シタル商人ハ定款ノ規程ニ従ヒ其ノ取引所ノ会員トナルコトヲ得
二箇年以上其ノ取引所ノ営業部類ニ属スル商業ニ従事シタル商人ニシテ年齢二十五歳以上ノ者ハ政府ノ免許ヲ受ケ其ノ取引所ノ仲買人トナルコトヲ得
一種ノ商業ニ付前項ノ資格ヲ有スル者ハ土地商業ノ情況ニ依リ二種以上ノ物件ヲ売買取引スル取引所ノ仲買人タル免許ヲ受クルコトヲ得
第十一条 帝国臣民ニ非サレハ取引所ノ会員、株主又ハ仲買人トナルコトヲ得ス
婦女、未成年者、公権剥奪及停止中ノ者、復権セサル破産者及家資分散者並ニ取引所ニ於テ除名ノ処分ヲ受ケタル者ハ取引所ノ会員タルコトヲ得ス
重禁錮一年以上ノ刑ニ処セラレ又ハ信用ヲ害スル罪、財産ニ対スル罪、商業及農工業ヲ妨害スル罪ヲ犯シテ刑ニ処セラレ其ノ満期若ハ赦免後二箇年ヲ経サル者及前項ニ該当スル者ハ取引所ノ仲買人タルコトヲ得ス
第十二条 取引所ノ会員ハ自己ノ計算ヲ以テスルノ外取引所ニ於テ売買取引ヲ為スコトヲ得ス
仲買人ハ自己ノ計算ヲ以テスルト他人ノ計算ヲ以テスルトヲ問ハス取引所ニ対シ其ノ売買取引上一切ノ責任ヲ負フヘシ
第十三条 取引所ノ仲買人ハ其ノ免許ヲ受クルトキ免許料ヲ納ムヘシ
免許料ノ金額ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第十四条 取引所ノ会員及仲買人ハ身元保証金ヲ其ノ取引所ニ納ムヘシ
第十五条 取引所ハ其ノ秩序ヲ保持スルカ為定款ノ規定ニ依リ会員又ハ仲買人ノ営業ヲ停止シ五百円以内ノ過怠金ヲ課シ且政府ノ認可ヲ受ケ会員又ハ仲買人ヲ除名スルコトヲ得
第四章 取引所ノ役員
第十六条 取引所ノ役員ハ定款ノ規定ニ依リ会員又ハ株主中ヨリ二箇年以内ノ任期ヲ以テ之ヲ選挙シ政府ノ認可ヲ受クヘシ
取引所ノ役員左ノ如シ
理事長 一人
理事 二人以上
監査役 若干人
理事長及理事ハ会員ニ非サル者ヲ選挙スルモ妨ケナシ
第十一条第三項ニ該当スル者ハ取引所ノ役員ト為スコトヲ得ス
第十七条 取引所ノ役員及雇人ハ其ノ取引所ニ於テ売買取引ヲ為スコトヲ得ス但シ監査役ハ此ノ限ニ在ラス
第五章 取引所ノ売買取引
第十八条 取引所ノ売買取引ハ直取引、延取引及定期取引ノ三種トス
第十九条 取引所ノ売買取引ノ方法ニ関スル規程ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第二十条 取引所ハ其ノ定款ニ依リ売買取引ニ付証拠金ヲ納メシムルコトヲ得
第二十一条 取引所ハ売買取引ノ責任ヲ履行セサル者アルトキハ其ノ証拠金及身元保証金ヲ以テ損害賠償ノ用ニ供スルコトヲ得
第二十二条 株式会社組織ノ取引所ハ売買取引ノ違約ヨリ生スル損害ニ付賠償ノ責ニ任スヘシ
前項ノ場合ニ於テ取引所ハ其ノ賠償シタル金額及之ニ関スル諸費ノ追償ヲ其ノ違約者ニ要求スルコトヲ得
第二十三条 取引所ハ売買取引高ニ応シ売買双方ヨリ手数料ヲ徴収スルコトヲ得其ノ率ハ政府ノ認可ヲ受クヘシ
第二十四条 取引所ハ証拠金及身元保証金ニ付他ノ債主ニ対シ優先権ヲ有ス
第二十五条 取引所外ニ於テ取引所ノ定期取引ト同一又ハ類似ノ方法ヲ以テ売買取引ヲ為スコトヲ得ス
第二十六条 取引所ニ於テ売買取引シタル物件ノ相場ハ公定相場トス
第六章 取引所ノ監督
第二十七条 農商務大臣ハ取引所ノ行為法律命令ニ違反シ又ハ公益ヲ害シ若ハ公衆ノ安寧ニ妨害アリト認ムルトキハ左ノ処分ヲ為スコトヲ得
一 取引所ノ解散
二 取引所ノ停止
三 取引所一部ノ停止若ハ禁止
四 役員ノ解職
五 会員又ハ仲買人ノ営業停止若ハ除名
第二十八条 農商務大臣ハ必要ト認ムルトキハ官吏ヲシテ取引所ノ業務、帳簿、財産其ノ他一切ノ物件及会員又ハ仲買人ノ帳簿ヲ検査セシムルコトヲ得此ノ場合ニ於テハ取引所ノ役員会員及仲買人ハ其ノ物件ヲ提供シ質問ニ応答スヘシ
第二十九条 農商務大臣ハ必要ト認ムルトキハ取引所ノ定款ヲ改正セシメ又ハ其ノ決議及処分ヲ停止シ、禁止シ若ハ取消スコトヲ得
第三十条 取引所任意ノ解散ハ政府ノ認可ヲ受クヘシ
第七章 罰則
第三十一条 第十二条第一項及第十七条ノ規定ニ違背シタル者ハ二十円以上二百円以下ノ罰金ニ処ス
第三十二条 第二十五条ニ違背シタル者及公定相場ヲ偽リタル者ハ五十円以上五百円以下ノ罰金ニ処ス
附 則
第三十三条 取引所ノ税則ハ別ニ法律ヲ以テ之ヲ足ム
第三十四条 取引所ノ資本金、営業保証金、株式、手数料及積立金ニ関スル規程ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第三十五条 本法ハ明治二十六年十月一日ヨリ施行ス
明治九年布告第百五号米商会所条例、明治十一年布告第八号株式取引所条例、明治二十年勅令第十一号取引所条例、明治十三年布告第二十一号、明治十五年布告第四十六号、明治十六年布告第四号及同年布告第二十九号ハ本法施行ノ日ヨリ廃止ス
第三十六条 本法発布以前ヨリ営業スル米商会所、株式取引所及取引所ハ本法ニ依リ更ニ免許ヲ受ケ其ノ営業ヲ継続スルコトヲ得但シ本法施行ノ日ヨリ二箇月以前ニ於テ出願ノ手続ヲ為サヽルモノハ此ノ限ニ在ラス