朕帝國議會ノ協贊ヲ經タル家畜傳染病豫防法ヲ裁可シ玆ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
攝政名
大正十一年四月八日
內閣總理大臣 子爵 高橋是淸
農商務大臣 男爵 山本達雄
法律第二十九號
家畜傳染病豫防法
第一條 本法ニ於テ家畜ト稱スルハ牛、馬、緬羊、山羊、豚、犬、鷄及鵞ヲ謂ヒ傳染病ト稱スルハ牛疫、炭疽、氣腫疽、鼻疽、假性皮疽、牛ノ傳染性肋膜肺炎、流行性鵞口瘡、狂犬病、羊痘、豚虎列剌、豚疫、豚丹毒、牛ノ傳染性流產、馬緬羊山羊ノ疥癬、加奈陀馬痘及家禽虎列剌ヲ謂フ
畜類傳染病豫防上必要アルトキハ勅令ヲ以テ前項ノ家畜又ハ傳染病以外ノ畜類又ハ傳染性病ニ付本法ノ全部又ハ一部ヲ適用スルコトヲ得
第二條 家畜カ傳染病ニ罹リ若ハ罹リタル疑アルトキ又ハ牛疫若ハ狂犬病ニ感染シタル虞アルトキハ所有者、保管者又ハ診斷若ハ檢案シタル獸醫ハ直ニ家畜所在地ノ警察官吏又ハ家畜防疫委員ニ其ノ旨屆出ツヘシ但シ家畜カ船車ニ搭載スルモノナルトキハ船長、鐵道係員又ハ軌道係員ハ最初ニ寄港又ハ停留シタル地ノ警察官吏又ハ家畜防疫委員ニ屆出ツヘシ
第三條 前條ノ家畜ニ付テハ所有者若ハ保管者又ハ家畜ヲ搭載スル船車ノ船長、鐵道係員若ハ軌道係員ハ警察官吏又ハ家畜防疫委員ノ指揮ニ從ヒ直ニ家畜ノ隔離其ノ他傳染病豫防上必要ナル處置ヲ爲スヘシ
前項ノ家畜ハ警察官吏又ハ家畜防疫委員ノ許可ヲ受クルニ非サレハ之ヲ殺スコトヲ得ス但シ鷄及鶩ニ付テハ此ノ限ニ在ラス
第四條 家畜カ牛疫ニ罹リ若ハ之ニ感染シタル虞アルトキ又ハ狂犬病ニ罹リタルトキハ所有者又ハ保管者ハ警察官吏又ハ家畜防疫委員ノ指揮ニ從ヒ直ニ之ヲ殺スヘシ但シ牛疫ニ感染シタル虞アル家畜ニシテ第七條ノ規定ニ依リ免疫血淸ノ注射ヲ行フモノハ此ノ限ニ在ラス
狂犬病ニ罹リタル犬ニ付所有者又ハ保管者緊急ノ必要アリト認ムルトキハ前項ノ指揮ヲ待タスシテ之ヲ殺スコトヲ得
第五條 地方長官傳染病豫防上必要アリト認ムルトキハ炭疽、氣腫疽、鼻疽、假性皮疽、牛ノ傳染性肋膜肺炎、流行性鵞口瘡、羊痘、豚虎列剌、豚疫、豚丹毒、緬羊山羊ノ疥癬又ハ加奈陀馬痘ニ罹リタル家畜ニ付所有者又ハ保管者ニ對シ之ヲ殺スコトヲ命スルコトヲ得牛疫ニ感染シタル虞アル家畜ニシテ第七條ノ規定ニ依リ免疫血淸ノ注射ヲ行ヒタルモノニ付亦同シ
地方長官ハ前項ノ家畜ニ付所有者又ハ保管者知レサル等ノ爲前項ノ規定ニ依ル命令ヲ爲スコト能ハサルトキハ警察官吏又ハ家畜防疫委員ヲシテ之ヲ殺サシムルコトヲ得
第六條 地方長官傳染病豫防上病性鑑定ノ必要アリト認ムルトキハ警察官吏又ハ家畜防疫委員ヲシテ家畜ノ屍體ヲ剖檢セシメ又ハ剖檢ノ爲家畜ヲ殺サシムルコトヲ得
第七條 地方長官傳染病豫防上必要アリト認ムルトキハ警察官吏又ハ家畜防疫委員ヲシテ家畜ニ付檢診、免疫血淸若ハ豫防液ノ注射又ハ藥浴ヲ行ハシムルコトヲ得
警察官吏又ハ家畜防疫委員前項ノ場合ニ於テ助力ヲ求ムルトキハ所有者若ハ保管者又ハ家畜ヲ搭載スル船車ノ船長、鐵道係員若ハ軌道係員ハ之ヲ拒ムコトヲ得ス
第八條 傳染病ニ罹リ若ハ罹リタル疑アリ又ハ牛疫ニ感染シタル虞アル家畜ノ屍體ハ所有者又ハ保管者ニ於テ警察官吏又ハ家畜防疫委員ノ指揮ニ從ヒ直ニ之ヲ燒却又ハ埋却スヘシ但シ鷄及鶩ノ屍體ニ付テハ指揮ヲ待タスシテ之ヲ燒却又ハ埋却スルコトヲ得
前項ノ規定ハ假性皮疽又ハ加奈陀馬痘ニ罹リ又ハ罹リタル疑アル家畜ノ屍體及牛ノ傳染性流產又ハ馬緬羊山羊ノ疥癬ニ罹リ又ハ罹リタル疑アル家畜ノ斃屍體ニシテ警察官吏又ハ家畜防疫委員ノ指揮ニ從ヒ化製スルモノ竝牛ノ傳染性流產又ハ馬緬羊山羊ノ疥癬ニ罹リ又ハ罹リタル疑アル家畜ノ殺屍體ニ之ヲ適用セス病性鑑定又ハ學術硏究ノ爲地方長官ノ許可ヲ受ケタル家畜ノ屍體ニ付亦同シ
第九條 傳染病ノ病毒ニ汚染シ又ハ汚染シタル疑アル物品ハ所有者又ハ保管者ニ於テ警察官吏又ハ家畜防疫委員ノ指揮ニ從ヒ之ヲ燒却、埋却又ハ消毒スヘシ但シ家禽虎列剌ノ場合ニ於テハ指揮ヲ待タスシテ之ヲ燒却、埋却又ハ消毒スルコトヲ得
第十條 傳染病ニ罹リ若ハ罹リタル疑アリ若ハ牛疫ニ感染シタル虞アル家畜ノ屍體又ハ傳染病ノ病毒ニ汚染シ若ハ汚染シタル疑アル物品ヲ埋却シタル土地ハ之ヲ發掘スルコトヲ得ス但シ地方長官ノ許可ヲ受ケタル場合ハ此ノ限ニ在ラス
第十一條 傳染病ニ罹リ若ハ罹リタル疑アリ又ハ牛疫ニ感染シタル虞アル家畜ノ所在ノ畜舍、船車其ノ他ノ場所ハ其ノ所有者、管理人、船長、鐵道係員又ハ軌道係員ニ於テ警察官吏又ハ家畜防疫委員ノ指揮ニ從ヒ之ヲ消毒スヘシ但シ家禽虎列剌ノ場合ニ於テハ指揮ヲ待タスシテ之ヲ消毒スルコトヲ得
第十二條 傳染病ノ病毒ニ觸接シ又ハ觸接シタル疑アル者ハ直ニ消毒ヲ爲スヘシ
警察官吏又ハ家畜防疫委員必要アリト認ムルトキハ前項ノ消毒ニ付指揮ヲ爲スコトヲ得
第十三條 牛、馬、緬羊、山羊又ハ豚カ疾病ノ爲斃死シタルトキハ所有者又ハ保管者ハ直ニ家畜所在地ノ警察官吏又ハ家畜防疫委員ニ其ノ旨屆出ツヘシ
第二條但書ノ規定ハ前項ノ場合ニ之ヲ準用ス
第十四條 第三條、第四條、第八條、第九條若ハ第十一條ノ規定ニ依ル義務者又ハ第五條ニ規定スル處分ニ依ル義務者カ其ノ義務ニ屬スル事項ヲ行ハス又ハ行フコト能ハサルトキハ警察官吏又ハ家畜防疫委員之ヲ行フコトヲ得
前項又ハ第五條第二項ノ場合ニ於テハ其ノ費用ハ北海道地方費又ハ府縣費ヲ以テ之ヲ支辨スヘシ但シ北海道地方費又ハ府縣ハ第二十三條ノ規定ニ基キテ發スル勅令ノ定ムル所ニ依リ箇人ノ負擔ニ屬スル費用ヲ其ノ箇人ヨリ徵收スルコトヲ得
第十五條 警察官吏又ハ家畜防疫委員傳染病豫防上必要アリト認ムルトキハ畜舍、船車其ノ他家畜ノ所在ノ場所ニ臨檢スルコトヲ得此ノ場合ニ於テハ家畜防疫委員ハ其ノ證票ヲ携帶スヘシ
第十六條 地方長官傳染病豫防上必要アリト認ムルトキハ區域ヲ限リ一定種類ノ家畜ノ出入若ハ往來又ハ其ノ家畜ノ屍體若ハ傳染病ノ病毒傳播ノ虞アル物品ノ運搬ノ停止其ノ他必要ナル事項ヲ命スルコトヲ得
警察官吏又ハ家畜防疫委員傳染病豫防上緊急ノ必要アリト認ムルトキハ傳染病ニ罹リ若ハ罹リタル疑アリ又ハ牛疫ニ感染シタル虞アル家畜ノ所在ノ場所及其ノ隣接區域ニ對シ一定ノ期間交通ヲ遮斷スルコトヲ得
第十七條 地方長官狂犬病豫防上必要アリト認ムルトキハ警察官吏ヲシテ道路、公園、社寺境內、墓地其ノ他ノ場所ニ徘徊スル犬ヲ抑留セシムルコトヲ得
警察官吏前項ノ規定ニ依リ犬ヲ抑留シタルトキハ其ノ所有者又ハ保管者ニ其ノ旨通知シ之ヲ受領セシムヘシ所有者及保管者知レサルトキハ抑留ノ旨ヲ公示スヘシ
前項ノ規定ニ依ル公示後命令ノ定ムル期間內ニ犬ノ返還ノ請求ナキトキハ地方長官ハ其ノ犬ノ處分ヲ爲スコトヲ得
第十八條 地方長官傳染病豫防上必要アリト認ムルトキハ屠場若ハ化製場ノ事業ノ停止又ハ家畜市場、家畜共進會若ハ競馬會ノ開設其ノ他家畜ヲ集合セシムル施設ノ停止ヲ命スルコトヲ得
第十九條 農商務大臣傳染病豫防上必要アリト認ムルトキハ家畜竝其ノ屍體及肉骨皮毛類其ノ他傳染病ノ病毒傳播ノ虞アル物品ノ輸入又ハ移入ノ停止ヲ命スルコトヲ得
第二十條 家畜竝其ノ屍體及肉骨皮毛類ハ傳染病豫防ノ爲施行スル檢疫ヲ受クルニ非サレハ之ヲ輸入又ハ移入スルコトヲ得ス
檢疫官吏傳染病豫防上必要アリト認ムルトキハ前項ニ規定スル物ノ外傳染病ノ病毒傳播ノ虞アル物ニ付檢疫ヲ行フコトヲ得
第二十一條 檢疫官吏傳染病豫防上必要アリト認ムルトキハ船舶ニ臨檢シ航海日誌其ノ他ノ書類ノ檢閱スルコトヲ得
第二十二條 第二條乃至第九條、第十一條乃至第十四條及第十六條ノ規定ニ於テ警察官吏又ハ家畜防疫委員トアルハ輸入又ハ移入ニ付檢疫ヲ施行スル場合ニ於テハ檢疫官吏トス
第二十三條 傳染病豫防ニ關スル費用ハ國、北海道地方費、府縣、市町村又ハ箇人ノ負擔トス其ノ負擔區分ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第二十四條 地方長官ハ左ノ區分ニ從ヒ家畜又ハ物品ノ所有者ニ對シ手當金ヲ交付ス但シ勅令ノ定ムル最高金額ヲ超ユルコトヲ得ス
一 傳染病ニ罹リ第四條、第五條又ハ第十四條ノ規定ニ依リ殺シタル家畜但シ犬及第七條ノ規定ニ依リ豫防液ノ注射ヲ行ヒタル爲傳染病ニ罹リタル家畜ヲ除ク 評價額ノ三分ノ一
二 第六條ノ規定ニ依リ殺シタル家畜 評價額ノ五分ノ三
三 牛疫ニ感染シタル虞アリ第四條、第五條又ハ第十四條ノ規定ニ依リ殺シタル家畜、第七條ノ規定ニ依リ豫防液ノ注射ヲ行ヒタル爲傳染病ニ罹リ第四條、第五條又ハ第十四條ノ規定ニ依リ殺シタル家畜及第七條ノ規定ニ依リ免疫血淸若ハ豫防液ノ注射又ハ藥浴ヲ行ヒタル爲斃死シタル家畜 評價額ノ五分ノ四
四 第九條ノ規定ニ依リ警察官吏又ハ家畜防疫委員ノ指揮ニ從ヒ燒却又ハ埋却シタル物品及第十四條ノ規定ニ依リ警察官吏又ハ家畜防疫委員カ燒却又ハ埋却シタル物品 評價額ノ二分ノ一
前項ノ規定ハ輸入又ハ移入ニ付檢疫ヲ施行スル場合ニ於ケル家畜及物品ニ付テハ之ヲ適用セス
第一項ノ評價額ハ地方長官三人以上ノ評價人ヲ選定シテ發病前又ハ病毒汚染前ノ價格ニ依リ之ヲ定メシム地方長官其ノ評價額ヲ不當ト認ムルトキハ更ニ他ノ三人以上ノ評價人ヲ選定シテ之ヲ定メシムルコトヲ得
第二十五條 前條ノ手當金ハ所有者又ハ保管者左ノ各號ノ一ニ該當スル場合ニ於テハ其ノ家畜又ハ物品ニ付之ヲ交付セス
一 第二條、第三條第一項、第四條第一項若ハ第九條又ハ第二十條第一項ノ規定ニ違反シタルトキ
二 第五條第一項ノ規定ニ依ル處分又ハ第十六條若ハ第十九條ノ規定ニ依ル命令若ハ處分ニ違反シタルトキ
三 第六條、第七條第一項又ハ第二十條第二項ノ規定ニ依ル職務ノ執行ヲ妨ケタルトキ
第二十六條 左ノ各號ノ一ニ該當スル者ハ五百圓以下ノ罰金ニ處ス
一 第二條ノ規定ニ違反シ屆出ヲ爲ササル獸醫
二 第三條、第四條第一項又ハ第二十條第一項ノ規定ニ違反シタル者
三 第五條第一項ノ規定ニ依ル處分又ハ第十六條、第十八條若ハ第十九條ノ規定ニ依ル命令若ハ處分ニ違反シタル者
四 第五條第二項、第六條、第七條第一項、第十四條第一項又ハ第二十條第二項ノ規定ニ依ル職務ノ執行ヲ妨ケタル者
第二十七條 左ノ各號ノ一ニ該當スル者ハ三百圓以下ノ罰金ニ處ス
一 第二條ノ規定ニ違反シ屆出ヲ爲ササル所有者、保管者、船長、鐵道係員又ハ軌道係員
二 第八條乃至第十一條ノ規定ニ違反シタル者
三 第十二條第二項ノ規定ニ依ル指揮ニ從ハサル者
四 正當ノ理由ナクシテ第十五條ノ規定ニ依ル臨檢又ハ第二十一條ノ規定ニ依ル臨檢若ハ檢閱ヲ拒ミ、妨ケ若ハ忌避シ又ハ尋問ニ對シ答辯ヲ爲サス若ハ虛僞ノ答辯ヲ爲シタル者
第二十八條 第十三條ノ屆出ヲ爲ササル者ハ科料ニ處ス
第二十九條 航海中ノ船舶ニ在リテハ船長ハ第三條、第八條、第九條及第十一條ノ規定ニ拘ラス命令ノ定ムル所ニ依リ傳染病豫防上必要ナル處置ヲ爲スヘシ
第三十條 第二十條ノ規定ハ宮內省又ハ國ノ管理ニ屬スル家畜其ノ他ノ物ニ之ヲ準用ス
前項ノ規定ハ軍用ノ家畜ニシテ軍衙ニ於テ檢疫ヲ行フモノニ之ヲ適用セス
第三十一條 本法中船長ニ適用スヘキ規定ハ船長ニ代リテ其ノ職務ヲ行フ者アル場合ニ於テハ其ノ者ニ之ヲ適用ス
第三十二條 本法中地方長官トアルハ東京府ニ於テハ警視總監トス
本法中市町村トアルハ市制又ハ町村制ヲ施行セサル地ニ於テハ之ニ準スヘキモノトス
附 則
本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
獸疫豫防法及大正九年法律第三十號ハ之ヲ廢止ス
本法施行前ニ獸疫豫防法第四條、第四條ノ二、第五條又ハ第八條第一項ノ場合ニ該當シタルモノニ對スル手當金ノ交付ニ付テハ仍從前ノ例ニ依ル
朕帝国議会ノ協賛ヲ経タル家畜伝染病予防法ヲ裁可シ茲ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
摂政名
大正十一年四月八日
内閣総理大臣 子爵 高橋是清
農商務大臣 男爵 山本達雄
法律第二十九号
家畜伝染病予防法
第一条 本法ニ於テ家畜ト称スルハ牛、馬、緬羊、山羊、豚、犬、鶏及鵞ヲ謂ヒ伝染病ト称スルハ牛疫、炭疽、気腫疽、鼻疽、仮性皮疽、牛ノ伝染性肋膜肺炎、流行性鵞口瘡、狂犬病、羊痘、豚虎列剌、豚疫、豚丹毒、牛ノ伝染性流産、馬緬羊山羊ノ疥癬、加奈陀馬痘及家禽虎列剌ヲ謂フ
畜類伝染病予防上必要アルトキハ勅令ヲ以テ前項ノ家畜又ハ伝染病以外ノ畜類又ハ伝染性病ニ付本法ノ全部又ハ一部ヲ適用スルコトヲ得
第二条 家畜カ伝染病ニ罹リ若ハ罹リタル疑アルトキ又ハ牛疫若ハ狂犬病ニ感染シタル虞アルトキハ所有者、保管者又ハ診断若ハ検案シタル獣医ハ直ニ家畜所在地ノ警察官吏又ハ家畜防疫委員ニ其ノ旨届出ツヘシ但シ家畜カ船車ニ搭載スルモノナルトキハ船長、鉄道係員又ハ軌道係員ハ最初ニ寄港又ハ停留シタル地ノ警察官吏又ハ家畜防疫委員ニ届出ツヘシ
第三条 前条ノ家畜ニ付テハ所有者若ハ保管者又ハ家畜ヲ搭載スル船車ノ船長、鉄道係員若ハ軌道係員ハ警察官吏又ハ家畜防疫委員ノ指揮ニ従ヒ直ニ家畜ノ隔離其ノ他伝染病予防上必要ナル処置ヲ為スヘシ
前項ノ家畜ハ警察官吏又ハ家畜防疫委員ノ許可ヲ受クルニ非サレハ之ヲ殺スコトヲ得ス但シ鶏及鶩ニ付テハ此ノ限ニ在ラス
第四条 家畜カ牛疫ニ罹リ若ハ之ニ感染シタル虞アルトキ又ハ狂犬病ニ罹リタルトキハ所有者又ハ保管者ハ警察官吏又ハ家畜防疫委員ノ指揮ニ従ヒ直ニ之ヲ殺スヘシ但シ牛疫ニ感染シタル虞アル家畜ニシテ第七条ノ規定ニ依リ免疫血清ノ注射ヲ行フモノハ此ノ限ニ在ラス
狂犬病ニ罹リタル犬ニ付所有者又ハ保管者緊急ノ必要アリト認ムルトキハ前項ノ指揮ヲ待タスシテ之ヲ殺スコトヲ得
第五条 地方長官伝染病予防上必要アリト認ムルトキハ炭疽、気腫疽、鼻疽、仮性皮疽、牛ノ伝染性肋膜肺炎、流行性鵞口瘡、羊痘、豚虎列剌、豚疫、豚丹毒、緬羊山羊ノ疥癬又ハ加奈陀馬痘ニ罹リタル家畜ニ付所有者又ハ保管者ニ対シ之ヲ殺スコトヲ命スルコトヲ得牛疫ニ感染シタル虞アル家畜ニシテ第七条ノ規定ニ依リ免疫血清ノ注射ヲ行ヒタルモノニ付亦同シ
地方長官ハ前項ノ家畜ニ付所有者又ハ保管者知レサル等ノ為前項ノ規定ニ依ル命令ヲ為スコト能ハサルトキハ警察官吏又ハ家畜防疫委員ヲシテ之ヲ殺サシムルコトヲ得
第六条 地方長官伝染病予防上病性鑑定ノ必要アリト認ムルトキハ警察官吏又ハ家畜防疫委員ヲシテ家畜ノ屍体ヲ剖検セシメ又ハ剖検ノ為家畜ヲ殺サシムルコトヲ得
第七条 地方長官伝染病予防上必要アリト認ムルトキハ警察官吏又ハ家畜防疫委員ヲシテ家畜ニ付検診、免疫血清若ハ予防液ノ注射又ハ薬浴ヲ行ハシムルコトヲ得
警察官吏又ハ家畜防疫委員前項ノ場合ニ於テ助力ヲ求ムルトキハ所有者若ハ保管者又ハ家畜ヲ搭載スル船車ノ船長、鉄道係員若ハ軌道係員ハ之ヲ拒ムコトヲ得ス
第八条 伝染病ニ罹リ若ハ罹リタル疑アリ又ハ牛疫ニ感染シタル虞アル家畜ノ屍体ハ所有者又ハ保管者ニ於テ警察官吏又ハ家畜防疫委員ノ指揮ニ従ヒ直ニ之ヲ焼却又ハ埋却スヘシ但シ鶏及鶩ノ屍体ニ付テハ指揮ヲ待タスシテ之ヲ焼却又ハ埋却スルコトヲ得
前項ノ規定ハ仮性皮疽又ハ加奈陀馬痘ニ罹リ又ハ罹リタル疑アル家畜ノ屍体及牛ノ伝染性流産又ハ馬緬羊山羊ノ疥癬ニ罹リ又ハ罹リタル疑アル家畜ノ斃屍体ニシテ警察官吏又ハ家畜防疫委員ノ指揮ニ従ヒ化製スルモノ並牛ノ伝染性流産又ハ馬緬羊山羊ノ疥癬ニ罹リ又ハ罹リタル疑アル家畜ノ殺屍体ニ之ヲ適用セス病性鑑定又ハ学術研究ノ為地方長官ノ許可ヲ受ケタル家畜ノ屍体ニ付亦同シ
第九条 伝染病ノ病毒ニ汚染シ又ハ汚染シタル疑アル物品ハ所有者又ハ保管者ニ於テ警察官吏又ハ家畜防疫委員ノ指揮ニ従ヒ之ヲ焼却、埋却又ハ消毒スヘシ但シ家禽虎列剌ノ場合ニ於テハ指揮ヲ待タスシテ之ヲ焼却、埋却又ハ消毒スルコトヲ得
第十条 伝染病ニ罹リ若ハ罹リタル疑アリ若ハ牛疫ニ感染シタル虞アル家畜ノ屍体又ハ伝染病ノ病毒ニ汚染シ若ハ汚染シタル疑アル物品ヲ埋却シタル土地ハ之ヲ発掘スルコトヲ得ス但シ地方長官ノ許可ヲ受ケタル場合ハ此ノ限ニ在ラス
第十一条 伝染病ニ罹リ若ハ罹リタル疑アリ又ハ牛疫ニ感染シタル虞アル家畜ノ所在ノ畜舎、船車其ノ他ノ場所ハ其ノ所有者、管理人、船長、鉄道係員又ハ軌道係員ニ於テ警察官吏又ハ家畜防疫委員ノ指揮ニ従ヒ之ヲ消毒スヘシ但シ家禽虎列剌ノ場合ニ於テハ指揮ヲ待タスシテ之ヲ消毒スルコトヲ得
第十二条 伝染病ノ病毒ニ触接シ又ハ触接シタル疑アル者ハ直ニ消毒ヲ為スヘシ
警察官吏又ハ家畜防疫委員必要アリト認ムルトキハ前項ノ消毒ニ付指揮ヲ為スコトヲ得
第十三条 牛、馬、緬羊、山羊又ハ豚カ疾病ノ為斃死シタルトキハ所有者又ハ保管者ハ直ニ家畜所在地ノ警察官吏又ハ家畜防疫委員ニ其ノ旨届出ツヘシ
第二条但書ノ規定ハ前項ノ場合ニ之ヲ準用ス
第十四条 第三条、第四条、第八条、第九条若ハ第十一条ノ規定ニ依ル義務者又ハ第五条ニ規定スル処分ニ依ル義務者カ其ノ義務ニ属スル事項ヲ行ハス又ハ行フコト能ハサルトキハ警察官吏又ハ家畜防疫委員之ヲ行フコトヲ得
前項又ハ第五条第二項ノ場合ニ於テハ其ノ費用ハ北海道地方費又ハ府県費ヲ以テ之ヲ支弁スヘシ但シ北海道地方費又ハ府県ハ第二十三条ノ規定ニ基キテ発スル勅令ノ定ムル所ニ依リ箇人ノ負担ニ属スル費用ヲ其ノ箇人ヨリ徴収スルコトヲ得
第十五条 警察官吏又ハ家畜防疫委員伝染病予防上必要アリト認ムルトキハ畜舎、船車其ノ他家畜ノ所在ノ場所ニ臨検スルコトヲ得此ノ場合ニ於テハ家畜防疫委員ハ其ノ証票ヲ携帯スヘシ
第十六条 地方長官伝染病予防上必要アリト認ムルトキハ区域ヲ限リ一定種類ノ家畜ノ出入若ハ往来又ハ其ノ家畜ノ屍体若ハ伝染病ノ病毒伝播ノ虞アル物品ノ運搬ノ停止其ノ他必要ナル事項ヲ命スルコトヲ得
警察官吏又ハ家畜防疫委員伝染病予防上緊急ノ必要アリト認ムルトキハ伝染病ニ罹リ若ハ罹リタル疑アリ又ハ牛疫ニ感染シタル虞アル家畜ノ所在ノ場所及其ノ隣接区域ニ対シ一定ノ期間交通ヲ遮断スルコトヲ得
第十七条 地方長官狂犬病予防上必要アリト認ムルトキハ警察官吏ヲシテ道路、公園、社寺境内、墓地其ノ他ノ場所ニ徘徊スル犬ヲ抑留セシムルコトヲ得
警察官吏前項ノ規定ニ依リ犬ヲ抑留シタルトキハ其ノ所有者又ハ保管者ニ其ノ旨通知シ之ヲ受領セシムヘシ所有者及保管者知レサルトキハ抑留ノ旨ヲ公示スヘシ
前項ノ規定ニ依ル公示後命令ノ定ムル期間内ニ犬ノ返還ノ請求ナキトキハ地方長官ハ其ノ犬ノ処分ヲ為スコトヲ得
第十八条 地方長官伝染病予防上必要アリト認ムルトキハ屠場若ハ化製場ノ事業ノ停止又ハ家畜市場、家畜共進会若ハ競馬会ノ開設其ノ他家畜ヲ集合セシムル施設ノ停止ヲ命スルコトヲ得
第十九条 農商務大臣伝染病予防上必要アリト認ムルトキハ家畜並其ノ屍体及肉骨皮毛類其ノ他伝染病ノ病毒伝播ノ虞アル物品ノ輸入又ハ移入ノ停止ヲ命スルコトヲ得
第二十条 家畜並其ノ屍体及肉骨皮毛類ハ伝染病予防ノ為施行スル検疫ヲ受クルニ非サレハ之ヲ輸入又ハ移入スルコトヲ得ス
検疫官吏伝染病予防上必要アリト認ムルトキハ前項ニ規定スル物ノ外伝染病ノ病毒伝播ノ虞アル物ニ付検疫ヲ行フコトヲ得
第二十一条 検疫官吏伝染病予防上必要アリト認ムルトキハ船舶ニ臨検シ航海日誌其ノ他ノ書類ノ検閲スルコトヲ得
第二十二条 第二条乃至第九条、第十一条乃至第十四条及第十六条ノ規定ニ於テ警察官吏又ハ家畜防疫委員トアルハ輸入又ハ移入ニ付検疫ヲ施行スル場合ニ於テハ検疫官吏トス
第二十三条 伝染病予防ニ関スル費用ハ国、北海道地方費、府県、市町村又ハ箇人ノ負担トス其ノ負担区分ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第二十四条 地方長官ハ左ノ区分ニ従ヒ家畜又ハ物品ノ所有者ニ対シ手当金ヲ交付ス但シ勅令ノ定ムル最高金額ヲ超ユルコトヲ得ス
一 伝染病ニ罹リ第四条、第五条又ハ第十四条ノ規定ニ依リ殺シタル家畜但シ犬及第七条ノ規定ニ依リ予防液ノ注射ヲ行ヒタル為伝染病ニ罹リタル家畜ヲ除ク 評価額ノ三分ノ一
二 第六条ノ規定ニ依リ殺シタル家畜 評価額ノ五分ノ三
三 牛疫ニ感染シタル虞アリ第四条、第五条又ハ第十四条ノ規定ニ依リ殺シタル家畜、第七条ノ規定ニ依リ予防液ノ注射ヲ行ヒタル為伝染病ニ罹リ第四条、第五条又ハ第十四条ノ規定ニ依リ殺シタル家畜及第七条ノ規定ニ依リ免疫血清若ハ予防液ノ注射又ハ薬浴ヲ行ヒタル為斃死シタル家畜 評価額ノ五分ノ四
四 第九条ノ規定ニ依リ警察官吏又ハ家畜防疫委員ノ指揮ニ従ヒ焼却又ハ埋却シタル物品及第十四条ノ規定ニ依リ警察官吏又ハ家畜防疫委員カ焼却又ハ埋却シタル物品 評価額ノ二分ノ一
前項ノ規定ハ輸入又ハ移入ニ付検疫ヲ施行スル場合ニ於ケル家畜及物品ニ付テハ之ヲ適用セス
第一項ノ評価額ハ地方長官三人以上ノ評価人ヲ選定シテ発病前又ハ病毒汚染前ノ価格ニ依リ之ヲ定メシム地方長官其ノ評価額ヲ不当ト認ムルトキハ更ニ他ノ三人以上ノ評価人ヲ選定シテ之ヲ定メシムルコトヲ得
第二十五条 前条ノ手当金ハ所有者又ハ保管者左ノ各号ノ一ニ該当スル場合ニ於テハ其ノ家畜又ハ物品ニ付之ヲ交付セス
一 第二条、第三条第一項、第四条第一項若ハ第九条又ハ第二十条第一項ノ規定ニ違反シタルトキ
二 第五条第一項ノ規定ニ依ル処分又ハ第十六条若ハ第十九条ノ規定ニ依ル命令若ハ処分ニ違反シタルトキ
三 第六条、第七条第一項又ハ第二十条第二項ノ規定ニ依ル職務ノ執行ヲ妨ケタルトキ
第二十六条 左ノ各号ノ一ニ該当スル者ハ五百円以下ノ罰金ニ処ス
一 第二条ノ規定ニ違反シ届出ヲ為ササル獣医
二 第三条、第四条第一項又ハ第二十条第一項ノ規定ニ違反シタル者
三 第五条第一項ノ規定ニ依ル処分又ハ第十六条、第十八条若ハ第十九条ノ規定ニ依ル命令若ハ処分ニ違反シタル者
四 第五条第二項、第六条、第七条第一項、第十四条第一項又ハ第二十条第二項ノ規定ニ依ル職務ノ執行ヲ妨ケタル者
第二十七条 左ノ各号ノ一ニ該当スル者ハ三百円以下ノ罰金ニ処ス
一 第二条ノ規定ニ違反シ届出ヲ為ササル所有者、保管者、船長、鉄道係員又ハ軌道係員
二 第八条乃至第十一条ノ規定ニ違反シタル者
三 第十二条第二項ノ規定ニ依ル指揮ニ従ハサル者
四 正当ノ理由ナクシテ第十五条ノ規定ニ依ル臨検又ハ第二十一条ノ規定ニ依ル臨検若ハ検閲ヲ拒ミ、妨ケ若ハ忌避シ又ハ尋問ニ対シ答弁ヲ為サス若ハ虚偽ノ答弁ヲ為シタル者
第二十八条 第十三条ノ届出ヲ為ササル者ハ科料ニ処ス
第二十九条 航海中ノ船舶ニ在リテハ船長ハ第三条、第八条、第九条及第十一条ノ規定ニ拘ラス命令ノ定ムル所ニ依リ伝染病予防上必要ナル処置ヲ為スヘシ
第三十条 第二十条ノ規定ハ宮内省又ハ国ノ管理ニ属スル家畜其ノ他ノ物ニ之ヲ準用ス
前項ノ規定ハ軍用ノ家畜ニシテ軍衙ニ於テ検疫ヲ行フモノニ之ヲ適用セス
第三十一条 本法中船長ニ適用スヘキ規定ハ船長ニ代リテ其ノ職務ヲ行フ者アル場合ニ於テハ其ノ者ニ之ヲ適用ス
第三十二条 本法中地方長官トアルハ東京府ニ於テハ警視総監トス
本法中市町村トアルハ市制又ハ町村制ヲ施行セサル地ニ於テハ之ニ準スヘキモノトス
附 則
本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
獣疫予防法及大正九年法律第三十号ハ之ヲ廃止ス
本法施行前ニ獣疫予防法第四条、第四条ノ二、第五条又ハ第八条第一項ノ場合ニ該当シタルモノニ対スル手当金ノ交付ニ付テハ仍従前ノ例ニ依ル