獣疫予防法
法令番号: 法律第六十號
公布年月日: 明治29年3月30日
法令の形式: 法律
朕帝國議會ノ協贊ヲ經タル獸疫豫防法ヲ裁可シ玆ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
明治二十九年三月二十九日
內閣總理大臣臨時代理 樞密院議長 伯爵 黑田淸隆
農商務大臣 子爵 榎本武揚
法律第六十號
獸疫豫防法
第一條 此ノ法律ニ獸類ト稱スルハ牛、馬、羊、豕、犬ヲ謂ヒ獸疫ト稱スルハ左ノ十病ヲ謂フ
一 牛疫
二 炭疽
三 氣腫疽
四 鼻疽及皮疽
五 傳染性胸膜肺炎
六 流行性鵞口瘡
七 羊痘
八 豕虎列剌
九 豕羅斯疫
十 狂犬病
第二條 獸類獸疫ニ罹リタルコト若ハ其ノ疑アルコトヲ發見シタル所有者、管理人又ハ獸醫ハ直ニ其ノ旨ヲ所轄警察署又ハ市町村長特別市制ヲ施行スル市ニ於テハ區長、市制町村制ヲ施行セサル地方ニ於テハ區戶長、又ハ之ニ準スヘキ者ニ屆出ヘシ
所有者又ハ管理人ニ於テ狂犬病ニ罹リタル獸類ヲ撲殺シタルトキ亦同シ
第三條 獸類獸疫ニ罹リタルトキ若ハ其ノ疑アルトキハ所有者又ハ管理人ニ於テ警察官及獸醫又ハ檢疫委員ノ指揮ニ從ヒ直ニ之ヲ鎖錮シ若ハ健獸ト隔離シ其ノ監督ヲ承クヘシ
第四條 牛疫感染ノ疑アリ又ハ之ニ罹リタル牛、羊及狂犬病ニ罹リタル犬ハ所有者又ハ管理人ニ於テ警察官及獸醫又ハ檢疫委員ノ指揮ニ從ヒ直ニ之ヲ撲殺スヘシ
前項ノ所有者又ハ管理人現場ニ在ラサルトキハ警察官及獸醫又ハ檢疫委員ニ於テ直ニ撲殺シ及病毒ニ汚染シ又ハ其ノ疑アル物品ヲ燒棄、埋却シ若ハ之ニ消毒ヲ行フコトヲ得
第五條 地方長官東京府ハ警視總監以下之ニ傚フハ獸疫豫防上必要ト認ムルトキハ病性鑑定ノ爲剖檢ヲ要スル獸類ヲ撲殺シ又ハ鼻疽及皮疽、傳染性胸膜肺炎、豕虎列剌、豕羅斯疫ニ罹リタル獸類ノ撲殺ヲ命スルコトヲ得
第六條 所有者又ハ管理人第四條ノ指揮ニ從ハス及前條ノ命令ニ從ハサルトキハ警察官及獸醫又ハ檢疫委員ニ於テ直ニ撲殺スルコトヲ得
第七條 病性鑑定ノ爲撲殺シタル獸類ヲ除クノ外此ノ法律ニ依リ撲殺シ又ハ獸疫ニ罹リ斃死シタル獸類ノ屍體ハ所有者又ハ管理人ニ於テ警察官及獸醫又ハ檢疫委員ノ指揮ニ從ヒ直ニ之ヲ燒棄又ハ埋却スヘシ
前項ノ屍體ハ各部ヲ截取シ又ハ剖檢ヲ爲スコトヲ得ス但シ病性鑑定又ハ學術硏究ノ爲特ニ地方長官ノ許可ヲ得タルトキハ此ノ限ニ在ラス
第八條 所有者又ハ管理人ハ警察官及獸醫又ハ檢疫委員ノ指揮ニ從ヒ病毒ニ汚染シ又ハ其ノ疑アル物品ヲ燒棄、埋却シ若ハ之ニ消毒ヲ行フヘシ
所有者、管理人、車長又ハ船長ハ警察官及獸醫又ハ檢疫委員ノ指揮ニ從ヒ獸疫ニ罹リ若ハ其ノ疑アル獸類ヲ繫留シタル場所、汽車、船舶等ニ消毒ヲ行フヘシ
所有者又ハ管理人前二項ノ指揮ニ從ハサルトキ及車長、船長前項ノ指揮ニ從ハサルトキハ警察官及獸醫又ハ檢疫委員ハ直ニ燒棄、埋却シ若ハ消毒ヲ行フコトヲ得
第九條 此ノ法律ニ依リ撲殺シ又ハ獸疫ニ罹リ斃死シタル獸類ノ屍體及病毒ニ汚染シタル物品ノ埋却地ハ發堀若ハ使用スルコトヲ得ス但シ地方長官ノ許可ヲ得タルトキハ此ノ限ニ在ラス
第十條 第四條、第五條及第八條第一項ノ場合ニ於テ地方長官ハ三人以上ノ評價人ヲシテ物品及發病前ノ獸類ノ價格ヲ評價セシメ左ノ標準ニ依リ所有者ニ手當金ヲ下付ス其ノ評價額ヲ不當ト認ムルトキハ更ニ他ノ三人以上ノ評價人ヲシテ評價セシムルコトヲ得
一 牛疫、鼻疽及皮疽、傳染性胸膜肺炎、豕虎列剌、豕羅斯疫ニ罹リ撲殺シタル獸類 評價額三分ノ一
二 病性鑑定ノ爲撲殺シタル獸類 評價額五分ノ三
三 牛疫ニ感染ノ疑アル爲撲殺シタル牛羊 評價額五分ノ四
四 燒棄又ハ埋却シタル物品 評價額二分ノ一
手當金額ハ第一ノ場合ニ於テハ一頭六十圓、第二ノ場合ニ於テハ一頭百五十圓、第三ノ場合ニ於テハ一頭二百圓、第四ノ場合ニ於テハ總計十圓ヲ超過スルコトヲ得ス
第十一條 此ノ法律ニ依リ左ニ揭クル獸類ヲ撲殺シ又ハ物品ヲ燒棄若ハ埋却シタルトキハ手當金ヲ下付セス
一 第二條ニ違背シ屆出ナキ獸類及之ニ觸接シタル物品
二 第六條ノ場合ニ於ケル獸類及第八條第一項ニ違背シタル場合ニ於ケル物品
三 狂犬病ニ罹リタル犬及其ノ病毒汚染ノ疑アル物品
四 第十二條ノ命令ニ違背シ移動シタル獸類及物品
五 第十五條ノ命令ニ違背シ檢疫ヲ受ケス又ハ輸入シタル獸類及物品
第十二條 地方長官ハ獸疫豫防上必要ト認ムルトキハ區域ヲ定メ獸類ノ種類ヲ限リ其ノ出入、往來竝病毒傳播ノ疑アル物品ノ運搬ヲ停止スルコトヲ得
第十三條 地方長官ハ獸疫流行中必要ト認ムルトキハ屠獸場及獸類化製場ノ營業ヲ停止シ又ハ獸類ノ種類ヲ限リ其ノ市場、共進會等ノ開設ヲ停止スルコトヲ得但シ此ノ場合ニ於テハ直ニ其ノ旨ヲ農商務大臣ニ屆出ヘシ
第十四條 地方長官ハ獸疫豫防上必要ト認ムルトキハ區域ヲ限リ健獸ノ檢査ヲ行フコトヲ得
第十五條 外國ヨリ獸疫侵入ノ危險アリト認ムルトキハ有病地ヨリ又ハ有病地ヲ經テ輸入スル獸類及物品ノ檢疫ヲ行ヒ若ハ其ノ輸入ヲ停止スルコトヲ得
第十六條 獸疫豫防ニ關スル費用ハ國庫、府縣、市町村及一個人ノ負擔トス其ノ負擔ノ區分ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第十七條 第四條第一項ニ違背シタル者、第五條ノ命令ニ違背シタル者及第十五條ノ檢疫ヲ受ケス又ハ輸入停止ニ違背シタル者ハ五圓以上百圓以下ノ罰金ニ處ス
獸醫第二條ニ違背シタルトキハ罰前項ニ同シ
第十八條 第七條、第八條第一項第二項、第九條ニ違背シタル者及第十三條ノ命令ニ違背シタル者ハ二圓以上二十圓以下ノ罰金ニ處ス
所有者又ハ管理人第二條ニ違背シタルトキハ罰前項ニ同シ
第十九條 第三條ニ違背シタル者及第十二條ノ命令ニ違背シタル者ハ刑法第二百四十九條ノ例ニ依リ處罰ス
第二十條 第一條ニ揭ケタル獸類獸疫ノ外獸畜傳染病豫防上必要ト認ムルトキハ勅令ヲ以テ此ノ法律ノ全部又ハ一部ヲ他ノ獸畜又ハ他ノ獸畜傳染病ニ適用スルコトヲ得
第二十一條 此ノ法律施行ニ關スル規則ハ命令ヲ以テ之ヲ定ム
附 則
第二十二條 此ノ法律ハ明治三十年四月一日ヨリ施行ス
獸畜傳染病豫防ニ關スル從前ノ規則ハ此ノ法律施行ノ日ヨリ廢止ス
朕帝国議会ノ協賛ヲ経タル獣疫予防法ヲ裁可シ茲ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
明治二十九年三月二十九日
内閣総理大臣臨時代理 枢密院議長 伯爵 黒田清隆
農商務大臣 子爵 榎本武揚
法律第六十号
獣疫予防法
第一条 此ノ法律ニ獣類ト称スルハ牛、馬、羊、豕、犬ヲ謂ヒ獣疫ト称スルハ左ノ十病ヲ謂フ
一 牛疫
二 炭疽
三 気腫疽
四 鼻疽及皮疽
五 伝染性胸膜肺炎
六 流行性鵞口瘡
七 羊痘
八 豕虎列剌
九 豕羅斯疫
十 狂犬病
第二条 獣類獣疫ニ罹リタルコト若ハ其ノ疑アルコトヲ発見シタル所有者、管理人又ハ獣医ハ直ニ其ノ旨ヲ所轄警察署又ハ市町村長特別市制ヲ施行スル市ニ於テハ区長、市制町村制ヲ施行セサル地方ニ於テハ区戸長、又ハ之ニ準スヘキ者ニ届出ヘシ
所有者又ハ管理人ニ於テ狂犬病ニ罹リタル獣類ヲ撲殺シタルトキ亦同シ
第三条 獣類獣疫ニ罹リタルトキ若ハ其ノ疑アルトキハ所有者又ハ管理人ニ於テ警察官及獣医又ハ検疫委員ノ指揮ニ従ヒ直ニ之ヲ鎖錮シ若ハ健獣ト隔離シ其ノ監督ヲ承クヘシ
第四条 牛疫感染ノ疑アリ又ハ之ニ罹リタル牛、羊及狂犬病ニ罹リタル犬ハ所有者又ハ管理人ニ於テ警察官及獣医又ハ検疫委員ノ指揮ニ従ヒ直ニ之ヲ撲殺スヘシ
前項ノ所有者又ハ管理人現場ニ在ラサルトキハ警察官及獣医又ハ検疫委員ニ於テ直ニ撲殺シ及病毒ニ汚染シ又ハ其ノ疑アル物品ヲ焼棄、埋却シ若ハ之ニ消毒ヲ行フコトヲ得
第五条 地方長官東京府ハ警視総監以下之ニ倣フハ獣疫予防上必要ト認ムルトキハ病性鑑定ノ為剖検ヲ要スル獣類ヲ撲殺シ又ハ鼻疽及皮疽、伝染性胸膜肺炎、豕虎列剌、豕羅斯疫ニ罹リタル獣類ノ撲殺ヲ命スルコトヲ得
第六条 所有者又ハ管理人第四条ノ指揮ニ従ハス及前条ノ命令ニ従ハサルトキハ警察官及獣医又ハ検疫委員ニ於テ直ニ撲殺スルコトヲ得
第七条 病性鑑定ノ為撲殺シタル獣類ヲ除クノ外此ノ法律ニ依リ撲殺シ又ハ獣疫ニ罹リ斃死シタル獣類ノ屍体ハ所有者又ハ管理人ニ於テ警察官及獣医又ハ検疫委員ノ指揮ニ従ヒ直ニ之ヲ焼棄又ハ埋却スヘシ
前項ノ屍体ハ各部ヲ截取シ又ハ剖検ヲ為スコトヲ得ス但シ病性鑑定又ハ学術研究ノ為特ニ地方長官ノ許可ヲ得タルトキハ此ノ限ニ在ラス
第八条 所有者又ハ管理人ハ警察官及獣医又ハ検疫委員ノ指揮ニ従ヒ病毒ニ汚染シ又ハ其ノ疑アル物品ヲ焼棄、埋却シ若ハ之ニ消毒ヲ行フヘシ
所有者、管理人、車長又ハ船長ハ警察官及獣医又ハ検疫委員ノ指揮ニ従ヒ獣疫ニ罹リ若ハ其ノ疑アル獣類ヲ繋留シタル場所、汽車、船舶等ニ消毒ヲ行フヘシ
所有者又ハ管理人前二項ノ指揮ニ従ハサルトキ及車長、船長前項ノ指揮ニ従ハサルトキハ警察官及獣医又ハ検疫委員ハ直ニ焼棄、埋却シ若ハ消毒ヲ行フコトヲ得
第九条 此ノ法律ニ依リ撲殺シ又ハ獣疫ニ罹リ斃死シタル獣類ノ屍体及病毒ニ汚染シタル物品ノ埋却地ハ発堀若ハ使用スルコトヲ得ス但シ地方長官ノ許可ヲ得タルトキハ此ノ限ニ在ラス
第十条 第四条、第五条及第八条第一項ノ場合ニ於テ地方長官ハ三人以上ノ評価人ヲシテ物品及発病前ノ獣類ノ価格ヲ評価セシメ左ノ標準ニ依リ所有者ニ手当金ヲ下付ス其ノ評価額ヲ不当ト認ムルトキハ更ニ他ノ三人以上ノ評価人ヲシテ評価セシムルコトヲ得
一 牛疫、鼻疽及皮疽、伝染性胸膜肺炎、豕虎列剌、豕羅斯疫ニ罹リ撲殺シタル獣類 評価額三分ノ一
二 病性鑑定ノ為撲殺シタル獣類 評価額五分ノ三
三 牛疫ニ感染ノ疑アル為撲殺シタル牛羊 評価額五分ノ四
四 焼棄又ハ埋却シタル物品 評価額二分ノ一
手当金額ハ第一ノ場合ニ於テハ一頭六十円、第二ノ場合ニ於テハ一頭百五十円、第三ノ場合ニ於テハ一頭二百円、第四ノ場合ニ於テハ総計十円ヲ超過スルコトヲ得ス
第十一条 此ノ法律ニ依リ左ニ掲クル獣類ヲ撲殺シ又ハ物品ヲ焼棄若ハ埋却シタルトキハ手当金ヲ下付セス
一 第二条ニ違背シ届出ナキ獣類及之ニ触接シタル物品
二 第六条ノ場合ニ於ケル獣類及第八条第一項ニ違背シタル場合ニ於ケル物品
三 狂犬病ニ罹リタル犬及其ノ病毒汚染ノ疑アル物品
四 第十二条ノ命令ニ違背シ移動シタル獣類及物品
五 第十五条ノ命令ニ違背シ検疫ヲ受ケス又ハ輸入シタル獣類及物品
第十二条 地方長官ハ獣疫予防上必要ト認ムルトキハ区域ヲ定メ獣類ノ種類ヲ限リ其ノ出入、往来並病毒伝播ノ疑アル物品ノ運搬ヲ停止スルコトヲ得
第十三条 地方長官ハ獣疫流行中必要ト認ムルトキハ屠獣場及獣類化製場ノ営業ヲ停止シ又ハ獣類ノ種類ヲ限リ其ノ市場、共進会等ノ開設ヲ停止スルコトヲ得但シ此ノ場合ニ於テハ直ニ其ノ旨ヲ農商務大臣ニ届出ヘシ
第十四条 地方長官ハ獣疫予防上必要ト認ムルトキハ区域ヲ限リ健獣ノ検査ヲ行フコトヲ得
第十五条 外国ヨリ獣疫侵入ノ危険アリト認ムルトキハ有病地ヨリ又ハ有病地ヲ経テ輸入スル獣類及物品ノ検疫ヲ行ヒ若ハ其ノ輸入ヲ停止スルコトヲ得
第十六条 獣疫予防ニ関スル費用ハ国庫、府県、市町村及一個人ノ負担トス其ノ負担ノ区分ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第十七条 第四条第一項ニ違背シタル者、第五条ノ命令ニ違背シタル者及第十五条ノ検疫ヲ受ケス又ハ輸入停止ニ違背シタル者ハ五円以上百円以下ノ罰金ニ処ス
獣医第二条ニ違背シタルトキハ罰前項ニ同シ
第十八条 第七条、第八条第一項第二項、第九条ニ違背シタル者及第十三条ノ命令ニ違背シタル者ハ二円以上二十円以下ノ罰金ニ処ス
所有者又ハ管理人第二条ニ違背シタルトキハ罰前項ニ同シ
第十九条 第三条ニ違背シタル者及第十二条ノ命令ニ違背シタル者ハ刑法第二百四十九条ノ例ニ依リ処罰ス
第二十条 第一条ニ掲ケタル獣類獣疫ノ外獣畜伝染病予防上必要ト認ムルトキハ勅令ヲ以テ此ノ法律ノ全部又ハ一部ヲ他ノ獣畜又ハ他ノ獣畜伝染病ニ適用スルコトヲ得
第二十一条 此ノ法律施行ニ関スル規則ハ命令ヲ以テ之ヲ定ム
附 則
第二十二条 此ノ法律ハ明治三十年四月一日ヨリ施行ス
獣畜伝染病予防ニ関スル従前ノ規則ハ此ノ法律施行ノ日ヨリ廃止ス