朕帝國議會ノ協贊ヲ經タル罹災救助基金法ヲ裁可シ玆ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
明治三十二年三月二十日
內閣總理大臣 侯爵 山縣有朋
大藏大臣 伯爵 松方正義
內務大臣 侯爵 西鄕從道
法律第七十七號
罹災救助基金法
第一條 府縣ハ罹災救助基金ヲ貯蓄スヘシ
第二條 罹災救助基金ハ府縣ノ全部又ハ一部ニ亙ル非常災害ニ罹リタル者ヲ救助スル爲支出スルモノトス
罹災ノ範圍前項ニ該當セサルモ多數ノ人民同一ノ災害ニ罹リタルトキ亦前項ニ同シ
第三條 各府縣ニ於テ貯蓄スヘキ罹災救助基金ノ最少額ハ五拾萬圓トシ且明治二十年度ヨリ同二十九年度迄ノ間ニ備荒儲蓄法ニ依リ支給シタル平均年額ノ二十倍以上タルコトヲ要ス但シ支給額ノ最高及最低年度ハ本文平均計算ニ加ヘス
第四條 府縣ハ罹災救助基金貯蓄ノ爲直接國稅ノ附加稅ヲ徵收スル場合ニ於テハ他ノ法律ニ依ル制限ノ外百分ノ三以內ノ附加稅ヲ課スルコトヲ得
第五條 國庫ハ罹災救助基金ノ補助トシテ十箇年度間每年拾五萬圓ヲ支出シ此ノ法律施行ノ日ニ於ケル府縣罹災救助基金第三條ノ制限額ニ達セサル府縣ニ對シ其ノ差額ニ割合ヒ之ヲ交付ス
前項ノ外國庫ハ罹災救助基金ノ補助トシテ十箇年度間每年度拾五萬圓ヲ支出シ府縣ニ於テ府縣稅若ハ地方稅ヲ以テ罹災救助基金ニ積立テタル金額ニ割合ヒ之ヲ交付ス但シ第三條ノ制限額ニ達シタル府縣ニ付テハ此ノ限ニアラス
第六條 罹災救助基金ヨリ生スル收入ハ總テ罹災救助基金ニ編入スヘシ
第七條 第二條ノ支出額其ノ年度初ノ罹災救助基金現在高百分ノ五ヲ超過シタルトキハ罹災救助基金ノ補助トシテ國庫ハ其ノ超過額ノ三分ノ一ヲ府縣ニ交付ス
第八條 罹災救助ノ爲罹災救助基金ヲ支出スヘキ費目左ノ如シ
一 避難所費
二 食料費
三 被服費
四 治療費
五 小屋掛費
六 就業費
第九條 避難所費ハ罹災者ノ爲ニ必要ナル避難所ヲ設クル費用ニ充ツ
第十條 食料費ハ罹災者ノ爲ニ必要ナル焚出ヲ爲シ又ハ食品ヲ給與スル費用ニ充ツ
第十一條 被服費ハ罹災者自ラ被服ヲ給スルコト能ハサル場合ニ於テ被服ヲ給與スル費用ニ充ツ
第十二條 治療費ハ災害ノ際罹災者ノ傷痍疾病ヲ治療スルノ必要アル場合ニ於テ其ノ費用ニ充ツ
第十三條 小屋掛費ハ災害ノ際罹災者ノ爲ニ必要ナル小屋掛ヲ爲シ又ハ爲スヘキ材料ヲ給與スル費用ニ充ツ
第十四條 就業費ハ主トシテ勞働ニ依リテ業務ニ從事シ價格僅少ナル資料又ハ器具ニ依賴スル貧民ニシテ罹災ノ爲其ノ資料又ハ器具ヲ亡失シタル者ニ就業ノ爲必要缺クヘカラサル資料又ハ器具ヲ給與スルノ費用ニ充ツ
第十五條 第三條ノ制限額以上ニ達シタル府縣ノ郡市町村ニ於テ罹災救助ノ方法ヲ設ケ資金ヲ貯蓄スルトキハ地方長官ハ府縣會ノ議決ヲ經內務大臣及大藏大臣ノ認可ヲ受ケ該制限額ヲ下ルニ至ラサル範圍內ニ於テ罹災救助基金ヨリ補助スルコトヲ得
前項ノ場合ニ於テハ地方長官ハ其ノ資金監督ノ方法ヲ設クヘシ
第十六條 罹災救助基金ノ管理支出又ハ補充ニ關スル方法ハ府縣會ノ議決ヲ經內務大臣及大藏大臣ノ認可ヲ受クヘシ
第十七條 罹災救助基金ノ運用ハ左ノ範圍ヲ出ツルコトヲ得ス
一 國債證券地方債證券ヲ買入レ又ハ非常災害ノ爲ニ要スル府縣土木費ヘ利付ニテ貸出スコト但シ地方債證券買入額及土木費貸出額ハ合シテ罹災救助基金年度初ノ現在高三分ノ一ヲ超ユルコトヲ得ス其ノ土木費貸出ニ付テハ內務大臣及大藏大臣ノ認可ヲ受クヘシ
二 豫メ給與品ヲ買入ルルコト
三 大藏省預金ニ預ケ入ルルコト
四 確實ナル銀行ニ利付ニテ當坐預ケ定期預ケヲ爲スコト但シ罹災救助基金年度初ノ現在高十分ノ一ヲ超ユルコトヲ得ス
第十八條 罹災救助基金ノ管理ニ關スル費用ハ罹災救助基金ヨリ支出スルコトヲ得ス
第十九條 罹災救助基金ノ出納ハ內務大臣及大藏大臣之ヲ檢査ス
第二十條 罹災救助基金ノ收支ニ關スル豫算及決算ハ內務大臣及大藏大臣ニ報吿スヘシ
附 則
第二十一條 此ノ法律施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定メ二十箇年度間之ヲ施行ス
第二十二條 備荒儲蓄法ニ依リ積立テタル府縣儲蓄金ハ總テ罹災救助基金トス
第二十三條 此ノ法律ハ沖繩縣ニ施行セス
第二十四條 備荒儲蓄法ハ此ノ法律施行ノ日ヨリ廢止ス
朕帝国議会ノ協賛ヲ経タル罹災救助基金法ヲ裁可シ茲ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
明治三十二年三月二十日
内閣総理大臣 侯爵 山県有朋
大蔵大臣 伯爵 松方正義
内務大臣 侯爵 西郷従道
法律第七十七号
罹災救助基金法
第一条 府県ハ罹災救助基金ヲ貯蓄スヘシ
第二条 罹災救助基金ハ府県ノ全部又ハ一部ニ亘ル非常災害ニ罹リタル者ヲ救助スル為支出スルモノトス
罹災ノ範囲前項ニ該当セサルモ多数ノ人民同一ノ災害ニ罹リタルトキ亦前項ニ同シ
第三条 各府県ニ於テ貯蓄スヘキ罹災救助基金ノ最少額ハ五拾万円トシ且明治二十年度ヨリ同二十九年度迄ノ間ニ備荒儲蓄法ニ依リ支給シタル平均年額ノ二十倍以上タルコトヲ要ス但シ支給額ノ最高及最低年度ハ本文平均計算ニ加ヘス
第四条 府県ハ罹災救助基金貯蓄ノ為直接国税ノ附加税ヲ徴収スル場合ニ於テハ他ノ法律ニ依ル制限ノ外百分ノ三以内ノ附加税ヲ課スルコトヲ得
第五条 国庫ハ罹災救助基金ノ補助トシテ十箇年度間毎年拾五万円ヲ支出シ此ノ法律施行ノ日ニ於ケル府県罹災救助基金第三条ノ制限額ニ達セサル府県ニ対シ其ノ差額ニ割合ヒ之ヲ交付ス
前項ノ外国庫ハ罹災救助基金ノ補助トシテ十箇年度間毎年度拾五万円ヲ支出シ府県ニ於テ府県税若ハ地方税ヲ以テ罹災救助基金ニ積立テタル金額ニ割合ヒ之ヲ交付ス但シ第三条ノ制限額ニ達シタル府県ニ付テハ此ノ限ニアラス
第六条 罹災救助基金ヨリ生スル収入ハ総テ罹災救助基金ニ編入スヘシ
第七条 第二条ノ支出額其ノ年度初ノ罹災救助基金現在高百分ノ五ヲ超過シタルトキハ罹災救助基金ノ補助トシテ国庫ハ其ノ超過額ノ三分ノ一ヲ府県ニ交付ス
第八条 罹災救助ノ為罹災救助基金ヲ支出スヘキ費目左ノ如シ
一 避難所費
二 食料費
三 被服費
四 治療費
五 小屋掛費
六 就業費
第九条 避難所費ハ罹災者ノ為ニ必要ナル避難所ヲ設クル費用ニ充ツ
第十条 食料費ハ罹災者ノ為ニ必要ナル焚出ヲ為シ又ハ食品ヲ給与スル費用ニ充ツ
第十一条 被服費ハ罹災者自ラ被服ヲ給スルコト能ハサル場合ニ於テ被服ヲ給与スル費用ニ充ツ
第十二条 治療費ハ災害ノ際罹災者ノ傷痍疾病ヲ治療スルノ必要アル場合ニ於テ其ノ費用ニ充ツ
第十三条 小屋掛費ハ災害ノ際罹災者ノ為ニ必要ナル小屋掛ヲ為シ又ハ為スヘキ材料ヲ給与スル費用ニ充ツ
第十四条 就業費ハ主トシテ労働ニ依リテ業務ニ従事シ価格僅少ナル資料又ハ器具ニ依頼スル貧民ニシテ罹災ノ為其ノ資料又ハ器具ヲ亡失シタル者ニ就業ノ為必要欠クヘカラサル資料又ハ器具ヲ給与スルノ費用ニ充ツ
第十五条 第三条ノ制限額以上ニ達シタル府県ノ郡市町村ニ於テ罹災救助ノ方法ヲ設ケ資金ヲ貯蓄スルトキハ地方長官ハ府県会ノ議決ヲ経内務大臣及大蔵大臣ノ認可ヲ受ケ該制限額ヲ下ルニ至ラサル範囲内ニ於テ罹災救助基金ヨリ補助スルコトヲ得
前項ノ場合ニ於テハ地方長官ハ其ノ資金監督ノ方法ヲ設クヘシ
第十六条 罹災救助基金ノ管理支出又ハ補充ニ関スル方法ハ府県会ノ議決ヲ経内務大臣及大蔵大臣ノ認可ヲ受クヘシ
第十七条 罹災救助基金ノ運用ハ左ノ範囲ヲ出ツルコトヲ得ス
一 国債証券地方債証券ヲ買入レ又ハ非常災害ノ為ニ要スル府県土木費ヘ利付ニテ貸出スコト但シ地方債証券買入額及土木費貸出額ハ合シテ罹災救助基金年度初ノ現在高三分ノ一ヲ超ユルコトヲ得ス其ノ土木費貸出ニ付テハ内務大臣及大蔵大臣ノ認可ヲ受クヘシ
二 予メ給与品ヲ買入ルルコト
三 大蔵省預金ニ預ケ入ルルコト
四 確実ナル銀行ニ利付ニテ当坐預ケ定期預ケヲ為スコト但シ罹災救助基金年度初ノ現在高十分ノ一ヲ超ユルコトヲ得ス
第十八条 罹災救助基金ノ管理ニ関スル費用ハ罹災救助基金ヨリ支出スルコトヲ得ス
第十九条 罹災救助基金ノ出納ハ内務大臣及大蔵大臣之ヲ検査ス
第二十条 罹災救助基金ノ収支ニ関スル予算及決算ハ内務大臣及大蔵大臣ニ報告スヘシ
附 則
第二十一条 此ノ法律施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定メ二十箇年度間之ヲ施行ス
第二十二条 備荒儲蓄法ニ依リ積立テタル府県儲蓄金ハ総テ罹災救助基金トス
第二十三条 此ノ法律ハ沖縄県ニ施行セス
第二十四条 備荒儲蓄法ハ此ノ法律施行ノ日ヨリ廃止ス