朕帝國議會ノ協贊ヲ經タル人事訴訟手續法ヲ裁可シ玆ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
明治三十一年六月十五日
內閣總理大臣 侯爵 伊藤博文
司法大臣 曾禰荒助
法律第十三號
人事訴訟手續法
第一章
婚姻事件及ヒ養子緣組事件ニ關スル手續
第二章
親子關係事件、相續人廢除事件及ヒ隱居事件ニ關スル手續
第三章
禁治產及ヒ準禁治產ニ關スル手續
第四章
失踪ニ關スル手續
附則
人事訴訟手續法
第一章 婚姻事件及ヒ養子緣組事件ニ關スル手續
第一條 婚姻ノ無效若クハ取消、離婚又ハ夫婦ノ同居ヲ目的トスル訴ハ夫カ普通裁判籍ヲ有スル地又ハ其死亡ノ時ニ之ヲ有シタル地ノ地方裁判所ノ管轄ニ專屬ス但緣組事件ニ附帶シテ婚姻ノ取消又ハ離婚ノ請求ヲ爲ス場合ハ此限ニ在ラス
前項ノ普通裁判籍ハ日本ニ住所ナキトキ又ハ日本ノ住所ノ知レサルトキハ居所ニ依リ居所ナキトキ又ハ居所ノ知レサルトキハ最後ノ住所ニ依リテ定マル
最後ノ住所ナキトキ又ハ其住所ノ知レサルトキハ司法省令ヲ以テ指定シタル地ヲ住所地トス
第二條 夫婦ノ一方カ提起スル婚姻ノ無效又ハ取消ノ訴ニ於テハ其配偶者ヲ以テ相手方トス
第三者カ提起スル前項ノ訴ニ於テハ夫婦ヲ以テ相手方トシ夫婦ノ一方カ死亡シタル後ハ其生存者ヲ以テ相手方トス
前二項ノ規定ニ依リテ相手方トスヘキ者カ死亡シタル後ハ檢事ヲ以テ相手方トス
檢事カ當事者ト爲リタル後相手方カ死亡シタルトキハ本案ノ訴訟手續受繼ノ爲メ裁判所ハ辯護士ヲ承繼人トシテ選定スルコトヲ要ス
前項ノ場合ニ於テハ裁判所ハ辯護士ニ報酬ヲ與ヘシムルコトヲ得其額ハ裁判所ノ意見ヲ以テ之ヲ定ムヘシ
第三條 無能力者カ婚姻ノ無效若クハ取消、離婚又ハ同居ニ關スル訴訟行爲ヲ爲スニハ其法定代理人、保佐人又ハ夫ノ同意ヲ得ルコトヲ要セス
無能力者カ前項ノ訴訟行爲ヲ爲サントスルトキハ受訴裁判所ノ裁判長ハ申立ニ因リ辯護士ヲ訴訟代理人ニ選任スルコトヲ要ス
無能力者カ前項ノ申立ヲ爲ササルトキト雖モ受訴裁判所ノ裁判長ハ辯護士ヲ訴訟代理人ニ選任スヘキ旨ヲ命シ又ハ職權ヲ以テ其選任ヲ爲スコトヲ得
前條第五項ノ規定ハ受訴裁判所ノ裁判長カ辯護士ヲ訴訟代理人ニ選任シタル場合ニ之ヲ準用ス
第四條 夫婦ノ一方カ禁治產者ナルトキハ其後見人ハ親族會ノ同意ヲ得テ離婚ノ訴ヲ提起スルコトヲ得
禁治產者ノ配偶者カ其後見人ナルトキハ後見監督人ハ親族會ノ同意ヲ得テ前項ノ訴ヲ提起スルコトヲ得
第五條 婚姻事件ニ付テハ檢事ハ辯論ニ立會ヒテ意見ヲ述フルコトヲ要ス
檢事ハ受命判事又ハ受託判事ノ審問ニ立會ヒテ意見ヲ述フルコトヲ得
事件及ヒ期日ハ檢事ニ之ヲ通知シ檢事カ立會ヒタル場合ニ於テハ其氏名及ヒ申立ヲ調書ニ記載スヘシ
第六條 檢事ハ當事者ト爲ラサルトキト雖モ婚姻ヲ維持スル爲メ事實及ヒ證據方法ヲ提出スルコトヲ得
第七條 婚姻ノ無效ノ訴、其取消ノ訴、離婚ノ訴及ヒ同居ノ訴ハ之ヲ併合シ又ハ反訴トシテ之ヲ提起スルコトヲ得
他ノ訴ハ之ヲ前項ノ訴ニ併合シ又ハ其反訴トシテ提起スルコトヲ得ス但扶養ノ請求、訴ノ原因タル事實ニ因リテ生シタル損害賠償ノ請求及ヒ民法ノ規定ニ依リ婚姻事件ニ附帶シテ爲スコトヲ得ル緣組ノ取消又ハ離緣ノ請求ハ此限ニ在ラス
第八條 婚姻事件ニ付テハ第一審又ハ控訴審ニ於ケル辯論ノ終結ニ至ルマテ訴若クハ其事由ヲ變更シ、之ヲ併合シ又ハ反訴ヲ提起スルコトヲ得
第九條 婚姻ノ無效若クハ取消又ハ離婚ノ訴ニ付キ棄却ノ言渡ヲ受ケタル原吿ハ訴若クハ其事由ノ變更又ハ併合ニ依リ主張スルコトヲ得ヘカリシ事實ニ基キテ獨立ノ訴ヲ提起スルコトヲ得ス
被吿ハ反訴ノ事由トシテ主張スルコトヲ得ヘカリシ事實ニ基キテ獨立ノ訴ヲ提起スルコトヲ得ス
第十條 民事訴訟法第百十一條第二項、第三項及ヒ第三百三十五條乃至第三百四十一條ノ規定ハ婚姻事件ニ之ヲ適用セス同法第二百二十九條中請求ノ認諾ニ關スル規定亦同シ
裁判上ノ自白ニ關スル法則ハ婚姻事件ニ之ヲ適用セス
民事訴訟法第二百十條ノ規定ハ婚姻事件ノ控訴審ニ之ヲ適用セス
第十一條 婚姻事件ノ被吿カ第一審ニ於ケル最初ノ辯論ノ期日ニ出頭セサルトキハ更ニ其期日ヲ定ムルコトヲ要ス但被吿カ公示送達ニ依リテ呼出ヲ受ケタル場合ハ此限ニ在ラス
前項ノ場合ヲ除ク外被吿カ期日ニ出頭セサルトキト雖モ辯論ヲ命シ且判決ヲ爲スコトヲ得此場合ニ於テハ民事訴訟法第二百四十八條及ヒ第四百二十九條ノ規定ヲ適用セス
前二項ノ規定ハ反訴ノ被吿ニ之ヲ適用ス
第十二條 裁判所ハ婚姻事件ニ付キ當事者ニ自身出頭ヲ命シ當事者又ハ檢事カ提出シタル事實ニ付キ訊問ヲ爲スコトヲ得
當事者カ出頭スルコト能ハサルトキ又ハ遠隔ノ地ニ在ルトキハ受命判事又ハ受託判事ヲシテ訊問ヲ爲サシムルコトヲ得
出頭セサル當事者ニハ出頭セサル證人ニ關スル民事訴訟法ノ規定ヲ準用ス
第十三條 和諧ノ調フヘキ見込アルトキハ裁判所ハ職權ヲ以テ一囘ニ限リ一年ヲ超エサル期間離婚ノ訴ニ關スル手續ヲ中止スルコトヲ得
第十四條 裁判所ハ婚姻ヲ維持スル爲メ職權ヲ以テ證據調ヲ爲シ且當事者カ提出セサル事實ヲ斟酌スルコトヲ得但其事實及ヒ證據調ノ結果ニ付キ當事者ヲ訊問スヘシ
第十五條 婚姻ノ無效若クハ取消又ハ離婚ヲ言渡シタル判決ハ職權ヲ以テ之ヲ當事者ニ送達スヘシ
第十六條 扶養若クハ同居ノ義務、子ノ監護其他ノ假處分ニ付テハ民事訴訟法第七百五十六條乃至第七百六十三條ノ規定ヲ準用ス
第十七條 檢事カ敗訴シタル場合ニ於テハ訴訟費用ハ國庫ノ負擔トス
第十八條 婚姻ノ無效若クハ取消又ハ離婚ノ訴ニ付キ言渡シタル判決ハ第三者ニ對シテモ其效力ヲ有ス
民法第七百六十六條ノ規定ニ違反シタルコトヲ理由トシテ婚姻ノ取消ヲ請求シタル場合ニ於テ其訴ヲ棄却シタル判決ハ當事者ノ前配偶者ニ對シテハ其者カ訴訟ニ參加シタルトキニ限リ其效力ヲ有ス
第十九條 檢事カ提起スルコトヲ得ル婚姻事件ノ訴ニ限リ後四條ノ規定ヲ適用ス
第二十條 檢事カ訴ヲ提起スルトキハ夫婦ヲ以テ相手方トス
第二十一條 訴ノ變更若クハ併合又ハ反訴ノ提起ハ檢事カ提起スルコトヲ得ル訴ナルトキニ限リ之ヲ爲スコトヲ得
訴ノ事由ノ變更又ハ併合ハ檢事カ提出スルコトヲ得ル事由ナルトキニ限リ之ヲ爲スコトヲ得
第二十二條 檢事ハ他ノ者カ訴ヲ提起シタル場合ニ於テモ申立ヲ爲シテ訴訟手續ヲ追行シ又ハ上訴ヲ爲スコトヲ得但夫婦ノ一方カ死亡シタル後ハ此限ニ在ラス
第二十三條 檢事カ上訴ヲ爲ストキハ前審ノ當事者ノ全員ヲ以テ相手方トス
當事者ノ一人カ上訴ヲ爲ストキハ前審ノ他ノ當事者及ヒ當事者タリシ檢事ヲ以テ相手方トス
第二十四條 養子緣組ノ無效若クハ取消又ハ離緣ヲ目的トスル訴ハ養親カ普通裁判籍ヲ有スル地又ハ其死亡ノ時ニ之ヲ有シタル地ノ地方裁判所ノ管轄ニ專屬ス但婚姻事件ニ附帶シテ緣組ノ取消又ハ離緣ノ請求ヲ爲ス場合ハ此限ニ在ラス
第二十五條 養親カ禁治產者ナルトキハ第四條第一項ノ規定ヲ準用ス
養子カ禁治產者ナルトキハ實方ノ直系尊屬又ハ實家ノ戶主ハ離緣ノ訴ヲ提起スルコトヲ得
第二十六條 第一條第二項、第三項、第二條、第三條及ヒ第五條乃至第十八條ノ規定ハ養子緣組事件ニ之ヲ準用ス
第二章 親子關係事件、相續人廢除事件及ヒ隱居事件ニ關スル手續
第二十七條 子ノ否認、認知、其認知ノ無效若クハ取消又ハ民法第八百二十一條ノ規定ニ依リ父ヲ定ムルコトヲ目的トスル訴ハ子カ普通裁判籍ヲ有スル地又ハ其死亡ノ時ニ之ヲ有シタル地ノ地方裁判所ノ管轄ニ專屬ス
第二十八條 夫カ禁治產者ナルトキハ其後見人ハ親族會ノ同意ヲ得テ否認ノ訴ヲ提起スルコトヲ得
第二十九條 夫カ子ノ出生前又ハ否認ノ訴ヲ提起セスシテ民法第八百二十五條ノ期間內ニ死亡シタルトキハ其子ノ爲メニ相續權ヲ害セラルヘキ者其他夫ノ三親等內ノ血族ニ限リ否認ノ訴ヲ提起スルコトヲ得
前項ノ場合ニ於テハ否認ノ訴ハ夫ノ死亡ノ日ヨリ一年內ニ之ヲ提起スルコトヲ要ス
夫カ否認ノ訴ヲ提起シタル後死亡シタルトキハ第一項ニ揭ケタル者ニ於テ訴訟手續ヲ受繼クコトヲ得
第三十條 父ヲ定ムルコトヲ目的トスル訴ハ子、母、母ノ配偶者又ハ其前配偶者ヨリ之ヲ提起スルコトヲ得
母ノ配偶者及ヒ其前配偶者ハ互ニ其相手方ト爲ル
子又ハ母カ提起スル第一項ノ訴ニ於テハ母ノ配偶者及ヒ其前配偶者ヲ以テ相手方トシ其一人カ死亡シタル後ハ其生存者ヲ以テ相手方トス
第三十一條 親權若クハ財產管理權ノ喪失又ハ失權ノ取消ヲ目的トスル訴ハ親權ヲ行フ者カ普通裁判籍ヲ有スル地ノ地方裁判所ノ管轄ニ專屬ス
第三十二條 失權ノ取消ヲ目的トスル訴ニ付テハ現ニ親權若クハ管理權ヲ行フ者又ハ後見人ヲ以テ相手方トス
第三十三條 推定家督相續人若クハ推定遺產相續人ノ廢除又ハ其廢除ノ取消ヲ目的トスル訴ハ被相續人カ普通裁判籍ヲ有スル地又ハ其死亡ノ時ニ之ヲ有シタル地ノ地方裁判所ノ管轄ニ專屬ス
第三十四條 廢除ノ取消ヲ目的トスル訴ニ付テハ廢除ニ因リテ推定家督相續人又ハ推定遺產相續人ト爲リタル者ヲ以テ相手方トス
第三十五條 隱居ノ無效又ハ取消ヲ目的トスル訴ハ隱居者カ普通裁判籍ヲ有スル地又ハ其死亡ノ時ニ之ヲ有シタル地ノ地方裁判所ノ管轄ニ專屬ス
第三十六條 隱居者カ提起スル隱居ノ無效又ハ取消ノ訴ニ於テハ家督相續人ヲ以テ相手方トス
家督相續人カ提起スル前項ノ訴ニ於テハ隱居者ヲ以テ相手方トス
隱居者及ヒ家督相續人ニ非サル者カ提起スル第一項ノ訴ニ於テハ隱居者及ヒ家督相續人ヲ以テ相手方トシ其一人カ死亡シタル後ハ其生存者ヲ以テ相手方トス
第三十七條 檢事ハ本章ニ揭ケタル訴ニ付キ事實及ヒ證據方法ヲ提出スルコトヲ得
裁判所ハ職權ヲ以テ證據調ヲ爲シ且當事者カ提出セサル事實ヲ斟酌スルコトヲ得但其事實及ヒ證據調ノ結果ニ付キ當事者ヲ訊問スヘシ
第三十八條 本章ニ揭ケタル訴ニ付キ原吿ノ申立ニ相當スル言渡ヲ爲シタル判決ハ職權ヲ以テ之ヲ當事者ニ送達スヘシ
第三十九條 第一條第二項、第三項、第三條、第五條、第七條第二項、第十條乃至第十二條及ヒ第十六條乃至第十八條ノ規定ハ本章ニ揭ケタル訴ニ之ヲ準用ス
第七條第一項、第八條及ヒ第九條ノ規定ハ第三十一條、第三十三條及ヒ第三十五條ニ揭ケタル訴、子ノ認知ノ無效ノ訴及ヒ其取消ノ訴ニ之ヲ準用ス
第二十一條乃至第二十三條ノ規定ハ親權又ハ財產管理權ノ喪失ヲ目的トスル訴及ヒ隱居ノ取消ノ訴ニ之ヲ準用ス
第二條第三項乃至第五項ノ規定ハ第三十條第二項、第三項、第三十四條及ヒ第三十六條ノ場合ニ之ヲ準用ス
第三章 禁治產及ヒ準禁治產ニ關スル手續
第四十條 禁治產ノ申立ハ禁治產ノ宣吿ヲ受クヘキ者カ普通裁判籍ヲ有スル地ノ區裁判所ノ管轄ニ專屬ス
第一條第二項ノ規定ハ前項ノ裁判籍ニ之ヲ準用ス
第四十一條 妻カ夫ノ禁治產ノ申立ヲ爲スニハ夫ノ許可ヲ受クルコトヲ要セス
第四十二條 申立ハ書面又ハ口頭ヲ以テ之ヲ爲スコトヲ得
申立ニハ其原因タル事實及ヒ證據方法ヲ表示スヘシ
第四十三條 裁判所ハ禁治產ノ手續ノ開始前診斷書ノ提出ヲ命スルコトヲ得
第四十四條 禁治產ノ手續ハ之ヲ公行セス
第四十五條 檢事ハ他ノ者カ禁治產ノ申立ヲ爲シタル場合ニ於テモ申立ヲ爲シテ其手續ヲ追行シ且期日ニ立會ヒテ意見ヲ述フルコトヲ得
事件及ヒ期日ハ檢事ニ之ヲ通知シ檢事カ立會ヒタル場合ニ於テハ其氏名及ヒ申立ヲ調書ニ記載スヘシ
第四十六條 裁判所ハ申立ニ表示シタル事實及ヒ證據方法ヲ斟酌シ職權ヲ以テ心神ノ狀況ニ關スル探知及ヒ必要ト認ムル證據調ヲ爲スヘシ
民事訴訟法第二編第一章第六節及ヒ第七節ノ規定ハ證人及ヒ鑑定人ノ訊問ニ之ヲ準用ス
第四十七條 裁判所ハ鑑定人ノ立會ヲ以テ禁治產ノ宣吿ヲ受クヘキ者ヲ訊問スヘシ但其訊問ヲ爲シ難キトキ又ハ其者ノ健康ニ害アルトキハ此限ニ在ラス
前項ノ訊問ハ受託判事ヲシテ之ヲ爲サシムルコトヲ得
第四十八條 禁治產ノ宣吿ハ心神ノ狀況ニ付キ鑑定人ヲ訊問シタル後ニ非サレハ之ヲ爲スコトヲ得ス
第四十九條 禁治產ノ申立ニ關スル手續ノ費用ノ禁治產ノ宣吿アリタル場合ニ於テハ禁治產者ノ負擔トス
前項ノ場合ヲ除ク外手續ノ費用ハ申立人ノ負擔トス但檢事カ申立ヲ爲シタル場合ニ於テハ國庫ノ負擔トス
第五十條 裁判所ハ禁治產ノ宣吿ヲ爲スニ至ルマテ其宣吿ヲ受クヘキ者ノ監護又ハ其財產ノ保存ニ付キ必要ナル處分ヲ命スルコトヲ得禁治產ノ宣吿ヲ爲シタル後其處分ヲ必要ト認ムルトキ亦同シ
第五十一條 禁治產ノ申立ヲ却下シタル決定ハ職權ヲ以テ之ヲ申立人及ヒ檢事ニ送達スヘシ
禁治產ヲ宣吿シタル決定ハ職權ヲ以テ申立人、檢事及ヒ禁治產者ノ法定代理人又ハ法律ニ依リ後見人ト爲ルヘキ者ニ之ヲ送達スヘシ
第五十二條 禁治產ヲ宣吿シタル決定ハ禁治產者ノ法定代理人又ハ法律ニ依リ後見人ト爲ルヘキ者カ其送達ヲ受ケタル日ヨリ效力ヲ生ス
法定代理人又ハ法律ニ依リ後見人ト爲ルヘキ者ナキ場合ニ於テハ檢事カ送達ヲ受ケタル日ヨリ效力ヲ生ス
第五十三條 裁判所ハ禁治產ヲ宣吿シタル決定ヲ送達シタルトキハ直チニ之ヲ公吿スヘシ
第五十四條 申立人及ヒ檢事ハ禁治產ノ申立ヲ却下シタル決定ニ對シテ卽時抗吿ヲ爲スコトヲ得
第四十三條乃至第四十六條ノ規定ハ抗吿裁判所ノ手續ニ之ヲ準用ス
第五十五條 民法ノ規定ニ依リテ禁治產ノ申立ヲ爲スコトヲ得ル者ハ其宣吿ニ對シ一个月內ニ訴ヲ以テ不服ヲ申立ツルコトヲ得
前項ノ期間ハ禁治產者ニ對シテハ禁治產ノ宣吿ヲ知リタル日ヨリ之ヲ起算シ其他ノ者ニ對シテハ決定カ效力ヲ生シタル日ヨリ之ヲ起算ス
第五十六條 前條第一項ノ訴ハ禁治產ノ宣吿ヲ爲シタル區裁判所ノ所在地ヲ管轄スル地方裁判所ノ管轄ニ專屬ス
第五十七條 第五十五條第一項ノ訴ニ於テハ禁治產ノ申立人ヲ以テ相手方トス
禁治產ノ申立人カ死亡シタル後ハ檢事ヲ以テ相手方トシ檢事カ提起スル前項ノ訴ニ於テハ禁治產者ノ法定代理人ヲ以テ相手方トス
第五十八條 第五十五條第一項ノ訴ニハ他ノ訴ヲ併合シ又ハ之ニ對シテ反訴ヲ提起スルコトヲ得ス
第五十九條 第二條第四項、第五項、第三條、第五條、第十條、第十一條、第十七條、第四十七條及ヒ第四十八條ノ規定ハ第五十五條第一項ノ訴ニ之ヲ準用ス
第六十條 裁判所カ第五十五條第一項ノ訴ヲ理由アリト認ムルトキハ禁治產ヲ宣吿シタル決定ヲ取消スヘシ此場合ニ於テハ判決ノ確定ニ至ルマテ禁治產者ノ監護又ハ其財產ノ保存ニ付キ必要ナル處分ヲ命スルコトヲ得
第六十一條 禁治產ノ宣吿ノ取消前ニ於テ後見人カ爲シタル行爲ハ其效力ヲ變セス
禁治產ノ宣吿ノ取消前ニ於テ禁治產者カ爲シタル行爲ハ禁治產ヲ宣吿シタル決定ニ基キテ之ヲ取消スコトヲ得ス
第六十二條 禁治產ノ宣吿ヲ取消シタル判決ハ職權ヲ以テ之ヲ當事者ニ送達スヘシ
前項ノ判決カ確定シタルトキハ第一審ノ受訴裁判所ハ之ヲ公吿スヘシ
第六十三條 禁治產ノ原因止ミタルコトヲ理由トシテ其宣吿ノ取消ヲ求ムル申立ハ禁治產者カ普通裁判籍ヲ有スル地ノ區裁判所ノ管轄ニ專屬ス
第一條第二項及ヒ第四十二條乃至第四十八條ノ規定ハ前項ノ場合ニ之ヲ準用ス
第六十四條 前條第一項ノ申立ニ關スル手續ノ費用ハ禁治產ノ宣吿ノ取消アリタル場合ニ於テハ禁治產者ノ負擔トス
前項ノ場合ヲ除ク外手續ノ費用ハ申立人ノ負擔トス但檢事カ申立ヲ爲シタル場合ニ於テハ國庫ノ負擔トス
第六十五條 禁治產ノ取消ノ申立ヲ却下シタル決定ハ職權ヲ以テ之ヲ申立人ニ送達スヘシ
禁治產ヲ取消シタル決定ハ職權ヲ以テ之ヲ申立人、檢事及ヒ禁治產者ニ送達スヘシ第六十二條第二項ノ規定ハ此決定ニ之ヲ準用ス
檢事ハ前項ノ決定ニ對シテ卽時抗吿ヲ爲スコトヲ得此抗吿ハ執行停止ノ效力ヲ有ス
第六十六條 禁治產ノ取消ヲ申立ツルコトヲ得ル者ハ其申立ヲ却下シタル決定ニ對シ訴ヲ以テ不服ヲ申立ツルコトヲ得
第五十六條乃至第六十條、第六十一條第一項及ヒ第六十二條ノ規定ハ前項ノ訴ニ之ヲ準用ス
第六十七條 準禁治產ニ關スル手續ニハ本章ノ規定ヲ準用ス
第四十三條、第四十七條及ヒ第四十八條ノ規定ハ浪費者ニ之ヲ適用セス
第三條第二項乃至第四項ノ規定ハ準禁治產者ニ之ヲ適用セス
第六十八條 準禁治產ノ取消ヲ申立ツルコトヲ得ル者ハ民法第十二條第二項ノ規定ニ依リテ爲シタル宣吿ノ取消又ハ變更ヲ申立ツルコトヲ得此場合ニ於テハ準禁治產ノ取消ニ關スル規定ヲ準用ス
第六十九條 本章ノ規定ニ依リテ爲スヘキ公吿ノ方法ハ司法大臣之ヲ定ム
第四章 失踪ニ關スル手續
第七十條 失踪ノ宣吿及ヒ其宣吿ノ取消ニハ以下數條ニ定メタルモノノ外民事訴訟法第七百六十五條乃至第七百七十五條ノ規定ヲ準用ス
第七十一條 失踪ノ宣吿又ハ其取消ノ申立ハ不在者ノ住所地ノ區裁判所ノ管轄ニ專屬ス
第一條第二項及ヒ第三項ノ規定ハ前項ノ場合ニ之ヲ準用ス
第七十二條 公示催吿ニハ左ノ事項ヲ記載スヘシ
一 不在者ハ公示催吿期日マテニ其生存ノ屆出ヲ爲スヘク其屆出ヲ爲ササルトキハ失踪ノ宣吿ヲ受クヘキコト
二 不在者ノ生死ヲ知ル者ハ公示催吿期日マテニ其屆出ヲ爲スヘキコト公示催吿期間ハ六个月以上ナルコトヲ要ス
第七十三條 不在者ノ出生後百年以上ヲ經過シタル場合ニ於テハ公示催吿ノ公吿ハ裁判所ノ揭示板ニ揭示スルヲ以テ足ル
前項ノ場合ニ於テハ公示催吿期間ハ其公吿ノ日ヨリ二个月以上ナルヲ以テ足ル
第七十四條 檢事ハ失踪ノ宣吿又ハ其取消ノ申立ニ付キ意見ヲ述ヘ且審問ヲ爲ス場合ニ於テハ之ニ立會フコトヲ得
第四十二條第二項、第四十五條第二項及ヒ第四十六條ノ規定ハ本章ノ手續ニ之ヲ準用ス
第七十五條 各利害關係人ハ共同ノ申立人トシテ手續ニ加ハリ又ハ申立人ニ代ハリテ手續ヲ續行スルコトヲ得
第七十六條 不在者カ其生存ノ屆出ヲ爲シタル場合ニ於テ申立人カ其事實ヲ認メサルトキハ判決ノ確定ニ至ルマテ公示催吿手續ヲ中止スヘシ
第七十七條 失踪ノ宣吿ニ關スル手續ノ費用ハ失踪ノ宣吿アリタル場合ニ於テハ相續財產ノ負擔トシ其他ノ場合ニ於テハ申立人ノ負擔トス
第七十八條 失踪ノ宣吿ノ判決ニ對シテ不服ヲ申立ツル訴ハ利害關係人ヨリ之ヲ提起スルコトヲ得
前項ノ訴ニ付テハ失踪ノ宣吿ノ申立人カ死亡シタル後ハ檢事ヲ以テ相手方トス此場合ニ於テハ第二條第四項及ヒ第五項ノ規定ヲ準用ス
第七十九條 數個ノ不服申立ノ訴アルトキハ裁判所ハ之ヲ併合スヘシ此場合ニ於テハ民事訴訟法第五十條ノ規定ヲ適用ス
第八十條 民法第三十二條ニ依ル失踪ノ宣吿ノ取消ハ其判決ニ對スル不服申立ノ訴ヲ以テ之ヲ請求スルコトヲ得但失踪者ノ生存スルコトヲ理由トスル場合ニ於テハ民事訴訟法第七百七十五條ノ規定ヲ適用セス
附 則
第八十一條 本法ハ民法施行ノ日ヨリ之ヲ施行ス
第八十二條 明治二十三年法律第百四號其他從前ノ法令ニシテ本法ノ規定ニ牴觸シ又ハ重複スルモノハ本法施行ノ日ヨリ之ヲ廢止ス
第八十三條 本法施行前ニ提起シタル訴ニシテ其判決確定セサルモノニハ本法ノ規定ヲ適用ス
朕帝国議会ノ協賛ヲ経タル人事訴訟手続法ヲ裁可シ茲ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
明治三十一年六月十五日
内閣総理大臣 侯爵 伊藤博文
司法大臣 曽祢荒助
法律第十三号
人事訴訟手続法
第一章
婚姻事件及ヒ養子縁組事件ニ関スル手続
第二章
親子関係事件、相続人廃除事件及ヒ隠居事件ニ関スル手続
第三章
禁治産及ヒ準禁治産ニ関スル手続
第四章
失踪ニ関スル手続
附則
人事訴訟手続法
第一章 婚姻事件及ヒ養子縁組事件ニ関スル手続
第一条 婚姻ノ無効若クハ取消、離婚又ハ夫婦ノ同居ヲ目的トスル訴ハ夫カ普通裁判籍ヲ有スル地又ハ其死亡ノ時ニ之ヲ有シタル地ノ地方裁判所ノ管轄ニ専属ス但縁組事件ニ附帯シテ婚姻ノ取消又ハ離婚ノ請求ヲ為ス場合ハ此限ニ在ラス
前項ノ普通裁判籍ハ日本ニ住所ナキトキ又ハ日本ノ住所ノ知レサルトキハ居所ニ依リ居所ナキトキ又ハ居所ノ知レサルトキハ最後ノ住所ニ依リテ定マル
最後ノ住所ナキトキ又ハ其住所ノ知レサルトキハ司法省令ヲ以テ指定シタル地ヲ住所地トス
第二条 夫婦ノ一方カ提起スル婚姻ノ無効又ハ取消ノ訴ニ於テハ其配偶者ヲ以テ相手方トス
第三者カ提起スル前項ノ訴ニ於テハ夫婦ヲ以テ相手方トシ夫婦ノ一方カ死亡シタル後ハ其生存者ヲ以テ相手方トス
前二項ノ規定ニ依リテ相手方トスヘキ者カ死亡シタル後ハ検事ヲ以テ相手方トス
検事カ当事者ト為リタル後相手方カ死亡シタルトキハ本案ノ訴訟手続受継ノ為メ裁判所ハ弁護士ヲ承継人トシテ選定スルコトヲ要ス
前項ノ場合ニ於テハ裁判所ハ弁護士ニ報酬ヲ与ヘシムルコトヲ得其額ハ裁判所ノ意見ヲ以テ之ヲ定ムヘシ
第三条 無能力者カ婚姻ノ無効若クハ取消、離婚又ハ同居ニ関スル訴訟行為ヲ為スニハ其法定代理人、保佐人又ハ夫ノ同意ヲ得ルコトヲ要セス
無能力者カ前項ノ訴訟行為ヲ為サントスルトキハ受訴裁判所ノ裁判長ハ申立ニ因リ弁護士ヲ訴訟代理人ニ選任スルコトヲ要ス
無能力者カ前項ノ申立ヲ為ササルトキト雖モ受訴裁判所ノ裁判長ハ弁護士ヲ訴訟代理人ニ選任スヘキ旨ヲ命シ又ハ職権ヲ以テ其選任ヲ為スコトヲ得
前条第五項ノ規定ハ受訴裁判所ノ裁判長カ弁護士ヲ訴訟代理人ニ選任シタル場合ニ之ヲ準用ス
第四条 夫婦ノ一方カ禁治産者ナルトキハ其後見人ハ親族会ノ同意ヲ得テ離婚ノ訴ヲ提起スルコトヲ得
禁治産者ノ配偶者カ其後見人ナルトキハ後見監督人ハ親族会ノ同意ヲ得テ前項ノ訴ヲ提起スルコトヲ得
第五条 婚姻事件ニ付テハ検事ハ弁論ニ立会ヒテ意見ヲ述フルコトヲ要ス
検事ハ受命判事又ハ受託判事ノ審問ニ立会ヒテ意見ヲ述フルコトヲ得
事件及ヒ期日ハ検事ニ之ヲ通知シ検事カ立会ヒタル場合ニ於テハ其氏名及ヒ申立ヲ調書ニ記載スヘシ
第六条 検事ハ当事者ト為ラサルトキト雖モ婚姻ヲ維持スル為メ事実及ヒ証拠方法ヲ提出スルコトヲ得
第七条 婚姻ノ無効ノ訴、其取消ノ訴、離婚ノ訴及ヒ同居ノ訴ハ之ヲ併合シ又ハ反訴トシテ之ヲ提起スルコトヲ得
他ノ訴ハ之ヲ前項ノ訴ニ併合シ又ハ其反訴トシテ提起スルコトヲ得ス但扶養ノ請求、訴ノ原因タル事実ニ因リテ生シタル損害賠償ノ請求及ヒ民法ノ規定ニ依リ婚姻事件ニ附帯シテ為スコトヲ得ル縁組ノ取消又ハ離縁ノ請求ハ此限ニ在ラス
第八条 婚姻事件ニ付テハ第一審又ハ控訴審ニ於ケル弁論ノ終結ニ至ルマテ訴若クハ其事由ヲ変更シ、之ヲ併合シ又ハ反訴ヲ提起スルコトヲ得
第九条 婚姻ノ無効若クハ取消又ハ離婚ノ訴ニ付キ棄却ノ言渡ヲ受ケタル原告ハ訴若クハ其事由ノ変更又ハ併合ニ依リ主張スルコトヲ得ヘカリシ事実ニ基キテ独立ノ訴ヲ提起スルコトヲ得ス
被告ハ反訴ノ事由トシテ主張スルコトヲ得ヘカリシ事実ニ基キテ独立ノ訴ヲ提起スルコトヲ得ス
第十条 民事訴訟法第百十一条第二項、第三項及ヒ第三百三十五条乃至第三百四十一条ノ規定ハ婚姻事件ニ之ヲ適用セス同法第二百二十九条中請求ノ認諾ニ関スル規定亦同シ
裁判上ノ自白ニ関スル法則ハ婚姻事件ニ之ヲ適用セス
民事訴訟法第二百十条ノ規定ハ婚姻事件ノ控訴審ニ之ヲ適用セス
第十一条 婚姻事件ノ被告カ第一審ニ於ケル最初ノ弁論ノ期日ニ出頭セサルトキハ更ニ其期日ヲ定ムルコトヲ要ス但被告カ公示送達ニ依リテ呼出ヲ受ケタル場合ハ此限ニ在ラス
前項ノ場合ヲ除ク外被告カ期日ニ出頭セサルトキト雖モ弁論ヲ命シ且判決ヲ為スコトヲ得此場合ニ於テハ民事訴訟法第二百四十八条及ヒ第四百二十九条ノ規定ヲ適用セス
前二項ノ規定ハ反訴ノ被告ニ之ヲ適用ス
第十二条 裁判所ハ婚姻事件ニ付キ当事者ニ自身出頭ヲ命シ当事者又ハ検事カ提出シタル事実ニ付キ訊問ヲ為スコトヲ得
当事者カ出頭スルコト能ハサルトキ又ハ遠隔ノ地ニ在ルトキハ受命判事又ハ受託判事ヲシテ訊問ヲ為サシムルコトヲ得
出頭セサル当事者ニハ出頭セサル証人ニ関スル民事訴訟法ノ規定ヲ準用ス
第十三条 和諧ノ調フヘキ見込アルトキハ裁判所ハ職権ヲ以テ一回ニ限リ一年ヲ超エサル期間離婚ノ訴ニ関スル手続ヲ中止スルコトヲ得
第十四条 裁判所ハ婚姻ヲ維持スル為メ職権ヲ以テ証拠調ヲ為シ且当事者カ提出セサル事実ヲ斟酌スルコトヲ得但其事実及ヒ証拠調ノ結果ニ付キ当事者ヲ訊問スヘシ
第十五条 婚姻ノ無効若クハ取消又ハ離婚ヲ言渡シタル判決ハ職権ヲ以テ之ヲ当事者ニ送達スヘシ
第十六条 扶養若クハ同居ノ義務、子ノ監護其他ノ仮処分ニ付テハ民事訴訟法第七百五十六条乃至第七百六十三条ノ規定ヲ準用ス
第十七条 検事カ敗訴シタル場合ニ於テハ訴訟費用ハ国庫ノ負担トス
第十八条 婚姻ノ無効若クハ取消又ハ離婚ノ訴ニ付キ言渡シタル判決ハ第三者ニ対シテモ其効力ヲ有ス
民法第七百六十六条ノ規定ニ違反シタルコトヲ理由トシテ婚姻ノ取消ヲ請求シタル場合ニ於テ其訴ヲ棄却シタル判決ハ当事者ノ前配偶者ニ対シテハ其者カ訴訟ニ参加シタルトキニ限リ其効力ヲ有ス
第十九条 検事カ提起スルコトヲ得ル婚姻事件ノ訴ニ限リ後四条ノ規定ヲ適用ス
第二十条 検事カ訴ヲ提起スルトキハ夫婦ヲ以テ相手方トス
第二十一条 訴ノ変更若クハ併合又ハ反訴ノ提起ハ検事カ提起スルコトヲ得ル訴ナルトキニ限リ之ヲ為スコトヲ得
訴ノ事由ノ変更又ハ併合ハ検事カ提出スルコトヲ得ル事由ナルトキニ限リ之ヲ為スコトヲ得
第二十二条 検事ハ他ノ者カ訴ヲ提起シタル場合ニ於テモ申立ヲ為シテ訴訟手続ヲ追行シ又ハ上訴ヲ為スコトヲ得但夫婦ノ一方カ死亡シタル後ハ此限ニ在ラス
第二十三条 検事カ上訴ヲ為ストキハ前審ノ当事者ノ全員ヲ以テ相手方トス
当事者ノ一人カ上訴ヲ為ストキハ前審ノ他ノ当事者及ヒ当事者タリシ検事ヲ以テ相手方トス
第二十四条 養子縁組ノ無効若クハ取消又ハ離縁ヲ目的トスル訴ハ養親カ普通裁判籍ヲ有スル地又ハ其死亡ノ時ニ之ヲ有シタル地ノ地方裁判所ノ管轄ニ専属ス但婚姻事件ニ附帯シテ縁組ノ取消又ハ離縁ノ請求ヲ為ス場合ハ此限ニ在ラス
第二十五条 養親カ禁治産者ナルトキハ第四条第一項ノ規定ヲ準用ス
養子カ禁治産者ナルトキハ実方ノ直系尊属又ハ実家ノ戸主ハ離縁ノ訴ヲ提起スルコトヲ得
第二十六条 第一条第二項、第三項、第二条、第三条及ヒ第五条乃至第十八条ノ規定ハ養子縁組事件ニ之ヲ準用ス
第二章 親子関係事件、相続人廃除事件及ヒ隠居事件ニ関スル手続
第二十七条 子ノ否認、認知、其認知ノ無効若クハ取消又ハ民法第八百二十一条ノ規定ニ依リ父ヲ定ムルコトヲ目的トスル訴ハ子カ普通裁判籍ヲ有スル地又ハ其死亡ノ時ニ之ヲ有シタル地ノ地方裁判所ノ管轄ニ専属ス
第二十八条 夫カ禁治産者ナルトキハ其後見人ハ親族会ノ同意ヲ得テ否認ノ訴ヲ提起スルコトヲ得
第二十九条 夫カ子ノ出生前又ハ否認ノ訴ヲ提起セスシテ民法第八百二十五条ノ期間内ニ死亡シタルトキハ其子ノ為メニ相続権ヲ害セラルヘキ者其他夫ノ三親等内ノ血族ニ限リ否認ノ訴ヲ提起スルコトヲ得
前項ノ場合ニ於テハ否認ノ訴ハ夫ノ死亡ノ日ヨリ一年内ニ之ヲ提起スルコトヲ要ス
夫カ否認ノ訴ヲ提起シタル後死亡シタルトキハ第一項ニ掲ケタル者ニ於テ訴訟手続ヲ受継クコトヲ得
第三十条 父ヲ定ムルコトヲ目的トスル訴ハ子、母、母ノ配偶者又ハ其前配偶者ヨリ之ヲ提起スルコトヲ得
母ノ配偶者及ヒ其前配偶者ハ互ニ其相手方ト為ル
子又ハ母カ提起スル第一項ノ訴ニ於テハ母ノ配偶者及ヒ其前配偶者ヲ以テ相手方トシ其一人カ死亡シタル後ハ其生存者ヲ以テ相手方トス
第三十一条 親権若クハ財産管理権ノ喪失又ハ失権ノ取消ヲ目的トスル訴ハ親権ヲ行フ者カ普通裁判籍ヲ有スル地ノ地方裁判所ノ管轄ニ専属ス
第三十二条 失権ノ取消ヲ目的トスル訴ニ付テハ現ニ親権若クハ管理権ヲ行フ者又ハ後見人ヲ以テ相手方トス
第三十三条 推定家督相続人若クハ推定遺産相続人ノ廃除又ハ其廃除ノ取消ヲ目的トスル訴ハ被相続人カ普通裁判籍ヲ有スル地又ハ其死亡ノ時ニ之ヲ有シタル地ノ地方裁判所ノ管轄ニ専属ス
第三十四条 廃除ノ取消ヲ目的トスル訴ニ付テハ廃除ニ因リテ推定家督相続人又ハ推定遺産相続人ト為リタル者ヲ以テ相手方トス
第三十五条 隠居ノ無効又ハ取消ヲ目的トスル訴ハ隠居者カ普通裁判籍ヲ有スル地又ハ其死亡ノ時ニ之ヲ有シタル地ノ地方裁判所ノ管轄ニ専属ス
第三十六条 隠居者カ提起スル隠居ノ無効又ハ取消ノ訴ニ於テハ家督相続人ヲ以テ相手方トス
家督相続人カ提起スル前項ノ訴ニ於テハ隠居者ヲ以テ相手方トス
隠居者及ヒ家督相続人ニ非サル者カ提起スル第一項ノ訴ニ於テハ隠居者及ヒ家督相続人ヲ以テ相手方トシ其一人カ死亡シタル後ハ其生存者ヲ以テ相手方トス
第三十七条 検事ハ本章ニ掲ケタル訴ニ付キ事実及ヒ証拠方法ヲ提出スルコトヲ得
裁判所ハ職権ヲ以テ証拠調ヲ為シ且当事者カ提出セサル事実ヲ斟酌スルコトヲ得但其事実及ヒ証拠調ノ結果ニ付キ当事者ヲ訊問スヘシ
第三十八条 本章ニ掲ケタル訴ニ付キ原告ノ申立ニ相当スル言渡ヲ為シタル判決ハ職権ヲ以テ之ヲ当事者ニ送達スヘシ
第三十九条 第一条第二項、第三項、第三条、第五条、第七条第二項、第十条乃至第十二条及ヒ第十六条乃至第十八条ノ規定ハ本章ニ掲ケタル訴ニ之ヲ準用ス
第七条第一項、第八条及ヒ第九条ノ規定ハ第三十一条、第三十三条及ヒ第三十五条ニ掲ケタル訴、子ノ認知ノ無効ノ訴及ヒ其取消ノ訴ニ之ヲ準用ス
第二十一条乃至第二十三条ノ規定ハ親権又ハ財産管理権ノ喪失ヲ目的トスル訴及ヒ隠居ノ取消ノ訴ニ之ヲ準用ス
第二条第三項乃至第五項ノ規定ハ第三十条第二項、第三項、第三十四条及ヒ第三十六条ノ場合ニ之ヲ準用ス
第三章 禁治産及ヒ準禁治産ニ関スル手続
第四十条 禁治産ノ申立ハ禁治産ノ宣告ヲ受クヘキ者カ普通裁判籍ヲ有スル地ノ区裁判所ノ管轄ニ専属ス
第一条第二項ノ規定ハ前項ノ裁判籍ニ之ヲ準用ス
第四十一条 妻カ夫ノ禁治産ノ申立ヲ為スニハ夫ノ許可ヲ受クルコトヲ要セス
第四十二条 申立ハ書面又ハ口頭ヲ以テ之ヲ為スコトヲ得
申立ニハ其原因タル事実及ヒ証拠方法ヲ表示スヘシ
第四十三条 裁判所ハ禁治産ノ手続ノ開始前診断書ノ提出ヲ命スルコトヲ得
第四十四条 禁治産ノ手続ハ之ヲ公行セス
第四十五条 検事ハ他ノ者カ禁治産ノ申立ヲ為シタル場合ニ於テモ申立ヲ為シテ其手続ヲ追行シ且期日ニ立会ヒテ意見ヲ述フルコトヲ得
事件及ヒ期日ハ検事ニ之ヲ通知シ検事カ立会ヒタル場合ニ於テハ其氏名及ヒ申立ヲ調書ニ記載スヘシ
第四十六条 裁判所ハ申立ニ表示シタル事実及ヒ証拠方法ヲ斟酌シ職権ヲ以テ心神ノ状況ニ関スル探知及ヒ必要ト認ムル証拠調ヲ為スヘシ
民事訴訟法第二編第一章第六節及ヒ第七節ノ規定ハ証人及ヒ鑑定人ノ訊問ニ之ヲ準用ス
第四十七条 裁判所ハ鑑定人ノ立会ヲ以テ禁治産ノ宣告ヲ受クヘキ者ヲ訊問スヘシ但其訊問ヲ為シ難キトキ又ハ其者ノ健康ニ害アルトキハ此限ニ在ラス
前項ノ訊問ハ受託判事ヲシテ之ヲ為サシムルコトヲ得
第四十八条 禁治産ノ宣告ハ心神ノ状況ニ付キ鑑定人ヲ訊問シタル後ニ非サレハ之ヲ為スコトヲ得ス
第四十九条 禁治産ノ申立ニ関スル手続ノ費用ノ禁治産ノ宣告アリタル場合ニ於テハ禁治産者ノ負担トス
前項ノ場合ヲ除ク外手続ノ費用ハ申立人ノ負担トス但検事カ申立ヲ為シタル場合ニ於テハ国庫ノ負担トス
第五十条 裁判所ハ禁治産ノ宣告ヲ為スニ至ルマテ其宣告ヲ受クヘキ者ノ監護又ハ其財産ノ保存ニ付キ必要ナル処分ヲ命スルコトヲ得禁治産ノ宣告ヲ為シタル後其処分ヲ必要ト認ムルトキ亦同シ
第五十一条 禁治産ノ申立ヲ却下シタル決定ハ職権ヲ以テ之ヲ申立人及ヒ検事ニ送達スヘシ
禁治産ヲ宣告シタル決定ハ職権ヲ以テ申立人、検事及ヒ禁治産者ノ法定代理人又ハ法律ニ依リ後見人ト為ルヘキ者ニ之ヲ送達スヘシ
第五十二条 禁治産ヲ宣告シタル決定ハ禁治産者ノ法定代理人又ハ法律ニ依リ後見人ト為ルヘキ者カ其送達ヲ受ケタル日ヨリ効力ヲ生ス
法定代理人又ハ法律ニ依リ後見人ト為ルヘキ者ナキ場合ニ於テハ検事カ送達ヲ受ケタル日ヨリ効力ヲ生ス
第五十三条 裁判所ハ禁治産ヲ宣告シタル決定ヲ送達シタルトキハ直チニ之ヲ公告スヘシ
第五十四条 申立人及ヒ検事ハ禁治産ノ申立ヲ却下シタル決定ニ対シテ即時抗告ヲ為スコトヲ得
第四十三条乃至第四十六条ノ規定ハ抗告裁判所ノ手続ニ之ヲ準用ス
第五十五条 民法ノ規定ニ依リテ禁治産ノ申立ヲ為スコトヲ得ル者ハ其宣告ニ対シ一个月内ニ訴ヲ以テ不服ヲ申立ツルコトヲ得
前項ノ期間ハ禁治産者ニ対シテハ禁治産ノ宣告ヲ知リタル日ヨリ之ヲ起算シ其他ノ者ニ対シテハ決定カ効力ヲ生シタル日ヨリ之ヲ起算ス
第五十六条 前条第一項ノ訴ハ禁治産ノ宣告ヲ為シタル区裁判所ノ所在地ヲ管轄スル地方裁判所ノ管轄ニ専属ス
第五十七条 第五十五条第一項ノ訴ニ於テハ禁治産ノ申立人ヲ以テ相手方トス
禁治産ノ申立人カ死亡シタル後ハ検事ヲ以テ相手方トシ検事カ提起スル前項ノ訴ニ於テハ禁治産者ノ法定代理人ヲ以テ相手方トス
第五十八条 第五十五条第一項ノ訴ニハ他ノ訴ヲ併合シ又ハ之ニ対シテ反訴ヲ提起スルコトヲ得ス
第五十九条 第二条第四項、第五項、第三条、第五条、第十条、第十一条、第十七条、第四十七条及ヒ第四十八条ノ規定ハ第五十五条第一項ノ訴ニ之ヲ準用ス
第六十条 裁判所カ第五十五条第一項ノ訴ヲ理由アリト認ムルトキハ禁治産ヲ宣告シタル決定ヲ取消スヘシ此場合ニ於テハ判決ノ確定ニ至ルマテ禁治産者ノ監護又ハ其財産ノ保存ニ付キ必要ナル処分ヲ命スルコトヲ得
第六十一条 禁治産ノ宣告ノ取消前ニ於テ後見人カ為シタル行為ハ其効力ヲ変セス
禁治産ノ宣告ノ取消前ニ於テ禁治産者カ為シタル行為ハ禁治産ヲ宣告シタル決定ニ基キテ之ヲ取消スコトヲ得ス
第六十二条 禁治産ノ宣告ヲ取消シタル判決ハ職権ヲ以テ之ヲ当事者ニ送達スヘシ
前項ノ判決カ確定シタルトキハ第一審ノ受訴裁判所ハ之ヲ公告スヘシ
第六十三条 禁治産ノ原因止ミタルコトヲ理由トシテ其宣告ノ取消ヲ求ムル申立ハ禁治産者カ普通裁判籍ヲ有スル地ノ区裁判所ノ管轄ニ専属ス
第一条第二項及ヒ第四十二条乃至第四十八条ノ規定ハ前項ノ場合ニ之ヲ準用ス
第六十四条 前条第一項ノ申立ニ関スル手続ノ費用ハ禁治産ノ宣告ノ取消アリタル場合ニ於テハ禁治産者ノ負担トス
前項ノ場合ヲ除ク外手続ノ費用ハ申立人ノ負担トス但検事カ申立ヲ為シタル場合ニ於テハ国庫ノ負担トス
第六十五条 禁治産ノ取消ノ申立ヲ却下シタル決定ハ職権ヲ以テ之ヲ申立人ニ送達スヘシ
禁治産ヲ取消シタル決定ハ職権ヲ以テ之ヲ申立人、検事及ヒ禁治産者ニ送達スヘシ第六十二条第二項ノ規定ハ此決定ニ之ヲ準用ス
検事ハ前項ノ決定ニ対シテ即時抗告ヲ為スコトヲ得此抗告ハ執行停止ノ効力ヲ有ス
第六十六条 禁治産ノ取消ヲ申立ツルコトヲ得ル者ハ其申立ヲ却下シタル決定ニ対シ訴ヲ以テ不服ヲ申立ツルコトヲ得
第五十六条乃至第六十条、第六十一条第一項及ヒ第六十二条ノ規定ハ前項ノ訴ニ之ヲ準用ス
第六十七条 準禁治産ニ関スル手続ニハ本章ノ規定ヲ準用ス
第四十三条、第四十七条及ヒ第四十八条ノ規定ハ浪費者ニ之ヲ適用セス
第三条第二項乃至第四項ノ規定ハ準禁治産者ニ之ヲ適用セス
第六十八条 準禁治産ノ取消ヲ申立ツルコトヲ得ル者ハ民法第十二条第二項ノ規定ニ依リテ為シタル宣告ノ取消又ハ変更ヲ申立ツルコトヲ得此場合ニ於テハ準禁治産ノ取消ニ関スル規定ヲ準用ス
第六十九条 本章ノ規定ニ依リテ為スヘキ公告ノ方法ハ司法大臣之ヲ定ム
第四章 失踪ニ関スル手続
第七十条 失踪ノ宣告及ヒ其宣告ノ取消ニハ以下数条ニ定メタルモノノ外民事訴訟法第七百六十五条乃至第七百七十五条ノ規定ヲ準用ス
第七十一条 失踪ノ宣告又ハ其取消ノ申立ハ不在者ノ住所地ノ区裁判所ノ管轄ニ専属ス
第一条第二項及ヒ第三項ノ規定ハ前項ノ場合ニ之ヲ準用ス
第七十二条 公示催告ニハ左ノ事項ヲ記載スヘシ
一 不在者ハ公示催告期日マテニ其生存ノ届出ヲ為スヘク其届出ヲ為ササルトキハ失踪ノ宣告ヲ受クヘキコト
二 不在者ノ生死ヲ知ル者ハ公示催告期日マテニ其届出ヲ為スヘキコト公示催告期間ハ六个月以上ナルコトヲ要ス
第七十三条 不在者ノ出生後百年以上ヲ経過シタル場合ニ於テハ公示催告ノ公告ハ裁判所ノ掲示板ニ掲示スルヲ以テ足ル
前項ノ場合ニ於テハ公示催告期間ハ其公告ノ日ヨリ二个月以上ナルヲ以テ足ル
第七十四条 検事ハ失踪ノ宣告又ハ其取消ノ申立ニ付キ意見ヲ述ヘ且審問ヲ為ス場合ニ於テハ之ニ立会フコトヲ得
第四十二条第二項、第四十五条第二項及ヒ第四十六条ノ規定ハ本章ノ手続ニ之ヲ準用ス
第七十五条 各利害関係人ハ共同ノ申立人トシテ手続ニ加ハリ又ハ申立人ニ代ハリテ手続ヲ続行スルコトヲ得
第七十六条 不在者カ其生存ノ届出ヲ為シタル場合ニ於テ申立人カ其事実ヲ認メサルトキハ判決ノ確定ニ至ルマテ公示催告手続ヲ中止スヘシ
第七十七条 失踪ノ宣告ニ関スル手続ノ費用ハ失踪ノ宣告アリタル場合ニ於テハ相続財産ノ負担トシ其他ノ場合ニ於テハ申立人ノ負担トス
第七十八条 失踪ノ宣告ノ判決ニ対シテ不服ヲ申立ツル訴ハ利害関係人ヨリ之ヲ提起スルコトヲ得
前項ノ訴ニ付テハ失踪ノ宣告ノ申立人カ死亡シタル後ハ検事ヲ以テ相手方トス此場合ニ於テハ第二条第四項及ヒ第五項ノ規定ヲ準用ス
第七十九条 数個ノ不服申立ノ訴アルトキハ裁判所ハ之ヲ併合スヘシ此場合ニ於テハ民事訴訟法第五十条ノ規定ヲ適用ス
第八十条 民法第三十二条ニ依ル失踪ノ宣告ノ取消ハ其判決ニ対スル不服申立ノ訴ヲ以テ之ヲ請求スルコトヲ得但失踪者ノ生存スルコトヲ理由トスル場合ニ於テハ民事訴訟法第七百七十五条ノ規定ヲ適用セス
附 則
第八十一条 本法ハ民法施行ノ日ヨリ之ヲ施行ス
第八十二条 明治二十三年法律第百四号其他従前ノ法令ニシテ本法ノ規定ニ牴触シ又ハ重複スルモノハ本法施行ノ日ヨリ之ヲ廃止ス
第八十三条 本法施行前ニ提起シタル訴ニシテ其判決確定セサルモノニハ本法ノ規定ヲ適用ス