朕海軍高等武官進級條例ノ改正ヲ裁可シ玆ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
明治二十九年二月十八日
海軍大臣 侯爵 西鄕從道
勅令第十號
海軍高等武官進級條例
第一條 海軍高等武官トハ海軍將校及其ノ相當官ヲ謂フ
第二條 海軍高等武官ノ進級ハ總テ拔擢ヲ以テシ級ヲ逐ヒ歷進セシム但缺員ナキトキハ官階ヲ進メス
第三條 海軍高等武官ハ實役停年最下期限ヲ超ユルニアラサレハ官階ヲ進ムルコトヲ得ス
第四條 實役停年最下期限ヲ定ムルコト左ノ如シ
一 少尉及其ノ相當官ヨリ各其ノ上級ノ官ニ進ムハ實役停年三年
二 大尉及其ノ相當官ヨリ各其ノ上級ノ官ニ進ムハ實役停年五年
三 少佐及其ノ相當官ヨリ各其ノ上級ノ官ニ進ムハ實役停年三年
四 大佐及其ノ相當官ヨリ各其ノ上級ノ官ニ進ムハ實役停年四年
五 少將ヨリ中將ニ進ムハ實役停年三年
第五條 中將ノ大將ニ進ムハ歷戰者或ハ遠征ニ從事シタル者ニ就キ特旨ヲ以テ親任スルヲ例トス
第六條 大尉及其ノ相當官ノ高等官七等ヨリ同六等ニ進ミ大佐及其ノ相當官ノ高等官四等ヨリ同三等ニ進ムハ總テ拔摺ヲ以テシ各其ノ實役停年最下期限ノ半ヲ過クルヲ要ス
第七條 實役停年中海上勤務ノ日數アルトキハ其ノ三分ノ一ニ當ル日數ヲ更ニ實役停年ニ加算ス
第八條 海上勤務トハ艦船ニ乘組ミ服務スルヲ謂フ其ノ艦船ノ種類ハ海軍大臣之ヲ定ム
第九條 海上勤務ノ者ニシテ公務ニ原因セサル傷痍疾病及自己ノ願ニ依リ陸上ニ在ル間ノ日數ハ海上勤務ニ算入スルコトヲ得ス
第十條 休職停職收禁處刑及正當ノ理由ナクシテ敵ノ捕虜トナリタル間ノ日數ハ實役停年ニ算入スルコトヲ得ス
第十一條 戰時ニ在テハ實役停年最下期限ヲ其ノ半ニ減スルコトヲ得
第十二條 將校及其ノ相當官ハ各其ノ職權ニ依テ部下ヲ拔擢スルノ權ヲ有ス但直屬長官アル者ハ其ノ監督ノ下ニ在テ之ヲ行フ
第十三條 將官ノ進級竝ニ大佐及其ノ相當官ノ各其ノ上級ノ官ニ進ムハ上裁ニ出ツト雖先ツ內旨ヲ海軍大臣ニ下スヲ例トス
第十四條 前條ノ場合ヲ除ク外海軍大臣ハ海軍高等武官ニシテ第四條及第六條ニ依リ進級資格ヲ備ヘタル者ニ就キ其ノ候補名簿ヲ徵シ之ヲ進級會議ノ調査ニ附シ海軍高等武官決定候補名簿ヲ作ルヘシ但戰時若クハ事變ニ際シテハ其ノ調査ニ附セサルコトヲ得
決定候補名簿ヲ作ルノ法ハ候補名簿中ヨリ進級セシムヘキ者ヲ選拔シ各其ノ順序ニ依リ列序ヲ定ム
進級會議ハ各司令長官將官會議議員軍醫總監及主計總監ヲ以テ組織ス但海軍大臣ハ必要ニ依リ他ノ職員ニ命シ臨時參與セシムルコトヲ得
第十五條 海軍大臣ハ海軍高等武官決定候補名簿ヲ奏上シ置キ敍任ヲ要スル每ニ其ノ順序ニ從ヒ敍任ノ事ヲ奏上スヘシ但休職停職中ノ者及敍任セシムヘカラサル事由ヲ生シタル者ニ就テハ之ヲ奏上スヘカラス
第十六條 海軍高等武官決定候補名簿ハ其ノ調製ノ時ヨリ次年決定候補名簿調製ノ時迄效力ヲ有ス但第十一條ニ依リ實役停年最下期限ヲ其ノ半ニ減シ決定候補名簿ヲ調製シタル後同條ノ規程ヲ適用セサルニ至リタルトキハ其ノ決定候補名簿調製ニ用ヒタル實役停年第四條ノ最下期限ニ達セサル者ハ該名簿ヨリ之ヲ削除ス
第十七條 准士官ハ士官ニ進級スルヲ得サルヲ例トスト雖志操確實士官タルニ堪ヘ且學術技藝拔群ノ者ハ臨時檢査ノ上士官ニ進級セシムルコトヲ得
第十八條 第二條乃至第十七條ノ規程ハ現役者ニノミ適用ス
第十九條 戰時若クハ事變ニ際シ現役海軍高等武官ニ缺員ヲ生シタル場合ニ於テ現役海軍高等武官ヨリ進級セシメ其ノ補充ヲナス能ハサルトキハ前諸條ニ準據シ召集中ノ豫備後備海軍高等武官ヲ進級セシムルコトヲ得
本條ノ場合ニ於テハ召集中ノ勤務日數ヲ現役中ノ勤務日數ニ通算ス
第二十條 戰時若クハ事變ニ際シ勳績アル者又ハ多年軍務ニ從事シ進級資格ヲ備ヘタル者ニシテ海軍將校分限令第六條第一項第二項第四項第五項及第七條第八條ニ依リ現役ヲ退キタルトキハ其ノ際特ニ進級セシムルコトヲ得但恩給ヲ受クル資格ニ在テハ前官等ニ依ル
第二十一條 豫備後備海軍高等武官ニシテ戰時若クハ事變ニ際シ召集中勳績アリタル者ニシテ召集ヲ解キタルトキハ其ノ際特ニ進級セシムルコトヲ得但恩給ヲ受クル資格ニ在テハ新官等ニ依ルコトヲ得ス
第二十二條 左ノ場合ニ在テハ定規ニ依ラス進級セシムルコトアルヘシ
一 敵前ニ在テ殊勳ヲ奏シ首將之ヲ全軍ニ布吿セシ者
二 戰時ニ在テ人員缺乏シ敍任ノ定規ヲ履ム能ハサルトキ
朕海軍高等武官進級条例ノ改正ヲ裁可シ茲ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
明治二十九年二月十八日
海軍大臣 侯爵 西郷従道
勅令第十号
海軍高等武官進級条例
第一条 海軍高等武官トハ海軍将校及其ノ相当官ヲ謂フ
第二条 海軍高等武官ノ進級ハ総テ抜擢ヲ以テシ級ヲ逐ヒ歴進セシム但欠員ナキトキハ官階ヲ進メス
第三条 海軍高等武官ハ実役停年最下期限ヲ超ユルニアラサレハ官階ヲ進ムルコトヲ得ス
第四条 実役停年最下期限ヲ定ムルコト左ノ如シ
一 少尉及其ノ相当官ヨリ各其ノ上級ノ官ニ進ムハ実役停年三年
二 大尉及其ノ相当官ヨリ各其ノ上級ノ官ニ進ムハ実役停年五年
三 少佐及其ノ相当官ヨリ各其ノ上級ノ官ニ進ムハ実役停年三年
四 大佐及其ノ相当官ヨリ各其ノ上級ノ官ニ進ムハ実役停年四年
五 少将ヨリ中将ニ進ムハ実役停年三年
第五条 中将ノ大将ニ進ムハ歴戦者或ハ遠征ニ従事シタル者ニ就キ特旨ヲ以テ親任スルヲ例トス
第六条 大尉及其ノ相当官ノ高等官七等ヨリ同六等ニ進ミ大佐及其ノ相当官ノ高等官四等ヨリ同三等ニ進ムハ総テ抜摺ヲ以テシ各其ノ実役停年最下期限ノ半ヲ過クルヲ要ス
第七条 実役停年中海上勤務ノ日数アルトキハ其ノ三分ノ一ニ当ル日数ヲ更ニ実役停年ニ加算ス
第八条 海上勤務トハ艦船ニ乗組ミ服務スルヲ謂フ其ノ艦船ノ種類ハ海軍大臣之ヲ定ム
第九条 海上勤務ノ者ニシテ公務ニ原因セサル傷痍疾病及自己ノ願ニ依リ陸上ニ在ル間ノ日数ハ海上勤務ニ算入スルコトヲ得ス
第十条 休職停職収禁処刑及正当ノ理由ナクシテ敵ノ捕虜トナリタル間ノ日数ハ実役停年ニ算入スルコトヲ得ス
第十一条 戦時ニ在テハ実役停年最下期限ヲ其ノ半ニ減スルコトヲ得
第十二条 将校及其ノ相当官ハ各其ノ職権ニ依テ部下ヲ抜擢スルノ権ヲ有ス但直属長官アル者ハ其ノ監督ノ下ニ在テ之ヲ行フ
第十三条 将官ノ進級並ニ大佐及其ノ相当官ノ各其ノ上級ノ官ニ進ムハ上裁ニ出ツト雖先ツ内旨ヲ海軍大臣ニ下スヲ例トス
第十四条 前条ノ場合ヲ除ク外海軍大臣ハ海軍高等武官ニシテ第四条及第六条ニ依リ進級資格ヲ備ヘタル者ニ就キ其ノ候補名簿ヲ徴シ之ヲ進級会議ノ調査ニ附シ海軍高等武官決定候補名簿ヲ作ルヘシ但戦時若クハ事変ニ際シテハ其ノ調査ニ附セサルコトヲ得
決定候補名簿ヲ作ルノ法ハ候補名簿中ヨリ進級セシムヘキ者ヲ選抜シ各其ノ順序ニ依リ列序ヲ定ム
進級会議ハ各司令長官将官会議議員軍医総監及主計総監ヲ以テ組織ス但海軍大臣ハ必要ニ依リ他ノ職員ニ命シ臨時参与セシムルコトヲ得
第十五条 海軍大臣ハ海軍高等武官決定候補名簿ヲ奏上シ置キ叙任ヲ要スル毎ニ其ノ順序ニ従ヒ叙任ノ事ヲ奏上スヘシ但休職停職中ノ者及叙任セシムヘカラサル事由ヲ生シタル者ニ就テハ之ヲ奏上スヘカラス
第十六条 海軍高等武官決定候補名簿ハ其ノ調製ノ時ヨリ次年決定候補名簿調製ノ時迄効力ヲ有ス但第十一条ニ依リ実役停年最下期限ヲ其ノ半ニ減シ決定候補名簿ヲ調製シタル後同条ノ規程ヲ適用セサルニ至リタルトキハ其ノ決定候補名簿調製ニ用ヒタル実役停年第四条ノ最下期限ニ達セサル者ハ該名簿ヨリ之ヲ削除ス
第十七条 准士官ハ士官ニ進級スルヲ得サルヲ例トスト雖志操確実士官タルニ堪ヘ且学術技芸抜群ノ者ハ臨時検査ノ上士官ニ進級セシムルコトヲ得
第十八条 第二条乃至第十七条ノ規程ハ現役者ニノミ適用ス
第十九条 戦時若クハ事変ニ際シ現役海軍高等武官ニ欠員ヲ生シタル場合ニ於テ現役海軍高等武官ヨリ進級セシメ其ノ補充ヲナス能ハサルトキハ前諸条ニ準拠シ召集中ノ予備後備海軍高等武官ヲ進級セシムルコトヲ得
本条ノ場合ニ於テハ召集中ノ勤務日数ヲ現役中ノ勤務日数ニ通算ス
第二十条 戦時若クハ事変ニ際シ勲績アル者又ハ多年軍務ニ従事シ進級資格ヲ備ヘタル者ニシテ海軍将校分限令第六条第一項第二項第四項第五項及第七条第八条ニ依リ現役ヲ退キタルトキハ其ノ際特ニ進級セシムルコトヲ得但恩給ヲ受クル資格ニ在テハ前官等ニ依ル
第二十一条 予備後備海軍高等武官ニシテ戦時若クハ事変ニ際シ召集中勲績アリタル者ニシテ召集ヲ解キタルトキハ其ノ際特ニ進級セシムルコトヲ得但恩給ヲ受クル資格ニ在テハ新官等ニ依ルコトヲ得ス
第二十二条 左ノ場合ニ在テハ定規ニ依ラス進級セシムルコトアルヘシ
一 敵前ニ在テ殊勲ヲ奏シ首将之ヲ全軍ニ布告セシ者
二 戦時ニ在テ人員欠乏シ叙任ノ定規ヲ履ム能ハサルトキ