建築物の耐震改修の促進に関する法律
法令番号: 法律第123号
公布年月日: 平成7年10月27日
法令の形式: 法律

改正対象法令

提案理由 (AIによる要約)

阪神・淡路大震災で多くの建築物被害と人命が失われ、特に昭和56年以前の現行耐震基準を満たさない建築物の被害が顕著だった。一方、それ以降の建築物の被害は軽微で、現行基準は妥当と判断された。このため、国民の生命・身体・財産保護のため、現行基準に適合しない既存建築物の耐震改修を全国的課題として早急に推進する必要がある。本法案は、多数利用建築物の所有者の耐震診断・改修の努力義務、建設大臣による指針策定、所管行政庁による指導等を定め、耐震改修計画の認定制度や建築基準法の特例適用、金融支援等の措置を講じようとするものである。

参照した発言:
第134回国会 衆議院 建設委員会 第2号

審議経過

第134回国会

衆議院
(平成7年10月19日)
(平成7年10月19日)
参議院
(平成7年10月19日)
(平成7年10月20日)
建築物の耐震改修の促進に関する法律をここに公布する。
御名御璽
平成七年十月二十七日
内閣総理大臣 村山富市
法律第百二十三号
建築物の耐震改修の促進に関する法律
目次
第一章
総則(第一条)
第二章
特定建築物に係る措置(第二条―第四条)
第三章
建築物の耐震改修の計画の認定(第五条―第十条)
第四章
雑則(第十一条―第十三条)
第五章
罰則(第十四条―第十六条)
附則
第一章 総則
(目的)
第一条 この法律は、地震による建築物の倒壊等の被害から国民の生命、身体及び財産を保護するため、建築物の耐震改修の促進のための措置を講ずることにより建築物の地震に対する安全性の向上を図り、もって公共の福祉の確保に資することを目的とする。
第二章 特定建築物に係る措置
(特定建築物の所有者の努力)
第二条 学校、体育館、病院、劇場、観覧場、集会場、展示場、百貨店、事務所その他多数の者が利用する建築物で政令で定めるものであって政令で定める規模以上のもののうち、地震に対する安全性に係る建築基準法(昭和二十五年法律第二百一号)又はこれに基づく命令若しくは条例の規定(第五条において「耐震関係規定」という。)に適合しない建築物で同法第三条第二項の規定の適用を受けているもの(以下この章において「特定建築物」という。)の所有者は、当該特定建築物について耐震診断(地震に対する安全性を評価することをいう。以下同じ。)を行い、必要に応じ、当該特定建築物について耐震改修(地震に対する安全性の向上を目的とした増築、改築、修繕又は模様替をいう。以下同じ。)を行うよう努めなければならない。
(耐震診断及び耐震改修の指針)
第三条 建設大臣は、特定建築物の耐震診断及び耐震改修の促進を図るため、特定建築物の耐震診断及び耐震改修に関する指針を定め、これを公表するものとする。
(指導及び助言並びに指示等)
第四条 所管行政庁(建築主事を置く市町村又は特別区の区域については当該市町村又は特別区の長をいい、その他の市町村又は特別区の区域については都道府県知事をいう。ただし、建築基準法第九十七条の二第一項又は第九十七条の三第一項の規定により建築主事を置く市町村又は特別区の区域内の政令で定める建築物については、都道府県知事とする。以下同じ。)は、特定建築物の耐震診断及び耐震改修の適確な実施を確保するため必要があると認めるときは、特定建築物の所有者に対し、前条の指針を勘案して、特定建築物の耐震診断及び耐震改修について必要な指導及び助言をすることができる。
2 所管行政庁は、病院、劇場、観覧場、集会場、展示場、百貨店その他不特定かつ多数の者が利用する特定建築物のうち、地震に対する安全性の向上を図ることが特に必要なものとして政令で定めるものであって政令で定める規模以上のものについて必要な耐震診断又は耐震改修が行われていないと認めるときは、特定建築物の所有者に対し、前条の指針を勘案して、必要な指示をすることができる。
3 所管行政庁は、前項の規定の施行に必要な限度において、政令で定めるところにより、特定建築物の所有者に対し、特定建築物の地震に対する安全性に係る事項に関し報告させ、又はその職員に、特定建築物、特定建築物の敷地若しくは特定建築物の工事現場に立ち入り、特定建築物、特定建築物の敷地、建築設備、建築材料、書類その他の物件を検査させることができる。
4 前項の規定により立入検査をする職員は、その身分を示す証明書を携帯し、関係人に提示しなければならない。
5 第三項の規定による立入検査の権限は、犯罪捜査のために認められたものと解釈してはならない。
第三章 建築物の耐震改修の計画の認定
(計画の認定)
第五条 建築物の耐震改修をしようとする者は、建設省令で定めるところにより、建築物の耐震改修の計画を作成し、所管行政庁の認定を申請することができる。
2 前項の計画には、次に掲げる事項を記載しなければならない。
一 建築物の位置
二 建築物の階数、延べ面積、構造方法及び用途
三 建築物の耐震改修の事業の内容
四 建築物の耐震改修の事業に関する資金計画
五 その他建設省令で定める事項
3 所管行政庁は、第一項の申請があった場合において、建築物の耐震改修の計画が次に掲げる基準に適合すると認めるときは、その旨の認定(以下この章において「計画の認定」という。)をすることができる。
一 建築物の耐震改修の事業の内容が耐震関係規定又は地震に対する安全上これに準ずるものとして建設大臣が定める基準に適合していること。
二 前項第四号の資金計画が建築物の耐震改修の事業を確実に遂行するため適切なものであること。
三 第一項の申請に係る建築物、建築物の敷地又は建築物若しくはその敷地の部分が耐震関係規定及び耐震関係規定以外の建築基準法又はこれに基づく命令若しくは条例の規定に適合せず、かつ、同法第三条第二項の規定の適用を受けているものである場合において、当該建築物又は建築物の部分の増築(壁のない部分に壁を設けることにより建築物の延べ面積を増加させるものに限る。)、大規模の修繕(同法第二条第十四号に規定する大規模の修繕をいう。)又は大規模の模様替(同条第十五号に規定する大規模の模様替をいう。)をしようとするものであり、かつ、当該工事後も、引き続き、当該建築物、建築物の敷地又は建築物若しくはその敷地の部分が耐震関係規定以外の同法又はこれに基づく命令若しくは条例の規定に適合しないこととなるものであるときは、前二号に掲げる基準のほか、次に掲げる基準に適合していること。
イ 当該工事が地震に対する安全性の向上を図るため必要と認められるものであり、かつ、当該工事後も、引き続き、当該建築物、建築物の敷地又は建築物若しくはその敷地の部分が耐震関係規定以外の建築基準法又はこれに基づく命令若しくは条例の規定に適合しないこととなることがやむを得ないと認められるものであること。
ロ 工事の計画に係る建築物及び建築物の敷地について、交通上の支障の度、安全上、防火上及び避難上の危険の度並びに衛生上及び市街地の環境の保全上の有害の度が高くならないものであること。
四 第一項の申請に係る建築物が耐震関係規定に適合せず、かつ、建築基準法第三条第二項の規定の適用を受けている耐火建築物(同法第二条第九号の二に規定する耐火建築物をいう。)である場合において、当該建築物について壁を設け、又は柱若しくははりの模様替をすることにより当該建築物が同法第二十七条第一項、第六十一条又は第六十二条第一項の規定に適合しないこととなるものであるときは、第一号及び第二号に掲げる基準のほか、次に掲げる基準に適合していること。
イ 当該工事が地震に対する安全性の向上を図るため必要と認められるものであり、かつ、当該工事により、当該建築物が建築基準法第二十七条第一項、第六十一条又は第六十二条第一項の規定に適合しないこととなることがやむを得ないと認められるものであること。
ロ 次に掲げる基準に適合し、防火上及び避難上支障がないと認められるものであること。
(1) 工事の計画に係る壁又は柱若しくははりの構造が建設省令で定める防火上の基準に適合していること。
(2) 工事の計画に係る壁又は柱若しくははりに係る火災が発生した場合の通報の方法が建設省令で定める防火上の基準に適合していること。
4 第一項の申請に係る建築物の耐震改修の計画が建築基準法第六条第一項の規定による確認又は同法第十八条第二項の規定による通知を要するものである場合において、計画の認定をしようとするときは、所管行政庁は、あらかじめ、建築主事の同意を得なければならない。
5 建築基準法第九十三条の規定は所管行政庁が同法第六条第一項の規定による確認又は同法第十八条第二項の規定による通知を要する建築物の耐震改修の計画について計画の認定をしようとする場合について、同法第九十三条の二の規定は所管行政庁が同法第六条第一項の規定による確認を要する建築物の耐震改修の計画について計画の認定をしようとする場合について準用する。
6 所管行政庁が計画の認定をしたときは、次に掲げる建築物、建築物の敷地又は建築物若しくはその敷地の部分(以下この項において「建築物等」という。)については、建築基準法第三条第三項第三号及び第四号の規定にかかわらず、同条第二項の規定を適用する。
一 耐震関係規定に適合せず、かつ、建築基準法第三条第二項の規定の適用を受けている建築物等であって、第三項第一号の建設大臣が定める基準に適合しているものとして計画の認定を受けたもの
二 計画の認定に係る第三項第三号の建築物等
7 所管行政庁が計画の認定をしたときは、計画の認定に係る第三項第四号の建築物については、建築基準法第二十七条第一項、第六十一条又は第六十二条第一項の規定は、適用しない。
8 第一項の申請に係る建築物の耐震改修の計画が建築基準法第六条第一項の規定による確認又は同法第十八条第二項の規定による通知を要するものである場合において、所管行政庁が計画の認定をしたときは、同法第六条第一項の規定による確認又は同法第十八条第三項の規定による通知があったものとみなす。この場合において、所管行政庁は、その旨を建築主事に通知するものとする。
(計画の変更)
第六条 計画の認定を受けた者(以下この章において「認定事業者」という。)は、当該計画の認定を受けた計画の変更(建設省令で定める軽微な変更を除く。)をしようとするときは、所管行政庁の認定を受けなければならない。
2 前条の規定は、前項の場合について準用する。
(報告の徴収)
第七条 所管行政庁は、認定事業者に対し、計画の認定を受けた計画(前条第一項の規定による変更の認定があったときは、その変更後のもの。次条において同じ。)に係る建築物(以下この章において「認定建築物」という。)の耐震改修の状況について報告を求めることができる。
(改善命令)
第八条 所管行政庁は、認定事業者が計画の認定を受けた計画に従って認定建築物の耐震改修を行っていないと認めるときは、当該認定事業者に対し、相当の期限を定めて、その改善に必要な措置をとるべきことを命ずることができる。
(計画の認定の取消し)
第九条 所管行政庁は、認定事業者が前条の規定による処分に違反したときは、計画の認定を取り消すことができる。
(住宅金融公庫の資金の貸付けの特例)
第十条 住宅金融公庫が、認定建築物である住宅の耐震改修をしようとする認定事業者に対し、住宅金融公庫法(昭和二十五年法律第百五十六号)第二十条第四項の規定による限度において同法第十七条第五項の規定により資金を貸し付ける場合における当該貸付金の同法第二十一条第一項の表一の項に規定する当初期間の利率は、同表五の項の規定にかかわらず、年五・五パーセント以内で政令で定める率とする。
第四章 雑則
(資金の融通等)
第十一条 国及び地方公共団体は、建築物の耐震診断及び耐震改修の促進を図るため、資金の融通又はあっせん、資料の提供その他の措置を講ずるよう努めるものとする。
(研究開発の促進のための措置)
第十二条 国は、建築物の耐震診断及び耐震改修の促進に資する技術に関する研究開発を促進するため、当該技術に関する情報の収集及び提供その他必要な措置を講ずるよう努めるものとする。
(国民の理解を深める等のための措置)
第十三条 国及び地方公共団体は、教育活動、広報活動等を通じて、建築物の耐震診断及び耐震改修の促進に関する国民の理解を深めるとともに、その実施に関する国民の協力を求めるよう努めるものとする。
第五章 罰則
第十四条 第四条第三項の規定による報告をせず、若しくは虚偽の報告をし、又は同項の規定による検査を拒み、妨げ、若しくは忌避した者は、三十万円以下の罰金に処する。
第十五条 第七条の規定による報告をせず、又は虚偽の報告をした者は、二十万円以下の罰金に処する。
第十六条 法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務に関し、前二条の違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人又は人に対しても各本条の刑を科する。
附 則
(施行期日)
1 この法律は、公布の日から起算して三月を超えない範囲内において政令で定める日から施行する。
(建設省設置法の一部改正)
2 建設省設置法(昭和二十三年法律第百十三号)の一部を次のように改正する。
第三条第四十五号中「及び高齢者、身体障害者等が円滑に利用できる特定建築物の建築の促進に関する法律(平成六年法律第四十四号)」を「、高齢者、身体障害者等が円滑に利用できる特定建築物の建築の促進に関する法律(平成六年法律第四十四号)及び建築物の耐震改修の促進に関する法律(平成七年法律第百二十三号)」に改める。
建設大臣 森喜朗
内閣総理大臣 村山富市