悪臭防止法
法令番号: 法律第91号
公布年月日: 昭和46年6月1日
法令の形式: 法律

改正対象法令

提案理由 (AIによる要約)

近年、公害問題が深刻化・多様化する中、悪臭も国民の生活環境を損なう重要な問題となっている。これまで測定方法や防止技術の開発の遅れから、国による規制立法は見送られてきたが、現在は研究や技術開発が一定水準に達し、主要な悪臭物質の規制が可能となった。そこで公害対策基本法の精神に基づき、工場等の事業活動に伴う悪臭物質の排出を規制し、生活環境の保全と国民の健康保護を図るため、本法案を提出するものである。

参照した発言:
第65回国会 衆議院 産業公害対策特別委員会 第5号

審議経過

第65回国会

衆議院
(昭和46年4月27日)
参議院
(昭和46年4月28日)
(昭和46年5月19日)
(昭和46年5月21日)
悪臭防止法をここに公布する。
御名御璽
昭和四十六年六月一日
内閣総理大臣 佐藤栄作
法律第九十一号
悪臭防止法
目次
第一章
総則(第一条・第二条)
第二章
規制(第三条―第十三条)
第三章
雑則(第十四条―第十九条)
第四章
罰則(第二十条―第二十二条)
附則
第一章 総則
(目的)
第一条 この法律は、工場その他の事業場における事業活動に伴つて発生する悪臭物質の排出を規制することにより、生活環境を保全し、国民の健康の保護に資することを目的とする。
(定義)
第二条 この法律において「悪臭物質」とは、アンモニア、メチルメルカプタンその他の不快なにおいの原因となり、生活環境をそこなうおそれのある物質であつて政令で定めるものをいう。
第二章 規制
(規制地域)
第三条 都道府県知事は、住民の生活環境を保全するため悪臭を防止する必要があると認める住居が集合している地域その他の地域を、工場その他の事業場(以下単に「事業場」という。)における事業活動に伴つて発生する悪臭物質の排出(漏出を含む。以下同じ。)を規制する地域(以下「規制地域」という。)として指定しなければならない。
(規制基準)
第四条 都道府県知事は、規制地域について、その自然的、社会的条件を考慮して、必要に応じ当該地域を区分し、悪臭物質の種類ごとに次の各号の規制基準を当該各号に掲げるところにより定めなければならない。
一 事業場における事業活動に伴つて発生する悪臭物質で当該事業場から排出されるものの当該事業場の敷地の境界線の地表における規制基準 総理府令で定める範囲内において、大気中の濃度の許容限度として定めること。
二 事業場における事業活動に伴つて発生する悪臭物質で当該事業場の煙突その他の気体排出施設から排出されるものの当該施設の排出口における規制基準 前号の許容限度を基礎として、総理府令で定める方法により、排出口の高さに応じて、流量又は排出気体中の濃度の許容限度として定めること。
三 事業場における事業活動に伴つて発生する悪臭物質で当該事業場から排出される排出水に含まれるものの当該事業場の敷地外における規制基準 第一号の許容限度を基礎として、総理府令で定める方法により、排出水中の濃度の許容限度として定めること。
(市町村長の意見の聴取)
第五条 都道府県知事は、規制地域の指定をし、及び規制基準を定めようとするときは、当該規制地域を管轄する市町村長(特別区の区長を含む。以下同じ。)の意見をきかなければならない。これらを変更し、規制地域の指定を解除し、又は規制基準を廃止しようとするときも、同様とする。
2 都道府県知事は、前項の場合において、必要があると認めるときは、同項に規定する市町村長のほか、当該規制地域の周辺地域を管轄する市町村長の意見をきくものとする。
(規制地域の指定等の公示)
第六条 都道府県知事は、規制地域の指定をし、及び規制基準を定めるときは、総理府令で定めるところにより、公示しなければならない。これらを変更し、規制地域の指定を解除し、又は規制基準を廃止するときも、同様とする。
(規制基準の遵守義務)
第七条 規制地域内に事業場を設置している者は、当該規制地域についての規制基準を遵守しなければならない。
(改善勧告及び改善命令)
第八条 都道府県知事は、規制地域内の事業場における事業活動に伴つて発生する悪臭物質の排出が規制基準に適合しないことにより住民の生活環境がそこなわれていると認めるときは、当該事業場を設置している者に対し、相当の期限を定めて、その事態を除去するために必要な限度において、悪臭物質を発生させている施設の運用の改善、悪臭物質の排出防止設備の改良その他悪臭物質の排出を減少させるための措置をとるべきことを勧告することができる。
2 都道府県知事は、前項の規定による勧告を受けた者がその勧告に従わないときは、相当の期限を定めて、その勧告に係る措置をとるべきことを命ずることができる。
3 前項の規定による措置は、当該事業場の存する地域が規制地域となつた日から一年間は当該事業場を設置している者について、当該事業場において発生する悪臭物質の排出についての規制基準が新たに設けられた日から一年間は当該事業場を設置している者の当該悪臭物質の排出について、とることができない。
4 第二項の規定による措置は、当該事業場において発生する悪臭物質の排出についての規制基準が強化されたときは、その日から一年間、その排出が強化される前の規制基準に適合している場合について、とることができない。
5 都道府県知事は、小規模の事業者に対して第一項又は第二項の規定による措置をとるときは、その者の事業活動に及ぼす影響についても配慮しなければならない。
(都道府県知事に対する要請)
第九条 市町村長は、当該市町村の住民の生活環境を保全するため必要があると認めるときは、関係都道府県知事に対し、規制地域を指定し、若しくは規制基準を設定し、若しくは強化すべきこと、又は悪臭物質を排出する事業場について前条第一項若しくは第二項の規定による措置をとるべきことを要請することができる。
(事故時の措置)
第十条 規制地域内に事業場を設置している者は、当該事業場において事故が発生し、悪臭物質の排出が規制基準に適合せず、又は適合しないおそれが生じたときは、ただちに、その事故について応急措置を講じ、かつ、その事故をすみやかに復旧するように努めなければならない。
(悪臭の測定)
第十一条 都道府県知事は、住民の生活環境を保全するため、規制地域における大気中の悪臭物質の濃度について必要な測定を行なわなければならない。
(水路等における悪臭の防止)
第十二条 下水溝、河川、池沼、港湾その他の汚水が流入する水路又は場所を管理する者は、その管理する水路又は場所から悪臭が発生し、周辺地域における住民の生活環境がそこなわれることのないよう、その水路又は場所を適切に管理しなければならない。
(悪臭が生ずる物の焼却の禁止)
第十三条 何人も、住居が集合している地域においては、みだりに、ゴム、皮革、合成樹脂、廃油その他の燃焼に伴つて悪臭が生ずる物を野外で多量に焼却してはならない。
第三章 雑則
(報告及び検査)
第十四条 都道府県知事は、第八条第一項又は第二項の規定による措置に関し必要があると認めるときは、当該事業場を設置している者に対し、悪臭物質を発生させている施設の運用の状況、悪臭物質の排出防止設備の設置の状況その他悪臭の防止に関し必要な事項の報告を求め、又はその職員に、当該事業場に立ち入り、悪臭の防止に関し、悪臭物質を発生させている施設その他の物件を検査させることができる。
2 前項の規定により立入検査をする職員は、その身分を示す証明書を携帯し、関係人に提示しなければならない。
3 第一項の規定による立入検査の権限は、犯罪捜査のために認められたものと解釈してはならない。
(関係行政機関等の協力)
第十五条 都道府県知事は、この法律の目的を達成するため必要があると認めるときは、関係行政機関の長又は関係地方公共団体の長に対し、悪臭物質を発生する事業場の事業活動、悪臭物質の排出防止技術その他悪臭の防止に関し必要な事項につき、資料又は情報の提供、意見の開陳その他の協力を求めることができる。
2 関係行政機関の長は、この法律の円滑かつ適正な施行を図るため、都道府県知事に対し、悪臭物質の濃度の測定方法、悪臭物質の排出防止技術その他悪臭の防止に関し必要な事項につき、助言その他の援助に努めるものとする。
(国の援助)
第十六条 国は、事業場において発生する悪臭を防止するため必要な施設の設置又は改善につき、資金のあつせん、技術的な助言その他の援助に努めるものとする。
(研究の推進等)
第十七条 国は、悪臭を発生する施設の改良のための研究、悪臭の生活環境及び健康に及ぼす影響の研究、悪臭の測定方法の研究その他悪臭の防止に関する研究を推進し、その成果の普及に努めるものとする。
(事務の委任)
第十八条 この法律の規定により都道府県知事の権限に属する事務は、政令で定めるところにより、市町村長に委任することができる。
(条例との関係)
第十九条 この法律の規定は、地方公共団体が、この法律に規定するもののほか、悪臭の原因となる物質の排出に関し条例で必要な規制を定めることを妨げるものではない。
第四章 罰則
第二十条 第八条第二項の規定による命令に違反した者は、一年以下の懲役又は十万円以下の罰金に処する。
第二十一条 第十四条第一項の規定による報告をせず、若しくは虚偽の報告をし、又は同項の規定による検査を拒み、妨げ、若しくは忌避した者は、三万円以下の罰金に処する。
第二十二条 法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務に関し、前二条の違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人又は人に対して各本条の罰金刑を科する。
附 則
1 この法律は、公布の日から起算して一年をこえない範囲内において政令で定める日から施行する。ただし、附則第四項の規定は、昭和四十六年七月一日から施行する。
2 前項の規定にかかわらず、政令で定める事業場については、この法律の施行の日から二年間は、第八条第二項の規定は、適用しない。
3 中小企業近代化資金等助成法(昭和三十一年法律第百十五号)の一部を次のように改正する。
第五条中「若しくは騒音」を「又は騒音」に、「若しくは同条第五項」を「又は同条第五項」に、「又は騒音規制法」を「、騒音規制法」に改め、「発生する騒音を防止するための施設」の下に「、悪臭防止法(昭和四十六年法律第九十一号)第二条に規定する悪臭物質の事業場からの排出を防止するための施設その他公害を防止するための施設であつて政令で定めるもの」を加える。
4 環境庁設置法(昭和四十六年法律第八十八号)の一部を次のように改正する。
第四条第十九号の次に次の一号を加える。
十九の二 悪臭防止法(昭和四十六年法律第九十一号)の施行に関する事務を処理すること。
第五条第五項中「及び第十九号」を「、第十九号及び第十九号の二」に改める。
法務大臣 植木庚子郎
厚生大臣 内田常雄
内閣総理大臣 佐藤栄作