逃亡犯罪人引渡法
法令番号: 法律第68号
公布年月日: 昭和28年7月21日
法令の形式: 法律

改正対象法令

提案理由 (AIによる要約)

日米犯罪人引渡条約が1952年7月22日から継続して有効となることを受け、明治20年制定の逃亡犯罪人引渡条例を現代の状況に適合させるため、新たに逃亡犯罪人引渡法を制定するものである。主な改正点として、逃亡犯罪人の身柄拘束を検察官の逮捕状から裁判官の令状に変更し、引渡しの可否判断を法務大臣単独から東京高等裁判所の審査を経た上での決定に改め、また定住者で逃亡の恐れがない場合は身柄拘束を不要とした。これにより、犯罪人引渡しに関する国内手続きを整備し、諸外国の立法例に沿った制度とすることを目的とする。

参照した発言:
第16回国会 衆議院 法務委員会 第4号

審議経過

第16回国会

衆議院
(昭和28年6月26日)
参議院
(昭和28年6月26日)
(昭和28年7月1日)
(昭和28年7月7日)
衆議院
(昭和28年7月8日)
(昭和28年7月9日)
(昭和28年7月11日)
(昭和28年7月14日)
参議院
(昭和28年7月15日)
衆議院
(昭和28年7月16日)
参議院
(昭和28年7月16日)
(昭和28年7月17日)
衆議院
(昭和28年8月10日)
参議院
(昭和28年8月10日)
逃亡犯罪人引渡法をここに公布する。
御名御璽
昭和二十八年七月二十一日
内閣総理大臣 吉田茂
法律第六十八号
逃亡犯罪人引渡法
(定義)
第一条 この法律において「締約国」とは、日本国との間に犯罪人の引渡に関する条約(以下「引渡条約」という。)を締結した外国をいう。
2 この法律において「引渡犯罪」とは、引渡条約において締約国が日本国に対し犯罪人の引渡を請求することができるものとして掲げる犯罪をいう。
3 この法律において「逃亡犯罪人」とは、引渡犯罪を犯し、その犯罪について締約国の刑事に関する手続が行われた者であつて、引渡条約により締約国が日本国に対し引渡を請求することができるものをいう。
(引渡に関する制限)
第二条 左の各号の一に該当する場合には、逃亡犯罪人を引き渡してはならない。但し、第六号又は第七号に該当する場合において、引渡条約に別段の定があるときは、この限りでない。
一 逃亡犯罪人の犯した引渡犯罪が政治犯罪であるとき。
二 引渡の請求が、逃亡犯罪人の犯した政治犯罪について審判し、又は刑罰を執行する目的でなされたものと認められるとき。
三 逃亡犯罪人の犯した引渡犯罪に係る行為が日本国内において行われ、又はその引渡犯罪に係る裁判が日本国の裁判所において行われたとした場合において、日本国の法令により逃亡犯罪人に刑罰を科し、又はこれを執行することができないと認められるとき。
四 逃亡犯罪人の犯した引渡犯罪について締約国の有罪の裁判がある場合を除き、逃亡犯罪人がその引渡犯罪に係る行為を行つたことを疑うに足りる相当な理由がないとき。
五 逃亡犯罪人の犯した引渡犯罪に係る事件が日本国の裁判所に係属するとき、又はその事件について日本国の裁判所において確定判決を経たとき。
六 逃亡犯罪人の犯した引渡犯罪以外の罪に係る事件が日本国の裁判所に係属するとき、又はその事件について逃亡犯罪人が日本国の裁判所において刑に処せられ、その執行を終らず、若しくは執行を受けないこととなつていないとき。
七 逃亡犯罪人が日本国民であるとき。
(引渡の請求を受けた外務大臣の措置)
第三条 外務大臣は、締約国から逃亡犯罪人の引渡の請求があつた場合において、その方式が引渡条約に適合すると認めるときは、引渡請求書又は外務大臣の作成した引渡の請求があつたことを証明する書面に関係書類を添附し、これを法務大臣に送付しなければならない。
(法務大臣の措置)
第四条 法務大臣は、外務大臣から前条の規定による引渡の請求に関する書面の送付を受けたときは、左の各号の一に該当する場合を除き、東京高等検察庁検事長に対し関係書類を送付して、逃亡犯罪人を引き渡すことができる場合に該当するかどうかについて東京高等裁判所に審査の請求をなすべき旨を命じなければならない。
一 明らかに逃亡犯罪人を引き渡すことができない場合に該当すると認めるとき。
二 第二条第六号又は第七号に該当する場合には逃亡犯罪人を引き渡すかどうかについて日本国の裁量に任せる旨の引渡条約の定がある場合において、明らかに同条第六号又は第七号に該当し、且つ、逃亡犯罪人を引き渡すことが相当でないと認めるとき。
(逃亡犯罪人の拘禁)
第五条 東京高等検察庁検事長は、前条の規定による法務大臣の命令を受けたときは、逃亡犯罪人が仮拘禁許可状により拘禁され、又は仮拘禁許可状による拘禁を停止されている場合を除き、東京高等検察庁の検察官をして、東京高等裁判所の裁判官のあらかじめ発する拘禁許可状により、逃亡犯罪人を拘禁させなければならない。但し、逃亡犯罪人が定まつた住居を有する場合であつて、東京高等検察庁検事長において逃亡犯罪人が逃亡するおそれがないと認めるときは、この限りでない。
2 前項の拘禁許可状は、東京高等検察庁の検察官の請求により発する。
3 拘禁許可状には、逃亡犯罪人の氏名、引渡犯罪名、引渡を請求した締約国の名称、有効期間及びその期間経過後は拘束に着手することができず拘禁許可状は返還しなければならない旨並びに発付の年月日を記載し、裁判官が記名押印しなければならない。
第六条 東京高等検察庁の検察官は、検察事務官、警察官、警察吏員、海上保安官又は海上保安官補(以下「検察事務官等」という。)に前条の拘禁許可状による拘束をさせることができる。
2 拘禁許可状により逃亡犯罪人を拘束するには、これを逃亡犯罪人に示さなければならない。
3 検察事務官等は、拘禁許可状により逃亡犯罪人を拘束したときは、できる限りすみやかに、これを東京高等検察庁の検察官に引致しなければならない。
4 刑事訴訟法(昭和二十三年法律第百三十一号)第七十一条、第七十三条第三項、第七十四条及び第百二十六条の規定は、拘禁許可状による拘束について準用する。
第七条 東京高等検察庁の検察官は、拘禁許可状により逃亡犯罪人を拘束したとき、又は拘禁許可状により拘束された逃亡犯罪人を受け取つたときは、直ちに、その人違でないかどうかを取り調べなければならない。
2 逃亡犯罪人が人違でないときは、直ちに、拘束の事由を告げた上、拘禁すべき監獄を指定し、すみやかに且つ直接、逃亡犯罪人をその監獄に送致しなければならない。この場合には、前条第一項の規定を準用する。
(審査の請求)
第八条 東京高等検察庁の検察官は、第四条の規定による法務大臣の命令があつたときは、逃亡犯罪人の現在地が判らない場合を除き、すみやかに、東京高等裁判所に対し、逃亡犯罪人を引き渡すことができる場合に該当するかどうかについて審査の請求をしなければならない。拘禁許可状により逃亡犯罪人を拘束し、又は拘禁許可状により拘束された逃亡犯罪人を受け取つたときは、拘束した時又は受け取つた時から二十四時間以内に審査の請求をしなければならない。
2 前項の審査の請求は書面で行い、これに関係書類を添附しなければならない。
3 東京高等検察庁の検察官は、第一項の請求をしたときは、逃亡犯罪人に前項の請求書の謄本を送付しなければならない。
(東京高等裁判所の審査)
第九条 東京高等裁判所は、前条の審査の請求を受けたときは、すみやかに、審査を開始し、決定をするものとする。逃亡犯罪人が拘禁許可状により拘禁されているときは、おそくとも、拘束を受けた日から二箇月以内に決定をするものとする。
2 逃亡犯罪人は、前項の審査に関し、弁護士の補佐を受けることができる。
3 東京高等裁判所は、第一項の決定をする前に、逃亡犯罪人及びこれを補佐する弁護士に対し、意見を述べる機会を与えなければならない。但し、次条第一項第一号又は第二号の決定をする場合は、この限りでない。
4 東京高等裁判所は、第一項の審査をするについて必要があるときは、証人を尋問し、又は鑑定、通訳若しくは翻訳を命ずることができる。この場合においては、その性質に反しない限り、刑事訴訟法第一編第十一章から第十三章まで及び刑事訴訟費用に関する法令の規定を準用する。
(東京高等裁判所の決定)
第十条 東京高等裁判所は、前条第一項の規定による審査の結果に基いて、左の区別に従い、決定をしなければならない。
一 審査の請求が不適法であるときは、これを却下する決定
二 逃亡犯罪人を引き渡すことができない場合に該当するときは、その旨の決定
三 逃亡犯罪人を引き渡すことができる場合に該当するときは、その旨の決定
2 前項の決定は、その主文を東京高等検察庁の検察官に通知することによつて、その効力を生ずる。
3 東京高等裁判所は、第一項の決定をしたときは、すみやかに、東京高等検察庁の検察官及び逃亡犯罪人に裁判書の謄本を送達し、東京高等検察庁の検察官にその提出した関係書類を返還しなければならない。
(審査請求命令の取消)
第十一条 外務大臣は、第三条の規定による書面の送付をした後に締約国から逃亡犯罪人の引渡の請求を撤回する旨の通知があつたときは、直ちに、その旨を法務大臣に通知しなければならない。
2 法務大臣は、第四条の命令をした後に、外務大臣から前項の規定による通知を受け、又は第四条各号の一に該当するに至つたときは、直ちに、その命令を取り消すとともに、第八条第三項の規定による審査請求書の謄本の送付を受けた逃亡犯罪人にその旨を通知しなければならない。
3 東京高等検察庁の検察官は、審査の請求をした後に審査請求命令が取り消されたときは、すみやかに、審査の請求を取り消さなければならない。
(逃亡犯罪人の釈放)
第十二条 東京高等検察庁の検察官は、第十条第一項第一号若しくは第二号の決定があつたとき、又は前条の規定により審査請求命令が取り消されたときは、直ちに、拘禁許可状により拘禁されている逃亡犯罪人を釈放しなければならない。
(裁判書の謄本等の法務大臣への提出)
第十三条 東京高等検察庁検事長は、第十条第三項の規定により、裁判書の謄本が東京高等検察庁の検察官に送達されたときは、すみやかに、意見を附し、関係書類とともに、これを法務大臣に提出しなければならない。
(引渡に関する法務大臣の命令等)
第十四条 法務大臣は、第十条第一項第三号の決定があつた場合において、逃亡犯罪人を引き渡すことが相当であると認めるときは、東京高等検察庁検事長に対し逃亡犯罪人の引渡を命ずるとともに、逃亡犯罪人にその旨を通知し、逃亡犯罪人を引き渡すことが相当でないと認めるときは、直ちに、東京高等検察庁検事長及び逃亡犯罪人にその旨を通知するとともに、東京高等検察庁検事長に対し拘禁許可状により拘禁されている逃亡犯罪人の釈放を命じなければならない。
2 東京高等検察庁の検察官は、前項の規定による釈放の命令があつたとき、又は第十条第三項の規定により同条第一項第三号の決定の裁判書の謄本の送達を受けた日から十日以内に前項の規定による引渡の命令がないときは、直ちに、拘禁許可状により拘禁されている逃亡犯罪人を釈放しなければならない。
3 法務大臣は、第一項の規定により逃亡犯罪人を引き渡すことが相当でないと認める旨の通知をした後は、当該引渡請求につき逃亡犯罪人の引渡を命ずることができない。但し、第二条第六号の場合に関し引渡条約に別段の定がある場合において、同条同号に該当するため逃亡犯罪人を引き渡すことが相当でないと認める旨の通知をした後同条同号に該当しないこととなつたときは、この限りでない。
(引渡の場所及び期限)
第十五条 前条第一項の引渡の命令による逃亡犯罪人の引渡の場所は、逃亡犯罪人が拘禁許可状により拘禁されている監獄とし、引渡の期限は、引渡命令の日の翌日から起算して三十日目の日とする。但し、逃亡犯罪人が引渡の命令の日に拘禁されていないときは、引渡の場所は、拘禁状により逃亡犯罪人を拘禁すべき監獄又は拘禁が停止されるまで逃亡犯罪人が拘禁されていた監獄とし、引渡の期限は、逃亡犯罪人が拘禁状により拘束され、又は拘禁の停止の取消により拘束された日の翌日から起算して三十日目の日とする。
(引渡に関する措置)
第十六条 第十四条第一項の規定による引渡の命令は、引渡状を発して行う。
2 引渡状は、東京高等検察庁検事長に交付しなければならない。
3 法務大臣は、引渡状を発すると同時に、外務大臣に受領許可状を送付しなければならない。
4 引渡状及び受領許可状には、逃亡犯罪人の氏名、引渡犯罪名、引渡を請求した締約国の名称、引渡の場所、引渡の期限及び発付の年月日を記載し、法務大臣が記名押印しなければならない。
第十七条 東京高等検察庁検事長は、法務大臣から引渡状の交付を受けた場合において、逃亡犯罪人が拘禁許可状により拘禁され、又はその拘禁が停止されているときは、逃亡犯罪人が拘禁され、又は停止されるまで拘禁されていた監獄の長に対し、引渡状を交付して逃亡犯罪人の引渡を指揮しなければならない。
2 前項に規定する場合を除き、東京高等検察庁検事長は、法務大臣から引渡状の交付を受けたときは、東京高等検察庁の検察官をして拘禁状により逃亡犯罪人を拘禁させなければならない。
3 前項の拘禁状は、東京高等検察庁の検察官が発する。
4 第六条及び第七条の規定は、拘禁状による逃亡犯罪人の拘束について準用する。
5 東京高等検察庁検事長は、拘禁状により拘束された逃亡犯罪人が拘禁すべき監獄に送致されたときは、すみやかに、その監獄の長に対し引渡状を交付して逃亡犯罪人の引渡を指揮するとともに、法務大臣にその旨及び拘束した年月日を報告しなければならない。
第十八条 法務大臣は、東京高等検察庁検事長から前条第五項又は第二十二条第六項の規定による報告があつたときは、直ちに、外務大臣に対し、逃亡犯罪人を引き渡すべき場所に拘束した旨及び引渡の期限を通知しなければならない。
第十九条 外務大臣は、第十六条第三項の規定による受領許可状の送付を受けたときは、直ちに、これを引渡を請求した締約国に送付しなければならない。
2 外務大臣は、前条の規定による通知を受けたときは、直ちに、その内容を締約国に通知しなければならない。
第二十条 第十七条第一項又は第五項の規定による逃亡犯罪人の引渡の指揮を受けた監獄の長は、締約国の官憲から受領許可状を示して逃亡犯罪人の引渡を求められたときは、逃亡犯罪人を引き渡さなければならない。
2 監獄の長は、引渡の期限内に前項の規定による引渡の求がないときは、逃亡犯罪人を釈放し、その旨を東京高等検察庁検事長に報告しなければならない。
(締約国の官憲による逃亡犯罪人の護送)
第二十一条 前条第一項の規定により、逃亡犯罪人の引渡を受けた締約国の官憲は、すみやかに、逃亡犯罪人を締約国内に護送するものとする。
(拘禁の停止)
第二十二条 東京高等検察庁の検察官は、必要と認めるときは、拘禁許可状により拘禁されている逃亡犯罪人を親族その他の者に委託し、又は逃亡犯罪人の住居を制限して、拘禁の停止をすることができる。
2 東京高等検察庁の検察官は、必要と認めるときは、いつでも、拘禁の停止を取り消すことができる。第十七条第一項の規定により法務大臣から東京高等検察庁検事長に対して引渡状の交付があつたときは、拘禁の停止を取り消さなければならない。
3 東京高等検察庁の検察官は、前項の規定により拘禁の停止を取り消したときは、検察事務官等に逃亡犯罪人の拘束をさせることができる。
4 前項の規定による拘束は、拘禁許可状の謄本及び東京高等検察庁の検察官が作成した拘禁の停止を取り消した旨の書面を逃亡犯罪人に示した上、これを拘禁すべき監獄に引致して行う。
5 前項の書面を所持しないためこれを示すことができない場合において、急速を要するときは、同項の規定にかかわらず、逃亡犯罪人に対し拘禁の停止が取り消された旨を告げて、これを拘禁すべき監獄に引致することができる。但し、その書面は、できる限りすみやかに逃亡犯罪人に示さなければならない。
6 東京高等検察庁検事長は、第二項後段の規定による拘禁の停止の取消があつた場合において、逃亡犯罪人が拘禁すべき監獄に送致されたときは、すみやかに、法務大臣にその旨及び拘束した年月日を報告しなければならない。
7 左の各号の一に該当するときは、停止されている拘禁は、その効力を失う。
一 逃亡犯罪人に対し、第十条第一項第一号又は第二号の決定の裁判書の謄本が送達されたとき。
二 逃亡犯罪人に対し、第十一条第二項の規定による通知があつたとき。
三 逃亡犯罪人に対し、第十四条第一項の規定により、法務大臣から引き渡すことが相当でないと認める旨の通知があつたとき。
(仮拘禁に関する通知等)
第二十三条 外務大臣は、引渡条約に基き、締約国から逃亡犯罪人が犯した引渡犯罪についてその者を逮捕すべき旨の令状が発せられたことの通知があり、且つ、当該締約国の外交官が締約国において引渡条約に従つて逃亡犯罪人の引渡の請求をすべき旨を保証したときは、その通知及び保証があつたことを証明する書面を作成し、これを法務大臣に送付しなければならない。
2 前項の書面には、関係書類があるときは、これを添附しなければならない。
(仮拘禁に関する措置)
第二十四条 法務大臣は、前条第一項の規定による書面の送付を受けた場合において、逃亡犯罪人を仮に拘禁することを相当と認めるときは、東京高等検察庁検事長に対し、逃亡犯罪人を仮に拘禁すべき旨を命じなければならない。
第二十五条 東京高等検察庁検事長は、前条の規定による法務大臣の命令を受けたときは、東京高等検察庁の検察官をして、東京高等裁判所の裁判官があらかじめ発する仮拘禁許可状により、逃亡犯罪人を拘禁させなければならない。
2 第五条第二項及び第三項、第六条並びに第七条の規定は、仮拘禁許可状による拘禁について準用する。
第二十六条 法務大臣は、仮拘禁許可状により拘禁されている逃亡犯罪人について、外務大臣から第三条の規定による引渡の請求に関する書面の送付を受けた場合において、第四条各号の一に該当するため同条の規定による命令をしないときは、東京高等検察庁検事長及び逃亡犯罪人にその旨を通知するとともに、東京高等検察庁検事長に対し、仮拘禁許可状により拘禁されている逃亡犯罪人の釈放を命じなければならない。
2 東京高等検察庁の検察官は、前項の規定による釈放の命令があつたときは、直ちに、逃亡犯罪人を釈放しなければならない。
第二十七条 東京高等検察庁検事長は、仮拘禁許可状が発せられている逃亡犯罪人について第四条の規定による法務大臣の命令を受けたときは、直ちに、東京高等検察庁の検察官をして、逃亡犯罪人に対し引渡の請求があつた旨を告知させなければならない。
2 前項の告知は、逃亡犯罪人が仮拘禁許可状により拘禁されている場合には、その監獄の長に通知して行い、拘禁されていない場合には、逃亡犯罪人に書面を送付して行う。
3 仮拘禁許可状により拘禁されている逃亡犯罪人に対し第一項の規定による告知があつたときは、その拘禁は、拘禁許可状による拘禁とみなし、第八条第一項の規定の適用については、その告知があつた時に東京高等検察庁の検察官が拘禁許可状により逃亡犯罪人を拘禁したものとみなす。
第二十八条 外務大臣は、第二十三条の規定による書面の送付をした後に締約国から逃亡犯罪人の引渡の請求をしない旨の通知があつたときは、直ちに、その旨を法務大臣に通知しなければならない。
2 法務大臣は、前項の規定による通知を受けたときは、直ちに、東京高等検察庁検事長及び逃亡犯罪人にその旨を通知するとともに、東京高等検察庁検事長に対し、仮拘禁許可状により拘禁されている逃亡犯罪人の釈放を命じなければならない。
3 東京高等検察庁の検察官は、前項の規定による釈放の命令があつたときは、直ちに、逃亡犯罪人を釈放しなければならない。
第二十九条 仮拘禁許可状により逃亡犯罪人が拘禁されている監獄の長は、逃亡犯罪人が拘束された日から二箇月以内に第二十七条第二項の規定による通知を受けないときは、逃亡犯罪人を釈放し、その旨を東京高等検察庁検事長に報告しなければならない。
第三十条 第二十二条第一項から第五項までの規定は、仮拘禁許可状による拘禁に準用する。
2 前項において準用する第二十二条第一項の規定により、仮拘禁許可状による拘禁の停止があつた場合において、逃亡犯罪人に対し第二十七条第一項の規定による告知がなされたときは、当該仮拘禁許可状による拘禁の停止は、第二十二条第一項の規定による拘禁の停止とみなす。
3 第一項において準用する第二十二条第一項の規定により、仮拘禁許可状による拘禁の停止があつた場合において、左の各号の一に該当するときは、停止されている仮拘禁許可状による拘禁は、その効力を失う。
一 逃亡犯罪人に対し、第二十六条第一項又は第二十八条第二項の規定による通知があつたとき。
二 逃亡犯罪人が仮拘禁許可状により拘束された日から二箇月以内に、逃亡犯罪人に対し第二十七条第一項の規定による告知がないとき。
(最高裁判所の規則)
第三十一条 この法律に定めるものの外、東京高等裁判所の審査に関する手続及び拘禁許可状又は仮拘禁許可状の発付に関する手続について必要な事項は、最高裁判所が定める。
(東京高等裁判所の管轄区域の特例)
第三十二条 この法律に定める東京高等裁判所若しくはその裁判官又は東京高等検察庁の検察官の職務の執行に関しては、下級裁判所の設立及び管轄区域に関する法律(昭和二十二年法律第六十三号)の規定にかかわらず、東京高等裁判所には、管轄区域の定がないものとする。
(引渡条約発効前に犯された引渡犯罪に関する引渡の請求)
第三十三条 日本国と外国との間に新たに引渡条約が締結された場合においては、引渡条約に締約国が日本国に対し当該引渡条約の効力発生前に犯された引渡犯罪については逃亡犯罪人の引渡を請求することができない旨の定がある場合を除き、この法律は、当該引渡条約の効力発生前に犯された引渡犯罪につきその効力発生後になされた引渡の請求に関しても、適用されるものとする。
附 則
1 この法律は、昭和二十八年七月二十二日から施行する。
2 逃亡犯罪人引渡条例(明治二十年勅令第四十二号)は、廃止する。
3 この法律は、この法律の施行前に犯された引渡犯罪に関する逃亡犯罪人の引渡の請求についても、適用する。
4 監獄法(明治四十一年法律第二十八号)の一部を次のように改正する。
第一条第一項第四号中「刑事被告人」の下に「、拘禁許可状、仮拘禁許可状又ハ拘禁状ニ依リ監獄ニ拘禁シタル者」を加える。
第九条中「刑事被告人ニ適用ス可キ規定ハ」の下に「拘禁許可状、仮拘禁許可状又ハ拘禁状ニ依リ監獄ニ拘禁シタル者、」を加える。
5 刑事補償法(昭和二十五年法律第一号)の一部を次のように改正する。
第二十五条の次に次の一条を加える。
(逃亡犯罪人の引渡を請求した場合における補償)
第二十六条 犯罪人の引渡に関する条約により、日本国が締約国に対し逃亡犯罪人の引渡を請求した場合において、締約国が当該逃亡犯罪人の引渡のためにした抑留又は拘禁は、刑事訴訟法による抑留又は拘禁とみなす。
法務大臣 犬養健
外務大臣 岡崎勝男
内閣総理大臣 吉田茂