航空機抵当法
法令番号: 法律第66号
公布年月日: 昭和28年7月20日
法令の形式: 法律

改正対象法令

提案理由 (AIによる要約)

戦後の民間航空は7年以上の空白期間があり、世界の航空界から大きく立ち遅れている。民間航空の再建と健全な発達のためには、高価な航空機の購入資金確保が緊要である。しかし現行制度では航空機を担保にする場合、譲渡担保の形式しかなく、法律上不備で取引の安全性に問題がある。そこで、動産である航空機について近代的な担保方法である抵当制度を導入し、航空機購入のための資金調達を円滑化する必要がある。航空審議会も民間航空再建方策の答申でこの制度創設を強く要望している。

参照した発言:
第16回国会 衆議院 運輸委員会 第2号

審議経過

第16回国会

衆議院
(昭和28年6月23日)
参議院
(昭和28年6月24日)
(昭和28年6月26日)
衆議院
(昭和28年6月29日)
(昭和28年6月30日)
参議院
(昭和28年6月30日)
(昭和28年7月7日)
(昭和28年7月9日)
(昭和28年7月10日)
(昭和28年7月15日)
衆議院
(昭和28年8月10日)
参議院
(昭和28年8月10日)
航空機抵当法をここに公布する。
御名御璽
昭和二十八年七月二十日
内閣総理大臣 吉田茂
法律第六十六号
航空機抵当法
(この法律の目的)
第一条 この法律は、航空機に関する動産信用の増進により、航空の発達を図ることを目的とする。
(定義)
第二条 この法律で「航空機」とは、飛行機及び回転翼航空機で航空法(昭和二十七年法律第二百三十一号)第二章の規定による登録を受けたものをいう。
(抵当権の目的)
第三条 航空機は、抵当権の目的とすることができる。
(抵当権の内容)
第四条 抵当権者は、債務者又は第三者が占有を移さないで債務の担保に供した航空機(以下「抵当航空機」という。)につき、他の債権者に先だつて、自己の債権の弁済を受けることができる。
(対抗要件)
第五条 抵当権の得喪及び変更は、航空法に規定する航空機登録原簿に運輸大臣が行う登録を受けなければ、第三者に対抗することができない。
(抵当権の効力の及ぶ範囲)
第六条 抵当権は、抵当航空機に附加して一体となつている物に及ぶ。但し、設定行為に別段の定がある場合及び民法(明治二十九年法律第八十九号)第四百二十四条の規定により他の債権者が債務者の行為を取り消すことができる場合は、この限りでない。
(不可分性)
第七条 抵当権は、債権の全部の弁済を受けるまでは、抵当航空機の全部につき、その権利を行使することができる。
(物上代位)
第八条 抵当権は、抵当航空機の売却、賃貸、滅失又はき損によつて抵当権設定者が受けるべき金銭その他の物に対しても、行使することができる。この場合においては、その払渡又は引渡前に差押をしなければならない。
(物上保証人の求償権)
第九条 他人の債務を担保するため抵当権を設定した者がその債務を弁済し、又は抵当権の実行によつて抵当航空機の所有権を失つたときは、民法に規定する保証債務に関する規定に従い、債務者に対して求償権を有する。
(抵当権の順位)
第十条 数個の債権を担保するため同一の航空機について抵当権を設定したときは、その抵当権の順位は、登録の前後による。
(先取特権との順位)
第十一条 同一の航空機について抵当権及び先取特権が競合する場合には、抵当権は、民法第三百三十条第一項に規定する第一順位の先取特権と同順位とする。
(担保される利息等)
第十二条 抵当権者が利息その他の定期金を請求する権利を有するときは、その満期となつた最後の二年分についてのみその抵当権を行使することができる。
2 前項の規定は、抵当権者が債務の不履行によつて生じた損害の賠償を請求する権利を有する場合において、その最後の二年分についても適用する。但し、利息その他の定期金を通算して二年分をこえることができない。
(抵当権の処分)
第十三条 抵当権者は、抵当権を他の債権の担保に供し、又は同一の債務者に対する他の債権者の利益のため抵当権若しくはその順位を譲渡し、若しくは放棄することができる。
2 前項の場合において、抵当権者が数人のために抵当権の処分をしたときは、その処分の利益を受ける者の権利の順位は、抵当権の登録にした附記の前後による。
第十四条 前条の処分は、民法第四百六十七条の規定に従い、主たる債務者に抵当権の処分を通知し、又はその債務者がこれを承諾しなければ、これをもつてその債務者、保証人、抵当権設定者又はこれらの承継人に対抗することができない。
2 主たる債務者が前項の通知を受け、又は承諾をしたときは、抵当権の処分の利益を受ける者の承諾を得ないで行つた弁済は、これをもつてその者に対抗することができない。
(代価弁済)
第十五条 抵当航空機を買い受けた第三者が抵当権者の請求に応じてその代価を弁済したときは、抵当権は、その第三者のために消滅する。
(第三取得者の費用償還請求権)
第十六条 抵当航空機を取得した第三者が抵当航空機について必要費又は有益費を出したときは、民法第百九十六条の区別に従い、抵当航空機の代価をもつて最も先にその償還を受けることができる。
(共同抵当の代価の配当)
第十七条 債権者が同一の債権の担保として数個の航空機の上に抵当権を有する場合において、同時にその代価を配当すべきときは、その各航空機の価額に応じてその債権の負担を分ける。
2 ある航空機の代価のみを配当すべきときは、抵当権者は、その代価につき債権の全部の弁済を受けることができる。この場合においては、次の順位にある抵当権者は、右の抵当権者が前項の規定により他の航空機につき弁済を受けるべき金額に達するまでこれに代位して抵当権を行うことができる。
3 前項後段の規定により代位して抵当権を行う者は、その抵当権の登録にその代位を附記することができる。
(一般財産からの弁済)
第十八条 抵当権者は、抵当航空機の代価で弁済を受けない債権の部分についてのみ他の財産から弁済を受けることができる。
2 前項の規定は、抵当航空機の代価に先だつて他の財産の代価を配当すべき場合には、適用しない。
3 前項の場合において、抵当権者に第一項の規定による弁済を受けさせるため、他の債権者は、抵当権者に配当すべき金額の供託を請求することができる。
(抵当権者に対する通知)
第十九条 運輸大臣は、抵当航空機が航空法第八条第一項第三号に該当することとなつた場合において、同条第一項の規定によりまつ消登録の申請を受理したとき、又は同条第二項の催告をした後当該航空機の所有者が同項の期間内にまつ消登録を申請しないときは、遅滞なく、抵当権者に通知しなければならない。
(抵当権の実行)
第二十条 抵当権者は、前条の通知を受けたときは、当該航空機に対して、直ちに、その権利を実行することができる。
2 前項の規定により抵当権を実行しようとするときは、抵当権者は、前条の通知を受けた日から三箇月以内に、その手続をしなければならない。
3 運輸大臣は、前項の規定により抵当権の実行の手続をすることができる期間内及び抵当権の実行の終るまでの期間内は、第一項の航空機について航空法の規定によるまつ消登録をすることができない。
4 競落を許す決定が確定したときは、第一項の航空機について航空法第八条第一項第三号の事由が発生しなかつたものとみなす。
(時効による消滅)
第二十一条 抵当権は、債務者及び抵当権設定者に対しては、その担保する債権と同時でなければ、時効によって消滅しない。
第二十二条 債務者又は抵当権設定者以外の者が抵当航空機について取得時効に必要な条件を具備した占有をしたときは、抵当権は、これによつて消滅する。
(質権設定の禁止)
第二十三条 航空機は、質権の目的とすることができない。
(命令への委任)
第二十四条 航空機登録原簿の記載その他登録に関する事項は、政令で定める。
附 則
1 この法律の施行期日は、公布の日から起算して六箇月をこえない範囲内において政令で定める。
2 登録税法(明治二十九年法律第二十七号)の一部を次のように改正する。
第四条ノ三第一項中「航空機ノ登録」を「航空機ニ関スル登録」に、同項第一号中「新規登録」を「新規登録又は移転登録」に改め、同号の次に次の一号を加える。
一ノ二 抵当権ノ取得 債権金額 千分ノ三
第四条ノ三第一項第二号の次に次の三号を加える。
二ノ二 抹消シタル登録ノ回復 航空機毎一箇 金五十円
二ノ三 仮登録 航空機毎一箇 金五十円
二ノ四 附記登録 航空機毎一箇 金五十円
第四条ノ三第一項第三号中「抹消」を「更正又ハ抹消」に改める。
3 国税徴収法(明治三十年法律第二十一号)の一部を次のように改正する。
第二十三条ノ三中「所轄登記所」を「関係官庁」に、同条第一項中「不動産又は船舶」を「不動産若ハ船舶又ハ登録シタル自動車若ハ航空機」に、「登記」を「登記又ハ登録」に改める。
4 担保附社債信託法(明治三十八年法律第五十二号)の一部を次のように改正する。
第四条第一項第四号の二の次に次の一号を加える。
四ノ三 航空機抵当
5 運輸省設置法(昭和二十四年法律第百五十七号)の一部を次のように改正する。
第二十八条の二第一項第一号の次に次の一号を加える。
一の二 航空機抵当に関すること。
第二十八条の二第二項中「前項第五号から第七号まで」を「前項第一号、第一号の二、第五号から第七号まで」に、「同項第一号から第四号まで」を「同項第二号から第四号まで」に改める。
6 航空法の一部を次のように改正する。
第三条を次のように改める。
(登録)
第三条 運輸大臣は、この章で定めるところにより、航空機登録原簿に航空機の登録を行う。
第三条の次に次の二条を加える。
(国籍の取得)
第三条の二 航空機は、登録を受けたときは、日本の国籍を取得する。
(対抗力)
第三条の三 登録を受けた飛行機及び回転翼航空機の所有権の得喪及び変更は、登録を受けなければ、第三者に対抗することができない。
第五条の見出しを「(新規登録」)」に改め、同条中「登録は、航空機の所有者の申請により」を「登録を受けていない航空機の登録(以下「新規登録」という。)は、所有者の申請により」に改め、同条第六号中「及び登録番号」を削る。
第六条中「登録」を「新規登録」に改める。
第七条を次のように改める。
(変更登録)
第七条 新規登録を受けた航空機(以下「登録航空機」という。)について第五条第四号又は第五号に掲げる事項に変更があつたときは、その所有者は、その事由があつた日から十五日以内に、変更登録の申請をしなければならない。但し、次条の規定による移転登録又は第八条の規定によるまつ消登録の申請をすべき場合は、この限りでない。
第七条の次に次の一条を加える。
(移転登録)
第七条の二 登録航空機について所有者の変更があつたときは、新所有者は、その事由があつた日から十五日以内に、移転登録の申請をしなければならない。
第八条の見出しを「(まつ消登録)」に改め、同条中「登録のまつ消を申請し」を「まつ消登録の申請をし」に、同条第一項第二号中「三箇月」を「二箇月」に、同条第三項中「登録をまつ消し」を「まつ消登録をし」に改め、同項中「正当な理由がないのに」を削る。
第八条の次に次の三条を加える。
(航空機登録原簿の謄本等)
第八条の二 何人も、運輸大臣に対し、航空機登録原簿の謄本若しくは抄本の交付を請求し、又は利害関係がある部分に限り航空機登録原簿の閲覧を請求することができる。
(登録記号の打刻)
第八条の三 運輸大臣は、飛行機又は回転翼航空機について新規登録をしたときは、遅滞なく、当該航空機に登録記号を表示する打刻をしなければならない。
2 前項の航空機の所有者は、同項の打刻を受けるために、運輸大臣の指定する期日に当該航空機を運輸大臣に呈示しなければならない。
3 何人も、第一項の規定により打刻した登録記号の表示をき損してはならない。
(新規登録を受けた飛行機及び回転航空機に関する強制執行等)
第八条の四 新規登録を受けた飛行機又は回転翼航空機に関する強制執行については、地方裁判所が執行裁判所として、これを管轄する。
2 前項の強制執行に関し必要な事項は、最高裁判所が定める。
3 前二項の規定は、新規登録を受けた飛行機又は回転翼航空機の競売について準用する。
第九条を次のように改める。
(命令への委任)
第九条 航空機登録原簿の記載、登録の回復、登録の更正その他登録に関する事項は、政令で定める。
2 航空機登録証明書及び登録記号の打刻に関する細目的事項は、運輸省令で定める。
第十五条中「登録がまつ消された」を「まつ消登録があつた」に改める。
第百三十五条の表中
一 第十条第一項の耐空証明を申請する者
八万一千四百円
一 航空機登録原簿の謄本若しくは抄本の交付又は航空機登録原簿の閲覧を請求する者
五十円
一の二 第十条第一項の耐空証明を申請する者
八万一千四百円
に改める。
第百五十条中第一号を第一号の三とし、同号の前に次の二号を加える。
一 第八条の三第二項の規定に違反して、航空機を呈示しなかつた者
一の二 第八条の三第三項の規定に違反して、登録記号の表示をき損した者
第百五十九条中「又は人の業務」の下に「又は財産」を加える。
第百六十一条中第一号を第一号の二とし、同号中「第七条第一項、」を削り、同号の前に次の一号を加える。
一 第七条、第七条の二又は第八条第一項の規定による申請をしなかつた者
7 改正前の航空法の規定によりした航空機の登録は、この法律の施行後は、改正後の航空法第五条の規定によりした新規登録とみなす。
8 改正前の航空法第七条第一項の規定によりした登録の変更の届出は、この法律の施行後は、改正後の航空法第七条又は第七条の二の区分に従い、これらの規定によりした変更登録又は移転登録の申請とみなす。
9 改正前の航空法第八条第一項の規定によりした登録のまつ消の申請は、この法律の施行後は、改正後の航空法第八条第一項の規定によりしたまつ消登録の申請とみなす。
10 運輸大臣は、改正前の航空法の規定により登録をした飛行機又は回転航空機について、この法律の施行後遅滞なく、当該航空機に登録記号を表示する打刻をしなければならない。
11 前項の規定による打刻については、改正後の航空法第八条の三第二項及び第三項、第百五十条第一号及び第一号の二並びに第百五十九条の規定を準用する。
法務大臣 犬養健
大蔵大臣 小笠原三九郎
運輸大臣 石井光次郎
内閣総理大臣 吉田茂