(有体物の損害)
第五條 有体物で返還されたものについて生じた損害額は、その財産の返還時の状態を開戰時の状態まで回復するため補償時(第十六條第一項又は第四項の規定により日本政府が補償金を支拂う時をいう。以下同じ。)において必要な金額のうち前條第一項に規定する損害に係る金額とする。この場合において、その財産がその返還後日本政府の負担によつて補修されたものであるときは、当該財産については、その補修された時の状態を返還時の状態とみなす。
2 有体物で滅失し、若しくは著しいき損が生じたため又は所在不明のため返還されなかつたものについて生じた損害額は、開戰時の状態のその財産と同様の財産を本邦内において買い入れるため補償時において必要な金額のうち前條第一項に規定する損害に係る金額とする。
3 前二項に規定する有体物以外の有体物について生じた損害額は、その財産の平和條約の効力発生時の状態を開戰時の状態まで回復するため補償時において必要な金額のうち前條第一項に規定する損害に係る金額とする。
(用役物権及び不動産の賃借権の損害)
第六條 地上権、永小作権、地役権又は不動産の賃借権で、これらの権利の目的物の滅失又は著しい変更のため返還されなかつたものについて生じた損害額は、これらの権利と同様の権利を本邦内において取得するため補償時において必要な金額とする。
(金銭債権の損害)
第七條 金銭債権について生じた損害額は、戰時特別措置により讓渡され、又は消滅した債権額とする。
2 金銭債権を担保する抵当権、質権、留置権若しくは先取特権が戰時特別措置により消滅した場合又はこれらの権利の目的物が戰争の結果滅失又はき損した場合における金銭債権について生じた損害額は、これらの権利の消滅又はその目的物の滅失若しくはき損により債権者が弁済を受けることができなくなつた額とする。
(公債等の損害)
第八條 戰時特別措置の適用を受けた公債、社債、特別の法律により法人の発行した債券又は外国若しくは外国法人の発行する公債若しくは社債(以下「公債等」という。)で返還されなかつたもののうち補償時までに償還期限が到来しているものについて生じた損害額は、その公債等の元本の額とその公債等に附属していた利札の額との合計額とする。
2 返還されなかつた公債等で補償時までに償還期限が到来していないものについて生じた損害額は、その公債等の補償時における時価と補償時までに支拂期限の到来している利札の額との合計額とする。
(工業所有権の損害)
第九條 専用権(旧工業所有権戰時法(大正六年法律第二十一号)第五條の規定により専用することの免許を受けた者の権利をいう。以下同じ。)を設定された特許発明に係る特許権(連合国人工業所有権戰後措置令(昭和二十四年政令第三百九号)第五條の規定により同條に規定する期間中におけるその特許発明の実施又は特許権の消滅に対する報酬又は損害賠償の請求権が放棄されたものを除く。)について生じた損害額は、その専用権者がその特許権の存続期間中その特許発明を実施した場合において支拂うべきであつた特許実施料に相当する金額からその特許権者が日本政府に対し納付すべきであつた特許料に相当する金額を差し引いた金額とする。
2 戰時特別措置によつて取り消され、又は特許権者である連合国人の自由な意思に基かないで讓渡された特許権(連合国人工業所有権戰後措置令第五條の規定により同條に規定する期間中におけるその特許発明の実施又は特許権の消滅に対する報酬又は損害賠償の請求権が放棄されたものを除く。)について生じた損害額は、その特許権が存続すべかりし期間中に、その特許発明を実施した者が支拂うべきであつた特許実施料に相当する金額から同期間中にその特許権者が日本政府に対し納付すべきであつた特許料に相当する金額を差し引いた金額とする。
3 特許料の不納又は存続期間の満了によつて消滅した特許権(連合国人工業所有権戰後措置令第五條の規定により同條に規定する期間中におけるその特許発明の実施又は特許権の消滅に対する報酬又は損害賠償の請求権が放棄されたものを除く。)について生じた損害額は、その特許料が納付され、又はその特許権の存続期間の延長が申請されていたならばその特許権が存続すべかりし期間中にその特許発明を実施した者が支拂うべきであつた特許実施料に相当する金額から同期間中にその特許権者が日本政府に対し納付すべきであつた特許料に相当する金額を差し引いた金額とする。
4 前三項の規定において、特許発明を実施した者がその実施した特許発明につき支拂うべきであつた特許実施料は、その特許権について開戰時において実施契約が存していたときは、その実施契約に定められていた特許実施料、開戰時において実施契約が存していなかつたときは、その特許権と類似の特許権について開戰時において存していた実施契約に定められていた特許実施料の計算方法に準じて算出する。
5 前項に規定する実施契約中に特許権者が実施権者に対し履行すべき義務又は実施権者が特許権者から受けることができる利益について定があるときは、第一項から第三項までに規定する期間中その義務が履行されず、又はその利益を受けることができなかつたことにより特許発明を実施した者が受けた不利益を参しやくして、その者が支拂うべき特許実施料を計算することができる。
6 第二項から前項までの規定は、実用新案権及び意匠権について準用する。
(商標権の損害)
第十條 戰時特別措置による取消又は存続期間の満了によつて消滅した商標権について生じた損害額は、その商標を使用した者がその商標を使用したことによつて受けた利益に相当する金額とその商標の信用を開戰時の状態に回復するため補償時において必要な金額との合計額とする。
(株式の損害)
第十一條 第二條第二項第二号及び第三号に掲げるもの以外の会社の株式について生じた損害額は、当該株式の発行会社について第十二條の規定により計算した損害額に、開戰時における当該会社の拂込済資本金の額に対し連合国人が開戰時において有していた当該会社の株式の拂込済株金額が有する割合を乗じて得た金額とする。
2 返還前に残余財産の分配が行われた会社の株式について生じた損害額は、返還時前の分配額に相当する金額を前項の金額に加算した金額とする。
(会社の損害額の計算)
第十二條 会社の損害額は、開戰時において当該会社が本邦内に有していた財産について生じた第四條第一項に規定する損害額を第五條から前條までの規定に準じて算出した金額から左に掲げる金額を差し引いた金額とする。
一 会社が企業再建整備法(昭和二十一年法律第四十号)又は金融機関再建整備法(昭和二十一年法律第三十九号)に規定する特別損失又は確定損を生じたものである場合において、当該特別損失又は確定損が債務の切捨によつて補てんされたときは、その切り捨てられた債務のうち会社が開戰時において有していたものの額
二 会社が戰争の結果受けた損害を補てんするため減資した場合において、連合国人以外の株主の拂込によつてその資本を補充したときは、その補充した金額
三 会社が開戰時において有していなかつた財産で補償時において有しているものの時価がその取得価額をこえるときは、その超過額
(合併した会社等の株式の損害額)
第十三條 開戰時後株式の発行会社が合併し、又は分割した場合における株式の損害額は、前二條の規定の例に準じ計算するものとする。