朕は、帝國議會の協贊を經た罹災都市借地借家臨時處理法を裁可し、ここにこれを公布せしめる。
御名御璽
昭和二十一年八月二十六日
内閣總理大臣 吉田茂
司法大臣 木村篤太郎
大藏大臣 石橋湛山
法律第十三號
罹災都市借地借家臨時處理法
第一條 この法律において、罹災建物とは、空襲その他今次の戰爭に因る災害のため滅失した建物をいひ、疎開建物とは、今次の戰爭に際し防空上の必要により除却された建物をいひ、借地權とは、建物の所有を目的とする地上權及び賃借權をいひ、借地とは、借地權の設定された土地をいひ、借家とは、賃借された建物をいふ。
第二條 罹災建物が滅失した當時におけるその建物の借主は、その建物の敷地又はその換地に借地權の存しない場合には、その土地の所有者に對し、この法律施行の日から一箇年以内に建物所有の目的で賃借の申出をすることによつて、他の者に優先して、相當な借地條件で、その土地を賃借することができる。但し、その土地を、權原により現に建物所有の目的で使用する者があるとき、又は他の法令により、その土地に建物を築造するについて許可を必要とする場合に、その許可がないときは、その申出をすることができない。
土地所有者は、前項の申出を受けた日から三週間以内に、拒絶の意思を表示しないときは、その期間滿了の時、その申出を承諾したものとみなす。
土地所有者は、建物所有の目的で自ら使用することを必要とする場合その他正當な事由があるのでなければ、第一項の申出を拒絶することができない。
第三者に對抗することのできない借地權及び臨時設備その他一時使用のために設定されたことの明かな借地權は、第一項の規定の適用については、これを借地權でないものとみなす。
第三條 前條第一項の借主は、罹災建物の敷地又はその換地に借地權の存する場合には、その借地權者(借地權者が更に借地權を設定した場合には、その借地權の設定を受けた者)に對し、同項の期間内にその者の有する借地權の讓渡の申出をすることによつて、他の者に優先して、相當な對價で、その借地權の讓渡を受けることができる。この場合には、前條第一項但書及び第二項乃至第四項の規定を準用する。
第四條 前條の規定により賃借權が讓渡された場合には、その讓渡について、賃貸人の承諾があつたものとみなす。この場合には、讓受人は、讓渡を受けたことを、直ちに賃貸人に通知しなければならない。
第五條 第二條の規定により設定された賃借權の存續期間は、借地法第二條の規定にかかはらず、これを十年とする。但し、建物が、この期間滿了前に朽廢したときは、賃借權は、これに因つて消滅する。
當事者は、前項の規定にかかはらず、その合意により、別段の定をすることができる。但し、存續期間を十年未滿とする借地條件は、これを定めないものとみなす。
第六條 第二條の規定による賃借權の設定又は第三條の規定による借地權の讓渡があつた場合において、その土地を、權原により現に耕作の目的で使用する者(第二十九條第一項本文又は第三項の規定により使用する者を除く。)があるときは、その者は、賃借權の設定又は借地權の讓渡があつた後(その賃借權の設定又は借地權の讓渡について、裁判があつたときは、その裁判が確定した後、調停があつたときは、その調停が成立した後)、六箇月間に限り、その土地の使用を續けることができる。但し、裁判所は、申立により、その期間を短縮し、又は伸長することができる。
第二條の規定により設定された賃借權又は第三條の規定により讓渡された借地權の存續期間は、前項又は第二十九條第一項本文若しくは第三項の規定による土地の使用の續く間、その進行を停止する。この場合には、その停止期間中、借地權者は、その權利を行使することができず、又、地代又は借賃の支拂義務は、發生しない。
第一項の規定により土地を使用する者が、自ら、第二條の規定による賃借權の設定又は第三條の規定による借地權の讓渡を受けた場合には、前二項の規定を適用しない。
第七條 第二條第一項の借主が、同條の規定による賃借權の設定又は第三條の規定による借地權の讓渡を受けた後(その賃借權の設定又は借地權の讓渡について、裁判があつたときは、その裁判が確定した後、調停があつたときは、その調停が成立した後)、六箇月を經過しても、正當な事由がなくて、建物所有の目的でその土地の使用を始めなかつたときは、土地所有者又は借地權の讓渡人は、その賃借權の設定契約又は借地權の讓渡契約を解除することができる。但し、その解除前にその使用を始めたときは、この限りでない。
第二條第一項の借主が、建物所有の目的でその土地の使用を始めた後、建物の完成前に、その使用を止めた場合にも、前項と同樣である。
前條第一項又は第二十九條第一項本文若しくは第三項の規定により土地を使用する者がある場合には、第一項の六箇月は、その使用の終つた時から、これを起算する。
第八條 第二條の規定による賃借權の設定又は第三條の規定による借地權の讓渡があつたときは、賃貸人又は借地權の讓渡人は、借賃の全額又は借地權の讓渡の對價について、借地權者がその土地に所有する建物の上に、先取特權を有する。
前項の先取特權は、借賃については、その額及び、若し存續期間若しくは借賃の支拂時期の定があるときはその旨、又は若し辨濟期の來た借賃があるときはその旨、讓渡の對價については、その對價の辨濟されない旨を登記することによつて、その效力を保存する。
第一項の先取特權は、他の權利に對し、優先の效力を有する。但し、國税徴收法により徴收することのできる請求權、共益費用不動産保存不動産工事の先取特權竝びに前項の登記前に登記した質權及び抵當權に後れる。
第九條 疎開建物が除却された當時におけるその敷地の借地權者、その當時借地權以外の權利に基いてその敷地にその建物を所有してゐた者及びその當時におけるその建物の借主については、前七條の規定を準用する。但し、公共團體が、疎開建物の敷地又はその換地を所有し、又は賃借してゐる場合は、この限りでない。
第十條 罹災建物が滅失し、又は疎開建物が除却された當時から、引き續き、その建物の敷地又はその換地に借地權を有する者は、その借地權の登記及びその土地にある建物の登記がなくても、これを以て、昭和二十一年七月一日から五箇年以内に、その土地について權利を取得した第三者に、對抗することができる。
第十一條 この法律施行の際現に罹災建物又は疎開建物の敷地にある借地權(臨時設備その他一時使用のために設定されたことの明かな借地權を除く。)の殘存期間が、十年未滿のときは、これを十年とする。この場合には、第五條第一項但書及び第二項の規定を準用する。
第十二條 土地所有者は、この法律施行の日から一箇年以内に、第十條に規定する借地權者(罹災建物が滅失し、又は疎開建物が除却された後、更に借地權を設定してゐる者を除く。)に對し、一箇月以上の期間を定めて、その期間内に、借地權を存續させる意思があるかないかを申し出るやうに、催告することができる。若し、借地權者が、その期間内に、借地權を存續させる意思があることを申し出ないときは、その期間滿了の時、借地權は、消滅する。但し、借地權者が更に借地權を設定してゐる場合には、各〻の借地權は、すべての借地權者が、その申出をしないときに限り、消滅する。
前項の催告は、土地所有者が、借地權者を知ることができず、又はその所在を知ることができないときは、公示の方法で、これをすることができる。
前項の公示は、公示送達に關する民事訴訟法の規定に從ひ、裁判所の掲示場に掲示し、且つ、その掲示のあつたことを、新聞紙に二囘掲載して、これを行ふ。
公示に關する手續は、借地の所在地の區裁判所の管轄に屬する。
第二項の場合には、民法第九十七條ノ二第三項及び第五項の規定を準用する。
第十三條 借地權者が更に借地權を設定してゐる場合に、その借地權を設定してゐる者については、前條の規定を準用する。
第十四條 罹災建物が滅失し、又は疎開建物が除却された當時におけるその建物の借主は、その建物の敷地又はその換地に、その建物が滅失し、又は除却された後、その借主以外の者により、最初に築造された建物について、その完成前賃借の申出をすることによつて、他の者に優先して、相當な借家條件で、その建物を賃借することができる。但し、その借主が、罹災建物が滅失し、又は疎開建物が除却された後、その借主以外の者により、その敷地に建物が築造された場合におけるその建物の最後の借主でないときは、その敷地の換地に築造された建物については、この申出をすることができない。
前項の場合には、第二條第二項及び第三項の規定を準用する。
第十五條 第二條(第九條及び第三十二條第一項において準用する場合を含む。)若しくは前條の規定による賃借權の設定又は第三條(第九條及び第三十二條第一項において準用する場合を含む。)の規定による借地權の讓渡に關する法律關係について、當事者間に、爭があり、又は協議が調はないときは、申立により、裁判所は、鑑定委員會の意見を聽き、從前の賃貸借の條件、土地又は建物の状況その他一切の事情を斟酌して、これを定めることができる。
第十六條 第二條(第九條及び第三十二條第一項において準用する場合を含む。)若しくは第十四條の規定による賃借の申出又は第三條(第九條及び第三十二條第一項において準用する場合を含む。)の規定による借地權の讓渡の申出をした者が數人ある場合に、賃借しようとする土地若しくは建物又は讓渡を受けようとする借地權の目的である土地の割當について、當事者間に協議が調はないときは、裁判所は、申立により、土地又は建物の状況、借主又は讓受人の職業その他一切の事情を斟酌して、その割當をすることができる。
裁判所は、當事者間の衡平を維持するため必要があると認めるときは、割當を受けない者又は著しく不利益な割當を受けた者のために、著しく利益な割當を受けた者に對し、相當な出捐を命ずることができる。
第十七條 地代、借賃、敷金その他の借地借家の條件が著しく不當なときは、當事者の申立により、裁判所は、鑑定委員會の意見を聽き、借地借家關係を衡平にするために、その條件の變更を命ずることができる。この場合には、裁判所は、敷金その他の財産上の給付の返還を命じ、又はその給付を地代若しくは借賃の前拂とみなし、その他相當な處分を命ずることができる。
第十八條 第六條第一項但書(第九條において準用する場合を含む。)又は第十五條乃至前條の規定による裁判は、借地又は借家の所在地を管轄する區裁判所が、非訟事件手續法により、これをする。
第十九條 鑑定委員會は、三人以上の委員を以て、これを組織する。
鑑定委員は、裁判所が、各事件について、左の者の中からこれを指定する。
一 地方裁判所長が、毎年豫め、特別の知識經驗のある者その他適當な者の中から選任した者
二 當事者が、合意で選定した者
第二十條 鑑定委員會の決議は、委員の過半數の意見による。
第二十一條 鑑定委員會の評議は、祕密とする。
第二十二條 鑑定委員には、旅費、日當及び止宿料を給する。その額は、勅令でこれを定める。
第二十三條 第十五條乃至第十七條の規定による申立があつた場合には、借地借家調停法第四條ノ二及び第五條の規定を準用する。この場合に、調停に付する裁判に對しては、不服を申し立てることができない。
第二十四條 第六條第一項但書(第九條において準用する場合を含む。)又は第十五條乃至第十七條の規定による裁判に對しては、即時抗告をすることができる。その期間は、これを二週間とする。
前項の即時抗告は、執行停止の效力を有する。
第二十五條 第十五條乃至第十七條の規定による裁判は、裁判上の和解と同一の效力を有する。
附 則
第二十六條 この法律施行の期日は、勅令でこれを定める。
第二十七條 この法律を適用する地區は、勅令でこれを定める。
第二十八條 借地借家臨時處理法及び戰時罹災土地物件令は、これを廢止する。
第二十九條 罹災建物の敷地につきこの法律施行の際現に存する舊令第四條第一項の規定による賃借權は、建物の所有を目的とするものについてはこの法律施行の日から一箇年間、その他のものについてはこの法律施行の日から六箇月間に限り、なほ存續する。但し、その敷地につき、舊令第三條第一項の規定の適用を受ける借地權を有する者(舊令第四條第一項の規定による賃借權に基いて、その敷地を他の者に使用させてゐる者を除く。)については、この限りでない。
前項本文の賃借權は、その敷地を自ら使用する賃借人又は轉借人が、その敷地の使用を止め、この法律施行の際におけるその敷地の使用の目的を變更し、又はあらたにその敷地につき使用若しくは收益を目的とする權利を取得したときは、同項の期間滿了前でも、これに因つて消滅する。
舊令第四條第四項の規定により、昭和二十一年七月一日前からこの法律施行の際まで、引き續き、罹災建物の敷地を現に使用する者がある場合には、同項に規定する土地所有者の權利については、前二項の規定を準用する。
第三十條 この法律施行の際現に存する舊令第三條第一項の規定の適用を受ける借地權の存續期間は、前條第一項本文又は第三項に規定する權利が存續してゐる間、なほその進行を停止する。この場合には、舊令第三條第二項の規定は、この法律施行後(昭和二十年法律第四十四號附則第二項の期間經過後を含む。以下同じ。)においても、なほその效力を有する。
第三十一條 第二十九條第一項本文又は第三項の規定に基いて存續する借地權は、第二條第一項(第三十二條第一項において準用する場合を含む。)及び第三條第一項(第三十二條第一項において準用する場合を含む。)の規定の適用については、これを借地權でないものとみなす。
第三十二條 第二十九條第一項本文又は第三項の規定に基いて、建物所有の目的で罹災建物の敷地又はその換地を自ら使用する者については、第二條乃至第五條、第七條第二項及び第八條の規定を準用する。
前項に規定する者は、同項において準用する第二條第一項又は第三條第一項の規定による賃借權の設定又は借地權の讓渡の申出を拒絶されたときは、その申出を拒絶した者に對し、權原によりその土地に所有する建物を、相當な對價で買ひ取るべきことを請求することができる。
第三十三條 舊令第七條第一項の規定により設定された使用權でこの法律施行の際現に存するものは、この法律施行の日から五箇年間に限り、なほ存續する。この場合には、舊令第十三條、第十六條及び第十七條の規定は、この法律施行後においても、なほその效力を有する。
地方長官は、舊令第十六條第一項各號の場合の外、使用權の設定された土地について、換地豫定地の指定又は換地處分の告示があつた場合においても、その使用權を取り消すことができる。この場合には、舊令第十六條第二項の規定を準用する。
第三十四條 舊令第五條、第十五條及び第十八條第二項の規定は、この法律施行後においても、なほその效力を有する。
第三十五條 第八條(第九條及び第三十二條第一項において準用する場合を含む。)の規定により、まだ辨濟期の來ない借賃につき先取特權に關する登記を受ける場合においては、賃貸借の存續期間における借賃の全額から、既に辨濟期の來た借賃の額を控除した金額を以て、登録税法第二條第一項第九號に規定する債權金額とみなす。
朕は、帝国議会の協賛を経た罹災都市借地借家臨時処理法を裁可し、ここにこれを公布せしめる。
御名御璽
昭和二十一年八月二十六日
内閣総理大臣 吉田茂
司法大臣 木村篤太郎
大蔵大臣 石橋湛山
法律第十三号
罹災都市借地借家臨時処理法
第一条 この法律において、罹災建物とは、空襲その他今次の戦争に因る災害のため滅失した建物をいひ、疎開建物とは、今次の戦争に際し防空上の必要により除却された建物をいひ、借地権とは、建物の所有を目的とする地上権及び賃借権をいひ、借地とは、借地権の設定された土地をいひ、借家とは、賃借された建物をいふ。
第二条 罹災建物が滅失した当時におけるその建物の借主は、その建物の敷地又はその換地に借地権の存しない場合には、その土地の所有者に対し、この法律施行の日から一箇年以内に建物所有の目的で賃借の申出をすることによつて、他の者に優先して、相当な借地条件で、その土地を賃借することができる。但し、その土地を、権原により現に建物所有の目的で使用する者があるとき、又は他の法令により、その土地に建物を築造するについて許可を必要とする場合に、その許可がないときは、その申出をすることができない。
土地所有者は、前項の申出を受けた日から三週間以内に、拒絶の意思を表示しないときは、その期間満了の時、その申出を承諾したものとみなす。
土地所有者は、建物所有の目的で自ら使用することを必要とする場合その他正当な事由があるのでなければ、第一項の申出を拒絶することができない。
第三者に対抗することのできない借地権及び臨時設備その他一時使用のために設定されたことの明かな借地権は、第一項の規定の適用については、これを借地権でないものとみなす。
第三条 前条第一項の借主は、罹災建物の敷地又はその換地に借地権の存する場合には、その借地権者(借地権者が更に借地権を設定した場合には、その借地権の設定を受けた者)に対し、同項の期間内にその者の有する借地権の譲渡の申出をすることによつて、他の者に優先して、相当な対価で、その借地権の譲渡を受けることができる。この場合には、前条第一項但書及び第二項乃至第四項の規定を準用する。
第四条 前条の規定により賃借権が譲渡された場合には、その譲渡について、賃貸人の承諾があつたものとみなす。この場合には、譲受人は、譲渡を受けたことを、直ちに賃貸人に通知しなければならない。
第五条 第二条の規定により設定された賃借権の存続期間は、借地法第二条の規定にかかはらず、これを十年とする。但し、建物が、この期間満了前に朽廃したときは、賃借権は、これに因つて消滅する。
当事者は、前項の規定にかかはらず、その合意により、別段の定をすることができる。但し、存続期間を十年未満とする借地条件は、これを定めないものとみなす。
第六条 第二条の規定による賃借権の設定又は第三条の規定による借地権の譲渡があつた場合において、その土地を、権原により現に耕作の目的で使用する者(第二十九条第一項本文又は第三項の規定により使用する者を除く。)があるときは、その者は、賃借権の設定又は借地権の譲渡があつた後(その賃借権の設定又は借地権の譲渡について、裁判があつたときは、その裁判が確定した後、調停があつたときは、その調停が成立した後)、六箇月間に限り、その土地の使用を続けることができる。但し、裁判所は、申立により、その期間を短縮し、又は伸長することができる。
第二条の規定により設定された賃借権又は第三条の規定により譲渡された借地権の存続期間は、前項又は第二十九条第一項本文若しくは第三項の規定による土地の使用の続く間、その進行を停止する。この場合には、その停止期間中、借地権者は、その権利を行使することができず、又、地代又は借賃の支払義務は、発生しない。
第一項の規定により土地を使用する者が、自ら、第二条の規定による賃借権の設定又は第三条の規定による借地権の譲渡を受けた場合には、前二項の規定を適用しない。
第七条 第二条第一項の借主が、同条の規定による賃借権の設定又は第三条の規定による借地権の譲渡を受けた後(その賃借権の設定又は借地権の譲渡について、裁判があつたときは、その裁判が確定した後、調停があつたときは、その調停が成立した後)、六箇月を経過しても、正当な事由がなくて、建物所有の目的でその土地の使用を始めなかつたときは、土地所有者又は借地権の譲渡人は、その賃借権の設定契約又は借地権の譲渡契約を解除することができる。但し、その解除前にその使用を始めたときは、この限りでない。
第二条第一項の借主が、建物所有の目的でその土地の使用を始めた後、建物の完成前に、その使用を止めた場合にも、前項と同様である。
前条第一項又は第二十九条第一項本文若しくは第三項の規定により土地を使用する者がある場合には、第一項の六箇月は、その使用の終つた時から、これを起算する。
第八条 第二条の規定による賃借権の設定又は第三条の規定による借地権の譲渡があつたときは、賃貸人又は借地権の譲渡人は、借賃の全額又は借地権の譲渡の対価について、借地権者がその土地に所有する建物の上に、先取特権を有する。
前項の先取特権は、借賃については、その額及び、若し存続期間若しくは借賃の支払時期の定があるときはその旨、又は若し弁済期の来た借賃があるときはその旨、譲渡の対価については、その対価の弁済されない旨を登記することによつて、その効力を保存する。
第一項の先取特権は、他の権利に対し、優先の効力を有する。但し、国税徴収法により徴収することのできる請求権、共益費用不動産保存不動産工事の先取特権並びに前項の登記前に登記した質権及び抵当権に後れる。
第九条 疎開建物が除却された当時におけるその敷地の借地権者、その当時借地権以外の権利に基いてその敷地にその建物を所有してゐた者及びその当時におけるその建物の借主については、前七条の規定を準用する。但し、公共団体が、疎開建物の敷地又はその換地を所有し、又は賃借してゐる場合は、この限りでない。
第十条 罹災建物が滅失し、又は疎開建物が除却された当時から、引き続き、その建物の敷地又はその換地に借地権を有する者は、その借地権の登記及びその土地にある建物の登記がなくても、これを以て、昭和二十一年七月一日から五箇年以内に、その土地について権利を取得した第三者に、対抗することができる。
第十一条 この法律施行の際現に罹災建物又は疎開建物の敷地にある借地権(臨時設備その他一時使用のために設定されたことの明かな借地権を除く。)の残存期間が、十年未満のときは、これを十年とする。この場合には、第五条第一項但書及び第二項の規定を準用する。
第十二条 土地所有者は、この法律施行の日から一箇年以内に、第十条に規定する借地権者(罹災建物が滅失し、又は疎開建物が除却された後、更に借地権を設定してゐる者を除く。)に対し、一箇月以上の期間を定めて、その期間内に、借地権を存続させる意思があるかないかを申し出るやうに、催告することができる。若し、借地権者が、その期間内に、借地権を存続させる意思があることを申し出ないときは、その期間満了の時、借地権は、消滅する。但し、借地権者が更に借地権を設定してゐる場合には、各々の借地権は、すべての借地権者が、その申出をしないときに限り、消滅する。
前項の催告は、土地所有者が、借地権者を知ることができず、又はその所在を知ることができないときは、公示の方法で、これをすることができる。
前項の公示は、公示送達に関する民事訴訟法の規定に従ひ、裁判所の掲示場に掲示し、且つ、その掲示のあつたことを、新聞紙に二回掲載して、これを行ふ。
公示に関する手続は、借地の所在地の区裁判所の管轄に属する。
第二項の場合には、民法第九十七条ノ二第三項及び第五項の規定を準用する。
第十三条 借地権者が更に借地権を設定してゐる場合に、その借地権を設定してゐる者については、前条の規定を準用する。
第十四条 罹災建物が滅失し、又は疎開建物が除却された当時におけるその建物の借主は、その建物の敷地又はその換地に、その建物が滅失し、又は除却された後、その借主以外の者により、最初に築造された建物について、その完成前賃借の申出をすることによつて、他の者に優先して、相当な借家条件で、その建物を賃借することができる。但し、その借主が、罹災建物が滅失し、又は疎開建物が除却された後、その借主以外の者により、その敷地に建物が築造された場合におけるその建物の最後の借主でないときは、その敷地の換地に築造された建物については、この申出をすることができない。
前項の場合には、第二条第二項及び第三項の規定を準用する。
第十五条 第二条(第九条及び第三十二条第一項において準用する場合を含む。)若しくは前条の規定による賃借権の設定又は第三条(第九条及び第三十二条第一項において準用する場合を含む。)の規定による借地権の譲渡に関する法律関係について、当事者間に、争があり、又は協議が調はないときは、申立により、裁判所は、鑑定委員会の意見を聴き、従前の賃貸借の条件、土地又は建物の状況その他一切の事情を斟酌して、これを定めることができる。
第十六条 第二条(第九条及び第三十二条第一項において準用する場合を含む。)若しくは第十四条の規定による賃借の申出又は第三条(第九条及び第三十二条第一項において準用する場合を含む。)の規定による借地権の譲渡の申出をした者が数人ある場合に、賃借しようとする土地若しくは建物又は譲渡を受けようとする借地権の目的である土地の割当について、当事者間に協議が調はないときは、裁判所は、申立により、土地又は建物の状況、借主又は譲受人の職業その他一切の事情を斟酌して、その割当をすることができる。
裁判所は、当事者間の衡平を維持するため必要があると認めるときは、割当を受けない者又は著しく不利益な割当を受けた者のために、著しく利益な割当を受けた者に対し、相当な出捐を命ずることができる。
第十七条 地代、借賃、敷金その他の借地借家の条件が著しく不当なときは、当事者の申立により、裁判所は、鑑定委員会の意見を聴き、借地借家関係を衡平にするために、その条件の変更を命ずることができる。この場合には、裁判所は、敷金その他の財産上の給付の返還を命じ、又はその給付を地代若しくは借賃の前払とみなし、その他相当な処分を命ずることができる。
第十八条 第六条第一項但書(第九条において準用する場合を含む。)又は第十五条乃至前条の規定による裁判は、借地又は借家の所在地を管轄する区裁判所が、非訟事件手続法により、これをする。
第十九条 鑑定委員会は、三人以上の委員を以て、これを組織する。
鑑定委員は、裁判所が、各事件について、左の者の中からこれを指定する。
一 地方裁判所長が、毎年予め、特別の知識経験のある者その他適当な者の中から選任した者
二 当事者が、合意で選定した者
第二十条 鑑定委員会の決議は、委員の過半数の意見による。
第二十一条 鑑定委員会の評議は、秘密とする。
第二十二条 鑑定委員には、旅費、日当及び止宿料を給する。その額は、勅令でこれを定める。
第二十三条 第十五条乃至第十七条の規定による申立があつた場合には、借地借家調停法第四条ノ二及び第五条の規定を準用する。この場合に、調停に付する裁判に対しては、不服を申し立てることができない。
第二十四条 第六条第一項但書(第九条において準用する場合を含む。)又は第十五条乃至第十七条の規定による裁判に対しては、即時抗告をすることができる。その期間は、これを二週間とする。
前項の即時抗告は、執行停止の効力を有する。
第二十五条 第十五条乃至第十七条の規定による裁判は、裁判上の和解と同一の効力を有する。
附 則
第二十六条 この法律施行の期日は、勅令でこれを定める。
第二十七条 この法律を適用する地区は、勅令でこれを定める。
第二十八条 借地借家臨時処理法及び戦時罹災土地物件令は、これを廃止する。
第二十九条 罹災建物の敷地につきこの法律施行の際現に存する旧令第四条第一項の規定による賃借権は、建物の所有を目的とするものについてはこの法律施行の日から一箇年間、その他のものについてはこの法律施行の日から六箇月間に限り、なほ存続する。但し、その敷地につき、旧令第三条第一項の規定の適用を受ける借地権を有する者(旧令第四条第一項の規定による賃借権に基いて、その敷地を他の者に使用させてゐる者を除く。)については、この限りでない。
前項本文の賃借権は、その敷地を自ら使用する賃借人又は転借人が、その敷地の使用を止め、この法律施行の際におけるその敷地の使用の目的を変更し、又はあらたにその敷地につき使用若しくは収益を目的とする権利を取得したときは、同項の期間満了前でも、これに因つて消滅する。
旧令第四条第四項の規定により、昭和二十一年七月一日前からこの法律施行の際まで、引き続き、罹災建物の敷地を現に使用する者がある場合には、同項に規定する土地所有者の権利については、前二項の規定を準用する。
第三十条 この法律施行の際現に存する旧令第三条第一項の規定の適用を受ける借地権の存続期間は、前条第一項本文又は第三項に規定する権利が存続してゐる間、なほその進行を停止する。この場合には、旧令第三条第二項の規定は、この法律施行後(昭和二十年法律第四十四号附則第二項の期間経過後を含む。以下同じ。)においても、なほその効力を有する。
第三十一条 第二十九条第一項本文又は第三項の規定に基いて存続する借地権は、第二条第一項(第三十二条第一項において準用する場合を含む。)及び第三条第一項(第三十二条第一項において準用する場合を含む。)の規定の適用については、これを借地権でないものとみなす。
第三十二条 第二十九条第一項本文又は第三項の規定に基いて、建物所有の目的で罹災建物の敷地又はその換地を自ら使用する者については、第二条乃至第五条、第七条第二項及び第八条の規定を準用する。
前項に規定する者は、同項において準用する第二条第一項又は第三条第一項の規定による賃借権の設定又は借地権の譲渡の申出を拒絶されたときは、その申出を拒絶した者に対し、権原によりその土地に所有する建物を、相当な対価で買ひ取るべきことを請求することができる。
第三十三条 旧令第七条第一項の規定により設定された使用権でこの法律施行の際現に存するものは、この法律施行の日から五箇年間に限り、なほ存続する。この場合には、旧令第十三条、第十六条及び第十七条の規定は、この法律施行後においても、なほその効力を有する。
地方長官は、旧令第十六条第一項各号の場合の外、使用権の設定された土地について、換地予定地の指定又は換地処分の告示があつた場合においても、その使用権を取り消すことができる。この場合には、旧令第十六条第二項の規定を準用する。
第三十四条 旧令第五条、第十五条及び第十八条第二項の規定は、この法律施行後においても、なほその効力を有する。
第三十五条 第八条(第九条及び第三十二条第一項において準用する場合を含む。)の規定により、まだ弁済期の来ない借賃につき先取特権に関する登記を受ける場合においては、賃貸借の存続期間における借賃の全額から、既に弁済期の来た借賃の額を控除した金額を以て、登録税法第二条第一項第九号に規定する債権金額とみなす。