第一條 この法律において、罹災建物とは、空襲その他今次の戰爭に因る災害のため滅失した建物をいひ、疎開建物とは、今次の戰爭に際し防空上の必要により除却された建物をいひ、借地權とは、建物の所有を目的とする地上權及び賃借權をいひ、借地とは、借地權の設定された土地をいひ、借家とは、賃借された建物をいふ。
第二條 罹災建物が滅失した當時におけるその建物の借主は、その建物の敷地又はその換地に借地權の存しない場合には、その土地の所有者に對し、この法律施行の日から一箇年以内に建物所有の目的で賃借の申出をすることによつて、他の者に優先して、相當な借地條件で、その土地を賃借することができる。但し、その土地を、權原により現に建物所有の目的で使用する者があるとき、又は他の法令により、その土地に建物を築造するについて許可を必要とする場合に、その許可がないときは、その申出をすることができない。
土地所有者は、前項の申出を受けた日から三週間以内に、拒絶の意思を表示しないときは、その期間滿了の時、その申出を承諾したものとみなす。
土地所有者は、建物所有の目的で自ら使用することを必要とする場合その他正當な事由があるのでなければ、第一項の申出を拒絶することができない。
第三者に對抗することのできない借地權及び臨時設備その他一時使用のために設定されたことの明かな借地權は、第一項の規定の適用については、これを借地權でないものとみなす。
第三條 前條第一項の借主は、罹災建物の敷地又はその換地に借地權の存する場合には、その借地權者(借地權者が更に借地權を設定した場合には、その借地權の設定を受けた者)に對し、同項の期間内にその者の有する借地權の讓渡の申出をすることによつて、他の者に優先して、相當な對價で、その借地權の讓渡を受けることができる。この場合には、前條第一項但書及び第二項乃至第四項の規定を準用する。
第四條 前條の規定により賃借權が讓渡された場合には、その讓渡について、賃貸人の承諾があつたものとみなす。この場合には、讓受人は、讓渡を受けたことを、直ちに賃貸人に通知しなければならない。
第五條 第二條の規定により設定された賃借權の存續期間は、借地法第二條の規定にかかはらず、これを十年とする。但し、建物が、この期間滿了前に朽廢したときは、賃借權は、これに因つて消滅する。
當事者は、前項の規定にかかはらず、その合意により、別段の定をすることができる。但し、存續期間を十年未滿とする借地條件は、これを定めないものとみなす。
第六條 第二條の規定による賃借權の設定又は第三條の規定による借地權の讓渡があつた場合において、その土地を、權原により現に耕作の目的で使用する者(第二十九條第一項本文又は第三項の規定により使用する者を除く。)があるときは、その者は、賃借權の設定又は借地權の讓渡があつた後(その賃借權の設定又は借地權の讓渡について、裁判があつたときは、その裁判が確定した後、調停があつたときは、その調停が成立した後)、六箇月間に限り、その土地の使用を續けることができる。但し、裁判所は、申立により、その期間を短縮し、又は伸長することができる。
第二條の規定により設定された賃借權又は第三條の規定により讓渡された借地權の存續期間は、前項又は第二十九條第一項本文若しくは第三項の規定による土地の使用の續く間、その進行を停止する。この場合には、その停止期間中、借地權者は、その權利を行使することができず、又、地代又は借賃の支拂義務は、發生しない。
第一項の規定により土地を使用する者が、自ら、第二條の規定による賃借權の設定又は第三條の規定による借地權の讓渡を受けた場合には、前二項の規定を適用しない。
第七條 第二條第一項の借主が、同條の規定による賃借權の設定又は第三條の規定による借地權の讓渡を受けた後(その賃借權の設定又は借地權の讓渡について、裁判があつたときは、その裁判が確定した後、調停があつたときは、その調停が成立した後)、六箇月を經過しても、正當な事由がなくて、建物所有の目的でその土地の使用を始めなかつたときは、土地所有者又は借地權の讓渡人は、その賃借權の設定契約又は借地權の讓渡契約を解除することができる。但し、その解除前にその使用を始めたときは、この限りでない。
第二條第一項の借主が、建物所有の目的でその土地の使用を始めた後、建物の完成前に、その使用を止めた場合にも、前項と同樣である。
前條第一項又は第二十九條第一項本文若しくは第三項の規定により土地を使用する者がある場合には、第一項の六箇月は、その使用の終つた時から、これを起算する。
第八條 第二條の規定による賃借權の設定又は第三條の規定による借地權の讓渡があつたときは、賃貸人又は借地權の讓渡人は、借賃の全額又は借地權の讓渡の對價について、借地權者がその土地に所有する建物の上に、先取特權を有する。
前項の先取特權は、借賃については、その額及び、若し存續期間若しくは借賃の支拂時期の定があるときはその旨、又は若し辨濟期の來た借賃があるときはその旨、讓渡の對價については、その對價の辨濟されない旨を登記することによつて、その效力を保存する。
第一項の先取特權は、他の權利に對し、優先の效力を有する。但し、國税徴收法により徴收することのできる請求權、共益費用不動産保存不動産工事の先取特權竝びに前項の登記前に登記した質權及び抵當權に後れる。
第九條 疎開建物が除却された當時におけるその敷地の借地權者、その當時借地權以外の權利に基いてその敷地にその建物を所有してゐた者及びその當時におけるその建物の借主については、前七條の規定を準用する。但し、公共團體が、疎開建物の敷地又はその換地を所有し、又は賃借してゐる場合は、この限りでない。
第十條 罹災建物が滅失し、又は疎開建物が除却された當時から、引き續き、その建物の敷地又はその換地に借地權を有する者は、その借地權の登記及びその土地にある建物の登記がなくても、これを以て、昭和二十一年七月一日から五箇年以内に、その土地について權利を取得した第三者に、對抗することができる。
第十一條 この法律施行の際現に罹災建物又は疎開建物の敷地にある借地權(臨時設備その他一時使用のために設定されたことの明かな借地權を除く。)の殘存期間が、十年未滿のときは、これを十年とする。この場合には、第五條第一項但書及び第二項の規定を準用する。
第十二條 土地所有者は、この法律施行の日から一箇年以内に、第十條に規定する借地權者(罹災建物が滅失し、又は疎開建物が除却された後、更に借地權を設定してゐる者を除く。)に對し、一箇月以上の期間を定めて、その期間内に、借地權を存續させる意思があるかないかを申し出るやうに、催告することができる。若し、借地權者が、その期間内に、借地權を存續させる意思があることを申し出ないときは、その期間滿了の時、借地權は、消滅する。但し、借地權者が更に借地權を設定してゐる場合には、各〻の借地權は、すべての借地權者が、その申出をしないときに限り、消滅する。
前項の催告は、土地所有者が、借地權者を知ることができず、又はその所在を知ることができないときは、公示の方法で、これをすることができる。
前項の公示は、公示送達に關する民事訴訟法の規定に從ひ、裁判所の掲示場に掲示し、且つ、その掲示のあつたことを、新聞紙に二囘掲載して、これを行ふ。
公示に關する手續は、借地の所在地の區裁判所の管轄に屬する。
第二項の場合には、民法第九十七條ノ二第三項及び第五項の規定を準用する。
第十三條 借地權者が更に借地權を設定してゐる場合に、その借地權を設定してゐる者については、前條の規定を準用する。
第十四條 罹災建物が滅失し、又は疎開建物が除却された當時におけるその建物の借主は、その建物の敷地又はその換地に、その建物が滅失し、又は除却された後、その借主以外の者により、最初に築造された建物について、その完成前賃借の申出をすることによつて、他の者に優先して、相當な借家條件で、その建物を賃借することができる。但し、その借主が、罹災建物が滅失し、又は疎開建物が除却された後、その借主以外の者により、その敷地に建物が築造された場合におけるその建物の最後の借主でないときは、その敷地の換地に築造された建物については、この申出をすることができない。
前項の場合には、第二條第二項及び第三項の規定を準用する。
第十五條 第二條(第九條及び第三十二條第一項において準用する場合を含む。)若しくは前條の規定による賃借權の設定又は第三條(第九條及び第三十二條第一項において準用する場合を含む。)の規定による借地權の讓渡に關する法律關係について、當事者間に、爭があり、又は協議が調はないときは、申立により、裁判所は、鑑定委員會の意見を聽き、從前の賃貸借の條件、土地又は建物の状況その他一切の事情を斟酌して、これを定めることができる。
第十六條 第二條(第九條及び第三十二條第一項において準用する場合を含む。)若しくは第十四條の規定による賃借の申出又は第三條(第九條及び第三十二條第一項において準用する場合を含む。)の規定による借地權の讓渡の申出をした者が數人ある場合に、賃借しようとする土地若しくは建物又は讓渡を受けようとする借地權の目的である土地の割當について、當事者間に協議が調はないときは、裁判所は、申立により、土地又は建物の状況、借主又は讓受人の職業その他一切の事情を斟酌して、その割當をすることができる。
裁判所は、當事者間の衡平を維持するため必要があると認めるときは、割當を受けない者又は著しく不利益な割當を受けた者のために、著しく利益な割當を受けた者に對し、相當な出捐を命ずることができる。
第十七條 地代、借賃、敷金その他の借地借家の條件が著しく不當なときは、當事者の申立により、裁判所は、鑑定委員會の意見を聽き、借地借家關係を衡平にするために、その條件の變更を命ずることができる。この場合には、裁判所は、敷金その他の財産上の給付の返還を命じ、又はその給付を地代若しくは借賃の前拂とみなし、その他相當な處分を命ずることができる。
第十八條 第六條第一項但書(第九條において準用する場合を含む。)又は第十五條乃至前條の規定による裁判は、借地又は借家の所在地を管轄する區裁判所が、非訟事件手續法により、これをする。
第十九條 鑑定委員會は、三人以上の委員を以て、これを組織する。
鑑定委員は、裁判所が、各事件について、左の者の中からこれを指定する。
一 地方裁判所長が、毎年豫め、特別の知識經驗のある者その他適當な者の中から選任した者
第二十條 鑑定委員會の決議は、委員の過半數の意見による。
第二十二條 鑑定委員には、旅費、日當及び止宿料を給する。その額は、勅令でこれを定める。
第二十三條 第十五條乃至第十七條の規定による申立があつた場合には、借地借家調停法第四條ノ二及び第五條の規定を準用する。この場合に、調停に付する裁判に對しては、不服を申し立てることができない。
第二十四條 第六條第一項但書(第九條において準用する場合を含む。)又は第十五條乃至第十七條の規定による裁判に對しては、即時抗告をすることができる。その期間は、これを二週間とする。
第二十五條 第十五條乃至第十七條の規定による裁判は、裁判上の和解と同一の效力を有する。