借地借家臨時処理法
法令番号: 法律第十六號
公布年月日: 大正13年7月22日
法令の形式: 法律
朕帝國議會ノ協贊ヲ經タル借地借家臨時處理法ヲ裁可シ玆ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
攝政名
大正十三年七月二十二日
內閣總理大臣 子爵 加藤高明
司法大臣 橫田千之助
法律第十六號
借地借家臨時處理法
第一條 本法ニ於テ借地借家ト稱スルハ借地法及借家法ニ於ケル借地借家ヲ謂フ
第二條 地代、家賃、敷金其ノ他借地借家ノ條件カ著シク不當ナルトキハ當事者ノ申立ニ因リ裁判所ハ鑑定委員會ノ意見ヲ聽キ借地借家關係ヲ衡平ナラシムル爲其ノ條件ノ變更ヲ命スルコトヲ得此ノ場合ニ於テ裁判所ハ敷金其ノ他ノ財產上ノ給付ノ返還ヲ命シ又ハ其ノ給付ヲ地代若ハ家賃ノ前拂ト看做シ其ノ他相當ナル處分ヲ命スルコトヲ得
第三條 大正十二年九月ノ震災ニ因リテ滅失シタル建物ノ借主ハ其ノ建物ノ敷地又ハ其ノ換地ノ上ニ新ニ築造セラレタル建物ニ付其ノ完成前賃借ノ申出ヲ爲シタルトキハ他ノ者ニ優先シテ之ヲ賃借スルコトヲ得滅失シタル建物ノ敷地又ハ其ノ換地ノ上ニ築造セラレタル假設建築物ノ借主亦同シ
前項ノ申出ヲ受ケタル者申出ヲ受ケタル日ヨリ二週間內ニ拒絕ノ意思ヲ表示セサルトキハ申出ヲ承諾シタルモノト看做ス
第一項ノ申出ハ正當ノ理由アルニ非サレハ之ヲ拒絕スルコトヲ得ス
第四條 前條ノ場合ニ於テ借家ニ付當事者間ニ協議調ハサルトキハ申立ニ因リ裁判所ハ鑑定委員會ノ意見ヲ聽キ從前ノ賃貸借ノ條件、建物ノ狀況其ノ他一切ノ事情ヲ斟酌シテ借家關係ヲ定ムルコトヲ得
第五條 新ニ築造セラレタル建物ニ付第三條第一項ノ規定ニ依リ賃借ノ申出ヲ爲シタル者數人アル場合ニ於テ賃借スヘキ建物ノ割當ニ付當事者間ニ協議調ハサルトキハ裁判所ハ申立ニ因リ從前ノ建物又ハ假設建築物ノ狀況、借主ノ職業其ノ他一切ノ事情ヲ斟酌シテ其ノ割當ヲ爲ス
前項ノ規定ニ依リ難キ場合ニ於テハ裁判所ハ抽籤ノ方法ヲ用ヰテ割當ヲ爲スコトヲ得
裁判所ハ當事者間ノ衡平ヲ維持スル爲必要アリト認ムルトキハ割當ヲ受ケサル借主又ハ著シク不利益ナル割當ヲ受ケタル借主ノ爲割當ニ因リ著シク利益ヲ受ケタル他ノ借主ニ對シ相當ナル出捐ヲ命スルコトヲ得
第六條 大正十二年九月ノ震災ニ因リテ滅失シタル建物ニ居住シタル者カ其ノ建物ノ敷地ノ上ニ假設建築物ヲ築造シタル場合ニ於テ敷地ノ借主カ之ニ同意シタルトキハ其ノ同意ニ付地主ノ承諾ヲ得サリシ場合ト雖地主ハ之ヲ理由トシテ契約ノ解除ヲ爲スコトヲ得ス但シ裁判所ノ許可ヲ得タルトキハ此ノ限ニ在ラス
第七條 借地ノ上ニ存スル借地人ノ建物カ大正十二年九月ノ震災ニ因リ滅失シタル場合ニ於テハ其ノ借地權ハ借地權ノ登記及其ノ土地ノ上ニ存スル建物ノ登記ナキモ之ヲ以テ大正十三年七月一日以後其ノ土地ニ付權利ヲ取得シタル第三者ニ對抗スルコトヲ得
第八條 第二條及第四條乃至第六條ノ規定ニ因ル裁判ハ借地又ハ借家ノ所在地ヲ管轄スル區裁判所ニ於テ非訴事件手續法ニ依リ之ヲ爲ス
第九條 鑑定委員會ハ五人以上ノ委員ヲ以テ之ヲ組織ス
第十條 鑑定委員ハ特別ノ知識經驗アル者其ノ他適當ナル者ニ就キ每年豫メ地方裁判所長ノ選任シタル者又ハ當事者ノ合意ニ依リ選定セラレタル者ノ中ヨリ各事件ニ付裁判所之ヲ指定ス
第十一條 鑑定委員會ノ決議ハ委員ノ過半數ノ意見ニ依ル
第十二條 鑑定委員會ノ評議ハ祕密トス
第十三條 鑑定委員ニハ旅費、日當及止宿料ヲ給ス其ノ額ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第十四條 借地借家調停法第四條ノ二及第五條ノ規定ハ第二條、第四條及第五條ノ規定ニ依ル申立竝第六條ノ規定ニ依ル許可ノ申請アリタル場合ニ之ヲ準用ス此ノ場合ニ於テ調停ニ付スル裁判ニ對シテハ不服ヲ申立ツルコトヲ得ス
第十五條 第二條及第四條乃至第六條ノ規定ニ依ル裁判ニ對シテハ卽時抗告ヲ爲スコトヲ得其ノ期間ハ之ヲ二週間トス
前項ノ卽時抗告ハ執行停止ノ效力ヲ有ス
第十六條 本法ニ依ル裁判ニシテ財產上ノ給付ヲ命スルモノハ執行力ヲ有スル債務名義タルノ效力ヲ有ス
第十七條 本法ニ依ル裁判ノ費用ニ付テハ民事訴訟費用法第十六條及民事訴訟用印紙法第十六條ノ規定ニ依ル
附 則
本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
本法施行ノ地區ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
本法ハ大正十八年四月三十日迄其ノ效力ヲ有ス
本法失效ノ際ニ於テ必要ナル經過規定ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
朕帝国議会ノ協賛ヲ経タル借地借家臨時処理法ヲ裁可シ茲ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
摂政名
大正十三年七月二十二日
内閣総理大臣 子爵 加藤高明
司法大臣 横田千之助
法律第十六号
借地借家臨時処理法
第一条 本法ニ於テ借地借家ト称スルハ借地法及借家法ニ於ケル借地借家ヲ謂フ
第二条 地代、家賃、敷金其ノ他借地借家ノ条件カ著シク不当ナルトキハ当事者ノ申立ニ因リ裁判所ハ鑑定委員会ノ意見ヲ聴キ借地借家関係ヲ衡平ナラシムル為其ノ条件ノ変更ヲ命スルコトヲ得此ノ場合ニ於テ裁判所ハ敷金其ノ他ノ財産上ノ給付ノ返還ヲ命シ又ハ其ノ給付ヲ地代若ハ家賃ノ前払ト看做シ其ノ他相当ナル処分ヲ命スルコトヲ得
第三条 大正十二年九月ノ震災ニ因リテ滅失シタル建物ノ借主ハ其ノ建物ノ敷地又ハ其ノ換地ノ上ニ新ニ築造セラレタル建物ニ付其ノ完成前賃借ノ申出ヲ為シタルトキハ他ノ者ニ優先シテ之ヲ賃借スルコトヲ得滅失シタル建物ノ敷地又ハ其ノ換地ノ上ニ築造セラレタル仮設建築物ノ借主亦同シ
前項ノ申出ヲ受ケタル者申出ヲ受ケタル日ヨリ二週間内ニ拒絶ノ意思ヲ表示セサルトキハ申出ヲ承諾シタルモノト看做ス
第一項ノ申出ハ正当ノ理由アルニ非サレハ之ヲ拒絶スルコトヲ得ス
第四条 前条ノ場合ニ於テ借家ニ付当事者間ニ協議調ハサルトキハ申立ニ因リ裁判所ハ鑑定委員会ノ意見ヲ聴キ従前ノ賃貸借ノ条件、建物ノ状況其ノ他一切ノ事情ヲ斟酌シテ借家関係ヲ定ムルコトヲ得
第五条 新ニ築造セラレタル建物ニ付第三条第一項ノ規定ニ依リ賃借ノ申出ヲ為シタル者数人アル場合ニ於テ賃借スヘキ建物ノ割当ニ付当事者間ニ協議調ハサルトキハ裁判所ハ申立ニ因リ従前ノ建物又ハ仮設建築物ノ状況、借主ノ職業其ノ他一切ノ事情ヲ斟酌シテ其ノ割当ヲ為ス
前項ノ規定ニ依リ難キ場合ニ於テハ裁判所ハ抽籤ノ方法ヲ用ヰテ割当ヲ為スコトヲ得
裁判所ハ当事者間ノ衡平ヲ維持スル為必要アリト認ムルトキハ割当ヲ受ケサル借主又ハ著シク不利益ナル割当ヲ受ケタル借主ノ為割当ニ因リ著シク利益ヲ受ケタル他ノ借主ニ対シ相当ナル出捐ヲ命スルコトヲ得
第六条 大正十二年九月ノ震災ニ因リテ滅失シタル建物ニ居住シタル者カ其ノ建物ノ敷地ノ上ニ仮設建築物ヲ築造シタル場合ニ於テ敷地ノ借主カ之ニ同意シタルトキハ其ノ同意ニ付地主ノ承諾ヲ得サリシ場合ト雖地主ハ之ヲ理由トシテ契約ノ解除ヲ為スコトヲ得ス但シ裁判所ノ許可ヲ得タルトキハ此ノ限ニ在ラス
第七条 借地ノ上ニ存スル借地人ノ建物カ大正十二年九月ノ震災ニ因リ滅失シタル場合ニ於テハ其ノ借地権ハ借地権ノ登記及其ノ土地ノ上ニ存スル建物ノ登記ナキモ之ヲ以テ大正十三年七月一日以後其ノ土地ニ付権利ヲ取得シタル第三者ニ対抗スルコトヲ得
第八条 第二条及第四条乃至第六条ノ規定ニ因ル裁判ハ借地又ハ借家ノ所在地ヲ管轄スル区裁判所ニ於テ非訴事件手続法ニ依リ之ヲ為ス
第九条 鑑定委員会ハ五人以上ノ委員ヲ以テ之ヲ組織ス
第十条 鑑定委員ハ特別ノ知識経験アル者其ノ他適当ナル者ニ就キ毎年予メ地方裁判所長ノ選任シタル者又ハ当事者ノ合意ニ依リ選定セラレタル者ノ中ヨリ各事件ニ付裁判所之ヲ指定ス
第十一条 鑑定委員会ノ決議ハ委員ノ過半数ノ意見ニ依ル
第十二条 鑑定委員会ノ評議ハ秘密トス
第十三条 鑑定委員ニハ旅費、日当及止宿料ヲ給ス其ノ額ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第十四条 借地借家調停法第四条ノ二及第五条ノ規定ハ第二条、第四条及第五条ノ規定ニ依ル申立並第六条ノ規定ニ依ル許可ノ申請アリタル場合ニ之ヲ準用ス此ノ場合ニ於テ調停ニ付スル裁判ニ対シテハ不服ヲ申立ツルコトヲ得ス
第十五条 第二条及第四条乃至第六条ノ規定ニ依ル裁判ニ対シテハ即時抗告ヲ為スコトヲ得其ノ期間ハ之ヲ二週間トス
前項ノ即時抗告ハ執行停止ノ効力ヲ有ス
第十六条 本法ニ依ル裁判ニシテ財産上ノ給付ヲ命スルモノハ執行力ヲ有スル債務名義タルノ効力ヲ有ス
第十七条 本法ニ依ル裁判ノ費用ニ付テハ民事訴訟費用法第十六条及民事訴訟用印紙法第十六条ノ規定ニ依ル
附 則
本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
本法施行ノ地区ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
本法ハ大正十八年四月三十日迄其ノ効力ヲ有ス
本法失効ノ際ニ於テ必要ナル経過規定ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム