朕帝國議會ノ協贊ヲ經タル戰時民事特別法ヲ裁可シ玆ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
昭和十七年二月二十三日
內閣總理大臣 東條英機
司法大臣 岩村通世
法律第六十三號
戰時民事特別法
第一章 通則
第一條 戰時ニ於ケル民事ニ關スル特例ハ本法ノ定ムル所ニ依ル
第二條 戰爭ニ起因スル避クベカラザル障碍ニ因リ期間ヲ遵守スルコト能ハザル場合ニ於テハ其ノ期間ヲ伸長ス但シ他ノ法令ニ定アルモノニ付テハ其ノ定ニ從フ
前項ノ規定ニ依リテ伸長セラレタル期間ハ障碍ノ止ミタル時ヨリ一週間ノ經過ニ依リテ滿了ス
第三條 裁判所ガ官報及新聞紙ヲ以テ爲スベキ公吿ハ官報ノミヲ以テ之ヲ爲ス
第二章 民事訴訟
第四條 裁判所適當ト認ムルトキハ土地ノ管轄ニ關スル規定ニ拘ラズ申立ニ依リ又ハ職權ヲ以テ訴訟ノ全部若ハ一部ヲ他ノ裁判所ニ移送シ又ハ自ラ裁判ヲ爲スコトヲ得
前項ノ規定ハ訴ニ付專屬管轄ノ定アル場合ニハ之ヲ適用セズ
第五條 裁判所構成法戰時特例第三條第一項ノ訴訟ノ請求ガ他ノ請求ト併セ一ノ訴ヲ以テ提起セラレタル場合ニ於テハ裁判所ハ口頭辯論ヲ分離スルコトヲ要ス
第六條 裁判所特ニ必要アリト認ムルトキハ攻擊又ハ防禦ノ方法ヲ提出スベキ期間ヲ定ムルコトヲ得
前項ノ期間經過後ニ於テハ攻擊又ハ防禦ノ方法ハ裁判所ノ許可ヲ受クルニ非ザレバ口頭辯論ニ於テ之ヲ主張スルコトヲ得ズ
第一審ニ於テ前項ノ規定ニ依リテ主張スルコトヲ得ザリシ攻擊又ハ防禦ノ方法ハ裁判所ノ許可ヲ受クルニ非ザレバ控訴審ニ於テ之ヲ主張スルコトヲ得ズ
第七條 裁判所ハ機密ノ保持其ノ他公益上ノ理由ニ依リ訴訟記錄ノ謄寫又ハ其ノ謄本若ハ抄本ノ交付ヲ相當ナラズト認ムルトキハ之ヲ禁止スルコトヲ得
第八條 期日ニ於ケル呼出ハ民事訴訟法第百五十四條ニ定ムル方法以外ノ相當ト認ムル方法ニ依リテ之ヲ爲スコトヲ得此ノ場合ニ於テハ期日ニ出頭セザル當事者、證人又ハ鑑定人ニ對シ法律上ノ制裁其ノ他期日ノ懈怠ニ依ル不利益ヲ歸スルコトヲ得ズ
第九條 裁判所相當ト認ムルトキハ證人又ハ鑑定人ノ訊問ニ代ヘ書面ノ提出ヲ爲サシムルコトヲ得
第十條 民事訴訟法第三百五十九條ノ規定ハ裁判所構成法戰時特例第三條第一項ノ判決ニハ之ヲ適用セズ
第十一條 債務者ガ戰爭ノ影響ニ因リ債務ヲ履行スルコト困難ナル場合ニ於テ債務者ガ誠實ニシテ債務履行ノ意思アリ且債權者ノ經濟ニ甚シキ影響ヲ及ボサザルモノト認ムベキ顯著ナル事由アルトキハ裁判所ハ債務者ノ申立ニ依リ擔保ヲ供セシメ又ハ供セシメズシテ强制執行ノ一時ノ停止又ハ旣ニ爲シタル執行處分ノ取消ヲ命ズルコトヲ得
民事訴訟法第五百七十條ノ二第二項及第三項ノ規定ハ前項ノ場合ニ之ヲ準用ス
第三章 破產及和議
第十二條 破產ノ原因タル事實ガ戰爭ノ影響ニ因リテ生ジタル場合ニ於テ債務者ガ誠實ニシテ債務履行ノ意思アリ且債權者一般ノ利益ヲ甚シク害セズト認ムベキ顯著ナル事由アルトキハ裁判所ハ破產ノ宣吿前ニ限リ債務者ノ申立ニ依リ破產手續ヲ中止スルコトヲ得
民事訴訟法第五百七十條ノ二第二項ノ規定ハ前項ノ場合ニ之ヲ準用ス
第十三條 强制和議ノ條件ガ各破產債權者ニ付平等ナラザルトキト雖モ裁判所ハ債權ノ額其ノ他一切ノ事情ヲ斟酌シ債權者間ニ差等ヲ設クルモ衡平ヲ害セザルモノト認ムルトキハ强制和議認可ノ決定ヲ爲スコトヲ得
前項ノ規定ハ和議法ニ依ル和議開始ノ決定及和議認可ノ決定ニ之ヲ準用ス
第四章 調停
第十四條 民事ニ關シ紛爭ヲ生ジタルトキハ當事者ハ相手方ノ住所、居所、營業所若ハ事務所ノ所在地ヲ管轄スル區裁判所又ハ當事者ノ合意ニ依リテ定ムル地方裁判所若ハ區裁判所ニ調停ノ申立ヲ爲スコトヲ得但シ他ノ法律ニ定アルモノニ付テハ其ノ定ニ從フ
第十五條 裁判所其ノ管轄ニ屬セザル事件ニ付申立ヲ受ケタルトキハ決定ヲ以テ事件ヲ管轄裁判所ニ移送スルコトヲ要ス但シ事件ノ處理上適當ト認ムルトキハ之ヲ他ノ地方裁判所若ハ區裁判所ニ移送シ又ハ自ラ處理スルコトヲ妨ゲズ
裁判所其ノ管轄ニ屬スル事件ニ付申立ヲ受ケタルトキト雖モ事件ノ處理上適當ト認ムルトキハ決定ヲ以テ之ヲ他ノ地方裁判所又ハ區裁判所ニ移送スルコトヲ得
前二項ノ決定ニ對シテハ不服ヲ申立ツルコトヲ得ズ
第十六條 受訴裁判所適當ト認ムルトキハ事件ヲ調停ニ付シ自ラ調停ニ依リテ之ヲ處理スルコトヲ得此ノ場合ニ於テ調停主任タル判事ハ受訴裁判所之ヲ指定ス
第十七條 調停ハ特ニ必要アリト認ムルトキハ適當ノ場所ニ於テ之ヲ爲スコトヲ得
第十八條 借地借家調停法第二條、第四條ノ二、第六條、第八條乃至第二十三條、第二十六條乃至第三十一條及第三十二條第一項、金錢債務臨時調停法第五條乃至第十條竝ニ人事調停法第六條及第十條ノ規定ハ第十四條ノ調停ニ之ヲ準用ス
第十九條 第十六條及第十七條ノ規定ハ他ノ法律ニ依ル調停ニ之ヲ準用ス
金錢債務臨時調停法第七條乃至第十條ノ規定ハ借地借家調停法及商事調停法ニ依ル調停ニ之ヲ準用ス
人事調停法第六條及第十條ノ規定ハ借地借家調停法、小作調停法(農地調整法第十三條ニ於テ準用スル場合ヲ含ム)、商事調停法及金錢債務臨時調停法ニ依ル調停ニ之ヲ準用ス
附 則
本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第五條及第十條ノ規定ハ本法施行前裁判所ノ受理シタル訴訟ニ付テハ之ヲ適用セズ
戰時終了ノ際ニ於テ必要ナル經過規定ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
朕帝国議会ノ協賛ヲ経タル戦時民事特別法ヲ裁可シ茲ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
昭和十七年二月二十三日
内閣総理大臣 東条英機
司法大臣 岩村通世
法律第六十三号
戦時民事特別法
第一章 通則
第一条 戦時ニ於ケル民事ニ関スル特例ハ本法ノ定ムル所ニ依ル
第二条 戦争ニ起因スル避クベカラザル障碍ニ因リ期間ヲ遵守スルコト能ハザル場合ニ於テハ其ノ期間ヲ伸長ス但シ他ノ法令ニ定アルモノニ付テハ其ノ定ニ従フ
前項ノ規定ニ依リテ伸長セラレタル期間ハ障碍ノ止ミタル時ヨリ一週間ノ経過ニ依リテ満了ス
第三条 裁判所ガ官報及新聞紙ヲ以テ為スベキ公告ハ官報ノミヲ以テ之ヲ為ス
第二章 民事訴訟
第四条 裁判所適当ト認ムルトキハ土地ノ管轄ニ関スル規定ニ拘ラズ申立ニ依リ又ハ職権ヲ以テ訴訟ノ全部若ハ一部ヲ他ノ裁判所ニ移送シ又ハ自ラ裁判ヲ為スコトヲ得
前項ノ規定ハ訴ニ付専属管轄ノ定アル場合ニハ之ヲ適用セズ
第五条 裁判所構成法戦時特例第三条第一項ノ訴訟ノ請求ガ他ノ請求ト併セ一ノ訴ヲ以テ提起セラレタル場合ニ於テハ裁判所ハ口頭弁論ヲ分離スルコトヲ要ス
第六条 裁判所特ニ必要アリト認ムルトキハ攻撃又ハ防禦ノ方法ヲ提出スベキ期間ヲ定ムルコトヲ得
前項ノ期間経過後ニ於テハ攻撃又ハ防禦ノ方法ハ裁判所ノ許可ヲ受クルニ非ザレバ口頭弁論ニ於テ之ヲ主張スルコトヲ得ズ
第一審ニ於テ前項ノ規定ニ依リテ主張スルコトヲ得ザリシ攻撃又ハ防禦ノ方法ハ裁判所ノ許可ヲ受クルニ非ザレバ控訴審ニ於テ之ヲ主張スルコトヲ得ズ
第七条 裁判所ハ機密ノ保持其ノ他公益上ノ理由ニ依リ訴訟記録ノ謄写又ハ其ノ謄本若ハ抄本ノ交付ヲ相当ナラズト認ムルトキハ之ヲ禁止スルコトヲ得
第八条 期日ニ於ケル呼出ハ民事訴訟法第百五十四条ニ定ムル方法以外ノ相当ト認ムル方法ニ依リテ之ヲ為スコトヲ得此ノ場合ニ於テハ期日ニ出頭セザル当事者、証人又ハ鑑定人ニ対シ法律上ノ制裁其ノ他期日ノ懈怠ニ依ル不利益ヲ帰スルコトヲ得ズ
第九条 裁判所相当ト認ムルトキハ証人又ハ鑑定人ノ訊問ニ代ヘ書面ノ提出ヲ為サシムルコトヲ得
第十条 民事訴訟法第三百五十九条ノ規定ハ裁判所構成法戦時特例第三条第一項ノ判決ニハ之ヲ適用セズ
第十一条 債務者ガ戦争ノ影響ニ因リ債務ヲ履行スルコト困難ナル場合ニ於テ債務者ガ誠実ニシテ債務履行ノ意思アリ且債権者ノ経済ニ甚シキ影響ヲ及ボサザルモノト認ムベキ顕著ナル事由アルトキハ裁判所ハ債務者ノ申立ニ依リ担保ヲ供セシメ又ハ供セシメズシテ強制執行ノ一時ノ停止又ハ既ニ為シタル執行処分ノ取消ヲ命ズルコトヲ得
民事訴訟法第五百七十条ノ二第二項及第三項ノ規定ハ前項ノ場合ニ之ヲ準用ス
第三章 破産及和議
第十二条 破産ノ原因タル事実ガ戦争ノ影響ニ因リテ生ジタル場合ニ於テ債務者ガ誠実ニシテ債務履行ノ意思アリ且債権者一般ノ利益ヲ甚シク害セズト認ムベキ顕著ナル事由アルトキハ裁判所ハ破産ノ宣告前ニ限リ債務者ノ申立ニ依リ破産手続ヲ中止スルコトヲ得
民事訴訟法第五百七十条ノ二第二項ノ規定ハ前項ノ場合ニ之ヲ準用ス
第十三条 強制和議ノ条件ガ各破産債権者ニ付平等ナラザルトキト雖モ裁判所ハ債権ノ額其ノ他一切ノ事情ヲ斟酌シ債権者間ニ差等ヲ設クルモ衡平ヲ害セザルモノト認ムルトキハ強制和議認可ノ決定ヲ為スコトヲ得
前項ノ規定ハ和議法ニ依ル和議開始ノ決定及和議認可ノ決定ニ之ヲ準用ス
第四章 調停
第十四条 民事ニ関シ紛争ヲ生ジタルトキハ当事者ハ相手方ノ住所、居所、営業所若ハ事務所ノ所在地ヲ管轄スル区裁判所又ハ当事者ノ合意ニ依リテ定ムル地方裁判所若ハ区裁判所ニ調停ノ申立ヲ為スコトヲ得但シ他ノ法律ニ定アルモノニ付テハ其ノ定ニ従フ
第十五条 裁判所其ノ管轄ニ属セザル事件ニ付申立ヲ受ケタルトキハ決定ヲ以テ事件ヲ管轄裁判所ニ移送スルコトヲ要ス但シ事件ノ処理上適当ト認ムルトキハ之ヲ他ノ地方裁判所若ハ区裁判所ニ移送シ又ハ自ラ処理スルコトヲ妨ゲズ
裁判所其ノ管轄ニ属スル事件ニ付申立ヲ受ケタルトキト雖モ事件ノ処理上適当ト認ムルトキハ決定ヲ以テ之ヲ他ノ地方裁判所又ハ区裁判所ニ移送スルコトヲ得
前二項ノ決定ニ対シテハ不服ヲ申立ツルコトヲ得ズ
第十六条 受訴裁判所適当ト認ムルトキハ事件ヲ調停ニ付シ自ラ調停ニ依リテ之ヲ処理スルコトヲ得此ノ場合ニ於テ調停主任タル判事ハ受訴裁判所之ヲ指定ス
第十七条 調停ハ特ニ必要アリト認ムルトキハ適当ノ場所ニ於テ之ヲ為スコトヲ得
第十八条 借地借家調停法第二条、第四条ノ二、第六条、第八条乃至第二十三条、第二十六条乃至第三十一条及第三十二条第一項、金銭債務臨時調停法第五条乃至第十条並ニ人事調停法第六条及第十条ノ規定ハ第十四条ノ調停ニ之ヲ準用ス
第十九条 第十六条及第十七条ノ規定ハ他ノ法律ニ依ル調停ニ之ヲ準用ス
金銭債務臨時調停法第七条乃至第十条ノ規定ハ借地借家調停法及商事調停法ニ依ル調停ニ之ヲ準用ス
人事調停法第六条及第十条ノ規定ハ借地借家調停法、小作調停法(農地調整法第十三条ニ於テ準用スル場合ヲ含ム)、商事調停法及金銭債務臨時調停法ニ依ル調停ニ之ヲ準用ス
附 則
本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第五条及第十条ノ規定ハ本法施行前裁判所ノ受理シタル訴訟ニ付テハ之ヲ適用セズ
戦時終了ノ際ニ於テ必要ナル経過規定ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム