船員法
法令番号: 法律第四十七號
公布年月日: 明治32年3月8日
法令の形式: 法律
朕帝國議會ノ協贊ヲ經タル船員法ヲ裁可シ玆ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
明治三十二年三月七日
內閣總理大臣 侯爵 山縣有朋
遞信大臣 子爵 芳川顯正
法律第四十七號
船員法
第一章
總則
第二章
船員手帖
第三章
船長
第四章
海員
第五章
紀律
第六章
罰則
附 則
船員法
第一章 總則
第一條 本法ハ日本船舶ノ船員ニ之ヲ適用ス但湖川、港灣ノミヲ航行スル船舶又ハ船舶法第二十條ニ揭ケタル船舶ノ船員ニ付テハ此限ニ在ラス
第二條 本法ニ於テ船員トハ船長及ヒ海員ヲ謂ヒ海員トハ船長以外ノ一切ノ乘組員ヲ謂フ
第二章 船員手帖
第三條 日本ニ於テ船員ト爲ラント欲スル者ハ管海官廳ニ船員手帖ノ交付ヲ申請スルコトヲ要ス
申請人ハ戶籍吏ノ書面其他ノ公正證書ニ依リテ左ノ事項ヲ證スルコトヲ要ス但申請人カ其本籍地又ハ寄留地ニ於テ申請ヲ爲ス場合ニ於テ其地ノ管海官廳カ戶籍吏ノ職務ヲ行フトキハ此限ニ在ラス
一 氏名
二 本籍地
三 身分
四 出生ノ年月日
第四條 未成年者カ船員ト爲ルニハ其法定代理人ノ許可ヲ得ルコトヲ要ス
未成年者カ船員手帖ノ交付ヲ申請スルニハ前條第二項ニ揭ケタル事項ノ外前項ノ許可ヲ得タル旨ヲ證スルコトヲ要ス
第五條 船員ト爲ルコトヲ許サレタル未成年者ハ雇傭契約ニ關シテハ成年者ト同一ノ能力ヲ有ス
第六條 外國ニ於テ船員ト爲リタル者カ日本ニ到著シタルトキハ其到著ノ日ヨリ一个月內ニ船員手帖ノ交付ヲ申請スルコトヲ要ス
第七條 船員手帖ニ記載シタル事項ニシテ第三條第二項ニ揭ケタルモノニ錯誤アリタルトキ又ハ同條第二項第一號乃至第三號ニ揭ケタルモノニ變更ヲ生シタルトキハ船員ハ其事實ヲ知リタル日ヨリ一个月內ニ管海官廳ニ船員手帖ノ訂正ヲ申請スルコトヲ要ス
船員カ日本ニ在ラサル間ニ於テ錯誤又ハ變更ノ事實ヲ知リタルトキハ前項ノ期間ハ其船員カ日本ニ到著シタル日ヨリ之ヲ起算ス
第八條 第三條第二項及ヒ第四條ノ規定ハ前二條ノ場合ニ之ヲ準用ス
第九條 船員手帖カ滅失シタルトキハ船員ハ遲滯ナク更ニ其交付ヲ申請スルコトヲ要ス
船員手帖カ毀損シタルトキハ船員ハ遲滯ナク其書換ヲ申請スルコトヲ要ス
第十條 船員カ日本ニ在ラサル間ニ於テ船員手帖カ滅失又ハ毀損シタルトキハ船員カ日本ニ到著シタル後遲滯ナク船員手帖ノ交付又ハ書換ヲ申請スルコトヲ要ス
第十一條 第三條第二項及ヒ第四條ノ規定ハ前二條ノ場合ニ之ヲ準用ス但原管海官廳ニ船員手帖ノ交付又ハ書換ヲ申請スルトキハ此限ニ在ラス
第十二條 船員カ廢業ヲ爲シタルトキハ遲滯ナク管海官廳ニ其船員手帖ヲ返還スルコトヲ要ス
船員カ死亡シタルトキハ其船員手帖ヲ保管スル者之ヲ返還スルコトヲ要ス
第三章 船長
第十三條 船長ハ海員ヲ指揮、監督シ及ヒ船中ニ在ル者ニ對シ其職務ヲ行フニ必要ナル命令ヲ爲スコトヲ得
第十四條 船長ハ管海官廳ノ命令アリタルトキハ商法第五百六十二條第一項ニ揭ケタル書類ヲ提出スルコトヲ要ス
第十五條 船舶カ港灣ヲ出入スルトキ、狹隘ナル水路ヲ通過スルトキ其他危險ノ虞アルトキハ船長ハ甲板ニ在リテ自ラ船舶ヲ指揮スルコトヲ要ス
第十六條 日本ト外國トノ間又ハ外國各港ノ間ヲ航行スル船舶カ外國ノ港ニ入港シ又ハ日本ニ到著シタルトキハ船長ハ二十四時間內ニ其港ノ管海官廳、若シ其港ニ管海官廳ナキトキハ其後最初ニ到著シタル港ノ管海官廳ニ航海日誌ヲ提出シテ其檢閱ヲ受クルコトヲ要ス
前項ノ規定ハ船舶カ入港ノ時ヨリ十二時間內ニ發航スル場合ニハ之ヲ適用セス
管海官廳ハ必要ナル書類ノ提出ヲ命シ又ハ船員、旅客其他船中ニ在リタル者ヲ呼出タシテ訊問ヲ爲スコトヲ得
第十七條 左ノ場合ニ於テハ船長ハ最初ニ到著シタル港ノ管海官廳ニ出頭シテ其報吿ヲ爲スコトヲ要ス
一 豫定ノ航路ヲ變更シタルトキ
二 人命又ハ船舶ヲ救ヒタルトキ
三 衝突其他ノ海難カ生シタルトキ
四 船舶カ捕獲セラレタルトキ
五 船中ニ於テ死亡シタル者アリタルトキ
船舶カ豫定セサル港ニ寄港シタルトキ又ハ前項第二號乃至第五號ニ揭ケタル事由カ碇泊中ニ生シタルトキハ船長ハ其港ノ管海官廳、若シ其港ニ管海官廳ナキトキハ其後最初ニ到著シタル港ノ管海官廳ニ出頭シテ其報吿ヲ爲スコトヲ要ス
前條第三項ノ規定ハ前二項ノ場合ニ之ヲ準用ス
第十八條 前條第一項及ヒ第二項ノ場合ニ於テハ船長ハ報吿書ヲ作リ其認證ヲ申請スルコトヲ得
第十九條 船舶ニ急迫ノ危險アルトキハ船長ハ人命、船舶及ヒ積荷ノ保護ニ必要ナル手段ヲ盡シ且旅客、海員其他船中ニ在ル者ヲ去ラシメタル後ニ非サレハ其指揮スル船舶ヲ去ルコトヲ得ス
第二十條 船舶カ衝突シタルトキハ船長ハ互ニ人命及ヒ船舶ノ保護ニ必要ナル手段ヲ盡シ且船舶ノ名稱、船籍港、發航港及ヒ到達港ヲ吿クルコトヲ要ス但自己ノ指揮スル船舶ニ急迫ノ危險アルトキハ此限ニ在ラス
第二十一條 船長カ航海中救援ヲ求ムル船舶ヲ認メタルトキハ人命ヲ救フコトヲ要ス但自己ノ指揮スル船舶ニ急迫ノ危險アルトキハ此限ニ在ラス
第二十二條 海員カ船中ニ於テ死亡シタルトキハ船長ハ其船中ニ在ル遺產ヲ保管スルコトヲ要ス
第二十三條 外國ニ駐在スル日本ノ公使、領事又ハ貿易事務官カ法令ノ定ムル所ニ依リ日本臣民ヲ日本ニ送還スヘキコトヲ命シタルトキハ船長ハ正當ノ理由アルニ非サレハ之ヲ拒ムコトヲ得ス
送還費用ノ償還ニ關スル規程ハ命令ヲ以テ之ヲ定ム
第二十四條 船長ハ其指揮セントスル船舶ニ乘込ム前ニ其船員手帖ヲ管海官廳ニ提出シテ就職ノ認證ヲ申請スルコトヲ得
前項ノ規定ニ依リテ就職ノ認證ヲ得タル船長カ其職ヲ退キタルトキハ遲滯ナク退職ノ認證ヲ申請スルコトヲ要ス
第二十五條 船長カ死亡シタルトキ、船舶ヲ去リタルトキ又ハ之ヲ指揮スルコト能ハサルニ至リタル場合ニ於テ他人ヲ選任セサルトキハ運航ニ從事スル海員ハ其職掌ノ順位ニ從ヒテ船長ノ職務ヲ行フ
第四章 海員
第二十六條 海員ノ雇入若クハ雇止ヲ爲シ又ハ雇入契約ノ更新若クハ變更ヲ爲シタルトキハ管海官廳ニ海員名簿ヲ提出シテ公認ヲ申請スルコトヲ要ス
第二十七條 管海官廳カ公認ヲ爲スニハ海員名簿ニ記載シタル事項ヲ當事者雙方ニ讀聞カセタル後之ニ署名、捺印セシムルコトヲ要ス但海員ノ雇止ヲ爲シタル場合ニ於テ正當ノ理由アルトキハ當事者ノ一方カ出頭セサルトキト雖モ公認ヲ爲スコトヲ得
當事者カ印ヲ有セサルトキハ署名スルヲ以テ足ル署名スルコト能ハサルトキハ氏名ヲ代署セシメ捺印スルヲ以テ足ル若シ署名スルコト能ハス且印ヲ有セサルトキハ氏名ヲ代署セシメ拇印スルヲ以テ足ル
前項ノ規定ニ依リ捺印セス又ハ氏名ヲ代署セシメ若クハ拇印シタル場合ニ於テハ海員名簿ニ其事由ヲ附記スルコトヲ要ス
第二十八條 當事者ハ正當ノ理由アル場合ニ限リ代理人ヲシテ公認ヲ受ケシムルコトヲ得
第二十九條 公認アリタルトキハ海員ハ遲滯ナク其船員手帖ヲ管海官廳ニ提出シテ公認ノ認證ヲ申請スルコトヲ要ス
第三十條 海員ノ雇止ニ關シテ爭アルトキハ當事者ノ一方ハ管海官廳ニ其事由ヲ申立テ雇止ノ公認ヲ申請スルコトヲ得
管海官廳カ前項ノ申請ヲ正當ナリト認メタルトキハ當事者雙方ヲ呼出タシ海員名簿及ヒ船員手帖ヲ提出セシメテ雇止ノ公認ヲ爲スコトヲ要ス
當事者ノ一方カ出頭セサルトキハ管海官廳ハ相手方ノ申立ニ因リテ雇止ノ公認ヲ爲スコトヲ得此場合ニ於テハ海員名簿及ヒ船員手帖ニ其事由ヲ記載スルコトヲ要ス
前二項ノ場合ニ於テハ管海官廳ハ海員名簿又ハ船員手帖ノ提出ヲ强制スルコトヲ得
第三十一條 船長ハ海員ノ雇入期間中其船員手帖ヲ保管スルコトヲ要ス
第三十二條 海員カ雇入期間中脫船シタルトキハ船長ハ遲滯ナク管海官廳ニ其海員ノ船員手帖ヲ返還スルコトヲ要ス
第三十三條 海員ハ雇止アリタル場合ニ於テハ船長ニ對シ其職務ノ執行又ハ品行ニ關スル證明書ノ交付ヲ請求スルコトヲ得
第三十四條 海員名簿カ滅失又ハ毀損シタルトキハ船長ハ更ニ海員名簿ヲ作リ之ヲ管海官廳ニ提出シテ公認ヲ申請スルコトヲ要ス
第二十七條及ヒ第二十八條ノ規定ハ海員名簿及ヒ船員手帖カ共ニ滅失又ハ毀損シタル場合ニ之ヲ準用ス但原管海官廳ニ公認ヲ申請スルトキハ此限ニ在ラス
第三十五條 海員カ雇入期間中第九條又ハ第十條ノ規定ニ依リテ船員手帖ノ交付又ハ書換ヲ申請シタル場合ニ於テ其交付又ハ書換アリタルトキハ海員ハ遲滯ナク第二十九條ニ定メタル手續ヲ爲スコトヲ要ス
第五章 紀律
第三十六條 左ノ場合ニ於テハ船長ハ海員ヲ懲戒スルコトヲ得
一 海員カ上長ニ對シテ尊敬又ハ從順ノ道ヲ失ヒタルトキ
二 海員カ其職務ヲ怠リタルトキ
三 海員カ他ノ海員ノ職務執行ヲ妨ケタルトキ
四 海員カ喧爭シタルトキ
五 海員カ船長ノ許可ヲ得スシテ船舶ヲ去リタルトキ又ハ船長カ指定シタル時マテニ歸船セサリシトキ
六 海員カ船長ノ許可ヲ得スシテ㸃火又ハ焚火シタルトキ
七 海員カ船長ノ許可ヲ得スシテ端艇ヲ使用シタルトキ
八 海員カ食料又ハ飮料ヲ濫費シタルトキ
九 海員カ船長ノ許可ヲ得スシテ酒類ヲ所持スルトキ又ハ吸煙シタルトキ
十 海員カ酩酊シテ事ヲ省セサルトキ
十一 其他海員カ船中ノ秩序ニ反スル行爲ヲ爲シタルトキ
第三十七條 懲戒ハ左ノ四種トス
一 監禁
二 上陸禁止
三 加役
四 減給
第三十八條 監禁ハ三日以下トシ船中ノ一室ニ拘置ス
上陸禁止ハ七日以下トス此期間ニハ船舶ノ碇泊日數ノミヲ算入ス
加役ハ七日以下トシ常務時間外ニ於テ役務ニ服セシム但一日二時間ヲ超ユルコトヲ得ス
減給ハ給料月額十分ノ一以下トス
第三十九條 前條第一項乃至第三項ノ期間ニハ初日ヲ算入ス
第四十條 懲戒ノ適用ハ行爲ノ輕重ニ從ヒ船長之ヲ定ム但二種以上ノ懲戒ヲ併科スルコトヲ得ス
第四十一條 海員カ兇器、爆發若クハ發火シ易キ物、劇藥其他ノ危險物又ハ酒類ヲ所持スルトキハ船長ニ於テ其物ヲ保管又ハ放棄スルコトヲ得
第四十二條 海員カ人身又ハ船舶ニ危害ヲ及ホスヘキ行爲ヲ爲サントスルトキハ船長ハ必要ノ期間內其海員ノ身體ヲ拘束スルコトヲ得
第四十三條 船長ハ必要アルトキハ旅客其他船中ニ在ル者ニ對シテモ前二條ニ定メタル處分ヲ爲スコトヲ得
第四十四條 海員カ船長ノ指定シタル時ニ於テ船舶ニ乘込マサルトキ又ハ船長ノ許可ヲ得スシテ之ヲ去リタルトキハ船長ハ乘船ヲ强制スルコトヲ得
第四十五條 船長ノ命令ニ服從セサル者アル場合ニ於テ必要ト認ムルトキハ船長ハ海軍ノ艦船、地方官廳又ハ管海官廳ニ援助ヲ求ムルコトヲ得
第六章 罰則
第四十六條 詐僞ノ所爲ヲ以テ船員手帖ノ交付ヲ受ケタル者ハ十五日以上六月以下ノ重禁錮ニ處シ二圓以上二十圓以下ノ罰金ヲ附加ス
詐僞ノ所爲ヲ以テ海員名簿ニ公認ヲ受ケ又ハ船員手帖ニ認證ヲ受ケタル者亦同シ
第四十七條 第七條、第九條、第十條、第十二條、第二十九條、第三十二條又ハ第三十五條ノ規定ニ反シ船員手帖ノ交付、訂正若クハ公認ノ認證ヲ申請シ又ハ船員手帖ヲ返還スルコトヲ怠リタル者ハ二圓以上二十圓以下ノ罰金ニ處ス
第四十八條 虛僞ノ海員名簿又ハ船員手帖ヲ行使シタル者ハ一月以上一年以下ノ重禁錮ニ處シ四圓以上四十圓以下ノ罰金ヲ附加ス
公認ヲ受ケタル海員名簿又ハ認證ヲ受ケタル船員手帖ヲ增減、變換シテ行使シタル者亦同シ
第四十九條 左ノ場合ニ於テハ船長ヲ十一日以上六月以下ノ重禁錮ニ處シ又ハ三十圓以上三百圓以下ノ罰金ニ處ス
一 船長カ正當ノ理由ナクシテ商法第五百六十二條第一項ニ揭ケタル書類ヲ船中ニ備ヘサルトキ又ハ之ヲ毀棄シタルトキ
二 船長カ第十四條ノ規定ニ反シテ書類ノ提出ヲ拒ミタルトキ
三 船長カ商法第五百六十二條第一項第二號乃至第五號ニ揭ケタル書類ニ記載スヘキ事項ヲ記載セス又ハ不正ノ記載ヲ爲シタルトキ
四 船長カ第十七條第一項又ハ第二項ノ場合ニ於テ虛僞ノ報吿ヲ爲シタルトキ
第五十條 左ノ場合ニ於テハ船長ヲ十圓以上五百圓以下ノ罰金ニ處ス
一 船長カ商法第五百六十一條ノ檢査ヲ爲サスシテ發航ヲ爲シタルトキ
二 船長カ船舶ヲ安全ニ碇泊セシメ且商法第五百六十三條ノ規定ニ從ヒ其職務ヲ委任セスシテ船舶ヲ去リタルトキ
三 船長カ第十五條ノ規定ニ反シテ甲板ニ在ラサルトキ
四 船長カ必要ナクシテ豫定ノ航路ヲ變更シタルトキ
第五十一條 船長カ第十六條第一項、第十七條第一項、第二項、第二十二條又ハ第三十一條ノ規定ニ違反シタルトキハ五圓以上五十圓以下ノ罰金ニ處ス
第五十二條 船長カ第十九條ノ規定ニ違反シタルトキハ二月以上五年以下ノ重禁錮ニ處ス
第五十三條 船長カ第二十條ノ規定ニ反シテ人命又ハ船舶ノ保護ニ必要ナル手段ヲ盡ササルトキハ一月以上三年以下ノ重禁錮ニ處シ又ハ五十圓以上五百圓以下ノ罰金ニ處ス
船長カ第二十條ノ規定ニ反シテ吿知ヲ爲ササルトキハ十圓以上三百圓以下ノ罰金ニ處ス
第五十四條 船長カ第二十一條ノ規定ニ違反シタルトキハ十一日以上一年以下ノ重禁錮ニ處シ又ハ三十圓以上三百圓以下ノ罰金ニ處ス
第五十五條 船舶ニ急迫ノ危險アル場合ニ於テ海員カ船長ノ許可ヲ得スシテ其船舶ヲ去リタルトキハ十一日以上三年以下ノ重禁錮ニ處ス
第五十六條 第十九條又ハ第二十條ノ場合ニ於テ船長カ人命又ハ船舶ノ保護ニ必要ナル手段ヲ爲スニ當タリ海員カ上長ノ命令ニ服從セサルトキハ十一日以上二年以下ノ重禁錮ニ處シ又ハ五圓以上百圓以下ノ罰金ニ處ス
第五十七條 船長カ第二十三條第一項ノ規定ニ反シテ送還ノ命令ヲ拒ミタルトキハ三十圓以上三百圓以下ノ罰金ニ處ス
第五十八條 船舶所有者又ハ船長カ第二十六條ノ規定ニ違反シタルトキハ十圓以上三百圓以下ノ罰金ニ處ス
船舶法第三十條及ヒ第三十一條ノ規定ハ前項ノ場合ニ之ヲ準用ス
第五十九條 船長カ第三十三條ニ定メタル證明書ヲ交付セス又ハ不正ノ記載ヲ爲シタル證明書ヲ交付シタルトキハ五圓以上五十圓以下ノ罰金ニ處ス
前項ノ罪ハ被害者ノ吿訴ヲ待テ之ヲ論ス
第六十條 船長カ第三十四條第一項ノ規定ニ違反シタルトキハ五圓以上二百圓以下ノ罰金ニ處ス
第六十一條 海員カ雇入手續ノ終ハリタル後正當ノ理由ナクシテ船長ノ指定シタル時ニ於テ船舶ニ乘込マサルトキハ二圓以上二十圓以下ノ罰金ニ處ス
第六十二條 船長カ第五章ニ定メタル處分ヲ爲スニ當タリ海員ニ助力ヲ爲スヘキコトヲ命シタル場合ニ於テ海員カ其命令ニ服從セサルトキハ十一日以上六月以下ノ輕禁錮ニ處シ又ハ五圓以上百圓以下ノ罰金ニ處ス
第六十三條 船員、旅客其他船中ニ在リタル者カ本法ノ規定ニ依リ管海官廳ヨリ呼出ヲ受ケ又ハ書類ノ提出ヲ命セラレタル場合ニ於テ正當ノ理由ナクシテ之ニ應セサルトキハ五圓以上五十圓以下ノ罰金ニ處ス
第六十四條 海員カ船長ノ許可ヲ得スシテ二十四時間以上船中ニ在ラサルトキハ二圓以上二十圓以下ノ罰金ニ處ス
海員カ脫船シタルトキハ十一日以上六月以下ノ重禁錮ニ處ス
海員カ外國ニ於テ前二項ノ罪ヲ犯シタルトキハ一等ヲ加フ
第六十五條 船長カ正當ノ理由ナクシテ船舶ヲ遺棄シタルトキハ一月以上二年以下ノ重禁錮ニ處ス
船長カ外國ニ於テ正當ノ理由ナクシテ海員ヲ遺棄シタルトキハ一月以上一年以下ノ重禁錮ニ處ス
第六十六條 海員カ船長ノ許可ヲ得スシテ兇器、爆發又ハ發火シ易キ物、劇藥其他ノ危險物ヲ所持スルトキハ五圓以上百圓以下ノ罰金ニ處ス
第六十七條 故ナク船體若クハ機關ノ要部ヲ毀損シ又ハ重要ナル屬具ヲ毀損若クハ放棄シタル者ハ十一日以上三年以下ノ重禁錮ニ處シ五圓以上五十圓以下ノ罰金ヲ附加ス
前項ノ罪ヲ犯シ因テ船舶ノ運航ヲ妨ケタルトキハ一等ヲ加ヘ船舶ヲ覆沒シ又ハ人ヲ死ニ致シタルトキハ重懲役ニ處ス
第六十八條 船舶ノ運航ヲ妨クル目的ヲ以テ前條第一項ノ罪ヲ犯シタル者ハ重懲役ニ處シ因テ船舶ヲ覆沒シ又ハ人ヲ死ニ致シタルトキハ刑法第百六十九條ノ例ニ依リテ處斷ス
第六十九條 海員カ上長ニ對シテ脅迫ノ罪ヲ犯シタルトキハ刑法各本條ノ例ニ照シ一等ヲ加フ
刑法第三百二十九條ノ規定ハ前項ノ場合ニハ之ヲ適用セス
第七十條 海員カ上長ニ對シテ毆打創傷ノ罪ヲ犯シタルトキハ刑法各本條ノ例ニ照シ一等ヲ加フ
第七十一條 船長カ旅客、海員其他船中ニ在ル者ニ對シテ其職權ヲ濫用シ又ハ虐待ヲ爲シタルトキハ十一日以上三月以下ノ重禁錮ニ處シ又ハ十圓以上三百圓以下ノ罰金ニ處ス
前項ノ罪ヲ犯シ因テ人ヲ疾病、死傷ニ致シタルトキハ前條ノ例ニ依リテ處斷ス
第七十二條 海員カ相黨與シテ左ノ行爲ヲ爲シタルトキハ各號ノ區別ニ依リテ處斷シ首魁ハ一等ヲ加フ
一 職務ニ服セス又ハ上長ノ命令ニ服從セサルトキハ十一日以上六月以下ノ重禁錮ニ處ス
二 脫船シタルトキハ一月以上一年以下ノ重禁錮ニ處ス
三 第六十九條又ハ第七十條ノ罪ヲ犯シタルトキハ各本條ノ例ニ照シ一等ヲ加フ
第七十三條 船員カ著シク其職務ヲ怠リ因テ船舶ヲ毀損若クハ覆沒シ又ハ人ヲ死傷ニ致シタルトキハ一月以上五年以下ノ重禁錮ニ處シ又ハ十圓以上千圓以下ノ罰金ニ處ス
第七十四條 本章ノ規定中船長ニ適用スヘキモノハ船長ニ代ハリテ其職務ヲ行フ者ニモ亦之ヲ適用ス
附 則
第七十五條 本法ハ商法施行ノ日ヨリ之ヲ施行ス
石數ヲ以テ積量ヲ表示スル船舶ニ關シテハ勅令ヲ以テ別ニ本法施行ノ期日ヲ定ムルコトヲ得
第七十六條 明治十二年第九號布吿西洋形船海員雇入雇止規則ハ本法施行ノ日ヨリ之ヲ廢止ス但本法施行前ニ同規則ニ定メタル罰則ヲ適用スヘキ行爲アリタルトキハ本法施行ノ後ト雖モ其罰則ヲ適用ス
第七十七條 船員ハ本法施行ノ日ヨリ六个月間ハ船員手帖ノ交付ヲ申請スルコトヲ要セス
前項ノ期間經過ノ後ハ船員ハ遲滯ナク船員手帖ノ交付ヲ申請スルコトヲ要ス
第七十八條 從來ノ海員名簿ハ本法施行ノ日ヨリ六个月間ハ商法ニ定メタル海員名簿ト同一ノ效力ヲ有ス
前項ノ期間內ニ公認アリタルトキハ其期間經過ノ後ト雖モ其後始メテ公認アルマテハ從來ノ海員名簿ハ仍ホ其效力ヲ有ス
第七十九條 本法ノ規定ニ依リ管海官廳カ行フヘキ事務ニ付テハ主務大臣ハ市町村長、市制又ハ町村制ヲ施行セサル地方ニ在リテハ戶長又ハ之ニ準スヘキ者ヲシテ其事務ヲ行ハシムルコトヲ得
第八十條 本法ノ施行ニ關スル細則ハ主務大臣之ヲ定ム
朕帝国議会ノ協賛ヲ経タル船員法ヲ裁可シ茲ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
明治三十二年三月七日
内閣総理大臣 侯爵 山県有朋
逓信大臣 子爵 芳川顕正
法律第四十七号
船員法
第一章
総則
第二章
船員手帖
第三章
船長
第四章
海員
第五章
紀律
第六章
罰則
附 則
船員法
第一章 総則
第一条 本法ハ日本船舶ノ船員ニ之ヲ適用ス但湖川、港湾ノミヲ航行スル船舶又ハ船舶法第二十条ニ掲ケタル船舶ノ船員ニ付テハ此限ニ在ラス
第二条 本法ニ於テ船員トハ船長及ヒ海員ヲ謂ヒ海員トハ船長以外ノ一切ノ乗組員ヲ謂フ
第二章 船員手帖
第三条 日本ニ於テ船員ト為ラント欲スル者ハ管海官庁ニ船員手帖ノ交付ヲ申請スルコトヲ要ス
申請人ハ戸籍吏ノ書面其他ノ公正証書ニ依リテ左ノ事項ヲ証スルコトヲ要ス但申請人カ其本籍地又ハ寄留地ニ於テ申請ヲ為ス場合ニ於テ其地ノ管海官庁カ戸籍吏ノ職務ヲ行フトキハ此限ニ在ラス
一 氏名
二 本籍地
三 身分
四 出生ノ年月日
第四条 未成年者カ船員ト為ルニハ其法定代理人ノ許可ヲ得ルコトヲ要ス
未成年者カ船員手帖ノ交付ヲ申請スルニハ前条第二項ニ掲ケタル事項ノ外前項ノ許可ヲ得タル旨ヲ証スルコトヲ要ス
第五条 船員ト為ルコトヲ許サレタル未成年者ハ雇傭契約ニ関シテハ成年者ト同一ノ能力ヲ有ス
第六条 外国ニ於テ船員ト為リタル者カ日本ニ到著シタルトキハ其到著ノ日ヨリ一个月内ニ船員手帖ノ交付ヲ申請スルコトヲ要ス
第七条 船員手帖ニ記載シタル事項ニシテ第三条第二項ニ掲ケタルモノニ錯誤アリタルトキ又ハ同条第二項第一号乃至第三号ニ掲ケタルモノニ変更ヲ生シタルトキハ船員ハ其事実ヲ知リタル日ヨリ一个月内ニ管海官庁ニ船員手帖ノ訂正ヲ申請スルコトヲ要ス
船員カ日本ニ在ラサル間ニ於テ錯誤又ハ変更ノ事実ヲ知リタルトキハ前項ノ期間ハ其船員カ日本ニ到著シタル日ヨリ之ヲ起算ス
第八条 第三条第二項及ヒ第四条ノ規定ハ前二条ノ場合ニ之ヲ準用ス
第九条 船員手帖カ滅失シタルトキハ船員ハ遅滞ナク更ニ其交付ヲ申請スルコトヲ要ス
船員手帖カ毀損シタルトキハ船員ハ遅滞ナク其書換ヲ申請スルコトヲ要ス
第十条 船員カ日本ニ在ラサル間ニ於テ船員手帖カ滅失又ハ毀損シタルトキハ船員カ日本ニ到著シタル後遅滞ナク船員手帖ノ交付又ハ書換ヲ申請スルコトヲ要ス
第十一条 第三条第二項及ヒ第四条ノ規定ハ前二条ノ場合ニ之ヲ準用ス但原管海官庁ニ船員手帖ノ交付又ハ書換ヲ申請スルトキハ此限ニ在ラス
第十二条 船員カ廃業ヲ為シタルトキハ遅滞ナク管海官庁ニ其船員手帖ヲ返還スルコトヲ要ス
船員カ死亡シタルトキハ其船員手帖ヲ保管スル者之ヲ返還スルコトヲ要ス
第三章 船長
第十三条 船長ハ海員ヲ指揮、監督シ及ヒ船中ニ在ル者ニ対シ其職務ヲ行フニ必要ナル命令ヲ為スコトヲ得
第十四条 船長ハ管海官庁ノ命令アリタルトキハ商法第五百六十二条第一項ニ掲ケタル書類ヲ提出スルコトヲ要ス
第十五条 船舶カ港湾ヲ出入スルトキ、狭隘ナル水路ヲ通過スルトキ其他危険ノ虞アルトキハ船長ハ甲板ニ在リテ自ラ船舶ヲ指揮スルコトヲ要ス
第十六条 日本ト外国トノ間又ハ外国各港ノ間ヲ航行スル船舶カ外国ノ港ニ入港シ又ハ日本ニ到著シタルトキハ船長ハ二十四時間内ニ其港ノ管海官庁、若シ其港ニ管海官庁ナキトキハ其後最初ニ到著シタル港ノ管海官庁ニ航海日誌ヲ提出シテ其検閲ヲ受クルコトヲ要ス
前項ノ規定ハ船舶カ入港ノ時ヨリ十二時間内ニ発航スル場合ニハ之ヲ適用セス
管海官庁ハ必要ナル書類ノ提出ヲ命シ又ハ船員、旅客其他船中ニ在リタル者ヲ呼出タシテ訊問ヲ為スコトヲ得
第十七条 左ノ場合ニ於テハ船長ハ最初ニ到著シタル港ノ管海官庁ニ出頭シテ其報告ヲ為スコトヲ要ス
一 予定ノ航路ヲ変更シタルトキ
二 人命又ハ船舶ヲ救ヒタルトキ
三 衝突其他ノ海難カ生シタルトキ
四 船舶カ捕獲セラレタルトキ
五 船中ニ於テ死亡シタル者アリタルトキ
船舶カ予定セサル港ニ寄港シタルトキ又ハ前項第二号乃至第五号ニ掲ケタル事由カ碇泊中ニ生シタルトキハ船長ハ其港ノ管海官庁、若シ其港ニ管海官庁ナキトキハ其後最初ニ到著シタル港ノ管海官庁ニ出頭シテ其報告ヲ為スコトヲ要ス
前条第三項ノ規定ハ前二項ノ場合ニ之ヲ準用ス
第十八条 前条第一項及ヒ第二項ノ場合ニ於テハ船長ハ報告書ヲ作リ其認証ヲ申請スルコトヲ得
第十九条 船舶ニ急迫ノ危険アルトキハ船長ハ人命、船舶及ヒ積荷ノ保護ニ必要ナル手段ヲ尽シ且旅客、海員其他船中ニ在ル者ヲ去ラシメタル後ニ非サレハ其指揮スル船舶ヲ去ルコトヲ得ス
第二十条 船舶カ衝突シタルトキハ船長ハ互ニ人命及ヒ船舶ノ保護ニ必要ナル手段ヲ尽シ且船舶ノ名称、船籍港、発航港及ヒ到達港ヲ告クルコトヲ要ス但自己ノ指揮スル船舶ニ急迫ノ危険アルトキハ此限ニ在ラス
第二十一条 船長カ航海中救援ヲ求ムル船舶ヲ認メタルトキハ人命ヲ救フコトヲ要ス但自己ノ指揮スル船舶ニ急迫ノ危険アルトキハ此限ニ在ラス
第二十二条 海員カ船中ニ於テ死亡シタルトキハ船長ハ其船中ニ在ル遺産ヲ保管スルコトヲ要ス
第二十三条 外国ニ駐在スル日本ノ公使、領事又ハ貿易事務官カ法令ノ定ムル所ニ依リ日本臣民ヲ日本ニ送還スヘキコトヲ命シタルトキハ船長ハ正当ノ理由アルニ非サレハ之ヲ拒ムコトヲ得ス
送還費用ノ償還ニ関スル規程ハ命令ヲ以テ之ヲ定ム
第二十四条 船長ハ其指揮セントスル船舶ニ乗込ム前ニ其船員手帖ヲ管海官庁ニ提出シテ就職ノ認証ヲ申請スルコトヲ得
前項ノ規定ニ依リテ就職ノ認証ヲ得タル船長カ其職ヲ退キタルトキハ遅滞ナク退職ノ認証ヲ申請スルコトヲ要ス
第二十五条 船長カ死亡シタルトキ、船舶ヲ去リタルトキ又ハ之ヲ指揮スルコト能ハサルニ至リタル場合ニ於テ他人ヲ選任セサルトキハ運航ニ従事スル海員ハ其職掌ノ順位ニ従ヒテ船長ノ職務ヲ行フ
第四章 海員
第二十六条 海員ノ雇入若クハ雇止ヲ為シ又ハ雇入契約ノ更新若クハ変更ヲ為シタルトキハ管海官庁ニ海員名簿ヲ提出シテ公認ヲ申請スルコトヲ要ス
第二十七条 管海官庁カ公認ヲ為スニハ海員名簿ニ記載シタル事項ヲ当事者双方ニ読聞カセタル後之ニ署名、捺印セシムルコトヲ要ス但海員ノ雇止ヲ為シタル場合ニ於テ正当ノ理由アルトキハ当事者ノ一方カ出頭セサルトキト雖モ公認ヲ為スコトヲ得
当事者カ印ヲ有セサルトキハ署名スルヲ以テ足ル署名スルコト能ハサルトキハ氏名ヲ代署セシメ捺印スルヲ以テ足ル若シ署名スルコト能ハス且印ヲ有セサルトキハ氏名ヲ代署セシメ拇印スルヲ以テ足ル
前項ノ規定ニ依リ捺印セス又ハ氏名ヲ代署セシメ若クハ拇印シタル場合ニ於テハ海員名簿ニ其事由ヲ附記スルコトヲ要ス
第二十八条 当事者ハ正当ノ理由アル場合ニ限リ代理人ヲシテ公認ヲ受ケシムルコトヲ得
第二十九条 公認アリタルトキハ海員ハ遅滞ナク其船員手帖ヲ管海官庁ニ提出シテ公認ノ認証ヲ申請スルコトヲ要ス
第三十条 海員ノ雇止ニ関シテ争アルトキハ当事者ノ一方ハ管海官庁ニ其事由ヲ申立テ雇止ノ公認ヲ申請スルコトヲ得
管海官庁カ前項ノ申請ヲ正当ナリト認メタルトキハ当事者双方ヲ呼出タシ海員名簿及ヒ船員手帖ヲ提出セシメテ雇止ノ公認ヲ為スコトヲ要ス
当事者ノ一方カ出頭セサルトキハ管海官庁ハ相手方ノ申立ニ因リテ雇止ノ公認ヲ為スコトヲ得此場合ニ於テハ海員名簿及ヒ船員手帖ニ其事由ヲ記載スルコトヲ要ス
前二項ノ場合ニ於テハ管海官庁ハ海員名簿又ハ船員手帖ノ提出ヲ強制スルコトヲ得
第三十一条 船長ハ海員ノ雇入期間中其船員手帖ヲ保管スルコトヲ要ス
第三十二条 海員カ雇入期間中脱船シタルトキハ船長ハ遅滞ナク管海官庁ニ其海員ノ船員手帖ヲ返還スルコトヲ要ス
第三十三条 海員ハ雇止アリタル場合ニ於テハ船長ニ対シ其職務ノ執行又ハ品行ニ関スル証明書ノ交付ヲ請求スルコトヲ得
第三十四条 海員名簿カ滅失又ハ毀損シタルトキハ船長ハ更ニ海員名簿ヲ作リ之ヲ管海官庁ニ提出シテ公認ヲ申請スルコトヲ要ス
第二十七条及ヒ第二十八条ノ規定ハ海員名簿及ヒ船員手帖カ共ニ滅失又ハ毀損シタル場合ニ之ヲ準用ス但原管海官庁ニ公認ヲ申請スルトキハ此限ニ在ラス
第三十五条 海員カ雇入期間中第九条又ハ第十条ノ規定ニ依リテ船員手帖ノ交付又ハ書換ヲ申請シタル場合ニ於テ其交付又ハ書換アリタルトキハ海員ハ遅滞ナク第二十九条ニ定メタル手続ヲ為スコトヲ要ス
第五章 紀律
第三十六条 左ノ場合ニ於テハ船長ハ海員ヲ懲戒スルコトヲ得
一 海員カ上長ニ対シテ尊敬又ハ従順ノ道ヲ失ヒタルトキ
二 海員カ其職務ヲ怠リタルトキ
三 海員カ他ノ海員ノ職務執行ヲ妨ケタルトキ
四 海員カ喧争シタルトキ
五 海員カ船長ノ許可ヲ得スシテ船舶ヲ去リタルトキ又ハ船長カ指定シタル時マテニ帰船セサリシトキ
六 海員カ船長ノ許可ヲ得スシテ点火又ハ焚火シタルトキ
七 海員カ船長ノ許可ヲ得スシテ端艇ヲ使用シタルトキ
八 海員カ食料又ハ飲料ヲ濫費シタルトキ
九 海員カ船長ノ許可ヲ得スシテ酒類ヲ所持スルトキ又ハ吸煙シタルトキ
十 海員カ酩酊シテ事ヲ省セサルトキ
十一 其他海員カ船中ノ秩序ニ反スル行為ヲ為シタルトキ
第三十七条 懲戒ハ左ノ四種トス
一 監禁
二 上陸禁止
三 加役
四 減給
第三十八条 監禁ハ三日以下トシ船中ノ一室ニ拘置ス
上陸禁止ハ七日以下トス此期間ニハ船舶ノ碇泊日数ノミヲ算入ス
加役ハ七日以下トシ常務時間外ニ於テ役務ニ服セシム但一日二時間ヲ超ユルコトヲ得ス
減給ハ給料月額十分ノ一以下トス
第三十九条 前条第一項乃至第三項ノ期間ニハ初日ヲ算入ス
第四十条 懲戒ノ適用ハ行為ノ軽重ニ従ヒ船長之ヲ定ム但二種以上ノ懲戒ヲ併科スルコトヲ得ス
第四十一条 海員カ兇器、爆発若クハ発火シ易キ物、劇薬其他ノ危険物又ハ酒類ヲ所持スルトキハ船長ニ於テ其物ヲ保管又ハ放棄スルコトヲ得
第四十二条 海員カ人身又ハ船舶ニ危害ヲ及ホスヘキ行為ヲ為サントスルトキハ船長ハ必要ノ期間内其海員ノ身体ヲ拘束スルコトヲ得
第四十三条 船長ハ必要アルトキハ旅客其他船中ニ在ル者ニ対シテモ前二条ニ定メタル処分ヲ為スコトヲ得
第四十四条 海員カ船長ノ指定シタル時ニ於テ船舶ニ乗込マサルトキ又ハ船長ノ許可ヲ得スシテ之ヲ去リタルトキハ船長ハ乗船ヲ強制スルコトヲ得
第四十五条 船長ノ命令ニ服従セサル者アル場合ニ於テ必要ト認ムルトキハ船長ハ海軍ノ艦船、地方官庁又ハ管海官庁ニ援助ヲ求ムルコトヲ得
第六章 罰則
第四十六条 詐偽ノ所為ヲ以テ船員手帖ノ交付ヲ受ケタル者ハ十五日以上六月以下ノ重禁錮ニ処シ二円以上二十円以下ノ罰金ヲ附加ス
詐偽ノ所為ヲ以テ海員名簿ニ公認ヲ受ケ又ハ船員手帖ニ認証ヲ受ケタル者亦同シ
第四十七条 第七条、第九条、第十条、第十二条、第二十九条、第三十二条又ハ第三十五条ノ規定ニ反シ船員手帖ノ交付、訂正若クハ公認ノ認証ヲ申請シ又ハ船員手帖ヲ返還スルコトヲ怠リタル者ハ二円以上二十円以下ノ罰金ニ処ス
第四十八条 虚偽ノ海員名簿又ハ船員手帖ヲ行使シタル者ハ一月以上一年以下ノ重禁錮ニ処シ四円以上四十円以下ノ罰金ヲ附加ス
公認ヲ受ケタル海員名簿又ハ認証ヲ受ケタル船員手帖ヲ増減、変換シテ行使シタル者亦同シ
第四十九条 左ノ場合ニ於テハ船長ヲ十一日以上六月以下ノ重禁錮ニ処シ又ハ三十円以上三百円以下ノ罰金ニ処ス
一 船長カ正当ノ理由ナクシテ商法第五百六十二条第一項ニ掲ケタル書類ヲ船中ニ備ヘサルトキ又ハ之ヲ毀棄シタルトキ
二 船長カ第十四条ノ規定ニ反シテ書類ノ提出ヲ拒ミタルトキ
三 船長カ商法第五百六十二条第一項第二号乃至第五号ニ掲ケタル書類ニ記載スヘキ事項ヲ記載セス又ハ不正ノ記載ヲ為シタルトキ
四 船長カ第十七条第一項又ハ第二項ノ場合ニ於テ虚偽ノ報告ヲ為シタルトキ
第五十条 左ノ場合ニ於テハ船長ヲ十円以上五百円以下ノ罰金ニ処ス
一 船長カ商法第五百六十一条ノ検査ヲ為サスシテ発航ヲ為シタルトキ
二 船長カ船舶ヲ安全ニ碇泊セシメ且商法第五百六十三条ノ規定ニ従ヒ其職務ヲ委任セスシテ船舶ヲ去リタルトキ
三 船長カ第十五条ノ規定ニ反シテ甲板ニ在ラサルトキ
四 船長カ必要ナクシテ予定ノ航路ヲ変更シタルトキ
第五十一条 船長カ第十六条第一項、第十七条第一項、第二項、第二十二条又ハ第三十一条ノ規定ニ違反シタルトキハ五円以上五十円以下ノ罰金ニ処ス
第五十二条 船長カ第十九条ノ規定ニ違反シタルトキハ二月以上五年以下ノ重禁錮ニ処ス
第五十三条 船長カ第二十条ノ規定ニ反シテ人命又ハ船舶ノ保護ニ必要ナル手段ヲ尽ササルトキハ一月以上三年以下ノ重禁錮ニ処シ又ハ五十円以上五百円以下ノ罰金ニ処ス
船長カ第二十条ノ規定ニ反シテ告知ヲ為ササルトキハ十円以上三百円以下ノ罰金ニ処ス
第五十四条 船長カ第二十一条ノ規定ニ違反シタルトキハ十一日以上一年以下ノ重禁錮ニ処シ又ハ三十円以上三百円以下ノ罰金ニ処ス
第五十五条 船舶ニ急迫ノ危険アル場合ニ於テ海員カ船長ノ許可ヲ得スシテ其船舶ヲ去リタルトキハ十一日以上三年以下ノ重禁錮ニ処ス
第五十六条 第十九条又ハ第二十条ノ場合ニ於テ船長カ人命又ハ船舶ノ保護ニ必要ナル手段ヲ為スニ当タリ海員カ上長ノ命令ニ服従セサルトキハ十一日以上二年以下ノ重禁錮ニ処シ又ハ五円以上百円以下ノ罰金ニ処ス
第五十七条 船長カ第二十三条第一項ノ規定ニ反シテ送還ノ命令ヲ拒ミタルトキハ三十円以上三百円以下ノ罰金ニ処ス
第五十八条 船舶所有者又ハ船長カ第二十六条ノ規定ニ違反シタルトキハ十円以上三百円以下ノ罰金ニ処ス
船舶法第三十条及ヒ第三十一条ノ規定ハ前項ノ場合ニ之ヲ準用ス
第五十九条 船長カ第三十三条ニ定メタル証明書ヲ交付セス又ハ不正ノ記載ヲ為シタル証明書ヲ交付シタルトキハ五円以上五十円以下ノ罰金ニ処ス
前項ノ罪ハ被害者ノ告訴ヲ待テ之ヲ論ス
第六十条 船長カ第三十四条第一項ノ規定ニ違反シタルトキハ五円以上二百円以下ノ罰金ニ処ス
第六十一条 海員カ雇入手続ノ終ハリタル後正当ノ理由ナクシテ船長ノ指定シタル時ニ於テ船舶ニ乗込マサルトキハ二円以上二十円以下ノ罰金ニ処ス
第六十二条 船長カ第五章ニ定メタル処分ヲ為スニ当タリ海員ニ助力ヲ為スヘキコトヲ命シタル場合ニ於テ海員カ其命令ニ服従セサルトキハ十一日以上六月以下ノ軽禁錮ニ処シ又ハ五円以上百円以下ノ罰金ニ処ス
第六十三条 船員、旅客其他船中ニ在リタル者カ本法ノ規定ニ依リ管海官庁ヨリ呼出ヲ受ケ又ハ書類ノ提出ヲ命セラレタル場合ニ於テ正当ノ理由ナクシテ之ニ応セサルトキハ五円以上五十円以下ノ罰金ニ処ス
第六十四条 海員カ船長ノ許可ヲ得スシテ二十四時間以上船中ニ在ラサルトキハ二円以上二十円以下ノ罰金ニ処ス
海員カ脱船シタルトキハ十一日以上六月以下ノ重禁錮ニ処ス
海員カ外国ニ於テ前二項ノ罪ヲ犯シタルトキハ一等ヲ加フ
第六十五条 船長カ正当ノ理由ナクシテ船舶ヲ遺棄シタルトキハ一月以上二年以下ノ重禁錮ニ処ス
船長カ外国ニ於テ正当ノ理由ナクシテ海員ヲ遺棄シタルトキハ一月以上一年以下ノ重禁錮ニ処ス
第六十六条 海員カ船長ノ許可ヲ得スシテ兇器、爆発又ハ発火シ易キ物、劇薬其他ノ危険物ヲ所持スルトキハ五円以上百円以下ノ罰金ニ処ス
第六十七条 故ナク船体若クハ機関ノ要部ヲ毀損シ又ハ重要ナル属具ヲ毀損若クハ放棄シタル者ハ十一日以上三年以下ノ重禁錮ニ処シ五円以上五十円以下ノ罰金ヲ附加ス
前項ノ罪ヲ犯シ因テ船舶ノ運航ヲ妨ケタルトキハ一等ヲ加ヘ船舶ヲ覆没シ又ハ人ヲ死ニ致シタルトキハ重懲役ニ処ス
第六十八条 船舶ノ運航ヲ妨クル目的ヲ以テ前条第一項ノ罪ヲ犯シタル者ハ重懲役ニ処シ因テ船舶ヲ覆没シ又ハ人ヲ死ニ致シタルトキハ刑法第百六十九条ノ例ニ依リテ処断ス
第六十九条 海員カ上長ニ対シテ脅迫ノ罪ヲ犯シタルトキハ刑法各本条ノ例ニ照シ一等ヲ加フ
刑法第三百二十九条ノ規定ハ前項ノ場合ニハ之ヲ適用セス
第七十条 海員カ上長ニ対シテ殴打創傷ノ罪ヲ犯シタルトキハ刑法各本条ノ例ニ照シ一等ヲ加フ
第七十一条 船長カ旅客、海員其他船中ニ在ル者ニ対シテ其職権ヲ濫用シ又ハ虐待ヲ為シタルトキハ十一日以上三月以下ノ重禁錮ニ処シ又ハ十円以上三百円以下ノ罰金ニ処ス
前項ノ罪ヲ犯シ因テ人ヲ疾病、死傷ニ致シタルトキハ前条ノ例ニ依リテ処断ス
第七十二条 海員カ相党与シテ左ノ行為ヲ為シタルトキハ各号ノ区別ニ依リテ処断シ首魁ハ一等ヲ加フ
一 職務ニ服セス又ハ上長ノ命令ニ服従セサルトキハ十一日以上六月以下ノ重禁錮ニ処ス
二 脱船シタルトキハ一月以上一年以下ノ重禁錮ニ処ス
三 第六十九条又ハ第七十条ノ罪ヲ犯シタルトキハ各本条ノ例ニ照シ一等ヲ加フ
第七十三条 船員カ著シク其職務ヲ怠リ因テ船舶ヲ毀損若クハ覆没シ又ハ人ヲ死傷ニ致シタルトキハ一月以上五年以下ノ重禁錮ニ処シ又ハ十円以上千円以下ノ罰金ニ処ス
第七十四条 本章ノ規定中船長ニ適用スヘキモノハ船長ニ代ハリテ其職務ヲ行フ者ニモ亦之ヲ適用ス
附 則
第七十五条 本法ハ商法施行ノ日ヨリ之ヲ施行ス
石数ヲ以テ積量ヲ表示スル船舶ニ関シテハ勅令ヲ以テ別ニ本法施行ノ期日ヲ定ムルコトヲ得
第七十六条 明治十二年第九号布告西洋形船海員雇入雇止規則ハ本法施行ノ日ヨリ之ヲ廃止ス但本法施行前ニ同規則ニ定メタル罰則ヲ適用スヘキ行為アリタルトキハ本法施行ノ後ト雖モ其罰則ヲ適用ス
第七十七条 船員ハ本法施行ノ日ヨリ六个月間ハ船員手帖ノ交付ヲ申請スルコトヲ要セス
前項ノ期間経過ノ後ハ船員ハ遅滞ナク船員手帖ノ交付ヲ申請スルコトヲ要ス
第七十八条 従来ノ海員名簿ハ本法施行ノ日ヨリ六个月間ハ商法ニ定メタル海員名簿ト同一ノ効力ヲ有ス
前項ノ期間内ニ公認アリタルトキハ其期間経過ノ後ト雖モ其後始メテ公認アルマテハ従来ノ海員名簿ハ仍ホ其効力ヲ有ス
第七十九条 本法ノ規定ニ依リ管海官庁カ行フヘキ事務ニ付テハ主務大臣ハ市町村長、市制又ハ町村制ヲ施行セサル地方ニ在リテハ戸長又ハ之ニ準スヘキ者ヲシテ其事務ヲ行ハシムルコトヲ得
第八十条 本法ノ施行ニ関スル細則ハ主務大臣之ヲ定ム