朕帝國議會ノ協贊ヲ經タル刑事訴訟法ヲ裁可シ玆ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
攝政名
大正十一年五月四日
內閣總理大臣兼大藏大臣 子爵 高橋是淸
外務大臣 伯爵 內田康哉
海軍大臣 男爵 加藤友三郞
農商務大臣 男爵 山本達雄
內務大臣 床次竹二郞
文部大臣 中橋德五郞
遞信大臣 野田卯太郞
鐵道大臣 元田肇
司法大臣 伯爵 大木遠吉
陸軍大臣 山梨半造
法律第七十五號
刑事訴訟法
第一編 總則
第一章 裁判所ノ管轄
第一條 裁判所ノ土地管轄ハ犯罪地又ハ被告人ノ住所、居所若ハ現在地ニ依ル
帝國外ニ在ル帝國艦船內ニ於テ犯シタル罪ニ付テハ前項ニ規定スル地ノ外其ノ艦船ノ本籍若ハ船籍ノ所在地又ハ犯罪後其ノ艦船ノ繫泊シタル地ニ依ル
第二條 事物管轄ヲ異ニスル數個ノ事件牽連スルトキハ上級裁判所併セテ之ヲ管轄スルコトヲ得
第三條 事物管轄ヲ異ニスル數個ノ牽連事件上級裁判所ノ公判ニ繫屬スル場合ニ於テ併セテ審判スルコトヲ必要トセサルモノアルトキハ上級裁判所ハ檢事ノ意見ヲ聽キ決定ヲ以テ管轄權ヲ有スル下級裁判所ニ之ヲ移送スルコトヲ得
第四條 事物管轄ヲ異ニスル數個ノ牽連事件各別ニ上級裁判所及下級裁判所ノ公判ニ繫屬スルトキハ上級裁判所ハ檢事ノ意見ヲ聽キ決定ヲ以テ下級裁判所ノ管轄ニ屬スル事件ヲ併セテ審判スルコトヲ得
第五條 土地管轄ヲ異ニスル數個ノ事件牽連スルトキハ一個ノ事件ニ付管轄權ヲ有スル裁判所併セテ他ノ事件ヲ管轄スルコトヲ得
第六條 土地管轄ヲ異ニスル數個ノ牽連事件同一裁判所ノ公判ニ繫屬スル場合ニ於テ併セテ審判スルコトヲ必要トセサルモノアルトキハ其ノ裁判所ハ檢事ノ意見ヲ聽キ決定ヲ以テ管轄權ヲ有スル他ノ裁判所ニ之ヲ移送スルコトヲ得
土地管轄ヲ異ニスル數個ノ牽連事件同一裁判所ノ豫審ニ繫屬スルトキ亦前項ニ同シ
第七條 事物管轄ヲ同シクスル數個ノ牽連事件各別ニ數個ノ裁判所ノ公判ニ繫屬スルトキハ各裁判所ハ檢事ノ請求ニ因リ決定ヲ以テ之ヲ一ノ裁判所ニ併合スルコトヲ得
事物管轄ヲ同シクスル數個ノ牽連事件各別ニ數個ノ裁判所ノ豫審ニ繫屬スルトキ亦前項ニ同シ
前二項ノ場合ニ於テ各裁判所ノ決定一致セサルトキハ各裁判所ニ共通スル直近上級裁判所ハ檢事ノ請求ニ因リ決定ヲ以テ事件ヲ一ノ裁判所ニ併合スルコトヲ得
第八條 數個ノ事件ハ左ノ場合ニ於テ牽連スルモノトス
一 一人數罪ヲ犯シタルトキ
二 數人共ニ同一又ハ別個ノ罪ヲ犯シタルトキ
三 數人通謀シテ各別ニ罪ヲ犯シタルトキ
四 數人同時ニ同一ノ場所ニ於テ各別ニ罪ヲ犯シタルトキ
犯人藏匿ノ罪、證憑湮滅ノ罪、僞證ノ罪、虛僞ノ鑑定通譯ノ罪及贓物ニ關スル罪ト其ノ本犯ノ罪トハ共ニ犯シタルモノト看做ス
第九條 同一事件事物管轄ヲ異ニスル數個ノ裁判所ノ豫審又ハ公判ニ繫屬スルトキハ上級裁判所ニ於テ之ヲ審判ス
上級裁判所ハ檢事ノ請求ニ因リ決定ヲ以テ管轄權ヲ有スル下級裁判所ヲシテ其ノ事件ヲ審判セシムルコトヲ得
第十條 同一事件事物管轄ヲ同シクスル數個ノ裁判所ノ豫審又ハ公判ニ繫屬スルトキハ最初ニ公訴ヲ受ケタル裁判所ニ於テ之ヲ審判ス
各裁判所ニ共通スル直近上級裁判所ハ檢事ノ請求ニ因リ決定ヲ以テ後ニ公訴ヲ受ケタル裁判所ヲシテ其ノ事件ヲ審判セシムルコトヲ得
第十一條 裁判所ハ事實發見ノ爲必要アルトキハ管轄區域外ニ於テ職務ヲ行フコトヲ得
前項ノ規定ハ豫審判事及受命判事ニ之ヲ準用ス
第十二條 訴訟手續ハ管轄違ノ理由ニ因リ其ノ效力ヲ失ハス
第十三條 裁判所ハ管轄權ヲ有セサルトキト雖急速ヲ要スル場合ニ於テハ事實發見ノ爲必要ナル處分ヲ爲スコトヲ得
前項ノ規定ハ豫審判事及受命判事ニ之ヲ準用ス
第十四條 檢事ハ左ノ場合ニ於テ關係アル第一審裁判所ニ共通スル直近上級裁判所ニ管轄指定ノ請求ヲ爲スヘシ
一 裁判所ノ管轄區域明確ナラサル爲管轄裁判所ノ定ラサルトキ
二 管轄違ヲ言渡シタル確定裁判アリタル事件ニ付他ニ管轄裁判所ナキトキ
第十五條 法律ニ依ル管轄裁判所ナキトキ又ハ之ヲ知ルコト能ハサルトキハ檢事總長ハ大審院ニ管轄指定ノ請求ヲ爲スヘシ
第十六條 檢事ハ左ノ場合ニ於テ直近上級裁判所ニ管轄移轉ノ請求ヲ爲スヘシ
一 管轄裁判所又ハ裁判所構成法第十三條第二項ノ規定ニ依リ定メタル裁判所ニ於テ法律上ノ理由又ハ特別ノ事情ニ因リ裁判權ヲ行フコト能ハサルトキ
二 被告人ノ地位、地方ノ民心、訴訟ノ狀況其ノ他ノ事情ニ因リ裁判ノ公平ヲ維持スルコト能ハサル虞アルトキ
前項第二號ノ場合ニ於テハ被告人亦管轄移轉ノ請求ヲ爲スコトヲ得
第十七條 犯罪ノ性質、被告人ノ地位、地方ノ民心其ノ他ノ事情ニ因リ管轄裁判所ニ於テ審判ヲ爲ストキハ公安ヲ害スル虞アリト認ムル場合ニ於テハ檢事總長ハ大審院ニ管轄移轉ノ請求ヲ爲スヘシ
第十八條 管轄ノ指定又ハ移轉ノ請求ヲ爲スニハ理由ヲ附シタル請求書ヲ管轄裁判所ニ差出スヘシ
檢事前項ノ請求書ヲ差出スニハ管轄裁判所ノ檢事ヲ經由スヘシ
第十九條 檢事豫審又ハ公判ニ繫屬スル事件ニ付管轄ノ指定又ハ移轉ノ請求ヲ爲シタルトキハ速ニ其ノ旨ヲ裁判所ニ通知スヘシ
第二十條 檢事豫審又ハ公判ニ繫屬スル事件ニ付第十六條第一項第二號ニ規定スル事由ノ爲管轄移轉ノ請求ヲ爲シタル場合ニ於テハ速ニ請求書ノ謄本ヲ被告人ニ交付スヘシ
被告人ハ謄本ノ交付ヲ受ケタル日ヨリ三日內ニ管轄裁判所ニ意見書ヲ差出スコトヲ得
第二十一條 被告人管轄移轉ノ請求書ヲ差出スニハ事件ノ繫屬スル裁判所ヲ經由スヘシ
前項ノ裁判所請求書ヲ受取リタルトキハ速ニ之ヲ其ノ裁判所ノ檢事ニ送付スヘシ
檢事ハ請求書ニ意見書ヲ添ヘ速ニ之ヲ管轄裁判所ノ檢事ニ送付スヘシ
第二十二條 豫審又ハ公判ニ繫屬スル事件ニ付管轄ノ指定又ハ移轉ノ請求アリタルトキハ決定アル迄訴訟手續ヲ停止スヘシ但シ急速ヲ要スル場合ハ此ノ限ニ在ラス
第二十三條 管轄ノ指定又ハ移轉ノ請求ヲ受ケタル裁判所ハ檢事ノ意見ヲ聽キ決定ヲ爲スヘシ
第二章 裁判所職員ノ除斥、忌避及囘避
第二十四條 判事ハ左ノ場合ニ於テ職務ノ執行ヨリ除斥セラルヘシ
一 判事被害者ナルトキ
二 判事私訴當事者ナルトキ
三 判事被告人、被害者又ハ私訴當事者ノ配偶者、四親等內ノ血族、三親等內ノ姻族又ハ同居ノ戶主若ハ家族ナルトキ親族關係ノ止ミタル後亦同シ
四 判事被告人、被害者又ハ私訴當事者ノ法定代理人、後見監督人又ハ保佐人ナルトキ
五 判事事件ニ付證人又ハ鑑定人ト爲リタルトキ
六 判事事件ニ付被告人ノ代理人、辯護人、輔佐人又ハ私訴當事者ノ代理人ト爲リタルトキ
七 判事事件ニ付檢事又ハ司法警察官ノ職務ヲ行ヒタルトキ
八 判事事件ニ付豫審終結決定若ハ前審ノ裁判又ハ其ノ基礎ト爲リタル取調ニ關與シタルトキ但シ受託判事トシテ關與シタル場合ハ此ノ限ニ在ラス
第二十五條 判事職務ノ執行ヨリ除斥セラルヘキトキ又ハ偏頗ノ裁判ヲ爲ス虞アルトキハ檢事、被告人又ハ私訴當事者之ヲ忌避スルコトヲ得
辯護人ハ被告人ノ爲忌避ノ申立ヲ爲スコトヲ得但シ被告人ノ明示シタル意思ニ反スルコトヲ得ス
第二十六條 事件ニ付請求又ハ陳述ヲ爲シタル後ハ偏頗ノ裁判ヲ爲ス虞アリトシテ判事ヲ忌避スルコトヲ得ス但シ忌避ノ原由アリシコトヲ知ラサリシトキ又ハ忌避ノ原由其ノ後ニ發生シタルトキハ此ノ限ニ在ラス
第二十七條 合議裁判所ノ判事ニ對スル忌避ノ申立ハ其ノ判事所屬ノ裁判所ニ之ヲ爲シ豫審判事、受命判事又ハ區裁判所判事ニ對スル忌避ノ申立ハ忌避スヘキ判事ニ之ヲ爲スヘシ
忌避ノ申立ハ書面又ハ口頭ヲ以テ之ヲ爲シ其ノ原由ヲ示スヘシ
忌避ノ原由及前條但書ノ事實ハ申立ヲ爲シタル日ヨリ三日內ニ書面ヲ以テ之ヲ疏明スヘシ
忌避セラレタル判事ハ第二十八條第四項但書及第二十九條ノ場合ヲ除クノ外忌避ノ申立ニ對シ意見書ヲ差出スヘシ
第二十八條 合議裁判所ノ判事忌避セラレタルトキハ其ノ判事所屬ノ裁判所決定ヲ爲スヘシ
忌避セラレタル判事ハ前項ノ決定ニ關與スルコトヲ得ス
第一項ノ裁判所忌避セラレタル判事ノ退去ニ因リ決定ヲ爲スコト能ハサルトキハ直近上級裁判所決定ヲ爲スヘシ
豫審判事忌避セラレタルトキハ其ノ判事所屬ノ裁判所、區裁判所判事忌避セラレタルトキハ管轄地方裁判所決定ヲ爲スヘシ但シ忌避セラレタル判事忌避ノ申立ヲ理由アリトスルトキハ其ノ決定アリタルモノト看做ス
第二十九條 訴訟ヲ遲延セシムル目的ノミヲ以テ爲シタルコト明白ナル忌避ノ申立ハ決定ヲ以テ之ヲ却下スヘシ此ノ場合ニ於テハ前條第二項ノ規定ヲ適用セス第二十六條又ハ第二十七條第二項第三項ノ規定ニ違反シテ爲シタル忌避ノ申立ヲ却下スル場合亦同シ
前項ノ場合ニ於テハ忌避セラレタル豫審判事、受命判事又ハ區裁判所判事ハ忌避ノ申立ヲ却下スル裁判ヲ爲スコトヲ得
第三十條 忌避ノ申立アリタルトキハ前條ノ場合ヲ除クノ外訴訟手續ヲ停止スヘシ但シ急速ヲ要スル場合ハ此ノ限ニ在ラス
第三十一條 忌避ノ申立ヲ却下スル決定ニ對シテハ卽時抗告ヲ爲スコトヲ得
第三十二條 忌避ノ申立ニ付決定ヲ爲スヘキ裁判所ハ第二十四條各號ノ一ニ該當スル者アリト認ムルトキハ職權ヲ以テ除斥ノ決定ヲ爲スヘシ
第二十七條第四項及第二十八條第二項第三項ノ規定ハ前項ノ場合ニ之ヲ準用ス
第三十三條 判事忌避セラルヘキ原由アリト思料スルトキハ囘避スヘシ
囘避ノ申立ハ判事所屬ノ裁判所ニ書面ヲ以テ之ヲ爲スヘシ
第二十八條ノ規定ハ囘避ニ付之ヲ準用ス
第三十四條 前二條ノ決定ハ之ヲ送達セス
第三十五條 本章ノ規定ハ第二十四條第八號ノ規定ヲ除クノ外裁判所書記ニ之ヲ準用ス
豫審判事又ハ受命判事ニ附屬スル裁判所書記ニ對スル忌避ノ申立ハ其ノ附屬スル判事ニ之ヲ爲スヘシ
決定ハ裁判所書記所屬ノ裁判所之ヲ爲スヘシ但シ第二十九條第二項ノ裁判ハ裁判所書記ノ附屬スル判事之ヲ爲スコトヲ得
第三章 訴訟能力
第三十六條 被告人法人ナルトキハ其ノ代表者訴訟行爲ニ付之ヲ代表ス
數人共同シテ法人ヲ代表スル場合ト雖訴訟行爲ニ付テハ各自之ヲ代表ス
第三十七條 刑法第三十九條乃至第四十一條ノ例ヲ用井サル罪ニ該ル事件ニ付被告人意思能力ヲ有セサルトキハ其ノ法定代理人訴訟行爲ニ付之ヲ代表ス
第三十八條 前二條ノ規定ニ依リ被告人ヲ代表スル者ナキトキハ檢事ノ請求ニ因リ又ハ職權ヲ以テ特別代理人ヲ選任スヘシ
特別代理人ハ被告人ヲ代表シテ訴訟行爲ヲ爲ス者アルニ至ル迄其ノ任務ヲ行フ
第四章 辯護及輔佐
第三十九條 被告人ハ公訴ノ提起アリタル後何時ニテモ辯護人ヲ選任スルコトヲ得
被告人ノ法定代理人、保佐人、直系尊屬、直系卑屬及配偶者竝被告人ノ屬スル家ノ戶主ハ獨立シテ辯護人ヲ選任スルコトヲ得
第四十條 辯護人ハ辯護士中ヨリ之ヲ選任スヘシ
裁判所又ハ豫審判事ノ許可ヲ得タルトキハ辯護士ニ非サル者ヲ辯護人ニ選任スルコトヲ得
第四十一條 辯護人ノ選任ハ審級每ニ之ヲ爲スヘシ
豫審中爲シタル辯護人ノ選任ハ第一審ノ公判ニ於テモ其ノ效力ヲ有ス
第四十二條 辯護人ノ選任ハ辯護人ト連署シタル書面ヲ差出シテ之ヲ爲スヘシ
第四十三條 第三百三十四條又ハ第三百三十五條ノ規定ニ依リ附スヘキ辯護人ハ裁判所所在地ニ在ル辯護士又ハ司法官試補ノ中ヨリ裁判長之ヲ選任スヘシ
被告人ノ利害相反セサルトキハ同一ノ辯護人ヲシテ數人ノ辯護ヲ爲サシムルコトヲ得
第四十四條 辯護人ハ被告事件公判ニ付セラレタル後裁判所ニ於テ訴訟ニ關スル書類及證據物ヲ閱覽シ且其ノ書類ヲ謄寫スルコトヲ得
豫審ニ於テハ辯護人ノ立會フコトヲ得ヘキ豫審處分ニ關スル書類及證據物ヲ閱覽シ且其ノ書類ヲ謄寫スルコトヲ得
辯護人ハ裁判長又ハ豫審判事ノ許可ヲ受ケ證據物ヲ謄寫スルコトヲ得
第四十五條 被告事件公判ニ付セラレタル後ニ於テハ辯護人ト勾留ヲ受ケタル被告人トノ接見及信書ノ往復ヲ禁スルコトヲ得ス
第四十六條 辯護人ハ別段ノ規定アル場合ニ限リ獨立シテ訴訟行爲ヲ爲スコトヲ得
第四十七條 被告人ノ法定代理人、保佐人、直系尊屬、直系卑屬及夫竝被告人ノ屬スル家ノ戶主ハ被告事件公判ニ付セラレタル後何時ニテモ輔佐人ト爲ルコトヲ得
輔佐人タラントスル者ハ審級每ニ書面ヲ以テ其ノ旨ヲ屆出ツヘシ
輔佐人ハ被告人ノ爲スコトヲ得ヘキ訴訟行爲ヲ獨立シテ爲スコトヲ得但シ別段ノ規定アル場合ハ此ノ限ニ在ラス
第五章 裁判
第四十八條 判決ハ口頭辯論ニ基キテ之ヲ爲スヘシ但シ別段ノ規定アル場合ハ此ノ限ニ在ラス
決定ハ公判廷ニ於テ申立ニ因リ之ヲ爲ストキハ訴訟關係人ノ陳述ヲ聽クヘシ其ノ他ノ場合ニ於テハ訴訟關係人ノ陳述ヲ聽カスシテ之ヲ爲スコトヲ得但シ別段ノ規定アル場合ハ此ノ限ニ在ラス
命令ハ訴訟關係人ノ陳述ヲ聽カスシテ之ヲ爲スコトヲ得
決定又ハ命令ヲ爲スニ付必要アル場合ニ於テハ事實ノ取調ヲ爲スコトヲ得
前項ノ取調ハ部員ヲシテ之ヲ爲サシメ又ハ區裁判所判事ニ之ヲ囑託スルコトヲ得
受命判事又ハ受託判事ハ取調ノ結果ニ付報告ヲ爲スヘシ
第四十九條 裁判ニハ理由ヲ附スヘシ
上訴ヲ許ササル決定又ハ命令ニハ理由ヲ附セサルコトヲ得
第五十條 裁判ノ告知ハ公判廷ニ於テハ宣告ニ依リ之ヲ爲シ其ノ他ノ場合ニ於テハ裁判書ノ謄本ヲ送達シテ之ヲ爲スヘシ但シ別段ノ規定アル場合ハ此ノ限ニ在ラス
第五十一條 裁判ノ宣告ハ裁判長之ヲ爲スヘシ
判決ノ宣告ヲ爲スニハ主文及理由ヲ朗讀シ又ハ主文ノ朗讀ト同時ニ理由ノ要旨ヲ告クヘシ
第五十二條 檢事ノ執行指揮ヲ要スル裁判ヲ爲シタルトキハ速ニ裁判書又ハ裁判ヲ記載シタル調書ノ謄本又ハ抄本ヲ檢事ニ送付スヘシ但シ別段ノ規定アル場合ハ此ノ限ニ在ラス
第五十三條 被告人其ノ他訴訟關係人ハ其ノ費用ヲ以テ裁判書又ハ裁判ヲ記載シタル調書ノ謄本又ハ抄本ノ交付ヲ請求スルコトヲ得
第六章 書類
第五十四條 訴訟ニ關スル書類ハ別段ノ規定アル場合ヲ除クノ外裁判所書記之ヲ作成スヘシ
第五十五條 訴訟ニ關スル書類ハ公判開廷前ニ於テハ之ヲ公ニスルコトヲ得ス
第五十六條 被告人、被疑者、證人、鑑定人、通事又ハ翻譯人ノ訊問ニ付テハ調書ヲ作ルヘシ
調書ニハ左ノ事項ヲ記載スヘシ
一 被告人、被疑者、證人、鑑定人、通事又ハ翻譯人ノ訊問及供述
二 證人、鑑定人、通事又ハ翻譯人宣誓ヲ爲ササルトキハ其ノ事由
調書ハ裁判所書記ヲシテ之ヲ供述者ニ讀聞カサシメ又ハ供述者ヲシテ之ヲ閱覽セシメ其ノ記載ノ相違ナキカ否ヲ問フヘシ
供述者增減變更ヲ申立テタルトキハ其ノ供述ヲ調書ニ記載スヘシ
調書ニハ供述者ヲシテ署名捺印セシムヘシ
第五十七條 檢證、押收又ハ搜索ニ付テハ調書ヲ作ルヘシ
押收ヲ爲シタルトキハ其ノ品目ヲ調書ニ記載シ又ハ別ニ目錄ヲ作リ之ヲ調書ニ添附スヘシ
第五十八條 前二條ノ調書ニハ取調又ハ處分ヲ爲シタル年月日及場所ヲ記載シ其ノ取調又ハ處分ヲ爲シタル者裁判所書記ト共ニ署名捺印スヘシ但シ公判期日外ニ於テ裁判所取調又ハ處分ヲ爲シタルトキハ裁判長裁判所書記ト共ニ署名捺印スヘシ
前條ノ調書ニハ取調又ハ處分ヲ爲シタル時ヲモ記載スヘシ
第五十九條 裁判所書記ノ立會ナクシテ取調又ハ處分ヲ爲ス場合ニ於テハ裁判所書記ノ行フヘキ職務ハ其ノ取調又ハ處分ヲ爲ス者自ラ之ヲ行フヘシ
第六十條 公判期日ニ於ケル訴訟手續ニ付テハ公判調書ヲ作ルヘシ
公判調書ニハ左ノ事項其ノ他一切ノ訴訟手續ヲ記載スヘシ
一 公判ヲ爲シタル裁判所及年月日
二 判事、檢事及裁判所書記ノ官氏名竝被告人、代理人、辯護人、輔佐人及通事ノ氏名
三 被告人出頭セサリシトキハ其ノ旨
四 公開ヲ禁シタルトキハ其ノ旨及理由
五 被告事件ノ陳述及公判開廷中口頭ノ起訴アリタルトキハ其ノ要旨
六 辯論ノ要旨
七 第五十六條第二項ニ揭クル事項
八 朗讀シ又ハ要旨ヲ告ケタル書類
九 被告人ニ示シタル書類及證據物
十 公判廷ニ於テ爲シタル檢證及押收
十一 裁判長ノ記載ヲ命シタル事項及訴訟關係人ノ請求ニ因リ記載ヲ許シタル事項
十二 被告人若ハ辯護人最終ニ陳述シタルコト又ハ被告人若ハ辯護人ニ最終ニ陳述スル機會ヲ與ヘタルコト
十三 判決其ノ他ノ裁判ノ宣告ヲ爲シタルコト
第六十一條 公判調書ニ付テハ第五十六條第三項乃至第五項ノ規定ニ依ル手續ヲ爲スコトヲ要セス
供述者ノ請求アルトキハ裁判所書記ヲシテ其ノ供述ニ關スル部分ヲ讀聞カサシメ增減變更ノ申立アリタルトキハ其ノ供述ヲ記載セシムヘシ
第六十二條 公判調書ハ公判開廷ノ日ヨリ五日內ニ之ヲ整理スヘシ
第六十三條 公判調書ニハ裁判長裁判所書記ト共ニ署名捺印スヘシ
裁判長差支アルトキハ上席ノ判事其ノ事由ヲ附記シテ署名捺印スヘシ
區裁判所判事差支アルトキハ裁判所書記其ノ事由ヲ附記シテ署名捺印スヘシ
裁判所書記差支アルトキハ裁判長其ノ事由ヲ附記シテ署名捺印スヘシ
第六十四條 公判期日ニ於ケル訴訟手續ハ公判調書ノミニ依リ之ヲ證明スルコトヲ得
第六十五條 辯護人ハ裁判所ノ許可ヲ受ケ速記者ヲシテ公判ニ於ケル被告人又ハ證人ノ供述ヲ筆記セシムルコトヲ得
第六十六條 裁判ヲ爲ストキハ裁判書ヲ作ルヘシ但シ決定又ハ命令ヲ宣告スル場合ニ於テハ裁判書ヲ作ラスシテ之ヲ調書ニ記載セシムルコトヲ得
第六十七條 裁判書ハ判事之ヲ作ルヘシ
第六十八條 裁判書ニハ裁判ヲ爲シタル判事署名捺印スヘシ裁判長署名捺印スルコト能ハサルトキハ上席ノ判事其ノ事由ヲ附記シテ署名捺印シ他ノ判事署名捺印スルコト能ハサルトキハ裁判長其ノ事由ヲ附記シテ署名捺印スヘシ
第六十九條 裁判書ニハ別段ノ規定アル場合ヲ除クノ外裁判ヲ受クル者ノ氏名、年齡、職業及住居ヲ記載スヘシ裁判ヲ受クル者法人ナルトキハ其ノ名稱及事務所ヲ記載スヘシ
判決書ニハ前項ニ規定スル事項ノ外公判ニ關與シタル檢事ノ官氏名ヲ記載スヘシ
第七十條 裁判書又ハ裁判ヲ記載シタル調書ノ謄本又ハ抄本ハ原本又ハ謄本ニ依リ之ヲ作ルヘシ
第七十一條 官吏又ハ公吏ノ作ルヘキ書類ニハ別段ノ規定アル場合ヲ除クノ外年月日ヲ記載シテ署名捺印シ其ノ所屬ノ官署又ハ公署ヲ表示スヘシ
書類ニハ每葉ニ契印スヘシ
第七十二條 官吏又ハ公吏書類ヲ作ルニハ文字ヲ改竄スヘカラス挿入、削除又ハ欄外記入ヲ爲シタルトキハ之ニ認印シ其ノ字數ヲ記載スヘシ但シ削除シタル部分ハ之ヲ讀得ヘキ爲字體ヲ存スヘシ
第七十三條 官吏又ハ公吏ニ非サル者ノ作ルヘキ書類ニハ年月日ヲ記載シテ署名捺印スヘシ
第七十四條 官吏又ハ公吏ニ非サル者ノ署名捺印スヘキ場合ニ於テ署名スルコト能ハサルトキハ他人ヲシテ代書セシメ捺印スルコト能ハサルトキハ花押又ハ拇印スヘシ
他人ヲシテ代書セシメタル場合ニ於テハ代書シタル者其ノ事由ヲ記載シテ署名捺印スヘシ
第七章 送達
第七十五條 被告人、私訴當事者、代理人、辯護人又ハ輔佐人ハ書類ノ送達ヲ受クル爲書面ヲ以テ其ノ住居又ハ事務所ヲ裁判所ニ屆出ツヘシ裁判所所在地ニ住居又ハ事務所ヲ有セサルトキハ其ノ所在地ニ住居又ハ事務所ヲ有スル者ヲ送達受取人ニ選任シ其ノ者ト連署シタル書面ヲ以テ之ヲ屆出ツヘシ
前項ノ規定ニ依ル屆出ハ同一ノ地ニ在ル各審級ノ裁判所ニ對シ其ノ效力ヲ有ス
前二項ノ規定ハ在監者ニ之ヲ適用セス
送達ニ付テハ送達受取人ハ之ヲ本人ト看做シ其ノ住居又ハ事務所ハ之ヲ本人ノ住居ト看做ス
第七十六條 住居、事務所又ハ送達受取人ヲ屆出ツヘキ者其ノ屆出ヲ爲ササルトキハ裁判所書記ハ書類ヲ郵便ニ付シテ其ノ送達ヲ爲スコトヲ得
前項ノ送達ハ書類ヲ郵便ニ付シタル時ヲ以テ之ヲ爲シタルモノト看做ス
第七十七條 檢事ニ對スル送達ハ書類ヲ檢事局ニ送付シテ之ヲ爲スヘシ
第七十八條 被告人ノ住居、事務所及現在地知レサルトキハ公示送達ヲ爲スコトヲ得
被告人裁判權ノ及ハサル場所ニ在ル場合ニ於テ他ノ方法ヲ以テ送達ヲ爲スコト能ハサルトキ亦前項ニ同シ
第七十九條 公示送達ハ裁判所ノ命シタルトキニ限リ之ヲ爲スコトヲ得
公示送達ハ裁判所書記送達スヘキ書類又ハ其ノ抄本ヲ裁判所ノ揭示場ニ公示シテ之ヲ爲スヘシ
公判ニ於ケル第一囘ノ召喚狀ノ公示送達ハ裁判所書記召喚狀ヲ裁判所ノ揭示場ニ公示シ且其ノ謄本ヲ官報又ハ新聞紙ニ揭載シテ之ヲ爲スヘシ
前項ノ公示送達ハ最後ニ官報又ハ新聞紙ニ揭載シタル日ヨリ三十日、其ノ他ノ公示送達ハ揭示場ニ公示ヲ始メタル日ヨリ七日ノ期間ヲ經過スルニ因リテ其ノ效力ヲ生ス
第八十條 書類ノ送達ニ付テハ別段ノ規定アル場合ヲ除クノ外民事訴訟法ヲ準用ス但シ司法警察官ノ發スル書類ノ送達ニ付テハ裁判所書記ニ屬スル職務ハ司法警察官之ヲ行ヒ執達吏ニ屬スル職務ハ司法警察吏之ヲ行フ
第八章 期間
第八十一條 期間ノ計算ニ付テハ時ヲ以テスルモノハ卽時ヨリ之ヲ起算シ日、月又ハ年ヲ以テスルモノハ初日ヲ算入セス但シ時效期間ノ初日ハ時間ヲ論セス一日トシテ之ヲ計算ス
月及年ハ曆ニ從ヒ之ヲ計算ス
期間ノ末日日曜日、一月一日二日四日、十二月二十九日三十日三十一日又ハ一般ノ休日トシテ指定セラレタル日ニ當ルトキハ之ヲ期間ニ算入セス但シ時效期間ニ付テハ此ノ限ニ在ラス
第八十二條 法定ノ期間ハ訴訟行爲ヲ爲スヘキ者ノ住居又ハ事務所ノ所在地ト裁判所所在地トノ距離ニ從ヒ海陸路二十里每ニ一日ヲ加フ其ノ距離又ハ端數二十里ニ滿タサルモ五里以上ナルトキハ一日ヲ加フ但シ海路ハ二海里ヲ一里トシテ之ヲ計算ス
前項ノ規定ハ宣告シタル裁判ニ對スル上訴ノ提起期間ニハ之ヲ適用セス
外國又ハ交通不便ノ地ニ在ル者ノ爲ニハ特ニ期間ヲ定ムルコトヲ得
第九章 被告人ノ召喚、勾引及勾留
第八十三條 裁判所公訴ヲ受ケタルトキハ被告人ヲ召喚スヘシ
第八十四條 被告人ノ召喚ハ召喚狀ヲ發シテ之ヲ爲スヘシ
被告人ヨリ期日ニ出頭スヘキ旨ヲ記載シタル書面ヲ差出シ又ハ出頭シタル被告人ニ對シ口頭ヲ以テ次囘ノ出頭ヲ命シタルトキハ召喚狀ヲ送達シタルト同一ノ效力ヲ有ス口頭ヲ以テ出頭ヲ命シタル場合ニ於テハ其ノ旨ヲ調書ニ記載スヘシ
受訴裁判所ニ近接スル監獄ニ在ル被告人ニ對シテハ監獄官吏ニ通知シテ之ヲ召喚スルコトヲ得此ノ場合ニ於テハ被告人監獄官吏ヨリ通知ヲ受ケタル時ヲ以テ召喚狀ノ送達アリタルモノト看做ス
第八十五條 召喚ニ因リ出頭シタル被告人ハ速ニ之ヲ訊問スヘシ
被告人裁判所構內ニ在ルトキハ召喚ヲ爲ササル場合ニ於テモ之ヲ訊問スルコトヲ得
第八十六條 被告人再度ノ召喚ヲ受ケ故ナク出頭セサルトキハ之ヲ勾引スルコトヲ得
第八十七條 左ノ場合ニ於テハ直ニ被告人ヲ勾引スルコトヲ得
一 被告人定リタル住居ヲ有セサルトキ
二 被告人罪證ヲ湮滅スル虞アルトキ
三 被告人逃亡シタルトキ又ハ逃亡スル虞アルトキ
五百圓以下ノ罰金、拘留又ハ科料ニ該ル事件ニ付テハ前項第一號ノ場合ヲ除クノ外被告人ヲ勾引スルコトヲ得ス但シ前條及第百六條ノ規定ノ適用ヲ妨ケス
第八十八條 被告人ノ勾引ハ勾引狀ヲ發シテ之ヲ爲スヘシ
第八十九條 勾引シタル被告人ハ裁判所ニ引致シタル時ヨリ四十八時間內ニ之ヲ訊問スヘシ其ノ時間內ニ勾留狀ヲ發セサルトキハ被告人ヲ釋放スヘシ
第九十條 第八十七條ノ規定ニ依リ被告人ヲ勾引スルコトヲ得ヘキ原由アルトキハ之ヲ勾留スルコトヲ得
被告人ノ勾留ハ第八十五條又ハ前條ノ規定ニ依リ被告人ヲ訊問シタル後ニ非サレハ之ヲ爲スコトヲ得ス但シ被告人逃亡シタル場合ハ此ノ限ニ在ラス
被告人監獄ニ在ルトキハ第一項ノ原由ナシト雖之ヲ勾留スルコトヲ得
第九十一條 被告人ノ勾留ハ勾留狀ヲ發シテ之ヲ爲スヘシ
第九十二條 被告人ヲ勾留シタル場合ニ於テハ其ノ身體及名譽ヲ保全スルコトニ注意スヘシ
第九十三條 裁判長ハ急速ヲ要スル場合ニ於テハ第八十三條乃至第九十一條ニ規定スル處分ヲ爲シ又ハ部員ヲシテ之ヲ爲サシムルコトヲ得
第九十四條 裁判長ハ被告人ノ現在地ノ豫審判事若ハ區裁判所判事、法令ニ依リ特別ニ裁判權ヲ有スル官署、檢事又ハ司法警察官ニ被告人ノ勾引ヲ囑託スルコトヲ得
受託官署ハ受託ノ權限アル官署ニ轉囑スルコトヲ得但シ司法警察官ハ此ノ限ニ在ラス
受託官署受託事項ニ付權限ヲ有セサルトキハ受託ノ權限アル官署ニ囑託ヲ移送スルコトヲ得但シ司法警察官ハ此ノ限ニ在ラス
囑託又ハ移送ヲ受ケタル官署ハ勾引狀ヲ發スヘシ
第九十五條 被告人ノ現在地ヲ覺知スルコト能ハサルトキハ裁判長ハ檢事長ニ被告人ノ容貌、體格其ノ他ノ徵表ヲ記載シタル書面ヲ送付シ其ノ搜査及勾引ヲ囑託スルコトヲ得
囑託ヲ受ケタル檢事長ハ其ノ管內ノ檢事ヲシテ勾引狀ヲ發シ搜査及勾引ノ手續ヲ爲サシムヘシ
第九十六條 前二條ノ場合ニ於テ囑託ニ因リテ勾引狀ヲ發シタル官署ハ被告人ヲ引致シタル時ヨリ四十八時間內ニ其ノ人違ナキカ否ヲ取調フヘシ
被告人人違ニ非サルトキハ速ニ之ヲ指定セラレタル裁判所ニ送致スヘシ此ノ場合ニ於テハ第八十九條ノ期間ハ被告人ノ送致ヲ受ケタル時ヨリ之ヲ起算ス
第九十七條 召喚狀、勾引狀又ハ勾留狀ニハ被告事件、被告人ノ氏名及住居ヲ記載シ裁判長又ハ受命判事之ニ記名捺印スヘシ
勾引狀又ハ勾留狀ヲ發スル場合ニ於テ被告人ノ住居分明ナラサルトキハ之ヲ記載スルコトヲ要セス其ノ氏名分明ナラサルトキハ容貌、體格其ノ他ノ徵表ヲ以テ被告人ヲ指示スヘシ
召喚狀ニハ被告人ノ出頭スヘキ年月日時、場所及召喚ニ應セサルトキハ勾引狀ヲ發スルコトアルヘキ旨ヲ記載スヘシ
勾留狀ニハ被告人ヲ勾留スヘキ監獄ヲ指定スヘシ
裁判長第九十三條ノ規定ニ依リ召喚狀、勾引狀又ハ勾留狀ヲ發スル場合ニ於テハ其ノ旨ヲ記載スヘシ
第九十八條 前條第一項及第二項ノ規定ハ第九十四條第四項及第九十五條第二項ノ勾引狀ニ付之ヲ準用ス此ノ場合ニ於テハ勾引狀ニ囑託ヲ爲シタル裁判長ノ氏名及囑託ニ因リ之ヲ發スル旨ヲ記載スヘシ
第九十九條 召喚狀ハ之ヲ送達ス
第百條 勾引狀又ハ勾留狀ハ檢事ノ指揮ニ依リ司法警察官吏之ヲ執行ス但シ急速ヲ要スル場合ニ於テハ裁判長、受命判事、豫審判事又ハ區裁判所判事其ノ執行ヲ指揮スルコトヲ得
監獄ニ在ル被告人ニ對シテ發シタル勾留狀ハ檢事ノ指揮ニ依リ監獄官吏之ヲ執行ス
檢事ノ指揮ニ依リ勾引狀又ハ勾留狀ヲ執行スル場合ニ於テハ之ヲ發シタル官署ハ其ノ原本ヲ檢事ニ送付スヘシ
第百一條 勾引狀ハ數通ヲ作リ之ヲ司法警察官吏數人ニ交付スルコトヲ得
第百二條 司法警察官吏ハ必要アルトキハ管轄區域外ニ於テ勾引狀ノ執行ヲ爲シ又ハ其ノ地ノ司法警察官ニ其ノ執行ヲ求ムルコトヲ得
第百三條 勾引狀ヲ執行スルニハ之ヲ被告人ニ示シテ指定セラレタル裁判所ニ引致スヘシ第九十四條第四項及第九十五條第二項ノ勾引狀ニ付テハ之ヲ發シタル官署ニ引致スヘシ
勾留狀ヲ執行スルニハ之ヲ被告人ニ示シテ指定セラレタル監獄ニ引致スヘシ
第百四條 勾引狀又ハ勾留狀ノ執行ヲ受ケタル被告人ハ其ノ謄本ノ交付ヲ請求スルコトヲ得
第百五條 軍事用ノ廳舍又ハ艦船ノ內ニ在ル者ニ對シ勾引狀又ハ勾留狀ヲ執行スヘキ場合ニ於テハ廳舍若ハ艦船ノ長又ハ之ニ代ルヘキ者ニ勾引狀又ハ勾留狀ヲ示シテ引渡ヲ求ムヘシ
軍事用ノ廳舍又ハ艦船ノ外ニ在リテ現ニ勤務ニ從事スル軍人、軍屬又ハ陸軍海軍所屬ノ學生生徒ニ對シテ勾引狀又ハ勾留狀ヲ執行スヘキ場合ニ於テハ其ノ所屬ノ長又ハ之ニ代ルヘキ者ニ勾引狀又ハ勾留狀ヲ示シテ引渡ヲ求ムヘシ
第百六條 裁判長ハ必要アルトキハ指定ノ場所ニ被告人ノ出頭又ハ同行ヲ命スルコトヲ得被告人正當ノ事由ナクシテ之ヲ肯セサルトキハ其ノ場所ニ勾引スルコトヲ得此ノ場合ニ於テハ第八十九條ノ期間ハ其ノ場所ニ引致シタル時ヨリ之ヲ起算ス
第百七條 勾引狀又ハ勾留狀ノ執行ヲ受ケタル被告人ヲ護送スル場合ニ於テ必要アルトキハ假ニ最寄ノ監獄ニ之ヲ留置スルコトヲ得
第百八條 勾引狀ノ執行ヲ受ケタル被告人ヲ引致シタル場合ニ於テ必要アルトキハ之ヲ監獄ニ留置スルコトヲ得
第百九條 勾引狀又ハ勾留狀ヲ執行シタルトキハ之ニ執行ノ場所及年月日時ヲ記載シ之ヲ執行スルコト能ハサルトキハ其ノ事由ヲ記載シテ記名捺印スヘシ
勾引狀又ハ勾留狀ノ執行ニ關スル書類ハ執行ヲ指揮シタル檢事其ノ他ノ官署ニ之ヲ差出スヘシ
勾引狀ノ執行ニ關スル書類ヲ受取リタル檢事其ノ他ノ官署ハ被告人ノ引致セラレタル年月日時ヲ勾引狀ニ記載スヘシ
第百十條 檢事ハ裁判所ノ同意ヲ得テ勾留セラレタル被告人ヲ他ノ監獄ニ移スコトヲ得
第百十一條 勾留セラレタル被告人ハ法令ノ範圍內ニ於テ他人ト接見シ又ハ書類若ハ物ノ授受ヲ爲スコトヲ得勾引狀ニ因リ監獄ニ留置セラレタル被告人亦同シ
第百十二條 裁判所ハ罪證ヲ湮滅シ又ハ逃亡ヲ圖ル虞アルトキハ勾留セラレタル被告人ト他人トノ接見ヲ禁シ又ハ他人ト授受スヘキ書類其ノ他ノ物ヲ檢閱シ、其ノ授受ヲ禁シ若ハ之ヲ差押フルコトヲ得但シ糧食ハ其ノ授受ヲ禁シ又ハ之ヲ差押フルコトヲ得ス
裁判所檢閱ヲ爲スコト能ハサルトキハ檢事之ヲ爲スコトヲ得
第百十三條 勾留ノ期間ハ二月トス特ニ繼續ノ必要アル場合ニ於テハ決定ヲ以テ之ヲ更新スルコトヲ得
第百十四條 勾留ノ原由消滅シタルトキハ裁判所ハ決定ヲ以テ勾留ヲ取消スヘシ
第百十五條 勾留セラレタル被告人又ハ其ノ法定代理人、保佐人、直系尊屬、直系卑屬、配偶者、被告人ノ屬スル家ノ戶主若ハ辯護人ハ保釋ノ請求ヲ爲スコトヲ得
第百十六條 保釋ノ請求アリタルトキハ檢事ノ意見ヲ聽キ決定ヲ爲スヘシ
保釋ヲ許ス場合ニ於テハ保證金額ヲ定ムヘシ
保釋ヲ許ス場合ニ於テハ被告人ノ住居ヲ制限スルコトヲ得
第百十七條 保釋ヲ許ス決定ハ保證金ヲ納メシメタル後之ヲ執行スヘシ
檢事ハ保釋請求者ニ非サル者ヲシテ保證金ヲ納メシムルコトヲ得
檢事ハ有價證券又ハ裁判所ノ管轄地內ニ住居シ保證金ヲ納ムルニ十分ナル資產ヲ有スル者ノ差出シタル保證書ヲ以テ保證金ニ代フルコトヲ許スコトヲ得
保證書ニハ保證金額及何時ニテモ其ノ保證金ヲ納ムヘキ旨ヲ記載スヘシ
第百十八條 裁判所ハ檢事ノ意見ヲ聽キ決定ヲ以テ勾留セラレタル被告人ヲ親族其ノ他ノ者ニ責付シ又ハ被告人ノ住居ヲ制限シテ勾留ノ執行ヲ停止スルコトヲ得
責付ヲ爲スニハ被告人ノ親族其ノ他ノ者ヨリ何時ニテモ召喚ニ應シ被告人ヲ出頭セシムヘキ旨ノ書面ヲ差出サシムヘシ
第百十九條 被告人逃亡シタルトキ、逃亡スル虞アルトキ、召喚ヲ受ケ正當ノ事由ナクシテ出頭セサルトキ、罪證ヲ湮滅スル虞アルトキ又ハ住居ノ制限ニ違反シタルトキハ裁判所ハ檢事ノ意見ヲ聽キ決定ヲ以テ保釋、責付又ハ勾留ノ執行停止ヲ取消スコトヲ得
保釋ヲ取消ス場合ニ於テハ裁判所ハ檢事ノ意見ヲ聽キ決定ヲ以テ保證金ノ全部又ハ一部ヲ沒取スルコトヲ得
保釋セラレタル者刑ノ言渡ヲ受ケ其ノ判決確定シタル後執行ノ爲召喚ヲ受ケ正當ノ事由ナクシテ出頭セス又ハ逃亡シタルトキハ檢事ノ請求ニ因リ決定ヲ以テ保證金ノ全部又ハ一部ヲ沒取スヘシ
第百二十條 勾留若ハ保釋ヲ取消シ又ハ勾留狀ノ效力消滅シタルトキハ檢事ハ沒取ニ係ラサル保證金ヲ還付スヘシ
第百二十一條 上訴提起期間內又ハ上訴中ノ事件ニ付勾留ノ期間ヲ更新シ、勾留ヲ取消シ又ハ保釋ヲ爲シ、責付ヲ爲シ、勾留ノ執行停止ヲ爲シ若ハ之ヲ取消スヘキ場合ニ於テ訴訟記錄原裁判所ニ在ルトキハ原裁判所其ノ決定ヲ爲スヘシ
第百二十二條 豫審判事ハ被告人ノ召喚、勾引及勾留ニ關シ裁判所又ハ裁判長ト同一ノ權ヲ有ス
第百二十三條 左ノ場合ニ於テ急速ヲ要シ判事ノ勾引狀ヲ求ムルコト能ハサルトキハ檢事ハ勾引狀ヲ發シ又ハ之ヲ他ノ檢事若ハ司法警察官ニ命令シ若ハ囑託スルコトヲ得
一 被疑者定リタル住居ヲ有セサルトキ
二 現行犯人其ノ場所ニ在ラサルトキ
三 現行犯ノ取調ニ因リ其ノ事件ノ共犯ヲ發見シタルトキ
四 旣決ノ囚人又ハ本法ニ依リ拘禁セラレタル者逃亡シタルトキ
五 死體ノ檢證ニ因リ犯人ヲ發見シタルトキ
六 被疑者常習トシテ强盜又ハ竊盜ノ罪ヲ犯シタルモノナルトキ
第百二十四條 檢事又ハ司法警察官吏其ノ職務ヲ行フニ當リ現行犯アルコトヲ知リタル場合ニ於テ犯人其ノ場所ニ在リテ其ノ住居若ハ氏名分明ナラサルトキ又ハ第八十七條第一項各號ニ規定スル事由アルトキハ左ノ處分ヲ爲スヘシ
一 檢事ハ司法警察官吏ニ犯人ノ逮捕ヲ命スヘシ必要アル場合ニ於テハ自ラ之ヲ逮捕スルコトヲ得
二 司法警察官ハ直ニ犯人ヲ逮捕シ又ハ其ノ逮捕ヲ司法警察吏ニ命スヘシ
三 司法警察吏ハ命令ヲ待タスシテ直ニ犯人ヲ逮捕スヘシ
第百二十五條 現行犯人其ノ場所ニ在ルトキハ何人ト雖之ヲ逮捕スルコトヲ得
犯人ヲ逮捕シタルトキハ速ニ之ヲ地方裁判所若ハ區裁判所ノ檢事又ハ司法警察官吏ニ引渡スヘシ
第百二十六條 司法警察吏現行犯人ヲ逮捕シ又ハ之ヲ受取リタルトキハ速ニ之ヲ司法警察官ニ引致スヘシ
司法警察吏犯人ヲ受取リタル場合ニ於テハ逮捕者ノ氏名、住居及逮捕ノ事由ヲ聽取ルヘシ必要アルトキハ逮捕者ニ對シ共ニ官署ニ至ルコトヲ求ムルコトヲ得
第百二十七條 司法警察官現行犯人ヲ逮捕シ若ハ之ヲ受取リ又ハ勾引狀ノ執行ヲ受ケタル被疑者ヲ受取リタルトキハ卽時訊問シ留置ノ必要ナシト思料スルトキハ直ニ釋放スヘシ留置ノ必要アリト思料スルトキハ遲クトモ四十八時間內ニ書類及證據物ト共ニ之ヲ地方裁判所若ハ區裁判所ノ檢事又ハ相當官署ニ送致スル手續ヲ爲スヘシ
第百二十八條 司法警察官吏檢事若ハ司法警察官ノ命令ニ因リ現行犯人ヲ逮捕シ又ハ司法警察官檢事ノ命令ニ因リ被疑者ニ對シ勾引狀ヲ發シタル場合ニ於テハ前二條ノ規定ニ依ラス速ニ之ヲ命令シタル檢事又ハ司法警察官ニ引致スヘシ
第百二十九條 檢事現行犯人ヲ逮捕シ若ハ之ヲ受取リ又ハ勾引狀ノ執行ヲ受ケタル被疑者ヲ受取リタルトキハ遲クトモ二十四時間內ニ訊問シ留置ノ必要ナシト思料スルトキハ直ニ釋放スヘシ留置ノ必要アリト思料スル場合ニ於テ急速ヲ要シ判事ノ勾留狀ヲ求ムルコト能ハサルトキハ勾留狀ヲ發シ速ニ公訴ヲ提起シ又ハ書類及證據物ト共ニ之ヲ管轄裁判所ノ檢事又ハ相當官署ニ送致スル手續ヲ爲スヘシ
檢事他ノ檢事ヨリ被疑者ヲ受取リタルトキハ前項ノ手續ニ準シ處分スヘシ但シ留置ノ必要ナシト思料スルトキハ勾留ヲ取消スヘシ
檢事他ノ檢事ノ囑託ニ因リ被疑者ニ對シ勾引狀ヲ發シタル場合ニ於テハ第一項ノ手續ニ依ラス速ニ之ヲ囑託シタル檢事ニ送致スヘシ
第百三十條 現ニ罪ヲ行ヒ又ハ現ニ罪ヲ行ヒ終リタル際ニ發覺シタルモノヲ現行犯トス
兇器贓物其ノ他ノ物ヲ所持シ、誰何セラレテ逃走シ、犯人トシテ追呼セラレ又ハ身體被服ニ顯著ナル犯罪ノ痕跡アリテ犯人ト思料スヘキ場合ハ現行犯人其ノ場所ニ在リタルモノト看做ス
第百三十一條 第九十七條、第九十八條及第百條乃至第百十條ノ規定ハ第百二十三條及第百二十九條ノ勾引又ハ勾留ニ付之ヲ準用ス
第百三十二條 五百圓以下ノ罰金、拘留又ハ科料ニ該ル罪ノ現行犯ニ付テハ犯人ノ住居若ハ氏名分明ナラサル場合又ハ犯人逃亡スル虞アル場合ニ限リ第百二十四條乃至前條ノ規定ヲ適用ス
第十章 被告人訊問
第百三十三條 被告人ニ對シテハ先ツ其ノ人違ナキコトヲ確ムルニ足ルヘキ事項ヲ訊問スヘシ
第百三十四條 被告人ニ對シテハ被告事件ヲ告ケ其ノ事件ニ付陳述スヘキコトアリヤ否ヲ問フヘシ
第百三十五條 被告人ニ對シテハ丁寧深切ヲ旨トシ其ノ利益ト爲ルヘキ事實ヲ陳述スル機會ヲ與フヘシ
第百三十六條 被告人ヲ訊問スルトキハ裁判所書記ヲシテ立會ハシムヘシ
第百三十七條 事實發見ノ爲必要アルトキハ被告人ト他ノ被告人又ハ證人ト對質セシムルコトヲ得
第百三十八條 被告人聾ナルトキハ書面ヲ以テ問ヒ啞ナルトキハ書面ヲ以テ答ヘシムルコトヲ得
第百三十九條 本章ノ規定ハ被疑者ヲ訊問スル場合ニ之ヲ準用ス但シ司法警察官訊問ヲ爲ス場合ニ於テハ司法警察吏ヲシテ立會ハシムヘシ
第十一章 押收及搜索
第百四十條 裁判所ハ別段ノ規定アル場合ヲ除クノ外證據物又ハ沒收スヘキ物ト思料スルモノアルトキハ之ヲ差押フヘシ
裁判所ハ差押フヘキ物ヲ指定シ所有者、所持者又ハ保管者ニ其ノ物ノ提出ヲ命スルコトヲ得
第百四十一條 裁判所ハ被告人ヨリ發シ又ハ被告人ニ對シテ發シタル郵便物又ハ電信ニ關スル書類ニシテ通信事務ヲ取扱フ官署其ノ他ノ者ノ保管又ハ所持スルモノヲ差押ヘ又ハ之ヲ提出セシムルコトヲ得
前項ノ規定ニ該當セサル郵便物又ハ電信ニ關スル書類ニシテ通信事務ヲ取扱フ官署其ノ他ノ者ノ保管又ハ所持スルモノハ被告事件ニ關係アリト思料スルニ足ルヘキ狀況アルモノニ限リ之ヲ差押ヘ又ハ提出セシムルコトヲ得
前二項ノ規定ニ依ル處分ヲ爲シタルトキハ其ノ旨ヲ發信人又ハ受信人ニ通知スヘシ但シ通知ニ因リ審理ヲ妨クル虞アル場合ハ此ノ限ニ在ラス
第百四十二條 被告人其ノ他ノ者ノ遺留シタル物又ハ所有者、所持者若ハ保管者ニ於テ任意ニ提出シタル物ハ之ヲ領置スルコトヲ得
第百四十三條 裁判所ハ必要アルトキハ被告人ノ身體、物又ハ住居其ノ他ノ場所ニ就キ搜索ヲ爲スコトヲ得
被告人ニ非サル者ノ身體、物又ハ住居其ノ他ノ場所ニ付テハ押收スヘキ物ノ存在ヲ認知スルニ足ルヘキ狀況アル場合ニ限リ搜索ヲ爲スコトヲ得
婦女ノ身體ノ搜索ニ付テハ成年ノ婦女ヲシテ之ニ立會ハシムヘシ但シ急速ヲ要スル場合ハ此ノ限ニ在ラス
第百四十四條 搜索ニ付テハ祕密ヲ保チ且搜索ヲ受クル者ノ名譽ヲ毀損セサルコトニ注意スヘシ
第百四十五條 搜索ヲ爲シタル場合ニ於テ證據物又ハ沒收スヘキ物ナキトキハ搜索ヲ受ケタル者ノ請求ニ因リ其ノ旨ノ證明書ヲ交付スヘシ
第百四十六條 押收又ハ搜索ニ付テハ鎖鑰又ハ封緘ノ開披其ノ他必要ナル處分ヲ爲スコトヲ得押收物ニ付亦同シ
第百四十七條 軍事上祕密ヲ要スル場所ニ於テハ其ノ長又ハ之ニ代ルヘキ者ノ承諾アルニ非サレハ押收又ハ搜索ヲ爲スコトヲ得ス
第百四十八條 公務員又ハ公務員タリシ者ノ保管又ハ所持スル物ニ付本人又ハ當該公務所ヨリ職務上ノ祕密ニ關スルモノナルコトヲ申立テタルトキハ當該監督官廳ノ承諾アルニ非サレハ押收ヲ爲スコトヲ得ス但シ當該監督官廳ハ帝國ノ安寧ヲ害スル場合ヲ除クノ外承諾ヲ拒ムコトヲ得ス
國務大臣、宮內大臣、內大臣、樞密院議長、樞密院副議長、樞密顧問官、會計檢査院長、元帥、參謀總長、海軍軍令部長、敎育總監若ハ軍事參議官又ハ此等ノ職ニ在リタル者其ノ保管又ハ所持スル物ニ付前項ノ申立ヲ爲シタルトキハ勅許ヲ得ルニ非サレハ押收ヲ爲スコトヲ得ス
第百四十九條 醫師、齒科醫師、藥劑師、藥種商、產婆、辯護士、辯護人、辨理士、公證人、宗敎若ハ禱祀ノ職ニ在ル者又ハ此等ノ職ニ在リタル者ハ業務上委託ヲ受ケタル爲保管又ハ所持スル物ニシテ他人ノ祕密ニ關スルモノニ付差押ヲ拒ムコトヲ得但シ本人承諾シタルトキハ此ノ限ニ在ラス
第百五十條 裁判所ハ押收スヘキ物又ハ搜索スヘキ場所、身體若ハ物ヲ指定シタル命令狀ヲ發シ司法警察官ヲシテ押收又ハ搜索ヲ爲サシムルコトヲ得
命令狀ニハ押收又ハ搜索ヲ爲スヘキ事由ヲ記載シ裁判長之ニ記名捺印スヘシ
命令狀ハ處分ヲ受クル者ノ請求アルトキハ之ヲ示スヘシ
第百五十一條 司法警察官前條第一項ノ規定ニ依リ押收又ハ搜索ヲ爲スニ當リ被告事件ニ關スル他ノ證據物ヲ發見シタルトキハ之ヲ押收スルコトヲ得
第百五十二條 司法警察官前二條ノ規定ニ依リ押收又ハ搜索ヲ爲シタルトキハ檢事ヲ經由シテ之ニ關スル書類及押收物ヲ裁判所ニ差出スヘシ
第百五十三條 裁判所押收又ハ搜索ヲ爲スニ當リ他ノ犯罪ニ關スル顯著ナル證據物ヲ發見シタルトキハ假ニ之ヲ押收シテ檢事ニ送付スルコトヲ得
檢事前項ノ規定ニ依リ押收シタル物ヲ留置スル必要ナシト思料スルトキハ之ヲ還付スヘシ
第百五十四條 押收又ハ搜索ハ部員ヲシテ之ヲ爲サシメ又ハ之ヲ爲スヘキ地ノ豫審判事、區裁判所判事若ハ法令ニ依リ特別ニ裁判權ヲ有スル官署ニ之ヲ囑託スルコトヲ得
受託官署ハ受託ノ權限アル官署ニ轉囑スルコトヲ得
受託官署受託事項ニ付權限ヲ有セサルトキハ受託ノ權限アル官署ニ囑託ヲ移送スルコトヲ得
受命判事又ハ受託判事ノ爲ス押收又ハ搜索ニ付テハ裁判所ノ爲ス押收又ハ搜索ニ關スル規定ヲ準用ス但シ第百四十一條第三項ノ通知ハ裁判所之ヲ爲スヘシ
第百五十五條 日出前、日沒後ニハ住居主若ハ看守者又ハ之ニ代ルヘキ者ノ承諾アルニ非サレハ押收又ハ搜索ノ爲人ノ住居又ハ人ノ看守スル邸宅、建造物若ハ艦船ニ入ルコトヲ得ス
猶豫スヘカラサル場合ニ於テハ前項ニ規定スル制限ニ依ルコトヲ要セス此ノ場合ニ於テハ其ノ事由ヲ調書ニ記載スヘシ
日沒前押收又ハ搜索ニ著手シタルトキハ日沒後ト雖其ノ處分ヲ繼續スルコトヲ得
第百五十六條 左ノ場所ニ於テ爲ス押收又ハ搜索ニ付テハ前條第一項ニ規定スル制限ニ依ルコトヲ要セス
一 賭博、富籤又ハ風俗ヲ害スル行爲ニ常用セラルルモノト認ムヘキ場所
二 旅店、飮食店其ノ他夜間ト雖公衆ノ出入スルコトヲ得ヘキ場所但シ公開シタル時間內ニ限ル
第百五十七條 公務所又ハ軍事用ノ廳舍若ハ艦船ノ內ニ於テ押收又ハ搜索ヲ爲ストキハ其ノ長又ハ之ニ代ルヘキ者ニ通知シテ其ノ處分ニ立會ハシムヘシ
前項ノ規定ニ依ル場合ヲ除クノ外人ノ住居又ハ人ノ看守スル邸宅、建造物若ハ船舶ノ內ニ於テ押收又ハ搜索ヲ爲ストキハ住居主若ハ看守者又ハ之ニ代ルヘキ者ヲシテ之ニ立會ハシムヘシ此等ノ者ヲシテ立會ハシムルコト能ハサルトキハ鄰人又ハ市町村吏員ヲシテ立會ハシムヘシ
第百五十八條 檢事、被告人又ハ辯護人ハ押收又ハ搜索ニ立會フコトヲ得但シ拘禁セラレタル被告人ハ此ノ限ニ在ラス
押收又ハ搜索ヲ爲スニ付必要アルトキハ被告人ヲシテ之ニ立會ハシムルコトヲ得
第百五十九條 押收又ハ搜索ヲ爲スヘキ日時及場所ハ豫メ前條ノ規定ニ依リ其ノ處分ニ立會フコトヲ得ヘキ者ニ通知スヘシ但シ急速ヲ要スルトキハ此ノ限ニ在ラス
第百六十條 押收又ハ搜索ヲ爲スニ付必要アルトキハ司法警察官吏ヲシテ補助ヲ爲サシムルコトヲ得
第百六十一條 押收又ハ搜索ノ處分中ハ何人ニ限ラス許可ヲ得スシテ其ノ場所ニ出入スルコトヲ禁止スルコトヲ得
前項ノ禁止ニ從ハサル者ハ之ヲ退去セシメ又ハ處分終ル迄之ヲ留置スルコトヲ得
第百六十二條 押收又ハ搜索ノ處分ヲ中止スル場合ニ於テ必要アルトキハ其ノ場所ヲ閉鎖シ又ハ看守者ヲ置クヘシ
第百六十三條 押收ヲ爲シタル場合ニ於テ所有者、所持者若ハ保管者又ハ之ニ代ルヘキ者ノ請求アリタルトキハ品目ヲ記載シタル調書又ハ目錄ノ謄本又ハ抄本ヲ交付スヘシ
第百六十四條 押收物ニ付テハ喪失又ハ毀損ヲ防ク爲相當ノ處置ヲ爲スヘシ
運搬又ハ保管ニ不便ナル押收物ニ付テハ看守者ヲ置キ又ハ所有者其ノ他ノ者ヲシテ之ヲ保管セシムルコトヲ得
危險ヲ生スル虞アル押收物ハ之ヲ廢棄スルコトヲ得
第百六十五條 沒收スルコトヲ得ヘキ押收物ニシテ滅失若ハ毀損ノ虞アルモノ又ハ保管ニ不便ナルモノハ之ヲ賣却シテ其ノ代價ヲ保管スルコトヲ得
第百六十六條 押收物ニシテ留置ノ必要ナキモノハ被告事件ノ終結ヲ待タス檢事ノ意見ヲ聽キ決定ヲ以テ之ヲ還付スヘシ
押收物ハ所有者、所持者、保管者又ハ差出人ノ請求ニ因リ檢事ノ意見ヲ聽キ決定ヲ以テ假ニ之ヲ還付スルコトヲ得
第百六十七條 押收シタル贓物ニシテ留置ノ必要ナキモノハ被害者ニ還付スヘキ理由明白ナルトキニ限リ被告事件ノ終結ヲ待タス檢事ノ意見ヲ聽キ決定ヲ以テ之ヲ被害者ニ還付スヘシ
前項ノ規定ハ民事訴訟ノ手續ニ從ヒ利害關係人ヨリ其ノ權利ヲ主張スルコトヲ妨ケス
第百六十八條 押收又ハ搜索ヲ爲ストキハ裁判所書記ヲシテ立會ハシムヘシ
第百六十九條 豫審判事ハ押收及搜索ニ關シ裁判所ト同一ノ權ヲ有ス
第百七十條 檢事ハ第百二十三條各號ノ場合又ハ現行犯人ヲ逮捕シ若ハ之ヲ受取リタル場合ニ於テ急速ヲ要スルトキハ公訴提起前ニ限リ押收若ハ搜索ヲ爲シ又ハ之ヲ他ノ檢事若ハ司法警察官ニ命令シ若ハ囑託スルコトヲ得
司法警察官ハ前項ノ場合ニ於テハ公訴提起前ニ限リ押收若ハ搜索ヲ爲シ又ハ之ヲ他ノ司法警察官ニ命令シ若ハ囑託スルコトヲ得
司法警察官押收ヲ爲シタル場合ニ於テ留置ノ必要アリト思料スルトキハ速ニ押收物ヲ檢事ニ送付スヘシ但シ第百六十四條第二項又ハ第三項ノ處分ヲ爲シタルトキハ速ニ其ノ旨ヲ檢事ニ報告スヘシ
第百七十一條 人ノ住居又ハ人ノ看守スル邸宅、建造物若ハ艦船ノ內ニ現行犯アル場合ニ於テ急速ヲ要スルトキハ檢事又ハ司法警察官ハ何時ニテモ其ノ場所ニ入リ押收又ハ搜索ヲ爲スコトヲ得
第百七十二條 人ノ住居又ハ人ノ看守スル邸宅、建造物若ハ艦船ノ內ニ現行犯アル場合ニ於テ急速ヲ要スルトキハ檢事又ハ司法警察官吏ハ何時ニテモ其ノ場所ニ入リ犯人ヲ逮捕スル爲搜索ヲ爲スコトヲ得檢事又ハ司法警察官吏現行犯人ヲ逮捕スル爲追行シタル場合ニ於テ犯人人ノ住居又ハ人ノ看守スル邸宅、建造物若ハ艦船ノ內ニ逃入リタルトキ亦同シ
第百七十三條 司法警察官吏勾引狀又ハ勾留狀ヲ執行スル場合ニ於テ必要アルトキハ人ノ住居又ハ人ノ看守スル邸宅、建造物若ハ艦船ノ內ニ入リ搜索ヲ爲スコトヲ得
第百七十四條 第百四十條乃至第百四十九條、第百五十三條、第百五十五條乃至第百五十七條及第百六十一條乃至第百六十七條ノ規定ハ別段ノ規定アル場合ヲ除クノ外檢事又ハ司法警察官ノ爲ス押收又ハ搜索ニ付之ヲ準用ス
第百四十六條、第百四十七條、第百五十五條乃至第百五十七條及第百六十一條ノ規定ハ別段ノ規定アル場合ヲ除クノ外司法警察吏ノ爲ス搜索ニ付之ヲ準用ス
第百七十二條ノ搜索ヲ爲ス場合及第百二十三條第三號乃至第六號ノ規定ニ依リ發シタル勾引狀ヲ執行スル爲前條ノ搜索ヲ爲ス場合ニ於テハ第百五十七條第二項ノ規定ニ依ルコトヲ要セス
第十二章 檢證
第百七十五條 裁判所ハ事實發見ノ爲必要アルトキハ檢證ヲ爲スヘシ
第百七十六條 檢證ニ付テハ身體ノ檢査、死體ノ解剖、墳墓ノ發掘、物ノ毀壞其ノ他必要ナル處分ヲ爲スコトヲ得
被告人ニ非サル者ノ身體ノ檢査ハ一定ノ證跡ノ存否ヲ確認スルニ必要ナル場合ニ限リ之ヲ爲スコトヲ得
婦女ノ身體ヲ檢査スル場合ニ於テハ醫師又ハ成年ノ婦女ヲシテ之ニ立會ハシムヘシ
死體ヲ解剖シ又ハ墳墓ヲ發掘スル場合ニ於テハ禮意ヲ失ハサルコトニ注意シ遺族アルトキハ之ニ通知スヘシ
第百七十七條 日出前、日沒後ニハ住居主若ハ看守者又ハ之ニ代ルヘキ者ノ承諾アルニ非サレハ檢證ノ爲人ノ住居又ハ人ノ看守スル邸宅、建造物若ハ艦船ニ入ルコトヲ得ス但シ日出後ニ於テハ檢證ノ目的ヲ達スルコト能ハサル虞アル場合ハ此ノ限ニ在ラス
日沒前檢證ニ著手シタルトキハ日沒後ト雖其ノ處分ヲ繼續スルコトヲ得
第百五十六條ニ規定スル場所ニ付テハ第一項ニ規定スル制限ニ依ルコトヲ要セス
第百七十八條 第百四十七條、第百五十四條、第百五十七條乃至第百六十二條及第百六十八條ノ規定ハ檢證ニ付之ヲ準用ス
第百七十九條 豫審判事ハ檢證ニ關シ裁判所ト同一ノ權ヲ有ス
第百八十條 檢事ハ第百二十三條各號ノ場合又ハ現行犯人ヲ逮捕シ若ハ之ヲ受取リタル場合ニ於テ急速ヲ要スルトキハ公訴提起前ニ限リ檢證ヲ爲シ又ハ之ヲ他ノ檢事若ハ司法警察官ニ命令シ若ハ囑託スルコトヲ得
司法警察官ハ前項ノ場合ニ於テハ公訴提起前ニ限リ檢證ヲ爲シ又ハ之ヲ他ノ司法警察官ニ命令シ若ハ囑託スルコトヲ得
第百八十一條 人ノ住居又ハ人ノ看守スル邸宅、建造物若ハ艦船ノ內ニ現行犯アル場合ニ於テ急速ヲ要スルトキハ檢事又ハ司法警察官ハ何時ニテモ其ノ場所ニ入リ檢證ヲ爲スコトヲ得
第百八十二條 變死者又ハ變死ノ疑アル死體アルトキハ其ノ所在地ヲ管轄スル地方裁判所又ハ區裁判所ノ檢事檢視ヲ爲スヘシ
前項ノ處分ニ因リ犯罪アルコトヲ發見シタル場合ニ於テ急速ヲ要スルトキハ引續キ檢證ヲ爲スコトヲ得
檢事ハ司法警察官ヲシテ前二項ノ規定ニ依ル處分ヲ爲サシムルコトヲ得
第百八十三條 第百四十七條、第百五十七條、第百六十一條、第百六十二條、第百七十六條及第百七十七條ノ規定ハ檢事又ハ司法警察官ノ爲ス檢證ニ付之ヲ準用ス
第十三章 證人訊問
第百八十四條 裁判所ハ別段ノ規定アル場合ヲ除クノ外何人ト雖證人トシテ之ヲ訊問スルコトヲ得
第百八十五條 公務員又ハ公務員タリシ者ノ知得タル事實ニ付本人又ハ當該公務所ヨリ職務上ノ祕密ニ關スルモノナルコトヲ申立テタルトキハ當該監督官廳ノ承諾アルニ非サレハ證人トシテ之ヲ訊問スルコトヲ得ス但シ當該監督官廳ハ帝國ノ安寧ヲ害スル場合ヲ除クノ外承諾ヲ拒ムコトヲ得ス
國務大臣、宮內大臣、內大臣、樞密院議長、樞密院副議長、樞密顧問官、會計檢査院長、元帥、參謀總長、海軍軍令部長、敎育總監若ハ軍事參議官又ハ此等ノ職ニ在リタル者前項ノ申立ヲ爲シタルトキハ勅許ヲ得ルニ非サレハ證人トシテ之ヲ訊問スルコトヲ得ス
第百八十六條 左ニ揭クル者ハ證言ヲ拒ムコトヲ得
一 被告人ノ配偶者、四親等內ノ血族若ハ三親等內ノ姻族又ハ被告人ト此等ノ親族關係アリタル者
二 被告人ノ後見人、後見監督人又ハ保佐人
三 被告人ヲ後見人、後見監督人又ハ保佐人ト爲ス者
共同被告人ノ一人又ハ數人ニ對シ前項ノ關係アル者ト雖他ノ共同被告人ノミニ關スル事項ニ付テハ證言ヲ拒ムコトヲ得ス
第百八十七條 醫師、齒科醫師、藥劑師、藥種商、產婆、辯護士、辯護人、辨理士、公證人、宗敎若ハ禱祀ノ職ニ在ル者又ハ此等ノ職ニ在リタル者ハ業務上委託ヲ受ケタル爲知得タル事實ニシテ他人ノ祕密ニ關スルモノニ付證言ヲ拒ムコトヲ得但シ本人承諾シタルトキハ此ノ限ニ在ラス
第百八十八條 證言ヲ爲スニ因リ自己又ハ自己ト第百八十六條第一項ニ規定スル關係アル者刑事訴追ヲ受クル虞アルトキハ證言ヲ拒ムコトヲ得
現ニ供述ヲ爲スヘキ事件ノ被告人ト共犯ノ關係アリトシテ起訴セラレ未タ確定判決ヲ經サルトキ亦前項ニ同シ
第百八十九條 證言ヲ拒ム者ハ之ヲ拒ム事由ヲ疏明スヘシ但シ前條ノ場合ニ於テハ其ノ事由ノ相違ナキ旨ノ宣誓ヲ以テ疏明ニ代フルコトヲ得
證言ヲ拒ム者之ヲ拒ム事由ヲ疏明スルコト能ハサルトキ又ハ宣誓ヲ爲ササルトキハ決定ヲ以テ其ノ申立ヲ却下スヘシ
第百九十條 召喚ヲ受ケタル證人正當ノ事由ナクシテ出頭セサルトキハ檢事ノ意見ヲ聽キ決定ヲ以テ五十圓以下ノ過料ニ處シ且出頭セサルニ因リ生シタル費用ノ賠償ヲ命スルコトヲ得此ノ決定ニ對シテハ卽時抗告ヲ爲スコトヲ得
第百九十一條 召喚ニ應セサル證人ニ對シテハ更ニ之ヲ召喚シ又ハ之ヲ勾引スルコトヲ得
第百九十二條 第八十四條及第九十九條ノ規定ハ證人ノ召喚ニ付之ヲ準用ス
第百九十三條 第八十八條、第百條乃至第百五條及第百九條ノ規定ハ證人ノ勾引ニ付之ヲ準用ス
第百九十四條 證人ノ召喚狀又ハ勾引狀ニハ其ノ氏名及住居、被告人ノ氏名竝被告事件ヲ記載シ裁判長之ニ記名捺印スヘシ
召喚狀ニハ出頭スヘキ年月日時及場所竝出頭セサルトキハ過料ニ處シ且勾引狀ヲ發スルコトアルヘキ旨ヲ記載スヘシ
召喚狀ノ送達ト出頭トノ間ニハ少クトモ二十四時間ノ猶豫ヲ存スヘシ但シ急速ヲ要スル場合ハ此ノ限ニ在ラス
第百九十五條 證人ニ對シテハ先ツ其ノ人違ナキカ否及第百八十六條第一項ニ規定スル關係アル者ナリヤ否ヲ取調フヘシ
第百八十六條第一項ニ規定スル關係アル者ニハ證言ヲ拒ムコトヲ得ル旨ヲ告クヘシ
第百九十六條 證人ニハ宣誓ヲ爲サシムヘシ但シ別段ノ規定アル場合ハ此ノ限ニ在ラス
第百九十七條 宣誓ハ訊問前之ヲ爲サシムヘシ但シ宣誓ヲ爲サシムヘキ者ナリヤ否ニ付疑アルトキハ訊問後之ヲ爲サシムルコトヲ得
第百九十八條 宣誓ハ宣誓書ニ依リ之ヲ爲スヘシ
宣誓書ニハ良心ニ從ヒ眞實ヲ述ヘ何事ヲモ默祕セス又何事ヲモ附加セサルコトヲ誓フ旨ヲ記載スヘシ但シ訊問後宣誓ヲ爲ス場合ニ於テハ良心ニ從ヒ眞實ヲ述ヘ何事ヲモ默祕セス又何事ヲモ附加セサリシコトヲ誓フ旨ヲ記載スヘシ
裁判長ハ起立シテ宣誓書ヲ朗讀シ證人ヲシテ之ニ署名捺印セシムヘシ
第百九十九條 宣誓ヲ爲サシムヘキ證人ニハ宣誓前僞證ノ罰ヲ告クヘシ
第二百條 證人ノ宣誓ハ各別ニ之ヲ爲サシムヘシ
第二百一條 證人左ノ各號ノ一ニ該當スルトキハ宣誓ヲ爲サシメスシテ之ヲ訊問スヘシ
一 十六歲未滿ノ者
二 宣誓ノ本旨ヲ解スルコト能ハサル者
三 現ニ供述ヲ爲スヘキ事件ノ被告人ト共犯ノ關係アル者又ハ其ノ嫌疑アル者
四 第百八十六條第一項ニ規定スル關係アル者ニシテ證言ヲ拒マサルモノ
五 第百八十八條ノ場合ニ於テ證言ヲ拒マサル者
六 被告人ノ雇人又ハ同居人
前項第三號ノ規定ノ適用ニ付テハ犯人藏匿ノ罪、證憑湮滅ノ罪、僞證ノ罪、虛僞ノ鑑定通譯ノ罪及贓物ニ關スル罪ノ犯人ハ其ノ本犯ノ共犯ト看做ス
第一項ニ揭クル者宣誓ヲ爲シタルトキト雖其ノ供述ハ證言タルノ效力ヲ妨ケラルルコトナシ
第二百二條 證人ノ供述證人若ハ之ト第百八十六條第一項ニ規定スル關係アル者ノ恥辱ニ歸シ又ハ其ノ財產上ニ重大ナル損害ヲ生スル虞アルトキハ宣誓ヲ爲サシメスシテ之ヲ訊問スルコトヲ得
第二百三條 證人ハ各別ニ之ヲ訊問スヘシ
後ニ訊問スヘキ證人在廷スルトキハ退廷ヲ命スヘシ
第二百四條 事實發見ノ爲必要アルトキハ證人ト他ノ證人又ハ被告人ト對質セシムルコトヲ得
第二百五條 證人ニハ訊問事項ニ付連絡シタル供述ヲ爲サシムヘシ
必要アル場合ニ於テハ證人ノ供述ヲ明白ナラシメ又ハ其ノ眞否ヲ判斷スル爲適當ナル訊問ヲ爲スヘシ
第二百六條 證人ニハ其ノ實驗シタル事實ニ因リ推測シタル事項ヲ供述セシムルコトヲ得
前項ノ供述ハ鑑定ニ屬スル故ヲ以テ證言タルノ效力ヲ妨ケラルルコトナシ
第二百七條 第八十五條、第百三十六條及第百三十八條ノ規定ハ證人ノ訊問ニ付之ヲ準用ス
第二百八條 證人ハ必要アル場合ニ於テハ裁判所外ニ之ヲ召喚シ又ハ其ノ所在ニ就キ之ヲ訊問スルコトヲ得
第二百九條 親任官又ハ親任官ノ待遇ヲ受クル者ハ其ノ現在地ヲ管轄スル裁判所ニ於テ之ヲ訊問スヘシ
帝國議會ノ議員議會ノ開會中開會地ニ滯在スルトキハ其ノ滯在地ヲ管轄スル裁判所ニ於テ之ヲ訊問スヘシ
第二百十條 證人正當ノ事由ナクシテ宣誓又ハ證言ヲ拒ミタルトキハ檢事ノ意見ヲ聽キ決定ヲ以テ百圓以下ノ過料ニ處ス第百八十九條第一項但書ノ場合ニ於テ虛僞ノ宣誓ヲ爲シタルトキ亦同シ
前項ノ決定ニ對シテハ卽時抗告ヲ爲スコトヲ得
第二百十一條 裁判所ハ必要アルトキハ決定ヲ以テ指定ノ場所ニ證人ノ同行ヲ命スルコトヲ得證人正當ノ事由ナクシテ同行ヲ肯セサルトキハ之ヲ勾引スルコトヲ得
第二百十二條 裁判所外ニ於テ證人ヲ訊問スヘキトキハ部員ヲシテ之ヲ爲サシメ又ハ證人ノ現在地ノ豫審判事、區裁判所判事若ハ法令ニ依リ特別ニ裁判權ヲ有スル官署ニ之ヲ囑託スルコトヲ得
受託官署ハ受託ノ權限アル官署ニ轉囑スルコトヲ得
受託官署受託事項ニ付權限ヲ有セサルトキハ受託ノ權限アル官署ニ囑託ヲ移送スルコトヲ得
受命判事又ハ受託判事ハ證人ノ訊問ニ關シ裁判所又ハ裁判長ニ屬スル處分ヲ爲スコトヲ得但シ第百九十條及第二百十條ノ決定ハ裁判所亦之ヲ爲スコトヲ得
第二百十三條 豫審判事ハ證人ノ訊問ニ關シ裁判所又ハ裁判長ト同一ノ權ヲ有ス
第二百十四條 檢事ハ第百二十三條各號ノ場合又ハ現行犯人ヲ逮捕シ若ハ之ヲ受取リタル場合ニ於テ急速ヲ要スルトキハ公訴提起前ニ限リ第百八十四條乃至第二百十一條ノ規定ニ準シ證人ヲ訊問シ又ハ其ノ訊問ヲ他ノ檢事若ハ司法警察官ニ命令シ若ハ囑託スルコトヲ得
司法警察官ハ前項ノ場合ニ於テハ公訴提起前ニ限リ第百八十四條乃至第二百十一條ノ規定ニ準シ證人ヲ訊問シ又ハ其ノ訊問ヲ他ノ司法警察官ニ命令シ若ハ囑託スルコトヲ得
第二百十五條 檢事又ハ司法警察官證人ヲ訊問スル場合ニ於テハ宣誓ヲ爲サシムルコトヲ得ス
第二百十六條 司法警察官證人ヲ訊問スル場合ニ於テハ司法警察吏ヲシテ立會ハシムヘシ
第二百十七條 第二百十四條ノ規定ニ依リ證人ヲ過料ニ處シ又ハ之ニ賠償ヲ命スヘキトキハ證人ノ現在地ヲ管轄スル區裁判所ニ其ノ處分ヲ請求スヘシ
第二百十八條 證人ハ旅費、日當及止宿料ヲ請求スルコトヲ得但シ正當ノ事由ナクシテ宣誓又ハ證言ヲ拒ミタル者ハ此ノ限ニ在ラス
第十四章 鑑定
第二百十九條 裁判所ハ學識經驗アル者ニ鑑定ヲ命スルコトヲ得
第二百二十條 鑑定人ニハ鑑定ヲ爲ス前宣誓ヲ爲サシムヘシ
宣誓ハ宣誓書ニ依リ之ヲ爲スヘシ
宣誓書ニハ良心ニ從ヒ誠實ニ鑑定ヲ爲スヘキコトヲ誓フ旨ヲ記載スヘシ
第二百二十一條 鑑定ノ經過及結果ハ鑑定人ヲシテ鑑定書ニ依リ又ハ口頭ヲ以テ之ヲ報告セシムヘシ
鑑定人數人アルトキハ共同シテ報告ヲ爲サシムルコトヲ得
鑑定書ヲ差出シタル場合ニ於テ必要アルトキハ口頭ヲ以テ其ノ說明ヲ爲サシムルコトヲ得
第二百二十二條 裁判所ハ必要アル場合ニ於テハ鑑定人ヲシテ裁判所外ニ於テ鑑定ヲ爲サシムルコトヲ得
前項ノ場合ニ於テハ鑑定ニ關スル物ヲ鑑定人ニ交付スルコトヲ得
被告人ノ心神又ハ身體ニ關スル鑑定ヲ爲サシムルニ付必要アルトキハ裁判所ハ期間ヲ定メ病院其ノ他ノ相當ノ場所ニ被告人ヲ留置スルコトヲ得
第二百二十三條 鑑定人ハ鑑定ニ付必要アル場合ニ於テハ裁判所ノ許可ヲ受ケ身體ヲ檢査シ、死體ヲ解剖シ又ハ物ヲ毀壞スルコトヲ得
第百七十六條第二項乃至第四項ノ規定ハ前項ノ場合ニ之ヲ準用ス
第二百二十四條 鑑定人ハ鑑定ニ付必要アル場合ニ於テハ裁判長ノ許可ヲ受ケ書類及證據物ヲ閱覽シ若ハ謄寫シ又ハ被告人若ハ證人ノ訊問ニ立會フコトヲ得
鑑定人ハ被告人若ハ證人ノ訊問ヲ求メ又ハ裁判長ノ許可ヲ受ケ此等ノ者ニ對シ直接ニ問ヲ發スルコトヲ得
第二百二十五條 裁判所ハ部員ヲシテ鑑定ニ付必要ナル處分ヲ爲サシムルコトヲ得但シ第二百二十二條第三項ニ規定スル處分ハ此ノ限ニ在ラス
第二百二十六條 裁判所ハ鑑定ヲ十分ナラストスルトキハ鑑定人ヲ增加シ又ハ他ノ鑑定人ニ命シテ鑑定ヲ爲サシムルコトヲ得
第二百二十七條 檢事及辯護人ハ鑑定ニ立會フコトヲ得
第百五十九條ノ規定ハ前項ノ場合ニ之ヲ準用ス
第二百二十八條 第十三章ノ規定ハ勾引ニ關スル規定ヲ除クノ外鑑定ニ付之ヲ準用ス但シ檢事及司法警察官ハ第二百二十二條第三項ニ規定スル處分ヲ爲スコトヲ得ス
第二百二十九條 鑑定人ハ旅費、日當及止宿料ノ外鑑定料及立替金ノ辨償ヲ請求スルコトヲ得
第二百三十條 裁判所ハ官署又ハ公署ニ鑑定ヲ囑託スルコトヲ得
第二百二十一條乃至第二百二十三條及第二百二十八條ノ規定ハ前項ノ場合ニ之ヲ準用ス但シ第二百二十一條第三項ノ規定ニ依ル鑑定書ノ說明ハ官署又ハ公署ノ指定シタル者ヲシテ之ヲ爲サシムヘシ
第二百三十一條 特別ノ智識ニ因リ知得タル過去ノ事實ニ付其ノ事實ヲ知リタル者ヲ訊問スル場合ニハ本章ノ規定ニ依ラス第十三章ノ規定ヲ適用ス
第十五章 通譯
第二百三十二條 國語ニ通セサル者ヲシテ陳述ヲ爲サシムル場合ニ於テハ通事ヲシテ通譯ヲ爲サシムヘシ
第二百三十三條 聾者又ハ啞者ヲシテ陳述ヲ爲サシムル場合ニ於テハ通事ヲシテ通譯ヲ爲サシムルコトヲ得
第二百三十四條 國語ニ非サル文字又ハ符號ハ之ヲ翻譯セシムルコトヲ得
第二百三十五條 裁判所ハ官署又ハ公署ニ翻譯ヲ囑託スルコトヲ得
第二百三十六條 第十四章ノ規定ハ通譯及翻譯ニ付之ヲ準用ス
第十六章 訴訟費用
第二百三十七條 刑ノ言渡ヲ爲シタルトキハ被告人ヲシテ訴訟費用ノ全部又ハ一部ヲ負擔セシムヘシ
被告人ノ責ニ歸スヘキ事由ニ因リ生シタル費用ハ刑ノ言渡ヲ爲ササル場合ト雖被告人ヲシテ之ヲ負擔セシムルコトヲ得
第二百三十八條 共犯ノ訴訟費用ハ共犯人ヲシテ連帶シテ之ヲ負擔セシムルコトヲ得
第二百三十九條 告訴又ハ告發ニ因リ公訴ノ提起アリタル事件ニ付被告人無罪又ハ免訴ノ裁判ヲ受ケタル場合ニ於テ告訴人又ハ告發人ニ故意又ハ重大ナル過失アルトキハ其ノ者ヲシテ訴訟費用ヲ負擔セシムルコトヲ得
第二百四十條 親告罪ニ付告訴ノ取消アリタル場合ニ於テハ告訴人ヲシテ訴訟費用ヲ負擔セシムルコトヲ得
第二百四十一條 檢事ニ非サル者上訴ノ取下ヲ爲シタル場合ニ於テハ其ノ者ヲシテ上訴ニ關スル費用ヲ負擔セシムルコトヲ得
檢事ニ非サル者再審ノ請求ヲ取下ケタル場合ニ於テハ其ノ者ヲシテ再審ニ關スル費用ヲ負擔セシムルコトヲ得
第二百四十二條 裁判ニ因リ訴訟手續終了スル場合ニ於テ被告人ヲシテ訴訟費用ヲ負擔セシムルトキハ職權ヲ以テ其ノ裁判ヲ爲スヘシ此ノ裁判ニ對シテハ本案ノ裁判ニ付上訴アリタルトキニ限リ不服ヲ申立ツルコトヲ得
第二百四十三條 裁判ニ因リ訴訟手續終了スル場合ニ於テ被告人ニ非サル者ヲシテ訴訟費用ヲ負擔セシムルトキハ職權ヲ以テ別ニ其ノ決定ヲ爲スヘシ此ノ決定ニ對シテハ卽時抗告ヲ爲スコトヲ得
第二百四十四條 裁判ニ因ラスシテ訴訟手續終了スル場合ニ於テ訴訟費用ヲ負擔セシムルトキハ最終ニ事件ノ繫屬シタル裁判所職權ヲ以テ其ノ決定ヲ爲スヘシ此ノ決定ニ對シテハ卽時抗告ヲ爲スコトヲ得
第二百四十五條 訴訟費用ノ負擔ヲ命スル裁判ニ於テ其ノ額ヲ定メサルトキハ執行ノ指揮ヲ爲スヘキ檢事之ヲ定ム
第二編 第一審
第一章 搜査
第二百四十六條 檢事犯罪アリト思料スルトキハ犯人及證據ヲ搜査スヘシ
第二百四十七條 警視總監、地方長官及憲兵司令官ハ各其ノ管轄區域內ニ於テ司法警察官トシテ犯罪ヲ搜査スルニ付地方裁判所檢事ト同一ノ權ヲ有ス但シ東京府知事ハ此ノ限ニ在ラス
第二百四十八條 左ニ揭クル者ハ檢事ノ輔佐トシテ其ノ指揮ヲ受ケ司法警察官トシテ犯罪ヲ搜査スヘシ
一 廳府縣ノ警察官
二 憲兵ノ將校、准士官及下士
第二百四十九條 左ニ揭クル者ハ檢事又ハ司法警察官ノ命令ヲ受ケ司法警察吏トシテ搜査ノ補助ヲ爲スヘシ
一 巡査
二 憲兵卒
第二百五十條 前三條ニ規定スル者ノ外勅令ヲ以テ司法警察官吏ヲ定ムルコトヲ得
第二百五十一條 森林、鐵道其ノ他特別ノ事項ニ付司法警察官吏ノ職務ヲ行フヘキ者及其ノ職務ノ範圍ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第二百五十二條 第十一條第一項ノ規定ハ檢事及司法警察官吏ノ爲ス搜査ニ付之ヲ準用ス
第二百五十三條 搜査ニ付テハ祕密ヲ保チ被疑者其ノ他ノ者ノ名譽ヲ毀損セサルコトニ注意スヘシ
第二百五十四條 搜査ニ付テハ其ノ目的ヲ達スル爲必要ナル取調ヲ爲スコトヲ得但シ强制ノ處分ハ別段ノ規定アル場合ニ非サレハ之ヲ爲スコトヲ得ス
搜査ニ付テハ公務所ニ照會シテ必要ナル事項ノ報告ヲ求ムルコトヲ得
第二百五十五條 檢事搜査ヲ爲スニ付强制ノ處分ヲ必要トスルトキハ公訴ノ提起前ト雖押收、搜索、檢證及被疑者ノ勾留、被疑者若ハ證人ノ訊問又ハ鑑定ノ處分ヲ其ノ所屬地方裁判所ノ豫審判事又ハ所屬區裁判所ノ判事ニ請求スルコトヲ得
前項ノ規定ニ依ル請求ヲ受ケタル判事ハ其ノ處分ニ關シ豫審判事ト同一ノ權ヲ有ス
第二百五十六條 判事前條ノ處分ヲ爲シタルトキハ速ニ之ニ關スル書類及證據物ヲ檢事ニ送付スヘシ
第二百五十七條 第二百五十五條ノ規定ニ依リ被疑者ヲ勾留シタル事件ニ付十日內ニ公訴ヲ提起セサルトキハ檢事ハ速ニ被疑者ヲ釋放スヘシ
第二百五十五條ノ規定ニ依リ押收ヲ爲シタル事件ニ付公訴ヲ提起セサル處分ヲ爲シタルトキハ檢事ハ速ニ押收物ヲ還付スヘシ但シ必要アル場合ニ於テハ公訴ノ時效完成スルニ至ル迄之ヲ保管スルコトヲ得
第二百五十八條 犯罪ニ因リ害ヲ被リタル者ハ告訴ヲ爲スコトヲ得
第二百五十九條 祖父母又ハ父母ニ對シテハ告訴ヲ爲スコトヲ得ス
第二百六十條 被害者ノ法定代理人又ハ夫ハ獨立シテ告訴ヲ爲スコトヲ得
被害者死亡シタルトキハ其ノ配偶者、家督相續人、直系ノ親族又ハ兄弟姊妹ハ告訴ヲ爲スコトヲ得但シ被害者ノ明示シタル意思ニ反スルコトヲ得ス
前二項ノ規定ハ刑法第百八十三條ノ罪ニ付テハ之ヲ適用セス
第二百六十一條 被害者ノ法定代理人被疑者ナルトキ、被疑者ノ配偶者ナルトキ又ハ被疑者ノ四親等內ノ血族若ハ三親等內ノ姻族ナルトキハ被害者ノ親族ハ獨立シテ告訴ヲ爲スコトヲ得
第二百六十二條 死者ノ名譽ヲ毀損シタル罪ニ付テハ死者ノ親族、遺族又ハ後裔ハ告訴ヲ爲スコトヲ得
名譽ヲ毀損シタル罪ニ付被害者告訴ヲ爲サスシテ死亡シタルトキ亦前項ニ同シ但シ被害者ノ明示シタル意思ニ反スルコトヲ得ス
第二百六十三條 親告罪ニ付告訴ヲ爲スコトヲ得ヘキ者ナキ場合ニ於テハ管轄裁判所ノ檢事ハ利害關係人ノ申立ニ因リ告訴ヲ爲スコトヲ得ヘキ者ヲ指定スルコトヲ得
第二百六十四條 刑法第百八十三條ノ罪ニ付テハ婚姻解消シ又ハ離婚ノ訴ヲ提起シタル後ニ非サレハ告訴ヲ爲スコトヲ得ス再ヒ婚姻ヲ爲シ又ハ離婚ノ訴ヲ取下ケタルトキハ告訴ヲ取消シタルモノト看做ス
第二百六十五條 親告罪ノ告訴ハ犯人ヲ知リタル日ヨリ六月ヲ經過シタルトキハ之ヲ爲スコトヲ得ス
刑法第二百二十九條但書ノ場合ニ於ケル告訴ハ婚姻ノ無效又ハ取消ノ裁判確定シタル日ヨリ六月內ニ之ヲ爲スニ非サレハ其ノ效力ナシ
第二百六十六條 告訴ヲ爲スコトヲ得ヘキ者數人アル場合ニ於テ一人ノ期間ノ懈怠ハ他ノ者ニ對シ其ノ效力ヲ及ホサス
第二百六十七條 告訴ハ第二審ノ判決アル迄之ヲ取消スコトヲ得
告訴ノ取消ヲ爲シタル者ハ更ニ告訴ヲ爲スコトヲ得ス
前二項ノ規定ハ請求ヲ待チテ受理スヘキ事件ニ付テノ請求ニ之ヲ準用ス
第二百六十八條 親告罪ニ付共犯ノ一人又ハ數人ニ對シテ爲シタル告訴又ハ其ノ取消ハ他ノ共犯ニ對シ亦其ノ效力ヲ生ス
前項ノ規定ハ請求ヲ待チテ受理スヘキ事件ニ付テノ請求又ハ其ノ取消ニ之ヲ準用ス
刑法第百八十三條ノ罪ニ付相姦者ノ一人ニ對シテ告訴又ハ其ノ取消アリタルトキハ他ノ者ニ對シ亦其ノ效力ヲ生ス
第二百六十九條 何人ト雖犯罪アリト思料スルトキハ告發ヲ爲スコトヲ得
官吏又ハ公吏其ノ職務ヲ行フニ因リ犯罪アリト思料スルトキハ告發ヲ爲スヘシ
第二百七十條 第二百五十九條ノ規定ハ告發ニ付之ヲ準用ス
第二百七十一條 告訴ハ代理人ニ依リテ之ヲ爲スコトヲ得告訴ノ取消ニ付亦同シ
第二百七十二條 告訴又ハ告發ハ書面又ハ口頭ヲ以テ檢事又ハ司法警察官ニ之ヲ爲スヘシ
第二百七十三條 檢事又ハ司法警察官口頭ノ告訴又ハ告發ヲ受ケタルトキハ調書ヲ作ルヘシ
第五十六條第三項乃至第五項ノ規定ハ前項ノ調書ニ付之ヲ準用ス
第二百七十四條 司法警察官告訴又ハ告發ヲ受ケタルトキハ速ニ之ニ關スル書類及證據物ヲ管轄裁判所ノ檢事ニ送付スヘシ
第二百七十五條 第二百七十二條、第二百七十三條及前條ノ規定ハ告訴又ハ告發ノ取消ニ付之ヲ準用ス
第二百七十六條 第二百七十二條、第二百七十三條及第二百七十四條ノ規定ハ自首ニ付之ヲ準用ス
第二百七十七條 犯罪ニ關シ匿名ノ申告又ハ風說アル場合ニ於テハ特ニ其ノ出所ニ注意シ虛實ヲ探査スヘシ
第二章 公訴
第二百七十八條 公訴ハ檢事之ヲ行フ
第二百七十九條 犯人ノ性格、年齡及境遇竝犯罪ノ情狀及犯罪後ノ情況ニ因リ訴追ヲ必要トセサルトキハ公訴ヲ提起セサルコトヲ得
第二百八十條 公訴ハ檢事ノ指定シタル被告人以外ノ者ニ其ノ效力ヲ及ホサス
第二百八十一條 時效ハ左ノ期間ヲ經過スルニ因リテ完成ス
一 死刑ニ該ル罪ニ付テハ十五年
二 無期ノ懲役又ハ禁錮ニ該ル罪ニ付テハ十年
三 長期十年以上ノ懲役又ハ禁錮ニ該ル罪ニ付テハ七年
四 長期十年未滿ノ懲役又ハ禁錮ニ該ル罪ニ付テハ五年
五 長期五年未滿ノ懲役若ハ禁錮又ハ罰金ニ該ル罪ニ付テハ三年
六 刑法第百八十五條ノ罪ニ付テハ六月
七 拘留又ハ科料ニ該ル罪ニ付テハ六月
第二百八十二條 二以上ノ主刑ヲ併科シ又ハ二以上ノ主刑中其ノ一ヲ科スヘキ罪ニ付テハ其ノ重キ刑ニ從ヒ前條ノ規定ヲ適用ス
第二百八十三條 刑法ニ依リ刑ヲ加重又ハ減輕スヘキ場合ニ於テハ加重又ハ減輕セサル刑ニ從ヒ第二百八十一條ノ規定ヲ適用ス
第二百八十四條 時效ハ犯罪行爲ノ終リタル時ヨリ進行ス
共犯ノ場合ニ於テハ最終ノ行爲ノ終リタル時ヨリ總テノ共犯ニ對シテ時效ノ期間ヲ起算ス
第二百八十五條 時效ハ公訴ノ提起、公判若ハ豫審ノ處分又ハ第二百五十五條ノ規定ニ依リ爲シタル判事ノ處分ニ因リ中斷ス但シ其ノ手續規定ニ違反シタル爲無效ナルトキハ此ノ限ニ在ラス
共犯ノ一人ニ對シテ爲シタル手續ニ因ル時效ノ中斷ハ他ノ共犯ニ對シ其ノ效力ヲ有ス
第二百八十六條 時效ハ中斷ノ事由ノ終了シタル時ヨリ更ニ進行ス
第二百八十七條 時效ハ第三百五條第一項第二號ノ規定ニ依リ豫審手續ヲ中止シ又ハ第三百五十二條ノ規定ニ依リ公判手續ヲ停止シタル期間內ハ進行セス
第二百八十八條 公訴ノ提起ハ豫審又ハ公判ヲ請求スルニ依リテ之ヲ爲ス
第二百八十九條 拘留又ハ科料ニ該ル事件ニ付テハ罰金以上ノ刑ニ該ル事件ト同時ニ取調ヲ爲スヘキ場合ニ限リ豫審ヲ請求スルコトヲ得
第二百九十條 公訴ノ提起ハ書面ヲ以テ之ヲ爲スヘシ
豫審ノ請求ハ急速ヲ要スル場合ニ限リ口頭又ハ電報ヲ以テ之ヲ爲スコトヲ得口頭又ハ電報ヲ以テ豫審ノ請求ヲ爲シタルトキハ之ヲ調書ニ記載シ豫審判事裁判所書記ト共ニ署名捺印スヘシ
公判開廷中被告人ニ他ノ犯罪アルコトヲ發見シ公判ヲ請求スル場合ニ於テハ口頭ヲ以テ之ヲ爲スコトヲ得
第二百九十一條 公訴ヲ提起スルニハ被告人ヲ指定シ犯罪事實及罪名ヲ示スヘシ
被告人ノ指定ハ氏名ヲ以テシ氏名知レサルトキハ容貌、體格其ノ他ノ徵表ヲ以テスヘシ
第二百九十二條 公訴ハ豫審終結決定又ハ第一審ノ判決アル迄之ヲ取消スコトヲ得
公訴ノ取消ハ理由ヲ記載シタル書面ヲ以テ之ヲ爲スヘシ
第二百九十三條 檢事事件其ノ所屬裁判所ノ管轄ニ屬セサルモノト思料スルトキハ書類及證據物ト共ニ其ノ事件ヲ管轄裁判所ノ檢事又ハ相當官署ニ送致スヘシ
前項ノ場合ニ於テ被疑者ニ對シ勾留ヲ繼續スル必要ナシト思料スルトキハ之ヲ釋放スヘシ
第二百九十四條 告訴ニ係ル事件ニ付公訴ヲ提起シ又ハ之ヲ提起セサル處分ヲ爲シタルトキハ速ニ其ノ旨ヲ告訴人ニ通知スヘシ公訴ヲ取消シ又ハ事件ヲ他ノ裁判所ノ檢事若ハ相當官署ニ送致シタルトキ亦同シ
第三章 豫審
第二百九十五條 豫審ハ被告事件ヲ公判ニ付スヘキカ否ヲ決スル爲必要ナル事項ヲ取調フルヲ以テ其ノ目的トス
豫審判事ハ公判ニ於テ取調ヘ難シト思料スル事項ニ付亦取調ヲ爲スヘシ
第二百九十六條 豫審ニ於テハ取調ノ祕密ヲ保チ被告人其ノ他ノ者ノ名譽ヲ毀損セサルコトニ注意スヘシ
第二百九十七條 豫審判事豫審中共犯アルコト又ハ他ノ犯罪アルコトヲ發見シタル場合ニ於テ急速ヲ要スルトキハ檢事ノ請求ヲ待タス豫審ニ屬スル處分ヲ爲スコトヲ得
豫審判事前項ノ處分ヲ爲シタルトキハ速ニ其ノ旨ヲ檢事ニ通知スヘシ
第二百九十八條 檢事前條第二項ノ規定ニ依ル通知ヲ受ケタル場合ニ於テ豫審ヲ請求スヘキモノト思料スルトキハ速ニ其ノ手續ヲ爲スヘシ
豫審判事檢事ヨリ豫審ヲ請求セサル旨ノ通知ヲ受ケタルトキ又ハ前條第二項ノ規定ニ依ル通知ヲ爲シタル時ヨリ四十八時間內ニ豫審ノ請求ナキトキハ前條ノ處分ヲ繼續スルコトヲ得ス被疑者ヲ勾留シタルトキハ釋放ノ決定ヲ爲シ押收シタル物アルトキハ還付ノ決定ヲ爲スヘシ
第二百九十九條 豫審判事ハ豫審處分ニ付其ノ裁判所ノ豫審判事ニ補助ヲ求ムルコトヲ得
第三百條 豫審判事ハ被告人ヲ訊問スヘシ
豫審判事ハ被告人ノ所在ニ就キ之ヲ訊問スルコトヲ得
第三百一條 豫審判事ハ豫審終結前被告人ニ對シ嫌疑ヲ受ケタル原由ヲ告知シ辯解ヲ爲サシムヘシ但シ被告人正當ノ事由ナクシテ出頭セサルトキハ此ノ限ニ在ラス
第三百二條 豫審判事公判ニ於テ召喚シ難シト思料スル證人ヲ訊問スル場合ニ於テハ檢事及辯護人ハ其ノ訊問ニ立會フコトヲ得
第百五十九條ノ規定ハ前項ノ場合ニ之ヲ準用ス
第三百三條 檢事、被告人又ハ辯護人ハ豫審中何時ニテモ必要トスル處分ヲ豫審判事ニ請求スルコトヲ得
檢事ハ豫審ノ進行ヲ妨ケサル限リ書類及證據物ヲ閱覽スルコトヲ得
辯護人ハ豫審判事ノ許可ヲ受ケ書類及證據物ヲ閱覽スルコトヲ得
第三百四條 豫審判事ハ公務所ニ照會シテ必要ナル事項ノ報告ヲ求ムルコトヲ得
第三百五條 豫審判事ハ左ノ場合ニ於テハ檢事ノ意見ヲ聽キ決定ヲ以テ豫審手續ヲ中止スルコトヲ得
一 被告人ノ所在分明ナラサルトキ
二 被告人心神喪失ノ狀態ニ在ルトキ
前項ノ決定ハ之ヲ送達セス
第三百六條 豫審判事被告事件ニ付取調ヲ終ヘタルトキハ書類及證據物ヲ檢事ニ送付シテ其ノ意見ヲ求ムヘシ
第三百七條 檢事豫審判事ノ取調十分ナラスト思料スルトキハ事項ヲ指示シテ取調ヲ請求スルコトヲ得
豫審判事檢事ノ請求ニ應シタルトキハ更ニ其ノ取調ニ關スル書類及證據物ヲ檢事ニ送付スヘシ請求ニ應セサルトキハ速ニ其ノ旨ヲ通知スヘシ
第三百八條 檢事前二條ノ規定ニ依リ書類及證據物ノ送付ヲ受ケタルトキハ速ニ意見ヲ付シテ之ヲ豫審判事ニ還付スヘシ
第三百九條 被告事件裁判所ノ管轄ニ屬セサルトキハ豫審判事ハ決定ヲ以テ管轄違ノ言渡ヲ爲スヘシ
第三百十條 豫審判事ハ其ノ所屬裁判所ノ管內ニ在ル區裁判所ノ管轄ニ屬スル事件ニ付管轄違ノ言渡ヲ爲スコトヲ得ス
第三百十一條 豫審判事ハ被告人ノ申立ニ因ルニ非サレハ土地管轄ニ付管轄違ノ言渡ヲ爲スコトヲ得ス
第三百十二條 公判ニ付スルニ足ルヘキ犯罪ノ嫌疑アルトキハ豫審判事ハ決定ヲ以テ被告事件ヲ公判ニ付スル言渡ヲ爲スヘシ
前項ノ決定ニハ罪ト爲ルヘキ事實及法令ノ適用ヲ示スヘシ
第三百十三條 被告事件罪ト爲ラス又ハ公判ニ付スルニ足ルヘキ犯罪ノ嫌疑ナキトキハ豫審判事ハ決定ヲ以テ免訴ノ言渡ヲ爲スヘシ
第三百十四條 左ノ場合ニ於テハ豫審判事ハ決定ヲ以テ免訴ノ言渡ヲ爲スヘシ
一 確定判決ヲ經タルトキ
二 犯罪後ノ法令ニ因リ刑ノ廢止アリタルトキ
三 大赦アリタルトキ
四 時效完成シタルトキ
五 法令ニ於テ刑ヲ免除スルトキ
第三百十五條 左ノ場合ニ於テハ豫審判事ハ決定ヲ以テ公訴ヲ棄却スヘシ
一 被告人ニ對シテ裁判權ヲ有セサルトキ
二 第三百十七條ノ規定ニ違反シテ公訴ヲ提起シタルトキ
三 公訴ノ取消ニ因リ公訴棄却ノ決定アリタル事件ニ付更ニ公訴ヲ提起シタルトキ
四 公訴ノ提起アリタル事件ニ付更ニ同一裁判所ニ公訴ヲ提起シタルトキ
五 告訴又ハ請求ヲ待チテ受理スヘキ事件ニ付告訴又ハ請求ノ取消アリタルトキ
六 公訴ノ取消アリタルトキ
七 被告人死亡シ又ハ被告人タル法人存續セサルニ至リタルトキ
八 第九條又ハ第十條ノ規定ニ依リ審判ヲ爲スヘカラサルトキ
九 公訴提起ノ手續其ノ規定ニ違反シタル爲無效ナルトキ
第三百十六條 第三百九條及第三百十三條乃至前條ノ決定ニ對シテハ卽時抗告ヲ爲スコトヲ得
第三百十七條 免訴ノ決定確定シタルトキハ左ノ場合ニ限リ同一事件ニ付公訴ヲ提起スルコトヲ得
一 新ナル事實又ハ證據ヲ發見シタルトキ
二 決定若ハ其ノ基礎ト爲リタル取調ニ關與シタル判事、公訴ノ提起若ハ其ノ基礎ト爲リタル搜査ニ關與シタル檢事又ハ第二百五十五條ノ規定ニ依リ公訴提起ノ基礎ト爲リタル處分ヲ爲シタル判事被告事件ニ付職務ニ關スル罪ヲ犯シタルコト確定判決ニ因リ證明セラレタルトキ但シ決定ヲ爲ス前判事又ハ檢事ニ對スル公訴ノ提起アリタル場合ニ於テハ決定ヲ爲シタル豫審判事其ノ事實ヲ知ラサリシトキニ限ル
第三百十八條 免訴、公訴棄却又ハ管轄違ノ言渡ヲ爲シタルトキハ勾留セラレタル被告人ニ對シテハ放免ノ言渡アリタルモノトス
公訴棄却又ハ管轄違ノ言渡ヲ爲ス場合ニ於テハ豫審判事ハ勾留狀ヲ存シ又ハ新ニ之ヲ發スルコトヲ得
勾留狀ヲ存シ又ハ新ニ之ヲ發シタル事件ニ付三日內ニ公訴ヲ提起セス又ハ管轄裁判所ノ檢事ニ事件ヲ送致セサルトキハ檢事ハ直ニ被告人ヲ釋放スヘシ被告事件ノ送致ヲ受ケタル檢事五日內ニ公訴ヲ提起セサルトキ亦同シ
第三百十九條 免訴、公訴棄却又ハ管轄違ノ言渡ヲ爲シタル事件ニ付押收物アルトキハ押收ヲ解ク言渡アリタルモノトス但シ必要アル場合ニ於テハ押收ヲ存續スルコトヲ得
押收ヲ存續シタル事件ニ付三日內ニ公訴ヲ提起セス又ハ管轄裁判所ノ檢事ニ事件ヲ送致セサルトキハ檢事ハ其ノ押收ヲ解クヘシ被告事件ノ送致ヲ受ケタル檢事五日內ニ公訴ヲ提起セサルトキ亦同シ
第四章 公判
第一節 公判準備
第三百二十條 裁判長ハ公判期日ヲ定ムヘシ
公判期日ニハ被告人、辯護人及輔佐人ヲ召喚スヘシ
第八十四條及第九十九條ノ規定ハ辯護人及輔佐人ノ召喚ニ付之ヲ準用ス
公判期日ハ之ヲ檢事ニ通知スヘシ
第三百二十一條 第一囘ノ公判期日ト被告人ニ對スル召喚狀ノ送達トノ間ニハ少クトモ三日ノ猶豫期間ヲ存スヘシ
被告人異議ナキトキハ前項ノ猶豫期間ヲ存セサルコトヲ得
第三百二十二條 裁判長ハ公判期日ヲ變更スルコトヲ得
公判期日ノ變更ニ關スル請求ヲ却下スル命令ハ之ヲ送達スルコトヲ要セス
第三百二十三條 裁判所ハ第一囘ノ公判期日ニ於ケル取調準備ノ爲公判期日前被告人ノ訊問ヲ爲シ又ハ部員ヲシテ之ヲ爲サシムルコトヲ得
檢事及辯護人ハ前項ノ訊問ニ立會フコトヲ得
訊問ヲ爲スヘキ日時及場所ハ豫メ之ヲ檢事及辯護人ニ通知スヘシ但シ急速ヲ要スルトキハ此ノ限ニ在ラス
第三百二十四條 裁判所ハ公判期日ニ於ケル取調準備ノ爲公判期日前證據物若ハ證據書類ノ提出ヲ命シ又ハ證人、鑑定人、通事若ハ翻譯人ニ對シ召喚狀ヲ發スルコトヲ得
前項ノ規定ニ依リ召喚狀ヲ發シタル證人、鑑定人、通事又ハ翻譯人ノ氏名ハ直ニ之ヲ訴訟關係人ニ通知スヘシ
檢事、被告人又ハ辯護人ハ第一項ノ規定ニ依ル處分ヲ裁判所ニ請求スルコトヲ得
前項ノ請求ヲ却下スルトキハ決定ヲ爲スヘシ
第三百二十五條 檢事、被告人又ハ辯護人ハ公判期日前證據物又ハ證據書類ヲ裁判所ニ提出スルコトヲ得
第三百二十六條 裁判所ハ證人疾病其ノ他ノ事由ニ因リ公判期日ニ出頭スルコト能ハスト思料スルトキハ公判期日前之ヲ訊問スルコトヲ得
第三百二十三條第二項及第三項ノ規定ハ前項ノ場合ニ之ヲ準用ス
第三百二十七條 裁判所ハ公判期日前鑑定若ハ翻譯ヲ爲サシメ又ハ押收、搜索若ハ檢證ヲ爲スコトヲ得
第三百二十八條 裁判所ハ公判期日前公務所ニ照會シテ必要ナル事項ノ報告ヲ求ムルコトヲ得
第二節 公判手續
第三百二十九條 公判期日ニ於ケル取調ハ公判廷ニ於テ之ヲ爲スヘシ
公判廷ハ判事、檢事及裁判所書記列席シテ之ヲ開ク
第三百三十條 被告人公判期日ニ出頭セサルトキハ別段ノ規定アル場合ヲ除クノ外開廷スルコトヲ得ス
第三百三十一條 罰金以下ノ刑ニ該ル事件ノ被告人ハ代理人ヲシテ出頭セシムルコトヲ得但シ裁判所ハ本人ノ出頭ヲ命スルコトヲ得
第三百三十二條 被告人ハ公判廷ニ於テ身體ノ拘束ヲ受クルコトナシ但シ之ニ看守者ヲ附スルコトヲ得
第三百三十三條 被告人ハ裁判長ノ許可アルニ非サレハ退廷スルコトヲ得ス
裁判長ハ被告人ヲシテ在廷セシムル爲相當ノ處分ヲ爲スコトヲ得
第三百三十四條 死刑又ハ無期若ハ短期一年以上ノ懲役若ハ禁錮ニ該ル事件ニ付テハ辯護人ナクシテ開廷スルコトヲ得ス但シ判決ノ宣告ヲ爲ス場合ハ此ノ限ニ在ラス
辯護人出頭セサルトキ又ハ辯護人ノ選任ナキトキハ裁判長ハ職權ヲ以テ辯護人ヲ附スヘシ
第三百三十五條 左ノ場合ニ於テ辯護人出頭セサルトキ又ハ辯護人ノ選任ナキトキハ檢事ノ意見ヲ聽キ辯護人ヲ附スルコトヲ得
一 被告人二十歲未滿又ハ七十歲以上ナルトキ
二 被告人婦女ナルトキ
三 被告人聾者又ハ啞者ナルトキ
四 被告人心神喪失者又ハ心神耗弱者タル疑アルトキ
五 其ノ他必要ト認ムルトキ
第三百三十六條 事實ノ認定ハ證據ニ依ル
第三百三十七條 證據ノ證明力ハ判事ノ自由ナル判斷ニ任ス
第三百三十八條 被告人訊問及證據調ハ裁判長之ヲ爲スヘシ
陪席判事ハ裁判長ニ告ケ被告人、證人、鑑定人、通事又ハ翻譯人ヲ訊問スルコトヲ得
檢事又ハ辯護人ハ裁判長ノ許可ヲ受ケ被告人、證人、鑑定人、通事又ハ翻譯人ヲ訊問スルコトヲ得
被告人ハ必要トスル事項ニ付共同被告人、證人、鑑定人、通事又ハ翻譯人ヲ訊問スヘキコトヲ裁判長ニ請求スルコトヲ得
第三百三十九條 裁判長ハ證人其ノ他ノ者被告人又ハ或傍聽人ノ面前ニ於テ十分ナル供述ヲ爲スコトヲ得サルヘシト思料スルトキハ其ノ供述中之ヲ退廷セシムルコトヲ得被告人他ノ被告人ノ面前ニ於テ十分ナル供述ヲ爲スコトヲ得サルヘシト思料スルトキ亦同シ
前項ノ規定ニ依リ被告人ヲ退廷セシメタル場合ニ於テ共同被告人、證人其ノ他ノ者ノ供述終リタルトキハ被告人ヲ入廷セシメ供述ノ要旨ヲ告クヘシ
第三百四十條 證據書類ハ裁判長之ヲ朗讀シ若ハ其ノ要旨ヲ告ケ又ハ裁判所書記ヲシテ之ヲ朗讀セシムヘシ
單ニ風說又ハ素行ヲ記載シタル書類ニシテ人ノ名譽ヲ毀損スル虞アルモノハ之ヲ朗讀スルコトヲ得ス
前項ノ書類ハ之ヲ被告人ニ示シ被告人文字ヲ解セサルトキニ限リ其ノ要旨ヲ告クヘシ
第三百四十一條 證據物ハ裁判長之ヲ被告人ニ示スヘシ
證據物中書面ノ意義證據ト爲ルモノニ付テハ被告人文字ヲ解セサルトキハ其ノ要旨ヲ告クヘシ
第三百四十二條 公判期日前訴訟關係人ヨリ提出シタル證據物及證據書類ハ公判廷ニ於テ之ヲ取調フヘシ第三百二十六條乃至第三百二十八條ノ規定ニ依リ作成シ又ハ集取シタルモノニ付亦同シ但シ訴訟關係人ニ異議ナキモノニ付テハ之ヲ取調ヘサルコトヲ得
第三百四十三條 被告人其ノ他ノ者ノ供述ヲ錄取シタル書類ニシテ法令ニ依リ作成シタル訊問調書ニ非サルモノハ左ノ場合ニ限リ之ヲ證據ト爲スコトヲ得
一 供述者死亡シタルトキ
二 疾病其ノ他ノ事由ニ因リ供述者ヲ訊問スルコト能ハサルトキ
三 訴訟關係人異議ナキトキ
區裁判所ノ事件ニ付テハ前項ニ規定スル制限ニ依ルコトヲ要セス
第三百四十四條 證據調ノ請求ノ却下ハ決定ヲ以テ之ヲ爲スヘシ
新期日ノ指定其ノ他別段ノ手續ヲ必要トスル證據調ハ決定ニ依リ之ヲ爲スヘシ
第三百四十五條 裁判長被告人ニ對シ第百三十三條ノ訊問ヲ爲シタル後檢事ハ被告事件ノ要旨ヲ陳述スヘシ
前項ノ陳述終リタルトキハ被告人訊問及證據調ヲ爲スヘシ
第三百四十六條 區裁判所ニ於テ被告人自白シタルトキハ訴訟關係人異議ナキトキニ限リ他ノ證據ヲ取調ヘサルコトヲ得
第三百四十七條 裁判長ハ各個ノ證據ニ付取調ヲ終ヘタル每ニ被告人ニ意見アリヤ否ヲ問フヘシ
裁判長ハ被告人ニ對シ其ノ利益ト爲ルヘキ證據ヲ提出スルコトヲ得ヘキ旨ヲ告クヘシ
第三百四十八條 檢事、被告人又ハ辯護人ハ裁判長ノ處分ニ對シテハ異議ノ申立ヲ爲スコトヲ得
裁判所ハ前項ノ申立ニ付決定ヲ爲スヘシ
第三百四十九條 證據調終リタル後檢事ハ事實及法律ノ適用ニ付意見ヲ陳述スヘシ
被告人及辯護人ハ意見ヲ陳述スルコトヲ得
被告人又ハ辯護人ニハ最終ニ陳述スル機會ヲ與フヘシ
第三百五十條 裁判所ハ必要アル場合ニ於テハ辯論ヲ再開スルコトヲ得
第三百五十一條 裁判所ハ計算其ノ他繁雜ナル事項ニ付公判廷ニ於テ取調フルコトヲ不便トスルトキハ部員ヲシテ其ノ取調ヲ爲サシムルコトヲ得此ノ場合ニ於テハ受命判事ハ豫審判事ト同一ノ權ヲ有ス
檢事及辯護人ハ前項ノ取調ニ立會フコトヲ得
受命判事ハ取調ノ結果ニ付報告ヲ爲スヘシ
第三百五十二條 被告人心神喪失ノ狀態ニ在ルトキハ檢事ノ意見ヲ聽キ決定ヲ以テ其ノ狀態ノ繼續スル間公判手續ヲ停止スヘシ但シ無罪、免訴、刑ノ免除又ハ公訴棄却ノ裁判ヲ爲スヘキ事由明白ナル場合ニ於テハ被告人ノ出頭ヲ待タス直ニ其ノ裁判ヲ爲スコトヲ得
被告人疾病ニ因リ出頭スルコト能ハサルトキハ檢事ノ意見ヲ聽キ決定ヲ以テ出頭スルコトヲ得ルニ至ル迄公判手續ヲ停止スヘシ
第三百三十一條ノ規定ニ依リ代理人ヲシテ出頭セシメタル場合ニ於テハ前二項ノ規定ヲ適用セス
第三百五十三條 開廷後被告人ノ心神喪失ニ因リ公判手續ヲ停止シ又ハ其ノ他ノ事由ニ因リ引續キ十五日以上開廷セサリシ場合ニ於テハ公判手續ヲ更新スヘシ
第三百五十四條 開廷後判事ノ更迭アリタルトキハ公判手續ヲ更新スヘシ但シ判決ノ宣告ヲ爲ス場合ハ此ノ限ニ在ラス
第三節 公判ノ裁判
第三百五十五條 被告事件裁判所ノ管轄ニ屬セサルトキハ判決ヲ以テ管轄違ノ言渡ヲ爲スヘシ
第三百五十六條 地方裁判所ハ其ノ管內ニ在ル區裁判所ノ管轄ニ屬スル事件ニ付管轄違ノ言渡ヲ爲スコトヲ得ス但シ檢事ノ意見ヲ聽キ決定ヲ以テ管轄權ヲ有スル區裁判所ニ事件ヲ移送スルコトヲ得
第三百五十七條 裁判所ハ被告人ノ申立ニ因ルニ非サレハ土地管轄ニ付管轄違ノ言渡ヲ爲スコトヲ得ス
管轄違ノ申立ハ被告事件ニ付供述ヲ爲シタル後ハ之ヲ爲スコトヲ得ス
管轄違ノ申立ハ豫審ヲ經タル事件ニ付テハ豫審判事ニ對シテ其ノ申立ヲ爲シタルトキニ非サレハ之ヲ爲スコトヲ得ス
第三百五十八條 被告事件ニ付犯罪ノ證明アリタルトキハ第三百五十九條ノ場合ヲ除クノ外判決ヲ以テ刑ノ言渡ヲ爲スヘシ
刑ノ執行猶豫ハ刑ノ言渡ト同時ニ判決ヲ以テ其ノ言渡ヲ爲スヘシ
第三百五十九條 被告事件ニ付刑ヲ免除スルトキハ判決ヲ以テ其ノ旨ノ言渡ヲ爲スヘシ
第三百六十條 有罪ノ言渡ヲ爲スニハ罪ト爲ルヘキ事實及證據ニ依リ之ヲ認メタル理由ヲ說明シ法令ノ適用ヲ示スヘシ
法律上犯罪ノ成立ヲ阻却スヘキ原由又ハ刑ノ加重減免ノ原由タル事實上ノ主張アリタルトキハ之ニ對スル判斷ヲ示スヘシ
第三百六十一條 區裁判所ニ在リテハ上訴ノ申立ナキ場合又ハ判決宣告ノ日ヨリ七日內ニ判決書ノ謄本ノ請求ナキ場合ニ於テ判決主文竝罪ト爲ルヘキ事實ノ要旨及適用シタル罰條ヲ公判調書ニ記載セシメ之ヲ以テ判決書ニ代フルコトヲ得
第三百六十二條 被告事件罪ト爲ラス又ハ犯罪ノ證明ナキトキハ判決ヲ以テ無罪ノ言渡ヲ爲スヘシ
第三百六十三條 左ノ場合ニ於テハ判決ヲ以テ免訴ノ言渡ヲ爲スヘシ
一 確定判決ヲ經タルトキ
二 犯罪後ノ法令ニ因リ刑ノ廢止アリタルトキ
三 大赦アリタルトキ
四 時效完成シタルトキ
第三百六十四條 左ノ場合ニ於テハ判決ヲ以テ公訴ヲ棄却スヘシ
一 被告人ニ對シテ裁判權ヲ有セサルトキ
二 第三百十七條ノ規定ニ違反シテ公訴ヲ提起シタルトキ
三 公訴ノ取消ニ因リ公訴棄却ノ決定アリタル事件ニ付更ニ公訴ヲ提起シタルトキ
四 公訴ノ提起アリタル事件ニ付更ニ同一裁判所ニ公訴ヲ提起シタルトキ
五 告訴又ハ請求ヲ待チテ受理スヘキ事件ニ付告訴又ハ請求ノ取消アリタルトキ
六 公訴提起ノ手續其ノ規定ニ違反シタル爲無效ナルトキ
第三百六十五條 左ノ場合ニ於テハ決定ヲ以テ公訴ヲ棄却スヘシ
一 公訴ノ取消アリタルトキ
二 被告人死亡シ又ハ被告人タル法人存續セサルニ至リタルトキ
三 第九條又ハ第十條ノ規定ニ依リ審判ヲ爲スヘカラサルトキ
前項ノ決定ニ對シテハ卽時抗告ヲ爲スコトヲ得
第三百六十六條 被告人陳述ヲ肯セス、許可ヲ受ケスシテ退廷シ又ハ秩序維持ノ爲裁判長ヨリ退廷ヲ命セラレタルトキハ其ノ陳述ヲ聽カスシテ判決ヲ爲スコトヲ得
第三百六十七條 罰金以下ノ刑ニ該ル事件又ハ罰金以下ノ刑ニ處スヘキモノト認ムル事件ニ付被告人出頭セサルトキハ其ノ後ノ取調ニ因リ禁錮以上ノ刑ニ處スヘキモノト認ムル場合ヲ除クノ外被告人ノ陳述ヲ聽カスシテ判決ヲ爲スコトヲ得
第三百六十八條 辯論終結ノ後ハ被告人出頭セスト雖宣告ニ依リ判決ヲ告知ス
第三百六十九條 有罪ノ判決ヲ告知スル場合ニハ被告人ニ對シ上訴期間及上訴申立書ヲ差出スヘキ裁判所ヲ告知スヘシ
第三百七十條 裁判長ハ判決ノ告知ヲ爲シタル後被告人ニ對シ將來ヲ戒ムル爲適當ナル訓諭ヲ爲スコトヲ得
第三百七十一條 無罪、免許、刑ノ免除、刑ノ執行猶豫、公訴棄却、管轄違、罰金又ハ科料ノ言渡ヲ爲シタルトキハ勾留セラレタル被告人ニ對シテハ放免ノ言渡アリタルモノトス
公訴棄却又ハ管轄違ノ言渡ヲ爲ス場合ニ於テハ裁判所ハ勾留狀ヲ存シ又ハ新ニ之ヲ發スルコトヲ得
勾留狀ヲ存シ又ハ新ニ之ヲ發シタル事件ニ付三日內ニ公訴ヲ提起セス又ハ管轄裁判所ノ檢事ニ事件ヲ送致セサルトキハ檢事ハ直ニ被告人ヲ釋放スヘシ被告事件ノ送致ヲ受ケタル檢事五日內ニ公訴ヲ提起セサルトキ亦同シ
第三百七十二條 押收シタル物ニ付沒收ノ言渡ナキトキハ押收ヲ解ク言渡アリタルモノトス
公訴棄却又ハ管轄違ノ言渡ヲ爲ス場合ニ於テハ裁判所ハ押收ヲ存續スルコトヲ得
押收ヲ存續シタル事件ニ付三日內ニ公訴ヲ提起セス又ハ管轄裁判所ノ檢事ニ事件ヲ送致セサルトキハ檢事ハ其ノ押收ヲ解クヘシ被告事件ノ送致ヲ受ケタル檢事五日內ニ公訴ヲ提起セサルトキ亦同シ
第三百七十三條 押收シタル贓物ニシテ被害者ニ還付スヘキ理由明白ナルモノハ之ヲ被害者ニ還付スル言渡ヲ爲スヘシ
贓物ノ對價トシテ得タル物ニ付被害者ヨリ交付ノ請求アリタルトキハ前項ノ例ニ依ル
假ニ還付シタル物ニ付別段ノ言渡ナキトキハ還付ノ言渡アリタルモノトス
前三項ノ規定ハ民事訴訟ノ手續ニ從ヒ利害關係人ヨリ其ノ權利ヲ主張スルコトヲ妨ケス
第三百七十四條 刑ノ執行猶豫ノ言渡ヲ取消スヘキ場合ニ於テハ刑ノ言渡ヲ受ケタル者ノ現在地又ハ最後ノ住所地ヲ管轄スル區裁判所ノ檢事其ノ裁判所ニ請求ヲ爲スヘシ
前項ノ請求アリタルトキハ裁判所ハ被告人又ハ其ノ代理人ノ意見ヲ聽キ決定ヲ爲スヘシ此ノ決定ニ對シテハ卽時抗告ヲ爲スコトヲ得
第三百七十五條 刑法第五十二條又ハ第五十八條ノ規定ニ依リ刑ヲ定ムヘキ場合ニ於テハ其ノ犯罪事實ニ付最終ノ判決ヲ爲シタル裁判所ノ檢事其ノ裁判所ニ請求ヲ爲スヘシ
前項ノ請求アリタルトキハ裁判所ハ被告人又ハ其ノ代理人ノ意見ヲ聽キ決定ヲ爲スヘシ此ノ決定ニ對シテハ卽時抗告ヲ爲スコトヲ得
第三編 上訴
第一章 通則
第三百七十六條 上訴ハ檢事又ハ被告人之ヲ爲スコトヲ得
第三百七十七條 檢事又ハ被告人ニ非サル者ニシテ決定ヲ受ケタルモノハ抗告ヲ爲スコトヲ得
第三百七十八條 被告人ノ法定代理人、保佐人又ハ夫ハ被告人ノ爲獨立シテ上訴ヲ爲スコトヲ得
第三百七十九條 原審ニ於ケル代理人又ハ辯護人ハ被告人ノ爲上訴ヲ爲スコトヲ得但シ被告人ノ明示シタル意思ニ反スルコトヲ得ス
第三百八十條 上訴ハ裁判ノ一部ニ對シテ之ヲ爲スコトヲ得其ノ部分ヲ限ラサルトキハ裁判ノ全部ニ對シテ爲シタルモノトス
第三百八十一條 上訴ノ提起期間ハ裁判告知ノ日ヨリ進行ス
第三百八十二條 檢事、被告人又ハ第三百七十七條ニ規定スル者ハ上訴ノ抛棄又ハ取下ヲ爲スコトヲ得但シ被告人ハ第三百七十八條ニ規定スル者ノ同意ヲ得ルニ非サレハ抛棄又ハ取下ヲ爲スコトヲ得ス
第三百八十三條 第三百七十八條ニ規定スル者ハ被告人ノ同意ヲ得テ上訴ノ取下ヲ爲スコトヲ得
第三百八十四條 上訴抛棄ノ申立ハ原裁判所ニ之ヲ爲スヘシ
上訴取下ノ申立ハ上訴裁判所ニ之ヲ爲スヘシ訴訟記錄ヲ上訴裁判所又ハ上訴裁判所檢事ニ送付スル前上訴ノ取下ヲ爲ス場合ニ於テハ其ノ申立書ヲ原裁判所ニ差出スコトヲ得
第三百八十五條 上訴ノ抛棄又ハ取下ノ申立ハ書面ヲ以テ之ヲ爲スヘシ但シ公判廷ニ於テハ口頭ヲ以テ之ヲ爲スコトヲ得此ノ場合ニ於テハ其ノ申立ヲ調書ニ記載スヘシ
第三百八十六條 上訴ノ抛棄又ハ取下ヲ爲シタル者ハ其ノ事件ニ付更ニ上訴ヲ爲スコトヲ得ス
第三百八十七條 第三百七十六條乃至第三百七十九條ノ規定ニ依リ上訴ヲ爲スコトヲ得ル者自己又ハ代人ノ責ニ歸スヘカラサル事由ニ因リ上訴ノ提起期間內ニ上訴ヲ爲スコト能ハサリシトキハ原裁判所ニ上訴權囘復ノ請求ヲ爲スコトヲ得
第三百八十八條 上訴權囘復ノ請求ハ事由ノ止ミタル日ヨリ上訴ノ提起期間ニ相當スル期間內ニ書面ヲ以テ之ヲ爲スヘシ
上訴權囘復ノ原由タル事實ハ之ヲ疏明スヘシ
上訴權囘復ノ請求ヲ爲ス者ハ其ノ請求ト同時ニ原裁判所ニ上訴ノ申立書ヲ差出スヘシ
第三百八十九條 原裁判所ハ檢事ノ意見ヲ聽キ上訴權囘復ノ請求ヲ許スヘキカ否ノ決定ヲ爲スヘシ此ノ決定ニ對シテハ卽時抗告ヲ爲スコトヲ得
第三百九十條 上訴權囘復ノ請求アリタルトキハ原裁判所ハ前條ノ決定ヲ爲ス迄裁判ノ執行ヲ停止スル決定ヲ爲スコトヲ得
前項ノ決定ヲ爲ストキハ被告人ニ對シ勾留狀ヲ發スルコトヲ得
第三百九十一條 監獄ニ在ル被告人上訴ヲ爲スニハ監獄ノ長又ハ其ノ代理者ヲ經由シテ申立書ヲ差出スヘシ此ノ場合ニ於テ上訴ノ提起期間內ニ申立書ヲ監獄ノ長又ハ其ノ代理者ニ差出シタルトキハ上訴ノ提起期間內ニ上訴ヲ爲シタルモノト看做ス
被告人自ラ申立書ヲ作ルコト能ハサルトキハ監獄ノ長又ハ其ノ代理者ハ之ヲ代書シ又ハ所屬吏員ヲシテ之ヲ代書セシムヘシ
監獄ノ長又ハ其ノ代理者ハ原裁判所ニ申立書ヲ送付シ且之ヲ受取リタル年月日時ヲ通知スヘシ
第三百九十二條 前條ノ規定ハ監獄ニ在ル被告人上訴ノ抛棄若ハ取下又ハ上訴權囘復ノ請求ヲ爲ス場合ニ之ヲ準用ス
第三百九十三條 上訴、上訴ノ抛棄若ハ取下又ハ上訴權囘復ノ請求アリタルトキハ裁判所書記ハ速ニ之ヲ對手人ニ通知スヘシ
第二章 控訴
第三百九十四條 控訴ハ區裁判所又ハ地方裁判所ニ於テ爲シタル第一審ノ判決ニ對シテ之ヲ爲スコトヲ得
第三百九十五條 控訴ノ提起期間ハ七日トス
第三百九十六條 控訴ヲ爲スニハ申立書ヲ第一審裁判所ニ差出スヘシ
第三百九十七條 控訴ノ申立法律上ノ方式ニ違反シ又ハ控訴權消滅後ニ爲シタルモノナルトキハ第一審裁判所ハ檢事ノ意見ヲ聽キ決定ヲ以テ之ヲ棄却スヘシ此ノ決定ニ對シテハ卽時抗告ヲ爲スコトヲ得
第三百九十八條 前條ノ場合ヲ除クノ外第一審裁判所ハ訴訟記錄及證據物ヲ其ノ裁判所ノ檢事ニ送付シ檢事ハ之ヲ控訴裁判所ノ檢事ニ送付スヘシ
控訴裁判所ノ檢事ハ訴訟記錄及證據物ヲ其ノ裁判所ニ送付スヘシ
被告人監獄ニ在ルトキハ第一審裁判所ノ檢事ハ被告人ヲ控訴裁判所所在地ノ監獄ニ移スヘシ
第三百九十九條 控訴裁判所ノ檢事ハ辯論ノ終結ニ至ル迄附帶控訴ヲ爲スコトヲ得
第四百條 控訴ノ申立法律上ノ方式ニ違反シ又ハ控訴權消滅後ニ爲シタルモノナルトキハ控訴裁判所ハ判決ヲ以テ控訴ヲ棄却スヘシ
第四百一條 控訴裁判所ハ前條及第四百二條ノ場合ヲ除クノ外被告事件ニ付更ニ判決ヲ爲スヘシ
第一審裁判所不法ニ管轄ヲ認メタル場合ニ於テ控訴裁判所其ノ事件ニ付第一審ノ管轄權ヲ有スルトキハ第一審ノ判決ヲ爲スヘシ
第四百二條 第一審裁判所不法ニ管轄違ヲ言渡シ又ハ公訴ヲ棄却シタルトキハ判決ヲ以テ事件ヲ第一審裁判所ニ差戾スコトヲ得
第四百三條 被告人控訴ヲ爲シタル事件及被告人ノ爲ニ控訴ヲ爲シタル事件ニ付テハ原判決ノ刑ヨリ重キ刑ヲ言渡スコトヲ得ス
第四百四條 被告人出頭セサルトキハ更ニ期日ヲ定ムヘシ被告人正當ノ事由ナクシテ其ノ期日ニ出頭セサルトキハ其ノ陳述ヲ聽カスシテ判決ヲ爲スコトヲ得
第四百五條 控訴裁判所ノ判決ニハ第一審ノ判決ニ示シタル事實及證據ヲ引用スルコトヲ得
第四百六條 第三百六十五條ノ規定ニ該當スル事件ニ付第一審裁判所公訴ヲ棄却セサリシトキハ決定ヲ以テ公訴ヲ棄却スヘシ此ノ決定ニ對シテハ卽時抗告ヲ爲スコトヲ得
第四百七條 第二編中公判ニ關スル規定ハ別段ノ規定アル場合ヲ除クノ外控訴ノ審判ニ付之ヲ準用ス
第三章 上告
第四百八條 上告ハ第二審ノ判決ニ對シテ之ヲ爲スコトヲ得
第四百九條 上告ハ第四百十二條乃至第四百十五條ニ規定スル場合ノ外法令ノ違反ヲ理由トスルトキニ限リ之ヲ爲スコトヲ得
第四百十條 左ノ場合ニ於テハ常ニ上告ノ理由アルモノトス
一 法律ニ從ヒ判決裁判所ヲ構成セサリシトキ
二 職務ノ執行ヨリ除斥セラルヘキ判事審判ニ關與シタルトキ
三 判事偏頗ノ虞アリトシテ忌避セラレ其ノ忌避ノ申立理由アリト認メラレタルニ拘ラス審判ニ關與シタルトキ
四 審理ニ關與セサリシ判事判決ニ關與シタルトキ
五 不法ニ管轄又ハ管轄違ヲ認メタルトキ
六 不法ニ公訴ヲ受理シ又ハ之ヲ棄却シタルトキ
七 審判ノ公開ニ關スル規定ニ違反シタルトキ
八 別段ノ規定アル場合ヲ除クノ外被告人出頭スルコトナクシテ審判ヲ爲シタルトキ
九 公判廷ニ於テ被告人ノ身體ヲ拘束シタルトキ
十 法律ニ依リ辯護人ヲ要スル事件又ハ決定ニ依リ辯護人ヲ附シタル事件ニ付辯護人出頭スルコトナクシテ審理ヲ爲シタルトキ
十一 不法ニ辯護權ノ行使ヲ制限シタルトキ
十二 檢事ノ爲ス被告事件ノ陳述ヲ聽カスシテ審判ヲ爲シタルトキ
十三 法律ニ依リ公判ニ於テ取調フヘキ證據ノ取調ヲ爲ササリシトキ
十四 公判ニ於テ爲シタル證據調ノ請求ニ付決定ヲ爲スヘキ場合ニ於テ之ヲ爲ササリシトキ
十五 公判ニ於テ爲シタル異議ノ申立ニ付決定ヲ爲ササリシトキ
十六 法律ニ依リ公判手續ヲ停止シ又ハ更新スヘキ事由アル場合ニ於テ之ヲ停止シ又ハ更新セサリシトキ
十七 被告人又ハ辯護人ニ最終ニ陳述スル機會ヲ與ヘサリシトキ
十八 審判ノ請求ヲ受ケタル事件ニ付判決ヲ爲サス又ハ審判ノ請求ヲ受ケサル事件ニ付判決ヲ爲シタルトキ
十九 判決ニ理由ヲ附セス又ハ理由ニ齟齬アルトキ
二十 判決ニ示スヘキ判斷ヲ遺脫シタルトキ
二十一 判決書ニ判事ノ署名若ハ捺印又ハ契印ヲ缺キタルトキ
第四百十一條 前條ノ場合ヲ除クノ外法令ニ違反シタルコトアリト雖判決ニ影響ヲ及ホササルコト明白ナルトキハ之ヲ上告ノ理由ト爲スコトヲ得ス
第四百十二條 刑ノ量定甚シク不當ナリト思料スヘキ顯著ナル事由アルトキハ之ヲ上告ノ理由ト爲スコトヲ得
第四百十三條 再審ノ請求ヲ爲シ得ヘキ場合ニ該ル事由アルトキハ之ヲ上告ノ理由ト爲スコトヲ得
第四百十四條 重大ナル事實ノ誤認アルコトヲ疑フニ足ルヘキ顯著ナル事由アルトキハ之ヲ上告ノ理由ト爲スコトヲ得
第四百十五條 判決アリタル後刑ノ廢止若ハ變更又ハ大赦アリタルトキハ之ヲ上告ノ理由ト爲スコトヲ得
第四百十六條 左ノ場合ニ於テハ區裁判所又ハ地方裁判所ニ於テ爲シタル第一審ノ判決ニ對シ控訴ヲ爲サスシテ上告ヲ爲スコトヲ得
一 判決ニ依リ定リタル被告事件ノ事實ニ付法令ヲ適用セス又ハ不當ニ法令ヲ適用シタルコトヲ理由トスルトキ
二 判決アリタル後刑ノ廢止若ハ變更又ハ大赦アリタルコトヲ理由トスルトキ
第四百十七條 第一審ノ判決ニ對スル上告ハ控訴ノ申立アリタルトキハ其ノ效力ヲ失フ但シ控訴ノ取下又ハ控訴棄却ノ裁判アリタルトキハ此ノ限ニ在ラス
第四百十八條 上告ノ提起期間ハ五日トス
第四百十九條 上告ヲ爲スニハ申立書ヲ原裁判所ニ差出スヘシ
第四百二十條 上告ノ申立法律上ノ方式ニ違反シ又ハ上告權消滅後ニ爲シタルモノナルトキハ原裁判所ハ檢事ノ意見ヲ聽キ決定ヲ以テ之ヲ棄却スヘシ此ノ決定ニ對シテハ卽時抗告ヲ爲スコトヲ得
第四百二十一條 前條ノ場合ヲ除クノ外原裁判所ハ訴訟記錄ヲ其ノ裁判所ノ檢事ニ送付シ檢事ハ之ヲ上告裁判所ノ檢事ニ送付スヘシ
上告裁判所ノ檢事ハ訴訟記錄ヲ其ノ裁判所ニ送付スヘシ
第四百二十二條 上告裁判所ハ遲クトモ最初ニ定メタル公判期日ノ五十日前ニ其ノ期日ヲ上告申立人及對手人ニ通知スヘシ
最初ニ公判期日ヲ定ムル前辯護人ノ選任アリタルトキハ前項ノ通知ハ辯護人ニ之ヲ爲スヘシ
第四百二十三條 上告申立人ハ遲クトモ最初ニ定メタル公判期日ノ十五日前ニ上告趣意書ヲ上告裁判所ニ差出スヘシ
第四百二十四條 上告ノ對手人ハ最初ニ定メタル公判期日ノ十五日前迄附帶上告ヲ爲スコトヲ得
附帶上告ハ上告趣意書ヲ上告裁判所ニ差出シテ之ヲ爲スヘシ
第四百二十五條 上告趣意書ニハ上告ノ理由ヲ明示スヘシ
訴訟手續ノ法令ニ違反スルコトヲ理由トスル場合ニ於テハ違反ニ關スル事實ヲ表示スヘシ
第四百十二條及第四百十四條ノ場合ニ於テハ訴訟記錄及原裁判所ニ於テ取調ヘタル證據ニ現ハレサル事實ヲ援用スルコトヲ得ス
第四百十三條ノ場合ニ於テハ事實ヲ表示シ其ノ證據ヲ差出スヘシ
第四百二十六條 上告裁判所上告趣意書ヲ受取リタルトキハ速ニ其ノ謄本ヲ對手人ニ送達スヘシ
第四百二十七條 上告申立人期間內ニ上告趣意書ヲ差出ササルトキハ上告裁判所ハ檢事ノ意見ヲ聽キ決定ヲ以テ上告ヲ棄却スヘシ
第四百二十八條 上告ノ對手人ハ上告趣意書ノ謄本ノ送達ヲ受ケタル日ヨリ十日內ニ答辯書ヲ上告裁判所ニ差出スコトヲ得
檢事對手人ナルトキハ重要ト認ムル上告ノ理由ニ付答辯書ヲ差出スヘシ
上告裁判所答辯書ヲ受取リタルトキハ速ニ其ノ謄本ヲ上告申立人ニ送達スヘシ上告申立人辯護人ヲ選任シタルトキハ其ノ送達ハ辯護人ニ之ヲ爲スヘシ
第四百二十九條 裁判長ハ部員ヲシテ上告申立書、上告趣意書及答辯書ヲ檢閱シテ報告書ヲ作ラシムルコトヲ得
第四百三十條 上告審ニ於テハ辯護士ニ非サル者ヲ辯護人ニ選任スルコトヲ得ス
第四百三十一條 上告審ニ於テハ被告人ノ爲ニスル辯論ハ辯護人ニ非サレハ之ヲ爲スコトヲ得ス但シ第四百四十四條第一項ノ規定ニ依リ被告事件ニ付更ニ審理ヲ爲ス場合ハ此ノ限ニ在ラス
第四百三十二條 公判期日ニハ受命判事ハ辯論前報告書ヲ朗讀スヘシ
檢事及辯護人ハ上告趣意書ニ基キ辯論ヲ爲スヘシ
第四百三十三條 辯護人出頭セサルトキ又ハ辯護人ノ選任ナキトキハ法律ニ依リ辯護人ヲ要スル場合又ハ決定ニ依リ辯護人ヲ附シタル場合ヲ除クノ外檢事ノ陳述ヲ聽キ判決ヲ爲スヘシ
第四百三十四條 上告裁判所ハ上告趣意書ニ包含セラレタル事項ニ限リ調査ヲ爲スヘシ
裁判所ノ管轄、公訴ノ受理及判決ニ依リ定リタル事實ニ對スル法令ノ適用ノ當否ニ付テハ職權ヲ以テ調査ヲ爲スコトヲ得判決アリタル後ニ於ケル刑ノ廢止若ハ變更又ハ大赦ニ付亦同シ
第二審判決ニ對スル上告事件ニ於テハ第四百十二條乃至第四百十四條ニ規定スル事由ニ付職權ヲ以テ調査ヲ爲スコトヲ得
第四百三十五條 上告裁判所ハ裁判所ノ管轄、公訴ノ受理及訴訟手續竝第四百十三條ニ規定スル事由ニ關シテハ事實ノ取調ヲ爲スコトヲ得
前項ノ取調ハ部員ヲシテ之ヲ爲サシメ又ハ豫審判事若ハ區裁判所判事ニ之ヲ囑託スルコトヲ得此ノ場合ニ於テハ受命判事及受託判事ハ豫審判事ト同一ノ權ヲ有ス
受命判事又ハ受託判事必要ト認ムルトキハ檢事及辯護人ヲシテ前項ノ取調ニ立會ハシムルコトヲ得
受命判事又ハ受託判事ハ取調ノ結果ニ付報告ヲ爲スヘシ
第四百三十六條 第一審判決ニ對スル上告事件ニ付テハ第四百三十四條第一項及第二項ノ調査ヲ爲シタルトキハ直ニ判決ヲ爲スヘシ
第四百三十七條 第二審判決ニ對スル上告事件ニ付テハ先ツ上告ノ理由ト爲ルヘキ法令ノ違反及第四百十五條ニ規定スル事由ニ付調査ヲ爲スヘシ
第四百三十八條 不法ニ管轄若ハ管轄違ヲ認メ又ハ公訴ヲ受理シ若ハ棄却シタルコトヲ理由トシテ原判決ヲ破毀スヘキ場合ニ於テハ他ノ事項ヲ調査セスシテ直ニ判決ヲ爲スヘシ
第四百三十九條 事實ノ確定ニ影響ヲ及ホササル法令ノ違反又ハ判決アリタル後刑ノ廢止若ハ大赦アリタルコトヲ理由トシテ原判決ヲ破毀シ無罪又ハ免訴ノ言渡ヲ爲スヘキ場合ニ於テ第四百十三條又ハ第四百十四條ニ規定スル事由ニ因ル檢事ノ上告ナキトキハ他ノ事項ヲ調査セスシテ直ニ判決ヲ爲スヘシ
第四百四十條 事實ノ確定ニ影響ヲ及ホスヘキ法令ノ違反ヲ理由トシテ原判決ヲ破毀スヘキモノト認ムルトキハ決定ヲ以テ事實ノ審理ヲ爲スヘキ旨ヲ言渡スヘシ
第四百四十一條 前三條ノ場合ヲ除クノ外上告裁判所ハ第四百三十七條ノ調査ヲ終ヘタル後第四百十二條乃至第四百十四條ニ規定スル事由ヲ調査スヘシ
第四百四十二條 上告裁判所第四百十二條乃至第四百十四條ニ規定スル事由ナキコト明白ナリト認ムルトキハ其ノ點ニ付辯論ヲ聽カスシテ判決ヲ爲スコトヲ得
第四百四十三條 上告裁判所第四百十二條乃至第四百十四條ニ規定スル事由アリト認ムルトキハ檢事ノ意見ヲ聽キ決定ヲ以テ事實ノ審理ヲ爲スヘキ旨ヲ言渡スヘシ
第四百四十四條 上告裁判所事實ノ審理ヲ爲スヘキ旨ヲ言渡シタルトキハ被告事件ニ付更ニ審理ヲ爲スヘシ
公判廷ニ於テ取調フルコトヲ不便トスル事項ノ取調ハ部員ヲシテ之ヲ爲サシメ又ハ豫審判事若ハ區裁判所判事ニ之ヲ囑託スルコトヲ得此ノ場合ニ於テハ受命判事及受託判事ハ豫審判事ト同一ノ權ヲ有ス
受命判事又ハ受託判事必要ト認ムルトキハ檢事及辯護人ヲシテ前項ノ取調ニ立會ハシムルコトヲ得
受命判事又ハ受託判事ハ取調ノ結果ニ付報告ヲ爲スヘシ
第四百四十五條 上告ノ申立法律上ノ方式ニ違反シ又ハ上告權消滅後ニ爲シタルモノナルトキハ判決ヲ以テ上告ヲ棄却スヘシ
第四百四十六條 上告理由ナキトキハ判決ヲ以テ之ヲ棄却スヘシ
第四百四十七條 上告理由アルトキハ判決ヲ以テ原判決ヲ破毀スヘシ
第四百四十八條 前條ノ規定ニ依リ原判決ヲ破毀スルトキハ第四百四十九條及第四百五十條ノ場合ヲ除クノ外被告事件ニ付更ニ判決ヲ爲スヘシ
第四百四十九條 不法ニ管轄違ヲ言渡シ又ハ公訴ヲ棄却シタルコトヲ理由トシテ原判決ヲ破毀スルトキハ判決ヲ以テ事件ヲ原裁判所ニ差戾スヘシ但シ必要アルトキハ事件ヲ第一審裁判所ニ差戾スコトヲ得
第四百五十條 不法ニ管轄ヲ認メタルコトヲ理由トシテ原判決ヲ破毀スルトキハ判決ヲ以テ事件ヲ管轄控訴裁判所又ハ管轄第一審裁判所ニ移送スヘシ
第四百五十一條 被告人ノ利益ノ爲ニ原判決ヲ破毀スル場合ニ於テ破毀ノ理由上告ヲ爲シタル共同被告人ニ共通ナルトキハ其ノ共同被告人ノ爲ニモ原判決ヲ破毀スヘシ
第四百五十二條 被告人上告ヲ爲シ又ハ被告人ノ爲ニ上告ヲ爲シタル事件ニ付テハ原判決ノ刑ヨリ重キ刑ヲ言渡スコトヲ得ス
第四百五十三條 判決書ニハ上告ノ趣意及重要ナル答辯ノ要旨ヲ記載スヘシ
第四百五十四條 原裁判所不法ニ公訴棄却ノ決定ヲ爲ササリシトキハ決定ヲ以テ公訴ヲ棄却スヘシ
第四百五十五條 第二編中公判ニ關スル規定ハ別段ノ規定アル場合ヲ除クノ外上告ノ審判ニ付之ヲ準用シ第四百四十四條ノ規定ニ依リ被告事件ニ付更ニ審理ヲ爲ス場合ニ於テハ尙本編第二章ノ規定ヲ準用ス
第四章 抗告
第四百五十六條 抗告ハ特ニ卽時抗告ヲ爲シ得ヘキコトヲ定メタル場合ノ外裁判所ノ爲シタル決定ニ對シテ之ヲ爲スコトヲ得但シ別段ノ規定アル場合ハ此ノ限ニ在ラス
第四百五十七條 裁判所ノ管轄又ハ訴訟手續ニ關シ判決前ニ爲シタル決定ニ對シテハ特ニ卽時抗告ヲ爲シ得ヘキコトヲ定メタル場合ヲ除クノ外抗告ヲ爲スコトヲ得ス
前項ノ規定ハ勾留、保釋、押收又ハ押收物ノ還付ニ關スル決定及鑑定ノ爲ニスル被告人ノ留置ニ關スル決定ニ付之ヲ適用セス
第四百五十八條 抗告ハ卽時抗告ヲ除クノ外何時ニテモ之ヲ爲スコトヲ得但シ原決定ヲ取消スモ實益ナキニ至リタルトキハ此ノ限ニ在ラス
第四百五十九條 卽時抗告ノ提起期間ハ三日トス
第四百六十條 抗告ヲ爲スニハ申立書ヲ原裁判所ニ差出スヘシ
原裁判所抗告ヲ理由アリトスルトキハ決定ヲ更正スヘシ抗告ノ全部又ハ一部ヲ理由ナシトスルトキハ申立書ヲ受取リタル日ヨリ三日內ニ意見書ヲ附シテ之ヲ抗告裁判所ニ送付スヘシ
第四百六十一條 抗告ハ卽時抗告ヲ除クノ外裁判ノ執行ヲ停止スル效力ヲ有セス但シ原裁判所ハ檢事ノ意見ヲ聽キ決定ヲ以テ抗告ノ裁判アルマテ執行ヲ停止スルコトヲ得
抗告裁判所ハ檢事ノ意見ヲ聽キ決定ヲ以テ裁判ノ執行ヲ停止スルコトヲ得
第四百六十二條 卽時抗告ノ提起期間內及其ノ申立アリタルトキハ裁判ノ執行ヲ停止ス
第四百六十三條 原裁判所必要ト認ムルトキハ訴訟記錄及證據物ヲ抗告裁判所ニ送付スヘシ
抗告裁判所ハ訴訟記錄及證據物ノ送付ヲ求ムルコトヲ得
第四百六十四條 抗告裁判所ハ檢事ノ意見ヲ聽キ決定ヲ爲スヘシ
第四百六十五條 抗告裁判所ハ豫審終結決定ニ對スル抗告ニ付必要アル場合ニ於テハ部員ヲシテ事實ノ取調ヲ爲サシムルコトヲ得此ノ場合ニ於テハ受命判事ハ豫審判事ト同一ノ權ヲ有ス
受命判事ハ取調ノ結果ニ付報告ヲ爲スヘシ
第四百六十六條 抗告ノ手續其ノ規定ニ違反シタルトキ又ハ抗告理由ナキトキハ抗告ヲ棄却スヘシ
抗告理由アルトキハ原決定ヲ取消シ必要アル場合ニ於テハ更ニ裁判ヲ爲スヘシ
第四百六十七條 抗告裁判所ノ決定ハ之ヲ原裁判所ニ通知スヘシ
第四百六十八條 第四百六十條、第四百六十三條及前條ノ規定ハ豫審終結決定ニ對スル抗告ニ付之ヲ準用ス
第四百六十九條 抗告裁判所ノ決定ニ對シテハ抗告ヲ爲スコトヲ得ス但シ左ニ揭クル抗告ニ付テノ決定ニ對シテハ卽時抗告ヲ爲スコトヲ得
一 公判ニ於ケル公訴棄却ノ決定ニ對スル抗告
二 控訴ノ申立ヲ棄却スル決定又ハ上訴權囘復ノ請求ニ付テノ決定ニ對スル抗告
三 再審ノ請求ニ付テノ決定ニ對スル抗告
四 刑法第五十二條又ハ第五十八條ノ規定ニ依リ刑ヲ定ムル決定ニ對スル抗告
五 裁判ノ疑義又ハ刑ノ執行ノ異議ニ付テノ決定ニ對スル抗告
六 證人、鑑定人、通事、翻譯人其ノ他ノ者ノ受ケタル決定ニ對スル抗告
第四百七十條 裁判長、受命判事又ハ豫審判事左ニ揭クル裁判ヲ爲シタル場合ニ於テ不服アル者ハ判事所屬ノ裁判所ニ其ノ裁判ノ取消又ハ變更ヲ請求スルコトヲ得
一 忌避ノ申立ヲ却下スル裁判
二 勾留、保釋、押收又ハ押收物ノ還付ニ關スル裁判
三 鑑定ノ爲被告人ノ留置ヲ命スル裁判
四 證人、鑑定人、通事又ハ翻譯人ニ對シテ過料又ハ費用ノ賠償ヲ命スル裁判
區裁判所判事前項第一號ノ裁判ヲ爲シ又ハ受託判事トシテ前項第二號乃至第四號ノ裁判ヲ爲シタル場合ニ於テハ其ノ裁判所ヲ管轄スル地方裁判所ニ其ノ裁判ノ取消又ハ變更ヲ請求スルコトヲ得
第一項第四號ノ裁判ノ取消又ハ變更ノ請求ハ其ノ裁判アリタル日ヨリ三日內ニ之ヲ爲スヘシ
前項ノ請求期間內及其ノ請求アリタルトキハ裁判ノ執行ヲ停止ス
第四百七十一條 檢事ノ爲シタル勾留、押收又ハ押收物ノ還付ニ關スル處分ニ不服アル者ハ檢事所屬ノ裁判所ニ其ノ處分ノ取消又ハ變更ヲ請求スルコトヲ得
司法警察官ノ爲シタル押收又ハ押收物ノ還付ニ關スル處分ニ不服アル者ハ司法警察官ノ職務執行地ヲ管轄スル區裁判所ニ其ノ處分ノ取消又ハ變更ヲ請求スルコトヲ得
第四百七十二條 前二條ニ規定スル請求ヲ爲スニハ請求書ヲ管轄裁判所ニ差出スヘシ
第四百七十三條 第四百六十一條、第四百六十三條、第四百六十四條、第四百六十六條及第四百六十七條ノ規定ハ第四百七十條又ハ第四百七十一條ノ請求アリタル場合ニ之ヲ準用ス
第四百七十四條 第四百七十條及第四百七十一條ノ請求ニ付爲シタル決定ニ對シテハ抗告ヲ爲スコトヲ得ス但シ第四百七十條第四號ノ裁判ノ取消又ハ變更ノ請求ニ付爲シタル決定ニ對シテハ卽時抗告ヲ爲スコトヲ得
第四編 大審院ノ特別權限ニ屬スル訴訟手續
第四百七十五條 裁判所構成法第五十條第二號ニ揭クル大審院ノ特別權限ニ屬スル罪ニ付テハ檢事總長搜査ヲ爲スヘシ
第四百七十六條 控訴院、地方裁判所又ハ區裁判所ノ檢事ハ檢事總長ノ指揮ヲ受ケ大審院ノ特別權限ニ屬スル罪ニ付搜査ヲ爲スヘシ
第四百七十七條 第二百四十七條、第二百四十八條又ハ第二百五十條ニ規定スル司法警察官ハ檢事總長ノ指揮ヲ受ケ大審院ノ特別權限ニ屬スル罪ニ付搜査ヲ爲スヘシ
第二百四十九條又ハ第二百五十條ニ規定スル司法警察吏ハ檢事又ハ司法警察官ノ命令ヲ受ケ搜査ノ補助ヲ爲スヘシ
第四百七十八條 檢事又ハ司法警察官大審院ノ特別權限ニ屬スル罪アリト思料スルトキハ直ニ檢事總長ニ報告スヘシ急速ヲ要スル場合ニ於テハ報告前搜査ニ付必要ナル處分ヲ爲スコトヲ得
第四百七十九條 檢事總長搜査ヲ爲シタル後大審院ノ特別權限ニ屬スル罪アリト思料スルトキハ豫審ヲ請求スヘシ
第四百八十條 檢事總長ハ大審院ノ特別權限ニ屬スル事件ト牽連スル他ノ事件ニ付併セテ豫審ヲ請求スルコトヲ得
第四百八十一條 大審院ハ檢事總長ノ請求ニ因リ前條ノ規定ニ依リ豫審ヲ請求シタル事件ヲ管轄地方裁判所ノ豫審判事ニ移送スルコトヲ得
第四百八十二條 大審院長ヨリ豫審ヲ命セラレタル判事被告事件ニ付取調ヲ終ヘタルトキハ意見書ヲ添ヘ書類及證據物ヲ大審院ニ送付スヘシ
第四百八十三條 大審院ハ檢事總長ノ意見ヲ聽キ左ノ區別ニ從ヒ決定ヲ爲スヘシ
一 被告事件公判ニ付スヘキモノト認ムルトキハ公判ヲ開始スル決定
二 被告事件下級裁判所ノ管轄ニ屬スルモノト認ムルトキハ管轄權ヲ有スル裁判所ニ之ヲ移送スル決定
三 被告事件前二號ノ規定ニ該當セサル場合ニ於テハ第三百十三條乃至第三百十五條ノ規定ニ準シ免訴シ又ハ公訴ヲ棄却スル決定
第四百八十四條 第二編ノ規定ハ別段ノ規定アル場合ヲ除クノ外大審院ノ特別權限ニ屬スル事件ニ付之ヲ準用ス
第五編 再審
第四百八十五條 再審ノ請求ハ左ノ場合ニ於テ有罪ノ言渡ヲ爲シタル確定判決ニ對シテ其ノ言渡ヲ受ケタル者ノ利益ノ爲ニ之ヲ爲スコトヲ得
一 原判決ノ憑據ト爲リタル證據書類又ハ證據物確定判決ニ因リ僞造又ハ變造ナリシコト證明セラレタルトキ
二 原判決ノ憑據ト爲リタル證言、鑑定、通譯又ハ翻譯確定判決ニ因リ虛僞ナリシコト證明セラレタルトキ
三 有罪ノ言渡ヲ受ケタル者ヲ誣告シタル罪確定判決ニ因リ證明セラレタルトキ但シ誣告ニ因リ有罪ノ言渡ヲ受ケタルトキニ限ル
四 原判決ノ憑據ト爲リタル通常裁判所又ハ特別裁判所ノ裁判確定裁判ニ因リ變更セラレタルトキ
五 特許權、實用新案權、意匠權又ハ商標權ヲ害シタル罪ニ因リ有罪ノ言渡ヲ爲シタル事件ニ付其ノ權利ノ無效ノ審決確定シタルトキ又ハ無效ノ判決アリタルトキ
六 有罪ノ言渡ヲ受ケタル者ニ對シテ無罪若ハ免訴ヲ言渡シ、刑ノ言渡ヲ受ケタル者ニ對シテ刑ノ免除ヲ言渡シ又ハ原判決ニ於テ認メタル罪ヨリ輕キ罪ヲ認ムヘキ明確ナル證據ヲ新ニ發見シタルトキ
七 原判決若ハ前審ノ判決若ハ其ノ判決ノ基礎ト爲リタル取調ニ關與シタル判事、豫審終結決定若ハ其ノ基礎ト爲リタル取調ニ關與シタル判事、公訴ノ提起若ハ其ノ基礎ト爲リタル搜査ニ關與シタル檢事又ハ第二百五十五條ノ規定ニ依リ公訴提起ノ基礎ト爲リタル處分ヲ爲シタル判事被告事件ニ付職務ニ關スル罪ヲ犯シタルコト確定判決ニ因リ證明セラレタルトキ但シ原判決ヲ爲ス前判事又ハ檢事ニ對シテ公訴ノ提起アリタル場合ニ於テハ原判決ヲ爲シタル裁判所其ノ事實ヲ知ラサリシトキニ限ル
第四百八十六條 再審ノ請求ハ左ノ場合ニ於テ有罪ノ言渡ヲ爲スヘキ事件ニ付無罪若ハ免訴ノ言渡ヲ爲シタル確定判決、刑ノ言渡ヲ爲スヘキ事件ニ付刑ノ免除ノ言渡ヲ爲シタル確定判決、相當ノ罪ヨリ輕キ罪ニ付有罪ノ言渡ヲ爲シタル確定判決又ハ不法ニ公訴ヲ棄却シタル確定判決ニ對シテ之ヲ爲スコトヲ得
一 前條第一號、第二號、第四號又ハ第七號ニ規定スル原由アルトキ
二 死刑又ハ無期若ハ短期一年以上ノ懲役若ハ禁錮ニ該ル罪ヲ犯シタル者無罪又ハ相當ノ罪ヨリ輕キ罪ニ付有罪ノ言渡ヲ受ケタル後裁判上又ハ裁判外ニ於テ其ノ事實ヲ陳述シタルトキ
三 死刑又ハ無期若ハ短期一年以上ノ懲役若ハ禁錮ニ該ル罪ヲ犯シタル者刑ノ免除若ハ免訴又ハ公訴棄却ノ言渡ヲ受ケタル後裁判上又ハ裁判外ニ於テ其ノ原由ナカリシコトヲ陳述シタルトキ
第四百八十七條 再審ノ請求ハ左ノ場合ニ於テ控訴ヲ棄却シタル確定判決ニ對シテ之ヲ爲スコトヲ得
一 第四百八十五條第一號又ハ第二號ニ規定スル原由アルトキ
二 原判決又ハ其ノ基礎ト爲リタル取調ニ關與シタル判事ニ付第四百八十五條第七號ニ規定スル原由アルトキ
第一審ノ確定判決ニ對シテ再審ノ請求ヲ爲シタル事件ニ付再審ノ判決アリタル後ハ控訴棄却ノ判決ニ對シテ再審ノ請求ヲ爲スコトヲ得ス
第四百八十八條 再審ノ請求ハ左ノ場合ニ於テ上告ヲ棄却シタル判決ニ對シテ之ヲ爲スコトヲ得
一 第四百三十五條ノ規定ニ依リ取調ヘタル事實ニ付第四百八十五條第一號又ハ第二號ニ規定スル原由アルトキ
二 原判決又ハ其ノ基礎ト爲リタル取調ニ關與シタル判事ニ付第四百八十五條第七號ニ規定スル原由アルトキ
第一審又ハ第二審ノ確定判決ニ對シテ再審ノ請求ヲ爲シタル事件ニ付再審ノ判決アリタル後ハ上告棄却ノ判決ニ對シテ再審ノ請求ヲ爲スコトヲ得ス
第四百八十九條 第四百八十五條乃至前條ノ規定ニ從ヒ確定判決ニ因リ犯罪ノ證明セラレタルコトヲ再審ノ原由ト爲スヘキ場合ニ於テ其ノ確定判決ヲ得ルコト能ハサルトキハ其ノ事實ヲ證明シテ再審ノ請求ヲ爲スコトヲ得但シ證據ナキノ理由ニ因リ確定判決ヲ得ルコト能ハサルトキハ此ノ限ニ在ラス
第四百九十條 再審ノ請求ハ別段ノ規定アル場合ヲ除クノ外原判決ヲ爲シタル裁判所之ヲ管轄ス
第四百九十一條 判決ノ一部第二審ニ於テ確定シ其ノ部分ニ對スル再審ノ請求ニ付再審開始ノ決定アリタルトキハ第一審ニ於テ確定シタル部分ニ對スル再審ノ請求ハ控訴裁判所之ヲ管轄ス
判決ノ一部上告審ニ於テ確定シ其ノ部分ニ對スル再審ノ請求ニ付再審開始ノ決定アリタルトキハ第一審又ハ第二審ニ於テ確定シタル部分ニ對スル再審ノ請求ハ上告裁判所之ヲ管轄ス
第四百九十二條 有罪ノ言渡ヲ受ケタル者ノ利益ノ爲ニスル再審ノ請求ハ左ニ揭クル者之ヲ爲スコトヲ得
一 管轄裁判所ノ檢事
二 有罪ノ言渡ヲ受ケタル者
三 有罪ノ言渡ヲ受ケタル者ノ法定代理人、保佐人及夫
四 有罪ノ言渡ヲ受ケタル者死亡シ又ハ心神喪失ノ狀態ニ在ル場合ニ於テハ其ノ配偶者、家督相續人、直系ノ親族及兄弟姊妹
第四百八十五條第七號、第四百八十七條第二號又ハ第四百八十八條第二號ニ規定スル原由ニ因ル再審ノ請求ニシテ有罪ノ言渡ヲ受ケタル者ノ利益ノ爲ニスルモノハ有罪ノ言渡ヲ受ケタル者ノ行爲罪ヲ犯スニ至ラシメタル場合ニ於テハ檢事ニ非サレハ之ヲ爲スコトヲ得ス
第四百八十六條ノ規定ニ依ル再審ノ請求ハ管轄裁判所ノ檢事之ヲ爲スコトヲ得第四百八十七條又ハ第四百八十八條ノ規定ニ依ル再審ノ請求ニシテ第一項ノ規定ニ該當セサルモノニ付亦同シ
第四百九十三條 檢事ニ非サル者再審ノ請求ヲ爲ス場合ニ於テハ辯護人ヲ選任スルコトヲ得
前項ノ規定ニ依ル辯護人ノ選任ハ再審ノ判決アル迄其ノ效力ヲ有ス
第四百九十四條 再審ノ請求ハ刑ノ執行終リ又ハ其ノ執行ヲ受クルコトナキニ至リタルトキト雖之ヲ爲スコトヲ得
第四百九十五條 第四百八十六條ノ規定ニ依ル再審ノ請求ハ判決確定後公訴ノ時效期間ニ相當スル期間ヲ經過シタル後ニ於テハ之ヲ爲スコトヲ得ス第四百八十七條又ハ第四百八十八條ノ規定ニ依ル再審ノ請求ニシテ第四百九十二條第一項ノ規定ニ該當セサルモノニ付亦同シ
第四百九十六條 再審ノ請求ハ刑ノ執行ヲ停止スル效力ヲ有セス但シ管轄裁判所ノ檢事ハ再審ノ請求ニ付テノ決定アル迄刑ノ執行ヲ停止スルコトヲ得
第四百九十七條 再審ノ請求ヲ爲スニハ其ノ趣意書ニ原判決ノ謄本、證據書類及證據物ヲ添ヘ之ヲ管轄裁判所ニ差出スヘシ
第四百九十八條 再審ノ請求ハ之ヲ取下クルコトヲ得
再審ノ請求ヲ取下ケタル者ハ同一ノ原由ニ因リ更ニ再審ノ請求ヲ爲スコトヲ得ス
第四百九十九條 第三百八十五條、第三百九十一條及第三百九十三條ノ規定ハ再審ノ請求又ハ其ノ取下ニ付之ヲ準用ス
第五百條 第四百九十一條第一項ノ場合ニ於テ第一審裁判所控訴裁判所ノ再審開始ノ決定前再審ノ請求ヲ受ケタルトキハ決定ヲ以テ事件ヲ控訴裁判所ニ送致スヘシ
第四百九十一條第二項ノ場合ニ於テ第一審裁判所又ハ控訴裁判所上告裁判所ノ再審開始ノ決定前再審ノ請求ヲ受ケタルトキハ決定ヲ以テ事件ヲ上告裁判所ニ送致スヘシ
第五百一條 第一審ノ確定判決ト控訴ヲ棄却シタル確定判決トニ對シテ再審ノ請求アリタルトキハ控訴裁判所ハ決定ヲ以テ第一審裁判所ノ訴訟手續終了スルニ至ル迄訴訟手續ヲ停止スヘシ
第五百二條 第一審又ハ第二審ノ確定判決ト上告ヲ棄却シタル判決トニ對シテ再審ノ請求アリタルトキハ上告裁判所ハ決定ヲ以テ第一審裁判所又ハ控訴裁判所ノ訴訟手續終了スルニ至ル迄訴訟手續ヲ停止スヘシ
第五百三條 再審ノ請求ヲ受ケタル裁判所ハ必要アル場合ニ於テハ部員ヲシテ再審ノ原由ニ付事實ノ取調ヲ爲サシメ又ハ豫審判事若ハ區裁判所判事ニ其ノ取調ヲ囑託スルコトヲ得此ノ場合ニ於テハ受命判事及受託判事ハ豫審判事ト同一ノ權ヲ有ス
受命判事又ハ受託判事必要ト認ムルトキハ檢事及辯護人ヲシテ前項ノ取調ニ立會ハシムルコトヲ得
受命判事又ハ受託判事ハ取調ノ結果ニ付報告ヲ爲スヘシ
第五百四條 再審ノ請求法律上ノ方式ニ違反シ又ハ請求權消滅後ニ爲シタルモノナルトキハ決定ヲ以テ之ヲ棄却スヘシ
第五百五條 再審ノ請求ヲ理由ナシトスルトキハ決定ヲ以テ之ヲ棄却スヘシ
前項ノ決定アリタルトキハ同一ノ原由ニ因リ再審ノ請求ヲ爲スコトヲ得ス
第五百六條 再審ノ請求ヲ理由アリトスルトキハ再審開始ノ決定ヲ爲スヘシ
再審開始ノ決定ヲ爲シタルトキハ決定ヲ以テ刑ノ執行ヲ停止スルコトヲ得
第五百七條 第五百一條ノ場合ニ於テ第一審裁判所再審ノ判決ヲ爲シタルトキハ控訴裁判所ハ決定ヲ以テ再審ノ請求ヲ棄却スヘシ
第五百八條 第五百二條ノ場合ニ於テ第一審裁判所又ハ控訴裁判所再審ノ判決ヲ爲シタルトキハ上告裁判所ハ決定ヲ以テ再審ノ請求ヲ棄却スヘシ
第五百九條 再審ノ請求ニ付決定ヲ爲ス場合ニ於テハ請求ヲ爲シタル者及其ノ對手人ノ意見ヲ聽クヘシ第四百九十二條第一項第三號ニ揭クル者請求ヲ爲シタル場合ニ於テハ尙有罪ノ言渡ヲ受ケタル者ノ意見ヲ聽クヘシ
第五百十條 第五百四條、第五百五條、第五百六條第一項、第五百七條又ハ第五百八條ノ決定ニ對シテハ卽時抗告ヲ爲スコトヲ得
第五百十一條 裁判所ハ再審開始ノ決定確定シタル事件ニ付テハ第五百條、第五百七條及第五百八條ノ場合ヲ除クノ外其ノ審級ニ從ヒ更ニ審判ヲ爲スヘシ
第五百十二條 死亡者又ハ囘復ノ見込ナキ心神喪失者ノ利益ノ爲ニ再審ノ請求ヲ爲シタル事件ニ付テハ公判ヲ開カス檢事及辯護人ノ意見ヲ聽キ判決ヲ爲スヘシ此ノ場合ニ於テ再審ノ請求ヲ爲シタル者辯護人ヲ選任セサルトキハ裁判長ハ職權ヲ以テ辯護人ヲ附スヘシ
有罪ノ言渡ヲ受ケタル者ノ利益ノ爲ニ再審ノ請求ヲ爲シタル事件ニ付再審ノ判決ヲ爲ス前有罪ノ言渡ヲ受ケタル者死亡シ又ハ心神喪失ノ狀態ニ在リテ囘復ノ見込ナキニ至リタルトキ亦前項ニ同シ
前二項ノ規定ニ依リ爲シタル判決ニ對シテハ上訴ヲ爲スコトヲ得ス
第四十三條ノ規定ハ第一項又ハ第二項ノ規定ニ依リ辯護人ヲ附スル場合ニ之ヲ準用ス
第五百十三條 第四百八十六條ノ規定ニ依リ再審ノ請求ヲ爲シタル事件ニ付再審ノ判決ヲ爲ス前有罪ノ言渡ヲ受ケタル者又ハ被告人タリシ者死亡シタルトキハ再審ノ請求及其ノ請求ニ付爲シタル決定ハ其ノ效力ヲ失フ第四百八十七條又ハ第四百八十八條ノ規定ニ依ル再審ノ請求ニシテ第四百九十二條第一項ノ規定ニ該當セサルモノニ付亦同シ
第五百十四條 有罪ノ言渡ヲ受ケタル者ノ利益ノ爲ニ爲シタル再審ニ於テハ原判決ノ刑ヨリ重キ刑ヲ言渡スコトヲ得ス
第五百十五條 有罪ノ言渡ヲ受ケタル者ノ利益ノ爲ニ爲シタル再審ニ於テ無罪ノ言渡ヲ爲シタルトキハ官報及新聞紙ニ揭載シテ其ノ判決ヲ公示スヘシ
第六編 非常上告
第五百十六條 判決確定後其ノ事件ノ審判法令ニ違反シタルコトヲ發見シタルトキハ檢事總長ハ大審院ニ非常上告ヲ爲スコトヲ得
第五百十七條 非常上告ヲ爲スニハ其ノ理由ヲ記載シタル申立書ヲ大審院ニ差出スヘシ
第五百十八條 公判期日ニハ檢事ハ申立書ニ基キ陳述ヲ爲スヘシ
第五百十九條 非常上告ヲ理由ナシトスルトキハ判決ヲ以テ之ヲ棄却スヘシ
第五百二十條 非常上告ヲ理由アリトスルトキハ左ノ區別ニ從ヒ判決ヲ爲スヘシ
一 原判決法令ニ違反シタルトキハ其ノ違反シタル部分ヲ破毀ス但シ原判決被告人ノ爲不利益ナルトキハ之ヲ破毀シ被告事件ニ付判決ヲ爲ス
二 訴訟手續法令ニ違反シタルトキハ其ノ違反シタル手續ヲ破毀ス
第五百二十一條 非常上告ノ判決ハ前條第一號但書ノ規定ニ依リ爲シタルモノヲ除クノ外其ノ效力ヲ被告人ニ及ホサス
第五百二十二條 第四百三十四條第一項及第四百三十五條ノ規定ハ非常上告ニ付之ヲ準用ス
第七編 略式手續
第五百二十三條 區裁判所ハ檢事ノ請求ニ因リ其ノ管轄ニ屬スル事件ニ付公判前略式命令ヲ以テ罰金又ハ科料ヲ科スルコトヲ得
前項ノ場合ニ於テハ沒收ヲ科シ其ノ他附隨ノ處分ヲ爲スコトヲ得
略式命令ハ被告人ニ裁判書ノ謄本ヲ送達シテ之ヲ爲ス
裁判所書記本人ニ謄本ヲ交付シタルトキハ送達アリタルモノト看做ス
第五百二十四條 略式命令ノ請求ハ公訴ノ提起ト同時ニ書面ヲ以テ之ヲ爲スヘシ
第五百二十五條 前條ノ請求アリタル場合ニ於テ其ノ事件略式命令ヲ爲スコトヲ得ス又ハ之ヲ爲スコトヲ相當ナラスト思料スルトキハ通常ノ規定ニ從ヒ審判ヲ爲スヘシ
第五百二十六條 裁判書ニハ罪ト爲ルヘキ事實、適用シタル法令、科スヘキ刑及附隨ノ處分竝謄本ノ送達アタリル日ヨリ七日內ニ正式裁判ノ請求ヲ爲スコトヲ得ヘキ旨ヲ示スヘシ
第五百二十七條 略式命令ヲ爲シタルトキハ檢事ニ裁判書ノ謄本ヲ送達スヘシ
第五百二十八條 略式命令ヲ受ケタル者ハ謄本ノ送達アリタル日ヨリ七日內ニ正式裁判ノ請求ヲ爲スコトヲ得
正式裁判ノ請求ハ略式命令ヲ爲シタル裁判所ニ書面ヲ以テ之ヲ爲スヘシ正式裁判ノ請求アリタルトキハ裁判所ハ速ニ其ノ旨ヲ檢事ニ通知スヘシ
第五百二十九條 第三百八十七條乃至第三百九十條ノ規定ハ正式裁判ノ請求ニ付之ヲ準用ス
第五百三十條 正式裁判ノ請求ハ第一審ノ判決アル迄之ヲ取下クルコトヲ得
第五百三十一條 正式裁判ノ請求法律上ノ方式ニ違反シ又ハ請求權消滅後ニ爲シタルモノナルトキハ檢事ノ意見ヲ聽キ決定ヲ以テ之ヲ棄却スヘシ此ノ決定ニ對シテハ卽時抗告ヲ爲スコトヲ得
正式裁判ノ請求ヲ適法トスルトキハ通常ノ規定ニ從ヒ審判ヲ爲スヘシ此ノ場合ニ於テハ略式命令ニ拘束セラルルコトナシ
第五百三十二條 正式裁判ノ請求ニ因リ判決ヲ爲シタルトキハ略式命令ハ其ノ效力ヲ失フ
第五百三十三條 略式命令ハ正式裁判ノ請求期間ノ經過又ハ其ノ請求ノ取下ニ因リ確定判決ト同一ノ效力ヲ生ス正式裁判ノ請求ヲ棄却スル裁判確定シタルトキ亦同シ
第八編 裁判ノ執行
第五百三十四條 裁判ハ確定シタル後之ヲ執行ス但シ別段ノ規定アル場合ハ此ノ限ニ在ラス
第五百三十五條 裁判ノ執行ハ其ノ裁判ヲ爲シタル裁判所ノ檢事之ヲ指揮ス但シ其ノ性質上裁判所又ハ裁判長、受命判事、豫審判事又ハ區裁判所判事ノ爲スヘキモノハ此ノ限ニ在ラス
上訴ノ裁判又ハ上訴ノ取下ニ因リ下級裁判所ノ裁判ヲ執行スヘキ場合ニ於テハ上訴裁判所ノ檢事其ノ執行ヲ指揮ス但シ訴訟記錄下級裁判所ニ在ルトキハ其ノ裁判所ノ檢事之ヲ指揮ス
第五百三十六條 裁判執行ノ指揮ハ書面ヲ以テ之ヲ爲シ之ニ裁判書又ハ裁判ヲ記載シタル調書ノ謄本又ハ抄本ヲ添附スヘシ但シ刑ノ執行ヲ指揮スル場合ヲ除クノ外裁判書ノ原本、謄本若ハ抄本又ハ調書ノ謄本若ハ抄本ニ認印シテ之ヲ爲スコトヲ得
第五百三十七條 二以上ノ主刑ノ執行ハ罰金及科料ヲ除クノ外其ノ重キモノヲ先ニス但シ檢事ハ重キ刑ノ執行ヲ停止シ他ノ刑ノ執行ヲ爲サシムルコトヲ得
第五百三十八條 死刑ノ執行ハ司法大臣ノ命令ニ依ル
第五百三十九條 死刑ヲ言渡シタル判決確定シタルトキハ檢事ハ速ニ訴訟記錄ヲ司法大臣ニ差出スヘシ
第五百四十條 司法大臣死刑ノ執行ヲ命シタルトキハ五日內ニ其ノ執行ヲ爲スヘシ
第五百四十一條 死刑ノ執行ハ檢事及裁判所書記ノ立會ニテ之ヲ爲スヘシ
檢事又ハ監獄ノ長ノ許可ヲ得タル者ニ非サレハ刑場ニ入ルコトヲ得ス
第五百四十二條 死刑ノ執行ニ立會ヒタル裁判所書記ハ執行始末書ヲ作リ檢事及監獄ノ長ト共ニ之ニ署名捺印スヘシ
第五百四十三條 死刑ノ言渡ヲ受ケタル者心神喪失ノ狀態ニ在ルトキハ司法大臣ノ命令ニ因リ執行ヲ停止ス
死刑ノ言渡ヲ受ケタル婦女懷胎ナルトキハ司法大臣ノ命令ニ因リ執行ヲ停止ス
前二項ノ規定ニ依リ死刑ノ執行ヲ停止シタル場合ニ於テハ痊癒又ハ分娩ノ後司法大臣ノ命令アルニ非サレハ執行ヲ爲スコトヲ得ス
第五百四十四條 懲役、禁錮又ハ拘留ノ言渡ヲ受ケタル者心神喪失ノ狀態ニ在ルトキハ刑ノ言渡ヲ爲シタル裁判所ノ檢事又ハ刑ノ言渡ヲ受ケタル者ノ現在地ヲ管轄スル地方裁判所ノ檢事ノ指揮ニ因リ其ノ痊癒ニ至ル迄執行ヲ停止ス
第五百四十五條 前條ノ規定ニ依リ刑ノ執行ヲ停止シタル場合ニ於テハ檢事ハ刑ノ言渡ヲ受ケタル者ヲ監護義務者又ハ市町村長ニ引渡シ病院其ノ他適當ノ場所ニ入レシムルコトヲ得
刑ノ執行ヲ停止セラレタル者ハ前項ノ處分アル迄之ヲ監獄ニ留置シ其ノ期間ヲ刑期ニ算入ス
第五百四十六條 懲役、禁錮又ハ拘留ノ言渡ヲ受ケタル者ニ付左ニ揭クル事由アルトキハ刑ノ言渡ヲ爲シタル裁判所ノ檢事又ハ刑ノ言渡ヲ受ケタル者ノ現在地ヲ管轄スル地方裁判所ノ檢事ノ指揮ニ因リ刑ノ執行ヲ停止スルコトヲ得
一 刑ノ執行ニ因リ著シク健康ヲ害スルトキ又ハ生命ヲ保ツコト能ハサル虞アルトキ
二 七十歲以上ナルトキ
三 受胎後百五十日以上ナルトキ
四 分娩後六十日ヲ經過セサルトキ
五 刑ノ執行ニ因リ囘復スヘカラサル不利益ヲ生スル虞アルトキ
六 祖父母又ハ父母七十歲以上又ハ癈篤疾ニシテ侍養ノ子孫ナキトキ
七 其ノ他重大ナル事由アルトキ
第五百四十七條 死刑、懲役、禁錮又ハ拘留ノ言渡ヲ受ケタル者拘禁中ニ非サルトキハ檢事ハ執行ノ爲之ヲ召喚スヘシ召喚ニ應セサルトキハ逮捕狀ヲ發スヘシ
第五百四十八條 死刑、懲役、禁錮又ハ拘留ノ言渡ヲ受ケタル者逃亡シタルトキ又ハ逃亡スル虞アルトキハ檢事ハ直ニ逮捕狀ヲ發シ又ハ司法警察官ヲシテ之ヲ發セシムルコトヲ得
第五百四十九條 死刑、懲役、禁錮又ハ拘留ノ言渡ヲ受ケタル者ノ現在地ヲ覺知スルコト能ハサルトキハ檢事ハ檢事長ニ人相書ヲ送付シ其ノ逮捕ヲ請求スルコトヲ得
請求ヲ受ケタル檢事長ハ其ノ管內ノ檢事ヲシテ逮捕狀ヲ發シ逮捕ノ手續ヲ爲サシムヘシ
第五百五十條 逮捕狀ニハ刑ノ言渡ヲ受ケタル者ノ氏名、住居、年齡、刑名、刑期其ノ他逮捕ニ必要ナル事項ヲ記載シ檢事又ハ司法警察官之ニ記名捺印スヘシ
必要アル場合ニ於テハ逮捕狀ニ人相書ヲ添附スヘシ
第五百五十一條 逮捕狀ハ勾引狀ト同一ノ效力ヲ有ス
第五百五十二條 逮捕狀ノ執行ニ付テハ勾引狀ノ執行ニ關スル規定ヲ準用ス
第五百五十三條 罰金、科料、沒收、追徵、過料、沒取、訴訟費用又ハ費用賠償ノ裁判ハ檢事ノ命令ニ因リ之ヲ執行ス此ノ命令ハ執行力アル債務名義ト同一ノ效力ヲ有ス
前項ノ裁判ノ執行ニ付テハ民事訴訟法ヲ準用ス但シ執行前裁判ノ送達ヲ爲スコトヲ要セス
第五百五十四條 沒收又ハ租稅其ノ他ノ公課若ハ專賣ニ關スル法令ノ規定ニ依リ言渡シタル罰金若ハ追徵ハ刑ノ言渡ヲ受ケタル者判決確定後死亡シタル場合ニ於テハ相續財產ニ就キ之ヲ執行スルコトヲ得
刑ノ言渡ヲ受ケタル者ノ死亡ニ非サル事由ニ因リ相續開始シタルトキハ罰金、沒收又ハ追徵ハ相續財產ニ就キ之ヲ執行スルコトヲ得
第五百五十五條 法人ニ對シ罰金、科料、沒收又ハ追徵ヲ言渡シタル場合ニ於テ其ノ判決確定後合併ニ因リ法人消滅シタルトキハ合併後存續スル法人又ハ合併ニ因リ設立シタル法人ニ對シテ執行ヲ爲スコトヲ得
第五百五十六條 上訴申立後ノ未決勾留ノ日數ハ左ノ例ニ依リ之ヲ本刑ニ通算ス
一 檢事ノ上訴ナルトキハ勾留日數ノ全部
二 檢事ニ非サル者ノ上訴ニシテ其ノ理由アルトキハ勾留日數ノ全部
前項ノ規定ニ依ル通算ニ付テハ未決勾留一日ヲ刑期ノ一日又ハ金額ノ一圓ニ折算ス
上告裁判所原判決ヲ破毀シタル後ノ未決勾留ハ上告中ノ未決勾留日數ニ準シ之ヲ通算ス
第五百五十七條 沒收物ハ檢事之ヲ處分スヘシ
第五百五十八條 沒收ノ執行後三月內ニ權利ヲ有スル者ヨリ沒收物ノ交付ヲ請求シタルトキハ檢事ハ破壞又ハ廢棄スヘキ物ヲ除クノ外之ヲ交付スヘシ
沒收物ヲ處分シタル後前項ノ請求アリタル場合ニ於テハ檢事ハ公賣ニ因リテ得タル代價ヲ交付スヘシ
第五百五十九條 僞造又ハ變造ニ係ル物ヲ返還スル場合ニ於テハ僞造又ハ變造ノ部分ヲ其ノ物ニ表示スヘシ
僞造又ハ變造ニ係ル物押收セラレサルトキハ之ヲ提出セシメテ前項ニ規定スル手續ヲ爲スヘシ但シ其ノ物公務所ニ屬スルトキハ僞造又ハ變造ノ部分ヲ公務所ニ通知シテ相當ノ處分ヲ爲サシムヘシ
第五百六十條 押收物ノ還付ヲ受クヘキ者ノ所在不明ナル爲又ハ其ノ他ノ事由ニ因リ其ノ物ヲ還付スルコト能ハサル場合ニ於テハ檢事ハ其ノ旨ヲ公告スヘシ
公告ヲ爲シタル時ヨリ六月內ニ還付ノ請求ナキトキハ其ノ物ハ國庫ニ歸屬ス
前項ノ期間內ト雖價値ナキ物ハ之ヲ廢棄シ保管ニ不便ナル物ハ之ヲ公賣シテ其ノ代價ヲ保管スルコトヲ得
第五百六十一條 刑ノ言渡ヲ受ケタル者裁判ノ解釋ニ付疑アルトキハ言渡ヲ爲シタル裁判所ニ疑義ノ申立ヲ爲スコトヲ得
第五百六十二條 裁判ノ執行ヲ受クル者又ハ其ノ法定代理人、保佐人若ハ夫執行ニ關シ檢事ノ爲シタル處分ヲ不當トスルトキハ言渡ヲ爲シタル裁判所ニ異議ノ申立ヲ爲スコトヲ得
第五百六十三條 疑義又ハ異議ノ申立ハ書面ヲ以テ之ヲ爲スヘシ
疑義又ハ異議ノ申立ハ決定アル迄之ヲ取下クルコトヲ得
疑義又ハ異議ノ取下ハ書面ヲ以テ之ヲ爲スヘシ
第三百九十一條ノ規定ハ疑義又ハ異議ノ申立及其ノ取下ニ付之ヲ準用ス
第五百六十四條 疑義又ハ異議ノ申立ヲ受ケタル裁判所ハ檢事ノ意見ヲ聽キ決定ヲ爲スヘシ此ノ決定ニ對シテハ卽時抗告ヲ爲スコトヲ得
第五百六十五條 罰金又ハ科料ヲ完納スルコト能ハサル爲爲シタル勞役場留置ノ執行ニ付テハ刑ノ執行ニ關スル規定ヲ準用ス
第五百六十六條 第五百五十三條第一項ノ裁判ノ執行ノ費用ハ執行ヲ受クル者ノ負擔トシ民事訴訟法ニ準シ執行ト同時ニ之ヲ取立ツヘシ
第九編 私訴
第一章 通則
第五百六十七條 犯罪ニ因リ身體、自由、名譽又ハ財產ヲ害セラレタル者ハ其ノ損害ヲ原因トスル請求ニ付公訴ニ附帶シ公訴ノ被告人ニ對シテ私訴ヲ提起スルコトヲ得
第五百六十八條 私訴ハ公訴ニ付第一審ノ辯論終結スルニ至ル迄之ヲ提起スルコトヲ得但シ豫審中ハ之ヲ提起スルコトヲ得ス
第五百六十九條 公訴ニ付第三條、第四條、第六條、第七條、第九條第二項、第十條第二項、第二十三條又ハ第三百五十六條但書ノ決定アリタルトキハ私訴ニ付亦同一ノ決定アリタルモノト看做ス
公訴ニ付管轄違ノ言渡ヲ爲シタルトキハ私訴ニ付亦同一ノ言渡ヲ爲スヘシ
第五百七十條 私訴ノ判決ハ公訴ノ判決ニ於テ認メタル事實ニ基キ之ヲ爲スヘシ但シ請求ノ抛棄ニ基キテ爲ス判決ハ此ノ限ニ在ラス
第五百七十一條 私訴ニ關スル書類ニハ印紙ヲ貼用スルコトヲ要セス但シ民事部ニ差戾シ又ハ移送シタルトキハ此ノ限ニ在ラス
第五百七十二條 民事訴訟法中左ニ揭クル事項ニ關スル規定ハ私訴ニ付之ヲ準用ス但シ卽時抗告ノ提起期間ハ決定ノ告知アリタル日ヨリ三日トス
一 訴訟能力
二 共同訴訟人
三 第三者ノ訴訟參加
四 訴訟代理及輔佐
五 訴訟費用
六 保證
七 訴訟上ノ救助
八 訴訟手續ノ中斷及中止
九 當事者本人ノ出頭
十 訴訟上ノ和解
十一 請求ノ抛棄ニ基キテ爲ス判決
十二 訴又ハ上訴ノ取下
十三 强制執行
第五百七十三條 當事者ハ裁判所ノ許可ヲ受ケ辯護士ニ非サル者ヲシテ訴訟ノ代理ヲ爲サシムルコトヲ得
第五百七十四條 辯護人ハ私訴ニ付被告人ノ代理人トシテ訴訟行爲ヲ爲スコトヲ得
第五百七十五條 當事者及其ノ訴訟代理人ハ裁判長ノ許可ヲ受ケ訴訟ニ關スル書類及證據物ヲ閱覽シ且之ヲ謄寫スルコトヲ得
第五百七十六條 私訴ノ判決ニ對スル再審ノ訴ハ民事訴訟法ニ依リ原判決ヲ爲シタル裁判所ノ民事部ニ之ヲ爲スヘシ
第五百七十七條 私訴ニ付テハ審級ニ從ヒ公訴ニ關スル規定ヲ準用ス但シ民事部ニ差戾シ又ハ移送シタルトキハ民事訴訟法ニ依ル
第二章 第一審
第五百七十八條 私訴ヲ提起スルニハ民事訴訟法ニ準シ訴狀ヲ裁判所ニ差出スヘシ
第五百七十九條 訴狀其ノ他對手人ニ交付スヘキ書類ハ裁判所ニ差出スモノノ外對手人ノ數ニ應シテ之ヲ差出スヘシ
第五百八十條 裁判所訴狀ヲ受取リタルトキハ速ニ之ヲ被告ニ送達スヘシ
公判期日ニ出頭シタル被告ニ對シ公判廷ニ於テ訴狀ヲ交付シタルトキハ送達アリタルモノト看做ス
第五百八十一條 公訴ノ公判期日ニハ私訴關係人ヲ召喚スヘシ
第五百八十二條 原告公判期日ニ出頭シ訴狀ヲ差出スコト能ハサル事由ヲ疏明シタルトキハ口頭ヲ以テ私訴ヲ提起スルコトヲ得但シ被告出頭セサル場合ニ於テハ此ノ限ニ在ラス
第五百八十三條 私訴ノ取調ハ公訴ノ審理ヲ終ヘタル後之ヲ爲スヘシ但シ裁判長ハ公訴ノ審理中ト雖職權ヲ以テ私訴ニ付取調ヲ爲スコトヲ得
第五百八十四條 原告ハ請求ノ原因タル事實ヲ陳述シ判決ヲ受クヘキ事項ヲ申立ツヘシ
被告ハ答辯ヲ爲スヘシ
第五百八十五條 裁判所ハ相當ノ陳述ヲ爲スコト能ハサル當事者、訴訟代理人又ハ輔佐人ニ對シ決定ヲ以テ其ノ後ノ陳述ヲ禁スルコトヲ得此ノ場合ニ於テハ新期日ヲ定メ辯護士ヲシテ訴訟代理ヲ爲サシムヘキコトヲ命スヘシ
第五百八十六條 公訴ニ付取調ヘタル證據ハ私訴ニ付取調ヘタルモノト看做ス
第五百八十七條 裁判所ハ私訴判決ヲ受クヘキ事項ノ申立ノ範圍內ニ於テハ請求ノ原因タル事實ニ關スル原告ノ陳述ニ拘束セラルルコトナシ
第五百八十八條 檢事ハ私訴ノ審判ニ立會フコトヲ要セス
檢事私訴ノ審判ニ立會ヒタル場合ニ於テハ當事者ノ辯論終リタル後意見ヲ陳述スルコトヲ得
第五百八十九條 裁判所ハ訴訟ノ如何ナル程度ニ在ルヲ問ハス數多ノ日時ヲ費スニ非サレハ私訴ノ審判ヲ終結シ難キモノト認ムルトキハ決定ヲ以テ私訴ヲ却下スヘシ此ノ決定ニ對シテハ抗告ヲ爲スコトヲ得ス
第五百九十條 公訴ニ付無罪、免訴又ハ公訴棄却ノ判決アリタルトキハ判決ヲ以テ私訴ヲ却下スヘシ
公訴ニ付公訴棄却ノ決定アリタルトキハ決定ヲ以テ私訴ヲ却下スヘシ
前二項ノ規定ニ依リ私訴ヲ却下シタル判決又ハ決定ニ對シテハ公訴ニ付上訴アリタルトキニ非サレハ上訴ヲ爲スコトヲ得ス
第五百九十一條 略式命令確定判決ト同一ノ效力ヲ有スルニ至リタルトキハ決定ヲ以テ私訴ヲ却下スヘシ此ノ決定ニ對シテハ抗告ヲ爲スコトヲ得ス
第五百九十二條 裁判所ハ公訴ノ判決ト同時ニ私訴ノ判決ヲ爲スヘシ
第五百九十三條 當事者召喚ヲ受ケテ期日ニ出頭セス又ハ出頭スルモ辯論ヲ爲サス若ハ秩序維持ノ爲退廷ヲ命セラレタルトキハ其ノ陳述ヲ聽カスシテ判決ヲ爲スコトヲ得
第三章 上訴
第五百九十四條 私訴ニ付區裁判所又ハ地方裁判所ニ於テ爲シタル第一審ノ判決ニ對シテハ控訴ヲ爲スコトヲ得
第五百九十五條 公訴ノ第一審判決ニ對シテ上告ノ申立アリタルトキハ私訴ノ判決ニ對シテハ控訴ヲ爲スコトヲ得ス
公訴ノ第一審判決ニ對シテ上告ノ申立アリタルトキハ私訴ノ判決ニ對シテ爲シタル控訴ハ其ノ效力ヲ失フ
前二項ノ規定ハ上告ノ取下アリタルトキ、第四百十七條ノ規定ニ依リ上告其ノ效力ヲ失ヒタルトキ又ハ第四百二十條、第四百二十七條若ハ第四百四十五條ノ規定ニ依リ上告ヲ棄却スル裁判アリタルトキハ之ヲ適用セス
第五百九十六條 公訴ノ第一審判決ニ對シテ上告ノ申立アリタルトキハ裁判所ハ私訴ニ付控訴ヲ爲シタル當事者ニ其ノ旨ヲ通知スヘシ
控訴ヲ爲シタル當事者ハ前項ノ通知ヲ受ケタル日ヨリ五日內ニ上告ヲ爲スコトヲ得此ノ上告ハ控訴ニ付前條第三項ノ規定ノ適用アル場合ニ於テハ其ノ效力ヲ失フ
第五百九十七條 左ノ場合ニ於テハ私訴ニ付爲シタル第二審ノ判決ニ對シテ上告ヲ爲スコトヲ得
一 公訴ノ判決ニ對シ上告アリタルトキ
二 法令ノ違反ヲ理由トスルトキ
第五百九十八條 左ノ場合ニ於テハ私訴ニ付爲シタル第一審ノ判決ニ對シ控訴ヲ爲サスシテ上告ヲ爲スコトヲ得
一 公訴ノ判決ニ對シ上告アリタルトキ
二 判決ニ依リ定リタル事實ニ付法令ヲ適用セス又ハ不當ニ法令ヲ適用シタルコトヲ理由トスルトキ
第五百九十九條 公訴ノ第一審判決ニ對シテ控訴ノ申立アリタルトキハ私訴ノ判決ニ對シテ上告ヲ爲スコトヲ得ス
公訴ノ第一審判決ニ對シテ控訴ノ申立アリタルトキハ私訴ノ判決ニ對シテ爲シタル上告ハ其ノ效力ヲ失フ
前二項ノ規定ハ控訴ノ取下アリタルトキ又ハ控訴ヲ棄却スル裁判アリタルトキハ之ヲ適用セス
第六百條 公訴ノ第一審判決ニ對シテ控訴ノ申立アリタルトキハ裁判所ハ私訴ニ付上告ヲ爲シタル當事者ニ其ノ旨ヲ通知スヘシ
上告ヲ爲シタル當事者ハ前項ノ通知ヲ受ケタル日ヨリ七日內ニ控訴ヲ爲スコトヲ得此ノ控訴ハ上告ニ付前條第三項ノ規定ノ適用アル場合ニ於テハ其ノ效力ヲ失フ
第六百一條 公訴ノ判決ニ對シ上告アリタル場合ニ於テ私訴ニ付上告ヲ爲シタルトキハ上告趣意書ヲ差出ササルコトヲ得
第六百二條 上告裁判所ニ於ケル辯論ハ辯護士ヨリ選任シタル訴訟代理人ニ非サレハ之ヲ爲スコトヲ得ス
第六百三條 當事者訴訟代理人ヲ選任セサルトキ又ハ訴訟代理人出頭セサルトキハ辯論ヲ聽カスシテ判決ヲ爲スコトヲ得
第六百四條 第四百四十條又ハ第四百四十三條ノ規定ニ依リ公訴ニ付事實ノ審理ヲ爲スヘキ旨ノ言渡アリタルトキハ私訴ニ付同一ノ言渡アリタルモノト看做ス
第六百五條 第四百四十六條ノ規定ニ依リ公訴ニ付上告棄却ノ判決ヲ爲ス場合ニ於テ私訴ニ付上告ノ理由ト爲ルヘキ法令ノ違反ナキトキハ判決ヲ以テ上告ヲ棄却スヘシ
第六百六條 第四百四十六條ノ規定ニ依リ公訴ニ付上告棄却ノ判決ヲ爲ス場合ニ於テ私訴ニ付上告ノ理由ト爲ルヘキ法令ノ違反アルトキハ第六百七條ノ場合ヲ除クノ外判決ヲ以テ原判決ヲ破毀シ事件ニ付更ニ判決ヲ爲スヘシ
第六百七條 前條ノ場合ニ於テ事件ニ付更ニ判決ヲ爲ス爲事實ノ審理ヲ必要トスルトキハ事件ヲ原裁判所ノ民事部ニ差戾シ又ハ原裁判所ト同等ナル他ノ裁判所ノ民事部ニ移送スヘシ
第六百八條 公訴ニ付原判決ヲ破毀シ被告事件ニ付更ニ判決ヲ爲シタル場合ニ於テハ左ノ區別ニ從ヒ私訴ニ付判決ヲ爲スヘシ
一 公訴ノ判決私訴ニ影響ヲ及ホスヘキ變更ヲ爲シタルトキ又ハ私訴ニ付上告ノ理由ト爲ルヘキ法令ノ違反アルトキハ原判決ヲ破毀ス
二 公訴ノ判決私訴ニ影響ヲ及ホスヘキ變更ヲ爲サス且私訴ニ付上告ノ理由ト爲ルヘキ法令ノ違反ナキトキハ上告ヲ棄却ス
第六百九條 前條ノ規定ニ依リ私訴ニ付原判決ヲ破毀スル場合ニ於テハ第六百十條ノ場合ヲ除クノ外事件ニ付更ニ判決ヲ爲スヘシ
第六百十條 第六百八條ノ規定ニ依リ私訴ニ付原判決ヲ破毀スル場合ニ於テ事件ニ付更ニ判決ヲ爲ス爲私訴ノミニ付事實ノ審理ヲ必要トスルトキハ事件ヲ原裁判所ノ民事部ニ差戾シ又ハ原裁判所ト同等ナル他ノ裁判所ノ民事部ニ移送スヘシ
第六百十一條 公訴ニ付原判決ヲ破毀シ差戾又ハ移送ノ判決ヲ爲ス場合ニ於テハ私訴ニ付同一ノ判決ヲ爲スヘシ
第六百十二條 上訴裁判所私訴ノミニ付審判ヲ爲スヘキ場合ニ於テハ決定ヲ以テ事件ヲ其ノ裁判所ノ民事部ニ移送スヘシ此ノ決定ニ對シテハ抗告ヲ爲スコトヲ得ス
第六百十三條 本編第二章ノ規定ハ別段ノ規定アル場合ヲ除クノ外上訴ノ審判ニ付之ヲ準用ス
附 則
第六百十四條 本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第六百十五條 明治二十三年法律第九十六號刑事訴訟法及刑事略式手續法ハ之ヲ廢止ス
第六百十六條 本法ハ本法施行前ニ生シタル事件ニ亦之ヲ適用ス
前項ノ規定ハ本法施行前舊法ニ依リ爲シタル訴訟手續ノ效力ヲ妨ケス
本法施行前舊法ニ依リ爲シタル訴訟手續ニシテ本法ニ之ニ相當スル規定アルモノハ之ヲ本法ニ依リ爲シタルモノト看做ス
第六百十七條 本法施行前裁判所構成法第十條第一號ノ規定ニ依リ爲シタル管轄指定ノ申請ハ之ヲ管轄移轉ノ請求ト看做ス
第六百十八條 本法施行前忌避ノ申請ヲ爲シ其ノ原由ノ疏明ヲ爲ササリシ者ハ本法施行ノ日ヨリ三日內ニ之ヲ爲スヘシ
第六百十九條 本法施行前法人ヲ處罰スヘキモノトシテ其ノ代表者ヲ被告人ト爲シタル事件ニ付テハ本法施行ノ日ヨリ法人ヲ被告人トス
第六百二十條 本法施行前始リタル法定期間ニ付訴訟行爲ヲ爲スヘキ者ノ住居又ハ事務所ノ所在地ト裁判所所在地トノ距離ニ從ヒ加フヘキ期間ハ仍從前ノ規定ニ依ル
第六百二十一條 本法施行前闕席判決ヲ受ケタル者ニ對シテハ從前ノ規定ニ依リ逮捕狀ヲ發スルコトヲ得
第六百二十二條 本法施行前保釋ヲ許ササル言渡ニ對シテ爲シタル異議ノ申立ニ付テハ從前ノ規定ニ依リ裁判ヲ爲スヘシ
第六百二十三條 第二百六十五條ニ規定スル期間ハ本法施行前犯人ヲ知リ又ハ婚姻ノ無效若ハ取消ノ裁判確定シタル場合ニ於テハ本法施行ノ日ヨリ之ヲ起算ス
第六百二十四條 本法施行前免訴ノ決定確定シタル事件ニ付明治二十三年法律第九十六號刑事訴訟法第百七十五條第二項ノ規定ニ依リ爲シタル請求ニシテ未タ決定ナキモノハ其ノ效力ヲ失フ
第六百二十五條 本法施行前爲シタル本案前ノ判決ニシテ未タ確定セサルモノハ其ノ效力ヲ失フ
第六百二十六條 本法施行前明治二十三年法律第九十六號刑事訴訟法第二百四十一條第二項又ハ同法第二百六十四條第一項ノ規定ニ依リ取調ヲ命セラレタル受命判事ハ事件ニ付第三百五十一條ノ規定ニ準シ其ノ手續ヲ爲スヘシ
第六百二十七條 本法施行前言渡シタル闕席判決ニ對シテハ控訴ノ申立アリタル場合ヲ除クノ外從前ノ規定ニ依リ故障ヲ申立ツルコトヲ得
本法施行前闕席判決ニ對シテ爲シタル故障申立ヲ不適法トスルトキハ從前ノ規定ニ依リ裁判ヲ爲スヘシ
第六百二十八條 本法施行前爲シタル抗告ハ之ヲ本法ニ依リ爲シタル卽時抗告ト看做ス
第六百二十九條 本法施行前爲シタル再審ノ訴ニシテ上告裁判所ノ判決ヲ經サルモノハ本法ニ依リ管轄裁判所ニ再審ノ請求ヲ爲シタルモノト看做ス此ノ場合ニ於テハ上告裁判所ハ書類及證據物ヲ管轄裁判所ニ送付スヘシ
第六百三十條 本法施行前進行ヲ始メタル私訴ノ時效ハ從前ノ規定ニ從フ
第六百三十一條 本法施行前提起シタル要償ノ訴判決ヲ經サルモノナルトキハ民事訴訟法ニ從ヒ事件ヲ管轄スヘキ裁判所ノ民事部ニ移送スヘシ
第六百三十二條 本法中市町村吏員ニ關スル規定ハ北海道ノ區ニ於テハ區吏員ニ之ヲ適用ス
本法中市町村長ニ關スル規定ハ市制第六條ノ市又ハ北海道ノ區ニ於テハ區長ニ、町村制ヲ施行セサル地ニ於テハ町村長ニ準スヘキ者ニ之ヲ適用ス
朕帝国議会ノ協賛ヲ経タル刑事訴訟法ヲ裁可シ茲ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
摂政名
大正十一年五月四日
内閣総理大臣兼大蔵大臣 子爵 高橋是清
外務大臣 伯爵 内田康哉
海軍大臣 男爵 加藤友三郎
農商務大臣 男爵 山本達雄
内務大臣 床次竹二郎
文部大臣 中橋徳五郎
逓信大臣 野田卯太郎
鉄道大臣 元田肇
司法大臣 伯爵 大木遠吉
陸軍大臣 山梨半造
法律第七十五号
刑事訴訟法
第一編 総則
第一章 裁判所ノ管轄
第一条 裁判所ノ土地管轄ハ犯罪地又ハ被告人ノ住所、居所若ハ現在地ニ依ル
帝国外ニ在ル帝国艦船内ニ於テ犯シタル罪ニ付テハ前項ニ規定スル地ノ外其ノ艦船ノ本籍若ハ船籍ノ所在地又ハ犯罪後其ノ艦船ノ繋泊シタル地ニ依ル
第二条 事物管轄ヲ異ニスル数個ノ事件牽連スルトキハ上級裁判所併セテ之ヲ管轄スルコトヲ得
第三条 事物管轄ヲ異ニスル数個ノ牽連事件上級裁判所ノ公判ニ繋属スル場合ニ於テ併セテ審判スルコトヲ必要トセサルモノアルトキハ上級裁判所ハ検事ノ意見ヲ聴キ決定ヲ以テ管轄権ヲ有スル下級裁判所ニ之ヲ移送スルコトヲ得
第四条 事物管轄ヲ異ニスル数個ノ牽連事件各別ニ上級裁判所及下級裁判所ノ公判ニ繋属スルトキハ上級裁判所ハ検事ノ意見ヲ聴キ決定ヲ以テ下級裁判所ノ管轄ニ属スル事件ヲ併セテ審判スルコトヲ得
第五条 土地管轄ヲ異ニスル数個ノ事件牽連スルトキハ一個ノ事件ニ付管轄権ヲ有スル裁判所併セテ他ノ事件ヲ管轄スルコトヲ得
第六条 土地管轄ヲ異ニスル数個ノ牽連事件同一裁判所ノ公判ニ繋属スル場合ニ於テ併セテ審判スルコトヲ必要トセサルモノアルトキハ其ノ裁判所ハ検事ノ意見ヲ聴キ決定ヲ以テ管轄権ヲ有スル他ノ裁判所ニ之ヲ移送スルコトヲ得
土地管轄ヲ異ニスル数個ノ牽連事件同一裁判所ノ予審ニ繋属スルトキ亦前項ニ同シ
第七条 事物管轄ヲ同シクスル数個ノ牽連事件各別ニ数個ノ裁判所ノ公判ニ繋属スルトキハ各裁判所ハ検事ノ請求ニ因リ決定ヲ以テ之ヲ一ノ裁判所ニ併合スルコトヲ得
事物管轄ヲ同シクスル数個ノ牽連事件各別ニ数個ノ裁判所ノ予審ニ繋属スルトキ亦前項ニ同シ
前二項ノ場合ニ於テ各裁判所ノ決定一致セサルトキハ各裁判所ニ共通スル直近上級裁判所ハ検事ノ請求ニ因リ決定ヲ以テ事件ヲ一ノ裁判所ニ併合スルコトヲ得
第八条 数個ノ事件ハ左ノ場合ニ於テ牽連スルモノトス
一 一人数罪ヲ犯シタルトキ
二 数人共ニ同一又ハ別個ノ罪ヲ犯シタルトキ
三 数人通謀シテ各別ニ罪ヲ犯シタルトキ
四 数人同時ニ同一ノ場所ニ於テ各別ニ罪ヲ犯シタルトキ
犯人蔵匿ノ罪、証憑湮滅ノ罪、偽証ノ罪、虚偽ノ鑑定通訳ノ罪及贓物ニ関スル罪ト其ノ本犯ノ罪トハ共ニ犯シタルモノト看做ス
第九条 同一事件事物管轄ヲ異ニスル数個ノ裁判所ノ予審又ハ公判ニ繋属スルトキハ上級裁判所ニ於テ之ヲ審判ス
上級裁判所ハ検事ノ請求ニ因リ決定ヲ以テ管轄権ヲ有スル下級裁判所ヲシテ其ノ事件ヲ審判セシムルコトヲ得
第十条 同一事件事物管轄ヲ同シクスル数個ノ裁判所ノ予審又ハ公判ニ繋属スルトキハ最初ニ公訴ヲ受ケタル裁判所ニ於テ之ヲ審判ス
各裁判所ニ共通スル直近上級裁判所ハ検事ノ請求ニ因リ決定ヲ以テ後ニ公訴ヲ受ケタル裁判所ヲシテ其ノ事件ヲ審判セシムルコトヲ得
第十一条 裁判所ハ事実発見ノ為必要アルトキハ管轄区域外ニ於テ職務ヲ行フコトヲ得
前項ノ規定ハ予審判事及受命判事ニ之ヲ準用ス
第十二条 訴訟手続ハ管轄違ノ理由ニ因リ其ノ効力ヲ失ハス
第十三条 裁判所ハ管轄権ヲ有セサルトキト雖急速ヲ要スル場合ニ於テハ事実発見ノ為必要ナル処分ヲ為スコトヲ得
前項ノ規定ハ予審判事及受命判事ニ之ヲ準用ス
第十四条 検事ハ左ノ場合ニ於テ関係アル第一審裁判所ニ共通スル直近上級裁判所ニ管轄指定ノ請求ヲ為スヘシ
一 裁判所ノ管轄区域明確ナラサル為管轄裁判所ノ定ラサルトキ
二 管轄違ヲ言渡シタル確定裁判アリタル事件ニ付他ニ管轄裁判所ナキトキ
第十五条 法律ニ依ル管轄裁判所ナキトキ又ハ之ヲ知ルコト能ハサルトキハ検事総長ハ大審院ニ管轄指定ノ請求ヲ為スヘシ
第十六条 検事ハ左ノ場合ニ於テ直近上級裁判所ニ管轄移転ノ請求ヲ為スヘシ
一 管轄裁判所又ハ裁判所構成法第十三条第二項ノ規定ニ依リ定メタル裁判所ニ於テ法律上ノ理由又ハ特別ノ事情ニ因リ裁判権ヲ行フコト能ハサルトキ
二 被告人ノ地位、地方ノ民心、訴訟ノ状況其ノ他ノ事情ニ因リ裁判ノ公平ヲ維持スルコト能ハサル虞アルトキ
前項第二号ノ場合ニ於テハ被告人亦管轄移転ノ請求ヲ為スコトヲ得
第十七条 犯罪ノ性質、被告人ノ地位、地方ノ民心其ノ他ノ事情ニ因リ管轄裁判所ニ於テ審判ヲ為ストキハ公安ヲ害スル虞アリト認ムル場合ニ於テハ検事総長ハ大審院ニ管轄移転ノ請求ヲ為スヘシ
第十八条 管轄ノ指定又ハ移転ノ請求ヲ為スニハ理由ヲ附シタル請求書ヲ管轄裁判所ニ差出スヘシ
検事前項ノ請求書ヲ差出スニハ管轄裁判所ノ検事ヲ経由スヘシ
第十九条 検事予審又ハ公判ニ繋属スル事件ニ付管轄ノ指定又ハ移転ノ請求ヲ為シタルトキハ速ニ其ノ旨ヲ裁判所ニ通知スヘシ
第二十条 検事予審又ハ公判ニ繋属スル事件ニ付第十六条第一項第二号ニ規定スル事由ノ為管轄移転ノ請求ヲ為シタル場合ニ於テハ速ニ請求書ノ謄本ヲ被告人ニ交付スヘシ
被告人ハ謄本ノ交付ヲ受ケタル日ヨリ三日内ニ管轄裁判所ニ意見書ヲ差出スコトヲ得
第二十一条 被告人管轄移転ノ請求書ヲ差出スニハ事件ノ繋属スル裁判所ヲ経由スヘシ
前項ノ裁判所請求書ヲ受取リタルトキハ速ニ之ヲ其ノ裁判所ノ検事ニ送付スヘシ
検事ハ請求書ニ意見書ヲ添ヘ速ニ之ヲ管轄裁判所ノ検事ニ送付スヘシ
第二十二条 予審又ハ公判ニ繋属スル事件ニ付管轄ノ指定又ハ移転ノ請求アリタルトキハ決定アル迄訴訟手続ヲ停止スヘシ但シ急速ヲ要スル場合ハ此ノ限ニ在ラス
第二十三条 管轄ノ指定又ハ移転ノ請求ヲ受ケタル裁判所ハ検事ノ意見ヲ聴キ決定ヲ為スヘシ
第二章 裁判所職員ノ除斥、忌避及回避
第二十四条 判事ハ左ノ場合ニ於テ職務ノ執行ヨリ除斥セラルヘシ
一 判事被害者ナルトキ
二 判事私訴当事者ナルトキ
三 判事被告人、被害者又ハ私訴当事者ノ配偶者、四親等内ノ血族、三親等内ノ姻族又ハ同居ノ戸主若ハ家族ナルトキ親族関係ノ止ミタル後亦同シ
四 判事被告人、被害者又ハ私訴当事者ノ法定代理人、後見監督人又ハ保佐人ナルトキ
五 判事事件ニ付証人又ハ鑑定人ト為リタルトキ
六 判事事件ニ付被告人ノ代理人、弁護人、輔佐人又ハ私訴当事者ノ代理人ト為リタルトキ
七 判事事件ニ付検事又ハ司法警察官ノ職務ヲ行ヒタルトキ
八 判事事件ニ付予審終結決定若ハ前審ノ裁判又ハ其ノ基礎ト為リタル取調ニ関与シタルトキ但シ受託判事トシテ関与シタル場合ハ此ノ限ニ在ラス
第二十五条 判事職務ノ執行ヨリ除斥セラルヘキトキ又ハ偏頗ノ裁判ヲ為ス虞アルトキハ検事、被告人又ハ私訴当事者之ヲ忌避スルコトヲ得
弁護人ハ被告人ノ為忌避ノ申立ヲ為スコトヲ得但シ被告人ノ明示シタル意思ニ反スルコトヲ得ス
第二十六条 事件ニ付請求又ハ陳述ヲ為シタル後ハ偏頗ノ裁判ヲ為ス虞アリトシテ判事ヲ忌避スルコトヲ得ス但シ忌避ノ原由アリシコトヲ知ラサリシトキ又ハ忌避ノ原由其ノ後ニ発生シタルトキハ此ノ限ニ在ラス
第二十七条 合議裁判所ノ判事ニ対スル忌避ノ申立ハ其ノ判事所属ノ裁判所ニ之ヲ為シ予審判事、受命判事又ハ区裁判所判事ニ対スル忌避ノ申立ハ忌避スヘキ判事ニ之ヲ為スヘシ
忌避ノ申立ハ書面又ハ口頭ヲ以テ之ヲ為シ其ノ原由ヲ示スヘシ
忌避ノ原由及前条但書ノ事実ハ申立ヲ為シタル日ヨリ三日内ニ書面ヲ以テ之ヲ疏明スヘシ
忌避セラレタル判事ハ第二十八条第四項但書及第二十九条ノ場合ヲ除クノ外忌避ノ申立ニ対シ意見書ヲ差出スヘシ
第二十八条 合議裁判所ノ判事忌避セラレタルトキハ其ノ判事所属ノ裁判所決定ヲ為スヘシ
忌避セラレタル判事ハ前項ノ決定ニ関与スルコトヲ得ス
第一項ノ裁判所忌避セラレタル判事ノ退去ニ因リ決定ヲ為スコト能ハサルトキハ直近上級裁判所決定ヲ為スヘシ
予審判事忌避セラレタルトキハ其ノ判事所属ノ裁判所、区裁判所判事忌避セラレタルトキハ管轄地方裁判所決定ヲ為スヘシ但シ忌避セラレタル判事忌避ノ申立ヲ理由アリトスルトキハ其ノ決定アリタルモノト看做ス
第二十九条 訴訟ヲ遅延セシムル目的ノミヲ以テ為シタルコト明白ナル忌避ノ申立ハ決定ヲ以テ之ヲ却下スヘシ此ノ場合ニ於テハ前条第二項ノ規定ヲ適用セス第二十六条又ハ第二十七条第二項第三項ノ規定ニ違反シテ為シタル忌避ノ申立ヲ却下スル場合亦同シ
前項ノ場合ニ於テハ忌避セラレタル予審判事、受命判事又ハ区裁判所判事ハ忌避ノ申立ヲ却下スル裁判ヲ為スコトヲ得
第三十条 忌避ノ申立アリタルトキハ前条ノ場合ヲ除クノ外訴訟手続ヲ停止スヘシ但シ急速ヲ要スル場合ハ此ノ限ニ在ラス
第三十一条 忌避ノ申立ヲ却下スル決定ニ対シテハ即時抗告ヲ為スコトヲ得
第三十二条 忌避ノ申立ニ付決定ヲ為スヘキ裁判所ハ第二十四条各号ノ一ニ該当スル者アリト認ムルトキハ職権ヲ以テ除斥ノ決定ヲ為スヘシ
第二十七条第四項及第二十八条第二項第三項ノ規定ハ前項ノ場合ニ之ヲ準用ス
第三十三条 判事忌避セラルヘキ原由アリト思料スルトキハ回避スヘシ
回避ノ申立ハ判事所属ノ裁判所ニ書面ヲ以テ之ヲ為スヘシ
第二十八条ノ規定ハ回避ニ付之ヲ準用ス
第三十四条 前二条ノ決定ハ之ヲ送達セス
第三十五条 本章ノ規定ハ第二十四条第八号ノ規定ヲ除クノ外裁判所書記ニ之ヲ準用ス
予審判事又ハ受命判事ニ附属スル裁判所書記ニ対スル忌避ノ申立ハ其ノ附属スル判事ニ之ヲ為スヘシ
決定ハ裁判所書記所属ノ裁判所之ヲ為スヘシ但シ第二十九条第二項ノ裁判ハ裁判所書記ノ附属スル判事之ヲ為スコトヲ得
第三章 訴訟能力
第三十六条 被告人法人ナルトキハ其ノ代表者訴訟行為ニ付之ヲ代表ス
数人共同シテ法人ヲ代表スル場合ト雖訴訟行為ニ付テハ各自之ヲ代表ス
第三十七条 刑法第三十九条乃至第四十一条ノ例ヲ用井サル罪ニ該ル事件ニ付被告人意思能力ヲ有セサルトキハ其ノ法定代理人訴訟行為ニ付之ヲ代表ス
第三十八条 前二条ノ規定ニ依リ被告人ヲ代表スル者ナキトキハ検事ノ請求ニ因リ又ハ職権ヲ以テ特別代理人ヲ選任スヘシ
特別代理人ハ被告人ヲ代表シテ訴訟行為ヲ為ス者アルニ至ル迄其ノ任務ヲ行フ
第四章 弁護及輔佐
第三十九条 被告人ハ公訴ノ提起アリタル後何時ニテモ弁護人ヲ選任スルコトヲ得
被告人ノ法定代理人、保佐人、直系尊属、直系卑属及配偶者並被告人ノ属スル家ノ戸主ハ独立シテ弁護人ヲ選任スルコトヲ得
第四十条 弁護人ハ弁護士中ヨリ之ヲ選任スヘシ
裁判所又ハ予審判事ノ許可ヲ得タルトキハ弁護士ニ非サル者ヲ弁護人ニ選任スルコトヲ得
第四十一条 弁護人ノ選任ハ審級毎ニ之ヲ為スヘシ
予審中為シタル弁護人ノ選任ハ第一審ノ公判ニ於テモ其ノ効力ヲ有ス
第四十二条 弁護人ノ選任ハ弁護人ト連署シタル書面ヲ差出シテ之ヲ為スヘシ
第四十三条 第三百三十四条又ハ第三百三十五条ノ規定ニ依リ附スヘキ弁護人ハ裁判所所在地ニ在ル弁護士又ハ司法官試補ノ中ヨリ裁判長之ヲ選任スヘシ
被告人ノ利害相反セサルトキハ同一ノ弁護人ヲシテ数人ノ弁護ヲ為サシムルコトヲ得
第四十四条 弁護人ハ被告事件公判ニ付セラレタル後裁判所ニ於テ訴訟ニ関スル書類及証拠物ヲ閲覧シ且其ノ書類ヲ謄写スルコトヲ得
予審ニ於テハ弁護人ノ立会フコトヲ得ヘキ予審処分ニ関スル書類及証拠物ヲ閲覧シ且其ノ書類ヲ謄写スルコトヲ得
弁護人ハ裁判長又ハ予審判事ノ許可ヲ受ケ証拠物ヲ謄写スルコトヲ得
第四十五条 被告事件公判ニ付セラレタル後ニ於テハ弁護人ト勾留ヲ受ケタル被告人トノ接見及信書ノ往復ヲ禁スルコトヲ得ス
第四十六条 弁護人ハ別段ノ規定アル場合ニ限リ独立シテ訴訟行為ヲ為スコトヲ得
第四十七条 被告人ノ法定代理人、保佐人、直系尊属、直系卑属及夫並被告人ノ属スル家ノ戸主ハ被告事件公判ニ付セラレタル後何時ニテモ輔佐人ト為ルコトヲ得
輔佐人タラントスル者ハ審級毎ニ書面ヲ以テ其ノ旨ヲ届出ツヘシ
輔佐人ハ被告人ノ為スコトヲ得ヘキ訴訟行為ヲ独立シテ為スコトヲ得但シ別段ノ規定アル場合ハ此ノ限ニ在ラス
第五章 裁判
第四十八条 判決ハ口頭弁論ニ基キテ之ヲ為スヘシ但シ別段ノ規定アル場合ハ此ノ限ニ在ラス
決定ハ公判廷ニ於テ申立ニ因リ之ヲ為ストキハ訴訟関係人ノ陳述ヲ聴クヘシ其ノ他ノ場合ニ於テハ訴訟関係人ノ陳述ヲ聴カスシテ之ヲ為スコトヲ得但シ別段ノ規定アル場合ハ此ノ限ニ在ラス
命令ハ訴訟関係人ノ陳述ヲ聴カスシテ之ヲ為スコトヲ得
決定又ハ命令ヲ為スニ付必要アル場合ニ於テハ事実ノ取調ヲ為スコトヲ得
前項ノ取調ハ部員ヲシテ之ヲ為サシメ又ハ区裁判所判事ニ之ヲ嘱託スルコトヲ得
受命判事又ハ受託判事ハ取調ノ結果ニ付報告ヲ為スヘシ
第四十九条 裁判ニハ理由ヲ附スヘシ
上訴ヲ許ササル決定又ハ命令ニハ理由ヲ附セサルコトヲ得
第五十条 裁判ノ告知ハ公判廷ニ於テハ宣告ニ依リ之ヲ為シ其ノ他ノ場合ニ於テハ裁判書ノ謄本ヲ送達シテ之ヲ為スヘシ但シ別段ノ規定アル場合ハ此ノ限ニ在ラス
第五十一条 裁判ノ宣告ハ裁判長之ヲ為スヘシ
判決ノ宣告ヲ為スニハ主文及理由ヲ朗読シ又ハ主文ノ朗読ト同時ニ理由ノ要旨ヲ告クヘシ
第五十二条 検事ノ執行指揮ヲ要スル裁判ヲ為シタルトキハ速ニ裁判書又ハ裁判ヲ記載シタル調書ノ謄本又ハ抄本ヲ検事ニ送付スヘシ但シ別段ノ規定アル場合ハ此ノ限ニ在ラス
第五十三条 被告人其ノ他訴訟関係人ハ其ノ費用ヲ以テ裁判書又ハ裁判ヲ記載シタル調書ノ謄本又ハ抄本ノ交付ヲ請求スルコトヲ得
第六章 書類
第五十四条 訴訟ニ関スル書類ハ別段ノ規定アル場合ヲ除クノ外裁判所書記之ヲ作成スヘシ
第五十五条 訴訟ニ関スル書類ハ公判開廷前ニ於テハ之ヲ公ニスルコトヲ得ス
第五十六条 被告人、被疑者、証人、鑑定人、通事又ハ翻訳人ノ訊問ニ付テハ調書ヲ作ルヘシ
調書ニハ左ノ事項ヲ記載スヘシ
一 被告人、被疑者、証人、鑑定人、通事又ハ翻訳人ノ訊問及供述
二 証人、鑑定人、通事又ハ翻訳人宣誓ヲ為ササルトキハ其ノ事由
調書ハ裁判所書記ヲシテ之ヲ供述者ニ読聞カサシメ又ハ供述者ヲシテ之ヲ閲覧セシメ其ノ記載ノ相違ナキカ否ヲ問フヘシ
供述者増減変更ヲ申立テタルトキハ其ノ供述ヲ調書ニ記載スヘシ
調書ニハ供述者ヲシテ署名捺印セシムヘシ
第五十七条 検証、押収又ハ捜索ニ付テハ調書ヲ作ルヘシ
押収ヲ為シタルトキハ其ノ品目ヲ調書ニ記載シ又ハ別ニ目録ヲ作リ之ヲ調書ニ添附スヘシ
第五十八条 前二条ノ調書ニハ取調又ハ処分ヲ為シタル年月日及場所ヲ記載シ其ノ取調又ハ処分ヲ為シタル者裁判所書記ト共ニ署名捺印スヘシ但シ公判期日外ニ於テ裁判所取調又ハ処分ヲ為シタルトキハ裁判長裁判所書記ト共ニ署名捺印スヘシ
前条ノ調書ニハ取調又ハ処分ヲ為シタル時ヲモ記載スヘシ
第五十九条 裁判所書記ノ立会ナクシテ取調又ハ処分ヲ為ス場合ニ於テハ裁判所書記ノ行フヘキ職務ハ其ノ取調又ハ処分ヲ為ス者自ラ之ヲ行フヘシ
第六十条 公判期日ニ於ケル訴訟手続ニ付テハ公判調書ヲ作ルヘシ
公判調書ニハ左ノ事項其ノ他一切ノ訴訟手続ヲ記載スヘシ
一 公判ヲ為シタル裁判所及年月日
二 判事、検事及裁判所書記ノ官氏名並被告人、代理人、弁護人、輔佐人及通事ノ氏名
三 被告人出頭セサリシトキハ其ノ旨
四 公開ヲ禁シタルトキハ其ノ旨及理由
五 被告事件ノ陳述及公判開廷中口頭ノ起訴アリタルトキハ其ノ要旨
六 弁論ノ要旨
七 第五十六条第二項ニ掲クル事項
八 朗読シ又ハ要旨ヲ告ケタル書類
九 被告人ニ示シタル書類及証拠物
十 公判廷ニ於テ為シタル検証及押収
十一 裁判長ノ記載ヲ命シタル事項及訴訟関係人ノ請求ニ因リ記載ヲ許シタル事項
十二 被告人若ハ弁護人最終ニ陳述シタルコト又ハ被告人若ハ弁護人ニ最終ニ陳述スル機会ヲ与ヘタルコト
十三 判決其ノ他ノ裁判ノ宣告ヲ為シタルコト
第六十一条 公判調書ニ付テハ第五十六条第三項乃至第五項ノ規定ニ依ル手続ヲ為スコトヲ要セス
供述者ノ請求アルトキハ裁判所書記ヲシテ其ノ供述ニ関スル部分ヲ読聞カサシメ増減変更ノ申立アリタルトキハ其ノ供述ヲ記載セシムヘシ
第六十二条 公判調書ハ公判開廷ノ日ヨリ五日内ニ之ヲ整理スヘシ
第六十三条 公判調書ニハ裁判長裁判所書記ト共ニ署名捺印スヘシ
裁判長差支アルトキハ上席ノ判事其ノ事由ヲ附記シテ署名捺印スヘシ
区裁判所判事差支アルトキハ裁判所書記其ノ事由ヲ附記シテ署名捺印スヘシ
裁判所書記差支アルトキハ裁判長其ノ事由ヲ附記シテ署名捺印スヘシ
第六十四条 公判期日ニ於ケル訴訟手続ハ公判調書ノミニ依リ之ヲ証明スルコトヲ得
第六十五条 弁護人ハ裁判所ノ許可ヲ受ケ速記者ヲシテ公判ニ於ケル被告人又ハ証人ノ供述ヲ筆記セシムルコトヲ得
第六十六条 裁判ヲ為ストキハ裁判書ヲ作ルヘシ但シ決定又ハ命令ヲ宣告スル場合ニ於テハ裁判書ヲ作ラスシテ之ヲ調書ニ記載セシムルコトヲ得
第六十七条 裁判書ハ判事之ヲ作ルヘシ
第六十八条 裁判書ニハ裁判ヲ為シタル判事署名捺印スヘシ裁判長署名捺印スルコト能ハサルトキハ上席ノ判事其ノ事由ヲ附記シテ署名捺印シ他ノ判事署名捺印スルコト能ハサルトキハ裁判長其ノ事由ヲ附記シテ署名捺印スヘシ
第六十九条 裁判書ニハ別段ノ規定アル場合ヲ除クノ外裁判ヲ受クル者ノ氏名、年齢、職業及住居ヲ記載スヘシ裁判ヲ受クル者法人ナルトキハ其ノ名称及事務所ヲ記載スヘシ
判決書ニハ前項ニ規定スル事項ノ外公判ニ関与シタル検事ノ官氏名ヲ記載スヘシ
第七十条 裁判書又ハ裁判ヲ記載シタル調書ノ謄本又ハ抄本ハ原本又ハ謄本ニ依リ之ヲ作ルヘシ
第七十一条 官吏又ハ公吏ノ作ルヘキ書類ニハ別段ノ規定アル場合ヲ除クノ外年月日ヲ記載シテ署名捺印シ其ノ所属ノ官署又ハ公署ヲ表示スヘシ
書類ニハ毎葉ニ契印スヘシ
第七十二条 官吏又ハ公吏書類ヲ作ルニハ文字ヲ改竄スヘカラス挿入、削除又ハ欄外記入ヲ為シタルトキハ之ニ認印シ其ノ字数ヲ記載スヘシ但シ削除シタル部分ハ之ヲ読得ヘキ為字体ヲ存スヘシ
第七十三条 官吏又ハ公吏ニ非サル者ノ作ルヘキ書類ニハ年月日ヲ記載シテ署名捺印スヘシ
第七十四条 官吏又ハ公吏ニ非サル者ノ署名捺印スヘキ場合ニ於テ署名スルコト能ハサルトキハ他人ヲシテ代書セシメ捺印スルコト能ハサルトキハ花押又ハ拇印スヘシ
他人ヲシテ代書セシメタル場合ニ於テハ代書シタル者其ノ事由ヲ記載シテ署名捺印スヘシ
第七章 送達
第七十五条 被告人、私訴当事者、代理人、弁護人又ハ輔佐人ハ書類ノ送達ヲ受クル為書面ヲ以テ其ノ住居又ハ事務所ヲ裁判所ニ届出ツヘシ裁判所所在地ニ住居又ハ事務所ヲ有セサルトキハ其ノ所在地ニ住居又ハ事務所ヲ有スル者ヲ送達受取人ニ選任シ其ノ者ト連署シタル書面ヲ以テ之ヲ届出ツヘシ
前項ノ規定ニ依ル届出ハ同一ノ地ニ在ル各審級ノ裁判所ニ対シ其ノ効力ヲ有ス
前二項ノ規定ハ在監者ニ之ヲ適用セス
送達ニ付テハ送達受取人ハ之ヲ本人ト看做シ其ノ住居又ハ事務所ハ之ヲ本人ノ住居ト看做ス
第七十六条 住居、事務所又ハ送達受取人ヲ届出ツヘキ者其ノ届出ヲ為ササルトキハ裁判所書記ハ書類ヲ郵便ニ付シテ其ノ送達ヲ為スコトヲ得
前項ノ送達ハ書類ヲ郵便ニ付シタル時ヲ以テ之ヲ為シタルモノト看做ス
第七十七条 検事ニ対スル送達ハ書類ヲ検事局ニ送付シテ之ヲ為スヘシ
第七十八条 被告人ノ住居、事務所及現在地知レサルトキハ公示送達ヲ為スコトヲ得
被告人裁判権ノ及ハサル場所ニ在ル場合ニ於テ他ノ方法ヲ以テ送達ヲ為スコト能ハサルトキ亦前項ニ同シ
第七十九条 公示送達ハ裁判所ノ命シタルトキニ限リ之ヲ為スコトヲ得
公示送達ハ裁判所書記送達スヘキ書類又ハ其ノ抄本ヲ裁判所ノ掲示場ニ公示シテ之ヲ為スヘシ
公判ニ於ケル第一回ノ召喚状ノ公示送達ハ裁判所書記召喚状ヲ裁判所ノ掲示場ニ公示シ且其ノ謄本ヲ官報又ハ新聞紙ニ掲載シテ之ヲ為スヘシ
前項ノ公示送達ハ最後ニ官報又ハ新聞紙ニ掲載シタル日ヨリ三十日、其ノ他ノ公示送達ハ掲示場ニ公示ヲ始メタル日ヨリ七日ノ期間ヲ経過スルニ因リテ其ノ効力ヲ生ス
第八十条 書類ノ送達ニ付テハ別段ノ規定アル場合ヲ除クノ外民事訴訟法ヲ準用ス但シ司法警察官ノ発スル書類ノ送達ニ付テハ裁判所書記ニ属スル職務ハ司法警察官之ヲ行ヒ執達吏ニ属スル職務ハ司法警察吏之ヲ行フ
第八章 期間
第八十一条 期間ノ計算ニ付テハ時ヲ以テスルモノハ即時ヨリ之ヲ起算シ日、月又ハ年ヲ以テスルモノハ初日ヲ算入セス但シ時効期間ノ初日ハ時間ヲ論セス一日トシテ之ヲ計算ス
月及年ハ暦ニ従ヒ之ヲ計算ス
期間ノ末日日曜日、一月一日二日四日、十二月二十九日三十日三十一日又ハ一般ノ休日トシテ指定セラレタル日ニ当ルトキハ之ヲ期間ニ算入セス但シ時効期間ニ付テハ此ノ限ニ在ラス
第八十二条 法定ノ期間ハ訴訟行為ヲ為スヘキ者ノ住居又ハ事務所ノ所在地ト裁判所所在地トノ距離ニ従ヒ海陸路二十里毎ニ一日ヲ加フ其ノ距離又ハ端数二十里ニ満タサルモ五里以上ナルトキハ一日ヲ加フ但シ海路ハ二海里ヲ一里トシテ之ヲ計算ス
前項ノ規定ハ宣告シタル裁判ニ対スル上訴ノ提起期間ニハ之ヲ適用セス
外国又ハ交通不便ノ地ニ在ル者ノ為ニハ特ニ期間ヲ定ムルコトヲ得
第九章 被告人ノ召喚、勾引及勾留
第八十三条 裁判所公訴ヲ受ケタルトキハ被告人ヲ召喚スヘシ
第八十四条 被告人ノ召喚ハ召喚状ヲ発シテ之ヲ為スヘシ
被告人ヨリ期日ニ出頭スヘキ旨ヲ記載シタル書面ヲ差出シ又ハ出頭シタル被告人ニ対シ口頭ヲ以テ次回ノ出頭ヲ命シタルトキハ召喚状ヲ送達シタルト同一ノ効力ヲ有ス口頭ヲ以テ出頭ヲ命シタル場合ニ於テハ其ノ旨ヲ調書ニ記載スヘシ
受訴裁判所ニ近接スル監獄ニ在ル被告人ニ対シテハ監獄官吏ニ通知シテ之ヲ召喚スルコトヲ得此ノ場合ニ於テハ被告人監獄官吏ヨリ通知ヲ受ケタル時ヲ以テ召喚状ノ送達アリタルモノト看做ス
第八十五条 召喚ニ因リ出頭シタル被告人ハ速ニ之ヲ訊問スヘシ
被告人裁判所構内ニ在ルトキハ召喚ヲ為ササル場合ニ於テモ之ヲ訊問スルコトヲ得
第八十六条 被告人再度ノ召喚ヲ受ケ故ナク出頭セサルトキハ之ヲ勾引スルコトヲ得
第八十七条 左ノ場合ニ於テハ直ニ被告人ヲ勾引スルコトヲ得
一 被告人定リタル住居ヲ有セサルトキ
二 被告人罪証ヲ湮滅スル虞アルトキ
三 被告人逃亡シタルトキ又ハ逃亡スル虞アルトキ
五百円以下ノ罰金、拘留又ハ科料ニ該ル事件ニ付テハ前項第一号ノ場合ヲ除クノ外被告人ヲ勾引スルコトヲ得ス但シ前条及第百六条ノ規定ノ適用ヲ妨ケス
第八十八条 被告人ノ勾引ハ勾引状ヲ発シテ之ヲ為スヘシ
第八十九条 勾引シタル被告人ハ裁判所ニ引致シタル時ヨリ四十八時間内ニ之ヲ訊問スヘシ其ノ時間内ニ勾留状ヲ発セサルトキハ被告人ヲ釈放スヘシ
第九十条 第八十七条ノ規定ニ依リ被告人ヲ勾引スルコトヲ得ヘキ原由アルトキハ之ヲ勾留スルコトヲ得
被告人ノ勾留ハ第八十五条又ハ前条ノ規定ニ依リ被告人ヲ訊問シタル後ニ非サレハ之ヲ為スコトヲ得ス但シ被告人逃亡シタル場合ハ此ノ限ニ在ラス
被告人監獄ニ在ルトキハ第一項ノ原由ナシト雖之ヲ勾留スルコトヲ得
第九十一条 被告人ノ勾留ハ勾留状ヲ発シテ之ヲ為スヘシ
第九十二条 被告人ヲ勾留シタル場合ニ於テハ其ノ身体及名誉ヲ保全スルコトニ注意スヘシ
第九十三条 裁判長ハ急速ヲ要スル場合ニ於テハ第八十三条乃至第九十一条ニ規定スル処分ヲ為シ又ハ部員ヲシテ之ヲ為サシムルコトヲ得
第九十四条 裁判長ハ被告人ノ現在地ノ予審判事若ハ区裁判所判事、法令ニ依リ特別ニ裁判権ヲ有スル官署、検事又ハ司法警察官ニ被告人ノ勾引ヲ嘱託スルコトヲ得
受託官署ハ受託ノ権限アル官署ニ転嘱スルコトヲ得但シ司法警察官ハ此ノ限ニ在ラス
受託官署受託事項ニ付権限ヲ有セサルトキハ受託ノ権限アル官署ニ嘱託ヲ移送スルコトヲ得但シ司法警察官ハ此ノ限ニ在ラス
嘱託又ハ移送ヲ受ケタル官署ハ勾引状ヲ発スヘシ
第九十五条 被告人ノ現在地ヲ覚知スルコト能ハサルトキハ裁判長ハ検事長ニ被告人ノ容貌、体格其ノ他ノ徴表ヲ記載シタル書面ヲ送付シ其ノ捜査及勾引ヲ嘱託スルコトヲ得
嘱託ヲ受ケタル検事長ハ其ノ管内ノ検事ヲシテ勾引状ヲ発シ捜査及勾引ノ手続ヲ為サシムヘシ
第九十六条 前二条ノ場合ニ於テ嘱託ニ因リテ勾引状ヲ発シタル官署ハ被告人ヲ引致シタル時ヨリ四十八時間内ニ其ノ人違ナキカ否ヲ取調フヘシ
被告人人違ニ非サルトキハ速ニ之ヲ指定セラレタル裁判所ニ送致スヘシ此ノ場合ニ於テハ第八十九条ノ期間ハ被告人ノ送致ヲ受ケタル時ヨリ之ヲ起算ス
第九十七条 召喚状、勾引状又ハ勾留状ニハ被告事件、被告人ノ氏名及住居ヲ記載シ裁判長又ハ受命判事之ニ記名捺印スヘシ
勾引状又ハ勾留状ヲ発スル場合ニ於テ被告人ノ住居分明ナラサルトキハ之ヲ記載スルコトヲ要セス其ノ氏名分明ナラサルトキハ容貌、体格其ノ他ノ徴表ヲ以テ被告人ヲ指示スヘシ
召喚状ニハ被告人ノ出頭スヘキ年月日時、場所及召喚ニ応セサルトキハ勾引状ヲ発スルコトアルヘキ旨ヲ記載スヘシ
勾留状ニハ被告人ヲ勾留スヘキ監獄ヲ指定スヘシ
裁判長第九十三条ノ規定ニ依リ召喚状、勾引状又ハ勾留状ヲ発スル場合ニ於テハ其ノ旨ヲ記載スヘシ
第九十八条 前条第一項及第二項ノ規定ハ第九十四条第四項及第九十五条第二項ノ勾引状ニ付之ヲ準用ス此ノ場合ニ於テハ勾引状ニ嘱託ヲ為シタル裁判長ノ氏名及嘱託ニ因リ之ヲ発スル旨ヲ記載スヘシ
第九十九条 召喚状ハ之ヲ送達ス
第百条 勾引状又ハ勾留状ハ検事ノ指揮ニ依リ司法警察官吏之ヲ執行ス但シ急速ヲ要スル場合ニ於テハ裁判長、受命判事、予審判事又ハ区裁判所判事其ノ執行ヲ指揮スルコトヲ得
監獄ニ在ル被告人ニ対シテ発シタル勾留状ハ検事ノ指揮ニ依リ監獄官吏之ヲ執行ス
検事ノ指揮ニ依リ勾引状又ハ勾留状ヲ執行スル場合ニ於テハ之ヲ発シタル官署ハ其ノ原本ヲ検事ニ送付スヘシ
第百一条 勾引状ハ数通ヲ作リ之ヲ司法警察官吏数人ニ交付スルコトヲ得
第百二条 司法警察官吏ハ必要アルトキハ管轄区域外ニ於テ勾引状ノ執行ヲ為シ又ハ其ノ地ノ司法警察官ニ其ノ執行ヲ求ムルコトヲ得
第百三条 勾引状ヲ執行スルニハ之ヲ被告人ニ示シテ指定セラレタル裁判所ニ引致スヘシ第九十四条第四項及第九十五条第二項ノ勾引状ニ付テハ之ヲ発シタル官署ニ引致スヘシ
勾留状ヲ執行スルニハ之ヲ被告人ニ示シテ指定セラレタル監獄ニ引致スヘシ
第百四条 勾引状又ハ勾留状ノ執行ヲ受ケタル被告人ハ其ノ謄本ノ交付ヲ請求スルコトヲ得
第百五条 軍事用ノ庁舎又ハ艦船ノ内ニ在ル者ニ対シ勾引状又ハ勾留状ヲ執行スヘキ場合ニ於テハ庁舎若ハ艦船ノ長又ハ之ニ代ルヘキ者ニ勾引状又ハ勾留状ヲ示シテ引渡ヲ求ムヘシ
軍事用ノ庁舎又ハ艦船ノ外ニ在リテ現ニ勤務ニ従事スル軍人、軍属又ハ陸軍海軍所属ノ学生生徒ニ対シテ勾引状又ハ勾留状ヲ執行スヘキ場合ニ於テハ其ノ所属ノ長又ハ之ニ代ルヘキ者ニ勾引状又ハ勾留状ヲ示シテ引渡ヲ求ムヘシ
第百六条 裁判長ハ必要アルトキハ指定ノ場所ニ被告人ノ出頭又ハ同行ヲ命スルコトヲ得被告人正当ノ事由ナクシテ之ヲ肯セサルトキハ其ノ場所ニ勾引スルコトヲ得此ノ場合ニ於テハ第八十九条ノ期間ハ其ノ場所ニ引致シタル時ヨリ之ヲ起算ス
第百七条 勾引状又ハ勾留状ノ執行ヲ受ケタル被告人ヲ護送スル場合ニ於テ必要アルトキハ仮ニ最寄ノ監獄ニ之ヲ留置スルコトヲ得
第百八条 勾引状ノ執行ヲ受ケタル被告人ヲ引致シタル場合ニ於テ必要アルトキハ之ヲ監獄ニ留置スルコトヲ得
第百九条 勾引状又ハ勾留状ヲ執行シタルトキハ之ニ執行ノ場所及年月日時ヲ記載シ之ヲ執行スルコト能ハサルトキハ其ノ事由ヲ記載シテ記名捺印スヘシ
勾引状又ハ勾留状ノ執行ニ関スル書類ハ執行ヲ指揮シタル検事其ノ他ノ官署ニ之ヲ差出スヘシ
勾引状ノ執行ニ関スル書類ヲ受取リタル検事其ノ他ノ官署ハ被告人ノ引致セラレタル年月日時ヲ勾引状ニ記載スヘシ
第百十条 検事ハ裁判所ノ同意ヲ得テ勾留セラレタル被告人ヲ他ノ監獄ニ移スコトヲ得
第百十一条 勾留セラレタル被告人ハ法令ノ範囲内ニ於テ他人ト接見シ又ハ書類若ハ物ノ授受ヲ為スコトヲ得勾引状ニ因リ監獄ニ留置セラレタル被告人亦同シ
第百十二条 裁判所ハ罪証ヲ湮滅シ又ハ逃亡ヲ図ル虞アルトキハ勾留セラレタル被告人ト他人トノ接見ヲ禁シ又ハ他人ト授受スヘキ書類其ノ他ノ物ヲ検閲シ、其ノ授受ヲ禁シ若ハ之ヲ差押フルコトヲ得但シ糧食ハ其ノ授受ヲ禁シ又ハ之ヲ差押フルコトヲ得ス
裁判所検閲ヲ為スコト能ハサルトキハ検事之ヲ為スコトヲ得
第百十三条 勾留ノ期間ハ二月トス特ニ継続ノ必要アル場合ニ於テハ決定ヲ以テ之ヲ更新スルコトヲ得
第百十四条 勾留ノ原由消滅シタルトキハ裁判所ハ決定ヲ以テ勾留ヲ取消スヘシ
第百十五条 勾留セラレタル被告人又ハ其ノ法定代理人、保佐人、直系尊属、直系卑属、配偶者、被告人ノ属スル家ノ戸主若ハ弁護人ハ保釈ノ請求ヲ為スコトヲ得
第百十六条 保釈ノ請求アリタルトキハ検事ノ意見ヲ聴キ決定ヲ為スヘシ
保釈ヲ許ス場合ニ於テハ保証金額ヲ定ムヘシ
保釈ヲ許ス場合ニ於テハ被告人ノ住居ヲ制限スルコトヲ得
第百十七条 保釈ヲ許ス決定ハ保証金ヲ納メシメタル後之ヲ執行スヘシ
検事ハ保釈請求者ニ非サル者ヲシテ保証金ヲ納メシムルコトヲ得
検事ハ有価証券又ハ裁判所ノ管轄地内ニ住居シ保証金ヲ納ムルニ十分ナル資産ヲ有スル者ノ差出シタル保証書ヲ以テ保証金ニ代フルコトヲ許スコトヲ得
保証書ニハ保証金額及何時ニテモ其ノ保証金ヲ納ムヘキ旨ヲ記載スヘシ
第百十八条 裁判所ハ検事ノ意見ヲ聴キ決定ヲ以テ勾留セラレタル被告人ヲ親族其ノ他ノ者ニ責付シ又ハ被告人ノ住居ヲ制限シテ勾留ノ執行ヲ停止スルコトヲ得
責付ヲ為スニハ被告人ノ親族其ノ他ノ者ヨリ何時ニテモ召喚ニ応シ被告人ヲ出頭セシムヘキ旨ノ書面ヲ差出サシムヘシ
第百十九条 被告人逃亡シタルトキ、逃亡スル虞アルトキ、召喚ヲ受ケ正当ノ事由ナクシテ出頭セサルトキ、罪証ヲ湮滅スル虞アルトキ又ハ住居ノ制限ニ違反シタルトキハ裁判所ハ検事ノ意見ヲ聴キ決定ヲ以テ保釈、責付又ハ勾留ノ執行停止ヲ取消スコトヲ得
保釈ヲ取消ス場合ニ於テハ裁判所ハ検事ノ意見ヲ聴キ決定ヲ以テ保証金ノ全部又ハ一部ヲ没取スルコトヲ得
保釈セラレタル者刑ノ言渡ヲ受ケ其ノ判決確定シタル後執行ノ為召喚ヲ受ケ正当ノ事由ナクシテ出頭セス又ハ逃亡シタルトキハ検事ノ請求ニ因リ決定ヲ以テ保証金ノ全部又ハ一部ヲ没取スヘシ
第百二十条 勾留若ハ保釈ヲ取消シ又ハ勾留状ノ効力消滅シタルトキハ検事ハ没取ニ係ラサル保証金ヲ還付スヘシ
第百二十一条 上訴提起期間内又ハ上訴中ノ事件ニ付勾留ノ期間ヲ更新シ、勾留ヲ取消シ又ハ保釈ヲ為シ、責付ヲ為シ、勾留ノ執行停止ヲ為シ若ハ之ヲ取消スヘキ場合ニ於テ訴訟記録原裁判所ニ在ルトキハ原裁判所其ノ決定ヲ為スヘシ
第百二十二条 予審判事ハ被告人ノ召喚、勾引及勾留ニ関シ裁判所又ハ裁判長ト同一ノ権ヲ有ス
第百二十三条 左ノ場合ニ於テ急速ヲ要シ判事ノ勾引状ヲ求ムルコト能ハサルトキハ検事ハ勾引状ヲ発シ又ハ之ヲ他ノ検事若ハ司法警察官ニ命令シ若ハ嘱託スルコトヲ得
一 被疑者定リタル住居ヲ有セサルトキ
二 現行犯人其ノ場所ニ在ラサルトキ
三 現行犯ノ取調ニ因リ其ノ事件ノ共犯ヲ発見シタルトキ
四 既決ノ囚人又ハ本法ニ依リ拘禁セラレタル者逃亡シタルトキ
五 死体ノ検証ニ因リ犯人ヲ発見シタルトキ
六 被疑者常習トシテ強盗又ハ窃盗ノ罪ヲ犯シタルモノナルトキ
第百二十四条 検事又ハ司法警察官吏其ノ職務ヲ行フニ当リ現行犯アルコトヲ知リタル場合ニ於テ犯人其ノ場所ニ在リテ其ノ住居若ハ氏名分明ナラサルトキ又ハ第八十七条第一項各号ニ規定スル事由アルトキハ左ノ処分ヲ為スヘシ
一 検事ハ司法警察官吏ニ犯人ノ逮捕ヲ命スヘシ必要アル場合ニ於テハ自ラ之ヲ逮捕スルコトヲ得
二 司法警察官ハ直ニ犯人ヲ逮捕シ又ハ其ノ逮捕ヲ司法警察吏ニ命スヘシ
三 司法警察吏ハ命令ヲ待タスシテ直ニ犯人ヲ逮捕スヘシ
第百二十五条 現行犯人其ノ場所ニ在ルトキハ何人ト雖之ヲ逮捕スルコトヲ得
犯人ヲ逮捕シタルトキハ速ニ之ヲ地方裁判所若ハ区裁判所ノ検事又ハ司法警察官吏ニ引渡スヘシ
第百二十六条 司法警察吏現行犯人ヲ逮捕シ又ハ之ヲ受取リタルトキハ速ニ之ヲ司法警察官ニ引致スヘシ
司法警察吏犯人ヲ受取リタル場合ニ於テハ逮捕者ノ氏名、住居及逮捕ノ事由ヲ聴取ルヘシ必要アルトキハ逮捕者ニ対シ共ニ官署ニ至ルコトヲ求ムルコトヲ得
第百二十七条 司法警察官現行犯人ヲ逮捕シ若ハ之ヲ受取リ又ハ勾引状ノ執行ヲ受ケタル被疑者ヲ受取リタルトキハ即時訊問シ留置ノ必要ナシト思料スルトキハ直ニ釈放スヘシ留置ノ必要アリト思料スルトキハ遅クトモ四十八時間内ニ書類及証拠物ト共ニ之ヲ地方裁判所若ハ区裁判所ノ検事又ハ相当官署ニ送致スル手続ヲ為スヘシ
第百二十八条 司法警察官吏検事若ハ司法警察官ノ命令ニ因リ現行犯人ヲ逮捕シ又ハ司法警察官検事ノ命令ニ因リ被疑者ニ対シ勾引状ヲ発シタル場合ニ於テハ前二条ノ規定ニ依ラス速ニ之ヲ命令シタル検事又ハ司法警察官ニ引致スヘシ
第百二十九条 検事現行犯人ヲ逮捕シ若ハ之ヲ受取リ又ハ勾引状ノ執行ヲ受ケタル被疑者ヲ受取リタルトキハ遅クトモ二十四時間内ニ訊問シ留置ノ必要ナシト思料スルトキハ直ニ釈放スヘシ留置ノ必要アリト思料スル場合ニ於テ急速ヲ要シ判事ノ勾留状ヲ求ムルコト能ハサルトキハ勾留状ヲ発シ速ニ公訴ヲ提起シ又ハ書類及証拠物ト共ニ之ヲ管轄裁判所ノ検事又ハ相当官署ニ送致スル手続ヲ為スヘシ
検事他ノ検事ヨリ被疑者ヲ受取リタルトキハ前項ノ手続ニ準シ処分スヘシ但シ留置ノ必要ナシト思料スルトキハ勾留ヲ取消スヘシ
検事他ノ検事ノ嘱託ニ因リ被疑者ニ対シ勾引状ヲ発シタル場合ニ於テハ第一項ノ手続ニ依ラス速ニ之ヲ嘱託シタル検事ニ送致スヘシ
第百三十条 現ニ罪ヲ行ヒ又ハ現ニ罪ヲ行ヒ終リタル際ニ発覚シタルモノヲ現行犯トス
兇器贓物其ノ他ノ物ヲ所持シ、誰何セラレテ逃走シ、犯人トシテ追呼セラレ又ハ身体被服ニ顕著ナル犯罪ノ痕跡アリテ犯人ト思料スヘキ場合ハ現行犯人其ノ場所ニ在リタルモノト看做ス
第百三十一条 第九十七条、第九十八条及第百条乃至第百十条ノ規定ハ第百二十三条及第百二十九条ノ勾引又ハ勾留ニ付之ヲ準用ス
第百三十二条 五百円以下ノ罰金、拘留又ハ科料ニ該ル罪ノ現行犯ニ付テハ犯人ノ住居若ハ氏名分明ナラサル場合又ハ犯人逃亡スル虞アル場合ニ限リ第百二十四条乃至前条ノ規定ヲ適用ス
第十章 被告人訊問
第百三十三条 被告人ニ対シテハ先ツ其ノ人違ナキコトヲ確ムルニ足ルヘキ事項ヲ訊問スヘシ
第百三十四条 被告人ニ対シテハ被告事件ヲ告ケ其ノ事件ニ付陳述スヘキコトアリヤ否ヲ問フヘシ
第百三十五条 被告人ニ対シテハ丁寧深切ヲ旨トシ其ノ利益ト為ルヘキ事実ヲ陳述スル機会ヲ与フヘシ
第百三十六条 被告人ヲ訊問スルトキハ裁判所書記ヲシテ立会ハシムヘシ
第百三十七条 事実発見ノ為必要アルトキハ被告人ト他ノ被告人又ハ証人ト対質セシムルコトヲ得
第百三十八条 被告人聾ナルトキハ書面ヲ以テ問ヒ唖ナルトキハ書面ヲ以テ答ヘシムルコトヲ得
第百三十九条 本章ノ規定ハ被疑者ヲ訊問スル場合ニ之ヲ準用ス但シ司法警察官訊問ヲ為ス場合ニ於テハ司法警察吏ヲシテ立会ハシムヘシ
第十一章 押収及捜索
第百四十条 裁判所ハ別段ノ規定アル場合ヲ除クノ外証拠物又ハ没収スヘキ物ト思料スルモノアルトキハ之ヲ差押フヘシ
裁判所ハ差押フヘキ物ヲ指定シ所有者、所持者又ハ保管者ニ其ノ物ノ提出ヲ命スルコトヲ得
第百四十一条 裁判所ハ被告人ヨリ発シ又ハ被告人ニ対シテ発シタル郵便物又ハ電信ニ関スル書類ニシテ通信事務ヲ取扱フ官署其ノ他ノ者ノ保管又ハ所持スルモノヲ差押ヘ又ハ之ヲ提出セシムルコトヲ得
前項ノ規定ニ該当セサル郵便物又ハ電信ニ関スル書類ニシテ通信事務ヲ取扱フ官署其ノ他ノ者ノ保管又ハ所持スルモノハ被告事件ニ関係アリト思料スルニ足ルヘキ状況アルモノニ限リ之ヲ差押ヘ又ハ提出セシムルコトヲ得
前二項ノ規定ニ依ル処分ヲ為シタルトキハ其ノ旨ヲ発信人又ハ受信人ニ通知スヘシ但シ通知ニ因リ審理ヲ妨クル虞アル場合ハ此ノ限ニ在ラス
第百四十二条 被告人其ノ他ノ者ノ遺留シタル物又ハ所有者、所持者若ハ保管者ニ於テ任意ニ提出シタル物ハ之ヲ領置スルコトヲ得
第百四十三条 裁判所ハ必要アルトキハ被告人ノ身体、物又ハ住居其ノ他ノ場所ニ就キ捜索ヲ為スコトヲ得
被告人ニ非サル者ノ身体、物又ハ住居其ノ他ノ場所ニ付テハ押収スヘキ物ノ存在ヲ認知スルニ足ルヘキ状況アル場合ニ限リ捜索ヲ為スコトヲ得
婦女ノ身体ノ捜索ニ付テハ成年ノ婦女ヲシテ之ニ立会ハシムヘシ但シ急速ヲ要スル場合ハ此ノ限ニ在ラス
第百四十四条 捜索ニ付テハ秘密ヲ保チ且捜索ヲ受クル者ノ名誉ヲ毀損セサルコトニ注意スヘシ
第百四十五条 捜索ヲ為シタル場合ニ於テ証拠物又ハ没収スヘキ物ナキトキハ捜索ヲ受ケタル者ノ請求ニ因リ其ノ旨ノ証明書ヲ交付スヘシ
第百四十六条 押収又ハ捜索ニ付テハ鎖鑰又ハ封緘ノ開披其ノ他必要ナル処分ヲ為スコトヲ得押収物ニ付亦同シ
第百四十七条 軍事上秘密ヲ要スル場所ニ於テハ其ノ長又ハ之ニ代ルヘキ者ノ承諾アルニ非サレハ押収又ハ捜索ヲ為スコトヲ得ス
第百四十八条 公務員又ハ公務員タリシ者ノ保管又ハ所持スル物ニ付本人又ハ当該公務所ヨリ職務上ノ秘密ニ関スルモノナルコトヲ申立テタルトキハ当該監督官庁ノ承諾アルニ非サレハ押収ヲ為スコトヲ得ス但シ当該監督官庁ハ帝国ノ安寧ヲ害スル場合ヲ除クノ外承諾ヲ拒ムコトヲ得ス
国務大臣、宮内大臣、内大臣、枢密院議長、枢密院副議長、枢密顧問官、会計検査院長、元帥、参謀総長、海軍軍令部長、教育総監若ハ軍事参議官又ハ此等ノ職ニ在リタル者其ノ保管又ハ所持スル物ニ付前項ノ申立ヲ為シタルトキハ勅許ヲ得ルニ非サレハ押収ヲ為スコトヲ得ス
第百四十九条 医師、歯科医師、薬剤師、薬種商、産婆、弁護士、弁護人、弁理士、公証人、宗教若ハ禱祀ノ職ニ在ル者又ハ此等ノ職ニ在リタル者ハ業務上委託ヲ受ケタル為保管又ハ所持スル物ニシテ他人ノ秘密ニ関スルモノニ付差押ヲ拒ムコトヲ得但シ本人承諾シタルトキハ此ノ限ニ在ラス
第百五十条 裁判所ハ押収スヘキ物又ハ捜索スヘキ場所、身体若ハ物ヲ指定シタル命令状ヲ発シ司法警察官ヲシテ押収又ハ捜索ヲ為サシムルコトヲ得
命令状ニハ押収又ハ捜索ヲ為スヘキ事由ヲ記載シ裁判長之ニ記名捺印スヘシ
命令状ハ処分ヲ受クル者ノ請求アルトキハ之ヲ示スヘシ
第百五十一条 司法警察官前条第一項ノ規定ニ依リ押収又ハ捜索ヲ為スニ当リ被告事件ニ関スル他ノ証拠物ヲ発見シタルトキハ之ヲ押収スルコトヲ得
第百五十二条 司法警察官前二条ノ規定ニ依リ押収又ハ捜索ヲ為シタルトキハ検事ヲ経由シテ之ニ関スル書類及押収物ヲ裁判所ニ差出スヘシ
第百五十三条 裁判所押収又ハ捜索ヲ為スニ当リ他ノ犯罪ニ関スル顕著ナル証拠物ヲ発見シタルトキハ仮ニ之ヲ押収シテ検事ニ送付スルコトヲ得
検事前項ノ規定ニ依リ押収シタル物ヲ留置スル必要ナシト思料スルトキハ之ヲ還付スヘシ
第百五十四条 押収又ハ捜索ハ部員ヲシテ之ヲ為サシメ又ハ之ヲ為スヘキ地ノ予審判事、区裁判所判事若ハ法令ニ依リ特別ニ裁判権ヲ有スル官署ニ之ヲ嘱託スルコトヲ得
受託官署ハ受託ノ権限アル官署ニ転嘱スルコトヲ得
受託官署受託事項ニ付権限ヲ有セサルトキハ受託ノ権限アル官署ニ嘱託ヲ移送スルコトヲ得
受命判事又ハ受託判事ノ為ス押収又ハ捜索ニ付テハ裁判所ノ為ス押収又ハ捜索ニ関スル規定ヲ準用ス但シ第百四十一条第三項ノ通知ハ裁判所之ヲ為スヘシ
第百五十五条 日出前、日没後ニハ住居主若ハ看守者又ハ之ニ代ルヘキ者ノ承諾アルニ非サレハ押収又ハ捜索ノ為人ノ住居又ハ人ノ看守スル邸宅、建造物若ハ艦船ニ入ルコトヲ得ス
猶予スヘカラサル場合ニ於テハ前項ニ規定スル制限ニ依ルコトヲ要セス此ノ場合ニ於テハ其ノ事由ヲ調書ニ記載スヘシ
日没前押収又ハ捜索ニ著手シタルトキハ日没後ト雖其ノ処分ヲ継続スルコトヲ得
第百五十六条 左ノ場所ニ於テ為ス押収又ハ捜索ニ付テハ前条第一項ニ規定スル制限ニ依ルコトヲ要セス
一 賭博、富籤又ハ風俗ヲ害スル行為ニ常用セラルルモノト認ムヘキ場所
二 旅店、飲食店其ノ他夜間ト雖公衆ノ出入スルコトヲ得ヘキ場所但シ公開シタル時間内ニ限ル
第百五十七条 公務所又ハ軍事用ノ庁舎若ハ艦船ノ内ニ於テ押収又ハ捜索ヲ為ストキハ其ノ長又ハ之ニ代ルヘキ者ニ通知シテ其ノ処分ニ立会ハシムヘシ
前項ノ規定ニ依ル場合ヲ除クノ外人ノ住居又ハ人ノ看守スル邸宅、建造物若ハ船舶ノ内ニ於テ押収又ハ捜索ヲ為ストキハ住居主若ハ看守者又ハ之ニ代ルヘキ者ヲシテ之ニ立会ハシムヘシ此等ノ者ヲシテ立会ハシムルコト能ハサルトキハ隣人又ハ市町村吏員ヲシテ立会ハシムヘシ
第百五十八条 検事、被告人又ハ弁護人ハ押収又ハ捜索ニ立会フコトヲ得但シ拘禁セラレタル被告人ハ此ノ限ニ在ラス
押収又ハ捜索ヲ為スニ付必要アルトキハ被告人ヲシテ之ニ立会ハシムルコトヲ得
第百五十九条 押収又ハ捜索ヲ為スヘキ日時及場所ハ予メ前条ノ規定ニ依リ其ノ処分ニ立会フコトヲ得ヘキ者ニ通知スヘシ但シ急速ヲ要スルトキハ此ノ限ニ在ラス
第百六十条 押収又ハ捜索ヲ為スニ付必要アルトキハ司法警察官吏ヲシテ補助ヲ為サシムルコトヲ得
第百六十一条 押収又ハ捜索ノ処分中ハ何人ニ限ラス許可ヲ得スシテ其ノ場所ニ出入スルコトヲ禁止スルコトヲ得
前項ノ禁止ニ従ハサル者ハ之ヲ退去セシメ又ハ処分終ル迄之ヲ留置スルコトヲ得
第百六十二条 押収又ハ捜索ノ処分ヲ中止スル場合ニ於テ必要アルトキハ其ノ場所ヲ閉鎖シ又ハ看守者ヲ置クヘシ
第百六十三条 押収ヲ為シタル場合ニ於テ所有者、所持者若ハ保管者又ハ之ニ代ルヘキ者ノ請求アリタルトキハ品目ヲ記載シタル調書又ハ目録ノ謄本又ハ抄本ヲ交付スヘシ
第百六十四条 押収物ニ付テハ喪失又ハ毀損ヲ防ク為相当ノ処置ヲ為スヘシ
運搬又ハ保管ニ不便ナル押収物ニ付テハ看守者ヲ置キ又ハ所有者其ノ他ノ者ヲシテ之ヲ保管セシムルコトヲ得
危険ヲ生スル虞アル押収物ハ之ヲ廃棄スルコトヲ得
第百六十五条 没収スルコトヲ得ヘキ押収物ニシテ滅失若ハ毀損ノ虞アルモノ又ハ保管ニ不便ナルモノハ之ヲ売却シテ其ノ代価ヲ保管スルコトヲ得
第百六十六条 押収物ニシテ留置ノ必要ナキモノハ被告事件ノ終結ヲ待タス検事ノ意見ヲ聴キ決定ヲ以テ之ヲ還付スヘシ
押収物ハ所有者、所持者、保管者又ハ差出人ノ請求ニ因リ検事ノ意見ヲ聴キ決定ヲ以テ仮ニ之ヲ還付スルコトヲ得
第百六十七条 押収シタル贓物ニシテ留置ノ必要ナキモノハ被害者ニ還付スヘキ理由明白ナルトキニ限リ被告事件ノ終結ヲ待タス検事ノ意見ヲ聴キ決定ヲ以テ之ヲ被害者ニ還付スヘシ
前項ノ規定ハ民事訴訟ノ手続ニ従ヒ利害関係人ヨリ其ノ権利ヲ主張スルコトヲ妨ケス
第百六十八条 押収又ハ捜索ヲ為ストキハ裁判所書記ヲシテ立会ハシムヘシ
第百六十九条 予審判事ハ押収及捜索ニ関シ裁判所ト同一ノ権ヲ有ス
第百七十条 検事ハ第百二十三条各号ノ場合又ハ現行犯人ヲ逮捕シ若ハ之ヲ受取リタル場合ニ於テ急速ヲ要スルトキハ公訴提起前ニ限リ押収若ハ捜索ヲ為シ又ハ之ヲ他ノ検事若ハ司法警察官ニ命令シ若ハ嘱託スルコトヲ得
司法警察官ハ前項ノ場合ニ於テハ公訴提起前ニ限リ押収若ハ捜索ヲ為シ又ハ之ヲ他ノ司法警察官ニ命令シ若ハ嘱託スルコトヲ得
司法警察官押収ヲ為シタル場合ニ於テ留置ノ必要アリト思料スルトキハ速ニ押収物ヲ検事ニ送付スヘシ但シ第百六十四条第二項又ハ第三項ノ処分ヲ為シタルトキハ速ニ其ノ旨ヲ検事ニ報告スヘシ
第百七十一条 人ノ住居又ハ人ノ看守スル邸宅、建造物若ハ艦船ノ内ニ現行犯アル場合ニ於テ急速ヲ要スルトキハ検事又ハ司法警察官ハ何時ニテモ其ノ場所ニ入リ押収又ハ捜索ヲ為スコトヲ得
第百七十二条 人ノ住居又ハ人ノ看守スル邸宅、建造物若ハ艦船ノ内ニ現行犯アル場合ニ於テ急速ヲ要スルトキハ検事又ハ司法警察官吏ハ何時ニテモ其ノ場所ニ入リ犯人ヲ逮捕スル為捜索ヲ為スコトヲ得検事又ハ司法警察官吏現行犯人ヲ逮捕スル為追行シタル場合ニ於テ犯人人ノ住居又ハ人ノ看守スル邸宅、建造物若ハ艦船ノ内ニ逃入リタルトキ亦同シ
第百七十三条 司法警察官吏勾引状又ハ勾留状ヲ執行スル場合ニ於テ必要アルトキハ人ノ住居又ハ人ノ看守スル邸宅、建造物若ハ艦船ノ内ニ入リ捜索ヲ為スコトヲ得
第百七十四条 第百四十条乃至第百四十九条、第百五十三条、第百五十五条乃至第百五十七条及第百六十一条乃至第百六十七条ノ規定ハ別段ノ規定アル場合ヲ除クノ外検事又ハ司法警察官ノ為ス押収又ハ捜索ニ付之ヲ準用ス
第百四十六条、第百四十七条、第百五十五条乃至第百五十七条及第百六十一条ノ規定ハ別段ノ規定アル場合ヲ除クノ外司法警察吏ノ為ス捜索ニ付之ヲ準用ス
第百七十二条ノ捜索ヲ為ス場合及第百二十三条第三号乃至第六号ノ規定ニ依リ発シタル勾引状ヲ執行スル為前条ノ捜索ヲ為ス場合ニ於テハ第百五十七条第二項ノ規定ニ依ルコトヲ要セス
第十二章 検証
第百七十五条 裁判所ハ事実発見ノ為必要アルトキハ検証ヲ為スヘシ
第百七十六条 検証ニ付テハ身体ノ検査、死体ノ解剖、墳墓ノ発掘、物ノ毀壊其ノ他必要ナル処分ヲ為スコトヲ得
被告人ニ非サル者ノ身体ノ検査ハ一定ノ証跡ノ存否ヲ確認スルニ必要ナル場合ニ限リ之ヲ為スコトヲ得
婦女ノ身体ヲ検査スル場合ニ於テハ医師又ハ成年ノ婦女ヲシテ之ニ立会ハシムヘシ
死体ヲ解剖シ又ハ墳墓ヲ発掘スル場合ニ於テハ礼意ヲ失ハサルコトニ注意シ遺族アルトキハ之ニ通知スヘシ
第百七十七条 日出前、日没後ニハ住居主若ハ看守者又ハ之ニ代ルヘキ者ノ承諾アルニ非サレハ検証ノ為人ノ住居又ハ人ノ看守スル邸宅、建造物若ハ艦船ニ入ルコトヲ得ス但シ日出後ニ於テハ検証ノ目的ヲ達スルコト能ハサル虞アル場合ハ此ノ限ニ在ラス
日没前検証ニ著手シタルトキハ日没後ト雖其ノ処分ヲ継続スルコトヲ得
第百五十六条ニ規定スル場所ニ付テハ第一項ニ規定スル制限ニ依ルコトヲ要セス
第百七十八条 第百四十七条、第百五十四条、第百五十七条乃至第百六十二条及第百六十八条ノ規定ハ検証ニ付之ヲ準用ス
第百七十九条 予審判事ハ検証ニ関シ裁判所ト同一ノ権ヲ有ス
第百八十条 検事ハ第百二十三条各号ノ場合又ハ現行犯人ヲ逮捕シ若ハ之ヲ受取リタル場合ニ於テ急速ヲ要スルトキハ公訴提起前ニ限リ検証ヲ為シ又ハ之ヲ他ノ検事若ハ司法警察官ニ命令シ若ハ嘱託スルコトヲ得
司法警察官ハ前項ノ場合ニ於テハ公訴提起前ニ限リ検証ヲ為シ又ハ之ヲ他ノ司法警察官ニ命令シ若ハ嘱託スルコトヲ得
第百八十一条 人ノ住居又ハ人ノ看守スル邸宅、建造物若ハ艦船ノ内ニ現行犯アル場合ニ於テ急速ヲ要スルトキハ検事又ハ司法警察官ハ何時ニテモ其ノ場所ニ入リ検証ヲ為スコトヲ得
第百八十二条 変死者又ハ変死ノ疑アル死体アルトキハ其ノ所在地ヲ管轄スル地方裁判所又ハ区裁判所ノ検事検視ヲ為スヘシ
前項ノ処分ニ因リ犯罪アルコトヲ発見シタル場合ニ於テ急速ヲ要スルトキハ引続キ検証ヲ為スコトヲ得
検事ハ司法警察官ヲシテ前二項ノ規定ニ依ル処分ヲ為サシムルコトヲ得
第百八十三条 第百四十七条、第百五十七条、第百六十一条、第百六十二条、第百七十六条及第百七十七条ノ規定ハ検事又ハ司法警察官ノ為ス検証ニ付之ヲ準用ス
第十三章 証人訊問
第百八十四条 裁判所ハ別段ノ規定アル場合ヲ除クノ外何人ト雖証人トシテ之ヲ訊問スルコトヲ得
第百八十五条 公務員又ハ公務員タリシ者ノ知得タル事実ニ付本人又ハ当該公務所ヨリ職務上ノ秘密ニ関スルモノナルコトヲ申立テタルトキハ当該監督官庁ノ承諾アルニ非サレハ証人トシテ之ヲ訊問スルコトヲ得ス但シ当該監督官庁ハ帝国ノ安寧ヲ害スル場合ヲ除クノ外承諾ヲ拒ムコトヲ得ス
国務大臣、宮内大臣、内大臣、枢密院議長、枢密院副議長、枢密顧問官、会計検査院長、元帥、参謀総長、海軍軍令部長、教育総監若ハ軍事参議官又ハ此等ノ職ニ在リタル者前項ノ申立ヲ為シタルトキハ勅許ヲ得ルニ非サレハ証人トシテ之ヲ訊問スルコトヲ得ス
第百八十六条 左ニ掲クル者ハ証言ヲ拒ムコトヲ得
一 被告人ノ配偶者、四親等内ノ血族若ハ三親等内ノ姻族又ハ被告人ト此等ノ親族関係アリタル者
二 被告人ノ後見人、後見監督人又ハ保佐人
三 被告人ヲ後見人、後見監督人又ハ保佐人ト為ス者
共同被告人ノ一人又ハ数人ニ対シ前項ノ関係アル者ト雖他ノ共同被告人ノミニ関スル事項ニ付テハ証言ヲ拒ムコトヲ得ス
第百八十七条 医師、歯科医師、薬剤師、薬種商、産婆、弁護士、弁護人、弁理士、公証人、宗教若ハ禱祀ノ職ニ在ル者又ハ此等ノ職ニ在リタル者ハ業務上委託ヲ受ケタル為知得タル事実ニシテ他人ノ秘密ニ関スルモノニ付証言ヲ拒ムコトヲ得但シ本人承諾シタルトキハ此ノ限ニ在ラス
第百八十八条 証言ヲ為スニ因リ自己又ハ自己ト第百八十六条第一項ニ規定スル関係アル者刑事訴追ヲ受クル虞アルトキハ証言ヲ拒ムコトヲ得
現ニ供述ヲ為スヘキ事件ノ被告人ト共犯ノ関係アリトシテ起訴セラレ未タ確定判決ヲ経サルトキ亦前項ニ同シ
第百八十九条 証言ヲ拒ム者ハ之ヲ拒ム事由ヲ疏明スヘシ但シ前条ノ場合ニ於テハ其ノ事由ノ相違ナキ旨ノ宣誓ヲ以テ疏明ニ代フルコトヲ得
証言ヲ拒ム者之ヲ拒ム事由ヲ疏明スルコト能ハサルトキ又ハ宣誓ヲ為ササルトキハ決定ヲ以テ其ノ申立ヲ却下スヘシ
第百九十条 召喚ヲ受ケタル証人正当ノ事由ナクシテ出頭セサルトキハ検事ノ意見ヲ聴キ決定ヲ以テ五十円以下ノ過料ニ処シ且出頭セサルニ因リ生シタル費用ノ賠償ヲ命スルコトヲ得此ノ決定ニ対シテハ即時抗告ヲ為スコトヲ得
第百九十一条 召喚ニ応セサル証人ニ対シテハ更ニ之ヲ召喚シ又ハ之ヲ勾引スルコトヲ得
第百九十二条 第八十四条及第九十九条ノ規定ハ証人ノ召喚ニ付之ヲ準用ス
第百九十三条 第八十八条、第百条乃至第百五条及第百九条ノ規定ハ証人ノ勾引ニ付之ヲ準用ス
第百九十四条 証人ノ召喚状又ハ勾引状ニハ其ノ氏名及住居、被告人ノ氏名並被告事件ヲ記載シ裁判長之ニ記名捺印スヘシ
召喚状ニハ出頭スヘキ年月日時及場所並出頭セサルトキハ過料ニ処シ且勾引状ヲ発スルコトアルヘキ旨ヲ記載スヘシ
召喚状ノ送達ト出頭トノ間ニハ少クトモ二十四時間ノ猶予ヲ存スヘシ但シ急速ヲ要スル場合ハ此ノ限ニ在ラス
第百九十五条 証人ニ対シテハ先ツ其ノ人違ナキカ否及第百八十六条第一項ニ規定スル関係アル者ナリヤ否ヲ取調フヘシ
第百八十六条第一項ニ規定スル関係アル者ニハ証言ヲ拒ムコトヲ得ル旨ヲ告クヘシ
第百九十六条 証人ニハ宣誓ヲ為サシムヘシ但シ別段ノ規定アル場合ハ此ノ限ニ在ラス
第百九十七条 宣誓ハ訊問前之ヲ為サシムヘシ但シ宣誓ヲ為サシムヘキ者ナリヤ否ニ付疑アルトキハ訊問後之ヲ為サシムルコトヲ得
第百九十八条 宣誓ハ宣誓書ニ依リ之ヲ為スヘシ
宣誓書ニハ良心ニ従ヒ真実ヲ述ヘ何事ヲモ黙秘セス又何事ヲモ附加セサルコトヲ誓フ旨ヲ記載スヘシ但シ訊問後宣誓ヲ為ス場合ニ於テハ良心ニ従ヒ真実ヲ述ヘ何事ヲモ黙秘セス又何事ヲモ附加セサリシコトヲ誓フ旨ヲ記載スヘシ
裁判長ハ起立シテ宣誓書ヲ朗読シ証人ヲシテ之ニ署名捺印セシムヘシ
第百九十九条 宣誓ヲ為サシムヘキ証人ニハ宣誓前偽証ノ罰ヲ告クヘシ
第二百条 証人ノ宣誓ハ各別ニ之ヲ為サシムヘシ
第二百一条 証人左ノ各号ノ一ニ該当スルトキハ宣誓ヲ為サシメスシテ之ヲ訊問スヘシ
一 十六歳未満ノ者
二 宣誓ノ本旨ヲ解スルコト能ハサル者
三 現ニ供述ヲ為スヘキ事件ノ被告人ト共犯ノ関係アル者又ハ其ノ嫌疑アル者
四 第百八十六条第一項ニ規定スル関係アル者ニシテ証言ヲ拒マサルモノ
五 第百八十八条ノ場合ニ於テ証言ヲ拒マサル者
六 被告人ノ雇人又ハ同居人
前項第三号ノ規定ノ適用ニ付テハ犯人蔵匿ノ罪、証憑湮滅ノ罪、偽証ノ罪、虚偽ノ鑑定通訳ノ罪及贓物ニ関スル罪ノ犯人ハ其ノ本犯ノ共犯ト看做ス
第一項ニ掲クル者宣誓ヲ為シタルトキト雖其ノ供述ハ証言タルノ効力ヲ妨ケラルルコトナシ
第二百二条 証人ノ供述証人若ハ之ト第百八十六条第一項ニ規定スル関係アル者ノ恥辱ニ帰シ又ハ其ノ財産上ニ重大ナル損害ヲ生スル虞アルトキハ宣誓ヲ為サシメスシテ之ヲ訊問スルコトヲ得
第二百三条 証人ハ各別ニ之ヲ訊問スヘシ
後ニ訊問スヘキ証人在廷スルトキハ退廷ヲ命スヘシ
第二百四条 事実発見ノ為必要アルトキハ証人ト他ノ証人又ハ被告人ト対質セシムルコトヲ得
第二百五条 証人ニハ訊問事項ニ付連絡シタル供述ヲ為サシムヘシ
必要アル場合ニ於テハ証人ノ供述ヲ明白ナラシメ又ハ其ノ真否ヲ判断スル為適当ナル訊問ヲ為スヘシ
第二百六条 証人ニハ其ノ実験シタル事実ニ因リ推測シタル事項ヲ供述セシムルコトヲ得
前項ノ供述ハ鑑定ニ属スル故ヲ以テ証言タルノ効力ヲ妨ケラルルコトナシ
第二百七条 第八十五条、第百三十六条及第百三十八条ノ規定ハ証人ノ訊問ニ付之ヲ準用ス
第二百八条 証人ハ必要アル場合ニ於テハ裁判所外ニ之ヲ召喚シ又ハ其ノ所在ニ就キ之ヲ訊問スルコトヲ得
第二百九条 親任官又ハ親任官ノ待遇ヲ受クル者ハ其ノ現在地ヲ管轄スル裁判所ニ於テ之ヲ訊問スヘシ
帝国議会ノ議員議会ノ開会中開会地ニ滞在スルトキハ其ノ滞在地ヲ管轄スル裁判所ニ於テ之ヲ訊問スヘシ
第二百十条 証人正当ノ事由ナクシテ宣誓又ハ証言ヲ拒ミタルトキハ検事ノ意見ヲ聴キ決定ヲ以テ百円以下ノ過料ニ処ス第百八十九条第一項但書ノ場合ニ於テ虚偽ノ宣誓ヲ為シタルトキ亦同シ
前項ノ決定ニ対シテハ即時抗告ヲ為スコトヲ得
第二百十一条 裁判所ハ必要アルトキハ決定ヲ以テ指定ノ場所ニ証人ノ同行ヲ命スルコトヲ得証人正当ノ事由ナクシテ同行ヲ肯セサルトキハ之ヲ勾引スルコトヲ得
第二百十二条 裁判所外ニ於テ証人ヲ訊問スヘキトキハ部員ヲシテ之ヲ為サシメ又ハ証人ノ現在地ノ予審判事、区裁判所判事若ハ法令ニ依リ特別ニ裁判権ヲ有スル官署ニ之ヲ嘱託スルコトヲ得
受託官署ハ受託ノ権限アル官署ニ転嘱スルコトヲ得
受託官署受託事項ニ付権限ヲ有セサルトキハ受託ノ権限アル官署ニ嘱託ヲ移送スルコトヲ得
受命判事又ハ受託判事ハ証人ノ訊問ニ関シ裁判所又ハ裁判長ニ属スル処分ヲ為スコトヲ得但シ第百九十条及第二百十条ノ決定ハ裁判所亦之ヲ為スコトヲ得
第二百十三条 予審判事ハ証人ノ訊問ニ関シ裁判所又ハ裁判長ト同一ノ権ヲ有ス
第二百十四条 検事ハ第百二十三条各号ノ場合又ハ現行犯人ヲ逮捕シ若ハ之ヲ受取リタル場合ニ於テ急速ヲ要スルトキハ公訴提起前ニ限リ第百八十四条乃至第二百十一条ノ規定ニ準シ証人ヲ訊問シ又ハ其ノ訊問ヲ他ノ検事若ハ司法警察官ニ命令シ若ハ嘱託スルコトヲ得
司法警察官ハ前項ノ場合ニ於テハ公訴提起前ニ限リ第百八十四条乃至第二百十一条ノ規定ニ準シ証人ヲ訊問シ又ハ其ノ訊問ヲ他ノ司法警察官ニ命令シ若ハ嘱託スルコトヲ得
第二百十五条 検事又ハ司法警察官証人ヲ訊問スル場合ニ於テハ宣誓ヲ為サシムルコトヲ得ス
第二百十六条 司法警察官証人ヲ訊問スル場合ニ於テハ司法警察吏ヲシテ立会ハシムヘシ
第二百十七条 第二百十四条ノ規定ニ依リ証人ヲ過料ニ処シ又ハ之ニ賠償ヲ命スヘキトキハ証人ノ現在地ヲ管轄スル区裁判所ニ其ノ処分ヲ請求スヘシ
第二百十八条 証人ハ旅費、日当及止宿料ヲ請求スルコトヲ得但シ正当ノ事由ナクシテ宣誓又ハ証言ヲ拒ミタル者ハ此ノ限ニ在ラス
第十四章 鑑定
第二百十九条 裁判所ハ学識経験アル者ニ鑑定ヲ命スルコトヲ得
第二百二十条 鑑定人ニハ鑑定ヲ為ス前宣誓ヲ為サシムヘシ
宣誓ハ宣誓書ニ依リ之ヲ為スヘシ
宣誓書ニハ良心ニ従ヒ誠実ニ鑑定ヲ為スヘキコトヲ誓フ旨ヲ記載スヘシ
第二百二十一条 鑑定ノ経過及結果ハ鑑定人ヲシテ鑑定書ニ依リ又ハ口頭ヲ以テ之ヲ報告セシムヘシ
鑑定人数人アルトキハ共同シテ報告ヲ為サシムルコトヲ得
鑑定書ヲ差出シタル場合ニ於テ必要アルトキハ口頭ヲ以テ其ノ説明ヲ為サシムルコトヲ得
第二百二十二条 裁判所ハ必要アル場合ニ於テハ鑑定人ヲシテ裁判所外ニ於テ鑑定ヲ為サシムルコトヲ得
前項ノ場合ニ於テハ鑑定ニ関スル物ヲ鑑定人ニ交付スルコトヲ得
被告人ノ心神又ハ身体ニ関スル鑑定ヲ為サシムルニ付必要アルトキハ裁判所ハ期間ヲ定メ病院其ノ他ノ相当ノ場所ニ被告人ヲ留置スルコトヲ得
第二百二十三条 鑑定人ハ鑑定ニ付必要アル場合ニ於テハ裁判所ノ許可ヲ受ケ身体ヲ検査シ、死体ヲ解剖シ又ハ物ヲ毀壊スルコトヲ得
第百七十六条第二項乃至第四項ノ規定ハ前項ノ場合ニ之ヲ準用ス
第二百二十四条 鑑定人ハ鑑定ニ付必要アル場合ニ於テハ裁判長ノ許可ヲ受ケ書類及証拠物ヲ閲覧シ若ハ謄写シ又ハ被告人若ハ証人ノ訊問ニ立会フコトヲ得
鑑定人ハ被告人若ハ証人ノ訊問ヲ求メ又ハ裁判長ノ許可ヲ受ケ此等ノ者ニ対シ直接ニ問ヲ発スルコトヲ得
第二百二十五条 裁判所ハ部員ヲシテ鑑定ニ付必要ナル処分ヲ為サシムルコトヲ得但シ第二百二十二条第三項ニ規定スル処分ハ此ノ限ニ在ラス
第二百二十六条 裁判所ハ鑑定ヲ十分ナラストスルトキハ鑑定人ヲ増加シ又ハ他ノ鑑定人ニ命シテ鑑定ヲ為サシムルコトヲ得
第二百二十七条 検事及弁護人ハ鑑定ニ立会フコトヲ得
第百五十九条ノ規定ハ前項ノ場合ニ之ヲ準用ス
第二百二十八条 第十三章ノ規定ハ勾引ニ関スル規定ヲ除クノ外鑑定ニ付之ヲ準用ス但シ検事及司法警察官ハ第二百二十二条第三項ニ規定スル処分ヲ為スコトヲ得ス
第二百二十九条 鑑定人ハ旅費、日当及止宿料ノ外鑑定料及立替金ノ弁償ヲ請求スルコトヲ得
第二百三十条 裁判所ハ官署又ハ公署ニ鑑定ヲ嘱託スルコトヲ得
第二百二十一条乃至第二百二十三条及第二百二十八条ノ規定ハ前項ノ場合ニ之ヲ準用ス但シ第二百二十一条第三項ノ規定ニ依ル鑑定書ノ説明ハ官署又ハ公署ノ指定シタル者ヲシテ之ヲ為サシムヘシ
第二百三十一条 特別ノ智識ニ因リ知得タル過去ノ事実ニ付其ノ事実ヲ知リタル者ヲ訊問スル場合ニハ本章ノ規定ニ依ラス第十三章ノ規定ヲ適用ス
第十五章 通訳
第二百三十二条 国語ニ通セサル者ヲシテ陳述ヲ為サシムル場合ニ於テハ通事ヲシテ通訳ヲ為サシムヘシ
第二百三十三条 聾者又ハ唖者ヲシテ陳述ヲ為サシムル場合ニ於テハ通事ヲシテ通訳ヲ為サシムルコトヲ得
第二百三十四条 国語ニ非サル文字又ハ符号ハ之ヲ翻訳セシムルコトヲ得
第二百三十五条 裁判所ハ官署又ハ公署ニ翻訳ヲ嘱託スルコトヲ得
第二百三十六条 第十四章ノ規定ハ通訳及翻訳ニ付之ヲ準用ス
第十六章 訴訟費用
第二百三十七条 刑ノ言渡ヲ為シタルトキハ被告人ヲシテ訴訟費用ノ全部又ハ一部ヲ負担セシムヘシ
被告人ノ責ニ帰スヘキ事由ニ因リ生シタル費用ハ刑ノ言渡ヲ為ササル場合ト雖被告人ヲシテ之ヲ負担セシムルコトヲ得
第二百三十八条 共犯ノ訴訟費用ハ共犯人ヲシテ連帯シテ之ヲ負担セシムルコトヲ得
第二百三十九条 告訴又ハ告発ニ因リ公訴ノ提起アリタル事件ニ付被告人無罪又ハ免訴ノ裁判ヲ受ケタル場合ニ於テ告訴人又ハ告発人ニ故意又ハ重大ナル過失アルトキハ其ノ者ヲシテ訴訟費用ヲ負担セシムルコトヲ得
第二百四十条 親告罪ニ付告訴ノ取消アリタル場合ニ於テハ告訴人ヲシテ訴訟費用ヲ負担セシムルコトヲ得
第二百四十一条 検事ニ非サル者上訴ノ取下ヲ為シタル場合ニ於テハ其ノ者ヲシテ上訴ニ関スル費用ヲ負担セシムルコトヲ得
検事ニ非サル者再審ノ請求ヲ取下ケタル場合ニ於テハ其ノ者ヲシテ再審ニ関スル費用ヲ負担セシムルコトヲ得
第二百四十二条 裁判ニ因リ訴訟手続終了スル場合ニ於テ被告人ヲシテ訴訟費用ヲ負担セシムルトキハ職権ヲ以テ其ノ裁判ヲ為スヘシ此ノ裁判ニ対シテハ本案ノ裁判ニ付上訴アリタルトキニ限リ不服ヲ申立ツルコトヲ得
第二百四十三条 裁判ニ因リ訴訟手続終了スル場合ニ於テ被告人ニ非サル者ヲシテ訴訟費用ヲ負担セシムルトキハ職権ヲ以テ別ニ其ノ決定ヲ為スヘシ此ノ決定ニ対シテハ即時抗告ヲ為スコトヲ得
第二百四十四条 裁判ニ因ラスシテ訴訟手続終了スル場合ニ於テ訴訟費用ヲ負担セシムルトキハ最終ニ事件ノ繋属シタル裁判所職権ヲ以テ其ノ決定ヲ為スヘシ此ノ決定ニ対シテハ即時抗告ヲ為スコトヲ得
第二百四十五条 訴訟費用ノ負担ヲ命スル裁判ニ於テ其ノ額ヲ定メサルトキハ執行ノ指揮ヲ為スヘキ検事之ヲ定ム
第二編 第一審
第一章 捜査
第二百四十六条 検事犯罪アリト思料スルトキハ犯人及証拠ヲ捜査スヘシ
第二百四十七条 警視総監、地方長官及憲兵司令官ハ各其ノ管轄区域内ニ於テ司法警察官トシテ犯罪ヲ捜査スルニ付地方裁判所検事ト同一ノ権ヲ有ス但シ東京府知事ハ此ノ限ニ在ラス
第二百四十八条 左ニ掲クル者ハ検事ノ輔佐トシテ其ノ指揮ヲ受ケ司法警察官トシテ犯罪ヲ捜査スヘシ
一 庁府県ノ警察官
二 憲兵ノ将校、准士官及下士
第二百四十九条 左ニ掲クル者ハ検事又ハ司法警察官ノ命令ヲ受ケ司法警察吏トシテ捜査ノ補助ヲ為スヘシ
一 巡査
二 憲兵卒
第二百五十条 前三条ニ規定スル者ノ外勅令ヲ以テ司法警察官吏ヲ定ムルコトヲ得
第二百五十一条 森林、鉄道其ノ他特別ノ事項ニ付司法警察官吏ノ職務ヲ行フヘキ者及其ノ職務ノ範囲ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第二百五十二条 第十一条第一項ノ規定ハ検事及司法警察官吏ノ為ス捜査ニ付之ヲ準用ス
第二百五十三条 捜査ニ付テハ秘密ヲ保チ被疑者其ノ他ノ者ノ名誉ヲ毀損セサルコトニ注意スヘシ
第二百五十四条 捜査ニ付テハ其ノ目的ヲ達スル為必要ナル取調ヲ為スコトヲ得但シ強制ノ処分ハ別段ノ規定アル場合ニ非サレハ之ヲ為スコトヲ得ス
捜査ニ付テハ公務所ニ照会シテ必要ナル事項ノ報告ヲ求ムルコトヲ得
第二百五十五条 検事捜査ヲ為スニ付強制ノ処分ヲ必要トスルトキハ公訴ノ提起前ト雖押収、捜索、検証及被疑者ノ勾留、被疑者若ハ証人ノ訊問又ハ鑑定ノ処分ヲ其ノ所属地方裁判所ノ予審判事又ハ所属区裁判所ノ判事ニ請求スルコトヲ得
前項ノ規定ニ依ル請求ヲ受ケタル判事ハ其ノ処分ニ関シ予審判事ト同一ノ権ヲ有ス
第二百五十六条 判事前条ノ処分ヲ為シタルトキハ速ニ之ニ関スル書類及証拠物ヲ検事ニ送付スヘシ
第二百五十七条 第二百五十五条ノ規定ニ依リ被疑者ヲ勾留シタル事件ニ付十日内ニ公訴ヲ提起セサルトキハ検事ハ速ニ被疑者ヲ釈放スヘシ
第二百五十五条ノ規定ニ依リ押収ヲ為シタル事件ニ付公訴ヲ提起セサル処分ヲ為シタルトキハ検事ハ速ニ押収物ヲ還付スヘシ但シ必要アル場合ニ於テハ公訴ノ時効完成スルニ至ル迄之ヲ保管スルコトヲ得
第二百五十八条 犯罪ニ因リ害ヲ被リタル者ハ告訴ヲ為スコトヲ得
第二百五十九条 祖父母又ハ父母ニ対シテハ告訴ヲ為スコトヲ得ス
第二百六十条 被害者ノ法定代理人又ハ夫ハ独立シテ告訴ヲ為スコトヲ得
被害者死亡シタルトキハ其ノ配偶者、家督相続人、直系ノ親族又ハ兄弟姉妹ハ告訴ヲ為スコトヲ得但シ被害者ノ明示シタル意思ニ反スルコトヲ得ス
前二項ノ規定ハ刑法第百八十三条ノ罪ニ付テハ之ヲ適用セス
第二百六十一条 被害者ノ法定代理人被疑者ナルトキ、被疑者ノ配偶者ナルトキ又ハ被疑者ノ四親等内ノ血族若ハ三親等内ノ姻族ナルトキハ被害者ノ親族ハ独立シテ告訴ヲ為スコトヲ得
第二百六十二条 死者ノ名誉ヲ毀損シタル罪ニ付テハ死者ノ親族、遺族又ハ後裔ハ告訴ヲ為スコトヲ得
名誉ヲ毀損シタル罪ニ付被害者告訴ヲ為サスシテ死亡シタルトキ亦前項ニ同シ但シ被害者ノ明示シタル意思ニ反スルコトヲ得ス
第二百六十三条 親告罪ニ付告訴ヲ為スコトヲ得ヘキ者ナキ場合ニ於テハ管轄裁判所ノ検事ハ利害関係人ノ申立ニ因リ告訴ヲ為スコトヲ得ヘキ者ヲ指定スルコトヲ得
第二百六十四条 刑法第百八十三条ノ罪ニ付テハ婚姻解消シ又ハ離婚ノ訴ヲ提起シタル後ニ非サレハ告訴ヲ為スコトヲ得ス再ヒ婚姻ヲ為シ又ハ離婚ノ訴ヲ取下ケタルトキハ告訴ヲ取消シタルモノト看做ス
第二百六十五条 親告罪ノ告訴ハ犯人ヲ知リタル日ヨリ六月ヲ経過シタルトキハ之ヲ為スコトヲ得ス
刑法第二百二十九条但書ノ場合ニ於ケル告訴ハ婚姻ノ無効又ハ取消ノ裁判確定シタル日ヨリ六月内ニ之ヲ為スニ非サレハ其ノ効力ナシ
第二百六十六条 告訴ヲ為スコトヲ得ヘキ者数人アル場合ニ於テ一人ノ期間ノ懈怠ハ他ノ者ニ対シ其ノ効力ヲ及ホサス
第二百六十七条 告訴ハ第二審ノ判決アル迄之ヲ取消スコトヲ得
告訴ノ取消ヲ為シタル者ハ更ニ告訴ヲ為スコトヲ得ス
前二項ノ規定ハ請求ヲ待チテ受理スヘキ事件ニ付テノ請求ニ之ヲ準用ス
第二百六十八条 親告罪ニ付共犯ノ一人又ハ数人ニ対シテ為シタル告訴又ハ其ノ取消ハ他ノ共犯ニ対シ亦其ノ効力ヲ生ス
前項ノ規定ハ請求ヲ待チテ受理スヘキ事件ニ付テノ請求又ハ其ノ取消ニ之ヲ準用ス
刑法第百八十三条ノ罪ニ付相姦者ノ一人ニ対シテ告訴又ハ其ノ取消アリタルトキハ他ノ者ニ対シ亦其ノ効力ヲ生ス
第二百六十九条 何人ト雖犯罪アリト思料スルトキハ告発ヲ為スコトヲ得
官吏又ハ公吏其ノ職務ヲ行フニ因リ犯罪アリト思料スルトキハ告発ヲ為スヘシ
第二百七十条 第二百五十九条ノ規定ハ告発ニ付之ヲ準用ス
第二百七十一条 告訴ハ代理人ニ依リテ之ヲ為スコトヲ得告訴ノ取消ニ付亦同シ
第二百七十二条 告訴又ハ告発ハ書面又ハ口頭ヲ以テ検事又ハ司法警察官ニ之ヲ為スヘシ
第二百七十三条 検事又ハ司法警察官口頭ノ告訴又ハ告発ヲ受ケタルトキハ調書ヲ作ルヘシ
第五十六条第三項乃至第五項ノ規定ハ前項ノ調書ニ付之ヲ準用ス
第二百七十四条 司法警察官告訴又ハ告発ヲ受ケタルトキハ速ニ之ニ関スル書類及証拠物ヲ管轄裁判所ノ検事ニ送付スヘシ
第二百七十五条 第二百七十二条、第二百七十三条及前条ノ規定ハ告訴又ハ告発ノ取消ニ付之ヲ準用ス
第二百七十六条 第二百七十二条、第二百七十三条及第二百七十四条ノ規定ハ自首ニ付之ヲ準用ス
第二百七十七条 犯罪ニ関シ匿名ノ申告又ハ風説アル場合ニ於テハ特ニ其ノ出所ニ注意シ虚実ヲ探査スヘシ
第二章 公訴
第二百七十八条 公訴ハ検事之ヲ行フ
第二百七十九条 犯人ノ性格、年齢及境遇並犯罪ノ情状及犯罪後ノ情況ニ因リ訴追ヲ必要トセサルトキハ公訴ヲ提起セサルコトヲ得
第二百八十条 公訴ハ検事ノ指定シタル被告人以外ノ者ニ其ノ効力ヲ及ホサス
第二百八十一条 時効ハ左ノ期間ヲ経過スルニ因リテ完成ス
一 死刑ニ該ル罪ニ付テハ十五年
二 無期ノ懲役又ハ禁錮ニ該ル罪ニ付テハ十年
三 長期十年以上ノ懲役又ハ禁錮ニ該ル罪ニ付テハ七年
四 長期十年未満ノ懲役又ハ禁錮ニ該ル罪ニ付テハ五年
五 長期五年未満ノ懲役若ハ禁錮又ハ罰金ニ該ル罪ニ付テハ三年
六 刑法第百八十五条ノ罪ニ付テハ六月
七 拘留又ハ科料ニ該ル罪ニ付テハ六月
第二百八十二条 二以上ノ主刑ヲ併科シ又ハ二以上ノ主刑中其ノ一ヲ科スヘキ罪ニ付テハ其ノ重キ刑ニ従ヒ前条ノ規定ヲ適用ス
第二百八十三条 刑法ニ依リ刑ヲ加重又ハ減軽スヘキ場合ニ於テハ加重又ハ減軽セサル刑ニ従ヒ第二百八十一条ノ規定ヲ適用ス
第二百八十四条 時効ハ犯罪行為ノ終リタル時ヨリ進行ス
共犯ノ場合ニ於テハ最終ノ行為ノ終リタル時ヨリ総テノ共犯ニ対シテ時効ノ期間ヲ起算ス
第二百八十五条 時効ハ公訴ノ提起、公判若ハ予審ノ処分又ハ第二百五十五条ノ規定ニ依リ為シタル判事ノ処分ニ因リ中断ス但シ其ノ手続規定ニ違反シタル為無効ナルトキハ此ノ限ニ在ラス
共犯ノ一人ニ対シテ為シタル手続ニ因ル時効ノ中断ハ他ノ共犯ニ対シ其ノ効力ヲ有ス
第二百八十六条 時効ハ中断ノ事由ノ終了シタル時ヨリ更ニ進行ス
第二百八十七条 時効ハ第三百五条第一項第二号ノ規定ニ依リ予審手続ヲ中止シ又ハ第三百五十二条ノ規定ニ依リ公判手続ヲ停止シタル期間内ハ進行セス
第二百八十八条 公訴ノ提起ハ予審又ハ公判ヲ請求スルニ依リテ之ヲ為ス
第二百八十九条 拘留又ハ科料ニ該ル事件ニ付テハ罰金以上ノ刑ニ該ル事件ト同時ニ取調ヲ為スヘキ場合ニ限リ予審ヲ請求スルコトヲ得
第二百九十条 公訴ノ提起ハ書面ヲ以テ之ヲ為スヘシ
予審ノ請求ハ急速ヲ要スル場合ニ限リ口頭又ハ電報ヲ以テ之ヲ為スコトヲ得口頭又ハ電報ヲ以テ予審ノ請求ヲ為シタルトキハ之ヲ調書ニ記載シ予審判事裁判所書記ト共ニ署名捺印スヘシ
公判開廷中被告人ニ他ノ犯罪アルコトヲ発見シ公判ヲ請求スル場合ニ於テハ口頭ヲ以テ之ヲ為スコトヲ得
第二百九十一条 公訴ヲ提起スルニハ被告人ヲ指定シ犯罪事実及罪名ヲ示スヘシ
被告人ノ指定ハ氏名ヲ以テシ氏名知レサルトキハ容貌、体格其ノ他ノ徴表ヲ以テスヘシ
第二百九十二条 公訴ハ予審終結決定又ハ第一審ノ判決アル迄之ヲ取消スコトヲ得
公訴ノ取消ハ理由ヲ記載シタル書面ヲ以テ之ヲ為スヘシ
第二百九十三条 検事事件其ノ所属裁判所ノ管轄ニ属セサルモノト思料スルトキハ書類及証拠物ト共ニ其ノ事件ヲ管轄裁判所ノ検事又ハ相当官署ニ送致スヘシ
前項ノ場合ニ於テ被疑者ニ対シ勾留ヲ継続スル必要ナシト思料スルトキハ之ヲ釈放スヘシ
第二百九十四条 告訴ニ係ル事件ニ付公訴ヲ提起シ又ハ之ヲ提起セサル処分ヲ為シタルトキハ速ニ其ノ旨ヲ告訴人ニ通知スヘシ公訴ヲ取消シ又ハ事件ヲ他ノ裁判所ノ検事若ハ相当官署ニ送致シタルトキ亦同シ
第三章 予審
第二百九十五条 予審ハ被告事件ヲ公判ニ付スヘキカ否ヲ決スル為必要ナル事項ヲ取調フルヲ以テ其ノ目的トス
予審判事ハ公判ニ於テ取調ヘ難シト思料スル事項ニ付亦取調ヲ為スヘシ
第二百九十六条 予審ニ於テハ取調ノ秘密ヲ保チ被告人其ノ他ノ者ノ名誉ヲ毀損セサルコトニ注意スヘシ
第二百九十七条 予審判事予審中共犯アルコト又ハ他ノ犯罪アルコトヲ発見シタル場合ニ於テ急速ヲ要スルトキハ検事ノ請求ヲ待タス予審ニ属スル処分ヲ為スコトヲ得
予審判事前項ノ処分ヲ為シタルトキハ速ニ其ノ旨ヲ検事ニ通知スヘシ
第二百九十八条 検事前条第二項ノ規定ニ依ル通知ヲ受ケタル場合ニ於テ予審ヲ請求スヘキモノト思料スルトキハ速ニ其ノ手続ヲ為スヘシ
予審判事検事ヨリ予審ヲ請求セサル旨ノ通知ヲ受ケタルトキ又ハ前条第二項ノ規定ニ依ル通知ヲ為シタル時ヨリ四十八時間内ニ予審ノ請求ナキトキハ前条ノ処分ヲ継続スルコトヲ得ス被疑者ヲ勾留シタルトキハ釈放ノ決定ヲ為シ押収シタル物アルトキハ還付ノ決定ヲ為スヘシ
第二百九十九条 予審判事ハ予審処分ニ付其ノ裁判所ノ予審判事ニ補助ヲ求ムルコトヲ得
第三百条 予審判事ハ被告人ヲ訊問スヘシ
予審判事ハ被告人ノ所在ニ就キ之ヲ訊問スルコトヲ得
第三百一条 予審判事ハ予審終結前被告人ニ対シ嫌疑ヲ受ケタル原由ヲ告知シ弁解ヲ為サシムヘシ但シ被告人正当ノ事由ナクシテ出頭セサルトキハ此ノ限ニ在ラス
第三百二条 予審判事公判ニ於テ召喚シ難シト思料スル証人ヲ訊問スル場合ニ於テハ検事及弁護人ハ其ノ訊問ニ立会フコトヲ得
第百五十九条ノ規定ハ前項ノ場合ニ之ヲ準用ス
第三百三条 検事、被告人又ハ弁護人ハ予審中何時ニテモ必要トスル処分ヲ予審判事ニ請求スルコトヲ得
検事ハ予審ノ進行ヲ妨ケサル限リ書類及証拠物ヲ閲覧スルコトヲ得
弁護人ハ予審判事ノ許可ヲ受ケ書類及証拠物ヲ閲覧スルコトヲ得
第三百四条 予審判事ハ公務所ニ照会シテ必要ナル事項ノ報告ヲ求ムルコトヲ得
第三百五条 予審判事ハ左ノ場合ニ於テハ検事ノ意見ヲ聴キ決定ヲ以テ予審手続ヲ中止スルコトヲ得
一 被告人ノ所在分明ナラサルトキ
二 被告人心神喪失ノ状態ニ在ルトキ
前項ノ決定ハ之ヲ送達セス
第三百六条 予審判事被告事件ニ付取調ヲ終ヘタルトキハ書類及証拠物ヲ検事ニ送付シテ其ノ意見ヲ求ムヘシ
第三百七条 検事予審判事ノ取調十分ナラスト思料スルトキハ事項ヲ指示シテ取調ヲ請求スルコトヲ得
予審判事検事ノ請求ニ応シタルトキハ更ニ其ノ取調ニ関スル書類及証拠物ヲ検事ニ送付スヘシ請求ニ応セサルトキハ速ニ其ノ旨ヲ通知スヘシ
第三百八条 検事前二条ノ規定ニ依リ書類及証拠物ノ送付ヲ受ケタルトキハ速ニ意見ヲ付シテ之ヲ予審判事ニ還付スヘシ
第三百九条 被告事件裁判所ノ管轄ニ属セサルトキハ予審判事ハ決定ヲ以テ管轄違ノ言渡ヲ為スヘシ
第三百十条 予審判事ハ其ノ所属裁判所ノ管内ニ在ル区裁判所ノ管轄ニ属スル事件ニ付管轄違ノ言渡ヲ為スコトヲ得ス
第三百十一条 予審判事ハ被告人ノ申立ニ因ルニ非サレハ土地管轄ニ付管轄違ノ言渡ヲ為スコトヲ得ス
第三百十二条 公判ニ付スルニ足ルヘキ犯罪ノ嫌疑アルトキハ予審判事ハ決定ヲ以テ被告事件ヲ公判ニ付スル言渡ヲ為スヘシ
前項ノ決定ニハ罪ト為ルヘキ事実及法令ノ適用ヲ示スヘシ
第三百十三条 被告事件罪ト為ラス又ハ公判ニ付スルニ足ルヘキ犯罪ノ嫌疑ナキトキハ予審判事ハ決定ヲ以テ免訴ノ言渡ヲ為スヘシ
第三百十四条 左ノ場合ニ於テハ予審判事ハ決定ヲ以テ免訴ノ言渡ヲ為スヘシ
一 確定判決ヲ経タルトキ
二 犯罪後ノ法令ニ因リ刑ノ廃止アリタルトキ
三 大赦アリタルトキ
四 時効完成シタルトキ
五 法令ニ於テ刑ヲ免除スルトキ
第三百十五条 左ノ場合ニ於テハ予審判事ハ決定ヲ以テ公訴ヲ棄却スヘシ
一 被告人ニ対シテ裁判権ヲ有セサルトキ
二 第三百十七条ノ規定ニ違反シテ公訴ヲ提起シタルトキ
三 公訴ノ取消ニ因リ公訴棄却ノ決定アリタル事件ニ付更ニ公訴ヲ提起シタルトキ
四 公訴ノ提起アリタル事件ニ付更ニ同一裁判所ニ公訴ヲ提起シタルトキ
五 告訴又ハ請求ヲ待チテ受理スヘキ事件ニ付告訴又ハ請求ノ取消アリタルトキ
六 公訴ノ取消アリタルトキ
七 被告人死亡シ又ハ被告人タル法人存続セサルニ至リタルトキ
八 第九条又ハ第十条ノ規定ニ依リ審判ヲ為スヘカラサルトキ
九 公訴提起ノ手続其ノ規定ニ違反シタル為無効ナルトキ
第三百十六条 第三百九条及第三百十三条乃至前条ノ決定ニ対シテハ即時抗告ヲ為スコトヲ得
第三百十七条 免訴ノ決定確定シタルトキハ左ノ場合ニ限リ同一事件ニ付公訴ヲ提起スルコトヲ得
一 新ナル事実又ハ証拠ヲ発見シタルトキ
二 決定若ハ其ノ基礎ト為リタル取調ニ関与シタル判事、公訴ノ提起若ハ其ノ基礎ト為リタル捜査ニ関与シタル検事又ハ第二百五十五条ノ規定ニ依リ公訴提起ノ基礎ト為リタル処分ヲ為シタル判事被告事件ニ付職務ニ関スル罪ヲ犯シタルコト確定判決ニ因リ証明セラレタルトキ但シ決定ヲ為ス前判事又ハ検事ニ対スル公訴ノ提起アリタル場合ニ於テハ決定ヲ為シタル予審判事其ノ事実ヲ知ラサリシトキニ限ル
第三百十八条 免訴、公訴棄却又ハ管轄違ノ言渡ヲ為シタルトキハ勾留セラレタル被告人ニ対シテハ放免ノ言渡アリタルモノトス
公訴棄却又ハ管轄違ノ言渡ヲ為ス場合ニ於テハ予審判事ハ勾留状ヲ存シ又ハ新ニ之ヲ発スルコトヲ得
勾留状ヲ存シ又ハ新ニ之ヲ発シタル事件ニ付三日内ニ公訴ヲ提起セス又ハ管轄裁判所ノ検事ニ事件ヲ送致セサルトキハ検事ハ直ニ被告人ヲ釈放スヘシ被告事件ノ送致ヲ受ケタル検事五日内ニ公訴ヲ提起セサルトキ亦同シ
第三百十九条 免訴、公訴棄却又ハ管轄違ノ言渡ヲ為シタル事件ニ付押収物アルトキハ押収ヲ解ク言渡アリタルモノトス但シ必要アル場合ニ於テハ押収ヲ存続スルコトヲ得
押収ヲ存続シタル事件ニ付三日内ニ公訴ヲ提起セス又ハ管轄裁判所ノ検事ニ事件ヲ送致セサルトキハ検事ハ其ノ押収ヲ解クヘシ被告事件ノ送致ヲ受ケタル検事五日内ニ公訴ヲ提起セサルトキ亦同シ
第四章 公判
第一節 公判準備
第三百二十条 裁判長ハ公判期日ヲ定ムヘシ
公判期日ニハ被告人、弁護人及輔佐人ヲ召喚スヘシ
第八十四条及第九十九条ノ規定ハ弁護人及輔佐人ノ召喚ニ付之ヲ準用ス
公判期日ハ之ヲ検事ニ通知スヘシ
第三百二十一条 第一回ノ公判期日ト被告人ニ対スル召喚状ノ送達トノ間ニハ少クトモ三日ノ猶予期間ヲ存スヘシ
被告人異議ナキトキハ前項ノ猶予期間ヲ存セサルコトヲ得
第三百二十二条 裁判長ハ公判期日ヲ変更スルコトヲ得
公判期日ノ変更ニ関スル請求ヲ却下スル命令ハ之ヲ送達スルコトヲ要セス
第三百二十三条 裁判所ハ第一回ノ公判期日ニ於ケル取調準備ノ為公判期日前被告人ノ訊問ヲ為シ又ハ部員ヲシテ之ヲ為サシムルコトヲ得
検事及弁護人ハ前項ノ訊問ニ立会フコトヲ得
訊問ヲ為スヘキ日時及場所ハ予メ之ヲ検事及弁護人ニ通知スヘシ但シ急速ヲ要スルトキハ此ノ限ニ在ラス
第三百二十四条 裁判所ハ公判期日ニ於ケル取調準備ノ為公判期日前証拠物若ハ証拠書類ノ提出ヲ命シ又ハ証人、鑑定人、通事若ハ翻訳人ニ対シ召喚状ヲ発スルコトヲ得
前項ノ規定ニ依リ召喚状ヲ発シタル証人、鑑定人、通事又ハ翻訳人ノ氏名ハ直ニ之ヲ訴訟関係人ニ通知スヘシ
検事、被告人又ハ弁護人ハ第一項ノ規定ニ依ル処分ヲ裁判所ニ請求スルコトヲ得
前項ノ請求ヲ却下スルトキハ決定ヲ為スヘシ
第三百二十五条 検事、被告人又ハ弁護人ハ公判期日前証拠物又ハ証拠書類ヲ裁判所ニ提出スルコトヲ得
第三百二十六条 裁判所ハ証人疾病其ノ他ノ事由ニ因リ公判期日ニ出頭スルコト能ハスト思料スルトキハ公判期日前之ヲ訊問スルコトヲ得
第三百二十三条第二項及第三項ノ規定ハ前項ノ場合ニ之ヲ準用ス
第三百二十七条 裁判所ハ公判期日前鑑定若ハ翻訳ヲ為サシメ又ハ押収、捜索若ハ検証ヲ為スコトヲ得
第三百二十八条 裁判所ハ公判期日前公務所ニ照会シテ必要ナル事項ノ報告ヲ求ムルコトヲ得
第二節 公判手続
第三百二十九条 公判期日ニ於ケル取調ハ公判廷ニ於テ之ヲ為スヘシ
公判廷ハ判事、検事及裁判所書記列席シテ之ヲ開ク
第三百三十条 被告人公判期日ニ出頭セサルトキハ別段ノ規定アル場合ヲ除クノ外開廷スルコトヲ得ス
第三百三十一条 罰金以下ノ刑ニ該ル事件ノ被告人ハ代理人ヲシテ出頭セシムルコトヲ得但シ裁判所ハ本人ノ出頭ヲ命スルコトヲ得
第三百三十二条 被告人ハ公判廷ニ於テ身体ノ拘束ヲ受クルコトナシ但シ之ニ看守者ヲ附スルコトヲ得
第三百三十三条 被告人ハ裁判長ノ許可アルニ非サレハ退廷スルコトヲ得ス
裁判長ハ被告人ヲシテ在廷セシムル為相当ノ処分ヲ為スコトヲ得
第三百三十四条 死刑又ハ無期若ハ短期一年以上ノ懲役若ハ禁錮ニ該ル事件ニ付テハ弁護人ナクシテ開廷スルコトヲ得ス但シ判決ノ宣告ヲ為ス場合ハ此ノ限ニ在ラス
弁護人出頭セサルトキ又ハ弁護人ノ選任ナキトキハ裁判長ハ職権ヲ以テ弁護人ヲ附スヘシ
第三百三十五条 左ノ場合ニ於テ弁護人出頭セサルトキ又ハ弁護人ノ選任ナキトキハ検事ノ意見ヲ聴キ弁護人ヲ附スルコトヲ得
一 被告人二十歳未満又ハ七十歳以上ナルトキ
二 被告人婦女ナルトキ
三 被告人聾者又ハ唖者ナルトキ
四 被告人心神喪失者又ハ心神耗弱者タル疑アルトキ
五 其ノ他必要ト認ムルトキ
第三百三十六条 事実ノ認定ハ証拠ニ依ル
第三百三十七条 証拠ノ証明力ハ判事ノ自由ナル判断ニ任ス
第三百三十八条 被告人訊問及証拠調ハ裁判長之ヲ為スヘシ
陪席判事ハ裁判長ニ告ケ被告人、証人、鑑定人、通事又ハ翻訳人ヲ訊問スルコトヲ得
検事又ハ弁護人ハ裁判長ノ許可ヲ受ケ被告人、証人、鑑定人、通事又ハ翻訳人ヲ訊問スルコトヲ得
被告人ハ必要トスル事項ニ付共同被告人、証人、鑑定人、通事又ハ翻訳人ヲ訊問スヘキコトヲ裁判長ニ請求スルコトヲ得
第三百三十九条 裁判長ハ証人其ノ他ノ者被告人又ハ或傍聴人ノ面前ニ於テ十分ナル供述ヲ為スコトヲ得サルヘシト思料スルトキハ其ノ供述中之ヲ退廷セシムルコトヲ得被告人他ノ被告人ノ面前ニ於テ十分ナル供述ヲ為スコトヲ得サルヘシト思料スルトキ亦同シ
前項ノ規定ニ依リ被告人ヲ退廷セシメタル場合ニ於テ共同被告人、証人其ノ他ノ者ノ供述終リタルトキハ被告人ヲ入廷セシメ供述ノ要旨ヲ告クヘシ
第三百四十条 証拠書類ハ裁判長之ヲ朗読シ若ハ其ノ要旨ヲ告ケ又ハ裁判所書記ヲシテ之ヲ朗読セシムヘシ
単ニ風説又ハ素行ヲ記載シタル書類ニシテ人ノ名誉ヲ毀損スル虞アルモノハ之ヲ朗読スルコトヲ得ス
前項ノ書類ハ之ヲ被告人ニ示シ被告人文字ヲ解セサルトキニ限リ其ノ要旨ヲ告クヘシ
第三百四十一条 証拠物ハ裁判長之ヲ被告人ニ示スヘシ
証拠物中書面ノ意義証拠ト為ルモノニ付テハ被告人文字ヲ解セサルトキハ其ノ要旨ヲ告クヘシ
第三百四十二条 公判期日前訴訟関係人ヨリ提出シタル証拠物及証拠書類ハ公判廷ニ於テ之ヲ取調フヘシ第三百二十六条乃至第三百二十八条ノ規定ニ依リ作成シ又ハ集取シタルモノニ付亦同シ但シ訴訟関係人ニ異議ナキモノニ付テハ之ヲ取調ヘサルコトヲ得
第三百四十三条 被告人其ノ他ノ者ノ供述ヲ録取シタル書類ニシテ法令ニ依リ作成シタル訊問調書ニ非サルモノハ左ノ場合ニ限リ之ヲ証拠ト為スコトヲ得
一 供述者死亡シタルトキ
二 疾病其ノ他ノ事由ニ因リ供述者ヲ訊問スルコト能ハサルトキ
三 訴訟関係人異議ナキトキ
区裁判所ノ事件ニ付テハ前項ニ規定スル制限ニ依ルコトヲ要セス
第三百四十四条 証拠調ノ請求ノ却下ハ決定ヲ以テ之ヲ為スヘシ
新期日ノ指定其ノ他別段ノ手続ヲ必要トスル証拠調ハ決定ニ依リ之ヲ為スヘシ
第三百四十五条 裁判長被告人ニ対シ第百三十三条ノ訊問ヲ為シタル後検事ハ被告事件ノ要旨ヲ陳述スヘシ
前項ノ陳述終リタルトキハ被告人訊問及証拠調ヲ為スヘシ
第三百四十六条 区裁判所ニ於テ被告人自白シタルトキハ訴訟関係人異議ナキトキニ限リ他ノ証拠ヲ取調ヘサルコトヲ得
第三百四十七条 裁判長ハ各個ノ証拠ニ付取調ヲ終ヘタル毎ニ被告人ニ意見アリヤ否ヲ問フヘシ
裁判長ハ被告人ニ対シ其ノ利益ト為ルヘキ証拠ヲ提出スルコトヲ得ヘキ旨ヲ告クヘシ
第三百四十八条 検事、被告人又ハ弁護人ハ裁判長ノ処分ニ対シテハ異議ノ申立ヲ為スコトヲ得
裁判所ハ前項ノ申立ニ付決定ヲ為スヘシ
第三百四十九条 証拠調終リタル後検事ハ事実及法律ノ適用ニ付意見ヲ陳述スヘシ
被告人及弁護人ハ意見ヲ陳述スルコトヲ得
被告人又ハ弁護人ニハ最終ニ陳述スル機会ヲ与フヘシ
第三百五十条 裁判所ハ必要アル場合ニ於テハ弁論ヲ再開スルコトヲ得
第三百五十一条 裁判所ハ計算其ノ他繁雑ナル事項ニ付公判廷ニ於テ取調フルコトヲ不便トスルトキハ部員ヲシテ其ノ取調ヲ為サシムルコトヲ得此ノ場合ニ於テハ受命判事ハ予審判事ト同一ノ権ヲ有ス
検事及弁護人ハ前項ノ取調ニ立会フコトヲ得
受命判事ハ取調ノ結果ニ付報告ヲ為スヘシ
第三百五十二条 被告人心神喪失ノ状態ニ在ルトキハ検事ノ意見ヲ聴キ決定ヲ以テ其ノ状態ノ継続スル間公判手続ヲ停止スヘシ但シ無罪、免訴、刑ノ免除又ハ公訴棄却ノ裁判ヲ為スヘキ事由明白ナル場合ニ於テハ被告人ノ出頭ヲ待タス直ニ其ノ裁判ヲ為スコトヲ得
被告人疾病ニ因リ出頭スルコト能ハサルトキハ検事ノ意見ヲ聴キ決定ヲ以テ出頭スルコトヲ得ルニ至ル迄公判手続ヲ停止スヘシ
第三百三十一条ノ規定ニ依リ代理人ヲシテ出頭セシメタル場合ニ於テハ前二項ノ規定ヲ適用セス
第三百五十三条 開廷後被告人ノ心神喪失ニ因リ公判手続ヲ停止シ又ハ其ノ他ノ事由ニ因リ引続キ十五日以上開廷セサリシ場合ニ於テハ公判手続ヲ更新スヘシ
第三百五十四条 開廷後判事ノ更迭アリタルトキハ公判手続ヲ更新スヘシ但シ判決ノ宣告ヲ為ス場合ハ此ノ限ニ在ラス
第三節 公判ノ裁判
第三百五十五条 被告事件裁判所ノ管轄ニ属セサルトキハ判決ヲ以テ管轄違ノ言渡ヲ為スヘシ
第三百五十六条 地方裁判所ハ其ノ管内ニ在ル区裁判所ノ管轄ニ属スル事件ニ付管轄違ノ言渡ヲ為スコトヲ得ス但シ検事ノ意見ヲ聴キ決定ヲ以テ管轄権ヲ有スル区裁判所ニ事件ヲ移送スルコトヲ得
第三百五十七条 裁判所ハ被告人ノ申立ニ因ルニ非サレハ土地管轄ニ付管轄違ノ言渡ヲ為スコトヲ得ス
管轄違ノ申立ハ被告事件ニ付供述ヲ為シタル後ハ之ヲ為スコトヲ得ス
管轄違ノ申立ハ予審ヲ経タル事件ニ付テハ予審判事ニ対シテ其ノ申立ヲ為シタルトキニ非サレハ之ヲ為スコトヲ得ス
第三百五十八条 被告事件ニ付犯罪ノ証明アリタルトキハ第三百五十九条ノ場合ヲ除クノ外判決ヲ以テ刑ノ言渡ヲ為スヘシ
刑ノ執行猶予ハ刑ノ言渡ト同時ニ判決ヲ以テ其ノ言渡ヲ為スヘシ
第三百五十九条 被告事件ニ付刑ヲ免除スルトキハ判決ヲ以テ其ノ旨ノ言渡ヲ為スヘシ
第三百六十条 有罪ノ言渡ヲ為スニハ罪ト為ルヘキ事実及証拠ニ依リ之ヲ認メタル理由ヲ説明シ法令ノ適用ヲ示スヘシ
法律上犯罪ノ成立ヲ阻却スヘキ原由又ハ刑ノ加重減免ノ原由タル事実上ノ主張アリタルトキハ之ニ対スル判断ヲ示スヘシ
第三百六十一条 区裁判所ニ在リテハ上訴ノ申立ナキ場合又ハ判決宣告ノ日ヨリ七日内ニ判決書ノ謄本ノ請求ナキ場合ニ於テ判決主文並罪ト為ルヘキ事実ノ要旨及適用シタル罰条ヲ公判調書ニ記載セシメ之ヲ以テ判決書ニ代フルコトヲ得
第三百六十二条 被告事件罪ト為ラス又ハ犯罪ノ証明ナキトキハ判決ヲ以テ無罪ノ言渡ヲ為スヘシ
第三百六十三条 左ノ場合ニ於テハ判決ヲ以テ免訴ノ言渡ヲ為スヘシ
一 確定判決ヲ経タルトキ
二 犯罪後ノ法令ニ因リ刑ノ廃止アリタルトキ
三 大赦アリタルトキ
四 時効完成シタルトキ
第三百六十四条 左ノ場合ニ於テハ判決ヲ以テ公訴ヲ棄却スヘシ
一 被告人ニ対シテ裁判権ヲ有セサルトキ
二 第三百十七条ノ規定ニ違反シテ公訴ヲ提起シタルトキ
三 公訴ノ取消ニ因リ公訴棄却ノ決定アリタル事件ニ付更ニ公訴ヲ提起シタルトキ
四 公訴ノ提起アリタル事件ニ付更ニ同一裁判所ニ公訴ヲ提起シタルトキ
五 告訴又ハ請求ヲ待チテ受理スヘキ事件ニ付告訴又ハ請求ノ取消アリタルトキ
六 公訴提起ノ手続其ノ規定ニ違反シタル為無効ナルトキ
第三百六十五条 左ノ場合ニ於テハ決定ヲ以テ公訴ヲ棄却スヘシ
一 公訴ノ取消アリタルトキ
二 被告人死亡シ又ハ被告人タル法人存続セサルニ至リタルトキ
三 第九条又ハ第十条ノ規定ニ依リ審判ヲ為スヘカラサルトキ
前項ノ決定ニ対シテハ即時抗告ヲ為スコトヲ得
第三百六十六条 被告人陳述ヲ肯セス、許可ヲ受ケスシテ退廷シ又ハ秩序維持ノ為裁判長ヨリ退廷ヲ命セラレタルトキハ其ノ陳述ヲ聴カスシテ判決ヲ為スコトヲ得
第三百六十七条 罰金以下ノ刑ニ該ル事件又ハ罰金以下ノ刑ニ処スヘキモノト認ムル事件ニ付被告人出頭セサルトキハ其ノ後ノ取調ニ因リ禁錮以上ノ刑ニ処スヘキモノト認ムル場合ヲ除クノ外被告人ノ陳述ヲ聴カスシテ判決ヲ為スコトヲ得
第三百六十八条 弁論終結ノ後ハ被告人出頭セスト雖宣告ニ依リ判決ヲ告知ス
第三百六十九条 有罪ノ判決ヲ告知スル場合ニハ被告人ニ対シ上訴期間及上訴申立書ヲ差出スヘキ裁判所ヲ告知スヘシ
第三百七十条 裁判長ハ判決ノ告知ヲ為シタル後被告人ニ対シ将来ヲ戒ムル為適当ナル訓諭ヲ為スコトヲ得
第三百七十一条 無罪、免許、刑ノ免除、刑ノ執行猶予、公訴棄却、管轄違、罰金又ハ科料ノ言渡ヲ為シタルトキハ勾留セラレタル被告人ニ対シテハ放免ノ言渡アリタルモノトス
公訴棄却又ハ管轄違ノ言渡ヲ為ス場合ニ於テハ裁判所ハ勾留状ヲ存シ又ハ新ニ之ヲ発スルコトヲ得
勾留状ヲ存シ又ハ新ニ之ヲ発シタル事件ニ付三日内ニ公訴ヲ提起セス又ハ管轄裁判所ノ検事ニ事件ヲ送致セサルトキハ検事ハ直ニ被告人ヲ釈放スヘシ被告事件ノ送致ヲ受ケタル検事五日内ニ公訴ヲ提起セサルトキ亦同シ
第三百七十二条 押収シタル物ニ付没収ノ言渡ナキトキハ押収ヲ解ク言渡アリタルモノトス
公訴棄却又ハ管轄違ノ言渡ヲ為ス場合ニ於テハ裁判所ハ押収ヲ存続スルコトヲ得
押収ヲ存続シタル事件ニ付三日内ニ公訴ヲ提起セス又ハ管轄裁判所ノ検事ニ事件ヲ送致セサルトキハ検事ハ其ノ押収ヲ解クヘシ被告事件ノ送致ヲ受ケタル検事五日内ニ公訴ヲ提起セサルトキ亦同シ
第三百七十三条 押収シタル贓物ニシテ被害者ニ還付スヘキ理由明白ナルモノハ之ヲ被害者ニ還付スル言渡ヲ為スヘシ
贓物ノ対価トシテ得タル物ニ付被害者ヨリ交付ノ請求アリタルトキハ前項ノ例ニ依ル
仮ニ還付シタル物ニ付別段ノ言渡ナキトキハ還付ノ言渡アリタルモノトス
前三項ノ規定ハ民事訴訟ノ手続ニ従ヒ利害関係人ヨリ其ノ権利ヲ主張スルコトヲ妨ケス
第三百七十四条 刑ノ執行猶予ノ言渡ヲ取消スヘキ場合ニ於テハ刑ノ言渡ヲ受ケタル者ノ現在地又ハ最後ノ住所地ヲ管轄スル区裁判所ノ検事其ノ裁判所ニ請求ヲ為スヘシ
前項ノ請求アリタルトキハ裁判所ハ被告人又ハ其ノ代理人ノ意見ヲ聴キ決定ヲ為スヘシ此ノ決定ニ対シテハ即時抗告ヲ為スコトヲ得
第三百七十五条 刑法第五十二条又ハ第五十八条ノ規定ニ依リ刑ヲ定ムヘキ場合ニ於テハ其ノ犯罪事実ニ付最終ノ判決ヲ為シタル裁判所ノ検事其ノ裁判所ニ請求ヲ為スヘシ
前項ノ請求アリタルトキハ裁判所ハ被告人又ハ其ノ代理人ノ意見ヲ聴キ決定ヲ為スヘシ此ノ決定ニ対シテハ即時抗告ヲ為スコトヲ得
第三編 上訴
第一章 通則
第三百七十六条 上訴ハ検事又ハ被告人之ヲ為スコトヲ得
第三百七十七条 検事又ハ被告人ニ非サル者ニシテ決定ヲ受ケタルモノハ抗告ヲ為スコトヲ得
第三百七十八条 被告人ノ法定代理人、保佐人又ハ夫ハ被告人ノ為独立シテ上訴ヲ為スコトヲ得
第三百七十九条 原審ニ於ケル代理人又ハ弁護人ハ被告人ノ為上訴ヲ為スコトヲ得但シ被告人ノ明示シタル意思ニ反スルコトヲ得ス
第三百八十条 上訴ハ裁判ノ一部ニ対シテ之ヲ為スコトヲ得其ノ部分ヲ限ラサルトキハ裁判ノ全部ニ対シテ為シタルモノトス
第三百八十一条 上訴ノ提起期間ハ裁判告知ノ日ヨリ進行ス
第三百八十二条 検事、被告人又ハ第三百七十七条ニ規定スル者ハ上訴ノ抛棄又ハ取下ヲ為スコトヲ得但シ被告人ハ第三百七十八条ニ規定スル者ノ同意ヲ得ルニ非サレハ抛棄又ハ取下ヲ為スコトヲ得ス
第三百八十三条 第三百七十八条ニ規定スル者ハ被告人ノ同意ヲ得テ上訴ノ取下ヲ為スコトヲ得
第三百八十四条 上訴抛棄ノ申立ハ原裁判所ニ之ヲ為スヘシ
上訴取下ノ申立ハ上訴裁判所ニ之ヲ為スヘシ訴訟記録ヲ上訴裁判所又ハ上訴裁判所検事ニ送付スル前上訴ノ取下ヲ為ス場合ニ於テハ其ノ申立書ヲ原裁判所ニ差出スコトヲ得
第三百八十五条 上訴ノ抛棄又ハ取下ノ申立ハ書面ヲ以テ之ヲ為スヘシ但シ公判廷ニ於テハ口頭ヲ以テ之ヲ為スコトヲ得此ノ場合ニ於テハ其ノ申立ヲ調書ニ記載スヘシ
第三百八十六条 上訴ノ抛棄又ハ取下ヲ為シタル者ハ其ノ事件ニ付更ニ上訴ヲ為スコトヲ得ス
第三百八十七条 第三百七十六条乃至第三百七十九条ノ規定ニ依リ上訴ヲ為スコトヲ得ル者自己又ハ代人ノ責ニ帰スヘカラサル事由ニ因リ上訴ノ提起期間内ニ上訴ヲ為スコト能ハサリシトキハ原裁判所ニ上訴権回復ノ請求ヲ為スコトヲ得
第三百八十八条 上訴権回復ノ請求ハ事由ノ止ミタル日ヨリ上訴ノ提起期間ニ相当スル期間内ニ書面ヲ以テ之ヲ為スヘシ
上訴権回復ノ原由タル事実ハ之ヲ疏明スヘシ
上訴権回復ノ請求ヲ為ス者ハ其ノ請求ト同時ニ原裁判所ニ上訴ノ申立書ヲ差出スヘシ
第三百八十九条 原裁判所ハ検事ノ意見ヲ聴キ上訴権回復ノ請求ヲ許スヘキカ否ノ決定ヲ為スヘシ此ノ決定ニ対シテハ即時抗告ヲ為スコトヲ得
第三百九十条 上訴権回復ノ請求アリタルトキハ原裁判所ハ前条ノ決定ヲ為ス迄裁判ノ執行ヲ停止スル決定ヲ為スコトヲ得
前項ノ決定ヲ為ストキハ被告人ニ対シ勾留状ヲ発スルコトヲ得
第三百九十一条 監獄ニ在ル被告人上訴ヲ為スニハ監獄ノ長又ハ其ノ代理者ヲ経由シテ申立書ヲ差出スヘシ此ノ場合ニ於テ上訴ノ提起期間内ニ申立書ヲ監獄ノ長又ハ其ノ代理者ニ差出シタルトキハ上訴ノ提起期間内ニ上訴ヲ為シタルモノト看做ス
被告人自ラ申立書ヲ作ルコト能ハサルトキハ監獄ノ長又ハ其ノ代理者ハ之ヲ代書シ又ハ所属吏員ヲシテ之ヲ代書セシムヘシ
監獄ノ長又ハ其ノ代理者ハ原裁判所ニ申立書ヲ送付シ且之ヲ受取リタル年月日時ヲ通知スヘシ
第三百九十二条 前条ノ規定ハ監獄ニ在ル被告人上訴ノ抛棄若ハ取下又ハ上訴権回復ノ請求ヲ為ス場合ニ之ヲ準用ス
第三百九十三条 上訴、上訴ノ抛棄若ハ取下又ハ上訴権回復ノ請求アリタルトキハ裁判所書記ハ速ニ之ヲ対手人ニ通知スヘシ
第二章 控訴
第三百九十四条 控訴ハ区裁判所又ハ地方裁判所ニ於テ為シタル第一審ノ判決ニ対シテ之ヲ為スコトヲ得
第三百九十五条 控訴ノ提起期間ハ七日トス
第三百九十六条 控訴ヲ為スニハ申立書ヲ第一審裁判所ニ差出スヘシ
第三百九十七条 控訴ノ申立法律上ノ方式ニ違反シ又ハ控訴権消滅後ニ為シタルモノナルトキハ第一審裁判所ハ検事ノ意見ヲ聴キ決定ヲ以テ之ヲ棄却スヘシ此ノ決定ニ対シテハ即時抗告ヲ為スコトヲ得
第三百九十八条 前条ノ場合ヲ除クノ外第一審裁判所ハ訴訟記録及証拠物ヲ其ノ裁判所ノ検事ニ送付シ検事ハ之ヲ控訴裁判所ノ検事ニ送付スヘシ
控訴裁判所ノ検事ハ訴訟記録及証拠物ヲ其ノ裁判所ニ送付スヘシ
被告人監獄ニ在ルトキハ第一審裁判所ノ検事ハ被告人ヲ控訴裁判所所在地ノ監獄ニ移スヘシ
第三百九十九条 控訴裁判所ノ検事ハ弁論ノ終結ニ至ル迄附帯控訴ヲ為スコトヲ得
第四百条 控訴ノ申立法律上ノ方式ニ違反シ又ハ控訴権消滅後ニ為シタルモノナルトキハ控訴裁判所ハ判決ヲ以テ控訴ヲ棄却スヘシ
第四百一条 控訴裁判所ハ前条及第四百二条ノ場合ヲ除クノ外被告事件ニ付更ニ判決ヲ為スヘシ
第一審裁判所不法ニ管轄ヲ認メタル場合ニ於テ控訴裁判所其ノ事件ニ付第一審ノ管轄権ヲ有スルトキハ第一審ノ判決ヲ為スヘシ
第四百二条 第一審裁判所不法ニ管轄違ヲ言渡シ又ハ公訴ヲ棄却シタルトキハ判決ヲ以テ事件ヲ第一審裁判所ニ差戻スコトヲ得
第四百三条 被告人控訴ヲ為シタル事件及被告人ノ為ニ控訴ヲ為シタル事件ニ付テハ原判決ノ刑ヨリ重キ刑ヲ言渡スコトヲ得ス
第四百四条 被告人出頭セサルトキハ更ニ期日ヲ定ムヘシ被告人正当ノ事由ナクシテ其ノ期日ニ出頭セサルトキハ其ノ陳述ヲ聴カスシテ判決ヲ為スコトヲ得
第四百五条 控訴裁判所ノ判決ニハ第一審ノ判決ニ示シタル事実及証拠ヲ引用スルコトヲ得
第四百六条 第三百六十五条ノ規定ニ該当スル事件ニ付第一審裁判所公訴ヲ棄却セサリシトキハ決定ヲ以テ公訴ヲ棄却スヘシ此ノ決定ニ対シテハ即時抗告ヲ為スコトヲ得
第四百七条 第二編中公判ニ関スル規定ハ別段ノ規定アル場合ヲ除クノ外控訴ノ審判ニ付之ヲ準用ス
第三章 上告
第四百八条 上告ハ第二審ノ判決ニ対シテ之ヲ為スコトヲ得
第四百九条 上告ハ第四百十二条乃至第四百十五条ニ規定スル場合ノ外法令ノ違反ヲ理由トスルトキニ限リ之ヲ為スコトヲ得
第四百十条 左ノ場合ニ於テハ常ニ上告ノ理由アルモノトス
一 法律ニ従ヒ判決裁判所ヲ構成セサリシトキ
二 職務ノ執行ヨリ除斥セラルヘキ判事審判ニ関与シタルトキ
三 判事偏頗ノ虞アリトシテ忌避セラレ其ノ忌避ノ申立理由アリト認メラレタルニ拘ラス審判ニ関与シタルトキ
四 審理ニ関与セサリシ判事判決ニ関与シタルトキ
五 不法ニ管轄又ハ管轄違ヲ認メタルトキ
六 不法ニ公訴ヲ受理シ又ハ之ヲ棄却シタルトキ
七 審判ノ公開ニ関スル規定ニ違反シタルトキ
八 別段ノ規定アル場合ヲ除クノ外被告人出頭スルコトナクシテ審判ヲ為シタルトキ
九 公判廷ニ於テ被告人ノ身体ヲ拘束シタルトキ
十 法律ニ依リ弁護人ヲ要スル事件又ハ決定ニ依リ弁護人ヲ附シタル事件ニ付弁護人出頭スルコトナクシテ審理ヲ為シタルトキ
十一 不法ニ弁護権ノ行使ヲ制限シタルトキ
十二 検事ノ為ス被告事件ノ陳述ヲ聴カスシテ審判ヲ為シタルトキ
十三 法律ニ依リ公判ニ於テ取調フヘキ証拠ノ取調ヲ為ササリシトキ
十四 公判ニ於テ為シタル証拠調ノ請求ニ付決定ヲ為スヘキ場合ニ於テ之ヲ為ササリシトキ
十五 公判ニ於テ為シタル異議ノ申立ニ付決定ヲ為ササリシトキ
十六 法律ニ依リ公判手続ヲ停止シ又ハ更新スヘキ事由アル場合ニ於テ之ヲ停止シ又ハ更新セサリシトキ
十七 被告人又ハ弁護人ニ最終ニ陳述スル機会ヲ与ヘサリシトキ
十八 審判ノ請求ヲ受ケタル事件ニ付判決ヲ為サス又ハ審判ノ請求ヲ受ケサル事件ニ付判決ヲ為シタルトキ
十九 判決ニ理由ヲ附セス又ハ理由ニ齟齬アルトキ
二十 判決ニ示スヘキ判断ヲ遺脱シタルトキ
二十一 判決書ニ判事ノ署名若ハ捺印又ハ契印ヲ欠キタルトキ
第四百十一条 前条ノ場合ヲ除クノ外法令ニ違反シタルコトアリト雖判決ニ影響ヲ及ホササルコト明白ナルトキハ之ヲ上告ノ理由ト為スコトヲ得ス
第四百十二条 刑ノ量定甚シク不当ナリト思料スヘキ顕著ナル事由アルトキハ之ヲ上告ノ理由ト為スコトヲ得
第四百十三条 再審ノ請求ヲ為シ得ヘキ場合ニ該ル事由アルトキハ之ヲ上告ノ理由ト為スコトヲ得
第四百十四条 重大ナル事実ノ誤認アルコトヲ疑フニ足ルヘキ顕著ナル事由アルトキハ之ヲ上告ノ理由ト為スコトヲ得
第四百十五条 判決アリタル後刑ノ廃止若ハ変更又ハ大赦アリタルトキハ之ヲ上告ノ理由ト為スコトヲ得
第四百十六条 左ノ場合ニ於テハ区裁判所又ハ地方裁判所ニ於テ為シタル第一審ノ判決ニ対シ控訴ヲ為サスシテ上告ヲ為スコトヲ得
一 判決ニ依リ定リタル被告事件ノ事実ニ付法令ヲ適用セス又ハ不当ニ法令ヲ適用シタルコトヲ理由トスルトキ
二 判決アリタル後刑ノ廃止若ハ変更又ハ大赦アリタルコトヲ理由トスルトキ
第四百十七条 第一審ノ判決ニ対スル上告ハ控訴ノ申立アリタルトキハ其ノ効力ヲ失フ但シ控訴ノ取下又ハ控訴棄却ノ裁判アリタルトキハ此ノ限ニ在ラス
第四百十八条 上告ノ提起期間ハ五日トス
第四百十九条 上告ヲ為スニハ申立書ヲ原裁判所ニ差出スヘシ
第四百二十条 上告ノ申立法律上ノ方式ニ違反シ又ハ上告権消滅後ニ為シタルモノナルトキハ原裁判所ハ検事ノ意見ヲ聴キ決定ヲ以テ之ヲ棄却スヘシ此ノ決定ニ対シテハ即時抗告ヲ為スコトヲ得
第四百二十一条 前条ノ場合ヲ除クノ外原裁判所ハ訴訟記録ヲ其ノ裁判所ノ検事ニ送付シ検事ハ之ヲ上告裁判所ノ検事ニ送付スヘシ
上告裁判所ノ検事ハ訴訟記録ヲ其ノ裁判所ニ送付スヘシ
第四百二十二条 上告裁判所ハ遅クトモ最初ニ定メタル公判期日ノ五十日前ニ其ノ期日ヲ上告申立人及対手人ニ通知スヘシ
最初ニ公判期日ヲ定ムル前弁護人ノ選任アリタルトキハ前項ノ通知ハ弁護人ニ之ヲ為スヘシ
第四百二十三条 上告申立人ハ遅クトモ最初ニ定メタル公判期日ノ十五日前ニ上告趣意書ヲ上告裁判所ニ差出スヘシ
第四百二十四条 上告ノ対手人ハ最初ニ定メタル公判期日ノ十五日前迄附帯上告ヲ為スコトヲ得
附帯上告ハ上告趣意書ヲ上告裁判所ニ差出シテ之ヲ為スヘシ
第四百二十五条 上告趣意書ニハ上告ノ理由ヲ明示スヘシ
訴訟手続ノ法令ニ違反スルコトヲ理由トスル場合ニ於テハ違反ニ関スル事実ヲ表示スヘシ
第四百十二条及第四百十四条ノ場合ニ於テハ訴訟記録及原裁判所ニ於テ取調ヘタル証拠ニ現ハレサル事実ヲ援用スルコトヲ得ス
第四百十三条ノ場合ニ於テハ事実ヲ表示シ其ノ証拠ヲ差出スヘシ
第四百二十六条 上告裁判所上告趣意書ヲ受取リタルトキハ速ニ其ノ謄本ヲ対手人ニ送達スヘシ
第四百二十七条 上告申立人期間内ニ上告趣意書ヲ差出ササルトキハ上告裁判所ハ検事ノ意見ヲ聴キ決定ヲ以テ上告ヲ棄却スヘシ
第四百二十八条 上告ノ対手人ハ上告趣意書ノ謄本ノ送達ヲ受ケタル日ヨリ十日内ニ答弁書ヲ上告裁判所ニ差出スコトヲ得
検事対手人ナルトキハ重要ト認ムル上告ノ理由ニ付答弁書ヲ差出スヘシ
上告裁判所答弁書ヲ受取リタルトキハ速ニ其ノ謄本ヲ上告申立人ニ送達スヘシ上告申立人弁護人ヲ選任シタルトキハ其ノ送達ハ弁護人ニ之ヲ為スヘシ
第四百二十九条 裁判長ハ部員ヲシテ上告申立書、上告趣意書及答弁書ヲ検閲シテ報告書ヲ作ラシムルコトヲ得
第四百三十条 上告審ニ於テハ弁護士ニ非サル者ヲ弁護人ニ選任スルコトヲ得ス
第四百三十一条 上告審ニ於テハ被告人ノ為ニスル弁論ハ弁護人ニ非サレハ之ヲ為スコトヲ得ス但シ第四百四十四条第一項ノ規定ニ依リ被告事件ニ付更ニ審理ヲ為ス場合ハ此ノ限ニ在ラス
第四百三十二条 公判期日ニハ受命判事ハ弁論前報告書ヲ朗読スヘシ
検事及弁護人ハ上告趣意書ニ基キ弁論ヲ為スヘシ
第四百三十三条 弁護人出頭セサルトキ又ハ弁護人ノ選任ナキトキハ法律ニ依リ弁護人ヲ要スル場合又ハ決定ニ依リ弁護人ヲ附シタル場合ヲ除クノ外検事ノ陳述ヲ聴キ判決ヲ為スヘシ
第四百三十四条 上告裁判所ハ上告趣意書ニ包含セラレタル事項ニ限リ調査ヲ為スヘシ
裁判所ノ管轄、公訴ノ受理及判決ニ依リ定リタル事実ニ対スル法令ノ適用ノ当否ニ付テハ職権ヲ以テ調査ヲ為スコトヲ得判決アリタル後ニ於ケル刑ノ廃止若ハ変更又ハ大赦ニ付亦同シ
第二審判決ニ対スル上告事件ニ於テハ第四百十二条乃至第四百十四条ニ規定スル事由ニ付職権ヲ以テ調査ヲ為スコトヲ得
第四百三十五条 上告裁判所ハ裁判所ノ管轄、公訴ノ受理及訴訟手続並第四百十三条ニ規定スル事由ニ関シテハ事実ノ取調ヲ為スコトヲ得
前項ノ取調ハ部員ヲシテ之ヲ為サシメ又ハ予審判事若ハ区裁判所判事ニ之ヲ嘱託スルコトヲ得此ノ場合ニ於テハ受命判事及受託判事ハ予審判事ト同一ノ権ヲ有ス
受命判事又ハ受託判事必要ト認ムルトキハ検事及弁護人ヲシテ前項ノ取調ニ立会ハシムルコトヲ得
受命判事又ハ受託判事ハ取調ノ結果ニ付報告ヲ為スヘシ
第四百三十六条 第一審判決ニ対スル上告事件ニ付テハ第四百三十四条第一項及第二項ノ調査ヲ為シタルトキハ直ニ判決ヲ為スヘシ
第四百三十七条 第二審判決ニ対スル上告事件ニ付テハ先ツ上告ノ理由ト為ルヘキ法令ノ違反及第四百十五条ニ規定スル事由ニ付調査ヲ為スヘシ
第四百三十八条 不法ニ管轄若ハ管轄違ヲ認メ又ハ公訴ヲ受理シ若ハ棄却シタルコトヲ理由トシテ原判決ヲ破毀スヘキ場合ニ於テハ他ノ事項ヲ調査セスシテ直ニ判決ヲ為スヘシ
第四百三十九条 事実ノ確定ニ影響ヲ及ホササル法令ノ違反又ハ判決アリタル後刑ノ廃止若ハ大赦アリタルコトヲ理由トシテ原判決ヲ破毀シ無罪又ハ免訴ノ言渡ヲ為スヘキ場合ニ於テ第四百十三条又ハ第四百十四条ニ規定スル事由ニ因ル検事ノ上告ナキトキハ他ノ事項ヲ調査セスシテ直ニ判決ヲ為スヘシ
第四百四十条 事実ノ確定ニ影響ヲ及ホスヘキ法令ノ違反ヲ理由トシテ原判決ヲ破毀スヘキモノト認ムルトキハ決定ヲ以テ事実ノ審理ヲ為スヘキ旨ヲ言渡スヘシ
第四百四十一条 前三条ノ場合ヲ除クノ外上告裁判所ハ第四百三十七条ノ調査ヲ終ヘタル後第四百十二条乃至第四百十四条ニ規定スル事由ヲ調査スヘシ
第四百四十二条 上告裁判所第四百十二条乃至第四百十四条ニ規定スル事由ナキコト明白ナリト認ムルトキハ其ノ点ニ付弁論ヲ聴カスシテ判決ヲ為スコトヲ得
第四百四十三条 上告裁判所第四百十二条乃至第四百十四条ニ規定スル事由アリト認ムルトキハ検事ノ意見ヲ聴キ決定ヲ以テ事実ノ審理ヲ為スヘキ旨ヲ言渡スヘシ
第四百四十四条 上告裁判所事実ノ審理ヲ為スヘキ旨ヲ言渡シタルトキハ被告事件ニ付更ニ審理ヲ為スヘシ
公判廷ニ於テ取調フルコトヲ不便トスル事項ノ取調ハ部員ヲシテ之ヲ為サシメ又ハ予審判事若ハ区裁判所判事ニ之ヲ嘱託スルコトヲ得此ノ場合ニ於テハ受命判事及受託判事ハ予審判事ト同一ノ権ヲ有ス
受命判事又ハ受託判事必要ト認ムルトキハ検事及弁護人ヲシテ前項ノ取調ニ立会ハシムルコトヲ得
受命判事又ハ受託判事ハ取調ノ結果ニ付報告ヲ為スヘシ
第四百四十五条 上告ノ申立法律上ノ方式ニ違反シ又ハ上告権消滅後ニ為シタルモノナルトキハ判決ヲ以テ上告ヲ棄却スヘシ
第四百四十六条 上告理由ナキトキハ判決ヲ以テ之ヲ棄却スヘシ
第四百四十七条 上告理由アルトキハ判決ヲ以テ原判決ヲ破毀スヘシ
第四百四十八条 前条ノ規定ニ依リ原判決ヲ破毀スルトキハ第四百四十九条及第四百五十条ノ場合ヲ除クノ外被告事件ニ付更ニ判決ヲ為スヘシ
第四百四十九条 不法ニ管轄違ヲ言渡シ又ハ公訴ヲ棄却シタルコトヲ理由トシテ原判決ヲ破毀スルトキハ判決ヲ以テ事件ヲ原裁判所ニ差戻スヘシ但シ必要アルトキハ事件ヲ第一審裁判所ニ差戻スコトヲ得
第四百五十条 不法ニ管轄ヲ認メタルコトヲ理由トシテ原判決ヲ破毀スルトキハ判決ヲ以テ事件ヲ管轄控訴裁判所又ハ管轄第一審裁判所ニ移送スヘシ
第四百五十一条 被告人ノ利益ノ為ニ原判決ヲ破毀スル場合ニ於テ破毀ノ理由上告ヲ為シタル共同被告人ニ共通ナルトキハ其ノ共同被告人ノ為ニモ原判決ヲ破毀スヘシ
第四百五十二条 被告人上告ヲ為シ又ハ被告人ノ為ニ上告ヲ為シタル事件ニ付テハ原判決ノ刑ヨリ重キ刑ヲ言渡スコトヲ得ス
第四百五十三条 判決書ニハ上告ノ趣意及重要ナル答弁ノ要旨ヲ記載スヘシ
第四百五十四条 原裁判所不法ニ公訴棄却ノ決定ヲ為ササリシトキハ決定ヲ以テ公訴ヲ棄却スヘシ
第四百五十五条 第二編中公判ニ関スル規定ハ別段ノ規定アル場合ヲ除クノ外上告ノ審判ニ付之ヲ準用シ第四百四十四条ノ規定ニ依リ被告事件ニ付更ニ審理ヲ為ス場合ニ於テハ尚本編第二章ノ規定ヲ準用ス
第四章 抗告
第四百五十六条 抗告ハ特ニ即時抗告ヲ為シ得ヘキコトヲ定メタル場合ノ外裁判所ノ為シタル決定ニ対シテ之ヲ為スコトヲ得但シ別段ノ規定アル場合ハ此ノ限ニ在ラス
第四百五十七条 裁判所ノ管轄又ハ訴訟手続ニ関シ判決前ニ為シタル決定ニ対シテハ特ニ即時抗告ヲ為シ得ヘキコトヲ定メタル場合ヲ除クノ外抗告ヲ為スコトヲ得ス
前項ノ規定ハ勾留、保釈、押収又ハ押収物ノ還付ニ関スル決定及鑑定ノ為ニスル被告人ノ留置ニ関スル決定ニ付之ヲ適用セス
第四百五十八条 抗告ハ即時抗告ヲ除クノ外何時ニテモ之ヲ為スコトヲ得但シ原決定ヲ取消スモ実益ナキニ至リタルトキハ此ノ限ニ在ラス
第四百五十九条 即時抗告ノ提起期間ハ三日トス
第四百六十条 抗告ヲ為スニハ申立書ヲ原裁判所ニ差出スヘシ
原裁判所抗告ヲ理由アリトスルトキハ決定ヲ更正スヘシ抗告ノ全部又ハ一部ヲ理由ナシトスルトキハ申立書ヲ受取リタル日ヨリ三日内ニ意見書ヲ附シテ之ヲ抗告裁判所ニ送付スヘシ
第四百六十一条 抗告ハ即時抗告ヲ除クノ外裁判ノ執行ヲ停止スル効力ヲ有セス但シ原裁判所ハ検事ノ意見ヲ聴キ決定ヲ以テ抗告ノ裁判アルマテ執行ヲ停止スルコトヲ得
抗告裁判所ハ検事ノ意見ヲ聴キ決定ヲ以テ裁判ノ執行ヲ停止スルコトヲ得
第四百六十二条 即時抗告ノ提起期間内及其ノ申立アリタルトキハ裁判ノ執行ヲ停止ス
第四百六十三条 原裁判所必要ト認ムルトキハ訴訟記録及証拠物ヲ抗告裁判所ニ送付スヘシ
抗告裁判所ハ訴訟記録及証拠物ノ送付ヲ求ムルコトヲ得
第四百六十四条 抗告裁判所ハ検事ノ意見ヲ聴キ決定ヲ為スヘシ
第四百六十五条 抗告裁判所ハ予審終結決定ニ対スル抗告ニ付必要アル場合ニ於テハ部員ヲシテ事実ノ取調ヲ為サシムルコトヲ得此ノ場合ニ於テハ受命判事ハ予審判事ト同一ノ権ヲ有ス
受命判事ハ取調ノ結果ニ付報告ヲ為スヘシ
第四百六十六条 抗告ノ手続其ノ規定ニ違反シタルトキ又ハ抗告理由ナキトキハ抗告ヲ棄却スヘシ
抗告理由アルトキハ原決定ヲ取消シ必要アル場合ニ於テハ更ニ裁判ヲ為スヘシ
第四百六十七条 抗告裁判所ノ決定ハ之ヲ原裁判所ニ通知スヘシ
第四百六十八条 第四百六十条、第四百六十三条及前条ノ規定ハ予審終結決定ニ対スル抗告ニ付之ヲ準用ス
第四百六十九条 抗告裁判所ノ決定ニ対シテハ抗告ヲ為スコトヲ得ス但シ左ニ掲クル抗告ニ付テノ決定ニ対シテハ即時抗告ヲ為スコトヲ得
一 公判ニ於ケル公訴棄却ノ決定ニ対スル抗告
二 控訴ノ申立ヲ棄却スル決定又ハ上訴権回復ノ請求ニ付テノ決定ニ対スル抗告
三 再審ノ請求ニ付テノ決定ニ対スル抗告
四 刑法第五十二条又ハ第五十八条ノ規定ニ依リ刑ヲ定ムル決定ニ対スル抗告
五 裁判ノ疑義又ハ刑ノ執行ノ異議ニ付テノ決定ニ対スル抗告
六 証人、鑑定人、通事、翻訳人其ノ他ノ者ノ受ケタル決定ニ対スル抗告
第四百七十条 裁判長、受命判事又ハ予審判事左ニ掲クル裁判ヲ為シタル場合ニ於テ不服アル者ハ判事所属ノ裁判所ニ其ノ裁判ノ取消又ハ変更ヲ請求スルコトヲ得
一 忌避ノ申立ヲ却下スル裁判
二 勾留、保釈、押収又ハ押収物ノ還付ニ関スル裁判
三 鑑定ノ為被告人ノ留置ヲ命スル裁判
四 証人、鑑定人、通事又ハ翻訳人ニ対シテ過料又ハ費用ノ賠償ヲ命スル裁判
区裁判所判事前項第一号ノ裁判ヲ為シ又ハ受託判事トシテ前項第二号乃至第四号ノ裁判ヲ為シタル場合ニ於テハ其ノ裁判所ヲ管轄スル地方裁判所ニ其ノ裁判ノ取消又ハ変更ヲ請求スルコトヲ得
第一項第四号ノ裁判ノ取消又ハ変更ノ請求ハ其ノ裁判アリタル日ヨリ三日内ニ之ヲ為スヘシ
前項ノ請求期間内及其ノ請求アリタルトキハ裁判ノ執行ヲ停止ス
第四百七十一条 検事ノ為シタル勾留、押収又ハ押収物ノ還付ニ関スル処分ニ不服アル者ハ検事所属ノ裁判所ニ其ノ処分ノ取消又ハ変更ヲ請求スルコトヲ得
司法警察官ノ為シタル押収又ハ押収物ノ還付ニ関スル処分ニ不服アル者ハ司法警察官ノ職務執行地ヲ管轄スル区裁判所ニ其ノ処分ノ取消又ハ変更ヲ請求スルコトヲ得
第四百七十二条 前二条ニ規定スル請求ヲ為スニハ請求書ヲ管轄裁判所ニ差出スヘシ
第四百七十三条 第四百六十一条、第四百六十三条、第四百六十四条、第四百六十六条及第四百六十七条ノ規定ハ第四百七十条又ハ第四百七十一条ノ請求アリタル場合ニ之ヲ準用ス
第四百七十四条 第四百七十条及第四百七十一条ノ請求ニ付為シタル決定ニ対シテハ抗告ヲ為スコトヲ得ス但シ第四百七十条第四号ノ裁判ノ取消又ハ変更ノ請求ニ付為シタル決定ニ対シテハ即時抗告ヲ為スコトヲ得
第四編 大審院ノ特別権限ニ属スル訴訟手続
第四百七十五条 裁判所構成法第五十条第二号ニ掲クル大審院ノ特別権限ニ属スル罪ニ付テハ検事総長捜査ヲ為スヘシ
第四百七十六条 控訴院、地方裁判所又ハ区裁判所ノ検事ハ検事総長ノ指揮ヲ受ケ大審院ノ特別権限ニ属スル罪ニ付捜査ヲ為スヘシ
第四百七十七条 第二百四十七条、第二百四十八条又ハ第二百五十条ニ規定スル司法警察官ハ検事総長ノ指揮ヲ受ケ大審院ノ特別権限ニ属スル罪ニ付捜査ヲ為スヘシ
第二百四十九条又ハ第二百五十条ニ規定スル司法警察吏ハ検事又ハ司法警察官ノ命令ヲ受ケ捜査ノ補助ヲ為スヘシ
第四百七十八条 検事又ハ司法警察官大審院ノ特別権限ニ属スル罪アリト思料スルトキハ直ニ検事総長ニ報告スヘシ急速ヲ要スル場合ニ於テハ報告前捜査ニ付必要ナル処分ヲ為スコトヲ得
第四百七十九条 検事総長捜査ヲ為シタル後大審院ノ特別権限ニ属スル罪アリト思料スルトキハ予審ヲ請求スヘシ
第四百八十条 検事総長ハ大審院ノ特別権限ニ属スル事件ト牽連スル他ノ事件ニ付併セテ予審ヲ請求スルコトヲ得
第四百八十一条 大審院ハ検事総長ノ請求ニ因リ前条ノ規定ニ依リ予審ヲ請求シタル事件ヲ管轄地方裁判所ノ予審判事ニ移送スルコトヲ得
第四百八十二条 大審院長ヨリ予審ヲ命セラレタル判事被告事件ニ付取調ヲ終ヘタルトキハ意見書ヲ添ヘ書類及証拠物ヲ大審院ニ送付スヘシ
第四百八十三条 大審院ハ検事総長ノ意見ヲ聴キ左ノ区別ニ従ヒ決定ヲ為スヘシ
一 被告事件公判ニ付スヘキモノト認ムルトキハ公判ヲ開始スル決定
二 被告事件下級裁判所ノ管轄ニ属スルモノト認ムルトキハ管轄権ヲ有スル裁判所ニ之ヲ移送スル決定
三 被告事件前二号ノ規定ニ該当セサル場合ニ於テハ第三百十三条乃至第三百十五条ノ規定ニ準シ免訴シ又ハ公訴ヲ棄却スル決定
第四百八十四条 第二編ノ規定ハ別段ノ規定アル場合ヲ除クノ外大審院ノ特別権限ニ属スル事件ニ付之ヲ準用ス
第五編 再審
第四百八十五条 再審ノ請求ハ左ノ場合ニ於テ有罪ノ言渡ヲ為シタル確定判決ニ対シテ其ノ言渡ヲ受ケタル者ノ利益ノ為ニ之ヲ為スコトヲ得
一 原判決ノ憑拠ト為リタル証拠書類又ハ証拠物確定判決ニ因リ偽造又ハ変造ナリシコト証明セラレタルトキ
二 原判決ノ憑拠ト為リタル証言、鑑定、通訳又ハ翻訳確定判決ニ因リ虚偽ナリシコト証明セラレタルトキ
三 有罪ノ言渡ヲ受ケタル者ヲ誣告シタル罪確定判決ニ因リ証明セラレタルトキ但シ誣告ニ因リ有罪ノ言渡ヲ受ケタルトキニ限ル
四 原判決ノ憑拠ト為リタル通常裁判所又ハ特別裁判所ノ裁判確定裁判ニ因リ変更セラレタルトキ
五 特許権、実用新案権、意匠権又ハ商標権ヲ害シタル罪ニ因リ有罪ノ言渡ヲ為シタル事件ニ付其ノ権利ノ無効ノ審決確定シタルトキ又ハ無効ノ判決アリタルトキ
六 有罪ノ言渡ヲ受ケタル者ニ対シテ無罪若ハ免訴ヲ言渡シ、刑ノ言渡ヲ受ケタル者ニ対シテ刑ノ免除ヲ言渡シ又ハ原判決ニ於テ認メタル罪ヨリ軽キ罪ヲ認ムヘキ明確ナル証拠ヲ新ニ発見シタルトキ
七 原判決若ハ前審ノ判決若ハ其ノ判決ノ基礎ト為リタル取調ニ関与シタル判事、予審終結決定若ハ其ノ基礎ト為リタル取調ニ関与シタル判事、公訴ノ提起若ハ其ノ基礎ト為リタル捜査ニ関与シタル検事又ハ第二百五十五条ノ規定ニ依リ公訴提起ノ基礎ト為リタル処分ヲ為シタル判事被告事件ニ付職務ニ関スル罪ヲ犯シタルコト確定判決ニ因リ証明セラレタルトキ但シ原判決ヲ為ス前判事又ハ検事ニ対シテ公訴ノ提起アリタル場合ニ於テハ原判決ヲ為シタル裁判所其ノ事実ヲ知ラサリシトキニ限ル
第四百八十六条 再審ノ請求ハ左ノ場合ニ於テ有罪ノ言渡ヲ為スヘキ事件ニ付無罪若ハ免訴ノ言渡ヲ為シタル確定判決、刑ノ言渡ヲ為スヘキ事件ニ付刑ノ免除ノ言渡ヲ為シタル確定判決、相当ノ罪ヨリ軽キ罪ニ付有罪ノ言渡ヲ為シタル確定判決又ハ不法ニ公訴ヲ棄却シタル確定判決ニ対シテ之ヲ為スコトヲ得
一 前条第一号、第二号、第四号又ハ第七号ニ規定スル原由アルトキ
二 死刑又ハ無期若ハ短期一年以上ノ懲役若ハ禁錮ニ該ル罪ヲ犯シタル者無罪又ハ相当ノ罪ヨリ軽キ罪ニ付有罪ノ言渡ヲ受ケタル後裁判上又ハ裁判外ニ於テ其ノ事実ヲ陳述シタルトキ
三 死刑又ハ無期若ハ短期一年以上ノ懲役若ハ禁錮ニ該ル罪ヲ犯シタル者刑ノ免除若ハ免訴又ハ公訴棄却ノ言渡ヲ受ケタル後裁判上又ハ裁判外ニ於テ其ノ原由ナカリシコトヲ陳述シタルトキ
第四百八十七条 再審ノ請求ハ左ノ場合ニ於テ控訴ヲ棄却シタル確定判決ニ対シテ之ヲ為スコトヲ得
一 第四百八十五条第一号又ハ第二号ニ規定スル原由アルトキ
二 原判決又ハ其ノ基礎ト為リタル取調ニ関与シタル判事ニ付第四百八十五条第七号ニ規定スル原由アルトキ
第一審ノ確定判決ニ対シテ再審ノ請求ヲ為シタル事件ニ付再審ノ判決アリタル後ハ控訴棄却ノ判決ニ対シテ再審ノ請求ヲ為スコトヲ得ス
第四百八十八条 再審ノ請求ハ左ノ場合ニ於テ上告ヲ棄却シタル判決ニ対シテ之ヲ為スコトヲ得
一 第四百三十五条ノ規定ニ依リ取調ヘタル事実ニ付第四百八十五条第一号又ハ第二号ニ規定スル原由アルトキ
二 原判決又ハ其ノ基礎ト為リタル取調ニ関与シタル判事ニ付第四百八十五条第七号ニ規定スル原由アルトキ
第一審又ハ第二審ノ確定判決ニ対シテ再審ノ請求ヲ為シタル事件ニ付再審ノ判決アリタル後ハ上告棄却ノ判決ニ対シテ再審ノ請求ヲ為スコトヲ得ス
第四百八十九条 第四百八十五条乃至前条ノ規定ニ従ヒ確定判決ニ因リ犯罪ノ証明セラレタルコトヲ再審ノ原由ト為スヘキ場合ニ於テ其ノ確定判決ヲ得ルコト能ハサルトキハ其ノ事実ヲ証明シテ再審ノ請求ヲ為スコトヲ得但シ証拠ナキノ理由ニ因リ確定判決ヲ得ルコト能ハサルトキハ此ノ限ニ在ラス
第四百九十条 再審ノ請求ハ別段ノ規定アル場合ヲ除クノ外原判決ヲ為シタル裁判所之ヲ管轄ス
第四百九十一条 判決ノ一部第二審ニ於テ確定シ其ノ部分ニ対スル再審ノ請求ニ付再審開始ノ決定アリタルトキハ第一審ニ於テ確定シタル部分ニ対スル再審ノ請求ハ控訴裁判所之ヲ管轄ス
判決ノ一部上告審ニ於テ確定シ其ノ部分ニ対スル再審ノ請求ニ付再審開始ノ決定アリタルトキハ第一審又ハ第二審ニ於テ確定シタル部分ニ対スル再審ノ請求ハ上告裁判所之ヲ管轄ス
第四百九十二条 有罪ノ言渡ヲ受ケタル者ノ利益ノ為ニスル再審ノ請求ハ左ニ掲クル者之ヲ為スコトヲ得
一 管轄裁判所ノ検事
二 有罪ノ言渡ヲ受ケタル者
三 有罪ノ言渡ヲ受ケタル者ノ法定代理人、保佐人及夫
四 有罪ノ言渡ヲ受ケタル者死亡シ又ハ心神喪失ノ状態ニ在ル場合ニ於テハ其ノ配偶者、家督相続人、直系ノ親族及兄弟姉妹
第四百八十五条第七号、第四百八十七条第二号又ハ第四百八十八条第二号ニ規定スル原由ニ因ル再審ノ請求ニシテ有罪ノ言渡ヲ受ケタル者ノ利益ノ為ニスルモノハ有罪ノ言渡ヲ受ケタル者ノ行為罪ヲ犯スニ至ラシメタル場合ニ於テハ検事ニ非サレハ之ヲ為スコトヲ得ス
第四百八十六条ノ規定ニ依ル再審ノ請求ハ管轄裁判所ノ検事之ヲ為スコトヲ得第四百八十七条又ハ第四百八十八条ノ規定ニ依ル再審ノ請求ニシテ第一項ノ規定ニ該当セサルモノニ付亦同シ
第四百九十三条 検事ニ非サル者再審ノ請求ヲ為ス場合ニ於テハ弁護人ヲ選任スルコトヲ得
前項ノ規定ニ依ル弁護人ノ選任ハ再審ノ判決アル迄其ノ効力ヲ有ス
第四百九十四条 再審ノ請求ハ刑ノ執行終リ又ハ其ノ執行ヲ受クルコトナキニ至リタルトキト雖之ヲ為スコトヲ得
第四百九十五条 第四百八十六条ノ規定ニ依ル再審ノ請求ハ判決確定後公訴ノ時効期間ニ相当スル期間ヲ経過シタル後ニ於テハ之ヲ為スコトヲ得ス第四百八十七条又ハ第四百八十八条ノ規定ニ依ル再審ノ請求ニシテ第四百九十二条第一項ノ規定ニ該当セサルモノニ付亦同シ
第四百九十六条 再審ノ請求ハ刑ノ執行ヲ停止スル効力ヲ有セス但シ管轄裁判所ノ検事ハ再審ノ請求ニ付テノ決定アル迄刑ノ執行ヲ停止スルコトヲ得
第四百九十七条 再審ノ請求ヲ為スニハ其ノ趣意書ニ原判決ノ謄本、証拠書類及証拠物ヲ添ヘ之ヲ管轄裁判所ニ差出スヘシ
第四百九十八条 再審ノ請求ハ之ヲ取下クルコトヲ得
再審ノ請求ヲ取下ケタル者ハ同一ノ原由ニ因リ更ニ再審ノ請求ヲ為スコトヲ得ス
第四百九十九条 第三百八十五条、第三百九十一条及第三百九十三条ノ規定ハ再審ノ請求又ハ其ノ取下ニ付之ヲ準用ス
第五百条 第四百九十一条第一項ノ場合ニ於テ第一審裁判所控訴裁判所ノ再審開始ノ決定前再審ノ請求ヲ受ケタルトキハ決定ヲ以テ事件ヲ控訴裁判所ニ送致スヘシ
第四百九十一条第二項ノ場合ニ於テ第一審裁判所又ハ控訴裁判所上告裁判所ノ再審開始ノ決定前再審ノ請求ヲ受ケタルトキハ決定ヲ以テ事件ヲ上告裁判所ニ送致スヘシ
第五百一条 第一審ノ確定判決ト控訴ヲ棄却シタル確定判決トニ対シテ再審ノ請求アリタルトキハ控訴裁判所ハ決定ヲ以テ第一審裁判所ノ訴訟手続終了スルニ至ル迄訴訟手続ヲ停止スヘシ
第五百二条 第一審又ハ第二審ノ確定判決ト上告ヲ棄却シタル判決トニ対シテ再審ノ請求アリタルトキハ上告裁判所ハ決定ヲ以テ第一審裁判所又ハ控訴裁判所ノ訴訟手続終了スルニ至ル迄訴訟手続ヲ停止スヘシ
第五百三条 再審ノ請求ヲ受ケタル裁判所ハ必要アル場合ニ於テハ部員ヲシテ再審ノ原由ニ付事実ノ取調ヲ為サシメ又ハ予審判事若ハ区裁判所判事ニ其ノ取調ヲ嘱託スルコトヲ得此ノ場合ニ於テハ受命判事及受託判事ハ予審判事ト同一ノ権ヲ有ス
受命判事又ハ受託判事必要ト認ムルトキハ検事及弁護人ヲシテ前項ノ取調ニ立会ハシムルコトヲ得
受命判事又ハ受託判事ハ取調ノ結果ニ付報告ヲ為スヘシ
第五百四条 再審ノ請求法律上ノ方式ニ違反シ又ハ請求権消滅後ニ為シタルモノナルトキハ決定ヲ以テ之ヲ棄却スヘシ
第五百五条 再審ノ請求ヲ理由ナシトスルトキハ決定ヲ以テ之ヲ棄却スヘシ
前項ノ決定アリタルトキハ同一ノ原由ニ因リ再審ノ請求ヲ為スコトヲ得ス
第五百六条 再審ノ請求ヲ理由アリトスルトキハ再審開始ノ決定ヲ為スヘシ
再審開始ノ決定ヲ為シタルトキハ決定ヲ以テ刑ノ執行ヲ停止スルコトヲ得
第五百七条 第五百一条ノ場合ニ於テ第一審裁判所再審ノ判決ヲ為シタルトキハ控訴裁判所ハ決定ヲ以テ再審ノ請求ヲ棄却スヘシ
第五百八条 第五百二条ノ場合ニ於テ第一審裁判所又ハ控訴裁判所再審ノ判決ヲ為シタルトキハ上告裁判所ハ決定ヲ以テ再審ノ請求ヲ棄却スヘシ
第五百九条 再審ノ請求ニ付決定ヲ為ス場合ニ於テハ請求ヲ為シタル者及其ノ対手人ノ意見ヲ聴クヘシ第四百九十二条第一項第三号ニ掲クル者請求ヲ為シタル場合ニ於テハ尚有罪ノ言渡ヲ受ケタル者ノ意見ヲ聴クヘシ
第五百十条 第五百四条、第五百五条、第五百六条第一項、第五百七条又ハ第五百八条ノ決定ニ対シテハ即時抗告ヲ為スコトヲ得
第五百十一条 裁判所ハ再審開始ノ決定確定シタル事件ニ付テハ第五百条、第五百七条及第五百八条ノ場合ヲ除クノ外其ノ審級ニ従ヒ更ニ審判ヲ為スヘシ
第五百十二条 死亡者又ハ回復ノ見込ナキ心神喪失者ノ利益ノ為ニ再審ノ請求ヲ為シタル事件ニ付テハ公判ヲ開カス検事及弁護人ノ意見ヲ聴キ判決ヲ為スヘシ此ノ場合ニ於テ再審ノ請求ヲ為シタル者弁護人ヲ選任セサルトキハ裁判長ハ職権ヲ以テ弁護人ヲ附スヘシ
有罪ノ言渡ヲ受ケタル者ノ利益ノ為ニ再審ノ請求ヲ為シタル事件ニ付再審ノ判決ヲ為ス前有罪ノ言渡ヲ受ケタル者死亡シ又ハ心神喪失ノ状態ニ在リテ回復ノ見込ナキニ至リタルトキ亦前項ニ同シ
前二項ノ規定ニ依リ為シタル判決ニ対シテハ上訴ヲ為スコトヲ得ス
第四十三条ノ規定ハ第一項又ハ第二項ノ規定ニ依リ弁護人ヲ附スル場合ニ之ヲ準用ス
第五百十三条 第四百八十六条ノ規定ニ依リ再審ノ請求ヲ為シタル事件ニ付再審ノ判決ヲ為ス前有罪ノ言渡ヲ受ケタル者又ハ被告人タリシ者死亡シタルトキハ再審ノ請求及其ノ請求ニ付為シタル決定ハ其ノ効力ヲ失フ第四百八十七条又ハ第四百八十八条ノ規定ニ依ル再審ノ請求ニシテ第四百九十二条第一項ノ規定ニ該当セサルモノニ付亦同シ
第五百十四条 有罪ノ言渡ヲ受ケタル者ノ利益ノ為ニ為シタル再審ニ於テハ原判決ノ刑ヨリ重キ刑ヲ言渡スコトヲ得ス
第五百十五条 有罪ノ言渡ヲ受ケタル者ノ利益ノ為ニ為シタル再審ニ於テ無罪ノ言渡ヲ為シタルトキハ官報及新聞紙ニ掲載シテ其ノ判決ヲ公示スヘシ
第六編 非常上告
第五百十六条 判決確定後其ノ事件ノ審判法令ニ違反シタルコトヲ発見シタルトキハ検事総長ハ大審院ニ非常上告ヲ為スコトヲ得
第五百十七条 非常上告ヲ為スニハ其ノ理由ヲ記載シタル申立書ヲ大審院ニ差出スヘシ
第五百十八条 公判期日ニハ検事ハ申立書ニ基キ陳述ヲ為スヘシ
第五百十九条 非常上告ヲ理由ナシトスルトキハ判決ヲ以テ之ヲ棄却スヘシ
第五百二十条 非常上告ヲ理由アリトスルトキハ左ノ区別ニ従ヒ判決ヲ為スヘシ
一 原判決法令ニ違反シタルトキハ其ノ違反シタル部分ヲ破毀ス但シ原判決被告人ノ為不利益ナルトキハ之ヲ破毀シ被告事件ニ付判決ヲ為ス
二 訴訟手続法令ニ違反シタルトキハ其ノ違反シタル手続ヲ破毀ス
第五百二十一条 非常上告ノ判決ハ前条第一号但書ノ規定ニ依リ為シタルモノヲ除クノ外其ノ効力ヲ被告人ニ及ホサス
第五百二十二条 第四百三十四条第一項及第四百三十五条ノ規定ハ非常上告ニ付之ヲ準用ス
第七編 略式手続
第五百二十三条 区裁判所ハ検事ノ請求ニ因リ其ノ管轄ニ属スル事件ニ付公判前略式命令ヲ以テ罰金又ハ科料ヲ科スルコトヲ得
前項ノ場合ニ於テハ没収ヲ科シ其ノ他附随ノ処分ヲ為スコトヲ得
略式命令ハ被告人ニ裁判書ノ謄本ヲ送達シテ之ヲ為ス
裁判所書記本人ニ謄本ヲ交付シタルトキハ送達アリタルモノト看做ス
第五百二十四条 略式命令ノ請求ハ公訴ノ提起ト同時ニ書面ヲ以テ之ヲ為スヘシ
第五百二十五条 前条ノ請求アリタル場合ニ於テ其ノ事件略式命令ヲ為スコトヲ得ス又ハ之ヲ為スコトヲ相当ナラスト思料スルトキハ通常ノ規定ニ従ヒ審判ヲ為スヘシ
第五百二十六条 裁判書ニハ罪ト為ルヘキ事実、適用シタル法令、科スヘキ刑及附随ノ処分並謄本ノ送達アタリル日ヨリ七日内ニ正式裁判ノ請求ヲ為スコトヲ得ヘキ旨ヲ示スヘシ
第五百二十七条 略式命令ヲ為シタルトキハ検事ニ裁判書ノ謄本ヲ送達スヘシ
第五百二十八条 略式命令ヲ受ケタル者ハ謄本ノ送達アリタル日ヨリ七日内ニ正式裁判ノ請求ヲ為スコトヲ得
正式裁判ノ請求ハ略式命令ヲ為シタル裁判所ニ書面ヲ以テ之ヲ為スヘシ正式裁判ノ請求アリタルトキハ裁判所ハ速ニ其ノ旨ヲ検事ニ通知スヘシ
第五百二十九条 第三百八十七条乃至第三百九十条ノ規定ハ正式裁判ノ請求ニ付之ヲ準用ス
第五百三十条 正式裁判ノ請求ハ第一審ノ判決アル迄之ヲ取下クルコトヲ得
第五百三十一条 正式裁判ノ請求法律上ノ方式ニ違反シ又ハ請求権消滅後ニ為シタルモノナルトキハ検事ノ意見ヲ聴キ決定ヲ以テ之ヲ棄却スヘシ此ノ決定ニ対シテハ即時抗告ヲ為スコトヲ得
正式裁判ノ請求ヲ適法トスルトキハ通常ノ規定ニ従ヒ審判ヲ為スヘシ此ノ場合ニ於テハ略式命令ニ拘束セラルルコトナシ
第五百三十二条 正式裁判ノ請求ニ因リ判決ヲ為シタルトキハ略式命令ハ其ノ効力ヲ失フ
第五百三十三条 略式命令ハ正式裁判ノ請求期間ノ経過又ハ其ノ請求ノ取下ニ因リ確定判決ト同一ノ効力ヲ生ス正式裁判ノ請求ヲ棄却スル裁判確定シタルトキ亦同シ
第八編 裁判ノ執行
第五百三十四条 裁判ハ確定シタル後之ヲ執行ス但シ別段ノ規定アル場合ハ此ノ限ニ在ラス
第五百三十五条 裁判ノ執行ハ其ノ裁判ヲ為シタル裁判所ノ検事之ヲ指揮ス但シ其ノ性質上裁判所又ハ裁判長、受命判事、予審判事又ハ区裁判所判事ノ為スヘキモノハ此ノ限ニ在ラス
上訴ノ裁判又ハ上訴ノ取下ニ因リ下級裁判所ノ裁判ヲ執行スヘキ場合ニ於テハ上訴裁判所ノ検事其ノ執行ヲ指揮ス但シ訴訟記録下級裁判所ニ在ルトキハ其ノ裁判所ノ検事之ヲ指揮ス
第五百三十六条 裁判執行ノ指揮ハ書面ヲ以テ之ヲ為シ之ニ裁判書又ハ裁判ヲ記載シタル調書ノ謄本又ハ抄本ヲ添附スヘシ但シ刑ノ執行ヲ指揮スル場合ヲ除クノ外裁判書ノ原本、謄本若ハ抄本又ハ調書ノ謄本若ハ抄本ニ認印シテ之ヲ為スコトヲ得
第五百三十七条 二以上ノ主刑ノ執行ハ罰金及科料ヲ除クノ外其ノ重キモノヲ先ニス但シ検事ハ重キ刑ノ執行ヲ停止シ他ノ刑ノ執行ヲ為サシムルコトヲ得
第五百三十八条 死刑ノ執行ハ司法大臣ノ命令ニ依ル
第五百三十九条 死刑ヲ言渡シタル判決確定シタルトキハ検事ハ速ニ訴訟記録ヲ司法大臣ニ差出スヘシ
第五百四十条 司法大臣死刑ノ執行ヲ命シタルトキハ五日内ニ其ノ執行ヲ為スヘシ
第五百四十一条 死刑ノ執行ハ検事及裁判所書記ノ立会ニテ之ヲ為スヘシ
検事又ハ監獄ノ長ノ許可ヲ得タル者ニ非サレハ刑場ニ入ルコトヲ得ス
第五百四十二条 死刑ノ執行ニ立会ヒタル裁判所書記ハ執行始末書ヲ作リ検事及監獄ノ長ト共ニ之ニ署名捺印スヘシ
第五百四十三条 死刑ノ言渡ヲ受ケタル者心神喪失ノ状態ニ在ルトキハ司法大臣ノ命令ニ因リ執行ヲ停止ス
死刑ノ言渡ヲ受ケタル婦女懐胎ナルトキハ司法大臣ノ命令ニ因リ執行ヲ停止ス
前二項ノ規定ニ依リ死刑ノ執行ヲ停止シタル場合ニ於テハ痊癒又ハ分娩ノ後司法大臣ノ命令アルニ非サレハ執行ヲ為スコトヲ得ス
第五百四十四条 懲役、禁錮又ハ拘留ノ言渡ヲ受ケタル者心神喪失ノ状態ニ在ルトキハ刑ノ言渡ヲ為シタル裁判所ノ検事又ハ刑ノ言渡ヲ受ケタル者ノ現在地ヲ管轄スル地方裁判所ノ検事ノ指揮ニ因リ其ノ痊癒ニ至ル迄執行ヲ停止ス
第五百四十五条 前条ノ規定ニ依リ刑ノ執行ヲ停止シタル場合ニ於テハ検事ハ刑ノ言渡ヲ受ケタル者ヲ監護義務者又ハ市町村長ニ引渡シ病院其ノ他適当ノ場所ニ入レシムルコトヲ得
刑ノ執行ヲ停止セラレタル者ハ前項ノ処分アル迄之ヲ監獄ニ留置シ其ノ期間ヲ刑期ニ算入ス
第五百四十六条 懲役、禁錮又ハ拘留ノ言渡ヲ受ケタル者ニ付左ニ掲クル事由アルトキハ刑ノ言渡ヲ為シタル裁判所ノ検事又ハ刑ノ言渡ヲ受ケタル者ノ現在地ヲ管轄スル地方裁判所ノ検事ノ指揮ニ因リ刑ノ執行ヲ停止スルコトヲ得
一 刑ノ執行ニ因リ著シク健康ヲ害スルトキ又ハ生命ヲ保ツコト能ハサル虞アルトキ
二 七十歳以上ナルトキ
三 受胎後百五十日以上ナルトキ
四 分娩後六十日ヲ経過セサルトキ
五 刑ノ執行ニ因リ回復スヘカラサル不利益ヲ生スル虞アルトキ
六 祖父母又ハ父母七十歳以上又ハ廃篤疾ニシテ侍養ノ子孫ナキトキ
七 其ノ他重大ナル事由アルトキ
第五百四十七条 死刑、懲役、禁錮又ハ拘留ノ言渡ヲ受ケタル者拘禁中ニ非サルトキハ検事ハ執行ノ為之ヲ召喚スヘシ召喚ニ応セサルトキハ逮捕状ヲ発スヘシ
第五百四十八条 死刑、懲役、禁錮又ハ拘留ノ言渡ヲ受ケタル者逃亡シタルトキ又ハ逃亡スル虞アルトキハ検事ハ直ニ逮捕状ヲ発シ又ハ司法警察官ヲシテ之ヲ発セシムルコトヲ得
第五百四十九条 死刑、懲役、禁錮又ハ拘留ノ言渡ヲ受ケタル者ノ現在地ヲ覚知スルコト能ハサルトキハ検事ハ検事長ニ人相書ヲ送付シ其ノ逮捕ヲ請求スルコトヲ得
請求ヲ受ケタル検事長ハ其ノ管内ノ検事ヲシテ逮捕状ヲ発シ逮捕ノ手続ヲ為サシムヘシ
第五百五十条 逮捕状ニハ刑ノ言渡ヲ受ケタル者ノ氏名、住居、年齢、刑名、刑期其ノ他逮捕ニ必要ナル事項ヲ記載シ検事又ハ司法警察官之ニ記名捺印スヘシ
必要アル場合ニ於テハ逮捕状ニ人相書ヲ添附スヘシ
第五百五十一条 逮捕状ハ勾引状ト同一ノ効力ヲ有ス
第五百五十二条 逮捕状ノ執行ニ付テハ勾引状ノ執行ニ関スル規定ヲ準用ス
第五百五十三条 罰金、科料、没収、追徴、過料、没取、訴訟費用又ハ費用賠償ノ裁判ハ検事ノ命令ニ因リ之ヲ執行ス此ノ命令ハ執行力アル債務名義ト同一ノ効力ヲ有ス
前項ノ裁判ノ執行ニ付テハ民事訴訟法ヲ準用ス但シ執行前裁判ノ送達ヲ為スコトヲ要セス
第五百五十四条 没収又ハ租税其ノ他ノ公課若ハ専売ニ関スル法令ノ規定ニ依リ言渡シタル罰金若ハ追徴ハ刑ノ言渡ヲ受ケタル者判決確定後死亡シタル場合ニ於テハ相続財産ニ就キ之ヲ執行スルコトヲ得
刑ノ言渡ヲ受ケタル者ノ死亡ニ非サル事由ニ因リ相続開始シタルトキハ罰金、没収又ハ追徴ハ相続財産ニ就キ之ヲ執行スルコトヲ得
第五百五十五条 法人ニ対シ罰金、科料、没収又ハ追徴ヲ言渡シタル場合ニ於テ其ノ判決確定後合併ニ因リ法人消滅シタルトキハ合併後存続スル法人又ハ合併ニ因リ設立シタル法人ニ対シテ執行ヲ為スコトヲ得
第五百五十六条 上訴申立後ノ未決勾留ノ日数ハ左ノ例ニ依リ之ヲ本刑ニ通算ス
一 検事ノ上訴ナルトキハ勾留日数ノ全部
二 検事ニ非サル者ノ上訴ニシテ其ノ理由アルトキハ勾留日数ノ全部
前項ノ規定ニ依ル通算ニ付テハ未決勾留一日ヲ刑期ノ一日又ハ金額ノ一円ニ折算ス
上告裁判所原判決ヲ破毀シタル後ノ未決勾留ハ上告中ノ未決勾留日数ニ準シ之ヲ通算ス
第五百五十七条 没収物ハ検事之ヲ処分スヘシ
第五百五十八条 没収ノ執行後三月内ニ権利ヲ有スル者ヨリ没収物ノ交付ヲ請求シタルトキハ検事ハ破壊又ハ廃棄スヘキ物ヲ除クノ外之ヲ交付スヘシ
没収物ヲ処分シタル後前項ノ請求アリタル場合ニ於テハ検事ハ公売ニ因リテ得タル代価ヲ交付スヘシ
第五百五十九条 偽造又ハ変造ニ係ル物ヲ返還スル場合ニ於テハ偽造又ハ変造ノ部分ヲ其ノ物ニ表示スヘシ
偽造又ハ変造ニ係ル物押収セラレサルトキハ之ヲ提出セシメテ前項ニ規定スル手続ヲ為スヘシ但シ其ノ物公務所ニ属スルトキハ偽造又ハ変造ノ部分ヲ公務所ニ通知シテ相当ノ処分ヲ為サシムヘシ
第五百六十条 押収物ノ還付ヲ受クヘキ者ノ所在不明ナル為又ハ其ノ他ノ事由ニ因リ其ノ物ヲ還付スルコト能ハサル場合ニ於テハ検事ハ其ノ旨ヲ公告スヘシ
公告ヲ為シタル時ヨリ六月内ニ還付ノ請求ナキトキハ其ノ物ハ国庫ニ帰属ス
前項ノ期間内ト雖価値ナキ物ハ之ヲ廃棄シ保管ニ不便ナル物ハ之ヲ公売シテ其ノ代価ヲ保管スルコトヲ得
第五百六十一条 刑ノ言渡ヲ受ケタル者裁判ノ解釈ニ付疑アルトキハ言渡ヲ為シタル裁判所ニ疑義ノ申立ヲ為スコトヲ得
第五百六十二条 裁判ノ執行ヲ受クル者又ハ其ノ法定代理人、保佐人若ハ夫執行ニ関シ検事ノ為シタル処分ヲ不当トスルトキハ言渡ヲ為シタル裁判所ニ異議ノ申立ヲ為スコトヲ得
第五百六十三条 疑義又ハ異議ノ申立ハ書面ヲ以テ之ヲ為スヘシ
疑義又ハ異議ノ申立ハ決定アル迄之ヲ取下クルコトヲ得
疑義又ハ異議ノ取下ハ書面ヲ以テ之ヲ為スヘシ
第三百九十一条ノ規定ハ疑義又ハ異議ノ申立及其ノ取下ニ付之ヲ準用ス
第五百六十四条 疑義又ハ異議ノ申立ヲ受ケタル裁判所ハ検事ノ意見ヲ聴キ決定ヲ為スヘシ此ノ決定ニ対シテハ即時抗告ヲ為スコトヲ得
第五百六十五条 罰金又ハ科料ヲ完納スルコト能ハサル為為シタル労役場留置ノ執行ニ付テハ刑ノ執行ニ関スル規定ヲ準用ス
第五百六十六条 第五百五十三条第一項ノ裁判ノ執行ノ費用ハ執行ヲ受クル者ノ負担トシ民事訴訟法ニ準シ執行ト同時ニ之ヲ取立ツヘシ
第九編 私訴
第一章 通則
第五百六十七条 犯罪ニ因リ身体、自由、名誉又ハ財産ヲ害セラレタル者ハ其ノ損害ヲ原因トスル請求ニ付公訴ニ附帯シ公訴ノ被告人ニ対シテ私訴ヲ提起スルコトヲ得
第五百六十八条 私訴ハ公訴ニ付第一審ノ弁論終結スルニ至ル迄之ヲ提起スルコトヲ得但シ予審中ハ之ヲ提起スルコトヲ得ス
第五百六十九条 公訴ニ付第三条、第四条、第六条、第七条、第九条第二項、第十条第二項、第二十三条又ハ第三百五十六条但書ノ決定アリタルトキハ私訴ニ付亦同一ノ決定アリタルモノト看做ス
公訴ニ付管轄違ノ言渡ヲ為シタルトキハ私訴ニ付亦同一ノ言渡ヲ為スヘシ
第五百七十条 私訴ノ判決ハ公訴ノ判決ニ於テ認メタル事実ニ基キ之ヲ為スヘシ但シ請求ノ抛棄ニ基キテ為ス判決ハ此ノ限ニ在ラス
第五百七十一条 私訴ニ関スル書類ニハ印紙ヲ貼用スルコトヲ要セス但シ民事部ニ差戻シ又ハ移送シタルトキハ此ノ限ニ在ラス
第五百七十二条 民事訴訟法中左ニ掲クル事項ニ関スル規定ハ私訴ニ付之ヲ準用ス但シ即時抗告ノ提起期間ハ決定ノ告知アリタル日ヨリ三日トス
一 訴訟能力
二 共同訴訟人
三 第三者ノ訴訟参加
四 訴訟代理及輔佐
五 訴訟費用
六 保証
七 訴訟上ノ救助
八 訴訟手続ノ中断及中止
九 当事者本人ノ出頭
十 訴訟上ノ和解
十一 請求ノ抛棄ニ基キテ為ス判決
十二 訴又ハ上訴ノ取下
十三 強制執行
第五百七十三条 当事者ハ裁判所ノ許可ヲ受ケ弁護士ニ非サル者ヲシテ訴訟ノ代理ヲ為サシムルコトヲ得
第五百七十四条 弁護人ハ私訴ニ付被告人ノ代理人トシテ訴訟行為ヲ為スコトヲ得
第五百七十五条 当事者及其ノ訴訟代理人ハ裁判長ノ許可ヲ受ケ訴訟ニ関スル書類及証拠物ヲ閲覧シ且之ヲ謄写スルコトヲ得
第五百七十六条 私訴ノ判決ニ対スル再審ノ訴ハ民事訴訟法ニ依リ原判決ヲ為シタル裁判所ノ民事部ニ之ヲ為スヘシ
第五百七十七条 私訴ニ付テハ審級ニ従ヒ公訴ニ関スル規定ヲ準用ス但シ民事部ニ差戻シ又ハ移送シタルトキハ民事訴訟法ニ依ル
第二章 第一審
第五百七十八条 私訴ヲ提起スルニハ民事訴訟法ニ準シ訴状ヲ裁判所ニ差出スヘシ
第五百七十九条 訴状其ノ他対手人ニ交付スヘキ書類ハ裁判所ニ差出スモノノ外対手人ノ数ニ応シテ之ヲ差出スヘシ
第五百八十条 裁判所訴状ヲ受取リタルトキハ速ニ之ヲ被告ニ送達スヘシ
公判期日ニ出頭シタル被告ニ対シ公判廷ニ於テ訴状ヲ交付シタルトキハ送達アリタルモノト看做ス
第五百八十一条 公訴ノ公判期日ニハ私訴関係人ヲ召喚スヘシ
第五百八十二条 原告公判期日ニ出頭シ訴状ヲ差出スコト能ハサル事由ヲ疏明シタルトキハ口頭ヲ以テ私訴ヲ提起スルコトヲ得但シ被告出頭セサル場合ニ於テハ此ノ限ニ在ラス
第五百八十三条 私訴ノ取調ハ公訴ノ審理ヲ終ヘタル後之ヲ為スヘシ但シ裁判長ハ公訴ノ審理中ト雖職権ヲ以テ私訴ニ付取調ヲ為スコトヲ得
第五百八十四条 原告ハ請求ノ原因タル事実ヲ陳述シ判決ヲ受クヘキ事項ヲ申立ツヘシ
被告ハ答弁ヲ為スヘシ
第五百八十五条 裁判所ハ相当ノ陳述ヲ為スコト能ハサル当事者、訴訟代理人又ハ輔佐人ニ対シ決定ヲ以テ其ノ後ノ陳述ヲ禁スルコトヲ得此ノ場合ニ於テハ新期日ヲ定メ弁護士ヲシテ訴訟代理ヲ為サシムヘキコトヲ命スヘシ
第五百八十六条 公訴ニ付取調ヘタル証拠ハ私訴ニ付取調ヘタルモノト看做ス
第五百八十七条 裁判所ハ私訴判決ヲ受クヘキ事項ノ申立ノ範囲内ニ於テハ請求ノ原因タル事実ニ関スル原告ノ陳述ニ拘束セラルルコトナシ
第五百八十八条 検事ハ私訴ノ審判ニ立会フコトヲ要セス
検事私訴ノ審判ニ立会ヒタル場合ニ於テハ当事者ノ弁論終リタル後意見ヲ陳述スルコトヲ得
第五百八十九条 裁判所ハ訴訟ノ如何ナル程度ニ在ルヲ問ハス数多ノ日時ヲ費スニ非サレハ私訴ノ審判ヲ終結シ難キモノト認ムルトキハ決定ヲ以テ私訴ヲ却下スヘシ此ノ決定ニ対シテハ抗告ヲ為スコトヲ得ス
第五百九十条 公訴ニ付無罪、免訴又ハ公訴棄却ノ判決アリタルトキハ判決ヲ以テ私訴ヲ却下スヘシ
公訴ニ付公訴棄却ノ決定アリタルトキハ決定ヲ以テ私訴ヲ却下スヘシ
前二項ノ規定ニ依リ私訴ヲ却下シタル判決又ハ決定ニ対シテハ公訴ニ付上訴アリタルトキニ非サレハ上訴ヲ為スコトヲ得ス
第五百九十一条 略式命令確定判決ト同一ノ効力ヲ有スルニ至リタルトキハ決定ヲ以テ私訴ヲ却下スヘシ此ノ決定ニ対シテハ抗告ヲ為スコトヲ得ス
第五百九十二条 裁判所ハ公訴ノ判決ト同時ニ私訴ノ判決ヲ為スヘシ
第五百九十三条 当事者召喚ヲ受ケテ期日ニ出頭セス又ハ出頭スルモ弁論ヲ為サス若ハ秩序維持ノ為退廷ヲ命セラレタルトキハ其ノ陳述ヲ聴カスシテ判決ヲ為スコトヲ得
第三章 上訴
第五百九十四条 私訴ニ付区裁判所又ハ地方裁判所ニ於テ為シタル第一審ノ判決ニ対シテハ控訴ヲ為スコトヲ得
第五百九十五条 公訴ノ第一審判決ニ対シテ上告ノ申立アリタルトキハ私訴ノ判決ニ対シテハ控訴ヲ為スコトヲ得ス
公訴ノ第一審判決ニ対シテ上告ノ申立アリタルトキハ私訴ノ判決ニ対シテ為シタル控訴ハ其ノ効力ヲ失フ
前二項ノ規定ハ上告ノ取下アリタルトキ、第四百十七条ノ規定ニ依リ上告其ノ効力ヲ失ヒタルトキ又ハ第四百二十条、第四百二十七条若ハ第四百四十五条ノ規定ニ依リ上告ヲ棄却スル裁判アリタルトキハ之ヲ適用セス
第五百九十六条 公訴ノ第一審判決ニ対シテ上告ノ申立アリタルトキハ裁判所ハ私訴ニ付控訴ヲ為シタル当事者ニ其ノ旨ヲ通知スヘシ
控訴ヲ為シタル当事者ハ前項ノ通知ヲ受ケタル日ヨリ五日内ニ上告ヲ為スコトヲ得此ノ上告ハ控訴ニ付前条第三項ノ規定ノ適用アル場合ニ於テハ其ノ効力ヲ失フ
第五百九十七条 左ノ場合ニ於テハ私訴ニ付為シタル第二審ノ判決ニ対シテ上告ヲ為スコトヲ得
一 公訴ノ判決ニ対シ上告アリタルトキ
二 法令ノ違反ヲ理由トスルトキ
第五百九十八条 左ノ場合ニ於テハ私訴ニ付為シタル第一審ノ判決ニ対シ控訴ヲ為サスシテ上告ヲ為スコトヲ得
一 公訴ノ判決ニ対シ上告アリタルトキ
二 判決ニ依リ定リタル事実ニ付法令ヲ適用セス又ハ不当ニ法令ヲ適用シタルコトヲ理由トスルトキ
第五百九十九条 公訴ノ第一審判決ニ対シテ控訴ノ申立アリタルトキハ私訴ノ判決ニ対シテ上告ヲ為スコトヲ得ス
公訴ノ第一審判決ニ対シテ控訴ノ申立アリタルトキハ私訴ノ判決ニ対シテ為シタル上告ハ其ノ効力ヲ失フ
前二項ノ規定ハ控訴ノ取下アリタルトキ又ハ控訴ヲ棄却スル裁判アリタルトキハ之ヲ適用セス
第六百条 公訴ノ第一審判決ニ対シテ控訴ノ申立アリタルトキハ裁判所ハ私訴ニ付上告ヲ為シタル当事者ニ其ノ旨ヲ通知スヘシ
上告ヲ為シタル当事者ハ前項ノ通知ヲ受ケタル日ヨリ七日内ニ控訴ヲ為スコトヲ得此ノ控訴ハ上告ニ付前条第三項ノ規定ノ適用アル場合ニ於テハ其ノ効力ヲ失フ
第六百一条 公訴ノ判決ニ対シ上告アリタル場合ニ於テ私訴ニ付上告ヲ為シタルトキハ上告趣意書ヲ差出ササルコトヲ得
第六百二条 上告裁判所ニ於ケル弁論ハ弁護士ヨリ選任シタル訴訟代理人ニ非サレハ之ヲ為スコトヲ得ス
第六百三条 当事者訴訟代理人ヲ選任セサルトキ又ハ訴訟代理人出頭セサルトキハ弁論ヲ聴カスシテ判決ヲ為スコトヲ得
第六百四条 第四百四十条又ハ第四百四十三条ノ規定ニ依リ公訴ニ付事実ノ審理ヲ為スヘキ旨ノ言渡アリタルトキハ私訴ニ付同一ノ言渡アリタルモノト看做ス
第六百五条 第四百四十六条ノ規定ニ依リ公訴ニ付上告棄却ノ判決ヲ為ス場合ニ於テ私訴ニ付上告ノ理由ト為ルヘキ法令ノ違反ナキトキハ判決ヲ以テ上告ヲ棄却スヘシ
第六百六条 第四百四十六条ノ規定ニ依リ公訴ニ付上告棄却ノ判決ヲ為ス場合ニ於テ私訴ニ付上告ノ理由ト為ルヘキ法令ノ違反アルトキハ第六百七条ノ場合ヲ除クノ外判決ヲ以テ原判決ヲ破毀シ事件ニ付更ニ判決ヲ為スヘシ
第六百七条 前条ノ場合ニ於テ事件ニ付更ニ判決ヲ為ス為事実ノ審理ヲ必要トスルトキハ事件ヲ原裁判所ノ民事部ニ差戻シ又ハ原裁判所ト同等ナル他ノ裁判所ノ民事部ニ移送スヘシ
第六百八条 公訴ニ付原判決ヲ破毀シ被告事件ニ付更ニ判決ヲ為シタル場合ニ於テハ左ノ区別ニ従ヒ私訴ニ付判決ヲ為スヘシ
一 公訴ノ判決私訴ニ影響ヲ及ホスヘキ変更ヲ為シタルトキ又ハ私訴ニ付上告ノ理由ト為ルヘキ法令ノ違反アルトキハ原判決ヲ破毀ス
二 公訴ノ判決私訴ニ影響ヲ及ホスヘキ変更ヲ為サス且私訴ニ付上告ノ理由ト為ルヘキ法令ノ違反ナキトキハ上告ヲ棄却ス
第六百九条 前条ノ規定ニ依リ私訴ニ付原判決ヲ破毀スル場合ニ於テハ第六百十条ノ場合ヲ除クノ外事件ニ付更ニ判決ヲ為スヘシ
第六百十条 第六百八条ノ規定ニ依リ私訴ニ付原判決ヲ破毀スル場合ニ於テ事件ニ付更ニ判決ヲ為ス為私訴ノミニ付事実ノ審理ヲ必要トスルトキハ事件ヲ原裁判所ノ民事部ニ差戻シ又ハ原裁判所ト同等ナル他ノ裁判所ノ民事部ニ移送スヘシ
第六百十一条 公訴ニ付原判決ヲ破毀シ差戻又ハ移送ノ判決ヲ為ス場合ニ於テハ私訴ニ付同一ノ判決ヲ為スヘシ
第六百十二条 上訴裁判所私訴ノミニ付審判ヲ為スヘキ場合ニ於テハ決定ヲ以テ事件ヲ其ノ裁判所ノ民事部ニ移送スヘシ此ノ決定ニ対シテハ抗告ヲ為スコトヲ得ス
第六百十三条 本編第二章ノ規定ハ別段ノ規定アル場合ヲ除クノ外上訴ノ審判ニ付之ヲ準用ス
附 則
第六百十四条 本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第六百十五条 明治二十三年法律第九十六号刑事訴訟法及刑事略式手続法ハ之ヲ廃止ス
第六百十六条 本法ハ本法施行前ニ生シタル事件ニ亦之ヲ適用ス
前項ノ規定ハ本法施行前旧法ニ依リ為シタル訴訟手続ノ効力ヲ妨ケス
本法施行前旧法ニ依リ為シタル訴訟手続ニシテ本法ニ之ニ相当スル規定アルモノハ之ヲ本法ニ依リ為シタルモノト看做ス
第六百十七条 本法施行前裁判所構成法第十条第一号ノ規定ニ依リ為シタル管轄指定ノ申請ハ之ヲ管轄移転ノ請求ト看做ス
第六百十八条 本法施行前忌避ノ申請ヲ為シ其ノ原由ノ疏明ヲ為ササリシ者ハ本法施行ノ日ヨリ三日内ニ之ヲ為スヘシ
第六百十九条 本法施行前法人ヲ処罰スヘキモノトシテ其ノ代表者ヲ被告人ト為シタル事件ニ付テハ本法施行ノ日ヨリ法人ヲ被告人トス
第六百二十条 本法施行前始リタル法定期間ニ付訴訟行為ヲ為スヘキ者ノ住居又ハ事務所ノ所在地ト裁判所所在地トノ距離ニ従ヒ加フヘキ期間ハ仍従前ノ規定ニ依ル
第六百二十一条 本法施行前闕席判決ヲ受ケタル者ニ対シテハ従前ノ規定ニ依リ逮捕状ヲ発スルコトヲ得
第六百二十二条 本法施行前保釈ヲ許ササル言渡ニ対シテ為シタル異議ノ申立ニ付テハ従前ノ規定ニ依リ裁判ヲ為スヘシ
第六百二十三条 第二百六十五条ニ規定スル期間ハ本法施行前犯人ヲ知リ又ハ婚姻ノ無効若ハ取消ノ裁判確定シタル場合ニ於テハ本法施行ノ日ヨリ之ヲ起算ス
第六百二十四条 本法施行前免訴ノ決定確定シタル事件ニ付明治二十三年法律第九十六号刑事訴訟法第百七十五条第二項ノ規定ニ依リ為シタル請求ニシテ未タ決定ナキモノハ其ノ効力ヲ失フ
第六百二十五条 本法施行前為シタル本案前ノ判決ニシテ未タ確定セサルモノハ其ノ効力ヲ失フ
第六百二十六条 本法施行前明治二十三年法律第九十六号刑事訴訟法第二百四十一条第二項又ハ同法第二百六十四条第一項ノ規定ニ依リ取調ヲ命セラレタル受命判事ハ事件ニ付第三百五十一条ノ規定ニ準シ其ノ手続ヲ為スヘシ
第六百二十七条 本法施行前言渡シタル闕席判決ニ対シテハ控訴ノ申立アリタル場合ヲ除クノ外従前ノ規定ニ依リ故障ヲ申立ツルコトヲ得
本法施行前闕席判決ニ対シテ為シタル故障申立ヲ不適法トスルトキハ従前ノ規定ニ依リ裁判ヲ為スヘシ
第六百二十八条 本法施行前為シタル抗告ハ之ヲ本法ニ依リ為シタル即時抗告ト看做ス
第六百二十九条 本法施行前為シタル再審ノ訴ニシテ上告裁判所ノ判決ヲ経サルモノハ本法ニ依リ管轄裁判所ニ再審ノ請求ヲ為シタルモノト看做ス此ノ場合ニ於テハ上告裁判所ハ書類及証拠物ヲ管轄裁判所ニ送付スヘシ
第六百三十条 本法施行前進行ヲ始メタル私訴ノ時効ハ従前ノ規定ニ従フ
第六百三十一条 本法施行前提起シタル要償ノ訴判決ヲ経サルモノナルトキハ民事訴訟法ニ従ヒ事件ヲ管轄スヘキ裁判所ノ民事部ニ移送スヘシ
第六百三十二条 本法中市町村吏員ニ関スル規定ハ北海道ノ区ニ於テハ区吏員ニ之ヲ適用ス
本法中市町村長ニ関スル規定ハ市制第六条ノ市又ハ北海道ノ区ニ於テハ区長ニ、町村制ヲ施行セサル地ニ於テハ町村長ニ準スヘキ者ニ之ヲ適用ス