朕帝國議會ノ協贊ヲ經タル陸軍軍法會議法ヲ裁可シ玆ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
大正十年四月二十五日
內閣總理大臣 原敬
陸軍大臣 男爵 田中義一
法律第八十五號
陸軍軍法會議法
第一編 軍法會議
第一章 軍法會議ノ裁判權
第一條 軍法會議ハ左ニ記載シタル者ニ對シ其ノ犯罪ニ付裁判權ヲ有ス
一 陸軍刑法第八條第一號乃至第三號、第四號後段、第五號及第九條ニ記載シタル者
二 陸軍用船ノ船員
三 前二號ニ記載シタル者ヲ除クノ外陸軍ノ部隊ニ屬シ又ハ從フ者
四 俘虜
前項第二號及第三號ニ記載シタル者ノ中特ニ除外スヘキ者アルトキハ命令ヲ以テ之ヲ定ム
第二條 軍法會議ハ前條ニ記載シタル者ニ對シ其ノ身分發生前ノ犯罪ニ付亦裁判權ヲ有ス
軍法會議ハ前條ニ記載シタル者其ノ身分ヲ喪失シタルトキト雖身分繼續中搜查ノ報告アリ又ハ逮捕、勾引若ハ勾留セラレタルトキハ其ノ者ニ對シ亦裁判權ヲ有ス
第三條 軍法會議ハ陸軍刑法第八條第四號前段ニ記載シタル者ニ對シ其ノ犯シタル陸軍刑法ノ罪ニ付裁判權ヲ有ス
前條第二項ノ規定ハ前項ニ規定スル犯罪ニ付之ヲ準用ス
第四條 軍法會議ハ合圍地境ニ在ル第一條ニ記載シタル以外ノ者ニ對シ左ノ各號ニ規定スル犯罪ニ付裁判權ヲ有ス
一 第十五條第一號又ハ第二號ニ記載シタル者ト共ニ犯シタル同一又ハ別個ノ罪
二 陸軍刑法、海軍刑法、軍機保護法其ノ他軍事ノ必要ニ因リ特ニ設ケタル法令ノ罪
犯人藏匿ノ罪、證憑湮滅ノ罪、僞證ノ罪、虛僞ノ鑑定通譯ノ罪及贓物ニ關スル罪ハ之ヲ其ノ本犯ト共ニ犯シタルモノト看做ス
第五條 軍法會議ハ戒嚴令ニ定メタル特別裁判權ヲ行フ
第六條 軍法會議ハ戰時事變ニ際シ軍ノ安寧ヲ保持スル爲必要アルトキハ第一條ニ記載シタル以外ノ者ニ對シ犯罪ニ付裁判權ヲ行フコトヲ得
第七條 第四條及前條ノ規定ハ海軍軍法會議法第一條乃至第三條ノ規定ニ依リ海軍軍法會議ノ裁判權ヲ有スル犯罪ニ付テハ之ヲ適用セス但シ被告人ノ所在地海軍軍法會議ノ所在地ト交通斷絕シタル場合ニ於テハ此ノ限ニ在ラス
第二章 軍法會議ノ管轄權
第八條 軍法會議ヲ設クルコト左ノ如シ
一 高等軍法會議
二 師團軍法會議
三 軍軍法會議
四 獨立師團軍法會議
五 獨立混成旅團軍法會議
六 兵站軍法會議
七 合圍地軍法會議
八 臨時軍法會議
第九條 高等軍法會議及師團軍法會議ハ之ヲ常設ス
軍軍法會議、獨立師團軍法會議、獨立混成旅團軍法會議及兵站軍法會議ハ戰時事變ニ際シ必要ニ因リ之ヲ特設ス
合圍地軍法會議ハ戒嚴ノ宣告アリタルトキ合圍地境ニ之ヲ特設ス
臨時軍法會議ハ戰時事變ニ際シ必要ニ因リ特設又ハ分駐シタル陸軍ノ部隊ニ之ヲ特設ス
第十條 高等軍法會議ハ陸軍大臣ヲ以テ長官トス
師團軍法會議ハ師團長ヲ以テ長官トス
特設軍法會議ハ軍法會議ヲ設置シタル部隊又ハ地域ノ司令官ヲ以テ長官トス
第十一條 高等軍法會議ハ左ノ事件ニ付管轄權ヲ有ス
一 陸軍ノ將官、將官相當官、勅任文官及勅任文官待遇者竝海軍ノ將官、勅任文官及勅任文官待遇者ニ對スル被告事件
二 上告
三 非常上告
第十二條 師團軍法會議ハ左ノ事件ニ付管轄權ヲ有ス
一 師團長ノ部下ニ屬スル者及監督ヲ受クル者ニ對スル被告事件
二 師管內ニ在ル陸軍ノ部隊ニ屬スル者及其ノ部隊ノ長ノ監督ヲ受クル者ニ對スル被告事件但シ其ノ部隊ニ軍法會議ヲ設ケサル場合ニ限ル
三 師管內ニ在リ又ハ師管內ニ於テ罪ヲ犯シタル第一條乃至第三條記載ノ者ニ對スル被告事件但シ被告人ノ所屬部隊ノ軍法會議師管內ニ在ラサル場合ニ限ル
第十三條 軍軍法會議、獨立師團軍法會議又ハ獨立混成旅團軍法會議ハ左ノ事件ニ付管轄權ヲ有ス
一 軍、獨立師團又ハ獨立混成旅團ノ長ノ部下ニ屬スル者及監督ヲ受クル者ニ對スル被告事件
二 作戰地域ニ在ル第一條乃至第三條記載ノ者ニ對スル被告事件但シ被告人ノ所屬部隊ノ軍法會議其ノ地域ニ在ラサル場合ニ限ル
三 作戰地域ニ在ル第六條記載ノ者ニ對スル被告事件
第十四條 兵站軍法會議ハ左ノ事件ニ付管轄權ヲ有ス
一 兵站ノ長ノ部下ニ屬スル者及監督ヲ受クル者ニ對スル被告事件
二 兵站地域若ハ兵站ノ屬スル軍隊ノ作戰地域ニ在リ又ハ此等ノ地域ニ於テ罪ヲ犯シタル第一條乃至第三條記載ノ者ニ對スル被告事件但シ被告人ノ所屬部隊ノ軍法會議此等ノ地域ニ在ラサルトキニ限ル
三 兵站地域又ハ兵站ノ屬スル軍隊ノ作戰地域ニ在ル第六條記載ノ者ニ對スル被告事件
第十五條 合圍地軍法會議ハ左ノ事件ニ付管轄權ヲ有ス
一 合圍地司令官ノ部下ニ屬スル者及監督ヲ受クル者ニ對スル被告事件
二 合圍地境ニ在リ又ハ合圍地境ニ於テ罪ヲ犯シタル第一條乃至第三條記載ノ者ニ對スル被告事件
三 第四條及第五條ニ定メタル裁判權ニ屬スル被告事件
第十六條 臨時軍法會議ハ左ノ事件ニ付管轄權ヲ有ス
一 臨時軍法會議ノ設置セラレタル部隊ノ長ノ部下ニ屬スル者及監督ヲ受クル者ニ對スル被告事件
二 臨時軍法會議ノ設置セラレタル部隊ノ管轄地域若ハ守備地域ニ在リ又ハ此等ノ地域ニ於テ罪ヲ犯シタル第一條乃至第三條記載ノ者ニ對スル被告事件但シ被告人ノ所屬部隊ノ軍法會議此等ノ地域ニ在ラサルトキニ限ル
三 臨時軍法會議ノ設置セラレタル部隊ノ管轄地域又ハ守備地域ニ在ル第六條記載ノ者ニ對スル被告事件
第十七條 第一條乃至第三條ニ記載シタル者ニ對スル被告事件ニ付管轄軍法會議ナキトキハ被告人ノ現在地又ハ犯罪地ノ附近ニ在ル軍法會議之ヲ管轄ス
第十八條 管轄ヲ異ニスル數個ノ事件牽連スルトキハ一個ノ事件ニ付管轄權ヲ有スル軍法會議併セテ他ノ事件ヲ管轄スルコトヲ得但シ高等軍法會議ノ管轄ニ屬スル事件及第四條乃至第六條ニ記載シタル事件ハ牽連ノ事由ニ因リ併セテ之ヲ管轄スルコトヲ得ス
第十九條 軍法會議牽連事件ニ付公訴ヲ受ケタル場合ニ於テ併セテ審判スルコトヲ必要トセサルモノアルトキハ高等軍法會議ハ檢察官ノ請求ニ因リ決定ヲ以テ管轄權ヲ有スル他ノ軍法會議ニ之ヲ移送スルコトヲ得
第二十條 數個ノ軍法會議牽連事件ニ付各別ニ公訴ヲ受ケタルトキハ高等軍法會議ハ檢察官ノ請求ニ因リ決定ヲ以テ之ヲ一ノ軍法會議ニ併合スルコトヲ得
第二十一條 高等軍法會議牽連事件ニ付公訴ヲ受ケタル場合ニ於テ併セテ審判スルコトヲ必要トセサルモノアルトキハ檢察官ノ請求ニ因リ決定ヲ以テ管轄權ヲ有スル他ノ軍法會議ニ之ヲ移送スルコトヲ得
第二十二條 高等軍法會議及他ノ軍法會議牽連事件ニ付各別ニ公訴ヲ受ケタルトキハ高等軍法會議ハ檢察官ノ請求ニ因リ決定ヲ以テ他ノ軍法會議ノ管轄ニ屬スル事件ヲ併セテ審判スルコトヲ得
第二十三條 數個ノ事件ハ左ノ場合ニ於テ牽連スルモノトス
一 一人數罪ヲ犯シタルトキ
二 數人共ニ同一又ハ別個ノ罪ヲ犯シタルトキ
三 數人通謀シテ各別ニ罪ヲ犯シタルトキ
四 數人同時ニ同一ノ場所ニ於テ各別ニ罪ヲ犯シタルトキ
犯人藏匿ノ罪、證憑湮滅ノ罪、僞證ノ罪、虛僞ノ鑑定通譯ノ罪及贓物ニ關スル罪ト其ノ本犯ノ罪トハ共ニ犯シタルモノト看做ス
第二十四條 數個ノ軍法會議同一事件ニ付公訴ヲ受ケタルトキハ第二十五條ニ規定シタル場合ヲ除クノ外最初ニ公訴ヲ受ケタル軍法會議之ヲ審判ス
前項ノ場合ニ於テ高等軍法會議ハ檢察官ノ請求ニ因リ決定ヲ以テ後ニ公訴ヲ受ケタル軍法會議ヲシテ其ノ事件ヲ審判セシムルコトヲ得
第二十五條 高等軍法會議及他ノ軍法會議同一事件ニ付公訴ヲ受ケタルトキハ高等軍法會議之ヲ審判ス
前項ノ場合ニ於テ高等軍法會議ハ檢察官ノ請求ニ因リ決定ヲ以テ管轄權ヲ有スル他ノ軍法會議ヲシテ其ノ事件ヲ審判セシムルコトヲ得
第二十六條 管轄ハ公訴提起後ニ於テハ被告人ノ轉屬、失官其ノ他管轄ヲ定ムル事由ノ變更ニ因リ變更セラルルコトナシ但シ被告人第十一條第一號ニ記載シタル身分ヲ取得シタル場合ハ此ノ限ニ在ラス
第二十七條 第十一條第一號ニ記載シタル者被告人ナル場合ニ於テ其ノ現在地高等軍法會議ノ所在地ト交通斷絕シタルトキ又ハ其ノ所在地ト著シク離隔シ且審判急速ヲ要スルトキハ被告人ノ現在地又ハ其ノ附近ニ在ル軍法會議被告事件ヲ管轄スルコトヲ得
第二十八條 管轄軍法會議ニ於テ法律上ノ理由又ハ特別ノ事情ニ因リ裁判權ヲ行フコト能ハサルトキハ高等軍法會議ハ檢察官ノ請求ニ因リ管轄移轉ノ決定ヲ爲スヘシ
第二十九條 軍法會議ヲ廢シタルトキハ陸軍大臣ハ後繼軍法會議ヲ指定スヘシ
第三十條 訴訟手續ハ管轄違ノ理由ニ因リ其ノ效力ヲ失ハス
第三章 軍法會議ノ職員
第三十一條 軍法會議ニ判士、陸軍法務官、陸軍錄事及陸軍警查ヲ置ク
第三十二條 判士ハ陸軍ノ將校ヲ以テ之ニ充ツ
第三十三條 將官ヲ以テ判士ト爲ストキハ陸軍大臣ノ奏請ニ因リ之ヲ命ス
特設軍法會議ニ於テハ長官又ハ其ノ直系上官ハ急速ヲ要スル場合ニ限リ部下ノ將官中ヨリ判士ヲ命スルコトヲ得
第三十四條 佐官以下ノ將校ヲ以テ判士ト爲ストキハ長官之ヲ命ス
長官ノ部下ニ非サル將校ヲ以テ判士ト爲スコトヲ要スルトキハ陸軍大臣之ヲ命ス特設軍法會議ニ於テハ急速ヲ要スル場合ニ限リ長官ノ直系上官ハ部下ノ將校中ヨリ之ヲ命スルコトヲ得
第三十五條 法務官ハ終身官トシ勅任又ハ奏任トス
第三十六條 法務官ハ在職中左ノ諸件ヲ爲スコトヲ得ス
一 公然政事ニ關係スルコト
二 政黨ノ黨員又ハ政社ノ社員ト爲ルコト
三 帝國議會ノ議員又ハ道、府、縣、郡、市、區、町、村會ノ議員ト爲ルコト
四 報酬アル公務ニ就クコト
五 商業ヲ營ムコト
第三十七條 法務官ハ刑事裁判又ハ懲戒處分ニ因ルニ非サレハ其ノ意ニ反シテ免官又ハ轉官セラルルコトナシ
第三十八條 法務官身體又ハ精神ノ衰弱ニ因リ職務ヲ執ルコト能ハサルニ至リタルトキハ陸軍大臣ハ高等軍法會議總會ノ決議ニ因リ之ニ退職ヲ命スルコトヲ得
第三十九條 陸軍大臣ハ左ノ場合ニ於テハ法務官ニ現俸ノ半額ヲ給シテ休職ヲ命スルコトヲ得
一 懲戒令ニ依リ懲戒委員會ノ審查ニ付セラレタルトキ
二 刑事事件ニ關シ起訴セラレタルトキ
三 官制又ハ定員ノ改正ニ因リ過員ヲ生シタルトキ
四 戰時又ハ事變ニ際シ臨時增員シタル場合ニ於テ其ノ必要止ミ過員ヲ生シタルトキ
五 病氣ノ爲執務セサルコト六月ニ至リタルトキ
休職ノ期間ハ前項第一號及第二號ノ場合ニ於テハ其ノ事件ノ繫屬中トシ第三號乃至第五號ノ場合ニ於テハ三年トス
第四十條 法務官前條第一項第三號乃至第五號ノ規定ニ依リ休職ヲ命セラレ滿期ト爲リタルトキハ退職トス
第四十一條 法務官ノ任用及懲戒ニ關スル規程ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第四十二條 錄事ハ判任トス
第四十三條 警查ハ長官之ヲ命ス
第四十四條 特設軍法會議ニ於テハ長官ハ陸軍ノ准士官又ハ下士ヲシテ錄事ノ職務ヲ行ハシメ陸軍ノ下士又ハ兵卒ヲシテ警查ノ職務ヲ行ハシムルコトヲ得
第四十五條 合圍地軍法會議ニ於テハ長官ハ合圍地境ニ在ル判任文官ヲシテ錄事ノ職務ヲ行ハシムルコトヲ得
第四章 審判機關
第四十六條 軍法會議ハ審判ヲ爲スニ付他ノ干涉ヲ受クルコトナシ
第四十七條 審判ハ裁判官五人ヲ以テ構成シタル會議ニ於テ之ヲ爲ス
裁判官ハ判士及法務官ヲ以テ之ニ充テ上席判士ヲ裁判長トス
特設軍法會議ニ於テハ上席判士及法務官ヲ除クノ外裁判官二人ヲ減スルコトヲ得
第四十八條 裁判官ハ長官之ヲ定ム
第四十九條 師團軍法會議及特設軍法會議ニ於テハ判士四人及法務官一人ヲ以テ裁判官トス
前項ノ判士ハ左ノ區別ニ從フ
一 被告人下士又ハ兵卒ナルトキハ中佐又ハ少佐一人大尉一人大尉、中尉又ハ少尉二人
二 被告人中尉、少尉又ハ准士官ナルトキハ中佐又ハ少佐一人大尉二人大尉又ハ中尉一人
三 被告人大尉ナルトキハ大佐又ハ中佐一人少佐二人大尉一人
四 被告人少佐ナルトキハ大佐一人中佐二人少佐一人
五 被告人中佐ナルトキハ少將一人大佐二人中佐一人
六 被告人大佐ナルトキハ中將一人少將二人大佐一人
七 被告人將官ナルトキハ被告人ト同等以上ノ將官四人
交通斷絕シタル地ニ在ル軍法會議ニ於テハ被告人ト同等以上ノ判士ヲ以テ裁判官ト爲スコトヲ得
第五十條 合圍地軍法會議ニ於テハ長官ハ陸軍ノ將校又ハ合圍地境ニ在ル高等文官ヲシテ法務官ニ代リ裁判官ノ職務ヲ行ハシムルコトヲ得
第五十一條 高等軍法會議ニ於テハ判士三人及法務官二人ヲ以テ裁判官トス
前項ノ判士ハ左ノ區別ニ從フ
一 被告人下士又ハ兵卒ナルトキハ佐官一人大尉二人
二 被告人中尉、少尉又ハ准士官ナルトキハ大佐又ハ中佐一人少佐一人大尉一人
三 被告人大尉ナルトキハ大佐一人中佐一人少佐一人
四 被告人少佐ナルトキハ大佐一人中佐二人
五 被告人中佐ナルトキハ少將一人大佐二人
六 被告人大佐ナルトキハ中將一人少將二人
七 被告人少將ナルトキハ大將又ハ中將一人中將又ハ少將一人少將一人
八 被告人中將ナルトキハ大將一人大將又ハ中將一人中將一人
九 被告人大將ナルトキハ大將三人
第五十二條 被告人官等又ハ等級ヲ有セサル士官ノ候補者ニシテ士官ノ勤務ニ服スル者ナルトキハ少尉ニ準シ士官ノ勤務ニ服セサル者ナルトキハ下士ニ準シ判士ヲ區別ス
被告人准士官又ハ下士タル士官ノ候補者ニシテ士官ノ勤務ニ服スル者ナルトキハ少尉ニ準シ判士ヲ區別ス
第五十三條 被告人將校相當官、軍屬、海軍軍人又ハ海軍軍屬ナルトキハ其ノ官等、等級又ハ階級ニ從ヒ將校、准士官、下士又ハ兵卒ニ準シ判士ヲ區別ス
第五十四條 被告人第四十九條及第五十一條乃至第五十三條ニ記載シタル者ニ非サルトキハ下士又ハ兵卒ニ準シ判士ヲ區別ス
前項ノ場合ニ於テ長官ハ事情ニ因リ判士ノ區別ヲ變更スルコトヲ得
第五十五條 被告人俘虜ナルトキハ第四十九條及第五十一條乃至前條ノ規定ニ準シ判士ヲ區別ス
第五十六條 二個以上ノ異ル官等、等級又ハ階級ヲ有スル被告人ニ付テハ其ノ最高キ官等、等級又ハ階級ニ從ヒ判士ヲ區別ス
第五十七條 官等、等級又ハ階級ヲ異ニスル共同被告人ニ付テハ其ノ官等、等級又ハ階級ノ最高キ者ニ從ヒ判士ヲ區別ス
第五十八條 判士ノ區別ハ被告人ノ身分ニ異動アルモ官等、等級又ハ階級ノ高キ身分ヲ取得シタル場合ヲ除クノ外變更セラルルコトナシ
第五十九條 上告、非常上告又ハ再審ノ審判ヲ爲ス場合ノ判士ノ區別ハ原軍法會議ノ裁判官ヲ定メタル當時ノ被告人ノ身分ニ從フ但シ被告人官等、等級又ハ階級ノ高キ身分ヲ取得シタル場合ハ此ノ限ニ在ラス
前項ノ規定ハ第百七十三條第三項、第四百十五條、第四百十六條、第四百三十六條又ハ第五百三十條ノ決定ヲ爲ス場合ノ判士ノ區別ニ之ヲ準用ス
第六十條 上告、非常上告又ハ再審ノ審判ヲ爲ス場合ニ於テハ裁判長ノ官等ハ原軍法會議ノ裁判長ヨリ下ルコトヲ得ス
第五章 豫審機關
第六十一條 豫審ハ豫審官之ヲ行フ
第六十二條 豫審官ハ法務官中ヨリ長官之ヲ命ス
第六十三條 特設軍法會議ニ於テハ長官ハ陸軍ノ將校ヲシテ豫審官ノ職務ヲ行ハシムルコトヲ得
第六十四條 合圍地軍法會議ニ於テハ長官ハ合圍地境ニ在ル高等文官ヲシテ豫審官ノ職務ヲ行ハシムルコトヲ得
第六章 檢察機關
第六十五條 陸軍大臣ハ公訴及搜查ヲ指揮監督ス
第六十六條 長官ハ所管軍法會議ノ管轄ニ屬スル事件ニ付公訴ヲ指揮ス
長官ハ所管軍法會議ノ管轄ニ屬スル事件、之ト牽連スル事件及所管部隊內ノ犯罪事件ニ付搜查ヲ指揮ス
第六十七條 檢察官ハ長官ニ隸屬シ搜查ヲ爲シ公訴ヲ行フ
第六十八條 檢察官ハ法務官中ヨリ長官之ヲ命ス
第六十九條 長官ハ法務官試補ヲシテ檢察官ノ職務ヲ行ハシムルコトヲ得
第七十條 特設軍法會議ニ於テハ長官ハ陸軍ノ將校ヲシテ檢察官ノ職務ヲ行ハシムルコトヲ得
第七十一條 合圍地軍法會議ニ於テハ長官ハ合圍地境ニ在ル高等文官ヲシテ檢察官ノ職務ヲ行ハシムルコトヲ得
第七十二條 檢察官ハ陸軍司法警察官又ハ司法警察官ヲシテ搜查ノ輔佐ヲ爲サシムルコトヲ得
第七十三條 憲兵ノ將校、准士官又ハ下士ハ陸軍司法警察官トシテ搜查ヲ爲ス
陸軍大臣ハ所管ノ大臣ト協議シテ警察官中ヨリ陸軍司法警察官トシテ勤務スル者ヲ指定スルコトヲ得
第七十四條 左ニ記載シタル部隊ノ長ハ其ノ部下ニ屬スル者及監督ヲ受クル者ノ犯罪ニ付陸軍司法警察官ノ職務ヲ行フ
一 中隊以上ノ軍隊及之ニ準スヘキ軍隊
二 官衙、學校、特務機關及戰時ニ於ケル特設機關
臨時集成部隊ノ長ハ其ノ部隊本屬部隊ノ所在地ト遠隔ノ地ニ在ル場合ニ限リ前項ノ規定ニ準シ陸軍司法警察官ノ職務ヲ行フ
第七十五條 前條ニ記載シタル部隊ノ長ハ部下ノ將校ニ委任シテ特定ノ事件ニ付陸軍司法警察官ノ職務ヲ行ハシムルコトヲ得
第七十六條 陸軍司法警察官又ハ陸軍司法警察官ノ職務ヲ行フ者ハ搜查ヲ爲スニ付上官ノ命令ニ從フ
第七十七條 警查又ハ憲兵卒ハ檢察官又ハ陸軍司法警察官ノ命令ヲ受ケ陸軍司法警察吏トシテ搜查ノ補助ヲ爲ス
第七十三條第二項ノ規定ニ依リ指定セラレタル警察官ノ部下ニ屬スル巡查亦前項ニ同シ
第七十八條 檢察官ハ司法警察吏ヲシテ搜查ノ補助ヲ爲サシムルコトヲ得
第七十九條 陸軍司法警察官ノ職務ヲ行フ者ハ其ノ部下ヲシテ搜查ノ補助ヲ爲サシムルコトヲ得
第二編 訴訟手續
第一章 總則
第一節 裁判官ノ除斥及囘避
第八十條 長官ハ除斥ノ原由其ノ他正當ノ事由アリト認ムルトキハ裁判官ヲ變更スヘシ
第八十一條 裁判官職務ノ執行ヨリ除斥セラルヘキ場合左ノ如シ
一 裁判官被害者ナルトキ
二 裁判官被告人又ハ被害者ノ配偶者、四親等內ノ血族、三親等內ノ姻族又ハ同居ノ戶主若ハ家族ナルトキ
三 裁判官被告人又ハ被害者ノ法定代理人、後見監督人又ハ保佐人ナルトキ
四 裁判官事件ニ付證人又ハ鑑定人ト爲リタルトキ
五 裁判官事件ニ付被告人ノ代理人、辯護人又ハ輔佐人ト爲リタルトキ
六 裁判官事件ニ付長官又ハ檢察官ノ職務ヲ行ヒタルトキ
七 裁判官事件ニ付搜查、豫審又ハ前審ニ干與シタルトキ
第八十二條 檢察官又ハ被告人ハ除斥ノ原由其ノ他裁判官ヲ變更スヘキ正當ノ事由アリト思料スルトキハ其ノ旨ヲ長官ニ具申スルコトヲ得
第八十三條 長官前條ノ具申ヲ受ケタルトキハ其ノ旨ヲ軍法會議ニ通知スヘシ
軍法會議前項ノ通知ヲ受ケタルトキハ裁判官ノ變更ニ關シ通知ヲ受クル迄訴訟手續ヲ停止スヘシ但シ急速ヲ要スル場合ハ此ノ限ニ在ラス
第八十四條 裁判官自ラ除斥ノ原由其ノ他囘避スヘキ正當ノ事由アリト思料スルトキハ其ノ旨ヲ長官ニ具申スヘシ
第八十五條 前五條ノ規定ハ豫審官及錄事ニ之ヲ準用ス
第八十六條 特設軍法會議ニ於テハ本節ノ規定ニ依ラサルコトヲ得
第二節 辯護及輔佐
第八十七條 被告人ハ公訴ノ提起アリタル後何時ニテモ辯護人ヲ選任スルコトヲ得
被告人ノ法定代理人、保佐人又ハ夫ハ獨立シテ辯護人ヲ選任スルコトヲ得
第八十八條 辯護人ハ左ニ記載シタル者ヨリ之ヲ選任スヘシ
一 陸軍ノ將校又ハ將校相當官
二 陸軍高等文官又ハ同試補
三 陸軍大臣ノ指定シタル辯護士
第八十九條 辯護人ノ選任ハ審級每ニ之ヲ爲スヘシ
辯護人ノ選任ハ辯護人ト連署シタル書面ヲ以テ之ヲ爲スヘシ
第九十條 辯護人ノ數ハ被告人一人ニ付二人ヲ超ユルコトヲ得ス
第九十一條 辯護人ハ軍法會議ニ於テ被告事件ニ關スル書類及證據物ヲ閱覽シ且其ノ書類ヲ謄寫スルコトヲ得
第九十二條 辯護人ハ別段ノ規定アル場合ニ限リ獨立シテ訴訟行爲ヲ爲スコトヲ得
第九十三條 前六條ノ規定ハ特設軍法會議ニ付テハ之ヲ適用セス
第九十四條 被告人ノ法定代理人、保佐人又ハ夫ハ公訴ノ提起アリタル後何時ニテモ輔佐人ト爲ルコトヲ得
輔佐人タラムトスルトキハ審級每ニ書面ヲ以テ其ノ旨ヲ屆出ツヘシ
輔佐人ハ獨立シテ被告人ノ爲スコトヲ得ヘキ訴訟行爲ヲ爲スコトヲ得但シ別段ノ規定アル場合ハ此ノ限ニ在ラス
第三節 裁判
第九十五條 裁判ハ定數ノ裁判官評議シテ之ヲ爲ス但シ別段ノ規定アル場合ハ此ノ限ニ在ラス
第九十六條 裁判官ノ評議ハ之ヲ公行セス但シ法務官試補ノ傍聽ヲ許スコトヲ得
裁判官ノ評議ハ裁判長之ヲ開キ且之ヲ整理ス其ノ評議ノ顚末及各裁判官ノ意見ハ祕密トス
第九十七條 裁判官意見ヲ述フルノ順序ハ法務官ヲ始トス法務官二人ナルトキハ席次ノ低キ者ヲ始トス其ノ他ノ裁判官ニ在リテハ席次ノ最低キ者ヲ始トシ裁判長ヲ終トス
第九十八條 裁判ハ過半數ノ意見ニ依ル
裁判官ノ意見三說以上ニ分レ各過半數ニ至ラサルトキハ過半數ニ至ル迄被告人ニ不利ナル意見ヨリ順次利益ナル意見ニ合算ス
第九十九條 裁判官ハ裁判スヘキ事項ニ付自己ノ意見ヲ表スルコトヲ拒ムコトヲ得ス
第百條 判決ハ口頭辯論ニ基キ之ヲ爲スヘシ但シ別段ノ規定アル場合ハ此ノ限ニ在ラス
決定ハ公判廷ニ於テハ訴訟關係人ノ陳述ヲ聽キ之ヲ爲スヘシ其ノ他ノ場合ニ於テハ訴訟關係人ノ陳述ヲ聽カスシテ之ヲ爲スコトヲ得但シ別段ノ規定アル場合ハ此ノ限ニ在ラス
命令ハ訴訟關係人ノ陳述ヲ聽カスシテ之ヲ爲スコトヲ得
決定又ハ命令ヲ爲スニ付必要アル場合ニ於テハ事實ノ取調ヲ爲スコトヲ得
前項ノ取調ハ受命裁判官ヲシテ之ヲ爲サシムルコトヲ得
第百一條 裁判ニハ理由ヲ附スヘシ但シ決定又ハ命令ニハ理由ヲ附セサルコトヲ得
刑ノ言渡ヲ爲スニハ罪ト爲ルヘキ事實及其ノ事實ヲ認メタル理由竝法令ノ適用ヲ示スヘシ
第百二條 裁判ノ告知ハ公判廷ニ於テハ宣告ニ依リ之ヲ爲シ其ノ他ノ場合ニ於テハ裁判書ノ謄本ノ送達ニ依リ之ヲ爲スヘシ但シ別段ノ規定アル場合ハ此ノ限ニ在ラス
第百三條 裁判ノ宣告ハ裁判長之ヲ爲スヘシ
判決ノ宣告ヲ爲スニハ主文及理由ヲ朗讀シ又ハ主文ノ朗讀ト同時ニ理由ノ要旨ヲ告クヘシ
第百四條 檢察官ノ執行指揮ヲ要スル裁判ヲ爲シタルトキハ速ニ裁判書又ハ裁判ヲ記載シタル調書ノ謄本又ハ抄本ヲ檢察官ニ送付スヘシ
第百五條 裁判書又ハ裁判ヲ記載シタル調書ノ謄本又ハ抄本ハ被告人其ノ他訴訟關係人ノ請求ニ因リ之ヲ交付ス
前項ノ場合ニハ其ノ費用ヲ徵スルコトヲ得
第四節 書類
第百六條 訴訟ニ關スル書類ハ別段ノ規定アル場合ヲ除クノ外錄事之ヲ調製スヘシ
第百七條 裁判官、豫審官又ハ檢察官ハ錄事ノ作リタル書類ニ付意見アルトキハ錄事ニ命シ之ヲ變更セシムルコトヲ得
前項ノ場合ニ於テ錄事ハ自己ノ意見ヲ書類ニ附記スルコトヲ得
第百八條 被告人、證人、鑑定人、通事又ハ翻譯人ノ取調ニ付テハ調書ヲ作ルヘシ
調書ニハ左ノ事項ヲ記載スヘシ
一 被告人、證人、鑑定人、通事又ハ翻譯人ニ對スル訊問及其ノ供述
二 證人、鑑定人、通事又ハ翻譯人宣誓ヲ爲ササルトキハ其ノ事由
調書ハ錄事ヲシテ之ヲ供述者ニ讀聞カサシメ又ハ供述者ヲシテ之ヲ閱覽セシメ其ノ記載ノ相違ナキカ否ヲ問フヘシ
供述者增減變更ヲ申立テタルトキハ其ノ供述ヲ調書ニ記載スヘシ
調書ニハ供述者ヲシテ署名捺印セシムヘシ
第百九條 檢證、押收又ハ搜索ニ付テハ調書ヲ作ルヘシ
押收ヲ爲シタルトキハ其ノ品目ヲ調書ニ記載シ又ハ別ニ目錄ヲ作リ之ヲ調書ニ添附スヘシ
第百十條 前二條ノ調書ニハ取調又ハ處分ヲ爲シタル年月日及場所ヲ記載シ其ノ取調又ハ處分ヲ爲シタル者錄事ト共ニ署名捺印スヘシ但シ公判期日外ニ於テ軍法會議取調又ハ處分ヲ爲シタルトキハ裁判官タル法務官錄事ト共ニ署名捺印スルヲ以テ足ル
前條ノ調書ニハ取調又ハ處分ヲ爲シタル時ヲモ記載スヘシ
第百十一條 錄事ノ立會ナクシテ取調又ハ處分ヲ爲ス場合ニ於テハ錄事ノ行フヘキ職務ハ其ノ取調又ハ處分ヲ爲ス者自ラ之ヲ行フヘシ
第百十二條 公判期日ニ於ケル訴訟手續ニ付テハ公判調書ヲ作ルヘシ
公判調書ニハ左ノ事項其ノ他重要ナル訴訟手續ヲ記載スヘシ
一 公判ヲ爲シタル軍法會議及年月日
二 裁判官、檢察官及錄事ノ官氏名竝被告人、代理人、辯護人、輔佐人及通事ノ氏名
三 被告人出頭セサリシトキハ其ノ旨
四 辯論ノ公開ヲ禁シタルトキハ其ノ旨及理由
五 被告事件ノ陳述其ノ他辯論ノ要旨
六 第百八條第二項ニ記載シタル事項
七 朗讀シタル書類及要旨ヲ告ケタル書類
八 被告人ニ示シタル證據物
九 公判廷ニ於テ爲シタル檢證及押收
十 裁判長ヨリ記載ヲ命シタル事項及訴訟關係人ノ請求ニ因リ記載ヲ許シタル事項
十一 辯論ノ最終ニ被告人又ハ辯護人ヲシテ陳述ヲ爲サシメタルコト
十二 判決其ノ他ノ裁判ヲ爲シタルコト
第百十三條 公判調書ニ付テハ第百八條第三項乃至第五項ノ規定ニ依ル手續ヲ爲スコトヲ要セス
第百十四條 公判調書ハ公判開廷ノ日ヨリ五日內ニ之ヲ整理スヘシ
第百十五條 公判調書ニハ裁判官タル法務官錄事ト共ニ署名捺印スヘシ
法務官二人ナルトキハ上席者署名捺印シ上席者差支アルトキハ他ノ法務官署名捺印スヘシ
法務官差支アルトキハ裁判長其ノ事由ヲ附記シテ署名捺印スヘシ
錄事差支アルトキハ前三項ノ規定ニ依リ署名捺印スル者其ノ事由ヲ附記シテ署名捺印スヘシ
第百十六條 公判期日ニ於ケル訴訟手續ハ公判調書ノミニ依リ之ヲ證明スルコトヲ得
第百十七條 裁判ヲ爲ストキハ裁判書ヲ作ルヘシ但シ決定又ハ命令ヲ宣告スル場合ニ於テハ裁判書ヲ作ラスシテ之ヲ調書ニ記載セシムルコトヲ得
第百十八條 裁判書ハ裁判官之ヲ作ルヘシ
第百十九條 裁判書ニハ裁判官署名捺印スヘシ裁判長署名捺印スルコト能ハサルトキハ上席ノ裁判官其ノ事由ヲ附記シテ署名捺印シ他ノ裁判官署名捺印スルコト能ハサルトキハ裁判長其ノ事由ヲ附記シテ署名捺印スヘシ
第百二十條 裁判書ニハ別段ノ規定アル場合ヲ除クノ外裁判ヲ受クル者ノ氏名、年齡、職業及住居ヲ記載スヘシ
判決書ニハ前項ニ記載シタル事項ノ外公判ニ干與シタル檢察官ノ官氏名ヲ記載スヘシ
第百二十一條 裁判書又ハ裁判ヲ記載シタル調書ノ謄本又ハ抄本ハ原本又ハ謄本ニ依リ之ヲ作ルヘシ
第百二十二條 前四條ノ規定ハ豫審官裁判ヲ爲ス場合ニ之ヲ準用ス
第百二十三條 官吏又ハ公吏ノ作ルヘキ書類ニハ別段ノ規定アル場合ヲ除クノ外年月日ヲ記載シテ署名捺印シ其ノ所屬ノ官署又ハ公署ヲ表示スヘシ
書類ニハ每葉ニ契印スヘシ
第百二十四條 官吏又ハ公吏書類ヲ作ルニハ文字ヲ改竄スヘカラス挿入、削除又ハ欄外記入ヲ爲シタルトキハ之ニ認印シ其ノ字數ヲ記載スヘシ削除シタル部分ハ讀ミ得ヘキ爲字體ヲ存スヘシ
第百二十五條 官吏及公吏ニ非サル者ノ作ルヘキ書類ニハ年月日ヲ記載シテ署名捺印スヘシ
第百二十六條 官吏及公吏ニ非サル者ノ署名捺印スヘキ場合ニ於テ署名スルコト能ハサルトキハ他人ヲシテ代署セシメ捺印スルコト能ハサルトキハ花押又ハ拇印スヘシ
他人ヲシテ代署セシメタル場合ニ於テハ代署シタル者其ノ事由ヲ記載シテ署名捺印スヘシ
第百二十七條 特設軍法會議ニ於テ審判スヘキ事件ノ書類ニ付テハ本節ノ規定ニ依ラサルコトヲ得
第五節 送達
第百二十八條 送達ハ錄事送達吏ヲシテ之ヲ爲サシム但シ陸軍司法警察官ノ發スル書類ノ送達ハ其ノ書類ヲ作リタル者之ヲ爲サシム
送達吏ハ陸軍司法警察吏ヲ以テ之ニ充ツ
第百二十九條 送達ハ郵便ニ依リ之ヲ爲スコトヲ得此ノ場合ニ於テハ郵便配達人ヲ以テ送達吏ト爲ス
第百三十條 送達ハ之ヲ施行スヘキ地ヲ管轄スル區裁判所ノ書記又ハ之ニ相當スル官署ニ囑託シテ之ヲ爲スコトヲ得
第百三十一條 兵營其ノ他軍事用ノ廳舍又ハ艦船ノ內ニ在ル者ニ對スル送達ハ廳舍若ハ艦船ノ長又ハ之ニ代ルヘキ者ニ囑託シテ之ヲ爲ス
第一條又ハ海軍軍法會議法第一條ニ記載シタル者ニシテ前項ニ記載シタル以外ノ場所ニ在ル者ニ對スル送達ハ其ノ所屬ノ長若ハ監督者又ハ之ニ代ルヘキ者ニ囑託シテ之ヲ爲スコトヲ得
前二項ノ規定ニ依ル送達ハ書類ヲ本人ニ交付シタル旨ノ證書ヲ以テ之ヲ證ス
第百三十二條 第一條及海軍軍法會議法第一條ニ記載シタル以外ノ者被告人、代理人、辯護人又ハ輔佐人ト爲リタルトキハ書類ノ送達ヲ受クル爲書面ヲ以テ其ノ住居又ハ事務所ヲ軍法會議ニ屆出ツヘシ軍法會議所在地ニ住居及事務所ヲ有セサルトキハ其ノ所在地ニ住居又ハ事務所ヲ有スル者ヲ送達受取人ニ選任シ其ノ旨及送達受取人ノ住居又ハ事務所ヲ其ノ者ト共ニ書面ヲ以テ屆出ツヘシ
前項ノ規定ハ在監者ニ付之ヲ適用セス
送達受取人ハ送達ヲ受クヘキ本人ト看做シ送達受取人ノ住居又ハ事務所ハ本人ノ住居又ハ事務所ト看做ス
第百三十三條 前條第一項ノ規定ニ依ル屆出ヲ爲スヘキ者其ノ屆出ヲ爲ササルトキハ交付スヘキ書類ヲ郵便ニ付シテ送達ヲ爲スコトヲ得
前項ノ送達ハ書類ヲ郵便ニ付シタル時ヲ以テ之ヲ爲シタルモノト看做ス
第百三十四條 檢察官ニ對スル送達ハ書類ヲ其ノ所屬官廳ニ送付シテ之ヲ爲ス
第百三十五條 被告人ノ現在地知レサルトキハ公示送達ヲ爲スコトヲ得
被告人裁判權ノ及ハサル場所ニ在ル爲他ノ方法ヲ以テ送達ヲ爲スコト能ハサルトキ亦前項ニ同シ
第百三十六條 公示送達ハ軍法會議ノ指揮アリタルトキニ限リ之ヲ爲スコトヲ得
公示送達ハ交付スヘキ書類又ハ其ノ抄本ヲ軍法會議ノ揭示場ニ公示シテ之ヲ爲ス
公判ニ於ケル第一囘ノ召喚狀ノ公示送達ハ召喚狀ヲ軍法會議ノ揭示場ニ公示シ且其ノ謄本ヲ官報又ハ新聞紙ニ揭載シテ之ヲ爲ス
前項ノ公示送達ハ最後ニ官報又ハ新聞紙ニ揭載シタル時ヨリ三十日其ノ他ノ公示送達ハ揭示場ニ公示シタル時ヨリ七日ノ期間ヲ經過スルニ因リテ其ノ效力ヲ生ス
第百三十七條 送達ニ付テハ別段ノ規定アル場合ヲ除クノ外民事訴訟法ヲ準用ス
第六節 期間
第百三十八條 期間ヲ計算スルニ時ヲ以テスルモノハ卽時ヨリ之ヲ起算シ日、月又ハ年ヲ以テスルモノハ初日ヲ算入セス但シ時效期間ノ初日ハ時間ヲ論セス一日トシテ之ヲ計算ス
月及年ハ曆ニ從ヒテ之ヲ計算ス
期間ノ末日日曜日、一月一日二日四日、十二月二十九日三十日三十一日、一般ノ休日トシテ指定セラレタル大祭日若ハ祝日又ハ陸軍一般ノ休日ニ當ルトキハ之ヲ期間ニ算入セス但シ時效期間ニ付テハ此ノ限ニ在ラス
第百三十九條 法定ノ期間ハ訴訟行爲ヲ爲スヘキ者ノ住居地ト軍法會議所在地トノ距離ニ從ヒ海陸路二十里每ニ一日ヲ加フ二十里ニ滿タサルモ五里以上ナルトキ亦同シ但シ海路ハ二海里ヲ一里トシテ之ヲ計算ス
外國又ハ交通不便ノ地ニ在ル者ノ爲ニハ特ニ期間ヲ定ムルコトヲ得
第七節 被告人ノ召喚、勾引及勾留
第百四十條 軍法會議公訴ヲ受ケタルトキハ被告人ヲ召喚スヘシ
第百四十一條 被告人ノ召喚ハ召喚狀ヲ發シテ之ヲ爲スヘシ
被告人期日ニ出頭スヘキ旨ヲ記載シタル書面ヲ差出シ又ハ出廷シタル被告人ニ對シ口頭ヲ以テ次囘ノ出頭ヲ命シタルトキハ召喚狀ヲ送達シタルト同一ノ效力ヲ有ス口頭ヲ以テ出頭ヲ命シタル場合ニ於テハ其ノ旨ヲ調書ニ記載スヘシ
兵營其ノ他軍事用ノ廳舍又ハ艦船ノ內ニ在ル被告人ノ召喚ハ廳舍若ハ艦船ノ長又ハ之ニ代ルヘキ者ニ通知シテ之ヲ爲スコトヲ得此ノ場合ニ於テハ被告人廳舍若ハ艦船ノ長又ハ之ニ代ルヘキ者ヨリ通知ヲ受ケタル時ヲ以テ召喚狀ノ送達アリタルモノト看做ス
前項ノ規定ハ軍法會議ニ近接スル監獄ニ在ル被告人ヲ召喚スル場合ニ之ヲ準用ス
第百四十二條 召喚ヲ受ケタル被告人期日ニ出頭セサルトキハ更ニ之ヲ召喚シ又ハ之ヲ勾引スルコトヲ得
第百四十三條 左ノ場合ニ於テハ直ニ被告人ヲ勾引スルコトヲ得
一 軍紀ヲ保持スル爲必要アルトキ
二 被告人逃走シタルトキ又ハ逃走スル虞アルトキ
三 被告人罪證ヲ湮滅スル虞アルトキ
四 被告人定リタル住居ヲ有セサルトキ
第百四十四條 被告人ノ勾引ハ勾引狀ヲ發シテ之ヲ爲スヘシ
第百四十五條 勾引シタル被告人ハ軍法會議ニ引致シタル時ヨリ四十八時間內ニ之ヲ訊問スヘシ其ノ時間內ニ勾留狀ヲ發セサルトキハ被告人ヲ釋放スヘシ
第百四十六條 第百四十三條ニ記載シタル事由アルトキハ被告人ヲ勾留スルコトヲ得但シ被告人監獄ニ在ルトキハ其ノ事由ナシト雖之ヲ勾留スルコトヲ得
前項ノ規定ハ五百圓ヲ超過セサル罰金、拘留又ハ科料ニ該ルヘキ事件ニ付テハ第百四十三條第四號ノ場合ヲ除クノ外之ヲ適用セス
被告人ノ勾留ハ訊問シタル後ニ非サレハ之ヲ爲スコトヲ得ス但シ第百四十三條第一號ノ場合及被告人逃走シタル場合ハ此ノ限ニ在ラス
第百四十七條 被告人ノ勾留ハ勾留狀ヲ發シテ之ヲ爲スヘシ
第百四十八條 裁判長ハ急速ヲ要スル場合ニ於テハ第百四十條乃至前條ノ規定ニ依ル處分ヲ爲シ又ハ受命裁判官ヲシテ之ヲ爲サシムルコトヲ得
第百四十九條 裁判長ハ被告人現在地ノ豫審官、檢察官、陸軍司法警察官、豫審判事、區裁判所判事、檢事、司法警察官又ハ法令ニ依リ特別ニ裁判權ヲ有スル官署ニ被告人ノ勾引ヲ囑託スルコトヲ得
受託官署ハ更ニ受託ノ權限アル官署ニ轉囑スルコトヲ得但シ陸軍司法警察官及司法警察官ハ此ノ限ニ在ラス
受託官署受託事項ニ付權限ヲ有セサルトキハ受託ノ權限アル官署ニ囑託ヲ移送スルコトヲ得但シ陸軍司法警察官及司法警察官ハ此ノ限ニ在ラス
囑託又ハ移送ヲ受ケタル官署ハ勾引狀ヲ發スヘシ
第百五十條 被告人ノ現在地ヲ覺知スルコト能ハサルトキハ裁判長ハ檢事長又ハ之ニ相當スル官署ニ被告人ノ人相書ヲ送付シ其ノ搜查及勾引ヲ囑託スルコトヲ得
囑託ヲ受ケタル官署ハ其ノ管轄區域內ノ檢事又ハ相當官署ヲシテ勾引狀ヲ發シ搜查及勾引ノ手續ヲ爲サシムヘシ
第百五十一條 前二條ノ場合ニ於テ囑託ニ因リ勾引狀ヲ發シタル官署ハ被告人ヲ引致シタル時ヨリ四十八時間內ニ其ノ人違ナキカ否ヲ取調フヘシ
被告人人違ニ非サルトキハ速ニ之ヲ指定セラレタル軍法會議ニ送致スヘシ此ノ場合ニ於テハ第百四十五條ノ期間ハ被告人ノ送致ヲ受ケタル時ヨリ之ヲ起算ス
第百五十二條 召喚狀、勾引狀又ハ勾留狀ニハ被告事件竝被告人ノ氏名及住所ヲ記載シ裁判長又ハ受命裁判官之ニ記名捺印スヘシ
勾引狀又ハ勾留狀ヲ發スル場合ニ於テ被告人ノ住所分明ナラサルトキハ之ヲ記載スルコトヲ要セス其ノ氏名分明ナラサルトキハ容貌、體格其ノ他ノ徵表ヲ以テ被告人ヲ指示スヘシ
召喚狀ニハ被告人ノ出頭スヘキ年月日時及場所竝召喚ニ應セサルトキハ勾引狀ヲ發スルコトアルヘキ旨ヲ記載スヘシ
勾留狀ニハ被告人ヲ勾留スヘキ監獄ヲ指定スヘシ
第百四十八條ノ規定ニ依リ召喚狀、勾引狀又ハ勾留狀ヲ發スル場合ニ於テハ其ノ旨ヲ記載スヘシ
第百五十三條 前條第一項及第二項ノ規定ハ第百四十九條第四項ノ規定ニ依リ豫審官、檢察官又ハ陸軍司法警察官ノ發スル勾引狀ニ之ヲ準用ス此ノ場合ニ於テハ勾引狀ニ囑託ヲ爲シタル裁判長ノ氏名及其ノ囑託ニ因リ之ヲ發スル旨ヲ記載スヘシ
第百五十四條 召喚狀ハ之ヲ送達ス
第百五十五條 勾引狀又ハ勾留狀ハ檢察官ノ指揮ニ依リ陸軍司法警察官吏之ヲ執行ス但シ急速ヲ要スル場合ニ於テハ裁判長、受命裁判官又ハ豫審官其ノ執行ヲ指揮スルコトヲ得
監獄ニ在ル被告人ニ對シテ發シタル勾留狀ハ監獄官吏之ヲ執行ス
勾引狀又ハ勾留狀ハ必要アルトキハ司法警察官吏ヲシテ之ヲ執行セシムルコトヲ得
特設軍法會議ニ於テハ陸軍下士卒ヲシテ勾引狀又ハ勾留狀ヲ執行セシムルコトヲ得
第百五十六條 勾引狀ハ數通ヲ作リ之ヲ陸軍司法警察官吏、陸軍下士卒又ハ司法警察官吏數人ニ交付スルコトヲ得
第百五十七條 陸軍司法警察官吏又ハ司法警察官吏ハ必要アルトキハ管轄地外ニ於テ勾引狀ノ執行ヲ爲シ又ハ其ノ地ノ陸軍司法警察官若ハ司法警察官ニ其ノ執行ヲ求ムルコトヲ得
第百五十八條 勾引狀ヲ執行スルニハ之ヲ被告人ニ示シテ指定セラレタル軍法會議ニ引致スヘシ
第百四十九條第四項及第百五十條第二項ノ場合ニ於テハ勾引狀ヲ發シタル官署ニ引致スヘシ
勾留狀ヲ執行スルニハ之ヲ被告人ニ示シテ指定セラレタル監獄ニ引致スヘシ
第百五十九條 兵營其ノ他軍事用ノ廳舍又ハ艦船ノ內ニ在ル者ニ對シ勾引狀又ハ勾留狀ヲ執行スヘキ場合ニ於テハ廳舍若ハ艦船ノ長又ハ之ニ代ルヘキ者ニ勾引狀又ハ勾留狀ヲ示シテ引渡ヲ求ムヘシ
軍事用ノ廳舍及艦船ノ外ニ在リテ現ニ陸海軍ノ勤務ニ從事スル者ニ對シ勾引狀又ハ勾留狀ヲ執行スヘキ場合ニ於テハ其ノ所屬ノ長又ハ之ニ代ルヘキ者ニ勾引狀又ハ勾留狀ヲ示シテ引渡ヲ求ムヘシ
第百六十條 軍法會議ハ必要アルトキハ決定ヲ以テ指定ノ場所ニ被告人ノ出頭又ハ同行ヲ命スルコトヲ得被告人正當ノ事由ナクシテ之ヲ肯セサルトキハ其ノ場所ニ勾引スルコトヲ得
第百六十一條 勾引狀又ハ勾留狀ノ執行ヲ受ケタル被告人ヲ護送スル場合ニ於テ必要アルトキハ假ニ最寄ノ監獄ニ之ヲ留置スルコトヲ得
第百六十二條 勾引狀ノ執行ヲ受ケタル被告人ヲ引致シタル場合ニ於テ必要アルトキハ之ヲ監獄ニ留置スルコトヲ得
第百六十三條 勾引狀又ハ勾留狀ヲ執行シタルトキハ之ニ執行ノ場所及年月日時ヲ記載シ之ヲ執行スルコト能ハサルトキハ其ノ事由ヲ記載シ記名捺印スヘシ
勾引狀又ハ勾留狀ノ執行ニ關スル書類ハ之ヲ檢察官又ハ執行ヲ指揮シタル官署ニ差出スヘシ
勾引狀ノ執行ニ關スル書類ヲ受取リタル檢察官其ノ他ノ官署ハ被告人ノ引致セラレタル年月日時ヲ勾引狀ニ記載スヘシ
第百六十四條 檢察官ハ勾留セラレタル被告人ヲ他ノ監獄ニ移スコトヲ得
第百六十五條 勾留セラレタル被告人ハ法令ノ範圍內ニ於テ他人ト接見シ又ハ書類若ハ物ノ授受ヲ爲スコトヲ得勾引狀ニ因リ監獄ニ留置セラレタル被告人亦同シ
第百六十六條 軍法會議ハ罪證ヲ湮滅シ、逃走シ又ハ軍事上ノ機密ヲ漏泄スル虞アルトキハ勾留セラレタル被告人ト他人トノ接見ヲ禁シ又ハ他人ト接受スヘキ書類若ハ物ヲ查閱シ又ハ其ノ授受ヲ禁シ若ハ之ヲ差押フルコトヲ得
軍法會議書類又ハ物ノ查閱ヲ爲スコト能ハサルトキハ檢察官之ヲ爲スコトヲ得
第百六十七條 勾留ノ原由消滅シタルトキハ軍法會議ハ檢察官ノ意見ヲ聽キ決定ヲ以テ勾留ヲ取消スヘシ
第百六十八條 勾留セラレタル被告人第一條第一項第一號、第四號及海軍軍法會議法第一條第一項第一號、第四號ニ記載シタル以外ノ者ナルトキハ被告人又ハ其ノ法定代理人、保佐人若ハ夫ハ保釋ノ請求ヲ爲スコトヲ得
第百六十九條 保釋ノ請求アリタルトキハ軍法會議ハ檢察官ノ意見ヲ聽キ決定ヲ爲スヘシ
保釋ヲ許ス場合ニ於テハ保證金額ヲ定ムヘシ
保釋ヲ許ス場合ニ於テハ被告人ノ住居ヲ制限スルコトヲ得
第百七十條 保釋ヲ許ス決定ハ保證金ヲ差出シタル後之ヲ執行スヘシ
檢察官ハ保釋請求者ニ非サル者ヲシテ保證金ヲ差出サシムルコトヲ得
檢察官ハ有價證券又ハ軍法會議ノ所在地ニ住居シ保證金ヲ納ムルニ十分ナル資產ヲ有スル者ノ保證書ヲ以テ保證金ニ代フルコトヲ許スコトヲ得
前項ノ保證書ニハ保證金額及何時ニテモ保證金ヲ納ムヘキ旨ヲ記載スヘシ
第百七十一條 軍法會議ハ檢察官ノ意見ヲ聽キ決定ヲ以テ勾留セラレタル被告人ヲ責付スルコトヲ得
責付ハ被告人營內居住者ナルトキハ其ノ所屬部隊ノ長ニ之ヲ爲シ營內居住者ニ非サルトキハ親族其ノ他ノ者ニ之ヲ爲スヘシ
營內居住者ニ非サル者ヲ責付スルニハ親族其ノ他ノ者ヨリ何時ニテモ召喚ニ應シ被告人ヲ出頭セシムヘキ旨ノ書面ヲ差出サシムヘシ
第百七十二條 被告人營內居住者ニ非サルトキハ軍法會議ハ檢察官ノ意見ヲ聽キ決定ヲ以テ住居ヲ制限シテ勾留ノ執行ヲ停止スルコトヲ得
第百七十三條 軍法會議ハ檢察官ノ意見ヲ聽キ何時ニテモ決定ヲ以テ保釋、責付又ハ勾留ノ執行停止ヲ取消スコトヲ得
保釋中被告人召喚ヲ受ケ正當ノ事由ナクシテ出頭セス、住居ノ制限ニ違反シ又ハ逃走シタル爲保釋ヲ取消ス場合ニ於テハ軍法會議ハ檢察官ノ意見ヲ聽キ決定ヲ以テ保證金ノ全部又ハ一部ヲ沒取スヘシ
保釋セラレタル者刑ノ言渡ヲ受ケ其ノ判決確定シタル後執行ノ爲召喚ヲ受ケ正當ノ事由ナクシテ出頭セス又ハ逃走シタルトキハ軍法會議ハ檢察官ノ請求ニ因リ決定ヲ以テ保證金ノ全部又ハ一部ヲ沒取スヘシ
第百七十四條 勾留若ハ保釋ヲ取消シ又ハ勾留狀ノ效力消滅シタルトキハ檢察官ハ沒取ニ係ラサル保證金ヲ還付スヘシ
第百七十五條 上告提起期間內又ハ上告中ノ事件ニ付勾留ヲ取消シ保釋、責付若ハ勾留ノ執行停止ヲ爲シ又ハ之ヲ取消スヘキ場合ニ於テハ原軍法會議其ノ決定ヲ爲スヘシ
第百七十六條 豫審官ハ被告人ノ召喚、勾引及勾留ニ關シ軍法會議又ハ裁判長ト同一ノ權ヲ有ス
第百七十七條 左ノ場合ニ於テ被告事件急速ノ處分ヲ要シ軍法會議又ハ豫審官ノ勾引狀ヲ求ムルコト能ハサルトキハ檢察官又ハ陸軍司法警察官ハ勾引狀ヲ發スルコトヲ得
一 軍紀ヲ保持スル爲必要アルトキ
二 現行犯ノ被告人其ノ場所ニ在ラサルトキ
三 現行犯ノ取調ニ因リ其ノ事件ノ共犯ヲ發見シタルトキ
四 死體ノ檢證ニ因リ其ノ事件ノ被告人ヲ發見シタルトキ
五 旣決ノ囚人又ハ法令ニ依リ拘禁セラレタル被告人逃走シタルトキ
六 被告人强盜又ハ竊盜ノ罪ヲ犯シタルモノナルトキ
七 被告人定リタル住居ヲ有セサルトキ
前項ノ規定ニ依リ勾引狀ヲ發スルコトヲ得ル場合ニ於テハ檢察官ハ之ヲ他ノ檢察官、陸軍司法警察官又ハ司法警察官ニ囑託シ陸軍司法警察官ハ之ヲ他ノ陸軍司法警察官又ハ司法警察官ニ命令シ又ハ囑託スルコトヲ得
第百七十八條 檢察官、陸軍司法警察官吏又ハ司法警察官吏其ノ職務ヲ行フニ當リ現行犯アルコトヲ知リタル場合ニ於テ被告人其ノ場所ニ在リテ其ノ住居若ハ氏名分明ナラサルトキ又ハ第百四十三條各號ニ記載シタル事由アルトキハ左ノ處分ヲ爲スヘシ
一 檢察官、陸軍司法警察官又ハ司法警察官ハ直ニ被告人ヲ逮捕シ又ハ其ノ逮捕ヲ陸軍司法警察吏又ハ司法警察吏ニ命スヘシ
二 陸軍司法警察吏又ハ司法警察吏ハ命令ヲ待タスシテ直ニ被告人ヲ逮捕スヘシ
第百七十九條 現行犯ノ被告人其ノ場所ニ在ルトキハ何人ト雖之ヲ逮捕スルコトヲ得
被告人ヲ逮捕シタルトキハ速ニ之ヲ檢察官、陸軍司法警察官吏又ハ司法警察官吏ニ引渡スヘシ
第百八十條 陸軍司法警察吏又ハ司法警察吏被告人ヲ逮捕シ又ハ之ヲ受取リタルトキハ速ニ之ヲ檢察官、陸軍司法警察官又ハ司法警察官ニ引致スヘシ
陸軍司法警察吏又ハ司法警察吏被告人ヲ受取リタル場合ニ於テハ逮捕者ノ氏名、住居及逮捕ノ事由ヲ聽取ルヘシ必要アルトキハ逮捕者ニ對シ共ニ官署ニ至ルコトヲ求ムルコトヲ得
第百八十一條 司法警察官被告人ヲ逮捕シ又ハ之ヲ受取リタルトキハ速ニ訊問シ留置ノ必要ナシト思料スルトキハ直ニ釋放スヘシ留置ノ必要アリト思料スルトキハ速ニ書類及證據物ト共ニ被告人ヲ檢察官又ハ陸軍司法警察官ニ送致スル手續ヲ爲スヘシ
第百八十二條 陸軍司法警察官被告人ヲ逮捕シ又ハ之ヲ受取リタルトキハ速ニ訊問シ留置ノ必要ナシト思料スルトキハ直ニ釋放スヘシ留置ノ必要アリト思料スルトキハ遲クトモ三日內ニ書類及證據物ト共ニ被告人ヲ管轄軍法會議ノ檢察官又ハ相當官署ニ送致スル手續ヲ爲スヘシ
第百八十三條 檢察官被告人ヲ逮捕シ又ハ之ヲ受取リタルトキハ遲クトモ二十四時間內ニ訊問シ留置ノ必要ナシト思料スルトキハ直ニ釋放スヘシ被告事件急速ヲ要シ軍法會議又ハ豫審官ノ勾留狀ヲ求ムル能ハサル場合ニ於テ留置ノ必要アリト思料スルトキハ勾留狀ヲ發スヘシ但シ五百圓ヲ超過セサル罰金、拘留又ハ科料ニ該ルヘキ事件ニ付テハ第百七十七條第一項第七號ノ場合ヲ除クノ外勾留狀ヲ發スルコトヲ得ス
檢察官勾留狀ヲ發シタルトキハ速ニ長官ニ搜查ノ報告ヲ爲シ又ハ書類及證據物ト共ニ被告人ヲ管轄軍法會議ノ檢察官若ハ相當官署ニ送致スル手續ヲ爲スヘシ
檢察官他ノ檢察官ヨリ被告人ヲ受取リタルトキハ前二項ノ規定ニ準シ處分スヘシ但シ留置ノ必要ナシト思料スルトキハ勾留ヲ取消スヘシ
第百八十四條 現ニ罪ヲ行ヒ又ハ現ニ罪ヲ行ヒ終リタル際ニ發覺シタルモノヲ現行犯トス
兇器贓物其ノ他ノ物ヲ所持シ、誰何セラレテ逃走シ、犯人トシテ追呼セラレ又ハ身體被服ニ顯著ナル犯罪ノ痕跡アリテ犯人ト思料スヘキ場合ハ現行犯ノ被告人其ノ場所ニ在リタルモノト看做ス
第百八十五條 第百七十七條以下ノ場合ニ於ケル勾引又ハ勾留ニ付テハ第百五十一條乃至第百五十三條及第百五十五條乃至第百六十四條ノ規定ヲ準用ス
第八節 被告人訊問
第百八十六條 被告人ニ對シテハ先ツ其ノ人違ナキコトヲ確ムルニ足ルヘキ事項ヲ訊問スヘシ
第百八十七條 被告人ニ對シテハ被告事件ヲ告ケ其ノ事件ニ付陳述スヘキコトアリヤ否ヲ問ヒ其ノ利益ト爲ルヘキ事實ヲ陳述スル機會ヲ與フヘシ
第百八十八條 被告人ニ對シテ訊問ヲ爲ストキハ錄事ヲシテ立會ハシムヘシ但シ檢察官、陸軍司法警察官又ハ司法警察官訊問ヲ爲ス場合ハ此ノ限ニ在ラス
第百八十九條 事實發見ノ爲必要アルトキハ被告人ト他ノ被告人又ハ證人ト對質セシムルコトヲ得
第百九十條 被告人聾ナルトキハ書面ヲ以テ問ヒ啞ナルトキハ書面ヲ以テ答ヘシムルコトヲ得
第九節 押收及搜索
第百九十一條 軍法會議ハ別段ノ規定アル場合ヲ除クノ外證據物又ハ沒收スヘキ物ト思料スルモノハ之ヲ差押フヘシ
軍法會議ハ差押フヘキ物ヲ指定シ所有者、所持者又ハ保管者ニ其ノ物ノ提出ヲ命スルコトヲ得
第百九十二條 軍法會議ハ被告人ヨリ發シ又ハ被告人ニ對シテ發シタル郵便物又ハ電報及其ノ賴信紙ニシテ通信事務ヲ取扱フ官署其ノ他ノ者ノ保管又ハ所持スルモノヲ差押ヘ又ハ之ヲ提出セシムルコトヲ得
前項ニ記載シタル以外ノ郵便物又ハ電報及其ノ賴信紙ニシテ通信事務ヲ取扱フ官署其ノ他ノ者ノ保管又ハ所持スルモノハ被告事件ニ關係アリト思料スルニ足ルヘキ狀況アルモノニ限リ之ヲ差押ヘ又ハ之ヲ提出セシムルコトヲ得
前二項ノ規定ニ依ル處分ヲ爲シタルトキハ之ヲ發信人又ハ受信人ニ通知スヘシ但シ通知ニ因リテ審理ヲ妨クル虞アル場合ハ此ノ限ニ在ラス
第百九十三條 軍法會議ハ被告人其ノ他ノ者ノ遺留シタル物又ハ所有者、所持者若ハ保管者ニ於テ任意ニ提出シタル物ヲ領置スルコトヲ得
第百九十四條 軍法會議ハ必要アルトキハ被告人ノ身體、物又ハ住居其ノ他ノ場所ニ就キ搜索ヲ爲スコトヲ得
被告人ニ非サル者ノ身體、物又ハ住居其ノ他ノ場所ニ付テハ押收スヘキ物ノ存在ヲ認知スルニ足ルヘキ狀況アル場合ニ限リ搜索ヲ爲スコトヲ得
第百九十五條 押收又ハ搜索ニ付テハ鎖鑰又ハ封緘ノ開披其ノ他必要ナル處分ヲ爲スコトヲ得押收物ニ付亦同シ
第百九十六條 軍事上祕密ヲ要スル場所ニ於テハ其ノ長又ハ之ニ代ルヘキ者ノ承諾アルニ非サレハ押收又ハ搜索ヲ爲スコトヲ得ス
第百九十七條 公務員又ハ公務員タリシ者ノ保管又ハ所持スル物ニ付本人又ハ當該公務所ヨリ職務上ノ祕密ニ關スルモノナルコトヲ申立ツルトキハ當該監督官廳ノ承諾アルニ非サレハ押收ヲ爲スコトヲ得ス但シ當該監督官廳ハ帝國ノ安寧ヲ害スル場合ヲ除クノ外承諾ヲ拒ムコトヲ得ス
國務大臣、宮內大臣、內大臣、樞密院議長、樞密院副議長、樞密顧問官、會計檢查院長、元帥、參謀總長、海軍軍令部長、敎育總監若ハ軍事參議官又ハ此等ノ職ニ在リシ者其ノ保管又ハ所持スル物ニ付前項ノ申立ヲ爲ストキハ勅許ヲ得ルニ非サレハ押收ヲ爲スコトヲ得ス
第百九十八條 醫師、齒科醫師、藥劑師、藥種商、產婆、辯護士、辯護人、公證人、宗敎若ハ禱祀ノ職ニ在ル者又ハ此等ノ職ニ在リシ者ハ業務上委託ヲ受ケタル爲所持スル物ニシテ他人ノ祕密ニ關スルモノニ付押收ヲ拒ムコトヲ得但シ本人承諾シタルトキハ此ノ限ニ在ラス
第百九十九條 軍法會議ハ押收スヘキ物又ハ搜索スヘキ場所、身體若ハ物ヲ指定シタル命令狀ヲ發シ陸軍司法警察官又ハ司法警察官ヲシテ押收又ハ搜索ヲ爲サシムルコトヲ得
命令狀ニハ押收又ハ搜索ヲ爲スヘキ事由ヲ記載シ裁判長之ニ記名捺印スヘシ
命令狀ハ處分ヲ受クル者ノ請求アルトキハ之ヲ示スヘシ
第二百條 陸軍司法警察官又ハ司法警察官前條第一項ノ規定ニ依リ押收又ハ搜索ヲ爲スニ當リ其ノ被告事件ニ關スル他ノ證據物ヲ發見シタルトキハ之ヲ押收スルコトヲ得
第二百一條 陸軍司法警察官又ハ司法警察官前二條ノ規定ニ依リ押收又ハ搜索ヲ爲シタルトキハ檢察官ヲ經テ之ニ關スル書類及押收物ヲ軍法會議ニ差出スヘシ
第二百二條 軍法會議押收又ハ搜索ヲ爲スニ當リ他ノ犯罪ニ關スル顯著ナル證據物ヲ發見シタルトキハ假ニ之ヲ押收シテ檢察官ニ送付スルコトヲ得
檢察官前項ノ規定ニ依リ押收シタル物ヲ留置スル必要ナシト思料スルトキハ之ヲ還付スヘシ
第二百三條 押收又ハ搜索ハ受命裁判官ヲシテ之ヲ爲サシメ又ハ處分ヲ爲スヘキ地ノ豫審官、豫審判事、區裁判所判事又ハ法令ニ依リ特別ニ裁判權ヲ有スル官署ニ之ヲ囑託スルコトヲ得
受託官署ハ受託ノ權限アル官署ニ轉囑スルコトヲ得
受託官署受託事項ニ付權限ヲ有セサルトキハ受託ノ權限アル官署ニ囑託ヲ移送スルコトヲ得
受命裁判官又ハ受託豫審官ハ押收又ハ搜索ヲ爲スニ付軍法會議ニ屬スル處分ヲ爲スコトヲ得但シ第百九十二條第三項ノ通知ハ軍法會議之ヲ爲スヘシ
第二百四條 日出前、日沒後ニハ住居主若ハ保管者又ハ之ニ代ルヘキ者ノ承諾アルニ非サレハ押收又ハ搜索ノ爲人ノ住居又ハ人ノ看守スル邸宅、建造物若ハ艦船ニ入ルコトヲ得ス但シ猶豫スヘカラサル場合ハ此ノ限ニ在ラス
日沒前押收又ハ搜索ニ著手シタルトキハ日沒後ト雖其ノ處分ヲ繼續スルコトヲ得
第二百五條 左ノ場所ニ付テハ前條第一項ニ規定スル制限ニ依ルコトヲ要セス
一 賭博、富籤又ハ風俗ヲ害スル行爲ニ常用セラルルモノト認ムヘキ場所
二 旅店、飮食店其ノ他夜間ト雖公衆ノ出入スルコトヲ得ヘキ場所但シ公開シタル時間內ニ限ル
第二百六條 官署、公署又ハ兵營其ノ他軍事用ノ廳舍若ハ艦船ノ內ニ於テ押收又ハ搜索ヲ爲ストキハ其ノ長又ハ之ニ代ルヘキ者ニ通知シテ其ノ處分ニ立會ハシムヘシ
前項ノ場合ヲ除クノ外人ノ住居又ハ人ノ看守スル邸宅、建造物若ハ船舶ノ內ニ於テ押收又ハ搜索ヲ爲ストキハ住居主若ハ保管者又ハ之ニ代ルヘキ者ヲシテ其ノ處分ニ立會ハシムヘシ此等ノ者ヲシテ立會ハシムルコト能ハサルトキハ隣人又ハ市町村吏員ヲシテ立會ハシムヘシ
第二百七條 檢察官、被告人又ハ辯護人ハ押收又ハ搜索ノ處分ニ立會フコトヲ得但シ拘禁セラレタル被告人ハ此ノ限ニ在ラス
押收又ハ搜索ノ處分ヲ爲スニ付必要アルトキハ被告人ヲシテ其ノ處分ニ立會ハシムルコトヲ得
第二百八條 押收又ハ搜索ヲ爲スヘキ日時及場所ハ豫メ前條ノ規定ニ依リ其ノ處分ニ立會フコトヲ得ヘキ者ニ之ヲ通知スヘシ但シ急速ノ處分ヲ要スルトキハ此限ニ在ラス
第二百九條 押收又ハ搜索ヲ爲スニ付必要アルトキハ陸軍司法警察官吏又ハ司法警察官吏ヲシテ補助ヲ爲サシムルコトヲ得
第二百十條 押收又ハ搜索ノ處分中ハ何人ニ限ラス許可ヲ得スシテ其ノ場所ニ出入スルコトヲ禁止スルコトヲ得
前項ノ禁止ニ從ハサル者ハ之ヲ退去セシメ又ハ處分ヲ終ル迄之ヲ留置スルコトヲ得
第二百十一條 押收又ハ搜索ノ處分ヲ中止スル場合ニ於テ必要アルトキハ其ノ場所ヲ閉鎖シ又ハ看守者ヲ置クヘシ
第二百十二條 押收ヲ爲シタル場合ニ於テ所有者、所持者若ハ保管者又ハ之ニ代ルヘキ者ノ請求アリタルトキハ品目ヲ記載シタル調書又ハ目錄ノ謄本又ハ抄本ヲ之ニ交付スヘシ
第二百十三條 押收物ニ付テハ喪失又ハ毀損ヲ防ク爲相當ノ處置ヲ爲スヘシ
運搬又ハ保管ニ不便ナル押收物ニ付テハ看守者ヲ置キ又ハ所有者其ノ他ノ者ヲシテ之ヲ保管セシムルコトヲ得
危害ヲ生スル虞アル押收物ハ之ヲ廢棄スルコトヲ得
第二百十四條 沒收スルコトヲ得ヘキ押收物ニシテ滅失若ハ毀損ノ虞アルモノ又ハ保管ニ不便ナルモノハ之ヲ公賣シテ其ノ代價ヲ保管スルコトヲ得
第二百十五條 押收物ニシテ留置ノ必要ナキモノハ被告事件ノ終結ヲ待タス檢察官ノ意見ヲ聽キ決定ヲ以テ之ヲ還付スヘシ
押收物ハ所有者、所持者、保管者又ハ差出人ノ請求ニ因リ檢察官ノ意見ヲ聽キ決定ヲ以テ假ニ之ヲ還付スルコトヲ得
第二百十六條 押收シタル贓物ニシテ留置ノ必要ナキモノハ被害者ニ還付スヘキ理由明暸ナルトキニ限リ被告事件ノ終結ヲ待タス檢察官ノ意見ヲ聽キ決定ヲ以テ之ヲ被害者ニ還付スヘシ
前項ノ規定ハ民事訴訟ノ手續ニ從ヒ利害關係人ヨリ其ノ權利ヲ主張スルコトヲ妨ケス
第二百十七條 押收又ハ搜索ヲ爲ストキハ錄事ヲシテ立會ハシムヘシ
第二百十八條 豫審官ハ押收及搜索ニ關シ軍法會議ト同一ノ權ヲ有ス
第二百十九條 檢察官ハ第百七十七條、第百七十八條又ハ第百八十三條ノ場合ニ於テ急速ヲ要スルトキハ豫審請求前又ハ公訴提起前ニ限リ押收若ハ搜索ヲ爲シ又ハ之ヲ他ノ檢察官、陸軍司法警察官若ハ司法警察官ニ囑託スルコトヲ得
陸軍司法警察官ハ第百七十七條、第百七十八條又ハ第百八十二條ノ場合ニ於テ急速ヲ要スルトキハ豫審請求前又ハ公訴提起前ニ限リ押收若ハ搜索ヲ爲シ又ハ之ヲ他ノ陸軍司法警察官若ハ司法警察官ニ命令シ若ハ囑託スルコトヲ得
司法警察官ハ第百七十八條又ハ第百八十一條ノ場合ニ於テ急速ヲ要スルトキハ豫審請求前又ハ公訴提起前ニ限リ押收若ハ搜索ヲ爲シ又ハ之ヲ他ノ司法警察官ニ命令シ若ハ囑託スルコトヲ得
陸軍司法警察官又ハ司法警察官押收ヲ爲シタル場合ニ於テ留置ノ必要アリト思料スルトキハ速ニ押收物ヲ檢察官ニ送付スヘシ但シ第二百十三條第二項又ハ第三項ノ處分ヲ爲シタルトキハ速ニ其ノ旨ヲ檢察官ニ通知スヘシ
第二百二十條 人ノ住居又ハ人ノ看守スル邸宅、建造物若ハ艦船ノ內ニ現行犯アル場合ニ於テ急速ノ處分ヲ要スルトキハ檢察官、陸軍司法警察官又ハ司法警察官ハ何時ニテモ其ノ場所ニ入リ押收又ハ搜索ヲ爲スコトヲ得
第二百二十一條 人ノ住居又ハ人ノ看守スル邸宅、建造物若ハ艦船ノ內ニ現行犯アル場合ニ於テ被告人ヲ逮捕スルニ付急速ノ處分ヲ要スルトキハ檢察官、陸軍司法警察官吏又ハ司法警察官吏ハ何時ニテモ其ノ場所ニ入リ之ヲ搜索スルコトヲ得此ノ場合ニ於テハ第二百六條第二項ノ規定ニ依ルコトヲ要セス
檢察官、陸軍司法警察官吏又ハ司法警察官吏現行犯ノ被告人ヲ逮捕スル爲追行シタル場合ニ於テ被告人、人ノ住居又ハ人ノ看守スル邸宅、建造物若ハ艦船ノ內ニ逃入リタルトキ亦前項ニ同シ
第二百二十二條 勾引狀又ハ勾留狀ヲ執行スル場合ニ於テ必要アルトキハ人ノ住居又ハ人ノ看守スル邸宅、建造物若ハ艦船ノ內ニ入リ搜索ヲ爲スコトヲ得但シ第百七十七條第一項第一號又ハ第三號乃至第六號ノ規定ニ依リ發シタル勾引狀ヲ執行スル場合ニ於テハ前條ノ例ニ依ル
第二百二十三條 檢察官、陸軍司法警察官又ハ司法警察官ノ爲ス押收及搜索ニ付テハ別段ノ規定アル場合ヲ除クノ外第百九十一條乃至第百九十八條、第二百二條、第二百四條乃至第二百六條及第二百十條乃至第二百十六條ノ規定ヲ準用ス
陸軍司法警察吏、下士卒又ハ司法警察吏ノ爲ス搜索ニ付テハ別段ノ規定アル場合ヲ除クノ外第百九十五條、第百九十六條、第二百四條乃至第二百六條及第二百十條ノ規定ヲ準用ス
第十節 檢證
第二百二十四條 軍法會議ハ事實發見ノ爲必要アルトキハ檢證ヲ爲スヘシ
第二百二十五條 檢證ニ付テハ身體ノ檢查、死體ノ解剖、墳墓ノ發掘其ノ他必要ナル處分ヲ爲スコトヲ得
被告人ニ非サル者ノ身體ノ檢查ハ一定ノ證跡ノ存否ヲ確認スルニ必要ナル場合ニ限リ之ヲ爲スコトヲ得
第二百二十六條 日出前、日沒後ニハ住居主若ハ保管者又ハ之ニ代ルヘキ者ノ承諾アルニ非サレハ檢證ノ爲人ノ住居又ハ人ノ看守スル邸宅、建造物若ハ艦船ニ入ルコトヲ得ス但シ猶豫スヘカラサル場合又ハ日出後ニ於テハ檢證ノ目的ヲ達スルコト能ハサル虞アル場合ハ此ノ限ニ在ラス
日沒前檢證ニ著手シタルトキハ日沒後ト雖其ノ處分ヲ繼續スルコトヲ得
第二百五條ニ記載シタル場所ニ付テハ第一項ニ規定スル制限ニ依ルコトヲ要セス
第二百二十七條 檢證ニ付テハ第百九十六條、第二百三條、第二百六條乃至第二百十一條及第二百十七條ノ規定ヲ準用ス
第二百二十八條 豫審官ハ檢證ニ關シ軍法會議ト同一ノ權ヲ有ス
第二百二十九條 檢察官ハ第百七十七條、第百七十八條又ハ第百八十三條ノ場合ニ於テ急速ヲ要スルトキハ豫審請求前又ハ公訴提起前ニ限リ檢證ヲ爲シ又ハ之ヲ他ノ檢察官、陸軍司法警察官若ハ司法警察官ニ囑託スルコトヲ得
陸軍司法警察官ハ第百七十七條、第百七十八條又ハ第百八十二條ノ場合ニ於テ急速ヲ要スルトキハ豫審請求前又ハ公訴提起前ニ限リ檢證ヲ爲シ又ハ之ヲ他ノ陸軍司法警察官若ハ司法警察官ニ命令シ若ハ囑託スルコトヲ得
司法警察官ハ第百七十八條又ハ第百八十一條ノ場合ニ於テ急速ヲ要スルトキハ豫審請求前又ハ公訴提起前ニ限リ檢證ヲ爲シ又ハ之ヲ他ノ司法警察官ニ命令シ若ハ囑託スルコトヲ得
第二百三十條 人ノ住居又ハ人ノ看守スル邸宅、建造物若ハ艦船ノ內ニ現行犯アル場合ニ於テ急速ノ處分ヲ要スルトキハ檢察官、陸軍司法警察官又ハ司法警察官ハ何時ニテモ其ノ場所ニ入リ檢證ヲ爲スコトヲ得
第二百三十一條 變死人又ハ變死人ト思料スヘキ者第一條ニ記載シタル者ナルトキハ部隊內ニ於テハ陸軍司法警察官ノ職務ヲ行フ部隊ノ長、其ノ他ノ場所ニ於テハ檢察官又ハ陸軍司法警察官檢視ヲ爲スヘシ
變死人又ハ變死人ト思料スヘキ者第一條ニ記載シタル以外ノ者ナルトキト雖部隊內ニ於テ死體ヲ發見シタル場合ニ於テハ陸軍司法警察官ノ職務ヲ行フ部隊ノ長檢視ヲ爲スヘシ
前二項ノ場合ニ於テ部隊ノ長ハ檢察官又ハ陸軍司法警察官ニ檢視ヲ囑託スルコトヲ得
檢視ニ因リ犯罪アルコトヲ發見シタル場合ニ於テ急速ノ處分ヲ要スルトキハ引續キ檢證ヲ爲スコトヲ得
第一項乃至第三項ノ規定ハ他ノ法令ニ依ル檢視ヲ妨ケス
第二百三十二條 檢察官又ハ陸軍司法警察官ハ前條ノ處分ヲ司法警察官ニ囑託スルコトヲ得
第二百三十三條 檢察官、陸軍司法警察官又ハ司法警察官ノ爲ス檢證ニ付テハ第百九十六條、第二百六條、第二百十條、第二百十一條、第二百二十五條及第二百二十六條ノ規定ヲ準用ス
第十一節 證人訊問
第二百三十四條 軍法會議ハ別段ノ規定アル場合ヲ除クノ外何人ト雖證人トシテ之ヲ訊問スルコトヲ得
第二百三十五條 公務員又ハ公務員タリシ者ノ知得タル事實ニ付本人又ハ當該公務所ヨリ職務上ノ祕密ニ關スルモノナルコトヲ申立ツルトキハ當該監督官廳ノ承諾アルニ非サレハ證人トシテ之ヲ訊問スルコトヲ得ス但シ當該監督官廳ハ帝國ノ安寧ヲ害スル場合ヲ除クノ外承諾ヲ拒ムコトヲ得ス
國務大臣、宮內大臣、內大臣、樞密院議長、樞密院副議長、樞密顧問官、會計檢查院長、元帥、參謀總長、海軍軍令部長、敎育總監若ハ軍事參議官又ハ此等ノ職ニ在リシ者前項ノ申立ヲ爲ストキハ勅許ヲ得ルニ非サレハ證人トシテ之ヲ訊問スルコトヲ得ス
第二百三十六條 左ニ記載シタル者ハ證言ヲ拒ムコトヲ得
一 被告人ノ配偶者、四親等內ノ血族若ハ三親等內ノ姻族又ハ被告人ト此等ノ親族關係アリタル者
二 被告人ノ後見人、後見監督人又ハ保佐人
三 被告人ヲ後見人、後見監督人又ハ保佐人ト爲ス者
共同被告人ノ一人又ハ數人ニ對シ前項ノ關係アル者ト雖他ノ共同被告人ノミニ關スル事項ニ付テハ證言ヲ拒ムコトヲ得ス
第二百三十七條 醫師、齒科醫師、藥劑師、藥種商、產婆、辯護士、辯護人、公證人、宗敎若ハ禱祀ノ職ニ在ル者又ハ此等ノ職ニ在リシ者ハ業務上委託ヲ受ケタル爲知得タル事實ニシテ他人ノ祕密ニ關スルモノニ付證言ヲ拒ムコトヲ得但シ本人承諾シタルトキハ此ノ限ニ在ラス
第二百三十八條 證言ヲ爲スニ因リ自己又ハ自己ト第二百三十六條第一項ニ規定スル關係アル者刑事上ノ訴追ヲ受クル虞アルトキハ證言ヲ拒ムコトヲ得
現ニ供述ヲ爲スヘキ事件ノ被告人ト共犯ノ關係アリトシテ起訴セラレ未タ確定判決ヲ經サルトキ亦前項ニ同シ
第二百三十九條 證言ヲ拒ム者ハ之ヲ拒ム自由ヲ疏明スヘシ但シ前條ノ場合ニ於テハ其ノ事由ノ相違ナキ旨ノ宣誓ヲ以テ疏明ニ代フルコトヲ得
證言ヲ拒ム者之ヲ拒ム事由ヲ疏明スルコト能ハサルトキ又ハ宣誓ヲ爲ササルトキハ決定ヲ以テ其ノ申立ヲ却下スヘシ
第二百四十條 第百四十一條及第百五十四條ノ規定ハ證人ノ召喚ニ之ヲ準用ス
第二百四十一條 召喚ヲ受ケタル證人正當ノ事由ナクシテ出頭セサルトキハ檢察官ノ意見ヲ聽キ決定ヲ以テ五十圓以下ノ過料ニ處シ且不參ニ因リ生シタル費用ノ賠償ヲ命スルコトヲ得
第二百四十二條 前條ノ言渡ヲ受ケタル者裁判書ノ送達アリタル日ヨリ三日內ニ正當ノ事由アリテ出頭スルコト能ハサリシコトヲ證明シタルトキハ檢察官ノ意見ヲ聽キ決定ヲ以テ其ノ言渡ヲ取消スヘシ
天災其ノ他避クヘカラサル事故ノ爲期間內ニ前項ノ證明ヲ爲スコト能ハサリシ者事故ノ止ミタル日ヨリ三日內ニ其ノ證明ヲ爲シタルトキ亦前項ニ同シ
第二百四十三條 召喚ニ應セサル證人ニ對シテハ更ニ召喚狀ヲ發シ又ハ勾引狀ヲ發スルコトヲ得
第二百四十四條 證人ノ召喚狀又ハ勾引狀ニハ證人ノ氏名及住居、被告人ノ氏名竝被告事件ヲ記載シ裁判長之ニ記名捺印スヘシ
召喚狀ニハ出頭スヘキ年月日時及場所竝召喚ニ應セサルトキハ過料ニ處シ且勾引狀ヲ發スルコトアルヘキ旨ヲ記載スヘシ
召喚狀ノ送達ト出頭トノ間ニハ少クトモ二十四時間ノ猶豫ヲ存スヘシ但シ急速ヲ要スル場合ハ此ノ限ニ在ラス
證人第一條ニ記載シタル者ナルトキハ前項ノ規定ニ依ラサルコトヲ得
第二百四十五條 證人ノ勾引ニ付テハ第百五十五條乃至第百五十九條及第百六十三條ノ規定ヲ準用ス
第二百四十六條 證人ニ對シテハ先ツ其ノ人違ナキカ否及第二百三十六條第一項ニ記載シタル者ナリヤ否ヲ取調フヘシ
第二百三十六條第一項ニ記載シタル者ニハ證言ヲ拒ムコトヲ得ル旨ヲ告クヘシ
第二百四十七條 證人ニハ宣誓ヲ爲サシムヘシ但シ別段ノ規定アル場合ハ此ノ限ニ在ラス
第二百四十八條 宣誓ハ訊問前之ヲ爲サシムヘシ但シ宣誓ヲ爲サシムヘキ者ナリヤ否ニ付疑アルトキハ訊問後之ヲ爲サシムルコトヲ得
第二百四十九條 宣誓ハ宣誓書ニ依リ之ヲ爲スヘシ
宣誓書ニハ眞實ヲ述ヘ何事ヲモ默祕セス又何事ヲモ附加セサルコトヲ誓フ旨ヲ記載スヘシ
訊問後宣誓ヲ爲スヘキ場合ニ於テハ眞實ヲ述ヘ何事ヲモ默祕セス又何事ヲモ附加セサリシコトヲ誓フ旨ヲ記載スヘシ
裁判長ハ宣誓書ヲ朗讀シ證人ヲシテ署名捺印セシムヘシ
第二百五十條 宣誓ヲ爲サシムヘキ證人ニハ宣誓前僞證ノ罰ヲ告クヘシ
第二百五十一條 同一ノ被告事件ニ付數名ノ證人出頭シタル場合ニ於テハ其ノ宣誓ハ同時ニ之ヲ爲サシムルコトヲ得
第二百五十二條 左ニ記載シタル者ニハ宣誓ヲ爲サシメスシテ之ヲ訊問スヘシ
一 十五歲未滿ノ者
二 宣誓ノ本旨ヲ解スルコト能ハサル者
三 現ニ供述ヲ爲スヘキ事件ノ被告人ト共犯ノ關係アル者又ハ其ノ嫌疑アル者
四 第二百三十六條第一項ニ記載シタル者ニシテ證言ヲ拒マサル者
五 第二百三十八條ノ場合ニ於テ證言ヲ拒マサル者
六 被告人ノ雇人又ハ同居人
前項第三號ノ規定ノ適用ニ付テハ犯人藏匿ノ罪、證憑湮滅ノ罪、僞證ノ罪、虛僞ノ鑑定通譯ノ罪及贓物ニ關スル罪ノ犯人ハ其ノ本犯ノ共犯ト看做ス
第一項ニ記載シタル者宣誓ヲ爲シタルトキト雖其ノ供述ハ證言タルノ效力ヲ妨ケラルルコトナシ
第二百五十三條 證人ノ供述カ其ノ證人若ハ之ト第二百三十六條第一項ニ規定スル關係アル者ノ恥辱ニ歸シ又ハ其ノ財產上ニ重大ナル損害ヲ生スル虞アルトキハ宣誓ヲ爲サシメスシテ訊問スルコトヲ得
第二百五十四條 證人ノ訊問ハ後ニ訊問スヘキ證人ノ在ラサル場所ニ於テ各別ニ之ヲ爲スヘシ
第二百五十五條 事實發見ノ爲必要アルトキハ證人ト他ノ證人又ハ被告人ト對質セシムルコトヲ得
第二百五十六條 證人ニハ訊問事項ニ付連絡シタル供述ヲ爲サシムヘシ
必要アル場合ニ於テハ證人ノ供述ヲ明白ナラシメ又ハ其ノ眞否ヲ判斷スル爲適當ナル訊問ヲ爲スヘシ
第二百五十七條 證人ニハ其ノ實驗シタル事實ニ因リ推測シタル事項ヲ供述セシムルコトヲ得
前項ノ供述ハ鑑定ニ屬スル故ヲ以テ證言タルノ效力ヲ妨ケラルルコトナシ
第二百五十八條 第百八十八條及第百九十條ノ規定ハ證人ノ訊問ニ付之ヲ準用ス
第二百五十九條 證人軍法會議構內ニ在ルトキハ召喚ヲ爲サスシテ之ヲ訊問スルコトヲ得
第二百六十條 證人ハ必要アル場合ニ於テハ軍法會議外ノ指定ノ場所ニ之ヲ召喚シ又ハ其ノ所在ニ就キ之ヲ訊問スルコトヲ得
第二百六十一條 親任官又ハ親任官ノ待遇ヲ受クル者ハ其ノ現在地ニ於テ之ヲ訊問スヘシ
帝國議會ノ議員議會ノ開期中開會地ニ滯在スルトキハ其ノ滯在地ニ於テ之ヲ訊問スヘシ
第二百六十二條 證人正當ノ理由ナクシテ宣誓又ハ證言ヲ拒ミタルトキハ檢察官ノ意見ヲ聽キ決定ヲ以テ百圓以下ノ過料ニ處スヘシ第二百三十九條第一項但書ノ場合ニ於テ虛僞ノ宣誓ヲ爲シタルトキ亦同シ
第二百六十三條 軍法會議ハ必要アルトキハ決定ヲ以テ指定ノ場所ニ證人ノ同行ヲ命スルコトヲ得證人正當ノ事由ナクシテ同行ヲ肯セサルトキハ之ヲ勾引スルコトヲ得
第二百六十四條 軍法會議外ニ於テ證人ノ訊問ヲ爲ス場合ニ於テハ受命裁判官ヲシテ之ヲ爲サシメ又ハ證人現在地ノ豫審官、豫審判事、區裁判所判事若ハ法令ニ依リ特別ニ裁判權ヲ有スル官署ニ之ヲ囑託スルコトヲ得
受託官署ハ受託ノ權限アル官署ニ轉囑スルコトヲ得
受託官署受託事項ニ付權限ヲ有セサルトキハ受託ノ權限アル官署ニ囑託ヲ移送スルコトヲ得
受命裁判官又ハ受託豫審官ハ證人訊問ニ付軍法會議又ハ裁判長ニ屬スル處分ヲ爲スコトヲ得但シ第二百四十一條及第二百六十二條ノ決定ハ軍法會議亦之ヲ爲スコトヲ得
第二百六十五條 豫審官ハ證人訊問ニ關シ軍法會議又ハ裁判長ト同一ノ權ヲ有ス
第二百六十六條 檢察官ハ第百七十七條、第百七十八條又ハ第百八十三條ノ場合ニ於テ急速ヲ要スルトキハ豫審請求前又ハ公訴提起前ニ限リ第二百三十四條乃至第二百六十四條ノ規定ニ準シ證人ヲ訊問シ又ハ其ノ訊問ヲ他ノ檢察官、陸軍司法警察官若ハ司法警察官ニ囑託スルコトヲ得
陸軍司法警察官ハ第百七十七條、第百七十八條又ハ第百八十二條ノ場合ニ於テ急速ヲ要スルトキハ豫審請求前又ハ公訴提起前ニ限リ第二百三十四條乃至第二百六十四條ノ規定ニ準シ證人ヲ訊問シ又ハ其ノ訊問ヲ他ノ陸軍司法警察官若ハ司法警察官ニ命令シ若ハ囑託スルコトヲ得
司法警察官ハ第百七十八條又ハ第百八十一條ノ場合ニ於テ急速ヲ要スルトキハ豫審請求前又ハ公訴提起前ニ限リ第二百三十四條乃至第二百六十四條ノ規定ニ準シ證人ヲ訊問シ又ハ其ノ訊問ヲ他ノ司法警察官ニ命令シ若ハ囑託スルコトヲ得
第二百六十七條 檢察官證人ヲ訊問スル場合ニ於テハ宣誓ヲ爲サシメサルコトヲ得
陸軍司法警察官又ハ司法警察官ハ宣誓ヲ爲サシムルコトヲ得ス
第二百六十八條 檢察官、陸軍司法警察官又ハ司法警察官ハ證人ニ對シ過料又ハ賠償ノ言渡ヲ爲スコトヲ得ス
第二百六十九條 證人ハ旅費、日當及止宿料ヲ請求スルコトヲ得但シ正當ノ事由ナクシテ宣誓又ハ證言ヲ拒ミタル者ハ此ノ限ニ在ラス
第十二節 鑑定
第二百七十條 軍法會議ハ學識經驗アル者ニ鑑定ヲ命スルコトヲ得
第二百七十一條 鑑定人ニハ鑑定ヲ爲ス前宣誓ヲ爲サシムヘシ
宣誓ハ宣誓書ニ依リ之ヲ爲スヘシ
宣誓書ニハ誠實ニ鑑定ヲ爲スコトヲ誓フ旨ヲ記載スヘシ
第二百七十二條 鑑定ノ經過及結果ハ鑑定人ヲシテ書面又ハ口頭ヲ以テ之ヲ報告セシムヘシ
鑑定人數人アルトキハ共同シテ報告ヲ爲サシムルコトヲ得
書面ヲ以テ報告ヲ爲サシメタル場合ニ於テ必要アルトキハ口頭ヲ以テ其ノ說明ヲ爲サシムルコトヲ得
第二百七十三條 軍法會議ハ必要アル場合ニ於テハ鑑定人ヲシテ軍法會議外ニ於テ鑑定ヲ爲サシムルコトヲ得
前項ノ場合ニ於テハ鑑定ニ關スル物ヲ鑑定人ニ交付スルコトヲ得
被告人ノ心神又ハ身體ニ關スル鑑定ヲ爲サシムルニ付必要アルトキハ軍法會議ハ期間ヲ定メ病院其ノ他相當ノ場所ニ被告人ヲ留置スルコトヲ得
第二百七十四條 鑑定人ハ鑑定ニ付必要アル場合ニ於テハ軍法會議ノ許可ヲ得テ身體ヲ檢查シ、死體ヲ解剖シ又ハ物ヲ毀壞スルコトヲ得
第二百七十五條 鑑定人ハ鑑定ニ付必要アル場合ニ於テハ軍法會議ノ許可ヲ得テ書類若ハ證據物ヲ閱覽シ若ハ謄寫シ又ハ被告人若ハ證人ノ訊問ニ立會フコトヲ得
鑑定人ハ被告人若ハ證人ノ訊問ヲ求メ又ハ許可ヲ得テ此等ノ者ニ對シ直接ニ問ヲ發スルコトヲ得
第二百七十六條 軍法會議ハ受命裁判官ヲシテ鑑定ニ付必要ナル處分ヲ爲サシムルコトヲ得但シ第二百七十三條第三項ノ規定ニ依ル處分ハ此ノ限ニ在ラス
第二百七十七條 軍法會議ハ鑑定ヲ十分ナラスト思料スルトキハ鑑定人ヲ增加シ又ハ他ノ鑑定人ニ命シテ鑑定ヲ爲サシムルコトヲ得
第二百七十八條 檢察官及辯護人ハ鑑定ニ立會フコトヲ得
第二百八條ノ規定ハ前項ノ場合ニ之ヲ準用ス
第二百七十九條 鑑定ニ付テハ勾引ニ關スル規定ヲ除クノ外第十一節ノ規定ヲ準用ス
檢察官、陸軍司法警察官又ハ司法警察官ハ第二百七十三條第三項ノ規定ニ依ル處分ヲ爲スコトヲ得ス
第二百八十條 鑑定人ハ旅費、日當及止宿料ノ外鑑定料及立替金ノ辨償ヲ請求スルコトヲ得
第二百八十一條 軍法會議ハ官署公署ニ鑑定ヲ囑託スルコトヲ得
前九條ノ規定ハ前項ノ場合ニ之ヲ準用ス但シ第二百七十二條第三項ノ規定ニ依ル說明ハ官署公署ノ指定シタル者ヲシテ之ヲ爲サシムヘシ
第二百八十二條 特別ノ智識ニ因リ知得タル過去ノ事實ニ付其ノ事實ヲ知リタル者ヲ訊問スル場合ニハ本節ノ規定ニ依ラス第十一節ノ規定ヲ適用ス
第十三節 通譯
第二百八十三條 國語ニ通セサル者ヲシテ陳述ヲ爲サシムル場合ニ於テハ通事ヲシテ通譯ヲ爲サシムヘシ
第二百八十四條 聾者又ハ啞者ヲシテ陳述ヲ爲サシムル場合ニ於テハ通事ヲシテ通譯ヲ爲サシムルコトヲ得
第二百八十五條 國語ニ非サル文字又ハ符號ハ之ヲ翻譯セシムルコトヲ得
第二百八十六條 軍法會議ハ官署公署ニ翻譯ヲ囑託スルコトヲ得
第二百八十七條 通譯及翻譯ニ付テハ第十二節ノ規定ヲ準用ス
第二章 始審
第一節 搜查
第二百八十八條 犯罪ニ因リ害ヲ被リタル者ハ告訴ヲ爲スコトヲ得
被害者ノ法定代理人又ハ夫ハ獨立シテ告訴ヲ爲スコトヲ得
被害者死亡シタルトキハ其ノ家督相續人又ハ親族告訴ヲ爲スコトヲ得但シ被害者ノ明示シタル意思ニ反スルコトヲ得ス
前二項ノ規定ハ刑法第百八十三條ノ罪ニ之ヲ適用セス
第二百八十九條 前條第二項ノ場合ニ於テ被害者ノ法定代理人被告人ナルトキ、被告人ノ配偶者ナルトキ又ハ被告人ノ四親等內ノ血族若ハ三親等內ノ姻族ナルトキハ被害者ノ親族ハ獨立シテ告訴ヲ爲スコトヲ得
第二百九十條 刑法第二百三十條第二項ノ罪ニ付テハ死者ノ親族、遺族又ハ後裔告訴ヲ爲スコトヲ得
第二百九十一條 前三條ノ規定ニ依リテ告訴ヲ爲スコトヲ得ヘキ者ナキ場合ニ於テハ管轄軍法會議ノ檢察官ハ利害關係人ノ申立ニ因リ告訴ヲ爲スコトヲ得ヘキ者ヲ指定スルコトヲ得但シ刑法第百八十三條ノ罪ニ付テハ此ノ限ニ在ラス
第二百九十二條 親告罪ノ告訴ハ犯人ヲ知リタル時ヨリ六月內ニ之ヲ爲スニ非サレハ其ノ效ナシ
刑法第二百二十九條但書ノ場合ニ於ケル告訴ハ婚姻ノ無效又ハ取消ノ裁判確定シタル時ヨリ六月內ニ之ヲ爲スニ非サレハ其ノ效ナシ
第二百九十三條 告訴ヲ爲スコトヲ得ヘキ者數人アル場合ニ於テ一人ノ期間ノ懈怠ハ他ノ者ニ其ノ效ヲ及ホサス
第二百九十四條 告訴ハ始審ノ判決ノ告知アル迄之ヲ取消スコトヲ得
告訴ノ取消ヲ爲シタル者ハ更ニ告訴ヲ爲スコトヲ得ス
前二項ノ規定ハ請求ヲ待チテ受理スヘキ事件ニ付テノ請求ニ之ヲ準用ス
第二百九十五條 親告罪ニ付共犯ノ一人又ハ數人ニ對シテ爲シタル告訴又ハ其ノ取消ハ他ノ共犯ニ對シ亦其ノ效ヲ生ス
前項ノ規定ハ請求ヲ待チテ受理スヘキ事件ニ付テノ請求又ハ其ノ取消ニ之ヲ準用ス
刑法第百八十三條ノ罪ニ付相姦者ノ一人ニ對シ告訴又ハ其ノ取消アリタルトキハ他ノ一人ニ對シ亦其ノ效ヲ生ス
第二百九十六條 何人ニ限ラス犯罪アリト思料シタルトキハ告發ヲ爲スコトヲ得
官吏又ハ公吏其ノ職務ヲ行フニ因リ犯罪アリト思料シタルトキハ告發ヲ爲スヘシ
第二百九十七條 告訴又ハ告發ハ代理人ニ依リテ之ヲ爲スコトヲ得
第二百九十八條 告訴又ハ告發ハ書面又ハ口頭ヲ以テ檢察官、陸軍司法警察官、檢事若ハ司法警察官又ハ之ニ相當スル官署ニ之ヲ爲スヘシ
第二百九十九條 檢察官、陸軍司法警察官、檢事若ハ司法警察官又ハ相當官署口頭ノ告訴又ハ告發ヲ受ケタルトキハ調書ヲ作ルヘシ
第百八條第三項乃至第五項及第百十一條ノ規定ハ檢察官又ハ陸軍司法警察官ノ作ルヘキ前項ノ調書ニ之ヲ準用ス
第三百條 檢事若ハ司法警察官又ハ相當官署告訴又ハ告發ヲ受ケタルトキハ速ニ之ニ關スル書類及證據物ヲ檢察官又ハ陸軍司法警察官ニ送付スヘシ
第三百一條 告訴又ハ告發ノ取消又ハ變更ニ付テハ前四條ノ規定ヲ準用ス
第三百二條 自首ニ付テハ告發ニ關スル規定ヲ準用ス
第三百三條 檢察官又ハ陸軍司法警察官搜查ヲ爲スニ付テハ其ノ目的ヲ達スルニ必要ナル取調ヲ爲スコトヲ得但シ强制ノ處分ハ別段ノ規定アル場合ニ非サレハ之ヲ爲スコトヲ得ス
搜查ニ付テハ公務所ニ照會シテ必要ナル事項ノ報告ヲ求ムルコトヲ得
第三百四條 檢察官搜查ヲ爲スニ付强制ノ處分ヲ必要トスルトキハ豫審請求前又ハ公訴提起前ト雖長官ノ認可ヲ受ケ押收、搜索、檢證、被告人ノ勾留、被告人若ハ證人ノ訊問又ハ鑑定ノ處分ヲ豫審官ニ請求スルコトヲ得
請求ヲ受ケタル豫審官ノ處分ニ付テハ豫審ニ關スル規定ヲ準用ス
第三百五條 豫審官前條ノ處分ヲ爲シタルトキハ速ニ之ニ關スル書類及證據物ヲ檢察官ニ送付スヘシ
第三百六條 陸軍司法警察官搜查ヲ爲シタルトキハ長官ニ搜查ノ報告ヲ爲シ又ハ檢察官若ハ相當官署ニ事件ヲ送致スヘシ
搜查ノ報告ヲ爲スニハ書類及證據物ト共ニ報告書ヲ檢察官ニ送付スヘシ
檢察官前項ノ規定ニ依リ報告書ノ送付ヲ受ケタルトキハ意見ヲ附シ書類及證據物ト共ニ之ヲ長官ニ提出スヘシ
第三百七條 檢察官搜查ヲ爲シタルトキハ書類及證據物ニ意見書ヲ添ヘ長官ニ搜查ノ報告ヲ爲シ又ハ管轄軍法會議ノ檢察官若ハ相當官署ニ事件ヲ送致スヘシ
第三百八條 長官搜查ノ報告ヲ受ケタル場合ニ於テハ檢察官ニ對シ左ノ命令ヲ爲スヘシ
一 公訴ヲ提起スヘキモノト思料スルトキハ公訴提起ノ命令
二 豫審ニ付スルノ必要アリト思料スルトキハ豫審請求ノ命令
第三百九條 長官ハ前條ノ命令ヲ爲ササル場合ニ於テ被告事件其ノ軍法會議ノ管轄ニ屬セサルモノナルトキ又ハ軍法會議ノ裁判權ニ屬セサルモノナルトキハ檢察官ニ對シ其ノ事件ヲ管轄軍法會議ノ檢察官又ハ相當官署ニ送致スヘキ旨ノ命令ヲ爲スヘシ
檢察官被告事件ノ送致ヲ爲ス場合ニ於テ勾留セラレタル被告人ニ對シ勾留ヲ繼續スル必要ナシト思料スルトキハ之ヲ釋放スヘシ
第三百十條 長官前二條ノ命令ヲ爲ササルトキハ速ニ其ノ旨ヲ檢察官ニ告知スヘシ
第三百十一條 檢察官前條ノ規定ニ依ル告知ヲ受ケタルトキハ勾留シタル被告人ハ速ニ之ヲ釋放シ押收シタル物ハ速ニ之ヲ還付スヘシ但シ必要ナル場合ニ於テハ公訴ノ時效完成スルニ至ル迄之ヲ保管スルコトヲ得
第二節 豫審
第三百十二條 豫審ノ請求ハ檢察官ノ屬スル軍法會議ノ豫審官ニ之ヲ爲スヘシ
第三百十三條 同一事件ニ付數個ノ軍法會議ノ豫審官ニ豫審ノ請求アリタルトキハ高等軍法會議ハ檢察官ノ請求ニ因リ決定ヲ以テ其ノ豫審官中ヨリ豫審ヲ爲スヘキ者ヲ指定スヘシ
前項ノ決定アリタルトキハ豫審官ハ書類及證據物ヲ指定セラレタル豫審官ニ送付スヘシ
第三百十四條 豫審ノ請求ハ書面ヲ以テ之ヲ爲スヘシ
豫審ノ請求ハ急速ヲ要スル場合ニ限リ口頭又ハ豫定ノ符號ヲ用井タル電報ヲ以テ之ヲ爲スコトヲ得口頭又ハ電報ヲ以テ豫審ノ請求ヲ爲シタルトキハ之ヲ調書ニ記載シ豫審官錄事ト共ニ署名捺印スヘシ
第三百十五條 豫審ノ請求ヲ爲スニハ犯罪ノ事實ヲ示スヘシ
被告人分明ナルトキハ之ヲ指定スヘシ
被告人ノ指定ハ氏名ヲ以テシ氏名知レサルトキハ容貌、體格其ノ他ノ徵表ヲ以テスヘシ
豫審請求ノ後被告人分明ト爲リタルトキハ速ニ之ヲ指定シ豫審官ニ通知スヘシ
第三百十六條 豫審官ハ豫審中檢察官ノ指定セサル被告人ヲ發見シタル場合ニ於テ急速ヲ要スルトキハ檢察官ノ指定ヲ待タス之ヲ被告人ト爲スコトヲ得
前項ノ規定ニ依ル處分ヲ爲シタルトキハ速ニ其ノ旨ヲ檢察官ニ通知スヘシ
第三百十七條 豫審官ハ豫審中被告人ニ他ノ犯罪アルコトヲ認知シタル場合ニ於テ急速ヲ要スルトキハ檢察官ノ請求ヲ待タス豫審處分ヲ爲スコトヲ得
前項ノ處分ヲ爲シタルトキハ速ニ其ノ旨ヲ檢察官ニ通知スヘシ
檢察官前項ノ通知ヲ受ケタルトキハ意見ヲ附シ速ニ長官ニ報告スヘシ
第三百十八條 長官前條ノ報告ヲ受ケ豫審ノ必要アリト思料スルトキハ豫審ノ請求ヲ命スヘシ
豫審官檢察官ヨリ豫審ヲ請求セサル旨ノ通知ヲ受ケタルトキ又ハ前條ノ通知ヲ爲シタル時ヨリ四十八時間內ニ豫審ノ請求ナキトキハ其ノ處分ヲ繼續スルコトヲ得ス若シ被告人ヲ勾留シタルトキハ之ヲ釋放シ押收シタル物アルトキハ之ヲ還付スヘシ
第三百十九條 公訴ヲ受ケタル被告人ニ對シテハ同一事件ニ付豫審ヲ爲スコトヲ得ス
第三百二十條 豫審官ハ豫審請求ノ手續其ノ規定ニ違ヒタル爲無效ナルトキ又ハ第三百三十二條、第三百三十七條若ハ第四百條ノ規定ニ違反シテ豫審ヲ請求シタルトキハ豫審ノ請求ヲ却下スヘシ
第三百二十一條 豫審ハ事件カ公訴ヲ提起スヘキモノナリヤ否ヲ決スルニ必要ナル事項ヲ取調フルヲ以テ限度トス
公判ニ於テ取調ヘ難シト思料スル事項ニ付亦其ノ取調ヲ爲スヘシ
第三百二十二條 豫審官ハ公務所ニ照會シ必要ナル事項ノ報告ヲ求ムルコトヲ得
第三百二十三條 豫審官ハ被告人ヲ訊問スヘシ
豫審官ハ被告人ノ所在ニ就キ之ヲ訊問スルコトヲ得
第三百二十四條 豫審官ハ豫審終了前被告人ニ對シ嫌疑ヲ受ケタル原由ヲ告知シ辯解ヲ爲サシムヘシ但シ被告人正當ノ事由ナクシテ出頭セサルトキハ此ノ限ニ在ラス
第三百二十五條 豫審官ハ豫審處分ノ一部ニ付其ノ軍法會議ノ豫審官ニ補助ヲ求ムルコトヲ得
第三百二十六條 檢察官及被告人ハ豫審中何時ニテモ必要ナル豫審處分ヲ豫審官ニ請求スルコトヲ得
檢察官ハ豫審中何時ニテモ書類及證據物ヲ閱覽スルコトヲ得
第三百二十七條 豫審官ハ左ニ記載シタル場合ニ於テハ檢察官ノ意見ヲ聽キ豫審手續ヲ中止スルコトヲ得
一 被告人分明ナラサルトキ
二 被告人ノ所在分明ナラサルトキ
三 被告人心神喪失ノ狀態ニ在ルトキ
第三百二十八條 豫審中ノ事件ニ付高等軍法會議ノ管轄ニ屬スルモノトシテ高等軍法會議ノ檢察官ヨリ豫審ノ請求アリタルトキハ豫審官ハ豫審手續ヲ止ムヘシ
第三百二十九條 豫審官被告事件ニ付取調ヲ終了シタリト思料シタルトキハ書類及證據物ヲ檢察官ニ送付スヘシ
前項ノ場合ニ於テ檢察官事項ヲ指示シテ取調ヲ請求シタルトキハ豫審官ハ更ニ其ノ取調ヲ爲シ之ニ關スル書類及證據物ヲ檢察官ニ送付スヘシ
第三百三十條 檢察官前條ノ規定ニ依リ書類及證據物ノ送付ヲ受ケタルトキハ之ニ意見書ヲ添ヘ長官ニ豫審終了ノ報告ヲ爲スヘシ
第三百三十一條 長官前條ノ報告ヲ受ケタルトキハ檢察官ニ對シ左ノ命令ヲ爲スヘシ
一 公訴ヲ提起スヘキモノト思料スルトキハ公訴提起ノ命令
二 不起訴ノ處分ヲ爲スヘキモノト思料スルトキハ不起訴處分ノ命令
三 被告事件其ノ軍法會議ノ管轄ニ屬セサルモノナルトキ又ハ軍法會議ノ裁判權ニ屬セサルモノナルトキハ事件送致ノ命令
檢察官前項第一號又ハ第二號ノ命令ニ依リ公訴提起又ハ不起訴處分ヲ爲シタルトキハ其ノ旨ヲ豫審官及被告人ニ通知スヘシ
第三百三十二條 被告人ニ對シ不起訴處分ヲ爲シタル場合ニ於テハ新ナル事實又ハ證據ヲ發見シタルトキニ非サレハ同一事件ニ付之ヲ豫審ノ被告人ト爲シ又ハ之ニ對シ公訴ヲ提起スルコトヲ得ス
第三百三十三條 檢察官不起訴處分ヲ爲シタルトキハ直ニ被告人ヲ釋放スヘシ
第三百三十四條 檢察官不起訴處分ヲ爲シタルトキハ直ニ押收物ヲ還付スヘシ但シ必要アル場合ニ於テハ公訴ノ時效完成スルニ至ル迄之ヲ還付セサルコトヲ得
押收シタル贓物ニシテ被害者ニ還付スヘキ理由明瞭ナルモノハ之ヲ被害者ニ還付スヘシ
前項ノ規定ハ民事訴訟ノ手續ニ從ヒ利害關係人ヨリ其ノ權利ヲ主張スルコトヲ妨ケス
第三百三十五條 檢察官事件送致ノ命令ヲ受ケタルトキハ事件ヲ管轄軍法會議ノ檢察官又ハ相當官署ニ送致スヘシ
前項ノ場合ニ於テ勾留セラレタル被告人ニ對シ勾留ヲ繼續スル必要ナシト思料スルトキハ之ヲ釋放スヘシ
第三百三十六條 檢察官ハ長官ノ命令ニ依リ豫審ノ請求ヲ取消スコトヲ得豫審ノ請求ヲ取消シタル場合ニ於テ被告人トシテ訊問ヲ受ケタル者アルトキハ其ノ旨ヲ之ニ通知スヘシ
豫審請求取消前ニ爲シタル處分ハ其ノ效力ヲ有ス
豫審請求ノ取消ニ付テハ第三百十四條ノ規定ヲ準用ス
第三百三十七條 第三百三十二條乃至第三百三十四條ノ規定ハ豫審ノ請求ヲ取消シタル場合ニ之ヲ準用ス
第三百三十八條 第三百七十九條及第三百八十一條ノ規定ハ豫審ニ之ヲ準用ス但シ同條中裁判長又ハ軍法會議トアルハ豫審官トス
第三節 公訴
第三百三十九條 公訴ハ檢察官ノ指定シタル以外ノ者ニ其ノ效力ヲ及ホサス
第三百四十條 檢察官ハ長官ノ命令ニ依リ公訴ヲ取消スコトヲ得
公訴ノ取消ハ書面ニ依リ之ヲ爲スヘシ
第三百四十一條 時效ハ左ノ期間ヲ經過スルニ因リテ完成ス
一 死刑ニ該ル罪ニ付テハ十五年
二 無期ノ懲役又ハ禁錮ニ該ル罪ニ付テハ十年
三 長期十年以上ノ懲役又ハ禁錮ニ該ル罪ニ付テハ七年
四 長期十年未滿ノ懲役又ハ禁錮ニ該ル罪ニ付テハ五年
五 長期五年未滿ノ懲役若ハ禁錮又ハ罰金ニ該ル罪ニ付テハ三年
六 刑法第百八十五條ノ罪ニ付テハ六月
七 拘留又ハ科料ニ該ル罪ニ付テハ六月
第三百四十二條 二以上ノ主刑ヲ併科シ又ハ二以上ノ主刑中其ノ一ヲ科スヘキ罪ノ時效ハ其ノ重キ刑ニ該ル罪ニ付定メタル期間ニ從フ
第三百四十三條 刑法ニ依リ刑ヲ加重又ハ減輕スヘキ場合ニ於テハ時效ハ加重又ハ減輕セサル刑ニ該ル罪ニ付定メタル期間ニ從フ
第三百四十四條 時效ハ犯罪行爲ノ終リタル時ヨリ進行ス
數人共犯ノ場合ニ於テハ最終ノ行爲アリタル時ヨリ總テノ共犯ニ對シテ時效ノ期間ヲ起算ス
第三百四十五條 時效ハ公訴ノ提起、豫審ノ請求、公判若ハ豫審ノ處分又ハ第三百四條ニ定メタル豫審官ノ處分ニ因リ中斷ス
共犯ノ一人ニ對シテ爲シタル手續ニ因ル時效ノ中斷ハ他ノ共犯ニ對シ效力ヲ有ス
第三百四十六條 時效ハ中斷ノ事由ノ終了シタル時ヨリ更ニ進行ス
第三百四十七條 時效ハ第三百二十七條第三號ノ規定ニ依リ豫審手續ヲ中止シ又ハ第三百九十六條ノ規定ニ依リ公判手續ヲ停止シタル期間內ハ進行セス
第三百四十八條 公訴提起ノ命令ハ書面ニ依リ之ヲ爲ス
公訴提起ノ命令ヲ爲スニハ被告人ヲ指定シ犯罪事實ヲ示スヘシ
第三百四十九條 公訴ノ提起ハ公訴狀ニ依リ之ヲ爲ス
第三百五十條 公訴ヲ提起スルニハ被告人ヲ指定シ犯罪ノ事實及罪名ヲ示スヘシ
第三百五十一條 告訴ニ係ル事件ニ付公訴ヲ提起シ若ハ之ヲ提起セス又ハ其ノ事件ヲ他ノ軍法會議ノ檢察官若ハ相當官署ニ送致シタルトキハ檢察官ハ速ニ其ノ旨ヲ告訴人ニ通知スヘシ
第四節 公判
第三百五十二條 裁判長ハ公判期日ヲ定ムヘシ
期日ニハ被告人、辯護人及輔佐人ヲ召喚スヘシ
第百四十一條及第百五十四條ノ規定ハ辯護人及輔佐人ノ召喚ニ之ヲ準用ス
期日ハ之ヲ檢察官ニ通知スヘシ
第三百五十三條 第一囘ノ期日ト被告人ニ對スル召喚狀ノ送達トノ間ニハ少クトモ三日ノ猶豫期間ヲ存スヘシ但シ特設軍法會議ニ於テハ此ノ限ニ在ラス
被告人異議ナキトキハ前項ノ猶豫期間ヲ存セサルコトヲ得
第三百五十四條 裁判長ハ期日ヲ變更スルコトヲ得
期日ノ變更ニ關スル請求ヲ却下スル命令ハ之ヲ送達スルコトヲ要セス
第三百五十五條 軍法會議ハ第一囘ノ期日ニ於ケル取調準備ノ爲期日前被告人ノ訊問ヲ爲シ又ハ受命裁判官ヲシテ之ヲ爲サシムルコトヲ得
第三百五十六條 軍法會議ハ第一囘ノ期日ニ於ケル取調ノ爲期日前證據物若ハ證據書類ノ提出ヲ命シ又ハ證人、鑑定人、通事若ハ翻譯人ニ對シ期日ニ出頭スヘキ旨ノ召喚狀ヲ發スルコトヲ得
前項ノ規定ニ依リ召喚スル證人、鑑定人、通事又ハ翻譯人ノ氏名ハ直ニ之ヲ訴訟關係人ニ通知スヘシ
檢察官、被告人又ハ辯護人ハ第一項ノ處分ヲ軍法會議ニ請求スルコトヲ得
前項ノ請求ヲ却下スルトキハ決定ヲ以テ之ヲ爲スヘシ
前四項ノ規定ハ第二囘以後ノ期日ニ於ケル取調ニ關シ之ヲ準用ス
第三百五十七條 檢察官、被告人又ハ辯護人ハ期日前證據物又ハ證據書類ヲ軍法會議ニ提出スルコトヲ得
第三百五十八條 軍法會議ハ證人疾病其ノ他ノ事由ニ因リ期日ニ出頭スルコト能ハスト思料スルトキハ期日前之ヲ訊問シ又ハ受命裁判官ヲシテ訊問セシムルコトヲ得
檢察官及辯護人ハ前項ノ訊問ニ立會フコトヲ得
第二百八條ノ規定ハ前項ノ場合ニ之ヲ準用ス
第三百五十九條 軍法會議ハ急速ヲ要スル場合ニ於テハ期日前鑑定若ハ翻譯ヲ爲サシメ又ハ押收、搜索若ハ檢證ヲ爲スコトヲ得
第三百六十條 軍法會議ハ期日前公務所ニ照會シ必要ナル事項ノ報告ヲ求ムルコトヲ得
第三百六十一條 期日ニ於ケル取調ハ公判廷ニ於テ之ヲ爲ス
公判廷ハ裁判官、檢察官及錄事列席シテ之ヲ開ク
第三百六十二條 公判數日引續クヘキ見込アル事件ニ付テハ長官ハ判士一人又ハ二人ニ補充裁判官ヲ命シ公判ニ立會ハシムルコトヲ得
補充裁判官ハ其ノ官等被告人ヨリ下ルコトヲ得ス
裁判長以外ノ判士疾病其ノ他ノ事故ニ因リ引續キ干與スルコトヲ得サル場合ニ於テハ裁判長ハ第四十九條又ハ第五十一條乃至第五十五條ニ規定スル區別ニ拘ラス補充裁判官ヲシテ之ニ代ラシムヘシ
第三百六十三條 被告人期日ニ出頭セサルトキハ別段ノ規定アル場合ヲ除クノ外開廷スルコトヲ得ス
第三百六十四條 罰金以下ノ刑ニ該ル事件ノ被告人ハ代人ヲシテ出頭セシムルコトヲ得但シ軍法會議ハ本人ノ出廷ヲ命スルコトヲ得
第三百六十五條 被告人ハ公判廷ニ於テ身體ノ拘束ヲ受クルコトナシ但シ之ニ看守者ヲ附スルコトヲ得
第三百六十六條 被告人ハ裁判長ノ許可アルニ非サレハ退廷スルコトヲ得ス
裁判長ハ被告人ヲシテ在廷セシムル爲相當ノ處分ヲ爲スコトヲ得
第三百六十七條 死刑又ハ無期若ハ短期一年以上ノ懲役若ハ禁錮ニ該ル事件ニ付テハ辯護人ナクシテ開廷スルコトヲ得ス但シ判決ノ宣告ヲ爲ス場合ハ此ノ限ニ在ラス
辯護人出廷セサルトキ又ハ辯護人ノ選任ナキトキハ裁判長ハ職權ヲ以テ辯護人ヲ附スヘシ
第三百六十八條 左ノ場合ニ於テ辯護人出廷セサルトキ又ハ辯護人ノ選任ナキトキハ檢察官ノ意見ヲ聽キ決定ヲ以テ辯護人ヲ附スルコトヲ得
一 被告人心神喪失者又ハ心神耗弱者タル疑アルトキ
二 被告人聾者又ハ啞者ナルトキ
三 其ノ他必要ト認メタルトキ
第三百六十九條 前二條ノ規定ニ依リ附スヘキ辯護人ハ第八十八條ニ記載シタル者ヨリ裁判長之ヲ選任スヘシ
被告人ノ利害相反セサルトキハ同一ノ辯護人ヲシテ數人ノ辯護ヲ爲サシムルコトヲ得
第三百七十條 前三條ノ規定ハ特設軍法會議ニ付テハ之ヲ適用セス
第三百七十一條 辯論ハ之ヲ公開ス
第三百七十二條 安寧秩序若ハ風俗ヲ害シ又ハ軍事上ノ利益ヲ害スル虞アルトキハ辯論ノ公開ヲ停ムル決定ヲ爲スコトヲ得
第三百七十三條 辯論ノ公開ヲ停ムル決定アリタルトキハ公衆ヲ退廷セシムル前裁判長ハ其ノ決定ヲ理由ト共ニ宣告スヘシ
第三百七十四條 裁判長ハ公開ヲ停メタルトキト雖入廷セシムルヲ至當ト認ムル者ノ入廷ヲ許スコトヲ得
第三百七十五條 裁判長ハ被告人ノ部下ニ屬スル者又ハ被告人ヨリ官等、等級若ハ階級ノ下ナル第一條第一項第一號ニ記載シタル者ノ入廷ヲ禁シ又ハ其ノ退廷ヲ命スルコトヲ得
第三百七十六條 裁判長ハ婦女、兒童又ハ相當ナル衣服ヲ著セサル者ノ入廷ヲ禁シ又ハ其ノ退廷ヲ命スルコトヲ得
第三百七十七條 前二條ノ規定ニ依ル處分ヲ爲シタルトキハ其ノ處分及理由ヲ公判調書ニ記載スヘシ
第三百七十八條 開廷中ノ秩序ノ維持ハ裁判長之ヲ行フ
第三百七十九條 裁判長ハ辯論ヲ妨クル者又ハ不當ノ行狀ヲ爲ス者ヲ法廷ヨリ退カシムルコトヲ得
裁判長ハ前項ニ記載シタル者ノ行狀ニ依リ閉廷ニ至ル迄之ヲ留置スルコトヲ得此ノ場合ニ於テハ軍法會議ハ決定ヲ以テ五十圓以下ノ過料ニ處スルコトヲ得
第三百八十條 裁判長ハ不當ノ言語ヲ用井ル辯護人ニ對シ同一事件ニ付引續キ陳述スルコトヲ禁スルコトヲ得
第三百八十一條 前二條ノ規定ニ依ル處分ヲ爲シタルトキハ其ノ處分及理由ヲ公判調書ニ記載スヘシ
前項ノ場合ニ於テ懲戒處分ニ付スヘキモノト思料スルトキハ裁判長ハ公判調書ノ寫ヲ添ヘ其ノ旨ヲ相當官署ニ通知スヘシ
第三百八十二條 辯論ノ指揮ハ裁判長之ヲ行フ
第三百八十三條 事實ノ認定ハ證據ニ依ル
第三百八十四條 證據ノ證明力ハ裁判官ノ自由ナル判斷ニ任ス
第三百八十五條 被告人ノ訊問及證據調ハ裁判長之ヲ爲スヘシ
裁判長以外ノ裁判官ハ裁判長ニ告ケ被告人、證人又ハ鑑定人ヲ訊問スルコトヲ得
檢察官、被告人又ハ辯護人ハ必要トスル事項ニ付被告人、證人又ハ鑑定人ヲ訊問スヘキコトヲ裁判長ニ請求スルコトヲ得
第三百八十六條 裁判長ハ共同被告人、證人其ノ他ノ者被告人ノ面前ニ於テ十分ナル供述ヲ爲スコトヲ得サルヘシト思料スルトキハ其ノ供述中被告人ヲ退廷セシムルコトヲ得供述終リタルトキハ被告人ヲ入廷セシメ供述ノ要旨ヲ告クヘシ
第三百八十七條 證據書類ハ裁判長之ヲ朗讀シ若ハ其ノ要旨ヲ告ケ又ハ錄事ヲシテ朗讀セシムヘシ
證據物ハ裁判長之ヲ被告人ニ示スヘシ
第三百八十八條 期日前訴訟關係人ヨリ提出シタル證據物又ハ證據書類ハ公判廷ニ於テ之ヲ取調フヘシ第三百五十八條又ハ第三百五十九條ノ規定ニ依リ集取シタルモノ亦同シ但シ訴訟關係人異議ナキモノハ之ヲ取調ヘサルコトヲ得
第三百八十九條 證據調ノ請求ヲ却下スルトキハ決定ヲ以テ之ヲ爲スヘシ
新期日ノ指定其ノ他別段ノ手續ヲ必要トスル證據調ハ決定ニ依リ之ヲ爲スヘシ
第三百九十條 裁判長被告人ニ對シ第百八十六條ノ訊問ヲ爲シタル後檢察官ハ被告事件ノ要旨ヲ陳述スヘシ
前項ノ陳述終リタルトキハ裁判長ハ被告人ノ訊問及證據調ヲ爲スヘシ
第三百九十一條 裁判長ハ各個ノ證據ニ付取調ヲ終ヘタル每ニ被告人ニ意見アリヤ否ヲ問フヘシ
裁判長ハ被告人ニ對シ其ノ利益ト爲ルヘキ證據ヲ差出スコトヲ得ヘキ旨ヲ告クヘシ
第三百九十二條 證據調終リタル後檢察官ハ事實及法律ノ適用ニ付意見ヲ陳述スヘシ
被告人及辯護人ハ意見ヲ陳述スルコトヲ得
辯論ノ最終ニハ被告人又ハ辯護人ヲシテ陳述セシムヘシ
第三百九十三條 軍法會議ハ必要アル場合ニ於テハ辯論ヲ再開スルコトヲ得
第三百九十四條 軍法會議ハ計算其ノ他繁雜ナル事項ニ付公判廷ニ於テ取調フルコトヲ不便トスルトキハ受命裁判官ヲシテ其ノ取調ヲ爲サシムルコトヲ得
前項ノ取調ヲ爲ス場合ニ於テハ受命裁判官ハ豫審官ト同一ノ權ヲ有ス
受命裁判官ハ取調ノ結果ニ付報告ヲ爲スヘシ
第三百九十五條 裁判長ハ裁判官ノ一人ヲシテ被告人ノ訊問、證據調又ハ辯論ノ指揮ニ關スル事項ヲ行ハシムルコトヲ得
第三百九十六條 被告人心神喪失ノ狀態ニ在ルトキハ檢察官ノ意見ヲ聽キ決定ヲ以テ其ノ狀態ノ繼續スル間公判手續ヲ停止スヘシ
被告人疾病ニ因リテ出廷スルコト能ハサルトキハ檢察官ノ意見ヲ聽キ決定ヲ以テ出廷スルコトヲ得ルニ至ル迄公判手續ヲ停止スヘシ
第三百六十四條ノ規定ニ依リ代人ヲ出廷セシメタル場合ニ於テハ前二項ノ規定ヲ適用セス
第三百九十七條 開廷後被告人ノ心神喪失ニ因リ公判手續ヲ停止シ又ハ其ノ他ノ事由ニ因リ引續キ十五日以上開廷セサリシ場合ニ於テハ辯論ヲ更新スヘシ
第三百九十八條 開廷後裁判官ノ更迭アリタルトキハ辯論ヲ更新スヘシ但シ判決ノ宣告ヲ爲ス場合ハ此ノ限ニ在ラス
第三百九十九條 左ノ場合ニ於テハ決定ヲ以テ公訴ヲ棄却スヘシ
一 公訴ノ取消アリタルトキ
二 被告人死亡シタルトキ
三 第二十四條又ハ第二十五條ノ規定ニ依リ審判ヲ爲スヘカラサルトキ
第四百條 公訴ノ取消ニ因リ公訴棄却ノ決定アリタルトキハ再ヒ公訴ヲ提起シ又ハ豫審ヲ請求スルコトヲ得ス
第四百一條 被告事件軍法會議ノ管轄ニ屬セサルトキハ判決ヲ以テ管轄違ノ言渡ヲ爲スヘシ
第四百二條 被告事件ニ付犯罪ノ證明アリタルトキハ判決ヲ以テ刑ノ言渡ヲ爲スヘシ
刑ノ執行猶豫ノ言渡ハ刑ノ言渡ト同時ニ判決ヲ以テ之ヲ爲スヘシ
第四百三條 被告事件罪ト爲ラス又ハ犯罪ノ證明ナキトキハ判決ヲ以テ無罪ノ言渡ヲ爲スヘシ
第四百四條 左ノ場合ニ於テハ判決ヲ以テ免訴ノ言渡ヲ爲スヘシ
一 確定判決ヲ經タルトキ
二 犯罪後ノ法令ニ因リ刑ノ廢止アリタルトキ
三 刑ヲ免除スヘキトキ
四 大赦アリタルトキ
五 時效完成シタルトキ
第四百五條 左ノ場合ニ於テハ判決ヲ以テ公訴棄却ノ言渡ヲ爲スヘシ
一 長官ノ命令ナクシテ公訴ヲ提起シタルトキ
二 公訴提起ノ手續其ノ規定ニ違ヒタル爲無效ナルトキ
三 第三百三十二條、第三百三十七條又ハ第四百條ノ規定ニ違反シテ公訴ヲ提起シタルトキ
四 告訴又ハ請求ヲ待チテ受理スヘキ事件ニ付告訴又ハ請求ノ取消アリタルトキ
五 公訴ノ提起アリタル事件ニ付更ニ同一軍法會議ニ公訴ヲ提起シタルトキ
六 被告人ニ對シテ裁判權ヲ有セサルトキ
第四百六條 被告人陳述ヲ肯セス若ハ許可ヲ受ケスシテ退廷シ又ハ秩序維持ノ爲裁判長ヨリ退廷ヲ命セラレタルトキハ其ノ陳述ヲ聽カスシテ判決ヲ爲スコトヲ得
第四百七條 罰金以下ノ刑ニ該ルモノ又ハ罰金以下ノ刑ニ處スヘキモノト認ムル事件ニ付被告人出廷セサルトキハ其ノ後ノ取調ニ因リ禁錮以上ノ刑ニ處スヘキモノト認ムル場合ヲ除クノ外被告人ノ陳述ヲ聽カスシテ判決ヲ爲スコトヲ得
第四百八條 辯論終結ノ後ハ被告人出廷セスト雖宣告ニ依リ判決ヲ告知ス
第四百九條 判決ノ宣告ハ公開シテ之ヲ爲ス但シ辯論ノ公開ヲ停メタル事件ニ付テハ決定ヲ以テ理由ノ告知ニ限リ公開セスシテ之ヲ爲スコトヲ得
第三百七十三條ノ規定ハ前項ノ決定アリタル場合ニ之ヲ準用ス
第四百十條 無罪、免訴、刑ノ執行猶豫、公訴棄却、管轄違又ハ罰金若ハ科料ノ言渡ヲ爲シタルトキハ其ノ事件ニ付勾留セラレタル被告人ニ對シ放免ノ言渡アリタルモノトス
公訴棄却又ハ管轄違ノ言渡ヲ爲ス場合ニ於テハ軍法會議ハ前ニ發シタル勾留狀ヲ存シ又ハ新ニ之ヲ發スルコトヲ得
勾留狀ヲ存シ又ハ新ニ之ヲ發シタル事件ニ付三日內ニ公訴ヲ提起セス又ハ管轄軍法會議ノ檢察官ニ事件ヲ送致セサルトキハ檢察官ハ直ニ被告人ヲ釋放スヘシ被告事件ノ送致ヲ受ケタル檢察官五日內ニ公訴ヲ提起セサルトキ亦同シ
第四百十一條 押收シタル物ニ付沒收ノ言渡ナキトキハ押收ヲ解ク言渡アリタルモノトス
公訴棄却又ハ管轄違ノ言渡ヲ爲ス場合ニ於テハ軍法會議ハ押收ヲ存續スルコトヲ得
押收ヲ存續シタル事件ニ付三日內ニ公訴ヲ提起セス又ハ管轄軍法會議ノ檢察官ニ事件ヲ送致セサルトキハ檢察官ハ其ノ押收ヲ解クヘシ被告事件ノ送致ヲ受ケタル檢察官五日內ニ公訴ヲ提起セサルトキ亦同シ
第四百十二條 押收シタル贓物ニシテ被害者ニ還付スヘキ理由明瞭ナルトキハ之ヲ被害者ニ還付スル言渡ヲ爲スヘシ
贓物ノ對價トシテ得タル物ニ付被害者ヨリ交付ヲ請求シタルトキハ前項ノ例ニ依ル
假ニ還付シタル物ニ付別段ノ言渡ナキトキハ還付ノ言渡アリタルモノトス
第四百十三條 犯罪ニ因リ生シタル損害ニ付被害者ヨリ被告人ニ對シ其ノ囘復ヲ請求シタル場合ニ於テ被告事件ノ取調ニ因リ其ノ請求ヲ相當ナリト認メタルトキハ被告人異議ナキトキニ限リ其ノ請求ニ應スヘキ旨ノ言渡ヲ爲スコトヲ得
第四百十四條 前二條ノ規定ハ民事訴訟ノ手續ニ從ヒ利害關係人ヨリ其ノ權利ヲ主張スルコトヲ妨ケス
第四百十五條 刑ノ執行猶豫ノ言渡ヲ取消スヘキ場合ニ於テハ刑ノ言渡ヲ爲シタル軍法會議又ハ刑ノ言渡ヲ受ケタル者ノ所在地若ハ所屬部隊ノ軍法會議ノ檢察官其ノ軍法會議ニ請求ヲ爲スヘシ但シ高等軍法會議ニ於テ刑ノ言渡ヲ爲シタル事件ニ付テハ高等軍法會議ノ檢察官高等軍法會議ニ請求ヲ爲スヘシ
第二十七條ノ規定ニ依リ審判ヲ爲シタル事件ニ付テハ刑ノ言渡ヲ爲シタル軍法會議又ハ高等軍法會議ニ前項ノ請求ヲ爲スヘシ
前二項ノ請求アリタルトキハ軍法會議ハ被告人又ハ其ノ代理人ノ意見ヲ聽キ決定ヲ爲スヘシ
第四百十六條 刑法第五十二條又ハ第五十八條ノ規定ニ依リ刑ヲ定ムヘキ場合ニ於テハ其ノ犯罪事實ニ付最終ノ判決ヲ爲シタル軍法會議ノ檢察官其ノ軍法會議ニ請求ヲ爲スヘシ
軍法會議前項ノ請求ヲ受ケタルトキハ被告人又ハ其ノ代理人ノ意見ヲ聽キ決定ヲ爲スヘシ
第四百十七條 本節中審判ノ公開ニ關スル規定ハ之ヲ特設軍法會議ノ訴訟手續ニ適用セス
第三章 上告及非常上告
第四百十八條 上告ハ師團軍法會議ノ判決ニ對シテ之ヲ爲スコトヲ得
第四百十九條 上告ハ判決ノ一部ニ對シテ之ヲ爲スコトヲ得其ノ部分ヲ限ラサルトキハ判決ノ全部ニ對シテ爲シタルモノトス
第四百二十條 上告ハ檢察官又ハ被告人之ヲ爲スコトヲ得
第四百二十一條 被告人ノ法定代理人、保佐人又ハ夫ハ被告人ノ爲獨立シテ上告ヲ爲スコトヲ得
第四百二十二條 原審ノ辯護人又ハ代人ハ被告人ノ爲上告ヲ爲スコトヲ得但シ被告人ノ明示シタル意思ニ反スルコトヲ得ス
第四百二十三條 上告ハ法令違反ヲ理由トスルトキニ限リ之ヲ爲スコトヲ得
第四百二十四條 左ノ場合ニ於テハ常ニ上告ノ理由アルモノトス
一 法律ニ從ヒ軍法會議ヲ構成セサリシトキ
二 法律ニ依リ職務ノ執行ヨリ除斥セラルヘキ裁判官審判ニ干與シタトキ
三 審理ニ干與セサリシ裁判官判決ニ干與シタルトキ
四 軍法會議不當ニ管轄又ハ管轄違ヲ認メタルトキ
五 軍法會議不當ニ公訴ヲ受理シ又ハ之ヲ棄却シタルトキ
六 審判ノ公開ニ關スル規定ニ違ヒタルトキ
七 法律ニ別段ノ規定アル場合ヲ除クノ外被告人ノ出廷ナクシテ審判ヲ爲シタルトキ
八 公判廷ニ於テ被告人ノ身體ヲ拘束シタルトキ
九 法律ニ依リ辯護人ヲ要スル事件又ハ決定ニ依リ辯護人ヲ附シタル事件ニ付其ノ出廷ナクシテ審理ヲ爲シタルトキ
十 檢察官ノ爲ス被告事件ノ陳述ヲ聽カスシテ審判ヲ爲シタルトキ
十一 法律ニ依リ公判ニ於テ取調フヘキ證據ノ取調ヲ爲ササリシトキ
十二 公判ニ於テ爲シタル證據調ノ請求ニ付決定ヲ爲スヘキ場合ニ於テ之ヲ爲ササリシトキ
十三 法律ニ依リ公判手續ヲ停止又ハ更新スヘキ事由アル場合ニ於テ之ヲ停止又ハ更新セサリシトキ
十四 辯論ノ最終ニ被告人又ハ辯護人ヲシテ陳述ヲ爲サシメサリシトキ
十五 請求ヲ受ケタル事項ニ付判決ヲ爲サス又ハ請求ヲ受ケサル事項ニ付判決ヲ爲シタルトキ
十六 判決ニ理由ヲ附セス又ハ理由ニ齟齬アルトキ
十七 判決書ニ裁判官ノ署名若ハ捺印又ハ契印ヲ缺キタルトキ
第四百二十五條 前條ノ場合ヲ除クノ外法令ニ違反シタルコトアリト雖判決ニ影響ヲ及ホササルコト明白ナルトキハ之ヲ上告ノ理由ト爲スコトヲ得ス
第四百二十六條 判決アリタル後刑ノ廢止若ハ變更又ハ大赦アリタルトキハ之ヲ上告ノ理由ト爲スコトヲ得
第四百二十七條 上告ノ提起期間ハ三日トス
前項ノ期間ハ判決告知ノ時ヲ以テ始ル
第四百二十八條 檢察官又ハ被告人ハ上告ノ抛棄又ハ取下ヲ爲スコトヲ得但シ被告人ハ第四百二十一條ニ記載シタル者ノ同意ヲ得ルニ非サレハ抛棄又ハ取下ヲ爲スコトヲ得ス
第四百二十九條 第四百二十一條ニ記載シタル者ハ被告人ノ同意ヲ得テ上告ノ取下ヲ爲スコトヲ得
第四百三十條 上告ハ對手人ノ同意アルニ非サレハ之ヲ取下クルコトヲ得ス
第四百三十一條 上告抛棄ノ申立ハ原軍法會議ニ之ヲ爲スヘシ
上告取下ノ申立ハ高等軍法會議ニ之ヲ爲スヘシ但シ書類ヲ高等軍法會議ノ檢察官ニ送付スル前上告ノ取下ヲ爲ス場合ニ於テハ其ノ申立書ヲ原軍法會議ニ差出スコトヲ得
第四百三十二條 上告ノ抛棄又ハ取下ノ申立ハ書面ヲ以テ之ヲ爲スヘシ但シ公判廷ニ於テハ口頭ヲ以テ之ヲ爲スコトヲ得此ノ場合ニ於テハ其ノ申立ヲ公判調書ニ記載スヘシ
第四百三十三條 上告ノ抛棄又ハ取下ヲ爲シタル者ハ上告權ヲ喪失ス
第四百三十四條 第四百二十條乃至第四百二十二條ニ記載シタル者自己又ハ代人ノ責ニ歸スヘカラサル事由ニ因リ上告ノ提起期間內ニ上告ヲ爲スコト能ハサリシトキハ原軍法會議ニ上告權囘復ノ請求ヲ爲スコトヲ得
第四百三十五條 上告權囘復ノ請求ハ事由ノ止ミタル時ヨリ三日內ニ書面ヲ以テ之ヲ爲スヘシ
上告權囘復ノ原因タル事實ハ之ヲ疏明スヘシ
上告權囘復ノ請求ヲ爲ス者ハ其ノ請求ト同時ニ原軍法會議ニ上告ノ申立書ヲ差出スヘシ
第四百三十六條 原軍法會議ハ檢察官ノ意見ヲ聽キ上告權囘復ノ請求ヲ許スヘキカ否ヲ決定スヘシ
第四百三十七條 上告權囘復ノ請求アリタルトキハ前條ノ決定ヲ爲ス迄裁判ノ執行ヲ停止スル決定ヲ爲スコトヲ得
前項ノ規定ニ依リ裁判ノ執行ヲ停止スル決定ヲ爲ストキハ被告人ニ對シ勾留狀ヲ發スルコトヲ得
第四百三十八條 上告ヲ爲スニハ申立書ヲ原軍法會議ニ差出スヘシ
第四百三十九條 監獄ニ在ル者上告ヲ爲スニハ監獄ノ長又ハ其ノ代理者ヲ經由シテ其ノ申立書ヲ差出スヘシ此ノ場合ニ於テ上告ノ提起期間內ニ申立書ヲ監獄ノ長又ハ其ノ代理者ニ差出シタルトキハ上告申立ノ效力ヲ生ス
監獄ニ在ル者自ラ申立書ヲ作ルコト能ハサルトキハ監獄ノ長又ハ其ノ代理者ハ之ヲ代書シ又ハ所屬官吏ヲシテ之ヲ代書セシムヘシ
監獄ノ長又ハ其ノ代理者ハ原軍法會議ニ申立書ヲ送付シ且之ヲ受取リタル年月日時ヲ通知スヘシ
第四百四十條 前條ノ規定ハ上告ノ抛棄若ハ取下又ハ上告權囘復ノ請求ヲ爲ス場合ニ之ヲ準用ス
第四百四十一條 上告ノ申立、抛棄若ハ取下又ハ上告權囘復ノ請求アリタルトキハ錄事ハ速ニ之ヲ對手人ニ通知スヘシ
第四百四十二條 上告ノ申立法律上ノ方式ニ違ヒ又ハ上告權消滅後ニ爲シタルモノナルトキハ原軍法會議ハ檢察官ノ意見ヲ聽キ決定ヲ以テ之ヲ棄却スヘシ
第四百四十三條 前條ノ場合ヲ除クノ外原軍法會議ハ書類ヲ其ノ軍法會議ノ檢察官ニ送付シ檢察官ハ之ヲ高等軍法會議ノ檢察官ニ送付スヘシ
高等軍法會議ノ檢察官ハ書類ヲ其ノ軍法會議ニ送付スヘシ
第四百四十四條 高等軍法會議ハ遲クトモ最初ニ定メタル公判期日ノ三十日前ニ其ノ期日ヲ上告人及對手人ニ通知スヘシ
最初ニ公判期日ヲ定ムル前辯護人ノ選任アリタルトキハ被告人ニ對スル前項ノ通知ハ辯護人ニ對シ之ヲ爲スヘシ
第四百四十五條 上告人ハ遲クトモ最初ニ定メタル公判期日ノ十四日前ニ上告趣意書ヲ高等軍法會議ニ差出スヘシ
第四百四十六條 上告ノ對手人ハ最初ニ定メタル公判期日ノ十四日前迄上告ヲ爲スコトヲ得
前項ノ上告ハ上告趣意書ヲ高等軍法會議ニ差出スニ依リテ之ヲ爲ス
第四百四十七條 上告趣意書ニハ法令違反ノ理由ヲ明示スヘシ
訴訟手續ニ違反スルコトヲ理由トスル場合ニ於テハ尙違反ニ關スル事實ヲ表示スヘシ
第四百四十八條 高等軍法會議上告趣意書ヲ受取リタルトキハ速ニ其ノ謄本ヲ對手人ニ送達スヘシ
第四百四十九條 上告人期間內ニ上告趣意書ヲ差出ササルトキハ高等軍法會議ハ檢察官ノ意見ヲ聽キ決定ヲ以テ上告ヲ棄却スヘシ
第四百五十條 上告ノ對手人ハ上告趣意書ノ謄本ノ送達ヲ受ケタル日ヨリ十日內ニ答辯書ヲ高等軍法會議ニ差出スコトヲ得
檢察官對手人ナルトキハ重要ト認ムル上告ノ理由ニ付答辯書ヲ差出スヘシ
高等軍法會議答辯書ヲ受取リタルトキハ速ニ其ノ謄本ヲ上告人ニ送達スヘシ
第四百五十一條 裁判長ハ受命裁判官ヲシテ上告申立書、上告趣意書及答辯書ヲ閱シテ報告書ヲ作ラシムルコトヲ得
第四百五十二條 上告ノ審判ニ於テハ被告人ノ爲ニスル辯論ハ辯護人ニ非サレハ之ヲ爲スコトヲ得ス
第四百五十三條 期日ニハ受命裁判官ハ辯論前報告書ヲ朗讀スヘシ
檢察官及辯護人ハ上告趣意書ニ基キ辯論ヲ爲スヘシ
第四百五十四條 辯護人出廷セサルトキ又ハ辯護人ノ選任ナキトキハ法律ニ依リ辯護人ヲ要スル場合又ハ決定ニ依リ辯護人ヲ附シタル場合ヲ除クノ外檢察官ノ陳述ヲ聽キ判決ヲ爲スヘシ
第四百五十五條 高等軍法會議ハ上告趣意書ニ包含セラレタル事項ニ限リ調查ヲ爲スヘシ
軍法會議ノ管轄、公訴ノ受理及原判決ニ依リ定リタル事實ニ對スル法令ノ適用ノ當否ニ付テハ職權ヲ以テ調查ヲ爲スコトヲ得原判決アリタル後ニ於ケル刑ノ廢止若ハ變更又ハ大赦ニ付亦同シ
第四百五十六條 高等軍法會議ハ軍法會議ノ管轄、公訴ノ受理及訴訟手續ノ當否ニ關シテハ事實ノ取調ヲ爲スコトヲ得
前項ノ取調ハ受命裁判官ヲシテ之ヲ爲サシメ又ハ他ノ軍法會議ノ豫審官ニ之ヲ囑託スルコトヲ得
第四百五十七條 上告ノ申立法律上ノ方式ニ違ヒ又ハ上告權消滅後ニ爲シタルモノナルトキハ高等軍法會議ハ判決ヲ以テ上告ヲ棄却スヘシ
第四百五十八條 高等軍法會議上告ヲ理由ナシトスルトキハ判決ヲ以テ之ヲ棄却スヘシ
第四百五十九條 高等軍法會議上告ヲ理由アリトスルトキハ判決ヲ以テ原判決ヲ破毀スヘシ
前項ノ場合ニ於テハ其ノ事件ヲ原軍法會議ニ差戾シ又ハ原軍法會議以外ノ師團軍法會議ニ移送スヘシ但シ別段ノ規定アル場合ハ此ノ限ニ在ラス
第四百六十條 法令ヲ適用セサルコト、法令ノ適用ヲ誤リタルコト、判決アリタル後刑ノ廢止若ハ變更又ハ大赦アリタルコトヲ理由トシテ原判決ヲ破毀スル場合ニ於テ被告事件ノ事實原判決ニ依リ定リタルトキハ高等軍法會議ハ其ノ事件ニ付判決ヲ爲スヘシ不當ニ公訴ヲ受理シタルコトヲ理由トシテ原判決ヲ破毀スルトキ亦同シ
第四百六十一條 不當ニ管轄違ヲ認メ又ハ公訴ヲ棄却シタルコトヲ理由トシテ原判決ヲ破毀スルトキハ判決ヲ以テ其ノ事件ヲ原軍法會議ニ差戾スヘシ
第四百六十二條 不當ニ管轄ヲ認メタルコトヲ理由トシテ原判決ヲ破毀スルトキハ判決ヲ以テ其ノ事件ヲ管轄軍法會議ニ移送スヘシ
第四百六十三條 上告ノ趣意及重要ナル答辯ノ要旨ハ之ヲ判決書ニ記載スヘシ
第四百六十四條 被告人上告ヲ爲シ又ハ被告人ノ利益ノ爲上告ヲ爲シタル事件ニ付テハ高等軍法會議ハ原判決ニ定メタル刑ヨリ重キ刑ヲ言渡スコトヲ得ス
第四百六十五條 師團軍法會議不當ニ公訴棄却ノ決定ヲ爲ササリシトキハ高等軍法會議ハ決定ヲ以テ公訴ヲ棄却スヘシ
第四百六十六條 事件ノ差戾又ハ移送ヲ受ケタル軍法會議ハ其ノ事件ニ付高等軍法會議ノ表示シタル法律上ノ意見ニ覊束セラル
第四百六十七條 上告ノ審判ニ付テハ本章ニ規定シタルモノヲ除クノ外第二編第二章第四節ノ規定ヲ準用ス
第四百六十八條 軍法會議ノ判決確定後其ノ判決法律ニ於テ罰セサル所爲ニ對シ刑ヲ言渡シ又ハ相當ノ刑ヨリ重キ刑ヲ言渡シタルモノナルコトヲ發見シタルトキハ高等軍法會議ノ長官ハ檢察官ヲシテ高等軍法會議ニ非常上告ヲ爲サシムルコトヲ得
第四百六十九條 非常上告ヲ爲スニハ其ノ理由ヲ記載シタル申立書ヲ高等軍法會議ニ差出スヘシ
第四百七十條 期日ニハ檢察官ハ申立書ニ基キ陳述ヲ爲スヘシ
第四百七十一條 高等軍法會議非常上告ヲ理由ナシトスルトキハ判決ヲ以テ之ヲ棄却スヘシ
第四百七十二條 高等軍法會議非常上告ヲ理由アリトスルトキハ原判決ヲ破毀シ更ニ判決ヲ爲スヘシ但シ原判決ニ定メタル刑ヨリ重キ刑ヲ言渡スコトヲ得ス
第四章 再審
第四百七十三條 再審ノ請求ハ左ノ場合ニ於テ刑ノ言渡ヲ爲シタル確定判決ニ對シテ刑ノ言渡ヲ受ケタル者ノ利益ノ爲之ヲ爲スコトヲ得
一 原判決ノ憑據ト爲リタル證據書類又ハ證據物確定判決ニ因リ僞造又ハ變造ナリシコト證明セラレタルトキ
二 原判決ノ憑據ト爲リタル證言、鑑定、通譯又ハ翻譯確定判決ニ因リ僞證又ハ虛僞ノ鑑定、通譯若ハ翻譯ナリシコト證明セラレタルトキ
三 刑ノ言渡ヲ受ケタル者ヲ誣告シタル罪確定判決ニ因リ證明セラレタルトキ但シ誣告ニ因リ刑ノ言渡ヲ受ケタルトキニ限ル
四 原判決ノ憑據ト爲リタル裁判確定裁判ニ因リ變更セラレタルトキ
五 刑ノ言渡ヲ受ケタル者ニ對シテ無罪又ハ免訴ヲ言渡スヘキ明確ナル證據又ハ原判決ニ於テ認メタル罪ヨリ輕キ罪ヲ認ムヘキ明確ナル證據ヲ新ニ發見シタルトキ
六 原判決ニ干與シタル裁判官、原判決ノ基礎ト爲ルヘキ取調ニ干與シタル裁判官若ハ豫審官、豫審ニ干與シタル豫審官、搜查若ハ公訴ノ提起ニ干與シタル檢察官又ハ第三百四條ノ規定ニ依リ檢察官ノ請求ヲ受ケテ處分ヲ爲シタル豫審官被告事件ニ付職務ニ關スル罪ヲ犯シタルコト確定判決ニ因リ證明セラレタルトキ但シ原判決ヲ爲ス前裁判官、豫審官又ハ檢察官ニ對シテ公訴ノ提起アリタル場合ニ於テハ原判決ヲ爲シタル軍法會議其ノ事實ヲ知ラサリシトキニ限ル
第四百七十四條 再審ノ請求ハ左ノ場合ニ於テ刑ノ言渡又ハ無罪、免訴若ハ公訴棄却ノ言渡ヲ爲シタル確定判決ニ對シテ刑ノ言渡ヲ受ケタル者又ハ被告人タリシ者ノ不利益ノ爲之ヲ爲スコトヲ得
一 前條第一號、第二號、第四號又ハ第六號ニ記載シタル原由アルトキ
二 無罪又ハ相當ノ罪ヨリ輕キ罪ニ付刑ノ言渡ヲ受ケタル者軍法會議又ハ軍法會議外ニ於テ自白シタルトキ
三 免訴又ハ公訴棄却ノ言渡ヲ受ケタル者軍法會議又ハ軍法會議外ニ於テ其ノ原由ナカリシコトヲ陳述シタルトキ
第四百七十五條 再審ノ請求ハ左ノ場合ニ於テ上告ヲ棄却シタル判決ニ對シテ之ヲ爲スコトヲ得
一 第四百五十六條ノ規定ニ依リ取調ヘタル事實ニ付第四百七十三條第一號、第二號又ハ第四號ニ記載シタル原由アルトキ
二 原判決又ハ其ノ基礎ト爲ルヘキ取調ニ干與シタル裁判官又ハ豫審官ニ第四百七十三條第六號ニ記載シタル原由アルトキ
始審ノ確定判決ニ對シテ再審ヲ請求シタル事件ニ付再審ノ判決アリタル後ハ上告棄却ノ判決ニ對シテ再審ノ請求ヲ爲スコトヲ得ス
第四百七十六條 前三條ノ規定ニ從ヒ確定判決ニ因リ犯罪ノ證明セラレタルコトヲ再審ノ原由ト爲スヘキ場合ニ於テ其ノ犯罪ニ付公訴ヲ實行スルコト能ハサルトキハ其ノ事由及犯罪事實ヲ證明シテ再審ノ請求ヲ爲スコトヲ得
第四百七十七條 再審ノ請求ハ別段ノ規定アル場合ヲ除クノ外原判決ヲ爲シタル軍法會議之ヲ管轄ス
第四百七十八條 第四百六十條ノ規定ニ依リ爲シタル判決ニ對スル再審ノ請求ハ左ノ場合ヲ除クノ外始審ノ判決ヲ爲シタル軍法會議之ヲ管轄ス
一 第四百五十六條ノ規定ニ依リ取調ヘタル事實ニ付第四百七十三條第一號、第二號又ハ第四號ニ記載シタル原由アリトスルトキ
二 高等軍法會議ノ判決又ハ其ノ基礎ト爲ルヘキ取調ニ干與シタル裁判官又ハ豫審官ニ第四百七十三條第六號ニ記載シタル原由アリトスルトキ
第四百七十九條 刑ノ言渡ヲ受ケタル者ノ利益ノ爲ニスル再審ノ請求ハ左ニ記載シタル者之ヲ爲スコトヲ得
一 管轄軍法會議ノ檢察官
二 刑ノ言渡ヲ受ケタル者
三 刑ノ言渡ヲ受ケタル者ノ法定代理人、保佐人又ハ夫
四 刑ノ言渡ヲ受ケタル者死亡シ又ハ心神喪失ノ狀態ニ在ル場合ニ於テハ其ノ配偶者、家督相續人、直系親族又ハ兄弟姉妹
第四百七十三條第六號又ハ第四百七十五條第一項第二號ノ場合ニ於テ刑ノ言渡ヲ受ケタル者ノ利益ノ爲ニスル再審ノ請求ハ刑ノ言渡ヲ受ケタル者ノ行爲ニ因リ罪ヲ犯スニ至ラシメタル場合ニ於テハ檢察官ニ非サレハ之ヲ爲スコトヲ得ス
刑ノ言渡ヲ受ケタル者又ハ被告人タリシ者ノ不利益ノ爲ニスル再審ノ請求ハ管轄軍法會議ノ檢察官之ヲ爲スコトヲ得
第四百八十條 檢察官ニ非サル者再審ノ請求ヲ爲ス場合ニ於テハ辯護人ヲ選任スルコトヲ得但シ特設軍法會議ニ付テハ此ノ限ニ在ラス
前項ノ規定ニ依ル辯護人ノ選任ハ再審ノ判決アル迄其ノ效力ヲ有ス
第四百八十一條 再審ノ請求ハ刑ノ執行ヲ終ヘタルトキ又ハ其ノ執行ヲ受クルコトナキニ至リタルトキト雖之ヲ爲スコトヲ得
第四百八十二條 刑ノ言渡ヲ受ケタル者又ハ被告人タリシ者ノ不利益ノ爲ニスル再審ノ請求ハ判決確定後公訴ノ時效ニ付定メタル期間ヲ經過シタル後ニ於テハ之ヲ爲スコトヲ得ス
第四百八十三條 再審ノ請求ハ刑ノ執行ヲ停止スル效力ヲ有セス但シ管轄軍法會議ノ檢察官ハ長官ノ命令ニ依リ再審ノ請求ニ付テノ決定アル迄刑ノ執行ヲ停止スルコトヲ得
第四百八十四條 再審ノ請求ヲ爲スニハ其ノ趣意書ニ原判決ノ謄本及證據ヲ添ヘ之ヲ管轄軍法會議ニ差出スヘシ
第四百八十五條 再審ノ請求ハ之ヲ取下クルコトヲ得
第四百八十六條 第四百三十條、第四百三十二條、第四百三十九條及第四百四十一條ノ規定ハ再審ノ請求及其ノ取下ニ之ヲ準用ス
第四百八十七條 第四百六十條ノ規定ニ依リ爲シタル判決ニ對シテ高等軍法會議及師團軍法會議ニ再審ノ請求アリタルトキハ高等軍法會議ハ決定ヲ以テ師團軍法會議ノ訴訟手續終了ニ至ル迄訴訟手續ヲ停止スヘシ始審ノ確定判決ト上告棄却ノ判決トニ對シテ再審ノ請求アリタルトキ亦同シ
第四百八十八條 再審ノ請求法律上ノ方式ニ違ヒタルモノナルトキハ決定ヲ以テ之ヲ棄却スヘシ
第四百八十九條 再審ノ請求ヲ理由ナシトスルトキハ決定ヲ以テ之ヲ棄却スヘシ
第四百九十條 再審ノ請求ヲ理由アリトスルトキハ再審開始ノ決定ヲ爲スヘシ
再審開始ノ決定ヲ爲シタルトキハ決定ヲ以テ刑ノ執行ヲ停止スルコトヲ得
第四百九十一條 第四百八十七條ノ場合ニ於テ師團軍法會議再審ノ請求ヲ受ケタル事件ニ付判決ヲ爲シタルトキハ高等軍法會議ハ決定ヲ以テ再審ノ請求ヲ棄却スヘシ
第四百九十二條 再審ノ請求ニ付決定ヲ爲ス場合ニ於テハ請求ヲ爲シタル者及其ノ對手人ノ意見ヲ聽クヘシ但シ第四百七十九條第一項第三號ニ記載シタル者再審ノ請求ヲ爲シタル場合ニ於テハ併セテ刑ノ言渡ヲ受ケタル者ノ意見ヲ聽クヘシ
第四百九十三條 再審開始ノ決定ヲ爲シタル事件ニ付テハ其ノ審級ニ從ヒ更ニ審判ヲ爲スヘシ
第四百九十四條 死亡者又ハ囘復ノ見込ナキ心神喪失ノ狀態ニ在ル者ノ利益ノ爲再審ノ請求ヲ爲シタル事件ニ付テハ公判ヲ開カス檢察官及辯護人ノ意見ヲ聽キ判決ヲ爲スヘシ此ノ場合ニ於テ再審ノ請求ヲ爲シタル者辯護人ヲ選任セサルトキハ裁判長ハ第三百六十九條ノ規定ニ準シ職權ヲ以テ辯護人ヲ附スヘシ
刑ノ言渡ヲ受ケタル者ノ利益ノ爲再審ノ請求ヲ爲シタル事件ニ付再審ノ判決ヲ爲ス前刑ノ言渡ヲ受ケタル者死亡シ又ハ心神喪失ノ狀態ニ在リテ囘復ノ見込ナキニ至リタルトキ亦前項ニ同シ
前二項ノ規定中辯護人ニ關スルモノハ特設軍法會議ニ付テハ之ヲ適用セス
第一項又ハ第二項ノ規定ニ依リ爲シタル判決ニ對シテハ上告ヲ爲スコトヲ得ス
第四百九十五條 刑ノ言渡ヲ受ケタル者又ハ被告人タリシ者ノ不利益ノ爲再審ノ請求ヲ爲シタル事件ニ付再審ノ判決ヲ爲ス前刑ノ言渡ヲ受ケタル者又ハ被告人タリシ者死亡シタルトキハ再審ノ請求及其ノ請求ニ付爲シタル決定ハ其ノ效力ヲ失フ
第四百九十六條 刑ノ言渡ヲ受ケタル者ノ利益ノ爲爲シタル再審ニ於テハ原判決ニ於テ言渡シタル刑ヨリ重キ刑ヲ言渡スコトヲ得ス
第四百九十七條 再審ニ於テ無罪ヲ言渡シタル判決確定シタルトキハ官報ヲ以テ其ノ判決ヲ公示スヘシ
第五章 裁判ノ執行
第四百九十八條 裁判ハ確定シタル後之ヲ執行ス
第四百九十九條 裁判ノ執行ハ其ノ裁判ヲ爲シタル軍法會議ノ檢察官又ハ其ノ裁判ヲ爲シタル豫審官ノ屬スル軍法會議ノ檢察官之ヲ指揮ス但シ其ノ性質上軍法會議、裁判長、受命裁判官又ハ豫審官ノ爲スヘキモノハ此ノ限ニ在ラス
上告ノ裁判又ハ上告ノ取下ニ因リ原軍法會議ノ裁判ヲ執行スヘキ場合ニ於テハ高等軍法會議ノ檢察官其ノ執行ヲ指揮ス
前二項ノ場合ニ於テ訴訟書類原軍法會議ニ在ルトキハ其ノ軍法會議ノ檢察官裁判ノ執行ヲ指揮ス
第五百條 裁判執行ノ指揮ハ書面ヲ以テ之ヲ爲シ裁判書又ハ裁判ヲ記載シタル調書ノ謄本又ハ抄本ヲ添附スヘシ但シ刑ノ執行ヲ指揮スル場合ヲ除クノ外裁判書ノ原本、謄本若ハ抄本又ハ調書ノ謄本若ハ抄本ニ認印シテ之ヲ爲スコトヲ得
第五百一條 二以上ノ主刑ノ執行ハ罰金及科料ヲ除クノ外其ノ重キモノヲ先ニス但シ檢察官ハ長官ノ命令ニ依リ重キ刑ノ執行ヲ停止シ他ノ刑ノ執行ヲ爲サシムルコトヲ得
第五百二條 死刑ノ執行ハ陸軍大臣ノ命令ニ依ル
第五百三條 死刑ヲ言渡シタル判決確定シタルトキハ檢察官ハ速ニ訴訟記錄ヲ長官ヲ經由シテ陸軍大臣ニ差出スヘシ
第五百四條 陸軍大臣死刑ノ執行ヲ命シタルトキハ五日內ニ其ノ執行ヲ爲スヘシ
第五百五條 死刑ノ執行ハ檢察官及錄事ノ立會ニテ監獄ノ長之ヲ爲スヘシ
長官ハ監獄ノ長ノ申請ニ因リ兵員ノ出場ヲ命スヘシ
檢察官又ハ監獄ノ長ノ許可ヲ得タル者ノ外刑場ニ入ルコトヲ得ス
第五百六條 死刑ノ執行ニ立會ヒタル錄事ハ執行始末書ヲ作リ檢察官及監獄ノ長ト共ニ之ニ署名捺印スヘシ
第五百七條 死刑ノ言渡ヲ受ケタル者心神喪失ノ狀態ニ在ルトキハ陸軍大臣ノ命令ニ依リ其ノ痊癒ニ至ル迄執行ヲ停止ス
死刑ノ言渡ヲ受ケタル婦女懷胎ナルトキハ陸軍大臣ノ命令ニ依リ分娩ニ至ル迄執行ヲ停止ス
前二項ノ規定ニ依リ死刑ノ執行ヲ停止シタル者ニ付テハ痊癒又ハ分娩ノ後陸軍大臣ノ命令アルニ非サレハ其ノ執行ヲ爲スコトヲ得ス
第五百八條 特設軍法會議死刑ヲ言渡シタル場合ニ於テハ其ノ執行又ハ執行ノ停止ニ關スル陸軍大臣ノ職務ハ長官之ヲ行フコトヲ得
第五百九條 懲役、禁錮又ハ拘留ノ言渡ヲ受ケタル者心神喪失ノ狀態ニ在ルトキハ刑ノ言渡ヲ爲シタル軍法會議又ハ刑ノ言渡ヲ受ケタル者ノ所在地ノ軍法會議ノ檢察官ノ指揮ニ依リ其ノ痊癒ニ至ル迄執行ヲ停止ス
第五百十條 前條ノ規定ニ依リ刑ノ執行ヲ停止シタル場合ニ於テ刑ノ言渡ヲ受ケタル者第一條ニ記載シタル身分ヲ有セサルトキハ檢察官ハ之ヲ監護義務者又ハ市區町村長ニ交付シ病院其ノ他適當ノ場所ニ入レシムルコトヲ得
刑ノ執行ヲ停止セラレタル者ハ前項ノ處分アル迄之ヲ監獄ニ留置シ其ノ期間ヲ刑期ニ算入ス
第五百十一條 左ニ記載シタル場合ニ於テハ刑ノ言渡ヲ爲シタル軍法會議又ハ刑ノ言渡ヲ受ケタル者ノ所在地ノ軍法會議ノ檢察官ノ指揮ニ依リ事故ノ止ム迄懲役、禁錮又ハ拘留ノ執行ヲ停止スルコトヲ得
一 刑ノ執行ニ因リ生命ヲ保ツコト能ハサル虞アルトキ
二 受胎後七月以上ナルトキ
三 分娩後一月ヲ經過セサルトキ
四 刑ノ執行ニ因リ囘復スヘカラサル不利益ヲ生スル虞アルトキ
五 其ノ他重大ナル事由アルトキ
第五百十二條 死刑、懲役、禁錮又ハ拘留ノ言渡ヲ受ケタル者拘禁中ニ非サルトキハ檢察官ハ執行ノ爲之ヲ召喚スヘシ召喚ニ應セサルトキハ逮捕狀ヲ發スヘシ
第五百十三條 死刑、懲役、禁錮又ハ拘留ノ言渡ヲ受ケタル者逃走シタルトキ又ハ逃走スル虞アルトキハ檢察官ハ直ニ逮捕狀ヲ發シ又ハ陸軍司法警察官若ハ司法警察官ニ請求シ若ハ囑託シテ之ヲ發セシムルコトヲ得
第五百十四條 逮捕狀ニハ刑ノ言渡ヲ受ケタル者ノ氏名、住居、年齡、刑名、刑期其ノ他逮捕ニ必要ナル事項ヲ記載シ檢察官又ハ陸軍司法警察官之ニ記名捺印スヘシ
逮捕狀ヲ發スル場合ニ於テ必要アルトキハ人相書ヲ添附スヘシ
第五百十五條 逮捕狀ハ勾引狀ト同一ノ效力ヲ有ス
第五百十六條 逮捕狀ノ執行ニ付テハ勾引狀ノ執行ニ關スル規定ヲ準用ス
第五百十七條 檢察官刑ノ言渡ヲ受ケタル者ノ現在地ヲ覺知スルコト能ハサルトキハ檢事長又ハ之ニ相當スル官署ニ人相書ヲ送付シ其ノ搜查及逮捕ヲ囑託スルコトヲ得
囑託ヲ受ケタル官署ハ其ノ管轄區域內ノ檢事又ハ相當官署ヲシテ逮捕狀ヲ發シ搜查及逮捕ノ手續ヲ爲サシムヘシ
第五百十八條 罰金、科料、過料、沒收、沒取、追徵又ハ費用賠償ノ裁判ハ檢察官ノ命令ヲ以テ之ヲ執行ス其ノ執行ヲ受クヘキ者ニ付相續開始アリタルトキハ相續財產ニ就キ執行スルコトヲ得
第五百十九條 前條ノ執行ニ付强制執行ヲ要スルトキハ兵營其ノ他軍事用ノ廳舍又ハ艦船ノ內ニ於テ之ヲ爲ス場合ヲ除クノ外檢察官ノ囑託ニ因リ區裁判所其ノ他民事裁判ニ付强制執行ヲ爲ス權アル官署ニ於テ之ヲ爲ス此ノ場合ニ於テハ檢察官ノ命令ハ執行力アル債務名義ト同一ノ效力ヲ有ス
囑託ニ因リ爲ス官署ノ執行手續ニ付テハ民事裁判ノ執行ニ關スル規定ヲ準用ス但シ執行前裁判ノ送達ヲ爲スコトヲ要セス
第五百二十條 前條第二項ノ規定ニ依ル執行ノ費用ハ執行ヲ受クル者ノ負擔トシ民事訴訟法ノ規定ニ準シ執行ト同時ニ之ヲ取立ツヘシ
第五百二十一條 第四百十三條ノ規定ニ依リ爲シタル賠償ノ言渡ニ付被害者ヨリ强制執行ノ請求アリタルトキハ前三條ノ規定ヲ準用ス
第五百二十二條 沒收物ハ檢察官之ヲ處分スヘシ
第五百二十三條 沒收ノ執行後三月內ニ權利ヲ有スル者ヨリ沒收物ノ交付ヲ請求シタルトキハ檢察官ハ破壞又ハ廢棄スヘキ物ヲ除クノ外之ヲ交付スヘシ
沒收物ヲ處分シタル後前項ノ請求アリタル場合ニ於テハ檢察官ハ公賣ニ因リテ得タル代價ヲ交付スヘシ
第五百二十四條 僞造又ハ變造ニ係ル物ヲ返還スル場合ニ於テハ僞造又ハ變造ノ部分ヲ其ノ物ニ表示スヘシ
僞造又ハ變造ニ係ル物押收セラレサルトキハ之ヲ提出セシメテ前項ノ手續ヲ爲スヘシ但シ其ノ物公務所ニ屬スルトキハ僞造又ハ變造ノ部分ヲ公務所ニ通知シテ相當ノ處分ヲ爲サシムヘシ
第五百二十五條 押收物ノ返還ヲ受クヘキ者ノ所在不明ナル爲又ハ其ノ他ノ事由ニ因リ其ノ物ヲ還付スルコト能ハサル場合ニ於テハ檢察官ハ其ノ旨ヲ公告スヘシ
公告ヲ爲シタル時ヨリ六月內ニ還付ノ請求ナキトキハ其ノ物ハ國庫ニ歸屬ス
前項ノ期間內ト雖價値ナキ物ハ之ヲ廢棄シ保管ニ不便ナル物ハ之ヲ公賣シテ其ノ代價ヲ保管スルコトヲ得
第五百二十六條 檢察官ハ必要ナル場合ニ於テハ他ノ軍法會議ノ檢察官、地方裁判所若ハ區裁判所ノ檢事又ハ相當官署ニ裁判ノ執行ニ關スル處分ヲ囑託スルコトヲ得
第五百二十七條 刑ヲ言渡シタル裁判ノ解釋ニ付疑アルトキハ其ノ言渡ヲ受ケタル者ハ言渡ヲ爲シタル軍法會議ニ疑義ノ申立ヲ爲スコトヲ得
第五百二十八條 刑ノ執行ヲ受クル者又ハ其ノ法定代理人、保佐人若ハ夫執行ニ關シ檢察官ノ爲シタル處分ヲ不當トスルトキハ裁判ノ言渡ヲ爲シタル軍法會議ニ異議ノ申立ヲ爲スコトヲ得
第五百二十九條 疑義又ハ異議ノ申立ハ其ノ裁判アル迄之ヲ取下クルコトヲ得
疑義若ハ異議ノ申立又ハ其ノ取下ハ書面ヲ以テ之ヲ爲スヘシ
第四百三十九條ノ規定ハ疑義若ハ異議ノ申立又ハ其ノ取下ニ之ヲ準用ス
第五百三十條 疑義又ハ異議ノ申立ヲ受ケタル軍法會議ハ檢察官ノ意見ヲ聽キ決定ヲ爲スヘシ
第五百三十一條 罰金又ハ科料ヲ完納スルコト能ハサル爲爲シタル勞役場留置ノ執行ニ付テハ刑ノ執行ニ關スル規定ヲ準用ス
附 則
第五百三十二條 本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム本法第二編第二章中親告罪ノ告訴、請求ヲ待チテ受理スヘキ事件ニ付テノ請求及時效ニ關スル規定ニ付テハ勅令ヲ以テ別ニ其ノ施行期日ヲ定ム
親告罪ノ告訴、請求ヲ待チテ受理スヘキ事件ニ付テノ請求及時效ニ關シテハ前項ノ規定ニ依リ定ムル施行期日ニ至ル迄仍從前ノ例ニ依ル
第五百三十三條 陸軍治罪法、臺灣陸軍軍法會議法、關東都督府及韓國駐箚軍陸軍軍法會議法及明治二十八年勅令第九十二號ハ之ヲ廢止ス
第五百三十四條 本法ハ本法施行前ニ生シタル事件ニ亦之ヲ適用ス
前項ノ規定ハ本法施行前舊法ニ依リ爲シタル訴訟手續ノ效力ヲ妨ケス
本法施行前舊法ニ依リ爲シタル訴訟手續ニシテ本法ニ之ニ相當スル規定アルモノハ之ヲ本法ニ依リ爲シタルモノト看做ス
第五百三十五條 本法施行前裁判權ヲ有スル事件ニ付審問、審判又ハ判決ノ命令アリタルトキハ本法ニ依リ軍法會議裁判權ヲ有セサルトキト雖軍法會議之ヲ審判ス
第五百三十六條 本法施行前軍法會議裁判權ヲ有セサル事件ニ付通常裁判所其ノ他ノ官署ニ公訴ノ提起アリタルトキハ本法ニ依リ軍法會議裁判權ヲ有スルトキト雖公訴ヲ受ケタル官署之ヲ審判ス
第五百三十七條 從來ノ軍法會議ハ本法ニ於テ之ニ相當スル軍法會議トス
第五百三十八條 本法施行前管轄權ヲ有スル事件ニ付審問、審判又ハ判決ノ命令アリタルトキハ本法ニ依リ管轄權ヲ有セサルトキト雖其ノ命令ヲ受ケタル軍法會議之ヲ審判ス
第五百三十九條 本法施行ノ際在職ノ判士長及判士ハ本法ニ依ル判士トス
第五百四十條 本法施行ノ際在官ノ理事ハ別ニ辭令ヲ用井ス陸軍法務官ニ任セラレタルモノトス
本法施行ノ際退職又ハ豫備ノ理事ハ本法ニ依リ退職ヲ命セラレタル陸軍法務官トス
本法施行ノ際非職ノ理事ハ本法ニ依リ休職ヲ命セラレタル陸軍法務官トス
本法施行ノ際ニ限リ第三十九條ノ事由ナキトキト雖陸軍大臣ハ陸軍法務官ニ休職ヲ命スルコトヲ得
前二項ノ規定ニ依リ休職ト爲リタル陸軍法務官ノ休職ノ期間ハ三年トシ第三項ノ者ニ在リテハ非職トナリタル時ヨリ之ヲ起算ス
前項ノ休職ノ期間滿期ト爲リタルトキハ退職トス
第五百四十一條 本法施行前發シタル收禁狀ハ之ヲ本法ニ依リ發シタル勾留狀ト看做ス
第五百四十二條 本法施行前闕席判決ヲ受ケタル者ニ對シテハ舊法ニ依リ逮捕狀ヲ發スルコトヲ得
第五百四十三條 本法施行前闕席判決ヲ受ケタル者ニ對シテ發シタル逮捕狀及前條ノ規定ニ依リ發シタル逮捕狀ハ之ヲ本法ニ依リ發シタル勾留狀ト看做ス
第五百四十四條 本法施行前ニ爲シタル檢察ノ處分ハ之ヲ本法ニ依リ爲シタル搜查ノ處分ト看做ス
第五百四十五條 本法施行前檢察ノ處分ニ著手シタル官署本法ニ依リ搜查權ヲ有セサルトキハ速ニ之ニ關スル書類及證據物ヲ檢察官又陸軍司法警察官ニ送付スヘシ本法施行前告訴又ハ告發ヲ受ケタル官署亦同シ
第五百四十六條 第二百九十二條ノ期間ハ同條施行前犯人ヲ知リ又ハ婚姻ノ無效若ハ取消ノ裁判確定シタル場合ニ於テハ同條施行ノ日ヨリ之ヲ起算ス
第五百四十七條 本法施行前檢察具申アリタル事件ニシテ陸軍治罪法第四十六條ノ手續ヲ爲ササルモノハ之ヲ第三百六條又ハ第三百七條ノ規定ニ依リ報告アリタルモノト看做ス
第五百四十八條 本法施行前ニ爲シタル審問ハ之ヲ本法ニ依リ爲シタル豫審ト看做ス
本法施行前審問ニ著手シタル事件ハ之ヲ本法ニ依リ豫審ノ請求アリタルモノト看做ス
第五百四十九條 本法施行前陸軍治罪法第七十三條第二號ノ規定ニ依リ具申アリタル事件ニシテ陸軍大臣又ハ長官ノ命令又ハ認可ナキモノハ之ヲ第三百三十條ノ規定ニ依リ報告アリタルモノト看做ス
第五百五十條 本法施行前審問ニ於テ免訴ノ言渡アリタル事件ニ付テハ新ナル事實又ハ證據ヲ發見シタルトキニ限リ更ニ豫審ヲ請求シ又ハ公訴ヲ提起スルコトヲ得
第五百五十一條 本法施行前判決ニ著手シタル事件ハ之ヲ本法ニ依リ公訴ノ提起アリタルモノト看做ス
第五百五十二條 本法施行前判決ヲ終ヘ裁判宣告ヲ爲ササル事件ハ舊法ニ依リ之ヲ終結スヘシ
第五百五十三條 本法施行前言渡シタル闕席判決ニ對シテハ舊法ニ依リ再審ノ申訴ヲ爲スコトヲ得
前項ノ申訴アリタルトキハ長官ハ公訴ノ提起ヲ命スヘシ
第五百五十四條 本法施行前陸軍治罪法第九十五條ノ規定ニ依リ又ハ同法第九十六條各號ニ記載シタル事由ニ因リ再審ノ命令アリタル事件ハ舊法ニ依リ之ヲ終結スヘシ
本法施行前陸軍治罪法九十八條ノ規定ニ依ル再審ノ申訴ニ因リ再審ノ命令アリタル事件ハ之ヲ本法ニ依リ公訴ノ提起アリタルモノト看做ス
第五百五十五條 本法施行前陸軍治罪法第九十六條又ハ同法第九十七條ノ規定ニ依リ再審ノ申訴又ハ具申アリテ命令ナキ事件ハ之ヲ本法ニ依リ管轄軍法會議ニ再審ノ請求アリタルモノト看做ス
本法施行前陸軍治罪法第九十八條ノ規定ニ依リ再審ノ申訴アリテ命令ナキ事件ニ付テハ長官ハ公訴ノ提起ヲ命スヘシ
第五百五十六條 本法施行前提起シタル私訴ハ之ヲ第四百十三條ノ規定ニ依ル損害囘復ノ請求ト看做ス
第五百五十七條 本法施行前言渡シタル私訴裁判ノ强制執行ニ付テハ第五百二十一條ノ規定ヲ準用ス
第五百五十八條 本法施行前進行ヲ始メタル私訴ノ時效ハ從前ノ規定ニ從フ
第五百五十九條 本法ニ依リ市町村吏員ノ行フヘキ職務ハ市制町村制ヲ施行セサル地竝朝鮮、臺灣、樺太及關東州ニ在リテハ勅令ヲ以テ指定スル官吏吏員之ヲ行フ
第五百六十條 本法ニ記載シタル刑法ノ規定ハ朝鮮、臺灣及關東州ニ在リテハ各之ニ相當スル法令ノ規定トス
第五百六十一條 內地ニ非サル地ニ在ル師團ニハ師團軍法會議ヲ設ケサルコトヲ得
內地ニ非サル地ニ在ル師團ニ軍法會議ヲ設クル場合ニ於テ其ノ師團ニ師管ノ設ケナキトキハ命令ヲ以テ師管ト看做スヘキ地域ヲ定ムルコトヲ得
第五百六十二條 別段ノ規定アル場合ヲ除クノ外他ノ法律中陸軍ノ理事トアルハ陸軍法務官トス
朕帝国議会ノ協賛ヲ経タル陸軍軍法会議法ヲ裁可シ茲ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
大正十年四月二十五日
内閣総理大臣 原敬
陸軍大臣 男爵 田中義一
法律第八十五号
陸軍軍法会議法
第一編 軍法会議
第一章 軍法会議ノ裁判権
第一条 軍法会議ハ左ニ記載シタル者ニ対シ其ノ犯罪ニ付裁判権ヲ有ス
一 陸軍刑法第八条第一号乃至第三号、第四号後段、第五号及第九条ニ記載シタル者
二 陸軍用船ノ船員
三 前二号ニ記載シタル者ヲ除クノ外陸軍ノ部隊ニ属シ又ハ従フ者
四 俘虜
前項第二号及第三号ニ記載シタル者ノ中特ニ除外スヘキ者アルトキハ命令ヲ以テ之ヲ定ム
第二条 軍法会議ハ前条ニ記載シタル者ニ対シ其ノ身分発生前ノ犯罪ニ付亦裁判権ヲ有ス
軍法会議ハ前条ニ記載シタル者其ノ身分ヲ喪失シタルトキト雖身分継続中捜査ノ報告アリ又ハ逮捕、勾引若ハ勾留セラレタルトキハ其ノ者ニ対シ亦裁判権ヲ有ス
第三条 軍法会議ハ陸軍刑法第八条第四号前段ニ記載シタル者ニ対シ其ノ犯シタル陸軍刑法ノ罪ニ付裁判権ヲ有ス
前条第二項ノ規定ハ前項ニ規定スル犯罪ニ付之ヲ準用ス
第四条 軍法会議ハ合囲地境ニ在ル第一条ニ記載シタル以外ノ者ニ対シ左ノ各号ニ規定スル犯罪ニ付裁判権ヲ有ス
一 第十五条第一号又ハ第二号ニ記載シタル者ト共ニ犯シタル同一又ハ別個ノ罪
二 陸軍刑法、海軍刑法、軍機保護法其ノ他軍事ノ必要ニ因リ特ニ設ケタル法令ノ罪
犯人蔵匿ノ罪、証憑湮滅ノ罪、偽証ノ罪、虚偽ノ鑑定通訳ノ罪及贓物ニ関スル罪ハ之ヲ其ノ本犯ト共ニ犯シタルモノト看做ス
第五条 軍法会議ハ戒厳令ニ定メタル特別裁判権ヲ行フ
第六条 軍法会議ハ戦時事変ニ際シ軍ノ安寧ヲ保持スル為必要アルトキハ第一条ニ記載シタル以外ノ者ニ対シ犯罪ニ付裁判権ヲ行フコトヲ得
第七条 第四条及前条ノ規定ハ海軍軍法会議法第一条乃至第三条ノ規定ニ依リ海軍軍法会議ノ裁判権ヲ有スル犯罪ニ付テハ之ヲ適用セス但シ被告人ノ所在地海軍軍法会議ノ所在地ト交通断絶シタル場合ニ於テハ此ノ限ニ在ラス
第二章 軍法会議ノ管轄権
第八条 軍法会議ヲ設クルコト左ノ如シ
一 高等軍法会議
二 師団軍法会議
三 軍軍法会議
四 独立師団軍法会議
五 独立混成旅団軍法会議
六 兵站軍法会議
七 合囲地軍法会議
八 臨時軍法会議
第九条 高等軍法会議及師団軍法会議ハ之ヲ常設ス
軍軍法会議、独立師団軍法会議、独立混成旅団軍法会議及兵站軍法会議ハ戦時事変ニ際シ必要ニ因リ之ヲ特設ス
合囲地軍法会議ハ戒厳ノ宣告アリタルトキ合囲地境ニ之ヲ特設ス
臨時軍法会議ハ戦時事変ニ際シ必要ニ因リ特設又ハ分駐シタル陸軍ノ部隊ニ之ヲ特設ス
第十条 高等軍法会議ハ陸軍大臣ヲ以テ長官トス
師団軍法会議ハ師団長ヲ以テ長官トス
特設軍法会議ハ軍法会議ヲ設置シタル部隊又ハ地域ノ司令官ヲ以テ長官トス
第十一条 高等軍法会議ハ左ノ事件ニ付管轄権ヲ有ス
一 陸軍ノ将官、将官相当官、勅任文官及勅任文官待遇者並海軍ノ将官、勅任文官及勅任文官待遇者ニ対スル被告事件
二 上告
三 非常上告
第十二条 師団軍法会議ハ左ノ事件ニ付管轄権ヲ有ス
一 師団長ノ部下ニ属スル者及監督ヲ受クル者ニ対スル被告事件
二 師管内ニ在ル陸軍ノ部隊ニ属スル者及其ノ部隊ノ長ノ監督ヲ受クル者ニ対スル被告事件但シ其ノ部隊ニ軍法会議ヲ設ケサル場合ニ限ル
三 師管内ニ在リ又ハ師管内ニ於テ罪ヲ犯シタル第一条乃至第三条記載ノ者ニ対スル被告事件但シ被告人ノ所属部隊ノ軍法会議師管内ニ在ラサル場合ニ限ル
第十三条 軍軍法会議、独立師団軍法会議又ハ独立混成旅団軍法会議ハ左ノ事件ニ付管轄権ヲ有ス
一 軍、独立師団又ハ独立混成旅団ノ長ノ部下ニ属スル者及監督ヲ受クル者ニ対スル被告事件
二 作戦地域ニ在ル第一条乃至第三条記載ノ者ニ対スル被告事件但シ被告人ノ所属部隊ノ軍法会議其ノ地域ニ在ラサル場合ニ限ル
三 作戦地域ニ在ル第六条記載ノ者ニ対スル被告事件
第十四条 兵站軍法会議ハ左ノ事件ニ付管轄権ヲ有ス
一 兵站ノ長ノ部下ニ属スル者及監督ヲ受クル者ニ対スル被告事件
二 兵站地域若ハ兵站ノ属スル軍隊ノ作戦地域ニ在リ又ハ此等ノ地域ニ於テ罪ヲ犯シタル第一条乃至第三条記載ノ者ニ対スル被告事件但シ被告人ノ所属部隊ノ軍法会議此等ノ地域ニ在ラサルトキニ限ル
三 兵站地域又ハ兵站ノ属スル軍隊ノ作戦地域ニ在ル第六条記載ノ者ニ対スル被告事件
第十五条 合囲地軍法会議ハ左ノ事件ニ付管轄権ヲ有ス
一 合囲地司令官ノ部下ニ属スル者及監督ヲ受クル者ニ対スル被告事件
二 合囲地境ニ在リ又ハ合囲地境ニ於テ罪ヲ犯シタル第一条乃至第三条記載ノ者ニ対スル被告事件
三 第四条及第五条ニ定メタル裁判権ニ属スル被告事件
第十六条 臨時軍法会議ハ左ノ事件ニ付管轄権ヲ有ス
一 臨時軍法会議ノ設置セラレタル部隊ノ長ノ部下ニ属スル者及監督ヲ受クル者ニ対スル被告事件
二 臨時軍法会議ノ設置セラレタル部隊ノ管轄地域若ハ守備地域ニ在リ又ハ此等ノ地域ニ於テ罪ヲ犯シタル第一条乃至第三条記載ノ者ニ対スル被告事件但シ被告人ノ所属部隊ノ軍法会議此等ノ地域ニ在ラサルトキニ限ル
三 臨時軍法会議ノ設置セラレタル部隊ノ管轄地域又ハ守備地域ニ在ル第六条記載ノ者ニ対スル被告事件
第十七条 第一条乃至第三条ニ記載シタル者ニ対スル被告事件ニ付管轄軍法会議ナキトキハ被告人ノ現在地又ハ犯罪地ノ附近ニ在ル軍法会議之ヲ管轄ス
第十八条 管轄ヲ異ニスル数個ノ事件牽連スルトキハ一個ノ事件ニ付管轄権ヲ有スル軍法会議併セテ他ノ事件ヲ管轄スルコトヲ得但シ高等軍法会議ノ管轄ニ属スル事件及第四条乃至第六条ニ記載シタル事件ハ牽連ノ事由ニ因リ併セテ之ヲ管轄スルコトヲ得ス
第十九条 軍法会議牽連事件ニ付公訴ヲ受ケタル場合ニ於テ併セテ審判スルコトヲ必要トセサルモノアルトキハ高等軍法会議ハ検察官ノ請求ニ因リ決定ヲ以テ管轄権ヲ有スル他ノ軍法会議ニ之ヲ移送スルコトヲ得
第二十条 数個ノ軍法会議牽連事件ニ付各別ニ公訴ヲ受ケタルトキハ高等軍法会議ハ検察官ノ請求ニ因リ決定ヲ以テ之ヲ一ノ軍法会議ニ併合スルコトヲ得
第二十一条 高等軍法会議牽連事件ニ付公訴ヲ受ケタル場合ニ於テ併セテ審判スルコトヲ必要トセサルモノアルトキハ検察官ノ請求ニ因リ決定ヲ以テ管轄権ヲ有スル他ノ軍法会議ニ之ヲ移送スルコトヲ得
第二十二条 高等軍法会議及他ノ軍法会議牽連事件ニ付各別ニ公訴ヲ受ケタルトキハ高等軍法会議ハ検察官ノ請求ニ因リ決定ヲ以テ他ノ軍法会議ノ管轄ニ属スル事件ヲ併セテ審判スルコトヲ得
第二十三条 数個ノ事件ハ左ノ場合ニ於テ牽連スルモノトス
一 一人数罪ヲ犯シタルトキ
二 数人共ニ同一又ハ別個ノ罪ヲ犯シタルトキ
三 数人通謀シテ各別ニ罪ヲ犯シタルトキ
四 数人同時ニ同一ノ場所ニ於テ各別ニ罪ヲ犯シタルトキ
犯人蔵匿ノ罪、証憑湮滅ノ罪、偽証ノ罪、虚偽ノ鑑定通訳ノ罪及贓物ニ関スル罪ト其ノ本犯ノ罪トハ共ニ犯シタルモノト看做ス
第二十四条 数個ノ軍法会議同一事件ニ付公訴ヲ受ケタルトキハ第二十五条ニ規定シタル場合ヲ除クノ外最初ニ公訴ヲ受ケタル軍法会議之ヲ審判ス
前項ノ場合ニ於テ高等軍法会議ハ検察官ノ請求ニ因リ決定ヲ以テ後ニ公訴ヲ受ケタル軍法会議ヲシテ其ノ事件ヲ審判セシムルコトヲ得
第二十五条 高等軍法会議及他ノ軍法会議同一事件ニ付公訴ヲ受ケタルトキハ高等軍法会議之ヲ審判ス
前項ノ場合ニ於テ高等軍法会議ハ検察官ノ請求ニ因リ決定ヲ以テ管轄権ヲ有スル他ノ軍法会議ヲシテ其ノ事件ヲ審判セシムルコトヲ得
第二十六条 管轄ハ公訴提起後ニ於テハ被告人ノ転属、失官其ノ他管轄ヲ定ムル事由ノ変更ニ因リ変更セラルルコトナシ但シ被告人第十一条第一号ニ記載シタル身分ヲ取得シタル場合ハ此ノ限ニ在ラス
第二十七条 第十一条第一号ニ記載シタル者被告人ナル場合ニ於テ其ノ現在地高等軍法会議ノ所在地ト交通断絶シタルトキ又ハ其ノ所在地ト著シク離隔シ且審判急速ヲ要スルトキハ被告人ノ現在地又ハ其ノ附近ニ在ル軍法会議被告事件ヲ管轄スルコトヲ得
第二十八条 管轄軍法会議ニ於テ法律上ノ理由又ハ特別ノ事情ニ因リ裁判権ヲ行フコト能ハサルトキハ高等軍法会議ハ検察官ノ請求ニ因リ管轄移転ノ決定ヲ為スヘシ
第二十九条 軍法会議ヲ廃シタルトキハ陸軍大臣ハ後継軍法会議ヲ指定スヘシ
第三十条 訴訟手続ハ管轄違ノ理由ニ因リ其ノ効力ヲ失ハス
第三章 軍法会議ノ職員
第三十一条 軍法会議ニ判士、陸軍法務官、陸軍録事及陸軍警査ヲ置ク
第三十二条 判士ハ陸軍ノ将校ヲ以テ之ニ充ツ
第三十三条 将官ヲ以テ判士ト為ストキハ陸軍大臣ノ奏請ニ因リ之ヲ命ス
特設軍法会議ニ於テハ長官又ハ其ノ直系上官ハ急速ヲ要スル場合ニ限リ部下ノ将官中ヨリ判士ヲ命スルコトヲ得
第三十四条 佐官以下ノ将校ヲ以テ判士ト為ストキハ長官之ヲ命ス
長官ノ部下ニ非サル将校ヲ以テ判士ト為スコトヲ要スルトキハ陸軍大臣之ヲ命ス特設軍法会議ニ於テハ急速ヲ要スル場合ニ限リ長官ノ直系上官ハ部下ノ将校中ヨリ之ヲ命スルコトヲ得
第三十五条 法務官ハ終身官トシ勅任又ハ奏任トス
第三十六条 法務官ハ在職中左ノ諸件ヲ為スコトヲ得ス
一 公然政事ニ関係スルコト
二 政党ノ党員又ハ政社ノ社員ト為ルコト
三 帝国議会ノ議員又ハ道、府、県、郡、市、区、町、村会ノ議員ト為ルコト
四 報酬アル公務ニ就クコト
五 商業ヲ営ムコト
第三十七条 法務官ハ刑事裁判又ハ懲戒処分ニ因ルニ非サレハ其ノ意ニ反シテ免官又ハ転官セラルルコトナシ
第三十八条 法務官身体又ハ精神ノ衰弱ニ因リ職務ヲ執ルコト能ハサルニ至リタルトキハ陸軍大臣ハ高等軍法会議総会ノ決議ニ因リ之ニ退職ヲ命スルコトヲ得
第三十九条 陸軍大臣ハ左ノ場合ニ於テハ法務官ニ現俸ノ半額ヲ給シテ休職ヲ命スルコトヲ得
一 懲戒令ニ依リ懲戒委員会ノ審査ニ付セラレタルトキ
二 刑事事件ニ関シ起訴セラレタルトキ
三 官制又ハ定員ノ改正ニ因リ過員ヲ生シタルトキ
四 戦時又ハ事変ニ際シ臨時増員シタル場合ニ於テ其ノ必要止ミ過員ヲ生シタルトキ
五 病気ノ為執務セサルコト六月ニ至リタルトキ
休職ノ期間ハ前項第一号及第二号ノ場合ニ於テハ其ノ事件ノ繋属中トシ第三号乃至第五号ノ場合ニ於テハ三年トス
第四十条 法務官前条第一項第三号乃至第五号ノ規定ニ依リ休職ヲ命セラレ満期ト為リタルトキハ退職トス
第四十一条 法務官ノ任用及懲戒ニ関スル規程ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第四十二条 録事ハ判任トス
第四十三条 警査ハ長官之ヲ命ス
第四十四条 特設軍法会議ニ於テハ長官ハ陸軍ノ准士官又ハ下士ヲシテ録事ノ職務ヲ行ハシメ陸軍ノ下士又ハ兵卒ヲシテ警査ノ職務ヲ行ハシムルコトヲ得
第四十五条 合囲地軍法会議ニ於テハ長官ハ合囲地境ニ在ル判任文官ヲシテ録事ノ職務ヲ行ハシムルコトヲ得
第四章 審判機関
第四十六条 軍法会議ハ審判ヲ為スニ付他ノ干渉ヲ受クルコトナシ
第四十七条 審判ハ裁判官五人ヲ以テ構成シタル会議ニ於テ之ヲ為ス
裁判官ハ判士及法務官ヲ以テ之ニ充テ上席判士ヲ裁判長トス
特設軍法会議ニ於テハ上席判士及法務官ヲ除クノ外裁判官二人ヲ減スルコトヲ得
第四十八条 裁判官ハ長官之ヲ定ム
第四十九条 師団軍法会議及特設軍法会議ニ於テハ判士四人及法務官一人ヲ以テ裁判官トス
前項ノ判士ハ左ノ区別ニ従フ
一 被告人下士又ハ兵卒ナルトキハ中佐又ハ少佐一人大尉一人大尉、中尉又ハ少尉二人
二 被告人中尉、少尉又ハ准士官ナルトキハ中佐又ハ少佐一人大尉二人大尉又ハ中尉一人
三 被告人大尉ナルトキハ大佐又ハ中佐一人少佐二人大尉一人
四 被告人少佐ナルトキハ大佐一人中佐二人少佐一人
五 被告人中佐ナルトキハ少将一人大佐二人中佐一人
六 被告人大佐ナルトキハ中将一人少将二人大佐一人
七 被告人将官ナルトキハ被告人ト同等以上ノ将官四人
交通断絶シタル地ニ在ル軍法会議ニ於テハ被告人ト同等以上ノ判士ヲ以テ裁判官ト為スコトヲ得
第五十条 合囲地軍法会議ニ於テハ長官ハ陸軍ノ将校又ハ合囲地境ニ在ル高等文官ヲシテ法務官ニ代リ裁判官ノ職務ヲ行ハシムルコトヲ得
第五十一条 高等軍法会議ニ於テハ判士三人及法務官二人ヲ以テ裁判官トス
前項ノ判士ハ左ノ区別ニ従フ
一 被告人下士又ハ兵卒ナルトキハ佐官一人大尉二人
二 被告人中尉、少尉又ハ准士官ナルトキハ大佐又ハ中佐一人少佐一人大尉一人
三 被告人大尉ナルトキハ大佐一人中佐一人少佐一人
四 被告人少佐ナルトキハ大佐一人中佐二人
五 被告人中佐ナルトキハ少将一人大佐二人
六 被告人大佐ナルトキハ中将一人少将二人
七 被告人少将ナルトキハ大将又ハ中将一人中将又ハ少将一人少将一人
八 被告人中将ナルトキハ大将一人大将又ハ中将一人中将一人
九 被告人大将ナルトキハ大将三人
第五十二条 被告人官等又ハ等級ヲ有セサル士官ノ候補者ニシテ士官ノ勤務ニ服スル者ナルトキハ少尉ニ準シ士官ノ勤務ニ服セサル者ナルトキハ下士ニ準シ判士ヲ区別ス
被告人准士官又ハ下士タル士官ノ候補者ニシテ士官ノ勤務ニ服スル者ナルトキハ少尉ニ準シ判士ヲ区別ス
第五十三条 被告人将校相当官、軍属、海軍軍人又ハ海軍軍属ナルトキハ其ノ官等、等級又ハ階級ニ従ヒ将校、准士官、下士又ハ兵卒ニ準シ判士ヲ区別ス
第五十四条 被告人第四十九条及第五十一条乃至第五十三条ニ記載シタル者ニ非サルトキハ下士又ハ兵卒ニ準シ判士ヲ区別ス
前項ノ場合ニ於テ長官ハ事情ニ因リ判士ノ区別ヲ変更スルコトヲ得
第五十五条 被告人俘虜ナルトキハ第四十九条及第五十一条乃至前条ノ規定ニ準シ判士ヲ区別ス
第五十六条 二個以上ノ異ル官等、等級又ハ階級ヲ有スル被告人ニ付テハ其ノ最高キ官等、等級又ハ階級ニ従ヒ判士ヲ区別ス
第五十七条 官等、等級又ハ階級ヲ異ニスル共同被告人ニ付テハ其ノ官等、等級又ハ階級ノ最高キ者ニ従ヒ判士ヲ区別ス
第五十八条 判士ノ区別ハ被告人ノ身分ニ異動アルモ官等、等級又ハ階級ノ高キ身分ヲ取得シタル場合ヲ除クノ外変更セラルルコトナシ
第五十九条 上告、非常上告又ハ再審ノ審判ヲ為ス場合ノ判士ノ区別ハ原軍法会議ノ裁判官ヲ定メタル当時ノ被告人ノ身分ニ従フ但シ被告人官等、等級又ハ階級ノ高キ身分ヲ取得シタル場合ハ此ノ限ニ在ラス
前項ノ規定ハ第百七十三条第三項、第四百十五条、第四百十六条、第四百三十六条又ハ第五百三十条ノ決定ヲ為ス場合ノ判士ノ区別ニ之ヲ準用ス
第六十条 上告、非常上告又ハ再審ノ審判ヲ為ス場合ニ於テハ裁判長ノ官等ハ原軍法会議ノ裁判長ヨリ下ルコトヲ得ス
第五章 予審機関
第六十一条 予審ハ予審官之ヲ行フ
第六十二条 予審官ハ法務官中ヨリ長官之ヲ命ス
第六十三条 特設軍法会議ニ於テハ長官ハ陸軍ノ将校ヲシテ予審官ノ職務ヲ行ハシムルコトヲ得
第六十四条 合囲地軍法会議ニ於テハ長官ハ合囲地境ニ在ル高等文官ヲシテ予審官ノ職務ヲ行ハシムルコトヲ得
第六章 検察機関
第六十五条 陸軍大臣ハ公訴及捜査ヲ指揮監督ス
第六十六条 長官ハ所管軍法会議ノ管轄ニ属スル事件ニ付公訴ヲ指揮ス
長官ハ所管軍法会議ノ管轄ニ属スル事件、之ト牽連スル事件及所管部隊内ノ犯罪事件ニ付捜査ヲ指揮ス
第六十七条 検察官ハ長官ニ隷属シ捜査ヲ為シ公訴ヲ行フ
第六十八条 検察官ハ法務官中ヨリ長官之ヲ命ス
第六十九条 長官ハ法務官試補ヲシテ検察官ノ職務ヲ行ハシムルコトヲ得
第七十条 特設軍法会議ニ於テハ長官ハ陸軍ノ将校ヲシテ検察官ノ職務ヲ行ハシムルコトヲ得
第七十一条 合囲地軍法会議ニ於テハ長官ハ合囲地境ニ在ル高等文官ヲシテ検察官ノ職務ヲ行ハシムルコトヲ得
第七十二条 検察官ハ陸軍司法警察官又ハ司法警察官ヲシテ捜査ノ輔佐ヲ為サシムルコトヲ得
第七十三条 憲兵ノ将校、准士官又ハ下士ハ陸軍司法警察官トシテ捜査ヲ為ス
陸軍大臣ハ所管ノ大臣ト協議シテ警察官中ヨリ陸軍司法警察官トシテ勤務スル者ヲ指定スルコトヲ得
第七十四条 左ニ記載シタル部隊ノ長ハ其ノ部下ニ属スル者及監督ヲ受クル者ノ犯罪ニ付陸軍司法警察官ノ職務ヲ行フ
一 中隊以上ノ軍隊及之ニ準スヘキ軍隊
二 官衙、学校、特務機関及戦時ニ於ケル特設機関
臨時集成部隊ノ長ハ其ノ部隊本属部隊ノ所在地ト遠隔ノ地ニ在ル場合ニ限リ前項ノ規定ニ準シ陸軍司法警察官ノ職務ヲ行フ
第七十五条 前条ニ記載シタル部隊ノ長ハ部下ノ将校ニ委任シテ特定ノ事件ニ付陸軍司法警察官ノ職務ヲ行ハシムルコトヲ得
第七十六条 陸軍司法警察官又ハ陸軍司法警察官ノ職務ヲ行フ者ハ捜査ヲ為スニ付上官ノ命令ニ従フ
第七十七条 警査又ハ憲兵卒ハ検察官又ハ陸軍司法警察官ノ命令ヲ受ケ陸軍司法警察吏トシテ捜査ノ補助ヲ為ス
第七十三条第二項ノ規定ニ依リ指定セラレタル警察官ノ部下ニ属スル巡査亦前項ニ同シ
第七十八条 検察官ハ司法警察吏ヲシテ捜査ノ補助ヲ為サシムルコトヲ得
第七十九条 陸軍司法警察官ノ職務ヲ行フ者ハ其ノ部下ヲシテ捜査ノ補助ヲ為サシムルコトヲ得
第二編 訴訟手続
第一章 総則
第一節 裁判官ノ除斥及回避
第八十条 長官ハ除斥ノ原由其ノ他正当ノ事由アリト認ムルトキハ裁判官ヲ変更スヘシ
第八十一条 裁判官職務ノ執行ヨリ除斥セラルヘキ場合左ノ如シ
一 裁判官被害者ナルトキ
二 裁判官被告人又ハ被害者ノ配偶者、四親等内ノ血族、三親等内ノ姻族又ハ同居ノ戸主若ハ家族ナルトキ
三 裁判官被告人又ハ被害者ノ法定代理人、後見監督人又ハ保佐人ナルトキ
四 裁判官事件ニ付証人又ハ鑑定人ト為リタルトキ
五 裁判官事件ニ付被告人ノ代理人、弁護人又ハ輔佐人ト為リタルトキ
六 裁判官事件ニ付長官又ハ検察官ノ職務ヲ行ヒタルトキ
七 裁判官事件ニ付捜査、予審又ハ前審ニ干与シタルトキ
第八十二条 検察官又ハ被告人ハ除斥ノ原由其ノ他裁判官ヲ変更スヘキ正当ノ事由アリト思料スルトキハ其ノ旨ヲ長官ニ具申スルコトヲ得
第八十三条 長官前条ノ具申ヲ受ケタルトキハ其ノ旨ヲ軍法会議ニ通知スヘシ
軍法会議前項ノ通知ヲ受ケタルトキハ裁判官ノ変更ニ関シ通知ヲ受クル迄訴訟手続ヲ停止スヘシ但シ急速ヲ要スル場合ハ此ノ限ニ在ラス
第八十四条 裁判官自ラ除斥ノ原由其ノ他回避スヘキ正当ノ事由アリト思料スルトキハ其ノ旨ヲ長官ニ具申スヘシ
第八十五条 前五条ノ規定ハ予審官及録事ニ之ヲ準用ス
第八十六条 特設軍法会議ニ於テハ本節ノ規定ニ依ラサルコトヲ得
第二節 弁護及輔佐
第八十七条 被告人ハ公訴ノ提起アリタル後何時ニテモ弁護人ヲ選任スルコトヲ得
被告人ノ法定代理人、保佐人又ハ夫ハ独立シテ弁護人ヲ選任スルコトヲ得
第八十八条 弁護人ハ左ニ記載シタル者ヨリ之ヲ選任スヘシ
一 陸軍ノ将校又ハ将校相当官
二 陸軍高等文官又ハ同試補
三 陸軍大臣ノ指定シタル弁護士
第八十九条 弁護人ノ選任ハ審級毎ニ之ヲ為スヘシ
弁護人ノ選任ハ弁護人ト連署シタル書面ヲ以テ之ヲ為スヘシ
第九十条 弁護人ノ数ハ被告人一人ニ付二人ヲ超ユルコトヲ得ス
第九十一条 弁護人ハ軍法会議ニ於テ被告事件ニ関スル書類及証拠物ヲ閲覧シ且其ノ書類ヲ謄写スルコトヲ得
第九十二条 弁護人ハ別段ノ規定アル場合ニ限リ独立シテ訴訟行為ヲ為スコトヲ得
第九十三条 前六条ノ規定ハ特設軍法会議ニ付テハ之ヲ適用セス
第九十四条 被告人ノ法定代理人、保佐人又ハ夫ハ公訴ノ提起アリタル後何時ニテモ輔佐人ト為ルコトヲ得
輔佐人タラムトスルトキハ審級毎ニ書面ヲ以テ其ノ旨ヲ届出ツヘシ
輔佐人ハ独立シテ被告人ノ為スコトヲ得ヘキ訴訟行為ヲ為スコトヲ得但シ別段ノ規定アル場合ハ此ノ限ニ在ラス
第三節 裁判
第九十五条 裁判ハ定数ノ裁判官評議シテ之ヲ為ス但シ別段ノ規定アル場合ハ此ノ限ニ在ラス
第九十六条 裁判官ノ評議ハ之ヲ公行セス但シ法務官試補ノ傍聴ヲ許スコトヲ得
裁判官ノ評議ハ裁判長之ヲ開キ且之ヲ整理ス其ノ評議ノ顛末及各裁判官ノ意見ハ秘密トス
第九十七条 裁判官意見ヲ述フルノ順序ハ法務官ヲ始トス法務官二人ナルトキハ席次ノ低キ者ヲ始トス其ノ他ノ裁判官ニ在リテハ席次ノ最低キ者ヲ始トシ裁判長ヲ終トス
第九十八条 裁判ハ過半数ノ意見ニ依ル
裁判官ノ意見三説以上ニ分レ各過半数ニ至ラサルトキハ過半数ニ至ル迄被告人ニ不利ナル意見ヨリ順次利益ナル意見ニ合算ス
第九十九条 裁判官ハ裁判スヘキ事項ニ付自己ノ意見ヲ表スルコトヲ拒ムコトヲ得ス
第百条 判決ハ口頭弁論ニ基キ之ヲ為スヘシ但シ別段ノ規定アル場合ハ此ノ限ニ在ラス
決定ハ公判廷ニ於テハ訴訟関係人ノ陳述ヲ聴キ之ヲ為スヘシ其ノ他ノ場合ニ於テハ訴訟関係人ノ陳述ヲ聴カスシテ之ヲ為スコトヲ得但シ別段ノ規定アル場合ハ此ノ限ニ在ラス
命令ハ訴訟関係人ノ陳述ヲ聴カスシテ之ヲ為スコトヲ得
決定又ハ命令ヲ為スニ付必要アル場合ニ於テハ事実ノ取調ヲ為スコトヲ得
前項ノ取調ハ受命裁判官ヲシテ之ヲ為サシムルコトヲ得
第百一条 裁判ニハ理由ヲ附スヘシ但シ決定又ハ命令ニハ理由ヲ附セサルコトヲ得
刑ノ言渡ヲ為スニハ罪ト為ルヘキ事実及其ノ事実ヲ認メタル理由並法令ノ適用ヲ示スヘシ
第百二条 裁判ノ告知ハ公判廷ニ於テハ宣告ニ依リ之ヲ為シ其ノ他ノ場合ニ於テハ裁判書ノ謄本ノ送達ニ依リ之ヲ為スヘシ但シ別段ノ規定アル場合ハ此ノ限ニ在ラス
第百三条 裁判ノ宣告ハ裁判長之ヲ為スヘシ
判決ノ宣告ヲ為スニハ主文及理由ヲ朗読シ又ハ主文ノ朗読ト同時ニ理由ノ要旨ヲ告クヘシ
第百四条 検察官ノ執行指揮ヲ要スル裁判ヲ為シタルトキハ速ニ裁判書又ハ裁判ヲ記載シタル調書ノ謄本又ハ抄本ヲ検察官ニ送付スヘシ
第百五条 裁判書又ハ裁判ヲ記載シタル調書ノ謄本又ハ抄本ハ被告人其ノ他訴訟関係人ノ請求ニ因リ之ヲ交付ス
前項ノ場合ニハ其ノ費用ヲ徴スルコトヲ得
第四節 書類
第百六条 訴訟ニ関スル書類ハ別段ノ規定アル場合ヲ除クノ外録事之ヲ調製スヘシ
第百七条 裁判官、予審官又ハ検察官ハ録事ノ作リタル書類ニ付意見アルトキハ録事ニ命シ之ヲ変更セシムルコトヲ得
前項ノ場合ニ於テ録事ハ自己ノ意見ヲ書類ニ附記スルコトヲ得
第百八条 被告人、証人、鑑定人、通事又ハ翻訳人ノ取調ニ付テハ調書ヲ作ルヘシ
調書ニハ左ノ事項ヲ記載スヘシ
一 被告人、証人、鑑定人、通事又ハ翻訳人ニ対スル訊問及其ノ供述
二 証人、鑑定人、通事又ハ翻訳人宣誓ヲ為ササルトキハ其ノ事由
調書ハ録事ヲシテ之ヲ供述者ニ読聞カサシメ又ハ供述者ヲシテ之ヲ閲覧セシメ其ノ記載ノ相違ナキカ否ヲ問フヘシ
供述者増減変更ヲ申立テタルトキハ其ノ供述ヲ調書ニ記載スヘシ
調書ニハ供述者ヲシテ署名捺印セシムヘシ
第百九条 検証、押収又ハ捜索ニ付テハ調書ヲ作ルヘシ
押収ヲ為シタルトキハ其ノ品目ヲ調書ニ記載シ又ハ別ニ目録ヲ作リ之ヲ調書ニ添附スヘシ
第百十条 前二条ノ調書ニハ取調又ハ処分ヲ為シタル年月日及場所ヲ記載シ其ノ取調又ハ処分ヲ為シタル者録事ト共ニ署名捺印スヘシ但シ公判期日外ニ於テ軍法会議取調又ハ処分ヲ為シタルトキハ裁判官タル法務官録事ト共ニ署名捺印スルヲ以テ足ル
前条ノ調書ニハ取調又ハ処分ヲ為シタル時ヲモ記載スヘシ
第百十一条 録事ノ立会ナクシテ取調又ハ処分ヲ為ス場合ニ於テハ録事ノ行フヘキ職務ハ其ノ取調又ハ処分ヲ為ス者自ラ之ヲ行フヘシ
第百十二条 公判期日ニ於ケル訴訟手続ニ付テハ公判調書ヲ作ルヘシ
公判調書ニハ左ノ事項其ノ他重要ナル訴訟手続ヲ記載スヘシ
一 公判ヲ為シタル軍法会議及年月日
二 裁判官、検察官及録事ノ官氏名並被告人、代理人、弁護人、輔佐人及通事ノ氏名
三 被告人出頭セサリシトキハ其ノ旨
四 弁論ノ公開ヲ禁シタルトキハ其ノ旨及理由
五 被告事件ノ陳述其ノ他弁論ノ要旨
六 第百八条第二項ニ記載シタル事項
七 朗読シタル書類及要旨ヲ告ケタル書類
八 被告人ニ示シタル証拠物
九 公判廷ニ於テ為シタル検証及押収
十 裁判長ヨリ記載ヲ命シタル事項及訴訟関係人ノ請求ニ因リ記載ヲ許シタル事項
十一 弁論ノ最終ニ被告人又ハ弁護人ヲシテ陳述ヲ為サシメタルコト
十二 判決其ノ他ノ裁判ヲ為シタルコト
第百十三条 公判調書ニ付テハ第百八条第三項乃至第五項ノ規定ニ依ル手続ヲ為スコトヲ要セス
第百十四条 公判調書ハ公判開廷ノ日ヨリ五日内ニ之ヲ整理スヘシ
第百十五条 公判調書ニハ裁判官タル法務官録事ト共ニ署名捺印スヘシ
法務官二人ナルトキハ上席者署名捺印シ上席者差支アルトキハ他ノ法務官署名捺印スヘシ
法務官差支アルトキハ裁判長其ノ事由ヲ附記シテ署名捺印スヘシ
録事差支アルトキハ前三項ノ規定ニ依リ署名捺印スル者其ノ事由ヲ附記シテ署名捺印スヘシ
第百十六条 公判期日ニ於ケル訴訟手続ハ公判調書ノミニ依リ之ヲ証明スルコトヲ得
第百十七条 裁判ヲ為ストキハ裁判書ヲ作ルヘシ但シ決定又ハ命令ヲ宣告スル場合ニ於テハ裁判書ヲ作ラスシテ之ヲ調書ニ記載セシムルコトヲ得
第百十八条 裁判書ハ裁判官之ヲ作ルヘシ
第百十九条 裁判書ニハ裁判官署名捺印スヘシ裁判長署名捺印スルコト能ハサルトキハ上席ノ裁判官其ノ事由ヲ附記シテ署名捺印シ他ノ裁判官署名捺印スルコト能ハサルトキハ裁判長其ノ事由ヲ附記シテ署名捺印スヘシ
第百二十条 裁判書ニハ別段ノ規定アル場合ヲ除クノ外裁判ヲ受クル者ノ氏名、年齢、職業及住居ヲ記載スヘシ
判決書ニハ前項ニ記載シタル事項ノ外公判ニ干与シタル検察官ノ官氏名ヲ記載スヘシ
第百二十一条 裁判書又ハ裁判ヲ記載シタル調書ノ謄本又ハ抄本ハ原本又ハ謄本ニ依リ之ヲ作ルヘシ
第百二十二条 前四条ノ規定ハ予審官裁判ヲ為ス場合ニ之ヲ準用ス
第百二十三条 官吏又ハ公吏ノ作ルヘキ書類ニハ別段ノ規定アル場合ヲ除クノ外年月日ヲ記載シテ署名捺印シ其ノ所属ノ官署又ハ公署ヲ表示スヘシ
書類ニハ毎葉ニ契印スヘシ
第百二十四条 官吏又ハ公吏書類ヲ作ルニハ文字ヲ改竄スヘカラス挿入、削除又ハ欄外記入ヲ為シタルトキハ之ニ認印シ其ノ字数ヲ記載スヘシ削除シタル部分ハ読ミ得ヘキ為字体ヲ存スヘシ
第百二十五条 官吏及公吏ニ非サル者ノ作ルヘキ書類ニハ年月日ヲ記載シテ署名捺印スヘシ
第百二十六条 官吏及公吏ニ非サル者ノ署名捺印スヘキ場合ニ於テ署名スルコト能ハサルトキハ他人ヲシテ代署セシメ捺印スルコト能ハサルトキハ花押又ハ拇印スヘシ
他人ヲシテ代署セシメタル場合ニ於テハ代署シタル者其ノ事由ヲ記載シテ署名捺印スヘシ
第百二十七条 特設軍法会議ニ於テ審判スヘキ事件ノ書類ニ付テハ本節ノ規定ニ依ラサルコトヲ得
第五節 送達
第百二十八条 送達ハ録事送達吏ヲシテ之ヲ為サシム但シ陸軍司法警察官ノ発スル書類ノ送達ハ其ノ書類ヲ作リタル者之ヲ為サシム
送達吏ハ陸軍司法警察吏ヲ以テ之ニ充ツ
第百二十九条 送達ハ郵便ニ依リ之ヲ為スコトヲ得此ノ場合ニ於テハ郵便配達人ヲ以テ送達吏ト為ス
第百三十条 送達ハ之ヲ施行スヘキ地ヲ管轄スル区裁判所ノ書記又ハ之ニ相当スル官署ニ嘱託シテ之ヲ為スコトヲ得
第百三十一条 兵営其ノ他軍事用ノ庁舎又ハ艦船ノ内ニ在ル者ニ対スル送達ハ庁舎若ハ艦船ノ長又ハ之ニ代ルヘキ者ニ嘱託シテ之ヲ為ス
第一条又ハ海軍軍法会議法第一条ニ記載シタル者ニシテ前項ニ記載シタル以外ノ場所ニ在ル者ニ対スル送達ハ其ノ所属ノ長若ハ監督者又ハ之ニ代ルヘキ者ニ嘱託シテ之ヲ為スコトヲ得
前二項ノ規定ニ依ル送達ハ書類ヲ本人ニ交付シタル旨ノ証書ヲ以テ之ヲ証ス
第百三十二条 第一条及海軍軍法会議法第一条ニ記載シタル以外ノ者被告人、代理人、弁護人又ハ輔佐人ト為リタルトキハ書類ノ送達ヲ受クル為書面ヲ以テ其ノ住居又ハ事務所ヲ軍法会議ニ届出ツヘシ軍法会議所在地ニ住居及事務所ヲ有セサルトキハ其ノ所在地ニ住居又ハ事務所ヲ有スル者ヲ送達受取人ニ選任シ其ノ旨及送達受取人ノ住居又ハ事務所ヲ其ノ者ト共ニ書面ヲ以テ届出ツヘシ
前項ノ規定ハ在監者ニ付之ヲ適用セス
送達受取人ハ送達ヲ受クヘキ本人ト看做シ送達受取人ノ住居又ハ事務所ハ本人ノ住居又ハ事務所ト看做ス
第百三十三条 前条第一項ノ規定ニ依ル届出ヲ為スヘキ者其ノ届出ヲ為ササルトキハ交付スヘキ書類ヲ郵便ニ付シテ送達ヲ為スコトヲ得
前項ノ送達ハ書類ヲ郵便ニ付シタル時ヲ以テ之ヲ為シタルモノト看做ス
第百三十四条 検察官ニ対スル送達ハ書類ヲ其ノ所属官庁ニ送付シテ之ヲ為ス
第百三十五条 被告人ノ現在地知レサルトキハ公示送達ヲ為スコトヲ得
被告人裁判権ノ及ハサル場所ニ在ル為他ノ方法ヲ以テ送達ヲ為スコト能ハサルトキ亦前項ニ同シ
第百三十六条 公示送達ハ軍法会議ノ指揮アリタルトキニ限リ之ヲ為スコトヲ得
公示送達ハ交付スヘキ書類又ハ其ノ抄本ヲ軍法会議ノ掲示場ニ公示シテ之ヲ為ス
公判ニ於ケル第一回ノ召喚状ノ公示送達ハ召喚状ヲ軍法会議ノ掲示場ニ公示シ且其ノ謄本ヲ官報又ハ新聞紙ニ掲載シテ之ヲ為ス
前項ノ公示送達ハ最後ニ官報又ハ新聞紙ニ掲載シタル時ヨリ三十日其ノ他ノ公示送達ハ掲示場ニ公示シタル時ヨリ七日ノ期間ヲ経過スルニ因リテ其ノ効力ヲ生ス
第百三十七条 送達ニ付テハ別段ノ規定アル場合ヲ除クノ外民事訴訟法ヲ準用ス
第六節 期間
第百三十八条 期間ヲ計算スルニ時ヲ以テスルモノハ即時ヨリ之ヲ起算シ日、月又ハ年ヲ以テスルモノハ初日ヲ算入セス但シ時効期間ノ初日ハ時間ヲ論セス一日トシテ之ヲ計算ス
月及年ハ暦ニ従ヒテ之ヲ計算ス
期間ノ末日日曜日、一月一日二日四日、十二月二十九日三十日三十一日、一般ノ休日トシテ指定セラレタル大祭日若ハ祝日又ハ陸軍一般ノ休日ニ当ルトキハ之ヲ期間ニ算入セス但シ時効期間ニ付テハ此ノ限ニ在ラス
第百三十九条 法定ノ期間ハ訴訟行為ヲ為スヘキ者ノ住居地ト軍法会議所在地トノ距離ニ従ヒ海陸路二十里毎ニ一日ヲ加フ二十里ニ満タサルモ五里以上ナルトキ亦同シ但シ海路ハ二海里ヲ一里トシテ之ヲ計算ス
外国又ハ交通不便ノ地ニ在ル者ノ為ニハ特ニ期間ヲ定ムルコトヲ得
第七節 被告人ノ召喚、勾引及勾留
第百四十条 軍法会議公訴ヲ受ケタルトキハ被告人ヲ召喚スヘシ
第百四十一条 被告人ノ召喚ハ召喚状ヲ発シテ之ヲ為スヘシ
被告人期日ニ出頭スヘキ旨ヲ記載シタル書面ヲ差出シ又ハ出廷シタル被告人ニ対シ口頭ヲ以テ次回ノ出頭ヲ命シタルトキハ召喚状ヲ送達シタルト同一ノ効力ヲ有ス口頭ヲ以テ出頭ヲ命シタル場合ニ於テハ其ノ旨ヲ調書ニ記載スヘシ
兵営其ノ他軍事用ノ庁舎又ハ艦船ノ内ニ在ル被告人ノ召喚ハ庁舎若ハ艦船ノ長又ハ之ニ代ルヘキ者ニ通知シテ之ヲ為スコトヲ得此ノ場合ニ於テハ被告人庁舎若ハ艦船ノ長又ハ之ニ代ルヘキ者ヨリ通知ヲ受ケタル時ヲ以テ召喚状ノ送達アリタルモノト看做ス
前項ノ規定ハ軍法会議ニ近接スル監獄ニ在ル被告人ヲ召喚スル場合ニ之ヲ準用ス
第百四十二条 召喚ヲ受ケタル被告人期日ニ出頭セサルトキハ更ニ之ヲ召喚シ又ハ之ヲ勾引スルコトヲ得
第百四十三条 左ノ場合ニ於テハ直ニ被告人ヲ勾引スルコトヲ得
一 軍紀ヲ保持スル為必要アルトキ
二 被告人逃走シタルトキ又ハ逃走スル虞アルトキ
三 被告人罪証ヲ湮滅スル虞アルトキ
四 被告人定リタル住居ヲ有セサルトキ
第百四十四条 被告人ノ勾引ハ勾引状ヲ発シテ之ヲ為スヘシ
第百四十五条 勾引シタル被告人ハ軍法会議ニ引致シタル時ヨリ四十八時間内ニ之ヲ訊問スヘシ其ノ時間内ニ勾留状ヲ発セサルトキハ被告人ヲ釈放スヘシ
第百四十六条 第百四十三条ニ記載シタル事由アルトキハ被告人ヲ勾留スルコトヲ得但シ被告人監獄ニ在ルトキハ其ノ事由ナシト雖之ヲ勾留スルコトヲ得
前項ノ規定ハ五百円ヲ超過セサル罰金、拘留又ハ科料ニ該ルヘキ事件ニ付テハ第百四十三条第四号ノ場合ヲ除クノ外之ヲ適用セス
被告人ノ勾留ハ訊問シタル後ニ非サレハ之ヲ為スコトヲ得ス但シ第百四十三条第一号ノ場合及被告人逃走シタル場合ハ此ノ限ニ在ラス
第百四十七条 被告人ノ勾留ハ勾留状ヲ発シテ之ヲ為スヘシ
第百四十八条 裁判長ハ急速ヲ要スル場合ニ於テハ第百四十条乃至前条ノ規定ニ依ル処分ヲ為シ又ハ受命裁判官ヲシテ之ヲ為サシムルコトヲ得
第百四十九条 裁判長ハ被告人現在地ノ予審官、検察官、陸軍司法警察官、予審判事、区裁判所判事、検事、司法警察官又ハ法令ニ依リ特別ニ裁判権ヲ有スル官署ニ被告人ノ勾引ヲ嘱託スルコトヲ得
受託官署ハ更ニ受託ノ権限アル官署ニ転嘱スルコトヲ得但シ陸軍司法警察官及司法警察官ハ此ノ限ニ在ラス
受託官署受託事項ニ付権限ヲ有セサルトキハ受託ノ権限アル官署ニ嘱託ヲ移送スルコトヲ得但シ陸軍司法警察官及司法警察官ハ此ノ限ニ在ラス
嘱託又ハ移送ヲ受ケタル官署ハ勾引状ヲ発スヘシ
第百五十条 被告人ノ現在地ヲ覚知スルコト能ハサルトキハ裁判長ハ検事長又ハ之ニ相当スル官署ニ被告人ノ人相書ヲ送付シ其ノ捜査及勾引ヲ嘱託スルコトヲ得
嘱託ヲ受ケタル官署ハ其ノ管轄区域内ノ検事又ハ相当官署ヲシテ勾引状ヲ発シ捜査及勾引ノ手続ヲ為サシムヘシ
第百五十一条 前二条ノ場合ニ於テ嘱託ニ因リ勾引状ヲ発シタル官署ハ被告人ヲ引致シタル時ヨリ四十八時間内ニ其ノ人違ナキカ否ヲ取調フヘシ
被告人人違ニ非サルトキハ速ニ之ヲ指定セラレタル軍法会議ニ送致スヘシ此ノ場合ニ於テハ第百四十五条ノ期間ハ被告人ノ送致ヲ受ケタル時ヨリ之ヲ起算ス
第百五十二条 召喚状、勾引状又ハ勾留状ニハ被告事件並被告人ノ氏名及住所ヲ記載シ裁判長又ハ受命裁判官之ニ記名捺印スヘシ
勾引状又ハ勾留状ヲ発スル場合ニ於テ被告人ノ住所分明ナラサルトキハ之ヲ記載スルコトヲ要セス其ノ氏名分明ナラサルトキハ容貌、体格其ノ他ノ徴表ヲ以テ被告人ヲ指示スヘシ
召喚状ニハ被告人ノ出頭スヘキ年月日時及場所並召喚ニ応セサルトキハ勾引状ヲ発スルコトアルヘキ旨ヲ記載スヘシ
勾留状ニハ被告人ヲ勾留スヘキ監獄ヲ指定スヘシ
第百四十八条ノ規定ニ依リ召喚状、勾引状又ハ勾留状ヲ発スル場合ニ於テハ其ノ旨ヲ記載スヘシ
第百五十三条 前条第一項及第二項ノ規定ハ第百四十九条第四項ノ規定ニ依リ予審官、検察官又ハ陸軍司法警察官ノ発スル勾引状ニ之ヲ準用ス此ノ場合ニ於テハ勾引状ニ嘱託ヲ為シタル裁判長ノ氏名及其ノ嘱託ニ因リ之ヲ発スル旨ヲ記載スヘシ
第百五十四条 召喚状ハ之ヲ送達ス
第百五十五条 勾引状又ハ勾留状ハ検察官ノ指揮ニ依リ陸軍司法警察官吏之ヲ執行ス但シ急速ヲ要スル場合ニ於テハ裁判長、受命裁判官又ハ予審官其ノ執行ヲ指揮スルコトヲ得
監獄ニ在ル被告人ニ対シテ発シタル勾留状ハ監獄官吏之ヲ執行ス
勾引状又ハ勾留状ハ必要アルトキハ司法警察官吏ヲシテ之ヲ執行セシムルコトヲ得
特設軍法会議ニ於テハ陸軍下士卒ヲシテ勾引状又ハ勾留状ヲ執行セシムルコトヲ得
第百五十六条 勾引状ハ数通ヲ作リ之ヲ陸軍司法警察官吏、陸軍下士卒又ハ司法警察官吏数人ニ交付スルコトヲ得
第百五十七条 陸軍司法警察官吏又ハ司法警察官吏ハ必要アルトキハ管轄地外ニ於テ勾引状ノ執行ヲ為シ又ハ其ノ地ノ陸軍司法警察官若ハ司法警察官ニ其ノ執行ヲ求ムルコトヲ得
第百五十八条 勾引状ヲ執行スルニハ之ヲ被告人ニ示シテ指定セラレタル軍法会議ニ引致スヘシ
第百四十九条第四項及第百五十条第二項ノ場合ニ於テハ勾引状ヲ発シタル官署ニ引致スヘシ
勾留状ヲ執行スルニハ之ヲ被告人ニ示シテ指定セラレタル監獄ニ引致スヘシ
第百五十九条 兵営其ノ他軍事用ノ庁舎又ハ艦船ノ内ニ在ル者ニ対シ勾引状又ハ勾留状ヲ執行スヘキ場合ニ於テハ庁舎若ハ艦船ノ長又ハ之ニ代ルヘキ者ニ勾引状又ハ勾留状ヲ示シテ引渡ヲ求ムヘシ
軍事用ノ庁舎及艦船ノ外ニ在リテ現ニ陸海軍ノ勤務ニ従事スル者ニ対シ勾引状又ハ勾留状ヲ執行スヘキ場合ニ於テハ其ノ所属ノ長又ハ之ニ代ルヘキ者ニ勾引状又ハ勾留状ヲ示シテ引渡ヲ求ムヘシ
第百六十条 軍法会議ハ必要アルトキハ決定ヲ以テ指定ノ場所ニ被告人ノ出頭又ハ同行ヲ命スルコトヲ得被告人正当ノ事由ナクシテ之ヲ肯セサルトキハ其ノ場所ニ勾引スルコトヲ得
第百六十一条 勾引状又ハ勾留状ノ執行ヲ受ケタル被告人ヲ護送スル場合ニ於テ必要アルトキハ仮ニ最寄ノ監獄ニ之ヲ留置スルコトヲ得
第百六十二条 勾引状ノ執行ヲ受ケタル被告人ヲ引致シタル場合ニ於テ必要アルトキハ之ヲ監獄ニ留置スルコトヲ得
第百六十三条 勾引状又ハ勾留状ヲ執行シタルトキハ之ニ執行ノ場所及年月日時ヲ記載シ之ヲ執行スルコト能ハサルトキハ其ノ事由ヲ記載シ記名捺印スヘシ
勾引状又ハ勾留状ノ執行ニ関スル書類ハ之ヲ検察官又ハ執行ヲ指揮シタル官署ニ差出スヘシ
勾引状ノ執行ニ関スル書類ヲ受取リタル検察官其ノ他ノ官署ハ被告人ノ引致セラレタル年月日時ヲ勾引状ニ記載スヘシ
第百六十四条 検察官ハ勾留セラレタル被告人ヲ他ノ監獄ニ移スコトヲ得
第百六十五条 勾留セラレタル被告人ハ法令ノ範囲内ニ於テ他人ト接見シ又ハ書類若ハ物ノ授受ヲ為スコトヲ得勾引状ニ因リ監獄ニ留置セラレタル被告人亦同シ
第百六十六条 軍法会議ハ罪証ヲ湮滅シ、逃走シ又ハ軍事上ノ機密ヲ漏泄スル虞アルトキハ勾留セラレタル被告人ト他人トノ接見ヲ禁シ又ハ他人ト接受スヘキ書類若ハ物ヲ査閲シ又ハ其ノ授受ヲ禁シ若ハ之ヲ差押フルコトヲ得
軍法会議書類又ハ物ノ査閲ヲ為スコト能ハサルトキハ検察官之ヲ為スコトヲ得
第百六十七条 勾留ノ原由消滅シタルトキハ軍法会議ハ検察官ノ意見ヲ聴キ決定ヲ以テ勾留ヲ取消スヘシ
第百六十八条 勾留セラレタル被告人第一条第一項第一号、第四号及海軍軍法会議法第一条第一項第一号、第四号ニ記載シタル以外ノ者ナルトキハ被告人又ハ其ノ法定代理人、保佐人若ハ夫ハ保釈ノ請求ヲ為スコトヲ得
第百六十九条 保釈ノ請求アリタルトキハ軍法会議ハ検察官ノ意見ヲ聴キ決定ヲ為スヘシ
保釈ヲ許ス場合ニ於テハ保証金額ヲ定ムヘシ
保釈ヲ許ス場合ニ於テハ被告人ノ住居ヲ制限スルコトヲ得
第百七十条 保釈ヲ許ス決定ハ保証金ヲ差出シタル後之ヲ執行スヘシ
検察官ハ保釈請求者ニ非サル者ヲシテ保証金ヲ差出サシムルコトヲ得
検察官ハ有価証券又ハ軍法会議ノ所在地ニ住居シ保証金ヲ納ムルニ十分ナル資産ヲ有スル者ノ保証書ヲ以テ保証金ニ代フルコトヲ許スコトヲ得
前項ノ保証書ニハ保証金額及何時ニテモ保証金ヲ納ムヘキ旨ヲ記載スヘシ
第百七十一条 軍法会議ハ検察官ノ意見ヲ聴キ決定ヲ以テ勾留セラレタル被告人ヲ責付スルコトヲ得
責付ハ被告人営内居住者ナルトキハ其ノ所属部隊ノ長ニ之ヲ為シ営内居住者ニ非サルトキハ親族其ノ他ノ者ニ之ヲ為スヘシ
営内居住者ニ非サル者ヲ責付スルニハ親族其ノ他ノ者ヨリ何時ニテモ召喚ニ応シ被告人ヲ出頭セシムヘキ旨ノ書面ヲ差出サシムヘシ
第百七十二条 被告人営内居住者ニ非サルトキハ軍法会議ハ検察官ノ意見ヲ聴キ決定ヲ以テ住居ヲ制限シテ勾留ノ執行ヲ停止スルコトヲ得
第百七十三条 軍法会議ハ検察官ノ意見ヲ聴キ何時ニテモ決定ヲ以テ保釈、責付又ハ勾留ノ執行停止ヲ取消スコトヲ得
保釈中被告人召喚ヲ受ケ正当ノ事由ナクシテ出頭セス、住居ノ制限ニ違反シ又ハ逃走シタル為保釈ヲ取消ス場合ニ於テハ軍法会議ハ検察官ノ意見ヲ聴キ決定ヲ以テ保証金ノ全部又ハ一部ヲ没取スヘシ
保釈セラレタル者刑ノ言渡ヲ受ケ其ノ判決確定シタル後執行ノ為召喚ヲ受ケ正当ノ事由ナクシテ出頭セス又ハ逃走シタルトキハ軍法会議ハ検察官ノ請求ニ因リ決定ヲ以テ保証金ノ全部又ハ一部ヲ没取スヘシ
第百七十四条 勾留若ハ保釈ヲ取消シ又ハ勾留状ノ効力消滅シタルトキハ検察官ハ没取ニ係ラサル保証金ヲ還付スヘシ
第百七十五条 上告提起期間内又ハ上告中ノ事件ニ付勾留ヲ取消シ保釈、責付若ハ勾留ノ執行停止ヲ為シ又ハ之ヲ取消スヘキ場合ニ於テハ原軍法会議其ノ決定ヲ為スヘシ
第百七十六条 予審官ハ被告人ノ召喚、勾引及勾留ニ関シ軍法会議又ハ裁判長ト同一ノ権ヲ有ス
第百七十七条 左ノ場合ニ於テ被告事件急速ノ処分ヲ要シ軍法会議又ハ予審官ノ勾引状ヲ求ムルコト能ハサルトキハ検察官又ハ陸軍司法警察官ハ勾引状ヲ発スルコトヲ得
一 軍紀ヲ保持スル為必要アルトキ
二 現行犯ノ被告人其ノ場所ニ在ラサルトキ
三 現行犯ノ取調ニ因リ其ノ事件ノ共犯ヲ発見シタルトキ
四 死体ノ検証ニ因リ其ノ事件ノ被告人ヲ発見シタルトキ
五 既決ノ囚人又ハ法令ニ依リ拘禁セラレタル被告人逃走シタルトキ
六 被告人強盗又ハ窃盗ノ罪ヲ犯シタルモノナルトキ
七 被告人定リタル住居ヲ有セサルトキ
前項ノ規定ニ依リ勾引状ヲ発スルコトヲ得ル場合ニ於テハ検察官ハ之ヲ他ノ検察官、陸軍司法警察官又ハ司法警察官ニ嘱託シ陸軍司法警察官ハ之ヲ他ノ陸軍司法警察官又ハ司法警察官ニ命令シ又ハ嘱託スルコトヲ得
第百七十八条 検察官、陸軍司法警察官吏又ハ司法警察官吏其ノ職務ヲ行フニ当リ現行犯アルコトヲ知リタル場合ニ於テ被告人其ノ場所ニ在リテ其ノ住居若ハ氏名分明ナラサルトキ又ハ第百四十三条各号ニ記載シタル事由アルトキハ左ノ処分ヲ為スヘシ
一 検察官、陸軍司法警察官又ハ司法警察官ハ直ニ被告人ヲ逮捕シ又ハ其ノ逮捕ヲ陸軍司法警察吏又ハ司法警察吏ニ命スヘシ
二 陸軍司法警察吏又ハ司法警察吏ハ命令ヲ待タスシテ直ニ被告人ヲ逮捕スヘシ
第百七十九条 現行犯ノ被告人其ノ場所ニ在ルトキハ何人ト雖之ヲ逮捕スルコトヲ得
被告人ヲ逮捕シタルトキハ速ニ之ヲ検察官、陸軍司法警察官吏又ハ司法警察官吏ニ引渡スヘシ
第百八十条 陸軍司法警察吏又ハ司法警察吏被告人ヲ逮捕シ又ハ之ヲ受取リタルトキハ速ニ之ヲ検察官、陸軍司法警察官又ハ司法警察官ニ引致スヘシ
陸軍司法警察吏又ハ司法警察吏被告人ヲ受取リタル場合ニ於テハ逮捕者ノ氏名、住居及逮捕ノ事由ヲ聴取ルヘシ必要アルトキハ逮捕者ニ対シ共ニ官署ニ至ルコトヲ求ムルコトヲ得
第百八十一条 司法警察官被告人ヲ逮捕シ又ハ之ヲ受取リタルトキハ速ニ訊問シ留置ノ必要ナシト思料スルトキハ直ニ釈放スヘシ留置ノ必要アリト思料スルトキハ速ニ書類及証拠物ト共ニ被告人ヲ検察官又ハ陸軍司法警察官ニ送致スル手続ヲ為スヘシ
第百八十二条 陸軍司法警察官被告人ヲ逮捕シ又ハ之ヲ受取リタルトキハ速ニ訊問シ留置ノ必要ナシト思料スルトキハ直ニ釈放スヘシ留置ノ必要アリト思料スルトキハ遅クトモ三日内ニ書類及証拠物ト共ニ被告人ヲ管轄軍法会議ノ検察官又ハ相当官署ニ送致スル手続ヲ為スヘシ
第百八十三条 検察官被告人ヲ逮捕シ又ハ之ヲ受取リタルトキハ遅クトモ二十四時間内ニ訊問シ留置ノ必要ナシト思料スルトキハ直ニ釈放スヘシ被告事件急速ヲ要シ軍法会議又ハ予審官ノ勾留状ヲ求ムル能ハサル場合ニ於テ留置ノ必要アリト思料スルトキハ勾留状ヲ発スヘシ但シ五百円ヲ超過セサル罰金、拘留又ハ科料ニ該ルヘキ事件ニ付テハ第百七十七条第一項第七号ノ場合ヲ除クノ外勾留状ヲ発スルコトヲ得ス
検察官勾留状ヲ発シタルトキハ速ニ長官ニ捜査ノ報告ヲ為シ又ハ書類及証拠物ト共ニ被告人ヲ管轄軍法会議ノ検察官若ハ相当官署ニ送致スル手続ヲ為スヘシ
検察官他ノ検察官ヨリ被告人ヲ受取リタルトキハ前二項ノ規定ニ準シ処分スヘシ但シ留置ノ必要ナシト思料スルトキハ勾留ヲ取消スヘシ
第百八十四条 現ニ罪ヲ行ヒ又ハ現ニ罪ヲ行ヒ終リタル際ニ発覚シタルモノヲ現行犯トス
兇器贓物其ノ他ノ物ヲ所持シ、誰何セラレテ逃走シ、犯人トシテ追呼セラレ又ハ身体被服ニ顕著ナル犯罪ノ痕跡アリテ犯人ト思料スヘキ場合ハ現行犯ノ被告人其ノ場所ニ在リタルモノト看做ス
第百八十五条 第百七十七条以下ノ場合ニ於ケル勾引又ハ勾留ニ付テハ第百五十一条乃至第百五十三条及第百五十五条乃至第百六十四条ノ規定ヲ準用ス
第八節 被告人訊問
第百八十六条 被告人ニ対シテハ先ツ其ノ人違ナキコトヲ確ムルニ足ルヘキ事項ヲ訊問スヘシ
第百八十七条 被告人ニ対シテハ被告事件ヲ告ケ其ノ事件ニ付陳述スヘキコトアリヤ否ヲ問ヒ其ノ利益ト為ルヘキ事実ヲ陳述スル機会ヲ与フヘシ
第百八十八条 被告人ニ対シテ訊問ヲ為ストキハ録事ヲシテ立会ハシムヘシ但シ検察官、陸軍司法警察官又ハ司法警察官訊問ヲ為ス場合ハ此ノ限ニ在ラス
第百八十九条 事実発見ノ為必要アルトキハ被告人ト他ノ被告人又ハ証人ト対質セシムルコトヲ得
第百九十条 被告人聾ナルトキハ書面ヲ以テ問ヒ唖ナルトキハ書面ヲ以テ答ヘシムルコトヲ得
第九節 押収及捜索
第百九十一条 軍法会議ハ別段ノ規定アル場合ヲ除クノ外証拠物又ハ没収スヘキ物ト思料スルモノハ之ヲ差押フヘシ
軍法会議ハ差押フヘキ物ヲ指定シ所有者、所持者又ハ保管者ニ其ノ物ノ提出ヲ命スルコトヲ得
第百九十二条 軍法会議ハ被告人ヨリ発シ又ハ被告人ニ対シテ発シタル郵便物又ハ電報及其ノ頼信紙ニシテ通信事務ヲ取扱フ官署其ノ他ノ者ノ保管又ハ所持スルモノヲ差押ヘ又ハ之ヲ提出セシムルコトヲ得
前項ニ記載シタル以外ノ郵便物又ハ電報及其ノ頼信紙ニシテ通信事務ヲ取扱フ官署其ノ他ノ者ノ保管又ハ所持スルモノハ被告事件ニ関係アリト思料スルニ足ルヘキ状況アルモノニ限リ之ヲ差押ヘ又ハ之ヲ提出セシムルコトヲ得
前二項ノ規定ニ依ル処分ヲ為シタルトキハ之ヲ発信人又ハ受信人ニ通知スヘシ但シ通知ニ因リテ審理ヲ妨クル虞アル場合ハ此ノ限ニ在ラス
第百九十三条 軍法会議ハ被告人其ノ他ノ者ノ遺留シタル物又ハ所有者、所持者若ハ保管者ニ於テ任意ニ提出シタル物ヲ領置スルコトヲ得
第百九十四条 軍法会議ハ必要アルトキハ被告人ノ身体、物又ハ住居其ノ他ノ場所ニ就キ捜索ヲ為スコトヲ得
被告人ニ非サル者ノ身体、物又ハ住居其ノ他ノ場所ニ付テハ押収スヘキ物ノ存在ヲ認知スルニ足ルヘキ状況アル場合ニ限リ捜索ヲ為スコトヲ得
第百九十五条 押収又ハ捜索ニ付テハ鎖鑰又ハ封緘ノ開披其ノ他必要ナル処分ヲ為スコトヲ得押収物ニ付亦同シ
第百九十六条 軍事上秘密ヲ要スル場所ニ於テハ其ノ長又ハ之ニ代ルヘキ者ノ承諾アルニ非サレハ押収又ハ捜索ヲ為スコトヲ得ス
第百九十七条 公務員又ハ公務員タリシ者ノ保管又ハ所持スル物ニ付本人又ハ当該公務所ヨリ職務上ノ秘密ニ関スルモノナルコトヲ申立ツルトキハ当該監督官庁ノ承諾アルニ非サレハ押収ヲ為スコトヲ得ス但シ当該監督官庁ハ帝国ノ安寧ヲ害スル場合ヲ除クノ外承諾ヲ拒ムコトヲ得ス
国務大臣、宮内大臣、内大臣、枢密院議長、枢密院副議長、枢密顧問官、会計検査院長、元帥、参謀総長、海軍軍令部長、教育総監若ハ軍事参議官又ハ此等ノ職ニ在リシ者其ノ保管又ハ所持スル物ニ付前項ノ申立ヲ為ストキハ勅許ヲ得ルニ非サレハ押収ヲ為スコトヲ得ス
第百九十八条 医師、歯科医師、薬剤師、薬種商、産婆、弁護士、弁護人、公証人、宗教若ハ禱祀ノ職ニ在ル者又ハ此等ノ職ニ在リシ者ハ業務上委託ヲ受ケタル為所持スル物ニシテ他人ノ秘密ニ関スルモノニ付押収ヲ拒ムコトヲ得但シ本人承諾シタルトキハ此ノ限ニ在ラス
第百九十九条 軍法会議ハ押収スヘキ物又ハ捜索スヘキ場所、身体若ハ物ヲ指定シタル命令状ヲ発シ陸軍司法警察官又ハ司法警察官ヲシテ押収又ハ捜索ヲ為サシムルコトヲ得
命令状ニハ押収又ハ捜索ヲ為スヘキ事由ヲ記載シ裁判長之ニ記名捺印スヘシ
命令状ハ処分ヲ受クル者ノ請求アルトキハ之ヲ示スヘシ
第二百条 陸軍司法警察官又ハ司法警察官前条第一項ノ規定ニ依リ押収又ハ捜索ヲ為スニ当リ其ノ被告事件ニ関スル他ノ証拠物ヲ発見シタルトキハ之ヲ押収スルコトヲ得
第二百一条 陸軍司法警察官又ハ司法警察官前二条ノ規定ニ依リ押収又ハ捜索ヲ為シタルトキハ検察官ヲ経テ之ニ関スル書類及押収物ヲ軍法会議ニ差出スヘシ
第二百二条 軍法会議押収又ハ捜索ヲ為スニ当リ他ノ犯罪ニ関スル顕著ナル証拠物ヲ発見シタルトキハ仮ニ之ヲ押収シテ検察官ニ送付スルコトヲ得
検察官前項ノ規定ニ依リ押収シタル物ヲ留置スル必要ナシト思料スルトキハ之ヲ還付スヘシ
第二百三条 押収又ハ捜索ハ受命裁判官ヲシテ之ヲ為サシメ又ハ処分ヲ為スヘキ地ノ予審官、予審判事、区裁判所判事又ハ法令ニ依リ特別ニ裁判権ヲ有スル官署ニ之ヲ嘱託スルコトヲ得
受託官署ハ受託ノ権限アル官署ニ転嘱スルコトヲ得
受託官署受託事項ニ付権限ヲ有セサルトキハ受託ノ権限アル官署ニ嘱託ヲ移送スルコトヲ得
受命裁判官又ハ受託予審官ハ押収又ハ捜索ヲ為スニ付軍法会議ニ属スル処分ヲ為スコトヲ得但シ第百九十二条第三項ノ通知ハ軍法会議之ヲ為スヘシ
第二百四条 日出前、日没後ニハ住居主若ハ保管者又ハ之ニ代ルヘキ者ノ承諾アルニ非サレハ押収又ハ捜索ノ為人ノ住居又ハ人ノ看守スル邸宅、建造物若ハ艦船ニ入ルコトヲ得ス但シ猶予スヘカラサル場合ハ此ノ限ニ在ラス
日没前押収又ハ捜索ニ著手シタルトキハ日没後ト雖其ノ処分ヲ継続スルコトヲ得
第二百五条 左ノ場所ニ付テハ前条第一項ニ規定スル制限ニ依ルコトヲ要セス
一 賭博、富籤又ハ風俗ヲ害スル行為ニ常用セラルルモノト認ムヘキ場所
二 旅店、飲食店其ノ他夜間ト雖公衆ノ出入スルコトヲ得ヘキ場所但シ公開シタル時間内ニ限ル
第二百六条 官署、公署又ハ兵営其ノ他軍事用ノ庁舎若ハ艦船ノ内ニ於テ押収又ハ捜索ヲ為ストキハ其ノ長又ハ之ニ代ルヘキ者ニ通知シテ其ノ処分ニ立会ハシムヘシ
前項ノ場合ヲ除クノ外人ノ住居又ハ人ノ看守スル邸宅、建造物若ハ船舶ノ内ニ於テ押収又ハ捜索ヲ為ストキハ住居主若ハ保管者又ハ之ニ代ルヘキ者ヲシテ其ノ処分ニ立会ハシムヘシ此等ノ者ヲシテ立会ハシムルコト能ハサルトキハ隣人又ハ市町村吏員ヲシテ立会ハシムヘシ
第二百七条 検察官、被告人又ハ弁護人ハ押収又ハ捜索ノ処分ニ立会フコトヲ得但シ拘禁セラレタル被告人ハ此ノ限ニ在ラス
押収又ハ捜索ノ処分ヲ為スニ付必要アルトキハ被告人ヲシテ其ノ処分ニ立会ハシムルコトヲ得
第二百八条 押収又ハ捜索ヲ為スヘキ日時及場所ハ予メ前条ノ規定ニ依リ其ノ処分ニ立会フコトヲ得ヘキ者ニ之ヲ通知スヘシ但シ急速ノ処分ヲ要スルトキハ此限ニ在ラス
第二百九条 押収又ハ捜索ヲ為スニ付必要アルトキハ陸軍司法警察官吏又ハ司法警察官吏ヲシテ補助ヲ為サシムルコトヲ得
第二百十条 押収又ハ捜索ノ処分中ハ何人ニ限ラス許可ヲ得スシテ其ノ場所ニ出入スルコトヲ禁止スルコトヲ得
前項ノ禁止ニ従ハサル者ハ之ヲ退去セシメ又ハ処分ヲ終ル迄之ヲ留置スルコトヲ得
第二百十一条 押収又ハ捜索ノ処分ヲ中止スル場合ニ於テ必要アルトキハ其ノ場所ヲ閉鎖シ又ハ看守者ヲ置クヘシ
第二百十二条 押収ヲ為シタル場合ニ於テ所有者、所持者若ハ保管者又ハ之ニ代ルヘキ者ノ請求アリタルトキハ品目ヲ記載シタル調書又ハ目録ノ謄本又ハ抄本ヲ之ニ交付スヘシ
第二百十三条 押収物ニ付テハ喪失又ハ毀損ヲ防ク為相当ノ処置ヲ為スヘシ
運搬又ハ保管ニ不便ナル押収物ニ付テハ看守者ヲ置キ又ハ所有者其ノ他ノ者ヲシテ之ヲ保管セシムルコトヲ得
危害ヲ生スル虞アル押収物ハ之ヲ廃棄スルコトヲ得
第二百十四条 没収スルコトヲ得ヘキ押収物ニシテ滅失若ハ毀損ノ虞アルモノ又ハ保管ニ不便ナルモノハ之ヲ公売シテ其ノ代価ヲ保管スルコトヲ得
第二百十五条 押収物ニシテ留置ノ必要ナキモノハ被告事件ノ終結ヲ待タス検察官ノ意見ヲ聴キ決定ヲ以テ之ヲ還付スヘシ
押収物ハ所有者、所持者、保管者又ハ差出人ノ請求ニ因リ検察官ノ意見ヲ聴キ決定ヲ以テ仮ニ之ヲ還付スルコトヲ得
第二百十六条 押収シタル贓物ニシテ留置ノ必要ナキモノハ被害者ニ還付スヘキ理由明瞭ナルトキニ限リ被告事件ノ終結ヲ待タス検察官ノ意見ヲ聴キ決定ヲ以テ之ヲ被害者ニ還付スヘシ
前項ノ規定ハ民事訴訟ノ手続ニ従ヒ利害関係人ヨリ其ノ権利ヲ主張スルコトヲ妨ケス
第二百十七条 押収又ハ捜索ヲ為ストキハ録事ヲシテ立会ハシムヘシ
第二百十八条 予審官ハ押収及捜索ニ関シ軍法会議ト同一ノ権ヲ有ス
第二百十九条 検察官ハ第百七十七条、第百七十八条又ハ第百八十三条ノ場合ニ於テ急速ヲ要スルトキハ予審請求前又ハ公訴提起前ニ限リ押収若ハ捜索ヲ為シ又ハ之ヲ他ノ検察官、陸軍司法警察官若ハ司法警察官ニ嘱託スルコトヲ得
陸軍司法警察官ハ第百七十七条、第百七十八条又ハ第百八十二条ノ場合ニ於テ急速ヲ要スルトキハ予審請求前又ハ公訴提起前ニ限リ押収若ハ捜索ヲ為シ又ハ之ヲ他ノ陸軍司法警察官若ハ司法警察官ニ命令シ若ハ嘱託スルコトヲ得
司法警察官ハ第百七十八条又ハ第百八十一条ノ場合ニ於テ急速ヲ要スルトキハ予審請求前又ハ公訴提起前ニ限リ押収若ハ捜索ヲ為シ又ハ之ヲ他ノ司法警察官ニ命令シ若ハ嘱託スルコトヲ得
陸軍司法警察官又ハ司法警察官押収ヲ為シタル場合ニ於テ留置ノ必要アリト思料スルトキハ速ニ押収物ヲ検察官ニ送付スヘシ但シ第二百十三条第二項又ハ第三項ノ処分ヲ為シタルトキハ速ニ其ノ旨ヲ検察官ニ通知スヘシ
第二百二十条 人ノ住居又ハ人ノ看守スル邸宅、建造物若ハ艦船ノ内ニ現行犯アル場合ニ於テ急速ノ処分ヲ要スルトキハ検察官、陸軍司法警察官又ハ司法警察官ハ何時ニテモ其ノ場所ニ入リ押収又ハ捜索ヲ為スコトヲ得
第二百二十一条 人ノ住居又ハ人ノ看守スル邸宅、建造物若ハ艦船ノ内ニ現行犯アル場合ニ於テ被告人ヲ逮捕スルニ付急速ノ処分ヲ要スルトキハ検察官、陸軍司法警察官吏又ハ司法警察官吏ハ何時ニテモ其ノ場所ニ入リ之ヲ捜索スルコトヲ得此ノ場合ニ於テハ第二百六条第二項ノ規定ニ依ルコトヲ要セス
検察官、陸軍司法警察官吏又ハ司法警察官吏現行犯ノ被告人ヲ逮捕スル為追行シタル場合ニ於テ被告人、人ノ住居又ハ人ノ看守スル邸宅、建造物若ハ艦船ノ内ニ逃入リタルトキ亦前項ニ同シ
第二百二十二条 勾引状又ハ勾留状ヲ執行スル場合ニ於テ必要アルトキハ人ノ住居又ハ人ノ看守スル邸宅、建造物若ハ艦船ノ内ニ入リ捜索ヲ為スコトヲ得但シ第百七十七条第一項第一号又ハ第三号乃至第六号ノ規定ニ依リ発シタル勾引状ヲ執行スル場合ニ於テハ前条ノ例ニ依ル
第二百二十三条 検察官、陸軍司法警察官又ハ司法警察官ノ為ス押収及捜索ニ付テハ別段ノ規定アル場合ヲ除クノ外第百九十一条乃至第百九十八条、第二百二条、第二百四条乃至第二百六条及第二百十条乃至第二百十六条ノ規定ヲ準用ス
陸軍司法警察吏、下士卒又ハ司法警察吏ノ為ス捜索ニ付テハ別段ノ規定アル場合ヲ除クノ外第百九十五条、第百九十六条、第二百四条乃至第二百六条及第二百十条ノ規定ヲ準用ス
第十節 検証
第二百二十四条 軍法会議ハ事実発見ノ為必要アルトキハ検証ヲ為スヘシ
第二百二十五条 検証ニ付テハ身体ノ検査、死体ノ解剖、墳墓ノ発掘其ノ他必要ナル処分ヲ為スコトヲ得
被告人ニ非サル者ノ身体ノ検査ハ一定ノ証跡ノ存否ヲ確認スルニ必要ナル場合ニ限リ之ヲ為スコトヲ得
第二百二十六条 日出前、日没後ニハ住居主若ハ保管者又ハ之ニ代ルヘキ者ノ承諾アルニ非サレハ検証ノ為人ノ住居又ハ人ノ看守スル邸宅、建造物若ハ艦船ニ入ルコトヲ得ス但シ猶予スヘカラサル場合又ハ日出後ニ於テハ検証ノ目的ヲ達スルコト能ハサル虞アル場合ハ此ノ限ニ在ラス
日没前検証ニ著手シタルトキハ日没後ト雖其ノ処分ヲ継続スルコトヲ得
第二百五条ニ記載シタル場所ニ付テハ第一項ニ規定スル制限ニ依ルコトヲ要セス
第二百二十七条 検証ニ付テハ第百九十六条、第二百三条、第二百六条乃至第二百十一条及第二百十七条ノ規定ヲ準用ス
第二百二十八条 予審官ハ検証ニ関シ軍法会議ト同一ノ権ヲ有ス
第二百二十九条 検察官ハ第百七十七条、第百七十八条又ハ第百八十三条ノ場合ニ於テ急速ヲ要スルトキハ予審請求前又ハ公訴提起前ニ限リ検証ヲ為シ又ハ之ヲ他ノ検察官、陸軍司法警察官若ハ司法警察官ニ嘱託スルコトヲ得
陸軍司法警察官ハ第百七十七条、第百七十八条又ハ第百八十二条ノ場合ニ於テ急速ヲ要スルトキハ予審請求前又ハ公訴提起前ニ限リ検証ヲ為シ又ハ之ヲ他ノ陸軍司法警察官若ハ司法警察官ニ命令シ若ハ嘱託スルコトヲ得
司法警察官ハ第百七十八条又ハ第百八十一条ノ場合ニ於テ急速ヲ要スルトキハ予審請求前又ハ公訴提起前ニ限リ検証ヲ為シ又ハ之ヲ他ノ司法警察官ニ命令シ若ハ嘱託スルコトヲ得
第二百三十条 人ノ住居又ハ人ノ看守スル邸宅、建造物若ハ艦船ノ内ニ現行犯アル場合ニ於テ急速ノ処分ヲ要スルトキハ検察官、陸軍司法警察官又ハ司法警察官ハ何時ニテモ其ノ場所ニ入リ検証ヲ為スコトヲ得
第二百三十一条 変死人又ハ変死人ト思料スヘキ者第一条ニ記載シタル者ナルトキハ部隊内ニ於テハ陸軍司法警察官ノ職務ヲ行フ部隊ノ長、其ノ他ノ場所ニ於テハ検察官又ハ陸軍司法警察官検視ヲ為スヘシ
変死人又ハ変死人ト思料スヘキ者第一条ニ記載シタル以外ノ者ナルトキト雖部隊内ニ於テ死体ヲ発見シタル場合ニ於テハ陸軍司法警察官ノ職務ヲ行フ部隊ノ長検視ヲ為スヘシ
前二項ノ場合ニ於テ部隊ノ長ハ検察官又ハ陸軍司法警察官ニ検視ヲ嘱託スルコトヲ得
検視ニ因リ犯罪アルコトヲ発見シタル場合ニ於テ急速ノ処分ヲ要スルトキハ引続キ検証ヲ為スコトヲ得
第一項乃至第三項ノ規定ハ他ノ法令ニ依ル検視ヲ妨ケス
第二百三十二条 検察官又ハ陸軍司法警察官ハ前条ノ処分ヲ司法警察官ニ嘱託スルコトヲ得
第二百三十三条 検察官、陸軍司法警察官又ハ司法警察官ノ為ス検証ニ付テハ第百九十六条、第二百六条、第二百十条、第二百十一条、第二百二十五条及第二百二十六条ノ規定ヲ準用ス
第十一節 証人訊問
第二百三十四条 軍法会議ハ別段ノ規定アル場合ヲ除クノ外何人ト雖証人トシテ之ヲ訊問スルコトヲ得
第二百三十五条 公務員又ハ公務員タリシ者ノ知得タル事実ニ付本人又ハ当該公務所ヨリ職務上ノ秘密ニ関スルモノナルコトヲ申立ツルトキハ当該監督官庁ノ承諾アルニ非サレハ証人トシテ之ヲ訊問スルコトヲ得ス但シ当該監督官庁ハ帝国ノ安寧ヲ害スル場合ヲ除クノ外承諾ヲ拒ムコトヲ得ス
国務大臣、宮内大臣、内大臣、枢密院議長、枢密院副議長、枢密顧問官、会計検査院長、元帥、参謀総長、海軍軍令部長、教育総監若ハ軍事参議官又ハ此等ノ職ニ在リシ者前項ノ申立ヲ為ストキハ勅許ヲ得ルニ非サレハ証人トシテ之ヲ訊問スルコトヲ得ス
第二百三十六条 左ニ記載シタル者ハ証言ヲ拒ムコトヲ得
一 被告人ノ配偶者、四親等内ノ血族若ハ三親等内ノ姻族又ハ被告人ト此等ノ親族関係アリタル者
二 被告人ノ後見人、後見監督人又ハ保佐人
三 被告人ヲ後見人、後見監督人又ハ保佐人ト為ス者
共同被告人ノ一人又ハ数人ニ対シ前項ノ関係アル者ト雖他ノ共同被告人ノミニ関スル事項ニ付テハ証言ヲ拒ムコトヲ得ス
第二百三十七条 医師、歯科医師、薬剤師、薬種商、産婆、弁護士、弁護人、公証人、宗教若ハ禱祀ノ職ニ在ル者又ハ此等ノ職ニ在リシ者ハ業務上委託ヲ受ケタル為知得タル事実ニシテ他人ノ秘密ニ関スルモノニ付証言ヲ拒ムコトヲ得但シ本人承諾シタルトキハ此ノ限ニ在ラス
第二百三十八条 証言ヲ為スニ因リ自己又ハ自己ト第二百三十六条第一項ニ規定スル関係アル者刑事上ノ訴追ヲ受クル虞アルトキハ証言ヲ拒ムコトヲ得
現ニ供述ヲ為スヘキ事件ノ被告人ト共犯ノ関係アリトシテ起訴セラレ未タ確定判決ヲ経サルトキ亦前項ニ同シ
第二百三十九条 証言ヲ拒ム者ハ之ヲ拒ム自由ヲ疏明スヘシ但シ前条ノ場合ニ於テハ其ノ事由ノ相違ナキ旨ノ宣誓ヲ以テ疏明ニ代フルコトヲ得
証言ヲ拒ム者之ヲ拒ム事由ヲ疏明スルコト能ハサルトキ又ハ宣誓ヲ為ササルトキハ決定ヲ以テ其ノ申立ヲ却下スヘシ
第二百四十条 第百四十一条及第百五十四条ノ規定ハ証人ノ召喚ニ之ヲ準用ス
第二百四十一条 召喚ヲ受ケタル証人正当ノ事由ナクシテ出頭セサルトキハ検察官ノ意見ヲ聴キ決定ヲ以テ五十円以下ノ過料ニ処シ且不参ニ因リ生シタル費用ノ賠償ヲ命スルコトヲ得
第二百四十二条 前条ノ言渡ヲ受ケタル者裁判書ノ送達アリタル日ヨリ三日内ニ正当ノ事由アリテ出頭スルコト能ハサリシコトヲ証明シタルトキハ検察官ノ意見ヲ聴キ決定ヲ以テ其ノ言渡ヲ取消スヘシ
天災其ノ他避クヘカラサル事故ノ為期間内ニ前項ノ証明ヲ為スコト能ハサリシ者事故ノ止ミタル日ヨリ三日内ニ其ノ証明ヲ為シタルトキ亦前項ニ同シ
第二百四十三条 召喚ニ応セサル証人ニ対シテハ更ニ召喚状ヲ発シ又ハ勾引状ヲ発スルコトヲ得
第二百四十四条 証人ノ召喚状又ハ勾引状ニハ証人ノ氏名及住居、被告人ノ氏名並被告事件ヲ記載シ裁判長之ニ記名捺印スヘシ
召喚状ニハ出頭スヘキ年月日時及場所並召喚ニ応セサルトキハ過料ニ処シ且勾引状ヲ発スルコトアルヘキ旨ヲ記載スヘシ
召喚状ノ送達ト出頭トノ間ニハ少クトモ二十四時間ノ猶予ヲ存スヘシ但シ急速ヲ要スル場合ハ此ノ限ニ在ラス
証人第一条ニ記載シタル者ナルトキハ前項ノ規定ニ依ラサルコトヲ得
第二百四十五条 証人ノ勾引ニ付テハ第百五十五条乃至第百五十九条及第百六十三条ノ規定ヲ準用ス
第二百四十六条 証人ニ対シテハ先ツ其ノ人違ナキカ否及第二百三十六条第一項ニ記載シタル者ナリヤ否ヲ取調フヘシ
第二百三十六条第一項ニ記載シタル者ニハ証言ヲ拒ムコトヲ得ル旨ヲ告クヘシ
第二百四十七条 証人ニハ宣誓ヲ為サシムヘシ但シ別段ノ規定アル場合ハ此ノ限ニ在ラス
第二百四十八条 宣誓ハ訊問前之ヲ為サシムヘシ但シ宣誓ヲ為サシムヘキ者ナリヤ否ニ付疑アルトキハ訊問後之ヲ為サシムルコトヲ得
第二百四十九条 宣誓ハ宣誓書ニ依リ之ヲ為スヘシ
宣誓書ニハ真実ヲ述ヘ何事ヲモ黙秘セス又何事ヲモ附加セサルコトヲ誓フ旨ヲ記載スヘシ
訊問後宣誓ヲ為スヘキ場合ニ於テハ真実ヲ述ヘ何事ヲモ黙秘セス又何事ヲモ附加セサリシコトヲ誓フ旨ヲ記載スヘシ
裁判長ハ宣誓書ヲ朗読シ証人ヲシテ署名捺印セシムヘシ
第二百五十条 宣誓ヲ為サシムヘキ証人ニハ宣誓前偽証ノ罰ヲ告クヘシ
第二百五十一条 同一ノ被告事件ニ付数名ノ証人出頭シタル場合ニ於テハ其ノ宣誓ハ同時ニ之ヲ為サシムルコトヲ得
第二百五十二条 左ニ記載シタル者ニハ宣誓ヲ為サシメスシテ之ヲ訊問スヘシ
一 十五歳未満ノ者
二 宣誓ノ本旨ヲ解スルコト能ハサル者
三 現ニ供述ヲ為スヘキ事件ノ被告人ト共犯ノ関係アル者又ハ其ノ嫌疑アル者
四 第二百三十六条第一項ニ記載シタル者ニシテ証言ヲ拒マサル者
五 第二百三十八条ノ場合ニ於テ証言ヲ拒マサル者
六 被告人ノ雇人又ハ同居人
前項第三号ノ規定ノ適用ニ付テハ犯人蔵匿ノ罪、証憑湮滅ノ罪、偽証ノ罪、虚偽ノ鑑定通訳ノ罪及贓物ニ関スル罪ノ犯人ハ其ノ本犯ノ共犯ト看做ス
第一項ニ記載シタル者宣誓ヲ為シタルトキト雖其ノ供述ハ証言タルノ効力ヲ妨ケラルルコトナシ
第二百五十三条 証人ノ供述カ其ノ証人若ハ之ト第二百三十六条第一項ニ規定スル関係アル者ノ恥辱ニ帰シ又ハ其ノ財産上ニ重大ナル損害ヲ生スル虞アルトキハ宣誓ヲ為サシメスシテ訊問スルコトヲ得
第二百五十四条 証人ノ訊問ハ後ニ訊問スヘキ証人ノ在ラサル場所ニ於テ各別ニ之ヲ為スヘシ
第二百五十五条 事実発見ノ為必要アルトキハ証人ト他ノ証人又ハ被告人ト対質セシムルコトヲ得
第二百五十六条 証人ニハ訊問事項ニ付連絡シタル供述ヲ為サシムヘシ
必要アル場合ニ於テハ証人ノ供述ヲ明白ナラシメ又ハ其ノ真否ヲ判断スル為適当ナル訊問ヲ為スヘシ
第二百五十七条 証人ニハ其ノ実験シタル事実ニ因リ推測シタル事項ヲ供述セシムルコトヲ得
前項ノ供述ハ鑑定ニ属スル故ヲ以テ証言タルノ効力ヲ妨ケラルルコトナシ
第二百五十八条 第百八十八条及第百九十条ノ規定ハ証人ノ訊問ニ付之ヲ準用ス
第二百五十九条 証人軍法会議構内ニ在ルトキハ召喚ヲ為サスシテ之ヲ訊問スルコトヲ得
第二百六十条 証人ハ必要アル場合ニ於テハ軍法会議外ノ指定ノ場所ニ之ヲ召喚シ又ハ其ノ所在ニ就キ之ヲ訊問スルコトヲ得
第二百六十一条 親任官又ハ親任官ノ待遇ヲ受クル者ハ其ノ現在地ニ於テ之ヲ訊問スヘシ
帝国議会ノ議員議会ノ開期中開会地ニ滞在スルトキハ其ノ滞在地ニ於テ之ヲ訊問スヘシ
第二百六十二条 証人正当ノ理由ナクシテ宣誓又ハ証言ヲ拒ミタルトキハ検察官ノ意見ヲ聴キ決定ヲ以テ百円以下ノ過料ニ処スヘシ第二百三十九条第一項但書ノ場合ニ於テ虚偽ノ宣誓ヲ為シタルトキ亦同シ
第二百六十三条 軍法会議ハ必要アルトキハ決定ヲ以テ指定ノ場所ニ証人ノ同行ヲ命スルコトヲ得証人正当ノ事由ナクシテ同行ヲ肯セサルトキハ之ヲ勾引スルコトヲ得
第二百六十四条 軍法会議外ニ於テ証人ノ訊問ヲ為ス場合ニ於テハ受命裁判官ヲシテ之ヲ為サシメ又ハ証人現在地ノ予審官、予審判事、区裁判所判事若ハ法令ニ依リ特別ニ裁判権ヲ有スル官署ニ之ヲ嘱託スルコトヲ得
受託官署ハ受託ノ権限アル官署ニ転嘱スルコトヲ得
受託官署受託事項ニ付権限ヲ有セサルトキハ受託ノ権限アル官署ニ嘱託ヲ移送スルコトヲ得
受命裁判官又ハ受託予審官ハ証人訊問ニ付軍法会議又ハ裁判長ニ属スル処分ヲ為スコトヲ得但シ第二百四十一条及第二百六十二条ノ決定ハ軍法会議亦之ヲ為スコトヲ得
第二百六十五条 予審官ハ証人訊問ニ関シ軍法会議又ハ裁判長ト同一ノ権ヲ有ス
第二百六十六条 検察官ハ第百七十七条、第百七十八条又ハ第百八十三条ノ場合ニ於テ急速ヲ要スルトキハ予審請求前又ハ公訴提起前ニ限リ第二百三十四条乃至第二百六十四条ノ規定ニ準シ証人ヲ訊問シ又ハ其ノ訊問ヲ他ノ検察官、陸軍司法警察官若ハ司法警察官ニ嘱託スルコトヲ得
陸軍司法警察官ハ第百七十七条、第百七十八条又ハ第百八十二条ノ場合ニ於テ急速ヲ要スルトキハ予審請求前又ハ公訴提起前ニ限リ第二百三十四条乃至第二百六十四条ノ規定ニ準シ証人ヲ訊問シ又ハ其ノ訊問ヲ他ノ陸軍司法警察官若ハ司法警察官ニ命令シ若ハ嘱託スルコトヲ得
司法警察官ハ第百七十八条又ハ第百八十一条ノ場合ニ於テ急速ヲ要スルトキハ予審請求前又ハ公訴提起前ニ限リ第二百三十四条乃至第二百六十四条ノ規定ニ準シ証人ヲ訊問シ又ハ其ノ訊問ヲ他ノ司法警察官ニ命令シ若ハ嘱託スルコトヲ得
第二百六十七条 検察官証人ヲ訊問スル場合ニ於テハ宣誓ヲ為サシメサルコトヲ得
陸軍司法警察官又ハ司法警察官ハ宣誓ヲ為サシムルコトヲ得ス
第二百六十八条 検察官、陸軍司法警察官又ハ司法警察官ハ証人ニ対シ過料又ハ賠償ノ言渡ヲ為スコトヲ得ス
第二百六十九条 証人ハ旅費、日当及止宿料ヲ請求スルコトヲ得但シ正当ノ事由ナクシテ宣誓又ハ証言ヲ拒ミタル者ハ此ノ限ニ在ラス
第十二節 鑑定
第二百七十条 軍法会議ハ学識経験アル者ニ鑑定ヲ命スルコトヲ得
第二百七十一条 鑑定人ニハ鑑定ヲ為ス前宣誓ヲ為サシムヘシ
宣誓ハ宣誓書ニ依リ之ヲ為スヘシ
宣誓書ニハ誠実ニ鑑定ヲ為スコトヲ誓フ旨ヲ記載スヘシ
第二百七十二条 鑑定ノ経過及結果ハ鑑定人ヲシテ書面又ハ口頭ヲ以テ之ヲ報告セシムヘシ
鑑定人数人アルトキハ共同シテ報告ヲ為サシムルコトヲ得
書面ヲ以テ報告ヲ為サシメタル場合ニ於テ必要アルトキハ口頭ヲ以テ其ノ説明ヲ為サシムルコトヲ得
第二百七十三条 軍法会議ハ必要アル場合ニ於テハ鑑定人ヲシテ軍法会議外ニ於テ鑑定ヲ為サシムルコトヲ得
前項ノ場合ニ於テハ鑑定ニ関スル物ヲ鑑定人ニ交付スルコトヲ得
被告人ノ心神又ハ身体ニ関スル鑑定ヲ為サシムルニ付必要アルトキハ軍法会議ハ期間ヲ定メ病院其ノ他相当ノ場所ニ被告人ヲ留置スルコトヲ得
第二百七十四条 鑑定人ハ鑑定ニ付必要アル場合ニ於テハ軍法会議ノ許可ヲ得テ身体ヲ検査シ、死体ヲ解剖シ又ハ物ヲ毀壊スルコトヲ得
第二百七十五条 鑑定人ハ鑑定ニ付必要アル場合ニ於テハ軍法会議ノ許可ヲ得テ書類若ハ証拠物ヲ閲覧シ若ハ謄写シ又ハ被告人若ハ証人ノ訊問ニ立会フコトヲ得
鑑定人ハ被告人若ハ証人ノ訊問ヲ求メ又ハ許可ヲ得テ此等ノ者ニ対シ直接ニ問ヲ発スルコトヲ得
第二百七十六条 軍法会議ハ受命裁判官ヲシテ鑑定ニ付必要ナル処分ヲ為サシムルコトヲ得但シ第二百七十三条第三項ノ規定ニ依ル処分ハ此ノ限ニ在ラス
第二百七十七条 軍法会議ハ鑑定ヲ十分ナラスト思料スルトキハ鑑定人ヲ増加シ又ハ他ノ鑑定人ニ命シテ鑑定ヲ為サシムルコトヲ得
第二百七十八条 検察官及弁護人ハ鑑定ニ立会フコトヲ得
第二百八条ノ規定ハ前項ノ場合ニ之ヲ準用ス
第二百七十九条 鑑定ニ付テハ勾引ニ関スル規定ヲ除クノ外第十一節ノ規定ヲ準用ス
検察官、陸軍司法警察官又ハ司法警察官ハ第二百七十三条第三項ノ規定ニ依ル処分ヲ為スコトヲ得ス
第二百八十条 鑑定人ハ旅費、日当及止宿料ノ外鑑定料及立替金ノ弁償ヲ請求スルコトヲ得
第二百八十一条 軍法会議ハ官署公署ニ鑑定ヲ嘱託スルコトヲ得
前九条ノ規定ハ前項ノ場合ニ之ヲ準用ス但シ第二百七十二条第三項ノ規定ニ依ル説明ハ官署公署ノ指定シタル者ヲシテ之ヲ為サシムヘシ
第二百八十二条 特別ノ智識ニ因リ知得タル過去ノ事実ニ付其ノ事実ヲ知リタル者ヲ訊問スル場合ニハ本節ノ規定ニ依ラス第十一節ノ規定ヲ適用ス
第十三節 通訳
第二百八十三条 国語ニ通セサル者ヲシテ陳述ヲ為サシムル場合ニ於テハ通事ヲシテ通訳ヲ為サシムヘシ
第二百八十四条 聾者又ハ唖者ヲシテ陳述ヲ為サシムル場合ニ於テハ通事ヲシテ通訳ヲ為サシムルコトヲ得
第二百八十五条 国語ニ非サル文字又ハ符号ハ之ヲ翻訳セシムルコトヲ得
第二百八十六条 軍法会議ハ官署公署ニ翻訳ヲ嘱託スルコトヲ得
第二百八十七条 通訳及翻訳ニ付テハ第十二節ノ規定ヲ準用ス
第二章 始審
第一節 捜査
第二百八十八条 犯罪ニ因リ害ヲ被リタル者ハ告訴ヲ為スコトヲ得
被害者ノ法定代理人又ハ夫ハ独立シテ告訴ヲ為スコトヲ得
被害者死亡シタルトキハ其ノ家督相続人又ハ親族告訴ヲ為スコトヲ得但シ被害者ノ明示シタル意思ニ反スルコトヲ得ス
前二項ノ規定ハ刑法第百八十三条ノ罪ニ之ヲ適用セス
第二百八十九条 前条第二項ノ場合ニ於テ被害者ノ法定代理人被告人ナルトキ、被告人ノ配偶者ナルトキ又ハ被告人ノ四親等内ノ血族若ハ三親等内ノ姻族ナルトキハ被害者ノ親族ハ独立シテ告訴ヲ為スコトヲ得
第二百九十条 刑法第二百三十条第二項ノ罪ニ付テハ死者ノ親族、遺族又ハ後裔告訴ヲ為スコトヲ得
第二百九十一条 前三条ノ規定ニ依リテ告訴ヲ為スコトヲ得ヘキ者ナキ場合ニ於テハ管轄軍法会議ノ検察官ハ利害関係人ノ申立ニ因リ告訴ヲ為スコトヲ得ヘキ者ヲ指定スルコトヲ得但シ刑法第百八十三条ノ罪ニ付テハ此ノ限ニ在ラス
第二百九十二条 親告罪ノ告訴ハ犯人ヲ知リタル時ヨリ六月内ニ之ヲ為スニ非サレハ其ノ効ナシ
刑法第二百二十九条但書ノ場合ニ於ケル告訴ハ婚姻ノ無効又ハ取消ノ裁判確定シタル時ヨリ六月内ニ之ヲ為スニ非サレハ其ノ効ナシ
第二百九十三条 告訴ヲ為スコトヲ得ヘキ者数人アル場合ニ於テ一人ノ期間ノ懈怠ハ他ノ者ニ其ノ効ヲ及ホサス
第二百九十四条 告訴ハ始審ノ判決ノ告知アル迄之ヲ取消スコトヲ得
告訴ノ取消ヲ為シタル者ハ更ニ告訴ヲ為スコトヲ得ス
前二項ノ規定ハ請求ヲ待チテ受理スヘキ事件ニ付テノ請求ニ之ヲ準用ス
第二百九十五条 親告罪ニ付共犯ノ一人又ハ数人ニ対シテ為シタル告訴又ハ其ノ取消ハ他ノ共犯ニ対シ亦其ノ効ヲ生ス
前項ノ規定ハ請求ヲ待チテ受理スヘキ事件ニ付テノ請求又ハ其ノ取消ニ之ヲ準用ス
刑法第百八十三条ノ罪ニ付相姦者ノ一人ニ対シ告訴又ハ其ノ取消アリタルトキハ他ノ一人ニ対シ亦其ノ効ヲ生ス
第二百九十六条 何人ニ限ラス犯罪アリト思料シタルトキハ告発ヲ為スコトヲ得
官吏又ハ公吏其ノ職務ヲ行フニ因リ犯罪アリト思料シタルトキハ告発ヲ為スヘシ
第二百九十七条 告訴又ハ告発ハ代理人ニ依リテ之ヲ為スコトヲ得
第二百九十八条 告訴又ハ告発ハ書面又ハ口頭ヲ以テ検察官、陸軍司法警察官、検事若ハ司法警察官又ハ之ニ相当スル官署ニ之ヲ為スヘシ
第二百九十九条 検察官、陸軍司法警察官、検事若ハ司法警察官又ハ相当官署口頭ノ告訴又ハ告発ヲ受ケタルトキハ調書ヲ作ルヘシ
第百八条第三項乃至第五項及第百十一条ノ規定ハ検察官又ハ陸軍司法警察官ノ作ルヘキ前項ノ調書ニ之ヲ準用ス
第三百条 検事若ハ司法警察官又ハ相当官署告訴又ハ告発ヲ受ケタルトキハ速ニ之ニ関スル書類及証拠物ヲ検察官又ハ陸軍司法警察官ニ送付スヘシ
第三百一条 告訴又ハ告発ノ取消又ハ変更ニ付テハ前四条ノ規定ヲ準用ス
第三百二条 自首ニ付テハ告発ニ関スル規定ヲ準用ス
第三百三条 検察官又ハ陸軍司法警察官捜査ヲ為スニ付テハ其ノ目的ヲ達スルニ必要ナル取調ヲ為スコトヲ得但シ強制ノ処分ハ別段ノ規定アル場合ニ非サレハ之ヲ為スコトヲ得ス
捜査ニ付テハ公務所ニ照会シテ必要ナル事項ノ報告ヲ求ムルコトヲ得
第三百四条 検察官捜査ヲ為スニ付強制ノ処分ヲ必要トスルトキハ予審請求前又ハ公訴提起前ト雖長官ノ認可ヲ受ケ押収、捜索、検証、被告人ノ勾留、被告人若ハ証人ノ訊問又ハ鑑定ノ処分ヲ予審官ニ請求スルコトヲ得
請求ヲ受ケタル予審官ノ処分ニ付テハ予審ニ関スル規定ヲ準用ス
第三百五条 予審官前条ノ処分ヲ為シタルトキハ速ニ之ニ関スル書類及証拠物ヲ検察官ニ送付スヘシ
第三百六条 陸軍司法警察官捜査ヲ為シタルトキハ長官ニ捜査ノ報告ヲ為シ又ハ検察官若ハ相当官署ニ事件ヲ送致スヘシ
捜査ノ報告ヲ為スニハ書類及証拠物ト共ニ報告書ヲ検察官ニ送付スヘシ
検察官前項ノ規定ニ依リ報告書ノ送付ヲ受ケタルトキハ意見ヲ附シ書類及証拠物ト共ニ之ヲ長官ニ提出スヘシ
第三百七条 検察官捜査ヲ為シタルトキハ書類及証拠物ニ意見書ヲ添ヘ長官ニ捜査ノ報告ヲ為シ又ハ管轄軍法会議ノ検察官若ハ相当官署ニ事件ヲ送致スヘシ
第三百八条 長官捜査ノ報告ヲ受ケタル場合ニ於テハ検察官ニ対シ左ノ命令ヲ為スヘシ
一 公訴ヲ提起スヘキモノト思料スルトキハ公訴提起ノ命令
二 予審ニ付スルノ必要アリト思料スルトキハ予審請求ノ命令
第三百九条 長官ハ前条ノ命令ヲ為ササル場合ニ於テ被告事件其ノ軍法会議ノ管轄ニ属セサルモノナルトキ又ハ軍法会議ノ裁判権ニ属セサルモノナルトキハ検察官ニ対シ其ノ事件ヲ管轄軍法会議ノ検察官又ハ相当官署ニ送致スヘキ旨ノ命令ヲ為スヘシ
検察官被告事件ノ送致ヲ為ス場合ニ於テ勾留セラレタル被告人ニ対シ勾留ヲ継続スル必要ナシト思料スルトキハ之ヲ釈放スヘシ
第三百十条 長官前二条ノ命令ヲ為ササルトキハ速ニ其ノ旨ヲ検察官ニ告知スヘシ
第三百十一条 検察官前条ノ規定ニ依ル告知ヲ受ケタルトキハ勾留シタル被告人ハ速ニ之ヲ釈放シ押収シタル物ハ速ニ之ヲ還付スヘシ但シ必要ナル場合ニ於テハ公訴ノ時効完成スルニ至ル迄之ヲ保管スルコトヲ得
第二節 予審
第三百十二条 予審ノ請求ハ検察官ノ属スル軍法会議ノ予審官ニ之ヲ為スヘシ
第三百十三条 同一事件ニ付数個ノ軍法会議ノ予審官ニ予審ノ請求アリタルトキハ高等軍法会議ハ検察官ノ請求ニ因リ決定ヲ以テ其ノ予審官中ヨリ予審ヲ為スヘキ者ヲ指定スヘシ
前項ノ決定アリタルトキハ予審官ハ書類及証拠物ヲ指定セラレタル予審官ニ送付スヘシ
第三百十四条 予審ノ請求ハ書面ヲ以テ之ヲ為スヘシ
予審ノ請求ハ急速ヲ要スル場合ニ限リ口頭又ハ予定ノ符号ヲ用井タル電報ヲ以テ之ヲ為スコトヲ得口頭又ハ電報ヲ以テ予審ノ請求ヲ為シタルトキハ之ヲ調書ニ記載シ予審官録事ト共ニ署名捺印スヘシ
第三百十五条 予審ノ請求ヲ為スニハ犯罪ノ事実ヲ示スヘシ
被告人分明ナルトキハ之ヲ指定スヘシ
被告人ノ指定ハ氏名ヲ以テシ氏名知レサルトキハ容貌、体格其ノ他ノ徴表ヲ以テスヘシ
予審請求ノ後被告人分明ト為リタルトキハ速ニ之ヲ指定シ予審官ニ通知スヘシ
第三百十六条 予審官ハ予審中検察官ノ指定セサル被告人ヲ発見シタル場合ニ於テ急速ヲ要スルトキハ検察官ノ指定ヲ待タス之ヲ被告人ト為スコトヲ得
前項ノ規定ニ依ル処分ヲ為シタルトキハ速ニ其ノ旨ヲ検察官ニ通知スヘシ
第三百十七条 予審官ハ予審中被告人ニ他ノ犯罪アルコトヲ認知シタル場合ニ於テ急速ヲ要スルトキハ検察官ノ請求ヲ待タス予審処分ヲ為スコトヲ得
前項ノ処分ヲ為シタルトキハ速ニ其ノ旨ヲ検察官ニ通知スヘシ
検察官前項ノ通知ヲ受ケタルトキハ意見ヲ附シ速ニ長官ニ報告スヘシ
第三百十八条 長官前条ノ報告ヲ受ケ予審ノ必要アリト思料スルトキハ予審ノ請求ヲ命スヘシ
予審官検察官ヨリ予審ヲ請求セサル旨ノ通知ヲ受ケタルトキ又ハ前条ノ通知ヲ為シタル時ヨリ四十八時間内ニ予審ノ請求ナキトキハ其ノ処分ヲ継続スルコトヲ得ス若シ被告人ヲ勾留シタルトキハ之ヲ釈放シ押収シタル物アルトキハ之ヲ還付スヘシ
第三百十九条 公訴ヲ受ケタル被告人ニ対シテハ同一事件ニ付予審ヲ為スコトヲ得ス
第三百二十条 予審官ハ予審請求ノ手続其ノ規定ニ違ヒタル為無効ナルトキ又ハ第三百三十二条、第三百三十七条若ハ第四百条ノ規定ニ違反シテ予審ヲ請求シタルトキハ予審ノ請求ヲ却下スヘシ
第三百二十一条 予審ハ事件カ公訴ヲ提起スヘキモノナリヤ否ヲ決スルニ必要ナル事項ヲ取調フルヲ以テ限度トス
公判ニ於テ取調ヘ難シト思料スル事項ニ付亦其ノ取調ヲ為スヘシ
第三百二十二条 予審官ハ公務所ニ照会シ必要ナル事項ノ報告ヲ求ムルコトヲ得
第三百二十三条 予審官ハ被告人ヲ訊問スヘシ
予審官ハ被告人ノ所在ニ就キ之ヲ訊問スルコトヲ得
第三百二十四条 予審官ハ予審終了前被告人ニ対シ嫌疑ヲ受ケタル原由ヲ告知シ弁解ヲ為サシムヘシ但シ被告人正当ノ事由ナクシテ出頭セサルトキハ此ノ限ニ在ラス
第三百二十五条 予審官ハ予審処分ノ一部ニ付其ノ軍法会議ノ予審官ニ補助ヲ求ムルコトヲ得
第三百二十六条 検察官及被告人ハ予審中何時ニテモ必要ナル予審処分ヲ予審官ニ請求スルコトヲ得
検察官ハ予審中何時ニテモ書類及証拠物ヲ閲覧スルコトヲ得
第三百二十七条 予審官ハ左ニ記載シタル場合ニ於テハ検察官ノ意見ヲ聴キ予審手続ヲ中止スルコトヲ得
一 被告人分明ナラサルトキ
二 被告人ノ所在分明ナラサルトキ
三 被告人心神喪失ノ状態ニ在ルトキ
第三百二十八条 予審中ノ事件ニ付高等軍法会議ノ管轄ニ属スルモノトシテ高等軍法会議ノ検察官ヨリ予審ノ請求アリタルトキハ予審官ハ予審手続ヲ止ムヘシ
第三百二十九条 予審官被告事件ニ付取調ヲ終了シタリト思料シタルトキハ書類及証拠物ヲ検察官ニ送付スヘシ
前項ノ場合ニ於テ検察官事項ヲ指示シテ取調ヲ請求シタルトキハ予審官ハ更ニ其ノ取調ヲ為シ之ニ関スル書類及証拠物ヲ検察官ニ送付スヘシ
第三百三十条 検察官前条ノ規定ニ依リ書類及証拠物ノ送付ヲ受ケタルトキハ之ニ意見書ヲ添ヘ長官ニ予審終了ノ報告ヲ為スヘシ
第三百三十一条 長官前条ノ報告ヲ受ケタルトキハ検察官ニ対シ左ノ命令ヲ為スヘシ
一 公訴ヲ提起スヘキモノト思料スルトキハ公訴提起ノ命令
二 不起訴ノ処分ヲ為スヘキモノト思料スルトキハ不起訴処分ノ命令
三 被告事件其ノ軍法会議ノ管轄ニ属セサルモノナルトキ又ハ軍法会議ノ裁判権ニ属セサルモノナルトキハ事件送致ノ命令
検察官前項第一号又ハ第二号ノ命令ニ依リ公訴提起又ハ不起訴処分ヲ為シタルトキハ其ノ旨ヲ予審官及被告人ニ通知スヘシ
第三百三十二条 被告人ニ対シ不起訴処分ヲ為シタル場合ニ於テハ新ナル事実又ハ証拠ヲ発見シタルトキニ非サレハ同一事件ニ付之ヲ予審ノ被告人ト為シ又ハ之ニ対シ公訴ヲ提起スルコトヲ得ス
第三百三十三条 検察官不起訴処分ヲ為シタルトキハ直ニ被告人ヲ釈放スヘシ
第三百三十四条 検察官不起訴処分ヲ為シタルトキハ直ニ押収物ヲ還付スヘシ但シ必要アル場合ニ於テハ公訴ノ時効完成スルニ至ル迄之ヲ還付セサルコトヲ得
押収シタル贓物ニシテ被害者ニ還付スヘキ理由明瞭ナルモノハ之ヲ被害者ニ還付スヘシ
前項ノ規定ハ民事訴訟ノ手続ニ従ヒ利害関係人ヨリ其ノ権利ヲ主張スルコトヲ妨ケス
第三百三十五条 検察官事件送致ノ命令ヲ受ケタルトキハ事件ヲ管轄軍法会議ノ検察官又ハ相当官署ニ送致スヘシ
前項ノ場合ニ於テ勾留セラレタル被告人ニ対シ勾留ヲ継続スル必要ナシト思料スルトキハ之ヲ釈放スヘシ
第三百三十六条 検察官ハ長官ノ命令ニ依リ予審ノ請求ヲ取消スコトヲ得予審ノ請求ヲ取消シタル場合ニ於テ被告人トシテ訊問ヲ受ケタル者アルトキハ其ノ旨ヲ之ニ通知スヘシ
予審請求取消前ニ為シタル処分ハ其ノ効力ヲ有ス
予審請求ノ取消ニ付テハ第三百十四条ノ規定ヲ準用ス
第三百三十七条 第三百三十二条乃至第三百三十四条ノ規定ハ予審ノ請求ヲ取消シタル場合ニ之ヲ準用ス
第三百三十八条 第三百七十九条及第三百八十一条ノ規定ハ予審ニ之ヲ準用ス但シ同条中裁判長又ハ軍法会議トアルハ予審官トス
第三節 公訴
第三百三十九条 公訴ハ検察官ノ指定シタル以外ノ者ニ其ノ効力ヲ及ホサス
第三百四十条 検察官ハ長官ノ命令ニ依リ公訴ヲ取消スコトヲ得
公訴ノ取消ハ書面ニ依リ之ヲ為スヘシ
第三百四十一条 時効ハ左ノ期間ヲ経過スルニ因リテ完成ス
一 死刑ニ該ル罪ニ付テハ十五年
二 無期ノ懲役又ハ禁錮ニ該ル罪ニ付テハ十年
三 長期十年以上ノ懲役又ハ禁錮ニ該ル罪ニ付テハ七年
四 長期十年未満ノ懲役又ハ禁錮ニ該ル罪ニ付テハ五年
五 長期五年未満ノ懲役若ハ禁錮又ハ罰金ニ該ル罪ニ付テハ三年
六 刑法第百八十五条ノ罪ニ付テハ六月
七 拘留又ハ科料ニ該ル罪ニ付テハ六月
第三百四十二条 二以上ノ主刑ヲ併科シ又ハ二以上ノ主刑中其ノ一ヲ科スヘキ罪ノ時効ハ其ノ重キ刑ニ該ル罪ニ付定メタル期間ニ従フ
第三百四十三条 刑法ニ依リ刑ヲ加重又ハ減軽スヘキ場合ニ於テハ時効ハ加重又ハ減軽セサル刑ニ該ル罪ニ付定メタル期間ニ従フ
第三百四十四条 時効ハ犯罪行為ノ終リタル時ヨリ進行ス
数人共犯ノ場合ニ於テハ最終ノ行為アリタル時ヨリ総テノ共犯ニ対シテ時効ノ期間ヲ起算ス
第三百四十五条 時効ハ公訴ノ提起、予審ノ請求、公判若ハ予審ノ処分又ハ第三百四条ニ定メタル予審官ノ処分ニ因リ中断ス
共犯ノ一人ニ対シテ為シタル手続ニ因ル時効ノ中断ハ他ノ共犯ニ対シ効力ヲ有ス
第三百四十六条 時効ハ中断ノ事由ノ終了シタル時ヨリ更ニ進行ス
第三百四十七条 時効ハ第三百二十七条第三号ノ規定ニ依リ予審手続ヲ中止シ又ハ第三百九十六条ノ規定ニ依リ公判手続ヲ停止シタル期間内ハ進行セス
第三百四十八条 公訴提起ノ命令ハ書面ニ依リ之ヲ為ス
公訴提起ノ命令ヲ為スニハ被告人ヲ指定シ犯罪事実ヲ示スヘシ
第三百四十九条 公訴ノ提起ハ公訴状ニ依リ之ヲ為ス
第三百五十条 公訴ヲ提起スルニハ被告人ヲ指定シ犯罪ノ事実及罪名ヲ示スヘシ
第三百五十一条 告訴ニ係ル事件ニ付公訴ヲ提起シ若ハ之ヲ提起セス又ハ其ノ事件ヲ他ノ軍法会議ノ検察官若ハ相当官署ニ送致シタルトキハ検察官ハ速ニ其ノ旨ヲ告訴人ニ通知スヘシ
第四節 公判
第三百五十二条 裁判長ハ公判期日ヲ定ムヘシ
期日ニハ被告人、弁護人及輔佐人ヲ召喚スヘシ
第百四十一条及第百五十四条ノ規定ハ弁護人及輔佐人ノ召喚ニ之ヲ準用ス
期日ハ之ヲ検察官ニ通知スヘシ
第三百五十三条 第一回ノ期日ト被告人ニ対スル召喚状ノ送達トノ間ニハ少クトモ三日ノ猶予期間ヲ存スヘシ但シ特設軍法会議ニ於テハ此ノ限ニ在ラス
被告人異議ナキトキハ前項ノ猶予期間ヲ存セサルコトヲ得
第三百五十四条 裁判長ハ期日ヲ変更スルコトヲ得
期日ノ変更ニ関スル請求ヲ却下スル命令ハ之ヲ送達スルコトヲ要セス
第三百五十五条 軍法会議ハ第一回ノ期日ニ於ケル取調準備ノ為期日前被告人ノ訊問ヲ為シ又ハ受命裁判官ヲシテ之ヲ為サシムルコトヲ得
第三百五十六条 軍法会議ハ第一回ノ期日ニ於ケル取調ノ為期日前証拠物若ハ証拠書類ノ提出ヲ命シ又ハ証人、鑑定人、通事若ハ翻訳人ニ対シ期日ニ出頭スヘキ旨ノ召喚状ヲ発スルコトヲ得
前項ノ規定ニ依リ召喚スル証人、鑑定人、通事又ハ翻訳人ノ氏名ハ直ニ之ヲ訴訟関係人ニ通知スヘシ
検察官、被告人又ハ弁護人ハ第一項ノ処分ヲ軍法会議ニ請求スルコトヲ得
前項ノ請求ヲ却下スルトキハ決定ヲ以テ之ヲ為スヘシ
前四項ノ規定ハ第二回以後ノ期日ニ於ケル取調ニ関シ之ヲ準用ス
第三百五十七条 検察官、被告人又ハ弁護人ハ期日前証拠物又ハ証拠書類ヲ軍法会議ニ提出スルコトヲ得
第三百五十八条 軍法会議ハ証人疾病其ノ他ノ事由ニ因リ期日ニ出頭スルコト能ハスト思料スルトキハ期日前之ヲ訊問シ又ハ受命裁判官ヲシテ訊問セシムルコトヲ得
検察官及弁護人ハ前項ノ訊問ニ立会フコトヲ得
第二百八条ノ規定ハ前項ノ場合ニ之ヲ準用ス
第三百五十九条 軍法会議ハ急速ヲ要スル場合ニ於テハ期日前鑑定若ハ翻訳ヲ為サシメ又ハ押収、捜索若ハ検証ヲ為スコトヲ得
第三百六十条 軍法会議ハ期日前公務所ニ照会シ必要ナル事項ノ報告ヲ求ムルコトヲ得
第三百六十一条 期日ニ於ケル取調ハ公判廷ニ於テ之ヲ為ス
公判廷ハ裁判官、検察官及録事列席シテ之ヲ開ク
第三百六十二条 公判数日引続クヘキ見込アル事件ニ付テハ長官ハ判士一人又ハ二人ニ補充裁判官ヲ命シ公判ニ立会ハシムルコトヲ得
補充裁判官ハ其ノ官等被告人ヨリ下ルコトヲ得ス
裁判長以外ノ判士疾病其ノ他ノ事故ニ因リ引続キ干与スルコトヲ得サル場合ニ於テハ裁判長ハ第四十九条又ハ第五十一条乃至第五十五条ニ規定スル区別ニ拘ラス補充裁判官ヲシテ之ニ代ラシムヘシ
第三百六十三条 被告人期日ニ出頭セサルトキハ別段ノ規定アル場合ヲ除クノ外開廷スルコトヲ得ス
第三百六十四条 罰金以下ノ刑ニ該ル事件ノ被告人ハ代人ヲシテ出頭セシムルコトヲ得但シ軍法会議ハ本人ノ出廷ヲ命スルコトヲ得
第三百六十五条 被告人ハ公判廷ニ於テ身体ノ拘束ヲ受クルコトナシ但シ之ニ看守者ヲ附スルコトヲ得
第三百六十六条 被告人ハ裁判長ノ許可アルニ非サレハ退廷スルコトヲ得ス
裁判長ハ被告人ヲシテ在廷セシムル為相当ノ処分ヲ為スコトヲ得
第三百六十七条 死刑又ハ無期若ハ短期一年以上ノ懲役若ハ禁錮ニ該ル事件ニ付テハ弁護人ナクシテ開廷スルコトヲ得ス但シ判決ノ宣告ヲ為ス場合ハ此ノ限ニ在ラス
弁護人出廷セサルトキ又ハ弁護人ノ選任ナキトキハ裁判長ハ職権ヲ以テ弁護人ヲ附スヘシ
第三百六十八条 左ノ場合ニ於テ弁護人出廷セサルトキ又ハ弁護人ノ選任ナキトキハ検察官ノ意見ヲ聴キ決定ヲ以テ弁護人ヲ附スルコトヲ得
一 被告人心神喪失者又ハ心神耗弱者タル疑アルトキ
二 被告人聾者又ハ唖者ナルトキ
三 其ノ他必要ト認メタルトキ
第三百六十九条 前二条ノ規定ニ依リ附スヘキ弁護人ハ第八十八条ニ記載シタル者ヨリ裁判長之ヲ選任スヘシ
被告人ノ利害相反セサルトキハ同一ノ弁護人ヲシテ数人ノ弁護ヲ為サシムルコトヲ得
第三百七十条 前三条ノ規定ハ特設軍法会議ニ付テハ之ヲ適用セス
第三百七十一条 弁論ハ之ヲ公開ス
第三百七十二条 安寧秩序若ハ風俗ヲ害シ又ハ軍事上ノ利益ヲ害スル虞アルトキハ弁論ノ公開ヲ停ムル決定ヲ為スコトヲ得
第三百七十三条 弁論ノ公開ヲ停ムル決定アリタルトキハ公衆ヲ退廷セシムル前裁判長ハ其ノ決定ヲ理由ト共ニ宣告スヘシ
第三百七十四条 裁判長ハ公開ヲ停メタルトキト雖入廷セシムルヲ至当ト認ムル者ノ入廷ヲ許スコトヲ得
第三百七十五条 裁判長ハ被告人ノ部下ニ属スル者又ハ被告人ヨリ官等、等級若ハ階級ノ下ナル第一条第一項第一号ニ記載シタル者ノ入廷ヲ禁シ又ハ其ノ退廷ヲ命スルコトヲ得
第三百七十六条 裁判長ハ婦女、児童又ハ相当ナル衣服ヲ著セサル者ノ入廷ヲ禁シ又ハ其ノ退廷ヲ命スルコトヲ得
第三百七十七条 前二条ノ規定ニ依ル処分ヲ為シタルトキハ其ノ処分及理由ヲ公判調書ニ記載スヘシ
第三百七十八条 開廷中ノ秩序ノ維持ハ裁判長之ヲ行フ
第三百七十九条 裁判長ハ弁論ヲ妨クル者又ハ不当ノ行状ヲ為ス者ヲ法廷ヨリ退カシムルコトヲ得
裁判長ハ前項ニ記載シタル者ノ行状ニ依リ閉廷ニ至ル迄之ヲ留置スルコトヲ得此ノ場合ニ於テハ軍法会議ハ決定ヲ以テ五十円以下ノ過料ニ処スルコトヲ得
第三百八十条 裁判長ハ不当ノ言語ヲ用井ル弁護人ニ対シ同一事件ニ付引続キ陳述スルコトヲ禁スルコトヲ得
第三百八十一条 前二条ノ規定ニ依ル処分ヲ為シタルトキハ其ノ処分及理由ヲ公判調書ニ記載スヘシ
前項ノ場合ニ於テ懲戒処分ニ付スヘキモノト思料スルトキハ裁判長ハ公判調書ノ写ヲ添ヘ其ノ旨ヲ相当官署ニ通知スヘシ
第三百八十二条 弁論ノ指揮ハ裁判長之ヲ行フ
第三百八十三条 事実ノ認定ハ証拠ニ依ル
第三百八十四条 証拠ノ証明力ハ裁判官ノ自由ナル判断ニ任ス
第三百八十五条 被告人ノ訊問及証拠調ハ裁判長之ヲ為スヘシ
裁判長以外ノ裁判官ハ裁判長ニ告ケ被告人、証人又ハ鑑定人ヲ訊問スルコトヲ得
検察官、被告人又ハ弁護人ハ必要トスル事項ニ付被告人、証人又ハ鑑定人ヲ訊問スヘキコトヲ裁判長ニ請求スルコトヲ得
第三百八十六条 裁判長ハ共同被告人、証人其ノ他ノ者被告人ノ面前ニ於テ十分ナル供述ヲ為スコトヲ得サルヘシト思料スルトキハ其ノ供述中被告人ヲ退廷セシムルコトヲ得供述終リタルトキハ被告人ヲ入廷セシメ供述ノ要旨ヲ告クヘシ
第三百八十七条 証拠書類ハ裁判長之ヲ朗読シ若ハ其ノ要旨ヲ告ケ又ハ録事ヲシテ朗読セシムヘシ
証拠物ハ裁判長之ヲ被告人ニ示スヘシ
第三百八十八条 期日前訴訟関係人ヨリ提出シタル証拠物又ハ証拠書類ハ公判廷ニ於テ之ヲ取調フヘシ第三百五十八条又ハ第三百五十九条ノ規定ニ依リ集取シタルモノ亦同シ但シ訴訟関係人異議ナキモノハ之ヲ取調ヘサルコトヲ得
第三百八十九条 証拠調ノ請求ヲ却下スルトキハ決定ヲ以テ之ヲ為スヘシ
新期日ノ指定其ノ他別段ノ手続ヲ必要トスル証拠調ハ決定ニ依リ之ヲ為スヘシ
第三百九十条 裁判長被告人ニ対シ第百八十六条ノ訊問ヲ為シタル後検察官ハ被告事件ノ要旨ヲ陳述スヘシ
前項ノ陳述終リタルトキハ裁判長ハ被告人ノ訊問及証拠調ヲ為スヘシ
第三百九十一条 裁判長ハ各個ノ証拠ニ付取調ヲ終ヘタル毎ニ被告人ニ意見アリヤ否ヲ問フヘシ
裁判長ハ被告人ニ対シ其ノ利益ト為ルヘキ証拠ヲ差出スコトヲ得ヘキ旨ヲ告クヘシ
第三百九十二条 証拠調終リタル後検察官ハ事実及法律ノ適用ニ付意見ヲ陳述スヘシ
被告人及弁護人ハ意見ヲ陳述スルコトヲ得
弁論ノ最終ニハ被告人又ハ弁護人ヲシテ陳述セシムヘシ
第三百九十三条 軍法会議ハ必要アル場合ニ於テハ弁論ヲ再開スルコトヲ得
第三百九十四条 軍法会議ハ計算其ノ他繁雑ナル事項ニ付公判廷ニ於テ取調フルコトヲ不便トスルトキハ受命裁判官ヲシテ其ノ取調ヲ為サシムルコトヲ得
前項ノ取調ヲ為ス場合ニ於テハ受命裁判官ハ予審官ト同一ノ権ヲ有ス
受命裁判官ハ取調ノ結果ニ付報告ヲ為スヘシ
第三百九十五条 裁判長ハ裁判官ノ一人ヲシテ被告人ノ訊問、証拠調又ハ弁論ノ指揮ニ関スル事項ヲ行ハシムルコトヲ得
第三百九十六条 被告人心神喪失ノ状態ニ在ルトキハ検察官ノ意見ヲ聴キ決定ヲ以テ其ノ状態ノ継続スル間公判手続ヲ停止スヘシ
被告人疾病ニ因リテ出廷スルコト能ハサルトキハ検察官ノ意見ヲ聴キ決定ヲ以テ出廷スルコトヲ得ルニ至ル迄公判手続ヲ停止スヘシ
第三百六十四条ノ規定ニ依リ代人ヲ出廷セシメタル場合ニ於テハ前二項ノ規定ヲ適用セス
第三百九十七条 開廷後被告人ノ心神喪失ニ因リ公判手続ヲ停止シ又ハ其ノ他ノ事由ニ因リ引続キ十五日以上開廷セサリシ場合ニ於テハ弁論ヲ更新スヘシ
第三百九十八条 開廷後裁判官ノ更迭アリタルトキハ弁論ヲ更新スヘシ但シ判決ノ宣告ヲ為ス場合ハ此ノ限ニ在ラス
第三百九十九条 左ノ場合ニ於テハ決定ヲ以テ公訴ヲ棄却スヘシ
一 公訴ノ取消アリタルトキ
二 被告人死亡シタルトキ
三 第二十四条又ハ第二十五条ノ規定ニ依リ審判ヲ為スヘカラサルトキ
第四百条 公訴ノ取消ニ因リ公訴棄却ノ決定アリタルトキハ再ヒ公訴ヲ提起シ又ハ予審ヲ請求スルコトヲ得ス
第四百一条 被告事件軍法会議ノ管轄ニ属セサルトキハ判決ヲ以テ管轄違ノ言渡ヲ為スヘシ
第四百二条 被告事件ニ付犯罪ノ証明アリタルトキハ判決ヲ以テ刑ノ言渡ヲ為スヘシ
刑ノ執行猶予ノ言渡ハ刑ノ言渡ト同時ニ判決ヲ以テ之ヲ為スヘシ
第四百三条 被告事件罪ト為ラス又ハ犯罪ノ証明ナキトキハ判決ヲ以テ無罪ノ言渡ヲ為スヘシ
第四百四条 左ノ場合ニ於テハ判決ヲ以テ免訴ノ言渡ヲ為スヘシ
一 確定判決ヲ経タルトキ
二 犯罪後ノ法令ニ因リ刑ノ廃止アリタルトキ
三 刑ヲ免除スヘキトキ
四 大赦アリタルトキ
五 時効完成シタルトキ
第四百五条 左ノ場合ニ於テハ判決ヲ以テ公訴棄却ノ言渡ヲ為スヘシ
一 長官ノ命令ナクシテ公訴ヲ提起シタルトキ
二 公訴提起ノ手続其ノ規定ニ違ヒタル為無効ナルトキ
三 第三百三十二条、第三百三十七条又ハ第四百条ノ規定ニ違反シテ公訴ヲ提起シタルトキ
四 告訴又ハ請求ヲ待チテ受理スヘキ事件ニ付告訴又ハ請求ノ取消アリタルトキ
五 公訴ノ提起アリタル事件ニ付更ニ同一軍法会議ニ公訴ヲ提起シタルトキ
六 被告人ニ対シテ裁判権ヲ有セサルトキ
第四百六条 被告人陳述ヲ肯セス若ハ許可ヲ受ケスシテ退廷シ又ハ秩序維持ノ為裁判長ヨリ退廷ヲ命セラレタルトキハ其ノ陳述ヲ聴カスシテ判決ヲ為スコトヲ得
第四百七条 罰金以下ノ刑ニ該ルモノ又ハ罰金以下ノ刑ニ処スヘキモノト認ムル事件ニ付被告人出廷セサルトキハ其ノ後ノ取調ニ因リ禁錮以上ノ刑ニ処スヘキモノト認ムル場合ヲ除クノ外被告人ノ陳述ヲ聴カスシテ判決ヲ為スコトヲ得
第四百八条 弁論終結ノ後ハ被告人出廷セスト雖宣告ニ依リ判決ヲ告知ス
第四百九条 判決ノ宣告ハ公開シテ之ヲ為ス但シ弁論ノ公開ヲ停メタル事件ニ付テハ決定ヲ以テ理由ノ告知ニ限リ公開セスシテ之ヲ為スコトヲ得
第三百七十三条ノ規定ハ前項ノ決定アリタル場合ニ之ヲ準用ス
第四百十条 無罪、免訴、刑ノ執行猶予、公訴棄却、管轄違又ハ罰金若ハ科料ノ言渡ヲ為シタルトキハ其ノ事件ニ付勾留セラレタル被告人ニ対シ放免ノ言渡アリタルモノトス
公訴棄却又ハ管轄違ノ言渡ヲ為ス場合ニ於テハ軍法会議ハ前ニ発シタル勾留状ヲ存シ又ハ新ニ之ヲ発スルコトヲ得
勾留状ヲ存シ又ハ新ニ之ヲ発シタル事件ニ付三日内ニ公訴ヲ提起セス又ハ管轄軍法会議ノ検察官ニ事件ヲ送致セサルトキハ検察官ハ直ニ被告人ヲ釈放スヘシ被告事件ノ送致ヲ受ケタル検察官五日内ニ公訴ヲ提起セサルトキ亦同シ
第四百十一条 押収シタル物ニ付没収ノ言渡ナキトキハ押収ヲ解ク言渡アリタルモノトス
公訴棄却又ハ管轄違ノ言渡ヲ為ス場合ニ於テハ軍法会議ハ押収ヲ存続スルコトヲ得
押収ヲ存続シタル事件ニ付三日内ニ公訴ヲ提起セス又ハ管轄軍法会議ノ検察官ニ事件ヲ送致セサルトキハ検察官ハ其ノ押収ヲ解クヘシ被告事件ノ送致ヲ受ケタル検察官五日内ニ公訴ヲ提起セサルトキ亦同シ
第四百十二条 押収シタル贓物ニシテ被害者ニ還付スヘキ理由明瞭ナルトキハ之ヲ被害者ニ還付スル言渡ヲ為スヘシ
贓物ノ対価トシテ得タル物ニ付被害者ヨリ交付ヲ請求シタルトキハ前項ノ例ニ依ル
仮ニ還付シタル物ニ付別段ノ言渡ナキトキハ還付ノ言渡アリタルモノトス
第四百十三条 犯罪ニ因リ生シタル損害ニ付被害者ヨリ被告人ニ対シ其ノ回復ヲ請求シタル場合ニ於テ被告事件ノ取調ニ因リ其ノ請求ヲ相当ナリト認メタルトキハ被告人異議ナキトキニ限リ其ノ請求ニ応スヘキ旨ノ言渡ヲ為スコトヲ得
第四百十四条 前二条ノ規定ハ民事訴訟ノ手続ニ従ヒ利害関係人ヨリ其ノ権利ヲ主張スルコトヲ妨ケス
第四百十五条 刑ノ執行猶予ノ言渡ヲ取消スヘキ場合ニ於テハ刑ノ言渡ヲ為シタル軍法会議又ハ刑ノ言渡ヲ受ケタル者ノ所在地若ハ所属部隊ノ軍法会議ノ検察官其ノ軍法会議ニ請求ヲ為スヘシ但シ高等軍法会議ニ於テ刑ノ言渡ヲ為シタル事件ニ付テハ高等軍法会議ノ検察官高等軍法会議ニ請求ヲ為スヘシ
第二十七条ノ規定ニ依リ審判ヲ為シタル事件ニ付テハ刑ノ言渡ヲ為シタル軍法会議又ハ高等軍法会議ニ前項ノ請求ヲ為スヘシ
前二項ノ請求アリタルトキハ軍法会議ハ被告人又ハ其ノ代理人ノ意見ヲ聴キ決定ヲ為スヘシ
第四百十六条 刑法第五十二条又ハ第五十八条ノ規定ニ依リ刑ヲ定ムヘキ場合ニ於テハ其ノ犯罪事実ニ付最終ノ判決ヲ為シタル軍法会議ノ検察官其ノ軍法会議ニ請求ヲ為スヘシ
軍法会議前項ノ請求ヲ受ケタルトキハ被告人又ハ其ノ代理人ノ意見ヲ聴キ決定ヲ為スヘシ
第四百十七条 本節中審判ノ公開ニ関スル規定ハ之ヲ特設軍法会議ノ訴訟手続ニ適用セス
第三章 上告及非常上告
第四百十八条 上告ハ師団軍法会議ノ判決ニ対シテ之ヲ為スコトヲ得
第四百十九条 上告ハ判決ノ一部ニ対シテ之ヲ為スコトヲ得其ノ部分ヲ限ラサルトキハ判決ノ全部ニ対シテ為シタルモノトス
第四百二十条 上告ハ検察官又ハ被告人之ヲ為スコトヲ得
第四百二十一条 被告人ノ法定代理人、保佐人又ハ夫ハ被告人ノ為独立シテ上告ヲ為スコトヲ得
第四百二十二条 原審ノ弁護人又ハ代人ハ被告人ノ為上告ヲ為スコトヲ得但シ被告人ノ明示シタル意思ニ反スルコトヲ得ス
第四百二十三条 上告ハ法令違反ヲ理由トスルトキニ限リ之ヲ為スコトヲ得
第四百二十四条 左ノ場合ニ於テハ常ニ上告ノ理由アルモノトス
一 法律ニ従ヒ軍法会議ヲ構成セサリシトキ
二 法律ニ依リ職務ノ執行ヨリ除斥セラルヘキ裁判官審判ニ干与シタトキ
三 審理ニ干与セサリシ裁判官判決ニ干与シタルトキ
四 軍法会議不当ニ管轄又ハ管轄違ヲ認メタルトキ
五 軍法会議不当ニ公訴ヲ受理シ又ハ之ヲ棄却シタルトキ
六 審判ノ公開ニ関スル規定ニ違ヒタルトキ
七 法律ニ別段ノ規定アル場合ヲ除クノ外被告人ノ出廷ナクシテ審判ヲ為シタルトキ
八 公判廷ニ於テ被告人ノ身体ヲ拘束シタルトキ
九 法律ニ依リ弁護人ヲ要スル事件又ハ決定ニ依リ弁護人ヲ附シタル事件ニ付其ノ出廷ナクシテ審理ヲ為シタルトキ
十 検察官ノ為ス被告事件ノ陳述ヲ聴カスシテ審判ヲ為シタルトキ
十一 法律ニ依リ公判ニ於テ取調フヘキ証拠ノ取調ヲ為ササリシトキ
十二 公判ニ於テ為シタル証拠調ノ請求ニ付決定ヲ為スヘキ場合ニ於テ之ヲ為ササリシトキ
十三 法律ニ依リ公判手続ヲ停止又ハ更新スヘキ事由アル場合ニ於テ之ヲ停止又ハ更新セサリシトキ
十四 弁論ノ最終ニ被告人又ハ弁護人ヲシテ陳述ヲ為サシメサリシトキ
十五 請求ヲ受ケタル事項ニ付判決ヲ為サス又ハ請求ヲ受ケサル事項ニ付判決ヲ為シタルトキ
十六 判決ニ理由ヲ附セス又ハ理由ニ齟齬アルトキ
十七 判決書ニ裁判官ノ署名若ハ捺印又ハ契印ヲ欠キタルトキ
第四百二十五条 前条ノ場合ヲ除クノ外法令ニ違反シタルコトアリト雖判決ニ影響ヲ及ホササルコト明白ナルトキハ之ヲ上告ノ理由ト為スコトヲ得ス
第四百二十六条 判決アリタル後刑ノ廃止若ハ変更又ハ大赦アリタルトキハ之ヲ上告ノ理由ト為スコトヲ得
第四百二十七条 上告ノ提起期間ハ三日トス
前項ノ期間ハ判決告知ノ時ヲ以テ始ル
第四百二十八条 検察官又ハ被告人ハ上告ノ抛棄又ハ取下ヲ為スコトヲ得但シ被告人ハ第四百二十一条ニ記載シタル者ノ同意ヲ得ルニ非サレハ抛棄又ハ取下ヲ為スコトヲ得ス
第四百二十九条 第四百二十一条ニ記載シタル者ハ被告人ノ同意ヲ得テ上告ノ取下ヲ為スコトヲ得
第四百三十条 上告ハ対手人ノ同意アルニ非サレハ之ヲ取下クルコトヲ得ス
第四百三十一条 上告抛棄ノ申立ハ原軍法会議ニ之ヲ為スヘシ
上告取下ノ申立ハ高等軍法会議ニ之ヲ為スヘシ但シ書類ヲ高等軍法会議ノ検察官ニ送付スル前上告ノ取下ヲ為ス場合ニ於テハ其ノ申立書ヲ原軍法会議ニ差出スコトヲ得
第四百三十二条 上告ノ抛棄又ハ取下ノ申立ハ書面ヲ以テ之ヲ為スヘシ但シ公判廷ニ於テハ口頭ヲ以テ之ヲ為スコトヲ得此ノ場合ニ於テハ其ノ申立ヲ公判調書ニ記載スヘシ
第四百三十三条 上告ノ抛棄又ハ取下ヲ為シタル者ハ上告権ヲ喪失ス
第四百三十四条 第四百二十条乃至第四百二十二条ニ記載シタル者自己又ハ代人ノ責ニ帰スヘカラサル事由ニ因リ上告ノ提起期間内ニ上告ヲ為スコト能ハサリシトキハ原軍法会議ニ上告権回復ノ請求ヲ為スコトヲ得
第四百三十五条 上告権回復ノ請求ハ事由ノ止ミタル時ヨリ三日内ニ書面ヲ以テ之ヲ為スヘシ
上告権回復ノ原因タル事実ハ之ヲ疏明スヘシ
上告権回復ノ請求ヲ為ス者ハ其ノ請求ト同時ニ原軍法会議ニ上告ノ申立書ヲ差出スヘシ
第四百三十六条 原軍法会議ハ検察官ノ意見ヲ聴キ上告権回復ノ請求ヲ許スヘキカ否ヲ決定スヘシ
第四百三十七条 上告権回復ノ請求アリタルトキハ前条ノ決定ヲ為ス迄裁判ノ執行ヲ停止スル決定ヲ為スコトヲ得
前項ノ規定ニ依リ裁判ノ執行ヲ停止スル決定ヲ為ストキハ被告人ニ対シ勾留状ヲ発スルコトヲ得
第四百三十八条 上告ヲ為スニハ申立書ヲ原軍法会議ニ差出スヘシ
第四百三十九条 監獄ニ在ル者上告ヲ為スニハ監獄ノ長又ハ其ノ代理者ヲ経由シテ其ノ申立書ヲ差出スヘシ此ノ場合ニ於テ上告ノ提起期間内ニ申立書ヲ監獄ノ長又ハ其ノ代理者ニ差出シタルトキハ上告申立ノ効力ヲ生ス
監獄ニ在ル者自ラ申立書ヲ作ルコト能ハサルトキハ監獄ノ長又ハ其ノ代理者ハ之ヲ代書シ又ハ所属官吏ヲシテ之ヲ代書セシムヘシ
監獄ノ長又ハ其ノ代理者ハ原軍法会議ニ申立書ヲ送付シ且之ヲ受取リタル年月日時ヲ通知スヘシ
第四百四十条 前条ノ規定ハ上告ノ抛棄若ハ取下又ハ上告権回復ノ請求ヲ為ス場合ニ之ヲ準用ス
第四百四十一条 上告ノ申立、抛棄若ハ取下又ハ上告権回復ノ請求アリタルトキハ録事ハ速ニ之ヲ対手人ニ通知スヘシ
第四百四十二条 上告ノ申立法律上ノ方式ニ違ヒ又ハ上告権消滅後ニ為シタルモノナルトキハ原軍法会議ハ検察官ノ意見ヲ聴キ決定ヲ以テ之ヲ棄却スヘシ
第四百四十三条 前条ノ場合ヲ除クノ外原軍法会議ハ書類ヲ其ノ軍法会議ノ検察官ニ送付シ検察官ハ之ヲ高等軍法会議ノ検察官ニ送付スヘシ
高等軍法会議ノ検察官ハ書類ヲ其ノ軍法会議ニ送付スヘシ
第四百四十四条 高等軍法会議ハ遅クトモ最初ニ定メタル公判期日ノ三十日前ニ其ノ期日ヲ上告人及対手人ニ通知スヘシ
最初ニ公判期日ヲ定ムル前弁護人ノ選任アリタルトキハ被告人ニ対スル前項ノ通知ハ弁護人ニ対シ之ヲ為スヘシ
第四百四十五条 上告人ハ遅クトモ最初ニ定メタル公判期日ノ十四日前ニ上告趣意書ヲ高等軍法会議ニ差出スヘシ
第四百四十六条 上告ノ対手人ハ最初ニ定メタル公判期日ノ十四日前迄上告ヲ為スコトヲ得
前項ノ上告ハ上告趣意書ヲ高等軍法会議ニ差出スニ依リテ之ヲ為ス
第四百四十七条 上告趣意書ニハ法令違反ノ理由ヲ明示スヘシ
訴訟手続ニ違反スルコトヲ理由トスル場合ニ於テハ尚違反ニ関スル事実ヲ表示スヘシ
第四百四十八条 高等軍法会議上告趣意書ヲ受取リタルトキハ速ニ其ノ謄本ヲ対手人ニ送達スヘシ
第四百四十九条 上告人期間内ニ上告趣意書ヲ差出ササルトキハ高等軍法会議ハ検察官ノ意見ヲ聴キ決定ヲ以テ上告ヲ棄却スヘシ
第四百五十条 上告ノ対手人ハ上告趣意書ノ謄本ノ送達ヲ受ケタル日ヨリ十日内ニ答弁書ヲ高等軍法会議ニ差出スコトヲ得
検察官対手人ナルトキハ重要ト認ムル上告ノ理由ニ付答弁書ヲ差出スヘシ
高等軍法会議答弁書ヲ受取リタルトキハ速ニ其ノ謄本ヲ上告人ニ送達スヘシ
第四百五十一条 裁判長ハ受命裁判官ヲシテ上告申立書、上告趣意書及答弁書ヲ閲シテ報告書ヲ作ラシムルコトヲ得
第四百五十二条 上告ノ審判ニ於テハ被告人ノ為ニスル弁論ハ弁護人ニ非サレハ之ヲ為スコトヲ得ス
第四百五十三条 期日ニハ受命裁判官ハ弁論前報告書ヲ朗読スヘシ
検察官及弁護人ハ上告趣意書ニ基キ弁論ヲ為スヘシ
第四百五十四条 弁護人出廷セサルトキ又ハ弁護人ノ選任ナキトキハ法律ニ依リ弁護人ヲ要スル場合又ハ決定ニ依リ弁護人ヲ附シタル場合ヲ除クノ外検察官ノ陳述ヲ聴キ判決ヲ為スヘシ
第四百五十五条 高等軍法会議ハ上告趣意書ニ包含セラレタル事項ニ限リ調査ヲ為スヘシ
軍法会議ノ管轄、公訴ノ受理及原判決ニ依リ定リタル事実ニ対スル法令ノ適用ノ当否ニ付テハ職権ヲ以テ調査ヲ為スコトヲ得原判決アリタル後ニ於ケル刑ノ廃止若ハ変更又ハ大赦ニ付亦同シ
第四百五十六条 高等軍法会議ハ軍法会議ノ管轄、公訴ノ受理及訴訟手続ノ当否ニ関シテハ事実ノ取調ヲ為スコトヲ得
前項ノ取調ハ受命裁判官ヲシテ之ヲ為サシメ又ハ他ノ軍法会議ノ予審官ニ之ヲ嘱託スルコトヲ得
第四百五十七条 上告ノ申立法律上ノ方式ニ違ヒ又ハ上告権消滅後ニ為シタルモノナルトキハ高等軍法会議ハ判決ヲ以テ上告ヲ棄却スヘシ
第四百五十八条 高等軍法会議上告ヲ理由ナシトスルトキハ判決ヲ以テ之ヲ棄却スヘシ
第四百五十九条 高等軍法会議上告ヲ理由アリトスルトキハ判決ヲ以テ原判決ヲ破毀スヘシ
前項ノ場合ニ於テハ其ノ事件ヲ原軍法会議ニ差戻シ又ハ原軍法会議以外ノ師団軍法会議ニ移送スヘシ但シ別段ノ規定アル場合ハ此ノ限ニ在ラス
第四百六十条 法令ヲ適用セサルコト、法令ノ適用ヲ誤リタルコト、判決アリタル後刑ノ廃止若ハ変更又ハ大赦アリタルコトヲ理由トシテ原判決ヲ破毀スル場合ニ於テ被告事件ノ事実原判決ニ依リ定リタルトキハ高等軍法会議ハ其ノ事件ニ付判決ヲ為スヘシ不当ニ公訴ヲ受理シタルコトヲ理由トシテ原判決ヲ破毀スルトキ亦同シ
第四百六十一条 不当ニ管轄違ヲ認メ又ハ公訴ヲ棄却シタルコトヲ理由トシテ原判決ヲ破毀スルトキハ判決ヲ以テ其ノ事件ヲ原軍法会議ニ差戻スヘシ
第四百六十二条 不当ニ管轄ヲ認メタルコトヲ理由トシテ原判決ヲ破毀スルトキハ判決ヲ以テ其ノ事件ヲ管轄軍法会議ニ移送スヘシ
第四百六十三条 上告ノ趣意及重要ナル答弁ノ要旨ハ之ヲ判決書ニ記載スヘシ
第四百六十四条 被告人上告ヲ為シ又ハ被告人ノ利益ノ為上告ヲ為シタル事件ニ付テハ高等軍法会議ハ原判決ニ定メタル刑ヨリ重キ刑ヲ言渡スコトヲ得ス
第四百六十五条 師団軍法会議不当ニ公訴棄却ノ決定ヲ為ササリシトキハ高等軍法会議ハ決定ヲ以テ公訴ヲ棄却スヘシ
第四百六十六条 事件ノ差戻又ハ移送ヲ受ケタル軍法会議ハ其ノ事件ニ付高等軍法会議ノ表示シタル法律上ノ意見ニ羈束セラル
第四百六十七条 上告ノ審判ニ付テハ本章ニ規定シタルモノヲ除クノ外第二編第二章第四節ノ規定ヲ準用ス
第四百六十八条 軍法会議ノ判決確定後其ノ判決法律ニ於テ罰セサル所為ニ対シ刑ヲ言渡シ又ハ相当ノ刑ヨリ重キ刑ヲ言渡シタルモノナルコトヲ発見シタルトキハ高等軍法会議ノ長官ハ検察官ヲシテ高等軍法会議ニ非常上告ヲ為サシムルコトヲ得
第四百六十九条 非常上告ヲ為スニハ其ノ理由ヲ記載シタル申立書ヲ高等軍法会議ニ差出スヘシ
第四百七十条 期日ニハ検察官ハ申立書ニ基キ陳述ヲ為スヘシ
第四百七十一条 高等軍法会議非常上告ヲ理由ナシトスルトキハ判決ヲ以テ之ヲ棄却スヘシ
第四百七十二条 高等軍法会議非常上告ヲ理由アリトスルトキハ原判決ヲ破毀シ更ニ判決ヲ為スヘシ但シ原判決ニ定メタル刑ヨリ重キ刑ヲ言渡スコトヲ得ス
第四章 再審
第四百七十三条 再審ノ請求ハ左ノ場合ニ於テ刑ノ言渡ヲ為シタル確定判決ニ対シテ刑ノ言渡ヲ受ケタル者ノ利益ノ為之ヲ為スコトヲ得
一 原判決ノ憑拠ト為リタル証拠書類又ハ証拠物確定判決ニ因リ偽造又ハ変造ナリシコト証明セラレタルトキ
二 原判決ノ憑拠ト為リタル証言、鑑定、通訳又ハ翻訳確定判決ニ因リ偽証又ハ虚偽ノ鑑定、通訳若ハ翻訳ナリシコト証明セラレタルトキ
三 刑ノ言渡ヲ受ケタル者ヲ誣告シタル罪確定判決ニ因リ証明セラレタルトキ但シ誣告ニ因リ刑ノ言渡ヲ受ケタルトキニ限ル
四 原判決ノ憑拠ト為リタル裁判確定裁判ニ因リ変更セラレタルトキ
五 刑ノ言渡ヲ受ケタル者ニ対シテ無罪又ハ免訴ヲ言渡スヘキ明確ナル証拠又ハ原判決ニ於テ認メタル罪ヨリ軽キ罪ヲ認ムヘキ明確ナル証拠ヲ新ニ発見シタルトキ
六 原判決ニ干与シタル裁判官、原判決ノ基礎ト為ルヘキ取調ニ干与シタル裁判官若ハ予審官、予審ニ干与シタル予審官、捜査若ハ公訴ノ提起ニ干与シタル検察官又ハ第三百四条ノ規定ニ依リ検察官ノ請求ヲ受ケテ処分ヲ為シタル予審官被告事件ニ付職務ニ関スル罪ヲ犯シタルコト確定判決ニ因リ証明セラレタルトキ但シ原判決ヲ為ス前裁判官、予審官又ハ検察官ニ対シテ公訴ノ提起アリタル場合ニ於テハ原判決ヲ為シタル軍法会議其ノ事実ヲ知ラサリシトキニ限ル
第四百七十四条 再審ノ請求ハ左ノ場合ニ於テ刑ノ言渡又ハ無罪、免訴若ハ公訴棄却ノ言渡ヲ為シタル確定判決ニ対シテ刑ノ言渡ヲ受ケタル者又ハ被告人タリシ者ノ不利益ノ為之ヲ為スコトヲ得
一 前条第一号、第二号、第四号又ハ第六号ニ記載シタル原由アルトキ
二 無罪又ハ相当ノ罪ヨリ軽キ罪ニ付刑ノ言渡ヲ受ケタル者軍法会議又ハ軍法会議外ニ於テ自白シタルトキ
三 免訴又ハ公訴棄却ノ言渡ヲ受ケタル者軍法会議又ハ軍法会議外ニ於テ其ノ原由ナカリシコトヲ陳述シタルトキ
第四百七十五条 再審ノ請求ハ左ノ場合ニ於テ上告ヲ棄却シタル判決ニ対シテ之ヲ為スコトヲ得
一 第四百五十六条ノ規定ニ依リ取調ヘタル事実ニ付第四百七十三条第一号、第二号又ハ第四号ニ記載シタル原由アルトキ
二 原判決又ハ其ノ基礎ト為ルヘキ取調ニ干与シタル裁判官又ハ予審官ニ第四百七十三条第六号ニ記載シタル原由アルトキ
始審ノ確定判決ニ対シテ再審ヲ請求シタル事件ニ付再審ノ判決アリタル後ハ上告棄却ノ判決ニ対シテ再審ノ請求ヲ為スコトヲ得ス
第四百七十六条 前三条ノ規定ニ従ヒ確定判決ニ因リ犯罪ノ証明セラレタルコトヲ再審ノ原由ト為スヘキ場合ニ於テ其ノ犯罪ニ付公訴ヲ実行スルコト能ハサルトキハ其ノ事由及犯罪事実ヲ証明シテ再審ノ請求ヲ為スコトヲ得
第四百七十七条 再審ノ請求ハ別段ノ規定アル場合ヲ除クノ外原判決ヲ為シタル軍法会議之ヲ管轄ス
第四百七十八条 第四百六十条ノ規定ニ依リ為シタル判決ニ対スル再審ノ請求ハ左ノ場合ヲ除クノ外始審ノ判決ヲ為シタル軍法会議之ヲ管轄ス
一 第四百五十六条ノ規定ニ依リ取調ヘタル事実ニ付第四百七十三条第一号、第二号又ハ第四号ニ記載シタル原由アリトスルトキ
二 高等軍法会議ノ判決又ハ其ノ基礎ト為ルヘキ取調ニ干与シタル裁判官又ハ予審官ニ第四百七十三条第六号ニ記載シタル原由アリトスルトキ
第四百七十九条 刑ノ言渡ヲ受ケタル者ノ利益ノ為ニスル再審ノ請求ハ左ニ記載シタル者之ヲ為スコトヲ得
一 管轄軍法会議ノ検察官
二 刑ノ言渡ヲ受ケタル者
三 刑ノ言渡ヲ受ケタル者ノ法定代理人、保佐人又ハ夫
四 刑ノ言渡ヲ受ケタル者死亡シ又ハ心神喪失ノ状態ニ在ル場合ニ於テハ其ノ配偶者、家督相続人、直系親族又ハ兄弟姉妹
第四百七十三条第六号又ハ第四百七十五条第一項第二号ノ場合ニ於テ刑ノ言渡ヲ受ケタル者ノ利益ノ為ニスル再審ノ請求ハ刑ノ言渡ヲ受ケタル者ノ行為ニ因リ罪ヲ犯スニ至ラシメタル場合ニ於テハ検察官ニ非サレハ之ヲ為スコトヲ得ス
刑ノ言渡ヲ受ケタル者又ハ被告人タリシ者ノ不利益ノ為ニスル再審ノ請求ハ管轄軍法会議ノ検察官之ヲ為スコトヲ得
第四百八十条 検察官ニ非サル者再審ノ請求ヲ為ス場合ニ於テハ弁護人ヲ選任スルコトヲ得但シ特設軍法会議ニ付テハ此ノ限ニ在ラス
前項ノ規定ニ依ル弁護人ノ選任ハ再審ノ判決アル迄其ノ効力ヲ有ス
第四百八十一条 再審ノ請求ハ刑ノ執行ヲ終ヘタルトキ又ハ其ノ執行ヲ受クルコトナキニ至リタルトキト雖之ヲ為スコトヲ得
第四百八十二条 刑ノ言渡ヲ受ケタル者又ハ被告人タリシ者ノ不利益ノ為ニスル再審ノ請求ハ判決確定後公訴ノ時効ニ付定メタル期間ヲ経過シタル後ニ於テハ之ヲ為スコトヲ得ス
第四百八十三条 再審ノ請求ハ刑ノ執行ヲ停止スル効力ヲ有セス但シ管轄軍法会議ノ検察官ハ長官ノ命令ニ依リ再審ノ請求ニ付テノ決定アル迄刑ノ執行ヲ停止スルコトヲ得
第四百八十四条 再審ノ請求ヲ為スニハ其ノ趣意書ニ原判決ノ謄本及証拠ヲ添ヘ之ヲ管轄軍法会議ニ差出スヘシ
第四百八十五条 再審ノ請求ハ之ヲ取下クルコトヲ得
第四百八十六条 第四百三十条、第四百三十二条、第四百三十九条及第四百四十一条ノ規定ハ再審ノ請求及其ノ取下ニ之ヲ準用ス
第四百八十七条 第四百六十条ノ規定ニ依リ為シタル判決ニ対シテ高等軍法会議及師団軍法会議ニ再審ノ請求アリタルトキハ高等軍法会議ハ決定ヲ以テ師団軍法会議ノ訴訟手続終了ニ至ル迄訴訟手続ヲ停止スヘシ始審ノ確定判決ト上告棄却ノ判決トニ対シテ再審ノ請求アリタルトキ亦同シ
第四百八十八条 再審ノ請求法律上ノ方式ニ違ヒタルモノナルトキハ決定ヲ以テ之ヲ棄却スヘシ
第四百八十九条 再審ノ請求ヲ理由ナシトスルトキハ決定ヲ以テ之ヲ棄却スヘシ
第四百九十条 再審ノ請求ヲ理由アリトスルトキハ再審開始ノ決定ヲ為スヘシ
再審開始ノ決定ヲ為シタルトキハ決定ヲ以テ刑ノ執行ヲ停止スルコトヲ得
第四百九十一条 第四百八十七条ノ場合ニ於テ師団軍法会議再審ノ請求ヲ受ケタル事件ニ付判決ヲ為シタルトキハ高等軍法会議ハ決定ヲ以テ再審ノ請求ヲ棄却スヘシ
第四百九十二条 再審ノ請求ニ付決定ヲ為ス場合ニ於テハ請求ヲ為シタル者及其ノ対手人ノ意見ヲ聴クヘシ但シ第四百七十九条第一項第三号ニ記載シタル者再審ノ請求ヲ為シタル場合ニ於テハ併セテ刑ノ言渡ヲ受ケタル者ノ意見ヲ聴クヘシ
第四百九十三条 再審開始ノ決定ヲ為シタル事件ニ付テハ其ノ審級ニ従ヒ更ニ審判ヲ為スヘシ
第四百九十四条 死亡者又ハ回復ノ見込ナキ心神喪失ノ状態ニ在ル者ノ利益ノ為再審ノ請求ヲ為シタル事件ニ付テハ公判ヲ開カス検察官及弁護人ノ意見ヲ聴キ判決ヲ為スヘシ此ノ場合ニ於テ再審ノ請求ヲ為シタル者弁護人ヲ選任セサルトキハ裁判長ハ第三百六十九条ノ規定ニ準シ職権ヲ以テ弁護人ヲ附スヘシ
刑ノ言渡ヲ受ケタル者ノ利益ノ為再審ノ請求ヲ為シタル事件ニ付再審ノ判決ヲ為ス前刑ノ言渡ヲ受ケタル者死亡シ又ハ心神喪失ノ状態ニ在リテ回復ノ見込ナキニ至リタルトキ亦前項ニ同シ
前二項ノ規定中弁護人ニ関スルモノハ特設軍法会議ニ付テハ之ヲ適用セス
第一項又ハ第二項ノ規定ニ依リ為シタル判決ニ対シテハ上告ヲ為スコトヲ得ス
第四百九十五条 刑ノ言渡ヲ受ケタル者又ハ被告人タリシ者ノ不利益ノ為再審ノ請求ヲ為シタル事件ニ付再審ノ判決ヲ為ス前刑ノ言渡ヲ受ケタル者又ハ被告人タリシ者死亡シタルトキハ再審ノ請求及其ノ請求ニ付為シタル決定ハ其ノ効力ヲ失フ
第四百九十六条 刑ノ言渡ヲ受ケタル者ノ利益ノ為為シタル再審ニ於テハ原判決ニ於テ言渡シタル刑ヨリ重キ刑ヲ言渡スコトヲ得ス
第四百九十七条 再審ニ於テ無罪ヲ言渡シタル判決確定シタルトキハ官報ヲ以テ其ノ判決ヲ公示スヘシ
第五章 裁判ノ執行
第四百九十八条 裁判ハ確定シタル後之ヲ執行ス
第四百九十九条 裁判ノ執行ハ其ノ裁判ヲ為シタル軍法会議ノ検察官又ハ其ノ裁判ヲ為シタル予審官ノ属スル軍法会議ノ検察官之ヲ指揮ス但シ其ノ性質上軍法会議、裁判長、受命裁判官又ハ予審官ノ為スヘキモノハ此ノ限ニ在ラス
上告ノ裁判又ハ上告ノ取下ニ因リ原軍法会議ノ裁判ヲ執行スヘキ場合ニ於テハ高等軍法会議ノ検察官其ノ執行ヲ指揮ス
前二項ノ場合ニ於テ訴訟書類原軍法会議ニ在ルトキハ其ノ軍法会議ノ検察官裁判ノ執行ヲ指揮ス
第五百条 裁判執行ノ指揮ハ書面ヲ以テ之ヲ為シ裁判書又ハ裁判ヲ記載シタル調書ノ謄本又ハ抄本ヲ添附スヘシ但シ刑ノ執行ヲ指揮スル場合ヲ除クノ外裁判書ノ原本、謄本若ハ抄本又ハ調書ノ謄本若ハ抄本ニ認印シテ之ヲ為スコトヲ得
第五百一条 二以上ノ主刑ノ執行ハ罰金及科料ヲ除クノ外其ノ重キモノヲ先ニス但シ検察官ハ長官ノ命令ニ依リ重キ刑ノ執行ヲ停止シ他ノ刑ノ執行ヲ為サシムルコトヲ得
第五百二条 死刑ノ執行ハ陸軍大臣ノ命令ニ依ル
第五百三条 死刑ヲ言渡シタル判決確定シタルトキハ検察官ハ速ニ訴訟記録ヲ長官ヲ経由シテ陸軍大臣ニ差出スヘシ
第五百四条 陸軍大臣死刑ノ執行ヲ命シタルトキハ五日内ニ其ノ執行ヲ為スヘシ
第五百五条 死刑ノ執行ハ検察官及録事ノ立会ニテ監獄ノ長之ヲ為スヘシ
長官ハ監獄ノ長ノ申請ニ因リ兵員ノ出場ヲ命スヘシ
検察官又ハ監獄ノ長ノ許可ヲ得タル者ノ外刑場ニ入ルコトヲ得ス
第五百六条 死刑ノ執行ニ立会ヒタル録事ハ執行始末書ヲ作リ検察官及監獄ノ長ト共ニ之ニ署名捺印スヘシ
第五百七条 死刑ノ言渡ヲ受ケタル者心神喪失ノ状態ニ在ルトキハ陸軍大臣ノ命令ニ依リ其ノ痊癒ニ至ル迄執行ヲ停止ス
死刑ノ言渡ヲ受ケタル婦女懐胎ナルトキハ陸軍大臣ノ命令ニ依リ分娩ニ至ル迄執行ヲ停止ス
前二項ノ規定ニ依リ死刑ノ執行ヲ停止シタル者ニ付テハ痊癒又ハ分娩ノ後陸軍大臣ノ命令アルニ非サレハ其ノ執行ヲ為スコトヲ得ス
第五百八条 特設軍法会議死刑ヲ言渡シタル場合ニ於テハ其ノ執行又ハ執行ノ停止ニ関スル陸軍大臣ノ職務ハ長官之ヲ行フコトヲ得
第五百九条 懲役、禁錮又ハ拘留ノ言渡ヲ受ケタル者心神喪失ノ状態ニ在ルトキハ刑ノ言渡ヲ為シタル軍法会議又ハ刑ノ言渡ヲ受ケタル者ノ所在地ノ軍法会議ノ検察官ノ指揮ニ依リ其ノ痊癒ニ至ル迄執行ヲ停止ス
第五百十条 前条ノ規定ニ依リ刑ノ執行ヲ停止シタル場合ニ於テ刑ノ言渡ヲ受ケタル者第一条ニ記載シタル身分ヲ有セサルトキハ検察官ハ之ヲ監護義務者又ハ市区町村長ニ交付シ病院其ノ他適当ノ場所ニ入レシムルコトヲ得
刑ノ執行ヲ停止セラレタル者ハ前項ノ処分アル迄之ヲ監獄ニ留置シ其ノ期間ヲ刑期ニ算入ス
第五百十一条 左ニ記載シタル場合ニ於テハ刑ノ言渡ヲ為シタル軍法会議又ハ刑ノ言渡ヲ受ケタル者ノ所在地ノ軍法会議ノ検察官ノ指揮ニ依リ事故ノ止ム迄懲役、禁錮又ハ拘留ノ執行ヲ停止スルコトヲ得
一 刑ノ執行ニ因リ生命ヲ保ツコト能ハサル虞アルトキ
二 受胎後七月以上ナルトキ
三 分娩後一月ヲ経過セサルトキ
四 刑ノ執行ニ因リ回復スヘカラサル不利益ヲ生スル虞アルトキ
五 其ノ他重大ナル事由アルトキ
第五百十二条 死刑、懲役、禁錮又ハ拘留ノ言渡ヲ受ケタル者拘禁中ニ非サルトキハ検察官ハ執行ノ為之ヲ召喚スヘシ召喚ニ応セサルトキハ逮捕状ヲ発スヘシ
第五百十三条 死刑、懲役、禁錮又ハ拘留ノ言渡ヲ受ケタル者逃走シタルトキ又ハ逃走スル虞アルトキハ検察官ハ直ニ逮捕状ヲ発シ又ハ陸軍司法警察官若ハ司法警察官ニ請求シ若ハ嘱託シテ之ヲ発セシムルコトヲ得
第五百十四条 逮捕状ニハ刑ノ言渡ヲ受ケタル者ノ氏名、住居、年齢、刑名、刑期其ノ他逮捕ニ必要ナル事項ヲ記載シ検察官又ハ陸軍司法警察官之ニ記名捺印スヘシ
逮捕状ヲ発スル場合ニ於テ必要アルトキハ人相書ヲ添附スヘシ
第五百十五条 逮捕状ハ勾引状ト同一ノ効力ヲ有ス
第五百十六条 逮捕状ノ執行ニ付テハ勾引状ノ執行ニ関スル規定ヲ準用ス
第五百十七条 検察官刑ノ言渡ヲ受ケタル者ノ現在地ヲ覚知スルコト能ハサルトキハ検事長又ハ之ニ相当スル官署ニ人相書ヲ送付シ其ノ捜査及逮捕ヲ嘱託スルコトヲ得
嘱託ヲ受ケタル官署ハ其ノ管轄区域内ノ検事又ハ相当官署ヲシテ逮捕状ヲ発シ捜査及逮捕ノ手続ヲ為サシムヘシ
第五百十八条 罰金、科料、過料、没収、没取、追徴又ハ費用賠償ノ裁判ハ検察官ノ命令ヲ以テ之ヲ執行ス其ノ執行ヲ受クヘキ者ニ付相続開始アリタルトキハ相続財産ニ就キ執行スルコトヲ得
第五百十九条 前条ノ執行ニ付強制執行ヲ要スルトキハ兵営其ノ他軍事用ノ庁舎又ハ艦船ノ内ニ於テ之ヲ為ス場合ヲ除クノ外検察官ノ嘱託ニ因リ区裁判所其ノ他民事裁判ニ付強制執行ヲ為ス権アル官署ニ於テ之ヲ為ス此ノ場合ニ於テハ検察官ノ命令ハ執行力アル債務名義ト同一ノ効力ヲ有ス
嘱託ニ因リ為ス官署ノ執行手続ニ付テハ民事裁判ノ執行ニ関スル規定ヲ準用ス但シ執行前裁判ノ送達ヲ為スコトヲ要セス
第五百二十条 前条第二項ノ規定ニ依ル執行ノ費用ハ執行ヲ受クル者ノ負担トシ民事訴訟法ノ規定ニ準シ執行ト同時ニ之ヲ取立ツヘシ
第五百二十一条 第四百十三条ノ規定ニ依リ為シタル賠償ノ言渡ニ付被害者ヨリ強制執行ノ請求アリタルトキハ前三条ノ規定ヲ準用ス
第五百二十二条 没収物ハ検察官之ヲ処分スヘシ
第五百二十三条 没収ノ執行後三月内ニ権利ヲ有スル者ヨリ没収物ノ交付ヲ請求シタルトキハ検察官ハ破壊又ハ廃棄スヘキ物ヲ除クノ外之ヲ交付スヘシ
没収物ヲ処分シタル後前項ノ請求アリタル場合ニ於テハ検察官ハ公売ニ因リテ得タル代価ヲ交付スヘシ
第五百二十四条 偽造又ハ変造ニ係ル物ヲ返還スル場合ニ於テハ偽造又ハ変造ノ部分ヲ其ノ物ニ表示スヘシ
偽造又ハ変造ニ係ル物押収セラレサルトキハ之ヲ提出セシメテ前項ノ手続ヲ為スヘシ但シ其ノ物公務所ニ属スルトキハ偽造又ハ変造ノ部分ヲ公務所ニ通知シテ相当ノ処分ヲ為サシムヘシ
第五百二十五条 押収物ノ返還ヲ受クヘキ者ノ所在不明ナル為又ハ其ノ他ノ事由ニ因リ其ノ物ヲ還付スルコト能ハサル場合ニ於テハ検察官ハ其ノ旨ヲ公告スヘシ
公告ヲ為シタル時ヨリ六月内ニ還付ノ請求ナキトキハ其ノ物ハ国庫ニ帰属ス
前項ノ期間内ト雖価値ナキ物ハ之ヲ廃棄シ保管ニ不便ナル物ハ之ヲ公売シテ其ノ代価ヲ保管スルコトヲ得
第五百二十六条 検察官ハ必要ナル場合ニ於テハ他ノ軍法会議ノ検察官、地方裁判所若ハ区裁判所ノ検事又ハ相当官署ニ裁判ノ執行ニ関スル処分ヲ嘱託スルコトヲ得
第五百二十七条 刑ヲ言渡シタル裁判ノ解釈ニ付疑アルトキハ其ノ言渡ヲ受ケタル者ハ言渡ヲ為シタル軍法会議ニ疑義ノ申立ヲ為スコトヲ得
第五百二十八条 刑ノ執行ヲ受クル者又ハ其ノ法定代理人、保佐人若ハ夫執行ニ関シ検察官ノ為シタル処分ヲ不当トスルトキハ裁判ノ言渡ヲ為シタル軍法会議ニ異議ノ申立ヲ為スコトヲ得
第五百二十九条 疑義又ハ異議ノ申立ハ其ノ裁判アル迄之ヲ取下クルコトヲ得
疑義若ハ異議ノ申立又ハ其ノ取下ハ書面ヲ以テ之ヲ為スヘシ
第四百三十九条ノ規定ハ疑義若ハ異議ノ申立又ハ其ノ取下ニ之ヲ準用ス
第五百三十条 疑義又ハ異議ノ申立ヲ受ケタル軍法会議ハ検察官ノ意見ヲ聴キ決定ヲ為スヘシ
第五百三十一条 罰金又ハ科料ヲ完納スルコト能ハサル為為シタル労役場留置ノ執行ニ付テハ刑ノ執行ニ関スル規定ヲ準用ス
附 則
第五百三十二条 本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム本法第二編第二章中親告罪ノ告訴、請求ヲ待チテ受理スヘキ事件ニ付テノ請求及時効ニ関スル規定ニ付テハ勅令ヲ以テ別ニ其ノ施行期日ヲ定ム
親告罪ノ告訴、請求ヲ待チテ受理スヘキ事件ニ付テノ請求及時効ニ関シテハ前項ノ規定ニ依リ定ムル施行期日ニ至ル迄仍従前ノ例ニ依ル
第五百三十三条 陸軍治罪法、台湾陸軍軍法会議法、関東都督府及韓国駐箚軍陸軍軍法会議法及明治二十八年勅令第九十二号ハ之ヲ廃止ス
第五百三十四条 本法ハ本法施行前ニ生シタル事件ニ亦之ヲ適用ス
前項ノ規定ハ本法施行前旧法ニ依リ為シタル訴訟手続ノ効力ヲ妨ケス
本法施行前旧法ニ依リ為シタル訴訟手続ニシテ本法ニ之ニ相当スル規定アルモノハ之ヲ本法ニ依リ為シタルモノト看做ス
第五百三十五条 本法施行前裁判権ヲ有スル事件ニ付審問、審判又ハ判決ノ命令アリタルトキハ本法ニ依リ軍法会議裁判権ヲ有セサルトキト雖軍法会議之ヲ審判ス
第五百三十六条 本法施行前軍法会議裁判権ヲ有セサル事件ニ付通常裁判所其ノ他ノ官署ニ公訴ノ提起アリタルトキハ本法ニ依リ軍法会議裁判権ヲ有スルトキト雖公訴ヲ受ケタル官署之ヲ審判ス
第五百三十七条 従来ノ軍法会議ハ本法ニ於テ之ニ相当スル軍法会議トス
第五百三十八条 本法施行前管轄権ヲ有スル事件ニ付審問、審判又ハ判決ノ命令アリタルトキハ本法ニ依リ管轄権ヲ有セサルトキト雖其ノ命令ヲ受ケタル軍法会議之ヲ審判ス
第五百三十九条 本法施行ノ際在職ノ判士長及判士ハ本法ニ依ル判士トス
第五百四十条 本法施行ノ際在官ノ理事ハ別ニ辞令ヲ用井ス陸軍法務官ニ任セラレタルモノトス
本法施行ノ際退職又ハ予備ノ理事ハ本法ニ依リ退職ヲ命セラレタル陸軍法務官トス
本法施行ノ際非職ノ理事ハ本法ニ依リ休職ヲ命セラレタル陸軍法務官トス
本法施行ノ際ニ限リ第三十九条ノ事由ナキトキト雖陸軍大臣ハ陸軍法務官ニ休職ヲ命スルコトヲ得
前二項ノ規定ニ依リ休職ト為リタル陸軍法務官ノ休職ノ期間ハ三年トシ第三項ノ者ニ在リテハ非職トナリタル時ヨリ之ヲ起算ス
前項ノ休職ノ期間満期ト為リタルトキハ退職トス
第五百四十一条 本法施行前発シタル収禁状ハ之ヲ本法ニ依リ発シタル勾留状ト看做ス
第五百四十二条 本法施行前闕席判決ヲ受ケタル者ニ対シテハ旧法ニ依リ逮捕状ヲ発スルコトヲ得
第五百四十三条 本法施行前闕席判決ヲ受ケタル者ニ対シテ発シタル逮捕状及前条ノ規定ニ依リ発シタル逮捕状ハ之ヲ本法ニ依リ発シタル勾留状ト看做ス
第五百四十四条 本法施行前ニ為シタル検察ノ処分ハ之ヲ本法ニ依リ為シタル捜査ノ処分ト看做ス
第五百四十五条 本法施行前検察ノ処分ニ著手シタル官署本法ニ依リ捜査権ヲ有セサルトキハ速ニ之ニ関スル書類及証拠物ヲ検察官又陸軍司法警察官ニ送付スヘシ本法施行前告訴又ハ告発ヲ受ケタル官署亦同シ
第五百四十六条 第二百九十二条ノ期間ハ同条施行前犯人ヲ知リ又ハ婚姻ノ無効若ハ取消ノ裁判確定シタル場合ニ於テハ同条施行ノ日ヨリ之ヲ起算ス
第五百四十七条 本法施行前検察具申アリタル事件ニシテ陸軍治罪法第四十六条ノ手続ヲ為ササルモノハ之ヲ第三百六条又ハ第三百七条ノ規定ニ依リ報告アリタルモノト看做ス
第五百四十八条 本法施行前ニ為シタル審問ハ之ヲ本法ニ依リ為シタル予審ト看做ス
本法施行前審問ニ著手シタル事件ハ之ヲ本法ニ依リ予審ノ請求アリタルモノト看做ス
第五百四十九条 本法施行前陸軍治罪法第七十三条第二号ノ規定ニ依リ具申アリタル事件ニシテ陸軍大臣又ハ長官ノ命令又ハ認可ナキモノハ之ヲ第三百三十条ノ規定ニ依リ報告アリタルモノト看做ス
第五百五十条 本法施行前審問ニ於テ免訴ノ言渡アリタル事件ニ付テハ新ナル事実又ハ証拠ヲ発見シタルトキニ限リ更ニ予審ヲ請求シ又ハ公訴ヲ提起スルコトヲ得
第五百五十一条 本法施行前判決ニ著手シタル事件ハ之ヲ本法ニ依リ公訴ノ提起アリタルモノト看做ス
第五百五十二条 本法施行前判決ヲ終ヘ裁判宣告ヲ為ササル事件ハ旧法ニ依リ之ヲ終結スヘシ
第五百五十三条 本法施行前言渡シタル闕席判決ニ対シテハ旧法ニ依リ再審ノ申訴ヲ為スコトヲ得
前項ノ申訴アリタルトキハ長官ハ公訴ノ提起ヲ命スヘシ
第五百五十四条 本法施行前陸軍治罪法第九十五条ノ規定ニ依リ又ハ同法第九十六条各号ニ記載シタル事由ニ因リ再審ノ命令アリタル事件ハ旧法ニ依リ之ヲ終結スヘシ
本法施行前陸軍治罪法九十八条ノ規定ニ依ル再審ノ申訴ニ因リ再審ノ命令アリタル事件ハ之ヲ本法ニ依リ公訴ノ提起アリタルモノト看做ス
第五百五十五条 本法施行前陸軍治罪法第九十六条又ハ同法第九十七条ノ規定ニ依リ再審ノ申訴又ハ具申アリテ命令ナキ事件ハ之ヲ本法ニ依リ管轄軍法会議ニ再審ノ請求アリタルモノト看做ス
本法施行前陸軍治罪法第九十八条ノ規定ニ依リ再審ノ申訴アリテ命令ナキ事件ニ付テハ長官ハ公訴ノ提起ヲ命スヘシ
第五百五十六条 本法施行前提起シタル私訴ハ之ヲ第四百十三条ノ規定ニ依ル損害回復ノ請求ト看做ス
第五百五十七条 本法施行前言渡シタル私訴裁判ノ強制執行ニ付テハ第五百二十一条ノ規定ヲ準用ス
第五百五十八条 本法施行前進行ヲ始メタル私訴ノ時効ハ従前ノ規定ニ従フ
第五百五十九条 本法ニ依リ市町村吏員ノ行フヘキ職務ハ市制町村制ヲ施行セサル地並朝鮮、台湾、樺太及関東州ニ在リテハ勅令ヲ以テ指定スル官吏吏員之ヲ行フ
第五百六十条 本法ニ記載シタル刑法ノ規定ハ朝鮮、台湾及関東州ニ在リテハ各之ニ相当スル法令ノ規定トス
第五百六十一条 内地ニ非サル地ニ在ル師団ニハ師団軍法会議ヲ設ケサルコトヲ得
内地ニ非サル地ニ在ル師団ニ軍法会議ヲ設クル場合ニ於テ其ノ師団ニ師管ノ設ケナキトキハ命令ヲ以テ師管ト看做スヘキ地域ヲ定ムルコトヲ得
第五百六十二条 別段ノ規定アル場合ヲ除クノ外他ノ法律中陸軍ノ理事トアルハ陸軍法務官トス