朕樞密顧問ノ諮詢ヲ經テ陸軍召集令ヲ裁可シ玆ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
大正二年十一月四日
內閣總理大臣 伯爵 山本權兵衞
陸軍大臣 楠瀨幸彥
勅令第二百九十九號
陸軍召集令
第一章 總則
第一條 在鄕軍人及國民兵ノ召集竝在鄕軍人ノ簡閱㸃呼ニ關シテハ別ニ定ムルモノヲ除クノ外本令ノ定ムル所ニ依ル
第二條 召集ヲ分チテ充員召集、臨時召集、國民兵召集、演習召集、敎育召集及補缺召集トス
第三條 召集及簡閱㸃呼ハ特別ノ規定アル場合ヲ除クノ外在鄕軍人及國民兵ノ本籍地所管師團長之ヲ掌ル
第四條 將官同相當官ニ對スル召集ノ令達ハ師團長直ニ之ヲ行フ
第五條 戒嚴ヲ宣吿シ得ル權アル司令官ハ時機切迫交通斷絕シテ命ヲ請フコト能ハサルトキハ獨斷ヲ以テ充員召集、臨時召集及國民兵召集ヲ行フコトヲ得此ノ場合ニ於テ該司令官ハ召集ニ關シ師團長ト同一ノ職權ヲ有ス
第六條 召集事務ニ關シ師團長ノ定メタル規程ハ地方長官、憲兵隊長及其ノ所部ノ官吏公吏之ヲ遵行スヘシ
前項ノ規程ニシテ公示ヲ要スルモノニ付テハ明治二十六年勅令第百九十九號第一條乃至第三條ノ規定ヲ準用ス
第七條 師團長ハ定期又ハ臨時ニ地方行政廳ノ召集事務ヲ檢閱シ又ハ部下將校ヲシテ之ヲ檢閱セシムヘシ
地方長官、憲兵司令官及憲兵隊長ハ其ノ所部ノ召集事務ヲ檢閱シ又ハ部下官吏ヲシテ之ヲ檢閱セシムヘシ
第八條 召集及簡閱㸃呼ハ令狀ニ依リ之ヲ爲ス但シ已ムコトヲ得サル場合ニ於テハ陸軍大臣ノ定ムル所ニ依リ傳達ノ方法ヲ以テ之ニ代フルコトヲ得
召集令狀ニハ召集部隊、到著地及到著日時ヲ指定シ㸃呼令狀ニハ㸃呼場及到著日時ヲ指定スヘシ
演習召集又ハ敎育召集中ノ者ニ對シ充員召集又ハ臨時召集ヲ令達スルノ方法ハ陸軍大臣ノ定ムル所ニ依ル
第九條 應召員令狀又ハ召集ノ傳達ヲ受ケタルトキハ指定ニ從ヒ應召スヘシ
事故ニ依リ指定ニ從ヒ應召スルコト能ハサル者ニ付テハ陸軍大臣ノ定ムル所ニ依ル
第十條 召集ニ應スル爲旅行ヲ爲ス者ニハ旅費ヲ給ス
簡閱㸃呼ニ參會スル者ニハ旅費ヲ給セス
第十一條 本令中在鄕軍人ト稱スルハ待命休職停職豫備役後備役ノ將校同相當官准士官、豫備役後備役ノ下士兵卒、歸休兵、補充兵及十二月一日以後ニ於テ未タ入營セサル現役兵ヲ謂フ
第十二條 本令中國民兵ニ關スル規定ハ志願ニ依リ國民軍編入ヲ許可セラレタル者ニ之ヲ適用ス
第十三條 本令中應召員ト稱スルハ召集ニ應スヘキ者ヲ謂フ
第十四條 本令中郡市町村ニ關スル規定ハ各左記下欄ノ地ニ之ヲ適用ス
島司ヲ置キタル島嶼(小笠原島ヲ除ク)
島司郡長ニ準スヘキ者ノ管轄區
北海道ニ在リテハ支廳長ノ管轄區
區長ヲ以テ戶籍吏ト爲シタル市ニ在リテハ區
北海道又ハ沖繩縣ニ在リテハ區
小笠原島
島司郡長又ハ之ニ準スヘキ者ヲ置カサル島嶼ニ在リテハ町村長ニ準スヘキ者ノ管轄區
町村 島司郡長若ハ之ニ準スヘキ者又ハ北海道廳支廳長ノ管轄區內ニ於ケル町村長ニ準スヘキ者ノ管轄區
第十五條 本令中聯隊區司令官、郡長、市長又ハ町村長ニ關スル規定ハ各左記下欄ノ者ニ之ヲ適用ス
聯隊區司令官
警備隊司令官
警備隊區司令官
郡長
島司(小笠原島司ヲ除ク)
島司郡長ニ準スヘキ者
北海道ニ在リテハ支廳長
市長
區長ヲ以テ戶籍吏ト爲シタル市ニ在リテハ區長
北海道又ハ沖繩縣ニ在リテハ區長
小笠原島司
島司郡長又ハ之ニ準スヘキ者ヲ置カサル島嶼ニ在リテハ町村長ニ準スヘキ者
町村長 島司郡長若ハ之ニ準スヘキ者又ハ北海道廳支廳長ノ管轄區內ニ於ケル町村長ニ準スヘキ者
第十六條 本令中地方長官ニ關スル規定ハ東京府ニ在リテハ警視總監ニ亦之ヲ適用ス
第十七條 師團長ハ本令ノ一部ヲ實施スルコト能ハサル島嶼ニ付キ適宜ノ方法ヲ設クルコトヲ得
第十八條 朝鮮、臺灣、樺太、關東州又ハ滿洲ニ於テ行フヘキ演習召集、敎育召集及簡閱㸃呼ニ關シテハ陸軍大臣ノ定ムル所ニ依ル
第二章 充員召集
第一款 通則
第十九條 充員召集トハ動員ニ當リ諸部隊ノ要員ヲ充足スル爲在鄕軍人ヲ召集スルヲ謂フ
第二十條 充員召集事務ニ關シ職責アル者ハ平時之ニ關スル諸件ヲ遺漏ナク計畫準備シ召集實施ニ當リ支障ナカラシムルコトヲ要ス
第二十一條 地方長官ハ第六條ノ規定ニ依ル場合ノ外充員召集ノ準備又ハ實施ニ關シ師團長ヨリ要求ヲ受ケタルトキハ之ニ應シ又ハ自ラ召集ヲ容易ナラシムル措置ヲ爲スヘシ
第二款 充員召集ノ準備
第二十二條 師團長ハ要員ノ配當其ノ他充員召集ノ準備ニ關シ必要ナル事項ヲ聯隊區司令官ニ達スヘシ
聯隊區司令官ハ前項ノ達ニ基キ充員召集名簿及充員召集令狀ヲ作リ之ヲ郡市長ニ送付スヘシ
第三款 充員召集ノ實施
第二十三條 充員召集ハ動員令ニ依リ之ヲ實施ス
第二十四條 師團長ハ動員令ヲ聯隊區司令官及師團司令部所在地外ニ在ル衞戍司令官ニ達シ且其ノ要旨ヲ關係アル地方長官及憲兵隊長ニ通知スヘシ
第二十五條 聯隊區司令官動員令ノ達ヲ受ケタルトキハ之ヲ關係アル郡市長ニ達スヘシ
第二十六條 師團司令部所在地外ニ在ル衞戍司令官動員令ノ達ヲ受ケタルトキハ其ノ要旨ヲ其ノ地ニ在ル憲兵分隊長又ハ憲兵分遣所長ニ通知スヘシ
第二十七條 憲兵隊長動員令ノ通知ヲ受ケタルトキハ衞戍地外ニ在リテ該動員ニ關係アル憲兵分隊長ニ之ヲ達スヘシ
第二十八條 地方長官動員令ノ通知ヲ受ケタルトキハ之ヲ警察署長、警察分署長及區長ヲ以テ戶籍吏ト爲シタル市ノ市長ニ通知スヘシ但シ東京府ニ在リテハ警察署長及警察分署長ヘノ通知ハ警視總監之ヲ爲スヘシ
第二十九條 郡長動員令ノ達ヲ受ケタルトキハ充員召集令狀ヲ町村長ニ送付スヘシ
市長動員令ノ達ヲ受ケタルトキハ充員召集令狀ヲ應召員ニ交付シ又ハ召集傳達ノ手續ヲ爲スヘシ町村長前項令狀ノ送付ヲ受ケタルトキ亦同シ
第四款 充員召集ノ解除
第三十條 充員召集ノ解除ハ復員令ニ依リ之ヲ實施ス但シ必要アルトキハ復員令ニ依ラス一部ノ召集解除ヲ行フコトヲ得
第三十一條 前條ノ復員令ニ付テハ第二十四條乃至第二十八條ノ規定ヲ準用ス
第三十二條 郡長復員令ノ達ヲ受ケタルトキハ之ヲ町村長ニ達スヘシ
第三章 臨時召集
第三十三條 臨時召集トハ戰時又ハ事變ニ際シ必要アル場合ニ於テ臨時在鄕軍人ヲ召集スルヲ謂フ
第三十四條 充員召集實施後缺員ヲ補充スル場合ヲ除クノ外臨時召集ヲ實施スヘキ時期ハ陸軍大臣ノ定ムル所ニ依ル
第三十五條 臨時召集事務ニ關シ職責アル者ハ召集實施ニ當リ支障ナカラシムル爲所要ノ準備ヲ整頓シ置クコトヲ要ス
第三十六條 師團長ハ臨時召集ノ命令ヲ聯隊區司令官ニ達シ且其ノ要旨ヲ關係アル地方長官及憲兵隊長ニ通知スヘシ
第三十七條 聯隊區司令官前條ノ達ヲ受ケタルトキハ直ニ臨時召集令狀ヲ作リ之ヲ關係アル郡市長ニ送付スヘシ
郡長令狀ノ送付ヲ受ケタルトキハ之ヲ町村長ニ送付スヘシ
市町村長令狀ノ送付ヲ受ケタルトキハ之ヲ應召員ニ交付シ又ハ召集傳達ノ手續ヲ爲スヘシ
第三十八條 臨時召集ニ關シテハ第二十一條及第三十條乃至第三十二條ノ規定ヲ準用ス
第四章 國民兵召集
第三十九條 國民兵召集トハ戰時又ハ事變ニ際シ國民兵ヲ召集スルヲ謂フ
第四十條 國民兵召集ハ第四十七條ノ場合ヲ除クノ外動員令ニ依リ之ヲ實施ス
第四十一條 師團長ハ要員ノ配當其ノ他國民兵召集ノ準備ニ關シ必要ナル事項ヲ聯隊區司令官ニ達シ且召集スヘキ國民兵ノ種類及年齡ヲ地方長官及憲兵隊長ニ通知スヘシ
第四十二條 聯隊區司令官ハ前條ノ達ニ基キ國民兵ノ要員ヲ各郡市ニ配當シ且必要ナル事項ヲ郡市長ニ達スヘシ
第四十三條 郡長前條ノ配當及達ヲ受ケタルトキハ各町村ニ對シ其ノ當該國民兵ノ總員ニ比例シテ要員ヲ配當シ且必要ナル事項ヲ町村長ニ達スヘシ
第四十四條 市町村長國民兵要員ノ配當及達ヲ受ケタルトキハ陸軍大臣ノ定ムル所ニ依リ應召員ヲ定メテ國民兵召集令狀ヲ作リ之ヲ保管スヘシ
第四十五條 第四十條ノ動員令ニ付テハ第二十四條乃至第二十八條ノ規定ヲ準用ス
第四十六條 郡長動員令ノ達ヲ受ケタルトキハ之ヲ町村長ニ達スヘシ
市町村長動員令ノ達ヲ受ケタルトキハ召集令狀ヲ應召員ニ交付シ又ハ召集傳達ノ手續ヲ爲スヘシ
第四十七條 動員令ニ依ル國民兵召集實施ノ後缺員ヲ補充スルトキ其ノ他必要アルトキハ臨時ニ國民兵召集ヲ實施ス此ノ場合ニ於テハ第三十四條、第三十六條、第四十二條及第四十三條ノ規定ヲ準用ス
前項ノ場合ニ於テハ聯隊區司令官ハ召集ノ命令ヲ關係アル郡市長ニ達シ郡長ハ之ヲ町村長ニ達シ市町村長ハ陸軍大臣ノ定ムル所ニ依リ應召員ヲ定メテ召集令狀ヲ作リ之ヲ應召員ニ交付シ又ハ召集傳達ノ手續ヲ爲スヘシ
第四十八條 國民兵召集ニ關シテハ第二十一條、第三十條乃至第三十二條及第三十五條ノ規定ヲ準用ス
第四十九條 陸軍大臣特別ノ事情ニ因リ必要アリト認ムルトキハ國民兵召集ノ手續ニ關シ臨時前九條ノ規定ト異ナル規定ヲ設クルコトヲ得
第五章 演習召集
第五十條 演習召集トハ徵兵令第十六條、第十七條及陸軍軍人服役令第三條、第十六條ノ規定ニ依リ勤務演習ノ爲在鄕軍人ヲ召集スルヲ謂フ
充員召集ノ演習ヲ爲スノ目的ヲ以テ實施スル演習召集ヲ特ニ臨時演習召集ト謂フ
第五十一條 臨時演習召集ニ關シテハ陸軍大臣ノ設ケタル規定アル場合ヲ除クノ外第二章第三款及第四款ノ規定ヲ準用ス
第五十二條 演習召集ノ召集部隊ハ在鄕軍人本籍地師管內ニ在ル部隊トス但シ其ノ師管內ニ演習ヲ爲スヘキ部隊ナキトキハ他ノ師管內ニ在ル部隊トス
他ノ師管ニ寄留スル者ハ勤務演習ノ爲寄留地師管內ニ在ル部隊ニ之ヲ召集スルコトヲ得此ノ場合ニ於テハ其ノ召集ハ寄留地所管師團長之ヲ掌ル
一年志願兵終末試驗ニ及第シ豫備役ニ入リタル者ヲ士官ニ任スル爲ニ行フ勤務演習ノ召集部隊及近衞師團ニ召集スヘキ者ニ關シテハ陸軍大臣ノ定ムル所ニ依ル
第五十三條 師團長ハ演習召集ノ期日、人員、部隊及日數ヲ聯隊區司令官ニ達シ且之ヲ關係アル地方長官及憲兵隊長ニ通知スヘシ
第五十四條 聯隊區司令官前條ノ達ヲ受ケタルトキハ演習召集令狀ヲ作リ之ヲ郡市長ニ送付スヘシ
郡長令狀ノ送付ヲ受ケタルトキハ之ヲ町村長ニ送付スヘシ
市町村長令狀ノ送付ヲ受ケタルトキハ之ヲ應召員ニ交付シ又ハ召集傳達ノ手續ヲ爲スヘシ
第六章 敎育召集
第五十五條 敎育召集トハ敎育ノ爲未タ敎育セサル補充兵ヲ召集スルヲ謂フ
第五十六條 敎育召集ニ關シテハ第五十二條第一項第三項、第五十三條及第五十四條ノ規定ヲ準用ス
第七章 補缺召集
第五十七條 補缺召集トハ平時ニ於テ兵員ノ補缺ヲ要スルトキ臨時歸休兵ヲ召集スルヲ謂フ
第五十八條 補缺召集ハ陸軍大臣ノ命ニ依リ又ハ其ノ認可ヲ得テ師團長之ヲ行フ
第五十九條 師團長ハ補缺召集ノ期日、人員及部隊ヲ聯隊區司令官ニ達シ且之ヲ關係アル地方長官及憲兵隊長ニ通知スヘシ
第六十條 補缺召集ニ關シテハ第五十四條ノ規定ヲ準用ス
第八章 簡閱㸃呼
第六十一條 簡閱㸃呼トハ豫備役後備役ノ下士兵卒、歸休兵及補充兵ヲ參會セシメテ之ヲ㸃檢査閱スルヲ謂フ
第六十二條 簡閱㸃呼ハ在鄕軍人本籍地師管ニ於テ之ヲ行フ
他ノ師管ニ寄留スル者ノ簡閱㸃呼ハ寄留地師管ニ於テ之ヲ行フコトヲ得此ノ場合ニ於テハ其ノ簡閱㸃呼ハ寄留地所管師團長之ヲ掌ル
第六十三條 陸軍大臣ハ簡閱㸃呼ノ執行ヲ要セスト認メタル者ニ對シテハ其ノ執行ヲ免除スルコトヲ得
第六十四條 僻陬ノ地ニ於テ簡閱㸃呼ニ參會スヘキ者僅少ナルトキ其ノ他已ムコトヲ得サル場合ニ在リテハ師團長ハ簡閱㸃呼ヲ省略スルコトヲ得
第六十五條 師團長ハ簡閱㸃呼ノ時期ヲ定メ之ヲ聯隊區司令官ニ達シ且部下ノ將校ニ簡閱㸃呼執行官ヲ命スヘシ
第六十六條 聯隊區司令官前條ノ達ヲ受ケタルトキハ㸃呼場、㸃呼區域及㸃呼日割ヲ定メテ師團長ノ認可ヲ受ケ之ヲ地方長官、憲兵隊長、簡閱㸃呼執行官及郡市長ニ通知スヘシ
第六十七條 地方長官前條ノ通知ヲ受ケタルトキハ之ヲ警察署長及警察分署長ニ通知スヘシ但シ東京府ニ在リテハ警視總監之ヲ通知スヘシ
郡長前條ノ通知ヲ受ケタルトキハ之ヲ町村長ニ通知スヘシ
憲兵隊長前條ノ通知ヲ受ケタルトキハ之ヲ憲兵分隊長ニ達スヘシ
第六十八條 聯隊區司令官ハ第六十五條ノ達ニ基キテ㸃呼令狀ヲ作リ之ヲ郡市長ニ送付シ郡長ハ之ヲ町村長ニ送付シ市町村長ハ簡閱㸃呼ヲ受クヘキ者ニ該令狀ヲ交付シ又ハ㸃呼傳達ノ手續ヲ爲スヘシ
第六十九條 令狀又ハ㸃呼ノ傳達ヲ受ケタル者ハ指定ニ從ヒ簡閱㸃呼ヲ受クヘシ
第七十條 郡市町村長ハ簡閱㸃呼ニ參列シ簡閱㸃呼執行官ノ要求アルトキハ其ノ事務ヲ補助スヘシ
郡市町村長ハ㸃呼參會者ニ訓示ヲ與フルコトヲ得
附 則
本令ハ大正二年十一月十日ヨリ之ヲ施行ス但シ師團長ハ必要ト認ムルトキハ本令ノ一部ニ付キ五月以內仍從前ノ規定ニ依ルコトヲ得
陸軍召集條例及明治四十三年勅令第百八十三號ハ之ヲ廢止ス
朕枢密顧問ノ諮詢ヲ経テ陸軍召集令ヲ裁可シ茲ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
大正二年十一月四日
内閣総理大臣 伯爵 山本権兵衛
陸軍大臣 楠瀬幸彦
勅令第二百九十九号
陸軍召集令
第一章 総則
第一条 在郷軍人及国民兵ノ召集並在郷軍人ノ簡閲点呼ニ関シテハ別ニ定ムルモノヲ除クノ外本令ノ定ムル所ニ依ル
第二条 召集ヲ分チテ充員召集、臨時召集、国民兵召集、演習召集、教育召集及補欠召集トス
第三条 召集及簡閲点呼ハ特別ノ規定アル場合ヲ除クノ外在郷軍人及国民兵ノ本籍地所管師団長之ヲ掌ル
第四条 将官同相当官ニ対スル召集ノ令達ハ師団長直ニ之ヲ行フ
第五条 戒厳ヲ宣告シ得ル権アル司令官ハ時機切迫交通断絶シテ命ヲ請フコト能ハサルトキハ独断ヲ以テ充員召集、臨時召集及国民兵召集ヲ行フコトヲ得此ノ場合ニ於テ該司令官ハ召集ニ関シ師団長ト同一ノ職権ヲ有ス
第六条 召集事務ニ関シ師団長ノ定メタル規程ハ地方長官、憲兵隊長及其ノ所部ノ官吏公吏之ヲ遵行スヘシ
前項ノ規程ニシテ公示ヲ要スルモノニ付テハ明治二十六年勅令第百九十九号第一条乃至第三条ノ規定ヲ準用ス
第七条 師団長ハ定期又ハ臨時ニ地方行政庁ノ召集事務ヲ検閲シ又ハ部下将校ヲシテ之ヲ検閲セシムヘシ
地方長官、憲兵司令官及憲兵隊長ハ其ノ所部ノ召集事務ヲ検閲シ又ハ部下官吏ヲシテ之ヲ検閲セシムヘシ
第八条 召集及簡閲点呼ハ令状ニ依リ之ヲ為ス但シ已ムコトヲ得サル場合ニ於テハ陸軍大臣ノ定ムル所ニ依リ伝達ノ方法ヲ以テ之ニ代フルコトヲ得
召集令状ニハ召集部隊、到著地及到著日時ヲ指定シ点呼令状ニハ点呼場及到著日時ヲ指定スヘシ
演習召集又ハ教育召集中ノ者ニ対シ充員召集又ハ臨時召集ヲ令達スルノ方法ハ陸軍大臣ノ定ムル所ニ依ル
第九条 応召員令状又ハ召集ノ伝達ヲ受ケタルトキハ指定ニ従ヒ応召スヘシ
事故ニ依リ指定ニ従ヒ応召スルコト能ハサル者ニ付テハ陸軍大臣ノ定ムル所ニ依ル
第十条 召集ニ応スル為旅行ヲ為ス者ニハ旅費ヲ給ス
簡閲点呼ニ参会スル者ニハ旅費ヲ給セス
第十一条 本令中在郷軍人ト称スルハ待命休職停職予備役後備役ノ将校同相当官准士官、予備役後備役ノ下士兵卒、帰休兵、補充兵及十二月一日以後ニ於テ未タ入営セサル現役兵ヲ謂フ
第十二条 本令中国民兵ニ関スル規定ハ志願ニ依リ国民軍編入ヲ許可セラレタル者ニ之ヲ適用ス
第十三条 本令中応召員ト称スルハ召集ニ応スヘキ者ヲ謂フ
第十四条 本令中郡市町村ニ関スル規定ハ各左記下欄ノ地ニ之ヲ適用ス
島司ヲ置キタル島嶼(小笠原島ヲ除ク)
島司郡長ニ準スヘキ者ノ管轄区
北海道ニ在リテハ支庁長ノ管轄区
区長ヲ以テ戸籍吏ト為シタル市ニ在リテハ区
北海道又ハ沖縄県ニ在リテハ区
小笠原島
島司郡長又ハ之ニ準スヘキ者ヲ置カサル島嶼ニ在リテハ町村長ニ準スヘキ者ノ管轄区
町村 島司郡長若ハ之ニ準スヘキ者又ハ北海道庁支庁長ノ管轄区内ニ於ケル町村長ニ準スヘキ者ノ管轄区
第十五条 本令中連隊区司令官、郡長、市長又ハ町村長ニ関スル規定ハ各左記下欄ノ者ニ之ヲ適用ス
連隊区司令官
警備隊司令官
警備隊区司令官
郡長
島司(小笠原島司ヲ除ク)
島司郡長ニ準スヘキ者
北海道ニ在リテハ支庁長
市長
区長ヲ以テ戸籍吏ト為シタル市ニ在リテハ区長
北海道又ハ沖縄県ニ在リテハ区長
小笠原島司
島司郡長又ハ之ニ準スヘキ者ヲ置カサル島嶼ニ在リテハ町村長ニ準スヘキ者
町村長 島司郡長若ハ之ニ準スヘキ者又ハ北海道庁支庁長ノ管轄区内ニ於ケル町村長ニ準スヘキ者
第十六条 本令中地方長官ニ関スル規定ハ東京府ニ在リテハ警視総監ニ亦之ヲ適用ス
第十七条 師団長ハ本令ノ一部ヲ実施スルコト能ハサル島嶼ニ付キ適宜ノ方法ヲ設クルコトヲ得
第十八条 朝鮮、台湾、樺太、関東州又ハ満洲ニ於テ行フヘキ演習召集、教育召集及簡閲点呼ニ関シテハ陸軍大臣ノ定ムル所ニ依ル
第二章 充員召集
第一款 通則
第十九条 充員召集トハ動員ニ当リ諸部隊ノ要員ヲ充足スル為在郷軍人ヲ召集スルヲ謂フ
第二十条 充員召集事務ニ関シ職責アル者ハ平時之ニ関スル諸件ヲ遺漏ナク計画準備シ召集実施ニ当リ支障ナカラシムルコトヲ要ス
第二十一条 地方長官ハ第六条ノ規定ニ依ル場合ノ外充員召集ノ準備又ハ実施ニ関シ師団長ヨリ要求ヲ受ケタルトキハ之ニ応シ又ハ自ラ召集ヲ容易ナラシムル措置ヲ為スヘシ
第二款 充員召集ノ準備
第二十二条 師団長ハ要員ノ配当其ノ他充員召集ノ準備ニ関シ必要ナル事項ヲ連隊区司令官ニ達スヘシ
連隊区司令官ハ前項ノ達ニ基キ充員召集名簿及充員召集令状ヲ作リ之ヲ郡市長ニ送付スヘシ
第三款 充員召集ノ実施
第二十三条 充員召集ハ動員令ニ依リ之ヲ実施ス
第二十四条 師団長ハ動員令ヲ連隊区司令官及師団司令部所在地外ニ在ル衛戍司令官ニ達シ且其ノ要旨ヲ関係アル地方長官及憲兵隊長ニ通知スヘシ
第二十五条 連隊区司令官動員令ノ達ヲ受ケタルトキハ之ヲ関係アル郡市長ニ達スヘシ
第二十六条 師団司令部所在地外ニ在ル衛戍司令官動員令ノ達ヲ受ケタルトキハ其ノ要旨ヲ其ノ地ニ在ル憲兵分隊長又ハ憲兵分遣所長ニ通知スヘシ
第二十七条 憲兵隊長動員令ノ通知ヲ受ケタルトキハ衛戍地外ニ在リテ該動員ニ関係アル憲兵分隊長ニ之ヲ達スヘシ
第二十八条 地方長官動員令ノ通知ヲ受ケタルトキハ之ヲ警察署長、警察分署長及区長ヲ以テ戸籍吏ト為シタル市ノ市長ニ通知スヘシ但シ東京府ニ在リテハ警察署長及警察分署長ヘノ通知ハ警視総監之ヲ為スヘシ
第二十九条 郡長動員令ノ達ヲ受ケタルトキハ充員召集令状ヲ町村長ニ送付スヘシ
市長動員令ノ達ヲ受ケタルトキハ充員召集令状ヲ応召員ニ交付シ又ハ召集伝達ノ手続ヲ為スヘシ町村長前項令状ノ送付ヲ受ケタルトキ亦同シ
第四款 充員召集ノ解除
第三十条 充員召集ノ解除ハ復員令ニ依リ之ヲ実施ス但シ必要アルトキハ復員令ニ依ラス一部ノ召集解除ヲ行フコトヲ得
第三十一条 前条ノ復員令ニ付テハ第二十四条乃至第二十八条ノ規定ヲ準用ス
第三十二条 郡長復員令ノ達ヲ受ケタルトキハ之ヲ町村長ニ達スヘシ
第三章 臨時召集
第三十三条 臨時召集トハ戦時又ハ事変ニ際シ必要アル場合ニ於テ臨時在郷軍人ヲ召集スルヲ謂フ
第三十四条 充員召集実施後欠員ヲ補充スル場合ヲ除クノ外臨時召集ヲ実施スヘキ時期ハ陸軍大臣ノ定ムル所ニ依ル
第三十五条 臨時召集事務ニ関シ職責アル者ハ召集実施ニ当リ支障ナカラシムル為所要ノ準備ヲ整頓シ置クコトヲ要ス
第三十六条 師団長ハ臨時召集ノ命令ヲ連隊区司令官ニ達シ且其ノ要旨ヲ関係アル地方長官及憲兵隊長ニ通知スヘシ
第三十七条 連隊区司令官前条ノ達ヲ受ケタルトキハ直ニ臨時召集令状ヲ作リ之ヲ関係アル郡市長ニ送付スヘシ
郡長令状ノ送付ヲ受ケタルトキハ之ヲ町村長ニ送付スヘシ
市町村長令状ノ送付ヲ受ケタルトキハ之ヲ応召員ニ交付シ又ハ召集伝達ノ手続ヲ為スヘシ
第三十八条 臨時召集ニ関シテハ第二十一条及第三十条乃至第三十二条ノ規定ヲ準用ス
第四章 国民兵召集
第三十九条 国民兵召集トハ戦時又ハ事変ニ際シ国民兵ヲ召集スルヲ謂フ
第四十条 国民兵召集ハ第四十七条ノ場合ヲ除クノ外動員令ニ依リ之ヲ実施ス
第四十一条 師団長ハ要員ノ配当其ノ他国民兵召集ノ準備ニ関シ必要ナル事項ヲ連隊区司令官ニ達シ且召集スヘキ国民兵ノ種類及年齢ヲ地方長官及憲兵隊長ニ通知スヘシ
第四十二条 連隊区司令官ハ前条ノ達ニ基キ国民兵ノ要員ヲ各郡市ニ配当シ且必要ナル事項ヲ郡市長ニ達スヘシ
第四十三条 郡長前条ノ配当及達ヲ受ケタルトキハ各町村ニ対シ其ノ当該国民兵ノ総員ニ比例シテ要員ヲ配当シ且必要ナル事項ヲ町村長ニ達スヘシ
第四十四条 市町村長国民兵要員ノ配当及達ヲ受ケタルトキハ陸軍大臣ノ定ムル所ニ依リ応召員ヲ定メテ国民兵召集令状ヲ作リ之ヲ保管スヘシ
第四十五条 第四十条ノ動員令ニ付テハ第二十四条乃至第二十八条ノ規定ヲ準用ス
第四十六条 郡長動員令ノ達ヲ受ケタルトキハ之ヲ町村長ニ達スヘシ
市町村長動員令ノ達ヲ受ケタルトキハ召集令状ヲ応召員ニ交付シ又ハ召集伝達ノ手続ヲ為スヘシ
第四十七条 動員令ニ依ル国民兵召集実施ノ後欠員ヲ補充スルトキ其ノ他必要アルトキハ臨時ニ国民兵召集ヲ実施ス此ノ場合ニ於テハ第三十四条、第三十六条、第四十二条及第四十三条ノ規定ヲ準用ス
前項ノ場合ニ於テハ連隊区司令官ハ召集ノ命令ヲ関係アル郡市長ニ達シ郡長ハ之ヲ町村長ニ達シ市町村長ハ陸軍大臣ノ定ムル所ニ依リ応召員ヲ定メテ召集令状ヲ作リ之ヲ応召員ニ交付シ又ハ召集伝達ノ手続ヲ為スヘシ
第四十八条 国民兵召集ニ関シテハ第二十一条、第三十条乃至第三十二条及第三十五条ノ規定ヲ準用ス
第四十九条 陸軍大臣特別ノ事情ニ因リ必要アリト認ムルトキハ国民兵召集ノ手続ニ関シ臨時前九条ノ規定ト異ナル規定ヲ設クルコトヲ得
第五章 演習召集
第五十条 演習召集トハ徴兵令第十六条、第十七条及陸軍軍人服役令第三条、第十六条ノ規定ニ依リ勤務演習ノ為在郷軍人ヲ召集スルヲ謂フ
充員召集ノ演習ヲ為スノ目的ヲ以テ実施スル演習召集ヲ特ニ臨時演習召集ト謂フ
第五十一条 臨時演習召集ニ関シテハ陸軍大臣ノ設ケタル規定アル場合ヲ除クノ外第二章第三款及第四款ノ規定ヲ準用ス
第五十二条 演習召集ノ召集部隊ハ在郷軍人本籍地師管内ニ在ル部隊トス但シ其ノ師管内ニ演習ヲ為スヘキ部隊ナキトキハ他ノ師管内ニ在ル部隊トス
他ノ師管ニ寄留スル者ハ勤務演習ノ為寄留地師管内ニ在ル部隊ニ之ヲ召集スルコトヲ得此ノ場合ニ於テハ其ノ召集ハ寄留地所管師団長之ヲ掌ル
一年志願兵終末試験ニ及第シ予備役ニ入リタル者ヲ士官ニ任スル為ニ行フ勤務演習ノ召集部隊及近衛師団ニ召集スヘキ者ニ関シテハ陸軍大臣ノ定ムル所ニ依ル
第五十三条 師団長ハ演習召集ノ期日、人員、部隊及日数ヲ連隊区司令官ニ達シ且之ヲ関係アル地方長官及憲兵隊長ニ通知スヘシ
第五十四条 連隊区司令官前条ノ達ヲ受ケタルトキハ演習召集令状ヲ作リ之ヲ郡市長ニ送付スヘシ
郡長令状ノ送付ヲ受ケタルトキハ之ヲ町村長ニ送付スヘシ
市町村長令状ノ送付ヲ受ケタルトキハ之ヲ応召員ニ交付シ又ハ召集伝達ノ手続ヲ為スヘシ
第六章 教育召集
第五十五条 教育召集トハ教育ノ為未タ教育セサル補充兵ヲ召集スルヲ謂フ
第五十六条 教育召集ニ関シテハ第五十二条第一項第三項、第五十三条及第五十四条ノ規定ヲ準用ス
第七章 補欠召集
第五十七条 補欠召集トハ平時ニ於テ兵員ノ補欠ヲ要スルトキ臨時帰休兵ヲ召集スルヲ謂フ
第五十八条 補欠召集ハ陸軍大臣ノ命ニ依リ又ハ其ノ認可ヲ得テ師団長之ヲ行フ
第五十九条 師団長ハ補欠召集ノ期日、人員及部隊ヲ連隊区司令官ニ達シ且之ヲ関係アル地方長官及憲兵隊長ニ通知スヘシ
第六十条 補欠召集ニ関シテハ第五十四条ノ規定ヲ準用ス
第八章 簡閲点呼
第六十一条 簡閲点呼トハ予備役後備役ノ下士兵卒、帰休兵及補充兵ヲ参会セシメテ之ヲ点検査閲スルヲ謂フ
第六十二条 簡閲点呼ハ在郷軍人本籍地師管ニ於テ之ヲ行フ
他ノ師管ニ寄留スル者ノ簡閲点呼ハ寄留地師管ニ於テ之ヲ行フコトヲ得此ノ場合ニ於テハ其ノ簡閲点呼ハ寄留地所管師団長之ヲ掌ル
第六十三条 陸軍大臣ハ簡閲点呼ノ執行ヲ要セスト認メタル者ニ対シテハ其ノ執行ヲ免除スルコトヲ得
第六十四条 僻陬ノ地ニ於テ簡閲点呼ニ参会スヘキ者僅少ナルトキ其ノ他已ムコトヲ得サル場合ニ在リテハ師団長ハ簡閲点呼ヲ省略スルコトヲ得
第六十五条 師団長ハ簡閲点呼ノ時期ヲ定メ之ヲ連隊区司令官ニ達シ且部下ノ将校ニ簡閲点呼執行官ヲ命スヘシ
第六十六条 連隊区司令官前条ノ達ヲ受ケタルトキハ点呼場、点呼区域及点呼日割ヲ定メテ師団長ノ認可ヲ受ケ之ヲ地方長官、憲兵隊長、簡閲点呼執行官及郡市長ニ通知スヘシ
第六十七条 地方長官前条ノ通知ヲ受ケタルトキハ之ヲ警察署長及警察分署長ニ通知スヘシ但シ東京府ニ在リテハ警視総監之ヲ通知スヘシ
郡長前条ノ通知ヲ受ケタルトキハ之ヲ町村長ニ通知スヘシ
憲兵隊長前条ノ通知ヲ受ケタルトキハ之ヲ憲兵分隊長ニ達スヘシ
第六十八条 連隊区司令官ハ第六十五条ノ達ニ基キテ点呼令状ヲ作リ之ヲ郡市長ニ送付シ郡長ハ之ヲ町村長ニ送付シ市町村長ハ簡閲点呼ヲ受クヘキ者ニ該令状ヲ交付シ又ハ点呼伝達ノ手続ヲ為スヘシ
第六十九条 令状又ハ点呼ノ伝達ヲ受ケタル者ハ指定ニ従ヒ簡閲点呼ヲ受クヘシ
第七十条 郡市町村長ハ簡閲点呼ニ参列シ簡閲点呼執行官ノ要求アルトキハ其ノ事務ヲ補助スヘシ
郡市町村長ハ点呼参会者ニ訓示ヲ与フルコトヲ得
附 則
本令ハ大正二年十一月十日ヨリ之ヲ施行ス但シ師団長ハ必要ト認ムルトキハ本令ノ一部ニ付キ五月以内仍従前ノ規定ニ依ルコトヲ得
陸軍召集条例及明治四十三年勅令第百八十三号ハ之ヲ廃止ス