朕帝國議會ノ協贊ヲ經タル立木ニ關スル法律ヲ裁可シ玆ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
明治四十二年四月二日
內閣總理大臣 侯爵 桂太郞
農商務大臣 男爵 大浦兼武
司法大臣 子爵 岡部長職
法律第二十二號
第一條 本法ニ於テ立木ト稱スルハ一筆ノ土地又ハ一筆ノ土地ノ一部分ニ植栽ニ依リ生立セシメタル樹木ノ集團ニシテ其ノ所有者カ本法ニ依リ所有權保存ノ登記ヲ受ケタルモノヲ謂フ
第二條 立木ハ之ヲ不動產ト看做ス
立木ノ所有者ハ土地ト分離シテ立木ヲ讓渡シ又ハ之ヲ以テ抵當權ノ目的ト爲スコトヲ得
土地所有權又ハ地上權ノ處分ノ效力ハ立木ニ及ハス
第三條 立木ノ所有者ハ立木カ抵當權ノ目的タル場合ニ於テモ當事者ノ協定シタル施業方法ニ依リ其ノ樹木ヲ採取スルコトヲ妨ケス
第四條 立木ヲ目的トスル抵當權ハ前條ノ規定ニ依ル採取ノ場合ヲ除クノ外其ノ樹木カ土地ヨリ分離シタル後ト雖其ノ樹木ニ付之ヲ行フコトヲ得
抵當權者ハ債權ノ期限ノ到來前ト雖前項ノ樹木ヲ競賣スルコトヲ得但シ其ノ競落代金ハ之ヲ供託スヘシ
樹木ノ所有者ハ競賣ヲ爲スヘキ地ノ區裁判所ニ相當ノ擔保ヲ供託シテ競賣ノ免除ヲ申立ツルコトヲ得
樹木ノ所有者ハ抵當權者ニ對シテ一箇月以上ノ期間ヲ定メ競賣ヲ爲スヘキ旨ヲ催吿スルコトヲ得若抵當權者カ其ノ期間內ニ競賣ヲ爲ササルトキハ其ノ樹木ニ付抵當權ヲ行フコトヲ得ス
第一項ノ規定ハ民法第百九十二條乃至第百九十四條ノ規定ノ適用ヲ妨ケス
第五條 立木カ土地ノ所有者ニ屬スル場合ニ於テ其ノ土地又ハ立木ノミカ抵當權ノ目的タルトキハ抵當權設定者ハ競賣ノ場合ニ付地上權ヲ設定シタルモノト看做ス但シ其ノ存續期間及地代ハ當事者ノ請求ニ依リ地方ノ慣習ヲ斟酌シテ裁判所之ヲ定ム
第六條 立木カ地上權者ニ屬スル場合ニ於テ其ノ地上權又ハ立木ノミカ抵當權ノ目的タルトキハ抵當權設定者ハ競賣ノ場合ニ付地上權ノ存續期間內ニ於テ其ノ土地ノ賃貸借ヲ爲シタルモノト看做ス但シ其ノ存續期間及借賃ニ付テハ前條但書ノ規定ヲ準用ス
前項ノ場合ニ於テ地上權ノ存續期間ノ定ナキトキハ其ノ期間ハ當事者又ハ賃借人ノ請求ニ依リ地方ノ慣習ヲ斟酌シテ裁判所之ヲ定ム
民法第六百四條及第六百十二條ノ規定ハ第一項ノ賃貸借ニ之ヲ適用セス
第七條 前條ノ規定ハ轉貸ヲ爲スコトヲ得ル土地ノ賃借人ニ屬スル立木カ抵當權ノ目的タル場合ニ之ヲ準用ス
第八條 地上權者又ハ土地ノ賃借人ニ屬スル立木カ抵當權ノ目的タル場合ニ於テハ地上權者又ハ賃借人ハ抵當權者ノ承諾アルニ非サレハ其ノ權利ヲ抛棄シ又ハ契約ヲ解除スルコトヲ得ス
第九條 立木カ抵當權ノ目的タル場合ニ於テ其ノ所有者カ樹木ノ運搬ノ爲土地ヲ使用スル權利ヲ有スルトキハ立木ノ競落人ハ其ノ權利ヲ行使スルコトヲ得此ノ場合ニ於テハ相當ノ對價ヲ支拂フヘシ
前項ノ規定ハ水ノ使用ニ關スル權利ニ之ヲ準用ス
第十條 第二條第三項及第三條乃至第九條ノ規定ハ先取特權ニ之ヲ準用ス
第十一條 土地又ハ地上權カ質權ノ目的タル場合ニ於テハ其ノ土地ニ生立スル樹木ニ付所有權保存ノ登記ヲ爲スコトヲ得ス
第十二條 各登記所ニ立木登記簿ヲ備フ
不動產登記法第十四條第二項及第十九條ノ規定ハ前項ノ登記簿ニ之ヲ準用ス
第十三條 立木登記簿ハ一箇ノ立木ニ付一用紙ヲ備フ
第十四條 立木登記簿ハ其ノ一用紙ヲ登記番號欄、表題部及甲乙ノ二區ニ分チ表題部ニ表示欄、表示番號欄ヲ設ケ各區ニ事項欄、順位番號欄ヲ設ク
登記番號欄ニハ各立木ニ付登記簿ニ始テ登記ヲ爲シタル順序ヲ記載ス
表示欄ニハ立木ノ表示ヲ爲シ及其ノ變更ニ關スル事項ヲ記載シ表示番號欄ニハ表示欄ニ登記事項ヲ記載シタル順序ヲ記載ス
甲區事項欄ニハ所有權ニ關スル事項ヲ記載ス
乙區事項欄ニハ先取特權及抵當權ニ關スル事項ヲ記載ス
順位番號欄ニハ事項欄ニ登記事項ヲ記載シタル順序ヲ記載ス
第十五條 登記ノ申請書ニハ不動產登記法第三十六條ニ揭ケタル事項ノ外左ノ事項ヲ記載スヘシ
一 樹木カ一筆ノ土地ノ一部分ニ生立スル場合ニ於テハ其ノ部分ノ位置及段別、其ノ部分ヲ表示スヘキ名稱又ハ番號アルトキハ其ノ名稱又ハ番號
二 樹種、數量及樹齡
第十六條 不動產登記法第百六條及第百七條ノ規定ハ所有權保存ノ登記ニ之ヲ準用ス
第十七條 所有權保存ノ登記ヲ申請スル場合ニ於テ其ノ保存登記ニ付土地ノ登記簿上利害ノ關係ヲ有スル第三者アルトキハ申請書ニ其ノ承諾書又ハ之ニ代ルヘキ裁判ノ謄本ヲ添附スヘシ
第十八條 旣登記ノ土地ニ生立スル樹木ニ付所有權保存ノ登記ノ申請アリタル場合ニ於テ土地ノ登記用紙中土地又ハ地上權ヲ目的トスル先取特權又ハ抵當權ノ登記アルトキハ立木登記簿ニ其ノ登記ヲ轉寫スヘシ但シ其ノ登記ニ抵當權カ樹木ニ及ハサル旨ノ記載アルトキハ此ノ限ニ在ラス
不動產登記法第八十三條第一項及第二項ノ規定ハ前項ノ場合ニ之ヲ準用ス
第十九條 旣登記ノ土地ニ生立スル樹木ニ付所有權保存ノ登記ヲ爲シタルトキハ土地ノ登記用紙中表示欄ニ立木ノ登記番號ヲ記載シ登記官吏捺印スヘシ立木ノ區分ノ登記ヲ爲シタルトキ又ハ立木ノ存スル土地ニ付所有權保存ノ登記ヲ爲シタルトキ亦同シ
立木ノ登記用紙ヲ閉鎖シタルトキハ前項ノ規定ニ依リテ記載シタル登記番號ヲ朱抹シ登記官吏捺印スヘシ
第二十條 立木ノ分合若ハ滅失アリタルトキ又ハ第十五條第一號及第二號ニ揭ケタル事項ニ變更アリタルトキハ所有權ノ登記名義人ハ遲滯ナク其ノ登記ヲ申請スヘシ但シ樹木ノ發生若ハ成長又ハ第三條ノ施業方法ニ依ル變更ニ付テハ此ノ限ニ在ラス
立木ノ存スル土地ノ地目、字、番號又ハ段別ニ變更アリタルトキ亦前項ニ同シ
不動產登記法中建物ノ滅失及其ノ表示ノ變更ノ登記ニ關スル規定ハ前二項ノ登記ニ之ヲ準用ス
第二十一條 立木ヲ目的トスル抵當權設定ノ登記ヲ申請スル場合ニ於テハ申請書ニ不動產登記法第百十七條ニ揭ケタル事項ノ外施業方法ヲ記載スヘシ
附 則
本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
朕帝国議会ノ協賛ヲ経タル立木ニ関スル法律ヲ裁可シ茲ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
明治四十二年四月二日
内閣総理大臣 侯爵 桂太郎
農商務大臣 男爵 大浦兼武
司法大臣 子爵 岡部長職
法律第二十二号
第一条 本法ニ於テ立木ト称スルハ一筆ノ土地又ハ一筆ノ土地ノ一部分ニ植栽ニ依リ生立セシメタル樹木ノ集団ニシテ其ノ所有者カ本法ニ依リ所有権保存ノ登記ヲ受ケタルモノヲ謂フ
第二条 立木ハ之ヲ不動産ト看做ス
立木ノ所有者ハ土地ト分離シテ立木ヲ譲渡シ又ハ之ヲ以テ抵当権ノ目的ト為スコトヲ得
土地所有権又ハ地上権ノ処分ノ効力ハ立木ニ及ハス
第三条 立木ノ所有者ハ立木カ抵当権ノ目的タル場合ニ於テモ当事者ノ協定シタル施業方法ニ依リ其ノ樹木ヲ採取スルコトヲ妨ケス
第四条 立木ヲ目的トスル抵当権ハ前条ノ規定ニ依ル採取ノ場合ヲ除クノ外其ノ樹木カ土地ヨリ分離シタル後ト雖其ノ樹木ニ付之ヲ行フコトヲ得
抵当権者ハ債権ノ期限ノ到来前ト雖前項ノ樹木ヲ競売スルコトヲ得但シ其ノ競落代金ハ之ヲ供託スヘシ
樹木ノ所有者ハ競売ヲ為スヘキ地ノ区裁判所ニ相当ノ担保ヲ供託シテ競売ノ免除ヲ申立ツルコトヲ得
樹木ノ所有者ハ抵当権者ニ対シテ一箇月以上ノ期間ヲ定メ競売ヲ為スヘキ旨ヲ催告スルコトヲ得若抵当権者カ其ノ期間内ニ競売ヲ為ササルトキハ其ノ樹木ニ付抵当権ヲ行フコトヲ得ス
第一項ノ規定ハ民法第百九十二条乃至第百九十四条ノ規定ノ適用ヲ妨ケス
第五条 立木カ土地ノ所有者ニ属スル場合ニ於テ其ノ土地又ハ立木ノミカ抵当権ノ目的タルトキハ抵当権設定者ハ競売ノ場合ニ付地上権ヲ設定シタルモノト看做ス但シ其ノ存続期間及地代ハ当事者ノ請求ニ依リ地方ノ慣習ヲ斟酌シテ裁判所之ヲ定ム
第六条 立木カ地上権者ニ属スル場合ニ於テ其ノ地上権又ハ立木ノミカ抵当権ノ目的タルトキハ抵当権設定者ハ競売ノ場合ニ付地上権ノ存続期間内ニ於テ其ノ土地ノ賃貸借ヲ為シタルモノト看做ス但シ其ノ存続期間及借賃ニ付テハ前条但書ノ規定ヲ準用ス
前項ノ場合ニ於テ地上権ノ存続期間ノ定ナキトキハ其ノ期間ハ当事者又ハ賃借人ノ請求ニ依リ地方ノ慣習ヲ斟酌シテ裁判所之ヲ定ム
民法第六百四条及第六百十二条ノ規定ハ第一項ノ賃貸借ニ之ヲ適用セス
第七条 前条ノ規定ハ転貸ヲ為スコトヲ得ル土地ノ賃借人ニ属スル立木カ抵当権ノ目的タル場合ニ之ヲ準用ス
第八条 地上権者又ハ土地ノ賃借人ニ属スル立木カ抵当権ノ目的タル場合ニ於テハ地上権者又ハ賃借人ハ抵当権者ノ承諾アルニ非サレハ其ノ権利ヲ抛棄シ又ハ契約ヲ解除スルコトヲ得ス
第九条 立木カ抵当権ノ目的タル場合ニ於テ其ノ所有者カ樹木ノ運搬ノ為土地ヲ使用スル権利ヲ有スルトキハ立木ノ競落人ハ其ノ権利ヲ行使スルコトヲ得此ノ場合ニ於テハ相当ノ対価ヲ支払フヘシ
前項ノ規定ハ水ノ使用ニ関スル権利ニ之ヲ準用ス
第十条 第二条第三項及第三条乃至第九条ノ規定ハ先取特権ニ之ヲ準用ス
第十一条 土地又ハ地上権カ質権ノ目的タル場合ニ於テハ其ノ土地ニ生立スル樹木ニ付所有権保存ノ登記ヲ為スコトヲ得ス
第十二条 各登記所ニ立木登記簿ヲ備フ
不動産登記法第十四条第二項及第十九条ノ規定ハ前項ノ登記簿ニ之ヲ準用ス
第十三条 立木登記簿ハ一箇ノ立木ニ付一用紙ヲ備フ
第十四条 立木登記簿ハ其ノ一用紙ヲ登記番号欄、表題部及甲乙ノ二区ニ分チ表題部ニ表示欄、表示番号欄ヲ設ケ各区ニ事項欄、順位番号欄ヲ設ク
登記番号欄ニハ各立木ニ付登記簿ニ始テ登記ヲ為シタル順序ヲ記載ス
表示欄ニハ立木ノ表示ヲ為シ及其ノ変更ニ関スル事項ヲ記載シ表示番号欄ニハ表示欄ニ登記事項ヲ記載シタル順序ヲ記載ス
甲区事項欄ニハ所有権ニ関スル事項ヲ記載ス
乙区事項欄ニハ先取特権及抵当権ニ関スル事項ヲ記載ス
順位番号欄ニハ事項欄ニ登記事項ヲ記載シタル順序ヲ記載ス
第十五条 登記ノ申請書ニハ不動産登記法第三十六条ニ掲ケタル事項ノ外左ノ事項ヲ記載スヘシ
一 樹木カ一筆ノ土地ノ一部分ニ生立スル場合ニ於テハ其ノ部分ノ位置及段別、其ノ部分ヲ表示スヘキ名称又ハ番号アルトキハ其ノ名称又ハ番号
二 樹種、数量及樹齢
第十六条 不動産登記法第百六条及第百七条ノ規定ハ所有権保存ノ登記ニ之ヲ準用ス
第十七条 所有権保存ノ登記ヲ申請スル場合ニ於テ其ノ保存登記ニ付土地ノ登記簿上利害ノ関係ヲ有スル第三者アルトキハ申請書ニ其ノ承諾書又ハ之ニ代ルヘキ裁判ノ謄本ヲ添附スヘシ
第十八条 既登記ノ土地ニ生立スル樹木ニ付所有権保存ノ登記ノ申請アリタル場合ニ於テ土地ノ登記用紙中土地又ハ地上権ヲ目的トスル先取特権又ハ抵当権ノ登記アルトキハ立木登記簿ニ其ノ登記ヲ転写スヘシ但シ其ノ登記ニ抵当権カ樹木ニ及ハサル旨ノ記載アルトキハ此ノ限ニ在ラス
不動産登記法第八十三条第一項及第二項ノ規定ハ前項ノ場合ニ之ヲ準用ス
第十九条 既登記ノ土地ニ生立スル樹木ニ付所有権保存ノ登記ヲ為シタルトキハ土地ノ登記用紙中表示欄ニ立木ノ登記番号ヲ記載シ登記官吏捺印スヘシ立木ノ区分ノ登記ヲ為シタルトキ又ハ立木ノ存スル土地ニ付所有権保存ノ登記ヲ為シタルトキ亦同シ
立木ノ登記用紙ヲ閉鎖シタルトキハ前項ノ規定ニ依リテ記載シタル登記番号ヲ朱抹シ登記官吏捺印スヘシ
第二十条 立木ノ分合若ハ滅失アリタルトキ又ハ第十五条第一号及第二号ニ掲ケタル事項ニ変更アリタルトキハ所有権ノ登記名義人ハ遅滞ナク其ノ登記ヲ申請スヘシ但シ樹木ノ発生若ハ成長又ハ第三条ノ施業方法ニ依ル変更ニ付テハ此ノ限ニ在ラス
立木ノ存スル土地ノ地目、字、番号又ハ段別ニ変更アリタルトキ亦前項ニ同シ
不動産登記法中建物ノ滅失及其ノ表示ノ変更ノ登記ニ関スル規定ハ前二項ノ登記ニ之ヲ準用ス
第二十一条 立木ヲ目的トスル抵当権設定ノ登記ヲ申請スル場合ニ於テハ申請書ニ不動産登記法第百十七条ニ掲ケタル事項ノ外施業方法ヲ記載スヘシ
附 則
本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム