朕樞密顧問ノ諮詢ヲ經テ關東州防禦營造物地帶令ヲ裁可シ玆ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
明治四十一年三月六日
內閣總理大臣 侯爵 西園寺公望
陸軍大臣 子爵 寺內正毅
海軍大臣 男爵 齋藤實
勅令第三十六號
關東州防禦營造物地帶令
第一條 防禦營造物地帶ハ陸地ト水面トヲ問ハス防禦營造物ヲ基㸃トシ其ノ外方地域ヲ左記標準ニ依リ三區ニ分ツ
第一區 基㸃ヲ去ルコト五百間以內
第二區 基㸃ヲ去ルコト二千五百間以內
第三區 基㸃ヲ去ルコト五千間以內
前項ノ規定ハ防禦營造物ヲ設クルコトニ豫定シタル箇所ニ付亦之ヲ適用ス
第二條 防禦營造物地帶ハ陸軍大臣ノ認可ヲ受ケ關東都督其ノ區域ヲ定メ之ヲ吿示ス其ノ變更ノ場合亦同シ
第三條 防禦營造物ニ出入セムトスル者ハ其ノ所屬ニ從ヒ要塞司令官又ハ旅順鎭守府司令長官ノ許可ヲ受クヘシ
第四條 防禦營造物地帶ニ於ケル水陸ノ形狀又ハ防禦營造物ハ要塞司令官ノ許可ヲ受クルニ非サレハ之ヲ測量、撮影、模寫、模造又ハ錄取スルコトヲ得ス
第五條 防禦營造物地帶第一區及第二區ニ於テハ要塞司令官ノ許可ヲ受クルニ非サレハ左記各號ノ行爲ヲ爲スコトヲ得ス
一 地表ノ高低ヲ永久ニ變更スル工事
二 溝渠、鹽田、水道、道路、橋梁、繫泊場ノ新設又ハ其ノ變更
三 鐵道、軌道、隧道ノ新設又ハ其ノ變更
四 採鑛其ノ他地盤ノ堀鑿
五 運河、永久棧橋ノ新設、水面ノ埋立、河海岸ノ堀鑿又ハ其ノ變更
前項ニ關スル處分ニ付テハ要塞司令官ハ關東都督ノ認可ヲ受クヘシ
第六條 防禦營造物地帶第一區ニ於テハ要塞司令官ノ許可ヲ受クルニ非サレハ左記各號ノ行爲ヲ爲スコトヲ得ス
一 工作物ノ新設、變更又ハ移轉
二 埋葬地、牧場、公園、竹木林ノ新設又ハ其ノ變更
三 山林原野ニ於ケル焚火
四 火器爆發物ノ發射、發火
五 爆發物其ノ他燃燒シ易キ危險物ノ製造又ハ貯藏
六 漁業、採藻又ハ船舶ノ繫泊
第七條 要塞司令官ハ防禦營造物地帶ニ於テ兵備ノ狀況其ノ他地形等ノ視察ヲ爲ス者ト認メタルトキハ之ヲ地帶外ニ退去セシムルコトヲ得
第八條 要塞司令官ハ防禦營造物地帶ニ於ケル水陸ノ形狀又ハ防禦營造物ニ關スル文書、圖畫、模型ノ類ニシテ軍事上有害ナリト認ムルモノヲ發見シタルトキハ之ヲ沒入スルコトヲ得
第九條 要塞司令官ハ第五條及第六條ノ違反者ニ對シ期限ヲ定メテ其ノ復舊ヲ命スルコトヲ得義務者指定ノ期限迄ニ復舊セサルトキ又ハ復舊ヲ終了シ能ハスト認メタルトキハ要塞司令官ニ於テ之ヲ執行シ國稅徵收ノ例ニ依リ其ノ費用ヲ義務者ヨリ徵收スルコトヲ得
前項ニ依リ第五條ノ違反者ニ對シ復舊ヲ命スル場合ニ於テハ關東都督ノ認可ヲ受クヘシ
第十條 關東都督ハ一定ノ區域ヲ限リ第四條乃至第六條ノ禁止ノ一部又ハ全部ヲ解除スルコトヲ得此ノ場合ニ於テハ解除ノ事項及其ノ區域ヲ吿示ス其ノ變更又ハ取消ヲ爲シタルトキ亦同シ
前項ノ場合ニ於テハ陸軍大臣ノ認可ヲ受クヘシ
第十一條 防禦營造物地帶ニシテ專ラ海軍ニ關スルモノニ付テハ本令ニ定メタル關東都督及要塞司令官ノ職權ハ旅順鎭守府司令長官之ヲ行ヒ陸軍大臣ノ職權ハ海軍大臣之ヲ行フ
防禦營造物地帶ニシテ海軍ニ關係アルモノニ付テハ第七條及第八條ニ定メタル要塞司令官ノ職權ハ旅順鎭守府司令長官ニ於テモ之ヲ行フコトヲ得
第十二條 第二條、第五條、第六條、第九條及第十條ノ場合ニ於テ其ノ海軍ノ防禦營造物地帶ニ關聯スルモノニ在リテハ陸軍官憲ハ之ヲ海軍官憲ニ協議スヘシ
第十三條 要塞司令官及旅順鎭守府司令長官ハ防禦營造物ノ地帶ヲ畫スル爲其ノ他必要アル場合ニ於テ部下官僚ヲシテ防禦營造物地帶及其ノ附近ノ地ニ出入セシムルコトヲ得
第十四條 官廳ニ於テ第三條乃至第六條ニ定メタル行爲ヲ爲サムトスル場合ニ於テハ豫メ陸海軍官憲ニ協議スヘシ
第十五條 左記各號ノ一ニ該當スル者ハ一年以下ノ重禁錮又ハ二百圓以下ノ罰金ニ處ス
一 防禦營造物地帶ニ關スル標木、標石又ハ標札ノ類ヲ移轉シ又ハ毀損シタル者
二 許可ヲ受ケスシテ防禦營造物ニ出入シタル者
三 第四條乃至第六條ニ違反シタル者
四 第七條ニ依リ退去ヲ命セラレ之ニ從ハサル者
第十六條 本令ノ施行ニ關シ必要ナル細則ハ關東都督旅順鎭守府司令長官ト協議シテ之ヲ定ム
附 則
本令ハ明治四十一年四月一日ヨリ之ヲ施行ス
本令ニ依リ許可ヲ要スル事項ハ本令施行前旣ニ許可ヲ受ケタルモノト雖遲滯ナク其ノ目的位置方法等ヲ記シ更ニ要塞司令官ニ申請スヘシ本令施行後三月內ニ申請セサルトキハ其ノ許可ヲ取消スコトアルヘシ
朕枢密顧問ノ諮詢ヲ経テ関東州防禦営造物地帯令ヲ裁可シ茲ニ之ヲ公布セシム
御名御璽
明治四十一年三月六日
内閣総理大臣 侯爵 西園寺公望
陸軍大臣 子爵 寺内正毅
海軍大臣 男爵 斎藤実
勅令第三十六号
関東州防禦営造物地帯令
第一条 防禦営造物地帯ハ陸地ト水面トヲ問ハス防禦営造物ヲ基点トシ其ノ外方地域ヲ左記標準ニ依リ三区ニ分ツ
第一区 基点ヲ去ルコト五百間以内
第二区 基点ヲ去ルコト二千五百間以内
第三区 基点ヲ去ルコト五千間以内
前項ノ規定ハ防禦営造物ヲ設クルコトニ予定シタル箇所ニ付亦之ヲ適用ス
第二条 防禦営造物地帯ハ陸軍大臣ノ認可ヲ受ケ関東都督其ノ区域ヲ定メ之ヲ告示ス其ノ変更ノ場合亦同シ
第三条 防禦営造物ニ出入セムトスル者ハ其ノ所属ニ従ヒ要塞司令官又ハ旅順鎮守府司令長官ノ許可ヲ受クヘシ
第四条 防禦営造物地帯ニ於ケル水陸ノ形状又ハ防禦営造物ハ要塞司令官ノ許可ヲ受クルニ非サレハ之ヲ測量、撮影、模写、模造又ハ録取スルコトヲ得ス
第五条 防禦営造物地帯第一区及第二区ニ於テハ要塞司令官ノ許可ヲ受クルニ非サレハ左記各号ノ行為ヲ為スコトヲ得ス
一 地表ノ高低ヲ永久ニ変更スル工事
二 溝渠、塩田、水道、道路、橋梁、繋泊場ノ新設又ハ其ノ変更
三 鉄道、軌道、隧道ノ新設又ハ其ノ変更
四 採鉱其ノ他地盤ノ堀鑿
五 運河、永久桟橋ノ新設、水面ノ埋立、河海岸ノ堀鑿又ハ其ノ変更
前項ニ関スル処分ニ付テハ要塞司令官ハ関東都督ノ認可ヲ受クヘシ
第六条 防禦営造物地帯第一区ニ於テハ要塞司令官ノ許可ヲ受クルニ非サレハ左記各号ノ行為ヲ為スコトヲ得ス
一 工作物ノ新設、変更又ハ移転
二 埋葬地、牧場、公園、竹木林ノ新設又ハ其ノ変更
三 山林原野ニ於ケル焚火
四 火器爆発物ノ発射、発火
五 爆発物其ノ他燃焼シ易キ危険物ノ製造又ハ貯蔵
六 漁業、採藻又ハ船舶ノ繋泊
第七条 要塞司令官ハ防禦営造物地帯ニ於テ兵備ノ状況其ノ他地形等ノ視察ヲ為ス者ト認メタルトキハ之ヲ地帯外ニ退去セシムルコトヲ得
第八条 要塞司令官ハ防禦営造物地帯ニ於ケル水陸ノ形状又ハ防禦営造物ニ関スル文書、図画、模型ノ類ニシテ軍事上有害ナリト認ムルモノヲ発見シタルトキハ之ヲ没入スルコトヲ得
第九条 要塞司令官ハ第五条及第六条ノ違反者ニ対シ期限ヲ定メテ其ノ復旧ヲ命スルコトヲ得義務者指定ノ期限迄ニ復旧セサルトキ又ハ復旧ヲ終了シ能ハスト認メタルトキハ要塞司令官ニ於テ之ヲ執行シ国税徴収ノ例ニ依リ其ノ費用ヲ義務者ヨリ徴収スルコトヲ得
前項ニ依リ第五条ノ違反者ニ対シ復旧ヲ命スル場合ニ於テハ関東都督ノ認可ヲ受クヘシ
第十条 関東都督ハ一定ノ区域ヲ限リ第四条乃至第六条ノ禁止ノ一部又ハ全部ヲ解除スルコトヲ得此ノ場合ニ於テハ解除ノ事項及其ノ区域ヲ告示ス其ノ変更又ハ取消ヲ為シタルトキ亦同シ
前項ノ場合ニ於テハ陸軍大臣ノ認可ヲ受クヘシ
第十一条 防禦営造物地帯ニシテ専ラ海軍ニ関スルモノニ付テハ本令ニ定メタル関東都督及要塞司令官ノ職権ハ旅順鎮守府司令長官之ヲ行ヒ陸軍大臣ノ職権ハ海軍大臣之ヲ行フ
防禦営造物地帯ニシテ海軍ニ関係アルモノニ付テハ第七条及第八条ニ定メタル要塞司令官ノ職権ハ旅順鎮守府司令長官ニ於テモ之ヲ行フコトヲ得
第十二条 第二条、第五条、第六条、第九条及第十条ノ場合ニ於テ其ノ海軍ノ防禦営造物地帯ニ関連スルモノニ在リテハ陸軍官憲ハ之ヲ海軍官憲ニ協議スヘシ
第十三条 要塞司令官及旅順鎮守府司令長官ハ防禦営造物ノ地帯ヲ画スル為其ノ他必要アル場合ニ於テ部下官僚ヲシテ防禦営造物地帯及其ノ附近ノ地ニ出入セシムルコトヲ得
第十四条 官庁ニ於テ第三条乃至第六条ニ定メタル行為ヲ為サムトスル場合ニ於テハ予メ陸海軍官憲ニ協議スヘシ
第十五条 左記各号ノ一ニ該当スル者ハ一年以下ノ重禁錮又ハ二百円以下ノ罰金ニ処ス
一 防禦営造物地帯ニ関スル標木、標石又ハ標札ノ類ヲ移転シ又ハ毀損シタル者
二 許可ヲ受ケスシテ防禦営造物ニ出入シタル者
三 第四条乃至第六条ニ違反シタル者
四 第七条ニ依リ退去ヲ命セラレ之ニ従ハサル者
第十六条 本令ノ施行ニ関シ必要ナル細則ハ関東都督旅順鎮守府司令長官ト協議シテ之ヲ定ム
附 則
本令ハ明治四十一年四月一日ヨリ之ヲ施行ス
本令ニ依リ許可ヲ要スル事項ハ本令施行前既ニ許可ヲ受ケタルモノト雖遅滞ナク其ノ目的位置方法等ヲ記シ更ニ要塞司令官ニ申請スヘシ本令施行後三月内ニ申請セサルトキハ其ノ許可ヲ取消スコトアルヘシ